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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G |
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管理番号 | 1367783 |
審判番号 | 不服2019-17258 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-20 |
確定日 | 2020-11-05 |
事件の表示 | 特願2015-219280「農業用生分解性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-112013〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成27年11月9日(優先日 2014年12月16日)の出願であって、手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 2月15日付け:拒絶理由通知 平成31年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年 9月19日付け:拒絶査定 令和 1年12月20日 :審判請求書の提出 2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成31年4月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「生分解性樹脂組成物からなるフィルムであって、前記生分解性樹脂組成物は、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を当該組成物中の樹脂成分の全質量に対して47質量%以上含有し、かつ250?400nmの波長域に吸収能を有するトリアジン系紫外線吸収剤の少なくとも一種を含有し、 更にヒンダードアミン系光安定剤を含有し、前記ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が0.05?2.0重量部(生分解性樹脂組成物中の樹脂成分の全質量100重量部に対して)であることを特徴とする農業用生分解性フィルム。」 なお、請求項1に記載された「ヒンダートアミン系光安定剤」は、「ヒンダードアミン系光安定剤」の明らかな誤記と認められるので、本願発明は上記のとおり認定した。 3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1:国際公開第2014/115811号 (2014年7月31日国際公開) 4 引用文献、周知例の記載 (1)引用文献1 引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、審決で付した。以下同様。) ア 「技術分野 [0001] 本発明は、日中の日射を十分に取り入れることができ、かつ保温性にも優れる農業用フィルムに関る。 背景技術 [0002] 従来より、赤外線吸収剤を配合した保温性を有する農業用フィルムは知られており、かかるフィルムを用いてハウス栽培やトンネル栽培、マルチフィルム栽培等において保温性を高めることが一般的に行われている(特許文献1)。」 イ 「発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明は、上記の問題に鑑み、日中の日射を十分に取り入れることができ、かつ日が落ちた後の保温性にも優れる農業用フィルムを提供することを目的とする。」 ウ 「[0015] 本発明の農業用フィルムは、樹脂成分として生分解性樹脂を含むことが好ましい。生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、脂肪族ポリエステル、脂肪族-芳香族ポリエステルがあげられるが、本発明においては、生分解性樹脂が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B)の少なくとも一種を含有することが好ましく、農業用として使用する期間を考慮するとポリ乳酸系樹脂を含まないほうがより好ましい。」 エ 「[0030] <各種添加剤> 本発明の農業用フィルムには、さらに、従来公知の各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、紫外線吸収剤、耐光剤、可塑剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料、滑剤、分散剤や各種界面活性剤、加水分解防止剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。」 オ 「[0033] 耐光剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、・・・(中略)・・・等が挙げられる。 [0034] 紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤の中で、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、具体的には、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル6-(tert-ブチル)フェノール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α、α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノールが挙げられる。」 カ 「実施例 [0040] 以下本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。 [0041]実施例 1?8、比較例1?2 ハイドロタルサイト、タルクおよび水酸化マグネシウムについては、事前に2軸の押出し機を用いて溶融混練してマスターバッチを作製し、各々表1に記載されている配合により、ペレット状態でドライブレンドし、モダン社製のインフレーション成形機を用いて、150℃設定で、18μm厚のフィルムを成形した。但し、比較例1については、190℃設定で成形した。 [0042]・・・(中略)・・・ [0043] [使用原料] 脂肪族ポリエステル系樹脂(A):三菱化学社製「GSPla」 脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-1):BASFジャパン社製「Ecoflex」 脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-2):S-EnPol社製「EnPol PBG」 ポリエチレン(C):日本ポリエチレン社製「ノバテックLL UA425」 ハイドロタルサイト:協和化学工業社製「DHT-4A」(平均粒子径:0.45μm) タルク:日本ミストロン社製「MISTRON850JS」(平均粒子径:5.0μm) 水酸化マグネシウム:堺化学工業社製「MGZ-3」(平均粒子径:0.1μm) [0044] [表1] 」 キ 上記カ[表1]の実施例3の農業用フィルムは、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)17.5重量%、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-1)80重量%、タルク2.5重量%含有している。 ク 上記カ[表1]の実施例3に着目すると、上記アないしキからみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「ハウス栽培やトンネル栽培、マルチフィルム栽培等に用いられ、樹脂成分として生分解性樹脂を含む農業用フィルムにおいて、 生分解性樹脂として、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B)を含有し、 脂肪族ポリエステル系樹脂(A)17.5重量%、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-1)80重量%、タルク2.5重量%含有する、農業用フィルム。」 (2)周知例1 本審決で新たに引用された、本願出願前に公開された刊行物である特開2005-176841号(以下「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0005】 一方、生分解性農業用マルチフィルム等を農地に使用すると、所定の期間よりも異常に早く劣化を生じ、フィルムが破れたり、孔が開いたり、裂けたり、強度が弱くなったりするという問題点がある。 【特許文献1】特開平8-259823号公報 【特許文献2】特開平9-111107号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、日光等が当たる農地に使用して、特に農薬が散布される農地に使用して、地表に露出した部分のフィルムが異常に早く劣化しない脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルムの使用方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、フィルムの異常な劣化は、ハロゲン系農薬の使用が高濃度の方が、また土中よりも土壌の上に敷かれた部分の方が、劣化が大きいこと、劣化が分子量の低下により生じることを見出した。その原因として、農薬が与えられた農地に日光が当たると、農薬が分解して、生分解性農業用マルチフィルムを劣化させることがあること、特に、ハロゲン系燻蒸剤のような揮発性の高い農薬が多量に使用される場合には、農薬自体がフィルムに吸着ないし吸収され、日光、特に紫外線に当たって、フィルムを劣化させるということが推定された。 本発明は、上記考察に基づき、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂に、紫外線吸収剤(UA)、光安定剤(LS)、酸化防止剤(AO)、及び捕捉剤(RHC)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(A)を、一定量以上、配合した脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルムを使用することにより、上記課題を解決できることを見出だし、本発明を完成させた。 【0008】 すなわち、本発明の第1は、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂(P)、並びに、紫外線吸収剤(UA)、光安定剤(LS)、酸化防止剤(AO)及び捕捉剤(RHC)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(A)からなる脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルムを、ハロゲン系農薬の与えられた土壌に、日光の当たる状態で、展張又は設置して使用することを特徴とする脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルムの使用方法を提供する。」 イ 「【0037】 紫外線吸収剤(UA)としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、(ヒンダード)フェノールカルボン酸エステル系、トリアジン系、その他の系、及びこれらの混合物が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ トリアジン系としては、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシロキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、・・・(中略)・・・等が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 紫外線吸収剤(UA)の添加量は、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルムの、吸収極大波長以下の光線透過率が前記範囲以下になるようにする。具体的には、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂製農業用フィルム中に、紫外線吸収剤(UA)を0.3重量%以上2.3重量%以下、好ましくは0.3重量%以上2.0重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上1.0重量%以下含む。紫外線吸収剤の添加量が上記範囲より多すぎるとフィルム表面に浮出(チョーキング)したり、接触する他のものに移行(マイグレーション)したりする。紫外線吸収剤の添加量が上記範囲より少なすぎるとフィルムの劣化防止が不十分になる。 【0038】 光安定剤(LS)としては、例えば、ヒンダードアミン系、塩化シアヌル縮合系、高分子量系、及びこれらの混合物が挙げられる。 ヒンダードアミン系の具体例としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、・・・(中略)・・・等が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 光安定剤(LS)の添加量は、樹脂(P)100重量部に対して、0.001?10重量部、好ましくは0.01?5重量部、さらに好ましくは0.1?2重量部の範囲である。」 (3)周知例2 本審決で新たに引用された、本願出願前に公開された刊行物である特開2006-67976号(以下「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 本発明は、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂にポリブチレンテレフタレート樹脂を配合した組成物からなり、農業用ハウス、トンネルなどの被覆材として有用な透明性のよい生分解性農業用被覆材に関する。」 イ 「【0008】 本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究した結果、特定の脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂に少量のポリブチレンテレフタレートを配合することにより、農業用被覆材に必要な透明性が得られることを見出し、また、フィルムの表面に防曇性塗膜を設けるとともに、上記混合樹脂に特定の添加剤をさらに配合することにより、透明性と柔軟性に加えて、農業用被覆材に必要な防曇性及び耐候性にも優れた生分解性農業用被覆材が通常の成形方法で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0009】 すなわち、本発明の要旨は、アジピン酸とテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールからなるジオール成分とを重縮合してなるポリエステルを多官能イソシアネートで高分子化した脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(A)95?99.99重量%とポリブチレンテレフタレート樹脂(B)0.01?5重量%とからなる混合樹脂を成形してなるフィルムであって、該フィルムの表面に防曇性塗膜が設けられていることを特徴とする生分解性農業用被覆材にある。 前記防曇性塗膜は樹脂バインダー中にシリカゾル及び/又はアルミナゾルが分散した塗膜であることが望ましく、前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(A)の融点は105?115℃の範囲内にあることが望ましい。 また、上記混合樹脂には、必要に応じて、上記混合樹脂100重量部当たり紫外線吸収剤0.05?5重量部及びヒンダードアミン系光安定剤0.05?1重量部を配合することが望ましい。 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂に少量のポリブチレンテレフタレート樹脂を配合することによりフィルムの透明性を著しく向上させることができるので、農業用被覆材に必要な基本性能である透明性と柔軟性を満足させることができ、また、フィルムの表面に防曇性塗膜を設けることにより長期の防曇性を付与し、さらに特定の添加剤を配合することによって耐候性を向上させることもできるので、実用性のある生分解性農業用被覆材を提供することができる。」 ウ 「【0015】 本発明においては、上記混合樹脂(A)(B)に紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を配合して農業用被覆材の耐候性を向上させることができる。 【0016】 上記の紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-メチル-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系の他、サルチル酸系のものが挙げられる。 【0017】 上記のヒンダードアミン系光安定剤としては、特開平1-197543号公報や特開平2-30529号公報に記載されているものを挙げることができ、具体的な市販の化合物を例示すれば、TINUVIN770、TINUVIN780、TINUVIN144、TINUVIN371、TINUVIN622LD、CHIMASSORB944(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、MARK LA-57、MARK LA-62、MARK LA-63、MARK LA-67、MARK LA-68(以上、旭電化社製)等が挙げられる。 【0018】 上記の各添加剤の配合量は、上記の混合樹脂(A)(B)100重量部当たり、紫外線吸収剤が0.05?5重量部、好ましくは0.1?2重量部であり、ヒンダードアミン系光安定剤が0.05?1重量部、好ましくは0.1?0.5重量部である。」 (4)周知例3 審決で新たに引用された、本願出願前に公開された刊行物である特開2014-183805号(以下「周知例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 本発明は、生分解性ハウス・トンネル用フィルムに関し、詳しくは、透明性、耐候性及び耐破損性を兼ね備えた、生分解性農業用ハウス・トンネルフィルムに関する。」 イ 「【0006】 しかしながら、先行技術文献にあっては、生分解性成分を用いた分解性ハウスフィルムが提案されているものの、透明性、耐候性及び耐破損性を全て兼ね備えた、生分解性ハウス・トンネル用フィルムの開発は未だ十分になされていないのが現状である。従って、今なお、農園芸作物の種類、栽培期間、気候、農作業用途(展張)等を考慮して、優れた透明性と、耐候性及び耐破損性を高い次元において達成する生分解性ハウス・トンネル用フィルムの開発が要求されている。 【発明の概要】 【0007】 本発明者等は、生分解性ハウス・トンネル用フィルムにおいて、生分解性成分に、特定の架橋剤、紫外線吸収剤及び光安定剤を添加することにより、農園芸作物の栽培時は優れた透明性と耐候性及び耐破損性を実現しながら、栽培後においてハウス・トンネル用フィルムが自然に(土壌にて)分解されて処理できるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づいてなされたものである。」 ウ 「【0017】 2)シアノアクリレート系紫外線吸収剤 本発明にあっては、シアノアクリレート系紫外線吸収剤を含んでなる。シアノアクリレート系紫外線吸収剤を採用することにより、農園芸作物の生長を損なわずフィルムの耐候性を向上させることができる。 シアノアクリレート系紫外線吸収剤は、一般に、紫外線の吸収波長のピークが低波長域に存在するものであり、その具体例としては、・・・(中略)・・・等からなる群から選択される一種又はこれらの二種以上の組合せを挙げることができる。好ましくは、1,3-ビス(2’-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ)-2,2-ビス(((2’-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ)メチル)プロパンである。シアノアクリレート系紫外線吸収剤は、市販品を使用することが可能であり、例えば、ユビナール3030(BASF社製)が使用可能である。 【0018】 シアノアクリレート系紫外線吸収剤は、生分解性成分の添加量を100質量部とした場合、0.1質量部以上0.5質量部以下であり、好ましくは下限値が0.1質量部以上であり、上限値が0.3質量部以下で添加されてなる。上記添加量で添加されることにより、フィルムの物性を低下させることなく十分な耐候性が得られることなる。 【0019】 3)ヒンダードアミン系光安定剤 本発明にあっては、ヒンダードアミン系光安定剤を含んでなる。ヒンダードアミン系光安定剤を採用することにより、フィルムにおける酸化反応を抑制し、耐候性を向上させることができると倶に、農業用のハウス・トンネルを構成する金属製支柱およびバイプとの接触部分の劣化を抑制することが可能となる。 【0020】 ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、・・・(中略)・・・からなる群から選択される一種又は二種以上の組合せが挙げられる。これらはヒンダードアミン系光安定剤の一例であって、公知のヒンダードアミン系光安定剤を一種又はこれらの二種以上の組合せを用いてもよい。好ましくは、1,6-ヘキサンジアミン-N,N′-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)とモルフォリン-2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンとの重縮合物である。ヒンダードアミン系光安定剤は、市販品を使用することが可能であり、例えば、UV-3529(イテック社製)が使用可能である。 【0021】 ヒンダードアミン系光安定剤は、生分解性成分の添加量を100質量部とした場合、0.1質量部以上2.0質量部以下であり、好ましくは下限値が0.3質量部以上であり、上限値が1.0質量部以下で添加されてなる。上記添加量で添加されることにより、フィルムの物性を維持し、特に、フィルムのブルームを抑制しフィルムの白化を防止し、フィルムに十分な耐候性を付与すること可能となる。 【0022】 生分解性成分 生分解性成分は、生分解性ハウス・トンネルフィルムが土壌中で生分解されるものであれば、何れのものであってもよいが、基本的に、フィルムとして構成される成分であることが好ましい。生分解性成分としては、生分解性樹脂が好ましくは挙げられ、具体的には、化学合成系の生分解性樹脂、微生物産系の生分解性樹脂、天然物系の生分解性樹脂又はこれらの二種以上の組合せが挙げられる。」 (5)周知例4 本審決で新たに引用された、本願出願前に公開された刊行物である特開2012-161282号(以下「周知例4」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 本発明は、農作物の栽培施設に使用される農業用フィルムに関し、特に、黄変及び臭気の発生が抑制され且つ優れた耐候性及び耐薬剤性を有する農業用フィルムに関する。」 イ 「【0004】 しかしながら、ポリオレフィン系樹脂フィルムは、光や熱などの劣化因子に対して脆弱な側面を有しており、十分な耐候性を有していなかった。すなわち、ポリオレフィン系樹脂フィルムを屋外などの光や熱に曝される環境下で長期間に亘って使用すると、ポリオレフィン系樹脂フィルムに含まれているポリオレフィン系樹脂が経時的に劣化して、ポリオレフィン系樹脂フィルムの伸びや引張強度などの機械的物性が低下する問題があった。 【0005】 そこで、従来のポリオレフィン系樹脂フィルムでは、分子中にトリアジン骨格を有するヒンダードアミン系光安定剤を用いることにより、耐候性を向上させている。このようなヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、BASFジャパンから販売されている製品名TINUVIN(登録商標)NOR 371、CHIMASSORB(登録商標)944などが知られている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特許第4167522号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、従来のヒンダードアミン系光安定剤を用いたポリオレフィン系樹脂フィルムでは、光や熱の影響により経時的に黄色に変色する場合があった。黄変したポリオレフィン系樹脂フィルムは、外観性が損なわれるだけでなく、光の透過率が低下するために農作物の成育を遅れさせる。 【0008】 また、従来のヒンダードアミン系光安定剤を用いたポリオレフィン系樹脂フィルムは、ヒンダードアミン系光安定剤に由来する独特の臭気を発生する場合もあった。 【0009】 さらに、従来のヒンダードアミン系光安定剤を用いたポリオレフィン系樹脂フィルムでは、肥料や農薬などと接触すると、ヒンダードアミン系光安定剤によってポリオレフィン系樹脂の酸化劣化が促進され、ポリオレフィン系樹脂フィルムの伸びや引張強度などの機械的物性が低下する場合があった。このような耐薬剤性が低いポリオレフィン系樹脂フィルムは、栽培施設内で肥料や農薬などの薬剤を使用する環境下で長期間に亘って使用することができない。 【0010】 したがって、本発明の目的は、ヒンダードアミン系光安定剤を用いたとしても黄変及び臭気の発生が抑制され、且つ優れた耐候性及び耐薬剤性を有する農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の農業用フィルムは、ポリオレフィン系樹脂、及び下記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定剤、及び紫外線吸収剤を含有することを特徴とする。 【化1】 (式中、R1は、水素原子、-CH_(2)CH_(2)COOC_(12)H_(25)、又は-CH_(2)CH_(2)COOC_(14)H_(29)である。) 【発明の効果】 【0012】 上記一般式(I)で示される基を少なくとも一個有するヒンダードアミン系光安定剤を紫外線吸収剤と組み合わせて用いていることにより、農業用フィルムに含まれているポリオレフィン系樹脂の劣化を高く抑制することができると共に、光や熱の影響によって農業用フィルムが経時的に黄色に変色するのも高く抑制することができる。したがって、本発明の農業用フィルムは、屋外などの光や熱に曝される環境下で長期間に亘って使用しても、ポリオレフィン系樹脂フィルムの伸びや引張強度などの機械的物性の低下が抑制されて優れた耐候性を有し、さらに黄変の発生も高く抑制されて優れた透明性を維持することができる。」 ウ 「【0033】 農業用フィルムにおける上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01?5重量部が好ましく、0.1?1.5重量部がより好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が0.01重量部未満であるとヒンダードアミン系光安定剤による十分な効果が得られない恐れがある。また、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が5重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。 【0034】 また、農業用フィルムは、上記一般式(I)で示される基を少なくとも1個有するヒンダードアミン系光安定剤の他に、上記一般式(I)で示される基を有していない他のヒンダードアミン系光安定剤を少量であれば含んでいてもよい。他のヒンダードアミン系光安定剤としては、従来公知のものが用いられ、例えば、BASFジャパン製 TINUVIN(登録商標)NOR371、及びCHIMASSORB(登録商標)944などの分子中にトリアジン骨格を有するヒンダードアミン系光安定剤が用いられる。 【0035】 農業用フィルムにおける他のヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以下が好ましく、0.01?0.5重量部がより好ましい。 【0036】 [紫外線吸収剤] 本発明の農業用フィルムは、紫外線吸収剤をさらに含む。紫外線吸収剤としては、・・・(中略)・・・、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(P-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート系;2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール等のトリアジン系などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、一種のみを用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。 【0037】 なかでも、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いるのが好ましく、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノンを用いるのがより好ましい。上述した一般式(I)で示されるヒンダードアミン系光安定剤とベンゾフェノン系紫外線吸収剤とを組合せて用いることにより、黄変の発生がより高く抑制されると共に、より優れた耐候性を有する農業用フィルムを提供することができる。 【0038】 農業用フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01?5重量部が好ましく、0.05?1重量部がより好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.01重量部未満であると紫外線吸収剤による十分な効果が得られない恐れがある。また、紫外線吸収剤の含有量が5重量部を超えると農業用フィルムの初期透明性が低下する恐れがある。」 5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の農業用フィルムは、生分解性樹脂である脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及び脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-1)をそれぞれ17.5重量%、80重量%含有しているから、本願発明の生分解性樹脂組成物からなるフィルム、及び農業用生分解性フィルムに相当する。 (2)引用発明の農業用フィルムにおいて、生分解性樹脂としての脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)は、本願発明の「脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂」に相当し、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B-1)の含有量である80重量%は、本願発明の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を当該組成物中の樹脂成分の全質量に対して含有する47質量%以上の範囲に含まれる。 (3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明とは、 「生分解性樹脂組成物からなるフィルムであって、前記生分解性樹脂組成物は、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を当該組成物中の樹脂成分の全質量に対して80質量%含有する、農業用生分解性フィルム。」で一致するものの、本願発明が、「250?400nmの波長域に吸収能を有するトリアジン系紫外線吸収剤の少なくとも一種を含有し、更にヒンダードアミン系光安定剤を含有し、前記ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が0.05?2.0重量部(生分解性樹脂組成物中の樹脂成分の全質量100重量部に対して)である」のに対し、引用発明は、トリアジン系紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤を含有しているかどうか不明な点(以下「相違点」という。)で相違している。 6 判断 (1)相違点の判断 上記相違点について検討する。 ア 引用文献1には、上記4(1)エのとおり、農業用フィルムに配合することができる従来公知の各種添加剤として、紫外線吸収剤、耐光剤等が挙げられており、さらに、2種以上を混合して使用しても良いことが記載されている。 さらに、引用文献1には、上記4(1)オのとおり、耐光剤の例として、「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート」が記載され、同じく、紫外線吸収剤の例として、「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール」が記載されている。 イ そして、本願明細書の【0029】に「本発明に使用するトリアジン系紫外線吸収体は、250nm?400nmの波長の紫外線に吸収能を有するものであれば特に限定することはない。たとえば、・・・、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール、・・・」と記載され、同【0031】に「本発明に使用するヒンダードアミン系光安定剤は、特に限定することはなく、たとえば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート・・・」と記載されることからみて、引用文献1に記載された上記アの「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート」及び「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール」は、それぞれ、本願発明の「250nm?400nmの波長域に吸収能を有するトリアジン系紫外線吸収剤」及び「ヒンダードアミン系光安定剤」に相当する。 ウ 引用文献1において、上記4(1)エのとおり、紫外線吸収剤及び耐光剤は、添加剤として、混合して使用しても良いものではあるが、必須のものとまでは記載されていない。 しかしながら、周知例1?4に記載されるように、農業用フィルムにおいて、耐候性を向上させることは、当業者にとってよく知られた自明な課題であって、該課題を解決するために、紫外線吸収剤及び光安定剤を含有させることは、周知例1?4の記載からみて周知技術であるといえる。 そして、上記4(1)オのとおり、上記「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート」は、数多く挙げられた耐光剤の例として先頭に記載され、上記「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール」は、紫外線吸収剤の好ましい例として挙げられたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の3つの具体例の1つであるから、引用文献1に接した当業者であれば容易に選択することができるものである。 したがって、引用発明の農業フィルムにおいて、よく知られた課題である耐候性を向上させるために、引用文献に記載された上記「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート」及び「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール」を含有させることに格別の困難性はない。 エ また、それらの含有量は、必要に応じて当業者が適宜設計すべきものであるから、本願発明のヒンダードアミン系光安定剤に相当する「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート」を、生分解樹脂組成物中の樹脂成分の全質量100重量部に対して0.05?2.0重量部含有させることは、当業者が適宜なし得た程度のことに過ぎない。 なお、本願明細書をみても、生分解樹脂組成物中の樹脂成分の全質量100重量部に対するヒンダードアミン系光安定剤の含有量を0.05?2.0重量部とすることによって、顕著な効果を奏することは記載されていない。 オ 以上のことから、引用発明において、自明な課題に基づいて周知技術や引用文献の記載事項を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるから、本願発明は、引用発明、引用文献の記載事項及び周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)請求人の主張について 請求人は、「引用文献1の実施例には、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂(B)の少なくとも一種と、タルク、ハイドロタルサイト又は水酸化マグネシウムの無機化合物を含有する生分解性樹脂組成物からなる農業用生分解性フィルムが開示されているに過ぎない。また、審査官が摘示されている、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノールや、ヒンダードアミン系光安定剤であるビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート等は、引用文献1に記載の農業用フィルムに配合することができるとされる、同文献の[0030]?[0038]に網羅的に記載されている様々な各種添加剤の一部として記載されているに過ぎない。そして、ヒンダートアミン系光安定剤の含有量を、生分解性樹脂組成物中の樹脂成分の全質量100重量部に対して、0.05?2.0重量部とすることは引用文献1には教示も示唆もされていないことは上記した通りである。」(審判請求書5頁1?13行)、と主張する。 しかしながら、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノールや、ヒンダードアミン系光安定剤であるビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートを引用発明に適用することは、上記(1)ウで説示したとおり、自明な課題や引用文献1の記載に基づいて当業者が容易になし得たことであり、また、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量についても、上記(1)オで説示したとおり、当業者が適宜なし得た程度のことである。 なお、周知例1?3にそれぞれ、生分解性樹脂に対して、0.1?2重量部、0.1?0.5重量部、0.3?1.0質量部、周知例4には、樹脂成分に対して、0.1?1.5重量部含有させることが記載されているように、本願発明のヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、周知のものであることを付言しておく。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-28 |
結審通知日 | 2020-09-01 |
審決日 | 2020-09-17 |
出願番号 | 特願2015-219280(P2015-219280) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂田 誠 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 秋田 将行 |
発明の名称 | 農業用生分解性フィルム |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 城山 康文 |