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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1368047
異議申立番号 異議2019-701000  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-06 
確定日 2020-09-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6527989号発明「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6527989号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6527989号の請求項4、5に係る特許を維持する。 特許第6527989号の請求項1?3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6527989号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成30年6月12日の出願であって、令和1年5月17日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和1年12月6日差出で特許異議申立人亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)より請求項1?4(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、令和2年3月2日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和2年4月23日に特許権者より意見書(以下、「意見書」という。)が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)について申立人に意見を求めたが、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6527989号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4について、本件訂正前の「電気化学セルと、請求項1又は2に記載の合金部材と、を備え、前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」を「電気化学セルと、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、を備え、前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」と訂正する。

(5)訂正事項5
「電気化学セルと、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、を備え、前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、前記基材の前記表面に対して前記深さ方向が成す角度は、89度以下であり、前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、セルスタック装置。」を新たに請求項5とする。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1?3
訂正事項1?3は、それぞれ請求項1?3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項1を引用する請求項4について、請求項1の発明特定事項を請求項4に繰り入れて新たに独立項とした上で、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「前記表面に対して」の「前記表面」が何の表面であるかが明瞭とはいえなかったところ、「前記基材の前記表面」であることを明確に特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(3)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2を引用する請求項4について、請求項2及び請求項2が引用する請求項1の発明特定事項を請求項4に繰り入れて新たに独立項とした上で、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「前記表面に対して」の「前記表面」が何の表面であるかが明瞭とはいえなかったところ、「前記基材の前記表面」であることを明確に特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4は請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和2年4月23日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和2年4月23日に特許権者が行った請求項1?5についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、請求項4、5に係る発明をそれぞれ「本件発明4」、「本件発明5」という。また、請求項4、5に係る発明をまとめて「本件発明」という。さらに、これらの請求項に係る特許をまとめて「本件特許」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
「電気化学セルと、
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」
【請求項5】
「電気化学セルと、
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、
前記基材の前記表面に対して前記深さ方向が成す角度は、89度以下であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。」

2 令和2年3月2日付けで通知された取消理由の概要
2-1 特許法第36条第6項第2号について
本件特許は、その特許請求の範囲について下記(1)、(2)の記載が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものである。
(1)本件訂正前の請求項1の「埋設部の深さ方向」
(2)本件訂正前の請求項1の「前記表面に対して」(職権により採用)

2-2 特許法第29条第1項第3号及び第2項について
本件特許の本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記A、Bの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
また、本件特許の本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記A、Bの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(引用文献)
A 特許第5315476号公報
(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)
B X. Montero et al., “Spinel andPerovskite Protection Layers Between Crofer22APU and La_(0.8)Sr_(0.2)FeO_(3)Cathode Materials for SOFC Interconnects”, Journal of The ElectrochemicalSociety, Volume 156(1), p.B188-B196 (2009)
(申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。)

なお、申立人は、上記甲1及び甲2の他に、次の文献を提出している。
C 国際公開第2010/087298号
(申立人が提出した甲第3号証、以下、「甲3」という。)
D 国際公開第2013/172451号
(申立人が提出した甲第4号証、以下、「甲4」という。)

3 上記2以外の特許異議の申立ての理由の概要
3-1 特許法第36条第6項第2号について
本件特許は、その特許請求の範囲について、本件訂正前の請求項1の「くびれており」の記載が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものである。

3-2 特許法第36条第6項第1号について
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、埋設部と凹部との大きさの関係について、埋設部が凹部の開口でくびれていることが特定されているものの、それ以外の特定がなされていないので、例えば、凹部の大きさに対して埋設部の大きさが小さいもの等、本願の課題を解決することができない部分を含むものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3-3 特許法第36条第4項第1号について
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許の本件訂正前の請求項1に係る発明の「基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であ」るとの発明特定事項について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3-4 特許法第29条第2項について
本件特許の本件訂正前の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記Aの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(引用文献)
A 特許第5315476号公報(上記2-2の引用文献Aと同じ。)

4 本件明細書及び図面の記載
本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)及び図面には、次の記載がある。
「【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供することを目的とする。」
「【0028】
(発電素子部20)
各発電素子部20は、支持基板10に支持されている。本実施形態において、各発電素子部20は、支持基板10の両主面に形成されているが、一方の主面にだけ形成されていてもよい。各発電素子部20は、支持基板10の長手方向において、互いに間隔をあけて配置されている。すなわち、本実施形態に係る燃料電池セル300は、いわゆる横縞型の燃料電池セルである。長手方向に隣り合う発電素子部20は、インターコネクタ31によって互いに電気的に接続されている。」
「【0056】
図7に示すように、基材210は、表面210aと、複数の凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。基材210は、表面210aにおいて酸化クロム膜211に接合される。図7において、表面210aは略平面状に形成されているが、凹凸が形成されていてもよいし、全体的或いは部分的に湾曲又は屈曲していてもよい。
【0057】
各凹部210bは、表面210aに形成される。各凹部210bは、表面210aに形成された開口S2から基材210の内部に向かって延びる。各凹部210b内には、後述する酸化クロム膜211の各埋設部211bが埋設される。
【0058】
各凹部210bは、開口S2に近づくほど窄まっている。すなわち、基材210の表面210aに垂直な断面において、各凹部210bの幅は、開口S2付近で狭くなっている。開口S2の幅W1は、当該断面において、開口S2の縁を最短距離で結ぶ直線CL1の長さである。開口S2の幅W1は特に制限されないが、例えば0.3?30μmとすることができる。後述する各埋設部211bに十分な強度を持たせることを考慮すると、幅W1は、0.5μm以上が好ましい。」
「【0063】
各埋設部211bは、各凹部210bの開口S2においてくびれている。すなわち、各埋設部211bは、開口S2付近で局所的に細くなっている。このようなボトルネック構造によって、各埋設部211bが各凹部210bに係止されてアンカー効果が生じる。
【0064】
本実施形態において、「埋設部211bが開口S2においてくびれている」とは、基材210の表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの幅W2が開口S2の幅W1よりも大きいことを意味する。埋設部211bの幅W2とは、開口S2の幅W1を規定する直線CL1に平行な方向における埋設部211bの最大寸法である。
【0065】
ここで、図8は、図7の部分拡大図である。図8に示すように、基材210の表面210aに垂直な断面において、表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θは、鋭角である。すなわち、埋設部211bは、表面210aに対して傾斜している。これにより、埋設部211bが表面210aに対して真っ直ぐ設けられている場合に比べて大きなアンカー効果を発揮させることができるため、酸化クロム膜211の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が酸化クロム膜211とともに基材210から剥離することを抑制できる。
【0066】
「表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θ」は、以下のように規定される。まず、図8に示すように、FE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)によって1000-20000倍に拡大した画像上で、開口S2の幅W1を規定する直線CL1によって埋設部211bの領域を画定する。次に、埋設部211bを挟む2本の平行接線PLを180度回転させたときに、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に固定された2本の平行接線PLに垂直な方向を「深さ方向L1」に設定する。このときの2本の平行接線PL間の距離が、埋設部211bの所謂「最大フェレー径」である。次に、直線CL1が表面210aと交差する2点を基準点P1,P2に設定する。次に、表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法による仮想的な近似直線CL2を引く。近似直線CL2は、角度θの算出に用いられる表面210aである。すなわち、角度θの算出において、近似直線CL2が表面210aを示す。そして、この近似直線CL2に対する深さ方向L1の角度が、表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θである。」
「【0079】
まず、図9に示すように、基材210の表面210aに凹部210bを形成する。例えばショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストを用いることによって、所定形状の凹部210bを効率的に形成することができる。この際、表面210aに対するショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストの噴射方向を調整して、凹部210bを斜めに形成することによって、後工程で形成される埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θを鋭角にするとともに、角度θを所望値に制御することができる。また、面方向における凹部210bの個数を調整することによって、面方向における埋設部211bの存在個数を制御できる。」
「【0085】
[変形例2]
上記実施形態において、セルスタック250は、横縞型の燃料電池を有することとしたが、いわゆる縦縞型の燃料電池を有していてもよい。縦縞型の燃料電池は、導電性の支持基板と、支持基板の一主面上に配置される発電部(燃料極、固体電解質層及び空気極)と、支持基板の他主面上に配置されるインターコネクタとを備える。」
「【図7】


【図8】



5 引用文献の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0009】
<固体酸化物型燃料電池100の構成>
固体酸化物型燃料電池(以下、「燃料電池」と略称する)100の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、燃料電池100の構成を示す断面図である。
【0010】
燃料電池100は、発電部10と、集電部材20と、を備える。
【0011】
(発電部10の構成)
発電部10は、燃料極11、固体電解質層12、空気極13を備える。発電部10は、セラミックス材料によって構成される薄板である。発電部10は、例えば、厚み30μm?3mm、直径5mm?50mmとすることができる。」
「【0015】
(集電部材20の構成)
集電部材20は、図1に示すように、凹部20Aを有する。凹部20Aは、導電性接着剤21を介して空気極13の表面に接続されている。発電時において、空気は、凹部20Aを通って空気極13に供給される。
【0016】
ここで、図2は、集電部材20の拡大断面図である。図2に示すように、集電部材20は、基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備える。
【0017】
基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有する。
【0018】
合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材である。合金部材211は、例えばフェライト系ステンレス部材によって構成することができる。合金部材211の厚みは、例えば0.3mm?1mmとすることができる。
【0019】
第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成される。第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する。Cr_(2)O_(3)には、合金部材211や第2導電性セラミックス膜220を構成する元素が不純物として含有されていてもよい。第1導電性セラミックス膜212は、RF(radio-frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いてCrターゲットをArスパッタリングし、反応ガス(例えば、酸素)との反応により酸化物を成膜することによって形成することができる。第1導電性セラミックス膜212の厚みは、例えば1μm?20μmとすることができる。
【0020】
第2導電性セラミックス膜220は、第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成される。第2導電性セラミックス膜220は、Mn及びCoを含むスピネル型の導電性酸化物セラミックス材料によって構成される。具体的に、第2導電性セラミックス膜220は、(Mn,Co)_(3)O_(4)によって構成されていてもよい。(Mn,Co)_(3)O_(4)には、Mn_(1.5)Co_(1.5)O_(4)やMn_(2)Co_(2)O_(4)などが含まれる。また、第2導電性セラミックス膜220は、(Mn_(X)Fe_(1-X))Cr_(2)O_(4)を含んでいてもよい。」
「【0049】
(B)上記実施形態では特に触れていないが、燃料電池100の基本構造としては、燃料極支持型、平板形、円筒形、縦縞型、横縞型、片端保持型、両端保持型などの構造を採用しうる。
【0050】
(C)上記実施形態では、集電部材の一例として、空気極13に接続される集電部材20の構成について説明したが、これに限られるものではない。本発明に係る集電部材は、2つの燃料電池セルに挟まれるセパレータであってもよい。この場合、セパレータは、一方の燃料電池セルの空気極と、他方の燃料電池セルの燃料極と、に接続される。本発明によれば、このようなセパレータの耐久性を向上させることもできる。」
「【図1】


【図2】




(2)甲1記載の事項及び甲1記載の発明
ア 上記(1)より、甲1には、固体酸化物型燃料電池100の集電部材20について、記載されているといえる。

イ 上記(1)の【0016】?【0017】より、甲1の固体酸化物型燃料電池100の集電部材20は、基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備え、基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有する。

ウ 上記(1)の【0018】より、甲1の固体酸化物型燃料電池100の集電部材20において、合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材である。

エ 上記(1)の【0019】より、甲1の「固体酸化物型燃料電池100」において、第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成され、第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有する。

オ 上記(1)の【0020】より、甲1の固体酸化物型燃料電池100の集電部材20において、第2導電性セラミックス膜220は、第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成される。

カ 上記(1)の図2より、甲1の固体酸化物型燃料電池100の集電部材20において合金部材211は、凹部を有し、当該凹部に第1導電性セラミックス膜212の一部が埋設した埋設部を看取できる。

キ 以下は次の参考図1、参考図2を用いて検討する。
参考図1、参考図2は、いずれも申立人が特許異議申立書(第11頁、第13頁)において提出したもので、前者は、甲1の図2において、最も大きい凹部に埋設された第1導電性セラミック膜212の埋設部の凹部の開口を、直線CL1とCL1上のP1、P2で示し、合金部材211と第1導電性セラミックス膜212との界面付近に沿った直線をCL2で示したものであり、後者は、同じ埋設部について、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に「2本の平行接線PL」を設定し、当該「2本の平行接線PL」に垂直な方向を直線L1で示したものである。

(参考図1)


(参考図2)



ク 上記参考図2において、埋設部開口のCL1の距離、すなわち、合金部材211の凹部の開口の幅は、2つの直線PLの距離、すなわち、埋設部の幅よりも細くなっているから、上記(1)の図2から、合金部材211の凹部の開口の幅は、埋設部の幅よりも細くなっていることが看取できるといえる。

ケ 上記キの参考図1において、直線CL2は合金部材211と第1導電性セラミック膜212との界面付近に沿った直線である。
一方、この直線CL2に対して、上記参考図2の直線L1がなす角度は鋭角であるから、結局、上記(1)の図2から、合金部材211と第1導電性セラミック膜212との界面付近に沿った直線に対し、上記参考図2の直線L1がなす角度は鋭角であることが看取できるといえる。

コ 上記ア?ケからすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「集電部材20を用いた固体酸化物型燃料電池100であって、
集電部材は、基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を備え、
基材210は、合金部材211と、第1導電性セラミックス膜212と、を有し、
合金部材211は、Fe及びCrを含む板状部材であり、
第1導電性セラミックス膜212は、合金部材211の表面上に形成され、
第1導電性セラミックス膜212は、Cr_(2)O_(3)を主成分として含有し、
第2導電性セラミックス膜220は、第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成され、
合金部材211は、凹部を有し、当該凹部に第1導電性セラミックス膜212の一部が埋設した埋設部を有し、
合金部材211の凹部の開口の幅は、埋設部の幅よりも細くなっており、
合金部材211と第1導電性セラミック膜212との界面付近に沿った直線に対し、参考図2の直線L1がなす角度は鋭角である、
固体酸化物型燃料電池100。」

(3)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「[0067]図3は本発明の燃料電池セルスタック装置の一例を示したものであり、(A)は燃料電池セルスタック装置を概略的に示す側面図、(B)は(A)の燃料電池セルスタック装置の点線枠で囲った部分の一部を拡大した平面図である。なお、(B)において(A)で示した点線枠で囲った部分に対応する部分を明確とするために矢印にて示している。また、図4は図3に示した燃料電池セルスタック装置の一部を抜粋して示す縦断面図である。
[0068]ここで、燃料電池セルスタック装置30は、一対の平行な平坦面をもつ柱状の導電性支持体10(以下、支持体10と略す場合がある。)の一方側の平坦面上に内側電極層としての燃料側電極層2と、固体電解質層3と、外側電極層としての空気側電極層4とを順に積層してなる柱状(中空平板状)の燃料電池セル1の複数個を立設するとともに、隣接する燃料電池セル1間に集電部材20を介して電気的に直列に接続して燃料電池セルスタック31を形成し、各燃料電池セル1の下端部を、燃料電池セル1に反応ガス(燃料ガス)を供給するためのマニホールド34に固定して形成されている。また、燃料電池セルスタック装置30は、燃料電池セル1の配列方向の両端から端部集電部材24を介して燃料電池セルスタック31を挟持するように、マニホールド34に下端部が固定された弾性変形可能な導電部材32を具備している。なお、以降の説明において、特に断りのない限り、内側電極層を燃料側電極層2とし、外側電極層を空気側電極層4として説明する。なお、端部集電部材24は、集電部材20と同等のものを用いてもよく、集電部材20とは、構成が異なるものを用いてもよい。端部集電部材24においても上述したCr拡散抑制層204を設けることが好ましい。」
「[図3]



(4)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「[0013]先ず、導電部材として燃料電池用集電部材を備えてなるセルスタック装置について図1を用いて説明する。セルスタック装置1は、固体酸化物形の燃料電池セル3を有している。この燃料電池セル3は、内部にガス流路12を有し、一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7と、この導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に配置してなる発電部を備えている。導電性支持体7の他方の主面には、インターコネクタ11を配置し、柱状(中空平板状)の燃料電池セル3が構成されている。
[0014]そして、これらの燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に燃料電池用集電部材(導電部材)4(以下、単に集電部材4という)を配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続してなるセルスタック2が構成されている。
[0015]燃料電池セル3と集電部材4とは、詳しくは後述するが、導電性接合材13を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル3を、集電部材4を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック2を構成している。
[0016]また、インターコネクタ11の外面にはP型半導体層(図示せず)を設けることもできる。集電部材4を、P型半導体層を介してインターコネクタ11に接続させることより、両者の接触がオーム接触となって電位降下を少なくすることができる。このP型半導体層は、酸素極層10の外面にも設けてもよい。
[0017]セルスタック2を構成する各燃料電池セル3の下端部は、ガスタンク6に、ガラス等のシール材(図示せず)により固定されており、これにより、ガスタンク6の燃料ガスを、燃料電池セル3の内部に設けられたガス流路12を介して燃料電池セル3の燃料極層8に供給することができる。
[0018]図1に示すセルスタック装置1においては、燃料電池セル3のガス流路12の内部を燃料ガスとして水素含有ガスが流れるとともに、燃料電池セル3の外側、特に燃料電池セル3の間に配置された集電部材4の内部空間を酸素含有ガス(空気)が流れる構成となる。それにより、燃料極層8にガスタンク6から燃料ガスが供給され、酸素極層10に酸素含有ガスが供給されることで、燃料電池セル3の発電が行なわれる。
[0019]セルスタック装置1は、燃料電池セル3の配列方向xの両端から、集電部材4を介してセルスタック2を挟持するように、弾性変形可能な導電性の挟持部材5を配置して構成され、この挟持部材5の下端部は、ガスタンク6に固定されている。挟持部材5は、セルスタック2の両端に位置するように設けられた平板部5aと、燃料電池セル3の配列方向xに沿って外側に向けて延びた形状で、セルスタック2(燃料電池セル3)の発電により生じる電流を引き出すための電流引出部5bとを有している。」
「[図1]



(5)周知技術
ア 上記(3)の図3より、横縞型の燃料電池セルスタック装置が、看取できる。

イ 上記(3)の[0068]より、甲3には、横縞型の燃料電池セルスタック装置において、各燃料電池セル1の下端部を、燃料電池セル1に反応ガス(燃料ガス)を供給するためのマニホールド34に固定して形成されていることが記載されている。

ウ 上記(4)の図1より、横縞型の燃料電池セルスタック装置が、看取できる。

エ 上記(4)の[0017]より、甲4には、横縞型の燃料電池セルスタック装置において、各燃料電池セル3の下端部は、ガスタンク6(本件発明の「マニホールド」に相当。)に固定されていることが記載されている。

オ 上記イ及びエより、横縞型の燃料電池セルスタック装置において、燃料電池セルの下端部がマニホールドに固定されていることが、本件出願前に周知技術であったといえる。

6 当審の判断
6-1 特許法第36条第6項第2号について
(1)本件訂正前の請求項1の「埋設部の深さ方向」について(上記2の2-1の(1))
ア 本件発明4、5は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「基材の断面において、前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角である」との発明特定事項を含むものである。

イ そして、本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、上記アの発明特定事項について、次のとおり記載されている。
なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【0066】
表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θ」は、以下のように規定される。まず、図8に示すように、FE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)によって1000-20000倍に拡大した画像上で、開口S2の幅W1を規定する直線CL1によって埋設部211bの領域を画定する。次に、埋設部211bを挟む2本の平行接線PLを180度回転させたときに、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に固定された2本の平行接線PLに垂直な方向を「深さ方向L1」に設定する。このときの2本の平行接線PL間の距離が、埋設部211bの所謂「最大フェレー径」である。次に、直線CL1が表面210aと交差する2点を基準点P1,P2に設定する。次に、表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法による仮想的な近似直線CL2を引く。近似直線CL2は、角度θの算出に用いられる表面210aである。すなわち、角度θの算出において、近似直線CL2が表面210aを示す。そして、この近似直線CL2に対する深さ方向L1の角度が、表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θである。」

ウ ここで、上記5の(2)のキの参考図1のように、「深さ方向L1」が凹部の開口を示す直線CL1と垂直方向に延びる場合は、一般的に、「深さ方向L1」と称することができる。

エ しかしながら、上記イの記載によれば、「埋設部211bを挟む2本の平行接線PLを180度回転させたときに、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に固定された2本の平行接線PLに垂直な方向を「深さ方向L1」に設定する。このときの2本の平行接線PL間の距離が、埋設部211bの所謂「最大フェレー径」である」とされており、この定義からすると、「深さ方向L1」は上記5の(2)のキの参考図2の直線L1で示した方向となり、上記ウの一般的な「深さ方向L1」とは異なる方向となる。

オ 一方、特許権者は、意見書において、次のとおり述べている。
「本件明細書段落0066の記載に基づけば、「深さ方向L1」が、参考図2(当審注:上記5の(2)のキの参考図2)における直線L1方向であることは明らかです。」

カ そうすると、上記オの主張は上記イの記載と整合しているので、上記ウ、エの検討にもかかわらず、上記アの発明特定事項は上記イの記載および上記オの主張から、明確に特定できることとなる。

キ よって、本件発明4、5に係る発明は、明確である。

(2)本件訂正前の請求項1の「前記表面に対して」について(上記2の2-1の(2))
ア 本件訂正前の請求項1の「前記表面に対して」との記載は、本件訂正により、本件訂正後の請求項4、5において、「前記基材の前記表面に対して」と訂正して記載されている。

イ そして、かかる訂正により、「前記表面」が「前記基材の前記表面」と明確な記載となった。

ウ よって、本件発明4、5は、明確である。

(3)本件訂正前の請求項1の「くびれており」について(上記3の3-1)
ア 本件訂正により、本件訂正前の請求項1は削除されたが、「くびれており」との記載について、本件訂正後の請求項4、5に、「埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、」と記載されている。

イ 一方、本件明細書には、請求項4、5の上記アの記載について、「「埋設部211bが開口S2においてくびれている」とは、基材210の表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの幅W2が開口S2の幅W1よりも大きいことを意味する。埋設部211bの幅W2とは、開口S2の幅W1を規定する直線CL1に平行な方向における埋設部211bの最大寸法である」(【0064】)、「開口幅W1は、当該断面において、開口S2の縁を最短距離で結ぶ直線CL1の長さである」(【0058】)と記載されている。

ウ そうすると、上記イの記載により、「埋設部211bが開口S2においてくびれている」とは、基材210の表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの幅W2が開口S2の開口幅W1よりも大きいことを意味し、埋設部211bの開口幅W1も幅W2も、本件明細書に明確に定義されている。

エ したがって、請求項4、5の「埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、」との記載は明確であるから、本件発明4、5は明確である。

6-2 特許法第29条第1項第3号及び第2項について(上記2の2-2及び上記3の3-4)
(1)本件訂正後の特許異議の申立ての理由について
ア 本件訂正により、本件訂正前の請求項1?3は削除されたから、本件訂正前の請求項1?3についてなされた、甲1又は甲2を主引例とする特許法第29条第1項第3号及び第2項の特許異議の申立ての理由については、その対象とする請求項がなくなり、解消された。

イ したがって、本件訂正前の請求項4、すなわち、本件訂正後の請求項4、5についてなされた、甲1を主引例とする特許法第29条第2項の特許異議の申立ての理由(上記3の3-4)についてのみ、以下、検討する。

(2)対比・判断
(2-1)本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「Fe及びCrを含む板状部材であ」る「合金部材211」、は、本件発明4の「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」に相当する。

イ 甲1発明の「合金部材211の表面上に形成され」、「Cr_(2)O_(3)を主成分として含有」する「第1導電性セラミックス膜212」は、本件発明4の「基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜」に相当する。

ウ 甲1発明の「第1導電性セラミックス膜212の表面上に形成され」た「第2導電性セラミックス膜220」は、本件発明4の「酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。

エ 上記ア?ウより、甲1発明は、「クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する」から、本件発明4の「合金部材」に相当する部材を有している。

オ 甲1発明の「合金部材211は、凹部を有」する事項は、本件発明4の「基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有」する事項に相当する。

カ 甲1発明の「凹部に第1導電性セラミックス膜212の一部が埋設した埋設部を有」する事項は、本件発明4の「酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有」する事項に相当する。

キ 本件明細書には、「本実施形態において、「埋設部211bが開口S2においてくびれている」とは、基材210の表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの幅W2が開口S2の幅W1よりも大きいことを意味する。埋設部211bの幅W2とは、開口S2の幅W1を規定する直線CL1に平行な方向における埋設部211bの最大寸法である」(【0064】)と記載されている。
そして、上記5の(2)のキ、クの検討によれば、甲1発明の「合金部材211の凹部の開口の幅は、埋設部の幅よりも細くなって」いる事項は、本件発明4の「埋設部は、前記凹部の開口でくびれて」いる事項に相当する。

ク 本件明細書には、次のとおり記載されている。
「【0066】
「表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θ」は、以下のように規定される。まず、図8に示すように、FE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)によって1000-20000倍に拡大した画像上で、開口S2の幅W1を規定する直線CL1によって埋設部211bの領域を画定する。次に、埋設部211bを挟む2本の平行接線PLを180度回転させたときに、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に固定された2本の平行接線PLに垂直な方向を「深さ方向L1」に設定する。このときの2本の平行接線PL間の距離が、埋設部211bの所謂「最大フェレー径」である。次に、直線CL1が表面210aと交差する2点を基準点P1,P2に設定する。次に、表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法による仮想的な近似直線CL2を引く。近似直線CL2は、角度θの算出に用いられる表面210aである。すなわち、角度θの算出において、近似直線CL2が表面210aを示す。そして、この近似直線CL2に対する深さ方向L1の角度が、表面210aに対して埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θである。」
ここで、本件明細書の上記記載によれば、「埋設部211bを挟む2本の平行接線PLを180度回転させたときに、2本の平行接線PL間の距離が最大になる位置に固定された2本の平行接線PLに垂直な方向を「深さ方向L1」に設定する」とのことであるから、上記5の(2)のキで示した参考図2を参酌すると、「深さ方向L1」は参考図2の直線L1方向である。
また、本件明細書の上記記載によれば、「表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法による仮想的な近似直線CL2を引く。近似直線CL2は、角度θの算出に用いられる表面210aであ」るところ、上記5の(2)のキで示した参考図1、すなわち、甲1の図2には、1μmの基準となる長さが示されており、当該断面図は概ね25μm程度の長さの断面図であるから、「表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法による仮想的な近似直線CL2を引く」ことができない。
しかしながら、甲1には、基材210、第1導電性セラミックス膜212の界面に凹凸を設けることについて、特段の記載はないから、参考図1における直線CL2は、「表面210aのうち一方の基準点P1を起点とする100μmの範囲と、表面210aのうち他方の基準点P2を起点とする100μmの範囲とを用いて、最小二乗法によ」って、求めた「仮想的な近似直線」と大きな差はないと考えられるし、少なくとも、参考図1における直線CL2と参考図2における直線L1との角度が鋭角とならないとは考えづらい。
そうすると、甲1発明の「合金部材211と第1導電性セラミック膜212との界面付近に沿った直線に対し、参考図2の直線L1がなす角度は鋭角である」事項は、本件発明4の「基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であ」る事項に相当する。

ケ 甲1発明の「集電部材20」は、2つの燃料電池の発電部10間を電気的に接続するものであることは技術常識であって、これら少なくとも2つの発電部10がセルスタックを構成しているものといえるから、甲1発明の「固体酸化物型燃料電池100」は、本件発明4の「セルスタック装置」に相当する。

コ また、固体酸化物型燃料電池が、電気化学セルを有することは技術常識であるから、甲1発明の「固体酸化物型燃料電池100」も電気化学セルを有しているといえる。

サ さらに、甲1発明の「固体酸化物型燃料電池100」において、「集電部材20」が電気化学セルと電気的に接続されることは自明である。

シ 上記ア?サの検討より、本件発明4と甲1発明とは、
「電気化学セルと、
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角である、
セルスタック装置。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
「合金部材」が、本件発明4は、「電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである」のに対し、甲1発明は、「集電部材」である点。

ス 以下、上記相違点について検討する。

セ 甲1には、「燃料電池100の基本構造としては、燃料極支持型、平板形、円筒形、縦縞型、横縞型、片端保持型、両端保持型などの構造を採用しうる」(【0049】)と、甲1発明の「固体酸化物型燃料電池100」が「横縞型」の燃料電池に採用しうることが記載されている。

ソ また、本件明細書には、「本実施形態に係る燃料電池セル300は、いわゆる横縞型の
燃料電池セルである」(【0028】)、「上記実施形態において、セルスタック250は、横縞型の燃料電池を有することとした・・・(略)・・・」(【0085】)と記載されている。

タ さらに、横縞型の燃料電池セルスタック装置において、燃料電池セルの下端部がマニホールドに固定されていることは、本件出願前の周知技術である(上記5の(5)のオ参照。)。

チ しかしながら、甲1発明は、「基材210と、第2導電性セラミックス膜220と、を」「集電部材」に用いたものであって、電気化学セルの基端部を支持するマニホールドに用いたものではない。

ツ そして、たとえ、上記セのとおり、甲1発明の「固体酸化物型燃料電池100」が「横縞型」の燃料電池に採用し得たとしても、甲1発明の「集電部材」に用いられている構造及び材料をマニホールドに適用する動機がない。

テ したがって、上記相違点に係る本件発明4の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

ト よって、本件発明4は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明5について
ア 本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明5と甲1発明とは、少なくとも、上記(2-1)のシで示した相違点で相違する。

イ よって、上記(2-1)で検討した理由と同様の理由で、本件発明5は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6-3 特許法第36条第6項第1号について(上記3の3-2)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載からみて、「被覆膜の剥離を抑制可能な合金部材、セルスタック及びセルスタック装置を提供すること」(【0006】)であると認められる。

イ そして、本件発明4,5は、「埋設部は、前記凹部の開口でくびれて」いるとの発明特定事項を有するものである。

ウ さらに、上記イの発明特定事項について、本件明細書には、「「埋設部211bが開口S2においてくびれている」とは、基材210の表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの幅W2が開口S2の幅W1よりも大きいことを意味する」(【0064】)と記載されている。

エ そうすると、本件発明4、5は、上記イの発明特定事項を有することにより、本件明細書に記載されているように、「このようなボトルネック構造によって、各埋設部211bが各凹部210bに係止されてアンカー効果が生じる」(【0063】)こととなり、上記アの課題を解決しうるものであるといえる。

オ したがって、本件発明4、5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

6-4 特許法第36条第4項第1号について(上記3の3-3)
ア 本件発明4、5は、「基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角である」との発明特定事項を含むものである。

イ そして、本件明細書には、次のとおり記載されている。
「基材210の表面210aに凹部210bを形成する。例えばショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストを用いることによって、所定形状の凹部210bを効率的に形成することができる。この際、表面210aに対するショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストの噴射方向を調整して、凹部210bを斜めに形成することによって、後工程で形成される埋設部211bの深さ方向L1が成す角度θを鋭角にするとともに、角度θを所望値に制御することができる。また、面方向における凹部210bの個数を調整することによって、面方向における埋設部211bの存在個数を制御できる。」(【0079】)

ウ 一方、申立人は特許異議申立書において、本件訂正前の請求項2の「表面に対して前記深さ方向が成す角度は、89度である」との記載を根拠に、埋設部の深さ方向が成す角度を1度以下の単位で制御できることを前提しており、ショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストにおいて噴射される物体は、噴射口からある程度広がるように進行するから、凹部の角度を1度以下の単位で制御することは不可能であると主張(特許異議申立書第36頁第5行から第15行)している。

エ しかしながら、ショットピーニング、サンドブラスト又はウェットブラストにおいて噴射される物体が、噴射口からある程度広がるように進行したとしても、少なくとも1つの凹部が表面に対して深さ方向が成す角度が89度であって、それ以外の凹部が89度未満である合金部材を備えたセルスタック装置は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、製造可能であると考えられる。

オ よって、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4、5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項4、5に係る特許は、令和2年3月2日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項1?3は、本件訂正により削除されたから、本件の訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
電気化学セルと、
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。
【請求項5】
電気化学セルと、
クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜とを有する合金部材と、
を備え、
前記基材は、前記表面にそれぞれ形成された凹部を有し、
前記酸化クロム膜は、前記凹部の内部に埋設された埋設部を有し、
前記埋設部は、前記凹部の開口でくびれており、
前記基材の断面において、前記基材の前記表面に対して前記埋設部の深さ方向が成す角度は、鋭角であり、
前記基材の前記表面に対して前記深さ方向が成す角度は、89度以下であり、
前記合金部材は、前記電気化学セルの基端部を支持するマニホールドである、
セルスタック装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-17 
出願番号 特願2018-111681(P2018-111681)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
土屋 知久
登録日 2019-05-17 
登録番号 特許第6527989号(P6527989)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 合金部材、セルスタック及びセルスタック装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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