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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) G06F
管理番号 1368157
判定請求番号 判定2020-600015  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 判定 
判定請求日 2020-03-19 
確定日 2020-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第5220209号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号システム概要図に示す「登記内容データ取得装置」は,特許第5220209号の技術的範囲に属しない。 
理由
第1 請求の趣旨と手続の経緯

本件判定請求の趣旨は,イ号システム概要図に示す「登記内容データ取得装置」(以下「イ号物件」という。)は,特許第5220209号発明(請求項1に係る発明を,以下,「本件発明1」という。)の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

本件特許に係る手続の経緯は,次のとおりである。
平成24年 2月20日 出願(特願2012-34311号)
平成25年 3月15日 設定登録(特許第5220209号)
令和 2年 3月19日 判定請求書の提出
令和 2年 5月15日 補正書の提出(判定請求人(以下,「請求人」という。))
令和 2年 6月15日 答弁書の提出
令和 2年 7月16日付け 審尋
令和 2年 8月 4日 回答書・補正書の提出(被請求人)
令和 2年 9月20日 回答書の提出(請求人)


第2 本件発明1について

本件発明1は,本件特許明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお,請求人の主張のとおり構成要件ごとに分説し,記号(ア)?(オ)を付した。

(ア)CSVファイルが,登記所から市町村長に電子媒体又は通信手段を介して提供される登記簿の不動産の表示に関する事項及び,所有権に関するものについては申請の受付の年月日及び受付番号・所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所・登記名義人が2人以上であるときはそれぞれの持分,所有権以外のものについては現に効力を有するもののうち主要な事項を記載したものを登記事項要約書の形態のデータ記録(以下,登記事項要約書データという。)で,複数の項番が付された複数の登記件数ごとに存在し,登記事項要約書データを複数の桁で1行が構成された複数の行に記録し,その内,各行の1桁目には項番と呼ばれる項目が格納されて,項番が同一の複数の行に,「土地」,「建物」および「区分建物」の不動産物件情報についての通知事項(以下,不動産物件通知事項という。),「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報,不動産物件通知事項についてそれらの内容を示して関連する不動産物件通知事項内容からなる1物件の不動産物件情報を示す登記事項要約書データを記録するファイルであって,
(イ)複数のCSVファイルを順次読み込み,入力手段から入力されたCSVファイルの複数のCSVファイルの各複数の行の各桁目に記録された登記事項要約書データを取得し,当該複数のCSVファイル各行の1桁目から項番を判別・取得することで同一の項番について,「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報を解析処理し,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容を判別して,「土地」「建物」および「区分建物」の登記データおよびこれらに各関連した登記内容データを取得するものであって,1つの不動産物件通知事項とこれに関連した複数種類の不動産物件通知事項内容を判別して登記内容データを取得するに際して,不動産物件通知事項の読み込み順を1から最新の読み込みをnとして設定し,「土地」「建物」あるいは「区分建物」についての,少なくとも「所在」「所有者」および「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nに各関連する不動産物件通知事項内容を,別個に順次判別し,判別した不動産物件通知事項に関連する不動産物件通知事項内容について各登記内容データを取得する同一物件・通知事項別通知事項内容判別・取得手段と,
(ウ)不動産物件情報ごとに,「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄して最新の不動産物件通知事項nについての登記内容データを取得して,データ領域に格納し,「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの登記内容データを取得して,データ領域に格納し,上述の判別による登記内容データ取得が終了した時,データ領域に格納された登記内容データを含む登記内容データを,土地の場合,土地および土地所有者の各データファイルに,建物の場合,建物,建物附属建物および建物所有者の各データファイルに,区分建物の場合,区分建物,区分建物附属建物,区分建物所有者および区分建物敷地権の各データファイルに格納することで,「土地」「建物」および「区分建物」のデータファイルを構築するデータファイル構築手段と,
(エ)1つの不動産物件情報について,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容が指定されることで,前記データファイルから最新の不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容についての登記内容データを含めて同時検索するデータ検索手段と,
(オ)を有することを特徴とする登記内容データ取得装置。


第3 請求人によるイ号物件の特定

1 請求人による証拠方法
イ号物件に関し,請求人は,証拠方法として,判定請求書及び補正書とともに,以下の証拠を提出した。
甲第2号証 イ号フロー図 (令和2年9月20日差し替え)
甲第3号証 イ号システム概要図
甲第4号証 イ号取扱説明図
甲第5号証 法務局登記データ取込システム運用説明書(一部抜粋)
甲第6号証 法務局登記データ取込システム操作説明書(一部抜粋)
甲第7号証 イ号の表示画面のキャプチャー画像

2 イ号物件
請求人は,イ号物件について,以下のように特定している(請求人の主張のとおり構成ごとに分説し,記号(あ)?(お)を付した。下線は請求人が付与した。)。

(あ)CSVファイルが,登記所から市町村長に電子媒体又は通信手段を介して提供される登記簿の不動産の表示に関する事項及び,所有権に関するものについては申請の受付の年月日及び受付番号・所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所・登記名義人が2人以上であるときはそれぞれの持分,所有権以外のものについては現に効力を有するもののうち主要な事項を記載したものを登記事項要約書の形態のデータ記録(以下,登記事項要約書データという。)で,複数の項番が付された複数の登記件数ごとに存在し,登記事項要約書データを複数の桁で1行が構成された複数の行に記録し,その内,各行の1桁目には項番と呼ばれる項目が格納されて,項番が同一の複数の行に,「土地」,「建物」および「区分建物」の不動産物件情報についての通知事項(以下,不動産物件通知事項という。),「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報,不動産物件通知事項についてそれらの内容を示して関連する不動産物件通知事項内容からなる1物件の不動産物件情報を示す登記事項要約書データを記録するファイルであって,
(い)複数のCSVファイルを順次読み込み,入力手段から入力されたCSVファイルの複数のCSVファイルの各複数の行の各桁目に記録された登記事項要約書データを取得し,当該複数のCSVファイル各行の1桁目から項番を判別・取得することで同一の項番について,「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報を解析処理し,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容を判別して,不動産物件ごとに物件キー及び各種「コード」を生成したうえで,「土地」「建物」および「区分建物」の登記データおよびこれらに各関連した登記内容データを取得するものであって,1つの不動産物件通知事項とこれに関連した複数種類の不動産物件通知事項内容を判別して登記内容データを取得するに際して,不動産物件通知事項の読み込み順を1から最新の読み込みをnとして設定し,「土地」「建物」あるいは「区分建物」についての,少なくとも「所在」「所有者」および「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nに各関連する不動産物件通知事項内容を,別個に順次判別し,判別した不動産物件通知事項に関連する不動産物件通知事項内容について各登記内容データを取得する同一物件・通知事項別通知事項内容判別・取得手段と,
(う)不動産物件情報ごとに,「所在」,「所有者」および「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの登記内容データを取得して,登記内容データを,生成した物件キー及び各種「コード」とともに,土地の場合,土地および土地所有者の各データファイルとして,建物の場合,建物,建物附属建物および建物所有者の各データファイルとして,区分建物の場合,区分建物,区分建物附属建物,区分建物所有者および区分建物敷地権の各データファイルとして,データ領域に格納することで,「土地」「建物」および「区分建物」のデータファイルを構築するデータファイル構築手段と,
(え)1つの不動産物件情報について,物件キー,各種「コード」または不動産物件通知事項内容が指定されることで,前記データファイルについての登記内容データを検索するデータ検索手段と,
(お)を有することを特徴とする登記内容データ取得装置。


第4 当事者の主張の概要

1 請求人の主張の概要
(1)甲第2号証について
甲第2号証のイ号フロー図が,イ号物件の操作手順を説明する各証拠(甲第5号証?甲第7号証)の実施手順を示す資料として必要な資料であり,証拠能力を有する。

(2)構成要件(ウ)の「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄して」と,構成(い)?(え)の物件キー及び各種「コード」による検索について
イ号各図に示す本件装置の構成(う)は,「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項について,1からn-1までの登記内容データを破棄することなく,全ての不動産物件通知事項について1から最新nまでの全ての登記内容データを取得しており,さらに,取得した登記内容データを,生成した物件キー及び各種「コード」とともに,データ領域に格納してデータファイルを構築する。この物件キー及び各種「コード」は1から最新nまでの全ての登記内容データを取得するからこそ必要となるものである。
イ号物件は,一般の市町村業務で使用されることを目的に,法務局から提供される要約書データには含まれていない物件キー及び各種「コード」を,要約書に含まれる内容と市町村固有のデータをもとに,不動産物件情報ごとに物件キー及び各種「コード」を生成してデータファイルに追加している(甲第6号証37,44,51頁)。そして,イ号物件は,利用者(例えば市町村担当者)が,土地台帳や家屋台帳から,過去から現在までの分筆,合筆,新築,増築,錯誤などの事情による表題登記の変遷を照会できるように,1から最新nまでの全ての登記内容データを取得している(甲第7号証)。
本件発明は,課税業務に使用されることを想定したものであると考えられるため,最新n以外の登記内容データは必要ない。これに対し,1から最新nまでの全ての登記内容データを取得したイ号物件において,任意の土地や家屋の情報を検索するためには,その土地や家屋を一意に識別する検索キーが必要になる。それが,物件キー及び各種「コード」である。

2 被請求人の主張の概要
(1)甲第2号証について
甲第2号証に示されるイ号フロー図(第1頁)は,イ号物件のフローを法務局登記済データの解析に基づく取込及び市町村役場に提供される解析データの全体について示していることを立証する証拠がないため本件発明との対比が不可能であり,甲第2号証には証拠能力がない。

(2)構成要件(ウ)の「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄して」と,構成(い)?(え)の物件キー及び各種「コード」による検索について
市町村役場にデータファイル提供業者から「所在」および「所有者」についてのデータが提供されたときに,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nが存在して提供されることは,登記上もはや存在しないデータを含んで提供されることになって市町村役場での処理の際に間違いを引き起こす原因となる。このために,市町村役場は,提供されるデータに関し,簡便であって便宜がよく間違いを引き起こすことが発生しないように,最新の不動産物件通知事項nのみがデータファイルに格納される設定がなされるようにデータファイル提供業者に要望してデーファイル提供業者が対応することは当業者にとって技術常識である。このことに反する,請求人からの証拠の提示はなされていない。
物件キー及び各種「コード」に基づいて,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容を破棄する処理をして,最新の不動産物件通知事項に基づいてのみ処理がなされ得ることになることは当業者にとって容易になし得る技術常識である。


第5 当審の判断

1 当審によるイ号物件の特定
(1)甲第3号証から把握できる事項
ア イ号物件について
甲第3号証には,市町村のサーバ室に設置された「法務局登記データ取込システム(サーバ)」が記載されており,該「法務局登記データ取込システム(サーバ)」が「イ号物件」である。そして,イ号物件は,後記イのとおり,登記事項要約書に記載された事項等を内容とする登記事項要約書データを受領(取得)しているから,「登記内容データ取得装置」ということができる。

イ イ号物件が取り込むデータについて
甲第3号証には,この法務局登記データ取込システム(サーバ)は,法務局からCSV形式の「要約書データ」を受領し,受領した「要約書データ」の取込処理を行うことが図示されている。このCSV形式の「要約書データ」は,法務局が作成し,提供するCSV形式の登記事項要約書データであって,その内容は,電子化された登記簿の,登記事項要約書に記載された事項とその過去の異動履歴が含まれており,CSV形式の登記事項要約書データに登記済通知書データが含まれることは,技術常識である。

(2)甲第4号証から把握できる事項
ア イ号物件によるデータの取得手法について
甲第4号証は,「法務局登記データ取込システムのご紹介」として,甲第3号証の「法務局登記データ取込システム(サーバ)」(イ号物件)の機能を説明する資料である。
甲第4号証には,法務局登記データ取込システムの「システム構築の重要ポイント」として,「1.法務局登記データ構造について 法務局登記済データは登記の種類(表題登記,権利登記),物件の種別(土地,家屋,専有,一棟),登記の目的,原因によって様々なフォーマットとなっている上に,可変項目もあります。弊社システムではこれらの様々なフォーマットを1データ1行のデータに変換して取り込みます。「土地」,「建物」,「区建て」,「要約書取込」」,「2.登記済通知書データ(CSV)フォーマットについて 法務局登記済データは1データ複数行のCSVファイルになっており,1データ1行のデータに変換して本システムに取込みます。」(以上,1頁)と記載されており,これは,法務局が作成し,提供するCSVデータである法務局登記済データに基づき,「土地」,「建物」,「区建て」に分けて,1データを1行のフォーマットに変換して,登記済通知書データとして本システムに取り込むことができることを説明するものである。なお,「法務局登記済データ」は法務局が提供するCSV形式データであって,甲第3号証のCSV形式の「要約書データ」を意味することは明らかである。

イ イ号物件を使用した検索について
甲第4号証には,「取込んだ要約書と市町村通知書データから土地台帳,家屋台帳,専有台帳を作成します。検索し一覧表示させ,一筆毎に詳細を確認することができます。」(6頁吹き出し)と記載されており,6頁「検索画面」中に「登記名義人氏名」,「登記名義人住所」,「字コード」,「番地コード」等による検索が行えることが図示されている。

(3)当審によるイ号物件の特定
以上から,当審ではイ号物件を次のように特定する。なお,請求人による特定と異なる特定をする構成については(い’)のように「’」を付与する。

(あ)CSVファイルが,登記所から市町村長に電子媒体又は通信手段を介して提供される登記簿の不動産の表示に関する事項及び,所有権に関するものについては申請の受付の年月日及び受付番号・所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所・登記名義人が2人以上であるときはそれぞれの持分,所有権以外のものについては現に効力を有するもののうち主要な事項を記載したものを登記事項要約書の形態のデータ記録(以下,登記事項要約書データという。)で,複数の項番が付された複数の登記件数ごとに存在し,登記事項要約書データを複数の桁で1行が構成された複数の行に記録し,その内,各行の1桁目には項番と呼ばれる項目が格納されて,項番が同一の複数の行に,「土地」,「建物」および「区分建物」の不動産物件情報についての通知事項(以下,不動産物件通知事項という。),「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報,不動産物件通知事項についてそれらの内容を示して関連する不動産物件通知事項内容からなる1物件の不動産物件情報を示す登記事項要約書データを記録するファイルであって,
(い’)複数のCSVファイルを順次読み込み,入力手段から入力されたCSVファイルの複数のCSVファイルの各複数の行の各桁目に記録された登記事項要約書データを取得し,当該複数のCSVファイル各行の1桁目から項番を判別・取得することで同一の項番について,「土地」,「建物」および「区分建物」の3種類の不動産物件種類情報を解析処理し,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容を判別して,「土地」「建物」および「区分建物」の登記データおよびこれらに各関連した登記内容データを取得するものであって,1つの不動産物件通知事項とこれに関連した複数種類の不動産物件通知事項内容を判別して登記内容データを取得するに際して,不動産物件通知事項の読み込み順を1から最新の読み込みをnとして設定し,「土地」「建物」あるいは「区分建物」についての,少なくとも「所在」「所有者」および「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nに各関連する不動産物件通知事項内容を,別個に順次判別し,判別した不動産物件通知事項に関連する不動産物件通知事項内容について各登記内容データを取得する同一物件・通知事項別通知事項内容判別・取得手段と,
(う’)不動産物件情報ごとに,「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nについての登記内容データを取得して,データ領域に格納し,「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの登記内容データを取得して,データ領域に格納し,上述の判別による登記内容データ取得が終了した時,データ領域に格納された登記内容データを含む登記内容データを,土地の場合,土地および土地所有者の各データファイルに,建物の場合,建物,建物附属建物および建物所有者の各データファイルに,区分建物の場合,区分建物,区分建物附属建物,区分建物所有者および区分建物敷地権の各データファイルに格納することで,「土地」「建物」および「区分建物」のデータファイルを構築するデータファイル構築手段と,
(え’)1つの不動産物件情報について,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容が指定されることで,前記データファイルから最新の不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容についての登記内容データを含めて同時検索するデータ検索手段と,
(お)を有することを特徴とする登記内容データ取得装置。

なお,上記イ号物件が実行するプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を「イ号記録媒体」,上記イ号物件が実行する登記内容取得方法を「イ号方法」という。

2 属否の判断
(1)本件発明1の構成要件(ア),(イ),(エ),(オ)と,イ号物件の構成(あ),(い’),(え’),(お)について
イ号物件は,上記1(3)のとおりであるから,イ号物件の構成(あ),(い’),(え’),(お)は,本件発明1の構成要件(ア),(イ),(エ),(オ)を充足する。

(2)本件発明1の構成要件(ウ)とイ号物件の構成(う’)について
上記1(3)のとおり,イ号物件は構成(う’)として,「不動産物件情報ごとに,「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nについての登記内容データを取得して,データ領域に格納し,「所有権」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの登記内容データを取得して,データ領域に格納し,上述の判別による登記内容データ取得が終了した時,データ領域に格納された登記内容データを含む登記内容データを,土地の場合,土地および土地所有者の各データファイルに,建物の場合,建物,建物附属建物および建物所有者の各データファイルに,区分建物の場合,区分建物,区分建物附属建物,区分建物所有者および区分建物敷地権の各データファイルに格納することで,「土地」「建物」および「区分建物」のデータファイルを構築するデータファイル構築手段と」という事項を認定できるにすぎないことから,本件発明1の構成要件(ウ)の「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄」する機能を有しているとまではいうことはできない。
よって,イ号物件の構成(う’)は,本件発明1の構成要件(ウ)を充足しているとまではいえない。

3 当事者の主張について
(1)甲第2号証について
請求人は,甲第2号証はイ号物件の操作手順を説明するとして必要な資料であり,証拠能力を有する旨主張する。
請求人の上記主張について検討をする。
甲第2号証は,本紙のフローチャート及び別紙1?4の各種ファイルの構成を説明する証拠資料である。他方,甲第2号証は,誰がどのような目的で作成した資料であるのか不明であり,甲第2号証には,甲第3号証及び甲第4号証で示されるイ号物件である「法務局登記データ取込システム(サーバ)」を説明することを示す記載はない。このため,「法務局登記データ取込システム(サーバ)」の構成及び機能を説明する証拠であると認めることはできない。
また,請求人は,甲第2号証の証拠能力を説明するために甲第5号証?甲第7号証を引用するものの,甲第2号証は,上記のとおりであるから,甲第5号証?甲第7号証を参照したとしても,「法務局登記データ取込システム(サーバ)」の構成及び機能を説明する証拠であると認めることはできない。
このため,甲第2号証に証拠能力があるとはいえず,請求人の主張を採用することはできないため,当審では,上記のとおり甲第3号証及び甲第4号証に基づきイ号物件の特定を行った。

(2)物件キー及び各種「コード」による検索について
請求人は,請求人の主張するイ号物件の構成(い)?(え)における物件キー及び各種「コード」による検索について,(a)この物件キー及び各種「コード」は1から最新nまでの全ての登記内容データを取得するからこそ必要となること,(b)イ号物件は一般の市町村業務で使用されることを目的とするものであり,課税業務に使用されることを想定した本件発明1とは目的が異なることを理由に,イ号物件が構成要件(ウ)の構成を有しない旨主張する。
しかしながら,本件発明1の検索は,構成要件(エ)のとおり「1つの不動産物件情報について,不動産物件通知事項および不動産物件通知事項内容が指定される」ことで行われればよく,イ号物件においても物件キー及び各種「コード」を用いて不動産物件通知事項及び不動産物件通知事項内容を特定している点で,両者に差異はない。そして,上記主張(a)について,物件キー及び各種「コード」を用いた検索は,検索手法を特定するものであって,これにより,1から最新nまでの全ての登記内容データを取得することを直ちに示すものではないため,説明は不十分であり,上記主張(b)について,イ号物件は結果として1から最新nまでのデータを有していればよく,データ取込みの手法はいくつも存在することから,1からn-1までの不動産物件通知事項の存在は,直ちに「破棄して」いないこと意味せず,このため,目的の相違をもって,イ号物件が1から最新nまでの全ての登記内容データを取得する構成であるとの説明は不十分である。

また,請求人は,イ号物件の構成(い)を上記「第3」2のとおり特定するが,甲第2号証は上記(1)のとおり証拠能力があるとはいえず,また,甲第4号証?甲第7号証で示される「不動産物件ごとに物件キー及び各種「コード」を生成」することは,上述したとおり,1からn-1までの不動産物件通知事項の存在が,直ちに「破棄して」いないこと意味しないため,請求人の主張するとおり特定することはできない。
よって,請求人の上記主張を採用することはできず,上記1(3)のとおりイ号物件の構成(い’)?(え’)を特定した。
なお,請求人の上記主張は,イ号物件が物件キー及び各種「コード」による検索を行うことにより,本件発明1の構成要件(ウ)の破棄の構成とは異なることなることを説明するものではないため,本件発明1とイ号物件の属否の判断を左右しない。また,不動産物件通知事項及び不動産物件通知事項内容の検索を,物件キー及び各種「コード」を用いて行うことに限定しても属否の判断を左右するものではない。

(3)イ号物件において,「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄され」ているか否かについて
ア 請求人の主張について
請求人は,イ号物件について,土地台帳や家屋台帳から,過去から現在までの分筆,合筆,新築,増築,錯誤などの事情による表題登記の変遷を照会できるように,1から最新nまでの全ての登記内容データを取得している旨主張する。
通知事項名である本件発明1における「所在」及び「所有者」について,本件特許明細書【0058】【0060】【0062】の表を参照すると,「所在n」の通知事項内容には「大字町丁目,原因およびその日付,登記の日付」が含まれ,「所有者n」の通知事項内容には「表題部所有者」が含まれていることが示されている。
これを踏まえて,甲第7号証で示される「法務局登記データ取込システム」のキャプチャー画像を参照すると,「建物要約書の詳細表示画面(錯誤の履歴表示(1))」(注.「(1)について,甲第7号証の丸数字をここではカッコ数字で表記した。)の「所在」の欄には,「所在」の情報の表記の修正の履歴と,対応する「原因及びその日付」,「登記の日付」が複数行表示されていることが示されていることから,甲第7号証の「法務局登記データ取込システム」は,少なくとも「所在」については,過去分についてもデータを保持しているものと考えられる。しかしながら,上記(2)の主張(b)で検討したとおり,イ号物件は結果として1から最新nまでのデータを有していればよく,データ取込みの手法はいくつも存在することから,1からn-1までの不動産物件通知事項の存在は,直ちに「破棄して」いないこと意味せず,甲第7号証に基づく説明は不十分である。このため,請求人の上記主張を採用することはできない。
他方,甲第4号証の1頁には「2.登記済通知書データ(CSV)フォーマットについて」の欄で「法務局登記済データは1データ複数行のCSVファイルになっており,1データ1行のデータに変換して本システムに取込みます。」と記載されている。さらに,甲第3号証,第4号証の記載を参照しても,「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄」することを示す記載はない。

イ 被請求人の主張について
被請求人は,技術常識を理由に,イ号物件において当該破棄の機能を有する旨主張するが,イ号物件が当該破棄の機能を有することを立証するものではない。
そうすると,イ号物件が「「所在」および「所有者」の不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項nまでの内,不動産物件通知事項1から最新の不動産物件通知事項の一つ前の不動産物件通知事項n-1について取得された登記内容データを破棄」する機能を有しているとまではいえない。
以上のとおりであるから,被請求人の主張を採用することはできず,当該破棄の機能を有しないものとして,イ号物件を特定する。

4 小括
よって,本件発明1の構成要件(ウ)を充足しているとまではいえないイ号物件は,本件発明1の技術的範囲に属しない。


第6 本件発明2及び3とイ号記録媒体及びイ号方法について

プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の発明である本件発明2は,登記内容データ取得装置の発明である本件発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,登記内容取得方法の発明である本件発明3は,登記内容データ取得装置の発明である本件発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であるから,イ号物件が実行するプログラムを記録したイ号記録媒体及びイ号物件が実行するイ号方法は,それぞれ,本件発明2及び3における本件発明1の構成要件(ウ)に対応する構成を充足するとまではいえず,本件発明2及び3の技術的範囲に属しない。


第7 むすび

以上のとおり,イ号物件は,本件発明1の構成要件(ウ)を充足しているとまではいえないから,本件発明1の技術的範囲に属しない。
また,イ号記録媒体及びイ号方法は,本件発明2及び3の本件発明1の構成要件(ウ)に対応する構成を充足しているとまではいえないから,本件発明2及び3の技術的範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。

 
判定日 2020-11-18 
出願番号 特願2012-34311(P2012-34311)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 佐藤 聡史
特許庁審判官 松田 直也
速水 雄太
登録日 2013-03-15 
登録番号 特許第5220209号(P5220209)
発明の名称 登記データ取得装置とこれに用いる記録媒体、および登記データ取得方法  
代理人 特許業務法人 日峯国際特許事務所  
代理人 大久保 秀人  

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