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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N |
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管理番号 | 1367933 |
審判番号 | 不服2020-4094 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-26 |
確定日 | 2020-12-01 |
事件の表示 | 特願2016- 48378「電磁超音波センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日出願公開、特開2017-161454、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月11日の出願であって、令和元年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年9月19日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年3月26日に拒絶査定不服審判の請求がされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願請求項1及び2に係る発明は、令和2年3月26日に提出された手続補正書の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 被検査物の内部に渦電流を発生させるコイルと、当該コイルを挟んで前記被検査物の反対側に配備されると共に前記被検査物を貫通する向きに静磁場を形成する主磁石とを備え、前記被検査物の内部に渦電流と静磁場との相互作用で超音波を発生させる電磁超音波センサであって、 前記主磁石の側方には、当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石が設けられており、 前記補助磁石は、前記主磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該補助磁石の磁気ポールを向けて配備されており、 前記コイルは、前記被検査物の表面に沿って一方向に電流が流れる第1の導線群と、前記第1の導線群とは電流の向きが反対の第2の導線群とを有しており、前記主磁石は、前記第1の導線群に対応した第1の主磁石と、前記第2の導線群に対応した第2の主磁石とを有しており、 前記補助磁石は、前記第1の主磁石と第2の主磁石との間に中央補助磁石を有しており、前記中央補助磁石は、前記第1の主磁石または第2の主磁石よりも狭幅に形成されており、 前記中央補助磁石に、前記第1の主磁石及び第2の主磁石よりも保磁力が高い磁石が用いられており、 前記補助磁石は、前記第1の主磁石及び第2の主磁石の両方の主磁石の外側方に側部補助磁石を有している ことを特徴とする電磁超音波センサ。」 請求項2に係る発明は、請求項1を引用して、さらに限定を加えた発明である。 第3 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、原査定においては、引用文献1を主引用例、引用文献2及び引用文献3を副引用例としている。 <引用文献一覧> 1.特開2015-40746号公報 2.特開2004-333448号公報 3.特開2010-104136号公報 第4 引用文献について 1 引用文献1について (1)上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。 (1ア)「【0009】 本発明は、縦波超音波の共鳴周波数と一方向の横波超音波の共鳴周波数とを検出することができる電磁超音波センサー、およびチタンの水素脆化等に代表される金属材料の脆化評価装置ならびに金属材料の脆化評価方法を提供することを目的とする。」 (1イ)「【0014】 (電磁波超音波センサー1) 図1(a)は、本発明の電磁波超音波センサーの一実施形態を示す電磁波超音波センサー1(ヨーク5を除く)を上から見た平面図であり、図1(b)は、図1(a)中のX-X´線断面図である。なお、図1(a)において、点(・)および印(×)は単位磁石の磁界の方向を示す矢印の矢の方向を示す。また、図1(b)において、点(・)および印(×)は電流の方向を示す矢印の矢の方向を示し、中抜き矢印は過電流7がハルバッハ配列型磁石体4から受ける磁界の向きを示している。 【0015】 電磁波超音波センサー1は、図1に示すように、開口部2を介して互いに平行な一対の直線部Aを有し額縁状に巻回されたコイル3と、この額縁状コイル3上に配置されたハルバッハ配列型磁石体4と、ハルバッハ配列型磁石体4上に配置されたヨーク5とからなる。 ハルバッハ配列型磁石体4は、隣接する単位磁石4a?4d同士の磁界の向きが互いに異なる4個の単位磁石4a?4dを開口部2と一対の直線部A上に直線部Aの幅方向に一本状に並設されたものである。 また、額縁状コイル3における開口部2の幅b1と、額縁状コイル3における一対の直線部Aの各幅b2と、単位磁石4a?4dの各幅b3とは互いに等しく、直線部Aのコイル長手方向の長さc1は、これと同方向の単位磁石の長さc2よりも長い。 磁界の向きが異なる4つの単位磁石4a?4dは、それぞれ額縁状コイル3の直線部Aとの重なり面積が等しくなるように、すなわち、図1(a)に示すように、Y-Y´線に対して対称となるようにハルバッハ配列型磁石体4は額縁状コイル3上に配置されている。 電磁波超音波センサー1は、上記のように構成されるので、後述する脆化評価装置により被測定物6内の脆化程度を測定する際、被測定物6内の縦波と直線部Aの幅方向の横波の共鳴周波数が判別しやすく、脆化部分を特定しやすい。 【0016】 電磁波超音波センサー1は、図1(b)に示すように、額縁状コイル3に交流またはパルス状の高周波数電流が給電されると、電磁誘導により被測定物6内に過電流7を発生させる。この発生された過電流7と、ハルバッハ配列型磁石体4によって加えられる磁界とのローレンツ力により被測定物6内に超音波が発生し、この超音波(発信波)と跳ね返ってきた超音波(反射波)とが一致する周波数、並びにその整数倍の周波数のときに共鳴が起こる。発信波および反射波が一致したときに発生する共鳴波により、被測定物6では、額縁状コイル3に対向する部分に起電力が励起され、この起電力により発生する電磁波が額縁状コイル3に受信されて誘導電流を発生することで、共鳴を受信することができる。 【0017】 電磁波超音波センサー1は、例えば、図2(a)?(c)に示すように、直線部Aの幅方向に、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせることができる。 図2(a)は、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4aおよび4cが、ちょうど直線部A上に配置された電磁波超音波センサー1を示す。このようにハルバッハ配列型磁石体4を配置することで、被測定物6の縦波の共鳴周波数が判別しやすくなる。 図2(b)は、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4bおよび4dが、ちょうど直線部A上に配置された電磁波超音波センサー1を示す。このようにハルバッハ配列型磁石体4を配置することで、直線部Aの幅方向の横波の共鳴周波数が判別しやすくなる。」 (1ウ)図1、図2として以下の図面が記載されている。 【図1】 【図2】 (2)引用発明1について 上記(1)の記載事項(特に下線部)から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。 「額縁状コイル3に交流またはパルス状の高周波数電流が給電されると、電磁誘導により被測定物6内に過電流7を発生させ、この発生された過電流7と、ハルバッハ配列型磁石体4によって加えられる磁界とのローレンツ力により被測定物6内に超音波が発生する、電磁波超音波センサー1であって、 開口部2を介して互いに平行な一対の直線部Aを有し額縁状に巻回されたコイル3と、この額縁状コイル3上に配置されたハルバッハ配列型磁石体4と、ハルバッハ配列型磁石体4上に配置されたヨーク5とからなり、 ハルバッハ配列型磁石体4は、隣接する単位磁石4a?4d同士の磁界の向きが互いに異なる4個の単位磁石4a?4dを開口部2と一対の直線部A上に直線部Aの幅方向に一本状に並設されたものであり、 額縁状コイル3における開口部2の幅b1と、額縁状コイル3における一対の直線部Aの各幅b2と、単位磁石4a?4dの各幅b3とは互いに等しく、直線部Aのコイル長手方向の長さc1は、これと同方向の単位磁石の長さc2よりも長く、 直線部Aの幅方向に、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせる、電磁波超音波センサー1において、 ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4aおよび4cが、ちょうど直線部A上に配置することで、被測定物6の縦波の共鳴周波数を判別し、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4bおよび4dが、ちょうど直線部A上に配置することで、直線部Aの幅方向の横波の共鳴周波数が判別し、 縦波超音波の共鳴周波数と一方向の横波超音波の共鳴周波数とを検出することができる電磁超音波センサー1。」(以下「引用発明1」という。) 2 引用文献2について (1)上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (2ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、金属などの導電性被検査材を非接触で非破壊で検査或いは計測するのに用いる電磁超音波探触子に関し、更に詳しく述べると、縦方向(高さ方向)に磁化した主磁石と横方向(厚み方向)に磁化した補助磁石とを組み合わせ磁石配列ユニットとすることで高い超音波強度が得られるように工夫した電磁超音波探触子に関するものである。」 (2イ)「【0011】 【課題を解決するための手段】 厚み方向に磁化している磁石は、その厚みが薄い偏平状の場合に、反磁場の影響が大きく、磁石性能の低下が予想される。そのため、厚み方向に着磁されている偏平状磁石を電磁超音波探触子の磁石構造体に使用することは極力避けるべきであるというのが技術常識であった。しかし、本発明者等は、数値解析と実験試作を重ねた結果、高さ方向に着磁されている主磁石と厚み方向に着磁されている補助磁石を適正に組み合わせることで磁気特性が向上し、それによって超音波性 能が高まることを見出した。本発明は、かかる知得に基づき完成されたものである。 【0012】 本発明は、多数の角柱状永久磁石を周期配列し被検査材に磁場を印加する1組乃至複数組の磁石配列ユニットと、被検査材に渦電流を発生させる或いは被検査材の渦電流を検出するコイルを具備している電磁超音波探触子において、磁石配列ユニットは、高さ方向に着磁され磁化方向が交互に逆向きとなるように配列されている主磁石と、厚み方向に着磁され磁化方向が交互に反対向きとなるように前記各主磁石の間及び両端に位置している補助磁石を、高さ方向を揃えて組み合わせた周期配列構造をなし、補助磁石のN極側の面に接する主磁石のN極側の面を磁石ワーキング面とすることを特徴とする電磁超音波探触子である。従って、更に付言すると、本明細書において高さ方向とは磁石ワーキング面に垂直な方向を意味し、厚み方向とは磁石配列方向を意味している。」 (2ウ)「【0014】 【発明の実施の形態】 本発明で用いる磁石構造体を構成する磁石配列ユニット及び各磁石の一例を図1に示す。磁石配列ユニット30は、多数の四角柱状(ここでは横断面が長方形の柱状体である)の永久磁石を周期配列した構造である。使用している磁石は、高さ方向(図面で縦方向)に着磁されている主磁石32aと、厚み方向(図面で横方向)に着磁されている補助磁石32bとの2種類であり、磁化の向きを考慮して周期的に配列する。具体的には、磁化方向が交互に逆向きとなるように配列されている主磁石32aと、磁化方向が交互に逆向きとなるように前記主磁石32aの間及び両端に位置している補助磁石32bとを、高さ方向を揃えて配列する。そして、補助磁石32bのN極側の面に接する主磁石32aのN極側の面を磁石ワーキング面に選定する。従って、図1では磁石配列ユニット30の下面が磁石ワーキング面となり、磁石の高さ方向が磁石ワーキング面に垂直方向、厚み方向が磁石配列方向となる。因みに、磁石配列ユニット30の上面では下面よりも遙かに磁束密度が低下する(上面と下面で磁気特性が非対称となる)ため、磁石ワーキング面としては使用しない。このような磁石配列ユニット30は、それ1個のみでも電磁超音波探触子の磁石構造体として機能する。 【0015】 図1のBは、この磁石配列状況を2次元で示したものである。図示のように、図面右手方向をx方向、上方向をy方向とするx-y座標系を設定する。上向き(y方向)に磁化している主磁石32aと、右向き(x方向)に磁化している補助磁石32bと、下向き(-y方向)に磁化している主磁石32aと、左向き(-x方向)に磁化している補助磁石32bとで1つの磁石配列周期Tが構成される。 ・・・ 【0017】 また、磁石高さLは、磁石配列周期長T=2(a+b)の0.5?1.5倍とするのがよい。磁石高さLが小さすぎるとパワー不足となるし、逆に磁石高さLが大きすぎると大型化し重くなるし、磁石高さLがある程度大きくなると磁気特性は飽和してしまうからである。更に、主磁石の厚み寸法aと補助磁石の厚み寸法bの比を、1:1.5?1.5:1の範囲とするのが好ましいが、ほぼ等しくする(1:1とする)のが最適である。その時に超音波強度を最も大きくできるからである。 ・・・ 【0020】 図3及び図4は、磁石構造体とコイルの組み合わせを示している。図3は、1組の磁石配列ユニット30で磁石構造体が構成されている場合(図1参照)に有効な構造である。コイル40は、磁石構造体の上面から下面(ワーキング面)にかけてx-y平面にほぼ垂直な軸のまわりに線材を所定回数巻き付ける構造である。特に、ワーキング面に沿うコイル線の方向をx方向と平行にするのが好ましい。図4は、2組の磁石配列ユニットによって磁石構造体34が構成されている場合(図2参照)である。平面状コイル42を用い、それを磁石構造体の磁石ワーキング面(ここでは下面)に配置する。コイル幅方向の片側辺は一方の磁石配列ユニット直下に位置し、反対側辺は他方の磁石配列ユニット直下に位置するように設ける。」 (2ウ)「【0030】 次に、本発明に係る電磁超音波探触子の超音波強度特性について説明する。解析条件は、磁石配置周期数8+補助磁石1個、周波数700kHz、磁石高さL=7mm、磁石配置周期長さ2(a+b)=5mmであり、伝播媒質材料はステンレス鋼(SUS304)である。」 (2エ)図1?4として、以下の図面が記載されている。 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 (2)引用発明2について 上記(1)の記載事項(特に下線部)から、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる。 「多数の角柱状永久磁石を周期配列し被検査材に磁場を印加する1組乃至複数組の磁石配列ユニットと、被検査材に渦電流を発生させる或いは被検査材の渦電流を検出するコイルを具備している電磁超音波探触子において、磁石配列ユニットは、高さ方向に着磁され磁化方向が交互に逆向きとなるように配列されている主磁石と、厚み方向に着磁され磁化方向が交互に反対向きとなるように前記各主磁石の間及び両端に位置している補助磁石を、高さ方向を揃えて組み合わせた周期配列構造をなし、補助磁石のN極側の面に接する主磁石のN極側の面を磁石ワーキング面とする電磁超音波探触子であって、 主磁石の厚み寸法aと補助磁石の厚み寸法bの比を、1:1.5?1.5:1の範囲とするのが好ましいが、ほぼ等しくする(1:1とする)のが最適であり、 1組の磁石配列ユニットで磁石構造体が構成されている場合には、コイルは、磁石構造体の上面から下面(ワーキング面)にかけてx-y平面にほぼ垂直な軸のまわりに線材を所定回数巻き付ける構造であり、ワーキング面に沿うコイル線の方向をx方向と平行にするのが好ましく、 2組の磁石配列ユニットによって磁石構造体が構成されている場合には、平面状コイルを用い、それを磁石構造体の磁石ワーキング面(ここでは下面)に配置し、コイル幅方向の片側辺は一方の磁石配列ユニット直下に位置し、反対側辺は他方の磁石配列ユニット直下に位置するように設ける、 電磁超音波探触子。」(以下「引用発明2」という。) 3 引用文献3について 上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (3ア)「【技術分野】 【0001】 この発明はリニアモータに関し、特に工作機械や半導体製造装置などの産業機械のテーブル送りに用いるのに適したリニアモータに関するものである。」 (3イ)「【0003】 リニアモータを低損失化するためには、発生する磁界を高めることが必要であり、コギング推力を小さくするためには発生する磁界を正弦波に近づけることが必要である。このことから、リニアモータの固定子の磁石配列として、発生する磁界が大きく正弦波分布になるハルバッハ配列を用いることが知られている。 【0004】 しかし、ハルバッハ配列は隣接する磁石の磁化方向が90°異なるため、大きな減磁界によって磁石が減磁する恐れがある。この解決方法として、ハルバッハ配列に用いる磁石の主磁極と補磁極で保磁力の異なる磁石とすることが提案されている。主磁極は発生する磁界を高めるため残留磁束密度が高く保磁力が低い磁石を用い、減磁の原因となる補磁極には保磁力が高く残留磁束密度が低い磁石を用いることにより、発生磁界を高めつつ減磁を回避するのである(例えば特許文献1参照)。」 第5 対比・判断 1 引用発明1に対して 原査定は、引用文献1を主引用例としていることから、本願発明が、引用発明1に基づいて、当業者が容易になし得た発明かどうかについて検討する。 (1)対比 ア 電磁超音波センサについて 引用発明1の「額縁状コイル3に交流またはパルス状の高周波数電流が給電されると、電磁誘導により被測定物6内に過電流7を発生させ、この発生された過電流7と、ハルバッハ配列型磁石体4によって加えられる磁界とのローレンツ力により被測定物6内に超音波が発生する、電磁波超音波センサー1」は、本願発明の「被検査物の内部に渦電流を発生させるコイルと、当該コイルを挟んで前記被検査物の反対側に配備されると共に前記被検査物を貫通する向きに静磁場を形成する磁石とを備え、前記被検査物の内部に渦電流と静磁場との相互作用で超音波を発生させる電磁超音波センサ」に相当する。 イ 磁石について 引用発明1の「隣接する単位磁石4a?4d同士の磁界の向きが互いに異なる4個の単位磁石4a?4d」は「ハルバッハ配列型磁石体」であることから、上記図1(b)に記載されているとおり、隣接する磁石はN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに磁石の磁気ポールを向けて配備されているものである。 そうすると、引用発明1の「ハルバッハ配列型磁石体4」である「隣接する単位磁石4a?4d同士の磁界の向きが互いに異なる4個の単位磁石4a?4d」と、本願発明の「前記主磁石の側方には、当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石が設けられており、前記補助磁石は、前記主磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該補助磁石の磁気ポールを向けて配備されて」いるものとは、「前記磁石の側方には、磁石が設けられており、当該磁石は、前記磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該磁石の磁気ポールを向けて配備されて」いる限りにおいて共通するといえる。 ウ コイルについて 引用発明1の「開口部2を介して互いに平行な一対の直線部Aを有し額縁状に巻回されたコイル3」における「互いに平行な一対の直線部A」は、上記図1及び図2に記載されているとおり、「被測定物6」の表面に沿って一方向に電流が流れる導線の群と、前記導線群とは電流の向きが反対の導線群であるといえる。 してみれば、引用発明1の「開口部2を介して互いに平行な一対の直線部Aを有し額縁状に巻回されたコイル3」は、本願発明の「前記被検査物の表面に沿って一方向に電流が流れる第1の導線群と、前記第1の導線群とは電流の向きが反対の第2の導線群とを有」する「コイル」に相当する。 エ 一致点・相違点について 上記ア?ウを踏まえると、本願発明と引用発明1とは、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「被検査物の内部に渦電流を発生させるコイルと、当該コイルを挟んで前記被検査物の反対側に配備されると共に前記被検査物を貫通する向きに静磁場を形成する磁石とを備え、前記被検査物の内部に渦電流と静磁場との相互作用で超音波を発生させる電磁超音波センサであって、 前記磁石の側方には、磁石が設けられており、当該磁石は、前記磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該磁石の磁気ポールを向けて配備されており、 前記コイルは、前記被検査物の表面に沿って一方向に電流が流れる第1の導線群と、前記第1の導線群とは電流の向きが反対の第2の導線群とを有している、 電磁超音波センサ。」 (相違点) 磁石について、本願発明は、「主磁石」と「当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石」とがあり、「主磁石は、前記第1の導線群に対応した第1の主磁石と、前記第2の導線群に対応した第2の主磁石とを有しており、前記補助磁石は、前記第1の主磁石と第2の主磁石との間に中央補助磁石を有しており、前記中央補助磁石は、前記第1の主磁石または第2の主磁石よりも狭幅に形成されており、前記中央補助磁石に、前記第1の主磁石及び第2の主磁石よりも保磁力が高い磁石が用いられており、前記補助磁石は、前記第1の主磁石及び第2の主磁石の両方の主磁石の外側方に側部補助磁石を有している」ものであるのに対し、 引用発明1は、「ハルバッハ配列型磁石体4」である「隣接する単位磁石4a?4d」は、そもそも「主磁石」と「補助磁石」の関係はなく、「単位磁石4a?4dの各幅b3」「は互いに等しく」、「ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせ」るものである点。 (2)判断 ア 相違点について 引用発明1の「隣接する単位磁石4a?4d」は、「ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4aおよび4cが、ちょうど直線部A上に配置することで、被測定物6の縦波の共鳴周波数を判別し、ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4bおよび4dが、ちょうど直線部A上に配置することで、直線部Aの幅方向の横波の共鳴周波数が判別」するものであるから、「単位磁石4a?4d」はすべて主磁石に対応するものであり、隣接する磁石の磁束密度を高める「補助」磁石ではない。そして、主磁石として機能する「単位磁石4a?4d」のいずれかを、隣接する磁石の磁束密度を高める「補助」磁石とすることはできない。 加えて、「ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4aおよび4cが、ちょうど直線部A上に配置する」、「ハルバッハ配列型磁石体4をスライドさせて、単位磁石4bおよび4dが、ちょうど直線部A上に配置する」ためには、「額縁状コイル3における開口部2の幅b1と、額縁状コイル3における一対の直線部Aの各幅b2と、単位磁石4a?4dの各幅b3とは互いに等しく」なければならないことから、「単位磁石4a?4d」において、ある磁石を他の磁石に対して「狭幅に形成」することもできない。 さらに、「コイル3上に配置されたハルバッハ配列型磁石体4」を「コイル」に対して「スライドさせ」るものであるから、各々のコイル群の上に配置される単位磁石もその都度変わってくるものであり、本願発明の「第1の導線群に対応した第1の主磁石と、前記第2の導線群に対応した第2の主磁石」というように、コイルの導線群と各々と単位磁石4a?4dの各々との対応関係を固定することはできない。 以上のことから、引用発明1を上記相違点の構成とすることに、そもそも阻害要因があるのであるから、引用文献2及び3に記載されている技術事項について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 よって、本願発明は、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載されている技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本願発明にさらに限定を加えた請求項2に係る発明についても、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載されている技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 引用発明2に対して 引用文献1を主引用例とした場合の判断については、上記1で述べたとおりであるが、引用文献2を主引用例とした場合についても検討する。 (1)対比 ア 電磁超音波センサについて 引用発明2の「角柱状永久磁石を」「配列し被検査材に磁場を印加する」「磁石配列ユニットと、被検査材に渦電流を発生させる或いは被検査材の渦電流を検出するコイルを具備している電磁超音波探触子」は、本願発明の「被検査物の内部に渦電流を発生させるコイルと、当該コイルを挟んで前記被検査物の反対側に配備されると共に前記被検査物を貫通する向きに静磁場を形成する主磁石とを備え、前記被検査物の内部に渦電流と静磁場との相互作用で超音波を発生させる電磁超音波センサ」に相当する。 イ 磁石について 引用発明2の「補助磁石」は、摘記(2イ)の「高さ方向に着磁されている主磁石と厚み方向に着磁されている補助磁石を適正に組み合わせることで磁気特性が向上」するとの記載及びハルバッハ配列の技術常識から、主磁石の磁束密度を高めることに寄与しているといえる。 そうすると、引用発明2の「磁石配列ユニットは、高さ方向に着磁され磁化方向が交互に逆向きとなるように配列されている主磁石と、厚み方向に着磁され磁化方向が交互に反対向きとなるように前記各主磁石の間及び両端に位置している補助磁石」は、本願発明の「主磁石の側方には、当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石が設けられており、前記補助磁石は、前記主磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該補助磁石の磁気ポールを向けて配備されており」「前記補助磁石は、前記第1の主磁石と第2の主磁石との間に中央補助磁石を有しており」「前記補助磁石は、前記第1の主磁石及び第2の主磁石の両方の主磁石の外側方に側部補助磁石を有している」ものとは、「主磁石の側方には、当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石が設けられており、前記補助磁石は、前記主磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該補助磁石の磁気ポールを向けて配備されており、前記補助磁石は、主磁石と主磁石との間にある補助磁石を有しており」「前記補助磁石は、両方の主磁石の外側方に側部補助磁石を有している」点で共通するといえる。 ウ 磁石の幅について 引用発明2の「主磁石の厚み寸法aと補助磁石の厚み寸法bの比を、1:1.5?1.5:1の範囲とするのが好ましいが、ほぼ等しくする(1:1とする)のが最適であ」ることは、最適とはいえないものの、主磁石の厚み寸法aと補助磁石の厚み寸法bの比が1.5:1?1:1(ただし1:1は含まない)の範囲で、補助磁石は主磁石よりも狭幅といえる。 してみれば、引用発明2の「主磁石の厚み寸法aと補助磁石の厚み寸法bの比を、1:1.5?1.5:1の範囲とするのが好ましいが、ほぼ等しくする(1:1とする)のが最適であ」ることと、本願発明の「中央補助磁石は、前記第1の主磁石または第2の主磁石よりも狭幅に形成されて」いることとは、上記比が1.5:1?1:1(ただし1:1は含まない)の範囲で、「主磁石と主磁石との間にある補助磁石は、主磁石よりも狭幅に形成されて」いる点で共通するといえる。 エ コイルについて 引用発明2の「コイル」は、「磁石配列ユニット」が「1組」の場合(上記図3参照)と「2組」(上記図4参照)とはその構成が異なるものの、両者とも、ワーキング面に沿って一方向に電流が流れる第1の導線群と、第1の導線群とは電流の向きが反対の第2の導線群があるといえる。 オ 一致点・相違点について 上記ア?エを踏まえると、本願発明と引用発明2とは、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「被検査物の内部に渦電流を発生させるコイルと、当該コイルを挟んで前記被検査物の反対側に配備されると共に前記被検査物を貫通する向きに静磁場を形成する主磁石とを備え、前記被検査物の内部に渦電流と静磁場との相互作用で超音波を発生させる電磁超音波センサであって、 前記主磁石の側方には、当該主磁石の磁束密度を高める補助磁石が設けられており、 前記補助磁石は、前記主磁石のN極とS極とを結ぶ磁気ポールの向きと直交する向きに当該補助磁石の磁気ポールを向けて配備されており、 前記コイルは、前記被検査物の表面に沿って一方向に電流が流れる第1の導線群と、前記第1の導線群とは電流の向きが反対の第2の導線群とを有しており、 前記補助磁石は、主磁石と主磁石との間にある補助磁石を有しており、主磁石と主磁石との間にある補助磁石は、主磁石よりも狭幅に形成されており、 前記補助磁石は、両方の主磁石の外側方に側部補助磁石を有している 電磁超音波センサ。」 (相違点1) 主磁石について、本願発明では、「前記第1の導線群に対応した第1の主磁石」と「前記第2の導線群に対応した第2の主磁石」と特定されるのに対し、引用発明では、そのように特定されない点。 (相違点2) 主磁石と主磁石との間にある補助磁石、両方の主磁石の外側方に側部補助磁石について、本願発明では、「第1の」主磁石と「第2の」主磁石との間の「中央」補助磁石、「第1の」主磁石及び「第2」の主磁石の両方の主磁石の外側方に側部補助磁石と特定されるのに対し、引用発明では、「第1の」主磁石と「第2の」主磁石が特定されないことから、そのように特定されない点。 (相違点3) 主磁石と主磁石との間にある補助磁石について、本願発明では、「第1の主磁石及び第2の主磁石よりも保磁力が高い磁石が用いられて」いるのに対し、引用発明では、そのようなものではない点。 (2)判断 ア 相違点1について 本願発明における「第1の導線群に対応した第1の主磁石」と「第2の導線群に対応した第2の主磁石」について、本願明細書には、 「【0019】 図3に示すように、第1実施形態の電磁超音波センサ1に設けられるコイル2は、平坦面の上を複数回に亘って周回するように導線5を巻き回して形成された平板状コイル(レーストラック型のコイル)となっている。このコイル2は、上方から見た場合に導線5が長円形や長方形の軌道を描くように内から外に向かって、あるいは外から内に向かって巻き回されて形成されている。つまり、導線5の巻回中心、つまりコイル2の中心を通って上下方向に伸びる切断面でコイル2を切断すると、巻回中心よりも左側のコイル2には第1導線群6を構成する複数の導線5が配備され、コイル2の右側には第2導線群7を構成する複数の導線5が配備される。 【0020】 これらの第1導線群6及び第2導線群7は、いずれの導線群も、ほぼ等間隔をあけて互いに平行に配備された複数の導線5で構成されている。第1導線群6に属する複数の導線5では電流の向きはすべて同じとなっており、また第2導線群7に属する複数の導線5でも電流の向きはすべて同じとなっているが、第1導線群6での電流の向きと第2導線群7での電流の向きとは互いに反対向きとなる。コイル2の第1導線群6の上には、この第1導線群6に対応して上述した第1の主磁石8が配備されており、また第2導線群7の上には、この第2導線群7に対応して第2の主磁石9が配備されている。」と記載され、図3として以下の図面が記載されている。 【図3】 一方、引用発明2は、「多数の角柱状永久磁石を周期配列し被検査材に磁場を印加する1組乃至複数組の磁石配列ユニット」「を具備している電磁超音波探触子」であり、ここで「多数」とは、摘記(2ウ)に「磁石配置周期数8+補助磁石1個」と記載されているとおり、主磁石8個(補助磁石9(8+1))個程度のものといえ、本願発明のように「第1の主磁石」と「第2の主磁石」の二つの主磁石程度のものを想定しているものではない。 さらに、引用発明2は、「1組の磁石配列ユニットで磁石構造体が構成されている場合には、コイルは、磁石構造体の上面から下面(ワーキング面)にかけてx-y平面にほぼ垂直な軸のまわりに線材を所定回数巻き付ける構造であり、ワーキング面に沿うコイル線の方向をx方向と平行にするのが好ましく」(上記図3参照)、「2組の磁石配列ユニットによって磁石構造体が構成されている場合には、平面状コイルを用い、それを磁石構造体の磁石ワーキング面(ここでは下面)に配置し、コイル幅方向の片側辺は一方の磁石配列ユニット直下に位置し、反対側辺は他方の磁石配列ユニット直下に位置するように設ける」(上記図4参照)ものであるから、いずれの場合においても、「第1の導線群に対応した第1の主磁石」と「第2の導線群に対応した第2の主磁石」というものにはならない。すなわち、引用発明2において、上記相違点1の構成とするためには、大幅な設計変更を要するものである。 そして、引用文献1及び3に記載されている技術事項に鑑みても、引用発明2において、大幅な設計変更を行い上記相違点1の構成とすることの動機はないことから、本願発明は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 よって、本願発明は、相違点2及び3について検討するまでもなく、引用発明2並びに引用文献1及び3にされている技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本願発明にさらに限定を加えた請求項2に係る発明についても、引用発明2並びに引用文献1及び3に記載されている技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願請求項1及び2に係る発明は、引用発明1又は2、及び、引用文献1?3の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-11-09 |
出願番号 | 特願2016-48378(P2016-48378) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01N)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 越柴 洋哉 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 磯野 光司 |
発明の名称 | 電磁超音波センサ |
代理人 | 安田 幹雄 |