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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1367909
審判番号 不服2020-2279  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-19 
確定日 2020-12-01 
事件の表示 特願2016-140762「タグ読取装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月18日出願公開,特開2018- 10595,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年7月15の出願であって,令和1年7月5日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年8月30日に意見書と補正書が提出され,令和1年11月20日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和1年11月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1-6に係る発明は,以下の引用文献1-3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-129652号公報
2.特開2009-129072号公報
3.特開2016-62160号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,令和2年2月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
パッシブ型のRFID(Radio Frequency Identifierの略)タグに記憶されているデータを読み取るタグ読取装置であって、
電波を送信する送信部と、
前記送信部から送信された前記電波に応じて前記RFIDタグから送信される応答信号を受信する受信部と、
前記受信部によって受信される前記応答信号に基づいて、前記RFIDタグに記憶されている前記データを読み取る制御部と、
読み取られた前記データを記憶するためのメモリと、
を備えており、
前記制御部は、
単位時間当たりに特定のRFIDタグに記憶されている特定のデータが読み取られた回数が読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて設定される回数閾値以上である特定の場合には、前記タグ読取装置との距離が比較的小さく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲内に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させ、
単位時間当たりに前記特定のデータが読み取られた回数が前記回数閾値より少ない場合には、前記タグ読取装置との距離が比較的大きく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲外に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させないことにより、ユーザの意図する前記読取対象範囲外に存在するRFIDタグに記憶されているデータが読み取られてしまうことを抑制する、
タグ読取装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記特定の場合であり、かつ、前記特定のRFIDタグから特定の応答信号が受信される際の受信信号強度が強度閾値以上である場合には、前記特定のデータを前記メモリに記憶させ、
前記受信信号強度が前記強度閾値よりも小さい場合には、前記特定のデータを前記メモリに記憶させない、
請求項1に記載のタグ読取装置。
【請求項3】
前記特定のRFIDタグから受信される特定の応答信号は、前記特定のRFIDタグの種類を示す種類情報を含み、
前記制御部は、
前記種類情報が第1の種類を示す場合には、第1の回数閾値を用い、
前記種類情報が前記第1の種類と異なる第2の種類を示す場合には、第2の回数閾値を用いる、
請求項1又は2に記載のタグ読取装置。
【請求項4】
前記制御部は、第1の読取レベルと、前記第1の読取レベルとは異なる第2の読取レベルと、を含む複数の読取レベルのうちのいずれか一つの読取レベルに従って動作可能であり、
前記第1の読取レベルに従って動作している場合には、第3の回数閾値を用い、
前記第2の読取レベルに従って動作している場合には、第4の回数閾値を用いる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタグ読取装置。
【請求項5】
前記特定の応答信号は、前記特定のRFIDタグの種類を示す種類情報を含み、
前記制御部は、
前記種類情報が第1の種類を示す場合には、第1の回数閾値及び第1の強度閾値を用い、
前記種類情報が前記第1の種類と異なる第2の種類を示す場合には、第2の回数閾値及び第2の強度閾値を用いる、
請求項2に記載のタグ読取装置。
【請求項6】
前記制御部は、第1の読取レベルと、前記第1の読取レベルとは異なる第2の読取レベルと、を含む複数の読取レベルのうちのいずれか一つの読取レベルに従って動作可能であり、
前記第1の読取レベルに従って動作している場合には、第3の回数閾値及び第3の強度閾値を用い、
前記第2の読取レベルに従って動作している場合には、第4の回数閾値及び第4の強度閾値を用いる、
請求項2又は5に記載のタグ読取装置。」


第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
ア 本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2008-129652号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

a 「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施とするための最良の形態について、図面を用いて説明する。
なお、この実施の形態は、各物品にそれぞれ付与された無線通信媒体の識別情報(ID)を無線通信装置によって非接触で読取ることにより、その識別情報から当該無線通信媒体が付与された物品を認識する物品認識システムに本発明を適用した場合であり、説明の便宜上、各物品にそれぞれ付される無線通信媒体をRFIDタグと称し、無線通信装置をタグリーダ・ライタと称する。
【0014】
図1は本実施の形態におけるタグリーダ・ライタの要部構成を示すブロック図である。タグリーダ・ライタは、リーダ・ライタ本体10と、該リーダ・ライタ本体10に取り付けられたアンテナ20とから構成されている。アンテナ20は、送信時に高周波信号を電波として放射し、受信時は電波を高周波信号に変換する働きをする。アンテナ20から放射された電波は、各商品にそれぞれ付されて使用されるRFIDタグ30に到達し、各RFIDタグ30で受信される。アンテナ20の交信領域は、伝送方式,アンテナ形状等によって定められる。
【0015】
各RFIDタグ30は、それぞれ固有のIDを識別情報として記憶している。各RFIDタグ30は、タイムスロット方式のアンチコリジョン機能に対応したものである。
【0016】
リーダ・ライタ本体10は、タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を実装したもので、インターフェイス部11、変調部12,送信アンプ13,サーキュレータ14,受信アンプ15,復調部16,メモリ部17及び各部を制御する制御部18等で構成されている。
【0017】
インターフェイス部11は、外部接続されるホスト機器と制御部18との間で行われるデータ通信を中継する。変調部12は、制御部18から与えられる送信データを高周波信号に変調して送信アンプ13に出力する。送信アンプ13は、変調部12にて変調された高周波信号を増幅してサーキュレータ14に出力する。サーキュレータ14は、送信アンプ13にて増幅された変調波信号をアンテナ20側に出力する。また、アンテナ20で受信した高周波信号を受信アンプ15側に出力する。受信アンプ15は、サーキュレータ14側から入力された高周波信号を増幅して復調部16に出力する。復調部16は、受信アンプ15にて増幅された高周波信号を復調して受信データに変換し、制御部18に出力する。制御部18は、復調部16にて復調された受信データに基づき、RFIDタグ30のデータを読み込む。
【0018】
メモリ部17は、各種の設定データや可変的なデータを記憶するための領域である。本実施の形態では、特に図2に示すように、読取サイクル回数X、読取正常判定回数Y及びスロット設定数Zの各種設定データを記憶する設定データテーブル41と、図3に示すように、サイクル回数i、読取情報数j、スロット数k及び重複読取数mの各種カウントデータを計数するカウンタテーブル42と、図4に示すように、読取サイクル回数Xに相当する個数の読取バッファ(READBUF[1]?READBUF[X])を備えたワークテーブル43とが形成されている。
【0019】
各読取バッファ(READBUF[1]?READBUF[X])は、それぞれ“1”からの連続番号順にRFIDタグ30から読取ったタグデータを確定フラグFと関連付けて記憶するエリアである。なお、確定フラグFは、対応するタグデータが確定済か否かを識別するための情報であって、本実施の形態では、確定済でないときを“0”とし、確定済のときを“1”とする。ここに、ワークテーブル43は、無線通信媒体(RFIDタグ30)から読取ったデータを記憶する記憶部として機能する。」

b 「【0047】
図7はリーダ・ライタ本体10と、そのアンテナ20の交信領域内に存在する6個のRFIDタグ(RFID1?RFID6)との間で送受される信号の一例を1サイクル分のみ示したタイミング図であり、図中左から右に時間が経過している。
【0048】
リーダ・ライタ本体10は、先ず、サイクル開始信号startにより各RFID1?RFID6に対して割当スロット数を指定する。図2の場合は、割当スロット数“8”を指定する。すると、各各RFID1?RFID6は、スロット番号s1?s8の8つのタイムスロットのうちのいずれか1つのタイムスロットを選択して、自身の識別情報(ID)をタグリーダ・ライタに伝送しようとする。
【0049】
図7の場合、先ず、RFID1がスロット番号s1のタイムスロットを選択して識別情報ID1を伝送している。次いで、2つのRFID2及びRFID4がスロット番号s2のタイムスロットを選択して各々の識別情報ID2及びID4を伝送している。次いで、RFID3がスロット番号s4のタイムスロットを選択して識別情報ID3を伝送している。次いで、RFID5がスロット番号s5のタイムスロットを選択して識別情報ID5を伝送し、さらにRFID6がスロット番号s6のタイムスロットを選択して識別情報ID6を伝送している。なお、残りのスロット番号s3,s7及びs8の3つのタイムスロットを選択して識別情報を伝送するRFIDは存在していない。
【0050】
この場合、スロット番号s1,s4,s5及びs6の各タイムスロットが読取成功スロットとなり、割当スロット番号s2のタイムスロットが衝突スロットとなり、割当スロット番号s3,s7,s8の各タイムスロットが空スロットとなる。
【0051】
したがって、1サイクルを終了した時点(k>Z)では、読取バッファREADBUF[1]には、RFID1の識別情報ID1と、RFID3の識別情報ID3と、RFID5の識別情報ID5と、RFID6の識別情報ID6とが記憶されている。
【0052】
この信号送受信サイクルは、読取サイクル回数Xだけ繰り返される。そして、1サイクルが繰り返される都度、その時点のサイクル回数iに対応した読取バッファREADBUF[i]には、読取成功スロットから読取ったRFIDの識別情報が記憶される。
【0053】
今、読取サイクル回数Xと読取正常判定回数Yがいずれも“2”であり、RFID1の識別情報ID1と、RFID3の識別情報ID3と、RFID5の識別情報ID5が“2”以上の読取バッファREADBUF[1]とREADBUF[2]にそれぞれ記憶されていたとする。この場合、RFID1,RFID3及びRFID5の3つのRFIDタグ30の各識別情報ID1,ID3及びID5は読取データとして確定され、ホスト機器に送信される。これに対し、RFID6の識別情報ID6は、読取バッファREADBUF[1]の値とREADBUF[2]の値とで異なっていたとする。例えば複数のビット化けにより偶然的にCRC値が合ってしまった場合、このような事象が発生する。このような場合、本実施の形態では、RFID6の識別情報ID6は読取データとして確定されない。
【0054】
このように、本実施の形態によれば、RFIDタグ30から同一の識別情報が複数の読取判定回数Y以上読取られた場合にその識別情報を読取データとして確定し、ホスト機器に送信するようにしたので、電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい、偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても、この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され、ホスト機器に送信されることはない。したがって、タグリーダ・ライタの信頼性を高めることができる。」

c 「



d 「図7



イ 上記aないしdの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「各物品にそれぞれ付与されたRFIDタグの識別情報(ID)を非接触で読取るタグリーダ・ライタであって,
タグリーダ・ライタは,リーダ・ライタ本体10と,該リーダ・ライタ本体10に取り付けられたアンテナ20とから構成され,また,各RFIDタグ30は,それぞれ固有のIDを識別情報として記憶しており,
リーダ・ライタ本体10は,タイムスロット方式のアンチコリジョン機能を実装したもので,インターフェイス部11,変調部12,送信アンプ13,サーキュレータ14,受信アンプ15,復調部16,メモリ部17及び各部を制御する制御部18等で構成されており,
変調部12は,制御部18から与えられる送信データを高周波信号に変調して送信アンプ13に出力し,送信アンプ13は,変調部12にて変調された高周波信号を増幅してサーキュレータ14に出力し,さらに,サーキュレータ14は,送信アンプ13にて増幅された変調波信号をアンテナ20側に出力するものであり,
また,アンテナ20で受信した高周波信号を受信アンプ15側に出力し,受信アンプ15は,サーキュレータ14側から入力された高周波信号を増幅して復調部16に出力し,復調部16は,受信アンプ15にて増幅された高周波信号を復調して受信データに変換し,制御部18に出力するものであり,
メモリ部17は,各種の設定データや可変的なデータを記憶するための領域であって,読取サイクル回数Xに相当する個数の読取バッファ(READBUF[1]?READBUF[X])を備えたワークテーブル43が形成されており,各読取バッファ(READBUF[1]?READBUF[X])には,それぞれ“1”からの連続番号順にRFIDタグ30から読取ったタグデータを確定フラグFと関連付けて記憶するものであり,
制御部18は,復調部16にて復調された受信データに基づき,RFIDタグ30のデータを読み込むものであって,
リーダ・ライタ本体10と,そのアンテナ20の交信領域内に存在する6個のRFIDタグ(RFID1?RFID6)との間で信号を送受する場合において,リーダ・ライタ本体10が,先ず,サイクル開始信号startにより各RFID1?RFID6に対して割当スロット数“8”を指定すると,各RFID1?RFID6が,スロット番号s1?s8の8つのタイムスロットのうちのいずれか1つのタイムスロットを選択して,自身の識別情報(ID)をタグリーダ・ライタに伝送する,この信号送受信サイクルを,読取サイクル回数Xだけ繰り返し,1サイクルが繰り返される都度,その時点のサイクル回数iに対応した読取バッファREADBUF[i]に,読取成功スロットから読取ったRFIDの識別情報を記憶するようにした際に,読取サイクル回数Xと読取正常判定回数Yがいずれも“2”であり,RFID1の識別情報ID1と,RFID3の識別情報ID3と,RFID5の識別情報ID5が“2”以上の読取バッファREADBUF[1]とREADBUF[2]にそれぞれ記憶されていたとすると,RFID1,RFID3及びRFID5の3つのRFIDタグ30の各識別情報ID1,ID3及びID5は読取データとして確定し,ホスト機器に送信し,これに対し,RFID6の識別情報ID6は,読取バッファREADBUF[1]の値とREADBUF[2]の値とで異なっていたとすると,RFID6の識別情報ID6は読取データとして確定しないようにして,RFIDタグ30から同一の識別情報が複数の読取判定回数Y以上読取られた場合にその識別情報を読取データとして確定し,ホスト機器に送信することで,電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい,偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても,この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され,ホスト機器に送信されることがない,
タグリーダ・ライタ。」


2 引用文献2について
本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-129072号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0034】
実施の形態2.
本実施の形態に係る移動物通過順序識別システムは、管理対象物品の進入を検知するセンサと連携したリーダライタ装置にて読取ったICタグごとに、ICタグからの応答信号受信時の受信信号強度と読取り回数を測定し、これらの値を分析することで、仮にマルチパス等が原因で読取り対象以外の物品のICタグも同時に誤って読取られた場合でも、読取られたこれら複数のICタグの中から、読取り対象物品のICタグを正確に識別することが可能となる。
そして、これによりベルトコンベアなどで搬送されてくる物品を、搬送される順番通りに識別し、後工程の仕分け作業などに正確な情報を伝えることが可能となる。」

b 「【0043】
図12は、本実施の形態においてゲート通過中のICタグ(前記ICタグ6-1)を識別するための一連の動作を表すフローチャートである。
以下に図12を用いたゲート通過中のICタグ(ICタグ6-1)を識別するための処理フローについて説明する。
・・・中略・・・
【0051】
(8)ゲート通過ICタグ識別ステップ(識別情報特定ステップ)
次に、読取ったICタグごと(IDごと)の受信信号強度と読取り回数をもとに、ゲートを通過したICタグを識別するステップ(図12 ステップS209-210)について説明する。
ステップS209では、受信信号強度/読取り回数解析部3eにて各ICタグの受信信号強度と読取り回数の分析を行う。
図11に示すとおり、ゲートを通過したICタグ(図11のICタグ(1))は最もアンテナにおけるタグ読取り有効範囲の近傍を通過するため受信信号強度が高く、またゲート進入センサによりリーダライタ装置の読取りタイミングとICタグの通過タイミングが同期しているため読取り回数が多い。
一方、その他のICタグ(図11のICタグ(2)?ICタグ(5))は、アンテナにおける読取り有効範囲から離れているため受信信号強度が低い、
また、リーダライタ装置1の読取りタイミングとゲートへの通過タイミングが同期していないため読取り回数が少なくなる。
よって、受信信号強度/読取り回数解析部3eは、閾値記憶部3fに記憶されている受信信号強度と読取り回数との関連からゲート通過中のICタグを識別するための閾値を用いて、閾値を超えるICタグをゲート通過中のICタグと判断し、ステップS210に進む。」

c 「図12



3 引用文献3について
本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2016-62160号公報(以下,これを「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0051】
また、RSSI値および送信パラメータに加えてRFIDタグの種類に基づいて、RFIDタグ50までの距離(通信距離X)が推定される。RFIDタグ50の種類(タグ感度,タグ変換損失,タグアンテナ利得等)に応じてRSSI値が多少変化するため、RFIDタグ50の種類をも加味してRFIDタグ50までの距離(通信距離X)を推定することで、推定精度を向上させることができる。」

b 「図7




第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「RFIDタグ」と,本願発明1の「パッシブ型のRFID(Radio Frequency Identifierの略)タグ」とは,後述の点で相違するものの,“RFID(Radio Frequency Identifierの略)タグ”の点で共通する。
また,引用発明の「タグリーダ・ライタ」は,「RFIDタグの識別情報(ID)を非接触で読取る」ものであって,また,固有のIDである「識別情報」はRFIDに記憶されているものであるから,本願発明1の「RFID(Radio Frequency Identifierの略)タグに記憶されているデータを読み取るタグ読取装置」に相当する。

(イ)引用発明では「変調部12は,制御部18から与えられる送信データを高周波信号に変調して送信アンプ13に出力し,送信アンプ13は,変調部12にて変調された高周波信号を増幅してサーキュレータ14に出力し,さらに,サーキュレータ14は,送信アンプ13にて増幅された変調波信号をアンテナ20側に出力するものであ」って,また,引用発明の「変調部12」,「送信アンプ13」,「サーキュレータ14」,及び「アンテナ20」は,「タグリーダ・ライタ」の「リーダ・ライタ本体10」が備えるものであるから,引用発明の「変調部12」,「送信アンプ13」,「サーキュレータ14」,及び「アンテナ20」は,本願発明1の「タグ読取装置」が備える「電波を送信する送信部」に相当する。

(ウ)また,引用発明では「アンテナ20で受信した高周波信号を受信アンプ15側に出力し,受信アンプ15は,サーキュレータ14側から入力された高周波信号を増幅して復調部16に出力し,復調部16は,受信アンプ15にて増幅された高周波信号を復調して受信データに変換し制御部18に出力するもので」あって,また,引用発明の「アンテナ20」,「サーキュレータ14」,及び「復調部16」は「タグリーダ・ライタ」の「リーダ・ライタ本体10」が備えるものである。
そして,引用発明は「リーダ・ライタ本体10が,先ず,サイクル開始信号startにより各RFID1?RFID6に対して割当スロット数“8”を指定すると,各RFID1?RFID6が,スロット番号s1?s8の8つのタイムスロットのうちのいずれか1つのタイムスロットを選択して,自身の識別情報(ID)をタグリーダ・ライタに伝送する」ものであるから,引用発明の「受信した高周波信号」は,「タグリーダ・ライタ」から送信された電波に応じて「RFIDタグ」が送信した信号であることは明らかである。
してみれば,引用発明の「受信した高周波信号」は,本願発明1の「応答信号」に相当し,そして,引用発明の「タグリーダ・ライタ」が備える「アンテナ20」,「サーキュレータ14」,及び「復調部16」は,本願発明1の「タグ読取装置」が備える「前記送信部から送信された前記電波に応じて前記RFIDタグから送信される応答信号を受信する受信部」に相当する。

(エ)引用発明の「制御部18」には,「復調部16」から「高周波信号を復調して」変換した「受信データ」が出力されるものであって,また,「受信データ」には「RFIDタグの識別情報(ID)」が含まれることは明らかである。さらに,引用発明の「RFIDタグ30から同一の識別情報が複数の読取判定回数Y以上読取られた場合にその識別情報を読取データとして確定」する処理を,「制御部18」が行っていることも明らかであり,「制御部18」は,「RFIDタグの識別情報(ID)」を読み取っていると認められる。
してみれば,引用発明の「制御部18」は,本願発明1の「タグ読取装置」が備える「前記受信部によって受信される前記応答信号に基づいて,前記RFIDタグに記憶されている前記データを読み取る制御部」に相当する。

(オ)引用発明の「メモリ部17」には,「RFIDタグ30から読取ったタグデータを」「記憶する」,「読取サイクル回数Xに相当する個数の読取バッファ(READBUF[1]?READBUF[X])を備えたワークテーブル43が形成されるものであ」るから,引用発明の「タグリーダ・ライタ」が備える「メモリ部17」は,本願発明1の「タグ読取装置」が備える「読み取られた前記データを記憶するためのメモリ」に相当する。

(カ)引用発明の「タグリーダ・ライタ」は,「読取サイクル回数Xと読取正常判定回数Yがいずれも“2”であり,RFID1の識別情報ID1と,RFID3の識別情報ID3と,RFID5の識別情報ID5が“2”以上の読取バッファREADBUF[1]とREADBUF[2]にそれぞれ記憶されていたとすると,RFID1,RFID3及びRFID5の3つのRFIDタグ30の各識別情報ID1,ID3及びID5は読取データとして確定し,ホスト機器に送信し,これに対し,RFID6の識別情報ID6は,読取バッファREADBUF[1]の値とREADBUF[2]の値とで異なっていたとすると,RFID6の識別情報ID6は読取データとして確定しないようにして,RFIDタグ30から同一の識別情報が複数の読取判定回数Y以上読取られた場合にその識別情報を読取データとして確定し,ホスト機器に送信することで,電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい,偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても,この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され,ホスト機器に送信されることがない」ようにする処理を行うものであって,また,この処理を「タグリーダ・ライタ」の「制御部18」が行っていることは明らかである。
また,引用発明の「RFID1」,「RFID3」,「RFID5」,及び「RFID6」は,特定のRFIDタグといえ,さらに,引用発明の「RFID1の識別情報ID1」,「RFID3の識別情報ID3」,「RFID5の識別情報ID5」,及び「RFID6の識別情報ID6」は,特定のRFIDタグに記憶されている特定のデータといえる。
そして,引用発明の「読取正常判定回数Y」は,RFIDタグ30から同一の識別情報が読取られた回数が該「読取正常判定回数Y」以上の場合にその識別情報を読取データとして確定する回数であり、識別情報を読取データとして確定するための回数による閾値といえることから,本願発明1の「読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて設定される回数閾値」とは,後述の点で相違するものの,“回数閾値”の点で共通する。
してみれば,引用発明の「読取サイクル回数Xと読取正常判定回数Yがいずれも“2”であり,RFID1の識別情報ID1と,RFID3の識別情報ID3と,RFID5の識別情報ID5が“2”以上の読取バッファREADBUF[1]とREADBUF[2]にそれぞれ記憶されていたとすると,RFID1,RFID3及びRFID5の3つのRFIDタグ30の各識別情報ID1,ID3及びID5は読取データとして確定し,ホスト機器に送信し,これに対し,RFID6の識別情報ID6は,読取バッファREADBUF[1]の値とREADBUF[2]の値とで異なっていたとすると,RFID6の識別情報ID6は読取データとして確定しないようにして,RFIDタグ30から同一の識別情報が複数の読取判定回数Y以上読取られた場合にその識別情報を読取データとして確定し,ホスト機器に送信することで,電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい,偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても,この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され,ホスト機器に送信されることがない」ことと,本願発明1の「前記制御部は、単位時間当たりに特定のRFIDタグに記憶されている特定のデータが読み取られた回数が読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて設定される回数閾値以上である特定の場合には、前記タグ読取装置との距離が比較的小さく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲内に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させ、単位時間当たりに前記特定のデータが読み取られた回数が前記回数閾値より少ない場合には、前記タグ読取装置との距離が比較的大きく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲外に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させないことにより、ユーザの意図する前記読取対象範囲外に存在するRFIDタグに記憶されているデータが読み取られてしまうことを抑制する」ことは,後述の点で相違するものの,“前記制御部は,特定のRFIDタグに記憶されている特定のデータが読み取られた回数が回数閾値以上である特定の場合には,前記特定のデータを有効として,前記特定のデータが読み取られた回数が前記回数閾値より少ない場合には,前記特定のデータを有効としない”点で共通する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「RFID(Radio Frequency Identifierの略)タグに記憶されているデータを読み取るタグ読取装置であって,
電波を送信する送信部と,
前記送信部から送信された前記電波に応じて前記RFIDタグから送信される応答信号を受信する受信部と,
前記受信部によって受信される前記応答信号に基づいて,前記RFIDタグに記憶されている前記データを読み取る制御部と,
読み取られた前記データを記憶するためのメモリと,
を備えており,
前記制御部は,
特定のRFIDタグに記憶されている特定のデータが読み取られた回数が回数閾値以上である特定の場合には,前記特定のデータを有効として,
前記特定のデータが読み取られた回数が前記回数閾値より少ない場合には,有効としない,
タグ読取装置。」

〈相違点1〉
「RFID(Radio Frequency Identifierの略)タグ」が,本願発明1では「パッシブ型」であるのに対して,引用発明ではその旨の特定がされていない点。

〈相違点2〉
「回数閾値」が,本願発明では「読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて設定される」ものであるのに対して,引用発明ではその旨の特定がされていない点。

〈相違点3〉
「前記特定のデータが読み取られた回数」が,本願発明1では「単位時間当たり」であって,さらに,回数閾値以上である特定の場合には「前記タグ読取装置との距離が比較的小さく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲内に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させ」,また,回数閾値より少ない場合には,「前記タグ読取装置との距離が比較的大きく、前記特定のRFIDタグが前記読取対象範囲外に存在しているとして前記特定のデータを前記メモリに記憶させないことにより、ユーザの意図する前記読取対象範囲外に存在するRFIDタグに記憶されているデータが読み取られてしまうことを抑制する」のに対して,引用発明では「読取サイクル回数X」当たりであって,読取正常判定回数Y以上である特定の場合にデータが確定し,また,読取正常判定回数Yより少ない場合には確定しないことで,「電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい,偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても,この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され,ホスト機器に送信されることはないようにした」ものである点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討する。
引用発明は「電波状況が悪いために複数のビットが化けてしまい,偶然的にCRC値のチェック結果が正常と判定されてしまっても,この正常と誤判定されたデータが読取データとして確定され,ホスト機器に送信されることがない」ようにするものであって,「読取正常判定回数Y」を多くすれば,誤判定をより減らすことができるものと認められる。しかしながら,より誤判定を減らす必要があるかは,読取データの使用目的等に応じて変わるものであって,読取対象範囲の広さと必ずしも関係するとはいえず,引用発明において「読取正常判定回数Y」を,「読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて設定」させる理由が存在しない。
また,引用文献2には,信号強度と読み取り回数に応じてICタグを識別することが,さらに,引用文献3には,タグの種類に基づいて,タグまでの距離を推定することが記載されているが,読取対象のRFIDタグが存在する読取対象範囲の広さに対応付けて回数閾値を設定することは記載されていない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は引用発明及び引用文献2,3に記載の技術事項に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明及び引用文献2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について
<特許法29条2項について>
審判請求時の補正により,本願発明1ないし6は上記第3に示したとおりのものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし3(上記第4の引用文献1ないし3)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-11 
出願番号 特願2016-140762(P2016-140762)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 タグ読取装置  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  

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