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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1367855
審判番号 不服2019-14972  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-07 
確定日 2020-11-04 
事件の表示 特願2017-124435「磁性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月22日出願公開、特開2018- 28656〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月26日(パリ条約に基づく優先権主張 2016年(平成28年)6月27日 米国)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 9月26日付け :拒絶理由通知書
平成31年 1月16日 :意見書の提出
令和 元年 6月28日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年11月 7日 :審判請求書の提出
令和 元年11月 7日 :手続補正書の提出
(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)
令和 2年 5月12日 :上申書の提出

第2 令和元年11月7日付けの手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[結論]
令和元年11月7日付けの手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前、すなわち、この出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 第1の表面、および、前記第1の表面に対向する第2の表面を有する磁性体含有層と;
前記磁性体含有層の前記第1の表面の外側にある第1の反射体層と;
前記磁性体含有層の第2の面の外側にある第2の反射体層と;
前記第1の反射体層の外側にある第1の選択的光変調体層と;
前記第2の反射体層の外側にある第2の選択的光変調体層と;
前記第1の選択的光変調体層の外側にある第1の吸収体層と;
前記第2の選択的光変調体層の外側にある第2の吸収体層とを備え、
前記第1の選択的光変調体層および前記第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つは、硬化剤、および、コーティング助剤のうちの少なくとも1つを含む、物品。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお、下線は当合議体が付したものであり、補正箇所を示す。
「 第1の表面、および、前記第1の表面に対向する第2の表面を有する磁性体含有層と;
前記磁性体含有層の前記第1の表面の外側にある第1の反射体層と;
前記磁性体含有層の第2の面の外側にある第2の反射体層と;
前記第1の反射体層の外側にある第1の選択的光変調体層と;
前記第2の反射体層の外側にある第2の選択的光変調体層と;
前記第1の選択的光変調層の外側にある第1の吸収体層と;
前記第2の選択的光変調体層の外側にある第2の吸収体層とを備え、
前記第1の選択的光変調体層および前記第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つは、硬化剤、および、コーティング助剤を含む、物品。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記第1の選択的光変調体層および前記第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つ」を、「硬化剤、および、コーティング助剤のうちの少なくとも1つを含む」ものから、「硬化剤、および、コーティング助剤を含む」ものに限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である(【0002】及び【0003】)。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、次のとおりのものである。なお、「前記第1の選択的光変調層の外側にある第1の吸収体層」を、「前記第1の選択的光変調体層の外側にある第1の吸収体層」の誤記と認定した。
「 第1の表面、および、前記第1の表面に対向する第2の表面を有する磁性体含有層と;
前記磁性体含有層の前記第1の表面の外側にある第1の反射体層と;
前記磁性体含有層の第2の面の外側にある第2の反射体層と;
前記第1の反射体層の外側にある第1の選択的光変調体層と;
前記第2の反射体層の外側にある第2の選択的光変調体層と;
前記第1の選択的光変調体層の外側にある第1の吸収体層と;
前記第2の選択的光変調体層の外側にある第2の吸収体層とを備え、
前記第1の選択的光変調体層および前記第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つは、硬化剤、および、コーティング助剤を含む、物品。」

(2)引用文献及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特表2005-509691号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付与したものである。)。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、一般的に、ピグメントおよび箔に関する。特に、本発明は、磁性層を有する多層ピグメントフレークおよび箔、ならびに磁性層を有する多層ピグメントフレークを組み込むピグメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術)
種々のピグメント、着色料、および箔が、広範な種々の適用のために開発されてきた。例えば、磁性ピグメントは、装飾調理器具、パターン化表面の作製、および安全デバイス(security device)のような適用における使用のために開発されてきた。同様に、色変化ピグメントは、化粧品、インク、コーティング材料、装飾品、セラミック、自動車の塗料、保証文書および貨幣のための偽造防止用ホットスタンプおよび偽造防止用インクのような使用のために開発されている。
【0003】
色変化ピグメント、着色料および箔は、入射光の角度が変化する際、または観察者の視角が移動するにつれて、色を変化する特性を示す。ピグメントおよび箔の色変化特性は、光学的薄膜の適切な設計またはフレークもしくは箔コーティング構造を形成するために使用される分子種の配向を介して制御され得る。所望の効果は、フレークおよび箔を形成する層の厚みおよびそれぞれの層の屈折率のようなパラメーターの変更により達成され得る。異なる視角または入射光の角度について生じる認知される色の変化は、層を含む材料の選択的吸収と波長依存性干渉効果との組み合わせの結果である。干渉効果(複数の反射を受けた光波の重ね合わせから生じる)は、異なる角度で認知される色の変化の原因である。最大反射は、特定の波長で選択的に増強する材料の種々の層における光路長の差から生じる干渉効果の変化に起因して、視角が変化するにつれて、位置および強度において変化する。
【0004】
種々のアプローチが使用されこのような色変化効果を達成する。例えば、小さな多層フレーク(これは、典型的に多層の薄膜からなる)は、塗料またはインクのような媒体全体に分散され、その後、物体の表面に塗布される。このようなフレークは、必要に応じて所望の色および光学効果を達成するためにオーバーコーティングされ得る。別のアプローチは、変動する層を有する小さな金属製基材またはシリカ製基材をカプセル化して、次いで、このカプセル化した基材を、塗料またはインクのような媒体全体に分散することである。さらに、基材材料上の多層の薄膜からなる箔が作製されている。
【0005】
多層の薄膜構造を生成する1つの様式は、可撓性のウェブ材料の上に剥離層を有し、その可撓性のウェブ材料上に多層の薄膜を形成することによる。薄いコーティング構造を形成する分野において周知の方法(例えば、PVD、スパッタリングなど)によって種々の層は、ウェブ上に沈着(deposit)される。次いで、この多層薄膜構造は、薄膜色変化フレークとしてウェブ材料から除去され、この薄膜色変化フレークは、インクまたは塗料として使用するために、種々のピグメントビヒクルのようなポリマー性媒体に添加され得る。色変化フレークに加えて、添加物が、所望の色変化結果を得るようにインクまたは塗料に添加され得る。
【0006】
色変化ピグメントまたは箔は、多層薄膜構造から形成され、この多層薄膜構造は、同じ基本層を含む。これらは、吸収層、誘電層、および必要に応じて、反射層を含み、層の順序は変動する。コーティングは、対称的な多層薄膜構造を有するように形成され得る。例えば:
吸収材/誘電材/反射材/誘電材/吸収材;または吸収材/誘電材/吸収材。
コーティングはまた、非対称な多層薄膜構造を有するように形成され得る。例えば:
吸収材/誘電材/反射材。
【0007】
例えば、Phillipsらに対する米国特許第5,135,812号(本明細書中で参考として援用されている)は、いくつかの異なる構成の層(例えば、透明な誘電性のスタックおよび半透明な金属層のスタック)を有する、色変化薄膜フレークを開示する。Phillipsらに対する米国特許第5,278,590号(本明細書中で参考として援用される)において、対称な3層の光学干渉コーティングが開示されており、このコーティングは、第1および第2の部分的に透過性の吸収層(これらは、本質的に同じ材料および厚みを有する)、ならびにこれらの第1および第2の吸収層の間に配置される誘電性スペーサー層を備える。
【0008】
塗料において使用するための色変化小板(platelet)は、Phillipsらに対する米国特許第5,571,624号に開示されており、これは、本明細書中で参考として援用される。これらの小板は、対称的な多層薄膜構造体物から形成され、ここで、第1の半不透明な層(例えば、クロム)が、基材上に形成されており、第1の誘電層が、この第1の半不透明な層の上に形成されている。不透明な反射する金属層(例えば、アルミニウム)が、この第1の誘電層の上に形成され、続いてこの第1の誘電層と同じ材料および厚みの第2の誘電層が、形成される。この第1の半不透明な層と同じ材料および厚みの第2の半不透明な層が、この第2の誘電層の上に形成される。
【0009】
磁性ピグメントに関して、Phillipsらに対する米国特許第4,838,648号(本明細書中、以後「Phillips‘648」)は、薄膜磁性色変化構造を開示し、ここで、この磁性材料は、反射層または吸収層として使用され得る。1つの開示された磁性材料は、コバルトニッケル合金である。Phillips‘648は、以下の構造を有するフレークおよび箔を開示する:
着色上層(superstrate)/吸収材/誘電材/磁性層/基材;
着側上層/吸収材/誘電材/磁性層/誘電材/吸収材/着色上層;および
接着剤/磁性層/誘電材/吸収材/剥離可能ハードコート/基材。
【0010】
パターン化表面は、磁性フレークを磁力に暴露して、ピグメントの構造の物理的変化をもたらすことによって提供された。例えば、Batzarらに対する米国特許第6,103,361号(本明細書中、以後、「Batzar」)は、調理器具を装飾するための磁化可能材料から作製されるピグメントを使用する。特に、Batzarは、パターンを形成するためのフルオロポリマー放出コーティングでのステンレス鋼フレークの配向を制御することに関し、ここで、少なくともいくつかのフレークは、コーティングの厚みよりも長い。パターン化基材は、コーティング内のフレークの配向を変えるためにコーティングされた基板の下に配置される磁化可能ダイの縁部を通って磁力を適用することによって形成され、これによって、画像化効果またはパターンを誘導する。しかし、Batzarは、磁性層を使用する光学的薄膜スタックまたは小板の使用を開示しない。さらに、Batzarにおいて使用されるステンレス鋼フレークが、調理器具を装飾するのに適切であるが、これらは、反射が乏しい。
【0011】
Prattらの米国特許第2,570,856号(本明細書中の後で「Pratt」)は、強磁性の金属小板に基づく金属フレークピグメントに関する。しかし、Batzarのように、Prattは、不十分にしか反射しない材料を使用し、そして薄膜の光学的スタックの使用を教示しない。
【0012】
Kashiwagiらの米国特許第5,364,689号および同第5,630,877号(本明細書中の後で集団的に「Kashiwagi特許」)(これらは、本明細書中で参考として援用される)は、磁気的に形成された塗装パターンを作製するための方法および装置を開示する。Kashiwagi特許は、磁性塗料層の使用を教示し、この磁性ペイントは、塗料媒体における非球状磁性粒子を含む。所望のパターンの形状での磁力線を有する磁場は、塗料層に適用される。最後のパターンは、硬化した塗料における異なる磁性粒子の配向によって作製される。
【0013】
多層フレーク中へ磁性層を取り込むことへの1つの試みは、Schmidらの欧州特許公開EP 686675B1(本明細書中の後「Schmid」)に開示され、これは、以下のように、誘電層と中央のアルミニウム層との間の磁性層を含む層状色変化構造を記載する:
酸化物/吸収材/誘電材/磁石/Al/磁石/誘電材/吸収材/酸化物
従って、Schmidは、アルミニウム小板を使用し、次いで磁性材料でこれらの小板をコートする。しかし、アルミニウムは、(銀に続いて)2番目に光沢のある金属である(これは任意の磁性材料が、わずかな反射性であることを意味する)ので、上に存在する磁性材料は、ピグメントの反射特性を下げる。さらに、Schmidは、ボールミリング(この方法は達成され得る層の滑らかさの点から限定される)から生成されたアルミニウム小板で始める。
【0014】
Richterらの特許公開EP 710508A1(本明細書中の後「Richter」)は、磁性チップで描くことによる三次元効果を提供するための方法を開示する。Richterは、空間的に変化する磁場において磁性活性ピグメントを整列することによって達成される三次元効果を記載する。Richterは、標準ピグメント(バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、サマリウム/コバルト、Al/Co/Ni合金、および焼結および急速なクエンチングによって作製される金属酸化物(これらはいずれも、光学的薄膜フィルムスタックから構成されない)を使用する。むしろ、粒子は、硬質磁性型である。Richterは、コーティングの上か、またはコーティングの両側のいずれかの電磁気極片(electromagnetic pole piece)を使用する。しかし、Richterは、動く系を使用し、そしてイメージの「図面」を必要とする。この「図面」は、時間がかかり、そして生成型のプロセスのためにならない。
【0015】
Steingroeverの米国特許第3,791,864号(本明細書中の後「Steingroever」)は、磁場によって以前にパターン化された下に存在するプライムコーティングにおいて生成された磁性パターンを有する磁性粒子を配向することによって磁性粒子をパターン化する方法を記載する。このプライムコートは、MO×6Fe_(2)O_(3)型の磁性粒子を含み、ここで、Mは1つ以上の元素Ba、Sr、CoまたはPbであり得る。プライマーの液体コーティングの連続的なシートをコーティングした後、これは硬化され、次いでプライマーの領域は、磁場によって磁化される。次いで、これらの中で懸濁された磁性粒子を有するピグメントビヒクルが、次いで適用される。これらの中で懸濁された磁性粒子は、最後にプライマー中の磁性パターンからの磁力によって配向され、最後のパターンを作製する。しかし、Steingroeverは、プライムコートにおける拡散磁性イメージ(diffuse magnetic image)を受け、これは次々にトップコートへ拡散イメージを通す。この分解能の減少は、高磁場がこれらが作製され得る分解能において限定される理由である。この限定は、意図された磁性イメージを囲む高磁力線に起因し、これによって、プライムコート中の標的でない磁性粒子に影響し、そしてイメージを不鮮明にする。
【0016】
従って、上記の問題および限定を克服または避ける磁性特性を有する改善された多層ピグメントフレークおよび箔の必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本明細書中に具体化され、そして広範に記載されるような本発明に従って、磁性特性を有するピグメントフレークおよび箔を、提供する。ピグメントフレークは、磁性コア層の反対側の対称的なスタックコーティング構造を有し得るか、磁性層の1つの側面上の全ての層を有する非対称的なコーティング構造を有し得るか、または磁性コアの周りの1つ以上の囲まれたコーティングで形成され得る。フレークおよび箔のコーティング構造は、少なくとも1つの磁性層、および必要であれば、1つ以上の反射層、誘電層および吸収層を含む。本発明の色変化の実施形態において、コーティング構造は、磁性層および反射層の上に存在する誘電層、ならびにこの誘電層の上に存在する吸収層を含む。本発明の非色変化の実施形態は、2つの反射層の間または反射層によって囲まれたの磁性層、2つの誘電層の間または誘電層によって囲まれた磁性層、2つの磁性層の間または磁性層に囲まれた誘電層、および着色層によって囲まれた磁性層を含む。
【0018】
色変化の実施形態は、第1の入射光角およびビューイングでの第1の色、および第2の入射光およびビューイングでの第1の色と異なる第2の色を有するために、別個の色変化を示す。ピグメントフレークは、塗料またはインクのような液体媒体中へと分散され得、引き続く対象物または紙への適用のための着色料組成物を生成する。箔は、様々な対象物に積層され得るか、またはキャリア物質上に形成され得る。
【0019】
本発明のこれらおよび他の特性は、以下の説明および添付される特許請求の範囲からより十分に明確になるか、または本明細書中の後に示される本発明の実施によって理解され得る。」

(イ)「【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、多層ピグメントフレークおよび磁性層を有する箔、および磁性フレークを組み込むピグメント組成物に関する。このフレークおよび箔は、視覚的に認知できない安全(security)特徴を作製することおよび3次元様画像を作製することまたは生成物に装飾的な特徴を加えることの両方に使用され得る。この非視覚性安全特徴は、フレークまたは箔内の他の層の間の磁性層を覆うことによって提供され、その結果、オーバーレイ層のみが曝露される。
【0021】
3次元様効果は、フレークまたは泊を外部磁気力に曝すことによって提供され得、従って、ピグメントのいくつかの面の配向は、コーティングの表面に対して正常である。配向されていないピグメントは、コーティングの表面に対して平行な平面にある。この3次元様効果は、アスペクト比が、磁界で配向されるような粒子の整列に起因する(すなわち、ピグメントの最も長い部分が、ピグメント自身を磁力線に沿って整列させる)。このような場合において、ピグメントの面は、磁力の大きさに依存して、様々な範囲に対して、観察者から背けられる。限界または最大配向において、このコーティングは黒色を示す。黒を取り去るにつれて、コーティングは、ピグメントの平面の色に向かってゆっくりと変化していく(すなわち、青色または例えば、アルミニウムのような銀色のような色変化、非色変化)。この結果は、ホログラフ効果と類似の呈色3次元様効果であり、視角変化のように移動するようである。磁性ピグメントを使用する3次元様画像の作製方法は、本明細書中に開示され、代理人明細書番号13676.167を有する、Methods For Producing Imaged Coated Articles By Using Magnetic Pigmentsという表題の同時係属中の米国特許出願(この開示は、本明細書中で参考として援用される)にさらに詳細に記載される。
【0022】
多くの以前の磁性フレークとは異なり、本明細書中で開示するフレークは、磁化材料のみから構成されるわけではなく、磁化材料と非磁化材料の両方を含む。例えば、本発明は、ピグメントフレークを包括し、ここで磁性層は、1つ以上の反射層内に埋められる。別の実施形態において、ピグメントフレークは、誘電層によって囲まれた磁心を含む。なおさらなる実施形態において、ピグメントフレークは、磁性層によって囲まれた誘電核を含む。
【0023】
磁性層が、オーバーレイ反射層間かまたはオーバーレイ反射層内に埋められる場合において、本発明は、より高い色度および輝度を実質的に達成することによって先行技術よりも有意な改善を示す。反射体の内部によりくすんだ(dull)磁性材料を置くことによって、本発明は、2つの目的を達成する:1)反射層の反射率が維持される;および2)磁性材料の内部核を有さない色変化ピグメントは、磁性材料の核を有するこのようなピグメントから、観察者によって区別され得ない。例えば、2つのコーティングされた物体は、平行して観察され、そのコーティング中に磁性材料を有する物体および磁性材料を有さない物体は、観察者には同じように見える。しかし、磁性色変化ピグメントは、色変化効果に加えて、隠された安全特徴を提供する。従って、磁性検出システムを用いると、ピグメント中の磁性を隠されたサインは、例えば、ファラデー回転検出器によって読み取ることが可能である。
【0024】
本発明の種々の実施形態において、ピグメントフレークおよび箔は、入射光の角度または観察者の視角の変化に伴って、色度および色相の実質的な変化を有する。このような視覚効果は、ゴニオ色度(goniochromaticity)または「色変化」として知られており、認識される色を、照明の角度または観察者の視角によって変化させる。従って、このようなピグメントフレークおよび箔は、入射光または視角の最初の角度において最初の色を示し、そして入射光または視角の第2の角度で、最初の色とは異なる第2の色を示す。このピグメントフレークは、ペイントまたはインクのような液体媒体に散らばらされ、物体または紙への引き続く適用のための、種々の色変化着色組成物を生成する。この箔は、種々の物体に積層され得るかまたはキャリア基材上に形成され得る。
【0025】
一般的に、色変化ピグメントフレークは、磁心層の向かい合う側面上に対称的に積み重ねられたコーティング構造を有し得るか、磁性層の片側に多くの層を有する非対称的コーティング構造を有し得るか、または磁心を囲む1層以上のカプセル化されたコーティングによって形成され得る。フレークおよび箔のコーティング構造は、一般的には、磁心を含み、その磁心は、磁性層および他の任意の層、磁心の上を覆う誘電層、および誘電層の上を覆う吸収層を含む。」

(ウ)「【0030】
ここで図面を参照すると、同様の構造が、同様の参照記号で提供されており、この図面は、本発明を理解するのに必要な構造を示すのみである。図1は、本発明の1つの実施形態形態に従う、反射磁性フレーク(「RMF」)20を示す。このRMF20は、中心磁性層22、および中心磁性層の対面する表面のいずれかまたは両方の上の少なくとも1つの反射層を備える、一般的には対称的な薄膜構造を有する3層設計である。従って、RMF20は、反射層24と反対側の反射層26との間に配置される磁性層を含む。アルミニウムのような高度に反射性の反射層間に磁性層を挿入することによって、反射層の光学特性は、低下されず、そしてフレークは、高度に反射性のままである。このRMF20は、ピグメントフレークとして使用され得るかまたは色変化ピグメント中のコアセクションのようにさらなる層が塗布されるコアセクションとして使用され得る。色変化ピグメントの場合において、高反射層の維持は、高輝度および高色度を保存するために非常に重要である。RMF20のコーティング構造中のこれらの層の各々は、以下により詳細に議論される。
【0031】
磁性層22は、ニッケル、コバルト、鉄、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウムおよびそれらの合金または酸化物のような任意の磁性材料から形成され得る。例えば、コバルトニッケル合金が使用され得、コバルトおよびニッケルは、それぞれ、約80%および約20%の重量比を有する。コバルトニッケル合金におけるこれらの各金属の比は、±10%で変化し得、そしてさらに所望の結果を達成し得る。従って、コバルトは、約70重量%?90重量%の量で合金中に存在し得、そしてニッケルは、約10重量%?約30重量%の量で合金中に存在し得る。合金の他の例としては、Fe/Si、Fe/Ni、FeCo、Fe/Ni/Moおよびそれらの組み合わせが挙げられる。強磁性型のSmCo_(5)、NdCo_(5)、Sm_(2)Co_(17)、Nd_(2)Fe_(14)B、Sr_(6)Fe_(2)O_(3)、TbFe_(2)、Al-Ni-Co、およびそれらの組み合わせ、ならびにスピネルフェライト(spinel ferrite)型のFe_(3)O_(4)、NiFe_(2)O_(4)、MnFe_(2)O_(4)、CoFe_(2)O_(4)、またはガーネット型のYIG、GdIG、およびそれらの組み合わせがまた、使用され得る。磁性材料は、その反射特性または吸収特性ならびにその磁性特性について選択され得る。反射剤としての機能に利用する場合、磁性材料は、厚くなるまで堆積され、その結果、実質的に不透明である。吸収剤として利用される場合、磁性材料は、厚くなるまで堆積され、その結果、実質的に不透明である。吸収剤として利用される場合の磁性材料の典型的な厚さは、約2nm?約20nmである。
【0032】
この広範な磁性材料が使用され得るが、「軟らかい(soft)」磁石が、本発明のいくつかの実施形態において好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「軟らかい磁石」は、強磁性特性を示すが、磁力に曝された後に実質的にゼロである残留磁気を有する任意の材料をさす。軟らかい磁石は、印加される磁場に対して素早い応答を示すが、非常に低い(保磁場(coercive field)(Hc)=0.05?300エルステッド(Oe))かもしくはゼロである磁性サインを有するか、または磁場が除かれた後に非常に低い磁力線を保持する。同様に、本明細書中で使用される場合、用語「硬い磁石」(永久磁石とも呼ばれる)は、強磁性特性を示し、磁力に曝された後に長く続く残留磁気を有する任意の材料をいう。強磁性材料は、実質的に1より大きい透磁率(permeability)を有し、磁気ヒステリシス特性を示す任意の材料である。
【0033】
好ましくは、本発明のフレークおよび箔中の磁性層を形成するために使用される磁性材料は、約2000Oe未満、より好ましくは300Oe未満の保磁度を有する。保磁度は、材料が広がる磁場によって消磁されるための材料の能力のことをいう。保磁度値が高くなるにつれて、磁場が取り除かれる後に材料を消磁するためには、より高い磁場が必要とされる。本発明のいくつかの実施形態において、使用される磁性層は、好ましくは、より高い保磁度を持つ「硬い(hard)」磁性材料(消磁するのが困難)ではなく、「軟らかい」磁性材料(消磁するのが容易)である。本発明に従う箔、ピグメントまたは磁性色変化設計の色素の保磁度は、好ましくは約50Oe?約300Oeの範囲である。これらの保磁度は、標準的な記録材料における保磁度よりも低い。従って、磁性色変化ピグメントおよび磁性非色変化ピグメント中で軟らかい磁石を使用する、本発明の好ましい実施形態は、従来の技術の改良である。ピグメントフレーク中で軟らかい磁性材料を使用することによって、凝集させることなく、フレークのより早い分散を可能にする。
【0034】
磁性層22は、約200Å?約10,000Å、および好ましくは約500Å?約1,500Åの適切な物理的厚さを有するように形成され得る。しかし、本明細書中の開示から、適切な磁石の厚さは、使用される特定の磁性材料およびその使用目的に依存して変化することは、当業者によって理解される。例えば、磁性吸収層は、このような層の光学的な要求に基づいて、磁性反射層よりも薄く、一方で隠された磁性層は、その磁性特性に単に基づく厚さを有する。
【0035】
反射層24および26は、様々な反射材料から構成され得る。ここで好ましい材料は、1種以上の金属、1種以上の金属合金、またはそれらの組み合わせ(これらの高い反射性および使用の容易さのため)であるが、非金属反射材料もまた使用され得る。反射層のための適切な金属材料の非制限的な例としては、アルミニウム、銀、銅、金、白金、スズ、チタン、パラジウム、ニッケル、コバルト、ロジウム、ニオブ、クロムおよびそれらの組み合わせまたは合金が挙げられる。これらは、所望の場合、fに基づいて(based on the f desired)選択され得る。反射層24、26は、適切な物理的厚さ(約400Å?約2,000Å、および好ましくは約500Å?約1,000Å)を有するように形成され得る。
【0036】
代替の実施形態において、向かい合う誘電層は、必要に応じて横たわる反射層24および26に加えられ得る。これらの向かい合う誘電層は、RMF20に、耐久性、剛性、および腐食耐性を加える。あるいは、封入誘電層は、反射層24、26および磁性層22を実質的に囲むために形成され得る。この誘電層は、必要に応じて透明であり得るかまたは選択的に吸収され得、その結果、ピグメントフレークの呈色効果に寄与する。誘電層のための適切な誘電材料の例は、この後に記載される。
【0037】
図2は、本発明の1つの実施形態に従うRMFに基づいた、磁性色変化ピグメントフレーク40を示す。このフレーク40は、一般的には、RMF42の向かい合う側面に層を有する、対称的な多層薄膜構造である。従って、第1の誘電層44および第2の誘電層46は、RMF42の向かい合う側面にそれぞれは位置され、そして第1の吸収層48および第2の吸収層50は、それぞれ、誘電層44および46のそれぞれの上に配置される。RMFは、図1について上記で議論されるとおりであるが、誘電層および吸収層は、以下により詳細に記載される。
【0038】
誘電層44および46は、フレーク40の薄膜スタック構造中でスペ-サーとして作用する。これらの層は、干渉色および所望の色変化特性を与えるための効果的な光学厚さを有するように形成される。この誘電層は、必要に応じて透明であり得るかまたは選択的に吸収され得、その結果ピグメントの呈色効果に寄与する。この光学厚さは、生成物ηdとして規定される周知の光学パラメータ(ここで、ηは、層の屈折率であり、dは、層の物理的厚さである)である。典型的には、層の光学厚さは、4分の1波長光学厚み(QWOT)の用語で示され、これは、4ηd/λに等しい(ここで、λは、QWOT条件が生じる波長である)。誘電層の光学厚みは、所望の色変化に依存して、約2QWOT(約400nmの設計波長(design wavelength)において)から約9QWOT(約700nmの設計波長において)の範囲であり得、好ましくは、400?700nmにおいて2?6QWOTである。誘電層は、典型的には、所望の色特徴に依存して、約100nm?約800nmの物理的厚さを有する。
【0039】
誘電層44および46のための適切な材料は、「高い」屈折率(本明細書中で約1.65より大きく規定される)を有する材料ならびに「低い」屈折率(本明細書中で約1.65以下と規定される)を有する材料を含む。この誘電層の各々は、単一の材料から形成され得るかまたは種々の材料の組み合わせおよび構成で形成され得る。例えば、誘電層は、低屈折率材料のみもしくは高屈折率材料のみ、2つ以上の屈折率材料の混合物もしくは多副層、2つ以上の高屈折率材料の混合物もしくは多副層または低屈折率材料と高屈折率材料の混合物もしくは多副層から形成され得る。さらに、誘電層は、高誘電光学スタック/低誘電光学スタックの部分または全体を形成し得、これらは、以下にさらに詳細に議論される。誘電層が誘電光学スタックで部分的に形成される場合、誘電層の残りの部分は、単一材料で形成され得るかまたは種々の材料組み合わせ、および上記のような構成で形成され得る。
【0040】
誘電層のための適切な高屈折率材料の例としては、以下が挙げられる:硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))、二酸化チタン(TiO_(2))、ダイヤモンド様炭素(diamond-like carbon)、酸化インジウム(In_(2)O_(3))、酸化インジウム-スズ(ITO)、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))、酸化セリウム (CeO_(2))、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、酸化ユーロピウム(Eu_(2)O_(3))、(II)二鉄(III)酸化物(Fe_(3)O_(4))、酸化鉄(III)(Fe_(2)O_(3))のような酸化鉄、窒化ハフニウム(HfN)、炭化ハフニウム(HfC)、酸化ハフニウム(HfO_(2))、酸化ランタン(La_(2)O_(3))、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ネオジム(Nd_(2)O_(3))、酸化プラセオジム(Pr_(6)O_(11))、酸化サマリウム(Sm_(2)O_(3))、三酸化アンチモン(Sb_(2)O_(3))、一酸化ケイ素(SiO)、三酸化セレン(Se_(2)O_(3))、酸化スズ(SnO_(2))、三酸化タングステン(WO_(3))、これらの組み合わせなど。
【0041】
誘電層のための適切な低屈折率材料としては、以下が挙げられる:二酸化ケイ素(SiO_(2))、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、フッ化マグネシウム(MgF_(2))、フッ化アルミニウム(AlF_(3))、フッ化セリウム(CeF_(3))、フッ化ランタン(LaF_(3))、フッ化ナトリウムアルミニウム(例えば、Na_(3)AlF_(6)またはNa_(5)Al_(3)Fl_(4))フッ化ネオジム(NdF_(3))、フッ化サマリウム(SmF_(3))、フッ化バリウム(BaF_(2))、フッ化カルシウム(CaF_(2))、フッ化リチウム(LiF)、これらの組み合わせ、または約1.65以下の反射の屈折率を有する、他の任意の低屈折率材料。例えば、有機モノマーおよび有機ポリマーは、低屈折率材料として利用され得、アクリレート(例えば、メタクリレート)、ペルフルオロアルケン、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon)、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、これらの組み合わせのようなジエンまたはアルケンなどを含む。
【0042】
上に列挙された誘電材料のいくつかが典型的には、非化学量論的形態で存在し、しばしば、コーティング層として誘電材料を堆積させるために使用される特異的な方法に依存し、そして、上に列挙された化合物名がおおよその化学両論を示すことが理解されるべきである。例えば、一酸化ケイ素とニ酸化ケイ素は、それぞれ、通常1:1および1:2のケイ素:酸素比を有しているが、特定の誘電コーティング層の実際のケイ素:酸素比は、これらの通常値から変化する。このような非化学両論的誘電材料はまた、本発明の範囲内である。
【0043】
上述のように、誘電層は、高/低誘電光学スタックから形成され得、これは低指数(L)材料および高指数(H)材料の交互層を有する。誘電層が、高/低誘電スタックから形成される場合、角度による色変化は、スタックにおける層の組み合わされた屈折率に依存する。誘電層についての適切なスタック型の例としては、LH、HL、LHL、HLH、HLHL、LHLH、または一般的に(LHL)^(n)もしくは(HLH)^(n)(n=1?100)、ならびに種々のこれらの倍数およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらのスタックにおいて、例えば、LHは、低指数材料および高指数材料の別個の層を示す。代替の実施形態において、高/低誘電スタックは、勾配屈折率で形成される。例えば、スタックは、低?高の段階的指数、高?低の段階的指数、段階的指数[低?高?低]n、段階的指数[高?低?高]n(n=1?100)、ならびにこれらの組み合わせおよびこれらの倍数を有する層で形成され得る。段階的指数は、屈折率における漸移的な分散(例えば、隣接する層の低?高指数、または隣接する層の高?低指数)によって生成される。層の段階的指数は、異なる割合で2つの材料(例えば、LおよびH)を堆積または同時堆積する間にガスを変化することによって生成され得る。種々の高/低光学スタックは、色変化機能を増強するため、誘電層に反射防止特性を提供するため、および本発明のピグメントの可能な色の空間を変化させるために使用され得る。
【0044】
誘電層は、それぞれ同じ材料または異なる材料から構成され得、そしてそれぞれの層について同じかまたは異なる光学的厚さまたは物理学的厚さを有し得る。誘電層が異なる材料から構成されるか、または異なる厚さを有する場合、フレークが、そのそれぞれの側において異なる色を示し、そしてピグメント中のフレークの得られた混合物または塗料の混合物が、2つの色の組み合わせである新しい色を示すことが、理解される。得られた色は、フレークの2つの側に由来する2つの色の添加された色の理論に基づく。フレークの多重度において、得られた色は、観察者に対して配向された異なる側を有するフレークの無作為な分布から得られる2つの色のさらなる合計である。
【0045】
フレーク40の吸収層48、50は、所望の吸収特性を有する任意の吸収材料から構成され得、これらは、電磁スペクトルの可視部分において均一に吸収するか、または不均一に吸収する材料を含む。従って、選択的吸収材料または非選択的吸収材料は、所望の色の特徴に依存して使用され得る。例えば、吸収層は、少なくとも部分的に吸収性であるか、半透明である厚さまで堆積した非選択的吸収金属材料から形成され得、ここで吸収層は、。適切な吸収材料の非制限的な例としては、クロム、アルミニウム、ニッケル、銀、銅、パラジウム、白金、チタン、バナジウム、コバルト、鉄、スズ、タングステン、モリブデン、ロジウム、およびニオブのような金属吸収剤、ならびにその対応する酸化物、硫化物、および炭化物が挙げられる。他の適切な吸収材料としては、炭素、黒鉛、シリコン、ゲルマニウム、サーメット、酸化鉄(III)または他の金属酸化物、誘電マトリクス中で混合された金属、および可視スペクトル中で均一の吸収剤または選択的吸収剤として作用し得る他の物質が挙げられる。上記の吸収材料の種々の組み合わせ、混合物、化合物または合金は、フレーク40の吸収層を形成するために使用され得る。
【0046】
上記の吸収材料の適切な合金の例としては、インコネル(Ni-Cr-Fe)、ステンレス鋼、ハストアロイ(Hastalloy)(例えば、Ni-Mo-Fe;Ni-Mo-Fe-Cr;Ni-Si-Cu)およびチタンベースの合金(例えば、炭素と混合されたチタン(Ti/C)、タングステンと混合されたチタン(Ti/W)、ニオブと混合されたチタン(Ti/Nb)、およびシリコンと混合されたチタン(Ti/Si)ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。上述のように、吸収層はまた、吸収酸化金属、硫化金属、炭化金属、またはこれらの組み合わせから構成され得る。例えば、1つの好ましい吸収硫化材料は、硫化銀である。吸収層について適切な化合物の他の例としては、チタンベースの化合物(例えば、窒化チタン(TiN)、チタンオキシニトリド(TiN_(x)O_(y))、炭化チタン(TiC)、チタンニトリドカーバイド(TiN_(x)C_(z))、チタンオキシニトリドカーバイド(TiN_(x)O_(y)C_(z))、ケイ化チタン(TiSi_(2))、ホウ化チタン(TiB_(2))、およびこれらの組み合わせが挙げられる。TiN_(x)O_(y)およびTiN_(x)O_(y)C_(z)の場合において、好ましくは、x=0?1であり、y=0?1であり、そしてz=0?1であり、ここでTiNxOyにおいてx+y=1であり、そしてTiN_(x)O_(y)C_(z)においてx+y+z=1である。TiN_(x)C_(z)について、好ましくは、x=0?1であり、そしてz=0?1であり、ここでx+y=1である。あるいは、吸収層は、Tiのマトリクス中に堆積されたチタンベース合金から構成され得るか、またはチタンベース合金のマトリクス中に堆積されたTiから構成され得る。
【0047】
吸収層がまた、コバルト-ニッケル合金のような磁性材料から構成され得ることが、当業者によって理解される。これは、要求される材料の数を減少させることによって磁性色変化デバイスまたは構造の製造を単純化する。
【0048】
吸収層は、吸収層材料の光学定数および所望のピークシフト(peak shift)に依存して、約30Å?約500Å、好ましくは約50Å?約150Åの範囲の物理学的厚さを有するように形成される。この吸収層は、それぞれ同じ材料、または異なる材料から構成され得、そしてそれぞれの層について同じ物理学的厚さまたは異なる物理学的厚さを有し得る。」

(エ)【図1】




(オ)【図2】




イ 引用発明
(ア)引用文献1の【0037】には、「RMFは、図1について上記で議論されるとおりであるが、誘電層および吸収層は、以下により詳細に記載される。」と記載されている。したがって、【0037】?【0048】、図2に記載された「磁気色変化ピグメントフレーク」における「RMF」は、【0030】?【0036】、図1に記載された「反射磁気フレーク(「RMF」)」である。
(イ)引用文献1の【0037】における「それぞれは位置され」との記載が、「それぞれ配置され」の誤記であることは、明らかである。
(ウ)引用文献1の【0043】における「低指数」及び「高指数」との記載が、それぞれ、「低屈折率」及び「高屈折率」を意味することは、明らかである。
(エ)そうしてみると、引用文献1には、【0037】?【0048】、図2に記載された「磁気色変化ピグメントフレーク」として、次の発明(「以下「引用発明」という。」)が記載されていると認められる。なお、用語を統一して記載した。

「 反射磁性フレークは、反射層と反対側の反射層との間に配置される磁性層を含み、
第1の誘電層および第2の誘電層は、反射磁性フレークの向かい合う側面にそれぞれ配置され、
第1の誘電層および第2の誘電層は、高/低誘電光学スタックから形成され、低屈折率材料および高屈折率材料の交互層を有し、角度による色変化は、スタックにおける層の組み合わされた屈折率に依存し、
そして第1の吸収層および第2の吸収層は、それぞれ、第1の誘電層および第2の誘電層のそれぞれの上に配置される、
磁性色変化ピグメントフレーク。」

ウ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件優先日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2013-242396号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付与したものである。)。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムとは、光を透過または反射吸収しうるフィルムであり、屈折、複屈折、反射防止、視野角拡大、光拡散、および輝度向上等の光学機能を発揮しうる。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態は、基材上に、膜厚が1?1000nmである光学機能層が少なくとも1層形成されてなる光学フィルムの製造方法に関する。前記製造方法は、高分子を含む塗布液を調製する工程(1)と、前記塗布液を所定の温度および所定の速度で基材上に塗布して塗膜を形成する工程(2)と、を含む。この際、外径6mmのガラス棒を前記塗布液に鉛直方向に3cm浸し、前記所定の温度および前記所定の速度で前記ガラス棒を鉛直方向に引き上げて、前記塗布液から出る曳糸が切れたときの曳糸の長さを5回測定した場合における平均曳糸長さが5cm以下であることを特徴とする。
【0015】
<光学フィルム>
本形態に係る製造方法で製造される光学フィルムは、基材上に、膜厚が1?1000nmである光学機能層が少なくとも1層形成されてなる。当該光学フィルムの製造方法は、高分子を含む塗布液を調製する工程(1)と、前記塗布液を所定の温度および所定の速度で基材上に塗布して塗膜を形成する工程(2)と、を含む。
【0016】
光学フィルムは、光学機能層の組成、構成等によって発揮する機能が異なる。したがって、本発明に係る技術的思想は、適宜公知の事項を参酌することによって、種々の光学フィルム、例えば、赤外遮蔽フィルム、反射防止フィルム、配向フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、輝度向上フィルム、および電磁波シールドフィルム等に用いることができる。以下の説明では、屈折率の異なる屈折率層が積層されてなる赤外遮蔽フィルムについて説明するが、本発明を限定するものではない。なお、赤外遮蔽フィルムは光学フィルムに該当し、屈折率層は光学機能層に該当する。
【0017】
一般に、赤外遮蔽フィルムにおいては、隣接する屈折率層間の屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で赤外反射率を高くすることができるという観点から好ましい。本形態では、隣接する屈折率層間の屈折率差の少なくとも1つが0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。また、前記積層された屈折率層間のすべての屈折率差が上記好適な範囲内にあることが好ましい。ただし、この場合でも、反射層を構成する屈折率層のうち、最表層や最下層に関しては、上記好適な範囲外の構成であってもよい。
【0018】
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、赤外反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと、100層以上の積層が必要となる。このような場合、生産性の低下、積層界面における散乱の増大、透明性の低下、および製造時の故障が生じうる。
【0019】
さらには、本形態の赤外遮蔽フィルムの光学特性として、JIS R3106-1998で示される可視光領域の透過率が50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上であることが好ましく、また、波長900nm?1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
【0020】
赤外遮蔽フィルムは、屈折率層が積層された構成を有することにより、基材の側から、または積層された屈折率層の側から赤外光を照射した場合に、少なくとも赤外光の一部を遮蔽して赤外遮蔽効果を発揮することができる。
【0021】
一実施形態において、前記積層された屈折率層は、高屈折率層および低屈折率層が交互に積層されてなる。積層された高屈折率層および低屈折率層は、それぞれ同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。屈折率層が高屈折率層であるか低屈折率層であるかは、隣接する屈折率層との屈折率の対比によって判断される。具体的には、ある屈折率層を基準層としたとき、当該基準層に隣接する屈折率層が基準層より屈折率が低ければ、基準層は高屈折率層である(隣接層は低屈折率層である)と判断される。一方、基準層より隣接層の屈折率が高ければ、基準層は低屈折率層である(隣接層は高屈折率層である)と判断される。
【0022】
上述のように、高屈折率層であるか低屈折率層であるかは隣接する屈折率層との関係で定まる相対的なものであるが、高屈折率層の屈折率(nH)は1.60?2.50であることが好ましく、1.70?2.50であることがより好ましく、1.80?2.20であることがさらに好ましく、1.90?2.20であることが特に好ましい。一方、低屈折率層の屈折率(nL)は、1.10?1.60であることが好ましく、1.30?1.55であることがより好ましく、1.30?1.50であることがさらに好ましい。なお、各屈折率層の屈折率の値は、以下のように測定した値を採用するものとする。具体的には、支持体上に測定対象となる屈折率層を単層で塗布して得られた塗膜を10cm×10cmに断裁してサンプルを作製する。当該サンプルは、裏面での光の反射を防止するため、測定面とは反対側の面(裏面)を粗面化処理し、黒色スプレーで光吸収処理を行う。このように作製したサンプルを、分光光度計U-4000型(株式会社日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件にて可視領域(400nm?700nm)の反射率を25点測定して平均値を求め、その測定結果より平均屈折率を求める。
【0023】
屈折率層の総層数の範囲としては、生産性の観点から、好ましくは200層以下であり、より好ましくは100層以下であり、さらに好ましくは50層以下である。
【0024】
屈折率層の1層あたりの厚さは、1?1000nmであり、好ましくは20?800nmであり、より好ましくは50?350nmである。
【0025】
<工程(1)>
工程(1)は、高分子を含む塗布液を調製する工程である。
【0026】
赤外遮蔽フィルムの製造においては、通常、塗布液として、高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の少なくとも2種の塗布液を調製する。
【0027】
[塗布液の組成]
塗布液は、高分子を含む。さらに、必要に応じて溶媒、架橋剤、金属酸化物粒子、エマルジョン樹脂、その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
(高分子)
用いられうる高分子としては、特に制限されないが、水溶性高分子が挙げられる。水溶性高分子としては、特に制限されないが、反応性官能基を有するポリマー、変性ポリビニルアルコール、ゼラチン、および増粘多糖類等が挙げられる。なお、本明細書において、「水溶性高分子」とは、水溶性高分子が最も溶解する温度で0.5質量%の濃度となるように水に溶解させた場合において、G2グラスフィルタ(最大細孔40?50μm)でろ過した際にろ別される不溶物の質量が、加えた水溶性高分子の50質量%以内であるものを意味する。
・・・(中略)・・・
【0051】
(溶媒)
本発明で用いられうる溶媒は、特に制限されないが、水、有機溶媒、またはその混合溶媒等が挙げられる。
【0052】
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いてもよい。環境面、操作の簡便性などから、塗布液の溶媒としては、水、または水とメタノール、エタノール、もしくは酢酸エチルとの混合溶媒を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0053】
(架橋剤)
架橋剤は、高分子を硬化させる機能を有する。硬化によって、屈折率層に耐水性が付与されうる。
【0054】
用いられうる架橋剤としては、高分子と硬化反応を起こすものであれば特に制限されない。例えば、高分子が未変性ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである場合には、ホウ酸およびその塩(ホウ素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩)、具体的には、オルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、および八ホウ酸またはそれらの塩を用いることが好ましい。ホウ酸およびその塩は、単独の水溶液でも、また、2種以上を混合して使用してもよく、ホウ酸およびホウ砂の混合水溶液を用いることが特に好ましい。他にも公知の化合物を使用することができ、一般的には高分子と反応しうる基を有する化合物、または樹脂が有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、樹脂の種類に応じて適宜選択して用いられる。架橋剤の具体例としては、例えば、ジグリシジルエチルエ-テル、エチレングリコ-ルジグリシジルエーテル、1,4一ブタンジオ-ルジグリシジルエーテル、1,6-ジグリシジルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロ-ルポリグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ホルムアルデヒド、グリオキザ-ル等のアルデヒド系架橋剤;2,4-ジクロロ-4-ヒドロキシ-1,3,5-S-トリアジン等の活性ハロゲン系架橋剤;1.3.5-トリス-アクリロイル-ヘキサヒドロ-S-トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等の活性ビニル系化合物;アルミニウム明礬等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0057】
(金属酸化物粒子)
用いられうる金属酸化物粒子としては、特に制限されないが、酸化チタン(TiO_(2))、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))、酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、酸化ケイ素(SiO_(2))、フッ化カルシウム(CaF_(2))、フッ化マグネシウム(MgF_(2))、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)等が挙げられる。これらのうち、高屈折率層用塗布液には酸化チタン(TiO_(2))を、低屈折率層用塗布液には酸化ケイ素(SiO_(2))を、それぞれ用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0073】
(その他の添加剤)
本発明に係る屈折率層に適用可能なその他の添加剤を、以下に列挙する。例えば、特開昭57-74193号公報、特開昭57-87988号公報、および特開昭62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、アニオン、カチオン、またはノニオンの各種界面活性剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、マット剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、色素、顔料等の公知の各種添加剤などが挙げられる。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、引用文献2には、「高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液の少なくとも2種の塗布液を調製した赤外遮蔽フィルムであって、塗布液は、高分子、溶媒、高分子を硬化させる機能を有する架橋剤、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含むこと」(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。

エ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本件優先日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載した、国際公開第2016/076333号(以下、同じく「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付与したものである。)。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、光学反射フィルムの製造方法に関する。
・・・(中略)・・・
発明の概要
[0005] しかしながら、同時重層塗布法では、粘度の互いに異なる低屈折率層用塗布液および高屈折率層用塗布液を同時に積層するため、積層数が増えるにつれて膜厚が変動するという問題があった。また、膜厚の変動に起因して、光学反射フィルムの反射角度によって色差が生じるという外観上の問題もあった。かかる膜厚の変動および色差について、上記の従来技術はいまだ改善の余地があった。
[0006] 本発明は、膜厚の変動およびそれに起因する色差を低減できる、光学反射フィルムの製造方法を提供することを目的とする。」

(イ)「発明を実施するための形態
・・・(中略)・・・
[0017] [赤外遮蔽フィルム]
本発明の一実施形態に係る赤外遮蔽フィルムの構成は、特に制限されないが、基材フィルムと、高屈折率層および低屈折率層から構成されるユニットの少なくとも1つ含み、高屈折率層と低屈折率層との合計が10?40層となるようにし、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された交互積層体の形態を有することがより好ましい。なお、本明細書中、他方に対して屈折率の高い屈折率層を高屈折率層と称し、他方に対して屈折率の低い屈折率層を低屈折率層と称する。
・・・(中略)・・・
[0020] 本発明に用いる金属酸化物粒子としては,特に制限されないが,酸化チタン(TiO2),酸化亜鉛(ZnO),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化ニオブ(Nb2O5),酸化アルミニウム(Al2O3),酸化ケイ素(SiO2),酸化インジウムスズ(ITO),酸化アンチモンスズ(ATO)等が挙げられる。これらのうち,高屈折率層用塗布液に含まれる第2の金属酸化物粒子として酸化チタン(TiO2)または酸化ジルコニウムを,低屈折率層用塗布液に含まれる第1の金属酸化物粒子として酸化ケイ素(SiO2)を,それぞれ用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
[0033] 本形態に係る赤外遮蔽フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の表面(好ましくは両面)、基材フィルムの下または基材フィルムと反対側の最表面層の上に、さらなる機能の付加を目的として、導電性層、帯電防止層、ガスバリア層、易接着層(接着層)、防汚層、消臭層、流滴層、易滑層、ハードコート層、耐摩耗性層、反射防止層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、赤外吸収層、印刷層、蛍光発光層、ホログラム層、剥離層、粘着層、接着層、本発明の高屈折率層および低屈折率層以外の赤外線カット層(金属層、液晶層)、着色層(可視光線吸収層)、合わせガラスに利用される中間膜層などの機能層の1つ以上を有していてもよい。
[0034] [赤外遮蔽フィルムの製造方法]
本発明で用いられる塗布液は、スライドホッパー型塗布装置を用いた同時重層塗布によって塗布される。その際、スライド面上において高屈折率用塗布液と低屈折率用塗布液とを積層し、基材フィルムへ塗布することにより高屈折率層と低屈折率層とが形成される。一実施形態としては、以下の調製工程、循環工程、供給工程を経て、同時重層塗布工程が実施される。
[0035] <調製工程>
調製工程においては、赤外遮蔽フィルムの高屈折率層および低屈折率層を形成する塗布液をそれぞれ調製する。一実施形態の調製工程は、調製釜、送液装置および濾過装置を用いて実施される。
・・・(中略)・・・
[0039](塗布液)
本発明においては、低屈折率層用塗布液および高屈折率層用塗布液としては、塗布後に塗膜をセットさせて層間の混合を抑制できるという点から、ポリビニルアルコール類などの水溶性樹脂(水溶性高分子)と、水または水と下記の有機溶媒(特には、水溶性有機溶剤)とを含む水系溶媒とを含む水系塗布液を用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
[0062](添加剤)
本発明に係る低屈折率層用塗布液および高屈折率層用塗布液には、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。以下、添加剤について説明する。
[0063](硬化剤)
本発明に係る低屈折率層用塗布液および高屈折率層用塗布液においては、硬化剤を添加することが好ましい。硬化剤の例としては、例えば、上記の水溶性高分子として好適なポリビニルアルコールと硬化反応を起こす硬化剤が挙げられる。具体的には、ホウ酸および/またはその塩が好ましい。ホウ酸および/またはその塩以外にも公知のものが使用でき、一般的にはポリビニルアルコール類と反応し得る基を有する化合物あるいはポリビニルアルコール類が有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、適宜選択して用いられる。ホウ酸および/またはその塩以外の硬化剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬化剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ジグリシジルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬化剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬化剤(2,4-ジクロロ-4-ヒドロキシ-1,3,5-s-トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5-トリスアクリロイル-ヘキサヒドロ-s-トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、アルミニウム明礬等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0069] (その他の添加剤)
本発明に係る高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液に添加可能な各種の添加剤を、以下に列挙する。例えば、特開昭57-74193号公報、特開昭57-87988号公報、および特開昭62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号、特開昭57-87989号公報、特開昭60-72785号公報、特開昭61-146591号公報、特開平1-95091号公報、および特開平3-13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、特開昭59-52689号公報、特開昭62-280069号公報、特開昭61-242871号公報、および特開平4-219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、マット剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、滑剤、赤外線吸収剤、色素、顔料等の公知の各種添加剤などが挙げられる。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、引用文献3には、「高屈折率用塗布液と低屈折率用塗布液とを積層し、基材フィルムへ塗布することにより高屈折率層と低屈折率層とが形成される、赤外遮蔽フィルムであって、高屈折率層用塗布液および低屈折率層用塗布液は、水溶性高分子、水と又は水と水溶性有機溶剤、水溶性高分子と硬化反応を起こす硬化剤、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含むこと」(以下「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されている。

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 磁性体含有層、反射体層
引用発明の「磁性層」は、「反射層と反対側の反射層との間に配置される」。
ここで、引用発明の「磁性層」及び「反射層」は、その文言が意味するとおりのものである。さらに、引用発明の「磁性層」が、「反射層」側の表面と、「反射層」側の表面に対向する「反対側の反射層」側の表面を有することは、明らかである。また、上記の配置からみて、引用発明の「反射層」は、「磁性層」の「反射層」側の表面の外側にあるとともに、引用発明の「反対側の反射層」は、「磁性層」の「反対側の反射層」側の表面の外側にある。加えて、引用発明の「磁性層」の2つの表面並びに「反射層」及び「反対側の反射層」を、序数詞(「第1」及び「第2」)を付して区別することは随意である。
そうしてみると、引用発明の「磁性層」は、本件補正後発明の「第1の表面、および、前記第1の表面に対向する第2の表面を有する」とされる、「磁性体含有層」に相当する。また、引用発明の「反射層」は、本件補正後発明の「前記磁性体含有層の前記第1の表面の外側にある」とされる、「第1の反射体層」に相当する。さらに、引用発明の「反対側の反射層」は、本件補正後発明の「前記磁性体含有層の第2の面の外側にある」とされる、「第2の反射体層」に相当する。

イ 選択的光変調体層
引用発明の「反射磁性フレーク」は、「反射層と反対側の反射層との間に配置される磁性層を含」む。また、引用発明の「第1の誘電層および第2の誘電層」は、「反射磁性フレークの向かい合う側面にそれぞれ配置され」、「高/低誘電光学スタックから形成され、低屈折率材料および高屈折率材料の交互層を有し、角度による色変化は、スタックにおける層の組み合わされた屈折率に依存」する。
ここで、上記の構成が奏する機能からみて、引用発明の「第1の誘電層」及び「第2の誘電層」は、「低屈折率材料」及び「高屈折率材料」の屈折率及び膜厚並びに光の角度に応じた、所定の波長の光を透過/反射する性質、すなわち選択的に光を変調する性質を具備するといえる。加えて、「第1の誘電層」及び「第2の誘電層」の位置関係等についても、前記アと同様の対比を行うことができる。
そうしてみると、引用発明の「第1の誘電層」は、本件補正後発明の、「前記第1の反射体層の外側にある」とされる、「第1の選択的光変調体層」に相当する。また、引用発明の「第2の誘電層」は、本件補正後発明の、「前記第2の反射体層の外側にある」とされる、「第2の選択的光変調体層」に相当する。

ウ 吸収体層
引用発明の「第1の吸収層および第2の吸収層」は、「それぞれ、第1の誘電層および第2の誘電層のそれぞれの上に配置される」ものである。
引用発明の「吸収層」は、その文言が意味するとおりおりのものである。また、「第1の吸収層」及び「第2の吸収層」の位置関係等についても、前記アと同様の対比を行うことができる。
そうしてみると、引用発明の「第1の吸収層」は、本件補正後発明の「前記第1の選択的光変調体層の外側にある」とされる、「第1の吸収体層」に相当する。また、引用発明の「第2の吸収層」は、本件補正後発明の「前記第2の選択的光変調体層の外側にある」とされる、「第2の吸収体層」に相当する。

エ 物品
上記ア?ウの対比結果並びに本件補正後発明と引用発明の全体構成からみて、引用発明の「磁性色変化ピグメントフレーク」は、本件補正後発明の「物品」に相当する。また、引用発明の「磁性色変化ピグメントフレーク」は、本件補正後発明の「物品」における、「磁性体含有層と;」「第1の反射体層と;」「第2の反射体層と;」「第1の選択的光変調体層と;」「第2の選択的光変調体層と;」「第1の吸収体層と;」「第2の吸収体層とを備え」という要件を満たす。

(4)一致点・相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「 第1の表面、および、前記第1の表面に対向する第2の表面を有する磁性体含有層と;
前記磁性体含有層の前記第1の表面の外側にある第1の反射体層と;
前記磁性体含有層の第2の面の外側にある第2の反射体層と;
前記第1の反射体層の外側にある第1の選択的光変調体層と;
前記第2の反射体層の外側にある第2の選択的光変調体層と;
前記第1の選択的光変調体層の外側にある第1の吸収体層と;
前記第2の選択的光変調体層の外側にある第2の吸収体層とを備える、物品。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点)
「前記第1の選択的光変調体層および前記第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つ」が、本件補正後発明は、「硬化剤、および、コーティング助剤を含む」のに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
引用文献1の【0041】には、「誘電層のための適切な低屈折率材料として」、「有機ポリマー」が記載されている。
ここで、「高屈折率層と低屈折率層とが形成される、光学部材であって、屈折率層が、高分子、溶剤、高分子を硬化させる機能を有する硬化剤、及び消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含むこと」は、周知技術である(引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項からも、確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明の「第1の誘電層」及び「第2の誘電層」の少なくとも1つにおいて、低屈折率材料を有機ポリマーとし、有機ポリマーの硬化剤や添加剤として、架橋剤(本件補正後発明でいう「硬化剤」)、及び消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤(本件補正後発明でいう「コーティング助剤」)を添加することは、当業者が容易に発明をすることができた事項である。
あるいは、引用発明の「低屈折率材料および高屈折率材料の交互層」は、種々の材料の組み合わせで形成して良いと理解されるところ(当合議体注:引用文献1の【0039】参照。)、この層を、例えば、引用文献2の【0057】及び引用文献3の[0020]に例示されるような、有機ポリマー及び酸化物金属粒子からなる層により形成した場合においても、やはり、有機ポリマーの硬化剤や添加剤として、架橋剤(本件補正後発明でいう「硬化剤」)、及び消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤(本件補正後発明でいう「コーティング助剤」)を添加することは、当業者が容易に発明をすることができた事項である。

(6)効果
本件補正後発明の効果に関して、本願明細書の【0002】には、「(i)強い色を有し、(ii)ゴニオクロマチックであり、かつ、(iii)高いフロップ性(すなわち、観察角度が変化するにつれて明度、色相または色度が変化する鏡面的な・金属的な外観)を有することができる」、また、【0033】には、「光学的効果が、厚さの変動に対して比較的非感受的である」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明及び周知技術から予測される範囲内のものである。

(7)審判請求人の主張
審判請求人は、令和元年11月7日に提出された審判請求書において、「当業者は、引用文献2および3に記載の塗布液やフィルム、および引用文献4に記載の酸化鉄粒子に着目して、引用文献1に記載の物品を変えようとは考えません。具体的には、引用文献1?4の組み合わせは、引用文献1に記載の物品において硬化剤およびコーティング助剤を含ませることは教示も示唆もしておらず、ましてや当業者にそのようにさせる動機づけはありません。」と主張している。
しかしながら、上記(5)で述べたとおり、上記主張を採用することはできない。

(8)上申書について
審判請求人は、令和2年5月12日に提出された上申書において、請求項1において「第1の選択的光変調体層および第2の選択的光変調体層のうちの少なくとも1つが、ホスフィンオキシドを含む光開始剤を含むこと」を特定すること、請求項9において「酸素阻害緩和組成物が、少なくとも1つのアクリレートモノマーおよび少なくとも1つのアクリレートオリゴマーを含むこと」を特定する補正案を示している。
しかしながら、ホスフィンオキシドを含む光開始剤、少なくとも1つのアクリレートモノマーおよび少なくとも1つのアクリレートオリゴマーを含む酸素阻害緩和組成物は、いずれも周知技術であり、上記補正案の請求項1に係る発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、審判請求人の上申書における上記補正案を採用することはできない。

(9)小括
本件補正後発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記「令和元年11月7日付けの手続補正書による手続補正についての補正却下の決定」[結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明の原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2005-509691号公報
引用文献2:特開2013-242396号公報
引用文献3:国際公開第2016/076333号
(当合議体注:引用文献1は、主引用例である。引用文献2?3は、いずれも周知技術を示す文献である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載、引用発明、引用文献2及び引用文献3の記載は、前記第2[理由]2(2)アないしエに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、前記第2[理由]2で述べた限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を限定した本件補正後発明が、前記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記第2[理由]2に記載した理由と同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-29 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-17 
出願番号 特願2017-124435(P2017-124435)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
発明の名称 磁性物品  
代理人 杉村 憲司  

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