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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01K
管理番号 1367955
審判番号 不服2019-13670  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-11-12 
事件の表示 特願2015-104490「水処理装置および水処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-214175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月22日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年12月21日付け:拒絶理由通知
平成31年 2月14日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 1年 7月 5日付け:拒絶査定
令和 1年10月11日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 2年 6月15日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 8月 3日 :意見書及び手続補正書の提出(以下、この 手続補正書による手続補正を「本件補正」 という。)


第2 本願発明
1 本願の請求項に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
硝酸を含む水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環させ、前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置であって、
水中生物を飼育する水槽からの飼育水の波長範囲が少なくとも400?600nmの範囲の可視部吸光度を測定する可視部吸光度測定手段と、
前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段と、
前記有機物処理を行ったオゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段と、
前記オゾン分解処理を行った処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段と、
測定した前記可視部吸光度に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする水処理装置。


第3 拒絶の理由
令和2年6月15日付けで当審が通知した本件補正前の請求項1に係る発明についての拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。
請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、または、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・引用文献1:特開平11-346595号公報
・引用文献2:特開2001-178307号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水生生物飼育用の水の浄化方法に関する。
【0002】水生生物を飼育するために使用される水を循環浄化するシステムでは、飼育に有害な条件や生物を鑑賞する上で不快感を与える条件を低減するために、様々な要素技術が組み合わされてシステムが構成されている。本発明は、このようなシステム、特には、水族館の水槽水の循環浄化システムにおいて、難分解性有機物濃度あるいはこれに起因する色度の低減に有効に利用される。」

(2)「【0012】[実施例]図1において、水量30m^(3)の水槽(1)に海水産の亀が2匹飼育されている。水は循環浄化されており、濁質、有機物、アンモニア等の除去、分解、浄化が主として圧力式砂濾過器(2)で行われている(濾材にはバクテリアが付着しており、循環水は酸素を充分溶存しているので、好気性微生物が活動して、有機物の分解とアンモニアの硝化が行われる)。時々プランクトンが増殖する傾向が見られることがあり、微量の塩素注入を行って増殖が抑制されている。水槽(1)は屋外に設置されている。水槽壁面には珪藻等の藻類が付着する傾向がある。
【0013】この水槽(1)内の水がやや着色し、薄い黄緑色を呈した。
原因を推定するために循環海水の分析を行ったところ、銅、鉄、マンガン等の金属イオンの濃度は定量下限以下であったが、COD_(Mn)は、6.1mg/Lと、他の系の循環海水に比べてやや高目であった。」

(3)「【0018】さらに、これらのサンプルについて、吸光スペクトル分析を行ったところ、対象サンプルAにおいてのみ、波長300nm付近に明確な吸光ピークが有ることが認められた。この吸光ピークを与える物質が着色の原因物質であると考えられた。
【0019】これらを総合すると、微量の難分解性有機物が着色の原因と判断された。着色原因物質自体は極微量であるし、飼育生物に有害ではない。この着色原因物質を指標として難分解性有機物の低減技術を評価した。濾材に付着した従属栄養細菌の作用では現に充分分解できていないので、かなり強い分解力をもつものが必要と考えられた。」

(4)「【0020】a)先ず、オゾンが有機物分解性を有することはよく知られているので、オゾン処理を1つの候補と考え、注入濃度を換えて色度の低減効果をテストした。すなわち、難分解性有機物を含む飼育水槽循環水に濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込み、色度低減の程度を調べた。このテスト結果を表2に示す。
【0021】b)また、紫外線(UV)も有機物に対する酸化力を有することが知られている。紫外線ランプには、広範囲の波長の光を出す高圧水銀ランプと、波長184.9nmの光と波長253.7nmの光のみを出す低圧水銀ランプがある。低圧水銀ランプの出す波長184.9nmの光は、有機物分解に非常に有効とされているが、酸素を含む空気を処理すると酸素をオゾンに転換させる機能を有する。このオゾン含有空気を処理水中に吹き込みながら同時に処理水に紫外線を照射する方法は紫外線オゾン法として公知であるが、難分解性有機物の処理に適用した例はない。
【0022】そこで、難分解性有機物を含む飼育水槽循環水に濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込むと同時に同循環水に反応器(3)内の紫外線ランプ(4)から紫外線を照射し、処理水の色度を測定した。
【0023】c)さらに分解力を強めるために、予め反応器(3)の上流で上記循環水に酸化剤槽(5)から酸化剤(オゾン、塩素系、過酸化水素等)を投入しておき、ついで上記紫外線オゾン法を行った。」

(5)「【0029】これらの結果から明らかなように、オゾン単独での処理では色度低減の効果は現われない(表2参照)。UVオゾン処理ではやや効果が見られる。酸化剤としての次亜塩素酸ソーダを加えた上でUVオゾン処理を行うと、非常に良い効果が示されている(表3参照)。
【0030】これらのテストは色度を指標として行っているが、一般的に言えば、酸化剤+UVオゾン処理法は、水族館の水槽水中の難分解性有機物の低減に有効であるということができる。この場合、酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害であるが、UVの照射を充分に行うことにより、過剰な酸化剤を完全に分解することができるので、問題はない。
【0031】本発明方法を、図1に基づいて先に説明した水族館の水槽水の循環浄化システムに適用した。このシステムは光反応を利用するものであるから、濁質の低減された部分に設置するのが望ましい。更に、易生物分解性物質は濾過器(2)に生存する従属栄養細菌の作用でできるだけ低減し、本発明による難分解性有機物低減技術はその下流に置く方が、酸化剤の無駄な消費がなくなり、経済的になる。循環水を全量通しても良いが、一部のみ通すようにバイパスさせてもよい。色度やCODを計測して、酸化剤の注入量を制御したり、紫外線ランプ(4)を切るなど、省エネルギー化を図ることも有効である。」

(6)上記(5)に摘記した記載を踏まえると、図1からは、反応器(3)には、循環水が右下側から矢印(←)方向に流入し、左上側から矢印(←)方向に流出して、水槽(1)に返送する様子が看て取れる。


(7)上記(1)?(6)からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「波長300nm付近に明確な吸光ピークが有る着色の原因物質である難分解性有機物濃度あるいはこれに起因する色度の低減に有効に利用される水族館の水槽水の循環浄化システムであって、
水槽(1)を有し、水は循環浄化されており、濁質、有機物、アンモニア等の除去、分解、浄化が主として圧力式砂濾過器(2)で行われており、濾材にはバクテリアが付着しており、循環水は酸素を充分溶存しているので、好気性微生物が活動して、有機物の分解とアンモニアの硝化が行われ、
難分解性有機物を含む飼育水槽循環水に、予め反応器(3)の上流で酸化剤槽(5)から酸化剤(オゾン)を投入しておき、ついで濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込むと同時に同循環水に反応器(3)内の紫外線ランプ(4)から紫外線を照射する紫外線オゾン法により難分解性有機物の処理を行うものであり、
酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害であるため、過剰な酸化剤を完全に分解し、
上記反応器(3)を通った循環水を水槽(1)に返送し、
色度やCODを計測して、酸化剤の注入量を制御して、省エネルギー化を図ることも有効である、
水族館の水槽水の循環浄化システム。」

2 引用文献2の記載
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、淡水魚類等の種苗生産場水槽、養魚場水槽、栽培場水槽、水族館水槽、鑑賞魚用水槽等における飼育水の殺菌その他の処理システムに関するものである。」

(2)「【0025】図中、符号1は、例えば水族館における淡水魚類等飼育システムの中心部を構成する淡水魚類等の飼育水槽であり、該飼育水槽1内には例えば複数種の淡水魚が飼育されている。そして、この飼育水槽1の上方には第1,第2の淡水貯留タンク2,3が設けられている。該第1,第2の淡水貯留タンク2,3には、後述するように飼育水槽1中で殺菌その他の処理が行われ、かつ濾過装置7で排泄物中のアンモニア等が浄化された一定量の新しい淡水が貯留されるようになっている。そして、一定量を超えた新しい淡水は、オーバーフロー配管2a,3aを介して飼育水槽1に供給される。一方、それらの内の第2の淡水貯留タンク3内の淡水の一部は、さらに流出配管3bを介して一旦電解槽4に供給された後、さらに上記飼育水槽1内に供給され、常時オーバフロー状態で流出するようになっている。
【0026】上記電解槽5内には、上記第2の淡水貯留タンク3から流入した新しい淡水中の微量塩分(Cl)を電気分解して次亜塩素酸(ClO)を析出させるための電極5が設けられており、該電極5は電源ケーブル5aにより印加電流調整手段6を介して直流電源8に接続されている。直流電源8は、具体的にはAC電源を整流した整流電源により構成される。
【0027】上記電極5は、例えば図2に詳細に示すように、白金層をコーティングしたチタン金属製のラス部材51a,51bを正負電極とし、中間にスペーサ部材52を介して多段構造に一体化することによって、バイポーラ方式の電解部を形成している。そして、同電解部を上記電解槽4内に浸漬し、上記電解槽4内の淡水中に含まれている塩素イオン(Cl^(-))に直流電流を負荷して電気分解することによって、殺菌作用および高分子物質分解作用、COD物質酸化作用等のある次亜塩素酸イオン(ClO^(-))を酸化生成させる。
【0028】従って、上記第2の淡水貯留タンク3より上記電解槽4内に供給された新しい淡水は当該電解槽4内で上記電極5によって電気分解されて先ず同淡水中の塩素イオン(Cl^(-))から次亜塩素酸イオン(ClO^(-))が析出され(Cl^(-)+H_(2)O→ClO^(-)+H_(2))、該次亜塩素酸イオン(ClO^(-))の混入水が上記飼育水槽1中に供給されて飼育水槽1中の飼育水中の細菌を殺菌するとともに高分子物質を分解処理し、またCOD物質を酸化処理することになる。なお、上記電解時において同時に水素ガス(H_(2))も発生するが、この水素ガス(H_(2))はそのまま外部空間中に放出される。
【0029】一方、上記飼育水槽1中の飼育水は、第1の循環配管1aを介して砂等の濾過材70を有する重力式の濾過装置7内に供給されて、砂等の濾過材70の表面に発生している有用細菌によって魚類等に直接害を与えるアンモニア等の物質を比較的毒性の少ない硝酸等に化学変化させることによって浄化される。
【0030】そして、該濾過装置7によって浄化された飼育水は、飼育水循環ポンプ9を備えた第2の循環配管7aを介して、上記飼育水槽1、第1,第2の淡水貯留タンク2,3側に戻され、それぞれ個別に分岐された主戻し配管71,副戻し配管72,73を介して魚類飼育水槽1、第1,第2の淡水貯留タンク2,3に、それぞれ流入せしめられる。
【0031】このようにして、図1に示す本実施の形態の淡水魚類等の飼育システムでは、飼育水槽1中の飼育水が、常時循環されながら、飼育水槽1部分で殺菌、高分子物質分解、COD物質酸化等の処理が、また濾過装置7部分で微生物によるアンモニア等の浄化処理が行われ、飼育システム中を循環する飼育水全体中の細菌数を可能な限り少なくするようになっている。」

(3)「【0040】次に、上記次亜塩素酸イオン(ClO^(-))は、また当該飼育水中の透明度を左右する高分子物質の分解やCOD物質(化学的酸素要求物質)の酸化処理に対しても有効である。
【0041】その効果を、図5のグラフに示す。
【0042】すなわち、今例えば図5においては、上記飼育水槽1内の飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)の吸光度の変化を測定した結果を示しており、電解槽4の運転(魚類飼育水槽1中への次亜塩素酸の供給)を行うと、各波長帯域のすべてにおいて吸光度が低下、つまり透明度が向上していることが分かる。
【0043】特に400nm?450nmの波長帯域における吸光度の低下は、マリンブルーと言われる青色の光を通しやすい澄んだ水になることを示しており、ブルーの照明を伴う水族館等の展示水槽の飼育水の水質改善に最適であることを意味している。」

(4)「【0046】さらに、上記次亜塩素酸注入による殺菌等の処理を行うに際しては、上記飼育水槽1内の飼育水の全体に対して行う場合の他に、例えば循環される飼育水の配管途中において部分的に行うようにしても良い
。」

(5)上記(1)ないし(4)からみて、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「水族館の淡水魚類等飼育システムにおける飼育水の殺菌その他の処理システムであって、
淡水魚類等の飼育水槽1と、該飼育水槽1の上方には第1,第2の淡水貯留タンク2,3が設けられ、前記第2の淡水貯留タンク3内の淡水の一部は、さらに流出配管3bを介して一旦電解槽4に供給された後、さらに上記飼育水槽1内に供給され、常時オーバフロー状態で流出するようになっており、
上記第2の淡水貯留タンク3より上記電解槽4内に供給された新しい淡水は当該電解槽4内で電極5によって電気分解されて先ず同淡水中の塩素イオンから次亜塩素酸イオンが析出され、該次亜塩素酸イオンの混入水が上記飼育水槽1中に供給されて飼育水槽1中の飼育水中の細菌を殺菌するとともに、高分子物質を分解処理し、またCOD物質(化学的酸素要求物質)を酸化処理し、
上記飼育水槽1中の飼育水は、第1の循環配管1aを介して砂等の濾過材70を有する重力式の濾過装置7内に供給されて、アンモニア等の物質を比較的毒性の少ない硝酸等に化学変化させることによって浄化されるものであり、
上記次亜塩素酸イオンは、飼育水中の透明度を左右する高分子物質の分解やCOD物質の酸化処理に対しても有効であって、上記飼育水槽1内の飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)の吸光度の変化を測定すると、各波長帯域のすべてにおいて吸光度が低下、つまり透明度が向上していることが分かり、特に400nm?450nmの波長帯域における吸光度の低下は、マリンブルーと言われる青色の光を通しやすい澄んだ水になることを示しており、ブルーの照明を伴う水族館等の展示水槽の飼育水の水質改善に最適であり、
上記次亜塩素酸注入による殺菌等の処理を行うに際しては、循環される飼育水の配管途中において部分的に行うようにしても良い、
飼育水の殺菌その他の処理システム。」


第5 引用文献1を主引用例とした検討
1 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1における「水族館の水槽水」は、圧力式砂濾過器(2)において「アンモニアの硝化が行われ」ているから、硝酸を含むことは明らかである。
そうすると、引用発明1における「アンモニアの硝化が行われ」る「水族館の水槽水」は、本願発明1における「硝酸を含む水中生物の飼育水」に相当する。

(2)引用発明1における「難分解性有機物濃度」の「低減に有効に利用される水族館の水槽水の循環浄化システム」は、本願発明1における「水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環させ、前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置」に相当する。

(3)引用発明1は、「色度やCODを計測して、酸化剤の注入量を制御」するから、水族館の水槽水の色度測定手段を有することは明らかである。
そうすると、引用発明1における水族館の水槽水の上記色度測定手段と、本願発明1における「水中生物を飼育する水槽からの飼育水の波長範囲が少なくとも400?600nmの範囲の可視部吸光度を測定する可視部吸光度測定手段」とは、「水中生物を飼育する水槽からの飼育水の光学特性を測定する光学特性測定手段」である点で共通する。

(4)引用発明1における「予め反応器(3)の上流で前記循環水に酸化剤槽(5)から酸化剤(オゾン)を投入しておき、ついで濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込むと同時に同循環水に反応器(3)内の紫外線ランプ(4)から紫外線を照射する紫外線オゾン法により難分解性有機物の処理を行う」構成は、本願発明1における「前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段」に相当する。

(5)引用発明1は、「予め反応器(3)の上流で前記循環水に酸化剤槽(5)から酸化剤(オゾン)を投入しておき、ついで濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込むと同時に循環水に反応器(3)内の紫外線ランプ(4)から紫外線を照射する紫外線オゾン法により難分解性有機物の処理」を行うものである以上、難分解性有機物の処理の際にはオゾンが存在する必要があることは明らかであり、「酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害であるため、過剰な酸化剤を完全に分解」するのは、上記紫外線オゾン法により難分解性有機物の処理が行われた後に残留した酸化剤に対して行うものであると解することが自然である。
そして、引用発明1は、「過剰な酸化剤を完全に分解」するものであり、過度なオゾンの残留はそのままでは生物に対して有害であることは技術常識であるから、酸化剤としてオゾンを用いた場合に「オゾンを分解する手段」を有するといえる。
そうすると、引用発明1における上記手段は、本願発明1における「前記有機物処理を行ったオゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段」に相当する。

(6)引用発明1においては、「上記反応器(3)を通った循環水を水槽(1)に返送」しているから、「紫外線オゾン法を行う反応器から水槽に返送する構成」を有することは明らかである。
そして、引用発明1においては、「酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害である」から、「過剰な酸化剤を完全に分解」してから、生物を飼育する「水槽」に「循環水」を「返送している」ことは明らかである。
そうすると、引用発明1における上記構成は、本願発明1の「前記オゾン分解処理を行った処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段」に相当する。

(7)引用発明1は、「色度やCODを計測して、酸化剤の注入量を制御」するから、酸化剤としてオゾンを用いた場合に、計測した色度に基づいて「オゾンの注入量を制御する制御手段」を有することは明らかである。
そうすると、引用発明1において、水族館の水槽水の色度を計測し、「計測した色度」に基づいて酸化剤である「オゾンの注入量を制御する制御手段」と、本願発明1における「測定した前記可視部吸光度に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段」とは、「測定した前記光学特性に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段」である点で共通する。

(8)上記(1)ないし(7)からみて、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「硝酸を含む水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環させ、前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置であって、
水中生物を飼育する水槽からの飼育水の光学特性を測定する光学特性測定手段と、
前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段と、
前記有機物処理を行ったオゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段と、
前記オゾン分解処理を行った処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段と、
測定した前記光学特性に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段と、
を備える水処理装置。」

・相違点1
光学特性測定手段が、本願発明1においては、「水中生物を飼育する水槽からの飼育水の波長範囲が少なくとも400?600nmの範囲の可視部吸光度を測定する可視部吸光度測定手段」であり、オゾンの注入量の制御も「測定した前記可視部吸光度」に基づいて行うのに対し、引用発明1においては、色度を測定する測定手段が特定されていない点。

2 判断
上記相違点1について検討する。

上記第4の1(2)に摘記したように、引用文献1の【0013】には、「この水槽(1)内の水がやや着色し、薄い黄緑色を呈した。」と記載されている。引用発明1における「波長300nm付近に明確な吸光ピークが有る着色の原因物質である難分解性有機物」が可視光分野の波長の光を吸収しないのであれば水の色に影響を与えることはなく、上記有機物の存在によって水が薄い黄緑色を呈するということは、当該有機物が、黄緑色の補色である青?紫の波長の光を吸収するものであることは技術常識である。
上記有機物は、波長300nm付近の波長の光を吸収するとともに、黄緑色の補色である青?紫の波長の光を吸収する有機物であるといえるから、上記有機物の存在を評価するために、上記波長のいずれの吸光度により色度を計測するかは当業者が適宜選択することである。
そして、引用発明2は、「水族館における淡水魚類等飼育システムにおける飼育水の殺菌その他の処理システム」であって、「飼育水中の透明度を左右する高分子物質」の存在を評価するために「飼育水槽1内の飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)の吸光度の変化を測定する」構成を備えるとともに、特に400nm?450nmの波長帯域における吸光度の低下が、水族館等の展示水槽の飼育水の水質改善に最適であることを示すものであり、引用発明1と引用発明2は、いずれも水族館の循環水槽水の浄化システムという技術分野が共通し、水槽水の色を計測して水槽水中の青?紫の波長の光を吸収する着色原因有機物の存在を評価するという作用・機能が共通するから、引用発明1における色度の測定にあたり、引用発明2のように、飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)及び400nm?450nmの波長帯域の吸光度の変化を測定することは当業者が容易に想到し得たことである。そしてその際に、400及び450nmの波長及び400nm?450nmの波長帯域を含む可視光の波長として、400?600nmの可視光の波長範囲を選択することは設計事項に過ぎない。

そうすると、引用発明1及び引用発明2に基いて、上記相違点1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明1の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。

よって、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者であれば容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 請求人の意見について
請求人は令和2年8月3日の意見書において、「しかし、引用文献1には、「飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段」の後段に「オゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段」を備えることの記載はありません。」との主張をしている。」との意見を主張している。
しかしながら、上記1(4)ないし(6)にみたとおり、引用発明1において、酸化剤としてオゾンが例示され、酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害であることから、過剰な酸化剤を完全に分解することが記載されているので、紫外線オゾン法により飼育水のオゾンによる有機物処理を行った後に、残留したオゾンの分解を行う手段を有することは明らかであるから、上記主張は採用できない。


第6 引用文献2を主引用例とした検討
1 対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。

(1)引用発明2において、「上記飼育水槽1中の飼育水は、第1の循環配管1aを介して砂等の濾過材70を有する重力式の濾過装置7内に供給されて、アンモニア等の物質を比較的毒性の少ない硝酸等に化学変化させることによって浄化されるもの」であるから、引用発明2の「浄化され」た「飼育水」は、本願発明1における「硝酸を含む水中生物の飼育水」に相当する。

(2)引用発明2において、「前記第2の淡水貯留タンク3内の淡水の一部は、さらに流出配管3bを介して一旦電解槽4に供給された後、さらに上記飼育水槽1内に供給され、常時オーバフロー状態で流出するようになって」いることは、本願発明1における「水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環」させることに相当する。
また、引用発明2における「飼育水槽1中の飼育水中の細菌を殺菌するとともに、高分子物質を分解処理し、またCOD物質を酸化処理」する構成を有する「飼育水の殺菌その他の処理システム」は、本願発明1における「前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置」に相当する。
そうすると、引用発明2において、「前記第2の淡水貯留タンク3内の淡水の一部は、さらに流出配管3bを介して一旦電解槽4に供給された後、さらに上記飼育水槽1内に供給され、常時オーバフロー状態で流出するようになって」おり、「飼育水槽1中の飼育水中の細菌を殺菌するとともに、高分子物質を分解処理し、またCOD物質を酸化処理」する構成を有する「飼育水の殺菌その他の処理システム」は、本願発明1における「水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環させ、前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置」に相当する。

(3)引用発明2においては、「上記飼育水槽1内の飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)の吸光度の変化を測定」するから、可視部吸光度測定手段を有することは明らかである。
そうすると、引用発明2における上記吸光度測定手段と、本願発明1における「水中生物を飼育する水槽からの飼育水の波長範囲が少なくとも400?600nmの範囲の可視部吸光度測定手段」とは、「水中生物を飼育する水槽からの飼育水の可視部吸光度を測定する可視部吸光度測定手段」である点で共通する。

(4)引用発明2における「上記第2の淡水貯留タンク3より上記電解槽4内に供給された新しい淡水は当該電解槽4内で上記電極5によって電気分解されて先ず同淡水中の塩素イオンから次亜塩素酸イオンが析出され、該次亜塩素酸イオンの混入水が上記飼育水槽1中に供給されて飼育水槽1中の飼育水中の細菌を殺菌するとともに、高分子物質を分解処理し、またCOD物質を酸化処理」する構成と、本願発明1における「前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段」とは、「前記飼育水の有機物処理を行う有機物処理手段」である点で共通する。

(5)引用発明2において、「上記次亜塩素酸注入による殺菌等の処理を行うに際しては、循環される飼育水の配管途中において部分的に行う」構成は、飼育水を処理後に飼育水槽に循環させることとなることは明らかであるから、引用発明2における上記構成と本願発明1における「前記オゾン分解処理を行った処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段」とは、「前記処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段」である点で共通する。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、本願発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「硝酸を含む水中生物の飼育水の少なくとも一部を循環させ、前記飼育水中に含まれる有機物の処理を行う水処理装置であって、
水中生物を飼育する水槽からの飼育水の可視部吸光度を測定する可視部吸光度測定手段と、
前記飼育水の有機物処理を行う有機物処理手段と、
前記処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段と、
を備える水処理装置。」

・相違点A
可視部吸光度測定手段により測定する可視部吸光度の波長範囲が、本願発明1においては、少なくとも400?600nmの範囲であるのに対し、引用発明2においては、紫外線350nm、あい色400nm、青色450nmである点。

・相違点B
本願発明1が、前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段と、前記有機物処理を行ったオゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段と、前記オゾン分解処理を行った処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する返送手段と、測定した前記可視部吸光度に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段と、備えるのに対し、引用発明2においては、有機物処理がオゾンによる処理ではなく、「前記飼育水のオゾンによる有機物処理を行う有機物処理手段」、「前記有機物処理を行ったオゾン処理水のオゾンを分解するオゾン分解手段」及び「測定した前記可視部吸光度に基づいて前記オゾンの注入量を制御する制御手段」を有していない点。

2 判断
(1)相違点Aについて
引用発明2において、飼育水について、光の各波長毎(紫外線350nm、あい色400nm、青色450nm)の吸光度の変化を測定する際に、特に400nm?450nmの波長帯域における吸光度の低下が、水族館等の展示水槽の飼育水の水質改善に最適であることが示されていることを考慮して、400nm、450nmの波長及び400nm?450nmの波長帯域を含む可視光の波長として、400?600nmの可視光の波長範囲を選択することは設計事項に過ぎない。
そうすると、引用発明2に基いて、上記相違点Aに係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点Bについて
引用発明2においては、吸光度が低下することで、透明度が向上していることがわかるのであり、処理システムの処理が適切に行われて、飼育水の殺菌その他の処理システムが高分子物質を分解処理し、またCOD物質を酸化処理して、吸光度が低下していることがわかるようにしているといえるから、引用発明2には、吸光度の測定結果に基づいて、有機物を処理する処理システムの処理が適切に行われるようにするという課題が内在しているといえる。
また、引用発明2における淡水が電気分解されて析出した次亜塩素酸イオンによる高分子物質の分解やCOD物質(化学的酸素要求物質)の酸化処理と、引用発明1の紫外線オゾン処理は、水槽水中の有機物処理を行う作用・機能が共通する。
そして、引用発明1は、「水族館の水槽水の循環浄化システム」であって、「難分解性有機物を含む飼育水槽循環水に、予め反応器(3)の上流で酸化剤槽(5)から酸化剤(オゾン)を投入しておき、ついで濾過器(2)下流の反応器(3)の底部からオゾン含有空気を吹き込むと同時に同循環水に反応器(3)内の紫外線ランプ(4)から紫外線を照射する紫外線オゾン法により難分解性有機物の処理」を行うものであり、「酸化剤の過度の残留はそのままでは生物に対して有害であるため、過剰な酸化剤を完全に分解」し、「色度やCODを計測して、酸化剤の注入量を制御」する構成を備えるものであるところ、引用発明2と引用発明1は、いずれも水族館の循環水槽水の浄化システムという技術分野が共通し、水槽水中の有機物を処理するという作用・機能が共通し、水槽水の色の計測による吸光度の測定結果に基づいて、有機物を処理する処理システムの処理が適切に行われるようにするという課題が共通するから、引用発明2における有機物の処理を引用発明1のように酸化剤(オゾン)を投入して行う紫外線オゾン処理とするとともに、オゾン分解手段を備えるようにし、当該分解処理がされた循環水を水槽に返送し、吸光度の計測結果に基づいて、前記紫外線オゾン処理における酸化剤としてのオゾンの投入量を制御するようにして、相違点Bに係る本願発明1の構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明1の作用効果も、引用発明2及び引用発明1から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願発明1は、引用発明2及び引用発明1に基いて、当業者であれば容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、または、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶理由通知に示した理由により、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-10 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-104490(P2015-104490)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 圭伸川野 汐音  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
秋田 将行
発明の名称 水処理装置および水処理方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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