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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1368112
異議申立番号 異議2020-700531  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-29 
確定日 2020-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6636141号発明「二次電池の正極形成用組成物、及びこれを用いて製造した二次電池用正極並びに二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6636141号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6636141号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成29年(2017年) 3月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年 3月24日大韓民国、2017年 3月23日大韓民国)を国際出願日とする出願であって、令和 1年12月27日に特許権の設定登録がされ、令和 2年 1月29日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 7月29日付けで、請求項1?15(全請求項)に対し、特許異議申立人である安藤宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明15」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
二次電池の正極形成用組成物であって、
正極活物質、導電材、及び分散剤を含んでなり、
前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で、比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である炭素系物質を含んでなるものであり、
前記分散剤は、前記導電材に導入されて導電材-分散剤複合体を形成させるものであり、
前記分散剤が、α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴムであり、
前記導電材-分散剤複合体は、粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μmであるものである、二次電池の正極形成用組成物。
【請求項2】
前記導電材-分散剤複合体は、粒度分布のD_(90)が2.0μmから5.0μmであるものである、請求項1に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項3】
前記炭素系物質は、1次粒子が組立てられてなる2次粒子であるものである、請求項1又は2に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項4】
前記炭素系物質は、カーボンブラックである、請求項1?3の何れか一項に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項5】
前記分散剤は、ゴムの総重量に対して水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を20重量%から50重量%で含んだ部分水素化ニトリルゴムを含んでなるものである、請求項1?4の何れか一項に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項6】
前記部分水素化ニトリルゴムは、α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位をゴムの総重量に対して20重量%から50重量%で含んだものである、請求項5に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項7】
前記部分水素化ニトリルゴムは、
下記化学式(1)の構造の繰り返し単位、
下記化学式(2)の構造の繰り返し単位、
下記化学式(3)の構造の繰り返し単位、及び
α,β-不飽和カルボン酸のエステル由来構造単位、を含んだアクリロニトリル-ブタジエンゴムであり、
前記アクリロニトリル-ブタジエンゴムは、下記化学式(3)の構造の繰り返し単位をゴムの総重量に対して20重量%から50重量%で含んでなるものである、請求項5又は6に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【化1】

【請求項8】
前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000g/molから700,000g/molであるものである、請求項5?7の何れか一項に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項9】
前記分散剤は、前記導電材100重量部に対して10重量部から50重量部で含んでなるものである、請求項1?8の何れか一項に記載の二次電池の正極形成用組成物。
【請求項10】
請求項1?9の何れか一項に記載の二次電池の正極形成用組成物の製造方法であって、
溶媒中で導電材及び分散剤を混合した混合物をミリングして導電材分散液を準備する段階、及び
前記導電材分散液に正極活物質を添加して混合する段階を含んでなり、
前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で、比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である炭素系物質を含んでなり、
前記導電材分散液は、前記分散剤が導電材に導入された導電材-分散剤複合体を含んでなり、
前記導電材-分散剤複合体は、粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μmであるものである、製造方法。
【請求項11】
前記ミリングは、直径が0.5mmから2mmであるビーズミルを導電材分散液の総重量に対して50重量%から90重量%の充填率で充填して行うものである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ミリングは、前記混合物を6m/sから12m/sの周速で回転させて行うものである、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ミリングは、前記混合物を0.5kg/minから1.5kg/minの吐出速度で吐出させて行うものである、請求項10?12の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1?9の何れか一項に記載の正極形成用組成物を用いて製造された、二次電池用正極。
【請求項15】
請求項14に記載の正極を備えてなる、リチウム二次電池。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1?11号証を提出して、以下の申立理由1?4により、請求項1?15に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性)
本件発明1?15は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1?15は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?9号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(進歩性欠如)
本件発明1?15は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第4?11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(進歩性欠如)
本件発明1?10、14、15は、甲第3号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第4?7号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2015-133302号公報
甲第2号証:特開2014-19619号公報
甲第3号証:特開2004-281096号公報
甲第4号証:久英之、「総説 導電性カーボンブラックの現状」、日本印刷学会誌、第44巻、第3号、2007年、p133?143
甲第5号証:特開2016-28109号公報
甲第6号証:特開2013-89575号公報
甲第7号証:特表2013-538263号公報
甲第8号証:石井利博、「ビーズミルによるナノ粒子分散技術」、コンバーテック、2014年12月、p74?77
甲第9号証:庫本睦雄、「塗料による分散」、J.Jpn.Soc.Colour Mater.、78〔4〕、2005年、p191?196
甲第10号証:A.Peigney外4名、“Specific surface area of carbon nanotubes and bundles of carbon nanotubes”、Carbon、vol39、2001、p507?514
甲第11号証:特開2005-203244号公報

(以下、甲第1号証?甲第11号証を、順に「甲1」?「甲11」という。)

第4 当審の判断
1 甲号証の記載
(1)甲1の記載
ア 甲1には、「二次電池正極用スラリーの製造方法、二次電池用正極の製造方法、及び二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア 「【請求項1】
導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、
前記導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、
前記導電材ペースト2と正極活物質とを混合する第三の工程と、
を含み、
前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有してなり、
前記第二結着樹脂がフッ素系重合体よりなる、二次電池正極用スラリーの製造方法。
・・・
【請求項3】
前記第一結着樹脂がニトリル基含有単量体単位を2質量%以上50質量%以下含む、請求項1又は2に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位の少なくとも一方を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載の製造方法により得られた二次電池正極用スラリーを、集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して正合材層を形成する工程を含むことを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
【請求項7】
正極、負極、セパレータ及び電解液を有する二次電池であって、
前記正極が、請求項6に記載の二次電池用正極の製造方法で得られた二次電池用正極である二次電池。」

1イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記従来の正極用スラリーを用いて作製した二次電池には、サイクル特性及び低温特性を更に向上させるという点において未だに改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させて、二次電池の性能を向上させることができる二次電池正極用スラリーの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させて、二次電池の性能を向上させることができる二次電池用正極の製造方法を提供することを目的とする。
更に、本発明は、サイクル特性及び低温特性に優れる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、上記従来技術にかかる正極用スラリーでは、正極用スラリーから形成した正極合材層において導電材間で良好な導電ネットワークが形成されない虞があること、および、導電材間の導電ネットワークが不十分な二次電池は、特に、低温での容量劣化を抑制できない虞があることを新たに見出した。
【0012】
そこで、本発明者は検討を重ね、正極用スラリーの製造条件等を調整することにより、導電材間で良好な導電ネットワークを形成することに着想した。そして、本発明者は更に検討を重ね、特定のバインダーを使用した特定の製造工程により二次電池正極用スラリーを製造することで、導電材間での良好な導電ネットワークの形成を可能にし、得られる二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。」

1ウ 「【0022】
(二次電池正極用スラリーの製造方法)
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、導電材と、第一結着樹脂及び第二結着樹脂を含むバインダーと、正極活物質と、場合によっては溶剤とを含む正極用スラリーの製造に用いられる。そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、第一の工程で得た導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、第二の工程で得た導電材ペースト2と、正極活物質とを混合する第三の工程と、を含む。・・・」

1エ「【0023】
<第一の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第一の工程では、導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る。以下、第一の工程について詳細に説明する。
【0024】
<<導電材>>
導電材は、正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる導電材としては、特に限定されることなく、既知の導電材を用いることができる。具体的には、導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、二次電池の電池容量を維持しつつレート特性を十分に向上させる観点からは、導電材として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラックを用いることが好ましい。
【0025】
そして、導電材の配合量は、後述する正極活物質100質量部あたり、1質量部以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましく、2質量部以上であることが更に好ましく、4質量%以下であることが更に好ましい。導電材の配合量が少なすぎると、正極活物質同士の電気的接触を十分に確保することができず、二次電池のレート特性を十分に向上させることができない場合がある。一方、導電材の配合量が多すぎると、二次電池正極用スラリーの粘度安定性が低下する虞があると共に、二次電池用正極中の正極合材層の密度が低下し、二次電池を十分に高容量化することができないおそれがある。」

1オ「【0026】
<第一のバインダー>
第一のバインダーは、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法を用いて製造したスラリーにより集電体上に正極合材層を形成して製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、正極合材層におけるバインダーは、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも正極活物質同士、正極活物質と導電材、或いは、導電材同士を結着させ、正極活物質等が集電体から脱落するのを防ぐ。
【0027】
そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一のバインダーは、共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有する第一結着樹脂を含むことを必要とする。
このように、第一のバインダーの少なくとも一部を構成する第一結着樹脂が共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有することで、得られる導電材ペースト1及び/又は、かかる導電材ペースト1を用いて得られる二次電池正極用スラリーの安定性を良好なものとすることができる。
なお、第一のバインダーは、第一結着樹脂を主成分として含んでいれば、第一結着樹脂以外の結着樹脂を含んでいてもよい。
【0028】
ここで、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、ニトリル基含有単量体単位を含むことが好ましい。二次電池のサイクル特性及び低温特性を更に向上させることができるからである。
さらに、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。導電材ペーストの経時安定性を一層優れたものとすることができるからである。
さらに、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位の少なくとも一方、並びに(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましい。これらの単量体単位を共に有することで、二次電池のサイクル特性及び低温特性を一層向上させることができるからである。
なお、第一結着樹脂は、上述した単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。以下、第一結着樹脂の各単量体単位を提供する単量体についてそれぞれ説明する。
【0029】
[共役ジエン単量体及び1-オレフィン単量体]
共役ジエン単量体は、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物である。これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる また、1-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが挙げられる。
・・・
【0035】
[ニトリル基含有単量体]
ニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。そして、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なかでも、第一結着樹脂の結着力を高め、電極の機械的強度を高める観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。」

1カ 「【0038】
ここで、第一結着樹脂としては、共役ジエン単量体と、ニトリル基含有単量体とを含む単量体組成物を重合して得た重合体に、水素添加したものを用いることが好ましい。具体的には、1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)を第一結着樹脂として使用することが好ましい。ニトリルゴム(HNBR)に対する水素添加は、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号参照)により実施することができる。・・・」

1キ 「【0049】
<<第一結着樹脂の割合>>
第一の工程で配合する第一のバインダー中の第一結着樹脂の割合は、導電材ペースト1中に含まれる第一のバインダーを構成する結着樹脂の固形分量を100質量%として、50質量%以上である必要があり、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。最も好ましくは、第一のバインダー中の第一結着樹脂の割合は100質量%である。第一のバインダー中の第一結着樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、第一結着樹脂が導電材に十分に吸着し、導電材ペースト1及び導電材ペースト2の分散安定性が向上する。そして、かかる導電材ペースト1及び導電材ペースト2を用いて製造した二次電池は、低温特性及びサイクル特性に優れる。
なお、第一のバインダーを構成する結着樹脂として使用し得る第一結着樹脂以外の結着樹脂としては、特に限定されることなく、既知の結着樹脂や、後述する第二結着樹脂などが挙げられる。
【0050】
また、導電材ペースト1中の導電材量を100質量%とした場合、導電材ペースト1中の第一結着樹脂の配合量は、5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、100質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。第一結着樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、第一結着樹脂が導電材に十分に吸着し、導電材ペースト1の分散安定性が向上する。そして、かかる導電材ペースト1を用いて製造した二次電池は、低温特性及びサイクル特性に優れる。
【0051】
<第一のバインダーの配合量>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、第一の工程及び第二の工程において、それぞれ第一のバインダー及び第二のバインダーを添加する。第一及び第二のバインダーの合計配合量は、後述する第三の工程で添加する正極活物質の配合量を100質量部とした場合に、1質量部以上、5質量部以下であることが好ましく、2質量部以上、4質量部以下であることが更に好ましい。バインダーの配合量が少なすぎれば、正極の強度が損なわれ、多すぎると正極の抵抗が大きくなりすぎるからである。
そして、第一及び第二のバインダーの合計配合量に対する第一のバインダーの配合割合は、バインダーの合計配合量を100質量部として、10質量部以上90質量部以下が好ましい。」

1ク 「【0054】
<<混合方法>>
上述の導電材、第一のバインダー、及び場合によっては溶剤を、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第一の工程で混合して導電材ペースト1を得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。」

1ケ 「【0056】
<第二の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程では、第一の工程で調製した導電材ペースト1に、第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る。以下、第二の工程について詳細に説明する。
【0057】
<第二のバインダー>
第二のバインダーも第一のバインダーと同様に、集電体上に正極合材層を形成して製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持する。
ここで、第二のバインダーは、フッ素系重合体よりなる第二結着樹脂を含有することを必要とする。」

1コ 「【0077】
<第三の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第三の工程では、第二の工程で調製した導電材ペースト2と正極活物質と場合によっては溶剤とを混合する。以下、第三の工程について詳細に説明する。以下、本発明の二次電池正極用スラリーの一例として、リチウムイオン二次電池について詳述する。
・・・
【0083】
<<混合方法>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第三の工程で、導電材ペースト2及び正極活物質を混合して、正極用スラリーを得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。 このように、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法において、第三の工程にて正極活物質を混合することで、二次電池正極用スラリー中における正極活物質の分散性を向上させることができる。また、第二の工程にて得られる導電材ペースト2中において、異なる性状を有する結着樹脂が予め均一に混合されている為、第三の工程において正極活物質を混合することで、スラリーの経時安定性が向上する。また、導電材に対して結着樹脂が予め吸着している状態で正極活物質と混合することで、分散工程中に正極活物質の近傍にバインダーを介して導電材が配位することで、得られる二次電池の出力特性が向上する。」

1サ 「【0097】
<導電材ペーストの経時安定性>
導電材ペースト2を15mlのガラス瓶中で一週間静置する。そして、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求める。下記基準で分散性を判断する。分散粒子径が1次粒子(バインダーが吸着していない状態での導電材の体積平均粒子径)に近いほど凝集性が小さく分散が進んでいることを示している。 A:2μm未満
B:2μm以上5μm未満
C:5μm以上10μm未満
D:10μm以上15μm未満
E:15μm以上」

1シ 「【0100】
(実施例1)
<第一結着樹脂A1の製造>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート(BA)35部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)18.6部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン(BD)46.4部を圧入し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、共役ジエン単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及びニトリル基含有単量体単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
なお、ヨウ素価の測定手順は以下の通りである。まず、重合体の水分散液100gを、メタノール1リットルで凝固した後、60℃で12時間真空乾燥し、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
【0101】
得られた重合体に対してイオン交換水を添加して全固形分濃度を12質量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
【0102】
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0103】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して結着樹脂の水分散液を得た。また、この結着樹脂の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、水素添加した重合体よりなる第一結着樹脂A1のNMP溶液を得た。」

1ス 「【0127】
【表1】



イ 甲1に記載された事項
(ア)上記1イによれば、甲1は、二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させることができる二次電池正極用スラリーの製造方法を提供することを目的としており(【0010】)、当該製造方法によって製造された二次電池正極用スラリーは、導電材間での良好な導電ネットワークの形成を可能にし、得られる二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させることができる(【0012】)。

(イ)上記1ア、1ウによれば、上記(ア)の製造方法によって製造される「二次電池正極用スラリー」とは、「導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーと、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーと、正極活物質と、場合によっては溶剤とを含む」ものである(【請求項1】、【0022】)。

(ウ)上記1エによれば、正極用スラリーに含まれる「導電材」として、二次電池の電池容量を維持しつつレート特性を十分に向上させる観点から、「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」を用いることが好ましく(【0024】)、正極用スラリーに含まれる「導電材」の配合量については、正極活物質100質量部あたり、1質量部以上、5質量%以下であることが好ましいとされている(【0025】)。

(エ)上記1オによれば、正極用スラリーに含まれる「第一のバインダー」は、「共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有する第一結着樹脂を含む」ことを必要としており(【0027】)、二次電池のサイクル特性及び低温特性を更に向上させることができるので、第一結着樹脂は、「ニトリル基含有単量体単位」を含むことが好ましく(【0028】)、上記「共役ジエン単量体」として、「1,3-ブタジエン」が好ましく(【0029】)、「ニトリル基含有単量体」としては、「アクリロニトリル」がより好ましい(【0035】)とされている。

(オ)上記1カによれば、上記(エ)の説明を踏まえて、「第一のバインダー」に含まれる「第一結着樹脂」として好ましいとされている具体例は、「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」である(【0038】)。

(カ)上記1キによれば、導電材ペースト1中の導電材量を100質量%とした場合、導電材ペースト1中の第一結着樹脂の配合量が、5質量%以上、100質量%以下の範囲内とすることで、第一結着樹脂は導電材に十分に吸着する(【0050】)。

(キ)上記1ケによれば、「第二のバインダー」は「フッ素系重合体よりなる第二結着樹脂」を含有することを必要としている(【0057】)。

(ク)上記1キによれば、「第一及び第二のバインダー」の「合計配合量」は、正極活物質の配合量を100質量部とした場合に、1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい(【0051】)。

(ケ)したがって、上記(ア)?(ク)の検討に基づいて、含有される各成分について好ましいとされるものに注目すると、甲1には次の「二次電池正極用スラリー」が記載されているものと認められる。

「二次電池正極用スラリーであって、
導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーと、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーと、正極活物質と、場合によっては溶剤を含み、
前記導電材は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラックであり、
前記第一結着樹脂は、1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)であり、
前記第二結着樹脂は、フッ素系重合体であり、
前記導電材の配合量は、正極活物質100質量部あたり、1質量部以上、5質量%以下であり、
前記第一及び第二のバインダーの合計配合量は、正極活物質の配合量100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下であり、
前記導電材量に対する第一結着樹脂の配合量を5質量%以上、100質量%以下の範囲とすることで、第一結着樹脂が導電材に十分に吸着している、二次電池正極用スラリー。」(以下「甲1発明」という。)

(コ)上記1ア、1エ、1ケによれば、甲1発明である二次電池正極用スラリーの製造方法とは、
・導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、
・前記導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、
・前記導電材ペースト2と正極活物質と場合によっては溶剤とを混合する第三の工程と、
を含むものである(【請求項1】、【0023】、【0056】、【0077】)。

(サ)上記1クによれば、前記第一の工程において、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いて混合することによって、導電材ペースト1を得ることができる(【0054】)。

(シ)したがって、上記(コ)?(サ)の検討によれば、甲1には次の「二次電池正極用スラリーの製造方法」が記載されているものと認められる(以下「甲1方法発明」という。)。

「甲1発明の二次電池正極用スラリーの製造方法であって、
・導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、
・前記導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、
・前記導電材ペースト2と正極活物質と場合によっては溶剤とを混合する第三の工程と、
を含み、
前記第一の工程において、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いて混合することによって、導電材ペースト1を得る、二次電池正極用スラリーの製造方法。」

(2)甲2の記載
甲2には、「微細炭素分散液とその製造方法、及びそれを用いた電極ペースト並びにリチウムイオン電池用電極」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
2ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が5?20nmかつDBP吸油量が250?360ml/100gである微細炭素繊維と、分散媒と、分散剤からなる微細炭素繊維分散液。・・・
【請求項3】
前記微細炭素繊維が、炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さく、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2?30個積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head-to-Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成している微細炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の微細炭素繊維分散液。
・・・
【請求項7】
前記分散剤が、非イオン性分散剤であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微細炭素繊維分散液。
【請求項8】
前記非イオン性分散剤が、ポリマー系分散剤であることを特徴とする請求項7に記載の微細炭素繊維分散液。
【請求項9】
前記ポリマー系分散剤の重量平均分子量が8000?50000の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の微細炭素繊維分散液。
【請求項10】
前記微細炭素繊維を0.1?20wt%含むことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の微細炭素繊維分散液。
【請求項11】
分散された微細炭素繊維のメジアン径が0.1μm?3μmであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の微細炭素繊維分散液。
・・・
【請求項13】
マグネシウムが置換固溶したコバルトのスピネル型酸化物を含む触媒上に、CO及びH2を含む混合ガスを供給して反応させて製造された平均直径が5?20nmかつDBP吸油量が250?360ml/100gである微細炭素繊維と、分散媒と、分散剤とを混合し、超音波処理及び/又は撹拌・粉砕処理を行なうことを特徴とする微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項14】
前記攪拌・分散処理が、メディア型湿式分散装置を用いた処理であることを特徴とする請求項13に記載の微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項15】
請求項1?11のいずれか1項に記載の前記微細炭素繊維分散液と、活物質及びバインダを含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項16】
請求項15に記載の前記電極ペーストを用いて作成されることを特徴とするリチウムイオン電池用電極。」

2イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、微細炭素繊維分散液及びその製造方法に関する。さらに微細炭素繊維分散液を用いた電極ペースト及び微細炭素被覆活物質に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、微細炭素繊維が分散媒に高濃度かつ均一に分散した微細炭素繊維分散液の提供を可能にし、さらに前記微細炭素繊維分散液より得られる電極ペースト及び微細炭素被覆活物質を得ることが可能な新しい技術を提供することにある。」

2ウ 「【0058】
本発明において、微細炭素繊維と分散媒と分散剤を分散混合する方法は、特に限定されない。例えば、分散媒に分散剤を溶解した分散剤溶液に、微細炭素繊維を投入し、超音波処理や、攪拌方法といった分散処理を行うことによって分散混合することができる。また、微細炭素繊維と分散剤を混合後、分散媒を加えて希釈し、分散処理をすることもできる。超音波処理としてはバス型やプローブ型のソニケータを用いることができる。攪拌方法としては、ホモミキサー、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディア型湿式分散装置や、ジェットミル等の攪拌方法を使用することができる。微細炭素繊維を1重量%以下の低濃度に分散させる場合は、特に超音波処理が好適である。超音波処理の処理時間は、微細炭素繊維の添加量、用いる微細カーボン分散剤の種類及び添加量によって適宜決められるが、概ね10分?5時間の処理が好ましく、10分?3時間の処理がより好ましい。また、微細炭素繊維を1重量%以上の高濃度に分散させる場合は、アトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディア型湿式分散装置による処理が特に好適である。メディア型湿式分散装置による処理時間は処理方法、微細炭素繊維の添加量、微細カーボン分散剤の種類及び添加量によって適宜決められるが、概ね30分?50時間の処理が好ましい。処理時間が短すぎると微細カーボンの分散が不十分となる恐れがある。また処理時間が長すぎると過度のエネルギーにより微細カーボンを傷付ける恐れがある。
【0059】
本発明の微細炭素繊維分散液において、微細炭素繊維の配合量は、微細炭素繊維が均一に分散している限り特に限定されるものではないが、一般的に0.1wt%?20wt%までの範囲で分散性や用途に応じて適宜選択される。本発明の微細炭素繊維分散液は分散性が非常に高い為、2wt%以上、より好ましくは5wt%以上の高濃度での分散が可能である。微細炭素繊維の濃度が20wt%を超える場合は分散液の粘度が高すぎるため、分散処理が困難となる。
【0060】
本発明の微細炭素繊維分散液において、分散剤の添加量は、微細炭素繊維の配合量、分散剤の種類、及び用途に応じて適宜定めることができるが、一般には微細炭素繊維の重量に対して10%以上、分散媒の重量に対して20%以下であれば、微細炭素繊維を十分に分散させることができる。微細炭素繊維の重量に対して10%以下であると、微細炭素繊維表面に吸着し、分散剤として働く分散剤の量が不足するために、一部の微細炭素繊維は凝集して多くの沈殿物が生じたり、分散液の粘度が高くなったりする危険性がある。また、分散媒の重量に対して20%以上であると、分散剤の分散媒中での分子運動が困難になるために、微細炭素繊維表面に十分な量の分散剤が吸着することが困難となり、分散剤溶液の粘度が高すぎて機械的分散が困難となる。導電性を付与する為の分散液として塗膜、導電助剤、他のポリマーに添加する場合は分散性を保つ範囲で分散剤の添加量を少なくする事が好ましい。」

2エ 「【0062】
本発明の微細炭素繊維分散液中の分散された微細炭素繊維のサイズは特に限定されるものではないが、微細炭素繊維一本一本が凝集する事なく孤立分散している事が好ましく、後述する測定方法でのメジアン径が0.1?3μmである事が好ましく、0.1?2μmであることが特に好ましい。メジアン径が3μm以下であると塗布した際に光沢を示しやすく、分散性良好な塗膜が得られる。メジアン径が大きすぎる場合は微細炭素繊維の凝集が多く、孤立分散出来ていない為、高い光沢を示す塗膜は得られない。
【0063】
本発明の微細炭素繊維分散液は、電池の電極への導電性を付与するための導電助剤として好適に利用する事ができる。導電助剤として利用する際は、微細炭素繊維分散液、活物質、バインダを直接混合して電極ペーストを作成しても良いし、微細炭素繊維分散液と活物質を配合後、常圧または減圧下で乾燥・熱処理させることにより、前記活物質が微細炭素繊維によって被覆された微細炭素繊維被覆活物質を作成し、バインダ樹脂及び分散媒と混合して電極ペーストを作成しても良い。微細炭素繊維被覆活物質を作成する場合、電気特性の向上を図る為に分散剤を焼失させることが好ましく、これによって活物質が微細炭素繊維に被覆された微細炭素繊維被覆活物質が得られる。
【0064】
本発明の電極ペーストに用いる事が出来る電極活物質は特に限定されるものではないが、好ましくは10℃?60℃の温度範囲で混合することにより、電極ペーストを好適に調製することができる。電極活物質は公知のものを好適に用いることができるが、リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、またはケイ素若しくはスズを含む合金粉末が好ましい。電極ペースト中への微細炭素繊維分散液の配合量は、特に限定されないが、通常、電極活物質の固形分に対して微細炭素繊維の固形分で、0.3?10wt%添加する事が好ましい。微細炭素繊維が少なすぎると、集電体に形成された活物質同士の導電性が発現できず、不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。また、微細炭素繊維の量が多すぎると、相対的に活物質量が減る為、結果として電池の容量が低下する。
【0065】
本発明の電極ペーストに用いる事ができるバインダは特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン・・・などが挙げられる。これらバインダは、単独使用または2種以上併用することもできる。
【0066】
バインダの配合量は特に限定されないが、通常、電極活物質の固形分に対して0.3wt%?25wt%、より好ましくは1wt%?10wt%以下である。バインダが少なすぎると塗工特性が不十分であったり、電極組成物の結着が弱く、集電体から剥がれてしまったりする場合があり、バインダが多すぎると電池特性が低下する場合がある。なお、電極ペースト中には、必要に応じて界面活性剤や粘度調整剤などの添加剤を加えることができる。
【0067】
本発明の電極ペーストは、各成分を配合後、ビーズミルやボールミルなどの公知の分散混合装置によって混合させることで得られる。混合させる方法は特に限定されないが、アトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディア型湿式分散混合装置による処理や、プラネタリーミキサー、トリミックス、フィルミックス等のメディアレス分散混合装置を好適に用いる事が出来る。
【0068】
本発明の電極ペーストは、アルミ箔や銅箔などの公知の集電体に塗布し、乾燥、圧密化させることでリチウムイオン電池用電極として好適に利用できる。塗布及び乾燥方法は特に限定されず、公知の方法を用いる事ができる。本発明のリチウムイオン電池用電極は、均一に分散した微細炭素繊維が活物質を均一に覆っている為、少量でも高い導電性の付与が期待できる。またそれぞれの活物質間を微細炭素繊維が繋いでいる為に活物質の高い利用効率が期待でき、充放電時の活物質の膨潤・収縮によっても活物質の孤立が起りにくい為にレート特性やサイクル特性の向上が期待される。」

2オ 「【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例、および各比較例で用いた微細炭素繊維(多層カーボンナノチューブ)について、蛍光X線(XRF)分析(Spectris PANalytical社製蛍光X線分析装置:型式PW2400 を用いて測定)による微量元素含有量およびDBP吸油量を表1に示す。表1における「-」は非検出を示す。微量元素の相違は微細炭素繊維の製造時に用いられる触媒の違いに基づくと推測される。なお、実施例1?3および比較例7における微細炭素繊維は、宇部興産株式会社製AMC(登録商標)を用いた。その他の微細炭素繊維は、市販のものを用いた。
・・・
【0071】
【表1】


【0072】
〔分散液中の微細炭素繊維の粒径測定〕
得られた微細炭素繊維分散液の微細炭素繊維の粒径をレーザー回折法により測定した。測定は堀場製作所製LA-950V2を用いて、体積基準50%径(メジアン径(D50))及び体積基準90%径(D90)を評価の指標とした。
・・・
【0074】
以下、実施例1?3および比較例1?8の微細炭素繊維を用いて得られた分散液の粒径および粘度等を表2に示す。
【0075】
【表2】



2カ 「【0079】
〔実施例2〕
分散剤としてポリビニルピロリドン(PVP)Kollidon 25 を2.5wt%溶解したNMP溶液475gと、実施例1の微細炭素繊維25gとを混合し、浅田鉄工株式会社製ビーズミルPCM-Lを用いて2時間分散処理し、5wt%の微細炭素繊維分散液を得た。メディアは0.3mmのジルコニア(ZrO2)ビーズを用い、周速10m/sで分散処理を行った。DBP吸油量の低い実施例1の微細炭素繊維を用いた分散液は、粒径も小さく分散性が良好で、粘度の低い分散液が得られることがわかった。また、得られた微細炭素繊維分散液をバーコーターでPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、塗膜は光沢を示しており、微細炭素繊維の高い分散性が示された。
【0080】
〔実施例3〕
分散剤としてポリビニルピロリドン(PVP)Kollidon 25を1.25wt%溶解したイオン交換水溶液475gと、実施例1の微細炭素繊維25gとを混合し、浅田鉄工株式会社製循環型ビーズミルPCM-Lを用いて2時間分散処理し、5wt%の微細炭素繊維分散液を得た。メディアは0.3mmのジルコニア(ZrO2)ビーズを用い、周速10m/sで分散処理を行った。得られた分散液の粒径、粘度を表1に示す。溶媒として水を用いた場合もDBP吸油量の低い実施例1の微細炭素繊維を用いた分散液は、粒径も小さく分散性が良好で、粘度の低い分散液が得られることがわかった。また、得られた微細炭素繊維分散液をバーコーターでPETフィルム上に塗布して80℃で1時間乾燥させたところ、塗膜は光沢を示しており、微細炭素繊維の高い分散性が示された。
・・・
【0082】
〔実施例4〕
セルシードC-5H(コバルト酸リチウム、日本化学工業社製、平均粒径5μm)4.65g(固形分93wt%)と、実施例3で得られた微細炭素繊維分散液2g(固形分2wt%)と、ポリフッ化ビニリデンの12wt%NMP溶液を2.08g(固形分5wt%)を10mmのビーズ4個と共に遊星ミル(フリッチュ社製P-5)のジルコニア容器に投入し、室温、ポット回転数350rpmで10分間混合し、リチウムイオン電池正極用電極ペーストを得た。得られた電極ペーストをアルミ箔上に塗布し、常圧、120℃で30分間乾燥後、減圧下、120℃で2時間乾燥した。得られた塗膜を室温下、油圧プレス機を用いて5MPaで5分間圧密化処理し、リチウムイオン電池用電極(正極)を得た。得られた電極の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図3に示す。本発明で得られた微細炭素繊維分散液を用いて作成した電極は、微細炭素繊維が活物質を均一に覆って活物質同士をつないでおり、電極全体にわたって高い導電性が示唆される。このことから、充放電時も活物質同士が孤立する事無く、活物質間の導電性の担保により容量低下の抑制効果が期待される。」

イ 甲2に記載された事項
(ア)上記2イによれば、甲2は、微細炭素繊維が分散媒に高濃度かつ均一に分散した微細炭素繊維分散液より得られる電極ペーストを提供することを目的としている。

(イ)上記2ウによれば、上記(ア)の微細炭素繊維分散液は、分散媒に分散剤を溶解した分散剤溶液に、微細炭素繊維を投入し、アトライター、ビーズミル、サンドミル、遊星ミル等のメディア型湿式分散装置を使用する攪拌方法といった分散処理を行うことによって得ることができる。(【0058】)

(ウ)上記2ウによれば、上記(ア)の微細炭素繊維分散液における分散剤の添加量は、微細炭素繊維の重量に対して10%以上、分散媒の重量に対して20%以下であれば、微細炭素繊維を十分に分散させることができる。そして、分散剤の添加量が上記条件を満たせば、十分な量の分散剤が微細炭素繊維表面に吸着する(【0060】)。

(エ)上記2エによれば、上記(ア)の微細炭素繊維分散液中に分散された微細炭素繊維は、メジアン径が0.1?3μmである事が好ましい(【0062】)。

(オ)上記2エによれば、上記(ア)の微細炭素繊維分散液を導電助剤として利用し、当該微細炭素繊維分散液と活物質を配合し、さらに、バインダ樹脂及び分散媒と混合して電極ペーストを作成することができる(【0063】)。ここで、当該電極ペーストは、各成分を配合後、ビーズミルやボールミルなどの公知の分散混合装置によって混合させることで得ることができる(【0067】)。

(カ)上記2エによれば、電極ペースト中の微細炭素繊維分散液の配合量は、電極活物質(上記(オ)の活物質のこと。以下、「電極活物質」の名称で統一する。)の固形分に対して微細炭素繊維の固形分で、0.3?10wt%添加する事が好ましく(【0064】)、バインダの配合量は、電極活物質の固形分に対して0.3?25wt%が好ましい(【0066】)。

(キ)上記2オによれば、実施例1?3の分散液に用いられた微細炭素繊維は、いずれも同じ多層カーボンナノチューブ(宇部興産株式会社製AMC(登録商標))であり、そのDBP吸油量は330ml/100gである(【表1】)。

(ク)上記2カには、実施例2の微細炭素繊維分散液の製造方法が記載されており、分散剤としてポリビニルピロリドン(PVP)を2.5wt%溶解したNMP溶液475gと、実施例1の微細炭素繊維(上記(キ)のとおり、実施例2の微細炭素繊維と同じ)25gとを混合し、ビーズミル(浅田鉄工株式会社製PCM-L)を用いて2時間分散処理し、5wt%の微細炭素繊維分散液を得ている。ここで、上記分散処理では、メディアとして0.3mmのジルコニア(ZrO2)ビーズを用い、周速を10m/sとしている(【0079】)。

(ケ)実施例2の微細炭素繊維分散液において、分散剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を475g×2.5wt%=11.875gと、分散媒であるNMPを475-11.875=463.125gと、微細炭素繊維を25gとを混合し分散処理しており、上記分散剤の重量(11.875g)は微細炭素繊維の重量(25g)の47.5%(≧10%)、分散媒の重量(463.125g)の2.5%(≦20%)と計算されるから、上記(ウ)の検討を踏まえると、分散剤は微細炭素繊維表面に吸着しているといえる。
また、実施例2の微細炭素繊維分散液において、粒径D50は0.80μmである(【表2】)。

(コ)上記2カには、実施例4のリチウムイオン電池正極用電極ペーストの製造方法が記載されており、実施例3の微細炭素繊維分散液2g(固形分2wt%)と、コバルト酸リチウム(日本化学工業社製セルシードC-5H)4.65g(固形分93wt%)と、ポリフッ化ビニリデンの12wt%NMP溶液2.08g(固形分5wt%)を遊星ミル(フリッチュ社製P-5)によって混合することにより、リチウムイオン電池正極用電極ペーストを得ている(【0082】)。

(サ)上記(コ)の実施例4の製造方法を参照すると、実施例2の微細炭素繊維分散液は、上記(オ)に記載した製造方法によって、リチウムイオン電池正極用電極ペーストとなるものであると解される。したがって、甲2には、実施例2の微細炭素繊維分散液を用いて製造される、次の「リチウムイオン電池正極用電極ペースト」が記載されているものと認められる。

「リチウムイオン電池正極用電極ペーストであって、
分散剤と、微細炭素繊維と、電極活物質と、バインダ樹脂と、分散媒を含み、
前記分散剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)であり、
前記微細炭素繊維は、多層カーボンナノチューブ(宇部興産株式会社製AMC(登録商標))であり、
前記分散媒はNMPであり、
前記微細炭素繊維のDBP吸油量は330ml/100gであり、
前記分散剤を溶解した前記分散媒と前記微細炭素繊維とを混合し分散処理して得られた微細炭素繊維分散液において、分散剤は微細炭素繊維の表面に吸着しており、前記分散液の粒径D50は0.80μmであり、
分散剤の添加量は、微細炭素繊維の重量に対して10%以上、分散媒の重量に対して20%以下であり、
微細炭素繊維の固形分は、電極活物質の固形分に対して0.3?10wt%添加され、
バインダ樹脂は、電極活物質の固形分に対して0.3?25wt%配合されている、リチウムイオン電池正極用電極ペースト」(以下、「甲2発明」という。)

(シ)また、甲2には、次の「リチウムイオン電池正極用電極ペーストの製造方法」が記載されているものと認められる。

「甲2発明のリチウムイオン電池正極用電極ペーストの製造方法であって、
・分散剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を溶解したNMP溶液と、微細炭素繊維である多層カーボンナノチューブ(宇部興産株式会社製AMC(登録商標))とを混合し、ビーズミル(浅田鉄工株式会社製PCM-L)を用いて分散処理することによって、微細炭素繊維分散液を得る段階と、
・導電助剤として利用される前記微細炭素繊維分散液と活物質を配合し、さらに、バインダ樹脂のNMP溶液とをビーズミルやボールミルなどの公知の分散混合装置によって混合して電極ペーストを作成する段階と、
を含むリチウムイオン電池正極用電極ペーストの製造方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)

(3)甲3の記載
甲3には、「リチウム二次電池用正極、その製造方法および前記正極を用いたリチウム二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
3ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤としてポリビニルピロリドンを用い、導電助剤としてのカーボンブラックを高圧ジェットミルにより溶剤に分散させてカーボンブラック含有分散液を調製し、得られたカーボンブラック含有分散液を、少なくとも、リチウムを含む正極活物質と混合して正極塗膜形成用塗料を調製し、得られた正極塗膜形成用塗料を集電体に塗布し、乾燥する工程を経て製造したことを特徴とするリチウム二次電池用正極。
【請求項2】
分散剤としてポリビニルピロリドンを用い、導電助剤としてのカーボンブラックを高圧ジェットミルにより溶剤に分散させてカーボンブラック含有分散液を調製し、得られたカーボンブラック含有分散液を、少なくとも、リチウムを含む正極活物質と混合して正極塗膜形成用塗料を調製し、得られた正極塗膜形成用塗料を集電体に塗布し、乾燥する工程を経て製造することを特徴とするリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリチウム二次電池用正極と、炭素材料などのリチウムイオンを吸蔵、放出する負極活物質を含む負極とをセパレータを介して巻回または積層してなる電極体を有することを特徴とするリチウム二次電池。」

3イ 「【0002】
【従来の技術】
電池特性、特にサイクル特性の向上を目的として導電助剤であるカーボンブラックやグラファイトをより微細化することが試みられている。その中で、カーボンブラックと溶剤のN-メチル-2-ピロリドンとの混合物を、例えば、ボールミル、ビーズミルなどを用いて分散させて微細化することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平10-144302号公報 (第3頁)
【0004】
しかしながら、上記方法によって、カーボンブラックをサブミクロンオーダーにまで微細化するには、かなりの時間が必要となり、生産効率の低下を招くという問題があった。また、それに伴うビーズなどの摩耗からくる不純物の混入も電池性能を低下させる原因になるという問題があった。さらに、上記のように微細化したカーボンブラックは凝集しやすい性質を有することから、サブミクロンまで分散しても分散液調製直後から再凝集が起こり、その安定性も大きな問題となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、導電助剤としてのカーボンブラックをサブミクロンオーダーにまで短時間で微分散し、そのカーボンブラック含有分散液を、少なくとも、リチウムを含む正極活物質と混合して正極塗膜形成用塗料を調製し、その正極塗膜形成用塗料を用いて、カーボンブラックがサブミクロンオーダーで微分散し、かつ不純物の混入のないリチウム二次電池用正極を提供し、また、その正極を用いてサイクル特性が優れたリチウム二次電池を提供することを目的とする。」

3ウ 「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、分散剤としてポリビニルピロリドンを用い、導電助剤としてのカーボンブラックを高圧ジェットミルにより溶剤に分散させてカーボンブラック含有分散液を調製し、得られたカーボンブラック含有分散液を、少なくとも、リチウムを含む正極活物質と混合して正極塗膜形成用塗料を調製し、得られた正極塗膜形成用塗料を集電体に塗布し、乾燥する工程を経てリチウム二次電池用正極を製造し、その正極を用いてリチウム二次電池を構成することによって、上記課題を解決したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、メディアレス型の分散機である高圧ジェットミルを用い、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いて、カーボンブラックをあらかじめ溶媒に微分散するものであって、メディアレス型の分散機である高圧ジェットミルによってカーボンブラックを短時間でサブミクロンオーダーまで微細化し、かつビーズなどに基づく不純物の混入を防止し、また、ポリビニルピロリドンによって微分散したカーボンブラックの再凝集を防止するのである。」

3エ 「【0010】
導電助剤としてのカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられ、このカーボンブラックを分散させる溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。」

3オ 「【0023】
調製例1
高圧ジェットミルとしてジーナス(株)製のジーナスPY PRE01-30(商品名)を用い、カーボンブラックとしてケッチェンブラックEC〔ケッチェンブラックインターナショナル(株)製〕を用い、分散剤としてポリビニルピロリドンを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、次に示すようにしてカーボンブラックの微細化処理とともに溶剤への微分散処理を行った。
【0024】
すなわち、ケッチェンブラックEC(以下、簡略化して「ケッチェンブラック」と表示する)とポリビニルピロリドンK30〔BASF社製、平均分子量:45,000〕とN-メチル-2-ピロリドンとを質量比10:1:89で予備混合して分散液を調製し、このケッチェンブラックを含む分散液を上記高圧ジェットミル(PRE01-30)で150MPaの加圧下でケッチェンブラックの微細化処理とともにN-メチル-2-ピロリドンへの微分散処理を行った。この分散液500mlを得るのに要する時間は10分間であった。
・・・
【0027】
比較調製例2
ケッチェンブラックとポリビニルピロリドンK30とN-メチル-2-ピロリドンとを質量比10:1:89で予備混合して分散液500mlを調製し、このケッチェンブラックを含む分散液をビーズミルで10分間混練した。」

3カ 「【0031】
上記調製例1および比較調製例1?5の分散液について、調製から1日後の粒度分布測定を行い、D50(粒度の積算通過分率の50%径)の粒径を求めた。その結果を後記の表1に示す。
【0032】
実施例1
この実施例1では、以下に示すようにして、正極の製造、負極の製造、電解液の調製およびリチウム二次電池の組立てを行った。
【0033】
正極の製造:
正極活物質であるLiCoO_(2) 100質量部に対して、上記調製例1で調製したカーボンブラック含有分散液10質量部と、バインダーとしてのポリビニルフルオライドをN-メチル-2-ピロリドンに12質量%溶解させたポリビニルフルオライド溶液25質量部とを加え、混合して正極塗膜形成用塗料を調製し、得られた正極塗膜形成用塗料を厚み15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥して正極塗膜を形成した後、カレンダーで圧延してシート状の正極を製造した。」

3キ 「【0047】
表1には、上記のように測定した放電容量およびサイクル数を示すが、それに併せてD50および正極中のジルコニア量についても示す。
【0048】
【表1】



3ク 「【0054】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、カーボンブラックを短時間に微細化することができるとともに、その分散状態が安定したカーボンブラック含有分散液を得ることができ、また、そのカーボンブラック含有分散液を用いてジルコニアなどの不純物の混入がない正極を得ることができる。そして、上記の正極を用いて、高容量で、かつサイクル特性が優れたリチウム二次電池を得ることができる。」


イ 甲3に記載された事項
(ア)上記3イ、3ウによれば、甲3は、分散剤としてポリビニルピロリドンを用い、導電助剤としてのカーボンブラックを高圧ジェットミルにより溶剤に分散させてカーボンブラック含有分散液を調製し、得られたカーボンブラック含有分散液を、リチウムを含む正極活物質と混合して正極塗膜形成用塗料を調製することで(【0006】)、カーボンブラックがサブミクロンオーダーで微分散し、かつ不純物の混入のないリチウム二次電池用正極を提供することを目的としている(【0005】)。

(イ)上記3エによれば、導電助剤としてのカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる(【0010】)。

(ウ)上記3オによれば、調製例1の分散液は、カーボンブラックとしてのケッチェンブラックEC〔ケッチェンブラックインターナショナル(株)製〕と、分散剤としてのポリビニルピロリドンK30〔BASF社製、平均分子量:45,000〕と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを質量比10:1:89で予備混合した後、高圧ジェットミル(PRE01-30)を用いることで、上記分散液におけるケッチェンブラックECの微細化処理とN-メチル-2-ピロリドンへの微分散処理を行うことで調製している(【0024】)。

(エ)上記3カによれば、正極活物質であるLiCoO_(2) 100質量部に対して、上記調製例1の分散液10質量部と、バインダーとしてのポリビニルフルオライドをN-メチル-2-ピロリドンに12質量%溶解させたポリビニルフルオライド溶液25質量部とを加え、混合して実施例1の正極塗膜形成用塗料を調製している。(【0033】)

(オ)上記3カの【0031】と上記3キの【表1】によれば、調製例1の分散液について、調製から1日後の粒径D50は0.5μmである。

(カ)したがって、調製例1の分散液を用いて調製された実施例1の正極塗膜形成用塗料に注目すると、甲3には、次の「リチウム二次電池の正極塗膜形成用塗料」が記載されているものと認められる。

「導電助剤としてのケッチェンブラックECと、分散剤としてのポリビニルピロリドンと、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを、質量比10:1:89で予備混合した後、高圧ジェットミルを用いて、ケッチェンブラックECの微細化処理とN-メチル-2-ピロリドンへの微分散処理を行うことで調製した分散液と、
正極活物質であるLiCoO_(2) 100質量部に対して、前記分散液10質量部と、バインダーとしてのポリビニルフルオライドをN-メチル-2-ピロリドンに12質量%溶解させたポリビニルフルオライド溶液25質量部とを加え、混合して調製した、リチウム二次電池の正極塗膜形成用塗料であって、
前記分散液の粒径D50は0.5μmである、
リチウム二次電池の正極塗膜形成用塗料。」(以下、「甲3発明」という。)

また、甲3には、次の「正極塗膜形成用塗料の製造方法」が記載されているものと認められる。

「甲3発明の正極塗膜形成用塗料の製造方法であって、
導電助剤としてのケッチェンブラックECと、分散剤としてのポリビニルピロリドンK30と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを、質量比10:1:89で予備混合した後、高圧ジェットミルを用いて、ケッチェンブラックECの微細化処理とN-メチル-2-ピロリドンへの微分散処理を行うことで分散液を調製する段階と、
正極活物質であるLiCoO_(2) 100質量部に対して、前記分散液10質量部と、バインダーとしてのポリビニルフルオライドをN-メチル-2-ピロリドンに12質量%溶解させたポリビニルフルオライド溶液25質量部とを加え、混合して正極塗膜形成用塗料を調製する段階と、
を含み、
前記分散液の調製から1日後の粒径D50は0.5μmである、
む正極塗膜形成用塗料の製造方法。」(以下、「甲3方法発明」という。)


(4)甲4の記載
甲4には次の記載がある。



(第134頁上部)



(第139頁左欄15?22行)




(第142頁上部)


(5)甲5の記載
甲5には次の記載がある。
「【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施番号1に得た多層カーボンナノチューブ水分散液の粒度分布のグラフ
【図2】実施番号2に得た多層カーボンナノチューブ水分散液の粒度分布のグラフ
【図3】比較番号1に得た多層カーボンナノチューブ水分散液の粒度分布のグラフ
【図4】比較番号2に得た多層カーボンナノチューブ水分散液の粒度分布のグラフ」




(6)甲6の記載
甲6には次の記載がある。
「【図面の簡単な説明】
【0016】
・・・
【図4】本発明の一実施例において用いた導電剤ペーストの粒度分布測定結果である。」
「【図4】



(7)甲7の記載
甲7には次の記載がある。
「【0206】
【表2】



(8)甲8の記載
甲8には次の記載がある。




(第74頁右欄5行?第76頁中欄16行)

(9)甲9の記載
甲9には次の記載がある。



(第37頁左欄下から2行?右欄5行)



(第38頁左欄27?33行)

(10)甲10の記載
甲10には次の記載がある。



(当審訳:図2 カーボンナノチューブの比表面積とそれらの直径及び層の数)

(11)甲11の記載
甲11には次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、カーボンブラックおよびブタジエン系ゴムを含有するカーボンブラックペーストであって、カーボンブラックの割合がペースト全体の1?30重量%であり、ブタジエン系ゴムがカーボンブラック1重量部に対して0.05?2重量部であることを特徴とするカーボンブラックペースト。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンブラックペーストに、少なくとも電極活物質を混合分散したことを特徴とする電極用ペースト組成物。
【請求項3】
導電性基体上に、請求項2に記載の電極用ペースト組成物を塗布し、乾燥して、電極塗膜を設けたことを特徴とする電極。
【請求項4】
正極と負極とをセパレータを介して対向させ、これを有機電解液とともに電池ケース内に封入してなるリチウム二次電池において、正極、負極の少なくとも一方の電極が請求項3に記載の電極であることを特徴とするリチウム二次電池。」
「【背景技術】
・・・
【0003】
上記の正極および負極からなる電極には、活物質と導電性基体との間での電子伝導性を確保するために、各電極用ペースト組成物中に電子伝導助剤を含ませるのが普通であり、この電子伝導助剤には、たとえば、鱗片状黒鉛、カーボンブラックなどが使用されるが、活物質充填率をできるだけ高めるためには、少量でも電池内部抵抗の上昇を抑えることのできるカーボンブラックが好適なものとして使用される。
・・・
【0007】
また、電子伝導助剤と溶剤に分散剤としてのビニルピロリドン系ポリマーを添加することで、分散性や分散安定性のとくに悪いカーボンブラックを用いたときでも、電池負荷特性やサイクル特性を良好に保つ試みがなされている(特許文献2参照)。
しかしながら、この場合は、添加したビニルピロリドン系ポリマーが活物質を絶縁被覆してしまったり、充電状態で長期保存したときに変性して放電特性を劣化させてしまうなど、電池特性を損なうおそれがあった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、カーボンブラックを電子伝導助剤とした従来構成の電極を用いたリチウム二次電池において、上記の電子伝導助剤に基づいてサイクル特性および負荷特性が十分に改善されたものは、現在のところ、見い出されていない。
本発明は、このような事情に照らし、リチウム二次電池における電極用ペースト組成物の製造方法を改良し、カーボンブラックからなる電子伝導助剤の特性を十分に発揮させ、サイクル特性および負荷特性の向上をはかることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、活物質および電子伝導助剤を一括して混合するのではなく、あらかじめ有機溶剤にカーボンブラックを混合分散させるとともに、その際にブタジエン系ゴムを添加することにより、分散性、分散安定性にすぐれたカーボンブラックペーストが得られ、これに活物質を混合することで、活物質の粒子間ならびに活物質と導電性基体との間に電子伝導助剤の粒子が良好に入り込み、これにより電子伝導性が飛躍的に向上して、サイクル特性および負荷特性にすぐれたリチウム二次電池が得られることを知り、本発明を完成するに至った。」
「【0015】
第1の工程において、カーボンブラックペーストに添加するブタジエン系ゴムには、たとえば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、水素化スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムなどが挙げられる。使用量は、カーボンブラックの分散性、分散安定性を十分に得るため、カーボンブラック1重量部に対して、0.05?2重量部とするのが好ましく、とくに好ましくは0.05?1.5重量部とするのがよい。
ブタジエン系ゴムの使用量が少なすぎると、カーボンブラックの分散性、分散安定性が十分に得られず、また多すぎると、形成される電極塗膜中の活物質含有量が低下したり、ブタジエン系ゴムの絶縁被覆効果が発生して、電池容量の劣化を招きやすい。」

2 本件発明1?15と甲1発明との対比と判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダー」は、「正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持しうる成分」(【0026】)であると同時に、「第一結着樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、・・・、導電材ペースト1の分散安定性が向上する」(【0050】)との機能を備えるものでもあるから、本件発明1の「分散剤」に相当する。

イ 上記アの検討を踏まえると、甲1発明の「二次電池正極用スラリー」が「導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーと・・・、正極活物質と、・・・を含」むことは、本件発明1の「二次電池の正極形成用組成物」が「正極活物質、導電材、及び分散剤を含」むことに相当する。

ウ 本件特許明細書の段落【0040】に「前記のような炭素系物質は、正極形成用組成物内の固形分の総重量に対して、0.1重量%から2重量%で含まれてよい。」と記載されていることから、本件発明1の「前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あるとの特定事項は、「前記導電材は、前記正極形成用組成物の固形分の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あることを意味しているものと解される。
そこで、甲1発明において、二次電池正極用スラリーの固形分の総重量に対する導電材の割合について検討すると、二次電池正極用スラリーの固形分とは、二次電池正極用スラリーに含まれる溶剤を除く、導電材と、第一のバインダーと、第二のバインダーと、正極活物質と考えられるところ、「導電材の配合量は、正極活物質100質量部あたり、1質量部以上、5質量%以下であり、 前記第一及び第二のバインダーの合計配合量は、正極活物質の配合量100質量部あたり、1質量部以上、5質量部以下であ」るから、正極活物質100質量部に対して、導電材は1?5質量部、第一及び第二のバインダーは1?5質量部であるので、二次電池正極用スラリーの固形分の総重量に対する導電材の割合は、最小値が1÷(100+1+5)=0.94重量%と計算でき、最大値が5÷(100+5+1)=4.7重量%と計算できる。
したがって、「正極形成用組成物の総重量に対」する「導電材」の割合は、本件発明1が「0.1重量%から2重量%」であるのに対して、甲1発明は「0.94?4.7重量%」となり、重複する領域(0.94?2重量%)があるものの、その他の領域について相違している。

エ 甲1発明において「導電材」である「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」が「炭素系物質」であることは明らかである。したがって、「導電材」は、甲1発明と本件発明1のいずれにおいても「炭素系物質」を含む点で共通するものの、「炭素系物質」が、本件発明1では「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」であるのに対して、甲1発明では「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」であるところ、それらの比表面積やオイル吸収量が特定されていない点で相違しており、甲1には、好ましい比表面積やオイル吸収量について記載も示唆もされていない。

オ 甲1発明において、「第一結着樹脂が導電材に十分に吸着している」ということは、導電材と第一結着樹脂が何らかの複合体を形成しているといえるから、甲1発明の「導電材」及び当該「導電材に十分に吸着している」「第一結着樹脂」は、本件発明1の「導電材-分散剤複合体」に相当している。

カ 上記アの検討を踏まえると、甲1発明において「第一結着樹脂」が「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」であることは、本件発明1において「分散剤」が「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」であることに相当している。

キ 「導電材-分散剤複合体の粒度分布D_(50)」が、本件発明1では「0.8μmから1.2μmである」のに対し、甲1発明では粒度分布D_(50)がどのような値であるか不明である点で相違している。

ク 以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
二次電池の正極形成用組成物であって、
正極活物質、導電材、及び分散剤を含んでなり、
前記導電材は、炭素系物質を含んでなるものであり、
前記分散剤は、前記導電材に導入されて導電材-分散剤複合体を形成させるものであり、
前記分散剤が、α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴムである、二次電池の正極形成用組成物、である点。

(相違点1)
「正極形成用組成物の総重量に対」する「導電材」の割合は、本件発明1が「0.1重量%から2重量%」であるのに対して、甲1発明は「0.94?4.7重量%」であり、0.94?2重量%の範囲で重複するものの、その他の範囲で相違する点。

(相違点2)
「炭素系物質」が、本件発明1では「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」のに対して、甲1発明では「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」と特定されているが、それらの「比表面積」や「オイル吸収量」が特定されていない点。

(相違点3)
「導電材-分散剤複合体の粒度分布D_(50)」が、本件発明1では「0.8μmから1.2μmである」のに対し、甲1発明では「導電材」及び当該「導電材に十分に吸着している」「第一結着樹脂」について、その粒度分布D_(50)がどのような値であるか不明である点。

(2)相違点の検討
事案に鑑みて、初めに相違点2について検討し、その後相違点3について検討する。
(2-1)相違点2の検討
ア 甲1発明において、「導電材」は「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」であるが、それらの比表面積やオイル吸収量は特定されておらず、甲1には、導電材の比表面積やオイル吸収量の好ましい値について記載も示唆もされていないから、相違点2は、実質的な相違点である。

イ そこで、相違点2の容易想到性について検討する。ここで、申立人は、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項に関して、甲4の記載を根拠にして、甲1記載の発明との一致点であり、また、新規性進歩性が認められる内容ではない、と主張しているので、この主張に沿って検討する。

ウ 甲4の表4には、アセチレン法で製造されたカーボンブラック、すなわちアセチレンブラックである「デンカブラック」No.21?23について、その比表面積が39?133m^(2)/gであり、DBP吸収量が140?220ml/100gであることが記載されており、「ケッチェンブラック」No.24?25について、その比表面積が800?1270m^(2)/gであり、DBP吸収量が360?495ml/100gであることが記載されている。

エ そこで、最初に、甲1発明において、導電材の一つであるケッチェンブラックが採用された場合を想定すると、甲4の表4には、品名が「ケッチェンブラックEC」及び「ケッチェンブラックEC-DJ600」という特定のケッチェンブラックについて示されているに過ぎず、その他の品名のケッチェンブラックが存在しないか、仮に存在する場合それらケッチェンブラックも上記特定のケッチェンブラックと同程度の比表面積とDBP吸収量を備えていることの証明はされていないから、甲1発明の「ケッチェンブラック」が「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」ものに該当していると断定することはできない。また、多数の品種があると推定される「ケッチェンブラック」のうち、甲4の表4に記載された「ケッチェンブラックEC」、「ケッチェンブラックEC-DJ600」を採用する動機を見いだすことができない。また、甲4以外の甲号証を参照しても、「ケッチェンブラックEC」、「ケッチェンブラックEC-DJ600」を採用する動機を見いだすことができない。

オ 次に、甲1の表1によれば、全ての実施例及び比較例において導電材としてアセチレンブラックが採用されていることから、甲1発明において、導電材の一つであるアセチレンブラックが採用された場合を想定すると、甲4の表4に記載されたアセチレンブラックである「デンカブラック」No.21?23のうち、No.22だけが「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」との条件を満たすものであるが、甲1発明の「アセチレンブラック」がNo.22の「デンカブラック」に該当するものであるとはいえず、また、甲1発明の「アセチレンブラック」としてNo.22の「デンカブラック」を採用する動機を見いだすことができない。また、甲4以外の甲号証を参照しても、No.22の「デンカブラック」を採用する動機を見いだすことができない。

カ なお、本件特許明細書の段落【0028】には、「炭素系物質は、1次粒子の平均粒径(D_(50))が15nmから35nmであり、前記1次粒子が組立てられてなる2次粒子の比表面積が130m^(2)/gから270m^(2)/gであり、オイル吸収量が220ml/100gから400ml/100gである高度に発達された構造を有することにより、さらに優れた伝導性とともに分散性を示すことができ、特に、正極内への適用時に正極活物質と電解質との三相界面における電子供給性を高めて反応性を向上させることができる。」、「2次粒子の比表面積及びオイル吸収量がそれぞれ130m^(2)/g未満及び220ml/100g未満であれば、1次粒子の大きさがあまりにも大きく、導電材の構造発達が少ないため分散は容易であり得るが、同一重さ当たりの導電材の体積が小さいので活物質表面を十分に覆うことができず、その結果、セル性能低下及びセル間の性能偏差が増加するようになる恐れがある。」と記載されていることから、本件発明1は、「導電材」の「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」ことによって、優れた伝導性や分散性を示すことができ、また、導電材が活物質表面を十分に覆うことができ、セル性能が低下しないものとなるという優れた効果を奏するものとなっている。

キ したがって、甲1発明において、「導電材」である「アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラック」を「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である」ものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(2-2)相違点3の検討
ア 甲1の上記1サの段落【0097】には、導電材ペースト2を一週間静置し、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50の結果を、2μm未満のA評価から、15μm以上のE評価までの5段階に分けることによって、導電材ペーストの経時安定性を評価することが記載されている。また、上記1スの【表1】には、実施例1?9における経時安定性がA?Cと評価されることが記載されている。

イ 上記【表1】の経時安定性の評価から、甲1の実施例であっても、第一及び第二結着樹脂の種別や配合量が異なると、経時安定性の評価がA?Cまで変化する、つまり、導電材ペースト2を一週間静置した後の分散粒子径D50は2μm未満から、5μm以上10μm未満まで、様々に変化することが理解されるから、甲1発明の経時安定性の評価がA?Cのいずれとなるか特定することはできず、そのため、甲1発明の分散粒子径が2μm未満から10μm未満のどのような値となっているのか不明である。また、仮に、評価がAであり、導電材ペースト2を一週間静置した後の分散粒子径D50が2μm未満であったとしても、0.8μmから1.2μmの範囲に含まれているか不明であるし、仮に、導電材ペースト2を一週間静置した後の分散粒子径D50が0.8μmから1.2μmの範囲に含まれていたとしても、製造直後の分散粒子径D50が当該範囲に含まれているか不明である。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。

ウ そこで、相違点3の容易想到性について検討する。ここで、申立人は、上記相違点3に係る本件発明1の特定事項に関して、甲3に導電助剤であるカーボンブラックをサブミクロンまで分散することが開示されていたことを根拠にして、甲1に記載の発明との一致点であるか、当業者にとって容易想到な構成であると主張しているので、この主張に沿って検討する。

エ 本件発明1の「導電材」は、平均粒径が15から35nmである1次粒子が組み立てられた二次粒子からなるもの(段落【0028】)であり、本件発明1の「導電材-分散剤複合体」は、分散剤が導電材の表面に物理的または化学的結合を介して導入された(段落【0020】)結果、「粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μm」となったものである。このことから、本件発明1の「導電材-分散剤複合体」は、平均粒径が15から35nmである多数の一次粒子が、分散剤によって物理的化学的に結合した結果、粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μmとなった複合体であるといえる。そして、段落【0023】には「導電材-分散剤複合体の粒度分布のD_(50)が0.8μm未満の場合、導電材が過分散されることにより正極形成時に電極内活物質の間で導電材ネットワークの形成が容易でなく、その結果、セル抵抗が増加するようになる恐れがある。また、導電材-分散剤複合体の粒度分布のD_(50)が1.2μmを超過する場合、導電材の分散が十分ではないので、導電材が活物質表面に適切に分布することができず、セル性能低下及びセル間の性能偏差が増加することとなる。」とも記載されており、粒度分布のD_(50)が0.8μm未満のものは、セル抵抗が増加し、1.2μmを超過するものは、セル性能が低下し、セル間の性能偏差が増加するために、不適切であることが明記されている。
一方、甲1の段落【0097】には「分散粒子径が1次粒子(バインダーが吸着していない状態での導電材の体積平均粒子径)に近いほど凝集性が小さく分散が進んでいることを示している。A:2μm未満」と記載されていることから、甲1発明においては、分散粒子径が一次粒子に近いものほど凝集性が小さく分散が進んでいるのでA評価すなわち好ましいとされている。したがって、経時安定性についてA評価とされている「2μm未満」とは、体積平均粒子径D50が2μm未満の範囲で小さいものほど分散性が進んでいるので好ましいことが示されているものと解される。
したがって、甲1には、粒度分布のD_(50)を下限0.8μm上限1.2μmの特定の範囲のものにするとの技術思想は存在していないといえるから、たとえ、甲3に導電助剤であるカーボンブラックをサブミクロンまで分散することが開示されていたとしても、甲1発明において、「導電材-分散剤複合体」の「粒度分布のD_(50)」を「0.8μmから1.2μm」とすることが容易になし得ることであるとはいえない。また、甲3以外の甲号証を参照しても、「導電材-分散剤複合体」の「粒度分布のD50」を「0.8μmから1.2μm」とすることが容易になし得ることであるとはいえない。

オ したがって、甲1発明において、「導電材-分散剤複合体の粒度分布D_(50)」を「0.8μmから1.2μm」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(2-3)発明の効果についての検討
本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した二次電池に対して、実験例2において抵抗特性(【表5】)が測定され、実験例3においてレート特性(【表6】)が測定され、実験例4において高温(45℃)での容量維持率(【表7】)が測定されており、本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した電池は、抵抗特性、レート特性、高温での容量維持率のいずれも優れていることが確認されている。
一方、甲1発明の二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池に対して、低温(-10℃)におけるIV抵抗と、高温(45℃)におけるサイクル特性が測定されており、低温特性とサイクル特性が優れていることが確認されているが、レート特性が優れていることについては確認されていない。
したがって、本件発明1は、抵抗特性や高温での容量維持率(サイクル特性)のみならず、レート特性においても優れており、甲1やその他甲号証の記載から予測できない優れた効果を奏しているといえる。

(2-4)小括
以上から、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明と相違点2、3の点で相違するので、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1発明において、相違点2及び相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2?9の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?15について
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?15も、少なくとも相違点2、3で甲1発明又は甲1方法発明と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明と甲2?9の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


3 本件発明1?15と甲2発明との対比と判断
(1)本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「微細炭素繊維」は、本件発明1の「導電材」に相当する。

イ 上記アの検討を踏まえると、甲2発明の「分散剤と、微細炭素繊維と、電極活物質と、バインダ樹脂と、分散媒を含」む「リチウムイオン電池正極用電極ペースト」は、本件発明1の「正極活物質、導電材、及び分散剤を含」む「二次電池の正極形成用組成物」に相当する。

ウ 本件特許明細書の段落【0040】に「前記のような炭素系物質は、正極形成用組成物内の固形分の総重量に対して、0.1重量%から2重量%で含まれてよい。」と記載されていることから、本件発明1の「前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あるとの特定事項は、「前記導電材は、前記正極形成用組成物の固形分の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あることを意味しているものと解される。
そこで、甲2発明において、リチウムイオン電池正極用電極ペーストの固形分の総重量に対する導電剤(微細炭素繊維)の割合について検討すると、リチウムイオン電池正極用電極ペーストの固形分とは、リチウムイオン電池正極用電極ペーストの分散媒を除く、分散剤と、微細炭素繊維と、活物質と、バインダ樹脂と考えられるところ、「分散剤の添加量は、微細炭素繊維の重量に対して10%以上、分散媒の重量に対して20%以下であり、微細炭素繊維の固形分は、電極活物質の固形分に対して0.3?10wt%添加され、バインダ樹脂は、電極活物質の固形分に対して0.3?25wt%配合されている」から、電極活物質100質量部に対して、微細炭素繊維は0.3?10質量部、バインダ樹脂は0.3?25質量部、分散剤は下限値が微細炭素繊維の10%すなわち「0.03?1質量部」以上であるが、分散媒の量が特定されないため上限値不明である(この上限値をx質量部とする。)ので、リチウムイオン電池正極用電極ペーストの固形分の総重量に対する導電剤(微細炭素繊維)の割合は、最小値が0.3/(100+0.3+25+x)で0.23%よりも小さい値であり、最大値が10/(100+10+0.3+1)=8.98重量%と計算できる。
したがって、「正極形成用組成物の総重量に対」する「導電材」の割合は、本件発明1が「0.1重量%から2重量%」であるのに対して、甲2発明は「0.23重量%よりも小さい値?8.98重量%」となり、重複する範囲(0.23?2重量%)があるものの、その他の範囲で相違している。

エ 甲2発明において「導電材」である「微細炭素繊維」が「炭素系物質」であることは明らかである。また、甲2発明において、「微細炭素繊維のDBP吸油量は330ml/100g」であることは、本件発明1の「導電材は、・・・オイル吸収量が220ml/100g以上である」ことに相当する。したがって、「導電材」は、甲2発明と本件発明1のいずれにおいても「炭素系物質」を含み、「オイル吸収量が220ml/100g以上である」点で共通するものの、「炭素系物質」が、本件発明1では「比表面積が130m^(2)/g以上」であるのに対して、甲2発明では「微細炭素繊維」の「比表面積」が特定されていない点で相違しており、また、甲2には、好ましい比表面積について記載も示唆もされていない。

オ 甲2発明において、「分散剤は微細炭素繊維の表面に吸着しており」ということは、微細炭素繊維と分散剤が何らかの複合体を形成しているといえるから、甲2発明の「微細炭素繊維」及び当該「微細炭素繊維の表面に吸着して」いる「分散剤」は、本件発明1の「導電材-分散剤複合体」に相当している。

カ 「分散剤」が、本件発明1では「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」であるのに対して、甲2発明では「ポリビニルピロリドン(PVP)」である点で相違している。

キ 甲2発明において、「微細炭素繊維分散液において、分散剤は微細炭素繊維の表面に吸着して」いるものであり、上記オで検討したように、甲2発明の「微細炭素繊維」及び当該「微細炭素繊維の表面に吸着して」いる「分散剤」は、本件発明1の「導電材-分散剤複合体」に相当しているから、「分散液の粒径D50は0.80μm」であることは、本件発明1における「導電材-分散剤複合体は、粒度分布のD50が0.8μmから1.2μmであるものである」との条件を満たすものである。

ク 以上によれば、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
二次電池の正極形成用組成物であって、
正極活物質、導電材、及び分散剤を含んでなり、
前記導電材は、オイル吸収量が220ml/100g以上である炭素系物質を含んでなるものであり、
前記分散剤は、前記導電材に導入されて導電材-分散剤複合体を形成させるものであり、
前記導電材-分散剤複合体は、粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μmであるものである、二次電池の正極形成用組成物 である点。

(相違点4)
「正極形成用組成物の総重量に対」する「導電材」の割合は、本件発明1が「0.1重量%から2重量%」であるのに対して、甲2発明は「0.23重量%よりも小さい値?8.98重量%」であり、0.23?2重量%の範囲で重複するものの、その他の範囲で相違する点。

(相違点5)
「炭素系物質」の「比表面積」が、本件発明1では「130m^(2)/g以上」であるのに対して、甲2発明では特定されていない点。

(相違点6)
「分散剤」が、本件発明1では「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」であるのに対して、甲2発明では「ポリビニルピロリドン(PVP)」である点。

(2)相違点の検討
事案に鑑みて、相違点6について検討する。
ア 甲1には、上記2(1)ア、カで検討したように、導電材の分散安定性を向上させる分散剤として、「第一のバインダー」が「主成分として含む」「第一結着樹脂」である、「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を使用することが記載されており、この分散剤は、上記2(1)カで検討したように、本件発明1の「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」に相当するものである。

イ また、甲11には、電子伝導性を確保するために、各電極用ペースト組成物中に含ませる電子伝導助剤として、少量でも電池内部抵抗の上昇を抑えることのできるカーボンブラックが好適であるが(【0003】)、分散剤としてビニルピロリドン系ポリマーを添加すると、ビニルピロリドン系ポリマーが活物質を絶縁被覆してしまったり、充電状態で長期保存したときに変性して放電特性を劣化させてしまうなど、電池特性を損なうおそれがあったこと(【0007】)、そこで、電子伝導助剤の特性を十分に発揮させ、サイクル特性および負荷特性の向上をはかるために、あらかじめ有機溶剤にカーボンブラックを混合分散させるとともに、その際にブタジエン系ゴムを添加すること、そして、当該ブタジエン系ゴムとして水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴムを使用することによって、分散性、分散安定性にすぐれたカーボンブラックペーストが得られ、これにより電子伝導性が飛躍的に向上して、サイクル特性および負荷特性にすぐれたリチウム二次電池が得られること(【0009】、【0015】)が記載されている。

ウ すると、甲2発明において、導電剤である微細炭素繊維の分散剤として、「ポリビニルピロリドン(PVP)」が使用されているが、上記イの知見に照らせば、当該「ポリビニルピロリドン(PVP)」は、活物質を絶縁被覆してしまったり、充電状態で長期保存したときに変性して放電特性を劣化させてしまうなど、電池特性を損なうとの課題を抱えているものであるといえ、そこで、「ポリビニルピロリドン(PVP)」の代わりに、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム等のブタジエン系ゴムを採用することによって、分散性、分散安定性にすぐれたカーボンブラックペーストが得られるとともに、電子伝導性が飛躍的に向上して、サイクル特性および負荷特性にすぐれたリチウム二次電池を得ることができることが理解される。

エ したがって、甲2発明において、分散剤として、「ポリビニルピロリドン(PVP)」に代えて、「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム」である、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用すること、すなわち、相違点6に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲1及び甲11の記載に基いて、当業者が容易になし得ることである。

オ しかしながら、甲2発明において、「分散剤」として「ポリビニルピロリドン(PVP)」に代えて、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用した場合には、「導電剤」である「微細炭素繊維」に対する上記二つの「分散剤」の吸着性能が同じであるとはいえないから、「分散液の粒径D50」が「0.80μm」であることが維持されるとはいえず、どのような粒径D50となるか不明であるので、「分散液の粒径D50」が新たな相違点となる。
そして、甲2、甲1と甲4?11のいずれにも、「分散剤」として「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用した場合に、「分散液の粒径D50」を「0.8μmから1.2μm」とすることが好ましいことや、「分散液の粒径D50」を「0.8μmから1.2μm」とするための具体的な製法は示されていない。

カ したがって、上記エで検討したように、甲2発明において、分散剤として、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用することが当業者にとって容易になし得ることであるとしても、その際に「分散液の粒径D50」が「0.8μm」に維持されるとはいえないし、「分散液の粒径D50」を「0.8μmから1.2μm」とすることが当業者にとって容易になし得ることであるともいえない。

(3)発明の効果についての検討
本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した二次電池に対して、実験例2において抵抗特性(【表5】)が測定され、実験例3においてレート特性(【表6】)が測定され、実験例4において高温(45℃)での容量維持率(【表7】)が測定されており、本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した電池は、抵抗特性、レート特性、高温での容量維持率のいずれも優れていることが確認されている。
一方、甲2発明の正極用電極ペーストを用いて製造した電極は、微細炭素繊維が活物質を均一に覆って活物質同士をつないでおり、電極全体にわたって高い導電性が示唆され、充放電時も活物質同士が孤立する事無く、活物質間の導電性の担保により容量低下の抑制効果が期待されるものであるから(【0082】)、実験的に確認された事項ではないが、甲2発明の正極用電極ペーストを用いて製造したリチウムイオン電池は、電極の高い伝導性に基づく低抵抗特性と、容量低下が抑制されていること(すなわち優れたサイクル特性を備えているものであること)は推定されるけれども、レート特性が優れていることについては記載されていない。
したがって、本件発明1は、抵抗特性や高温での容量維持率(サイクル特性)のみならず、レート特性においても優れており、甲2やその他甲号証の記載から予測できない優れた効果を奏しているといえる。

(4)小括
以上から、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明と、甲1及び甲4?11の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明2?15について
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?15も、少なくとも相違点6で甲2発明又は甲2方法発明と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲2に記載された発明と甲4?11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件発明1?15と甲3発明との対比と判断
(1)本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「導電助剤としてのケッチェンブラックEC」と「分散剤としてのポリビニルピロリドンK30」と「正極活物質であるLiCoO2」を含む「リチウム二次電池の正極塗膜形成用塗料」は、本件発明1の「正極活物質、導電材、及び分散剤を含」む「二次電池の正極形成用組成物」に相当する。

イ 本件特許明細書の段落【0040】に「前記のような炭素系物質は、正極形成用組成物内の固形分の総重量に対して、0.1重量%から2重量%で含まれてよい。」と記載されていることから、本件発明1の「前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あるとの特定事項は、「前記導電材は、前記正極形成用組成物の固形分の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で」あることを意味しているものと解される。
そこで、甲3発明において、正極塗膜形成用塗料の固形分の総重量に対する導電材の割合について検討すると、正極塗膜形成用塗料の固形分とは、正極塗膜形成用塗料に含まれる溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)を除く、導電助材と、分散剤と、正極活物質と、バインダーと考えられるところ、「導電助剤としてのケッチェンブラックECと、分散剤としてのポリビニルピロリドンK30と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを、質量比10:1:89で予備混合し・・・調製した分散液」に対して「正極活物質であるLiCoO2 100質量部に対して、前記分散液10質量部と、バインダーとしてのポリビニルフルオライドをN-メチル-2-ピロリドンに12質量%溶解させたポリビニルフルオライド溶液25質量部とを加え、混合して調製した、リチウム二次電池の正極塗膜形成用塗料」において、正極活物質100質量部に対して、導電助材は10×0.1=1質量部、分散剤は10×0.01=0.1質量部、バインダーは25×(0.12/1.12)=2.7質量部であるので、正極塗膜形成用塗料の固形分の総重量に対する導電助材の割合は、1÷(100+1+0.1+2.7)=0.96重量%と計算できる。
したがって、「正極形成用組成物の総重量に対」する「導電材」の割合は、甲1発明では「0.96重量%」であるから、本件発明1の「0.1重量%から2重量%」の範囲に含まれている。

ウ 甲3発明において「導電助材」である「ケッチェンブラックEC」が「炭素系物質」であることは明らかである。したがって、甲3発明と本件発明1のいずれにおいても、「導電材」として「炭素系物質」を含む点で共通する。
そして、甲2発明の「ケッチェンブラックEC」は、甲4の表4によれば、比表面積が800m^(2)/g、DBP吸収量が360ml/100gであるから、本件発明1の「比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上」との条件を満たしている。

エ 甲3発明では、ケッチェンブラックECと分散剤を混合して調製された分散液の粒径D50は0.5μmであるところ、ケッチェンブラックECの粒径は甲4の表4によると30nmであるから、粒径30nmのケッチェンブラックECと分散剤が何らかの複合体を形成していることは明らかであり、その複合体の粒径D50が0.5μmとなっているものと認められる。したがって、粒径D50が0.5μmであるケッチェンブラックECと分散剤の複合体は、本件発明1の「粒度分布のD_(50)が0.8μmから1.2μmである」「導電材-分散剤複合体」に相当する。

オ 「分散剤」が、本件発明1では「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」であるのに対して、甲3発明では「ポリビニルピロリドンK30」である点で相違している。

カ 以上によれば、本件発明1と甲3発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
二次電池の正極形成用組成物であって、
正極活物質、導電材、及び分散剤を含んでなり、
前記導電材は、前記正極形成用組成物の総重量に対して0.1重量%から2重量%の量で、比表面積が130m^(2)/g以上であり、オイル吸収量が220ml/100g以上である炭素系物質を含んでなるものであり、
前記分散剤は、前記導電材に導入されて導電材-分散剤複合体を形成させるものである、二次電池の正極形成用組成物 である点。

(相違点7)
「分散剤」が、本件発明1では「α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、又は水素化された共役ジエン由来構造の繰り返し単位を含んだ部分水素化ニトリルゴム」であるのに対して、甲3発明では「ポリビニルピロリドンK30」である点。

(相違点8)
「導電材-分散剤複合体」の「粒度分布のD_(50)」が、本件発明1では、「0.8μmから1.2μm」であるが、甲3発明では、「0.5μm」である点。

(2)相違点の検討
事案に鑑みて、相違点7と相違点8についてまとめて検討する。
ア まず、相違点7について検討するに、上記3イに記載されているように、甲3発明では、カーボンブラックがサブミクロンオーダーで微分散し、かつ不純物の混入のないリチウム二次電池用正極を提供することを解決すべき課題としており、その課題を解決する手段として、上記3ウに記載されているように、分散剤として「ポリビニルピロリドン」を用いることを前提としている。したがって、甲3発明において、分散剤として「ポリビニルピロリドン」を使用することは、課題解決のための手段において中核をなす特徴的部分であって、他のものに置換することは阻害されているというべきである。

イ また、仮に、分散剤として「ポリビニルピロリドン」以外のものに置換可能であるとすると、相違点7は相違点6と同内容であるから、相違点7については、上記3(2)における相違点6についての検討ア?エと同様に考えることができるので、甲3発明において、分散剤として、「ポリビニルピロリドン」に代えて、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用すること、すなわち、相違点7に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲1及び甲11の記載に基いて、当業者が容易になし得ることである。
しかしながら、甲3発明において、「分散剤」として、「ポリビニルピロリドン」に代えて、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用した場合に、「導電助剤」である「ケッチェンブラックEC」に対する上記二つの「分散剤」の吸着性能がどのように相違しているか不明であるから、「分散液の粒径D50」が「0.5μm」からどのような粒径D50に変化するか不明である。また、甲1?2と甲4?11のいずれを参照しても、「ケッチェンブラックEC」と「水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を混合することによって形成される「導電材-分散剤複合体」の「粒径D50」を「0.8μmから1.2μm」とする点について記載も示唆もされていないし、そのようにすることが当業者にとって周知の事項であるともいえない。

ウ したがって、甲3発明において、分散剤として、甲1に記載された「1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)」を採用すること、すなわち、相違点7に係る本件発明1の特定事項とすることはできないし、仮にそのような採用が当業者にとって容易になし得ることであるとしても、その際に、「分散液の粒径D50」を「0.8μmから1.2μm」とすること、すなわち、相違点8に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3)発明の効果についての検討
本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した二次電池に対して、実験例2において抵抗特性(【表5】)が測定され、実験例3においてレート特性(【表6】)が測定され、実験例4において高温(45℃)での容量維持率(【表7】)が測定されており、本件発明の正極形成用組成物を用いて製造した電池は、抵抗特性、レート特性、高温での容量維持率のいずれも優れていることが確認されている。
一方、甲3発明の正極塗膜形成用塗料を用いて製造した二次電池に対して、放電容量とサイクル特性が優れていることが確認されているが、レート特性が優れていることについては確認されていない。
したがって、本件発明1は、抵抗特性や高温での容量維持率(サイクル特性)のみならず、レート特性においても優れており、甲3やその他甲号証の記載から予測できない優れた効果を奏しているといえる。

(4)小括
以上から、甲3発明において、相違点8に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明1は、甲3に記載された発明と甲4?7、11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?15について
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?15も、少なくとも相違点7、8の点で、甲3発明1又は甲3方法発明と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲3に記載された発明と甲4?7、11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-10-28 
出願番号 特願2018-515444(P2018-515444)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 池渕 立
井上 猛
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6636141号(P6636141)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 二次電池の正極形成用組成物、及びこれを用いて製造した二次電池用正極並びに二次電池  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  

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