• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1367819
審判番号 不服2019-40  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-04 
確定日 2020-11-04 
事件の表示 特願2015-562418「遠隔虚血コンディショニングを用いてオートファジをモジュレートする方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日国際公開、WO2014/167423、平成28年 5月 9日国内公表、特表2016-512709〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年3月14日(パリ条約による優先権主張 2013年3月15日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とするものであり、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 3月14日 :手続補正書の提出
平成29年12月25日付け:拒絶理由通知
平成30年 7月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月27日付け:拒絶査定
平成31年 1月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 1月30日 :手続補正書(方式)の提出
平成31年 4月15日付け:前置報告

第2 平成31年1月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年1月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり補正された。なお、下線部は補正箇所である。

「 【請求項1】
オートファジの亢進が奏効する病態を有する対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、
前記治療は、前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを毎日行うことを含み、前記長期RICは、1日あたり少なくとも1回のRIC療法を含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
RIC療法に従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含み、
前記RIC療法は、複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルは、
前記肢を通る血流を閉塞する圧力まで前記アクチュエーターが前記対象の前記肢の周りで前記カフを収縮させるカフ作動期と、
前記肢を通る血流を閉塞するために前記アクチュエーターが前記肢の周りで前記カフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするためにアクチュエーターがカフを解除するカフ解除期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするために前記カフが前記肢の周りで弛緩状態を維持する再灌流期と、を含み、
前記対象として、虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外し、
前記長期RICの実行が、前記対象においてオートファジレベルの亢進をもたらす、システム。
【請求項2】
オートファジの亢進が奏効する前記病態が、
(a)神経変性疾患であって、任意選択で、アルツハイマー病、ハンチントン病、多発性硬化症、またはパーキンソン病であり;
(b)癌であって、任意選択で、B細胞性リンパ腫、皮膚癌、黒色腫、基底細胞癌、肝臓癌、小細胞肺癌、または小細胞肺癌であり;
(c)感染性疾患であって、任意選択で、マイコバクテリア属(Mycobacteria)種感染、M.ツベルクロシス(M.tuberculosis)感染、M.アビウム(M.avium)感染、M.イントラセルラー(M.intracellulare)感染、M.カンサイ(M.kansaii)感染、M.ゴルドナエ(M.gordonae)感染、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)感染、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)感染、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)感染、またはフランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)感染であり;
(d)胃腸病態であって、任意選択で、クローン病または潰瘍性結腸炎であり;
(e)自己免疫病態であって、任意選択で、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性結腸炎、ウェゲナー病、炎症性腸疾患、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自己免疫性血小板減少症、多発性硬化症、乾癬、IgA腎症、IgM多発性神経症、重症筋無力症、血管炎、糖尿病、レイノー症候群、シェーゲン症候群、および糸球体腎炎であり;
(f)心血管疾患であって、任意選択で、アテローム硬化症、動脈硬化症、心筋症、または心臓肥大であり;
(g)遺伝的x連鎖リソソーム関連膜タンパク質疾患、ダノン病、ミトコンドリア筋症、または慢性心筋炎であり;
(h)糖尿病、肥満症、メタボリック症候群、グルコース不耐性、高脂血症、または高コレステロール血症であり;または、
(i)肺疾患であって、任意選択で、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、肺気腫、喘息、肺高血圧症、または特発性肺線維症である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
RIC療法が、1日2回以上行われる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
RIC療法が、少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり少なくとも毎日行われる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
RIC療法が、
(a)2、3、4、5治療サイクル、またはそれを超える治療サイクルを含み、および/または、
(b)複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルが5分間の血液閉塞期および5分間の再灌流期を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項6】
前記長期RICが同一部位で繰返し行われ、任意選択で、上肢で繰返し、または下肢で繰返し行われる、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記対象が第2療法を受けている、請求項1?6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2療法が最大耐容用量未満で施される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2療法が最大耐容用量超で施される、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記対象が、低減したオートファジ活性を有する請求項1?9のいずれか一項に記載のシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の、平成30年7月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
オートファジの亢進が奏効する病態を有するまたはその発生のリスクを有する対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、 前記治療は、前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを行うことを含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含み、
前記対象として、虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外する、システム。
【請求項2】
前記対象が、オートファジの亢進が奏効する病態を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
オートファジの亢進が奏効する前記病態が、
(a)神経変性疾患であって、任意選択で、アルツハイマー病、ハンチントン病、多発性硬化症、またはパーキンソン病であり;
(b)癌であって、任意選択で、B細胞性リンパ腫、皮膚癌、黒色腫、基底細胞癌、肝臓癌、小細胞肺癌、または小細胞肺癌であり;
(c)感染性疾患であって、任意選択で、マイコバクテリア属(Mycobacteria)種感染、M.ツベルクロシス(M.tuberculosis)感染、M.アビウム(M.avium)感染、M.イントラセルラー(M.intracellular)感染、M.カンサイ(M.kansaii)感染、M.ゴルドナエ(M.gordonae)感染、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)感染、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)感染、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)感染、またはフランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)感染であり;
(d)胃腸病態であって、任意選択で、クローン病または潰瘍性結腸炎であり;
(e)自己免疫病態であって、任意選択で、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、ループス腎炎、潰瘍性結腸炎、ウェゲナー病、炎症性腸疾患、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自己免疫性血小板減少症、多発性硬化症、乾癬、IgA腎症、IgM多発性神経症、重症筋無力症、血管炎、糖尿病、レイノー症候群、シェーゲン症候群、および糸球体腎炎であり;
(f)心血管疾患であって、任意選択で、アテローム硬化症、動脈硬化症、心筋症、または心臓肥大であり;
(g)遺伝的x連鎖リソソーム関連膜タンパク質疾患、ダノン病、ミトコンドリア筋症、または慢性心筋炎であり;
(h)糖尿病、肥満症、メタボリック症候群、グルコース不耐性、高脂血症、または高コレステロール血症であり;または、
(i)肺疾患であって、任意選択で、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、肺気腫、喘息、肺高血圧症、または特発性肺線維症である、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
RICが、(a)毎日行われる、および/または(b)1日2回以上行われる、請求項1?3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
RICが、
(a)少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり少なくとも毎日行われる、または、
(b)少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり1日おきに行われる、請求項1?3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
RICが、
(a)1、2、3、4、5サイクル、またはそれを超えるサイクルを含み、各サイクルが、血液閉塞期および再灌流期を含む、および/または、
(b)1サイクル以上を含み、各サイクルが5分間の血液閉塞期および5分間の再灌流期を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
RICが同一部位で繰返し行われ、任意選択で、上肢で繰返し、または下肢で繰返し行われる、請求項1?3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記対象が第2療法を受けている、請求項1?7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2療法が最大耐容用量未満で施される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記第2療法が最大耐容用量超で施される、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記対象が、低減したオートファジ活性を有する請求項1?10のいずれか一項に記載のシステム。」

2 本件補正による補正事項

上記1からみて、本件補正による補正事項は、以下の(2-1)?(2-15)である。

(2-1)補正前の請求項1に記載の「オートファジの亢進が奏効する病態を有するまたはその発生のリスクを有する対象」を「オートファジの亢進が奏効する病態を有する対象」に補正する。

(2-2)補正前の請求項1に記載の「長期RICを行うこと」を「長期RICを毎日行うこと」に補正する。

(2-3)補正前の請求項1に記載の「長期RIC」が「1日あたり少なくとも1回のRIC療法」を含むことを特定する。

(2-4)補正前の請求項1に記載の「治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラー」を「RIC療法に従ってアクチュエーターを制御するコントローラー」に補正するとともに、
前記RIC療法が、
「複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルは、
前記肢を通る血流を閉塞する圧力まで前記アクチュエーターが前記対象の前記肢の周りで前記カフを収縮させるカフ作動期と、
前記肢を通る血流を閉塞するために前記アクチュエーターが前記肢の周りで前記カフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするためにアクチュエーターがカフを解除するカフ解除期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするために前記カフが前記肢の周りで弛緩状態を維持する再灌流期と、」を含むことを特定する。

(2-5)補正前の請求項1に記載の「長期RIC」について、
「前記長期RICの実行が、前記対象においてオートファジレベルの亢進をもたらす」ことを特定する。

(2-6)上記(2-1)に伴い、補正前の請求項2を削除する。

(2-7)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項3の項番を請求項2に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1または2」から「請求項1」に補正する。

(2-8)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項4の項番を請求項3に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?3のいずれか一項」から「請求項1」に補正し、「RIC」を「RIC療法」に補正し、さらに、「(a)毎日行われる、および/または(b)1日2回以上行われる」を「1日2回以上行われる」に補正する。

(2-9)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項5の項番を請求項4に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?3のいずれか一項」から「請求項1」に補正し、「RIC」を「RIC療法」に補正し、さらに、
「(a)少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり少なくとも毎日行われる、または、
(b)少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり1日おきに行われる」を、
「少なくとも1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、または1年間にわたり少なくとも毎日行われる」に補正する。

(2-10)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項6の項番を請求項5に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?3のいずれか一項」から「請求項1または2」に補正し、「RIC」を「RIC療法」に補正し、「1、2、3、4、5サイクル」を「2、3、4、5サイクル」に補正し、さらに、「1サイクル以上を含み、各サイクルが」を「複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルが」に補正する。

(2-11)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項7の項番を請求項6に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?3のいずれか一項」から「請求項1または2」に補正する。

(2-12)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項8の項番を請求項7に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?7のいずれか一項」から「請求項1?6のいずれか一項」に補正する。

(2-13)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項9の項番を請求項8に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項8」から「請求項7」に補正する。

(2-14)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項10の項番を請求項9に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項8」から「請求項7」に補正する。

(2-15)上記(2-6)に伴い、補正前の請求項11の項番を請求項10に繰り上げるとともに、引用する請求項を「請求項1?10のいずれか一項」から「請求項1?9のいずれか一項」に補正する。

3 補正の適否

補正事項(2-6)は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
補正事項(2-1)は、システムを適用する対象を限定するものであり、補正事項(2-2)?(2-5)は「長期RIC」の内容を限定するものであり、補正事項(2-7)、(2-8)、(2-11)?(2-15)は、補正事項(2-6)に伴い、補正前の請求項3、4、7?11の請求項番号を繰り上げるとともに、それぞれが引用する請求項の数を減少させるものであり、補正事項(2-9)および(2-10)は、補正事項(2-6)に伴い、補正前の請求項5および6の請求項番号を繰り上げるとともに、それぞれが引用する請求項の数を減少させ、さらに「RIC」の内容を限定するものであり、補正前の請求項1、3?11に記載された発明と補正後の請求項1?10に記載された発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるから、いずれも特許法許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?10のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許法第17の2条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記「1(1)」に記載した本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
オートファジの亢進が奏効する病態を有する対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、
前記治療は、前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを毎日行うことを含み、前記長期RICは、1日あたり少なくとも1回のRIC療法を含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
RIC療法に従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含み、
前記RIC療法は、複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルは、
前記肢を通る血流を閉塞する圧力まで前記アクチュエーターが前記対象の前記肢の周りで前記カフを収縮させるカフ作動期と、
前記肢を通る血流を閉塞するために前記アクチュエーターが前記肢の周りで前記カフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするためにアクチュエーターがカフを解除するカフ解除期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするために前記カフが前記肢の周りで弛緩状態を維持する再灌流期と、を含み、
前記対象として、虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外し、
前記長期RICの実行が、前記対象においてオートファジレベルの亢進をもたらす、システム。」

(2)引用文献1に記載されている事項、および引用発明(引用文献1に記載された発明)

ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特表2010-512176号)には、以下の事項が記載されている。

摘記(1a)
「【請求項1】
リモートプレコンディショニングを行うシステムであって、
被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフと、
前記カフに接続され、作動時には前記カフを被験者の肢周囲で収縮させて肢の血流を減少させるアクチュエータと、
複数の治療周期を含む治療プロトコルに従って前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、各治療周期が、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう被験者の肢周囲の前記カフを収縮期圧より高い圧力になるまで収縮させる、カフ作動と、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持し、かつ少なくとも5秒間継続する虚血期間と、
前記アクチュエータが、肢の血流を許容するよう前記カフを緩める圧力解除と、
肢の血流を許容するよう前記カフを緩んだ状態で肢周囲に保持し、かつ少なくとも一分間以上継続する再潅流期間とを含む、システム。
・・・中略・・・
【請求項18】 治療周期は、治療プロトコル中に5回繰り返されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。」
(【請求項1】?【請求項18】)

摘記(1b)
「【0001】
本発明は、リモートプレコンディショニングを行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性疾患は、先進工業国における死亡率の主要原因である。組織の損傷は、虚血(組織への血流の停止)とそれに伴う再潅流(組織への血液の再流入)に起因することが確証されている。虚血および再潅流は微小循環を乱し、組織の損傷や臓器の機能不全につながる。腎臓、心臓、肝臓、膵臓、肺、脳、および腸などの臓器は、虚血や再潅流のあと損傷を受けることで知られている。
【0003】
虚血プレコンディショニング(IPC)では、被験者の体の一部を短期間、虚血発現の状態にするが、これによって、これに続く虚血発現では組織が傷に対して耐性を示すことが分かっている。このような虚血プレコンディショニングの現象は、Murry等によって最初に説明され、ほとんどの哺乳類組織で立証されている。現在IPCは、虚血再潅流(I-R)傷害に対する最も効き目のある先天的保護機構の一つとして認識されている。実験モデルによって確固とした保護効力を立証できるにも関わらず、その有効性についての臨床報告は比較的少ない。これは、治療介入前に標的臓器を一時的に虚血にするのが困難であることに、少なくとも部分的には関係している。また、IPCを誘発する方法自体が、組織の機能不全を招く可能性もある。」
(【0001】?【0003】)

摘記(1c)
「【0004】
リモートプレコンディショニング(rIPC)は、被験者の保護されるべき組織のうち、少なくともいくつかの組織から離れた位置に、一時的な虚血を意図的に誘発することをいう。rIPCは多くの場合、被験者の肢から離れた位置にある臓器を守るために、肢を一時的に虚血にする。リモートプレコンディショニング(rIPC)は、1993年にプルジクレンク(Przyklenk)等によって最初に説明された。プルジクレンク等は、冠動脈回旋枝領域における一時的な虚血によって、離れた位置にある心筋が傷に対して耐性を示すようになり、左前方冠動脈領域の虚血が長引くことを明らかにした。心筋の保護については、腎虚血、肝臓虚血、腸間膜動脈の虚血、および骨格筋後肢の虚血など、さまざまな遠隔的刺激によって立証されている。
【0005】
リモートプレコンディショニングは、一般に被験者の血圧を計測するのに用いられる機器である血圧計(sphygnamometer)を用いて行われてきた。血圧計のカフを、被験者の腕に巻き、腕の血流を閉塞させるのに十分な圧力(すなわち、被験者の収縮期血圧より高い圧力)になるまで膨張させる。医師が定めた期間(本明細書においては、虚血期間という)肢の血流を止めるように、血圧計を膨張状態で維持する。虚血期間後カフから圧力を解放し、一定の期間(本明細書においては、再潅流期間という)、肢の血液を再潅流させる。その後、血圧計を再び膨張させ、この工程を医師が定める回数速やかに繰り返す。」(【0004】?【0005】)

摘記(1d)
「【0012】
本発明の一態様によると、リモートプレコンディショニングを行うシステムが開示される。システムは、被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフを備える。カフにはアクチュエータが接続されている。アクチュエータは、作動時に被験者の肢周囲でカフを収縮させて、肢の血流を減少させる。アクチュエータの制御は、複数の治療周期を含む治療プロトコルにしたがって、コントローラが行う。各治療周期は、カフ作動と虚血期間を含む。カフ作動の間、肢の血流を閉塞するよう、収縮期圧よりも高い圧力になるまで、アクチュエータは被験者肢周囲のカフを収縮させる。虚血期間の間、足の血流を閉塞するよう、作動アクチュエータは肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持する。虚血期間は、少なくとも5秒間継続する。各治療周期は、アクチュエータによってカフを解除し、肢に血流を流す圧力解除と、肢周囲でカフを緩んだ状態に維持し、足の血流を流す再潅流期間とを含む。再潅流期間は、少なくとも1分間継続する。」(【0012】)

摘記(1e)
「【図1】被験者の肢周囲で収縮するように構成された空気圧膨張式のカフを含む、リモートプレコンディショニングシステムの一実施形態を示す概略図。
【0017】
図1に例示するシステム全体は、カフ10と、アクチュエータ12と、コントローラ14と、ユーザインターフェース16とを備える。カフは、被験者の肢15に、たとえば被験者の腕または脚に巻かれるように構成されている。アクチュエータは、肢の血流を閉塞するよう作動時に肢周囲でカフを収縮させる。コントローラは、治療周期を一回または複数回繰り返す治療プロトコルを実行する。治療周期そのものは、カフを作動させて血流を抑制する工程と、虚血期間にカフを作動状態に維持する工程と、カフを解除する工程と、カフを緩んだ状態に維持して再潅流を行う工程とを含む。

」(【0014】の【図1】の簡単な説明、【0017】および【図1】)

摘記(1f)
「【図2】rIPCシステムの操作スキームの一実施形態を示すブロック図。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態による、rIPCを行うのに用いられる操作スキームを示すブロック図である。このスキームでは、最初にカフを被験者の肢に巻く。そしてシステムが作動し、コントローラを介して治療プロトコルを開始する。一実施形態において、システムの起動は医療専門家が行う。他の実施形態において、システムの起動は、被験者自身が行ってもよい。カフが収縮することにより、被験者の肢に収縮期圧よりも高い初期圧力が与えられる。本明細書において、初期圧力はシステムのデフォルト値であってもよい。あるいは、初期圧力は特定の治療プロトコルにプログラムされてもよい。カフが収縮し、その結果被験者にコロトコフ(Korotkoff)音または振動の発現が見られるかをモニタリングすることにより、被験者の収縮期圧が識別される。収縮期圧が識別されると、システムは治療プロトコルの最初の治療周期を開始する。いくつかの実施形態において、収縮期圧を治療プロトコルの最初の部分として識別してもよい。

」(【0014】の【図2】の簡単な説明、【0018】および【図2】)

摘記(1g)
「【0019】
カフが収縮し、被験者の収縮期圧よりも治療プロトコルに定義された分だけ高い目標圧力が被験者の肢に与えられると、治療周期が開始する。これにより、被験者の肢の血流が閉塞される。被験者の肢に対する外圧は、治療プロトコルに定義された虚血期間維持される。システムは、圧力解放基準について(たとえば、システムの電源異常、システムの出力スパイク、迅速解除機構の手動による起動)、被験者を虚血期間モニタする。システムは、被験者の肢の再潅流の兆候についても、被験者を虚血期間モニタする。そして再潅流を防ぐために、カフによって与える外圧を増加する。再潅流の兆候としては、コロトコフ音または振動の発現などがある。虚血期間の経過後、カフは被験者の肢周囲の圧力を解放し、再潅流を可能にする。再潅流は、治療周期に定義される再潅流期間行ってよい。」(【0019】)

摘記(1h)
「【0035】
上記のように、システムはコントローラを介してシステムの操作を指示する治療プロトコルを含む。治療プロトコルの実施形態には、カフ作動と、虚血期間と、カフ解除と、再潅流期間とを含む治療周期が含まれる。治療プロトコルの多くの実施形態において、治療周期は複数回繰り返されてもよい。また、治療プロトコルのいくつかの実施形態は、収縮期圧の識別を含む。
【0036】
治療周期のカフ作動部分は、肢の血流を閉塞させるよう被験者の肢周囲のカフを収縮する工程を含む。カフの収縮は、コントローラによって治療プロトコルから指示(たとえば、カフの目標圧力となる設定値)を読み取り、カフが目標の設定値に至るようコントローラを初期化することによって行われる。目標の設定値に達したかどうかは、本明細書で説明したセンサや技術を用いて感知してもよい。
【0037】
治療周期の虚血期のあいだ、被験者の肢の血流が再潅流しないように、肢周囲で圧力が維持される。虚血期の長さ(虚血期間という)は、一般に医師もしくは他の医療専門家によって定められ、治療プロトコルにプログラムされる。虚血期間は数秒間、または20分ほど、またはそれよりも長い時間であってもよいが、本発明の態様はこれらに限られない。いくつかの実施形態において、虚血期間は同じ治療プロトコルにおいて治療周期ごとに異なるが、他の実施形態においては一定である。
【0038】
コントローラは、カフが与える圧力を、被験者の収縮期圧よりも高い設定値に維持するように動作する。カフの実施形態において、被験者の肢から徐々にカフを緩ませて圧力を下げ、結果的に再潅流を可能にしてもよい。これは被験者の肢の筋肉の弛緩、肢周囲のカフの伸張、(意図的なもしくは意図的でない)空気漏れなどさまざまな要因によって生じる。この目的のために、センサは圧力読み取りをフィードバックとしてコントローラへ与えてもよい。コントローラは、設定値と読み取った実際の圧力値との差を測定してもよく、また、エラーを補償するために、アクチュエータに必要な命令を送ってもよい。
【0039】
さまざまな方法を用いて、虚血期間におけるコントローラの設定値を適切に定義し得る。一実施形態によると、設定値は医師(もしくは他の医療専門家)によって、手動で治療プロトコルに入力される。あるいは、設定値は、被験者の収縮期圧を鑑みて医師が選択してもよい。・・・後略・・・。」
(【0035】?【0039】)

摘記(1i)
「【0044】
治療周期の実施形態において、再潅流期間はカフ解除の次である。肢の再潅流は一定の期間行ってもよい(再潅流期間という)。虚血期間と同様に、再潅流の長さは、5秒間、1分間以上、20分間、またはそれよりも長い時間などさまざまである。再潅流期間は、治療プロトコルが共通の場合、各治療周期で一定であってもよい。本発明の態様はこれに限られず、再潅流期間は各治療周期で異なってもよい。
【0045】
治療プロトコルの治療周期は、何回であってもよい。本明細書で記載するように、治療プロトコルを完了するまで、共通の治療周期を2回、3回、4回、またはそれ以上単に複数回繰り返してもよい。あるいは、治療プロトコルの治療周期は、異なるパラメータでプログラムされてもよい。異なるパラメータとは、たとえば異なる虚血期間、再潅流期間、虚血期間における圧力の設定値などである。」(【0044】?【0045】)

イ 引用文献1に記載された発明(引用発明)

引用文献1に記載されたリモートプレコンディショニングを行うシステム(摘記(1a))の背景技術について、引用文献1には、虚血プレコンディショニング(IPC)では、被験者の体の一部を短期間、虚血発現の状態にすることによって、これに続く虚血発現では組織が傷に対して耐性を示すこと(摘記(1b))、リモートプレコンディショニング(rIPC)は、被験者の保護されるべき組織のうち、少なくともいくつかの組織から離れた位置に、一時的な虚血を意図的に誘発することを意味しており、多くの場合、被験者の肢から離れた位置にある臓器を守るために、肢を一時的に虚血にすること、そして、リモートプレコンディショニングでは、血圧計(sphygnamometer)のカフを、被験者の腕に巻き、腕の血流を閉塞させるのに十分な圧力(すなわち、被験者の収縮期血圧より高い圧力)になるまで膨張させ、医師が定めた期間(虚血期間)肢の血流を止めるように、血圧計を膨張状態で維持し、虚血期間後カフから圧力を解放し、一定の期間(再潅流期間)、肢の血液を再潅流させ、その後、血圧計を再び膨張させ、この工程を医師が定める回数速やかに繰り返すこと(摘記(1c))が記載されている。
これらの記載によると、一般的に、リモートプレコンディショニング(rIPC)を行うシステムは、被験者の保護されるべき組織のうち、少なくともいくつかの組織から離れた位置に、医師が定めた期間(虚血期間)、一時的な虚血を意図的に誘発した後、一定期間(再潅流期間)、肢の血液を再潅流させるという工程を、医師が定める回数速やかに繰り返すことにより、保護されるべき組織が傷に対して耐性を示すように被験者を治療するためのシステムであるといえる。
そして、引用文献1の特許請求の範囲に記載されているリモートプレコンディショニングを行うシステム(摘記(1a))は、【図1】で表されるようなカフ、アクチュエータおよびコントローラを含むデバイス(摘記(1d)および(1e))を含むシステムであり、当該デバイスの操作スキームは、【図2】で表されるように、被験者の肢周囲にカフを配置した後、肢に目標圧力を与えるカフ作動、カフを目標圧力に維持する虚血期間、カフの圧力を放出するカフ解除、再潅流を可能にする再潅流期間を含む治療周期を繰り返す、というリモートプレコンディショニングを行う操作スキームである(摘記(1f)?(1i))。
これらの記載から、引用文献1には、上記デバイスがリモートプレコンディショニングを行うためのデバイスであり、そして、上記デバイスにより被験者でリモートプレコンディショニングを行うことを含む、被験者の治療に使用するためのシステムが記載されているといえる。
そうすると、引用文献1には、
「被験者の治療に使用するためのシステムであって、
リモートプレコンディショニングを行うためのデバイスを含み、
前記治療は、前記デバイスにより前記被験者でリモートプレコンディショニングを行うことを含み、
前記リモートプレコンディショニングを行うためのデバイスは、
前記被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフと、
前記カフに接続され、作動時には前記カフを前記被験者の肢周囲で収縮させて肢の血流を減少させるアクチュエータと、
複数の治療周期を含む治療プロトコルに従って前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、各治療周期が、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう前記被験者の肢周囲の前記カフを収縮期圧より高い圧力になるまで収縮させる、カフ作動と、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持し、かつ少なくとも5秒間継続する虚血期間と、
前記アクチュエータが、肢の血流を許容するよう前記カフを緩める圧力解除と、
肢の血流を許容するよう前記カフを緩んだ状態で肢周囲に保持し、かつ少なくとも一分間以上継続する再潅流期間とを含む、システム。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3)本件補正発明と引用発明との対比および判断

ア 本件補正発明における「遠隔虚血コンディショニング(RIC)」は、「虚血イベントまたは虚血期の誘導(典型的には、動脈血流の閉塞による)と、それに続く再潅流イベントまたは再潅流期の誘導(典型的には、血液の再潅流が許容される場合)とを意図的に誘導する非侵襲的プロセスを意味し、この非侵襲的プロセスは、典型的には上肢もしくは下肢で、またはプロセス自体が奏功することが意図された臓器もしくは組織から離れた身体の領域で行われる」ものである(本願明細書の【0035】)。
そして、引用発明における「リモートプレコンディショニング」は、「被験者の保護されるべき組織のうち、少なくともいくつかの組織から離れた位置に、一時的な虚血を意図的に誘発」し(摘記(1c)、さらに【図2】で表されるように、虚血期間の後のカフ解除により、再潅流を可能にする再潅流期間を誘導するものであるから(摘記(1f)?(1i))、引用発明における「リモートプレコンディショニング」は本件補正発明における「遠隔虚血コンディショニング(RIC)」に相当する。
また、引用発明における「被験者」は、本件補正発明における「対象」に相当する。

イ 本件補正発明における「遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイス」について、本願明細書には以下の記載がある。
「【0035】
遠隔虚血コンディショニング(RIC)
遠隔虚血コンディショニング(RIC)とは、本明細書で用いられる場合、虚血イベントまたは虚血期の誘導(典型的には、動脈血流の閉塞による)と、それに続く再潅流イベントまたは再潅流期の誘導(典型的には、血液の再潅流が許容される場合)とを意図的に誘導する非侵襲的プロセスを意味し、この非侵襲的プロセスは、典型的には上肢もしくは下肢で、またはプロセス自体が奏功することが意図された臓器もしくは組織から離れた身体の領域で行われる。
・・・
【0040】
また、RICを行うためのデバイスは、当技術分野で公知であり、米国特許第7717855号明細書および米国特許出願公開第2012/0265240A1号明細書(いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載のものを含む。簡潔に述べると、このシステムは、対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、作動時に、対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含む。治療プロトコルは、典型的には、複数の治療サイクルを含み、そのそれぞれは、肢を通る血流を閉塞する圧力までアクチュエーターが対象の肢の周りでカフを収縮させるカフ作動期と、肢を通る血流を閉塞するためにアクチュエーターが肢の周りでカフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期と、肢を血流が流れることを可能にするためにカフが肢の周りで弛緩状態を維持する再潅流期と、を含みうる。」(【0035】?【0040】)
そして、引用発明の「リモートプレコンディショニングを行うためのデバイス」について、引用文献1には、以下の記載がある。
「【0004】
リモートプレコンディショニング(rIPC)は、被験者の保護されるべき組織のうち、少なくともいくつかの組織から離れた位置に、一時的な虚血を意図的に誘発することをいう。rIPCは多くの場合、被験者の肢から離れた位置にある臓器を守るために、肢を一時的に虚血にする。・・・中略・・・。
【0005】
リモートプレコンディショニング(rIPC)は、一般に被験者の血圧を計測するのに用いられる機器である血圧計(sphygnamometer)を用いて行われてきた。血圧計のカフを、被験者の腕に巻き、腕の血流を閉塞させるのに十分な圧力(すなわち、被験者の収縮期血圧より高い圧力)になるまで膨張させる。医師が定めた期間(本明細書においては、虚血期間という)肢の血流を止めるように、血圧計を膨張状態で維持する。虚血期間後カフから圧力を解放し、一定の期間(本明細書においては、再潅流期間という)、肢の血液を再潅流させる。その後、血圧計を再び膨張させ、この工程を医師が定める回数速やかに繰り返す。」(摘記(1c)の【0004】?【0005】)
「【0012】
本発明の一態様によると、リモートプレコンディショニングを行うシステムが開示される。システムは、被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフを備える。カフにはアクチュエータが接続されている。アクチュエータは、作動時に被験者の肢周囲でカフを収縮させて、肢の血流を減少させる。アクチュエータの制御は、複数の治療周期を含む治療プロトコルにしたがって、コントローラが行う。各治療周期は、カフ作動と虚血期間を含む。カフ作動の間、肢の血流を閉塞するよう、収縮期圧よりも高い圧力になるまで、アクチュエータは被験者肢周囲のカフを収縮させる。虚血期間の間、足の血流を閉塞するよう、作動アクチュエータは肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持する。虚血期間は、少なくとも5秒間継続する。各治療周期は、アクチュエータによってカフを解除し、肢に血流を流す圧力解除と、肢周囲でカフを緩んだ状態に維持し、足の血流を流す再潅流期間とを含む。再潅流期間は、少なくとも1分間継続する。」(摘記(1d))

ウ 上記イで指摘した本願明細書および引用文献1の記載、および摘記(1f)?(1i)を参酌すると、引用発明における「前記被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフ」、「前記カフに接続され、作動時には前記カフを前記被験者の肢周囲で収縮させて肢の血流を減少させるアクチュエータ」、および「複数の治療周期を含む治療プロトコルに従って前記アクチュエータを制御するコントローラ」は、それぞれ、本件補正発明における「前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフ」、「作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーター」、および「RIC療法に従ってアクチュエーターを制御するコントローラー」に相当する。
そして、引用発明における「前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう前記被験者の肢周囲の前記カフを収縮期圧より高い圧力になるまで収縮させる、カフ作動」、「前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持し、かつ少なくとも5秒間継続する虚血期間」、「前記アクチュエータが、肢の血流を許容するよう前記カフを緩める圧力解除」、および「肢の血流を許容するよう前記カフを緩んだ状態で肢周囲に保持し、かつ少なくとも一分間以上継続する再潅流期間」は、それぞれ、本件補正発明における「前記肢を通る血流を閉塞する圧力まで前記アクチュエーターが前記対象の前記肢の周りで前記カフを収縮させるカフ作動期」、「前記肢を通る血流を閉塞するために前記アクチュエーターが前記肢の周りで前記カフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期」、「前記肢を血液が流れることを可能にするためにアクチュエーターがカフを解除するカフ解除期」、および「前記肢を血液が流れることを可能にするために前記カフが前記肢の周りで弛緩状態を維持する再灌流期」に相当する。
また、引用文献1には、引用発明におけるデバイスの操作スキームを示す【図2】(摘記(1f))において「治療周期を繰り返す」と記載されているので、引用発明における治療は、本件補正発明の「複数の治療サイクル」を含む「RIC療法」に相当する。

エ 上記ア?ウから、本件補正発明と引用発明とは、
「対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
RIC療法に従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含み、
前記RIC療法は、複数の治療サイクルを含み、各治療サイクルは、
前記肢を通る血流を閉塞する圧力まで前記アクチュエーターが前記対象の前記肢の周りで前記カフを収縮させるカフ作動期と、
前記肢を通る血流を閉塞するために前記アクチュエーターが前記肢の周りで前記カフを設定圧力点で収縮状態に維持する虚血持続期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするためにアクチュエーターがカフを解除するカフ解除期と、
前記肢を血液が流れることを可能にするために前記カフが前記肢の周りで弛緩状態を維持する再灌流期と、を含む、システム。」の発明である点で一致し、以下の点で、一応相違する。

(相違点1)本件補正発明では、「対象」が「オートファジの亢進が奏効する病態を有する対象」であり「前記対象として、虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外」することが特定されているのに対し、引用発明では、「対象」が上記のように特定されていない点。
(相違点2)本件補正発明では、「治療」が「前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを毎日行うことを含み、前記長期RICは、1日あたり少なくとも1回のRIC療法を含み」、「前記長期RICの実行が、前記対象においてオートファジレベルの亢進をもたらす」ことが特定されているのに対し、引用発明では、「治療」が上記のような長期RICを含むことが特定されていない点。

オ 上記相違点について検討する。
本件補正発明と引用発明は、いずれも、上記(エ)で説示した、カフ作動期および再灌流期を得るための「カフ」、虚血持続期およびカフ解除期を得るための「アクチュエーター」、およびアクチュエーターを制御するための「コントローラー」とを含む「遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイス」を含む「対象の治療に使用するためのシステム」の発明である。
本件補正発明における「対象」を特定する事項(上記(相違点1))および「治療」を特定する事項(上記(相違点2))は、いずれも本件補正発明のシステムを使用する方法を特定する事項であり、本件補正発明のシステムが有する形状や構造等(以下、「構造等」という。)を特定する事項ではない。
本願明細書には「また、RICを行うためのデバイスは、当技術分野で公知であり」(【0040】)と記載されており、本願明細書および図面には、本件補正発明のシステムが含む「デバイス」が、上記特定の「対象」および「治療」に適用するために、引用発明のデバイスとは異なる構造等、すなわち上記特定の「対象」および「治療」に「特に適した構造等」を有するデバイスであることは、記載されていない。
そして、引用文献1における「虚血性疾患は、・・・虚血および再潅流は微小循環を乱し、組織の損傷や臓器の機能不全につながる。腎臓、心臓、肝臓、膵臓、肺、脳、および腸などの臓器は、虚血や再潅流のあと損傷を受けることで知られている。」(摘記(1b)の【0002】)という記載から、引用発明における被験者(対象)は、本件補正発明において除外された対象である「虚血/再潅流傷害を経験する対象」を含むといえるが、引用文献1には、引用発明における被験者(対象)は当該「虚血/再潅流傷害を経験する対象」のみに制限されるという趣旨の記載はないのであるから、引用発明のシステムは、本件補正発明における対象に使用可能なシステムであるといえる。
また、本件補正発明の「長期RIC」は「1日あたり少なくとも1回のRIC療法」を含むものであり、本願明細書には「長期RICとは、1日を超える期間にわたりRICレジメン(それ自体は、1、2、3、4,5サイクル、またはそれを超えるサイクルの虚血および再潅流を含みうる)を2回以上行うことを意味する。」(【0041】)と記載されているところ、引用文献1には、引用発明のリモートプレコンディショニングについて「治療プロトコルの治療周期は何回であってもよい。本明細書で記載するように、治療プロトコルを完了するまで、共通の治療周期を2回、3回、4回、またはそれ以上単に複数回繰り返してもよい。」(摘記(1i))と記載されており、当該リモートプレコンディショニングを行う頻度は1日あたり1回未満に制限されるという趣旨の記載はなく、当該リモートプレコンディショニングを行う日数は1日以内すなわち長期とはいえない日数に制限されるという趣旨の記載もないのであるから、引用発明のシステムは「1日あたり少なくとも1回のRIC療法」を含む「長期RIC」に使用可能なシステムであるといえる。
そうすると、「対象」および「治療」が上記(相違点1)および(相違点2)のように特定された本件補正発明のシステムが有する構造等が、「対象」および「治療」が上記(相違点1)および(相違点2)のように特定されていない引用発明のシステムが有する構造等とは異なっていることが、自明であるとはいえない。
以上のように、上記(相違点1)および(相違点2)は、いずれも、本件補正発明のシステムにおいて、上記特定の「対象」および「治療」に「特に適した構造等」を特定する事項ではないので、システムという「物」自体としては実質的な相違点であるとはいえない。
よって、本件補正発明と引用発明との間には「物」の発明としては実質的な差異はない。

カ 以上ア?オのとおり、本件補正発明と引用発明との間には「物」の発明としては実質的な差異はないので、本件補正発明は引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成31年1月4日にされた手続補正は、上記「第2」で説示したように却下されたので、本願の特許請求の範囲に係る発明は、平成30年7月9日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
オートファジの亢進が奏功する病態を有するまたはその発生のリスクを有する対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、
前記治療は、前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを行うことを含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含み、
前記対象として、虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外する、システム。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概要は、平成29年12月25日付け拒絶理由通知書に記載のように、本願発明は、引用文献1(特表2010-512176号公報)に記載された発明であるので新規性を有しないという理由1(特許法第29条第1項第3号)、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分にされていないという理由3(特許法第36条第4項第1号)、および、本願発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでないという理由4(特許法第36条第6項第1号)である。

3 引用文献1に記載されている事項、および引用発明(引用文献1に記載された発明)

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特表2010-512176号公報)に記載された事項は、上記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。
そして、引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、上記第2の[理由]2(2)イで説示した、以下のとおりのものである。
「被験者の治療に使用するためのシステムであって、
リモートプレコンディショニングを行うためのデバイスを含み、
前記治療は、前記デバイスにより前記被験者でリモートプレコンディショニングシステムを行うことを含み、
前記リモートプレコンディショニングを行うためのデバイスは、
前記被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフと、
前記カフに接続され、作動時には前記カフを前記被験者の肢周囲で収縮させて肢の血流を減少させるアクチュエータと、
複数の治療周期を含む治療プロトコルに従って前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、各治療周期が、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう前記対象の肢周囲の前記カフを収縮期圧より高い圧力になるまで収縮させる、カフ作動と、
前記アクチュエータが、肢の血流を閉塞するよう肢周囲のカフを収縮期圧よりも高い設定値に維持し、かつ少なくとも5秒間継続する虚血期間と、
前記アクチュエータが、肢の血流を許容するよう前記カフを緩める圧力解除と、
肢の血流を許容するよう前記カフを緩んだ状態で肢周囲に保持し、かつ少なくとも一分間以上継続する再潅流期間とを含む、システム。」

4 本願発明と引用発明との対比・判断

上記第2の[理由]2(2)ウ(ア)と同様に、引用発明における「リモートプレコンディショニング」および「被験者」は、本願発明における「遠隔虚血コンディショニング(RIC)」および「対象」に相当する。
上記第2の[理由]2(2)ウ(イ)および(ウ)と同様に、引用発明の「前記被験者の肢周囲で収縮するように構成されたカフ」、「前記カフに接続され、作動時には前記カフを前記被験者の肢周囲で収縮させて肢の血流を減少させるアクチュエータ」、および「複数の治療周期を含む治療プロトコルに従って前記アクチュエータを制御するコントローラ」は、それぞれ、本願発明における「前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフ」、「作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーター」、および「治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラー」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「対象の治療に使用するためのシステムであって、
遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイスを含み、
前記RICを行うためのデバイスは、
前記対象の肢の周りで収縮するように構成されたカフと、
作動時に、前記対象の肢の周りでカフを収縮させてそこを通る血流を低減する、カフに結合されたアクチュエーターと、
治療プロトコルに従ってアクチュエーターを制御するコントローラーと、を含む、システム。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)本願発明では、「対象」が「オートファジの亢進が奏功する病態を有するまたはその発生のリスクを有する対象」であり、前記対象として「虚血/再潅流傷害を経験する対象を除外する」ことが特定されているのに対し、引用発明では、「対象」が上記のように特定されていない点。
(相違点2)本願発明では、「治療」が「前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを行うことを含」むことが特定されているのに対し、引用発明では、「治療」が上記のように特定されていない点。

上記相違点について検討する。
本願発明と引用発明は、いずれも、上記「カフ」、「アクチュエーター」、および「コントローラー」とを有する「遠隔虚血コンディショニング(RIC)を行うためのデバイス」を含む「対象の治療に使用するためのシステム」の発明である。
そして、本願発明における「対象」を特定する事項(上記(相違点1))および「治療」を特定する事項(上記(相違点2))は、いずれも本願発明のシステムを使用する方法を特定する事項であり、本願発明のシステムが有する形状や構造等(以下、「構造等」という。)を特定する事項ではない。
本願明細書には「また、RICを行うためのデバイスは、当技術分野で公知であり」(【0040】)と記載されており、本願明細書および図面には、本願発明のシステムが含む「デバイス」が、上記特定の「対象」および「治療」に適用するために、引用発明のデバイスとは異なる構造等、すなわち上記特定の「対象」および「治療」に「特に適した構造等」を有するデバイスであることは、記載されていない。
そして、引用文献1における「虚血性疾患は、・・・虚血および再潅流は微小循環を乱し、組織の損傷や臓器の機能不全につながる。腎臓、心臓、肝臓、膵臓、肺、脳、および腸などの臓器は、虚血や再潅流のあと損傷を受けることで知られている。」(摘記(1b)の【0002】)という記載から、引用発明における被験者(対象)は、本願発明において除外された対象である「虚血/再潅流傷害を経験する対象」を含むといえるが、引用文献1には、引用発明における被験者(対象)は当該「虚血/再潅流傷害を経験する対象」のみに制限されるという趣旨の記載はないのであるから、引用発明のシステムは、本願発明における対象に使用可能なシステムであるといえる。
また、本願発明における「長期RIC」について、本願明細書には「長期RICとは、1日を超える期間にわたりRICレジメン(それ自体は、1、2、3、4,5サイクル、またはそれを超えるサイクルの虚血および再潅流を含みうる)を2回以上行うことを意味する。」(【0041】)と記載されているところ、引用文献1には、引用発明のリモートプレコンディショニングについて「治療プロトコルの治療周期は何回であってもよい。本明細書で記載するように、治療プロトコルを完了するまで、共通の治療周期を2回、3回、4回、またはそれ以上単に複数回繰り返してもよい。」(摘記(1i))と記載されており、リモートプレコンディショニングを行う日数は1日以内すなわち長期とはいえない日数に制限されるという趣旨の記載はないのであるから、引用発明のシステムは「長期RIC」に使用可能なシステムであるといえる。
そうすると、「対象」および「治療」が上記(相違点1)および(相違点2)のように特定された本願発明のシステムが有する構造等が、「対象」および「治療」が上記(相違点1)および(相違点2)のように特定されていない引用発明のシステムが有する構造等とは異なっていることが、自明であるとはいえない。
以上のように、上記(相違点1)および(相違点2)は、いずれも、本件補正発明のシステムにおいて、上記特定の「対象」および「治療」に「特に適した構造等」を特定する事項ではないので、実質的な相違点であるとはいえない。
よって、本願発明と引用発明との間には「物」の発明としては実質的な差異はない。

5 以上1?4のとおり、本願発明と引用発明との間には「物」の発明としては実質的な差異はないので、本願発明は引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第4 請求人の主張について

請求人は、平成31年1月30日受付の手続補正書(方式)により補正された審判請求書の「請求の理由 3.本願発明が特許されるべき理由」の「(本願発明が新規性を有する理由)」において、以下の主張をしている。
「つまり、本願発明は、RICを行うシステムの新たな用途に着眼してなされたものである。したがって、本願発明は、システムの「用途発明」、すなわち、「(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」として、その用途に基づき新規性および進歩性の判断がなされるべきであると思料する。なお、特許・実用新案審査基準、第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「(2)機械、器具、物品、装置等」では、「通常、3.1.2の用途発明の考え方が適用されることはない。通常、その物と用途とが一体であるためである。」と記載されている。しかしながら、本願発明の場合、医療に関連する発明であることも考慮すると、「その物と用途が一体である」と画一的に認定すべきではないと思料する。なぜなら、医療に関係しない発明であれば、装置の新規な用途を見出した発明者は、その発明を「方法」の発明として権利化を図る選択も可能であるところ、本願発明では、「方法」に係る発明とすれば、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」と判断されるために権利化が困難であるからである。上記審査基準では、「通常」と記載されているように、全ての発明において「その物と用途が一体である」と画一的に認定することを要するものではない。本願発明では、「カフとアクチュエーターとコントローラーとを含み、遠隔虚血コンディショニングを行うシステム」の用途が、引用例1の用途と明らかに異なっている。本願発明では、発明の特質に鑑みて、たとえば、医薬組成物と同様の考え方により、システムの「用途発明」が認められるべきであると思料する。」
そこで、上記主張について検討する。
上記「第2 [理由] 3 (3) オ]および上記「第3 4」で説示したように、本件補正発明(または本願発明)と引用発明との間には「物」の発明としては実質的な差異はないが、念のため、本件補正発明(または本願発明)が用途発明であると解される余地があるか否かについて検討する。
用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう(特許・実用新案審査基準、第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「3.1.2 用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」を参照)。
請求人の上記主張では、本件補正発明(または本願発明)のシステムが有する「未知の属性」の具体的内容は示されていないが、仮に、本件補正発明における「前記RICを行うためのデバイスにより前記対象で長期RICを毎日行う」という記載から、本件補正発明のシステムが「対象で長期RICを毎日行う」という属性を有するとしても、上記「第2 [理由] 3 (3) オ]で説示したように、引用発明のシステムは「1日あたり少なくとも1回のRIC療法」を含む「長期RIC」に使用可能なシステムであるから、上記「対象で長期RICを毎日行う」という属性は、引用文献1に記載されている公知の属性にすぎず、「未知の属性」であるとはいえない。
そして、本件補正発明における「オートファジの亢進が奏功する病態を有する対象の治療に使用するための」という事項は、本件補正発明のシステムにより長期RICを毎日行う目的を記載したものにすぎず、当該事項は、本件補正発明のシステムが有する「未知の属性」を特定するものではない。
また、本件補正発明における「前記長期RICの実行が、前記対象においてオートファジレベルの亢進をもたらす」という事項は、対象で長期RICを行った結果、当該「対象」すなわち「ヒトを含む各種の動物」(本願明細書の【0032】を参照。)において生じた、オートファジレベルの亢進という現象を示したものにすぎず、本件補正発明のシステム自体において生じた現象を示したものではないので、当該事項は、本件補正発明のシステムが有する「未知の属性」を特定するものではない。
このように、本件補正発明のシステムが「未知の属性」を有するものであるとはいえず、同様の理由により、本願発明のシステムが「未知の属性」を有するものであるともいえないので、本件補正発明および本願発明は、いずれも用途発明であると解される余地はない。
よって、請求人の上記主張は認められない。

第5 むすび

以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-28 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2015-562418(P2015-562418)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61L)
P 1 8・ 113- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 前田 佳与子
渕野 留香
発明の名称 遠隔虚血コンディショニングを用いてオートファジをモジュレートする方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 中村 美樹  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ