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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41D
管理番号 1367787
審判番号 不服2020-2995  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-04 
確定日 2020-11-05 
事件の表示 特願2019- 19665「シート部材用の補強部材の取付構造、取付方法及び空調装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年 8月20日出願公開、特開2020-125566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年 2月 6日の出願であって、同年 5月31日付けの拒絶理由の通知に対し、同年 7月 3日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年12月 2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和2年 3月 4日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年 3月 4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年 3月 4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1. 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

【請求項1】
シート部材に送風手段を取り付けるための開口孔の周縁を補強するシート部材用の補強部材の取付構造であって、
前記補強部材は、
前記開口孔の周縁の表側に位置する第1補強部と、
前記第1補強部とは各別に形成され、前記開口孔の周縁の裏側において前記第1補強部と対向して位置する第2補強部と、
前記第1補強部及び前記第2補強部の少なくとも一方に設けられた粘着層と、を有し、
前記補強部材が合成樹脂からなり
前記第1補強部と前記第2補強部の内側を接着剤で止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能であり、
前記第1補強部及び前記第2補強部の外輪を開くことにより、前記開口孔の周縁を、前記周縁に前記補強部材とは別に貼り合わされた環状の芯地とともに、前記第1補強部と前記第2補強部とによって挟み込むよう構成されている、シート部材用の補強部材の取付構造。

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年 7月 3日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

【請求項1】
シート部材に送風手段を取り付けるための開口孔の周縁を補強するシート部材用の補強部材の取付構造であって、
前記補強部材は、
前記開口孔の周縁の表側に位置する第1補強部と、
前記第1補強部とは各別に形成され、前記開口孔の周縁の裏側において前記第1補強部と対向して位置する第2補強部と、
前記第1補強部及び前記第2補強部の少なくとも一方に設けられた粘着層と、を有し、
前記第1補強部と前記第2補強部の内側を止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能であり、
前記第1補強部及び前記第2補強部の外輪を開くことにより、前記開口孔の周縁を、前記周縁に前記補強部材とは別に貼り合わされた芯地とともに、前記第1補強部と前記第2補強部とによって挟み込むよう構成されている、シート部材用の補強部材の取付構造。

(3)本件補正の適否
本件補正により請求項1に付加された「補強部材が合成樹脂からなり」、「接着剤で」止めること及び「環状の」芯地は、それぞれ、願書に最初に添付した明細書の段落[0020]、[0034]、[0036]及び[図12(a)]に記載されているから、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「補強部材」、「前記第1補強部と前記第2補強部の内側」、及び「芯地」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

上記のとおり、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、独立して特許を受けることができる発明でなければならないが、以下の2.で示すとおり、補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

2. 独立特許要件について
(1)本件補正発明
補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
シート部材に送風手段を取り付けるための開口孔の周縁を補強するシート部材用の補強部材の取付構造であって、
前記補強部材は、
前記開口孔の周縁の表側に位置する第1補強部と、
前記第1補強部とは各別に形成され、前記開口孔の周縁の裏側において前記第1補強部と対向して位置する第2補強部と、
前記第1補強部及び前記第2補強部の少なくとも一方に設けられた粘着層と、を有し、
前記補強部材が合成樹脂からなり
前記第1補強部と前記第2補強部の内側を接着剤で止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能であり、
前記第1補強部及び前記第2補強部の外輪を開くことにより、前記開口孔の周縁を、前記周縁に前記補強部材とは別に貼り合わされた環状の芯地とともに、前記第1補強部と前記第2補強部とによって挟み込むよう構成されている、シート部材用の補強部材の取付構造。

(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった登録実用新案第3218429号公報(平成30年10月11日発行。以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本考案は、衣服用ファンを衣服に装着可能とする衣服用ファン取付用ワッペン及びこれを具備する衣服に関する。」

(イ)「【考案が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の空調衣服は、衣服用ファンが所定の重量を有するため、一般的な生地で構成された衣服では十分な支持が行えず、衣服用ファン近傍が垂れる及び衣服用ファンが脱落する等の問題があった。
【0007】
即ち、従来の空調衣服の構造に着目すると、衣服用ファンを確実に支持するには衣服の生地の厚さ及び強度が十分でないことは明らかであって、未だ改善の余地があった。
【0008】
本考案は、上記問題に鑑みて創作されたものであり、衣服用ファンを確実に支持し、衣服用ファン本来の空調能力を十分に発揮させることが可能な衣服用ファン取付用ワッペンの提供を目的とする。」

(ウ)「【0019】
2.衣服用ファン取付用ワッペン1の構造
次に、図2及び図3を用いて本実施形態の衣服用ファン取付用ワッペン1の構造について詳細に説明する。図2は、本実施形態の衣服用ファン取付用ワッペン1の構造を示す図であって、図2(a)は、衣服用ファン取付用ワッペン1の平面図であり、図2(b)は、衣服用ファン取付用ワッペン1の側面図である。また、図3は、図1(a)における矢視Aを示す図であって、図3(a)は、通常状態を示す断面図であり、図3(b)は、外側布1Aと内側布1Bを外周11側から開いた状態を示す断面図である。
【0020】
図2及び図3に示すとおり衣服用ファン取付用ワッペン1は、それぞれ基層15と、熱融着性接着剤層17と、を積層してなり、略中央に孔13を有する略環状の外側布1A及び内側布1Bを具備し、外側布1Aと内側布1Bが、それぞれの熱融着性接着剤層17を対向しつつ、孔13の端縁(内周)12近傍で接続されることにより構成されている。
【0021】
外側布1Aは、略二層の断面構造を有しており、比較的熱に強いポリエステル等の合成繊維等で形成された生地からなる基層15と、加熱によって基層15と接着可能な熱融着性接着剤層17と、を積層させることにより構成されている。なお、外側布1Aは、基層15を所定の厚さで形成する又は基層15と熱融着性接着材層17との間に平滑な芯材(図示せず)等を挟むことにより、形状安定性を持たせることが望ましい。
【0022】
また、内側布1Bは、上記外側布1Aと略同様に基層16及び熱融着性接着剤層18により構成されたものであるが、本実施形態では外側布1Aと同様の芯等の芯材は有しておらず、基層16は薄く構成されている。換言すると、本実施形態においては、外側布1Aは、下側布1Bより厚く構成されている。」

(エ)「【0024】
また、熱融着性接着剤層17(18)はポリアミド等を用いて形成することが好ましい。熱融着性接着剤層17(18)をこのような態様とすることで、アイロンを用いた加熱等による高温環境下で溶融し、粘着力を発揮することができる。更に、ポリアミドは優れた耐水性を有することから、貼り付けた衣服5の繰り返し使用にも十分耐えることができる。
【0025】
外側布1Aと内側布1Bとは、互いの熱融着性接着剤層17を対向させつつ中心を合わせて当接し、孔13の端縁12(略環状部分の内縁全周)に沿って保護刺繍9を施すことにより双方が接続されている。よって、図3(b)に示すとおり、外側布1Aと内側布1Bとは、外周11から孔13の端縁12近傍まで自由に開閉することができ、当該開閉によって外側布1Aと内側布1Bとの間に衣服5の生地を挟んで貼り付けることができる。なお、継続使用に伴う繊維の解れを防止する目的で外側布1Aの外周11にも保護刺繍9が施されている。」

(オ)「【0032】
続いて、図5(a)に示すとおり、一旦衣服用ファン取付用ワッペン1を衣服5から離し、鋏等の裁断具23を用いて衣服5に付けた印の3?5mm程度外側に沿って衣服5を裁断し、衣服用ファン取付用孔7を形成する。
【0033】
図5(b)及び(c)に示すとおり、上記手順で形成した衣服用ファン取付用孔7に対し、衣服用ファン取付用ワッペン1を配設する。衣服用ファン取付用ワッペン1を衣服5の内側から衣服用ファン取付用孔7に接近させ、内側布1Bを開きつつ衣服用ファン取付用孔7から衣服5の外側に出す。このようにすることで外側布1Aと内側布1Bとの間に衣服5の生地を挟んだ状態で衣服用ファン取付用ワッペン1を配設することができる(図5(c)参照)。」

(カ)「【図2】



(キ)「【図3】



(ク)「【図5】



(ケ)摘記事項(イ)を勘案すると、引用文献1に記載された「衣服用ファン取付用ワッペン」は、「衣服用ファン取付用孔」の周縁を補強するものと認められる。

(コ)摘記事項(エ)、(オ)、(ク)から、引用文献1に記載された「外側布1A」と「内側布1B」とは、互いに対向して位置しているものと認められる。

以上から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
衣服に衣服用ファンを取り付けるための衣服用ファン取付孔の周縁を補強する衣服用ファン取付用ワッペンを衣服に取り付けた構造であって、
前記衣服用ファン取付用ワッペンは、
前記衣服用ファン取付孔の周縁の外側に位置する外側布と、
前記外側布とは各別に形成され、前記衣服用ファン取付孔の周縁の内側において前記外側布と対向して位置する内側布と、
前記外側布及び内側布の両方に設けられた熱融着性接着剤層と、を有し、
前記衣服用ファン取付用ワッペンは、ポリエステルの合成繊維及びポリアミドからなり、
前記外側布と前記内側布の内縁全周に沿って保護刺繍を施すことにより双方が接続され内側布を開くことが可能であり、
前記内側布の外側を開くことにより、前記衣服用ファン取付孔の周縁を、前記外側布及び前記内側布とによって挟んだ状態で配設するよう構成されている、衣服用ファン取付用ワッペンを衣服に取り付けた構造。

(3)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2018-159160号公報(平成30年10月11日公開。以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0025】
この状態において、図2(c)に示すように、表地材21と裏地材22を一体として円形地24aを切り抜き、円形の縫製(線)23の内側に機材取付け用穴24を形成する。
【0026】
次に、図3(a)に示すように、裏地材22を上側にすぼめながら持ち上げ、これを補強用のリング版25の内縁25aに通しながら、リング板25を外嵌する。この際、円形の縫製23がリング板25の内縁25aを位置決めすることとなる。なお、リング板25は、プラスチック製のリング板である。
【0027】
次に、図3(b)に示すように、裏地材22をフラットな状態に戻すことで、リング板25は表地材21と裏地材22に表裏を挟まれた状態となる。そのうえで、リング板25の全周に亘って縫製26を行い、リング板と裏地材22及び表地材21を一体にする。
【0028】
ここで、前工程で説明した環状補強材1(11-3)を機材取付け用穴24に嵌め込む。上述のように、環状補強材1は、内縁が機材取付け用穴24と略同径あるいは若干小さめの折り返し縁1a、外縁が機材取付け用穴24より大径の開放縁1bとなっている。
【0029】
このため、環状補強環1の第1補強環1A(第1帯11A)を表地材21側、第2補強環1B(第2帯11B)を裏地材22側となるように、機材取付け用穴24へはめ込むと、折り返し縁1aが機材取付け用穴24の周縁を覆って、その端面を保護することとなる。」

(イ)「



(ウ)「




(4)対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「衣服」、「衣服用ファン」、「衣服用ファン取付孔」、「衣服用ファン取付用ワッペン」、「外側布」、「内側布」、「熱融着性接着剤層」は、それぞれ、本件補正発明の「シート部材」、「送風手段」、「開口孔」、「補強部材」、「第1補強部」、「第2補強部」、「粘着層」に相当する。

(イ)ここで、本件補正発明の「補強部材は合成樹脂からなり」とは、明細書の発明の詳細な説明において「・・・補強部材10の材質は、縫合可能な素材であって、例えば繊維素材、合成樹脂、プラスチック、皮革又は人工皮革などからなる。・・・」(段落[0020])と記載されていることから、ここで列挙されている合成樹脂は、「縫製可能な素材」である合成繊維も含まれるものと解され、してみると、引用発明の「ポリエステルの合成繊維及びポリアミド」からなる「衣服用ファン取付用ワッペン」は、「合成樹脂からなる」といえるものである。

(ウ)また、本件補正発明の「貝開き状態」とは、明細書の発明の詳細な説明において、「・・・第1補強部11及び第2補強部12の内側を刺繍飾り止めすることで、第1補強部11及び第2補強部12で貝開き状態にすることができる・・・」(段落[0021])、「・・・内側を刺繍飾り16で止めて、第1補強部11と第2補強部12を貝開き状態にする。」(段落[0026])、「・・・第1補強部材11及び第2補強部材12の内側を刺繍飾りで止めて、第1補強部11と第2補強部12が貝開き状態となるようにしている。」(段落[0028])、「内側を接着剤で止めて接着部30を形成し、第1補強部21と第2補強部22を貝開き状態にする。」(段落[0034])、「第1補強部21と第2補強部22の内側を接着剤で止めた接着部30を有するため、第1補強部21と第2補強部22を貝開き状態にすることができる。」(段落[0036])と記載されていることから、第1補強部材と第2補強部材の内側を止めて外側を開いた状態と解することができるので、引用発明における「前記外側布と前記内側布の内縁全周に沿って保護刺繍9を施すことにより双方が接続され内側布を開くことが可能」という態様は、「前記第1補強部と前記第2補強部の内側を止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能」である限りにおいて、本件補正発明の「貝開き状態とすることが可能」である態様に一致する。

(エ)してみると、本件補正発明と引用発明とは、両者が
「シート部材に送風手段を取り付けるための開口孔の周縁を補強するシート部材用の補強部材の取付構造であって、
前記補強部材は、
前記開口孔の周縁の表側に位置する第1補強部と、
前記第1補強部とは各別に形成され、前記開口孔の周縁の裏側において前記第1補強部と対向して位置する第2補強部と、
前記第1補強部及び前記第2補強部の少なくとも一方に設けられた粘着層と、を有し、
前記補強部材が合成樹脂からなり
前記第1補強部と前記第2補強部の内側を止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能であり、
前記前記第2補強部の外輪を開くことにより、前記開口孔の周縁を、前記第1補強部と前記第2補強部とによって挟み込むよう構成されている、シート部材用の補強部材の取付構造。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
第1補強部材と第2補強部材の内側を止めるものが、本件補正発明では「接着剤」であるのに対して、引用発明では「保護刺繍」である点。
(相違点2)
本件補正発明では「前記第1補強部材及び前記第2補強材の外輪を開く」のに対して、引用発明では「内側布の外側が開く」のみである点。
(相違点3)
本件補正発明では「前記周縁に前記補強部材とは別に貼り合わされた環状の芯地」を含むのに対して、引用発明ではそのような構成がない点。

(オ)上記相違点1について検討すると、合成繊維からなる布を構成する際に「接着剤」を用いて複数の部材を接着することは技術常識であって、接着剤自体も市販されている。
してみると、引用発明において「保護刺繍」に換えて「接着剤」を用いて第1補強部材と第2補強部材とを止めるよう構成することは、当業者が技術常識を勘案して容易になし得た程度の均等手段の置換にすぎないというべきである。

審判請求人は、審判請求書の3.(4)(4-1)において、「本願発明1は、・・・第1補強部と第2補強部の内側を接着剤で止めることにより、その外側を貝開き状態とすることが可能である点において、引用文献1に記載の発明と相違します。・・・接着剤を用いることにより、孔の周縁を簡易に精度良く固定できるという効果を有します。」と主張するが、当該主張は、製造方法に係る効果の主張というべきであって、物の発明である請求項1に係る発明の効果とは認められない。
また、仮に物の発明の効果だとしても、上記の技術常識を勘案すると、接着により簡易かつ精度良く複数の部材を組み合わせることが可能なことは、当業者が予測可能な効果というべきであり、格別の有利な効果といえるものではないから、審判請求人の主張を採用することはできない。

(カ)上記相違点2、3について検討すると、引用文献2の段落[0028]?[0029]及び[図4]には、環状補強材1の第1補強環1A(第1帯11A)と第2補強環1B(第2帯11B)の外周が開いた「貝開き状態」で機材取付け用穴24にはめ込まれて、折り返し縁1aが機材取付け用穴24の周縁を覆って端面を保護する構造が記載されている。
また、引用文献2の段落[0025]?[0029]、[図1]、[図4]には、リング板25を表地材21と裏地材22に表裏を挟まれた状態として、リング板25と裏地材22及び表地材21とをあらかじめ一体に構成する点も記載されており、してみると、引用文献2には、リング板25と裏地材22及び表地材21とをあらかじめ一体に構成したうえで、環状補強材1の第1補強環1A(第1帯11A)と第2補強環1B(第2帯11B)の外周が開いた「貝開き状態」で機材取付け用穴24にはめ込まれて、折り返し縁1aが機材取付け用穴24の周縁を覆って端面を保護する構造(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
ここで、引用文献2記載事項のリング板25及び裏地材22は、環状補強材1とは別個に、あらかじめ表地材21に一体化されているものであるから、「芯地」に相当すると解するのが適当である。
そして、引用発明と引用文献2記載事項とは、ともにいわゆる「空調服」の送風ファンの取付け構造に関する技術であって、取付け構造の補強という課題も共通するものであるから、引用文献2記載事項を参酌して、引用発明において、衣服(シート部材)に設けた衣服用ファン取付孔(開口孔)の周縁に、衣服用ファン取付用ワッペン(補強部材)とは別に貼り合わされた環状の芯地を設けるとともに、衣服用ファン取付用ワッペンの内側布と外側布の双方を開く「貝開き状態」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきである。

ここで、審判請求人は、令和元年 7月 3日提出の意見書の3.において、「・・・引用文献1では、その段落[0033]及び図5(b)に示されるように、ワッペン1の取付において、芯材の入っていない内側布を開くことになりますが、本発明では、当初明細書段落[0029]に記載されているように、第1補強部も第2補強部もその外輪を開くことができ、取付にあたってより融通を利かすことができます。」と主張するが、当該主張は、製造方法に係る効果の主張というべきであって、物の発明である請求項1に係る発明の効果とは認められない。
また、物の発明の効果であるとしても、上記のとおり引用文献2には、環状補強材1の第1補強環1A(第1帯11A)と第2補強環1B(第2帯11B)の外周が開いた「貝開き状態」で機材取付け用穴24にはめ込まれて、折り返し縁1aが機材取付け用穴24の周縁を覆って端面を保護する構造が記載されているのであるから、当該効果は、引用文献2記載事項から予測可能な事項であって、審判請求人の主張を採用することはできない。

さらに審判請求人は、上記意見書において、「『外側布1Aは、基層15を所定の厚さで形成する又は基層15と熱融着性接着材層17との間に平滑な芯材(図示せず)等を挟むことにより、形状安定性を持たせることが望ましい。』とする引用文献1は、本発明の構成に対し反対教示をしていることから、本発明は、引用文献1から想到容易ということはできません。」とも主張するが、当該記載は、あくまで「望ましい」とするのみの記載であって、引用発明において「外側布」を「基層」と「熱融着性接着材層」のみで構成することを否定するものとは解せないから、阻害要因にはあたらないというべきであり、やはり、審判請求人の主張を採用することはできない。

してみると、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3. 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1. 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和 元年 7月 3日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2. 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:登録実用新案第3218429号公報
引用文献2:特開2018-159160号公報(周知技術を示す文献)

3. 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ないし(3)に記載したとおりである。

4. 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記補強部材が合成樹脂からなり」、前記第1補強部と前記第2補強部の内側を「接着剤」で止めており、芯地が「環状」であるとの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2.(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-08-31 
結審通知日 2020-09-01 
審決日 2020-09-15 
出願番号 特願2019-19665(P2019-19665)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 間中 耕治
杉山 悟史
発明の名称 シート部材用の補強部材の取付構造、取付方法及び空調装置  
代理人 特許業務法人サカモト・アンド・パートナーズ  

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