ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1367826 |
審判番号 | 不服2019-4795 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-10 |
確定日 | 2020-11-04 |
事件の表示 | 特願2016-547840「非ホジキンリンパ腫を治療するための、HDAC阻害剤単独またはBTK阻害剤との組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月16日国際公開、WO2015/054197、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536354〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年10月7日(パリ条約による優先権主張 2013年10月10日 米国(US)、2013年12月3日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 5月29日付け :拒絶理由通知 平成30年11月12日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年11月30日付け :拒絶査定 平成31年 4月10日 :審判請求書の提出 平成31年 4月11日 :手続補足書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成30年11月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)特異的な阻害剤の治療上有効な量と、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤の治療上有効な量とを含む、その必要がある被験体における非ホジキンリンパ腫の治療における使用のための医薬組成物であって、HDAC6特異的な阻害剤が、 【化1】 ![]() またはその薬学的に許容される塩であり、 BTK阻害剤が、イブルチニブまたはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1?9に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献2:米国特許出願公開第2012/0190693号明細書 引用文献3:Sahakian E, et al.,Combination of ACY1215, a Selective Histone Deacetylase 6 (HDAC6)Inhibitor with the Bruton Tyrosine Kinase (BTK) Inhibitor, Ibrutinib,Represents a Novel Therapeutic Strategy in Mantle Cell Lymphoma (MCL),Blood [online],2012年,Vol.120, No.21,1660,[retrieved on 2018-5-22], Retrievedfrom the Internet:,URL,http://www.bloodjournal.org/content/120/21/1660?sso-checked=true 第4 引用文献の記載事項等 1 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている(当審合議体による訳文を示した)。 「選択的ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)阻害剤であるACY1215とブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブの組み合わせは、マントル細胞リンパ腫(MCL)の新しい治療戦略を示す」(表題) 「最近、HDAC6がMCL細胞株および最初のヒトMCL細胞で過剰発現していることがわかった。shRNAレンチウイルスシステムを使用したMCL細胞でのHDAC6のノックダウンにより、細胞周期の停止とアポトーシスが誘導された。興味深いことに、HDAC6を欠くMCL細胞は、STAT3のリン酸化の大幅な低下とIL-10遺伝子の転写活性の抑制を示した。ACY1215は、新規な、選択的で、経口で生物学的に利用可能なHDAC6阻害剤である。この薬剤によるMCL細胞株の処理は、細胞生存率と増殖の低下をもたらした。さらに、ACY1215は用量依存的にIL-10産生を阻害する。」 「Brutonチロシンキナーゼ(BTK)は、B細胞抗原受容体(BCR)シグナル伝達において非常に特別な役割を持つキナーゼのTecファミリーのメンバーである。選択的BTK阻害剤PCI-32765は、MCLで有望な前臨床および臨床活性を示している。それらの直接的な抗リンパ腫効果に加えて、BTKの破壊は、免疫抑制性のSTAT3 / IL-10シグナル伝達経路^(1)の阻害などのプラスの免疫学的変化も誘発する。」 「上記の観察結果から、ACY1215とPCI-32765の直接的な抗腫瘍効果と免疫学的特性を、これらの薬剤を併用した場合に増強できるかどうかを判断するに至った。まず、MCL細胞の生存率は、インビトロでPCI-32765またはACY1215のいずれかで処理されたときに低下した。ただし、これら2つの薬剤の組み合わせは、MCLにおけるBTKとHDAC6阻害の相乗効果を示す、アポトーシス誘導の3倍の増加をもたらした。このアプローチはMCL細胞と抗MCL免疫応答の免疫原性を高めることができるという追加の発見により、選択的HDAC6阻害剤ACY1215とBTK阻害をMCLの新しい治療戦略として組み合わせるための適切なフレームワークが提供された。」(概要) 2 引用文献3に記載された発明 上記1に摘記した事項によれば、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「マントル細胞リンパ腫の治療のための、選択的ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)阻害剤であるACY1215と、ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブとからなる組み合わせ医薬。」 第5 対比・判断 1 対比 マントル細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫に含まれるものであるから(要すれば、特表2011-524903号公報の【0304】等を参照)、引用発明3における、「マントル細胞リンパ腫の治療のための」、「組み合わせ医薬」は、本願発明における「その必要がある被験体における非ホジキンリンパ腫の治療における使用のための」、「医薬組成物」に相当する。 また、引用発明3における「選択的ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)阻害剤であるACY1215」、及び、「ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブ」は、本願発明における、「ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)特異的な阻害剤」、及び、「BTK阻害剤が、イブルチニブまたはその薬学的に許容される塩」である、「ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤」に相当する。 また、引用発明3は、「マントル細胞リンパ腫の治療のための」、「組み合わせ医薬」であるから、引用発明3における「選択的ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)阻害剤であるACY1215」の投与量、及び、「ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブ」の投与量が、それぞれ治療上有効な量であることは明らかである。 そうすると、本願発明と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)特異的な阻害剤の治療上有効な量と、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤の治療上有効な量とを含む、その必要がある被験体における非ホジキンリンパ腫の治療における使用のための医薬組成物であって、 BTK阻害剤が、イブルチニブまたはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。」 <相違点1> 本願発明は、HDAC6特異的な阻害剤が、 「 ![]() またはその薬学的に許容される塩」であるのに対し、引用発明3は、HDAC6特異的な阻害剤が、「ACY1215」である点。 2 判断 (1)相違点1について ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、HDAC6阻害剤及びHDAC6に関連する疾病の治療におけるHDAC6阻害剤の使用について記載されている(Abstract)。そして、HDAC6阻害剤の代表的な化合物として([0218])、「2‐(ジフェニルアミノ)‐N‐(7‐(ヒドロキシアミノ)‐7‐オキソヘプチル)ピリミジン‐5‐カルボキサミド、 IC_(50)(nM) HDAC6=10 HDAC3=84」(15頁最下段及び請求項18)に加えて、「2‐((2‐クロロフェニル)(フェニル)アミノ)‐N‐(7‐(ヒドロキシアミノ)‐7‐オキソヘプチル)ピリミジン‐5‐カルボキサミド、 IC_(50)(nM) HDAC6=4 HDAC3=76」(30頁3段目及び請求項21)が開示されている。また、上記化合物がHDAC6選択的阻害剤であり、非ホジキンリンパ腫細胞を含むがん細胞において、アポトーシスを誘導できることが記載されている([0219])。ここで、引用文献3におけるACY1215とは、引用文献2における「2‐(ジフェニルアミノ)‐N‐(7‐(ヒドロキシアミノ)‐7‐オキソヘプチル)ピリミジン‐5‐カルボキサミド」のことである(要すれば、Santo L, et al.,Preclinical activity, pharmacodynamic, andpharmacoknetic properties of a selective HDAC6 inhibitor, ACY-1215, incombination with bortezomib in multiple myeloma,Blood,2012年,Vol.119, No.11,p.2579-2589(原審の平成30年5月29日付けの拒絶理由における参考文献4)を参照)。 イ また、引用文献2の[0003]?[0010]によれば、HDAC阻害剤が癌治療に使用されること、現在11種類のHDACが知られている中で、個々のHDACに選択的な阻害剤が求められていたこと、が理解され、さらに、HDAC6が癌細胞が生存するために不可欠なアグリソームの形成に必要であることが知られていたことも理解される([0004])。そして、引用文献2の[0219]には、HDAC6選択的阻害剤がアポトーシスを誘導できる癌細胞の例として、非ホジキンリンパ腫細胞が記載されている。また、同様の内容を開示する他の文献として、平成30年5月29日付けの拒絶理由における引用文献5(国際公開第2012/068109号)には、HDAC阻害剤が癌治療に使用されること、現在11種類のHDACが知られている中で、個々のHDACに選択的な阻害剤が求められていたこと、さらに、HDAC6が癌細胞が生存するために不可欠なアグリソームの形成に必要であること、が記載されている([0006]?[0013]参照)。そして、引用文献5の[0250]にも、HDAC6選択的阻害剤がアポトーシスを誘導できる癌細胞の例として、非ホジキンリンパ腫細胞が記載されている。 そうすると、HDAC6阻害剤により非ホジキンリンパ腫を含む癌を治療できることが期待できることは本願優先日当時の技術常識であったといえる。 ウ 以上によれば、上記技術常識の下で、選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤を使用する引用発明3において、選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤として、引用文献2に開示される公知の選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤である「2‐((2‐クロロフェニル)(フェニル)アミノ)‐N‐(7‐(ヒドロキシアミノ)‐7‐オキソヘプチル)ピリミジン‐5‐カルボキサミド」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものである。 (2)本願発明の効果について 本願発明における、本願化合物Bとイブルチニブとの組合せによる非ホジキンリンパ腫の治療の効果については、本願明細書には実施例等を用いて具体的に示されていない。しかしながら、本願化合物Aと本願化合物Bが構造的に類似していることから、上記効果が、本願化合物Aとイブルチニブとの組合せによる非ホジキンリンパ腫の治療の効果と同程度のものであるとしても、引用文献3には、イブルチニブとACY1215の組み合わせが、MCLにおけるBTKとHDAC6阻害の相乗効果であるアポトーシス誘導の3倍の増加をもたらしたことが開示されているから、本願発明が奏する非ホジキンリンパ腫の治療の効果が、引用発明3から予想される効果と比して格別顕著なものであるとは認められない。 また、本願明細書の実施例8(【0144】?【0146】)には、本願化合物Aとイブルチニブとの組合せについての耐容性が示されているが、本願化合物Bとイブルチニブとの組合せによる耐容性の効果については、本願明細書には実施例等を用いて具体的に示されていない。 そして、本願明細書の【0002】に「ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素は、非ホジキンリンパ腫(NHL)における誘因性の治療上の標的を表すが、残念なことに、非選択的HDAC阻害剤は、患者における用量制限毒性をまねいた。」、【0004】に「非選択的HDAC阻害剤の用量制限毒性のため、非ホジキンリンパ腫治療のためのより効果的でより毒性が低い組成物及び方法に対して、当該技術分野において持続的な需要がある。」と記載されており、本願明細書の実施例8における耐容性とは、他のHDAC阻害剤との比較がないことも考慮すると、HDAC6阻害剤という、選択的なHDAC阻害剤を用いたことによるものと推認される。 また、HDAC6阻害剤について記載されている引用文献2における「入手可能な非選択的なHDAC阻害剤の初期臨床試験は、多発性骨髄腫を含む血液の腫瘍における応答を示したものの、重篤な毒性を伴っていた。」との記載([0006])や、当審が引用する「鈴木孝禎,総説 次世代エピジェネティックドラッグを目指した創薬研究,京府医大誌,2012年,121(9),pp.461-467」の462頁右欄の「HDACには,11種類のアイソザイム(HDAC1?11)が知られており,HDACアイソザイムと病態の関連も数多く報告されている^(12‐16)).したがって,アイソザイム選択的な HDAC阻害剤は,副作用の少ない治療薬となることが期待されている.」との記載から、HDAC6阻害剤という、選択的なHDAC阻害剤を用いることにより副作用が低減することは、本願優先日時点において広く知られていたことである。 そうすると、本願化合物Bとイブルチニブとの組合せが、本願化合物Aとイブルチニブとの組合せと同等の耐容性を奏するとしても、引用発明3における「ACY1215」も「選択的ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)阻害剤」であるから、ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)特異的な阻害剤を含む本願発明の耐容性に関する効果が、引用発明3から予想される効果と比して格別顕著なものであるとは認められない。 (3)以上によれば、本願発明は、引用文献3に記載された発明、引用文献2?3に記載の技術事項及び本願優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 請求人の主張について (1)請求人は、本願発明の進歩性について、平成31年4月10日提出の審判請求書の「2.理由3について (2)対比」において、 (主張1)「引用文献2及び3には、本願発明の特徴的な構成である、非ホジキンリンパ腫を治療するための上記組合せは記載されておらず、また当業者がこの特徴的な構成に想到するための示唆や教示、動機付けとなる記載は全くありません。」(審判請求書5頁12?14行) (主張2)「本願明細書において具体的に示した、イブルチニブと、HDAC6特異的な阻害剤である本願化合物Aとの組合せによる相乗効果及びin vivo忍容性は、引用文献2及び3の記載からは予想することができない顕著な効果です。」 と主張し、 上記主張2における相乗効果について、平成31年4月11日提出の手続補足書による参考資料1に基いて、 「本願化合物Aと本願化合物Bが併用療法において用いられた場合に同様の相乗効果を示すことは、当該技術分野において知られていることです。」及び「当業者であれば、本願明細書において本願化合物Aとイブルチニブとの組合せについて示した相乗効果と同様の効果を、本願請求項に記載の組合せについても当然に予想する」 と主張している。 (2)しかしながら、以下のア及びイに示すように、請求人の上記主張1及び2は採用できない。 ア 上記主張1については、上記2(1)において説示したように、HDAC6阻害剤により非ホジキンリンパ腫を含む癌を治療できることが期待できるとの本願優先日当時の技術常識の下で、選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤を使用する引用発明3において、選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤として、引用文献2に開示される公知の選択的ヒストンデアセチラーゼ6阻害剤である「2‐((2‐クロロフェニル)(フェニル)アミノ)‐N‐(7‐(ヒドロキシアミノ)‐7‐オキソヘプチル)ピリミジン‐5‐カルボキサミド」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものであるから、上記主張1は採用できない。 イ 上記主張2については、参考資料1の公開は本願優先日後の2015年8月であるから、本願優先日における当業者による効果の推認に関して、その内容を直ちに参酌できるとはいえないし、また、参考資料1の内容についても、本願発明におけるイブルチニブとの併用療法における相乗効果を示したものでないから、本願化合物Aと本願化合物Bがイブルチニブとの併用療法において同様の相乗効果を示すとは直ちに認められない。さらに、本願化合物Aと本願化合物Bが任意の薬物との併用療法において同様の相乗効果を示すとしても、上記2(2)において説示したように、本願発明の相乗効果に関する効果が、引用発明3から予想される効果と比して格別顕著なものであると認めることはできない。 また、in vivo忍容性についても、上記2(2)において説示したようにヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)特異的な阻害剤を含む本願発明の耐容性に関する効果が、引用発明3から予想される効果と比して格別顕著なものであると認めることはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-05-28 |
結審通知日 | 2020-06-01 |
審決日 | 2020-06-16 |
出願番号 | 特願2016-547840(P2016-547840) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 春田 由香 |
特許庁審判長 |
滝口 尚良 |
特許庁審判官 |
渡邊 吉喜 穴吹 智子 |
発明の名称 | 非ホジキンリンパ腫を治療するための、HDAC阻害剤単独またはBTK阻害剤との組み合わせ |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |