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審決分類 審判 全部申し立て 特17 条の2 、4 項補正目的  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1368082
異議申立番号 異議2019-700038  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-22 
確定日 2020-10-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6363307号発明「フラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6363307号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6363307号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6363307号の請求項2ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6363307号の請求項1?12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2017-549359号)は、2017年(平成29年)6月26日(優先権主張 平成28年6月29日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成30年7月6日に特許権の設定登録がなされ、同年7月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

平成31年 1月22日(提出日) 特許異議申立書(全請求項に対して)
特許異議申立人 上山みち子
(以下、「申立人」という。)
甲第1?5号証を添付
同年 2月21日(提出日) 特許異議申立書の手続補正書
(方式補正)
令和 1年 5月15日(発送日) 取消理由通知書
(起案日)令和1年5月8日
同年 7月10日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 9月25日(提出日) 意見書(申立人)
甲第6号証を添付
同年11月18日(発送日) 訂正拒絶理由通知書
(特許権者の応答無し)
(起案日)令和1年11月13日
令和 2年 1月28日(発送日) 取消理由通知書(決定の予告)
(起案日)令和 2年 1月24日
同年 3月27日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)

なお、令和2年3月27日に提出された特許権者の訂正請求書及び意見書を申立人に対して送付したが応答はなかった。

第2 訂正請求について
令和1年7月10日提出の訂正請求に対して、同年11月13日起案の訂正拒絶理由が通知されたところ、これに対する応答はなかったので、令和1年7月10日提出の訂正請求は認容されず、令和2年1月24日起案の取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して同年3月27日提出の訂正請求書及び意見書が提出されたので、同年3月27日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について検討する。

1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6363307号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める、というものである。

2.訂正事項
以下の記載で、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を訂正後に削除する。

(2)訂正事項2
請求項2について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項2を直接または間接的に引用する請求項5、8?12も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項3を直接または間接的に引用する請求項6、8?12も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項4を直接または間接的に引用する請求項7?12も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5?7について、
訂正前に「有機酸エステル(D-1)」の具体例の列挙中に「マレイン酸ジブチル」が記載されているのを、訂正後に同列挙中から「マレイン酸ジブチル」を削除する。
請求項5?7を直接または間接的に引用する請求項8?12も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項8について、
訂正前に「請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の」とされているのを、訂正後に「請求項2?請求項7のいずれか1項に記載の」と訂正する。
請求項8を直接または間接的に引用する請求項9?12も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項9について、
訂正前に「請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の」とされているのを、訂正後に「請求項2?請求項8のいずれか1項に記載の」と訂正する。
請求項9を直接または間接的に引用する請求項10?12も同様に訂正する。

(8)訂正事項8
本件特許明細書の【0070】について、
ア 訂正前に「表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から34、及び比較例1から13に係る各フラックス組成物を得た。次いで当該各フラックス組成物11質量%と、以下に挙げるはんだ合金粉末89質量%とを混練し、実施例1から34、及び比較例1から13に係る各ソルダペースト組成物を得た。」とあるのを、
訂正後に「表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14及び比較例1から13に係る各フラックス組成物を得た。次いで当該各フラックス組成物11質量%と、以下に挙げるはんだ合金粉末89質量%とを混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14及び比較例1から13に係る各ソルダペースト組成物を得た。」と訂正する。

イ 訂正前に「実施例1から20及び比較例1から8:Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(溶融ピーク温度:219℃)」とあるのを、
訂正後に「実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(溶融ピーク温度:219℃)」と訂正する。

(9)訂正事項9
本件特許明細書の【表1】(【0071】)について、
訂正前に「実施例13」、「実施例14」とあるのを、訂正後に「参考例13」、「参考例14」とそれぞれ訂正する。

(10)訂正事項10
本件特許明細書の【0076】について、
訂正前に「・実施例1から20及び比較例1から8:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」とあるのを、
訂正後に「・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」と訂正する。

(11)訂正事項11
本件特許明細書の【0078】について、
訂正前に「・実施例1から20及び比較例1から8:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」とあるのを、
訂正後に「・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」と訂正する。

(12)訂正事項12
本件特許明細書の【表5】(【0081】)について、
訂正前に「実施例13」、「実施例14」とあるのを、訂正後に「参考例13」、「参考例14」とそれぞれ訂正する。

(13)訂正事項13
本件特許明細書の【0085】について、
訂正前に「以上に示す通り、実施例1から34に係るソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度に合わせた前記有機酸エステル(D-1)を使用することにより安定した連続印刷性を確保でき、またリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得ることが分かる。」とあるのを、
訂正後に「以上に示す通り、実施例1から12、15から34、参考例13、14に係るソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度に合わせた前記有機酸エステル(D-1)を使用することにより安定した連続印刷性を確保でき、またリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得ることが分かる。」と訂正する。

3.訂正の可否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2?4について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1の全ての記載を訂正後の請求項2へ繰り入れるものだから、訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項2を、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の記載へ改めるための訂正であり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにあたる。
イ また、訂正事項2は、上記繰り入れにあたり、訂正前の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」について、訂正後に「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」とするものであるところ、「マレイン酸ジブチル」は、訂正前の本件特許明細書【0052】?【0054】に記載され、訂正前の「実施例13」「実施例14」(例えば【表1】【0071】)に用いられていたものだから、訂正後の請求項2において「マレイン酸ジブチルを除く」ことは特許請求の範囲の減縮にもあたるものである。
ウ そして、上記ア、イのことから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
エ 訂正事項3、4についても同様である。

(3)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項2を引用する請求項5、請求項3を引用する請求項6、請求項4を引用する請求項7において、訂正後に「マレイン酸ジブチルを除く」こととするもので、これは訂正事項2?4により「マレイン酸ジブチルを除く」こととなった訂正後の請求項2?4と記載を整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(4)訂正事項6、7について
訂正事項6、7は、訂正事項1により訂正後に請求項1が削除されたことに伴い、訂正前の請求項8、9で、訂正前の請求項1を引用請求項としていたものを、訂正後に引用請求項から請求項1を削除することで、記載を整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(5)訂正事項8?13について
訂正事項8?13は、訂正事項2?4において、訂正後の請求項2?4で「マレイン酸ジブチルを除く」こととされたので、訂正前に「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」として「マレイン酸ジブチル」を用いていた「実施例13」「実施例14」を「比較例13」「比較例14」とすることで記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?12について、請求項2?12はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正(削除)される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?12は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?12〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求は、訂正事項8?13と関係する請求項を含む一群の請求項の全てを請求の対象とするから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(7)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、全ての請求項について特許異議申立の対象とされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4.訂正請求の結言
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3、4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4?6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。

第3 本件発明について
以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のものである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項3】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項4】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項5】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチルであることを特徴とする請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル及びセバシン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル及びセバシン酸ジオクチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のフラックス組成物。
【請求項8】
前記ベース樹脂(A)は(A-1)ロジン系樹脂及び(A-2)合成樹脂の少なくとも一方を含み、
前記合成樹脂(A-2)はアクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項9】
請求項2から請求項8のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項10】
前記はんだ合金粉末はAgを2質量%以上3.1質量%以下と、Cuを0質量%超1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、Biを0.5質量%以上4.5質量%以下と、Niを0.01質量%以上0.25質量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする請求項9に記載のソルダペースト組成物。
【請求項11】
前記はんだ合金粉末は更にCoを0.001質量%以上0.25質量%以下含むことを特徴とする請求項10に記載のソルダペースト組成物。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されたはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。

第4 異議申立理由の概要
申立人は、以下の概要の異議申立理由を主張している。
<異議申立理由1>(新規性進歩性)
(1)請求項1、3、4、6?9、12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものだから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)請求項1?12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の技術手段又は甲第3、4号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものだから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<異議申立理由2>(サポート要件)
(1)(異議申立書31頁下から2行?34頁下から9行)
請求項1に係る発明は、甲第5号証の記載内容と整合しない特定事項を有するから、甲第5号証の記載内容と整合するために当該特定事項が成立するための何らかの別の特定事項を要するはずだが、請求項1に係る発明は当該別の特定事項を有するものではない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2?12についても同様である。
(2)(異議申立書34頁下から8行?35頁10行)
発明の詳細な説明には、課題を解決出来ることが確認できた「(B)活性剤」の実施例としてただ一つの組合せが記載されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、請求項1に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2?12についても同様である。
(3)(異議申立書35頁11行?40頁下から2行)
発明の詳細な説明からは、本件発明として確認できるのは実施例に記載されている組成についてのものにすぎず、発明の詳細な説明は、請求項1で規定される範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体的な開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されておらず、また、特許出願時の技術常識を参酌して、本件の特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるものでもない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2?12についても同様である。

<証拠方法>
○甲第1号証:特許第4458043号公報
○甲第2号証:特開2003-225795号公報
○甲第3号証:国際公開2014/163167号
○甲第4号証:特許第5722302号公報
○甲第5号証:特開2007-136491号公報
○甲第6号証:新・注解 特許法〔第2版〕【上巻】、中山信弘ら 編、青林書院、
2017年10月5日第2版第1刷発行、292?293頁

なお、以下で甲各号証を「甲1」?「甲6」と記載することがある。

第5 令和1年5月8日付け取消理由及び令和2年1月24日付け取消理由(決定の予告)
当審は令和1年5月8日付け取消理由を通知したが、取消理由の概要は次のものである。
A.上記異議申立理由1の(1)
B.本件発明2、5についての新規性要件違反の取消理由(当審で発見)
C.上記異議申立理由1の(2)の内の本件発明2,5,8,9,12のみについて進歩性要件違反の取消理由
D.異議申立理由2の(2)のみについての取消理由
E.記載不備についての取消理由(当審で発見)

当該取消理由に対する令和1年7月10日提出の訂正請求に対して、令和1年11月13日付け訂正拒絶理由が通知されたが応答がなかったため、同訂正請求は認容されず、上記取消理由と同内容の令和2年1月24日付け取消理由(決定の予告)を通知した。
これに対して、本件訂正請求がなされ、上記第2のようにこれが認容されたので、当該訂正請求により訂正された上記請求項2?12(請求項1は削除)に係る本件発明2?12について、以下で、取消理由及び異議申立理由の存否を検討する。

第6 取消理由の判断
1.新規性進歩性についての判断
取消理由(決定の予告)で通知された新規性進歩性に関する上記「第5」の「A」「B」「C」は、いずれも甲第1号証に記載の発明を主引例として判断するものであり、取消理由として通知しなかった異議申立理由の進歩性についてのもの(請求項3、4、6、7、10、11)も、同様に甲第1号証に記載の発明を主引例として判断するものであるから、ここで両者をまとめて判断する。

1-1.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の開示】
本発明は、モジュール基板のように広い印刷面積を有する基板や、BGA基板のように微細な印刷面積を有する基板でもボイドの発生が少なく、特に大径ボイドの発生を確実に防止でき、かつ連続印刷性の良いソルダペーストを提供する。」(3頁33?36行)
(イ)「そこで、本発明では、TG曲線での減量率が15質量%になる温度を目安として採用する。
TG曲線は測定条件により変動する。本発明におけるTG測定条件は、昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minである。
本発明は、フラックスと粉末はんだとを混合したソルダペーストに関する。フラックス中に含まれる溶剤は、TG法による測定(TG曲線)で減量率が15質量%になる温度が該粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高い溶剤から主に構成される。」(3頁43?49行)
(ウ)「つまり、共晶以外のはんだは、一定の溶融温度を示さない。そこで、本発明では、溶融温度の目安として、溶融ピーク温度を採用する。溶融ピーク温度とは、DSC(示差走査熱量測定法)チャートにおける昇温時の溶融による吸熱がピークとなる温度であって、固相線温度と液相線温度との間に位置する。」(4頁6?9行)
(エ)「本発明に従って、フラックスの溶剤として、TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より5℃以上高温である溶剤を用いると、はんだが溶融するまでに気化する溶剤は、最大でも15質量%より少なく、溶剤の気化は、ソルダペーストが完全に融解し、はんだがぬれ性を示した後に盛んになる。そのため、溶剤はスムースに溶融はんだから排除され、溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止することができる。」(5頁10?15行)
(オ)「本発明では、フラックスの溶剤として、TG-15温度(TG曲線において減量率が10質量%になる時の温度)がはんだの溶融ピーク温度より5℃以上、好ましくは10℃以上高い、溶剤を使用する。そのような溶剤の具体例を、はんだの溶融ピーク温度のレベルごとに、次に例示する。
(1)溶融ピーク温度が250℃?330℃の高温はんだ[例えば、Sn-95Pbはんだ(固相線温度:300℃、液相線温度:314℃、溶融ピーク温度:310℃)]の場合、TG-15温度がそれより高い適当な溶剤は植物油および鉱物油から選択することができる。そのような植物油の例としては、ひまわり(サンフラワー)油、オリーブ油、サフラワー(紅花)油、ナタネ油、ダイズ油、コーン油、ツバキ油、ラッカセイ油、エゴマ油、ゴマ油、コメ油、コットン油、パーム油、アボガド油、グレープシード油を挙げることができる。そのような鉱物油の好適な例はハイサーム100(新日本石油製)である。
(2)溶融ピーク温度が175℃?250℃未満の中温はんだ[例えば、Sn-37Pbはんだ(固相線温度=液相線温度=溶融ピーク温度:183℃)やSn-3Ag-0.5Cu鉛フリーはんだ(固相線温度:217℃、液相線温度:220℃、溶融ピーク温度:218℃)]の場合、上記(1)に列挙した植物油および鉱物油も使用することができるが、TG-15温度がより低い溶剤も使用可能である。使用可能な追加の溶剤の例として、ハイサーム68およびハイサーム32(いずれも新日本石油製)のような鉱物油、さらには流動パラフィン、イソボルニルシクロヘキサノール、セキスイサイザー90(積水化学工業製の塩化ビニル用可塑剤)、フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、テトラエチレングリコール、イソヘキサデカノールを挙げることができる。
(3)溶融ピーク温度が175℃未満の低温はんだ[例えば、Sn-1Ag-57Biはんだ(固相線温度:138℃、液相線温度:204℃、溶融ピーク温度139℃)]の場合、上記の(1)および(2)に列挙した溶剤も使用できるが、TG-15温度がより低い溶剤も使用可能である。使用可能な追加の溶剤の例として、フタル酸ジブチル、マレイン酸ジブチル、安息香酸ベンジルが挙げられる。
上述したようなTG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より高い溶剤は、1種類のみを使用しても、2種以上を使用してもよい。また、TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より低い溶剤も、本発明の効果を著しく損なわない範囲の量、望ましくは溶剤全体の30質量%以内の量であれば、溶剤の一部として使用することができる。
例えば、TG-15温度が150℃より低い溶剤も、望ましくは溶剤全体の30質量%以下の量であれば、上記(1)?(3)のいずれのはんだに対しても使用できる。そのような溶剤の例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-エチル-1,3-ヘキセンジオール、安息香酸ブチルなどが挙げられる。」(6頁4?39行)
(カ)「【実施例】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、本発明を実施例に制限するものではない。実施例中、%は特に指定しない限り質量%である。また、はんだの合金組成の数字は質量%での含有量を意味する。・・・
(フラックス)
フラックスa?gにおいて、水素添加ヒマシ油はチキソ剤、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩は活性剤である。かっこ内の温度は、各溶剤のTG-15温度である。
フラックスa
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
サフラワー油(397℃) 40%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(124℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスb
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
ハイサーム32(鉱物油、254℃) 40%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(124℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスc
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
流動パラフィン(265℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスd
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
イソヘキサデカノール(186℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスe
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
マレイン酸ジブチル(155℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスf(特開平9-277081号)
重合ロジン 50%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
1-メチル-4-イソプロピル-1-シクロヘキセン-8-オール(112℃)
40%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスg(一般的なフラックス)
重合ロジン 50%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 40%
安息香酸ブチル(130℃) %
これらのソルダペーストの連続印刷性およびボイド発生率を下記の試験方法により評価した。試験結果を、フラックス中の主溶剤(最も量の多い溶剤)のTG-15温度、はんだの溶融ピーク温度、およびそれらの温度差と共に、表2に示す。」(6頁下から6行?8頁19行)(当審注:フラックスgについて「安息香酸ブチル(130℃)」の配合量は記載がないが、「3%」であると推定される。)
(キ)表2(9頁)


(ク)「・・・従って、現代の小型化した電子機器および電子部品に用いられる微小なパッドでも、実接合面積のばらつきやそれによる接合強度の低下が発生せず、信頼性の高い電子機器および電子部品を作ることが何能となる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、BGAなどモジュール基板のバンプ形成用のソルダペーストとして最適である。・・・」(10頁9?14行)

1-2.甲第1号証に記載された発明
i)甲1の記載事項(ア)から、甲1には、ボイドの発生が少なく、特に大径ボイドの発生を防止することを課題とするソルダペーストについて記載されている。
ii)同(イ)?(エ)から、同課題を解決する手段として、ソルダペーストのフラックス中に含まれる溶剤として、TG法による測定(TG曲線:昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/min)で減量率が15質量%になる温度(以下、「TG-15」と記すことがある。)が、粉末はんだの溶融ピーク温度(DSC(示差走査熱量測定法)チャートにおける昇温時の溶融による吸熱がピークとなる温度。以下、「Mp」と記すことがある。)より5℃以上高い溶剤を主として用いることが記載されている。
iii-1)ここで同(カ)には「フラックスa」?「フラックスg」が記載され、それらの全てで使用される「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」の次に記載される二つ乃至三つの物質は、上記(オ)の記載から溶剤である。
そして、それら溶剤中で、「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」であるのは「安息香酸ブチル」「マレイン酸ジブチル」であり、同有機酸エステルの溶剤全量に対する配合量が「10質量%から100質量%」に範囲にあることが明らかなのは「フラックスe」のみである。
iii-2)そこで、ソルダペーストのフラックスとして「フラックスe」に着目すると、上記(カ)から、「フラックスe」は、「重合ロジン 40質量%」と、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2質量%」と、「水素添加ヒマシ油 5質量%」と、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 10質量%」と、「安息香酸ブチル 3質量%」と、「マレイン酸ジブチル 40質量%」とを含む。
そして、「マレイン酸ジブチル」と「安息香酸ブチル」の配合量は、全溶剤である「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 10質量%」「安息香酸ブチル 3質量%」「マレイン酸ジブチル 40質量%」(記載されている数値はフラックス中の割合)に対して
81.1質量%(=100×(40+3)/(10+3+40))である。
また、「安息香酸ブチル」のみであれば、同配合量は、5.7%である。
すなわち、「フラックスe」は、「重合ロジン」(「ベースとなる樹脂」)と、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」(「活性剤」)と、「水素添加ヒマシ油」(「チキソ剤」)と、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」(「溶剤」)と、別の溶剤である「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」を含み、「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」の配合量は溶剤全量に対して81.1質量%となるが、「安息香酸ブチル」のみでは同配合量は5.7%となるものである。
iv)同(イ)、(カ)及び(キ)の表2と同表の欄外の注「^(2)TG-15」から、「フラックスe」については、「フラックスe」において、主溶剤すなわち最も多く配合されている溶剤である「マレイン酸ジブチル」は「昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minで減量率が15質量%になる温度」である「TG-15」を有し、それは具体的には「155℃」であるが、「TG-15」が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであると、同(エ)から、「溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止」できるという効果を奏するといえる。
そして、同効果について、上記(オ)には「TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より低い溶剤も、本発明の効果を著しく損なわない範囲の量、望ましくは溶剤全体の30質量%以内の量であれば、溶剤の一部として使用することができる。」と記載されている。
これは具体的には、「安息香酸ブチル」の「TG-15」は、上記(カ)から「130℃」であり、上記(キ)であげられている全ての「粉末はんだ」の「溶融ピーク温度」より低いが、「安息香酸ブチル」は溶剤全体の5.7%だから、「安息香酸ブチル」が「マレイン酸ジブチル」と共に使用されても、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであれば、「マレイン酸ジブチル」により、上記効果が奏されるといえる。
v)そして、本件特許明細書【0070】の記載から本件発明の実施例で使用されるはんだ合金粉末の溶融ピーク温度は最大でも248℃であることを考慮し、同(キ)の表2から、使用する粉末はんだの溶融ピーク温度毎に「フラックスe」を用いる場合の「ソルダペースト」について、以下の1)2)3)の3種類に着目する。
1)ペースト番号19 「粉末はんだC:Sn-3Ag-0.5Cu Mp=218℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
2)ペースト番号26 「粉末はんだD:Sn-1Ag-57Bi Mp=139℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
3)ペースト番号12 「粉末はんだB:Sn-37Pb Mp=183℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
ここで、同(キ)の表2から、1)及び3)の「ソルダペースト」は、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」(155℃)が、「粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いもの」でないので「大径ボイド数(個)」「ボイド総数(個)」が共に多く、2)の「ソルダペースト」のみが、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」(155℃)が、「粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いもの」なので、「大径ボイド数(個)」をゼロにでき、「ボイド総数(個)」を少なく出来て、甲第1号証に記載の発明の同(ア)の課題を解決できるものであるが、1)?3)の「ソルダペースト」が甲第1号証に記載されていることは同表2から把握されるものである。
vi)上記1)2)3)の 「ソルダペースト」で用いるフラックスについて、本件発明2?4を特定する請求項2?4の記載に則して整理すると、甲第1号証には、以下に記す引用発明1?3が記載されていると認められる。
1)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が218℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明1」という。)

2)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が139℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明2」という。)

3)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が183℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明3」という。)

以下、用いられる「はんだ合金の溶融ピーク温度」の共通するもの同士で、本件発明と引用発明を対比検討する。

1-3.本件発明2について
(1)本件発明2と引用発明2との対比
i)ここで、ソルダペーストにおいて「重合ロジン」がフラックスのベースとなる樹脂であることは技術常識といえ、上記(カ)から、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」は「活性剤」であり、「水素添加ヒマシ油」は「チキソ剤」であり、「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」は「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」である溶剤であり、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は別の溶剤であるといえる。
すると、引用発明2の「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、」は、本件発明2の「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、(A)ベース樹脂と、B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み」に相当する。
ii)本件発明2の「有機酸エステル」は「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」であるから、引用発明2の「マレイン酸ジブチルと安息香酸ブチル」の内の「安息香酸ブチル」が、本件発明2の「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」に相当する。
iii)引用発明2の対象とする「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が139℃」だから、これは本件発明2の「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満」に包含される。
iv)すると、本件発明2と引用発明2とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>溶剤(D)として、本件発明2では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明2では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2>本件発明2では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明2では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明1では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明2では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合」において、本件発明2では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満である」のに対して、引用発明2では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。

(2)相違点の検討
事案に鑑み相違点1について検討する。
上記「1-2.iv)」での検討から、引用発明2で用いる「フラックスe」において、主溶剤すなわち最も多く配合されている溶剤である「マレイン酸ジブチル」の「昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minで減量率が15質量%になる温度」(「TG-15」)が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであると、上記(エ)から、「溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止」できるという効果を奏するものである。
すると、引用発明2は、「マレイン酸ジブチル」がフラックス組成物から除去されると上記効果を奏することができないものとなるので、「マレイン酸ジブチル」は当該効果を奏するために引用発明2において必須の成分といえる。
したがって、引用発明2において、「マレイン酸ジブチル」を除外することには阻害要因があるといえ、相違点1に係る特定事項は容易に想到できない。

なお、他の甲各号証には、以下に記載するように、上記阻害要因を緩和できるような記載や示唆は見いだせない。

ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「ハンダペースト」の「長期の保存」のために「吸湿性」のある「チキソトロピック剤の含有率を減じて吸湿性を抑制」するために、「二塩基酸の一価アルコールエステル」を「ハンダペースト」の「フラックス」に含ませることが記載され、「二塩基酸の一価アルコールエステル」として本件発明の「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」に相当する物質が記載されている。(【請求項1】【請求項7】【0013】【0014】)
しかし、引用発明2(ボイドの発生防止)と甲第2号証に記載の技術手段(長期保存)とは課題が相違するから、引用発明に甲第2号証に記載の技術手段を適用する動機付けに欠け、適用できるとしても、引用発明において上記阻害要因を緩和できるものとはいえない。

イ 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「厳しい温度サイクル」に「長期間耐えられるだけでなく」「縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間耐える事が可能なはんだ合金」を得るために、はんだ合金元素として「Bi」「Sb」を添加することが記載されている。([0011][0013])
したがって、甲第3号証に記載の技術手段ははんだ合金に関するものだから、「フラックス」の成分に関する引用発明2の上記阻害要因の検討に資することはできない。

ウ 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「はんだ付けの際に実装品の熱損傷を防ぐ」ために「はんだ付け温度を低減する」に際し、「鉛フリーはんだ合金」に「Biを添加すればよいが、Biを大量に添加すると、はんだが非常に脆くなる」ので、その添加量を調整することが記載されている。(【0005】【0008】)
したがって、甲第4号証に記載の技術手段ははんだ合金に関するものだから、「フラックス」の成分に関する引用発明2の上記阻害要因の検討に資することはできない。

エ 甲第5号証の記載
甲第5号証は記載不備の指摘のために引用された文献であるが検討しておく。
甲第5号証には、「水添ロジン(ロジン系樹脂)」「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩(活性剤)」「アジピン酸(活性剤)」「水添ヒマシ油(チクソ剤)」「エチレングリコールモノブチルエーテル(溶剤)」「マロン酸ジメチル」からなるソルダペーストのフラックスが記載されており、この構成は本件発明の「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含」むものにあたり、ボイドの発生を低減する事を課題としている。(【0008】【0018】)
しかしながら、甲第5号証には、「有機酸エステル」の「TG法」に関する「減量率」についての記載も示唆もなく、「マレイン酸ジブチル」についての記載もない。
したがって、引用発明2に甲第5号証に記載の技術手段を適用できたとしても、引用発明において上記阻害要因を緩和できるものとはいえない。

オ 甲第6号証について
甲第6号証は、意見書等で主張された効果の参酌について記載されたもので、技術的内容は記載がない。

(3)本件発明2についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明2と同一発明とはいえないし、また、引用発明2に基づいて、又は、引用発明2と甲第3?6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

1-4.本件発明3について
(1)本件発明3と本件発明2の関係、及び、引用発明3と引用発明2の関係
本件発明3と本件発明2とは、「はんだ合金の溶融ピーク温度」(以下、「Mp」と記すことがある。)と「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度」(以下、「TG-100」と記すことがある。)について、前者が「175℃≦Mp<205℃」で「180℃≦(TG-100)<255℃」であるのに対して、後者は「130℃≦Mp<175℃」で「180℃≦(TG-100)<225℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
また、引用発明3と引用発明2とは、「(TG-15)=155℃」となるときのMpについて、前者が「Mp=183℃」であるのに対して、後者は「Mp=139℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。

(2)本件発明3と引用発明3との対比
上記(1)と「1-3.(1)」の検討を踏まえると、本件発明3と引用発明3とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1*>溶剤(D)として、本件発明3では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明3では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2*>本件発明3では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明3では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3*>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明3では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明3では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4*>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合」において、本件発明3では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満である」のに対して、引用発明3では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。

(3)相違点の検討
相違点1*は、上記「1-3(1)」の相違点1と同じなので、「1-3(2)相違点の検討」を援用する。
引用発明3において、相違点1*に係る特定事項とすることは容易に想到できない。

(4)本件発明3についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明3と同一発明とはいえないし、また、引用発明3に基づいて、又は、引用発明3と甲第3?6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

1-5.本件発明4について
(1)本件発明4と本件発明2の関係、及び、引用発明1と引用発明2の関係
本件発明4と本件発明2とは、前者が「205℃≦Mp」で「180℃≦(TG-100)<Mp+50℃」であるのに対して、後者は「130℃≦Mp<175℃」で「180℃≦(TG-100)<225℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
また、引用発明1と引用発明2とは、「(TG-15)=155℃」となるときのMpについて、前者が「Mp=218℃」であるのに対して、後者は「Mp=139℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。

(2)本件発明4と引用発明1との対比
上記(1)と「1-3.(1)」の検討を踏まえると、本件発明4と引用発明1とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1※>溶剤(D)として、本件発明4では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明1では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2※>本件発明4では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明1では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3※>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明4では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明1では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4※>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合」において、本件発明4では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク+50℃以下である」のに対して、引用発明1では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。

(3)相違点の検討
相違点1※は、上記「1-3(1)」の相違点1と同じなので、「1-3(2)相違点の検討」を援用する。
引用発明1において、相違点1※に係る特定事項とすることは容易に想到できない。

(4)本件発明4についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、引用発明1と同一発明とはいえないし、また、引用発明1に基づいて、又は、引用発明1と甲第3?6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

1-6.異議申立理由及び当審取消理由の新規性進歩性についての結言
また、本件発明5?12は、いずれも本件発明2?4を直接又は間接的に引用した上で、本件発明2?4をさらに特定するものであるから、本件発明2?4と同様である。
以上から、本件発明3、4、6?9、12は甲第1号証に記載された発明ではなく、本件発明2?12は甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証に記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2.記載不備について
取消理由で通知した記載不備の理由は、上記「第5」でみたように、「D.異議申立理由2の(2)」及び「E.記載不備についての取消理由(当審で発見)」の二つであり、これらについて判断する。

2-1.D.異議申立理由2の(2)について
(1)申立人の主張の概要
発明の詳細な説明には、課題を解決出来ることが確認できた「(B)活性剤」についての実施例がただ一つ(全実施例、全比較例を通じて「マロン酸0.5%」「コハク酸0.5%」「スベリン酸1.5%」「ピコリン酸1.0%」「2-ブロモヘキサン1.5%」を全て用いた組合せの場合のみ)記載されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明は、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物を得ることを課題とし(【0009】)、その解決手段として、活性剤が溶剤中で電離して有機酸イオン(RCOO-)やハロゲン化物イオンが発生しても、それらが溶媒和しないように、有機酸エステル(D-1)は上記カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないので、活性剤がはんだ合金粉末と反応せず、リフロー加熱まで活性が保たれるもの(【0050】)とするものであることが記載され、それゆえ、「(B)活性剤」はそのような性質を有するものである必要があるといえるし、本件特許明細書【0039】?【0043】にはそのような性質を持つ種々の活性剤について記載されているといえる。
そうであれば、課題を解決するための機序は明らかであり、当該機序に従い得る種々の活性剤の具体例も記されているのだから、実験により課題が解決できることが確認できた事例が一つしか記載されていないとしても、当業者であれば、実験例で効果が確認されていなくても、本件発明の活性剤であれば課題を解決できることを十分に認識し得るといえる。
それゆえ、本件発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。

2-2.E.記載不備についての取消理由(当審で発見)について
本取消理由は、本件特許公報記載の請求項1に係る発明において、使用されるはんだ合金について何ら特定がないところ、技術常識に照らして、同発明があらゆるはんだ合金(溶融ピーク温度)に対して課題を解決できるものとは認められないので、出願時の技術常識に照らして、同請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとするものであったところ、上記した本件訂正請求により請求項1が削除されたため、本取消理由の対象となる請求項がなくなったので、本取消理由は解消されたものである。

第7 取消理由として通知しなかった異議申立理由の判断
取消理由として通知しなかった上記「第4」の<異議申立理由2>(1)(3)について判断する。
1.「第4」の<異議申立理由2>(1)について
(1)申立人の主張の概要
甲第5号証の「ソルダペースト組成物」のフラックスは本件発明の「フラックス組成物」に相当し、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」は本件発明の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」にあたるといえる。
そして、甲第5号証には、「ボイドの発生を減少」させる「ソルダペースト組成物」が記載され、同組成物のフラックスにおいて、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」の添加量は「0.1%以上10.0%以下、特に0.3%?1%が好ましい。添加量0.1%未満ではソルダペーストへ添加した効果が見られず、添加量10.0%以上では、はんだ付性が悪くなる。」(【0014】)ことが記載されている。
すると、甲第5号証で「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」は「添加量10.0%以上」は添加できないから、本件発明でも同様であるはずなのに、本件特許明細書【0055】から本件発明では「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」をフラックス組成物全量に対して65質量%まで添加できるとされているから、「10.0%」を超える添加の可能な理由が別途存在するはずだが、請求項の記載からはそれは特定されておらず、当該理由の特定されない本件発明は明細書の記載により裏付けられているものとは言えない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明は「リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物及びソルダペースト組成物を提供する」(【0009】)ことを課題とし、(A)ベース樹脂として「ロジン系樹脂」(【0025】)を、(B)活性剤として「マロン酸」「コハク酸」等(【0040】)を、(C)チクソ剤として「水素添加ヒマシ油」「飽和脂肪酸アミド」「オキシ脂肪酸類」等(【0048】)を、(D)溶剤として「ブチルカルビトール」等(【0049】)を、溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルを含むものである。
これに対して、甲5に記載の発明は「はんだ付部におけるボイドの発生を減少」(【0001】)することを課題とし、「樹脂成分」として「ロジン系樹脂」(【0011】)を、「活性剤」として「マロン酸」「コハク酸」等(【0012】)を、「チキソ剤」として「水素添加ヒマシ油」「脂肪酸アマイド類」「オキシ脂肪酸類」等(【0013】)を、「溶剤」として「ブチルカルビトール」等(【0049】)を、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」(【0014】)を含むものである。
ここで、本件発明の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」は「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」を含むといえるから、本件発明と甲5に記載の発明とは「フラックス組成物」として類似するものといえる。
しかしながら、本件発明は、少なくとも「有機酸エステル(D-1)」について「有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であ」るという特定事項を別途有するものであり、この点は甲5に記載も示唆もない。
すると、本件発明は、「有機酸エステル(D-1)」について、「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない」こととは別に、上記特定事項も有するものであるから、甲5に前者に関する含有量の規定があるからといって、それとは別に後者の特定事項も合わせて有する本件発明の「有機酸エステル(D-1)」が、甲5の前者に関する含有量の規定があてはまらなければならないという必然性は認められない。
したがって、本件発明はサポート要件に適合しないとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。

2.「第4」の<異議申立理由2>(3)について
(1)申立人の主張の概要
本件特許明細書の実施例では、同じフラックス組成物であっても溶融ピーク温度の異なるはんだ合金を用いたり、溶剤の比率を若干変化させたりするだけで試験結果が変わることが示されているが、このような相違が本件発明を満たすあらゆる材料で発生するとまでは言えない。あらゆるフラックス組成物で、実施例で確認できているような効果の差が発生することまでは実施例で示されておらず、当業者は所望の効果が得られるとまで認識できない。
すなわち、本件特許明細書で確認できるのは実施例に記載されている組成にすぎず、本件特許明細書の記載は、特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体的な開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されておらず、また、特許出願時の技術常識を参酌して、本件の特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるものでもない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明の課題は、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物を得ること(【0009】)であり、その解決手段として、活性剤が溶剤中で電離して有機酸イオン(RCOO-)やハロゲン化物イオンが発生しても、それらが溶媒和しないように、有機酸エステル(D-1)は上記カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないので、活性剤がはんだ合金粉末と反応せず、リフロー加熱まで活性が保たれるもの(【0050】)とするものであるという本件発明の機序は本件特許明細書において明らかにされており、さらに、はんだ合金の溶融ピーク温度と有機酸エステル(D-1)のTG法での減量率との関係(【0052】?【0054】)も明らかにされている。
そして本件の特許請求の範囲の各請求項には、上記機序とはんだ合金の溶融ピーク温度と有機酸エステル(D-1)のTG法での減量率との関係が記載されており、その技術的意味は十分に理解される特定となっている。
そうであれば、実施例として記載されているのが、上記機序に従ういくつかの例にすぎず、請求項に記載の範囲を過不足なく示すものでないとしても、本件特許明細書に記載の上記機序等に従うものであれば本件発明の課題を解決できることは明らかであり、本件発明が本件特許明細書に記載されていないとはいえない。
それゆえ、本件発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。

第8 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件請求項2?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項1が削除されたため、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板
【技術分野】
【0001】
本発明はフラックス組成物、ソルダペースト組成物及びこれを用いて形成されたはんだ接合体を有する電子回路基板に関する。
【0002】
従来、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合するには、フラックスとはんだ合金粉末とを混合したソルダペースト組成物を基板上に印刷し、所定の位置に電子部品を搭載してこれをリフロー炉等の加熱ではんだ接合部を形成する方法が汎用的に用いられている(以下、この方法を「リフローはんだ付法」という。)。
リフローはんだ付法は、予め決まった形で成形されたはんだを用いたはんだ付法と比較し、形成されたはんだ接合部にボイドが発生しやすいという欠点がある。このボイドの発生の主な原因は、ソルダペースト組成物に含まれるはんだ合金粉末が溶融し凝集する際にフラックス組成物に含まれる成分、特に揮発性の溶剤が速やかに凝集するはんだから排出されないことにある。
【0003】
近年の電子部品の小型化に伴うパッドの微細化や電子部品の高機能化による発熱量の増加により、それまでは許容されていたボイドが部品の放熱阻害や接合信頼性の低下に影響を及ぼすようになっている。例えば、3.2mm×1.6mmサイズのチップ部品において、その電極下に直径200μmのボイドが2箇所発生した場合と直径300μmのボイドが2箇所発生した場合、ボイドが無い場合と比べてそのはんだ接合部の接合寿命はそれぞれ0.85倍、0.63倍低下することが報告されている。このようにはんだ接合部におけるボイドの発生は電子機器や電子部品の信頼性を著しく損なう虞がある。
【0004】
このようなボイドの低減方法として、従来、使用するフラックス組成物に適正量の活性剤を配合し、はんだ溶融時の流動性を向上してはんだ内部に発生したガスを排出する方法が用いられていた。しかしこのような活性剤ははんだ合金粉末とフラックス組成物とを混合した時点から反応が開始し、ソルダペースト組成物の使用段階には既にその活性力がある程度消費された状態にある。従ってこの場合、特に前述のような微細化パッドを有する電子部品においてははんだ付け時の十分なぬれ性を確保することが難しく、凝集するはんだからのガスの排出は難くなる。
【0005】
これを解決する方法として、はんだ合金粉末との反応による活性力の消費分に相当する活性剤を予めフラックス組成物に配合して高活性とし、はんだ溶融時の流動性を向上する方法が挙げられる。しかし高活性のために活性剤を増量すればはんだ付後に基板上に残留するフラックス残さの絶縁性が低下するため、これにより部品端子間の短絡が起こる虞がある。
【0006】
また上述のボイドの発生を低減する他の方法として、加熱中のプリヒートの段階で完全に揮発してしまう溶剤をフラックス組成物に配合する方法が挙げられる。通常、溶剤はソルダペースト組成物を適正な粘度に調整し、その印刷性を高めるために用いられる。そのため、基板上へのソルダペースト組成物の印刷が完了すれば、溶剤は不要な成分となる。
しかし、このような揮発し易い溶剤を用いる場合、ソルダペースト組成物がメタルマスク上で乾燥し易くなるために連続印刷の過程で増粘し、メタルマスクの開口部詰まり及び印刷抜け不良を引き起こす虞がある。
【0007】
更にはリフローはんだ付におけるボイドの発生を低減させる他の方法として、フラックスに含有される溶剤の70質量%以上をTG法による測定で減量率が15質量%になる温度(TG-15温度)がはんだの溶融ピーク温度より5℃以上高温になる溶剤を用いたソルダペーストが提案されている(特許文献1参照)。当該溶剤は、はんだが溶融するまでに気化する量が最大でも15質量%より少ない。そのためソルダペーストが完全に溶融しはんだがぬれ性を示した後にその気化が盛んとなるため、溶剤は溶融はんだから排出され易く、よってボイドの発生が抑制されるものである。
しかしこのような溶剤は、リフロー加熱中に一部しか溶剤が気化しない場合や実質的に全く気化しない場合、溶剤以外の気化しなかったフラックス成分(例:樹脂、チクソ剤、活性剤等)と共にフラックス残さとしてはんだ接合部周辺に残留してしまう。溶剤が含まれたフラックス残さはべたつく性質を有するため大気中の埃や塵が付着し易い。このような埃等の付着したフラックス残さは絶縁性が低下するため、その信頼性を著しく損なう虞がある。
なお、フラックス残さははんだ付後に洗浄剤による洗浄で除去することもできる。しかし近年ではコスト面、環境面等の観点から無洗浄タイプのソルダペースト組成物が広く使用されており、ボイド発生を抑制しつつフラックス残さのべたつきを抑制し得るソルダペースト組成物の重要性はますます高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 特許第4458043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、特にリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物及びソルダペースト組成物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明のフラックス組成物は、はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するものであり、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルを含み、前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であることをその特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることをその特徴とする。
【0012】
(3)上記(1)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上200℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定)が100質量%となる温度は180℃以上且つ250℃未満であることをその特徴とする。
【0013】
(4)上記(1)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が200℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることをその特徴とする。
【0014】
(5)上記(2)に記載の構成にあって、前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル及びマレイン酸ジブチルの少なくとも一方であることをその特徴とする。
【0015】
(6)上記(3)に記載の構成にあって、前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジ
メチル、アジピン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル及びセバシン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。
【0016】
(7)上記(4)に記載の構成にあって、前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル及びセバシン酸ジオクチルから選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。
【0017】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1に記載の構成にあって、前記ベース樹脂(A)は(A-1)ロジン系樹脂及び(A-2)合成樹脂の少なくとも一方を含み、前記合成樹脂(A-2)はアクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることをその特徴とする。
【0018】
(9)本発明のソルダペースト組成物は、上記(1)から(8)のいずれか1に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことをその特徴とする。
【0019】
(10)上記(9)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末はAgを2質量%以上3.1質量%以下と、Cuを0質量%超1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、Biを0.5質量%以上4.5質量%以下と、Niを0.01質量%以上0.25質量%以下含み、残部がSnからなることをその特徴とする。
【0020】
(11)上記(10)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末は更にCoを0.001質量%以上0.25質量%以下含むことをその特徴とする。
【0021】
(12)本発明の電子回路基板は、上記(9)から(11)のいずれか1に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されたはんだ接合体を有することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特にリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物及びソルダペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のフラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板の一実施形態を以下に詳述する。なお、本発明がこれらの実施形態に限定されないのはもとよりである。
【0024】
(1)フラックス組成物
本実施形態のフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含む。
【0025】
(A)ベース樹脂
前記ベース樹脂(A)としては、例えば(A-1)ロジン系樹脂及び(A-2)合成樹脂の少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0026】
前記ロジン系樹脂(A-1)としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;ロジンを重合化、水添化、不均一化、アクリル化、マレイン化、エステ
ル化若しくはフェノール付加反応等を行ったロジン誘導体;これらロジンまたはロジン誘導体と不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等)とをディールス・アルダー反応させて得られる変性ロジン樹脂等が挙げられる。これらの中でも特に変性ロジン樹脂が好ましく用いられ、アクリル酸を反応させて水素添加した水添アクリル酸変性ロジン樹脂が特に好ましく用いられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0027】
なお前記ロジン系樹脂(A-1)の酸価は140mgKOH/gから350mgKOH/gであることが好ましく、その重量平均分子量は200Mwから1,000Mwであることが好ましい。
【0028】
前記合成樹脂(A-2)としては、例えばアクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0029】
前記アクリル樹脂は、例えば炭素数1から20のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを単重合、または当該アクリレートを主成分とするモノマーを共重合することにより得られる。このようなアクリル樹脂の中でも、特にメタクリル酸と炭素鎖が直鎖状である炭素数2から20の飽和アルキル基を2つ有するモノマーを含むモノマー類とを重合して得られるアクリル樹脂が好ましく用いられる。なお当該アクリル樹脂は、1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0030】
前記エポキシ樹脂としては、その末端に反応性のエポキシ基を有する熱硬化型の樹脂であればいずれも使用することができ、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビフェニル型、ナフタレン型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、フルオレン型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、脂環型エポキシ樹脂等が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0031】
前記ウレタン樹脂としては、例えば1分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物と1分子中に2つ以上のヒドロキシル基を有するポリオール化合物を反応させて得られるものであればいずれも使用することができ、その中でも特に脂肪族成分、芳香族成分を含むポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。なお当該ウレタン樹脂は1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
前記ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0033】
前記フェノキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂等が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0034】
前記ポリアルキレンカーボネートとしては、例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリブテンカーボネート、ポリイソブテンカーボネート、ポリペンテンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリシクロペンテンカーボネート、
ポリシクロヘキセンカーボネート、ポリシクロヘプテンカーボネート、ポリシクロオクテンカーボネート、ポリリモネンカーボネート等をポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート等が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0035】
前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物(以下、「ロジン誘導体化合物」という。)について、先ずカルボキシル基を有するロジン系樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体等が挙げられ、これら以外にもカルボキシル基を有するロジンであれば使用することができる。またこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
次に前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物としては、例えばダイマージオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルダイマージオールのようなダイマー酸から誘導される化合物であって、その末端にアルコール基を有するもの等が挙げられ、例えばPRIPOL2033、PRIPLAST3197、PRIPLAST1838(以上、クローダジャパン(株)製)等を用いることができる。
前記ロジン誘導体化合物は、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合することにより得られる。この脱水縮合の方法としては一般的に用いられる方法を使用することができる。また、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合する際の好ましい重量比率は、それぞれ25:75から75:25である。
【0036】
前記合成樹脂(A-2)の酸価は0mgKOH/gから150mgKOH/gであることが好ましく、その重量平均分子量は1,000Mwから30,000Mwであることが好ましい
【0037】
また前記ベース樹脂(A)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
前記ロジン系樹脂(A-1)を単独で用いる場合、その配合量はフラックス組成物全量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上45質量%以下であることが更に好ましい。ロジン系樹脂(A-1)の配合量をこの範囲とすることで、良好なはんだ付性及び適度なフラックス残さ量とすることができる。
また前記合成樹脂(A-2)を単独で用いる場合、その配合量はフラックス組成物全量に対して10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
更に前記ロジン系樹脂(A-1)と前記合成樹脂(A-2)とを併用する場合、その配合比率は20:80から50:50であることが好ましく、25:75から40:60であることがより好ましい。
【0039】
(B)活性剤
前記活性剤(B)としては、例えばカルボン酸類、ハロゲンを含む化合物等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0040】
前記カルボン酸類としては、例えばモノカルボン酸、ジカルボン酸等並びにその他の有機酸が挙げられる。
前記モノカルボン酸としては、例えばプロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マル
ガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、グリコール酸等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
また前記その他の有機酸としては、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸等が挙げられる。
なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0041】
前記ハロゲンを含む化合物としては、例えば非解離性のハロゲン化合物(非解離型活性剤)、解離性のハロゲン化合物(解離型活性剤)が挙げられる。
前記非解離型活性剤としては、ハロゲン原子が共有結合により結合した非塩系の有機化合物が挙げられ、例えば塩素化物、臭素化物、ヨウ素化物、フッ化物のように塩素、臭素、ヨウ素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよく、またこの2以上の異なるハロゲン原子を共有結合で結合する化合物でもよい。当該化合物は水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールのように水酸基等の極性基を有することが好ましい。当該ハロゲン化アルコールとしては、例えば2,3-ジブロモプロパノール、2,3-ジブロモブタンジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、トリブロモネオペンチルアルコール等の臭素化アルコール;1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-ジクロロ-2-ブタノール等の塩素化アルコール;3-フルオロカテコール等のフッ素化アルコール;その他のこれらに類する化合物が挙げられる。
【0042】
また前記解離型活性剤としては、例えばアミン、イミダゾール等の塩基の塩化水素酸塩及び臭化水素酸塩が挙げられる。塩化水素酸及び臭化水素酸の塩の一例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の比較的炭素数の小さいアミン;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-プロピル-4-プロピルイミダゾール等の塩化水素酸塩及び臭化水素酸塩等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0043】
前記活性剤(B)の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.1質量%以上30質量%以上であることが好ましく、2質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
前記活性剤(B)に使用される前記カルボン酸類の配合量は、フラックス組成物全量に対して1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。カルボン酸類の配合量をこの範囲とすることで、ソルダボール発生抑制及び良好なフラックス組成物の絶縁性を発揮することができる。
【0045】
また前記活性剤(B)に使用される前記非解離型活性剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
次に前記活性剤(B)に使用される前記解離型活性剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
更に前記解離型活性剤として前記アミン及びイミダゾールをそれぞれ単体で用いる場合、その配合量はそれぞれ0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(C)チクソ剤
前記チクソ剤(C)としては、例えば水素添加ヒマシ油、飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド類、オキシ脂肪酸類、ジベンジリデンソルビトール類等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
また前記増粘剤の配合量は、フラックス全量に対して1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
(D)溶剤
前記溶剤(D)としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ヘキシルジグリコール、(2-エチルヘキシル)ジグリコール、フェニルグリコール、ブチルカルビトール、オクタンジオール、αテルピネオール、βテルピネオール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、セバシン酸ビスイソプロピル等を使用することができる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0050】
本実施形態のフラックス組成物においては、前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルを含むことが好ましい。
フラックス組成物に用いられる溶剤としては、カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれかを含む成分を用いるのが一般的である。フラックス組成物の成分のうち活性剤はこのような溶剤に溶解するに際して電離し、これにより負電荷を有する有機酸イオン(RCOO-)やハロゲン化物イオンが発生する。上記カルボキシル基及びヒドロキシル基はこのイオンの周囲に配向され易く、その結果これらが溶媒和され、はんだ合金粉末と溶剤との反応が起こる。
しかし前記有機酸エステル(D-1)は上記カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないため、本実施形態のフラックス組成物においては活性剤(B)から電離したイオンに配向し易い官能基がなく、よってこれらは溶媒和され難い。そのため、本実施形態のフラックス組成物を用いたソルダペースト組成物は、非加熱の保管状態におけるはんだ合金粉末と活性剤との反応を抑制し得る。
このように前記有機酸エステル(D-1)を含むフラックス組成物はソルダペースト組成物の保管中におけるはんだ合金粉末と活性剤(B)との反応を抑制し得るため、活性剤(B)の活性度や配合量を調整せずともその活性力は残存され、はんだ付け時における良好なぬれ性を確保し、ボイドの発生を抑制することができる。
なお、仮に基板上に形成されたフラックス残さに前記有機酸エステル(D-1)が残存したとしても、当該有機酸エステル(D-1)は上述の通りカルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないためにフラックス残さの吸湿性を抑制し得るため、そのフラックス残さの絶縁性には影響を及ぼし難いと考えられる。
【0051】
また前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。具体的には、熱重量測定-示唆熱分析装置を用いてTG曲線を測定し、これにより減量率を算出する。以下同じ。)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であることが好ましい。このような有機酸エステル(D-1)は基板上に形成されるフラックス残さのべたつきを抑制し得るため、当該フラックス残さに良好な絶縁性を付与することができる。
即ち、ソルダペースト組成物の一般的なリフロー加熱条件は、本加熱のピーク温度をは
んだの溶融ピーク温度より更に10℃から50℃高い温度になるように設定することが多い。
本発明者等は鋭意研究の結果、フラックス組成物に前記溶剤(D)として180℃以上且つ使用するはんだ合金の溶融ピーク温度より50℃以内の高い温度で減量率が100質量%となる前記有機酸エステル(D-1)を配合することにより、印刷時におけるメタルマスク上での乾燥が発生し難くなり、安定した連続印刷性を確保でき、また上記リフロー加熱条件でのボイド発生を抑制しつつ、更に形成されたフラックス残さのべたつきを抑制し得ることが分かった。
【0052】
例えば混合に用いるはんだ合金粉末のはんだ合金のピーク温度が130℃以上175℃未満の場合においては、前記有機酸エステル(D-1)として、その減量率の100質量%となる温度が180℃以上且つ225℃未満であるものが好ましく用いられる。このような有機酸エステル(D-1)としては、例えばアジピン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0053】
また例えば混合に用いるはんだ合金粉末のはんだ合金のピーク温度が175℃以上200℃未満の場合においては、前記有機酸エステル(D-1)として、その減量率の100質量%となる温度が180℃以上且つ250℃未満であるものが好ましく用いられる。このような有機酸エステル(D-1)としては、例えばアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0054】
更に例えば混合に用いるはんだ合金粉末のはんだ合金のピーク温度が205℃以上の場合においては、前記有機酸エステル(D-1)として、その減量率の100質量%となる温度が180℃以上であり、且つ前記はんだ合金を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であるものが好ましく用いられる。このような有機酸エステル(D-1)としては、例えばアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸シオクチル等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0055】
前記溶剤(D)の配合量は、フラックス組成物全量に対して20質量%以上65質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は20質量%以上60質量%以下であり、特に好ましい配合量は25質量%以上50質量%以下である。
また前記有機酸エステル(D-1)の配合量は、前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であることが好ましい。
【0056】
更に本実施形態のフラックス組成物には、必要に応じて添加剤を配合することができる。前記添加剤としては、例えば酸化防止剤、消泡剤、界面活性剤、つや消し剤等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
なお前記添加剤の配合量は、フラックス全量に対して0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
(2)ソルダペースト組成物
本実施形態のソルダペースト組成物は、上記フラックス組成物とはんだ合金粉末とを混合することにより得られる。
前記はんだ合金粉末としては、有鉛/無鉛いずれのはんだ合金粉末であっても使用することができる。即ち本実施形態のソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末の成分を問わず、その溶融ピーク温度に適した前記有機酸エステル(D-1)を使用すること
により、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制することができる。
【0058】
なお、前記はんだ合金粉末に用いることのできる合金の例示としては、Sn及びPbを含む合金、Sn及びPb並びにAg、Bi及びInの少なくとも1種を含む合金、Sn及びAgを含む合金、Sn及びCuを含む合金、Sn、Ag及びCuを含む合金、Sn及びBiを含む合金等が挙げられる。またこれら以外にも、例えばSn、Pb、Ag、Bi、In、Cu、Zn、Ga、Sb、Au、Pd、Ge、Ni、Cr、Al、P等を適宜組合せたはんだ合金粉末を使用することができる。なお、上記に挙げた元素以外であってもその組合せに使用することは可能である。
なお、これらの中でも特にSb、Ag及びCuを含むはんだ合金粉末、例えばSn-Ag系合金はんだ、Sn-Ag-Cu系はんだ合金、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系はんだ合金の粉末が好ましく用いられる。
【0059】
また、これらの中でも特に以下に挙げる合金組成のはんだ合金粉末を用いると、形成されるはんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
即ち、前記はんだ合金粉末は、Agを1質量%以上3.1質量%以下と、Cuを0質量%超1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、Biを0.5質量%以上4.5質量%以下と、Niを0.01質量%以上0.25質量%以下含み、残部がSnからなることが好ましい。
【0060】
なお、Agのより好ましい含有量は2質量%以上3.1質量%以下であり、Cuのより好ましい含有量は0.5質量%以上1質量%以下であり、Sbのより好ましい含有量は2質量%以上4質量%以下であり、Biのより好ましい含有量は3.1質量%以上4.5質量%であり、Niのより好ましい含有量は0.01質量%以上0.15質量%以下である。
【0061】
また前記はんだ合金粉末は更にCoを0.001質量%以上0.25質量%以下含むことが好ましい。より好ましいCoの含有量は0.001質量%以上0.15質量%以下である。
【0062】
このようなはんだ合金粉末を使用することにより、本実施形態に係るソルダぺースト組成物を用いて形成されたはんだ接合部は、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制できる。また更にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても、はんだ接合部と電子部品の下面電極の界面付近における亀裂進展を抑制することができる。
【0063】
前記はんだ合金粉末の配合量は、ソルダペースト組成物全量に対して65質量%から95質量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は85質量%から93質量%であり、特に好ましい配合量は87質量%から92質量%である。
前記はんだ合金粉末の配合量が65質量%未満の場合には、得られるソルダペースト組成物を用いた場合に充分なはんだ接合が形成されにくくなる傾向にある。他方前記はんだ合金粉末の含有量が95質量%を超える場合にはバインダとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ合金粉末とを混合しにくくなる傾向にある。
【0064】
また前記はんだ合金粉末の粒子径は1μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上35μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0065】
本実施形態のソルダペースト組成物は、はんだ合金粉末のはんだ合金の溶融ピーク温度に適した前記有機酸エステル(D-1)を配合したフラックス組成物を使用することにより、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制することができる。
【0066】
(3)電子回路基板
本実施形態の電子回路基板は、上記ソルダペースト組成物を用いて形成されるはんだ接合部とフラックス残さ(本明細書においては、はんだ接合部とフラックス残さとを併せて「はんだ接合体」という。)を有することが好ましい。当該電子回路基板は、例えば基板上の所定の位置に電極及びソルダレジスト膜を形成し、所定のパターンを有するマスクを用いて本実施形態のソルダペースト組成物を印刷し、当該パターンに適合する電子部品を所定の位置に搭載し、これをリフローすることにより作製される。
このようにして作製された電子回路基板は、前記電極上にはんだ接合部が形成され、当該はんだ接合部は当該電極と電子部品とを電気的に接合する。そして前記基板上には、少なくともはんだ接合部に接着するようにフラックス残さが付着している。
【0067】
本実施形態の電子回路基板は上記ソルダペースト組成物を用いてそのはんだ接合部及びフラックス残さが形成されているため、はんだ接合部にはボイドが発生し難く、且つフラックス残さのべとつき難いものとすることができる。またはんだ合金粉末の合金組成を特定の元素及び含有量とすることにより、はんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上することもできる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<合成樹脂の作成>
撹拌機、還流管、及び窒素導入管とを備えた500mlの4つ口フラスコにジエチレングリコールモノヘキシルエーテル200gを仕込み、これを110℃に加熱した。
またメタクリル酸10質量%、2-エチルヘキシルメタクリレート51質量%、ラウリルアクリレート39質量%を混合したもの300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(製品名:V-601、和光純薬(株)製)を0.2質量%から5質量%を加えてこれを溶解させ、溶液を作製した。
次いで当該溶液を上記4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下したものを110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、実施例に用いる合成樹脂(A-2)を得た。なお、当該合成樹脂(A-2)の重量平均分子量は7,800Mw、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は-47℃であった。
【0070】
<ソルダペースト組成物の作製>
表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14、及び比較例1から13に係る各フラックス組成物を得た。次いで当該各フラックス組成物11質量%と、以下に挙げるはんだ合金粉末89質量%とを混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14、及び比較例1から13に係る各ソルダペースト組成物を得た。なお、特に記載のない限り、表1から4に記載の数値は質量%を意味するものとする。
また合成樹脂(A-2)については上述の手順で作製したソルベント状の樹脂をエバポレーターを用いて溶剤を揮発させた上で使用している。そのため、表1から表4に記載の合成樹脂(A-2)の数値は、溶剤を揮発させた固形分のみを表す。
なお、各実施例及び比較例において使用したはんだ合金粉末は以下の通りである。
実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(溶融ピーク温度:219℃)
実施例21及び22並びに比較例9:Sn-10Sb(溶融ピーク温度:248℃)
実施例23及び24並びに比較例10及び11:Sn-58Bi(溶融ピーク温度:139℃)
実施例25から28及び比較例12:Sn-3.5Ag-0.5Bi-8In(溶融ピーク温度:202℃)
・実施例29及び30:Sn-3Ag-0.7Cu-3.5Bi-3Sb-0.04Ni-0.01Co(溶融ピーク温度:223℃)
・実施例31及び32:Sn-3Ag-0.5Cu-4.5Bi-3Sb-0.03Ni(溶融ピーク温度:222℃)
・実施例33及び34:Sn-3Ag-0.5Cu-3Bi-2Sb-0.03Ni(溶融ピーク温度:223℃)
・比較例13:Sn-0.5Ag-0.5Cu-3Bi-2Sb-0.04Ni(溶融ピーク温度:228℃)
各有機酸エステル(D-1)成分について熱重量測定-示唆熱分析装置(製品名:STA7200RV、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用い、TG曲線での減量率が100質量%になる温度を測定し、表1から4の成分名と併せて記載した。なお、その測定条件は、昇温速度を10℃/min、窒素ガス流量を200ml/minとし、サンプル量を10mgとした。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

※1 荒川化学工業(株)製 水添酸変性ロジン
※2 日本化成(株)製 脂肪酸ビスアマイド
※3 BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0075】
<印刷回復性試験>
100ピン0.5mmピッチのBGAを実装できるパターンを有するソルダレジストと電極(直径0.25mm)を備えたガラスエポキシ基板と、前記パターンと同じパターンを有する厚さ120μmのメタルマスクを用意した。
次いで、当該メタルマスクを用いて前記基板上に各ソルダペースト組成物を印刷した。
なおこの印刷は、1種のソルダペースト組成物につき、6枚の前記基板を用いて連続印刷する方法により行った。
当該連続印刷を行った後、メタルマスク上にある各ソルダペースト組成物を25℃-50%の環境下で1時間放置した。
その後、このメタルマスク上にある各ソルダペースト組成物を前記基板上に印刷した。なおこの印刷は、1種のソルダペースト組成物につき、10枚の前記基板を用いて連続印刷する方法により行った。
当該連続印刷を行った前記基板について、印刷順5番目から10番目までの直径0.25mmの電極部におけるその転写体積率を画像検査機(製品名:aspire2、(株)コーヨンテクノロジー製)を用いて測定し、以下の基準で評価した。その結果を表5から表8に表す。
◎:転写体積率35%以下の個数が0個
○:転写体積率35%以下の個数が1個以上10個以下
△:転写体積率35%以下の個数が11個以上50個以下
×:転写体積率35%以下の個数が51個以上
【0076】
<フラックス残さ粘着性試験>
直径6mmサイズのパターンを有するソルダレジストと銅ランドを有するガラスエポキシ基板と、前記パターンと同じパターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。次いで当該メタルマスクを用いて前記ガラスエポキシ基板に各ソルダペースト組成物を印刷し、これらをリフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて加熱し、各試験基板を作製した。なお、リフロー条件は印刷した各ソルダペースト組成物に用いたはんだ合金粉末の組成により異なる。その条件は以下の通りである。なお、いずれにおいてもリフロー炉内の酸素濃度は1500±500ppmである。
・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例21及び22並びに比較例9:プリヒートを180℃から200℃で90秒間、ピーク温度265℃、250℃以上が30秒以下、ピーク温度から235℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例23及び24並びに比較例10及び11:プリヒートを100℃から110℃で90秒間、ピーク温度160℃、150℃以上が30秒以下、ピーク温度から120℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例25から28及び比較例12:プリヒートを150℃から170℃で90秒間、ピーク温度220℃、210℃以上が30秒以下、ピーク温度から190℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例29から34:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・比較例13:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度240℃、230℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
そして各試験基板を室温にて2時間放置した後、直径6mmパターンにはんだ付された各試験基板上に形成されたフラックス残さに直径300μmのはんだボールを振りかけ、これを各試験基板の側面が地面と並行となるようにして机に叩きつけ衝撃を与えた。その後、各試験基板上のフラックス残さに付着したはんだボール数をカウントし、以下の基準で評価した。その結果を表5から表8に表す。
◎:はんだボールの付着個数が0個
○:はんだボールの付着個数が1個以上10個以下
△:はんだボールの付着個数が11個以上30個以下
×:はんだボールの付着個数が31個以上
【0077】
<連続ローリングペーストの作製>
各ソルダペースト組成物について、ポリウレタンゴム製スキージ(硬度90)を用いて、スキージ角度60°、印刷タクト30秒、及びストローク300mm、環境25℃-50%R.H.の条件下で4時間、連続的にスキージングを行った。なお、試料投入量は500gであった。このようにして得られた連続スキージング後の各ソルダペースト組成物を以下「連続ローリングペースト」という。
【0078】
<ソルダボール試験>
ガラスエポキシ基板と、2.0mm×1.2mmのサイズのチップ部品を用意した。当該ガラスエポキシ基板上に前記チップ部品に対応するソルダレジストと電極(1.25mm×1.0mm)とを形成し、これと同じパターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用いて前記ガラスエポキシ基板上に各ソルダペースト組成物と各連続ローリングペーストとをそれぞれ印刷し、チップ部品を搭載した。次いで各ガラスエポキシ基板をリフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)で加熱し、各試験基板を作製した。なお、リフロー条件は、印刷した各ソルダペースト組成物・各連続ローリングペーストに用いたはんだ合金粉末の組成により異なる。その条件は以下の通りである。なお、いずれにおいてもリフロー炉内の酸素濃度は1500±500ppmである。
・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例21及び22並びに比較例9:プリヒートを180℃から210℃で110秒間、ピーク温度290℃、230℃以上が70秒間及び250℃以上が60秒間、ピーク温度から235℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例23及び24並びに比較例10及び比較例11:プリヒートを100℃から120℃で110秒間、ピーク温度210℃、130℃以上が70秒間及び150℃以上が60秒間、ピーク温度から150℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例25から28及び比較例12:プリヒートを150℃から180℃で110秒間、ピーク温度250℃、190℃以上が70秒間及び210℃以上が60秒間、ピーク温度から190℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・実施例29から34:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
・比較例13:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒
前記各試験基板をX線透過装置(製品名:SMX-160E、(株)島津製作所製)を用いて観察し、チップ部品の周辺及びその下面に発生したソルダボール数とその径をカウントし、以下のように評価した。その結果を表5から表8に表す。
◎:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個あたりに発生したボール数が0個
○:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個あたりに発生したボール数が1個以上5個以下
△:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個あたりに発生したボール数が6個以上10個以下
×:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個あたりに発生したボール数が11個以上
【0079】
<ボイド試験>
ソルダボール試験と同じ条件にて各試験基板を作製し、その表面状態をX線透過装置(製品名:SMX-160E、(株)島津製作所製)で観察し、はんだ接合部が形成されている領域に占めるボイドの総面積の割合(ボイドの面積率)を測定した。なおボイドの発
生状況は各試験基板中20箇所のランドにおけるボイドの面積率の最大値を求め、以下のように評価した。その結果を表5から表8に表す。
◎:ボイドの面積率の最大値が10%以下
○:ボイドの面積率の最大値が10%超13%以下
△:ボイドの面積率の最大値が13%超20%以下
×:ボイドの面積率の最大値が20%超
【0080】
<亀裂進展抑制試験>
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各ガラスエポキシ基板を加熱してそれぞれに前記ガラスエポキシ基板と前記チップ部品とを電気的に接合するはんだ接合部を形成し、前記チップ部品を実装した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を245℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次に、-40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES-76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを1,000、1,500、2,000、2,500、3,000サイクル繰り返す環境下に前記各ガラスエポキシ基板をそれぞれ曝した後これを取り出し、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表5から表8に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は10個とした。
◎◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
◎:2,501から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
○:2,001から2,500サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:2,000サイクル以下ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
【表8】

【0085】
以上に示す通り、実施例1から12、15から34、参考例13、14に係るソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度に合わせた前記有機酸エステル(D-1)を使用することにより安定した連続印刷性を確保でき、またリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得ることが分かる。またこれらはリフロー時に良好なぬれ性を有しているため、ソルダボールの発生も抑制することができる。更には、これらは連続スキージングを行っても活性剤(B)とはんだ合金粉末との反応を抑制し得るため、連続ローリングペーストであってもボイド及びソルダボールの発生を抑制できることが分かる。
Inを含有するはんだ合金粉末を用いた実施例25から28は、In添加の効果により、良好な亀裂進展抑制効果を発揮することができる。
またはんだ合金粉末の合金組成を特定の元素及び含有量とした実施例29から34においては、ソルダボール及びボイドの発生を十分に抑制でき、またInを添加せずとも、In含有はんだ合金粉末を用いた場合と同等以上の亀裂進展抑制効果を発揮できることが分
かる。このようなソルダペースト組成物は、特に車載用電子回路基板といった寒暖差が激しく且つ高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。
なお、表1から表4の有機酸エステル(D-1)のうちセバシン酸ジオクチルについては、これに使用したはんだ合金粉末の溶融ピーク温度が295℃未満であったため良好な結果とならなかったが、溶融ピーク温度が295℃以上のはんだ合金粉末を用いる場合には、その減量率(TG法を用いて測定)が100質量%となる温度が前記溶融ピーク温度+50℃以下となり、安定した連続印刷性、リフローはんだ付時のボイド発生の抑制及びフラックス残さのべとつき抑制効果を奏し得るものである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項3】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項4】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項5】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチルであることを特徴とする請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル及びセバシン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル及びセバシン酸ジオクチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のフラックス組成物。
【請求項8】
前記ベース樹脂(A)は(A-1)ロジン系樹脂及び(A-2)合成樹脂の少なくとも一方を含み、
前記合成樹脂(A-2)はアクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項9】
請求項2から請求項8のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項10】
前記はんだ合金粉末はAgを2質量%以上3.1質量%以下と、Cuを0質量%超1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、Biを0.5質量%以上4.5質量%以下と、Niを0.01質量%以上0.25質量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする請求項9に記載のソルダペースト組成物。
【請求項11】
前記はんだ合金粉末は更にCoを0.001質量%以上0.25質量%以下含むことを特徴とする請求項10に記載のソルダペースト組成物。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されたはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-14 
出願番号 特願2017-549359(P2017-549359)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B23K)
P 1 651・ 537- YAA (B23K)
P 1 651・ 57- YAA (B23K)
P 1 651・ 121- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 中澤 登
池渕 立
登録日 2018-07-06 
登録番号 特許第6363307号(P6363307)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 フラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板  
代理人 太田 洋子  
代理人 太田 洋子  
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