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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1368148 |
異議申立番号 | 異議2020-700452 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-29 |
確定日 | 2020-11-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6636225号発明「多結晶シリコン破砕塊およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6636225号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許権者である株式会社トクヤマが保有する本件特許第6636225号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)3月25日(優先権主張平成30年3月28日)を国際出願日とする出願であって、特願2019-549025号として審査され、令和元年12月27日に特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。 その後、当該特許掲載公報の発行の日から6月以内にあたる同年6月29日に、本件特許の請求項1?8に係る特許のうちの請求項1?4に係る特許(物の発明に係る特許)について、特許異議申立人である鳥巣実により、本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許請求の範囲の請求項1?4の記載 本件特許異議申立事件において対象とされている、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明1」などといい、併せて「本件発明」という。また、各請求項に係る特許についても同様に「本件特許1」などという。)。 「【請求項1】 表面金属濃度が15.0pptw以下であり、該表面金属濃度のうち、表面タングステン濃度が0.9pptw以下であり、且つ表面コバルト濃度が0.3pptw以下である、ことを特徴とする多結晶シリコン破砕塊。 【請求項2】 表面金属濃度が7.0?13.0pptwであり、該表面金属濃度のうち、表面タングステン濃度が0.40?0.85pptwであり、且つ表面コバルト濃度が0.04?0.08pptwである、請求項1記載の多結晶シリコン破砕塊。 【請求項3】 前記表面金属濃度がNa,Mg,Al,K,Ca,Cr,Fe,Ni,Co,Cu,Zn,W,TiおよびMoの合計濃度である、請求項1または請求項2記載の多結晶シリコン破砕塊。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の多結晶シリコン破砕塊が、樹脂製袋に収納されてなる、多結晶シリコン破砕塊梱包体。」 第3 特許異議申立理由についての当審の判断 1 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、おおむね以下のとおりに整理することができる。 (1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性欠如) 本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明であるか、当該発明と甲第1?6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1?4は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。 (2) 申立理由2(サポート要件違反) 本件特許1?4は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。 2 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性欠如)について (1) 特許異議申立人が提出した証拠一覧 ・甲第1号証:特許第5752748号公報 ・甲第2号証:特表2010-528955号公報 ・甲第3号証:特開2016-70873号公報 ・甲第4号証:特許第5638638号公報 ・甲第5号証:特許第5372088号公報 ・甲第6号証:特許第5254335号公報 以下、甲第1号証?甲第6号証を、単に「甲1」?「甲6」という。 (2) 甲1の記載事項 甲1には、「多結晶シリコンチャンクおよびその製造方法」(発明の名称)に関する、次の記載がある。 ・「【請求項1】 多結晶シリコンチャンクの製造方法であって、多結晶シリコンロッドを供給するステップ、多結晶シリコンロッドを粉砕して立方体チャンクにするステップおよび多結晶シリコンチャンクを洗浄するステップを含み、粉砕は少なくとも1つのスパイク付きロールを有するスパイク付きロールクラッシャーを使用して行い、少なくとも1つのスパイク付きロールがW_(2)C相、コバルト、並びに炭化チタン、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化バナジウムおよび炭化ニッケルからなる群から選択される金属炭化物を含む方法。 ・・・ 【請求項3】 多結晶シリコンチャンクが、表面上の金属濃度10-200pptwを有し、当該金属が、Fe、Cr、Ni、Na、Zn、Al、Cu、Mo、Ti、W、K、Co、Mn、Ca、Mg、VおよびAgを含む、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 多結晶シリコンチャンクが、タングステンの表面濃度0.1-10pptwを有する、請求項1に記載の方法。」 ・「【0032】 金属は、Fe、Cr、Ni、Na、Zn、Al、Cu、Mo、Ti、W、K、Co、Mn、Ca、Mg、VおよびAgを含む。表面金属について示された数字は、これらの金属を合計したものに関する。 【0033】 表面汚染は、Feは1-40pptw、Crは0.1-5pptw、Cuは0.1-5pptw、Naは1-30pptw、Niは0.1-5pptw、Znは0.1-10pptw、Tiは0.1-10pptw、およびWは0.1-15pptwであることが好ましい。 【0034】 多結晶シリコンチャンクに関するタングステンの表面濃度は、好ましくは0.1-10pptw、より好ましくは0.1-5pptwである。 【0035】 表面金属は、本発明の目的のため、ASTM F 1724-96に従って、シリコン表面の化学的脱離、およびその後の脱離した溶液のICPMS(誘導結合プラズマ質量分析)によって測定される。」 ・「【実施例】 【0105】 [実施例1] 予備試験において、重さ0.5gで、コバルト結合剤10%を有するWC片(W_(2)C相またはWC相、炭化ニッケル3%または炭化クロム5%を有する)を、HF 6重量%、HNO_(3) 55重量%およびSi 1重量%によるHF/HNO_(3)混合液中に、10分間入れた。10分後、WC片は完全に溶解している。 【0106】 これは、使用したW_(2)C相が鉱酸中にも極めて良好に溶解することを示し、これは、本発明の方法のために不可欠である。 【0107】 重さ100kgのロッドを、鉱酸中に可溶なWCから作ったスパイク付きロールを使用して粉砕した。Co10%および炭化クロム5%を有するWCを使用した。 【0108】 重さ100gのポリチャンク10個を、処理用トレイ内で、下記の方法によって洗浄した: 1.酸洗い液中の予備洗浄 温度22℃におけるHF 5重量%、HCl 8重量%およびH_(2)O_(2) 3重量%の混 合液中で2分洗浄。 消耗は、0.02μmであった。 【0109】 2.超純水18MΩによるすすぎ、22℃で5分間。 【0110】 3.主洗浄:HF 6重中量%、HNO_(3) 55重量%およびSi 1重量%によるHF/HNO_(3)における8℃で2分間エッチング。 エッチング消耗は約30μmであった。 【0111】 4.超純水、22℃で18MΩによる5分すすぎ。 【0112】 5.オゾン20ppmで飽和された水中において22℃で2分親水化。 【0113】 6.クラス100の超純粋空気による60分乾燥、80℃でホウ素を含まないテフロン(登録商標)フィルターによる。 【0114】 7.超純粋空気による冷却、22℃でホウ素を含まないテフロン(登録商標)フィルターによる。 多結晶シリコンチャンクは、その後、PE手袋を使用し、PEパウチとして包装した。 使用した全てのプラスチックは、ホウ素、リンおよびヒ素合計含量10ppbw未満を有していた。 【0115】 使用した鉱酸HCl、HFおよび硝酸は、それぞれの場合、 B 10ppbw、 P 500ppbw、 As 50ppbw 以下を含有していた。 【0116】 表1は、洗浄前の金属表面値(混入値)、pptwにおける量を示す。 【0117】 表2は、洗浄後の金属値、pptwにおける量を示す。 【0118】 洗浄すると、タングステンを含む全ての金属値が著しく低下することが明らかである。これは、炭化タングステンまたは鉱酸中に可溶なタングステンを有するロールを使用して粉砕を行うことによってのみもたらすことができた。 ・・・ 【0156】 【表5】 【0157】 【表6】 」 (3) 甲1に記載された発明(甲1発明)の認定 ア 上記(2)に摘記した甲1の記載事項をみると、その請求項1には、「多結晶シリコンチャンクの製造方法であって、多結晶シリコンロッドを供給するステップ、多結晶シリコンロッドを粉砕して立方体チャンクにするステップおよび多結晶シリコンチャンクを洗浄するステップを含み、粉砕は少なくとも1つのスパイク付きロールを有するスパイク付きロールクラッシャーを使用して行い、少なくとも1つのスパイク付きロールがW_(2)C相、コバルト、並びに炭化チタン、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化バナジウムおよび炭化ニッケルからなる群から選択される金属炭化物を含む方法」(以下、「甲1の請求項1に係る製造方法」という。)が記載され、当該多結晶シリコンチャンクについて、請求項3には、「表面上の金属濃度10-200pptwを有し、当該金属が、Fe、Cr、Ni、Na、Zn、Al、Cu、Mo、Ti、W、K、Co、Mn、Ca、Mg、VおよびAgを含む」と記載され、さらに請求項4には、「タングステンの表面濃度0.1-10pptwを有する」と記載されている。 そうすると、甲1の請求項3には、「表面上の金属濃度10-200pptwを有し、当該金属が、Fe、Cr、Ni、Na、Zn、Al、Cu、Mo、Ti、W、K、Co、Mn、Ca、Mg、VおよびAgを含む」多結晶シリコンチャンクを製造するための「甲1の請求項1に係る製造方法」が、また、同請求項4には、「タングステンの表面濃度0.1-10pptwを有する」多結晶シリコンチャンクを製造するための「甲1の請求項1に係る製造方法」が、それぞれ記載されているということができる。 イ 他方、上記「甲1の請求項1に係る製造方法」により製造された多結晶シリコンチャンクの具体例をみると、甲1の【0157】に記載された表2(【表6】という項目が付されているため紛らわしいが、以下では「表2」に統一して呼称することとする。)には、実施例1に供された種々の多結晶シリコンチャンクの、洗浄後の金属汚染物の数値(pptw)が記載されている(以下、当該表2に記載された種々の多結晶シリコンチャンクをまとめて「表2の多結晶シリコンチャンク」という。)。 しかしながら、当該「表2の多結晶シリコンチャンク」は、甲1の【0105】?【0118】に記載された実施例1により得られたものであるところ、そのエッチング代は、予備洗浄で0.02μm(【0108】)、主洗浄で30μm(【0110】)と、かなり高いにもかかわらず、各金属の濃度の合計量、すなわち、上記甲1の請求項3でいう「表面上の金属濃度」は、当該請求項3記載の下限値「10pptw」に比して、優に高いものとなっている(さらにいうと、本件発明1が規定する「15.0pptw以下」にも遠く及ばない。)。また、甲1の記載全体を俯瞰しても、上記「甲1の請求項1に係る製造方法」により、当該下限値付近のものを実際に製造することができるというに足りる記載は認められないし、そのようにいうに足りる技術常識も見当たらない。 加えて、仮に当該下限値付近のものを製造し得たとしても、タングステンをはじめとする個々の金属の表面濃度がどの程度になるのか(タングステン濃度が上記請求項4に記載された下限値付近のものとなるのかなど)は、不明であるといわざるを得ない。 ウ そうである以上、甲1の請求項3に記載された、多結晶シリコンチャンクに関する「表面上の金属濃度10-200pptwを有し」という技術的事項、さらにはこれに請求項4記載の「タングステンの表面濃度0.1-10pptwを有する」という技術的事項を組み合わせた、『「甲1の請求項1に係る製造方法」により製造された多結晶シリコンチャンク』という物の発明を、実体のあるものとしてそのまま受け入れることはできない。 エ したがって、甲1の記載事項から認定し得る甲1に記載された発明としては、上記「表2の多結晶シリコンチャンク」とするのが相当であるから、これを以下「甲1発明」という。 (4) 本件発明1の新規性・進歩性について ア 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明に係る「多結晶シリコンチャンク」は、本件発明1における「多結晶シリコン破砕塊」に相当するものであるから、両者は、特定の表面金属濃度、表面タングステン濃度及び表面コバルト濃度を有する多結晶シリコン破砕塊である点で共通するものの、少なくとも、次の点で相違するものということができる。 ・相違点:表面金属濃度に関し、本件発明1は、「15.0pptw以下」と規定しているのに対して、甲1発明は、当該規定から外れている点。 イ 相違点の検討 そこで、上記相違点について検討する。 (ア) 甲1はもとより、甲2?6をみても、当該相違点に係る技術的事項を容易想到の事項というに足りる証拠は見当たらない。すなわち、甲2?6にはそれぞれ、「多結晶シリコン破砕物を包装する方法及び装置」、「多結晶シリコンの表面清浄度評価方法および品質保証方法」、「低ドーパント多結晶質シリコン塊」、「シリコン細棒の製造方法」及び「多結晶シリコンの清浄化方法」(いずれも発明の名称)について記載され、本件発明1が規定する表面コバルト濃度などに関連する記載を認めることができるものの、いずれの証拠も、個別の金属濃度について教示するにとどまり、多結晶シリコン破砕塊の表面金属濃度(個別の金属濃度の合計量)を「15.0pptw以下」まで低減することについて、実施例などの具体例をもって、実体のあるものとして記載していない。 そうすると、当業者といえども、甲1?6の記載から、上記相違点に係る構成、すなわち、多結晶シリコン破砕塊の表面金属濃度が「15.0pptw以下」であるという構成を、現実味のある事項として認識することはできないというほかないから、当該構成を容易想到の事項ということはできない。 (イ) そして、本件発明1は、当該構成を具備することにより、表面が高度に清浄化した多結晶シリコン破砕塊を具現し、回路の高密度化が進む半導体分野において、欠陥の少ない単結晶シリコンウェーハを切り出すためのCZ法単結晶シリコンロッド製造原料として、極めて有用なものとすることができたのである(本件明細書の【0018】などを参照した。)。 ウ 以上の点にかんがみると、本件発明1を、甲1に記載された発明に基づいて、新規性及び進歩性を欠如するものということはできない。 (5) 本件発明2?4の新規性・進歩性について 本件発明2?4は、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、上記(4)における検討と同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて、新規性及び進歩性を欠如するものということはできない。 (6) 小括 以上のとおりであるから、申立理由1には、理由がない。 3 申立理由2(サポート要件違反)について 特許異議申立人が主張するサポート要件違反の具体的な根拠は、おおよそ次のとおりである。 すなわち、本件明細書の【0012】には、先行技術文献の一つである特許文献6(特開2014-31309号公報。甲1の公開公報。)に関し、「不純物として着目される主要金属元素(Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Fe,Ni,Co,Cu,Zn,W,Ti,Mo)を合計しての表面金属濃度で示すと、依然として15pptwを遙かに超える多さであり、また、前記破壊具の材質として不可避的な汚染金属である、タングステンやコバルトも、8回の測定の平均値では1pptwを下回る測定結果は得られていない(〔表2〕〔表4〕〔表6〕)。」と記載されているが、実際に当該特許文献6に記載されたタングステン及びコバルトの濃度は、当該記載とは異なり、本件明細書に記載された実施例などと同等のものであるから、本件特許の請求項1、2に記載された数値範囲は、明細書に裏付けされたものではない、というものであり、結局のところ、特許異議申立人が主張するサポート要件違反の論拠は、本件明細書の上記【0012】には、特許文献6に関して正確性に欠ける記載があることに依拠するものと解される。 しかしながら、本件明細書において、先行技術文献として記載された特許文献6に関する記述に正確性に欠けるところがあるからといって、このことによりただちにサポート要件違反となるわけではない。 そして、本件発明の主たる課題は、本件明細書の【0013】のとおり、多結晶シリコン破砕塊の表面金属汚染をさらに低減させることであると認められ、そのことは、本件特許請求の範囲の請求項1において「表面金属濃度が15.0pptw以下」という具体的な指標として明記されているところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、その実施例において、当該具体的な指標を達成し、上記課題が解決できると当業者において認識できることを裏付ける具体例が示されているのであるから、帰するところ、本件特許請求の範囲に記載された範囲(本件発明)は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において上記課題が解決できると認識できる範囲内のものということができる。 したがって、本件特許請求の範囲の記載に、サポート要件違反というべき不備は見当たらないから、上記申立理由2は、理由がない。 第4 むすび 以上の検討のとおりであるから、特許異議申立人が主張する特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかにこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-11-10 |
出願番号 | 特願2019-549025(P2019-549025) |
審決分類 |
P
1
652・
537-
Y
(C01B)
P 1 652・ 121- Y (C01B) P 1 652・ 113- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小野 久子 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 後藤 政博 |
登録日 | 2019-12-27 |
登録番号 | 特許第6636225号(P6636225) |
権利者 | 株式会社トクヤマ |
発明の名称 | 多結晶シリコン破砕塊およびその製造方法 |
代理人 | 前田・鈴木国際特許業務法人 |