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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G10H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G10H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G10H
審判 全部申し立て 2項進歩性  G10H
管理番号 1368100
異議申立番号 異議2019-700989  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-05 
確定日 2020-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6524742号発明「楽音発生装置、方法、およびプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6524742号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第6524742号の請求項〔1?4〕、5、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6524742号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年3月23日の出願であって、令和元年5月17日にその特許権の設定登録がされ、令和元年6月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和元年12月5日に特許異議申立人細江進により特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の経緯は次のとおりである。

令和2年2月20日付け 取消理由通知書
令和2年4月24日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和2年7月14日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)

なお、異議申立人に対し、上記通知書において、期間を指定して特許権者による訂正の請求について意見を提出する機会を与えたが、異議申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和2年4月24日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。また、下線は訂正箇所である。

(1)請求項1?4について
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づいて波形データを読み出す波形データ読出し部と、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記波形データ読出し部から読み出された前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、
を備える楽音発生装置。」
と記載されているのを、
「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部と、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部と、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す波形データ読出し部と、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記波形データ読出し部から読み出された前記コピー波形データを出力させるように制御する出力制御部と、
を備える楽音発生装置。」
に訂正する(請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?4についても同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記波形データを生成するドローバー部をさらに備え、
前記ドローバー部は、基本波形データ及び当該基本波形の倍音波形データ夫々を生成する複数の波形データ生成部と、前記複数の波形データ生成部から生成された波形データ夫々に対して、ドローバー操作子によって指定された係数を乗算して出力する複数の乗算器と、前記複数の乗算器夫々の出力を混合して波形データとして出力する混合器と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の楽音発生装置。」
と記載されているのを、
「前記ドローバー部は、基本波形データ及び当該基本波形の倍音波形データ夫々を生成する複数の波形データ生成部と、前記複数の波形データ生成部から生成された波形データ夫々に対して、ドローバー操作子によって指定された係数を乗算して出力する複数の乗算器と、前記複数の乗算器夫々の出力を混合して、前記混合波形データとして出力する混合器と、を備え、
前記コピー波形データの出力中における新たなドローバー操作に応じて前記ドローバー部により新たな混合波形データが生成された場合に、前記コピー部は、前記波形データ読出し部による読み出し対象のアドレス範囲内を書き換えずに、前記読み出し対象のアドレス範囲外のアドレス範囲を、前記新たな混合波形データに基づく新たなコピー波形データで書き換える
ことを特徴とする請求項1に記載の楽音発生装置。」
に訂正する(請求項2を直接的または間接的に引用する請求項3及び4についても同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記波形データの出力を制御する」
と記載されているのを
「前記コピー波形データの出力を制御する」
に訂正する(請求項3を引用する請求項4についても同様に訂正する。)。

(2)請求項5について(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項5に
「波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられる楽音発生方法であって、前記楽音発生装置は、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づいて波形データを読み出し、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出された波形データを出力させるように制御する、楽音発生方法。」
と記載されているのを、
「波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられる楽音発生方法であって、前記楽音発生装置は、
ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成し、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成し、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出し、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御する、楽音発生方法。」
に訂正する。

(3)請求項6について(訂正事項5)
特許請求の範囲の請求項6に
「波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられるコンピュータに、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づいて波形データを読み出すステップと、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出された波形データを出力させるように制御するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。」
と記載されているのを
「波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられるコンピュータに、
ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するステップと、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するステップと、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出すステップと、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。」
に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1?3について
ア 一群の請求項について
訂正事項1?3に係る訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ 訂正の目的
(ア)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の楽音発生装置に、「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部」及び「前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部」を追加し、「波形データ読み出し部」を「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す」ものであることに限定し、「出力制御部」が出力する「波形データ」を「コピー波形データ」に限定するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2の楽音発生装置について、混合器が出力する「波形データ」を「混合波形データ」に限定し、また、「前記コピー波形データの出力中における新たなドローバー操作に応じて前記ドローバー部により新たな混合波形データが生成された場合に、前記コピー部は、前記波形データ読出し部による読み出し対象のアドレス範囲内を書き換えずに、前記読み出し対象のアドレス範囲外のアドレス範囲を、前記新たな混合波形データに基づく新たなコピー波形データで書き換える」ものであることに限定するための訂正である。
また、訂正事項2は、「前記波形データを生成するドローバー部」の構成を削除するものであるが、上記(ア)のとおり、訂正事項1によって混合波形データを生成するドローバー部の構成が請求項2が引用する請求項1に追加されていることから、請求項2のドローバー部に係る構成は実質的に変更されていない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3の楽音発生装置において出力を制御する「波形データ」を、「コピー波形データ」に限定するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)訂正事項1
a 「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部」は、【0014】の「ドローバー部105は、演奏者によるドローバーの操作を検出し、CPU101に通知する」及び【0018】の「CPU101は、乗算結果の#1?#9の各正弦波データを、加算処理303で混合し、その混合結果の波形データ304としてRAM103に記憶する」の記載、及び、図3に基づくものである。

b 「前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部」は、【0018】の「最後に、CPU101は、波形データ304をコピーして、鍵盤105の79鍵分のRAM103上の記憶領域に、#0?#78の79組のコピー波形データ305を生成する」の記載、及び、図3に基づくものである。

c 「波形データ読み出し部」において、「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す」ことは、【0020】の「任意の#i(0≦i≦78)番目の1つのOSC401(#i)は、鍵盤部104の#i番目の音高(#i)の鍵に対応しており、図3のCPU101の波形データ合成機能によりRAM103に得られている#i番目のコピー波形データ305(#i)中の1つ以上の波形サンプルデータを、音高(#i)に対応した読出し速度(サンプル間隔)で読み出す」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

d 「出力制御部」が「コピー波形データ」を出力することは、【0022】の「演奏者が鍵盤部104の任意の#i番目(0≦i≦78)の音高の鍵を押鍵すると、CPU101が、鍵盤部104での音高(#i)の鍵の押鍵を検出することにより、音源部106に対して音高(#i)の楽音の発音指示データを供給する。この結果、音源部106内のEG402(#i)が動作を開始する。EG402(#i)は、OSC401(#i)が生成する波形データに対して、例えば演奏者が予め指示をした所定の強度変化特性の振幅エンベロープを押鍵開始後の時間経過とともに乗算し、その乗算の結果得られる波形データを発音出力する」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2
a ドローバー部の混合器が「混合波形データ」を出力することは、【0018】の「CPU101は、乗算結果の#1?#9の各正弦波データを、加算処理303で混合し、その混合結果の波形データ304としてRAM103に記憶する」の記載に基づくものである。

b 「前記コピー波形データの出力中における新たなドローバー操作に応じて前記ドローバー部により新たな混合波形データが生成された場合に、前記コピー部は、前記波形データ読出し部による読み出し対象のアドレス範囲内を書き換えずに、前記読み出し対象のアドレス範囲外のアドレス範囲を、前記新たな混合波形データに基づく新たなコピー波形データで書き換える」ことは、【0027】の「ここで、ドローバー操作により変更された波形データ304が任意の#i(0≦i≦78)番目のコピー波形データ305(#i)にコピーされるとき」の記載、【0031】の「CPU101は、図5(b)の502の破線波形部分として示される、コピー波形データ305(#i)上の読出し対象のアドレス範囲read_start[i]?read_end[i]の波形サンプルデータについては、現在のサンプリングタイミングでは、OSC401(#i)およびEG402(#i)が波形データを発音出力するための補間処理に使用する可能性がある。このため、CPU101は、この範囲の波形サンプルデータについては、変更後の波形データ304による書換え(置換え)は行わない」の記載、【0032】の「一方、コピー波形データ305(#i)上の、読出し対象のアドレス範囲read_start[i]?read_end[i]以外のアドレス範囲、すなわち図5(b)の波形部分503として示される、波形開始アドレスstart[i]から読出し対象の先頭アドレスread_start[i]の1アドレス手前までと、読出し対象の終了アドレスread_end[i]の1アドレス後から波形末尾アドレスend[i]までのアドレス範囲の波形サンプルデータについては、現在のサンプリングタイミングでは、OSC401(#i)およびEG402(#i)が波形データを発音出力するための補間処理に使用する可能性はない。このため、CPU101は、この範囲の波形サンプルデータを、変更後の波形データ304の対応する波形サンプルデータで書き換える(置き換える)」の記載、及び図5(b)に基づくものである。

よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3
訂正事項3は、【0022】の「演奏者が鍵盤部104の任意の#i番目(0≦i≦78)の音高の鍵を押鍵すると、CPU101が、鍵盤部104での音高(#i)の鍵の押鍵を検出することにより、音源部106に対して音高(#i)の楽音の発音指示データを供給する。この結果、音源部106内のEG402(#i)が動作を開始する。EG402(#i)は、OSC401(#i)が生成する波形データに対して、例えば演奏者が予め指示をした所定の強度変化特性の振幅エンベロープを押鍵開始後の時間経過とともに乗算し、その乗算の結果得られる波形データを発音出力する」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

エ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1?3は、上記イ(ア)?(ウ)に示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや発明の対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

オ 独立特許要件について
訂正前の請求項1?4は、本件特許異議申立事件において特許異議の申立てがされている請求項であるから、訂正事項1?3については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に基づき、独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項5の楽音発生方法に、「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成し、前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成」することを追加し、波形データの読み出しを「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出」すことに限定し、出力する「波形データ」を「コピー波形データ」に限定するするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成し、前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成」することは、【0014】の「ドローバー部105は、演奏者によるドローバーの操作を検出し、CPU101に通知する」の記載、【0018】の「CPU101は、乗算結果の#1?#9の各正弦波データを、加算処理303で混合し、その混合結果の波形データ304としてRAM103に記憶する」「最後に、CPU101は、波形データ304をコピーして、鍵盤105の79鍵分のRAM103上の記憶領域に、#0?#78の79組のコピー波形データ305を生成する」の記載、及び、図3に基づくものである。

(イ)波形データの読み出しを「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出」すことは、【0020】の「任意の#i(0≦i≦78)番目の1つのOSC401(#i)は、鍵盤部104の#i番目の音高(#i)の鍵に対応しており、図3のCPU101の波形データ合成機能によりRAM103に得られている#i番目のコピー波形データ305(#i)中の1つ以上の波形サンプルデータを、音高(#i)に対応した読出し速度(サンプル間隔)で読み出す」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

(ウ)「コピー波形データ」を出力することは、【0022】の「演奏者が鍵盤部104の任意の#i番目(0≦i≦78)の音高の鍵を押鍵すると、CPU101が、鍵盤部104での音高(#i)の鍵の押鍵を検出することにより、音源部106に対して音高(#i)の楽音の発音指示データを供給する。この結果、音源部106内のEG402(#i)が動作を開始する。EG402(#i)は、OSC401(#i)が生成する波形データに対して、例えば演奏者が予め指示をした所定の強度変化特性の振幅エンベロープを押鍵開始後の時間経過とともに乗算し、その乗算の結果得られる波形データを発音出力する」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記アに示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや発明の対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

エ 独立特許要件について
訂正前の請求項5は、本件特許異議申立事件において特許異議の申立てがされている請求項であるから、訂正事項4については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に基づき、独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項6の楽音発生方法に、「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するステップ」と、「前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するステップ」を追加し、「波形データを読み出すステップ」を「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す」ことに限定し、「制御するステップ」の「波形データ」を「コピー波形データ」に限定するするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること

(ア)「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するステップ」は、【0014】の「ドローバー部105は、演奏者によるドローバーの操作を検出し、CPU101に通知する」の記載、【0018】の「CPU101は、乗算結果の#1?#9の各正弦波データを、加算処理303で混合し、その混合結果の波形データ304としてRAM103に記憶する」の記載、及び、図3に基づくものである。

(イ)「前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するステップ」は、【0018】の「最後に、CPU101は、波形データ304をコピーして、鍵盤105の79鍵分のRAM103上の記憶領域に、#0?#78の79組のコピー波形データ305を生成する」の記載、及び、図3に基づくものである。

(ウ)「波形データを読み出すステップ」において、「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す」ことは、【0020】の「任意の#i(0≦i≦78)番目の1つのOSC401(#i)は、鍵盤部104の#i番目の音高(#i)の鍵に対応しており、図3のCPU101の波形データ合成機能によりRAM103に得られている#i番目のコピー波形データ305(#i)中の1つ以上の波形サンプルデータを、音高(#i)に対応した読出し速度(サンプル間隔)で読み出す」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

(エ)「制御するステップ」において、「コピー波形データ」の出力を制御することは、【0022】の「演奏者が鍵盤部104の任意の#i番目(0≦i≦78)の音高の鍵を押鍵すると、CPU101が、鍵盤部104での音高(#i)の鍵の押鍵を検出することにより、音源部106に対して音高(#i)の楽音の発音指示データを供給する。この結果、音源部106内のEG402(#i)が動作を開始する。EG402(#i)は、OSC401(#i)が生成する波形データに対して、例えば演奏者が予め指示をした所定の強度変化特性の振幅エンベロープを押鍵開始後の時間経過とともに乗算し、その乗算の結果得られる波形データを発音出力する」の記載、及び、【0024】の「#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している」の記載に基づくものである。

よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、上記アに示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや発明の対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

エ 独立特許要件について
訂正前の請求項6は、本件特許異議申立事件において特許異議の申立てがされている請求項であるから、訂正事項5については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に基づき、独立特許要件は課されない。

3 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的としており、かつ、同条第4項、及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。

したがって、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6についての訂正を認める。

第3 本件訂正発明
令和2年4月24日の本件訂正請求により訂正された本件特許請求の範囲の1?6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
なお、説明のために、本件訂正発明1、本件訂正発明5、本件訂正発明6については、(A)?(E)、(A1)?(E1)、(A2)?(E2)の記号を当審において付与した。以下、「構成A」?「構成E」、「構成A1」?「構成E1」、「構成A2」?「構成E2」と称する。

【請求項1】(本件訂正発明1)
(A)ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部と、
(B)前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部と、
(C)演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す波形データ読出し部と、
(D)前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記波形データ読出し部から読み出された前記コピー波形データを出力させるように制御する出力制御部と、
(E)を備える楽音発生装置。

【請求項2】(本件訂正発明2)
前記ドローバー部は、基本波形データ及び当該基本波形の倍音波形データ夫々を生成する複数の波形データ生成部と、前記複数の波形データ生成部から生成された波形データ夫々に対して、ドローバー操作子によって指定された係数を乗算して出力する複数の乗算器と、前記複数の乗算器夫々の出力を混合して、前記混合波形データとして出力する混合器と、を備え、
前記コピー波形データの出力中における新たなドローバー操作に応じて前記ドローバー部により新たな混合波形データが生成された場合に、前記コピー部は、前記波形データ読出し部による読み出し対象のアドレス範囲内を書き換えずに、前記読み出し対象のアドレス範囲外のアドレス範囲を、前記新たな混合波形データに基づく新たなコピー波形データで書き換える
ことを特徴とする請求項1に記載の楽音発生装置。

【請求項3】(本件訂正発明3)
前記出力制御部は、前記いずれかの音高が指定されるとともにベロシティが指定された場合、当該指定されたベロシティに基づいて前記コピー波形データの出力を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の楽音発生装置。

【請求項4】(本件訂正発明4)
請求項1ないし3のいずれかに記載の楽音発生装置と、
前記複数の音高のいずれかを指定する複数の操作子と、
前記楽音発生装置から出力される波形データに対応する楽音を生成するサウンドシステムと、
を備えることを特徴とする電子楽器。

【請求項5】(本件訂正発明5)
(A1)波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられる楽音発生方法であって、前記楽音発生装置は、
(B1)ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成し、
(C1)前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成し、
(D1)演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出し、
(E1)前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御する、
(A1)楽音発生方法。

【請求項6】(本件訂正発明6)
(A2)波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられるコンピュータに、
(B2)ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するステップと、
(C2)前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するステップと、
(D2)演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出すステップと、
(E2)前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御するステップと、
(A2)をコンピュータに実行させるためのプログラム。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、当審が令和2年2月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1、4?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。よって、請求項1、4?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1、3?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1、3?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)請求項1?6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 甲第1号証(特許第5142363号公報)
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下が記載されている。

ア「【0015】
(1)全体回路
図1は成分音合成方法を実現するコンピュータプログラムを実行する全体回路、成分音合成方法を実行する全体回路、成分音合成装置、楽音のエンベロープ制御装置、楽音制御装置、自動演奏装置または電子楽器の全体回路1を示す。
【0016】
キーボード11の各キーは、楽音の発音及び消音を指示するもので、キースキャン回路12によってスキャンされ、キーオン、キーオフを示すデータが検出され、コントローラ2(CPU)によってプログラム/データ記憶部4に書き込まれる。そして、それまでプログラム/データ記憶部4に記憶されていた各キーのオン、オフの状態を示すデータと比較され、各キーのオンイベント、オフイベントの判別が、コントローラ2によって行われる。
(略)
【0021】
上記キーボード11またはミディ回路15には、自動演奏装置も含まれる。これらキーボード11、パネルスイッチ群13、ミディ回路15及び自動演奏装置から発生された演奏情報(楽音発生情報)は、楽音を発生させるための情報である。
(略)
【0031】
このような音楽的ファクタ情報は、コントローラ2へ送られ、後述の各種信号、データ、パラメータの切り換えが行われ、楽音の内容が決定される。上記演奏情報(楽音発生情報)及び楽音制御情報はコントローラ2で処理され、各種データが楽音信号発生部5へ送られ、楽音波形信号MWが発生される。コントローラ2はCPU、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、ROM及びRAMなどからなっている。このようなコントローラ2は、図1の回路ごとに分散されて設けられてもよい。

【図1】





イ「【0041】
(2)楽音信号発生部5
図2は上記楽音信号発生部5を示す。成分音発生器21…は、多数例えば108個設けられている。この108個は、1オクターブで12個設けるとして、8オクターブ分12×8=96個とし、これに最高音に12個の発信器を付けるとして、96個+12個=108個となる。
【0042】
この1オクターブ12個+1個=13個の成分音発生器21…からの成分音信号は、一番低い周波数と一番高い周波数とが1オクターブ分の2倍の周波数比関係にある。これらの間の周波数は、2の12乗根ずつの周波数比ずつずれている。なお、この周波数比は一例であって、これらの周波数比に限られるものではない。
【0043】
この108個の成分音発生器21…からは、それぞれ周波数の異なる同じ波形のサイン波の成分音信号が電源投入の間、常時出力される。この成分音発生器21…から発信される多数のサイン波の成分音信号は周波数が一定で変化しない。
【0044】
各成分音発生器21…からのサイン波の成分音信号は、108個の各乗算器22…で各エンベロープ信号(エンベロープ波形)がそれぞれ乗算合成され、各成分音信号のそれぞれのレベル/合成割合が「0」から所定値まで個別に変化制御される。このエンベロープ信号が合成された成分音信号は、加算器23で1つの楽音信号に合成される。
【0045】
上記各エンベロープ信号は、108個の各エンベロープ発生器24…から出力される。このエンベロープ信号は、上記成分音信号のそれぞれのレベル/合成割合を「0」から所定値まで個別に変化させるためのものである。上記成分音信号が上記合成楽音にとって不要の場合には、当該成分音信号のエンベロープのレベル/合成割合は「0」とされる。」

ウ「【0053】
(4)成分音エンベロープテーブル31
図4はプログラム/データ記憶部4内の成分音エンベロープテーブル31を示す。この成分音エンベロープテーブル31には、各音色(トーンナンバデータTN)、各音高(キーナンバデータKN)の楽音を構成する各成分音のエンベロープデータ及び成分音コードデータが記憶され、対応する成分音のデータがトーンナンバデータTN及びキーナンバデータKNから変換され読み出される。
【0054】
各成分音のエンベロープデータは、上記108個のエンベロープ発生器24…の全てに送られるエンベロープデータであり、この各エンベロープデータは、エンベロープ発生器24…内のエンベロープレジスタ41…にストアされ、上記フェーズごとのエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETからなっている。
【0055】
エンベロープスピードデータESはエンベロープのデジタル演算1周期当たりの演算のステップ値を示す。エンベロープタイムデータETはフェーズごとのエンベロープ演算時間(発生時間、発音時間)、つまり上記デジタル演算の各フェーズのごとの演算回数を示す。このエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETによって演算されるエンベロープ信号(エンベロープ波形)のレベル/合成割合(振幅)は、各成分音信号の発生量を示す。」

エ「【0070】
(6)発音処理
図6は上記ステップ03の発音処理のフローチャートを示す。まずオンイベントがあると(ステップ11)、上記成分音エンベロープテーブル31に基づいてこのオンイベントに係る楽音のトーンナンバデータTN及びキーナンバデータKNに対応するエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータET並びに成分音コードデータが読み出される(ステップ12)。
(略)
【0073】
また、合成成分音コードデータのビットが「0」で成分音コードデータのビットが「1」であれば(ステップ16)、上記ステップ12で読み出されたエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETが、上記対応するビットのエンベロープ発生器24のエンベロープレジスタ41にストアされる(ステップ17)。
(略)
【0079】
また、少なくとも2つの発音操作の後の開始タイミングにおいて、発音操作中の成分音信号の合成情報が「合成せず」、発音操作が開始された成分音信号の合成情報が「合成する」であれば(ステップ16)、発音操作が開始された成分音信号のエンベロープで発音開始される(ステップ17)。」

オ「【0138】
(10)楽音信号発生部5(第二実施例)
図12は上記楽音信号発生部5の第二実施例を示す。この楽音信号発生部5ではドローバーを使っている。ドローバーシステムは、複数のドローバーを備え、電気オルガンなどに使われている音色調整用ストップ(音栓)の一種である。この各ドローバーによって、基音と倍音などの周期の異なる複数のサイン波などの周期の異なる複数の波形のそれぞれのレベル/合成割合が変更決定され、これらの波形の合成波形の形状が変更決定される。
【0139】
上記キーボード11の各キーのオンデータは、乗算器61…、乗算器62…、………で振幅データが乗算され、発音ソース回路63…に振幅データとして送り込まれる。この振幅データはドローバー回路65で設定される。発音ソース回路63…からは、上記振幅データに応じた振幅で、周期の異なる同じ波形のサイン波などが出力される。
【0140】
これらの振幅が制御された周期の異なる複数のサイン波などは、エンベロープ発生器67でエンベロープが合成され、加算器64で加算合成され、下記ドローバー回路65…で設定された形状の波形の音色で、上記サウンドシステム6に送られる。」

(2)甲1発明
上記(1)ア?エから、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。なお、符号a?gは説明のために当審が付したものであり、以下、構成a?構成gと称する。

(甲1発明)
(a)楽音の発音及び消音を指示するキーボード11から発生された演奏情報(楽音発生情報)はコントローラ2で処理され、キーボード11の各キーのオンイベント、オフイベントの判別が行われ、コントローラ2で処理された各種データが送られる楽音信号発生部5であって、
(b)それぞれ周波数の異なる同じ波形のサイン波の成分音信号が常時出力される108個の成分音発生器21と、
(c)各エンベロープ信号が出力される108個の各エンベロープ発生器24と、
(d)各成分音発生器21からの成分音信号は、各エンベロープ信号がそれぞれ乗算合成され、各成分音信号のそれぞれのレベル/合成割合が「0」から所定値まで個別に変化制御される108個の各乗算器22と、
を備え、
(e)成分音エンベロープテーブル31には、各音色(トーンナンバデータTN)、各音高(キーナンバデータKN)の楽音を構成する各成分音のエンベロープデータが記憶され、各成分音のエンベロープデータは、エンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETからなり、エンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETによって演算されるエンベロープ信号のレベル/合成割合は、各成分音信号の発生量を示し、
(f)発音処理において、
(f1)オンイベントがあると、成分音エンベロープテーブル31に基づいてこのオンイベントに係る楽音のトーンナンバデータTN及びキーナンバデータKNに対応するエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETが対応するエンベロープ発生器24にストアされ、
(f2)発音操作が開始された成分音信号のエンベロープで発音開始される、
(g)楽音信号発生部5を備える成分音合成装置。

(3)甲1記載事項
加えて、上記(1)オから、甲第1号証には、第二実施例として以下の事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されているといえる。

(甲1記載事項)
楽音信号発生部において、ドローバー回路で設定される振幅データに応じた振幅で、発音ソース回路から周期の異なる同じ波形のサイン波が出力され、これらの振幅が制御された周期の異なる複数のサイン波は、合成され、ドローバー回路で設定された形状の波形の音色でサウンドシステムに送られること。

3 当審の判断
3.1 本件訂正発明1について
(1)特許法第29条第1項3号及び特許法第29条第2項について
ア 対比
(ア)構成A及び構成Bについて
甲1発明は、構成Aの「ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部」及び構成Bの「記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部」に対応する構成を備えていない。
よって、本件訂正発明1と甲1発明は、本件訂正発明が構成A及び構成Bを備えるのに対して、甲1発明はそのような構成を備えない点で、相違する。

(イ)構成Cについて
構成bの108個の成分音発生器21は、成分音信号が常時出力されることから、演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、成分音信号を出力するものである。
構成bの108個の成分音発生器21は、それぞれ周波数の異なる成分音信号を出力することから、複数種の音高夫々に基づいて成分音信号を出力しているといえ、さらに、波形の成分音信号を出力することから、複数種の音高夫々に基づいて波形データを出力しているといえる。
波形データを出力することを、記憶させた波形データを読み出すことにより実施することは常套手段であるから、構成bの成分音発生器21は、上述した複数種の音高夫々に基づいて波形データを出力する際に、読み出しを行っているといえる。
よって、構成bと構成Cは、「演奏指示により音高が指定されたにかかわらず、複数種の音高夫々に基づ」いて「波形データを読み出す波形データ読出し部」である点で共通する。

しかしながら、読み出す波形データについて、構成Cは、構成Bで生成された「複数組のコピー波形データ」であるのに対して、構成bは、複数の成分音発生器がそれぞれ出力する成分音信号である点で、両者は相違する。
さらに、波形データの読み出し方について、構成Cは、「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「位相を合わせて」読み出すのに対して、構成bは、そのような読み出しを行わない点で、両者は相違する。

(ウ)構成Dについて
構成f1のオンイベントは、当該オンイベントに係るキーナンバデータKNを有するものであり、構成eによると、キーナンバデータKNは音高である。また、構成aによると、楽音の発音及び消音を指示するキーボード11の各キーのオンイベントであるから、構成f1のオンイベントは、演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときになされるものである。
構成f1のエンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETが、オンイベントがあると対応するエンベロープ発生器24にストアされ、構成eによると、エンベロープスピードデータES及びエンベロープタイムデータETによってエンベロープ信号が演算される。

構成dの108個の乗算器22は、各成分音発生器21から読み出された成分音信号に、オンイベントに応じたエンベロープ発生器24からの各エンベロープ信号をそれぞれ乗算合成し、各成分音信号のそれぞれのレベル/合成割合を「0」から所定値まで個別に変化制御するものである。

よって、構成Dと構成dは、「前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して波形データ読出し部から読み出された」「波形データを出力させるように制御する出力制御部」である点で共通する。

しかしながら、上記(イ)において検討したように「波形データ読出し部」が読み出す波形データが相違することに従い、「出力制御部」が出力させるように制御する波形データについて、構成Dは、構成Cで読み出された「前記コピー波形データ」であるのに対して、構成dは、各成分音発生器から読み出された成分音信号である点で、両者は相違する。

(エ)構成Eについて
構成gの成分音合成装置は、構成Eの楽音発生装置と一致する。

(オ)まとめ
以上(ア)?(エ)から、本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
(C’)演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づき波形データを読み出す波形データ読出し部と、
(D’)前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して波形データ読出し部から読み出された波形データを出力させるように制御する出力制御部と、
(E)を備える楽音発生装置。

(相違点1)
本件訂正発明1は、「(A)ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部」、及び、「(B)前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部」とを備えるのに対して、甲1発明はそのような構成を備えない点。

(相違点2)
波形データ読み出し部で読み出し、出力制御部で出力を制御する波形データについて、本件訂正発明1は、構成Bで生成された「複数組のコピー波形データ」であるのに対して、甲1発明は、複数の成分音発生器がそれぞれ出力する成分音信号である点。

(相違点3)
波形データ読み出し部における波形データの読み出し方について、本件訂正発明1は、「複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で」「位相を合わせて」読み出すのに対して、甲1発明は、そのような読み出しを行わない点。

イ 判断
(ア)特許法第29条第1項第3号について
上記ア(オ)のとおり、本件訂正発明1と甲1発明は、相違点1?相違点3において相違する。
よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)特許法第29条第2項について
上記ア(オ)の相違点1及び2について検討する。

甲1記載事項は、甲第1発明と同様の課題を解決するための別の実施例であり、甲1発明の楽音信号発生部に甲1記載事項を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
しかしながら、甲1発明の楽音信号発生部に甲1記載事項を採用した場合、甲1記載事項のドローバー回路により音色の波形を変更するという技術思想を採用して、甲1発明における各音色に対応するトーンナンバデータ(TN)を甲1記載事項のドローバー回路によって選択する構成とすることは当業者が想到し得たとしても、本件訂正発明1の構成Bのように、ドローバー部が生成した混合波形データをコピーして複数組のコピー波形データを生成し、構成C及び構成Dのように、その複数組のコピー波形データを読み出して出力する構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
そして、本件訂正発明1は、そのような構成を備えることで、「混合されて放音された楽音の音量の変動をなくすとともに、ノイズの発生を抑制する」(【0009】)という有利な効果を有するものである。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
発明の詳細な説明の【0005】及び【0024】によれば、本件訂正発明1が解決しようとする課題は、押鍵タイミング次第で、既に発音されている楽音波形との位相関係が変わり、同じ押鍵の順番でもタイミング次第で、押鍵された各鍵に対応する各楽音波形同士が共鳴することにより、それらが混合されて放音された楽音の音量が大きくなったり小さくなったりしてしまうというものである。
そして、発明の詳細な説明の段落0024には、以下の事項a?gが記載されている。
(a)本実施形態は、#0?#78の79組のOSC401を使用する。
(b)#0?#78の各OSC401が読出しを行う波形データとして、1つの波形データ304ではなく、波形データ304から個別にコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305をRAM103に記憶させて用いる。
(c)#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305から位相(読出し開始アドレス)を合わせて常に読出しを行って、#0?#78の各波形データを生成している。
(d)この上で、各音高に対応する鍵盤105上の鍵が押鍵されていないときは、CPU101が、各OSC401の後段に接続される各EG402におけるゲインを0にして、各波形データが出力されないように制御する。
(e)そして、鍵盤部104上の各音高に対応する鍵が押鍵されたタイミングで、該当するEG402がそれに接続さるOSC401が出力している波形データへの振幅エンベロープの乗算を開始する。
(f)このような処理により、各EG402が発音出力した各波形データをMIXER403で混合して得られる楽音波形デ-タ404では、各音高ごとの各波形データの位相が常に揃った状態となる。
(g)従って、押鍵タイミング次第で、既に発音されている他の波形データとの位相関係が変わり、出力される楽音波形デ-タ404の音量が大きくなったり小さくなったりしてしまうという課題を克服することが可能となる。

事項cによると、#0?#78の各OSC401は、もともと同一の波形データ304からコピーされた#0?#78の各コピー波形データ305を、位相(読出し開始アドレス)を合わせて、読み出している。
そして、事項f、gによると、事項cの処理を含む処理を行うことで、本件訂正発明1の課題が解決することができるとされている。

そうすると、少なくとも、読み出す波形データに関して、一つのデータのコピーデータであること(構成B)、及び波形データを読み出す際に、位相を合わせて読み出すこと(構成C)が、発明の課題を解決するための手段であると認められる。

よって、本件訂正発明1は、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえ、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

3.2 本件訂正発明2?本件訂正発明6について
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
本件訂正発明5及び本件訂正発明6は、本件訂正発明1の構成A?Dと同様の構成B1?E1、または、構成B2?E2を有するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件訂正発明2?本件訂正発明4は、本件訂正発明1を直接的または間接的に引用するものであって、本件訂正発明1からさらに限定を加えるものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正発明5及び本件訂正発明6は、本件訂正発明1の構成B及びCと同様の構成C1及びD1、または、構成C2及びD2を有するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。
また、本件訂正発明2?本件訂正発明4は、本件訂正発明1を直接的または間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
令和2年2月20日付けで特許権者に通知した取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について、以下検討する。

(1)請求項1?6に係る発明に対する明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
異議申立人の申立理由は、請求項1に係る発明の各発明特定事項は、発明の課題との関係で、どのような技術的意義を有しているのか、当業者にとって理解することができず、また、発明特定事項が不足している(請求項2?6についても同様)、というものである。
しかしながら、本件訂正発明1は、上記第4の3.1(2)に示すとおり、発明の課題を解決するものと認められるから、技術的意義が明確であるといえ、また、発明特定事項の不足も認められない。
よって、本件訂正発明1は、明確性の要件を満たしている。
本件訂正発明2?6についても同様である。

(2)請求項1?6に係る発明に対する実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
異議申立人の申立理由は、請求項1に係る発明の読出し部は、「複数種の音高夫々に基づいて波形データを読み出す」としか記載されていないところ、コピーでなくそれぞれが異なっている波形データを読み出すものや、位相や周波数が異なるデータを読み出すもの、さらには、位相を合わせずに読み出すものも含まれており、そのような発明については当業者が実施することができるように明細書に記載されていない(請求項2?6についても同様)、というものである。
しかしながら、上記第4の3.1(2)に示すとおり、本件訂正発明1の「波形データ読出し部」は、一つのデータのコピーデータである波形データを位相を合わせて読み出すものであり、発明の詳細な説明には、当該「波形データ読み出し部」について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
本件訂正発明2?6についても同様である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たしている。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項〔1?4〕、5、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項〔1?4〕、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するドローバー部と、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するコピー部と、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出す波形データ読出し部と、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記波形データ読出し部から読み出された前記コピー波形データを出力させるように制御する出力制御部と、
を備える楽音発生装置。
【請求項2】
前記ドローバー部は、基本波形データ及び当該基本波形の倍音波形データ夫々を生成する複数の波形データ生成部と、前記複数の波形データ生成部から生成された波形データ夫々に対して、ドローバー操作子によって指定された係数を乗算して出力する複数の乗算器と、前記複数の乗算器夫々の出力を混合して、前記混合波形データとして出力する混合器と、を備え、
前記コピー波形データの出力中における新たなドローバー操作に応じて前記ドローバー部により新たな混合波形データが生成された場合に、前記コピー部は、前記波形データ読出し部による読み出し対象のアドレス範囲内を書き換えずに、前記読み出し対象のアドレス範囲外のアドレス範囲を、前記新たな混合波形データに基づく新たなコピー波形データで書き換える
ことを特徴とする請求項1に記載の楽音発生装置。
【請求項3】
前記出力制御部は、前記いずれかの音高が指定されるとともにベロシティが指定された場合、当該指定されたベロシティに基づいて前記コピー波形データの出力を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の楽音発生装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の楽音発生装置と、
前記複数の音高のいずれかを指定する複数の操作子と、
前記楽音発生装置から出力される波形データに対応する楽音を生成するサウンドシステムと、
を備えることを特徴とする電子楽器。
【請求項5】
波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられる楽音発生方法であって、前記楽音発生装置は、
ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成し、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成し、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出し、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御する、楽音発生方法。
【請求項6】
波形データを読み出す波形データ読出し部と、前記波形データを出力させるように制御する出力制御部と、を備える楽音発生装置に用いられるコンピュータに、
ドローバー操作に応じて、混合波形データを生成するステップと、
前記混合波形データの生成に応じて前記混合波形データをコピーすることにより、複数組のコピー波形データを生成するステップと、
演奏指示により音高が指定されたかにかかわらず、複数種の音高夫々に基づく読み出し速度で前記複数組のコピー波形データの位相を合わせて前記複数組のコピー波形データを読み出すステップと、
前記演奏指示によりいずれかの音高が指定されたときに、当該指定された音高に対応して前記読み出されたコピー波形データを出力させるように制御するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-25 
出願番号 特願2015-60223(P2015-60223)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G10H)
P 1 651・ 536- YAA (G10H)
P 1 651・ 537- YAA (G10H)
P 1 651・ 113- YAA (G10H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上田 雄  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 曽我 亮司
樫本 剛
登録日 2019-05-17 
登録番号 特許第6524742号(P6524742)
権利者 カシオ計算機株式会社
発明の名称 楽音発生装置、方法、およびプログラム  
代理人 大菅 義之  
代理人 天田 昌行  
代理人 天田 昌行  
代理人 大菅 義之  
代理人 青木 宏義  
代理人 矢野 直樹  
代理人 矢野 直樹  
代理人 青木 宏義  

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