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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1368067
異議申立番号 異議2019-700291  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-16 
確定日 2020-09-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6407064号発明「両親媒性ポリマーを含む水中油型エマルジョン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6407064号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6407064号の請求項1、3?5、7、8に係る特許を維持する。 特許第6407064号の請求項2、6に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6407064号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成21年2月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年2月12日、フランス、2008年2月19日、米国)を国際出願日とする特願2010-546322号の一部を平成27年2月27日に新たな特許出願としたものであり、平成30年9月28日にその特許権の設定登録がされ、同年10月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年4月16日に、特許異議申立人 三▲崎▼ 岳郎(以下、「申立人」という。)により、本件特許の全請求項に対して、特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和1年7月3日付け:取消理由の通知
令和1年10月8日付け:訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和1年12月11日付け:意見書の提出(申立人)
令和2年 2月13日付け:取消理由通知書<決定の予告>
令和2年 5月19日付け:訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

なお、令和1年10月8日に行った訂正請求は、その後、令和2年5月19日に行った訂正請求によって、取り下げられたものとみなす。(特許法第120条の5第7項)
また、申立人に対し意見書提出の機会を与えたが、令和2年5月19日付け訂正請求に対する意見書は提出されていない。


第2 訂正の可否
令和2年5月19日付け提出の訂正請求書による特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)の可否について、以下に検討する。

1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである(訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示し、前記油性相が、組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在することを特徴とする組成物」

「10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有する、少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示し、前記油性相が、組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在し、前記両親媒性ポリマーが、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されることを特徴とする組成物」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3から5中の請求項の引用を下記のとおり訂正する。

【請求項3】
「請求項1または2に記載の組成物」を「請求項1に記載の組成物」に訂正する。

【請求項4】
「請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物」を「請求項1または3に記載の組成物」に訂正する。

【請求項5】
「請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物」を「請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7及び8中の請求項の引用を下記のとおり訂正する。

【請求項7】
「請求項lから6のいずれか一項に記載の組成物」を「請求項1及び3から5のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。

【請求項8】
「請求項1から7のいずれか一項に記載の化粧品組成物」を「請求項1及び3から5及び7のいずれか一項に記載の化粧品組成物」に訂正する。

そして、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?8〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマー」を、訂正前の請求項2に記載された「10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有する」なる発明特定事項と、訂正前の請求項6に記載された「両親媒性ポリマーが・・・ポリスチレンベースのジブロックポリマー・・・から選択される」なる発明特定事項とで限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
訂正前の請求項2には「ポリマーが、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有する」との記載があり、(外国語書面の第4頁第32?34行に対応する)本件特許明細書の段落【0031】には「本発明によるポリマーは、10000から10000000、より好ましくは50000から8000000、さらにより好ましくは100000から3000000の範囲の重量平均モル質量を一般的に有する。」(下線は当審で付した。以下、同様。)との記載がある。
また、訂正前の請求項6には「両親媒性ポリマーが・・・ポリスチレンベースのジブロックポリマー・・・から選択される」との記載がある。
したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無
上記アで説示したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2によって請求項2を削除するのに伴い、請求項3?5の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項2、4によって請求項2、6を削除するのに伴い、請求項7、8の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正後の請求項1、3?5、7、8に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明5」、「本件発明7」、「本件発明8」という。)は、令和2年5月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5、7、8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
水性相中に分散した油性相を含む水中油型エマルジョンの形態の、皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物であって、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有する、少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示し、前記油性相が、組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在し、前記両親媒性ポリマーが、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
両親媒性ポリマーの量(活性物質として)が、組成物の総重量に対して、0.01重量%から10重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
油性相の量の、ポリマーの量に対する割合が、1から200の範囲であることを特徴とする、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
両親媒性ポリマーの疎水性ブロックのモル質量が、100から10000g/モルの間であることを特徴とする、請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
両親媒性ポリマーが、無機塩基または有機塩基により部分的または完全に中和されていることを特徴とする、請求項1及び3から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1及び3から5及び7のいずれか一項に記載の化粧品組成物が、皮膚および/または唇に塗布されることを特徴とする、皮膚および/または唇の美容的処置のための方法。」


第4 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1、3?8に係る特許に対して、当審が令和2年2月13日付けの取消理由通知書<決定の予告>において特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1、3?8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 刊行物
・甲第1号証 特開2003-226612号公報(以下、「甲1」ともいう。)

3 当審の判断
(1)刊行物の記載事項
甲1には、以下の記載がある。

記載事項1-1(請求項1?3)
「【請求項1】少なくとも側鎖に式(1)の基:
-(OX)_(n)-E^(2)-R (1)
(式中、n個のXは同一又は異なって炭素数1?6の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示し、nは5?300の数を示し、E^(2)はエーテル結合又はオキシカルボニル基(-OCO-又は-COO-)を示し、Rはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数4?30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を示す)を有する高分子化合物、水溶性ポリオール水溶液、及び疎水性化合物を混合し、得られた混合物を水で希釈することによって得られる水中油型乳化物。
【請求項2】上記高分子化合物が、Xがエチレン基、nが5?200、Rが炭素数4?30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である式(1)で表される基を主鎖モノマーに対して0.0001?0.1の割合で付加している分子量1万?200万の合成水溶性高分子である、請求項1記載の水中油型乳化物。
【請求項3】前記高分子化合物が式(1)で表される基を有する疎水化多糖である、請求項1記載の水中油型乳化物。」

記載事項1-2(請求項9)
「【請求項9】(イ)前記高分子化合物 1重量部、(ロ)前記水溶性ポリオール水溶液の1種又は2種以上 2?50重量部、(ハ)水 5?30重量部、及び(ニ)前記疎水性化合物0.01?70重量部を混合して組成物(1)を得、これを水で希釈する、請求項5記載の水中油型乳化物の製造法。」

記載事項1-3(段落【0007】?【0014】)
「【0007】疎水化多糖としては、多糖類又はその誘導体のヒドロキシ基の水素原子の一部又は全てが、次の基(A):(A)下記一般式(2)で表される基
-E^(1)-(OX)_(n)-E^(2)-R (2)
〔式中、E^(1)はヒドロキシ基又はオキソ基で置換されていてもよい炭素数1?6の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示し、nは8?300の数を示し、n個のXは同一又は異なって、炭素数1?6の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示し、E^(2)はエーテル結合又はオキシカルボニル基(-OCO-又は-COO-)を示し、Rはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数4?30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。〕、で置換され、そして任意に次の基(B)、(C)及び(D):(B)ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1?5のスルホアルキル基又はその塩、(C)ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数2?6のカルボキシアルキル基又はその塩、及び(D)下記一般式(3)で表される基:
【0008】

【0009】〔式中、D^(1)はヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1?6の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基を示し、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は同一又は異なって、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1?3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、X^(-)はヒドロキシイオン、ハロゲンイオン又は有機酸イオンを示す。〕から選ばれる1以上の基〔これらの基(A)?(D)のヒドロキシ基の水素原子は更に基(A)、(B)、(C)又は(D)で置換されていてもよい〕で置換された置換多糖類が挙げられる。
【0010】本発明に用いられる多糖類又はその誘導体としては、セルロース、グアーガム、スターチ、プルラン、デキストラン、フルクタン、マンナン、寒天、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類;これらにメチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が置換した誘導体が挙げられる。これらの置換基は、構成単糖残基中に単独で又は複数の組合せで置換することができる。多糖類の誘導体の例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシエチルスターチ、メチルセルロース、メチルグアーガム、メチルスターチ、エチルセルロース、エチルグアーガム、エチルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルグアーガム、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルグアーガム、ヒドロキシエチルメチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルグアーガム、ヒドロキシプロピルメチルスターチ等が挙げられる。これら多糖類又はその誘導体のうち、セルロース、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、特にヒドロキシエチルセルロースが好ましい。これら多糖類又はその誘導体の重量平均分子量は、1万?1000万、更に10?500万、特に20万?200万の範囲が好ましい。
【0011】本発明で使用する置換多糖類(即ち、多糖類又はその誘導体のヒドロキシ基の水素原子の一部又は全てが、上記の基(A)で置換され、そして任意に(B)、(C)および/又は(D)で置換されたもの)は、多糖類又はその誘導体としてセルロース類を用いた場合を例に挙げれば、その繰り返し単位は次の一般式で例示される:
【0012】
【化4】

【0013】〔上記式中、R^(4)は同一又は異なり、そして水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基;ポリオキシアルキレン基を含む、上記一般式(2)で表される置換基(A);スルホアルキル基である上記置換基(B);カルボキシアルキル基である置換基(C);上記一般式(3)で表されるカチオン性の置換基(D)から選ばれる基を示し、Qは同一又は異なり、そして炭素数2?4のアルキレン基を示し、a、b及びcは、同一又は異なって、それぞれ0?10の数を示し、QO基、R^(4)基、a、b及びcは、繰り返し単位内で又は繰り返し単位間で同一でも異なってもよく、また上記置換基(A)?(D)のヒドロキシ基は更に他の置換基(A)?(D)で置換されていてもよい。ただし、R^(4)として少なくとも置換基(A)を有する。〕。
【0014】ポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)を表す一般式(2)におけるE^(1)としては、ヒドロキシ基又はオキソ基で置換されていてもよい炭素数2又は3の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基が好ましく、具体的にはエチレン、プロピレン、トリメチレン、2-ヒドロキシトリメチレン、1-ヒドロキシメチルエチレン、1-オキソエチレン、1-オキソトリメチレン、1-メチル-2-オキソエチレン等が好ましい。一般式(2)におけるXとしては、炭素数2又は3の直鎖若しくは分岐鎖の2価の飽和炭化水素基が好ましく、具体的にはエチレン、プロピレン及びトリメチレンが好ましい。nで表される(-OX-)の重合度としては、増粘効果及び乳化安定性の点から、8?120、特に10?60が好ましい。n個のX同一でも異なってもよい。ここでnは平均付加モル数の意味である。E^(2)はエーテル結合又はオキシカルボニル基であるが、エーテル結合が好ましい。一般式(2)におけるRとしては、炭素数5?25、特に6?20の、ヒドロキシ基で置換されていてもよい直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基が好ましく、また、安定性の点から、非置換のアルキル基、特に非置換の直鎖アルキル基が好ましい。具体的にはオクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソステアリル基等が好ましい。」

記載事項1-4(段落【0016】?【0018】)
「【0016】本発明の置換多糖類は、上記置換基(A)に加え、更に上記置換基(B)、(C)及び(D)から選ばれる1以上の基で置換されていてもよい。また、置換基(A)?(D)のヒドロキシ基の水素原子は、更に置換基(A)?(D)で置換されていてもよい。
【0017】置換基(B)、即ちヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1?5のスルホアルキル基又はその塩、としては、2-スルホエチル基、3-スルホプロピル基、3-スルホ-2-ヒドロキシプロピル基、2-スルホ-1-(ヒドロキシメチル)エチル基等が挙げられ、なかでも安定面や製造面より3-スルホ-2-ヒドロキシプロピル基が好ましい。これら置換基(B)は、その全てあるいは一部がNa、K、Ca、Mg等の1族又は2族元素、アミン類、アンモニウム等の有機カチオンなどとの塩となっていてもよい。これら置換基(B)による置換度は、構成単糖残基当たり0?1.0、更に0?0.8、特に0?0.5の範囲が好ましい。
【0018】置換基(C)、即ちヒドロキシ基が置換していてもよい炭素数2?6のカルボキシアルキル基又はその塩、としては、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシブチル基、カルボキシペンチル基等が挙げられ、なかでも安定面や製造面より、カルボキシメチル基が好ましい。これら置換基(C)は、その全てあるいは一部がNa、K、Ca、Mg等の1族又は2族元素、アミン、アンモニウム等の有機カチオンなどとの塩となっていてもよい。これら置換基(C)による置換度は、構成単糖残基当たり0?1.0、更に0?0.8、特に0?0.5の範囲が好ましい。」

記載事項1-5(段落【0032】)
「【0032】本発明の疎水性化合物としては、トイレタリー製品の機能や付加価値を高めるために配合される高級アルコール類、ステロール類、シリコーン類、フッ素系油剤、油性成分等が挙げられる。」

記載事項1-6(段落【0038】?【0041】)
「【0038】本発明の方法では、置換多糖類1重量部、1種又は2種以上の水溶性ポリオール2?50重量部、水5?30重量部、及び疎水性化合物0.01?70重量部が混合された組成物(1)を水で希釈して、疎水性化合物の乳化物が製造される。本発明の好ましい一態様では、先ず、置換多糖類と水溶性ポリオールと水(又は置換多糖類と水溶性ポリオール水溶液)を混合して組成物(1a)を得、更に疎水性化合物を混合して組成物(1)を製造する。その場合、組成物(1a)中の置換多糖類の含有量は1?10重量%、水溶性ポリオールの含有量は10?90重量%、水の含有量は10?90重量%であることが好ましい。また、水溶性ポリオールと水の重量比は10/90?90/10であるのが好ましい。ここで、水溶性ポリオールと水とを先に混合して水溶性ポリオール水溶液を調製した後、該水溶液を置換多糖類と好ましくは攪拌しながら混合して組成物(1a)を製造するのがより好ましい。
【0039】組成物(1a)と混合する疎水性化合物の量は、組成物(1a)に含有される置換多糖類1重量部に対し、0.01?70重量部、更に0.1?50.0重量部、特に1.0?45.0重量部であることが好ましい。混合方法は特に限定されないが、適当な混合機械力下に、組成物(1a)に疎水性化合物を一括添加するか徐々に連続的に添加、若しくは所定量を何回かに分けて添加してもよい。この時、滴下速度又は分割添加の回数は特に限定されないが、良好な混合状態が得られるように適宜調整することが好ましい。所定量の疎水性化合物が全て混合され、組成物(1)が得られる。
【0040】また、本発明の別の態様では、組成物(1)は、次のようにして調製することができる。即ち、置換多糖類と疎水性化合物とを混合し、組成物(1b)を調製する。組成物(1b)中の疎水性化合物の量は、組成物(1b)に含有される置換多糖類1重量部に対し、0.01?70重量部、更に0.1?50重量部、特に1.0?45重量部であることが好ましい。次に組成物(1b)と水溶性ポリオール水溶液とを攪拌しながら混合して上記組成物(1)を製造する。この場合、水溶性ポリオールの組成物(1)中の含有量は、置換多糖類1重量部に対して2?50重量部、更に2?40重量部、特に4?35重量部であるのが好ましい。混合方法は特に限定されないが、適当な混合機械力下に、組成物(1b)にポリオール水溶液を一括添加するか徐々に連続的に添加、若しくは所定量を何回かに分けて添加してもよい。この時、滴下速度又は分割添加の回数は特に限定されないが、良好な混合状態が得られるように適宜調整することが好ましい。所定量のポリオール水溶液が全て混合され、組成物(1)が得られる。
【0041】組成物(1)を次いで水と混合して、目的の乳化物を得る。水との混合方法は特に限定されず、組成物(2)の粘度と混合する水の量に応じて適当な機械力下にて混合される。混合される水の量は、組成物(1)/水の重量比が1/99?99/1、更に1/99?65/35、特に1/99?50/50の範囲であることが好ましい。」

記載事項1-7(段落【0042】)
「【0042】乳化物中に存在する疎水性化合物の乳化粒子の平均粒子径は、例えばコールターカウンターTA-IIモデルを用いて後述の方法で測定することができ、2?30μm、更に3?20μmであることが好ましい。」

記載事項1-8(段落【0043】)
「【0043】得られた乳化物は、そのままでも化粧品、マッサージ化粧料及びスキンケア剤等に用いることが可能であるが、それらの製品の付加価値を高める為に、これらの製品で通常用いられる界面活性剤、分散剤、溶剤、香料、染料、無機塩、防腐剤、抗酸化防止剤及びpH調整剤等の各種添加剤を含有してもよい。特に、本発明により得られる乳化物は、界面活性剤が含有されても、経日による粘度変化及び分離等の外観変化を起こすことなく、良好な安定性を示す。」

記載事項1-9(段落【0045】?【0047】、調製例1)
「【0045】調製例1(多糖誘導体1の調製)
重量平均分子量約80万、ヒドロキシエチル基の置換度1.8のヒドロキシエチルセルロース(HEC-QP15000H,ユニオンカーバイド社製)80g、イソプロピルアルコール640g及びp-トルエンスルホン酸2.0gを混合してスラリー液を調製し、窒素雰囲気下、室温で30分間攪拌した。この溶液に次式:
【0046】

【0047】で表される化合物15gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、反応生成物をろ別した。反応生成物を80%イソプロピルアルコール500gで2回、イソプロピルアルコール500gで2回洗浄し、減圧下70℃で1昼夜乾燥し、ヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体1)73.4gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.010であった。」

記載事項1-10(段落【0054】?【0056】、調製例6)
「【0054】調製例6(多糖誘導体6の調製)
重量平均分子量150万、ヒドロキシエチル基の置換度1.8のヒドロキシエチルセルロース(HEC-QP100MH,ユニオンカーバイド社製)80g、80%イソプロピルアルコール640g及び48%水酸化ナトリウム水溶液5.34gを混合してスラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分間攪拌した。この溶液に次式:
【0055】

【0056】で表される化合物12.78gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物をろ別した。反応生成物をイソプロピルアルコール500gで2回、減圧下60℃で1昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体6)72.0gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.004であった。」

記載事項1-11(段落【0057】?【0059】、調製例7)
「【0057】調製例7(多糖誘導体7の調製)
重量平均分子量150万、ヒドロキシエチル基の置換度1.8のヒドロキシエチルセルロース(HEC-QP100MH,ユニオンカーバイド社製)80g、80%イソプロピルアルコール640g及び48%水酸化ナトリウム水溶液5.34gを混合してスラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分間攪拌した。この溶液に次式:
【0058】
【化12】

【0059】で表される化合物21.7gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物をろ別した。反応生成物をイソプロピルアルコール500gで2回洗浄し、減圧下60℃で1昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体7)74.0gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.004であった。」

記載事項1-12(段落【0063】?【0065】、調製例9)
「【0063】調製例9(多糖誘導体9の調製)
重量平均分子量50万、ヒドロキシエチル基の置換度1.8のヒドロキシエチルセルロース(HEC-QP4400H,ユニオンカーバイド社製)80g,含水80%イソプロピルアルコール640g、48%水酸化ナトリウム水溶液5.34gを混合して、スラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した。この溶液に次式:
【0064】

【0065】で表される化合物12.78gを加え80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物を濾別した。反応生成物をイソプロピルアルコール500gで2回洗浄後、減圧下60℃で一昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体9)73gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.004であった。」

記載事項1-13(段落【0066】?【0068】、調製例10)
「【0066】調製例10(多糖誘導体10の調製)
重量平均分子量20万、ヒドロキシエチル基の置換度2.5のヒドロキシエチルセルロース(NATROZOL250G, ハーキュレス社製)160g、含水80%イソプロピルアルコール1280g、48%水酸化ナトリウム水溶液9.8gを混合して、スラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した。この溶液に次式:
【0067】

【0068】で表される化合物21.2gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物を濾別した。反応生成物をイソプロピルアルコール700gで2回洗浄後、減圧下60℃で一昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体9)151gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.009であった。」

記載事項1-14(段落【0069】?【0071】、調製例11)
「【0069】調製例11(多糖誘導体11の調製)
重量平均分子量20万、ヒドロキシエチル基の置換度2.5のヒドロキシエチルセルロース(NATROZOL250G, ハーキュレス社製)160g、含水80%イソプロピルアルコール1280g、48%水酸化ナトリウム水溶液9.8gを混合して、スラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した。この溶液に次式:
【0070】


【0071】で表される化合物31.8gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物を濾別した。反応生成物をイソプロピルアルコール700gで2回洗浄後、減圧下60℃で一昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体9)152gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.014であった。」

記載事項1-15(段落【0072】?【0074】、調製例12)
「【0072】調製例12(多糖誘導体12の調製)
重量平均分子量20万、ヒドロキシエチル基の置換度2.5のヒドロキシエチルセルロース(NATROZOL250M, ハーキュレス社製)160g、含水80%イソプロピルアルコール1280g、48%水酸化ナトリウム水溶液9.8gを混合して、スラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した。この溶液に次式:
【0073】

【0074】で表される化合物47.7gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物を濾別した。反応生成物をイソプロピルアルコール700gで2回洗浄後、減圧下60℃で一昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体12)153gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.021であった。」

記載事項1-16(段落【0075】?【0077】、調製例13)
「【0075】調製例13(多糖誘導体13の調製)
重量平均分子量20万、ヒドロキシエチル基の置換度2.5のヒドロキシエチルセルロース(NATROZOL250M, ハーキュレス社製)160g、含水80%イソプロピルアルコール1280g、48%水酸化ナトリウム水溶液9.8gを混合して、スラリー液を調製し、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した。この溶液に次式:
【0076】

【0077】で表される化合物56.8gを加え、80℃で8時間反応させてポリオキシアルキレン化を行った。反応終了後、反応液を酢酸で中和し、反応生成物を濾別した。反応生成物をイソプロピルアルコール700gで2回洗浄後、減圧下60℃で一昼夜乾燥し、ポリオキシアルキレン化されたヒドロキシエチルセルロース誘導体(多糖誘導体13)155gを得た。得られたヒドロキシエチルセルロース誘導体のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.025であった。」

記載事項1-17(段落【0084】?【0088】、化合物16)
「【0084】調製例16(化合物16の調製)
【0085】
【化21】

【0086】重量平均分子量5400のポリグリシドール3g、DMSO 100g、粒状NaOH 0.16gを混合し、70℃で撹拌した。溶液が均一になった後、冷却した。室温にて次式:
【0087】

【0088】で表される化合物0.765gを添加し、80℃で8時間熟成した。冷却後、酢酸0.23mLを添加し中和した。DMSOを留去し、得られた淡黄色粘稠固体をIPAで洗浄(30mL×3)した。減圧乾燥の後、化合物16を2.9g得た。得られた化合物16のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.0053であった。」

記載事項1-18(段落【0089】?【0093】、化合物17)
「【0089】調製例17(化合物17の調製)
【0090】
【化23】

【0091】平均重合度2000のポリビニルアルコール20g、DMSO 200g、粒状NaOH 1.81gを混合し70℃で撹拌した。溶液が均一になった後、冷却した。室温にて次式:
【0092】

【0093】で表される化合物1.87gを添加し、80℃で8時間熟成した。冷却後、酢酸2.59mLを添加し中和した。反応終了物をIPA中に添加した。析出した白色固体を濾過し、得られた固体をIPAで洗浄(300mL×3)した。減圧乾燥の後、化合物17を19.0g得た。得られた化合物17のポリオキシアルキレン基を含む置換基(A)の置換度は0.0033であった。」

記載事項1-19(段落【0094】?【0096】、化合物18)
「【0094】調製例18(化合物18の調製)
【0095】
【化25】

【0096】モノマーA 97.1g、モノマーB 20.7g、エタノール180gを混合した。この溶液中に窒素ガスを吹き込み(20mL/min、1時間)、系内を脱気した後、60℃に昇温した。その後V-65エタノール溶液(3wt%)82.8gを温度を60℃に保ちながら滴下した。滴下終了後60℃で12時間熟成を行った。反応終了後、得られた反応終了物をジイソプロピルエーテル2kg中に滴下した。得られた白色固体を濾別し、更にジイソプロピルエーテルで洗浄した(500g×2回)。減圧乾燥の後、化合物18を105g得た。得られた化合物18のモノマーBの導入率をNMRより測定した結果0.025であった。また重量平均分子量は51000であった。」

記載事項1-20(段落【0097】?【0098】、化合物19)
「【0097】
【化26】

【0098】モノマーC 501.8g、モノマーB 20.7g及びエタノール780gを混合した。この溶液中に窒素ガスを吹き込み(40mL/min、1時間)、系内を脱気した後、60℃に昇温した。その後V-65エタノール溶液(3 wt%)82.8gを温度を60℃に保ちながら滴下した。滴下終了後60℃で12時間熟成を行った。反応終了後、得られた反応終了物をジイソプロピルエーテル5kg中に滴下した。得られた白色固体を濾別し、更にジイソプロピルエーテルで洗浄した(500g×2回)。減圧乾燥の後、化合物19を490g得た。得られた化合物19のモノマーBの導入率をNMRより測定した結果0.022であった。また重量平均分子量は110000であった。」

記載事項1-21(段落【0099】?【0100】)
「【0099】実施例1?11(乳化物の製造)
表1に示す多糖誘導体0.15gと86重量%グリセリン水溶液5.40gを、30℃の恒温水槽内にて、300rpm/min.の速度で攪拌し、均一に溶解して組成物(1)を得た。次に、組成物(1)に、表1に示す疎水性物質3.5gを同攪拌速度、同温度で、攪拌しながら滴下した。滴下終了後、15分以上の時間、同攪拌速度、同温度で維持する。イオン交換水を加え、15分以上攪拌して、O/W乳化物を得た。上記方法により製造した乳化物の組成(重量%)は以下の通りであった。
多糖誘導体 0.15%
86重量%グリセリン水溶液 5.97%
疎水性物質 3.87%
水 90.00%
【0100】実施例12?14(乳化物の製造)
実施例1?11における疎水性物質の量を表2に記載したように変えて、実施例1?11の手順と同様にして、O/W乳化物を得た。」

記載事項1-22(段落【0102】?【0105】)
「【0102】実施例19?33(乳化物の製造)
表3に示す多糖誘導体0.25gと疎水性物質5.0gを30℃の恒温水槽内にて300rpm/minの速度で撹拌し、多糖誘導体/疎水性物質分散液を調製した。次に20%ジプロピレングリコール水溶液5gを同撹拌速度、同温度で撹拌しながら添加した。添加終了後、30分以上の時間、同撹拌速度、同温度で維持する。イオン交換水40gを加え、15分以上撹拌して、O/W乳化物を得た。
【0103】実施例34?48(乳化物の製造)
実施例19?33における20%ジプロピレングリコール水溶液の代りに30%ジプロピレングリコール水溶液を使用して、表4に示す組成にて実施例19?33の手順に従って、O/W乳化物を得た。
【0104】実施例49?63(乳化物の製造)
実施例19?33における20%ジプロピレングリコール水溶液の代りに40%プロピレングリコール水溶液を使用して、表5に示す組成にて実施例19?33の手順に従って、O/W乳化物を得た。
【0105】実施例64?73(乳化物の製造)
表6に示す組成にて実施例19?33の手順に従って、O/W乳化物を得た。」

記載事項1-23(段落【0108】?【0112】)
「【0108】実施例79?92(乳化物の製造)
表7に示す組成にて実施例19?33の手順に従って、O/W乳化物を得た。
・・・
【0112】試験例1(乳化安定性試験)
上記実施例および比較例で得られた乳化物を室温及び40℃で1ケ月保存し、安定性(分離の有無)を目視により評価した。また、乳化物の粒径を、コールカウンターTA-IIモデルを用いて、乳化物0.5gを生理食塩水99.5gで希釈し、室温にて、50μmのアパーチャーにより測定した。得られた安定性及び乳化物の平均粒径の結果を、表1?表8に示す。」

記載事項1-24(段落【0114】、【表1】)




記載事項1-25(段落【0115】、【表2】)




記載事項1-26(段落【0116】、【表3】)




記載事項1-27(段落【0117】、【表4】)




記載事項1-28(段落【0118】、【表5】)




記載事項1-29(段落【0119】、【表6】)




記載事項1-30(段落【0120】、【表7】)




記載事項1-31(段落【0122】)
「【0122】
【発明の効果】本発明の方法で得られた乳化物は、肌への感触が優れ、安定性が良好である。従って、本発明の乳化物は化粧品、マッサージ化粧料及びスキンケア剤等の製品用に有用である。」

(2) 甲1に記載された発明
記載事項1-1?1-31の、特に実施例1、2、8、13、14、24、29、39、40、44、54、59、67、69、79、81、85の記載より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

実施例1に記載の
「調製例6により調製された多糖誘導体6 0.15重量%
86%グリセリン 5.97重量%
パーフルオロポリエーテル 3.87重量%
脱イオン水 バランス
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-1発明」という)、

実施例2に記載の
「調製例6により調製された多糖誘導体6 0.15重量%
86%グリセリン 5.97重量%
シリコーンオイル 3.87重量%
脱イオン水 バランス
を含有し、平均乳化粒子径が16μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-2発明」という)、

実施例8に記載の
「調製例7により調製された多糖誘導体7 0.15重量%
86%グリセリン 5.97重量%
シリコーンオイル 3.87重量%
脱イオン水 バランス
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-8発明」という)、

実施例13に記載の
「調製例6により調製された多糖誘導体6 0.15重量%
86%グリセリン 5.97重量%
ミリスチン酸イソステアリン酸グリセロール 6.5重量%
脱イオン水 バランス
を含有し、平均乳化粒子径が19μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-13発明」という)、

実施例14に記載の
「調製例7により調製された多糖誘導体7 0.15重量%
86%グリセリン 5.97重量%
ミリスチン酸イソステアリン酸グリセロール 6.5重量%
脱イオン水 バランス
を含有し、平均乳化粒子径が18μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-14発明」という)、

実施例24に記載の
「調製例10により調製された多糖誘導体10 0.25g
20%ジプロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-24発明」という)、

実施例29に記載の
「調製例11により調製された多糖誘導体11 0.25g
20%ジプロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が16μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-29発明」という)、

実施例39に記載の
「調製例10により調製された多糖誘導体10 0.25g
30%ジプロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-39発明」という)、

実施例40に記載の
「調製例10により調製された多糖誘導体10 0.25g
30%ジプロピレングリコール水溶液 5.0 g
シリコーンオイル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-40発明」という)、

実施例44に記載の
「調製例11により調製された多糖誘導体11 0.25g
30%ジプロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-44発明」という)、

実施例54に記載の
「調製例10により調製された多糖誘導体10 0.25g
40%プロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-54発明」という)、

実施例59に記載の
「調製例11により調製された多糖誘導体11 0.25g
40%プロピレングリコール水溶液 5.0 g
パーフルオロポリエーテル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-59発明」という)、

実施例67に記載の
「調製例13により調製された多糖誘導体13 0.4 g
30%プロピレングリコール 5.0 g
シリコーンオイル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-67発明」という)、

実施例69に記載の
「調製例13により調製された多糖誘導体13 0.3 g
30%プロピレングリコール 5.0 g
スクワラン 4.0 g
パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル 1.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-69発明」という)、

実施例79に記載の
「調製例9により調製された多糖誘導体9 0.5 g
60%1,3-ブタンジオール 10.0 g
ワセリン 5.0 g
パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル 5.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が16μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-79発明」という)、

実施例81に記載の
「調製例10により調製された多糖誘導体10 0.5 g
60%1,3-ブタンジオール 10.0 g
ワセリン 9.0 g
パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル 1.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-81発明」という)、

実施例85に記載の
「調製例12により調製された多糖誘導体12 0.5 g
60%1,3-ブタンジオール 10.0 g
ワセリン 7.0 g
パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル 3.0 g
脱イオン水 40 g
を含有し、平均乳化粒子径が15μmである水中油型(O/W)乳化組成物」(以下、「甲1-85発明」という)。

なお、「甲1-1発明」、「甲1-2発明」、「甲1-8発明」、「甲1-13発明」、「甲1-14発明」、「甲1-24発明」、「甲1-29発明」、「甲1-39発明」、「甲1-40発明」、「甲1-44発明」、「甲1-54発明」、「甲1-59発明」、「甲1-67発明」、「甲1-69発明」、「甲1-79発明」、「甲1-81発明」、「甲1-85発明」をまとめて「甲1発明」ともいう。

(3) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1の「両親媒性ポリマー」は、「少なくとも1つの親水性の部分(またはブロック)と、少なくとも1つの疎水性の部分(またはブロック)とを含むポリマー」を意味するものである(本件特許明細書段落【0025】)。
そして、親水性の部分として、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然ポリマーが例示され(本件特許明細書段落【0044】)、疎水性の部分として、6から30個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルキル基が例示されている(本件特許明細書段落【0049】)。
そうすると、本件発明1の「少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマー」は、少なくとも1つのヒドロキシエチルセルロースなどの天然ポリマーの部分(またはブロック)と、6から30個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルキル基などの疎水性の部分(またはブロック)とを含む、非架橋のポリマーを包含するものである。
一方、甲1発明の多糖誘導体6は、炭素数12のアルキル基を末端に有するポリオキシアルキレン単位を有するエポキシ化合物を、ヒドロキシエチルセルロースと反応させてポリオキシアルキレン化して得られるものである(記載事項1-10参照)。ここで、多糖誘導体6を構成するヒドロキシエチルセルロース部分は、エポキシ化合物が反応していないヒドロキシ基を有するものであるから、親水性の部分であるといえる。また、多糖誘導体6を構成する炭素数12のアルキル基部分は、炭化水素のみからなる置換基であることから、疎水性の部分であるといえる。そして、当該エポキシ化合物は、エポキシ基が1つであることから、架橋剤として機能しないことは明らかである。
そうすると、甲1発明の多糖誘導体6は、少なくとも1つのヒドロキシエチルセルロースなどの天然ポリマーの部分(またはブロック)と、少なくとも1つのポリオキシアルキレン基の末端に結合した長鎖アルキル基などの疎水性の部分(またはブロック)とを含む、非架橋のポリマーであるといえる。同様に、甲1発明の多糖誘導体7、9?13についても、少なくとも1つのヒドロキシエチルセルロースなどの天然ポリマーの部分(またはブロック)と、少なくとも1つのポリオキシアルキレン基の末端に結合した、6から30個の炭素原子を含むアルキル基などの疎水性の部分(またはブロック)とを含む、非架橋のポリマーであるといえる。
したがって、甲1発明の多糖誘導体6、7、9?13は、本件発明1の「少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマー」に相当するといえる。
また、甲1発明の「水中油型(O/W)乳化組成物」は、本件発明1の「水性相中に分散した油性相を含む水中油型エマルジョン形態」に相当する。
さらに、甲1発明が「化粧品、マッサージ化粧料及びスキンケア剤」等に用いられるものである(記載事項1-8参照)ことからみて、本件発明1の「皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物」は、少なくとも皮膚に塗布して用いられる化粧料である点で区別することができないものである。
また、甲1には、乳化物の粒径は、乳化物0.5gを生理食塩水99.5gで希釈して測定されたものであることが記載されている(記載事項1-23参照)が、このように測定されて得られた結果は、乳化物の平均粒径であることも記載されている(記載事項1-23参照)ことから、甲1発明の乳化組成物の平均乳化粒子径は、表1?7(記載事項1-24?1-30参照)の「平均乳化粒子径(μm)」欄に記載された「15?19μm」であると認められる。したがって、甲1発明の乳化組成物の平均乳化粒子径の範囲は、本件発明1の平均寸法(15から103.7μm)の範囲と重複するものである。

また、甲1-1発明、甲1-2発明、甲1-8発明、甲1-13発明、甲1-14発明の油性相(パーフルオロポリエーテル、シリコーンオイル、ミリスチン酸イソステアリン酸グリセロール)の配合割合は、3.87?6.5重量%であり、甲1-24発明、甲1-29発明、甲1-39発明、甲1-40発明、甲1-44発明、甲1-54発明、甲1-59発明、甲1-67発明、甲1-69発明の油性相(パーフルオロポリエーテル、シリコーンオイル、スクワラン、パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル)の配合割合は、5/50.4(甲1-67発明)?5/50.25(甲1-24発明、甲1-29発明、甲1-39発明、甲1-40発明、甲1-44発明、甲1-54発明、甲1-59発明)、すなわち、9.92?9.95重量%であり、甲1-79発明、甲1-81発明、甲1-85発明の油性相(ワセリン、パラメトキシ桂皮酸2エチルヘキシルエステル)の配合割合は、10/60.5、すなわち16.53重量%であるところ、これらは、本件発明1の油性相の配合割合(35重量%未満)の範囲と重複するものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明は「水性相中に分散した油性相を含む水中油型エマルジョンの形態の、皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物であって、少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示し、前記油性相が、組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在する、組成物。」の発明である点で一致する。

一方で、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の両親媒性ポリマーが、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有し、かつポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されるものであるのに対し、甲1発明の両親媒性ポリマーは、多糖誘導体6、7、9?13のいずれかであり、「重量平均モル質量」の範囲について10000?50000との限定はない点。

イ 判断
(ア) 相違点1について
甲1には、両親媒性ポリマーを、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有するポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択することはおろか、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有するポリスチレンベースのジブロックポリマーについてすら記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、多糖誘導体6、7、9?13のいずれかに代えて、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有するポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択される両親媒性ポリマーを用いることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ) 効果について
本件発明1の効果について検討するに、本件発明1は、半透明で、幅広い粘度で安定な水中油型エマルジョンを生成することができ、幅広いテクスチャー(液体から濃厚クリームまで)の製品を提供できるものであるところ、ポリスチレンベースのジブロックポリマーを用いた当該効果は、当該ポリマーについて記載のない甲1発明から想到し得るものではなく、格別なものと認められる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 本件発明3?5、7、8について
本件発明1をさらに限定した発明である本件発明3?5、7、8はいずれも上記相違点1の発明特定事項を含むものであるから、本件発明3?5、7、8は甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3?5、7、8は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 取消理由通知<決定の予告>において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲について、以下の理由の申立てをしている。

(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号について(同法第113条第2号))
ア 理由1-1
本件の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

イ 理由1-2
本件の請求項1?3、6?8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項について(同法第113条第2号))
ア 理由2-1:甲第1号証を主引用例としたもの
本件の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第2号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 理由2-2:甲第2号証を主引用例としたもの
本件の請求項1?8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第1号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)申立理由3(特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号))
ア 理由3-1
本件発明は、組成物が(1)十分に半透明な外観を示すことを課題の1つとしているが(段落【0008】)、本件発明の実施例であるエマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル(Sangelose 60L)を1.2%用いた例)では、透過率が14%と非常に低く、不透明なものであり、従来のエマルジョンに比して十分に半透明な外観を有するとはいえない。
したがって、本件の請求項1?8に係る発明には、その効果が十分に奏されない部分が存在する。

イ 理由3-2
本件発明は、(2)皮膚に油っぽくない作用をもたらすことを1つの課題としているが(段落【0008】)、本件明細書においては何ら実証されていない。
したがって、本件の請求項1?8に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、本件明細書によりサポートされていない。

ウ 理由3-3
本件発明は、どのような粘度でも安定していることを1つの課題としているが(段落【0008】)、本件明細書段落【0014】に形式的な記載があるのみで、どのような粘度でも安定していることは、実施例においてなんら実証されていない。
したがって、本件の請求項1?8に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、本件明細書によりサポートされていない。

(4)申立理由4(特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号))
ア 理由4-1
本件発明は、組成物が(1)十分に半透明な外観を示すことを効果の1つとしているが(段落【0008】)、本件発明の実施例であるエマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル(Sangelose 60L)を1. 2%用いた例)では、透過率が14%と非常に低く、不透明なものであり、従来のエマルジョンに比して十分な半透明な外観を有するとはいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも、非架橋両親媒性ポリマーとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルを用いる場合に、本件発明の効果を奏するようなエマルジョンをどのように製造するのか記載されていない。
よって、本件の請求項1?8に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。

イ 理由4-2
本件発明は、(2)皮膚に油っぽくない作用をもたらすことを1つの効果としているが(段落【0008】)、本件明細書においては何ら実証されていない。
したがって、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造されているか、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかではない。すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造できるように記載されていない。
よって、本件の請求項1?8に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。

ウ 理由4-3
本件発明は、どのような粘度でも安定していることを1つの効果としているが(段落【0008】)、本件明細書段落【0014】に形式的な記載があるのみで、実施例においてなんら実証されていない。
したがって、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造されているか、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかではない。すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造できるように記載されていない。
よって、本件の請求項1?8に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開2003-226612号公報(取消理由通知<決定の予 告>に用いた甲1と同じ)
甲第2号証:特開平4-265148号公報
甲第3号証:最新化粧品科学(第1版),株式会社薬事日報社発行,第2刷 昭和56年4月1日発行,第48?49頁、写し
甲第4号証:化粧品事典,丸善株式会社発行,平成15年12月15日発行 ,第636?639頁、写し
甲第5号証:特開2004-315525号公報
甲第6号証:鈴木敏幸,乳化の基礎,分散基礎講座(第V講)色材,77
〔10〕,462-469(2004)、写し
甲第7号証:上垣外正己ら,ラジカル重合,「ネットワークポリマー」,
Vol.30,No.5,234?249(2009)、写し
甲第8号証:特開平08-040862号公報
甲第9号証:W02016/076089号
甲第10号証:特開2004-051850号公報
(以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」、「甲第3号証」、「甲第4号証」、「甲第5号証」、「甲第6号証」、「甲第7号証」、「甲第8号証」、「甲第9号証」、「甲第10号証」をそれぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」、「甲4」、「甲5」、「甲6」、「甲7」、「甲8」、「甲9」、「甲10」ともいう。)

2 甲1?10に記載された事項
甲1?10には、以下の記載がある。

(1)甲1には、上記第4 3(1)の記載事項1-1?1-31のとおりの事項が記載されている。

(2)甲2に記載された事項
記載事項2-1
「【請求項1】親水性連続相、疎水性不連続相、約5000未満の重量平均分子量を有するカチオン界面活性剤、前記カチオン界面活性剤より大きい重量平均分子量を有する乳化剤を含むエマルションであって、前記乳化剤が親水性部分及び疎水性部分を含み、前記親水性部分がアニオン官能基を含み、それによって、疎水性部分に対する親水性部分の重量比が約3?1000:1であるエマルション。
【請求項2】連続相が水を含み、エマルションの総重量を基準としたカチオン界面活性剤の重量パーセントが約0.001?約5であり、そしてエマルションの総重量を基準とした乳化剤の重量パーセントが約0.001?約5である、請求項1記載のエマルション。
【請求項3】疎水性不連続相が約10ミクロンより大きい直径を有する疎水性液体粒子を含む、請求項2記載のエマルション。
【請求項4】液体粒子が約25ミクロンより大きい直径を有する、請求項3記載のエマルション。
【請求項5】液体粒子が約50ミクロンより大きい直径を有する、請求項3記載のエマルション。」

記載事項2-2
「【0001】本発明は、1000より大きい重量平均分子量を有する乳化剤を含み、この乳化剤
が水中膨潤及び懸濁可能な親水性部分並びに疎水性液体粒子に直接もしくは間接的に結合できる疎水性部分を含み、親水性部分が親水性部分の親水性を高めるアニオン官能基を含むエマルションに関する。より詳細には、本発明のエマルションは約5重量パーセントのカチオン界面活性剤の存在下でさえ驚くほど安定であり、カチオンローションは非イオン性又はアニオンローションよりも一般的に好ましいため人のケアーローションにおいて特に有利である。」

記載事項2-3
「【0007】本発明は、従来の低分子量界面活性剤ではなく高分子量乳化剤を含む水中油型エマルションに関する。従来の界面活性剤は通常約1000よりずっと低い分子量を有する脂肪酸の塩もしくはその誘導体であるのに対し、本発明の乳化剤は約1000より大きい、好ましくは約50,000?約1,000,000の重量平均分子量を有する。」

記載事項2-4
「【0023】好ましい親水性連続相は水であり、好ましい親水性成分は約5,000?1,000,000の重量平均分子量を有するポリアクリル酸である。溶解パラメーターインデックスはポリアクリル酸が通常強水素結合溶媒に膨潤性であるが、非水素結合溶媒に膨潤しないことを示している。親水性部分を決定したら、疎水性液体粒子の組成によって適当な疎水性部分を決定しなければならない。
【0024】好ましい疎水性液体粒子は鉱油であり、従って、適当な疎水性部分は鉱油に容易に溶解(膨潤)するが、水には実質的に不溶(非膨潤)である。溶解パラメーターを調べることにより、ポリアクリルエステルは非水素結合溶媒に可溶であり、強水素結合溶媒に不溶である。好ましい乳化剤はポリアクリル酸部分及びポリアクリルエステル部分を含むポリマーである。好ましい乳化剤は、約3?1000:1、より好ましくは約5?100:1の疎水性部分に対する親水性部分の重量比を有する。しかし、本発明の特定の実施態様に対し、親水性部分に対する疎水性部分の最適の比を決定するため実験が必要であろう。」

記載事項2-5
「【0030】本発明の乳化剤は皮膚および髪にコンディショニングに有効である。これはまたウール繊維の処理、洗濯布軟化剤、自動車ワックス、及び水性エマルションの適用によりディウェッテングが必要な他の用途において有効である。また、カチオン界面活性剤の殺菌特性は、殺菌クリーム、ローション、ふけ治療薬、脱臭剤、発汗抑制剤、及び経口薬においてこの方法を適用可能にする。」

記載事項2-6
「【0032】例
・・・(中略)・・・
(a)約500,000の重量平均分子量及び約20:1のポリアクリルエステルに対するポリアクリル酸の重量比を有するポリアクリル酸/ポリアクリルエステル乳化剤(以後ポリアクリル界面活性剤と呼ぶ)、及び種々の量のジアルキル4級カチオン界面活性剤を含む本発明のエマルション(エマルション1?5)」

記載事項2-7
「【0043】本発明のこれらの両親媒性ポリマー乳化剤は、好ましくは1種以上のモノマー成分に対し溶解作用を有するが、得られるポリマーに対し有しない不活性希釈剤中での重合によって製造される。塊状重合を用いてよいが、得られる固体高分子体の加工が困難なため好ましくない。水溶性遊離基触媒過酸素を含む水性媒体内での重合を用いてよい。」

記載事項2-8
「【0052】従来の水中油型エマルションは10ミクロン未満、好ましくは0.1?5ミクロンの粒子サイズを有する。驚くべきことに、本発明の水中油型エマルションは、平均約50ミクロンもしくはそれ以上のずっと大きな粒子サイズを有する改質ポリマーで製造される。」

(3)甲3に記載された事項
記載事項3-1(第48頁第10?13行)
「乳液は化粧水とクリームとの中間的性格を持つもので,特別な例を除いて油分量は少くほとんどのものが30%以下であると考えてよい。・・・(中略)・・・手軽なスキンケアに用いられる。」

記載事項3-2(第48頁の表-10、11)




記載事項3-3(第49頁第4?5行)
「乳液は前述した通り,使用感触や安定性の面から制約があり,20%前後の0/W型のものが多い。」

(4)甲4に記載された事項
記載事項4-1(第638頁左欄第38行?同右欄第1行)
「代表的なエモリエントローションの処方について説明する。前述のように乳液はo/w型が主流で油分はおよそ数%?30%程度であり、・・・(中略)・・・香料などが組み合わされて処方が構成されている。」

(5)甲5に記載された事項
記載事項5-1
「【請求項1】
水相に分散された油相を含むO/Wエマルションからなる局所適用用組成物であって、少なくとも一つのロウと、
(a)80から99mol%の以下の式(I)の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)単位:
【化1】

(式中、X^(+)はプロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムイオン、または有機カチオンである);および
(b)1から20mol%の以下の式(II)の単位:
【化2】

(式中、nおよびpはそれぞれ独立に0から24の範囲の整数を示すが、ただしn+pは25未満であり;R_(1)は水素原子または1から6の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖状のアルキル基を示し、かつR_(2)は6から30の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖状のアルキル基を示す)
を含む少なくとも一つの非架橋両親媒性ポリマーとを含むことを特徴とする組成物。
・・・
【請求項6】
前記両親媒性ポリマーの量が、組成物の全重量に対して0.05から20重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記油相が、組成物の全重量に対して15から75重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の組成物。」

記載事項5-2
「【0017】
本発明にかかるポリマーは、一般に、10000から10000000、好ましくは100000から8000000、さらに好ましくは100000から7000000の範囲の重量平均分子量を有する。」

記載事項5-3
「【0027】
本発明にかかる組成物の両親媒性ポリマーの量は、使用されるポリマーに依存する。例えば、活性物質について、組成物の全重量に対して、0.05から20重量%、好ましくは0.1から15重量%、さらに好ましくは0.2から10重量%、さらに好ましくは0.25から5重量%の範囲とすることができる。」

記載事項5-4
「【0040】
存在することができる全ての脂肪物質および親油性アジュバントを含む油相は、一般に組成物の全重量に対して10から75重量%、好ましくは15から70重量%の範囲の量で、本発明にかかる組成物中に存在する。」

記載事項5-5
「【0068】
本発明にかかる実施例5:ロウと8.5mol%のC_(12-14)(OE)_(7)側鎖を有する両親媒性AMPSコポリマーとを含むエマルション
油相
-ミツロウ 2%
-パーラーム油 13%
水相
-防腐剤 1%
-水中に10%のトリエタノールアミン 0.06%
-AMPSとGenapol LA-070メタクリラート(8.5mol%)とのコポリマー
1%
-水 全体を100%とする量
【0069】
方法:実施例1と同じ方法。
得られた組成物は、乳液の形態であった(pHは約6.1)。平均粒径は10μmであった。」

(6) 甲6に記載された事項
記載事項6-1(第462頁右欄第13行?第463頁左欄第3行)
「一般に, 乳化粒子径が1?l0μmのエマルションは純白で光沢のある外観を呈するが,粒子径が小さくなるにつれ,青みを帯びるとともに半透明,さらには透明へと外観が変化する。他方,粒子径が大きく,100μmを超すようなエマルションは白さや光沢が低下して,灰色を帯びた外観となる。」

記載事項6-2(第462頁右欄の表-1)




(7) 甲7に記載された事項
記載事項7-1(第234頁左欄第2?5行)
「ラジカル重合は,活性の高い中性のラジカル種を成長種とし,多様なビニル化合物の重合を可能とする最も一般的な重合法であり,工業的にも広く用いられている^(1-3))。」

記載事項7-2(第234頁左欄第10?23行)
「ラジカル重合は,通常,アゾ化合物や過酸化物などのラジカル発生剤を重合開始剤として開始される(Scheme 1)。・・・(中略)・・・このような開始・成長・停止・連鎖移動反応の過程を経てポリマー鎖が生成する」

記載事項7-3(第234頁右欄第9行?第235頁左欄第1行)
「ラジカル重合を用いて,現在では,非常に広範囲のビニルモノマー,例えば,エチレン,スチレン,塩化ビニル,ブタジエン,アクリル酸エステル,メタクリル酸エステル,アクリロニトリル,酢酸ビニルを単独或いは共重合することで,さまざまな工業製品が得られている。」

記載事項7-4(第235頁左欄のScheme 1)




記載事項7-5(第237頁左欄第22?25行)
「ラジカル重合性の二重結合を分子内に2つ有するジメタクリレートやジビニルベンゼンなどのジエン化合物は,重合するとポリマー鎖間での架橋反応が進行して不溶性のゲルを生じるので架橋剤として用いられる。」

(8)甲8に記載された事項
記載事項8-1
「【0099】
・・・(中略)・・・
透明性:乳状=1、不透明=2、かすみ=3、僅かにかすみ=4、清澄な水状=5、700nmで測定した透過率%。



(9)甲9に記載された事項
記載事項9-1
「[0064]
・・・(中略)・・・
C:透過率40?60%:透明度がやや低く、分散性が劣る
D:透過率0?40%:不透明で、分散は一時的である」

(10)甲10に記載された事項
記載事項10-1
「【0022】
比較例3
・・・(中略)・・・光線透過率は12%、硬度は1であり、不透明な柔らかい材料であった。」

3 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 理由1-1
(ア)本件発明1、3?5、7、8について
上記第4 3(3)で説示したとおり、本件発明1と甲1発明は、上記の相違点1で相違するから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、本件発明3?5、7、8は本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明3?5、7、8も甲第1号証に記載された発明ではない。

イ 理由1-2
(ア)甲2に記載された発明
甲2の上記記載事項2-1?2-8の記載、特に記載事項2-1、2-3、2-7の記載より、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「水を含む親水性連続相、50ミクロンより大きい直径を有する疎水性液体粒子を含む疎水性不連続相、約5000未満の重量平均分子量を有するカチオン界面活性剤、前記カチオン界面活性剤より大きい重量平均分子量を有する両親媒性ポリマー乳化剤を含む水中油型エマルションであって、前記乳化剤が親水性部分及び疎水性部分を含み、前記親水性部分がアニオン官能基を含み、それによって、疎水性部分に対する親水性部分の重量比が約3?1000:1である水中油型エマルション」(以下、「甲2発明」という)。

(イ)本件発明1について
a 対比
甲2発明の「水を含む親水性連続相」、「疎水性不連続相」、「水中油型エマルション」、「両親媒性ポリマー乳化剤」及び「疎水性液体粒子」は、それぞれ本件発明1の「水性相」、「分散した油性相」、「水中油型エマルジョン」、「両親媒性ポリマー」及び「エマルジョンの小球体」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「水性相中に分散した油性相を含む水中油型エマルジョンであって、両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体を有する、水中油型エマルジョン」
を発明特定事項とする点で一致する。

一方で、両者は以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1が、皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物であるのに対し、甲2発明は、上記の水中油型エマルジョン自体の発明であって、その用途は特定されていない点。

<相違点3>
本件発明1の両親媒性ポリマーが、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有し、かつポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択される非架橋のものであるのに対し、甲2発明の両親媒性ポリマー乳化剤は、約5000未満の重量平均分子量を有するカチオン界面活性剤より大きい重量平均分子量を有し、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されたものではなく、非架橋であるとの特定もない点。

<相違点4>
本件発明1のエマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示すのに対し、甲2発明の疎水性液体粒子は、50ミクロンより大きい直径を有する点。

<相違点5>
本件発明1では、油性相が組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在するのに対し、甲2発明では、そのような特定がない点。

b 判断
本件発明1と甲2発明は、上記の相違点2?5で相違するから、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。

(ウ)本件発明3、7、8について
本件発明3、7、8は本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明3、7、8も甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 小括
よって、申立理由1は採用できず、本件発明1、3?5、7、8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(2)申立理由2について
ア 理由2-1:甲第1号証を主引用例としたもの
(ア)本件発明1について
a 対比
上記第4 3(3)で説示したとおり、本件発明1と甲1発明は上記の相違点1で相違する。

b 判断
(a)相違点1について
甲1?6のいずれにも、両親媒性ポリマーを、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有するポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択することについて記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、多糖誘導体6、7、9?13のいずれかに代えて、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有するポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択される両親媒性ポリマーを用いることは、、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(b)効果について
本件発明1の効果について検討するに、本件発明1は、半透明で、幅広い粘度で安定な水中油型エマルジョンを生成することができ、幅広いテクスチャー(液体から濃厚クリームまで)の製品を提供できるものであるところ、ポリスチレンベースのジブロックポリマーを用いた当該効果は、当該ポリマーについて記載のない甲1?6から想到し得るものではなく、格別なものと認められる。

c まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第2号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明3?5、7、8について
本件発明1をさらに限定した発明である本件発明3?5、7、8はいずれも上記相違点1の発明特定事項を含むものであるから、本件発明3?5、7、8は、甲第1号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第2号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 理由2-2:甲第2号証を主引用例としたもの
(ア)本件発明1について
a 対比
上記の(1)イ(イ)aで説示したとおり、本件発明1と甲2発明は上記の相違点2?5で相違する。

b 判断
(a)相違点3について
甲1?6のいずれにも、両親媒性ポリマーを、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有し、かつ非架橋であるポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択することについて記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明において、両親媒性ポリマー乳化剤を、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有し、かつ非架橋であるポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(b)効果について
本件発明1の効果について検討するに、本件発明1は、半透明で、幅広い粘度で安定な水中油型エマルジョンを生成することができ、幅広いテクスチャー(液体から濃厚クリームまで)の製品を提供できるものであるところ、ポリスチレンベースのジブロックポリマーを用いた当該効果は、当該ポリマーについて記載のない甲1?6から想到し得るものではなく、格別なものと認められる。

c まとめ
以上のとおりであるから、相違点2、4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第1号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明3?5、7、8について
本件発明1をさらに限定した発明である本件発明3?5、7、8はいずれも上記相違点3の発明特定事項を含むものであるから、本件発明3?5、7、8は、甲第2号証に記載された発明、並びに出願時の周知慣用技術(甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)、甲第1号証の記載及び甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
よって、申立理由2は採用できず、本件発明1、3?5、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(3)申立理由3について
ア サポート要件についての判断
(ア)本件発明の課題について
本件明細書の【0008】における
「したがって、十分に半透明な外観を示し、皮膚に油っぽくない作用をもたらし、さらにどのような粘度でも安定しており、したがって、広範囲のテクスチャーへと配合することができる(スプレー可能な液体から濃厚なクリームまで)水中油型エマルジョンを生成する必要性が存在する。」
との記載から、本件発明1、3?5、7、8の解決すべき課題は、
「十分に半透明な外観を示し、皮膚に油っぽくない作用をもたらし、さらにどのような粘度でも安定しており、したがって、広範囲のテクスチャーへと配合することができる(スプレー可能な液体から濃厚なクリームまで)水中油型エマルジョンを生成する」
ことであると認められる。

(イ)本件発明1、3?5、7、8について
本件発明の実施例1?9において、非架橋の両親媒性ポリマーを含み、かつ油性小球体の平均寸法が19.3?103.7μmである水中油型エマルジョンが、14?95%の透過率と0.13?1.4Pa.sという幅広い粘度を示していることから(特に、【表1】のエマルジョン1、【表2】のエマルジョン3、【表5】のエマルジョン5、【表7】のエマルジョン7、【表9】のエマルジョン9、【表11】のエマルジョン11、【表13】のエマルジョン13、15、【表15】のエマルジョン17、【表17】のエマルジョン19参照)、水中油型エマルジョンの形態であって、少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、かつ前記エマルジョンの小球体が15から103.7μmの範囲の平均寸法を示す本件発明1、3?5、7、8が、十分に半透明な外観と幅広い粘度での安定性を示すことは当業者であれば認識できるといえる。
また、本件明細書の【0002】に
「O/W型エマルジョンは、化粧品分野で最も需要が高い。これは、水性相を外相として含むことによって、皮膚に塗布している間W/O型エマルジョンよりも爽やかで、油っぽくない、軽い感触が得られるという事実からである。」
と記載されているように、水性相を外相として含むO/W型エマルジョン(水中油型エマルジョン)がW/O型エマルジョンよりも油っぽくないことは当業者にとって自明である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の原出願の出願日当時の技術常識に照らし、当業者は、本件発明1、3?5、7、8が上記の課題を解決できると認識できるといえる。

イ 理由3-1における申立人の主張
(ア)本件発明1、3?5、7、8について
申立人は、甲8の記載事項8-1、甲9の記載事項9-1及び甲10の記載事項10-1を根拠に、14%の透過率のエマルジョンは、通常、不透明と判断される範疇のものである旨主張し(特許異議申立書の第52頁下から10行目?第53頁第3行)、その主張を前提として、さらに、本件発明は、組成物が(1)十分に半透明な外観を示すことを課題の1つとしているが(【0008】)、本件発明の実施例であるエマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル(Sangelose 60L)を1.2%用いた例)では、透過率が14%と非常に低く、不透明なものであり、従来のエマルジョンに比して十分に半透明な外観を有するとはいえない、という旨主張している(特許異議申立書の第57頁下から13行目?第58頁第5行)。
しかしながら、14%付近の透過率でも半透明とされる場合があるから(要すれば、特開2003-095845号公報の【0008】や特表2004-511508号公報の請求項1、3、特開2005-53865号公報の【0053】、国際公開第2004/045566号の第6頁第3段落等参照)、14%の透過率をもって直ちに不透明であるとまではいえないし、本件特許の原出願の出願時当時に、化粧品組成物の分野において、透過率14%は半透明ではないとする、「半透明」を定義する透過率の絶対的な指標が当業者にとって存在したという証拠も今のところ存在しない。また、甲9は本件特許の原出願の出願日より後に公開されたものであるから、甲9に記載された事項を本件特許の原出願の出願時における技術常識として参酌することはできない。
仮に、14%の透過率が不透明といえるとしても、透過率が14%の上記エマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルを用いた例)は、本件訂正後の本件発明1、3?5、7、8(両親媒性ポリマーが、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されるもの)に包含されないから、上記のエマルジョン9をもって本件発明1、3?5、7、8に、十分に半透明な外観を示すとの課題を解決できない態様が含まれているとはいえない。さらに、本件訂正後の本件発明1、3?5、7、8に対応するエマルジョン19の透過率は60.9%であり(【0293】参照)、十分に半透明な外観を示すとの課題を解決できている。
したがって、理由3-1は採用できない。

ウ 理由3-2における申立人の主張
(ア)本件発明1、3?5、7、8について
申立人は、本件発明は、(2)皮膚に油っぽくない作用をもたらすことを1つの課題としているが(【0008】)、本件明細書においては何ら実証されていないという旨主張している(特許異議申立書の第58頁第6?18行)。
しかしながら、本件発明1、3?5、7、8は「水中油型エマルジョンの形態の」なる発明特定事項を含むところ、本件明細書の【0002】に
「O/W型エマルジョンは、化粧品分野で最も需要が高い。これは、水性相を外相として含むことによって、皮膚に塗布している間W/O型エマルジョンよりも爽やかで、油っぽくない、軽い感触が得られるという事実からである。」
と記載されているように、水性相を外相として含むO/W型エマルジョン(水中油型エマルジョン)がW/O型エマルジョンよりも油っぽくないことは当業者にとって自明である。
したがって、「水中油型エマルジョンの形態の」なる発明特定事項を含む本件発明1、3?5、7、8は、皮膚に油っぽくない作用をもたらすとの課題を解決できるといえる。
よって、理由3-2は採用できない。

エ 理由3-3における申立人の主張
(ア)本件発明1、3?5、7、8について
申立人は、本件発明は、どのような粘度でも安定していることを1つの課題としているが(【0008】)、本件明細書【0014】に形式的な記載があるのみで、どのような粘度でも安定していることは、実施例においてなんら実証されていないという旨主張している(特許異議申立書の第58頁第19?26行)。
しかしながら、本件明細書の実施例には、様々な粘度を有するエマルジョンが開示されているから(【0224】、【0230】、【0237】、【0244】、【0251】、【0257】、【0263】、【0270】等参照)、本件発明1、3?5、7、8が様々な粘度で安定し得ること、すなわち、上記1つの課題を解決できることを当業者は認識できる。
したがって、理由3-3は採用できない。

オ 小括
よって、申立理由3は採用できず、本件発明1、3?5、7、8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。

(4)申立理由4について
実施可能要件についての判断
本件明細書の実施例9には、本件発明1に対応するエマルジョン19が開示されているところ、該実施例9の【0272】?【0287】には10000?50000の範囲内の重量平均モル質量を有する非架橋の両親媒性ポリマーであるポリスチレンベースのジブロックポリマーの調製方法が具体的に記載され、【0289】の【表16】にはエマルジョン19の具体的な組成が記載され、【0290】には各成分の具体的な添加方法が記載され、【0293】の【表17】ではエマルジョン19の油性小球体の平均寸法が45.9μmであることが確認されている。
したがって、当業者であれば本件発明1を製造できるといえる。
また、本件明細書【0217】の
「本発明の対象である組成物は、局所的な塗布を目的とし、特に、例えばケラチン物質、特にヒトの皮膚、唇、毛髪、睫毛および爪などのケア(しわ取り、アンチエイジング、保湿、太陽からの保護など)、治療、洗浄およびメークアップを目的とする皮膚科用組成物または化粧品組成物を構成することができる。」
なる記載や、【表16】に開示されているエマルジョン19の組成から、エマルジョン19を皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物として使用できることは当業者にとって自明である。
したがって、本件発明1は皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物として使用できるといえる。
以上によれば、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の原出願の出願日当時の技術常識に基づいて、本件発明1に係る組成物を製造し、使用することができるといえる。
また、本件発明1を引用する本件発明3?5、7、8についても同様である。
上記のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3?5、7、8について、実施可能要件を満たすものである。

イ 理由4-1における申立人の主張
申立人は、本件発明は、組成物が(1)十分に半透明な外観を示すことを効果の1つとしているところ(段落【0008】)、本件発明の実施例であるエマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル(Sangelose 60L)を1.2%用いた例)は、透過率が14%と非常に低く、不透明なものであり、従来のエマルジョンに比して十分な半透明な外観を有するとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも、非架橋両親媒性ポリマーとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルを用いる場合に、本件発明の効果を奏するようなエマルジョンをどのように製造するのか記載されていない、という旨主張している(特許異議申立書の第59頁第2?18行)。
しかしながら、上記(3)イ(ア)で説示したとおり、14%付近の透過率でも半透明とされる場合があるから、14%の透過率をもって直ちに不透明であるとまではいえないし、本件特許の原出願の出願時当時に、化粧品組成物の分野において、透過率14%は半透明ではないとする、「半透明」を定義する透過率の絶対的な指標が当業者にとって存在したという証拠も今のところ存在しない。
仮に、14%の透過率が不透明といえるとしても、透過率が14%の上記エマルジョン9(非架橋両親媒性ポリマーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルを用いた例)は、本件訂正後の本件発明1、3?5、7、8(両親媒性ポリマーが、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されるもの)に包含されるものではない。
さらに、本件訂正後の本件発明1、3?5、7、8に対応するエマルジョン19の透過率は60.9%であり(【0293】参照)、十分に半透明な外観を示しているし、その製造方法も実施例9に具体的に開示されている。
したがって、理由4-1は採用できない。

ウ 理由4-2における申立人の主張
申立人は、本件発明は、(2)皮膚に油っぽくない作用をもたらすことを1つの効果としているが(【0008】)、本件明細書においては何ら実証されていないから、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造されているか本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかではない、すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造できるように記載されていない、という旨主張している(特許異議申立書の第59頁第19行?第60頁第3行)。
しかしながら、上記(3)ウ(ア)で説示したように、本件発明1、3?5、7、8は「水中油型エマルジョンの形態の」なる発明特定事項を含むところ、水性相を外相として含むO/W型エマルジョン(水中油型エマルジョン)がW/O型エマルジョンよりも油っぽくないことは当業者にとって自明である。
また、本件明細書の実施例9には、本件発明1、3?5、7、8に対応するエマルジョン19の製造方法が具体的に開示されている。
したがって、理由4-2は採用できない。

エ 理由4-3における申立人の主張
申立人は、本件発明は、どのような粘度でも安定していることを1つの効果としているが(【0008】)、本件明細書【0014】に形式的な記載があるのみで、実施例においてなんら実証されていないから、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造されているか本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかではない、すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の効果を示すエマルジョンが製造できるように記載されていない、という旨主張している(特許異議申立書の第60頁第4?15行)。
しかしながら、上記(3)エ(ア)で説示したように、本件明細書の実施例には、様々な粘度を有するエマルジョンが開示されているし(【0224】、【0230】、【0237】、【0244】、【0251】、【0257】、【0263】、【0270】等参照)、それらの具体的な製造方法も各実施例に開示されている。
したがって、理由4-3は採用できない。

オ 小括
よって、申立理由4は採用できず、本件発明1、3?5、7、8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。

4 取消理由通知<決定の予告>において採用しなかった特許異議申立理由のまとめ
以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由1?4により、本件発明1、3?5、7、8に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
上記のとおり、取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3?5、7、8に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1、3?5、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、6は削除されたので、これらの請求項に係る特許異議の申立ては、申立対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性相中に分散した油性相を含む水中油型エマルジョンの形態の、皮膚及び/または唇のための局所的塗布のための化粧品組成物であって、10000?50000の範囲の重量平均モル質量を有する、少なくとも1つの非架橋の両親媒性ポリマーを含み、前記エマルジョンの小球体が、15から103.7μmの範囲の平均寸法を示し、前記油性相が、組成物の総重量に対して35重量%未満の量で存在し、前記両親媒性ポリマーが、ポリスチレンベースのジブロックポリマーから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
両親媒性ポリマーの量(活性物質として)が、組成物の総重量に対して、0.01重量%から10重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
油性相の量の、ポリマーの量に対する割合が、1から200の範囲であることを特徴とする、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
両親媒性ポリマーの疎水性ブロックのモル質量が、100から10000g/モルの間であることを特徴とする、請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
両親媒性ポリマーが、無機塩基または有機塩基により部分的または完全に中和されていることを特徴とする、請求項1及び3から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1及び3から5及び7のいずれか一項に記載の化粧品組成物が、皮膚および/または唇に塗布されることを特徴とする、皮膚および/または唇の美容的処置のための方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-01 
出願番号 特願2015-39445(P2015-39445)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 山内 達人
大久保 元浩
登録日 2018-09-28 
登録番号 特許第6407064号(P6407064)
権利者 ロレアル
発明の名称 両親媒性ポリマーを含む水中油型エマルジョン  
代理人 実広 信哉  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  

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