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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04F
管理番号 1368130
異議申立番号 異議2020-700576  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-07 
確定日 2020-11-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6662514号発明「免震フリーアクセスフロア」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6662514号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6662514号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成27年10月30日に出願され、令和 2年 2月17日にその特許権の設定登録がされ、令和2年 3月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和 2年 8月 7日に、特許異議申立人 若林 春雄(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6662514号の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
建造物のコンクリート床スラブ上に複数の支柱を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介してフロアパネルに積層された鋼板を支持する免震フリーアクセスフロアであって、
前記コンクリート床スラブ上に配置された複数の支柱には、防振材を介して形成された支柱が含まれ、
地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成したことを特徴とする免震フリーアクセスフロア。
【請求項2】
フロアパネル下面に積層される鋼板は、互いに隣接するフロアパネルのジョイント補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有することを特徴とする請求項1記載の免震フリーアクセスフロア。
【請求項3】
フロアパネルの全重量が防振材を介していない全支柱に付加される場合、地震時には、フロアパネルが全方向にスライドしても、球体が回転するのでスライド抵抗が小さく、十分な免震効果を得ることができるように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の免震フリーアクセスフロア。

第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、以下の具体的理由のとおり、本件発明1ないし3を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されておらず、実施可能要件を満たしていないから、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨、主張している。

1 請求項1には「該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介して・・・」と記載され、「地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、」と後述される。また、明細書段落【0019】には「球体3及び球体5が回転するので、スライド抵抗は小さく、フロアパネル1が球体3及び球体5の上を水平全方向にスライド可能になり免震効果を得ることができる。」と記載される。
しかし、球体保持部と球体の具体的構成が何ら記載されておらず、地震時に防振材を介して形成された支柱のみスライド抵抗が大きくなる根拠が明確かつ十分に記載されていない。(申立書第2頁請求項1証拠欄A1、A2、第9頁第19?23行)

2 請求項1には、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成した」と記載される。
防振材を介して形成された支柱は、平常時、フロアパネルの全重量を支えていることになり、これほどの重量を支える防振材の強度及び硬度は相当大きく、硬い物でなければ、平常時、フロアパネルの全重量を支えることが出来ないと推察される。
しかし、回転自在に保持された球体にどれほどのスライド抵抗が加われば(フロアパネルの全重量を支える)防振材を介して形成された支柱が首振り状態になるのか球体保持部と球体の具体的構成が何ら記載されておらず、かつ周知のものでもないから、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、回転自在に保持された球体が地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を受けると言っていることに矛盾があり、理論的に整合がとれていない。(申立書第2?3頁請求項1証拠欄A3、第9頁第23行?第10頁第5行)

3 請求項1には「免震フリーアクセスフロア」と記載されるが、地震時には回転自在に保持された球体の上部に載置されたフロアが、ただ単にスライドしているだけで、フロア端部が建物の四方の壁に衝突し、フロアに置かれた物品はフロアが壁に衝突した瞬間、倒れる、吹っ飛ぶことになる。請求項3も同様であり、免振効果を得ることができる構造の構成が具体的に記述されていない。(申立書第3頁請求項1証拠欄A4、第5?6頁請求項3証拠欄A1、第10頁第6?9行、第18?28行)

4 請求項2の「フロアパネル下面に積層される鋼板は、互いに隣接するフロアパネルのジョイント補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有することを特徴とする請求項1記載の免震フリーアクセスフロア」は、鋼板の大きさ、即ち、面積がフロア全面なのか、分割されているのであればジョイント構造の具体的構成が何ら記載されておらず、かつ周知のものでもないから、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、フロアパネルの補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有する根拠が不明であるし、請求項1には薄鋼板と記述されていることからして、フロアパネルの補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有すると推察できない。(申立書第5頁請求項2証拠欄A1、第10頁第12?17行)

第4 本件特許の明細書及び図面の記載
本件特許の明細書及び図面には、以下の記載がある。

1 「【技術分野】
【0001】
本発明は免震フリーアクセスフロアに関し、特にフリーアクセスフロア自体を免震構造として微振動の伝達を遮断し、振動障害を防いで耐震性能を向上させた免震フリーアクセスフロアに関する。
【0002】
基本的には、建造物のコンクリート床スラブ上に複数の支柱を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介してフロアパネル下面に積層された鋼板を支持することを基本構造としている。
【0003】
フロアパネル下面に積層される鋼板は、隣接するフロアパネルのジョイント補強と撓み防止になっている。」

2 「【課題を解決するための手段】
【0010】
建造物のコンクリート床スラブ上に複数の支柱を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介してフロアパネルに積層された薄鋼板を支持することを特徴とし、建造物のコンクリート床スラブ上に配置された複数の支柱のうち、防振材を介して形成された支柱が含まれていることを特徴とし、地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成したことを特徴とし、且つ、フロアパネルの全重量が防振材を介していない全支柱に付加される場合、地震時には、フロアパネルが水平全方向にスライドしても、球体が回転するのでスライド抵抗が小さく、十分な免震効果を得ることができるように構成した免震フリーアクセスフロアを提供する。」

3 「【発明の効果】
【0013】
図2に示すように、防振材43を介して立設された支柱40は、防振材43の材質が合成ゴム等の弾力性材質で構成され、球体4をフロアパネル1の下面に積層された薄鋼板2へ押圧しているので、防振材を使用していない他の支柱30,50に比べて、フロアパネル1の水平スライドの抵抗が大きい。
【0014】
その結果、フロアパネル1がスライドする場合、防振材43を介して形成された支柱40が図2に示すように首振り状態になり、フロアパネル1に積層された薄鋼板2より離脱して、フロアパネル1の全重量が防振材を介していない他の支柱30及び支柱50に付加され、球体3及び球体5が回転するので、スライド抵抗は小さく、フロアパネル1が球体3及び球体5の上を水平全方向にスライド可能になり免震効果を得ることができる。」

4 「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、図1に示すように、基本的に建造物のコンクリート床スラブ6上に複数の支柱30、40、50を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部31、41、51を有し、該複数の球体保持部31、41、51において回転自在に保持された球体3、4、5を介してフロアパネル1に積層された薄鋼板2を支持する構造が基本である。
【0017】
フロアパネル1に積層された薄鋼板2が水平スライドする時、図2に示すように、自重による摩擦抵抗の影響を受けて支柱40が首振り状態となり、球体4はフロアパネル1に積層された鋼板2より離脱する。
【0018】
その結果、フロアパネル1及び薄鋼板2の全重量が防振材を介していない他の支柱30及び支柱50に付加される。
【0019】
球体3及び球体5が回転するので、スライド抵抗は小さく、フロアパネル1が球体3及び球体5の上を水平全方向にスライド可能になり免震効果を得ることができる。」

5 【図1】及び【図2】



第5 判断
1 請求項1の「該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介して・・・地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、」との記載について

申立人は、本件特許明細書には、球体保持部と球体の具体的構成が何ら記載されておらず、地震時に防振材を介して形成された支柱のみスライド抵抗が大きくなる根拠が明確かつ十分に記載されていないものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。

以下、上記主張について検討する。
球体保持部に球体を回転自在に保持する機構自体は周知慣用された機構であり、そのような機構に用いられる球体保持部及び球体は、本件特許明細書に詳細を記載していなくても、当業者が市販品等を利用して適宜実施をすることができるものである。
また、当該機構の免震フリーアクセスフロアへの適用については、本件特許明細書【0016】(上記第4 4参照)に、「本発明は、・・・建造物のコンクリート床スラブ6上に複数の支柱30、40、50を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部31、41、51を有し、該複数の球体保持部31、41、51において回転自在に保持された球体3、4、5を介してフロアパネル1に積層された薄鋼板2を支持する」と記載され、本件図面【図1】(上記第4 5参照)にも、球体保持部31、41、51と、球体3、4、5の様子が示されている。

そして、地震時に防振材を介して形成された支柱のみスライド抵抗が大きくなる根拠について、本件特許明細書段落【0013】、【0014】(上記第4 3参照)には、「図2に示すように、防振材43を介して立設された支柱40は、防振材43の材質が合成ゴム等の弾力性材質で構成され、球体4をフロアパネル1の下面に積層された薄鋼板2へ押圧しているので、防振材を使用していない他の支柱30,50に比べて、フロアパネル1の水平スライドの抵抗が大きい。その結果、フロアパネル1がスライドする場合、防振材43を介して形成された支柱40が・・・首振り状態になり、フロアパネル1に積層された薄鋼板2より離脱して、」(下線は合議体が付与した。以下同様。)との記載があり、支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介して支持する支柱のうち、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を防振材を介さない支柱よりも大きくする例が示されている。

そうすると、当業者は本件特許明細書のこれらの記載から、コンクリート床スラブ上に先端に球体保持部を有する複数の支柱を一定の配置にて立設し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介してフロアパネルに積層された薄鋼板を支持するようにし、防振材を介して立設された支柱は、防振材を合成ゴム等の弾力性材質で構成して薄鋼板へ押圧して防振材を使用していない他の支柱に比べてフロアパネルの水平スライドの抵抗が大きいものとすることにより、本件発明1の「該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介して・・・地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、」との構成を実施することができることを理解できる。

よって、本件特許明細書は、本件発明1の「該支柱の先端に球体保持部を有し、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介して・・・地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、」との事項を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載するものである。

2 請求項1の、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成した」との記載について
申立人は、(1)防振材を介して形成された支柱は、平常時、フロアパネルの全重量を支えていることになり、これほどの重量を支える防振材の強度及び硬度は相当大きく、硬い物でなければ、平常時、フロアパネルの全重量を支えることが出来ないと推察されるが、回転自在に保持された球体にどれほどのスライド抵抗が加われば(フロアパネルの全重量を支える)防振材を介して形成された支柱が首振り状態になるのか球体保持部と球体の具体的構成が何ら記載されておらず、かつ周知のものでもない旨、(2)回転自在に保持された球体が地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を受けると言っていることに矛盾があり、理論的に整合がとれていない、との理由により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨、主張する。

以下、上記主張について検討する。
(1)について
本件特許明細書段落【0017】、【0018】(上記第4 4参照)には、
「フロアパネル1に積層された薄鋼板2が水平スライドする時、図2に示すように、自重による摩擦抵抗の影響を受けて支柱40が首振り状態となり、球体4はフロアパネル1に積層された鋼板2より離脱する。その結果、フロアパネル1及び薄鋼板2の全重量が防振材を介していない他の支柱30及び支柱50に付加される。」と記載されている。
また、本件図面【図2】(上記第4 5参照)にも、首振り状態となった支柱40の球体4がフロアパネル1に積層された鋼板2より離脱し、即ち、球体がフロアパネル1に積層された鋼板2とは接触せず荷重を負担しない状態となり、フロアパネル1及び薄鋼板2の全重量が防振材を介していない他の支柱30及び支柱50に付加される様子が示されている。

上記記載によれば、本件発明1の防振材を介して形成された支柱は、平常時は、防振材を介していない他の支柱とともにフロアパネル及び薄鋼板を支持しており、「平常時、フロアパネルの全重量を支えている」ものではない。
そして、個々の支柱にかかる荷重はフロアパネル1及び薄鋼板2を支持する支柱の数や間隔を調整することにより適宜調整可能であり、また、球体と薄鋼板2との間の摩擦抵抗も適宜調整可能であることは技術常識である。

そうすると、本件特許明細書に接した当業者は、フロアパネル1に積層された薄鋼板2が水平スライドする時に防振材を介して形成された支柱が首振り状態となる程度に、支柱が負担する荷重や摩擦抵抗を調節し、適切な強度及び硬度の防振材を選択して、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱」するように構成することができると認められる。
そして、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱」すれば、「フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加される」こととなることは自明であるから、当業者は、本件特許明細書のこれらの記載から、どのようにすれば「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成」することができるかを理解することができる。

よって、本件特許明細書は、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱して、フロアパネルの全重量が防振材を介していない他の支柱に付加されるように構成した」ことを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)について
申立人は、「回転自在に保持された球体が地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を受けると言っていることに矛盾があり、理論的に整合がとれていない」と主張する。
しかし、申立人は「回転自在に保持された球体が地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を受ける」ことの具体的な記載箇所を示しておらず、本件特許請求の範囲ないし本件特許明細書に特許権者が「言っている」とする記載の根拠を見い出せない。
本件特許請求の範囲について、本件発明1は、「地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱」するものであり、「回転自在に保持された球体が地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を受ける」と言っているものではない。
また、本件特許明細書の記載についても同様で、本件特許請求の範囲ないし本件特許明細書には、申立人が主張する矛盾や理論的不整合は認められない。
したがって、申立人の上記主張は採用できず、本件特許明細書は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載するものである。

申立人の上記主張について、本件発明1が「防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく」とされる一方で、本件特許明細書段落【0019】(上記第4 4参照)において(防振材を介していない他の支柱30、50の)「球体3及び球体5が回転するので、スライド抵抗は小さく」と記載されていることについて、一方では「スライド抵抗が大きく」とされ、他方では「スライド抵抗は小さく」と記載されていることが「矛盾」であると主張しているとも解することができるので、以下、本件発明1と本件特許明細書段落【0019】とに矛盾が生じており、本件発明1は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるか否かについて検討する。

本件発明1の「地震時にフロアパネルが球体上をスライドするとき、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗が大きく、「防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、」との記載は、首振り状態となってフロアパネルに積層された薄鋼板より離脱する段階の「防振材を介して形成された支柱」について記述したものである。一方、本件特許明細書段落【0019】の「スライド抵抗は小さく」は、防振材を介して形成された支柱が首振り状態になり、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱した後の段階の「防振材を介していない他の支柱」のスライド抵抗について記述したものである。そうすると、本件発明1の「スライド抵抗が大きく」との記述と本件特許明細書段落【0019】の「スライド抵抗は小さく」との記述は、スライドする対象となる支柱も、スライドする段階も異なるものであるから、両記載に矛盾が生じているものではない。
また、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を大きくすることが当業者が実施可能な程度に本件特許明細書に記載されていることは上記1で説示したとおりであり、防振材を介して形成された支柱のスライド抵抗を大きく、防振材を介していない他の支柱のスライド抵抗を小さくすることは、本件特許明細書に接した当業者にとって実施可能である。

よって、申立人の主張を、本件発明1において「スライド抵抗が大きく」とされ、本件特許明細書段落【0019】において「スライド抵抗は小さく」と記載されていることが「矛盾」であるとの主張であると解釈しても、上述したように、本件発明1と本件特許明細書の間に矛盾はなく、本件特許明細書には、防振材を介して形成された支柱は「スライド抵抗を大きく」して地震時に首振り状態になるようにし、フロアパネルに積層された薄鋼板より離脱した後の段階の「防振材を介していない他の支柱」については「スライド抵抗は小さく」して全方向にスライド可能とすることが、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されている。

3 請求項1、3の「免震フリーアクセスフロア」との記載について
申立人は、本件発明1の「免震フリーアクセスフロア」は、地震時には回転自在に保持された球体の上部に載置されたフロアが、ただ単にスライドしているだけで、フロア端部が建物の四方の壁に衝突し、フロアに置かれた物品はフロアが壁に衝突した瞬間、倒れる、吹っ飛ぶことになる。請求項3も同様であり、免振効果を得ることができる構造の構成が具体的に記述されていない旨、主張する。

以下、上記主張について検討する。
本件特許明細書【0016】(上記第4 4参照)には、「本発明は、図1に示すように、基本的に建造物のコンクリート床スラブ6上に複数の支柱30、40、50を一定の配置にて立設し、該支柱の先端に球体保持部31、41、51を有し、該複数の球体保持部31、41、51において回転自在に保持された球体3、4、5を介してフロアパネル1に積層された薄鋼板2を支持する構造が基本である。」と記載されている。

そして、回転自在に保持された球体によってフロアパネルを支持すれば、下部のコンクリート床スラブ側からの震動の伝達が抑制され、フロアパネルが免震されることは自明である。
そうすると、当業者は本件特許明細書のこれらの記載から、先端に球体保持部を有する支柱の、該複数の球体保持部において回転自在に保持された球体を介してフロアパネルに積層された薄鋼板を支持させて免震フリーアクセスフロアを構成することができることを理解することができる。

よって、本件特許明細書には、免震効果を得ることができる「免震フリーアクセスフロア」が当業者に実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

申立人は、本件発明の免震フリーアクセスフロアは「フロア端部が建物の四方の壁に衝突したり、フロアに置かれた物品はフロアが壁に衝突した瞬間、倒れる、吹っ飛ぶことになる」ため、実施可能でないと主張するが、フロア端部が建物の四方の壁に衝突したり、フロアに置かれた物品はフロアが壁に衝突した瞬間、倒れる、吹っ飛ぶことになる」かどうかは、壁とフロアの関係等によるものであり、本件特許1、3の構成に基づくものではない。
また、一般に、免震を行う装置において、必要に応じてダンパー等のエネルギー吸収を行う機構を設けることは当業者の技術常識であり、フロア端部が建物の四方の壁に衝突してフロアに置かれた物品が倒れたり吹っ飛んだりする不都合が生じる場合には、当業者は上記技術常識によってエネルギー吸収を行う機構を設けることで不都合を回避可能であることを理解できるから、本件特許明細書は、本件発明1、3を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

4 請求項2の「フロアパネル下面に積層される鋼板は、互いに隣接するフロアパネルのジョイント補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有する」との記載について

申立人は、本件発明2は、(1)鋼板の大きさやジョイント構造の具体的構成について何ら記載されておらず、かつ周知のものでもなく、(2)フロアパネルの補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有する根拠が不明であるし、薄鋼板と記述されていることからして、フロアパネルの補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有すると推察できないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨、主張する。

以下、上記主張について検討する。
(1)について
鋼板の大きさは補強すべき対象等を考慮して適宜決定し得る事項であり、また、ジョイント構造も、要すれば一般に周知のジョイント構造を適宜選択して採用し得るものであるから、本件特許明細書中に鋼板の大きさやジョイント構造の具体的構成がなくても、当業者は、鋼板の大きさやジョイント構造の具体的構成を適宜決定して本件発明2を実施可能である。

(2)について
本件特許明細書段落【0003】(上記第4 1参照)には、「フロアパネル下面に積層される鋼板は、隣接するフロアパネルのジョイント補強と撓み防止になっている。」と記載されている。また、本件図面【図1】(上記第4 5参照)にも、フロアパネル1の下面に鋼板2が積層される様子が示されている。
そして、荷重を支持する構造材の厚みを増加させれば撓み防止や補強となることは技術常識であり、フロアパネル下面に積層される鋼板によって撓みが防止できること、フロアパネルのジョイントの部分の下面に鋼板を配すれば、ジョイントの部分が補強されることは、本件特許明細書に接した当業者が当然に認識できることである。
また、撓み防止や補強のために下面に積層する鋼板の厚みは、想定される荷重や必要となる強度を考慮して当業者が適宜決定しうることであり、薄鋼板と記述されていることをもって当業者が本件発明2を実施することができないものではない。

そうすると、本件特許明細書は、それに接した当業者が、フロアパネル下面に鋼板を積層して、互いに隣接するフロアパネルのジョイント補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有するものとすることができるように記載されたものと言え、本件特許明細書は、本件発明2の「フロアパネル下面に積層される鋼板は、互いに隣接するフロアパネルのジョイント補強とフロアパネルの撓み防止の効果を有する」を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

5 小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-11-06 
出願番号 特願2015-226070(P2015-226070)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (E04F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 隆  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 土屋 真理子
西田 秀彦
登録日 2020-02-17 
登録番号 特許第6662514号(P6662514)
権利者 株式会社金澤製作所
発明の名称 免震フリーアクセスフロア  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
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