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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1367822
審判番号 不服2019-3252  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-07 
確定日 2020-11-02 
事件の表示 特願2015-544593「総合失調症の陰性症状を治療するためのトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日国際公開、WO2014/083522、平成28年 1月18日国内公表、特表2016-501215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月28日(パリ条約による優先権主張 2012年11月29日 (HU)ハンガリー)を国際出願日とする特許出願であって、主な手続の経緯は次のとおりである。

平成29年12月12日付け 拒絶理由通知書
平成30年 6月20日 手続補正書及び意見書の提出
平成30年11月 2日付け 拒絶査定
平成31年 3月 7日 手続補正書及び審判請求書の提出

第2 平成31年3月7日付け手続補正の却下の決定
[結論]
平成31年3月7日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正前後の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。

(1)本件補正前(平成30年6月20日付け手続補正書により補正されたもの)
「 【請求項1】
統合失調症の一次陰性症状の治療に使用するための、トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンおよび/またはその薬学的に許容される塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形体。
【請求項2】
トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン塩酸塩および/またはその水和物および/またはその溶媒和物および/またはその多形体の形態である、請求項1に記載された使用のためのトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン。
【請求項3】
統合失調症の陰性症状優位の治療に使用するための、トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンおよび/またはその薬学的に許容される塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形体。
【請求項4】
トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン塩酸塩および/またはその水和物および/またはその溶媒和物および/またはその多形体の形態である、請求項3に記載された使用のためのトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン。」

(2)本件補正後
「 【請求項1】
統合失調症の1つ以上の一次陰性症状を治療する方法であって、その方法はa)1つ以上の一次陰性症状を示すとして患者を同定することと、b)治療有効量のトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンまたはその薬学的に許容される塩を患者に投与する方法。
【請求項2】
前記トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンは、トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン塩酸の合成塩の形態である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
主に統合失調症の負の症状を治療する方法であって、この方法は
a)1つ以上の一次的な負の症状を示すとして患者を同定することと、
b)治療有効量のトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンまたはその薬学的に許容される塩を患者に投与することを含む方法。
【請求項4】
トトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンは、トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン塩酸塩の形態である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記患者が重度の一次陰性症状を示している請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、陰性症状についての陽性および陰性症候群スケール(PANSS)因子の24以上のスコアを有する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記識別された患者が重度の一次陰性症状を示し、陰性症状、陽性症状および認知症状についての前記患者のPANSS因子スコアが状態4または状態6として分類される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記識別された患者が、状態4として分類される重篤な一次的陰性症状を示す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記識別された患者が、状態6として分類される重篤な一次的陰性症状を示す、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が重度の一次陰性症状を示している請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、陰性症状についての陽性および陰性症候群スケール(PANSS)因子の24以上のスコアを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記識別された患者が重篤な一次的陰性症状を示し、陰性症状、陽性症状および認知症状についての前記患者のPANSS因子スコアが状態4または状態6として分類される請求項3に記載の方法
【請求項13】
前記識別された患者が、状態4として分類される重篤な一次的陰性症状を示す請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記識別された患者が、状態6として分類される重篤な一次的陰性症状を示す、請求項12に記載の方法。」

2 本件補正の適否の判断
(1)本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1ないし4に係る「物」の発明を、本件補正後の請求項1ないし14に係る「方法」の発明とする、発明のカテゴリーを変更する補正を含むものであるところ、発明のカテゴリーを変更する補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げる、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。

(2)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「本審判請求書と同時に提出する手続補正書により、請求項1を明瞭とする補正を致しました。」と主張する。
しかしながら、本件補正前の請求項1には明りょうでない記載はない。そして、請求人は、具体的に本件補正前の請求項1のどの記載をどのように「明瞭とする補正」をしたのかについて説明していないので、当該主張の意味が不明である。
したがって、本件補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえず、請求人の上記主張は採用できない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、上記第2の1(1)のとおりのものであるところ、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
統合失調症の一次陰性症状の治療に使用するための、トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンおよび/またはその薬学的に許容される塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形体。」

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1(特表2010-527984号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1には、次のとおりの記載がある(下線は、当合議体が付した。)。

ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
式(I):
【化1】 …(構造式省略)…
の(チオ)カルバモイルシクロヘキサン誘導体、および/またはその幾何異性体および/または立体異性体および/またはジアステレオマーおよび/または塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形の治療上の有効量を治療が必要な患者に投与することを特徴とする、統合失調症の治療方法。
【請求項2】
式(I)の化合物が、trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン、および/またはその塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形である、請求項1の方法。
【請求項3】
式(I)の化合物が、trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩、および/またはその水和物および/または溶媒和物および/または多形である、請求項1の方法。」

イ 技術分野
「【0001】
本発明は、統合失調症の治療剤の製造における、(チオ)カルバモイルシクロヘキサン誘導体、特にtrans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン、およびその医薬的に許容される塩の使用に関する。さらに、本発明は、(チオ)カルバモイルシクロヘキサン誘導体、特にtrans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン、およびその医薬的に許容される塩の投与を通した統合失調症の治療に関する。」

ウ 背景技術
「【0008】
…したがって、D_(2)拮抗作用にD_(3)拮抗作用を加えることによって、統合失調症の治療における既存の抗精神病薬を超えた明白な利点、すなわちEPSがないこと(no EPS)、認識促進の可能性、および陰性症状における増強効果が提供されうると考えられる。
【0009】
米国特許公報第2006/0229297号によって、(チオ)カルバモイルシクロヘキサン誘導体が開示されており、それは、式(I)…(構造式省略)…
を有する、D_(3)およびD_(2)ドパミン受容体サブタイプを好むリガンドである。
【0010】
ハンガリー特許出願第P0700339号によって、trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミンの塩が開示されている。その中で開示された一つの特定の化合物は、trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩であり、それはまた、trans-1{4-[2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル]-シクロヘキシル}-3,3-ジメチル尿素塩酸塩としても知られており、その構造式は以下に示される:
【化2】

【0011】
これらの(チオ)カルバモイルシクロヘキサン誘導体は、経口で有効で非常に強力なドパミンD_(3)/D_(2)受容体アンタゴニストであり、D_(2)受容体よりもD_(3)受容体に対して有意に高い力で結合する。D_(3)受容体拮抗作用は、D_(2)受容体の拮抗作用よりも約1桁大きく、D_(2)受容体アンタゴニストによって生じるいくつかの錐体外路の副作用を幾分妨げると考えられる。ドパミンD_(2)に対するドパミンD_(3)の相対的親和力の増大に加えて、例えばtrans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩は、5-HT_(2C)、ヒスタミンH_(1)、およびアドレナリン受容体部位のような他の受容体部位では効力(potency)が低く、そのことは、EPSおよび体重増加のような副作用の可能性が低いことを示唆している。
【0012】
したがって、従来の治療に付随する副作用の一部がない、統合失調症および統合失調症関連の認識作用の症状のための有効な治療の絶え間ないニーズが存在している。」

エ 発明の詳細な説明
「【0036】

一つの態様において、活性成分の投与によって、統合失調症の認知症状の治療において治療効果が得られる。別の態様において、活性成分の投与によって、統合失調症の陽性症状の治療において治療効果が得られる。さらなる態様において、活性成分の投与によって、統合失調症の陰性症状の治療において治療効果が得られる。」

「【0057】
臨床評価において、統合失調症は、一般に、「陽性症状」、例えば幻覚(特に、通常は声として経験される幻聴)、混乱した思考過程および妄想、並びに「陰性症状」(感情の平板化、アロギー、意欲消失、および快感消失を含む)の特徴を有する。
【0058】
用語「統合失調症の陰性症状」とは、機能、定方向性思考(directed thought)または活動における喪失を反映するものとみなされうる統合失調症の症状の種類をいう。統合失調症の陰性症状は当該技術分野でよく知られており、感情の平板化(例えば、静止したおよび/または無反応な表情、不十分なアイコンタクトおよびボディー・ランゲージの低下の特徴を有する)、アロギー(「会話の貧困」または短い、簡潔なおよび/または空の応答)、意欲消失(目標指向型活動を開始および実行する能力の低下または欠如の特徴を有する)、快感消失(興味または喜びの喪失)、非社会性(asocialty)(社会的意欲および相互作用の低下)、感情鈍麻、および当業者に知られている他の陰性症状が含まれる。統合失調症の陰性症状は、当該技術分野で知られているいずれの方法、例えば、これらに限らないが、簡易精神症状評価尺度(BPRS)、および陽性および陰性症状尺度(PANSS)を用いて評価されうる。BPRSおよびPANSSは、陰性症状を測定するのに用いられうる下位尺度または因子を有する。特に陰性症状を扱うために他の尺度が立案されている:例えば、陰性症状評価尺度(SANS)、陰性症状評価(NSA)および欠陥症候群についてのスケジュール(Schedule for the Deficit Syndrome)(SDS)。BPRSおよびPANSSの下位尺度はまた、陽性症状を評価するのに用いられてもよいが、特に陽性症状を評価する方法もまた利用可能である(例えば、陽性症状評価尺度、またはSAPS)。」

オ 実施例
「【0065】
実施例1
この臨床研究を、他施設、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、平行群、可変用量試験として行う。
(i)DSM-IVについての構造化面接法(SCID)に基づいて、統合失調症についてのDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM-IV-TR)の基準を現在満たしているかまたは過去に満たしていた患者(295.30 妄想型、295.10 解体型、295.20 緊張型、または295.90 非定型型)
(ii)Visit 1およびVisit 2での全PANSSスコアが≧70かつ≦120である患者、
(iii)Visit 1およびVisit 2でのPANSSの項目P1(妄想)またはP3(幻覚様行動)においてスコア≧4(中等度)である患者、並びに
(iv)Visit 1およびVisit 2でのPANSSの項目P2(概念の解体)またはP6(疑い深さ(suspiciousness)/虐待(persecution))においてスコア≧4(中等度)である患者
を含む基準を用いて、合計約375人の入院患者を選択する。
【0066】
この試験は10週間行う;6週間の二重盲検治療および4週間の安全性追跡。7日までの薬物なし洗浄期間(no-drug washout period)をランダム化の前に行う。スクリーニング段階の間、患者を入院させる。患者を最低21日間は入院させたままにし、続いてランダム化および二重盲検薬物療法を開始する。評価スケジュールを表1に示す。

【0068】
適格性基準を満たすすべての患者を、3つの治療群:
(I)プラセボ、
(II)1.5?4.5mg trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩、または
(III) 6?12mg trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩
のうちの一つにランダム化(1:1:1)する。
【0069】
1.5mg、3.0mg、または6.0mgのtrans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩またはプラセボを含有する同一に見えるカプセル剤を患者に与える。
【0070】
すべての試験薬を、1週間ごとに一つ、ブリスター包装に分配する。各カードは10段および3列に配列した30個のカプセル剤を含み、該週の7日(+さらに3日)のために十分である。ブリスター包装の配置は表2に与えられる。すべての試験薬を就寝前に毎日1回投与する。許容性の問題がある場合には、投与を朝に切り換えてもよい;しかし、いずれの切り換えも、2つの連続投与の間に少なくとも24時間を与えなければならない。

【0072】
血液試料を14、21、28、35、42、56、および70日目に採取する。
プラセボで処置した患者と比較した場合に、trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩を用いた上述の治療計画によって、統合失調症の治療における有意な有効性が示されることが予期される。」

(2)上記(1)の記載事項によれば、引用文献1には、D_(2)拮抗作用にD_(3)拮抗作用を加えることによって、統合失調症の治療における既存の抗精神病薬を超えた明白な利点(すなわちEPSがないこと(no EPS)、認識促進の可能性、及び陰性症状における増強効果)が提供されうると考えられるところ(【0008】)、ハンガリー特許出願第P0700339号において開示された「trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩」は、経口で有効で非常に強力なドパミンD_(3)/D_(2)受容体アンタゴニストであり(【0010】【0011】)、ドパミンD_(2)に対するドパミンD_(3)の相対的親和力の増大に加えて、5-HT_(2C)のような他の受容体部位では効力が低く、そのことは、EPS及び体重増加のような副作用の可能性が低いことを示唆していることから(【0011】)、実施例1において、「trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩」を用いた、統合失調症患者を対象とする治療計画が記載され、プラセボで処置した患者と比較した場合に、上記塩酸塩を用いた上述の治療計画によって、統合失調症の治療における有意な有効性が示されることが予期されることが記載されている(【0065】?【0072】)。
そうすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「統合失調症の治療における有意な有効性が示されることが予期されるtrans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩」

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「trans-4-{2-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-ピペラジン-1-イル]-エチル}-N,N-ジメチルカルバモイルシクロヘキシルアミン塩酸塩」は、本願発明の「トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンおよび/またはその薬学的に許容される塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形体」のうちの「トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン」「の薬学的に許容される塩」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「トランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミンおよび/またはその薬学的に許容される塩および/または水和物および/または溶媒和物および/または多形体(以下「化合物A」ということがある。)」
<相違点>
本願発明においては、化合物Aに「統合失調症の一次陰性症状の治療に使用するための」という用途限定が付されているのに対し、引用発明は「統合失調症の治療における有意な有効性が示されることが予期される」化合物であるが、上記のような用途限定は付されていない点

(2)判断
上記相違点の「統合失調症の一次陰性症状の治療に使用するための」という用途限定は、化合物Aの有用性を示しているにすぎず、本願発明は、当該用途限定のない化合物Aそのものであると解される(特許審査基準 第III部 第2章 第4節 3.1.1,3.1.2,3.1.3(1) 参照)。
したがって、用途限定の有無についての上記相違点は、実質的な相違点とはいえないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、新規性を有するとはいえないといわざるを得ない。

5 請求人の主張について
請求人は、平成30年6月20日受付の意見書において、本願発明は、有効な治療がなかった統合失調症の一次陰性症状を有する分集団の特有な必要性に対処するという、新しい用途を引用文献1に追加したものであるから、新規性を有する旨を主張する。
しかしながら、本願発明における「統合失調症の一次陰性症状の治療に使用するための」という用途限定は、化合物Aの有用性を示しているにすぎず、本願発明は、当該用途限定のない化合物Aそのものであると解され、用途発明であると解することはできないので、新規性を有するとはいえないことは、上記4(2)に説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-04 
結審通知日 2020-06-05 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2015-544593(P2015-544593)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒川 美陶伊藤 幸司  
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 渕野 留香
藤原 浩子
発明の名称 総合失調症の陰性症状を治療するためのトランス‐4‐{2‐[4‐(2,3‐ジクロロフェニル)‐ピペラジン‐1‐イル]‐エチル}‐N,N‐ジメチルカルバモイル‐シクロヘキシルアミン  
代理人 浜田 治雄  

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