ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N |
---|---|
管理番号 | 1367825 |
審判番号 | 不服2019-3950 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-26 |
確定日 | 2020-11-04 |
事件の表示 | 特願2016-528638「光療法を提供し、概日リズムを修正するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日国際公開、WO2015/011652、平成28年 8月25日国内公表、特表2016-525408〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)7月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)7月25日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成28年 1月26日 :手続補正書の提出 平成30年 4月 6日付け:拒絶理由通知書 平成30年 7月12日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年11月22日付け:拒絶査定 平成31年 3月26日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出 第2 平成31年3月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年3月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。) 「S-cone受容体を有する対象に光療法を提供するシステムであって、 電磁放射を放出するように構成される光源であり、放出される前記電磁放射は、第1の強度及び第2の強度を有する電磁放射を含み、前記第1の強度の前記放出される電磁放射は、衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅を有し、前記第2の強度は、前記第1の強度よりも小さい、光源と、 コンピュータプログラムモジュールを遂行するように構成される1つ又は複数のプロセッサであり、前記コンピュータプログラムモジュールは、 前記電磁放射が前記第1の強度と前記第2の強度との間でパルス化されるように、前記光源による放出を制御して前記対象に対する光療法を提供するように構成される光制御モジュールであり、前記電磁放射は、10分までのパルス幅、及び、0.1秒から10分までのパルス間隔を有する、光制御モジュールを含む、プロセッサと、 を含み、当該システムは、 前記対象の眼が閉じているかどうかを決定するように構成される眼瞼検出器をさらに含み、 前記光制御モジュールは、前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているという決定に基づき、前記光源による放出を制御して光療法を提供するように構成される、システム。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成30年7月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「S-cone受容体を有する対象に光療法を提供するシステムであって、 電磁放射を放出するように構成される光源であり、放出される前記電磁放射は、第1の強度及び第2の強度を有する電磁放射を含み、前記第1の強度の前記放出される電磁放射は、衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように選択された波長を有し、前記第2の強度は、前記第1の強度よりも小さい、光源と、 コンピュータプログラムモジュールを遂行するように構成される1つ又は複数のプロセッサであり、前記コンピュータプログラムモジュールは、 前記電磁放射が前記第1の強度と前記第2の強度との間でパルス化されるように、前記光源による放出を制御して前記対象に対する光療法を提供するように構成される光制御モジュールであり、前記電磁放射は、10分までのパルス幅、及び、0.1秒から10分までのパルス間隔を有する、光制御モジュールを含む、プロセッサと、 を含み、当該システムは、 前記対象の眼が閉じているかどうかを決定するように構成される眼瞼検出器をさらに含み、 前記光制御モジュールは、前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているという決定に基づき、前記光源による放出を制御して光療法を提供するように構成される、システム。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように選択された波長」について、「410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅」という限定を付加する補正を含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2013-526326号公報(平成25年6月24日出願公表。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審が付与したものである。以下同様。) a 「【0001】 本発明は、睡眠マスクを施術メカニズムとして用いて、被験者のまぶたを通して、被験者に光線治療を施すことに関する。」 b 「【0017】 光線治療計画の目標は、本質的に感光性のある網膜神経節細胞である。本質的に感光性のある網膜神経節細胞は、網膜中にある、視覚には直接的には関与しない神経細胞の一種である。代わりに、本質的に感光性のある網膜神経節細胞は、像形成はせず、環境光の強さを安定的に感知する(provide a stablerepresentation)。結果として、本質的に感光性のある網膜神経節細胞は、少なくとも3つの重要な領域で関与する:(1)昼間及び夜間の長さ、夜間から昼間及び昼間から夜間への移行情報を提供することにより、明暗のサイクルに概日リズムを同期させる役割を果たし、(2)瞳孔サイズの調節に寄与し、(3)ホルモンメラトニンの発散の光による調節及び光による急激な抑止に寄与する。便宜上、本開示では、「睡眠サイクル」との用語は、概日リズム、及び/又は被験者のメラトニンの生成、抑止、及び/又は発散を言う。 【0018】 図4は、本質的に感光性の網膜神経節細胞の波長に対する応答を示すグラフ30である。図4から分かるように、本質的に感光性の網膜神経節細胞の感度は、約450nmでピークに達し、約550nmで変曲点まで大幅に低下する。この感度プロファイルに基づき、従来の光線治療システムや光線治療計画は、被験者の目に450nmないし475nmの電磁放射を与えることにフォーカスしてきた。特に、電磁放射を被験者の目に直接与える光線治療システムや光線治療計画ではそうである。 【0019】 図5は、人間のまぶたの波長に対する透過率を示す(対数スケールの)グラフ32である。図5から分かるように、まぶたを通した透過率は波長に基づき大きく変化する。このように、目を見開いた状態での電磁放射で睡眠サイクルをシフトするために、本質的に感光性の網膜神経節細胞に作用するには、450nmの電磁放射が最も効率的な放射であるが、(例えば、図1ないし図3に示した睡眠マスク10により)まぶたを通して被験者の目に電磁放射を与える場合には、450nmにおける電磁放射の減衰により、この波長の効率が低下する。図5に示したように、約450-550nmレンジの概日調整光線の範囲の光は、光がまぶたを通るときに、波長が長い(例えば、波長が575nmより長い)光より10倍以上減衰する。 【0020】 図3を参照して、一実施形態では、被験者に提供する光線治療の効果を高めるため、被験者のまぶたによる減衰を考慮してシフトされた第1の波長帯域の電磁放射を放射する第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18とを設ける。例えば、第1の波長帯域は約475nmと約530nmの間にある。一実施形態では、第1の波長帯域は約490nmと約530nmの間にある。一実施形態では、第1の波長帯域は約500nmと約525nmの間にある。 【0021】 図6は発光モジュール40を示している。発光モジュール40は、(図1-3に示した)睡眠マスク10と類似の又は同一の睡眠マスクに設けられ、(図1-3に示した)第1の発光モジュール16と類似の又は同一の第1の発光モジュールとして、及び/又は第2の発光モジュール18と類似の又は同一の第2の発光モジュールとして機能する。発光モジュール40は、ハウジング42、第1の放射源のセット44、第2の放射源のセット46、及びその他のコンポーネントを含む。 【0022】 ハウジング42は、第1の放射源のセット44と第2の放射源のセット46とを収容して担う(house and/or carry)。ハウジング42は、被験者が用いる睡眠マスクに(恒久的に又は一時的に)取り付けられる。そのため、ハウジング42は、硬い素材で形成されていてもよいし、被験者が快適になるよう弾力性のある素材で形成されていてもよい。図6から分かるように、一実施形態では、ハウジング42は第1の放射源のセット44及び/又は第2の放射源のセット46を担う基盤48を取り付ける(seat)ように構成されている。ハウジング42は、さらに、第1の放射源のセット44及び/又は第2の放射源のセット46の外側に光拡散器を担うように構成される。これは、発光源44及び/又は46が放射した電磁放射を拡散する役に立ち、被験者のまぶたに実質的に一様な分布をした電磁放射を与える。これは、被験者が休んでいる及び/又は寝ている間の発光モジュール40の快適性及び/又は利便性を向上させる。 【0023】 第1の放射源のセット44は、第1の波長帯域で電磁放射をするように構成される。第1の放射源のセット44は、発光モジュール40が睡眠マスク中に取り付けられた場合、第1の放射源のセット44により第1の波長帯域で放射された電磁放射は、被験者のまぶたに向けられるように、発光モジュール40に配置される。電磁放射の一部はまぶたを通り、被験者の目に入る。そこで被験者の本質的に感光性の網膜神経節細胞に当たり、被験者の睡眠サイクルに治療的効果(therapeutic impact)を与える(例えば、睡眠サイクロをシフトしたり、睡眠時間を長くしたりする)。 【0024】 従来の光線治療計画は、電磁放射を被験者が目を開いた状態で変化させずに与えるものであり、時間の経過とともに有効性が低下する傾向がある。これは、本質的に感光性の網膜神経節細胞は、長い時間光にさらされると、電磁放射に対する感度が低下するからである。結果として、かかる電磁放射の、被験者の睡眠サイクルを変える効果は低下する。従来の目を開けた状態での光線治療におけるこの効果を補償するため、450nmの又はその近傍の電磁放射を、パルス状にして被験者の空けた目に与えてもよい。パルスの間隔は規則的でも不規則でもよく、パルスの長さは規則的でも不規則でもよい。 【0025】 第1の放射源のセット44により放射される治療的効果のある電磁放射への、本質的に感光性の網膜神経節細胞の鈍感化をさらに小さくするため、発光モジュール40の第2の放射源のセット46は、第1の波長帯域とは異なる第2の波長帯域の電磁放射を放射するように構成される。例えば、第2の波長帯域は、治療的効果のある電磁放射のパルスの間に被験者の目に当てられる、波長がより長い(例えば、黄緑や赤の)電磁放射を含んでも良い。波長が長い第2の波長帯域における電磁放射を宛てることにより、本質的に感光性の網膜神経節細胞を、治療的効果のある電磁放射に対して条件付けることができる。言い換えると、長い波長に長い間さらされると、第1の波長帯域における電磁放射に対する、本質的に感光性の網膜神経節細胞の感度がリセットされる。第2の波長帯域の電磁放射による本質的に感光性の網膜神経節細胞の条件付けにより、第1の波長帯域の電磁放射が治療上効果的である周波数が上昇し、第1の波長帯域の電磁放射のパルスが治療目的に対して有効である時間が長くなり、及び/又は治療的に発光モジュール40による被験者の睡眠サイクルを調整する光線治療の全体的な効率が高くなる。 【0026】 第2の放射源のセット46により放射される電磁放射は、パルス間の放射の見かけ上の明るさレベルを維持するように構成してもよい。発光モジュール40のようなシステムでは、被験者が休んでいる又は寝ている間に、閉じたまぶたに電磁放射を当てるように設計されており、電磁放射の見かけ上の明るさが変化すると快適性が損なわれるかも知れない。他方、色が変化しても、被験者の睡眠及び/又は休息はそれほど妨げられない。そのため、第2の放射源のセット46により第2の波長帯域で当てられる電磁放射は、光線治療の効率を高めるだけでなく、被験者への治療の快適性及び/又は便利性を向上する(または、医療の効率は向上しないが、快適性及び/又は便利性が向上する)。 【0027】 図4と図5に戻り、グラフ30と32に基づき、被験者のまぶたを通らなければならない電磁放射は、約475nmと約530nmの間が最も効果的であることが分かる。一実施形態では、約490nmと約530nmの間の光を用いる。一実施形態では、約500nmと約525nmの間の光を用いる。実際、上記の通り、被験者のまぶたによる減衰(及び波長レンジ間の)のため、約500nmでまぶたの外側で放射された電磁放射の約1/10の強さで約600nmでまぶたの外側で放射された電磁放射は、被験者により、実質的に見かけの明るさが同じものとして知覚される。 【0028】 図6に戻り、一実施形態では、第2の波長帯域は、575nm乃至650nmの間の電磁放射を含む。一実施形態では、第2の波長帯域は約530nmと約700nmの間の電磁放射を含む。一実施形態では、第2の波長帯域は約590nmと約675nmの間の電磁放射を含む。一実施形態では、第2の波長帯域は約590nmと約630nmの間の電磁放射を含む。一実施形態では、第2の波長帯域は約600nmと約620nmの間の電磁放射を含む。これは、上で図6を参照して説明したように、(第2の波長帯域で)第2の放射源のセット46により放射される電磁放射は、(第1の波長帯域で)第1の放射源のセット44により放射される電磁放射より、強さが約1/10でよく、それでも被験者に対しては(目を閉じた状態での)見かけの明るさが同じになる。第2の放射源のセット46により放射される電磁放射が弱いので、発光モジュール40におけるエネルギーの節約ができる。第2の波長帯域における電磁放射が弱くてよいので、図6に示したように、第2の放射源のセット46は、第1の放射源のセット44より少ない放射源で、及び/又は弱い放射源でよい。第2の放射源のセット46により放射される電磁放射が弱いので、さらに、第1の放射源のセット44により放射される電磁放射のパルスの間に、発光モジュール40が冷却され得る。よって、上記のように第2の波長帯域の選択により、(1)第1の波長帯域の電磁放射に被験者の本質的に感光性の網膜神経節細胞を条件付けられ、(2)第1の波長帯域における電磁放射のパルス間の、被験者に対する放射の見かけの明るさが維持され、(3)比較的まぶたの透過率が高いので、パワー効率がよく、(4)第1の波長帯域における電磁放射のパルス間に発光モジュール40を冷却できる。」 c 「【0034】 コントローラ56は、睡眠マスク10の情報処理及び/又はシステム制御の機能を提供するように構成されている。そのため、コントローラ56は、デジタルプロセッサ、アナログプロセッサ、情報を処理するように設計されたデジタル回路、情報を処理するように設計されたアナログ回路、ステートマシン、及び/又は電子的に情報を処理するその他のメカニズムのうち1つ以上を含み得る。コントローラ56は、与えられた機能を提供するため、1つまたは複数のモジュールを実行する。1つ又は複数のモジュールは、ソフトウェア;ハードウェア;ファームウェア;ソフトウェア、ハードウェア、及び/又はファームウェアの組み合わせ;及び/又はその他の方法で実装され得る。図1においてコントローラ56は1つのものとして示したが、これは例示のみを目的としたものである。実施形態によっては、コントローラ48は複数の処理ユニットを含んでいてもよい。これらの処理ユニットは、物理的に、同じ装置(例えば、睡眠マスク10)に配置されてもよい。コントローラ56は、協調して動作する複数の装置の処理機能を表すものであってもよい。 【0035】 一実施形態では、コントローラ56は、所定の光線治療アルゴリズムにより第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18を制御する。所定の光線治療アルゴリズムは、被験者の顔又は被験者の目に向けた、第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18による放射のタイミング、強さ、及び/又は波長を指示する。一実施形態では、所定の光線治療アルゴリズムは、電子的ストレージ52に格納され、第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18とによる実行のため、コントローラ56に供給される。場合によっては、所定の光線治療アルゴリズムの態様は、被験者に合わせて調整又はカスタマイズできる。所定の光線治療アルゴリズムへの調整及び/又はカスタマイズは、ユーザインタフェース54を介して睡眠マスク10に入力される。一実施形態では、電子的ストレージ52は、所定の複数の光線治療アルゴリズムを格納し、被験者(及び/又は介護者)はユーザインタフェース46を介して、被験者に適した光線治療アルゴリズムを選択する。 【0036】 上記の通り、一実施形態では、所定の光線治療アルゴリズムは、睡眠マスク10による被験者への放射(administration of radiation)のタイミングを指示する。それゆえ、この実施形態では、コントローラ56はクロックを含む。このクロックは、あるイベントからの経過時間及び/又は時刻をモニターできる。被験者(及び/又は介護者)は、例えば、ユーザインタフェース54を介してコントローラ56のクロックにより発生される時刻を訂正できる。 【0037】 一実施形態では、第1の発光モジュール16及び/又は第2の発光モジュール18は、第1の波長帯域で電磁放射を発し、第2の波長帯域で電磁放射を発するように構成されている。第1の波長帯域の電磁放射は、被験者の睡眠サイクルに影響する治療的効果を有する。第2の波長帯域の電磁放射は、被験者の非視覚的システムを、第1の波長帯域の電磁放射を受けるように、被験者の非視覚系(例えば、本質的に感光性の網膜神経節細胞)を条件付ける。例えば、第1の発光モジュール16及び/又は第2の発光モジュール18は、それぞれ第1の放射源のセット44と第2の放射源のセット46と類似した又は同一の、第1の放射源のセットと第2の放射源のセットをそれぞれ含む。 【0038】 この実施形態では、コントローラ56は、第1と第2の波長帯域の電磁放射のタイミング及び/又は強さを制御するように構成されている。タイミング及び/又は強さは、光線治療計画に応じてコントローラ56により制御される。非限定的例として、図8は、電磁放射の強さを時間の関数として表す光線治療計画を示す。光線治療計画は、第1の波長帯域の電磁放射の複数のパルス58と、そのパルス58の間の休止期間60中に第2の波長帯域の電磁放射の放射とを含む。上記の理由により、休止期間60中の第2の波長帯域の電磁放射の強さは、パルス58の間の第1の波長帯域の電磁放射の強さより大幅に低い。例えば、パルス58中に発せられる電磁放射の強さは、休止期間60中に発せられる電磁放射の強さより、約10倍強い。パルス58の長さは、約5ミリ秒ないし約20分である。一実施形態では、パルス58の長さは、約20ミリ秒ないし約50ミリ秒である。一実施形態では、パルス58の長さは、約2分ないし約20分である。休止期間60の長さは、約30秒ないし約90分である。一実施形態では、休止期間60の長さは、約30秒ないし約1分である。一実施形態では、休止期間60の長さは、約5分ないし約90分である。 【0039】 図9は、図8に示した光線治療計画中に、被験者が受ける電磁放射の知覚を示す。被験者のまぶたによる電磁放射の減衰のため、パルス58中に発せられる電磁放射と、休止期間60中に発せられる電磁放射との間の強さの差は、小さくなり、及び又は完全に無くなる。第1と第2の発光源に用いられる光の波長帯域の選択に応じて(どんな色でも認識される明るさのスペクトルには違いがあり、全体的な知覚に影響する)、第1の発光源の長さと強さ(例えば、短く変化の速いパルスは視覚的に邪魔になる)、及び第2の発光源の強さは、寝ている人への妨げを最小化するように設計される。第1の波長帯域のパルス58の立ち上がりと立ち下がりが5秒より長い一実施形態では、図9に示したように、2つの色が概略同じ明るさに見えるように、第2の光60が図5の減衰の違いに応じて設定される。パルス58の立ち上がりや立ち下がりが5秒未満である、他の一実施形態では、特にそれらが1秒未満であれば、短く変化の速いパルス58の煩わしさ(disturbing quality)を低減するため、第2の光60は第1の光58の強さのまぶたによる減衰の補正比率だけ(またはその数倍でも)強くてもよい。この第2の実施形態では、第2の光60は、変化の速い第1の光58により生じる煩わしさを効果的に抑えるように、視覚系を条件付けるのに十分明るくなければならない。 【0040】 言うまでもなく、図8のパルス58及び又は休止期間60における第1と第2の波長帯域の電磁放射の周波数、パルス期間、パルス形状、強さ、その他の特性が規則的であり、及び/又は一様であることは、本発明の限定ではない。これらの特性は、パルス毎に異なっても、休止期間ごとに異なってもよい。このように異ならせることは、被験者にとって治療をより快適にし、及び/又は光線治療の有効性を高めるためのストラテジの一部である。非限定的な例として、強さは時間をかけてゆっくりと上げてもよく、タイミング(例えば、パルスの長さ、休止期間の長さ、期間など)は、被験者が1つのパターンになれてしまわないようにランダム化しても及び/又は変化させてもよく、その他の特性を変化させてもよい。 【0041】 図6に戻り、一実施形態では、コントローラ56は、第1の波長帯域で当てられる電磁放射のパルスが、比較的高い(例えば、1分あたり10回ないし1回)周波数を有し、比較的短い(例えば、25msないし1秒)パルスを有するように、第1の発光モジュール16及び/又は第2の発光モジュール18を制御するように構成されている。この方法は、(本質的に感光性の網膜神経節細胞だけでなく)部分的には目の錐体応答による睡眠サイクル調整に寄与し、第1の波長レンジの電磁放射の短い繰り返しのフラッシュを含む。かかる一実施形態では、パルス間の休止期間中の第2の波長帯域の電磁放射は、システムの見かけ上の明るさを一定の又は比較的一定のレベルに維持する機能を有する。これにより被験者の快適性が高まり、被験者が電磁放射により起きる場合が減る。さらに、この実施形態では、(第1の波長帯域で放射される電磁放射と比較して)比較的弱い第2の波長帯域の電磁放射を放射することにより可能となる冷却により、被験者の治療の快適性が高くなり、及び/又は過熱による機器の故障が低減される。」 d 図3 「 」 e 図4 「 」 f 図5 「 」 g 図6 「 」 h 図8 「 」 i 図9 「 」 (イ)上記(ア)cの【0038】の「光線治療計画は、第1の波長帯域の電磁放射の複数のパルス58と、そのパルス58の間の休止期間60中に第2の波長帯域の電磁放射の放射とを含む。上記の理由により、休止期間60中の第2の波長帯域の電磁放射の強さは、パルス58の間の第1の波長帯域の電磁放射の強さより大幅に低い。」という記載、及び、同【0039】の「図9は、図8に示した光線治療計画中に、被験者が受ける電磁放射の知覚を示す。被験者のまぶたによる電磁放射の減衰のため、パルス58中に発せられる電磁放射と、休止期間60中に発せられる電磁放射との間の強さの差は、小さくなり、及び又は完全に無くなる。」という記載を踏まえつつ、図8及び9を参照すると、電磁放射は第1の強度と第2の強度との間でパルス化されるものであるといえる。 (ウ)上記(ア)aの【0001】の「本発明は、睡眠マスクを施術メカニズムとして用いて、被験者のまぶたを通して、被験者に光線治療を施すことに関する。」という記載、同bの【0023】の「電磁放射の一部はまぶたを通り、被験者の目に入る。」という記載、同bの【0026】の「発光モジュール40のようなシステムでは、被験者が休んでいる又は寝ている間に、閉じたまぶたに電磁放射を当てるように設計されている」という記載、同cの【0039】の「図9は、図8に示した光線治療計画中に、被験者が受ける電磁放射の知覚を示す。被験者のまぶたによる電磁放射の減衰のため、・・・完全に無くなる。」という記載を踏まえれば、発光モジュールによる電磁放射は、被験者のまぶたが閉じているときに光線治療を施すように構成されるものであるといえる。 (エ)上記(ア)cの【0035】の「コントローラ56は、所定の光線治療アルゴリズムにより第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18を制御する。所定の光線治療アルゴリズムは、被験者の顔又は目に向けた、第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18による放射のタイミング、強さ、及び/又は波長を指示する。一実施形態では、所定の光線治療アルゴリズムは、電子的ストレージ52に格納され、第1の発光モジュール16と第2の発光モジュール18とによる実行のため、コントローラ56に供給される。」という記載、及び、上記(ウ)の認定事項を踏まえると、光線治療アルゴリズムは、発光モジュールによる電磁放射を制御して被験者に対する光線治療を施すよう構成されるものである。さらに、【0034】の「コントローラ56は、デジタルプロセッサ、アナログプロセッサ、・・・電子的に情報を処理するその他のメカニズムのうち1つ以上を含み得る。」という記載、「コントローラ56は、与えられた機能を提供するため、1つまたは複数のモジュールを実行する。1つまたは複数のモジュールは、ソフトウェア・・・及び/又はその他の方法で実装され得る。」という記載、及び、コンピュータにアルゴリズムをソフトウェア的に実装するものがコンピュータプログラムであることからみて、コントローラの1つまたは複数のプロセッサは、1つまたは複数のコンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されるものであり、当該コントローラのプロセッサは、光治療アルゴリズムを実装したコンピュータプログラムモジュールを実行するものであるといえる。 (オ)上記(ア)ないし(エ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「網膜神経節細胞を有する被験者に光線治療を施す睡眠マスクのシステムであって、 電磁放射をするように構成される発光モジュールであり、前記電磁放射は、第1の強度及び第2の強度を有する電磁放射を含み、前記第1の強度の前記電磁放射は、まぶたを通り前記被験者の目に入り、前記被験者の網膜神経節細胞を刺激するように475nmから530nmの間の波長帯域を有し、前記第2の強度は、前記第1の強度の1/10である、発光モジュールと、 1つまたは複数のコンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されるコントローラの1つまたは複数のプロセッサであり、前記コンピュータプログラムモジュールは、 前記電磁放射が前記第1の強度と第2の強度との間でパルス化されるように、前記発光モジュールによる電磁放射を制御して前記被験者に対する光線治療を施すように構成されている光線治療アルゴリズムを実装したコンピュータプログラムモジュールであり、前記電磁放射は、25msないし1秒のパルスの長さ、及び、約1分の休止期間を有する、光線治療アルゴリズムを実装したコンピュータプログラムモジュールを含む、プロセッサと、 を含み、 前記光線治療アルゴリズムを実装したコンピュータプログラムモジュールは、前記被験者のまぶたが閉じているときに、前記発光モジュールによる電磁放射を制御して光線治療を施すように構成される、システム。」 イ 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2012-513803号公報(平成24年6月21日出願公表。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審が付与したものである。以下同様。) a「【0044】 上記のとおり、ひとつ又はそれ以上のセンサ32は、前記センサと前記被験者の前記眼の間の距離を示す出力シグナルを生成するように構成されるセンサを含む。図5にはかかる出力を生成するように構成されるセンサ32aのひとつの実施態様を示す模式図を示す。図5に示される実施態様において、センサ32aはエミッタ36及び感光検出装置38を含む。 【0045】 エミッタ36は、前記被験者の眼に向けられる電磁気放射40を照射する。エミッタ36から照射される放射40は、前記眼が開いている際に前記眼には悪影響を与えない波長(又は複数の波長)及び/又は強度を持つ電磁波放射を含む。例えばひとつの実施態様において、エミッタ36から照射される放射40は、赤外線領域であり、実質的に前記眼には感知されない。エミッタ36はひとつ又はそれ以上の有機発光ダイオード(OLED),レーザ(例えばダイオードレーザ又は他のレーザ源)、LED、方向付き回りの放射光及び/又は他の電磁波源を含む。ひとつの実施態様において、エミッタ36はひとつ又はそれ以上のLEDを含む。本発明は当然LEDの使用に限定されるものではないが、エミッタ36として実施されるLEDの利点には、軽量であること、小型であること、低消費電力であること、低電圧要求性であること、低発熱性であること、信頼性、取り扱い性、相対的に低コストであること及び安定性であること、である。いくつかの例で、センサ32aはひとつ又はそれ以上の光学要素(図示されず)を含むことができ、センサ32aにより照射される光放射をガイドし、焦点し、及び/又は他の処理を行う。 【0046】 エミッタ36が、前記眼42で光放射40を照射する際、前記放射40の一部分は前記眼42で反射され、図5の放射44としてセンサ32aに戻る。感光検出装置38は、センサ32a内に設けられ、前記眼42からセンサ32aに戻る放射44を受け取る。感光検出装置38は、放射44のひとつ又はそれ以上の性質に基づいて出力シグナルを生成するように構成される(例えば、センサ32a及び/又は感光検出装置38への強度、位相、入射角度、モデュレーション、飛行時間(time of flight)等)。エミッタ36及び/又は感光検出装置38の構成により、前記感光検出装置38により生成されるシグナルが基づく放射44のひとつ又はそれ以上の性質が、センサ32aと前記眼42の近接性についての情報を伝達する(例えばセンサ32aと前記眼42との距離)。ひとつの実施態様において、感光検出装置38は、PINダイオードを含む。他の実施態様において、他の感光検出装置38はダイオードアレイの形、CCDチップ、CMOSチップ、光電子倍増管及び/又は他の感光装置の形であってよい。 【0047】 感光検出装置38により生成される前記出力シグナルから、プロセッサ(例えば図4のプロセッサ34及び上に記載のプロセッサ)は、被験者の睡眠期及び/又は目覚めについての情報を決定することができる。例えば、センサ32aと前記眼との距離は、前記眼の瞼が開いている際には前記瞼が閉じている際とは異なっている(瞼組織に厚さによる)。従って、前記プロセッサは、眼42が開いているか閉じているかをセンサ32aにより生成される出力シグナルから決めることができる。 【0048】 上で説明したように(図4について)、前記眼42の瞼が開いているか閉じているかに関する情報を伝達する出力シグナルから、前記プロセッサは前記被験者が起きているのか睡眠中であるのかを決めることができる。この情報から、前記プロセッサは、センサ32aを含むスリープマスク(例えばスリープマスク10)により提供される光療法を調節することができる。例えば、前記被験者が睡眠中では眼42に提供される前記光放射強度閾値を調節することができる。」 b 図5 「 」 (イ)上記(ア)のとおり、引用文献2には、「被験者が睡眠中に光療法を提供するスリープマスクのシステムにおいて、被験者の瞼が開いているか閉じているかを検知するセンサを用いる技術」(以下「引用文献2に記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「被験者」は、光治療を施す対象であることから、本件補正発明の「対象」に相当する。 引用発明の「光線治療」は、その機能、作用及び構造からみて、本件補正発明の「光療法」に相当し、以下同様に、「施す」は「提供する」に、「睡眠マスクのシステム」は「システム」に、「電磁放射をする」は「電磁放射を放出する」に、「発光モジュール」は「光源」に、「まぶたを通り被験者の目に入り」は「衝突後に」に、「1つまたは複数のコンピュータプログラムモジュール」は「コンピュータプログラムモジュール」に、「実行する」は「遂行する」に、「コントローラの1つまたは複数のプロセッサ」は「1つ又は複数のプロセッサ」に、「光線治療アルゴリズムを実装したコンピュータプログラムモジュール」は「光制御モジュール」に、「25msないし1秒のパルスの長さ」は「10分までのパルス幅」に、「約1分の休止期間」は「0.1秒から10分までのパルス間隔」に、それぞれ相当する。 引用発明の「前記第2の強度は、前記第1の強度の1/10である」は、本件補正発明の「前記第2の強度は、前記第1の強度よりも小さい」に相当する。 また、本件補正発明の「S-cone受容体」と引用発明の「網膜神経節細胞」とは、網膜中の神経細胞である限りにおいて共通する。 そして、本件補正発明の「前記第1の強度の前記放出される電磁放射は、衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅を有し」と引用発明の「前記第1の強度の前記電磁放射は、まぶたを通り前記被験者の目に入り、前記被験者の網膜神経節細胞を刺激するように475nmから530nmの間の波長帯域を有し」とは、前記第1の強度の前記放出される電磁放射は、衝突後に対象の網膜中の神経細胞を刺激するような波長帯を有している限りにおいて共通する。 さらに、本件補正発明の「前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているという決定に基づき」と引用発明の「前記被験者のまぶたが閉じているときに」とは、前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているときにという限りにおいて共通する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (ア)一致点 「網膜中の神経細胞を有する対象に光療法を提供するシステムであって、 電磁放射を放出するように構成される光源であり、放出される前記電磁放射は、第1の強度及び第2の強度を有する電磁放射を含み、前記第1の強度の前記放出される電磁放射は、衝突後に前記対象の前記網膜中の神経細胞を刺激するような波長帯を有し、前記第2の強度は、前記第1の強度よりも小さい、光源と、 コンピュータプログラムモジュールを遂行するように構成される1つ又は複数のプロセッサであり、 前記電磁放射が前記第1の強度と前記第2の強度との間でパルス化されるように、前記光源による放出を制御して前記対象に対する光療法を提供するように構成される光制御モジュールであり、前記電磁放射は、10分までのパルス幅、及び、0.1秒から10分までのパルス間隔を有する、光治療制御モジュールを含む、プロセッサと、 を含み、 前記光制御モジュールは、前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているときに、前記光源による放出を制御して光療法を提供するように構成される、システム。」 (イ)相違点1 光療法を提供する対象の網膜中の神経細胞と第1の強度の電磁放射の波長帯について、本件補正発明では、S-cone受容体であり、410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅を有するのに対し、引用発明では、網膜神経節細胞であり、475nmから530nmの間の波長帯域を有する点。 (ウ)相違点2 対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているときについて、本件補正発明では、システムは前記対象の眼が閉じているかどうかを決定するように構成される眼瞼検出器を含み、前記対象の片方の眼又は両方の眼が閉じているという決定に基づくのに対して、引用発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。 (4)判断 以下、各相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用発明の電磁放射は、475nmから530nmの間の波長帯域となっている。 ここで、上記(2)ア(ア)cのとおり、引用文献1の【0041】には「コントローラ56は、第1の波長帯域で当てられる電磁放射のパルスが、比較的高い(例えば、1分あたり10回ないし1回)周波数を有し、比較的短い(例えば、25msないし1秒)パルスを有するように、第1の発光モジュール16及び/又は第2の発光モジュール18を制御するように構成されている。この方法は、(本質的に感光性の網膜神経節細胞だけでなく)部分的には目の錐体応答による睡眠サイクル調整に寄与し、第1の波長レンジの電磁放射の短い繰り返しのフラッシュを含む。」と記載されており、引用発明の電磁放射である「25msないし1秒のパルスの長さ、及び、約1分の休止期間を有する、光治療計画」では、本質的に感光性の網膜神経節細胞だけでなく、部分的には目の錐体応答による睡眠サイクル調整に寄与するものである。 また、上記(2)ア(ア)bのとおり、引用文献1の【0025】には、「例えば、第2の波長帯域は、治療的効果のある電磁放射のパルスの間に被験者の目に当てられる、波長がより長い(例えば、黄緑や赤の)電磁放射を含んでも良い。波長が長い第2の波長帯域における電磁放射を宛てることにより、本質的に感光性の網膜神経節細胞を、治療的効果のある電磁放射に対して条件付けることができる。言い換えると、長い波長に長い間さらされると、第1の波長帯域における電磁放射に対する、本質的に感光性の網膜神経節細胞の感度がリセットされる。第2の波長帯域の電磁放射による本質的に感光性の網膜神経節細胞の条件付けにより、第1の波長帯域の電磁放射が治療上効果的である周波数が上昇し、第1の波長帯域の電磁放射のパルスが治療目的に対して有効である時間が長くなり、及び/又は治療的に発光モジュール40による被験者の睡眠サイクルを調整する光線治療の全体的な効率が高くなる。」と記載されており、第2の波長帯域としては、黄緑や赤の電磁放射、つまり、M-cone受容体(中波長に反応する錯体細胞)やL-cone受容体(長波長に反応する錯体細胞)の反応する波長帯域を想定することが示唆されている。 この示唆を踏まえれば、引用発明の475nmから530nmの波長帯域(第1の波長レンジ)において、上記の睡眠サイクルの調整に寄与するのは、眼の錐体応答する錯体細胞のうち、M-cone受容体(中波長に反応する錯体細胞)やL-cone受容体(長波長に反応する錯体細胞)ではなく、S-cone受容体(短波長に反応する錯体細胞)のことを指していることは、当業者であれば当然理解できることである。(必要とあらば、次の文献を参照。矢口 博久、“視覚と色(講座 カラー画像工学の基礎と応用(第1回))”、1993年、テレビジョン学会誌、Vol.47、No.1、pp.68?76 、[令和2年5月8日検索]、インターネット https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1978/47/1/47_1_68/_pdf。) してみると、引用発明の電磁放射の波長帯域について、目の錐体応答による睡眠サイクル調整に積極的に活用すべく、475nmから530nmの間(70nmまでの波長帯の幅の範囲内に収まる。)のうち、S-cone受容体(短波長に反応する錯体細胞)の感受性のより高い波長領域である510nm以下に調整する程度のことは、当業者にとって何ら困難性はない。 イ 相違点2について 上記(2)イ(イ)のとおり、引用文献2に記載の技術的事項は、「被験者が睡眠中、すなわち被験者が瞼を閉じているときに光療法を提供するスリープマスクのシステムにおいて、被験者の瞼が開いているか閉じているかを検知するセンサを用いる技術」というものである。 引用発明と引用文献2に記載の技術的事項とはともに、対象、すなわち被験者の眼が閉じているときに光療法を提供する点で共通する技術であることから、引用発明の具体化に際して、引用文献2に記載の技術的事項を採用すること、すなわち、上記相違点2における本件補正発明の構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。 ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成30年7月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1?10に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特表2013-526326号公報 引用文献2:特表2012-513803号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)で記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2(1)で検討した本件補正発明の「衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅を有し」から、「410nmから510nmの所定の波長範囲から選択された70nmまでの波長帯の幅」という限定事項を削除し、「衝突後に前記対象の前記S-cone受容体を刺激するように選択された波長を有し」としたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-06-03 |
結審通知日 | 2020-06-09 |
審決日 | 2020-06-22 |
出願番号 | 特願2016-528638(P2016-528638) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤崎 詔夫、小原 一郎 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
芦原 康裕 和田 将彦 |
発明の名称 | 光療法を提供し、概日リズムを修正するシステム及び方法 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠重 |