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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
管理番号 1367808
審判番号 不服2019-11073  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-22 
確定日 2020-11-06 
事件の表示 特願2018-208732「津波対策浮体装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月21日出願公開、特開2020- 76219〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年11月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 3月 5日付け :拒絶理由通知書
(平成31年 3月12日発送)
平成31年 3月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月22日付け :拒絶理由通知書
(令和 1年 5月14日発送)
令和 1年 6月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 6月20日付け :補正却下の決定(令和1年6月11日
付け手続補正書による補正を却下)、
拒絶査定
(令和 1年 7月 2日発送)
令和 1年 8月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 4月17日付け :補正却下の決定(令和1年8月22日
付け手続補正書による補正を却下)
(令和 2年 5月15日発送)
令和 2年 4月17日付け :拒絶理由通知書
(令和 2年 4月28日発送)
令和 2年 6月24日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
以下、令和2年6月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書に基いて審理する。
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
水面から所定の高さ及び水面から一定の深さを備えた誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及びる所定の幅と所定の長さを有する防波堤部を備え前記誘導浮体部材と鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置することを特徴とする津波対策浮体装置。

【請求項2】
水面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層による水面から所定の高さ及び底部に津波に耐えうる重量による水面から一定の深さ備え鎖を繋ぐ筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び所定の幅と津波を防止するための長さの浮体防波堤部を備え前記誘導浮体部材の筒と前記浮体防波堤部の先端部が鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置することを特徴とする津波対策浮体装置。

【請求項3】
水面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層による水面から所定の高さ及び底部に津波に耐えうる重量による水面から一定の深さを備え鎖を繋ぐ筒を有する誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び所定の幅と津波を防止するための長さの浮体防波堤部を備え前記誘導浮体部材の筒と前記浮体防波堤部の先端部が鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する津波対策浮体装置が、複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の前記津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする鎖状津波対策浮体装置。

【請求項4】
海面状高さ5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層による水面から所定の高さ及び底部に津波に耐えうる重量の海水による水面から一定の深さを備え鎖を繋ぐ筒を有する誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部と所定の幅と津波を防止するための深さを備えた垂直の防波堤部及び所定の幅と津波による更なる回転を阻止するための長さの浮体浮体回転防止部を備え前記誘導浮体部材の筒と前記浮体回転防止部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になることを特徴とする津波対策浮体装置。

【請求項5】
海面上高さ5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層による水面から所定の高さ及び津波に耐えうる重量の海水をによる水面より一定の深さを備え鎖に繋ぐ筒を有する誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部と所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための深さを備えた垂直の防波堤部及び所定の幅と津波による更なる回転を阻止するための長さの浮体回転阻止部を備え前記誘導浮体部材の筒と前記浮体回転阻止部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる津波対策浮体装置が、複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする鎖状津波対策浮体装置。

【請求項6】
前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転することを特徴とする請求項1?3記載の津波対策浮体装置或いは鎖状津波対策浮体装置。

【請求項7】
前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合に近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転することを特徴とする請求項4?5記載の津波対策浮体装置或いは鎖状津波対策浮体装置。」


第3 当審拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由の概要は、整理すると以下のとおりである。

1 明確性
平成31年3月19日付け手続補正書による補正後の本願請求項1ないし7に係る発明は、「回転」することにより「防波堤部」又は「浮体防波堤部」が「防波堤」となる「津波対策浮体部材」に関する構成が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 実施可能要件
平成31年3月19日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1ないし7に係る発明について、本願発明の詳細な説明の記載は、「回転」することにより「防波堤部」又は「浮体防波堤部」が「防波堤」となる、「津波対策浮体部材」を含む「津波対策浮体装置」又は「鎖状津波対策浮体装置」を、当業者が実施できる程度の明確かつ十分な説明を記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 判断
1 明確性
(1)本願発明1
ア 請求項1の記載に基づく検討
本願発明1は、「津波対策浮体装置」という物の発明であり、本願発明1が明確であるためには、「津波対策浮体装置」という物の発明の構成が明確である必要がある。
本願発明1に係る「津波対策浮体装置」は、本願発明1を特定する請求項1の前半部の記載によれば、「水面から所定の高さ及び水面から一定の深さを備えた誘導浮体部材を具備するともに」(当審注;「具備するともに」は、「具備するとともに」の誤記と善解する。)、「前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及びる所定の幅と所定の長さを有する防波堤部を備え前記誘導浮体部材と鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備」(当審注;「接触部及びる」は「接触部及び」の誤記と善解する。)するものである。
ここで、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が、「誘導浮体部材」と「津波対策浮体部材」とが「鎖により繋がれた」ものであることについては、ひとまず理解することができる。また、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が有する「誘導浮体部材」が、「水面から所定の高さ及び水面から一定の深さを備えた」ことについても,「所定の高さ」及び「一定の深さ」がどの程度の高さ及び深さであるかということを措くとして、ひとまず理解することができる。そして、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が有する「津波対策浮体部材」が、「誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部」及び「所定の幅と所定の長さを有する防波堤部」を備えたことについても、「接触部」及び「防波堤部」の具体的構造、及び当該「接触部」と「防波堤部」とを備えた「津波対策浮体部材」の具体的構造を措くとして、ひとまず理解することができる。
そのため、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」について、本願発明1を特定する請求項1の前半部に記載される構成については、誤記を善解すれば、「津波対策浮体装置」が具備する「誘導浮体部材」及び「津波対策浮体部材」の具体的構造を別として、ひとまず理解することができる。
しかしながら、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における、「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」構成については、以下に指摘するように、どのような構成を特定するものか明確に理解することができない。
まず、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が津波により岸に近づいた際に、「接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転」する構成については、「津波対策浮体部材」が一体どのような「回転」をするのか明確でなく、また「接触部が海底と接触」することにより「津波対策浮体部材が回転」するために、「津波対策浮体部材」自体が一体どのような構造あるいは形状を有しているのか、明確に理解することができない。
次に、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」は、「前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」ものであるところ、「津波対策浮体部材が回転」すると「防波堤部が防波堤」になるような「防波堤部」とは、一体どのような構造あるいは形状を有する「防波堤部」であるのか、明確に理解することができない。また、本願発明1において「接触部」及び「防波堤部」は「津波対策浮体部材」が備えるものであるところ、「津波対策浮体部材が回転」すると「防波堤部が防波堤」となるために、結局のところ「接触部」と「防波堤部」とを備える「津波対策浮体部材」がどのような構造を有するものであるのか、明確に理解することができない。
したがって、本願発明1は、「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」について、どのような構造を有することが特定されているのか、明確でなく、「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成が明確でない。

イ 明細書の記載を参酌すれば、本願発明1が明確となるかについて
上記アのとおり、本願発明1を特定する請求項1の記載によって、本願発明1に係る「津波浮体装置」を明確に理解することはできないが、明細書の記載を参酌すれば本願発明1が明確となるかについて、判断する。

(ア)技術分野、発明が解決しようとする課題、及び課題を解決するための手段
本願明細書の段落【0001】には、【技術分野】として、「本発明は津波により岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になる津波対策浮体装置を提供することを目的とする。」と記載されている。
また、本願明細書の段落【0005】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明の第一の目的は誘導浮体部材により誘導され津波により前記誘導浮体部材が岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になる津波対策浮体装置を提供することである。」と記載されている。
そして、本願明細書の段落【0006】には、【課題を解決するための手段】として、「本発明の津波対策浮体装置は、水面から一定の深さを有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材と鎖によりつながれ前記誘導浮体部材の深さより深い深さの接触部及び所定の幅と長さ或いは深さを有する防波堤部を備えた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になることを特徴とする。」、並びに、「請求項1の津波対策浮体装置は、水面から所定の高さ及び水面から一定の深さを備えた誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び所定の幅と所定の長さを有する防波堤部を備え前記誘導浮体部材と鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置することを特徴とする。」と記載されている。
しかしながら、これらの記載は、請求項1の記載を繰り返す以上の説明を含むものではなく、本願明細書における当該記載を参酌したところで、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が、「津波対策浮体部材」、及び「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」について、一体どのような構造を有するものか、明確となるものではない。

(イ)発明の効果
a 段落【0007】の記載
発明の効果に関して、本願明細書の段落【0007】には、次のとおり記載されている。
「【0007】
前記津波対策浮体部材の接触部の水面からの深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので岸に近づいたとき前記津波対策浮体部材が回転することにより防波堤になりその後前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。
前記津波対策浮体部材の防波堤部の位置を交互に変更し防波堤部の所定の幅より短い幅により前記誘導浮体部材を固定しているので岸に近づくと前記津波対策浮体部材が回転することにより防波堤部が交互に重なって防波堤になりその後前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。」

b 検討
上記段落【0007】の前半部の記載から、津波対策浮体部材が回転することにより防波堤になった後、最終的に誘導浮体部材と津波対策浮体部材とが岸に乗り上げることが想定されていると推測されるものの、当該記載を参酌したところで、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の、どのような構造を特定しているのかが、明確となるものではない。
上記段落【0007】の後半部の記載は、「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の前記津波対策浮体部材を備えた」との構成を有する本願発明3、若しくは「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えた」との構成を有する本願発明5に関する説明と思われるが、本願発明1に関して同段落【0007】の前半部より詳細な説明をしているものではなく、当該記載を参酌したところで本願発明1について上記アで指摘した点が明確となるものではない。

(ウ)津波対策浮体装置の第一の実施形態
a 段落【0008】の記載
津波対策浮体装置の第一の実施形態として、本願明細書の段落【0008】には、次の記載がある。
「【0008】
本発明による津波対策浮体装置の第一の実施形態は、水面から一定の深さを有し底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び鎖を繋ぐ例えば上面に備えられた筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部及び所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体防波堤部を備え前記誘導浮体部材の前記筒と前記浮体防波堤部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備することを特徴とする。
前記誘導浮体部材に誘導され岸に近づくと,前記津波対策浮体部材の底部接触部の深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので浮体防波堤部が回転して防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の更なる回転を阻止される。 なお、前記誘導浮体部材は浮体防波堤部の更なる回転を阻止するため例えば大型の円形状で浮体防波堤部の回転の際、中空膜体の前記浮体が緩衝作用をする。
また、前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の更なる回転を阻止ため前記誘導浮体部材は浮体部材による環状形状で隣の浮体部材が固い結合部材により結合された大型環状結合形状でもよい。
前記津波対策浮体部材の底部接触部を比較的深く設定すると岸に近づく前に浮体防波堤部が回転し、岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。また、前記津波対策浮体部材の底部接触部を500メートル以上の深さに設定すると沖合で浮体防波堤部が回転する。
本発明による鎖状津波対策浮体装置は、前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする。
前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し浮体防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと津波対策浮体部材が回転することにより浮体防波堤部が交互に重なって防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による更なる回転を阻止される。岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。」

b 検討
上記段落【0008】の第1段落ないし第3段落では、第一の実施形態においては、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」の「誘導浮体部材」の海面上高さが「5メートル以上」であること、「津波対策浮体部材」の「防波堤部」が「15メートル以上の津波を防止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体防波堤部」であること、「津波対策浮体部材」のうち「誘導浮体部材」と鎖により繋がれているのは「浮体防波堤部の先端部」であること、「浮体防波堤部が回転して防波堤に」なることが、説明されている。また、「誘導浮体部材」が「津波対策浮体部材」の「浮体防波堤部」の「更なる回転を阻止」することも、説明されている。
しかしながら、まず、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「誘導浮体部材」について、その海面上高さが、第一の実施形態では「5メートル以上」と説明されているとしても、「誘導浮体部材」自体の大きさが特定の値であることによって、「誘導浮体部材」と鎖で繋がれた「防波堤部」を備える「津波対策浮体部材」が、「接触部が海底と接触すること」により「回転」し、かつ「回転」した「防波堤部」が「防波堤」となる、という、本願発明1の構成を満たすとは、合理的に考えることができない。そのため、本願明細書の段落【0008】に記載される「誘導浮体部材」の大きさに関する説明を参酌しても、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の、どのような構造を特定しているのかは、明確に理解できるものではない。
次に、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」について、第一の実施形態として記載される、「15メートル以上の津波を防止するための長さ」という説明は、結局のところどのような長さを指すのかその説明自体が不明確である。また、本願明細書のその余の記載を併せて考慮しても、「防波堤部」の長さが何らか特定の値であることによって、「防波堤部」を備える「津波対策浮体部材」が「接触部が海底と接触すること」により「回転」し、かつ「回転」した「防波堤部」が「防波堤」となる、という、本願発明1の構成を満たすとも、合理的に考えることができない。そのため、本願明細書の段落【0008】に記載される「15メートル以上の津波を防止するための長さ」という説明を参酌しても、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の、どのような構造を特定しているのかは、明確に理解できるものではない。
また、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」が、第一の実施形態として説明されるように「表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体防波堤部」であったとしても、「防波堤部」が表面や裏面に中空膜体等の浮体を有することによって、「防波堤」となり得る「防波堤部」を備える「津波対策浮体部材」が「接触部が海底と接触すること」により「回転」し、かつ「回転」した「防波堤部」が「防波堤」となる、という、本願発明1の構成を満たすとは、合理的に考えることができない。同様に、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」において、「誘導浮体部材」と鎖により繋がれた箇所が、第一の実施形態として説明されるように「浮体防波堤部の先端部」であったとしても、そもそも「浮体防波堤部」の形状や大きさなども不明であるうえに、かような「浮体防波堤部」の何らか特定の箇所を「誘導浮体部材」と鎖により繋ぐことによって、「防波堤」となり得る「防波堤部」を備える「津波対策浮体部材」が「接触部が海底と接触すること」により「回転」し、かつ「回転」した「防波堤部」が「防波堤」となる、という、本願発明1の構成を満たすとは、合理的に考えることができない。そのため、本願明細書の段落【0008】に記載される、「表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体防波堤部」という説明、及び「津波対策浮体部材」のうち「誘導浮体部材」と鎖により繋がれているのは「浮体防波堤部の先端部」であるとの説明を参酌しても、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の、どのような構造を特定しているのかは、明確に理解できるものではない。
さらに、本願明細書の段落【0008】の説明のうち、「誘導浮体部材」が「津波対策浮体部材」の「浮体防波堤部」の「更なる回転を阻止」する説明については、「津波対策浮体部材」に対して鎖により繋がれた「誘導浮体部材」が、「津波対策浮体部材」に対して一体どのような作用機序により、「津波対策浮体部材」の更なる回転を阻止するものか、またそのために「誘導浮体部材」及び「津波対策浮体部材」に対してそれぞれどのような具体的構造を持たせるのか、合理的に理解できる説明がされていないとともに、当該更なる回転の阻止に関する説明を参酌したところで、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」における「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の、どのような構造を特定しているのかは、明確に理解できるものではない。
なお、上記段落【0008】の第4段落ないし第6段落では、接触部の深さを500メートル以上とした本願発明6及び7に関する付加的説明、及び、「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の前記津波対策浮体部材を備えた」との構成を有する本願発明3、若しくは「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えた」との構成を有する本願発明5に関する付加的説明がなされているが、本願発明1に関して同段落【0008】の第1段落ないし第3段落より詳細な説明をしているものではなく、当該記載を参酌したところで本願発明1について上記アで指摘した点が明確となるものではない。

(エ)津波対策浮体装置の第二の実施形態
a 段落【0009】の記載
津波対策浮体装置の第二の実施形態として、本願明細書の段落【0009】には、次の記載がある。
「 本発明による津波対策浮体装置の第二の実施形態は、水面から一定の深さを有し底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び鎖を繋ぐ例えば上面に備えられた筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部と所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための深さを備えた垂直の底部接触防波堤部及び所定の幅と更なる回転を阻止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体回転阻止部を備え前記誘導浮体部材の前記筒と前記浮体回転阻止部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備することを特徴とする。
前記誘導浮体部材に誘導され岸に近づくと,前記津波対策浮体部材の接触部の深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので前記津波対策浮体部材が回転し、前記浮体回転阻止部の長さが大きいので津波による前記底部接触防波堤部の更なる回転を阻止される。 なお、前記誘導浮体部材は底部接触防波堤部の更なる回転を阻止する必要はないので第一の実施形態のように大型でなくてよい。
前記津波対策浮体部材の接触部を比較的深く設定すると岸に近づく前に底部接触防波堤部が回転し、岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。また、前記津波対策浮体部材の接触部を500メートル以上の深さに設定し前記底部接触防波堤部の例えば前記誘導浮体側に中空膜体等の浮体を有する底部接触浮体防波堤部にすると沖合で津波対策浮体部材の浮体回転阻止部が回転し前記底部接触浮体防波堤部が浮体となる。津波対策浮体部材が岸に乗り上げる際、浮体回転阻止部が津波により押され底部接触浮体防波堤部が更に回転して防波堤となり、浮体回転阻止部が津波対策浮体部材の更なる回転を阻止する。
本発明による鎖状津波対策浮体装置の第二の実施形態は、前記津波対策浮体部材の底部接触防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする。 前記津波対策浮体部材の底部接触防波堤部の位置を交互に変更し底部接触防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと前記津波対策浮体部材が回転することにより底部接触防波堤部が交互に重なって防波堤になり、前記浮体回転阻止部により津波による更なる前記津波対策浮体部材の回転を阻止する。岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。」

b 検討
上記段落【0009】では、第二の実施形態として、「津波対策浮体部材」が「接触部」、「垂直の底部接触防波堤部」及び「所定の幅と更なる回転を阻止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体回転阻止部」を備え、「誘導浮体部材は底部接触防波堤部の更なる回転を阻止する必要はない」例が説明されている。
当該段落【0009】の説明は、「津波対策浮体部材」が「垂直の防波堤部」及び「所定の幅と津波による更なる回転を阻止するための長さの浮体回転阻止部」を備える、本願発明4、本願発明5及び本願発明7に関するものと思われるが、当該段落【0009】の説明を参酌しても、更なる回転の阻止に先立って、「津波対策浮体部材」が「回転」し「防波堤部」が「防波堤」となる作用機序、及びそのようなことを可能とするために「津波対策浮体部材」及び「防波堤部」にどのような構造を持たせればよいかが、理解可能な程度に説明されている訳ではない。
そのため、当該段落【0009】における第二の実施形態の説明を参酌しても、本願発明1について、上記アで指摘した点が明確となるものではない。

(オ)本願明細書におけるその余の記載
本願明細書の段落【0010】以降には、「津波対策鎖状環状漁業浮体装置」の実施形態に関する説明が記載され、段落【0013】には、「大都市及び地下設備が多い東京湾、大阪湾、伊勢湾等の外海では弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を配置すれば、環状誘導浮体部材は湾の入口の海岸又は砂浜に到達するまで海面に浮かぶのみで津波により何ら強度的影響を受けることなく移動し、海岸又は砂浜に近づくと前記津波対策浮体部材が回転して前記環状誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が海岸又は砂浜を乗り上げ津波の進入を緩和或いは防止すると共に海岸又は砂浜或いは岩礁に到達しない前記環状誘導浮体部材は海岸又は砂浜或いは岩礁に到達するまで弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材は前記環状誘導浮体部材相互が前記結合部材で結合されながら折れ曲がって移動する。そして湾の入口の海岸又は砂浜に到達すると前記津波対策浮体部材が回転して前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が海岸又は砂浜を乗り上げ湾内への津波の進入を緩和或いは阻止することが可能である。」と説明されている。
上記段落【0013】の説明は、「鎖状環状誘導浮体部材」を備える例についての説明であるが、「そして湾の入口の海岸又は砂浜に到達すると前記津波対策浮体部材が回転して前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が海岸又は砂浜を乗り上げ湾内への津波の進入を緩和或いは阻止することが可能である。」との記載から、請求人は、「津波対策浮体部材」が「回転」して「誘導浮体部材」と「津波対策浮体部材」が「海岸又は砂浜を乗り上げ」た後には、津波の侵入を緩和あるいは阻止する機能を奏することを想定しているものと推測される。
しかしながら、当該段落【0013】の説明も抽象的であって、津波の際に岸に乗り上げる何らかの浮体が想定できるからといって、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」について、「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤に」なるようにするために、「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」について、それぞれどのような構造を持たせればよいのかは、明確に理解できるものではない。
本願明細書の段落【0014】以降には、「深層水温度差発電津波対策鎖状環状漁業浮体装置」の実施形態に関する説明が記載されているが、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」、及び該「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の構造について、本願明細書の段落【0013】以前より詳細な説明が記載されているものではない。
なお、本願の願書に図面は添付されておらず、図面を併せて参酌することにより、本願発明1について、上記アで指摘した点が明確となるものでもない。

ウ 小括
上記ア?イのとおり、本願発明1は「津波対策浮体装置」という物の発明であるところ、当該「津波対策浮体装置」が具備する「津波対策浮体部材」の構成、及び「津波対策浮体部材」が備える「接触部」及び「防波堤部」の構成がどのようなものであるか不明であり、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」が全体としてどのような物であるのか、明確ではない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(2)本願発明2
本願発明2は、本願発明1と比較すると、「防波堤部」がいくつかの箇所で「浮体防波堤部」と表記されたうえで、「誘導浮体部材」が「水面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層による水面から所定の高さ及び底部に津波に耐えうる重量による水面から一定の深さ」を備えていること、「誘導浮体部材」が「鎖を繋ぐ筒」を有すること、「鎖により繋がれ」ているのが「誘導浮体部材の筒」と「浮体防波堤部の先端部」であることが特定されているが、「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成については、本願発明1と共通している。
そして、本願発明2が有する「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成については、本願発明1における同様の構成について、上記(1)に判断したとおりである。
したがって、特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(3)本願発明3
本願発明3は、本願発明2と比較すると、「津波対策浮体装置が、複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の前記津波対策浮体部材を備えた」ものとして、「鎖状津波対策浮体装置」とされているが、「鎖状津波対策浮体装置」が備える各「津波対策浮体装置」の構成は、本願発明2と共通している。
そして、本願発明3に係る「鎖状津波対策浮体装置」が備える「津波対策浮体装置」が有する、「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成については、本願発明1及び2における同様の構成について、上記(1)及び(2)に判断したとおりである。
したがって、特許請求の範囲の請求項3の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(4)本願発明4
本願発明4は、本願発明2と比較すると、「水面上高さが5メートル以上」の表記が「海面上高さが5メートル以上」との表記に変更されたうえで、「所定の幅と津波を防止するための長さの浮体防波堤部」が「所定の幅と津波を防止するための深さを備えた垂直の防波堤部」と変更されるとともに、「津波対策浮体部材」が「接触部」及び「垂直の防波堤部」に加えて「所定の幅と津波による更なる回転を阻止するための長さの浮体浮体回転防止部」を備えることが特定され、「誘導浮体部材の筒」と「鎖により繋がれ」るのは「浮体回転防止部の先端部」とされている。そのうえで、本願発明2が有した「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成は、本願発明4においては「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる」構成へと変更されている。
ここで、本願発明4における「垂直の防波堤部」については、「垂直の」という語により「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」に関してどのような構成を特定しているのか不明である。そして、「垂直の」という点を措くとしても、本願発明4における「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる」構成については、「津波対策浮体部材」が一体どのような「回転」をするのか明確でなく、また「接触部が海底と接触」することにより「津波対策浮体部材が回転」するために、「津波対策浮体部材」自体が一体どのような構造あるいは形状を有しているのか、明確に理解することができない。さらに、本願発明4における当該構成について、「津波対策浮体部材が回転」すると「防波堤部が防波堤」になるような「垂直の防波堤部」とは、一体どのような構造あるいは形状を有する「垂直の防波堤部」であるのか、明確に理解することができない。加えて、「津波対策浮体部材」が備える「津波による更なる回転を阻止するための長さの浮体浮体回転防止部」についても、「津波対策浮体部材」のうちどのような箇所に配置されどのような構造を有することにより、「津波による更なる回転を阻止」するものであるのか、不明である。
そして、本願発明4において「接触部」及び「垂直の防波堤部」並びに「浮体回転防止部」は、いずれも「津波対策浮体部材」が備えるものであるところ、「津波対策浮体部材が回転」すると「垂直の防波堤部が防波堤」となり、かつ「浮体回転防止部」が「更なる回転を阻止」するために、結局のところ「接触部」と「垂直の防波堤部」及び「浮体回転防止部」を備える「津波対策浮体部材」が、全体としてどのような構造を有するものであるのか、明確に理解することができない。
この点については、上記(1)イ(イ)a、上記(1)イ(ウ)a、上記(1)イ(エ)aに摘記した本件明細書の段落【0007】?【0009】の記載、及び本件明細書のその余の記載を参酌しても、上記(1)において本願発明1について検討したと同様に、明確となるものではない。
したがって、特許請求の範囲の請求項4の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(5)本願発明5
本願発明5は、本願発明4と比較すると、「津波対策浮体装置が、複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の前記津波対策浮体部材を備えた」ものとして、「鎖状津波対策浮体装置」とされており、本願発明5の前半部における「垂直の防波堤部」の表記が最後に「浮体防波堤部」に変わっているものの、「鎖状津波対策浮体装置」が備える各「津波対策浮体装置」の構成は、本願発明4と共通している。
そして、本願発明5に係る「鎖状津波対策浮体装置」が備える「津波対策浮体装置」が有する、「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる」という構成については、本願発明4における同様の構成について、上記(4)に判断したとおりである。
したがって、特許請求の範囲の請求項5の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(6)本願発明6
本願発明6は、本願発明1ないし3に対して、「前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転する」(当審注;「沖合近づく」は「沖合に近づく」の誤記と認める。)との構成を付加的に特定したものであるところ、本願発明6が有する本願発明1ないし3の構成について、上記(1)ないし(3)で指摘した点は、本願発明6においても同様に不明確である。
また、「接触部が500メートル以上の深さ」を有するという、巨大な規模の「津波対策浮体部材」であり、かつ「接触部が海底面と接触」することで「回転」する「津波対策浮体部材」とは、どのような構造を有する「津波対策浮体部材」であるのかも、明確に理解することができない。
したがって、特許請求の範囲の請求項6の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

(7)本願発明7
本願発明7は、本願発明4又は5に対して、「前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合に近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転する」との構成を付加的に特定したものであるところ、本願発明7が有する本願発明4または5の構成について、上記(4)及び(5)で指摘した点は、本願発明7においても同様に不明確である。
また、「接触部が500メートル以上の深さ」を有するという、巨大な規模の「津波対策浮体部材」であり、かつ「接触部が海底面と接触」することで「回転」する「津波対策浮体部材」とは、どのような構造を有する「津波対策浮体部材」であるのかも、明確に理解することができない。
したがって、特許請求の範囲の請求項7の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

2 実施可能要件
(1)本願発明1に関して
本願発明1は、「津波対策浮体装置」という物の発明であるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」を、当業者が実際に製造することができる程度に、明確かつ十分な説明を記載したものでなければならない。
しかしながら、本願発明の詳細な説明には、本願発明1が有する「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成について、「浮体」でありながら津波の際に「津波対策浮体部材」が「回転」して「防波堤部」が「防波堤」となる「津波対策浮体部材」の構造、及び当該「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」の構造を、どのように実現すればよいのかが、明確かつ十分に説明されていない。
この点に関し、発明の詳細な説明の段落【0007】、【0008】及び【0009】には、それぞれ上記1(1)イ(イ)a、上記1(1)イ(ウ)a、及び上記1(1)イ(エ)aに摘記した事項が記載されている。
しかしながら、「津波対策浮体装置」の「第一の実施形態」及び「第二の実施形態」とされる段落【0008】及び【0009】にも、「津波対策浮体部材」の「防波堤部」が「回転」して「防波堤」となるメカニズムや作用機序は説明されておらず、段落【0007】?【0009】の説明を参照しても、上記1(1)イ(イ)b、上記1(1)イ(ウ)b、及び上記1(1)イ(エ)bに示したとおり、「浮体」でありながら津波の際に「津波対策浮体部材」が「回転」して「防波堤部」が「防波堤」となる「津波対策浮体部材」の構造、及び当該「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」の構造について、一体どのような構造であるのかを理解することができるものではない。
また、発明の詳細な説明におけるその余の記載について検討しても、上記1(1)イ(ア)及び(オ)に示したとおり、当該事情について変わるところはない。
そして、「津波対策浮体部材」、及び当該「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」に対して、どのような構造を持たせればよいかが説明されていない状態において、試行錯誤により、「浮体」でありながら津波の際に「津波対策浮体部材」が「回転」して「防波堤部」が「防波堤」となる「津波対策浮体部材」を製造することは、たとえ当業者といえども、合理的な範囲を超えた負担と労力とを要するから、本願発明の詳細な説明は、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」について、「津波により岸に近づくと前記接触部が海底と接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置する」という構成を満たす「津波対策浮体部材」を実際に製造することが可能な程度に、明確かつ十分な説明を記載したものということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(2)本願発明2
本願発明2が有する「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成についても、本願発明の詳細な説明には、本願発明1が有する同様の構成について上記(1)で判断したとおり、当業者がかような構成を満たす「津波対策浮体部材」を実際に製造することができる程度に、明確かつ十分な説明を記載したものということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明2について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(3)本願発明3
本願発明3に係る「鎖状津波対策浮体装置」が備える「津波対策浮体装置」が有する、「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底面或いは地面に沿って位置する」という構成についても、本願発明の詳細な説明には、本願発明1及び2が有する同様の構成について上記(1)及び(2)で判断したとおり、当業者がかような構成を満たす「津波対策浮体部材」を実際に製造することができる程度に、明確かつ十分な説明を記載したものということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明3について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(4)本願発明4
本願発明4に係る「津波対策浮体装置」が具備する、「接触部」及び「垂直の防波堤部」並びに「浮体回転防止部」を備えた「津波対策浮体部材」についても、本願発明の詳細な説明には、本願発明4が有する「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる」構成を実現する「津波対策浮体部材」とするために、実際にどのような形状及び構造を備えた「津波対策浮体部材」を製造すればよいのか、明確かつ十分な説明を記載したものということができない点は、本願発明1ないし3が具備する「津波対策浮体装置」について上記(1)ないし(3)で指摘したと同様である。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明4について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(5)本願発明5
本願発明5に係る「鎖状津波対策浮体装置」が備える「津波対策浮体装置」が有する、「津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記垂直の防波堤部が防波堤になる」という構成を満たす「津波対策浮体部材」についても、本願発明4における同様の構成について上記(4)に判断したと同様に、本願発明の詳細な説明には、かような構成を満たす「津波対策浮体部材」を実際に製造することができる程度の明確かつ十分な説明が記載されているということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明5について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(6)本願発明6
本願発明6は、本願発明1ないし3に対して、「前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転する」との構成を付加的に特定したものであるところ、上記(1)ないし(3)に指摘したとおり、本願発明の詳細な説明には、本願発明6が有する本願発明1ないし3が具備する「津波対策浮体部材」について、大きさを別としても、当業者が実際に製造することができる程度の明確かつ十分な説明を記載したものではない。さらに、本願発明6においては、「津波対策浮体部材」は「接触部が500メートル以上の深さ」を有するという、巨大な規模のものとする必要があるところ、本願発明の詳細な説明には、そのような巨大な規模の「津波対策浮体部材」について、「接触部が海底面と接触」すると「回転」し、かつ「防波堤部が防波堤となる」ような「津波対策浮体部材」を、一体どのような具体的構造を持たせて実際に製造すればよいのか、当業者が製造することができる程度の明確かつ十分な説明を記載しているということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明6について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

(7)本願発明7
本願発明7は、本願発明4又は5に対して、「前記接触部が500メートル以上の深さを有し津波により沖合に近づくと前記接触部が海底面と接触し前記津波対策浮体部材が回転する」との構成を付加的に特定したものであるところ、上記(4)及び(5)に指摘したとおり、本願発明の詳細な説明には、本願発明7が有する本願発明4又は5が具備する「津波対策浮体部材」について、大きさを別としても、当業者が実際に製造することができる程度の明確かつ十分な説明を記載したものではない。さらに、本願発明7においては、「津波対策浮体部材」は「接触部が500メートル以上の深さ」を有するという、巨大な規模のものとする必要があるところ、本願発明の詳細な説明には、そのような巨大な規模の「津波対策浮体部材」について、「接触部が海底面と接触」すると「回転」し、かつ「垂直の防波堤部が防波堤となる」ような「津波対策浮体部材」を、一体どのような具体的構造を持たせて実際に製造すればよいのか、当業者が製造することができる程度の明確かつ十分な説明を記載しているということができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明7について、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているということができない。

3 請求人の意見書における主張について
(1)明確性
ア 本願発明1について
(ア)請求人の主張
請求人は、令和2年6月24日付け意見書において、本願発明1ないし3に係る津波対策浮体装置が具備する津波対策浮体部材の具体的構造について、次のように主張している。
「明細書段落【0008】には”本発明による津波対策浮体装置は、水面から一定の深さを有し底部に津誘導浮体部材の深さより大きな深さ波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び鎖を繋ぐ筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部と所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し前記誘導浮体部材の前記筒に先端部と鎖により繋がれ表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部を備えた津波対策浮体部材を具備することを特徴とする。”と記載されている。
従って、”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”る”津波対策浮体部材”が請求項1?3に記載された”津波対策浮体部材”の具体的構造である。
なお、”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部”は誘導浮体部材の側面に沿って”誘導浮体部材の深さより大きな深さ”になる。
すなわち、海上の浮体である”表面或いは裏面に又は表面及び裏面に浮体を備えた浮体防波堤部”と”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部”を一体的に備えた”津波対策浮体部材”が”前記誘導浮体部材と前記浮体防波堤部の先端部が鎖により繋が”っている。津波対策浮体装置が”津波により岸に近づくと”津波対策浮体部材と一体の”接触部が海底に接触”し”浮体”である”浮体防波堤部”は”回転”を始め、津波により誘導浮体部材の側面まで傾むくことにより”津波対策浮体部材が回転”して海底或いは地面沿って”乗り上げ”る。
なお、段落【0008】には”浮体防波堤部が回転”と記載されているが、岸に近づき”接触部が海底に接触”した段階で”浮体”である”浮体防波堤部”は”回転”を始め、津波により誘導浮体部材の側面まで傾むくことにより”津波対策浮体部材が回転”し” 津波対策浮体部材”と一体の”浮体防波堤部が回転”して”防波堤”になります。
請求人は請求項1?3を” 誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び所定の幅と所定の長さを有する浮体防波堤部を備え前記誘導浮体部材と前記浮体防波堤部の先端部が鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと前記接触部と海底面が接触することにより前記津波対策浮体部材が回転し前記防波堤部が防波堤になり前記接触部が海底或いは地面に沿って位置することを特徴とする津波対策浮体装置”と補正し、”津波対策浮体部材”及び ”津波対策浮体装置”を明確にしました。」(同意見書「1 津波対策浮体部材の具体的構造」の第1段落?第6段落)

また請求人は、同意見書において、本願発明1の明確性について、次のように主張している。
「津波対策浮体部材の防波堤部は”浮体”ではありますが、津波対策浮体装置が津波により”岸に近づくと津波対策浮体部材の接触部が海底に接触”し”浮体”である”防波堤部”は”回転”を始め、津波により浮体誘導部材の側面まで傾くことにより”津波対策浮体部材が回転”し”防波堤部”が”防波堤”になります。津波対策浮体部材の構造は1項で述べた通りです。請求項1の補正により津波対策浮体装置の構成が明確になったと思料します。」(同意見書「2 明確性 1)」の第3段落より)

(イ)検討
上記請求人の主張について検討する。
a 請求人の主張のうち、「誘導浮体部材」の「側面」に関する部分
上記請求人の主張のうち、「なお、“誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部”は誘導浮体部材の側面に沿って“誘導浮体部材の深さより大きな深さ”になる。」という説明、及び、「なお、段落【0008】には”浮体防波堤部が回転”と記載されているが、岸に近づき”接触部が海底に接触”した段階で”浮体”である”浮体防波堤部”は”回転”を始め、津波により誘導浮体部材の側面まで傾むくことにより”津波対策浮体部材が回転”し” 津波対策浮体部材”と一体の”浮体防波堤部が回転”して”防波堤”になります。」という説明、並びに、「津波対策浮体部材の防波堤部は”浮体”ではありますが、津波対策浮体装置が津波により”岸に近づくと津波対策浮体部材の接触部が海底に接触”し”浮体”である”防波堤部”は”回転”を始め、津波により浮体誘導部材の側面まで傾くことにより”津波対策浮体部材が回転”し”防波堤部”が”防波堤”になります。」という説明における、「誘導浮体部材の側面に沿って」及び「津波により誘導浮体部材の側面まで傾く」という部分については、本願発明1において「津波対策浮体部材」に対して「鎖により繋がれた」ものである「誘導浮体部材」の側面が、鎖で繋がれた別体の浮体である「津波対策浮体部材」の傾きや回転とどのように関係することを想定した説明であるのか、当該説明の意味する内容自体が不明である。また、そもそも本願発明1において、「誘導浮体部材」の「側面」と「津波対策浮体部材」との関係に関する事項は何ら特定されていないから、「誘導浮体部材」の「側面」に関する上記請求人の説明は、本願発明1のいずれの構成について明確であることを主張する趣旨であるのかも、不明である。なお、「誘導浮体部材」の「側面」に関する記載あるいは説明は、本願発明2ないし7を特定する請求項2ないし7の記載、並びに本願明細書のその余の記載中にも、見いだすことができない。そのため、「誘導浮体部材」の「側面」に言及する上記請求人の主張を考慮しても、本願発明1について、上記1(1)において不明確と判断した点が、明確となるものではない。

b 請求人の主張のうち、「誘導浮体部材」の「側面」を別とした部分
上記請求人の主張のうち、「誘導浮体部材」の「側面」に言及する部分を除く部分は、概略段落【0008】の記載を繰り返し、「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”る”津波対策浮体部材”が請求項1?3に記載された”津波対策浮体部材”の具体的構造である。」として、「津波対策浮体部材の防波堤部は”浮体”ではありますが、津波対策浮体装置が津波により”岸に近づくと津波対策浮体部材の接触部が海底に接触”し”浮体”である”防波堤部”は”回転”を始め、津波により浮体誘導部材の側面まで傾くことにより”津波対策浮体部材が回転”し”防波堤部”が”防波堤”になります。」と説明し、「津波対策浮体部材」の具体的構造は先に説明したとおりであるから、本願発明1は明確である旨を主張するものである。
しかしながら、浮体である「津波対策浮体部材」が、第一の実施形態の説明において「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているというだけでは、接触部が海底に接触すれば「津波対策浮体部材」及び「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」が「回転」して「防波堤部」が「防波堤」となると合理的に考えることができず、単に「津波対策浮体部材」が海底に乗り上げるだけという状況にとどまることも十分に予想される。その一方、接触部が海底に接触すれば「防波堤部」を含む「津波対策浮体部材」が回転する程に、不安定な「津波対策部材」の場合には、そのように不安定な「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」が回転後に「防波堤」となるために、一体どのような構造を持たせればよいのかは、「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているというだけの説明では不十分であり、何ら明確とならない。また仮に、「回転」前の「津波対策浮体部材」は、接触部が海底に接触しただけで「防波堤部」を含む「津波対策浮体部材」が「回転」する程に不安定であるが、回転後には「防波堤部」が津波に対する「防波堤」となる程に安定した強固なものとなる「津波対策浮体部材」を想定しようとしても、「津波対策浮体部材」に一体どのような構造を持たせれば、そのようなことが実現可能であるのかは、「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているという上記請求人の説明では不十分であり、請求人の主張を考慮しても明確ということができない。

c 小括
したがって、上記請求人の主張について検討しても、本願発明1の明確性について、上記1(1)と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

イ 本願発明2ないし7について
請求人は、令和2年6月24日付け意見書において、本願発明2ないし7の明確性についても、本願発明4ないし5及び7については明細書の段落【0009】の記載に言及しつつ、上記ア(ア)と略同様の主張をしている(同意見書「1 津波対策浮体部材の具体的構造」、及び「2 明確性」の「2)」?「5)」)。
しかしながら、本願発明1に関する主張について上記ア(イ)に判断したと同様、当該請求人の主張について検討しても、本願発明2ないし7の明確性について、上記1(2)ないし(7)と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

(2)実施可能要件
ア 本願発明1に関して
(ア)請求人の主張
請求人は、令和2年6月24日付け意見書において、本願発明1?3の実施可能要件について、次のように主張している。
「第1項で説明したように”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に備えるのが請求項1?3に記載された”津波対策浮体部材”の具体的構造である。なお、”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部”は誘導浮体部材の側面に沿って”誘導浮体部材の深さより大きな深さ”になります。
津波対策浮体部材の防波堤部は”浮体”ではありますが、津波対策浮体装置が津波により”岸に近づくと津波対策浮体部材の接触部が海底に接触”し”浮体”である”防波堤部”は”回転”を始め、津波により浮体誘導部材の側面まで傾くことにより”津波対策浮体部材が回転”し”防波堤部”が”防波堤”になります。津波対策浮体部材の構造は1項で述べた通りです。請求項1の補正により津波対策浮体装置の構成が明確になったと思料します。
請求項1?3を” 誘導浮体部材を具備するともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び 防波堤部を備え前記誘導浮体部材と鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備し、津波により岸に近づくと 前記津波対策浮体部材が回転することにより前記防波堤部が防波堤になる ”と補正し、”津波対策浮体部材”及び ”津波対策浮体装置”を明確にしました。」(同意見書「3 実施可能要件」「請求項1?3」)

(イ)検討
上記請求人の主張について検討する。
上記(1)ア(イ)で検討したように、「誘導浮体部材」の「側面」に関する上記請求人の説明は、何を説明しているのか意味不明であるとともに、本願発明の詳細な説明中にも「誘導浮体部材」の「側面」に関する説明はなく、本願発明1において「誘導浮体部材」の「側面」に関する事項は特定されていない。
そのため、上記請求人の主張のうち、「誘導浮体部材」の「側面」に言及する部分の主張を考慮しても、本願発明の詳細な説明が、本願発明1について実施可能要件を満たしているか否かに関して、上記2(1)の判断を変更すべき事情はない。
また、同様に上記(1)ア(イ)で検討したように、浮体である「津波対策浮体部材」について、第一の実施形態で説明されるように「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているというだけでは、接触部が海底に接触すれば「津波対策浮体部材」及び「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」が「回転」して「防波堤部」が「防波堤」となると合理的に考えることができず、単に「津波対策浮体部材」が海底に乗り上げるだけという状況にとどまることも十分に予想される。その一方、接触部が海底に接触すれば「防波堤部」を含む「津波対策浮体部材」が回転する程に、不安定な「津波対策部材」の場合には、そのように不安定な「津波対策浮体部材」が備える「防波堤部」が回転後に「防波堤」となるために、一体どのような構造を持たせればよいのかは、「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているというだけの説明では不十分であり、何ら明確とならない。また仮に、「回転」前の「津波対策浮体部材」は、接触部が海底に接触しただけで「防波堤部」を含む「津波対策浮体部材」が「回転」する程に不安定であるが、回転後には「防波堤部」が津波に対する「防波堤」となる程に安定した強固なものとなる「津波対策浮体部材」を想定しようとしても、「津波対策浮体部材」に一体どのような構造を持たせれば、そのようなことが実現可能であるのかは、「”所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を備えた浮体防波堤部”及び”誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部” を一体的に”備え”」ているという上記請求人の説明では不十分であり、何ら明確とならない。
したがって、上記請求人の主張について検討しても、本願発明の詳細な説明の記載は、本願発明1に係る「津波対策浮体装置」を当業者が実際に製造することができる程度に、明確かつ十分な説明をしているということができず、本願発明1に関する実施可能要件について、上記2(1)と異なる判断をすべき事情は見いだせない。

イ 本願発明2ないし7
請求人は、令和2年6月24日付け意見書において、本願発明2ないし7に関する実施可能要件についても、上記ア(ア)と略同様の主張をしている(同意見書「3 実施可能要件」)。
しかしながら、本願発明1の実施可能要件に関する主張について、上記ア(イ)に判断したと同様、当該請求人の主張について検討しても、本願発明2ないし7の実施可能要件について、上記2(2)ないし(7)と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし7は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、また本願発明の詳細な説明の記載は、本願発明1ないし7に関して、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-08-20 
結審通知日 2020-08-25 
審決日 2020-09-07 
出願番号 特願2018-208732(P2018-208732)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (E02B)
P 1 8・ 537- WZ (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 苗村 康造西田 光宏  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
有家 秀郎
発明の名称 津波対策浮体装置  

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