ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
---|---|
管理番号 | 1368117 |
異議申立番号 | 異議2020-700543 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-03 |
確定日 | 2020-11-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6650175号発明「熱伝導性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6650175号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6650175号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和1年6月18日(優先権主張 平成30年6月22日)に出願され、令和2年1月22日に特許権の設定登録がされ、令和2年2月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和2年8月3日受付けで特許異議申立人中水麻衣により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし11の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シートであって、 前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出しており、かつ露出する前記異方性充填材が、3.5?45%の割合で倒れるように配置される、熱伝導性シート。 【請求項2】 前記異方性充填材が、繊維材料である請求項1に記載の熱伝導性シート。 【請求項3】 前記繊維材料が、炭素繊維である請求項2に記載の熱伝導性シート。 【請求項4】 前記繊維材料の平均繊維長が、50?500μmである請求項2又は3に記載の熱伝導性シート。 【請求項5】 さらに非異方性充填材を含む請求項1?4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項6】 前記非異方性充填材が、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の熱伝導性シート。 【請求項7】 前記異方性充填材の体積充填率に対する、前記非異方性充填材の体積充填率の比が、2?5である請求項5又は6に記載の熱伝導性シート。 【請求項8】 前記表面において倒れるように配置される異方性充填材の少なくとも一部が、前記表面に対して傾斜するように配置される請求項1?7のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項9】 前記高分子マトリクスが、付加反応硬化型シリコーンである請求項1?8のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項10】 熱伝導性シートの厚さが0.1?5mmである請求項1?9のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。 【請求項11】 前記熱伝導性シートの厚さ方向における熱伝導率が10w/m・K以上である請求項1?10のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。」 第3 申立理由の概要 理由1 請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし11に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。 理由2 請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし11に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。 また、請求項6、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、請求項11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6、7、11に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。 理由3 請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第113条第4号により取り消されるべきである。 理由4 請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第113条第4号により取り消されるべきである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2010-254766号公報 甲第2号証:特許第6178389号公報 甲第3号証:再公表特許2016-208458号公報 第4 当審の判断 1 理由1(第29条第1項第3号)、理由2(第29条第2項)について (1) 甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項、引用発明 ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【請求項1】 高分子マトリックスと炭素繊維とを含み、前記高分子マトリックス内で前記炭素繊維がシートの厚み方向に沿って配向されている熱伝導性シートにおいて、 前記熱伝導性シートは、更に、球状カーボンを含み、前記球状カーボンは、前記炭素繊維間に位置しており、シートの厚み方向における体積抵抗率は1×104Ω・cm未満であることを特徴とする熱伝導性シート。」 「【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の熱伝導性シートにおいて、 前記炭素繊維の端面は、前記熱伝導性シートの表面から表出していることを特徴とする熱伝導性シート。 【請求項5】 請求項4記載の熱伝導性シートにおいて、 前記炭素繊維の端面は、平坦に潰されていることを特徴とする熱伝導性シート。」 「【0003】 熱伝導性シートは、シートの厚み方向に熱を伝達するように形成されている。このため、熱伝導性シートは、発熱部品と冷却部品とに対しそれらの間に挟まれて固定されることにより、発熱部品から冷却部品へと熱を効率良く伝達することができる。よって、熱伝導性シートには、シートの厚み方向に高い熱伝導性が要求されている。また、熱伝導性シートには、発熱部品や冷却部品との密着性を確保するため、軟質性も求められている。」 「【0008】 本発明の目的は、シートの厚み方向における熱伝導性が高く、ESD対策やグラウンド接続に要求されるレベルの導電性を有し、かつ柔軟性に富む熱伝導性シート及びその製造方法を提供することにある。」 「【0025】 以下、本発明の熱伝導性シートを具体化した一実施形態について図1?図3を参照して説明する。 図1に示すように、熱伝導性シート10は、高分子マトリックス11、炭素繊維12、及び球状カーボン13を含む。炭素繊維12は、高分子マトリックス11内でシートの厚み方向に沿って配向されている。球状カーボン13は、シートの厚み方向に沿って配向された炭素繊維12間に位置している。また、シートの厚み方向における体積抵抗率は1×104Ωcm未満である。本発明の熱伝導性シート10は、柔軟性に富み、シートの厚み方向に高い熱伝導性を有し、ESD対策やグラウンド接続に要求されるレベルの導電性を有している。 【0026】 高分子マトリックス11は、炭素繊維12及び球状カーボン13を熱伝導性シート10内に保持する。高分子マトリックス11は、熱伝導性シート10に要求される機械的強度や耐熱性、及び電気特性等に応じて選択される。このため、高分子マトリックス11には、液化状態で低い粘度を有し、固化状態で低い硬度を有する材料が用いられ、具体的には、公知の合成樹脂、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等が用いられる。公知の合成樹脂として、好ましくは、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が用いられる。合成ゴムとして、好ましくは、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、及びポリイソブチレンゴム等が用いられる。熱可塑性エラストマーとして、好ましくは、スチレン系熱可塑性エラストマーが用いられる。 【0027】 炭素繊維12は、熱伝導性充填材として、高分子マトリックス11内に含有されている。炭素繊維12は、ピッチ類を原料として製造される炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料として製造される炭素繊維、メソゲン基を有する液晶性高分子繊維を炭化及び黒鉛化して得られる炭素繊維、又はそれらの組合せからなる。本実施形態において、繊維軸方向の熱伝導性及び導電性をより高くするため、炭素繊維12は、黒鉛化されていることが好ましい。 【0028】 炭素繊維12は、高分子マトリックス11内でシートの厚み方向に沿って配向されている。炭素繊維12の長さは、後述する調整工程で他の材料と混合し易く、かつ炭素繊維12の配向を容易に行えるように、所定の範囲に設定されている。具体的には、炭素繊維12の平均繊維長は、5μm?10000μmであり、好ましくは、50μm?6000μmであり、より好ましくは、100μm?200μmである。炭素繊維12の平均繊維長が10000μmよりも長い場合、高い熱伝導性や導電性が得られるものの、他の材料との均一な混合や炭素繊維12の配向が困難になる。一方、炭素繊維12の平均繊維長が5μmよりも短い場合、高い熱伝導性や導電性を得ることができない。 【0029】 球状カーボン13は、炭素繊維12と共に、熱伝導性充填材として、高分子マトリックス11内に含有されている。球状カーボン13は、シートの厚み方向に沿って配向された炭素繊維12間に位置している。このため、複数の炭素繊維12は、一又は複数の球状カーボン13を介して互いに接続されている。球状カーボン13は、熱硬化性樹脂からなり、具体的には、アルキド樹脂、アリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。」 「【0034】 熱伝導性シート10は、電子部品内において発熱部品と冷却部品とに対しそれらの間に挟まれた状態で固定される。このため、熱伝導性シート10は、耐久性やハンドリング性等の観点から、所定の厚さ及び比重を有している。具体的には、熱伝導性シート10の厚さは、0.1mm?10mmであり、好ましくは、0.15mm?5mmであり、より好ましくは、0.2mm?2mmである。厚さが0.1mmよりも小さい場合、強度や耐久性が不足し、ハンドリング性も低下するため、好ましくない。厚さが10mmよりも大きい場合、電子部品の小型化及び薄型化に寄与することができず、好ましくない。また、熱伝導性シート10の比重は、2.0以下であり、好ましくは、1.5以下である。比重が2.0よりも大きい場合、電子部品の軽量化に寄与することができず、好ましくない。」 「【0036】 次に、上記の熱伝導性シート10の製造方法について説明する。 熱伝導性シート10は、成形材料を調整する調整工程と、炭素繊維12を一方向に配向させる配向工程と、成形材料を固化して成形体を形成する成形工程と、熱伝導性シート10の表面から炭素繊維12の端面を露出させる露出工程と、熱伝導性シート10の表面から露出した炭素繊維12の端面を研磨する研磨工程とを経て製造される。 【0037】 調整工程では、熱伝導性シート10の成形材料を得るため、まず、高分子マトリックス11に炭素繊維12と球状カーボン13とを所定量配合する。そして、脱泡操作を行いながら、混合することにより、成型材料を調整する。混合装置として、具体的には、ブレンダー、ミキサー、振動撹拌機、ロール、押出し機などの混合装置や混練装置が用いられる。 【0038】 次に、配向工程が行われる。配向工程では、まず、成形材料を型に流し込む。そして、成形材料に含まれる炭素繊維12を一方向に配向させる。配向方法としては、磁場又は電場を用いる方法や、流動場や剪断場を用いる方法等が挙げられる。本実施形態において、炭素繊維12は異方性磁化率を有しており、その炭素繊維12が均一に配向し易いとの理由から、磁場又は電場を用いる配向方法を採用することが好ましい。この場合、磁場発生装置として、具体的には、永久磁石や電磁石、超伝導磁石などが用いられる。 【0039】 調整工程及び配向工程中、成形材料の粘度は、均一な分散及び配向のため、高分子マトリックス11中を炭素繊維12及び球状カーボン13が円滑に移動できる程度に調整されていることが好ましい。また、配向工程中、炭素繊維12の配向を促進させるため、型内の成形材料に外部から振動を与えることが好ましい。振動は、高分子マトリックス11や球状カーボン13等を介して炭素繊維12に付与される。このため、特に、配向工程中、成形材料の粘度は、外部からの衝撃により同成形材料が流動できる程度に調整されていることが好ましい。具体的には、成形材料の回転粘度は、1rpm、25℃の条件下で、500,000mPa・s以下であることが好ましい。 【0040】 また、配向工程中、外部から付与される振動の周波数、加速度、及び振幅は、炭素繊維12が振動により均一に配向されるように、所定の範囲にそれぞれ設定されている。具体的には、振動の周波数は、0.1Hz?4500Hzであり、より好ましくは、1Hz?100Hzである。また、振動の加速度は、1G以上であり、より好ましくは、30G?50Gである。振動の振幅は、0.1mm?20mmであり、より好ましくは、1mm?20mmである。 【0041】 次に、成形工程が行われる。成形工程では、炭素繊維12を一方向に配向したまま、成形材料を固化する。これにより、成形体が得られる。成形材料の固化は、高分子マトリックス11の種類に応じて、架橋反応や冷却固化等により行われる。熱伝導性シート10は、成形材料を最終形状と同形状のキャビティを有する型に流し込み、型成形することにより、一枚ずつ形成することができる。これとは別の方法として、ブロック状の成形体を型成形し、これをスライスすることにより、一つの成形体から複数の熱伝導性シート10を形成してもよい。 【0042】 次に、露出工程が行われる。露出工程では、刃物などを用いて、炭素繊維12と交差する方向に沿って上記成形体、又は熱伝導性シート10の表面をスライスする。これにより、図2に示すように、炭素繊維12の端面が、熱伝導性シート10の表面から露出させられる。最後に、研磨工程が行われる。研磨工程では、研磨紙や布やヤスリなどを用いて、熱伝導性シート10の表面から露出した炭素繊維12の端面を研磨する。これにより、図3に示すように、炭素繊維12の端面が平坦に潰される。こうして、熱伝導性シート10が製造される。」 「【0045】 ・・・ (4)炭素繊維12の端面は、熱伝導性シート10の表面から表出していることが好ましい。この構成によれば、炭素繊維12の端面が高分子マトリックス11により覆われていないため、ICチップ等の発熱部品やヒートシンク等の部品に対し直接的に炭素繊維12を接触させることができる。よって、熱伝導性シート10の熱伝導性及び導電性がより一層向上する。 (5)炭素繊維12の端面は平坦に潰されていることがより好ましい。この構成によれば、炭素繊維12の端面が平坦であるため、熱伝導性シート10の表面に生じる凹凸を小さく抑えることができる。これにより、発熱部品や冷却部品に対する炭素繊維12の接触面積を増大させることができる。よって、熱伝導性シート10の熱伝導性及び導電性が更に向上する。」 「【0046】 次に、実施例、比較例を挙げて本発明の熱伝導性シートについて更に具体的に説明する。 (実施例1) 実施例1では、以下の工程に従って、熱伝導性シートを作製した。具体的には、まず、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、硬化触媒0.3重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)60重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)60重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)100重量部をそれぞれ配合した。そして、振動攪拌装置を用いて混合することにより、成形材料を調整した。次に、炭素繊維を一方向に配向させるため、成形材料を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、10テスラの磁場を印加した。次に、成形材料を硬化した後、型から成形体を取り出した。続いて、成形体をスライスして、厚さ0.5mmのシート材を得た。そして、シート材の表面を研磨紙で研磨し、炭素繊維の端面を平坦に潰すことにより、図3に示す熱伝導性シートを得た。図4は、実施例1の熱伝導性シートの断面を400倍に拡大した電子顕微鏡写真であり、図5は、同熱伝導性シートの断面を200倍に拡大した電子顕微鏡写真である。図4及び図5から、球状カーボンが炭素繊維間に配置されていることを確認できた。 (実施例2?6) 実施例2?6では、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、硬化触媒0.3重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)A重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)B重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)C重量部を配合した。表1に、A,B,Cの値をそれぞれ示す。実施例2?6の熱伝導性シートは、材料の配合量を除き、実施例1の熱伝導性シートと同じである。 (比較例1) 比較例1では、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)120重量部、球状アルミナ(株式会社マイクロン「AH3-2」平均粒径3.5μm、比重3.95)475重量部を配合した。比較例1の熱伝導性シートは 、材料の種類及び配合量を除き、実施例1の熱伝導性シートと同じである。」 上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されている。 ・高分子マトリックスと炭素繊維とを含み、高分子マトリックス内で炭素繊維がシートの厚み方向に沿って配向されている熱伝導性シート。(【請求項1】、【0025】) ・炭素繊維の端面は、熱伝導性シートの表面から表出して平坦に潰されている。(【請求項4】、【請求項5】、【0042】、【0045】) したがって、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「高分子マトリックスと炭素繊維とを含み、高分子マトリックス内で炭素繊維がシートの厚み方向に沿って配向されている熱伝導性シートにおいて、 炭素繊維の端面は、熱伝導性シートの表面から表出して平坦に潰されている、 熱伝導性シート。」 イ 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を所定の形状に成型して硬化することにより、前記熱伝導性樹脂組成物の成型体を得る成型体作製工程と、 前記成型体をシート状に切断して、表面において前記熱伝導性フィラーが突出した成型体シートを得る成型体シート作製工程と、 前記成型体シートをプレスして、前記成型体シートの表面を、突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状を追従するように、前記成型体シートから滲み出した滲出成分により覆う、プレス工程とを含み、 前記バインダ樹脂が、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有し、 前記主剤と前記硬化剤との配合割合が、質量比で主剤:硬化剤=60:40?65:35であり、 前記熱伝導性フィラーが、炭素繊維、及び無機物フィラーを含有し、 前記無機物フィラーが、アルミナ、及び窒化アルミを含有する、 ことを特徴とする熱伝導シートの製造方法。」 「【0001】 本発明は、半導体素子等の熱源とヒートシンク等の放熱部材との間に配置される熱伝導シートの製造方法、熱伝導シート、及び熱伝導シートを備えた半導体装置に関する。」 「【0010】 本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、熱源や放熱部材に対する密着性を向上させ、熱伝導性に優れ、また、粘着剤等を用いることなく仮固定を行うことができ、実装性に優れた熱伝導シートの製造方法、熱伝導シート、及びこれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。」 「【0015】 <成型体作製工程> 前記成型体作製工程としては、バインダ樹脂及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を所定の形状に成型して硬化することにより、前記熱伝導性樹脂組成物の成型体を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。 【0016】 <<熱伝導性樹脂組成物>> 前記熱伝導性樹脂組成物は、バインダ樹脂と、熱伝導性フィラーとを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。 前記熱伝導性樹脂組成物は、公知の手法により調製できる。 【0017】 -バインダ樹脂- 前記バインダ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化性ポリマーなどが挙げられる。 【0018】 前記熱硬化性ポリマーとしては、例えば、架橋ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ポリイミドシリコーン、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 【0019】 前記架橋ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ポリイソブチレンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 【0020】 これらの中でも、成形加工性、耐候性に優れると共に、電子部品に対する密着性及び追従性の点から、前記熱硬化性ポリマーは、シリコーン樹脂であることが特に好ましい。 【0021】 前記シリコーン樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有することが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型液状シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、電子機器の放熱部材としては、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型液状シリコーン樹脂が特に好ましい。 【0022】 前記付加反応型液状シリコーン樹脂としては、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを主剤、Si-H基を有するポリオルガノシロキサンを硬化剤とした、2液性の付加反応型シリコーン樹脂が好ましい。 【0023】 前記液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤との組合せにおいて、前記主剤と前記硬化剤との配合割合としては、質量比で主剤:硬化剤=35:65?65:35であることが好ましい。 配合比率が前記好ましい範囲内であることにより、プレス工程において、成型体シートから滲み出た滲出成分が、得られる熱伝導シートに適度な微粘着性を付与しやすくなる。 【0024】 前記熱伝導性樹脂組成物における前記バインダ樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%?50質量%が好ましく、15質量%?40質量%がより好ましい。 【0025】 -熱伝導性フィラー- 前記熱伝導性フィラーは、熱源からの熱を効率良く放熱部材に伝導させるためのものである。 前記熱伝導性フィラーとしては、炭素繊維、無機物フィラーが好ましい。 【0026】 --炭素繊維-- 前記炭素繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピッチ系、PAN系、PBO繊維を黒鉛化したもの、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の点から、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が特に好ましい。 【0027】 前記炭素繊維は、必要に応じて、その一部又は全部を表面処理して用いることができる。前記表面処理としては、例えば、酸化処理、窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理などが挙げられる。前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる。 【0028】 前記炭素繊維の平均繊維長(平均長軸長さ)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm?250μmが好ましく、75μm?200μmよりが好ましく、90μm?170μmが特に好ましい。 【0029】 前記炭素繊維の平均繊維径(平均短軸長さ)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4μm?20μmが好ましく、5μm?14μmがより好ましい。 【0030】 前記炭素繊維のアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8以上が好ましく、9?30がより好ましい。前記アスペクト比が、8未満であると、炭素繊維の繊維長(長軸長さ)が短いため、熱伝導率が低下してしまうことがある。 ここで、前記炭素繊維の平均長軸長さ、及び平均短軸長さは、例えばマイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができる。 【0031】 前記熱伝導シートにおける前記炭素繊維の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10体積%?40体積%が好ましく、12体積%?38体積%がより好ましく、15体積%?35体積%が特に好ましい。前記含有量が、10体積%未満であると、十分に低い熱抵抗を得ることが困難になることがあり、40体積%を超えると、前記熱伝導シートの成型性及び前記炭素繊維の配向性に影響を与えてしまうことがある。 【0032】 --無機物フィラー-- 前記無機物フィラーとしては、その形状、材質、平均粒径などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状、楕円球状、塊状、粒状、扁平状、針状などが挙げられる。これらの中でも、球状、楕円形状が充填性の点から好ましく、球状が特に好ましい。 なお、本明細書において、前記無機物フィラーは、前記炭素繊維とは異なる。 【0033】 前記無機物フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム(窒化アルミ:AlN)、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化亜鉛、炭化ケイ素、ケイ素(シリコン)、酸化珪素、酸化アルミニウム、金属粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカが好ましく、熱伝導率の点から、アルミナ、窒化アルミニウムが特に好ましい。 【0034】 なお、前記無機物フィラーは、表面処理が施されていてもよい。前記表面処理としてカップリング剤で前記無機物フィラーを処理すると、前記無機物フィラーの分散性が向上し、熱伝導シートの柔軟性が向上する。 【0035】 前記無機物フィラーの平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。 前記無機物フィラーがアルミナの場合、その平均粒径は、1μm?10μmが好ましく、1μm?5μmがより好ましく、4μm?5μmが特に好ましい。前記平均粒径が、1μm未満であると、粘度が大きくなり、混合しにくくなることがあり、10μmを超えると、前記熱伝導シートの熱抵抗が大きくなることがある。 前記無機物フィラーが窒化アルミニウムの場合、その平均粒径は、0.3μm?6.0μmが好ましく、0.3μm?2.0μmがより好ましく、0.5μm?1.5μmが特に好ましい。前記平均粒径が、0.3μm未満であると、粘度が大きくなり、混合しにくくなることがあり、6.0μmを超えると、前記熱伝導シートの熱抵抗が大きくなることがある。 前記無機物フィラーの平均粒径は、例えば、粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。 【0036】 前記熱伝導シートにおける前記無機物フィラーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25体積%?65体積%が好ましく、30体積%?60体積%がより好ましい。前記含有量が、25体積%未満であると、前記熱伝導シートの熱抵抗が大きくなることがあり、60体積%を超えると、前記熱伝導シートの柔軟性が低下することがある。 【0037】 -その他の成分- 前記熱伝導性樹脂組成物における前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チキソトロピー性付与剤、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、微粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤などが挙げられる。 【0038】 前記成型体作製工程において、前記熱伝導性樹脂組成物を所定の形状に成型する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出し成型法、金型成型法などが挙げられる。 【0039】 前記成型体作製工程は、中空状の型内に、前記熱伝導性樹脂組成物を充填し、前記熱伝導性樹脂組成物を熱硬化することにより行われることが、得られる前記熱伝導シートにおいて前記熱伝導性フィラー(例えば、炭素繊維)をランダムに配向できる点で、好ましい。 得られる前記熱伝導シートにおいては、前記炭素繊維が、ランダムに配向していることにより、前記炭素繊維同士の交絡が増えるため、前記炭素繊維が、一定方向に配向している場合よりも、熱伝導率が大きくなる。また、前記熱伝導性フィラーが、前記炭素繊維と、球状の前記無機物フィラーとを含有する場合には、前記炭素繊維がランダムに配向していることにより、前記炭素繊維同士の交絡に加え、前記炭素繊維と球状の前記無機物フィラーとの接点も増えるため、前記炭素繊維が、一定方向に配向している場合よりも、更に熱伝導率が大きくなる。 【0040】 前記押出し成型法、及び前記金型成型法としては、特に制限されず、公知の各種押出し成型法、及び金型成型法の中から、前記熱伝導性樹脂組成物の粘度や、得られる熱伝導シートに要求される特性等に応じて適宜採用することができる。 【0041】 前記押出し成型法において、前記熱伝導性樹脂組成物をダイより押し出す際、あるいは前記金型成型法において、前記熱伝導性樹脂組成物を金型へ圧入する際、例えば、前記バインダ樹脂が流動し、その流動方向に沿って一部の炭素繊維が配向するが、多くは配向がランダムになっている。 【0042】 なお、ダイの先端にスリットを取り付けた場合、押し出された成型体ブロックの幅方向に対して中央部は、炭素繊維が配向しやすい傾向がある。その一方、成型体ブロックの幅方向に対して周辺部は、スリット壁の影響を受けて炭素繊維がランダムに配向されやすい。 【0043】 成型体(ブロック状の成型体)の大きさ及び形状は、求められる熱伝導シートの大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5cm?15cmで横の大きさが0.5cm?15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。 【0044】 前記成型体作製工程における前記熱伝導性樹脂組成物の硬化は熱硬化であることが好ましい。前記熱硬化における硬化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バインダ樹脂が、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有する場合、80℃?120℃が好ましい。前記熱硬化における硬化時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間?10時間などが挙げられる。 【0045】 <成型体シート作製工程> 前記成型体シート作製工程としては、前記成型体をシート状に切断して、表面において前記熱伝導性フィラーが突出した成型体シートを得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スライス装置により行うことができる。 【0046】 前記成型体シート作製工程においては、前記成型体をシート状に切断して、成型体シートを得る。得られる前記成型体シートの表面においては、前記熱伝導性フィラーが突出している。これは、前記成型体をスライス装置等によりシート状に切断する際に、前記バインダ樹脂の硬化成分と、前記熱伝導性フィラーとの硬度差により、前記バインダ樹脂の硬化成分がスライス装置等の切断部材に引っ張られて伸長し、前記成型体シート表面において、前記熱伝導性フィラー表面から前記バインダ樹脂の硬化成分が除去されるためと考えられる。 【0047】 前記スライス装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、超音波カッター、かんな(鉋)などが挙げられる。前記成型体の切断方向としては、成型方法が押出し成型法である場合には、押出し方向に配向しているものもあるために押出し方向に対して60度?120度が好ましく、70度?100度がより好ましく、90度(垂直)が特に好ましい。 【0048】 前記成型体シートの平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる、例えば、1mm?5mmなどが挙げられる。」 「【0080】 (実施例1) 実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径4μmのアルミナ粒子(熱伝導性粒子:電気化学工業株式会社製)と、平均繊維長150μm、平均繊維径9μmのピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維:日本グラファイトファイバー株式会社製)と、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径1μmの窒化アルミ(熱伝導性粒子:株式会社トクヤマ製)とを、体積比で、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂:アルミナ粒子:ピッチ系炭素繊維:窒化アルミ=34vol%:20vol%:22vol%:24vol%となるように分散させて、シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)を調製した。」 ウ 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 高分子マトリクスに繊維軸がシートの厚み方向に配向している炭素繊維粉末を含む炭素繊維配向熱伝導層と、高分子マトリクスに絶縁性熱伝導性充填材が分散しており熱伝導性と絶縁性とを備える絶縁熱伝導層と、を積層した熱伝導性シート。」 「【0001】 本発明は、発熱体と放熱体の間に配置して用いられる熱伝導性シートに関する。」 「【0006】 そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、絶縁性を備えつつ熱伝導性が高い熱伝導性シートの提供を目的とする。また本発明は、取扱い性にも優れた熱伝導性シートの提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記目的を達成する本発明の熱伝導性シートは以下のとおり構成される。 即ち、高分子マトリクスに繊維軸がシートの厚み方向に配向している炭素繊維粉末を含む炭素繊維配向熱伝導層と、高分子マトリクスに絶縁性熱伝導性充填材が分散しており熱伝導性と絶縁性とを備える絶縁熱伝導層と、を積層した熱伝導性シートである。」 「【0131】 <熱伝導率>・・・熱伝導性シート1、9?13を比較する。熱伝導性シート1、9、10は、熱伝導率が12.9W/m・Kの炭素繊維配向熱伝導層」 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と引用発明を対比する。 a 引用発明の「炭素繊維」は、「熱伝導性シート」に「高分子マトリックス」とともに含まれるものであるから、充填剤である。 そして、本件明細書の段落【0023】に「異方性充填材13としては、繊維材料、鱗片状材料などが挙げられる。」と記載されていることから、引用発明の「炭素繊維」は、本件特許発明1の「異方性充填剤」に相当する。 そうすると、引用発明の「高分子マトリックスと炭素繊維とを含み、高分子マトリックス内で炭素繊維がシートの厚み方向に沿って配向されている熱伝導性シート」は、本件特許発明1の「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シート」に相当する。 b 引用発明の「炭素繊維の端面は、熱伝導性シートの表面から表出して」いることは、本件特許発明1の「前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出して」いることに相当する。 したがって、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「高分子マトリクスと異方性充填材とを含み、前記異方性充填材が厚さ方向に配向している熱伝導性シートであって、 前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出している、熱伝導性シート。」 (相違点) 本件特許発明1は、「露出する前記異方性充填材が、3.5?45%の割合で倒れるように配置される」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点。 (イ)判断 a 上記相違点について 本件特許発明1と引用発明は、上記のとおり相違点がある。 よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。 また、甲第1号証の記載によれば、研磨によって炭素繊維の端面を平坦に潰すのは、炭素繊維の端面を平坦にして熱伝導性シートの表面に生じる凹凸を小さく抑えるためであり(段落【0045】)、炭素繊維を倒すことの動機はない。 したがって、上記相違点に係る構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 さらに、甲第2号証及び甲第3号証を参酌しても、熱伝導性シートにおいて、炭素繊維を3.5?45%の割合で倒れるように配置することの記載はなく、そのようにすることの示唆もない。 したがって、上記相違点に係る構成は、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参酌しても、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 b 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、甲第1号証に「研磨工程では、研磨紙や布やヤスリなどを用いて、熱伝導性シート10の表面から露出した炭素繊維12の端面を研磨する。これにより、図3に示すように、炭素繊維12の端面が平坦に潰される。こうして、熱伝導性シート10が製造される。」(段落【0042】)と記載されていることから、甲第1号証のものは「本件特許発明と同様に、熱伝導性シート10の表面に、炭素繊維12が露出しており、かつ露出する炭素繊維が12が3.5?45%の割合で倒れるように配置されるものと考えられ」る旨を主張している。(異議申立書第8頁) しかしながら、甲第1号証の研磨は、炭素繊維12の端面を平坦に潰すためのものであり、当該研磨により、炭素繊維が必ず3.5?45%の割合で倒れるものと認められない。また、炭素繊維の端面を平坦に潰すための甲第1号証の研磨と本件特許明細書に「異方性充填材と高分子マトリクスの弾性率の違いにより、研磨の際に高分子マトリクスが沈みこむ一方で、異方性充填材が浮き上がり、かつ浮き上がった異方性充填材が表面に押さえつけられるようにして倒されると推定される。本製造方法では、異方性充填材をより多く倒すために、研磨時に異方性充填材に強い力を作用させ、かつ研磨回数を多くする必要がある。」(段落【0054】)と記載された研磨とは、研磨時に加える力や回数が相違すると解される。 したがって、上記主張を採用することができない。 イ 本件特許発明2ないし11について 本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。 同様の理由により、本件特許発明2ないし11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。 また、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえないのであるから、同様に、本件特許発明6、7及び11も、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証または甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 2 理由3(第36条第6項第2号)について (1)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許発明1における「前記熱伝導性シートの表面に、前記異方性充填材が露出しており、」の「露出」の意味が不明確であるから、本件特許発明1は明確でない旨を主張している。(特許異議申立書第13-14頁) (2)当審の判断 「露出」とは、例えば広辞苑(第一版、2275頁)に「あらわれでること。あらわしだすこと。」と記載されているように「あらわれている」ことを示す記載として明確である。そして、本件特許明細書でも「シート状成形体は、スライスなどの切断により、切断面である各表面において高分子マトリクスから異方性充填材の先端が露出する。」(段落【0053】)と、シート切断面表面にあらわれているとの意味で使用されていることから、本件特許発明1における「露出」の意味は明確である。 よって、本件特許発明1は明確であり、特許異議申立人の主張を採用することができない。 (3)まとめ 請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。 3 理由4(第36条第4項第1号)について (1)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許発明1における「露出する前記異方性充填材が、3.5?45%の割合で倒れるように配置される」構成をどのように実現できるか理解できず、当業者において過度の試行錯誤を要するといえるので、本件特許発明1は当業者が容易に実施できるものでない旨を主張している。(特許異議申立書第14-15頁) (2)当審の判断 本件特許明細書には「本製造方法では、異方性充填材をより多く倒すために、研磨時に異方性充填材に強い力を作用させ、かつ研磨回数を多くする必要がある。したがって、研磨紙としては、粗目の研磨紙を使用する必要がある。粗目の研磨紙としては、砥粒の平均粒径(D50)が3?60μmのものが挙げられる。3μm以上の研磨紙を使用し、かつ研磨回数を多くすることで、十分な量の異方性充填材を倒すことが可能になる。・・・また、研磨回数は、例えば、表面状態を観察し、異方性充填材13の倒れる量を確認しながら行えばよい」(段落【0054】)と、使用する研磨紙や研磨回数について、当業者が容易に実施できる程度に記載されており、特許異議申立人の主張を採用することができない。 (3)まとめ 請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-10-23 |
出願番号 | 特願2019-562666(P2019-562666) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L) P 1 651・ 536- Y (H01L) P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川原 光司 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
畑中 博幸 須原 宏光 |
登録日 | 2020-01-22 |
登録番号 | 特許第6650175号(P6650175) |
権利者 | 積水ポリマテック株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導性シート |
代理人 | 千々松 宏 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |