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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1368098
異議申立番号 異議2018-700936  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2020-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6329145号発明「金属めっき鋼帯」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6329145号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?23〕について訂正することを認める。 特許第6329145号の請求項6、9、10、13?15、17?23に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 特許第6329145号の請求項1?5、7、8、11、12、16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6329145号の請求項1?23に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2015-524570号)は、2013年(平成25年)7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)8月1日 オーストラリア(AU))を国際出願日とする出願であって、平成30年4月27日に特許権の設定登録がなされ、同年5月23日に特許掲載公報が発行されたところ、平成30年11月22日に特許異議申立人 赤澤正験(以下、「申立人」という。)から全請求項に係る特許に対して特許異議の申立て(甲第1号証?甲第3号証添付)がなされたものである。その後の経緯は以下のとおりである。

平成31年 1月31日 取消理由通知書
(起案日:平成31年1月28日)発送
令和 1年 5月 7日 訂正請求書及び意見書提出
(平成31年4月26日差出)
同年 6月18日 意見書(申立人)提出
同年 9月27日 取消理由通知書(決定の予告)及び審判審尋
(起案日:令和1年9月20日)発送
同年12月26日 訂正請求書、意見書(乙第1、2号証添付)
及び回答書提出
令和 2年 7月15日 審判審尋(起案日:令和2年7月13日)発送
同年 9月23日 回答書提出(乙第3号証添付)

なお、令和1年12月26日提出で訂正が請求されたことを申立人へ通知し、関連する書類を送付したが、申立人からは期限内に意見書の提出はなかった。

第2 訂正請求について
令和1年12月26日提出の訂正請求書に基づく訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたので、平成31年5月7日提出の訂正請求書に基づく訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
以下、本件訂正請求の適否について検討する。

1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6329145号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?23について訂正することを求める、というものである。

2.訂正事項
以下で、下線部は訂正箇所を、「・・・」は記載の省略を、それぞれ示す。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:30?60%;Si:0.3?3%;Mg:0.3?10%;ならびに残部がAl、および計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素、を含む」とあるのを、
「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなり、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?23も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、およびAlならびに不可避不純物が残部である組成を有し」とあるのを、
「前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成を有し」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?23も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「・・・不可避不純物が残部である組成を有し、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、・・・」とあるのを、
「・・・不可避不純物が残部である組成を有し、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、・・・」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?23も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項1の末尾に、
「・・・金属めっき鋼帯。」とあるのを、
「・・・前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶または前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす金属めっき鋼帯。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?23も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項6、9、10、13?15、17?23を削除する。
(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項6に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.3?2.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。」とあるのを、
「請求項1に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.3?2.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、
「請求項1?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が柱状晶および等軸晶の混合物を含む金属めっき鋼帯。」とあるのを、
「請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が柱状晶および等軸晶の混合物を含む金属めっき鋼帯。」と訂正する。
(8)訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項12に、
「請求項1?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が体心立方晶を含む金属めっき鋼帯。」とあるのを、
「請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が体心立方晶を含む金属めっき鋼帯。」と訂正する。
(9)訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項16に、
「請求項1?15のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきの露出面上の樹脂コーティングを含む金属めっき鋼帯。」とあるのを、
「請求項1?5、7?8および11?12のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきの露出面上の樹脂コーティングを含む金属めっき鋼帯。」と訂正する。

3.訂正の目的等について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
a)その1
上記訂正事項1は、「金属めっきを形成するための溶融合金」の構成について、訂正前の請求項1の「Zn:30?60%;Si:0.3?3%;Mg:0.3?10%」を、訂正後の請求項1の「Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%」に限定し、また、訂正前の請求項1の「計画的な合金添加物」を、訂正後の請求項1の「Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物」に限定することを含むので、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
b)その2
また、上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「ならびに残部がAl、および計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素、を含む」を「さらに、・・・計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなり、」と訂正することを含むものである。
これは、訂正前の請求項1では、「金属めっきを形成するための溶融合金」が、残部として「Al」、「計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素」以外の元素を含み得るのか否か明確でなかったものを、訂正後の請求項1では、「金属めっきを形成するための溶融合金」の残部が「Al」及び「不可避不純物」からなることを明らかにするものであるから、訂正事項1は「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「本件特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
a)その1について
「金属めっきを形成するための溶融Al-Zn-Si-Mg合金」の組成として、本件特許明細書【0042】及び訂正前の請求項23には、「Zn:35?50% Si:1.2?2.5% Mg 1.0?3.0%」を用い得ることが記載されている。
また、「溶融Al-Zn-Si-Mg合金の組成」として、同【0004】には、「溶融Al-Zn-Si-Mg合金の組成は、計画的な合金添加物または不可避不純物として溶融合金中に存在する他の元素を含んでもよい。 したがって、『Al-Zn-Si-Mg合金』という句は、他の元素、例えば計面的な合金添加物または不可避不純物を含む合金を網羅すると本明細書では理解される。他の元素は、例えば、Fe、Sr、CrおよびVの任意の1種以上を含んでもよい。」と記載され、同【0079】には「上記組成範囲の中間合金層を、・・・0?0.1%のCr、0?0.4%のMn、0?0.1%のVおよび0?0.1%のCaの範囲にわたる溶融合金浴組成を有する鋼試料上のAl-Zn-Si-Mg合金めっき・・・」と記載されている。
すると、「Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つ」を「計画的な合金添加物」とすることは、本件特許明細書に記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
b)その2について
上記a)から、「Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つ」が「他の元素」として「計画的な合金添加物」に含まれることは、本件特許明細書に記載されていたことであり、また、上記の【0004】の記載と、「不可避不純物」は当然に残部に含まれることから、「金属めっきを形成するための溶融合金」の残部がAlと不可避不純物からなると特定することは、新たな技術的事項を導入することにあたらないといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア、イの検討から、訂正事項1は、溶融合金の組成を規定する数値範囲を更に限定し、「計画的な合金添加物」を具体的な元素に特定し、「金属めっきを形成するための溶融合金」の残部が「Al」と「不可避不純物」からなることを明らかにするものにすぎないので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2は、「中間合金層」の組成に関して、訂正前の請求項1で「重量で、Znが4.0?12.0%、・・・Mgが0.02?0.50%、およびAlならびに不可避不純物が残部である」となっており、「Al」が必須成分の一つであるのに、その含有量が明らかでなかったのを、訂正後の請求項1で「重量で、Znが4.0?12.0%、・・・Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である」として、「Al」と「不可避不純物」が「残部」であることを明らかにしたものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2は、単に明瞭でない記載の釈明を行おうとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことも明らかである。

(3)訂正事項3
上記訂正事項3は、訂正前の請求項1に、「前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し」を加えて、「中間合金層」の厚さを限定しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、「中間合金層」の厚さとして、本件特許明細書【0022】及び訂正前の請求項6には、「前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有」するとの記載がなされていることから、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項4
上記訂正事項4は、訂正前の請求項1に、「前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶又は前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす」を加えて、「中間合金層」の構造及び組成を限定しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、「中間合金層」の厚さとして、本件特許明細書【0025】【0026】及び訂正前の請求項9、10には、「中間合金層は、めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶を含」み、「中間合金層は、めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含」むとの記載があり、また、訂正前の請求項13、14には、「中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)を満たす金属めっき鋼帯」及び「中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)を満たす金属めっき鋼帯」との記載があるので、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項5
上記訂正事項5は、訂正前の請求項6、9、10、13?15、17?23を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項6
上記訂正事項6は、訂正前の請求項7が訂正前の請求項6を引用し、訂正前の請求項6は訂正前の請求項1?5を引用していたところ、訂正前の請求項6が上記訂正事項5により削除されたために、訂正後の請求項7において直接に請求項1のみを引用するように限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(7)訂正事項7
上記訂正事項7は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1?8を引用していたところ、訂正前の請求項6が上記訂正事項5により削除されたために、訂正後の請求項11において被引用請求項を整合させるために、引用されない請求項6を削除して、被引用請求項が1?5及び7?8であることを明らかにしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(8)訂正事項8
上記訂正事項8は、訂正前の請求項12が訂正前の請求項1?8を引用していたところ、訂正前の請求項6が上記訂正事項5により削除されたために、訂正後の請求項12において被引用請求項を整合させるために、引用されない請求項6を削除して、被引用請求項が1?5及び7?8であることを明らかにしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(9)訂正事項9
上記訂正事項9は、訂正前の請求項16が訂正前の請求項1?15を引用していたところ、訂正前の請求項6、9、10、13?15が上記訂正事項5により削除されたために、訂正後の請求項16において被引用請求項を整合させるために、引用されない請求項6、9、10、13?15を削除して、被引用請求項が1?5、7?8および11?12であることを明らかにしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

3.一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?23について、訂正前の請求項2?23はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?23は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?23〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

4.特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件特許異議申立て事件においては、全ての請求項が特許異議申立ての請求の対象とされているので、上記訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

5.本件訂正請求についての結言
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?23〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
上記のように本件訂正請求が認められるので、特許第6329145号の請求項1?23に係る発明は、それぞれ、その訂正特許請求の範囲の請求項1?23に記載された以下のとおりのものである。以下、請求項の順に「本件発明1」?「本件発明23」といい、総称して「本件発明」ということがある。

【請求項1】
スチールストリップと、前記スチールストリップの少なくとも一つの面上の金属めっきとを含む金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si上張り合金層、および前記スチールストリップと前記上張り合金層との間の中間合金層を含み、前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成を有し、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶または前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす金属めっき鋼帯。
【請求項2】
請求項1に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.01?0.2%のCaを含む金属めっき鋼帯。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?3.0%のCrを含む金属めっき鋼帯。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?13.0%のMnを含む金属めっき鋼帯。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?2.0%のVを含む金属めっき鋼帯。
【請求項6】削除
【請求項7】
請求項1に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.3?2.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。
【請求項8】
請求項7に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.5?1.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。
【請求項9】削除
【請求項10】削除
【請求項11】
請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が柱状晶および等軸晶の混合物を含む金属めっき鋼帯。
【請求項12】
請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が体心立方晶を含む金属めっき鋼帯。
【請求項13】削除
【請求項14】削除
【請求項15】削除
【請求項16】
請求項1?5、7?8および11?12のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきの露出面上の樹脂コーティングを含む金属めっき鋼帯。
【請求項17】削除
【請求項18】削除
【請求項19】削除
【請求項20】削除
【請求項21】削除
【請求項22】削除
【請求項23】削除

第4 申立理由及び取消理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、訂正前の請求項1?23に係る特許に対して、以下の概要の特許異議申立理由(以下、「申立理由」という。)1-1、1-2、2、3-1、3-2、4を主張した。
これに対して当審は、取消理由として、それらの内の申立理由4を除く他の全ての申立理由を採用し、これに取消理由1-3を当審で追加して、平成31年1月28日付けで取消理由を通知した。
ここで、上記取消理由は、本件特許公報に記載された請求項に係る発明に対して通知されているので、当該発明を「請求項1に係る発明」のように記載する。

<申立理由(取消理由)1-1>(申立書8頁)
請求項1に係る発明は、溶融めっき浴の組成で特定されており、これは実質的に請求項1に係る発明がプロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームであるといえるから明確でなく、同発明を引用する請求項2?23に係る発明も明確でない。
したがって、請求項1?23に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由(取消理由)1-2>(申立書8?9頁)
請求項1に係る発明の中間合金層はZn、Si、Fe、Mg,Al以外は不可避的不純物しか含まないのに、請求項1に係る発明を引用する請求項2?5に係る発明の中間合金層は他の元素(Ca、Cr、Mn、V)を不可避的不純物としてではなく含む記載になっており、これは請求項1に係る発明と矛盾するから、請求項1に係る発明と請求項2?5に係る発明との関係が明らかでない。
したがって、請求項1?5に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<取消理由1-3>(当審で追加)
上記請求項1に係る発明の「計画的な合金添加物」について、本件明細書【0004】では「『Al-Zn-Si-Mg合金』という句は、他の元素、例えば計画的な合金添加物または不可避不純物を含む合金を網羅すると本明細書では理解される。他の元素は、例えば、Fe、Sr、CrおよびVの任意の1種以上を含んでもよい。」と記載されている。
しかし、それ以上の説明は本件特許明細書には見いだせず、「計画的な合金添加物」の請求項1に係る発明における機能や役割は不明であり、また、「Fe、Sr、CrおよびV」以外のものを含み得るのか否かも明らかでない。
したがって、「計画的な合金添加物」とは何であるのか不明であるので、請求項1に係る発明は明確でなく、同発明を引用する請求項2?23に係る発明も明確でないので、請求項1?23に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由(取消理由)2>(申立書9?13頁)
請求項1に係る発明の中間合金層は特定の組成範囲を有するが、当該特定の組成範囲を採用することにより、請求項1に係る発明の如何なる課題を如何なる理由で解決できるのかについて、本件特許明細書に記載がなく、当業者の技術常識からも明らかでない。
また、請求項2?15に係る発明,請求項17?23に係る発明の各発明特定事項についても、それらの技術的意義について明らかでなく、それらが本件発明の如何なる課題を如何なる理由で解決できるのかについて、本件特許明細書に記載がなく、当業者の技術常識からも明らかでない。
したがって、請求項1?15に係る発明,請求項17?23に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により裏付けられておらず、発明の詳細な説明に記載されたものでないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由(取消理由)3-1>(申立書13?14頁)
請求項1に係る発明の「金属めっきを形成するための溶融合金」に「計画的な合金添加物」が含まれる場合には、当然に中間合金層にも「計画的な合金添加物」は含まれるはずだが、請求項1に係る発明の「中間合金層」はZn、Si、Fe、Mg、Al以外は不可避的不純物しか含まないから、「計画的な合金添加物」を含むことはできない。
すると、請求項1に係る発明には、「金属めっきを形成するための溶融合金」に「計画的な合金添加物」が含まれるのに、「中間合金層」には「計画的な合金添加物」が含まれない「金属めっき鋼帯」が包含されることになる。
しかし、めっきによってそのような「金属めっき鋼帯」を製造できることについては、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆も無く、そのような技術常識も認められないから、通常は不可能と推測される。
請求項1に係る発明を引用する請求項2?23に係る発明についても同様である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項1?23に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由(取消理由)3-2>(申立書14?17頁)
請求項1に係る発明では、腐食性能に優れた「金属めっき鋼帯」を得るために、「中間合金層」を特定の成分組成とすることが特定され、当該特定の成分組成を得るために、「溶融合金浴の組成、溶融合金浴の温度、およびスチールストリップの溶融合金浴への浸漬時間の何れか1つ以上」の生成条件を「制御してスチールストリップとAl-Zn-Mg-Si上張り合金層との間に中間合金層を形成する」こと(本件明細書【0044】)が記載されている。
しかし、本件特許明細書中には、上記「生成条件」である「溶融合金浴の組成」「溶融合金浴への浸漬時間」「溶融合金浴の温度」について、「中間合金層の組成」を制御できる程度(請求項1に係る発明の組成範囲にある全ての「中間合金層」を得るための具体的な「溶融合金浴への浸漬時間」「溶融合金浴の温度」)までの記載は見いだせず、本件発明の特定成分の「中間合金層」を得るために、上記「生成条件」をどのように設定すればよいかは、本件特許明細書の記載からは明らかでないし、技術常識であるとも認められない。
請求項1に係る発明を引用する請求項2?23に係る発明についても同様である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明中には、請求項1?23に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由4>(申立書17?20頁、20?22頁、23頁)
請求項1に係る発明、請求項6?12に係る発明、請求項17?20に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、又は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1に係る発明、請求項6?12に係る発明、請求項17?20に係る発明に係る特許は取り消されるべきものである。
また、請求項23に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、又は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項23に係る発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2001/11100号
甲第2号証:特開2007-175975号公報
甲第3号証:Fe-Al 二元系合金相平衡図(出典: Binary Alloy Phase Diagrams Second Edition Volume 1 (1990,ASM International))
なお、以下で甲第1、2、3号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」と記すことがある。

第5 決定の予告における取消理由
当審は、上記「第4」のとおりの、平成31年1月28日付けで通知した取消理由のうち、取消理由1-3、2、3-1、3-2については、先の訂正請求書(令和1年5月7日提出)による訂正によっても解消していないと判断し、また、追加して通知すべき取消理由5、6を発見したので、これらを、以下に概要を記す予告取消理由1-3、2、3-1、3-2、5、6として、あらためて取消理由(決定の予告)として通知した。
ここで、上記予告取消理由は、先の訂正請求書(令和1年5月7日提出)により訂正された請求項に係る発明に対して通知されているので、本件訂正請求による訂正を基準として、当該発明を「訂正前発明1」のように記載する。
予告取消理由は、取消理由、申立理由を踏まえて記載不備を指摘したものであるが、その趣旨は以下の内容のものである。

1.予告取消理由1-3(特許法第36条第6項第2号)の趣旨
訂正前発明1の「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;ならびに残部がAl、およびCa、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素、を含み、」について、「不可避不純物」は不可避的に混入してしまうものであるのに、「Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素、を含み」という記載は「不可避不純物」を含まない場合を含むから、当該記載を含む訂正前発明1は明確でなく、本件出願は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、特許を受けることができないので、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。
訂正前発明1を直接又は間接的に引用する訂正前発明2?5、7、8、11、12、16についても同様である。

2.予告取消理由2(特許法第36条第6項第1号)の趣旨
ア 訂正前発明1の解決すべき課題は「めっき鋼帯の腐食性能を改善する」(【0012】)ことである。当該課題を解決する手段は、「めっき鋼帯」をめっきするためのプロセスとして、「スチールストリップを溶融Al-Zn-Si-Mg合金浴に浸漬することと、スチールストリップの露出面上に合金の金属めっきを形成することとを含み、溶融合金浴の組成、溶融合金浴の温度、およびスチールストリップの溶融合金浴への浸漬時間の何れか1つ以上を制御してスチールストリップとAl-Zn-Mg-Si上張り合金層との間に中間合金層を形成すること」(【0044】)と記載されている。

イ ここで、訂正前発明1は、上記課題の解決手段が反映された結果としての「金属めっき鋼帯」であるといえるが、同「金属めっき鋼帯」が製造できなければ、上記課題の解決手段が反映されているとはいえないから、同「金属めっき鋼帯」を製造できることが本件特許明細書に十分に記載されていなければ、当該反映された結果としての「金属めっき鋼帯」という発明も、また、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない、といえる。
そして、上記課題を解決できる「金属めっき鋼帯」が製造できるか否かは、上記解決手段である「所要の組成および好ましい結晶構造を有する中間合金層」(以下、「所要の中間合金層」という。)を形成するために、「溶融合金浴の組成」、「溶融合金浴の温度」、および「スチールストリップの溶融合金浴への浸漬時間」(以下、それぞれ「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」という。「浴組成」は訂正前発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成である。)の何れか1つ以上を、どのように制御すればよいのかということが、当業者が認識できるように本件特許明細書に記載されていることが必要といえる。

ウ しかし、「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」をどのように調整すればよいのかについて、例えば、特定の「浴組成A」に対して、「浴温度B℃」にして、「浸漬時間C秒」にすると、特定の成分組成Dを持つ「所要の中間合金層」が得られることについて、A、B、C、D間の関係を作用機序を説明することで明らかにした一般的な記載又は示唆は、本件特許明細書中に見いだせない。

エ 次に、実験例から、「所要の中間合金層」を得るための「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」の調整について示唆されないかについて検討する。
本件特許明細書には、【0061】?【0066】(図2)、【0067】?【0069】(図3)、【0070】?【0072】(図4)、【0073】?【0075】(図5)、【0081】(図6)、【0082】(図7)、【0083】(図8)、【0084】(図9)が、実験例として記載されている。
しかしながら、いずれの実験例においても、「浴組成」がMAZ(53Al?43Zn?2Mg?1.5Si?0.45Fe?付随的不純物)(【0058】)あるいはそれに類するものを用いており、それらは組成中に「Fe」を含むものであるところ、「浴組成」において「Fe」が必須成分であるとすると、それらの組成は訂正前発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成からはずれることになり、本件特許明細書には訂正前発明1の実施例の記載がないことになるので、実験例からも「所要の中間合金層」を得るための「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」の調整について示唆されないといえる。

オ 以上のように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「所要の組成および好ましい結晶構造を有する中間合金層」を形成するために、「溶融合金浴の組成」、「溶融合金浴の温度」、および「スチールストリップの溶融合金浴への浸漬時間」の何れか1つ以上を、どのように制御すればよいのかについて、一般的に作用機序をもって説明する記載も、また、実験例も、見いだすことはできない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、訂正前発明1が当該課題を解決できると当業者が認識できる程度の記載があるとも、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らして課題を解決できると認識できるものともいえず、訂正前発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、訂正前発明1に係る請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件出願は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができないので、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?5、7、8、11、12、16についても同様である。

3.予告取消理由3-1、3-2(特許法第36条第4項第1号)の趣旨
上記「2.予告取消理由2」でみたように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「所要の中間合金層」を形成するために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」をどのように制御すればよいのかについて、一般的に作用機序をもって説明する記載も、また、実験例も、見いだすことはできない。
すると、「金属めっき鋼帯」の製造に当たり、「所要の中間合金層」を形成するために、それらの3条件をどのように制御すればよいのか明らかでないから、「所要の中間合金層」を持つ「金属めっき鋼帯」を製造することができない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前発明1?5、7、8、11、12、16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。

4.予告取消理由5(特許法第36条第4項第1号)の趣旨
中間合金層は溶融合金を金属めっきすることで形成されるものであるから、その組成は溶融合金組成に直接影響されるはずだが、中間合金層組成には「Feが20.0?40.0%」含まれているのに、溶融合金の組成に「Fe」は含まれないことが特定事項とされている。
しかし、「Fe」は、中間合金層組成において「Al」を除く最大量の成分であって、地金である「スチールストリップ」に含まれる「Fe」が供給源だとしても多すぎる量であるように考えられ、また、中間合金層組成が「Feが20.0?40.0%」を含むようにするために、どのようにめっき工程を操作するのかも見いだせない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前発明1?5、7、8、11、12、16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。

5.予告取消理由6(特許法第36条第4項第1号、同条第6項第2号)の趣旨
訂正前発明1における「前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす」という特定事項について、
上記特定事項は、Al、Zn、SiおよびFeが「Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)」又は「Fe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)」という合金を生成していると考えられるが、中間合金層は有効成分として「Mg」も含むし、また、溶融合金が「Ca、Cr、MnおよびV」のいずれかを含み得るので、中間合金層もそれらの何れかを含むはずで、「中間合金層」は、Al、Zn、Si、Fe、Mgを含み、「Ca、Cr、MnおよびV」のいずれかを含み得る合金として存在すると考えられるが、「Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)」又は「Fe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)」は少なくともMgを含んでいない。
そして、発明の詳細な説明には、「溶融合金」がAl、Zn、Si、Fe、Mgを含み、「Ca、Cr、MnおよびV」のいずれかを含み得るから、中間合金層はそれら全体の合金の形で生成するはずなのに、「Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)」又は「Fe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)」の形で生成するようにするために、どのようにめっき工程を操作するのかを見いだせない。
したがって、訂正前発明1は明確でなく、また、発明の詳細な説明は、当該操作について記載を見いだせず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえない。
よって、上記特定事項を含む訂正前発明1は明確でなく、本件出願は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?5、7、8、11、12、16についても同様である。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前発明1?5、7、8、11、12、16の実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本件出願は特許を受けることができず、本件出願に係る特許は取り消されるべきものである。

第6 予告取消理由に対する判断
本件訂正請求により訂正された本件発明1?5、7、8、11、12、16(本件発明6、9、10、13?15、17?23は削除)について、上記各予告取消理由がなお維持されるのかを以下で検討する。
ここで、先の訂正請求書(令和1年5月7日提出)による訂正は、本件訂正請求による訂正と、維持された請求項と削除された請求項が一致するので、上記予告取消理由において「訂正前発明」を「本件発明」と読み替えれば、上記予告取消理由は、本件訂正請求により訂正された本件発明に対するものとなるので、本件発明に対する予告取消理由の趣旨は上記第5を参照のこと。

1.本件発明について
ア 本件訂正請求と同時に提出された意見書等を参酌しても、本件発明の「浴組成」における「Fe」が計画的な合金添加物か不純物かが明らかでなかったので、審尋(令和2年7月13日起案)したところ、令和2年9月23日提出の回答書1?3頁で「Fe」は不純物である旨の回答がなされた。

イ 当該回答の概要は以下のとおりである。
本件特許明細書【0004】の記載からは、本件発明の「浴組成」における「Fe」が必須元素か不純物か明らかでない。
しかし、同【0058】には、実験に用いられる3種類の「浴組成」として「AZ:55Al-43Zn-1.5Si-0.45Fe-付随的不純物」、「MAZ:53Al-43Zn-2Mg-1.5Si-0.45Fe-付随的不純物」、「MAZ+0.1重量%のCr-付随的不純物」(以下、「MAZCr」と記載する。)が記載され、「AZ」は従来例であり、「MAZ」「MAZCr」は本件発明の実施例であることを意図するもので「Mg」と少量の「Fe」を含み、「MAZCr」はさらに「Cr」を含むものであり、例えば図2、【0066】から、「Mg」「Cr」が従来例(浴組成「AZ」)に対して、耐腐食性が優れることが理解されるが、「Fe」について言及されておらず、他の図とその記載についても同様である。
また、本件発明の「中間合金層」は、「スチールストリップ」が「浴組成」に浸漬されて形成されるが、その組成が「Feが20.0?40.0%」にもなるのは、「Fe」が「スチールストリップ」からくるもので、「浴組成」のものでないことは、例えば図6、【0081】に、「浴組成」が「MAZ」(Fe:0.45%)なのに、「中間合金層」の「Fe」が「32.1%」にもなることから裏付けられるものといえる。
以上を総合すると、本件発明の「浴組成」における「Fe」は計画的な合金添加物ではなく不純物であるといえる。

ウ 当審として上記回答内容は首肯し得るものであり、また、そのように理解することで、本件特許明細書に記載の実験例は全て本件発明の実施例についてのものと理解できるので、本件発明の「浴組成」における「Fe」は不純物であると認める。

エ すると、本件特許明細書に記載の各実験例に用いられる「浴組成」において、「MAZ」、「MAZCr」等は本件発明の「浴組成」であるので、同各実験例から、本件特許明細書には以下a)?h)のことが記載されているものと理解でき、それらのことを本件発明は特徴として有するものといえる。
なお、各実験例で、「125」、「150」は「両面めっき質量[g/m^(2)](【0059】)、「MCL」は本件特許権者のウロンゴン(オーストラリア南東部)本部の金属めっきライン、「HDPS」は本件特許権者のウロンゴンにある研究施設の溶融プロセスシミュレータで、「溶融金属ポット炉、赤外線加熱炉、ガスワイピングノズル、脱ドロス機構、ガス混合および露点管理機能、ならびにコンピュータ化自動制御システムを含」み「従来の金属めっきラインで典型的な溶融サイクルをシミュレートすることができる」(【0059】)もので、両者は実験設備としてほぼ同等であり、「金属めっき鋼帯」のめっき工程操作について差異はないと認められる。

a)図2、【0066】には、「Q-Fog寿命」(「鋼帯」の耐食性)について、「MCL AZ150」<「MCL MAZ125」<「HDPS MAZ125」<「HDPS MAZ+0.1%Cr」のようになっていることがみてとれ、「MCL AZ150」<「MCL MAZ125」については、「浴組成」の「Mg」が原因しており、「HDPS MAZ125」<「HDPS MAZ+0.1%Cr」については、浴組成の「Cr」が原因しているといえる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「浴組成」が「Mg」または「Cr」を含むと「鋼帯」の耐腐食性を向上させることが記載されているものと理解できる。

b)図3、【0067】?【0069】には、「Q-Fog寿命」について、「MCL AZ150」<「 MCL MAZ125」になっていることがみてとれる。これは、「Q-Fog寿命」に対して、「両面めっき質量」の量の影響よりも「Mg」が添加されている影響の方が大きく影響するものといえる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「浴組成」が「Mg」を含むと、「両面めっき質量」よりも、「鋼帯」の耐腐食性を向上させることが記載されているものと理解できる。

c)図4、【0070】?【0072】には、「Q-Fog寿命」について、「MCL MAZ125」<「HDPS MAZ125」になっていることがみてとれる。これは、【0072】から、溶融合金への「スチールストリップ」の「浸漬時間」について、「MCL MAZ125」(1.0秒間)<「HDPS MAZ125」(2.5秒間)であるため、「中間合金層」の厚さが「MCL MAZ125」<「HDPS MAZ125」であるためとされる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「浸漬時間」が長いと「中間合金層」が厚くなり、「鋼帯」の耐腐食性を向上させることが記載されているものと理解できる。

d)図5、【0075】には、「Q-Fog寿命」について、「HDPS MAZ125」<「HDPS MAZCr125」になっていることがみてとれる。これは「HDPS MAZCr125」の中間合金層中のCrがこの試料の耐食性改善に寄与したことが原因とされる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「浴組成」が「Cr」を含むと「鋼帯」の耐腐食性を向上させることが記載されているものと理解できる。

e)図6、【0081】には、「浴組成」を「MAZ」、「浸漬時間」を「1秒」として、浴温度を600℃と620℃の2種類でめっきした場合に、「中間合金層」の組成が次のように異なり、Q-Fog寿命の質量損失について、600℃の場合(中間合金層の組成が本件発明に合致)よりも620℃の場合の方が多くなっていることがみてとれる。

したがって、これらのことから、本件発明において、「浸漬温度」は「中間合金層」の組成を変化させることが記載されているものと理解できる。

f)図7、【0082】から、「同一の溶融プロセス条件(600℃のポット温度で1秒の浸漬時間)」で、得られた金属めっき鋼帯の試料の中間合金層の質量と、「浴組成」中の「Mg」「Si」の濃度のグラフにおいて、「中間合金層」の質量が、「浴組成」中の「Mg」「Si」濃度が増加するにつれて減少したことがみてとれる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「Mg」または「Si」の濃度が多いほど中間合金層の質量が小さくなるという相関関係があることが記載されているものと理解できる

g)図8、【0083】から、「浴組成」が「本発明によるCaを含むAl-Zn-Si-Mg合金」(以下、「AMCa」という。)と他の二つの既知の合金に対して、「平方根浸漬時間(秒^(1/2))」と「合金層厚さ(μm)」(「中間合金層の厚さ」)との間に線形の関係にあることがみてとれる。
したがって、これらのことから、本件発明において、「中間合金層厚さ(μm)」は「平方根浸漬時間(秒^(1/2))」と線形の関係にあることが記載されているものと理解できる。

h)図9、【0084】から、金属めっき鋼帯試料のめっきの「中間合金層」厚さと試料上のめっきの「上張り合金層」の厚さのグラフにおいて、「中間合金層」厚さが、「上張り合金層」厚さとともに増加する相関関係を見て取ることができる。
したがって、これらのことから、本件発明において、均一な腐食性能を維持するためにはめっき鋼帯全体の表面にわたるめっき質量変動を最小化することが望ましいということが記載されているものと理解できる。

2.予告取消理由1-3(特許法第36条第6項第2号)について
訂正前発明1の「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;ならびに残部がAl、およびCa、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物もしくは不可避不純物としての他の元素、を含み、」は、本件訂正請求により、
本件発明1の「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなり、」と訂正され、
「金属めっきを形成するための溶融合金」が「不可避不純物」を含むものであることが明らかになったので、予告取消理由1-3は解消された。

3.予告取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 上記「第5 2.ア?オ」でみた予告取消理由2の趣旨は、要するに、本件特許明細書には、「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」をどのように調整するか明示的に記載した箇所を見いだせず、また実験例において「浴組成」が全て「Fe」を必須成分として含むので、それらの実験例は本件発明の浴組成にあたらず、それら実験例は本件発明の実施例とはいえないのに、それらの調整の結果としての「金属めっき鋼帯」を特定する本件発明は、サポート要件に違反するというものである。

イ これに対して、令和2年9月23日提出の回答書5?6頁では、たしかに本件特許明細書には「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」をどのように調整するか明示的に記載した箇所はないかもしれないが、本件発明のめっきは、標準的なプロセスで形成されるものであり、プロセスの条件を適宜設定して行い得るものであり、その設定において当業者に過度の試行錯誤を強いるものではなく、サポート要件を欠くものではない旨説明する。
また、証拠として次の乙1?3号証と参考資料1が提出された。

<証拠方法>
○乙第1号証(令和1年12月26日提出意見書添付)
Declaration of Nega Setargew
○乙第2号証(令和1年12月26日提出意見書添付)
2^(ND) Declaration of Nega Setargew
○乙第3号証(令和2年9月23日提出回答書添付)
The Role of Aluminum in Continuous Hot-Dip Galvanizing、GalvInfoNote2.4、REV1、JAN 2019
○「2003年の製品情報ノート」
平成29年11月24日付け意見書(審査段階)に添付されたもの。平成31年4月26日差出意見書10頁で特許権者が言及。

ウ 以下検討する。
まず、本件発明は、本件特許明細書の図1、【0048】?【0056】に記載される「連続製造ライン」で製造されるものである。
なお、以下の記載において、甲第1号証の記載事項は「第7 3.3-1.(1)」に、甲第2号証の記載は「第7 3.3-2.(1)」に、それぞれ後記するものである。
甲第1号証の記載事項タには「鋼板」のめっきについて「通常の熱延、冷延工程を経た冷延鋼板(板厚 0.8mm) を材料として、溶融Zn-Al-Mg-Siめっきを行った。めっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し、めっき後ガスワイピング法でめっき付着量を調節し、その後冷却し、ゼロスパングル処理を施しめっき浴の組成を種々変えて試料を製造し」たことが記載され、甲第2号証の記載事項ネには「鋼板」のめっきについて「溶融金属浴に、基材となる鋼板を浸漬させる等の公知の手段を用いる」ことで行うことが記載されている。
すると、本件特許明細書の図1の「連続製造ライン」は、鋼板をめっきするのに用いられるであろう通常の構造を有するであろうことがみてとれ、例えば、「還元炉」を含む「炉アセンブリ5」、「めっき厚さを調整するガスワイピングステーション」(【0053】)なども備えることから、甲第1号証に記載されるめっき装置に準じる構造であることが理解され、そのような通常のめっき装置が公知であることが甲第2号証の上記記載として現れているといえる。

エ そして、上記「1.」で検討したように、本件発明の「浴組成」は「Fe」を必須成分としてではなく不純物として含むことが明らかになったので、本件特許明細書に記載の実験例も本件発明の「浴組成」についての実験であることが明らかになったことから、本件発明は上記「1.エ a)?h)」の特徴を有するものといえる。

オ すると、そのような標準的な「連続製造ライン」で製造されるに際し、「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」の調整にあたり、上記エの「1.エ a)?h)」の特徴が知られていれば、それらの調整は適宜設定して行い得るものであり、それらの設定において当業者に過度の試行錯誤を強いるものとまではいえない。

カ そして、上記オのようにして「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」を適宜調整して「所要の中間合金層」を得る本件発明は、「めっき鋼帯の腐食性能を改善する」(【0012】)という発明の詳細な説明に記載された課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものではないといえる。

キ 以上から、本件発明は、出願時の技術常識に照らして本件出願の発明の詳細な説明に開示されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきでなく、予告取消理由2は解消された。

4.予告取消理由3-1、3-2(特許法第36条第4項第1号)
上記「3.」でみたように、「金属めっき鋼帯」の製造に当たり、標準的な「連続製造ライン」で「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」の調整するに際して、上記エの「1.エ a)?h)」の特徴が知られていれば、それらの調整は適宜設定して行い得るものであり、それらの設定において当業者に過度の試行錯誤を強いるものとまではいえないし、特に図6、【0081】には、「所要の中間合金層」を得るために、「浴組成」、「浴温度」、「浸漬時間」の具体例が記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の規定に適合し、本件出願に係る特許は取り消されるべきものでないので、予告取消理由3-1、3-2は解消された。

5.予告取消理由5(特許法第36条第4項第1号)について
令和2年9月23日提出の回答書21?23頁の記載を踏まえると、【0081】(図6)の実験例では「溶融合金」(浴組成)として「MAZ(53Al?43Zn?2Mg?1.5Si?0.45Fe?付随的不純物)」(【0058】)を用いて、浴温度600℃、浸漬時間1秒のときに、中間合金層の組成は「Fe 32.1%」を含むものであり、上記「3.」での検討から「溶融合金」(浴組成)の「Fe」は不純物であるから、同実験例は、溶融合金の組成に不純物としてしか「Fe」は含まれないが、それを用いて形成された中間合金層組成は「Feが20.0?40.0%」を含むことを裏付けるものといえる。
よって、溶融合金の組成に不純物としてしか「Fe」は含まれないものを用いたときに、中間合金層組成が「Feが20.0?40.0%」を含むようにめっきを行うのが可能であることが裏付けられたので、予告取消理由5は解消した。

6.予告取消理由6(特許法第36条第4項第1号、同条第6項第2号)について
令和2年9月23日提出の回答書24?25頁には、本件発明1における「前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす」という特定事項は、合議体の予告取消理由での見解である「中間合金層」そのものの組成を示すものではなく、「中間合金層」の「Al、Zn、SiおよびFe」の含有比率(濃度)を示すものであるとの主張がなされ、合議体もこれを首肯できるので、予告取消理由6は解消された。

第7 予告取消理由としなかった申立理由についての判断
予告取消理由としなかった申立理由(取消理由)1-1、申立理由(取消理由)1-2、及び申立理由4について、以下に判断を示す。

1.申立理由1-1について
(1)申立理由1-1の趣旨
本件訂正請求によっても、請求項1では「金属めっきを形成するための溶融合金」を特定し「金属めっき鋼帯」の構造または特性を直接特定しないところ、当該特定の「溶融合金」に「スチールストリップ」を浸漬してはじめて当該「金属めっき鋼帯」の構造または特性が生成されるものである。
つまり、当該「金属めっき鋼帯」の構造または特性が生成されるためには、当該特定の「溶融合金」に浸漬するという時間的経過が必要である。
すると、「金属めっき鋼帯」の構造または特性を直接特定せずに、「金属めっきを形成するための溶融合金」の特定で代えることは、実質的に「製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合」にあたるといえる。
すなわち、「金属めっき鋼帯」という物の発明である本件発明1が、実質的にその物の製造方法で特定されているといえるから、本件請求項1の記載はいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームにあたるので、本件発明1及び同発明を引用する1?5、7、8、11、12、16は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
一般に、金属めっきを形成するための溶融合金(めっき浴)の組成と金属めっきの組成はほぼ一致する。(例えば、甲第2号証の記載事項ネを参照。)。
本件発明1においても、「Al-Zn-Mg-Si上張り合金層」は、「金属めっきを形成するための溶融合金」と実質的に同じ成分組成となるから、「金属めっきを形成するための溶融合金」を特定することで、方法的ではあっても「Al-Zn-Mg-Si上張り合金層」は実質的に「物」として特定されるので、本件発明1は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないとまではいえず、申立理由1-1は採用できない。

2.申立理由1-2について
(1)申立理由1-2の趣旨
本件発明1の中間合金層はZn、Si、Fe、Mg,Al以外は不可避的不純物しか含まない。
しかし、本件発明1を引用する本件発明2?5の中間合金層は他の元素(Ca、Cr、Mn、V)を不可避的不純物としてではなく含む記載になっており、これは、他の元素を不可避的不純物以外に含まない本件発明1と矛盾するから、本件発明1と本件発明2?5との関係が明らかでない。
したがって、本件発明1?5は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
一般に、合金は、成分組成が異なれば別合金であるところ、本件発明2?5は本件発明1を直接又は間接的に引用した上で「前記中間合金層が、重量で(Ca、Cr、Mn、V)を含む」と規定しており、これは本件発明1の「前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成」とは別の「Ca、Cr、Mn、V」を含む新たな中間合金層の組成であることを示すものであり、単に本件発明1を引用する形式で記載されているにすぎないとして理解されるので、本件発明1と実質的に矛盾するものではなく、本件発明1?5は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないとまではいえず、申立理由1-2は採用できない。

3.申立理由4について
以下、申立理由4について検討する。

3-1.甲第1号証を主引例とする場合
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には次の記載がある。

記載事項サ
(3頁2?5行)本発明は、Zn-Al系めっきに添加するMg並びにSiの含有量、更には耐食性を向上させる作用のあるMg_(2)Si相の析出量・析出形態を制御することで、耐食性に優れたZn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板およびその製造方法を提供するものである。

記載事項シ
(3頁下から7?1行)質量%で Al:45%以上70%以下 Mg:1%以上5%未満 Si:0.5%以上3%未満を含有し、 残部がZnおよび不可避不純物からなり、 かつ、 Al/Zn:0.89?2.75を満たし、さらに、めっき層中に鱗片状Mg_(2)Si相を含むことを特?とする耐食性に優れたZn-Al-Mg-Si合金めっき鋼材。

記載事項ス
(5頁下から6?5行)図4を以下に示す。図4中の参照数字は、7頁17行?8頁7行の記載から、次のものを指示している。
「1」:「Al富有樹枝状相」、「2」:「Zn富有樹枝状相2」、「3」:「塊状Mg_(2)Si相」、「4」:「Zn-Mg系金属間化合物であるMgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11)」、「5」:「鱗片状Mg_(2)Si相」、「6」:「Fe-Al系合金層」、「7」:「地鉄鋼板」

記載事項セ
(6頁1?10行)・・・(以下、合金組成における元素の添加量の%は特に断らない限り質量%である。)・・・Mg添加量と共に耐食性は向上するが、めっき層中Siが3%未満の場合にはMgを5%以上添加しても耐食性向上効果は飽和する。この理由は、Mg添加量が5%未満では添加したMgが鱗片状Mg_(2)Si相として析出するが、Mg添加量が5%以上になるとMg_(2)Zn、Mg_(2)Zn_(11)相として析出するためと推定される。

記載事項ソ
(10頁11?19行)また本発明によるZn-Al-Mg-Si合金めっきは、In:0.01?1%、Sn: 0.1?10%、Ca:0.01?0.5%、Be:0.01?0.2%、Ti:0.01?0.2%、Cu:0.1?1.0%、Ni:0.01?0.2%、Co:0.01?0.3%、Cr:0.01?0.2%、Mn:0.01?0.5%、Fe: 0.01?3.0%, Sr:0.01?0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とするものである。ln,Sn, Ca, Be, Ti, Cu, Ni, Co, Cr, Mn, Fe, Srの1種または2種以上の元素を添加する目的は、めっき耐食性を更に向上させるためであり、これらの元素を添加することでめっき表層に生成する皮膜の不動態化をさらの促進するためと考えられる。

記載事項タ
(12頁13?25行)実施例 (実施例1及び比較例1) 通常の熱延、冷延工程を経た冷延鋼板(板厚 0.8mm) を材料として、溶融Zn-Al-Mg-Siめっきを行った。めっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し、めっき後ガスワイピング法でめっき付着量を調節し、その後冷却し、ゼロスパングル処理を施しめっき浴の組成を種々変えて試料を製造し、その特性を調査した。なお、浴中には浴中のめっき機器やストリップから供給される不可避的不純物として、Feが1?2%程度含有されていた。浴温は600?650℃とした。 得られためっき鋼板はめっき剥離し化学分析法でめっき組成と付着量を測定すると同時に、5°傾斜研磨後、光学顕微鏡でめっき組織を観察した。同時に下記方法にて耐食性、加工性、溶接性を評価した。その結果を表1に示す。

記載事項チ
表1(15頁)を以下に示す。

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 記載事項サ、シから、甲1には、「質量%で Al:45%以上70%以下 Mg:1%以上5%未満 Si:0.5%以上3%未満を含有し、 残部がZnおよび不可避不純物からなり、 かつ、 Al/Zn:0.89?2.75を満たし、さらに、めっき層中に鱗片状Mg_(2)Si相を含むことを特?とする耐食性に優れたZn-Al-Mg-Si合金めっき鋼材。」について記載されている。

イ 記載事項タから、同「めっき鋼材」は、「溶融Zn-Al-Mg-Si」を成分とする「めっき浴」で冷延鋼板がめっき付けされて製造されるものであり、「溶融Zn-Al-Mg-Si」の具体的組成として、記載事項チの表1から、「Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%」(本件発明1)の範囲で含み、「耐食性」の高いものとして「No.29」に着目すると、そのめっき成分は「Zn:35.9%」「Si:2%」「Mg:3%」「Fe:1.1%」「Al:58%」(記載事項セから、「%」は「質量%」)を含むものである。
そして「No.29」は「Al/Zn=1.62」である。

ウ また、記載事項ソから、「溶融Zn-Al-Mg-Siめっき」は「めっき耐食性を更に向上させる」ために、「Ca」「Cr」「Mn」を1種または2種以上含有し得るものである。

エ さらに、記載事項セに「めっき層中Siが3%未満の場合にはMgを5%以上添加しても耐食性向上効果は飽和する。この理由は、Mg添加量が5%未満では添加したMgが鱗片状Mg_(2)Si相として析出する」とあることから、上記「No.29」の鋼材の断面図は、記載事項スの図4であるといえる。
そして、記載事項スの図4から、上記「めっき鋼材」は、「地鉄鋼板7」上に、「Fe-Al系合金層6」の層と、その上に、「Al富有樹枝状相1」、「Zn富有樹枝状相2」、「MgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11) 4」、「鱗片状Mg_(2)Si相5」を有する層状の層と、を有することが見てとれる。

オ 以上から、本件請求項1(本件発明1)の記載に則して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷延鋼板と、その面上にめっき層を含む合金めっき鋼材であって、
前記めっき層は、Al富有樹枝状相、Zn富有樹枝状相、MgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11)、鱗片状Mg_(2)Si相とを有する層状の層、および前記冷延鋼板と前記層状の層との間のFe-Al系合金層と、を含み、
前記めっき層を形成するためのめっき浴の溶融Zn-Al-Mg-Siが、
質量%で以下の範囲の元素:Zn:35.9%、Si:2%、Mg:3%:さらにCa、Cr、Mnを1種または2種以上含有し得るものであって、残部がAlおよびFe:1.1%からなり、かつ、 Al/Zn=1.62で、めっき層中に鱗片状Mg_(2)Si相を含む、耐食性に優れた合金めっき鋼材。」

(3)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「冷延鋼板」「めっき層」「合金めっき鋼材」は、それぞれ「スチールストリップ」「金属めっき」「金属めっき鋼帯」に相当する。
また、甲1発明の「めっき層を形成するためのめっき浴の溶融Zn-Al-Mg-Si」は本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」に相当する。
さらに、本件発明1は本件特許明細書【0057】等から「金属めっき鋼帯の腐食性能を改善する」ものだから、甲1発明の「耐食性に優れた合金めっき鋼材」は本件発明1の「金属めっき鋼帯」に包含される。

イ 本件特許明細書【0069】には、図3の本件発明の「金属めっき鋼帯」の断面を示すSEM後方散乱電子像において、「上張り合金層11と、スチールストリップ13(図では「ベース鋼」と呼ぶ)と上張り層11との間の中間合金層12(この図および他の図では「合金層」と呼ぶ)とを含むことを示している。中間合金層は、溶融合金浴中の元素およびスチールストリップから形成された金属間層である。グラフは、中間層も腐食性能の差に寄与したかもしれないが、MAZ合金めっき試料が、おそらくはMAZ合金めっき上張りの微細構造中のAl/Zn/MgZn_(2)共晶およびMg_(2)Si相の存在に起因する、AZ合金めっき試料よりも有意に長いQ-Fog寿命、それゆえに有意に優れた耐食性を有したことを示している。」と記載されているが、図3が不鮮明で当該記載内容が確認できない。
そこで当審は、本件発明の「金属めっき鋼帯」の「金属めっき」の構造状態について審尋した(令和1年9月20日起案)ところ、以下に示す本件発明の「金属めっき鋼帯」の断面図(令和1年12月26日提出の回答書に添付)が提出され、同図(以下、この図を「本件構造図」という。)に示されるように「金属めっき」の構造状態が明らかになり、上記【0069】の記載内容が確認できたものである。


ウ そして、本件構造図と、甲1の記載事項スの図4を比較すると、両者は略同様のめっき構造を有するといえるものであり、甲1図4の「Fe-Al系合金層6」「MgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11) 4」「鱗片状Mg_(2)Si相5」「Al富有樹枝状層1」「Zn富有樹枝状層2」は、本件構造図のそれぞれ「Alloy Layer」「MgZn_(2)」「Mg_(2)Si」「α-Al」「β-Zn」に対応することからみて、甲1発明の「Al富有樹枝状相、Zn富有樹枝状相、MgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11)、鱗片状Mg_(2)Si相とを有する層状の層」「Fe-Al系合金層」は、本件発明1のそれぞれ「Al-Zn-Mg-Si上張り合金層」「中間合金層」に相当するものといえる。

エ さらに、上記した本件発明1における記載不備の検討で明らかになったように、本件発明1において、「Fe」は「金属めっきを形成するための溶融合金」における「不可避不純物」であるから、甲1発明の「Fe:1.1%」は、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。

オ 以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
<一致点>
「スチールストリップと、前記スチールストリップの少なくとも一つの面上の金属めっきとを含む金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si上張り合金層、および前記スチールストリップと前記上張り合金層との間の中間合金層を含み、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、Mnから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなる、金属めっき鋼帯。」
<相違点1>
「中間合金層」について、
本件発明1では、「中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成を有し、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し」(以下、「特定事項A」という。)、「前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶または前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす」(以下、「特定事項B」という。)のに対して、
甲1発明では、「Fe-Al系合金層」の厚さ、同層を構成する各元素間の成分組成、成分濃度、結晶構造とその大きさについて不明な点。

<相違点2>
Al/Znの比について、本件発明1では特定されないが、甲1発明では1.62である点。

(4)相違点の検討
ア 事案に鑑み相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明の「Fe-Al系合金層」の特定事項A、Bに相当する同層の厚さ、同層を構成する各元素間の成分組成、成分濃度、結晶構造とその大きさについて記載されていない。

イ そこで、本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成と、甲1発明の「めっき層を形成するためのめっき浴の溶融Zn-Al-Mg-Si」の組成が一致するので、「金属めっき」(「めっき層」)を形成する製造条件が一致するなら、本件発明1と甲1発明とは同じものが製造されているはずであり、甲1発明も特定事項A、Bに相当する構成を有するものといえるので、検討する。

ウ 本件発明1については、本件特許明細書中に本件発明1の概括的な製造方法は記載がないが、上記した本件発明1における記載不備の検討で明らかになったように、一般的な鋼帯へのめっき方法において、「溶融Al-Zn-Si-Mg」の組成、「ストリップの浸漬時間」、「めっきポット時間」を、当業者に過度の試行錯誤を強いることなく調整して、所期の「金属めっき鋼帯」を得られるものであり、具体例として、【0081】(【図6】)に、
a)本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成に相当するMAZに、600℃、1秒間で浸漬した場合には、中間合金層の組成が本件発明1の組成となる「金属めっき鋼帯」が製造され(【0081】には「610℃」と記載されるが「600℃」の誤記と認められる。)、
b)同じくMAZ組成の溶融合金に、620℃、1秒間で浸漬した場合には、中間合金層の組成が本件発明1の組成とならない「金属めっき鋼帯」が製造されることが記載されている。

エ 一方、甲1発明については、記載事項タから、一般的な鋼帯へのめっき方法において、上記の「No.29」で、「めっき浴」の「溶融Zn-Al-Mg-Si」(Zn:35.9%、Si:2%、Mg:3%、本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成に相当)に、580℃(記載事項チ)で浸漬することは記載されているが、浸漬時間は明示されていない。

オ すると、少なくとも甲1発明においては、本件発明1と同じ組成である「めっき浴」の「溶融Zn-Al-Mg-Si」について、浸漬する温度が異なり、浸漬時間について不明なものである。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは同じものが製造されているものとはいえず、甲1発明も特定事項A、Bに相当する構成を有するものとはいえないし、浸漬温度と浸漬時間について当業者が容易に想到し得るものともいえない。
また、甲2には、後述するように、浸漬温度、浸漬時間は記載されるが、「溶融金属浴」の組成が甲1発明とは異なるので、甲1発明に適用する動機付けがなく、甲3にはFe-Al合金の状態図が示されるのみである。

カ 以上から、上記相違点は実質的なものであり、相違点に係る特定事項A、Bについて当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2?5、7、8、11、12、16についても同様である。
なお、申立人は、甲第1号証に記載された発明を、甲1の表1のNo.11に基づき認定するが、No.11の「めっき層を形成するためのめっき浴の溶融Zn-Al-Mg-Si」は、Zn:44.9%、Mg:3%、Si:1%の組成であり、本件訂正により本件発明1では「Si:1.2?2.5%」と訂正され、Siの含有量の点ですでに本件発明1とは相違するから、No.11に基づく申立人が申立書で述べた推論は採用できない。

3-2.甲第2号証を主引例とする場合
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には次の記載がある。

記載事項ナ
【請求項1】25?75重量%のアルミニウムと、0.01?5.0重量%のマグネシウムと、アルミニウムの含有量に対して0.5重量%以上のケイ素とを含有する亜鉛-アルミニウム合金めっき層が形成された亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に、ガラス繊維を含有する塗膜を設け、この塗膜の外層に、環状脂肪族多塩基酸と脂肪族多価アルコールとから成り、且つ芳香族成分を含まないポリエステル樹脂と、紫外線吸収剤及び光安定剤のうち少なくとも一方とを含むクリア塗膜を設けたことを特徴とする塗装亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板。

記載事項ニ
【0003】このような亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板は、特許文献1として提供されている。この特許では、25?75重量%のアルミニウムと、アルミニウム含有量の0.5%以上のケイ素、及び残部は本質的に亜鉛より成る合金めっきを施すことが開示されており・・・亜鉛-アルミニウム合金めっきを施した鋼板には、従来の亜鉛合金めっきを施した鋼板に対して格段に優れた耐食性を示すものであった。・・・
【0004】しかし、上記のような亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に切断加工を施した場合、切断端縁部においては充分な耐食性は得られないものであった。・・・
【0005】また、塗装めっき鋼板は屋外にて・・・使用されることから・・・高い耐候性が求められている。
【0006】・・・優れた耐食性と耐候性とを併せ持つ塗装亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板は、未だ見いだされてはいなかった。
【0007】本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた耐食性と耐候性とを併せ持つ塗装亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板を提供することを目的とするものである。

記載事項ヌ
【0014】また合金めっき層中にアルミニウム含有量に対して0.5重量%以上のケイ素を含有させる・・・アルミニウム含有量に対して10重量%以下とする・・・
【0015】また、合金めっき層中には、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板の耐食性、塗膜等との密着性等の特性を損なわない他の物質、例えば従来から合金めっきのための溶融金属浴に許容されている不純物や、他の意識的な添加物も含有し得る。例えば・・・不可避的に混入される不純物・・・マンガン・・・クロム・・・等の、本発明の必須成分以外の成分が、合金めっき層中に含まれても良いものである。・・・
【0016】そして、合金めっき層中の上記成分を除く残部は、亜鉛で構成される。

記載事項ネ
【0012】上記のような合金めっきを鋼板に施すにあたっては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、及びケイ素を、所要のめっき層の組成と同一の配合割合で含む溶融金属浴に、基材となる鋼板を浸漬させる等の公知の手段を用いることができる。このときのめっき層形成条件は、特に限定するものではないが、例えば550?650℃の溶融金属浴に、鋼板を1?10秒間浸漬した後、20?40℃/秒の冷却速度で冷却することにより、合金めっき鋼板を得ることができる。

記載事項ノ
【0069】(実施例1)アルミニウム含有量55重量%、亜鉛含有量41重量%、ケイ素含有量1.6重量%、マグネシウム含有量3.0重量%の600℃の溶融金属浴中に、0.5mm厚の軟鋼板を2秒間浸漬した後、30℃/秒の冷却速度で冷却して、亜鉛-アルミニウム合金めっき層をこの軟鋼板の表裏両面に施した。このとき鋼板表面へのめっき層の付着量は、表裏両面合わせて150g/m^(2)となるようにした。
【0070】このようにして得られた塗装亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板の表面に、塗布型クロメート処理を・・・施した。
【0071】次に、下塗塗料・・・を塗布して・・・下塗塗膜を形成した。
【0072】次に、下塗り塗膜の表面に・・・ポリエステル系塗料(品番「NSC3800」)に・・・ガラス繊維を・・・含有させた上塗り塗料を塗布し・・・上塗り塗膜を形成した。
・・・
【0075】そして、このクリヤー塗料を上塗り塗膜の表面に塗布し・・・塗装鋼板を得た。

記載事項ハ
【0076】(比較例1)クリアー層を設けなかった以外は実施例1と同様にして塗装めっき鋼板を得た。
【0077】(比較例2)溶融金属浴の組成を、アルミニウム含有量55重量%、亜鉛含有量43重量%、ケイ素含有量1.6重量%としてマグネシウムを含有させず、且つクリアー層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして塗装めっき鋼板を得た。
【0078】(比較例3)溶融金属浴の組成を、アルミニウム含有量55重量%、亜鉛含有量43重量%、ケイ素含有量1.6重量%としてマグネシウムを含有させなかった以外は、実施例1と同様にして塗装めっき鋼板を得た。

(2)甲第2号証に記載された発明
ア 記載事項ノから、甲2の実施例1においては、「溶融金属浴」の組成は「アルミニウム含有量55重量%、亜鉛含有量41重量%、ケイ素含有量1.6重量%、マグネシウム含有量3.0重量%」でなるが、その合計は「100.6%」であり、「重量%」の合計が100%とならない実施例1の記載は、甲第2号証に記載された発明の認定の根拠として採用できない。

イ 記載事項ハから、他の実験例についてみると、比較例1は実施例1と同じく「溶融金属浴」の組成の合計の重量%が100%とならず、比較例2、3は「溶融金属浴」の組成として本件発明1で必須の「Mg」を含有しないから、いずれも甲第2号証に記載された発明の認定の根拠として採用できない。

ウ そこで、実施例ではない明細書の記載に基づく引用発明の認定を試みる。
すると、記載事項ナから、塗装膜を付与する前の鋼板に着目すれば、甲2には、「25?75重量%のアルミニウムと、0.01?5.0重量%のマグネシウムと、アルミニウムの含有量に対して0.5重量%以上のケイ素とを含有する亜鉛-アルミニウム合金めっき層が形成された亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板」について記載されている。

エ 上記ウと記載事項ヌから、「25?75重量%のアルミニウム」に対して、「ケイ素」は「アルミニウムの含有量に対して0.5?10重量%」だから、「亜鉛-アルミニウム合金めっき層」全体では「ケイ素」は「0.125?7.5重量%」といえる。

オ 記載事項ヌから、「亜鉛-アルミニウム合金めっき層」は「不可避的に混入される不純物」を含み、「Mn」、「Cr」を含み得るものであり、残部が亜鉛であるので、亜鉛は「不可避的に混入される不純物」と、混入が「許容されている」程度の微量の「Mn」、「Cr」を含み得て「12.5?74.865重量%」といえるものである。
そして、記載事項ネから、「亜鉛-アルミニウム合金めっき層」の組成は「溶融金属浴」の組成と同一なので、「溶融金属浴」の組成は、「25?75重量%のアルミニウムと、0.01?5.0重量%のマグネシウム」と「0.125?7.5重量%のケイ素」と、「不可避的に混入される不純物」と「Mn」、「Cr」を含み得て「12.5?74.865重量%の亜鉛」を含むものである。
すると、「不可避的に混入される不純物」と、含み得る「Mn」、「Cr」は微量だから、亜鉛の含有量は「約12.5?74.865重量%」といえるので、「溶融金属浴」の組成は、「約12.5?74.865重量%の亜鉛」と、「0.125?7.5重量%のケイ素」と、「0.01?5.0重量%のマグネシウム」を含み、「Mn」と「Cr」を含み得るものであって、残部が「アルミニウム」と「不可避的に混入される不純物」であるもの、ということができる。
また、「亜鉛-アルミニウム合金めっき層」は、「溶融金属浴の組成と同一」だから、その組成により「Al-Zn-Mg-Si合金層」を含むものといえる。

カ 以上から、本件請求項1(本件発明1)の記載に則して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「鋼板と、鋼板の面上の亜鉛-アルミニウム合金めっき層とを含む亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板であって、亜鉛-アルミニウム合金めっき層がAl-Zn-Mg-Si合金層を含み、溶融金属浴の組成は、約12.5?74.865重量%の亜鉛と、0.125?7.5重量%のケイ素と、0.01?5.0重量%のマグネシウムを含み、MnとCrを含み得るものであって、残部がアルミニウムと不可避的に混入される不純物である、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板。」

(3)本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「鋼板」「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板」は、本件発明1のそれぞれ「スチールストリップ」「金属めっき鋼帯」に相当する。

イ 本件発明1の「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からな」ることと、甲2発明の「溶融金属浴の組成は、約12.5?74.865重量%の亜鉛と、0.125?7.5重量%のケイ素と、0.01?5.0重量%のマグネシウムを含み、MnとCrを含み得るものであって、残部がアルミニウムと不可避的に混入される不純物である」ことは、「前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.25?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Cr、Mnを含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からな」る点で一致する。

ウ すると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
<一致点>
「スチールストリップと、前記スチールストリップの少なくとも一つの面上の金属めっきとを含む金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si合金層を含み、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.25?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Cr、Mnを含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなる、金属めっき鋼帯。」
<相違点>
「中間合金層」について、
本件発明1では、「金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si上張り合金層、および前記スチールストリップと前記上張り合金層との間の中間合金層を含み」(以下、「特定事項C」という。)、「前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成を有し、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し、」(特定事項A)、「前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶または前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす」(特定事項B)のに対して、
甲2発明では、「亜鉛-アルミニウム合金めっき層がAl-Zn-Mg-Si合金層」以外の中間層を含むのか不明で、含む場合に、その厚さ、各元素間の成分組成、成分濃度、結晶構造とその大きさについて不明な点。

(4)相違点の検討
ア 甲2には、甲2発明が「中間合金層」に相当する構造を有するのかについて記載がなく、「中間合金層」が存在したとしても、上記特定事項A、B、Cに相当する、同層の厚さ、同層を構成する各元素間の成分組成、成分濃度、結晶構造とその大きさ、中間合金層の位置について記載されていない。

イ そこで、本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成と、甲2発明の「溶融金属浴の組成」が一致するので、「金属めっき鋼帯」(「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板」)を形成する製造条件が一致するなら、本件発明1と甲2発明とは同じものが製造されているはずであり、甲2発明も特定事項A、B、Cに相当する構成を有するものといえるので、検討する。

ウ 本件発明1については、上記「3-1.(4)ウ」に記したとおり、本件特許明細書中に本件発明1の概括的な製造方法は記載がないが、上記した本件発明1における記載不備の検討で明らかになったように、一般的な鋼帯へのめっき方法において、「溶融Al-Zn-Si-Mg合金組成」、「ストリップの浸漬時間」、「めっきポット時間」を、当業者に過度の試行錯誤を強いることなく調整して、所期の「金属めっき鋼帯」を得られるものであり、具体例として、【0081】(【図6】)に、
a)本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成に相当するMAZに、600℃、1秒間で浸漬した場合には、中間合金層の組成が本件発明1の組成となる「金属めっき鋼帯」が製造され(【0081】には「610℃」と記載されるが「600℃」の誤記と認められる。)、
b)同じくMAZ組成の溶融合金に、620℃、1秒間で浸漬した場合には、中間合金層の組成が本件発明1の組成とならない「金属めっき鋼帯」が製造されることが記載されている。

エ 一方、甲2発明については、記載事項ネから、「溶融金属浴に、基材となる鋼板を浸漬させる等の公知の手段を用い」る一般的な鋼板へのめっき方法において、「例えば550?650℃の溶融金属浴に、鋼板を1?10秒間浸漬した後、20?40℃/秒の冷却速度で冷却することにより、合金めっき鋼板を得る」ことが記載されており、たしかに本件発明1の溶融合金浴組成、上記浸漬時間、浸漬温度を含むものである。
しかし、そもそも甲2発明では中間合金層の存在自体が不明であり、中間合金層が存在したとしても、上記の条件は、当該条件を調整することで、特定の成分組成、特定の結晶構造、特定の元素濃度の中間合金層が得られることを開示するものではなく、また、甲2発明の特定の「溶融金属浴」に対して特定された条件でもない。

オ すると、本件発明1の「金属めっきを形成するための溶融合金」の組成と、甲2発明の「溶融金属浴」の組成は重複するが、少なくとも甲2発明において、鋼板の浴への浸漬温度と、浸漬時間について不明なものである。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは同じものが製造されているものとはいえず、甲2発明も特定事項A、B、Cに相当する構成を有するものとはいえないし、浸漬温度と浸漬時間について当業者が容易に想到し得るものともいえない。
また、甲1には、先に述べたとおり、甲2発明とは異なる成分組成の「溶融金属浴」での浸漬温度(浸漬時間は不明)が記載されるのみで、甲1の技術事項は、甲2発明において本件発明1と同様の浸漬温度、浸漬時間を採用することを動機付けるものではなく、甲3にはFe-Al合金の状態図が示されるのみである。

カ 以上から、上記相違点は実質的なものであり、相違点に係る特定事項A、B、Cについて当業者が容易に想到し得るものともいえない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2?5、7、8、11、12、16についても同様である。
なお、申立人は、甲第2号証に記載された発明を、甲2の【0069】(記載事項ノ)の記載に基づき認定するが、上記アで検討したように、当該箇所に記載された「溶融金属浴」の組成は「重量%」の合計が100%とならないので、第2号証に記載された発明の認定の根拠として採用できず、同箇所の記載に基づく申立人が申立書で述べた推論は採用できない。

3-3.申立理由4についての結言
以上から、本件発明1は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証または甲第2号証に基づいて、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載の技術事項に基づいて、あるいは、甲第2号証に記載された発明及び甲第1,3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2?5、7、8、11、12、16についても同様である。

第8 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、7、8、11、12、16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にそれらの請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項6、9、10、13?15、17?23が削除されたため、それらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールストリップと、前記スチールストリップの少なくとも一つの面上の金属めっきとを含む金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si上張り合金層、および前記スチールストリップと前記上張り合金層との間の中間合金層を含み、前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、ならびにAlおよび不可避不純物が残部である組成を有し、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して0.1?5.0μmの厚さを有し、前記金属めっきを形成するための溶融合金が、重量%で以下の範囲の元素:Zn:35?50%;Si:1.2?2.5%;Mg:1.0?3.0%;さらに、Ca、Cr、MnおよびVから成る群から選択される少なくとも1つである計画的な合金添加物としての他の元素を含み得るものであって、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る横断面で測定して短径が50?1000nmである実質的な柱状晶または前記めっきの厚さを通る横断面で測定して長径が50?4000nmである実質的な等軸晶を含み、前記中間合金層のAl、Zn、SiおよびFeの濃度が式Fe_(10)Al_(32)Si_(5)Zn_(3)およびFe_(10)Al_(34)Si_(4)Zn_(2)の内の1つを満たす金属めっき鋼帯。
【請求項2】
請求項1に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.01?0.2%のCaを含む金属めっき鋼帯。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?3.0%のCrを含む金属めっき鋼帯。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?13.0%のMnを含む金属めっき鋼帯。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、重量で0.1?2.0%のVを含む金属めっき鋼帯。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項1に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.3?2.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。
【請求項8】
請求項7に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が、前記めっきの厚さを通る前記横断面で測定して0.5?1.0μmの厚さを有する金属めっき鋼帯。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が柱状晶および等軸晶の混合物を含む金属めっき鋼帯。
【請求項12】
請求項1?5および7?8のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記中間合金層が体心立方晶を含む金属めっき鋼帯。
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
【請求項16】
請求項1?5、7?8および11?12のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきの露出面上の樹脂コーティングを含む金属めっき鋼帯。
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】(削除)
【請求項22】(削除)
【請求項23】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-30 
出願番号 特願2015-524570(P2015-524570)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C23C)
P 1 651・ 537- YAA (C23C)
P 1 651・ 536- YAA (C23C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 中澤 登
井上 猛
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6329145号(P6329145)
権利者 ブルースコープ・スティール・リミテッド
発明の名称 金属めっき鋼帯  
代理人 言上 惠一  
代理人 松谷 道子  
代理人 松谷 道子  
代理人 言上 惠一  

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