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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 G01N |
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管理番号 | 1368119 |
異議申立番号 | 異議2020-700485 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-14 |
確定日 | 2020-11-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6630044号発明「樹脂配管システムの劣化診断方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6630044号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6630044号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年1月29日(優先権主張 平成26年7月29日)に出願され、令和元年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。その後、令和2年7月14日に特許異議申立人砂川美貴(以下「申立人」という。)は、その請求項1に係る特許に対し特許異議の申立てを行った。 2 本件発明 特許第6630044号の請求項1の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 硬質ポリ塩化ビニルからなる配管または継手を含む樹脂配管システムの既設構造を維持した状態で、前記配管または継手の表面の一部を切削して硬質ポリ塩化ビニルを含む樹脂切片試料を採取する工程と、 前記樹脂切片試料を分析に供し、分析情報を得る分析工程と、 前記分析情報から前記樹脂配管システムの劣化状態を診断する診断工程と、を含み、 前記診断工程は、前記分析情報の指数と衝撃強度および/または扁平強度の保持率との相関を表す検量線を用いて、前記衝撃強度および/または扁平強度の保持率を推定する工程を含む、樹脂配管システムの劣化診断法。」 3 申立理由の概要 申立人は、主たる証拠として下記甲第1号証及び従たる証拠として下記甲第2号証?甲第6号証を提出し、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 甲第1号証:硬質塩化ビニル管の長期寿命の評価について(改訂版),塩化ビニル管・継手協会,2009年 3月,p1-p26 甲第2号証:特開2014-71057号公報 甲第3号証:特開2000-241351号公報 甲第4号証:小松宏至、他,通信用埋設硬質ビニル管の劣化特性,土木学会第64回年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),公益社団法人土木学会,2009年8月3日,DISK2,VI-403,p.805-p.806 甲第5号証:高根由充,プラスチックの耐候性評価用リファレンス試験片,マテリアルライフ学会誌,Vol.15,No1,p.11-p.14 甲第6号証:新発電システムの標準化に関する調査研究,財団法人日本ウエザリングテストセンター,平成7年3月,高-139?高-141 以下、甲第1?6号証を、それぞれ、甲1?6という。 4 甲号証の記載 (1)甲1 ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与したものである。以下、同様。 (ア)「1.2 本報告書の目的 ・・・ これらの調査結果から、硬質塩化ビニル管及び継手について、各分野ごとに実際の長期使用品の性能状態を把握し、長期性能評価データの裏付けとした。」(2頁) (イ)「2.4 長期実使用品の分子量分布について JIS K 6900(プラスチック用語)での劣化定義は「特に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化」となっており、この変化については、採取サンプルの分子量分布を測定し、新管に対し低分子量が多いかどうかを比較する。これは化学構造の変化により高分子鎖が切れ、短くなっていないかどうかを判断する方法である。 2.4.1 測定方法について 管の表面、管厚中心部及び内面(継手については接着部を剥離させた内面)から供試片を取り、LC/GPC法により測定した。 測定分析は、(財)化学技術戦略推進機構に依頼した。 図2-8 試料の取り方」(6頁) イ 甲1発明 上記アの記載事項から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「劣化(「特に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化」)における化学構造の変化を、採取サンプルの分子量分布を測定し、新管に対し低分子量が多いかどうかを比較し、高分子鎖が切れ、短くなっていないかどうかで判断する方法であって、 測定対象は、硬質塩化ビニル管及び継手であり、 供試片は、管の表面、管厚中心部及び内面(継手については接着部を剥離させた内面)から取ったものであり、 分子量分布の測定は、LC/GPC法による測定である、 方法。」 (2)甲2 ア 甲2の記載事項 (ア)「【発明の効果】 【0008】 本発明によれば、可塑剤濃度により塩化ビニル系ホースの劣化を判定することができる。そのため、ホースの使用環境で想定される最低温度に対応した可塑剤濃度を把握することにより、使用環境まで考慮した劣化判定を行うことができる。」 (イ)「【0011】 図1に示すように、塩化ビニル系ホース1は、最外層に硬質塩化ビニル2を使用しており、塩化ビニル系ホース1の耐圧性を保持している。また、最内層にはゴム3を使用しており、耐水性を保持している。その最内層のゴム3および最外層の硬質塩化ビニル2を接着させるために軟質塩化ビニル4が使用されている。」 (ウ)「【0036】 [D:最大使用可能期間の算出方法] 塩化ビニル系ホース1の最大使用可能期間の算出方法について図2?6を参照して説明する。 (ステップD1)新品の塩化ビニル系ホース1より最外層の硬質塩化ビニル2を切り出す。さらに、図5に示すように、最外層の硬質塩化ビニル2を切断面5で表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。 表面側6は内側7と比べて紫外線や熱に直接曝される環境下にある。そのため、可塑剤の揮発が進行し易い。また、使用期間によっては、可塑剤が内部から表面へ移動して染み出してくるために可塑剤濃度が上昇する場合がある。このように、測定箇所によって可塑剤濃度に分布が見られることから、可塑剤濃度が変化し易い表面側6と可塑剤濃度が比較的変化し難い内側7に分割してそれぞれ測定する。」 (エ)「【0049】 [E:残存使用可能期間算出方法] 塩化ビニル系ホース1の残存使用可能期間をTresと表し、劣化判定対象であるホースの使用期間をTuseと表す。残存使用可能期間Tresは、使用期間Tuseが明確か否か、およびホース1が脆化温度や可塑剤濃度の試験のために入手可能か否かに応じた異なる方法で算出する。この残存使用可能期間Tresの算出フローを図7を参照して以下に説明する。 【0050】 (ステップE1)ホースの使用した期間Tuseが明確か否か判定する。 もし、ホース1の使用した期間Tuseが明確であれば、ステップE2に進み、明確でなければステップE3に進む。 【0051】 <使用した期間が明確な敷設ホースの場合> (ステップE2)前述の最大使用可能期間Tmaxから既に使用した期間Tuseを差し引いた残りの期間、すなわち、残存使用可能期間Tresを余寿命として算出する。 すなわちTres=Tmax-Tuseとする。 【0052】 <使用した期間が不明な敷設ホースの場合> (ステップE3)実際に使用している塩化ビニル系ホース1が入手可能かどうか判定する。入手可能な場合はこのホースの試験片を用いて脆化温度や可塑剤濃度を分析するためステップE4に進む。もし入手困難な場合は、実際に使用されているホースと同時期に製造されたホースを用いるのでステップE12に進む。 【0053】 (ステップE4)使用中の敷設ホースより、最外層の硬質塩化ビニル2を切り出す。さらに、図5に示すように、最外層の硬質塩化ビニル2を表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。 【0054】 (ステップE5)劣化判定対象のホースの最大使用可能期間Tmaxが脆化温度から求めた最大使用可能期間Tmax2か、あるいは可塑剤濃度から求めた最大使用可能期間Tmax1かどうかを判定する。Tmax2であった場合は、脆化温度からTresを算出するためステップE6に進む。Tmax1であった場合は、可塑剤濃度からTresを算出するためステップE9に進む。」 イ 甲2に記載された技術的事項 上記アの記載事項から、甲2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「劣化判定対象のホースである、実際に使用している塩化ビニル系ホースの試験片を用いて脆化温度や可塑剤濃度を分析するため、使用中の敷設ホースより、最外層の硬質塩化ビニル2を切り出すこと。」 (3)甲3 ア 甲3の記載事項 (ア)「【0006】最近、実布設された電線・ケーブルから、ごく僅かな試料を採取して、最近の機器分析装置を使用して、被覆材料の劣化度を判定しようとする試みも行われてきている。例えば電線・ケーブルから採取した微量の試料を多重反射方式のフーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR-ATR)により赤外吸収スペクトルを調べて、得られたスペクトルから、特定成分中の特定ピークの変化を特定することにより劣化度を判定するとか、同じようにラマン分光分析法を用いて、さらに微小な領域におけるラマンスペクトルを測定することにより、同じように特定成分中の特定ピークの変化を測定することにより、劣化度を測定しようとする試みが行われている。」 (イ)「【0011】 【作用】本発明方法においては、ごく僅かの試料を用いて、蛍光分光装置を使用して蛍光強度の変化を測定することにより、樹脂そのものの劣化度を判定できるので、電線・ケーブル等を使用状態のまま、被覆材料の劣化状態を簡単に診断することができる。またポリマー自体の劣化を判断することが可能で、他のポリオレフィン等の高分子材料にも適用可能である。」 (ウ)「【0020】また劣化度の不明の材料から少量の試料を採取し、この試料を蛍光分光装置を用いて蛍光スペクトルをとり、例えば、蛍光強度を測定し、その測定値を図3に示される線上に記入することにより、当該材料の被劣化日数を推定することができる。 【0021】さらに、図4に示すように、劣化した試料の蛍光強度と機械的強度の関係を予め求めておくことにより試料を破壊せずに、推定残存強度等を求めることも容易である。」 (エ)「【0031】さらに本方法の原理にしたがって、加熱による劣化、紫外線劣化、および放射線劣化等、ポリマーの劣化に関わるすべての劣化に適用可能で、応用範囲が極めて広い。電線・ケーブル用材料のみならず、他の用途に使用されるポリマー材料の劣化を容易にかつ精度よく判定診断することができる。」 イ 甲3に記載された技術的事項 上記アの記載事項から、甲3には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「ごく僅かの試料を用いて、蛍光分光装置を使用して蛍光強度の変化を測定することにより、樹脂そのものの劣化度を判定できるので、電線・ケーブル等を使用状態のまま、被覆材料の劣化状態を簡単に診断することができること。」 (4)甲4 ア 甲4の記載事項 (ア)「(1) 化学変化(低分子量化)に関する検討 硬質ビニル管の主原料である塩化ビニル樹脂の化学的変化の有無を確認するために、撤去管に対する重合度試験を実施した(図1)。 ・・・ (2)地下水の影響に関する検討 硬質ビニル管の主原料であるポリ塩化ビニル樹脂は、一般に耐水性能が高く、吸水性は小さいが、埋設管路のように、数十年間にわたる長期間地下水に曝された場合には吸水による特性変化の可能性がある。 ・・・ (3)紫外線の影響に関する検討 塩化ビニル樹脂を含む高分子材料の多くが、紫外線の照射によりその機械的特性を低下させる。これらの分析のために劣化生成物としてのカルボニル基およびポリエン基について、反応前物質であるメチレン基に対する吸光度比を求めることによって劣化度を定量的に評価した。紫外線照射サンプルに対する分析結果を図3に示す。カルボニル基が紫外線照射時間とともに増加すること、併せてシャルピー衝撃強さが低下することを確認できた。 撤去サンプルに対しても同様の傾向が確認され、耐衝撃性能の低下が紫外線照射により促進された酸化劣化によるものと推定できた。しかし、撤去サンプルはいずれも地中埋設管であるため、布設後に紫外線照射を受けることはない。このため、布設前の保管状況あるいは運搬状況に関するヒアリング調査を実施した。調査の結果、平均的に1カ月程度の暴露状態が確認され、これが原因であると確定することができた。」(805左欄頁下から4行目?806頁左欄18行) (イ)「図3 紫外線の影響に関する検討結果 」(806頁右欄) イ 甲4に記載された技術的事項 図3には、紫外線照射時間に対するメチレンに対する吸光度比の折れ線グラフと紫外線照射時間に対する衝撃強さの棒グラフが見て取れることを踏まえると、上記アの記載事項から、甲4には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「塩化ビニル樹脂を含む高分子材料の多くが、紫外線の照射によりその機械的特性を低下させることをことを分析するために、劣化生成物としてのカルボニル基およびポリエン基について、反応前物質であるメチレン基に対する吸光度比を求めることによって劣化度を定量的に評価した結果、紫外線照射時間に対するメチレンに対する吸光度比の折れ線グラフと紫外線照射時間に対する衝撃強さの棒グラフから、カルボニル基が紫外線照射時間とともに増加すること、併せてシャルピー衝撃強さが(紫外線照射時間とともに)低下することを確認できた。」 (5)甲5及び甲6 ア 甲5の記載事項 (ア)「(1)屋外暴露環境の尺度 図1にポリエチレンリファレンス試験片の1カ月暴露を繰り返した時のカルボニル基生成量(以下,カルボニルインデックスという )の季節変化を,図2にこれらの値を積算した結果を示す.この積算されたカルボニルインデックスの大きさを暴露期間中に受けた劣化因子の指標とする.」(p.12左欄8行?13行) (イ)「(3)共通の尺度 図4?5にポリエチレンフィルムのカルボニルインデックスをパラメータとした場合の屋外と実験室光源暴露の結果を整理した例を示す. ・・・ 屋外と実験室光源暴露で同一の尺度で評価することが可能であり,カルボニルインデックスによって相関関係を整理することが可能なことを示している. 同じ扱いをし,プラスチック材料の物性値がカルボニルインデックスで表される例^(7))を表1に示す. 」 (p.12左欄下から2行目?p.13左欄) (ウ)「7)”新発電システムの耐候性の標準化に関する調査研究”,(財)日本ウエザリングテストセンター(平成3年?現在)」 (p.14右欄 引用文献記載欄) イ 甲6の記載事項 (ア)「(2)カルボニル法による予測 昨年度の解析でポリエチレン標準試験片の1ヶ月毎の暴露によって生成したカルボニル量が季節の変化、暴露場所の特徴を表していることが明らかになり、これを積算した値と各試料の物性値との関係を求めた結果、暴露場所が異なってもほとんど同じ曲線で表すことができることが分かった。今年度は促進暴露試験の結果も含めどういった材料のどういった物性にこの方法が適用できるか分類した。 図1?4にカルボニル法を適用した例を示す。これらの図から物性値がある値になるのに必要なカルボニル量を読み取り表230に示す。」(高-139) (イ)「表232に各種の試料にカルボニル法を適用し、どういう材料のどういう物性値に適用できるかを分類した例を示す。これをみると引張特性や曲げ特性などの機械的物性や分子量の変化などには概ねよく適用でき、促進暴露試験から屋外での変化を予測することが可能である。」(高-140) (ウ)「 」(高-142) ウ 甲5及び甲6に記載された技術的事項 高-142の表232には、「試料」と「項目」からなる表において、「試料」として「PVC硬質シート」、「項目」として「衝撃強さ」の欄に、「カルボニル法が屋外と促進とも適用可能(共通の曲線)、促進試験(水無しキセノン)から屋外の予測が可能。屋外暴露により他の地域での予測も可能。」に該当することを示す二重丸が見て取れる。 また、甲6は、甲5の引用文献7)に含まれる文献であり、甲5の「プラスチック材料の物性値がカルボニルインデックスで表される例」との記載において引用されている文献であることを踏まえると、甲5及び甲5に引用された甲6から、以下の技術的事項が読み取れる。 「カルボニル基生成量(カルボニルインデックス)の大きさを暴露期間中に受けた劣化因子の指標とし、プラスチック材料の物性値(「PVC硬質シート」の「衝撃強さ」)をカルボニルインデックスで表すこと。」 5 当審の判断 (1)対比 ア 請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明は、測定対象を「硬質塩化ビニル管及び継手」とする「劣化を・・・判断する方法」であり、管や継手は、配管システムに含まれる構成要素であるから、本件発明の「硬質ポリ塩化ビニルからなる配管または継手を含む樹脂配管システム」の「劣化診断法」に相当する。 (イ)甲1発明の、測定対象を「硬質塩化ビニル管及び継手」とし、「供試片は、管の表面、管厚中心部及び内面(継手については接着部を剥離させた内面)から取」ることと、本願発明の「既設構造を維持した状態で、前記配管または継手の表面の一部を切削して硬質ポリ塩化ビニルを含む樹脂切片試料を採取する工程」とは、「前記配管または継手の表面の一部を切削して硬質ポリ塩化ビニルを含む樹脂切片試料を採取する工程」の点で共通する。 (ウ)甲1発明の「採取サンプルの分子量分布を測定」することは、本願発明の「前記樹脂切片試料を分析に供し、分析情報を得る分析工程」に相当する。 (エ)甲1発明の「劣化」を「採取サンプルの分子量分布を測定し、新管に対し低分子量が多いかどうかを比較し、高分子鎖が切れ、短くなっていないかどうかで判断する」ことは、本願発明の「前記分析情報から前記樹脂配管システムの劣化状態を診断する診断工程」に相当する。 以上の相当関係から、本願発明と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。 イ 一致点 「硬質ポリ塩化ビニルからなる配管または継手を含む樹脂配管システムの前記配管または継手の表面の一部を切削して硬質ポリ塩化ビニルを含む樹脂切片試料を採取する工程と、 前記樹脂切片試料を分析に供し、分析情報を得る分析工程と、 前記分析情報から前記樹脂配管システムの劣化状態を診断する診断工程と、を含む、 樹脂配管システムの劣化診断法。」 ウ 相違点 (ア)相違点1 試料を採取する工程において、本願発明は、「既設構造を維持した状態で」行われるのに対し、甲1発明は、「供試片は、管の表面、管厚中心部及び内面(継手については接着部を剥離させた内面)から取」ることから、「既設構造を維持した状態で」行われるものではない点。 (イ)相違点2 診断工程において、本願発明は、「前記分析情報の指数と衝撃強度および/または扁平強度の保持率との相関を表す検量線を用いて、前記衝撃強度および/または扁平強度の保持率を推定する工程を含む」のに対し、甲1発明は、そのような診断工程を含まない点。 (2)判断 ア 相違点1について判断 甲2には、「劣化判定対象のホースである、実際に使用している塩化ビニル系ホースの試験片を用いて脆化温度や可塑剤濃度を分析するため、使用中の敷設ホースより、最外層の硬質塩化ビニル2を切り出すこと。」が記載されている。 また、甲2段落0011には、「図1に示すように、塩化ビニル系ホース1は、最外層に硬質塩化ビニル2を使用しており、塩化ビニル系ホース1の耐圧性を保持している。また、最内層にはゴム3を使用しており、耐水性を保持している。その最内層のゴム3および最外層の硬質塩化ビニル2を接着させるために軟質塩化ビニル4が使用されている。」ことが記載され、段落0036には、「最外層の硬質塩化ビニル2を切断面5で表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。」ことが記載されている。 これらの記載から、試験片として、「使用中の敷設ホースより、最外層の硬質塩化ビニル2を切り出すこと」は、内側の軟質塩化ビニル4に接するところまで切り出すものであるが、切り出したとしても、その内側には、軟質塩化ビニル4及びゴム3の層があることから、「既設構造を維持した状態で」、試験片は切り出されるものといえる。 甲3には、「ごく僅かの試料を用いて、蛍光分光装置を使用して蛍光強度の変化を測定することにより、樹脂そのものの劣化度を判定できるので、電線・ケーブル等を使用状態のまま、被覆材料の劣化状態を簡単に診断することができること。」が記載されており、「既設構造を維持した状態で」試料を採取する工程が行われているといえる。 よって、甲2及び甲3の記載からいえる、「既設構造を維持した状態で」試料を採取する工程は、いずれも管の表面部のみの試料を採取することであり、管厚中心部及び内面の試料を採取することを意味しないものといえる。仮に、管厚中心部及び内面の試料を採取しようとするならば、もはや既設構造の状態を維持しているとはいえない。 一方、甲1発明は「管の表面、管厚中心部及び内面」から「供試片」を「取る」ものであり、「これらの調査結果から、硬質塩化ビニル管及び継手について、各分野ごとに実際の長期使用品の性能状態を把握し、長期性能評価データの裏付けとした。」(甲1の2頁「1.2 本報告書の目的」)とするものであるから、「管の表面」のみならず「管厚中心部及び内面」から「供試片」を「取る」ことが必須の発明である。 してみると、甲1発明に、上記甲2又は甲3に記載されているような「既設構造を維持した状態で」試料を採取する技術的事項を適用する動機付けはないといえる。 したがって、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたとはいえない。 イ 相違点2についての判断 (ア)甲4には、「塩化ビニル樹脂を含む高分子材料の多くが、紫外線の照射によりその機械的特性を低下させることをことを分析するために、劣化生成物としてのカルボニル基およびポリエン基について、反応前物質であるメチレン基に対する吸光度比を求めることによって劣化度を定量的に評価した結果、紫外線照射時間に対するメチレンに対する吸光度比の折れ線グラフと紫外線照射時間に対する衝撃強さの棒グラフから、カルボニル基が紫外線照射時間とともに増加すること、併せてシャルピー衝撃強さが(紫外線照射時間とともに)低下することを確認できた。」との技術的事項が記載されている。 「カルボニル基が紫外線照射時間とともに増加すること、併せてシャルピー衝撃強さが(紫外線照射時間とともに)低下することを確認できた」ことから、カルボニル基が増加するとともにシャルピー衝撃強さが低下する関係にあることが、一応推察されるものの、直接その関係が記載されてはいない。よって、甲4の記載から、カルボニル基の量を指数として、シャルピー衝撃強さとの相関を表す検量線を用いて、シャルピー衝撃強さを推定することは、当業者が容易に想到することができるとはいえるが、甲4に記載されている事項であるとまではいえない。 したがって、甲4には、相違点2に係る構成が記載されているとはいえない。 (イ)甲5及び甲6から、「カルボニル基生成量(カルボニルインデックス)の大きさを暴露期間中に受けた劣化因子の指標とし、プラスチック材料の物性値(「PVC硬質シート」の「衝撃強さ」)をカルボニルインデックスで表すこと。」の技術的事項が読み取れる。 この技術的事項において、「カルボニル基生成量(カルボニルインデックス)」が「分析情報の指数」に相当し、「衝撃強さ」が「衝撃強度」の「保持率」に相当することを踏まえると、「衝撃強さをカルボニルインデックスで表すこと」は、実質的に、相違点2に係る「前記分析情報の指数と衝撃強度の保持率との相関を表す検量線を用いて、前記衝撃強度の保持率を推定する工程」に相当するといえる。 一方、甲5の表1には、「硬質PVC」と「分子量」との交差する欄には何も記載されておらず、甲6の表232には、「PVC硬質シート」と「分子量」との交差する欄に、「変化がすくないため評価せず」と記載されているように、「分子量」と「カルボニル基生成量」とは関連する関係にあるとはいえない。 甲1発明は、「劣化(「特に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化」)における化学構造の変化を、採取サンプルの分子量分布を測定し、新管に対し低分子量が多いかどうかを比較し、高分子鎖が切れ、短くなっていないかどうかで判断する方法」であり、劣化を判断するために「分子量分布」を測定することは、甲1発明の主要な構成であるといえるところ、甲5及び甲6に記載されているように、劣化生成物である「カルボニル基生成量」を測定することで、劣化を判断することが知られているとしても、甲1発明の主要な構成である 「分子量分布」を測定することに代えて、「分子量」とは関連する関係にあるとはいえない「カルボニル基生成量」を測定するようにする動機付けはない。 よって、本件発明の「分析情報」に相当する、甲1発明の「分子量分布」を、甲5及び甲6に記載の「カルボニル基生成量」に代えて、相違点2に係る「前記分析情報の指数と衝撃強度および/または扁平強度の保持率との相関を表す検量線を用いて、前記衝撃強度および/または扁平強度の保持率を推定する工程を含む」との構成を得ることは、当業者が容易に想到することができることとはいえない。 ウ 判断のまとめ 上記ア及びイのとおりであり、本願発明は、甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-10-26 |
出願番号 | 特願2015-15407(P2015-15407) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(G01N)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 島田 保 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
磯野 光司 森 竜介 |
登録日 | 2019-12-13 |
登録番号 | 特許第6630044号(P6630044) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 樹脂配管システムの劣化診断方法 |
代理人 | 特許業務法人 クレイア特許事務所 |