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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1368441
審判番号 無効2015-800166  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-08-24 
確定日 2020-10-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3480736号発明「気道流路および肺疾患の処置のためのモメタゾンフロエートの使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3480736号の特許請求の範囲を平成30年7月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2?3について訂正することを認める。 特許第3480736号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判に関する費用については、参加によって生じた費用を含めて被請求人及びその参加人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第3480736号(以下、「本件特許」ともいう。)は、1995年1月26日(パリ条約による優先権主張 1994年1月27日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日として出願されたものであり、平成15年10月10日に特許権の設定登録がされたものである。

2 これに対して、請求人 東興薬品工業株式会社 は平成27年8月24日付けで当該特許の請求項1?3に係る発明について特許無効審決を求めて審判請求を行い、被請求人 メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション は平成27年12月8日に審判事件答弁書を提出した。その後、平成28年3月1日に行った口頭審理に先立ち、請求人は同年2月15日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は同年2月16日に口頭審理陳述要領書を提出し、当該口頭審理の後、請求人は平成28年3月11日付けで上申書及び上申書2を提出し、被請求人は平成28年3月23日に上申書を提出した。
その後、審理の進行について、被請求人は平成28年4月13日に上申書を提出し、一方、請求人は平成28年4月15日付け及び平成28年7月7日付けで上申書を提出し、さらに平成29年12月12日及び平成30年3月14日に上申書を提出した。

3 その後、当審から平成30年4月13日付けで審決の予告がされ、被請求人は平成30年7月23日に訂正請求書及び上申書を提出した。これに対し、請求人は平成30年10月9日付け審判事件弁駁書を提出した。

4 参加人 杏林製薬株式会社は、平成30年7月20日に参加申請書を提出し、本件審判について被請求人側に参加する旨を申し出て、平成30年9月4日付け参加許否の決定により参加することが許可された。また、参加人は、平成30年7月20日、平成30年9月5日及び平成30年11月9日に上申書を提出した。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
平成30年7月23日になされた訂正請求は、その請求の趣旨を「特許第3480736号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2?3について訂正することを求める。」とするものである。

2 訂正事項
訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項2に「投与量が25?1000マイクログラム」とあるのを、「投与量が100?200マイクログラム」と訂正する。

訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項2に「マイクログラムである、」とあるのを、「マイクログラムであり、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である、」に訂正する。

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである、」とあるのを、「季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものであり、前記1日1回の投与量が200マイクログラムである、」に訂正する。

3 訂正の適否
(1)訂正の目的について
訂正事項1-1は、請求項2に係る発明の「投与量が25?1000マイクログラム」との発明特定事項を、「投与量が100?200マイクログラム」との発明特定事項にすることにより、さらに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項1-2は、請求項2に係る発明を、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である、」との発明特定事項を加えることにより、さらに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項2は、請求項3に係る発明を、「前記1日1回の投与量が200マイクログラムである、」との発明特定事項を加えることにより、さらに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項1-1については、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明における
「モメタゾンフロエートの水性懸濁液は、1日1回の服用で25マイクログラムから1600マイクログラムまでが投与されて、アレルギー性鼻炎(例えば、季節性アレルギー性鼻炎)を処置するのに安全かつ効果的であることが見出されており;代表的には、1日に400マイクログラムを超えると、処置における改善は見出されないが、好ましい用量の範囲は、1日に25?800マイクログラムである。最も好ましい用量は、25、50、および100マイクログラムであり、100、200、および400mcgの1日1回服用の総用量に対して、1日1回の服用でそれぞれの外鼻孔へ2度、投与される。」(特許公報10欄17?27行)との記載、及び、
「用量変化の、安全性および効力研究において、モメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物を、50mcg/日、100mcg/日、200mcg/日、800mcg/日の用量で、またはプラセボを、季節性アレルギー性鼻炎の480名の患者へ4週間投与した。すべての処置は良好に耐性であり;統計的分析の結果は、すべての用量のモメタゾンフロエートはプラセボと比較して効果的であることを示した。これらの結果は、季節性アレルギー鼻炎の患者への鼻腔スプレーとしてのモメタゾンフロエートの水性懸濁液の投与は有効であり、全身的な副作用の能力をほとんど有さず良好に耐性であることを示し、そしてこれらの結果は、モメタゾンフロエートの低い経口バイオアベイラビリティと一致する。」(特許公報14欄36?48行)との記載によって、投与量の下限とされる100マイクログラム及び上限とされる200マイクログラムのいずれも示されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

訂正事項1-2については、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明における
「鼻腔内または経口吸入により投与されるモメタゾンフロエートの全身効果の実質的な最小限化は、モメタゾンフロエートの血漿中放射能の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による代謝産物のプロファイルによって、肝臓におけるその実質的に完全な(>98%)一次代謝、およびコルチゾル分泌レベルにおける最小の低下により測定した。
モメタゾンフロエートが経口的に(すなわち、経口懸濁液として飲み込まれる)または経口吸入もしくは鼻腔吸入により投与される場合、モメタゾンフロエートの全身的な血流中への吸収は実質的に存在しない、すなわち、胃腸管から血流へ到達する親薬物は本質的に存在しない(実質的に1%未満のモメタゾンフロエート)。」(特許公報5欄34?46行)との記載、
「さらに、鼻腔スプレー処方物として200mcgの^(3)H-モメタゾンフロエートを用いる単回用量の吸収、排泄および代謝研究を6名の正常な男性ボランティアで行った。全身的な吸収(尿排泄に基づく)を^(3)H-モメタゾンフロエートの静脈内投与された用量と比較した場合、8%であった。血漿中放射能のレベルが定量限界より低かったため、代謝物プロファイリングによって親薬物の血漿中濃度を決定できなかった。これらのデータは、モメタゾンフロエートの実質的に1%未満のバイオアベイラビリティに一致する。」(特許公報14欄25?34行)との記載、及び、
「これらの薬物代謝/臨床薬学的研究の結果は以下のことを示す:
1.^(3)H-MFを溶液として男性ボランティアに経口投与した場合、薬物由来の放射能は、完全に吸収された。しかし、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティは、広範な初回通過代謝のため極めて低い(約1%未満)。」(特許公報25欄29行?26欄2行)との記載により、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満であることが示されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

訂正事項2については、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明における
「モメタゾンフロエートの水性懸濁液は、1日1回の服用で25マイクログラムから1600マイクログラムまでが投与されて、アレルギー性鼻炎(例えば、季節性アレルギー性鼻炎)を処置するのに安全かつ効果的であることが見出されており;代表的には、1日に400マイクログラムを超えると、処置における改善は見出されないが、好ましい用量の範囲は、1日に25?800マイクログラムである。最も好ましい用量は、25、50、および100マイクログラムであり、100、200、および400mcgの1日1回服用の総用量に対して、1日1回の服用でそれぞれの外鼻孔へ2度、投与される。」(特許公報10欄17?27行)との記載、
「用量変化の、安全性および効力研究において、モメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物を、50mcg/日、100mcg/日、200mcg/日、800mcg/日の用量で、またはプラセボを、季節性アレルギー性鼻炎の480名の患者へ4週間投与した。すべての処置は良好に耐性であり;統計的分析の結果は、すべての用量のモメタゾンフロエートはプラセボと比較して効果的であることを示した。これらの結果は、季節性アレルギー鼻炎の患者への鼻腔スプレーとしてのモメタゾンフロエートの水性懸濁液の投与は有効であり、全身的な副作用の能力をほとんど有さず良好に耐性であることを示し、そしてこれらの結果は、モメタゾンフロエートの低い経口バイオアベイラビリティと一致する。」(特許公報14欄36?48行)との記載、及び、
「3.薬物-各患者に、モメタゾンフロエートの水性懸濁液またはプラセボのいずれかを含む計量鼻腔ポンプスプレーボトルを与えた。ボトルの投与説明書により、患者に薬物(モメタゾンフロエート50mcg/スプレー)またはプラセボをそれぞれの外鼻孔へ1日1回2スプレーずつ、毎朝送達するように通知した。」(特許公報16欄12?17行)との記載によって、投与量を200マイクログラムとすることが示されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(3)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1-1は、請求項2に係る発明における投与量の範囲を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に規定する要件に適合する。

訂正事項1-2は、請求項2に係る発明における未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティを限定するものであって、、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に規定する要件に適合する。

訂正事項2は、請求項3に係る発明における投与量を限定するものであって、、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に規定する要件に適合する。

(4)独立特許要件
請求項1?3のうち、特許無効審判の請求がされていない請求項はないので、訂正事項1-1、訂正事項1-2及び訂正事項2に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(5)一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであることについて
訂正前の請求項2?3は、請求項3が請求項2を引用する関係にあるから、請求項2?3を訂正の請求の対象とする訂正事項1-1、訂正事項1-2及び訂正事項2は、一群の請求項ごとにされたものである。

(6)小括
上記(1)?(5)に述べたとおり、平成30年7月23日になされた訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5?6項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。

第3 本件訂正発明
前記訂正の結果、本件特許第3480736号の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下、請求項の順にそれぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明3」といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)

【請求項1】モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、1日1回鼻腔内に投与される、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。
【請求項2】前記1日1回の投与量が100?200マイクログラムであり、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものであり、前記1日1回の投与量が200マイクログラムである、請求項1または2に記載の薬剤。

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人の提出した、審判請求書、平成28年2月15日付け口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書並びに平成28年3月11日付け上申書及び上申書2、並びに平成30年10月9日付け審判事件弁駁書によれば、請求人は、「特許第3480736号発明の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された各発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、本件特許が無効とされるべき理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。
(以下、甲第1号証、乙第1号証等を、甲1、乙1等と省略して記載する。)

[無効理由1](進歩性欠如)
本件特許発明1、2、3は、当該特許出願の優先日前に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証および技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書8頁下から3行?9頁2行。なお、審判請求書の上記摘記箇所に記された「当該特許出願前に、」は「当該特許出願の優先日前に、」の誤記であり、同「本件特許発明は同法第123条第1項第2号に該当し、」は「本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、」の誤記であると認める。)

[無効理由2](実施可能要件違反)
本件の請求項1に記載の発明特定事項のうち「鼻腔内に投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」について、本件明細書には、具体的な処方及び製造方法は一切記載されておらず、本件明細書には、漠然とした操作が記載されるだけで、本件特許発明を当業者が実施できないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書9頁3?10行。なお、審判請求書の上記摘記箇所に記された「特許法第36条第4項第1号」は「特許法第36条第4項」の誤記であり、同「本件特許発明は、特許法第123条第1項第4号に該当し、」は「本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、」の誤記であると認める。)

<証拠方法>
甲1:特表平5-506667号公報
甲2:Wang C-J. 他、Journal of Pharmaceutical & Biomedical Analysis, 10巻7号、1992年、473?479頁
甲3:小田口州宏 他、基礎と臨床、27巻9号、1993年、3575?3591頁
甲4:光井庄太郎 他、日気食会報、31巻1号、1980年、51?64頁
甲5:中島重徳 他、日気食会報、31巻5号、1980年、375?385頁
甲6:Ross, J.R.M. 他、Current Medical Research and Opinion、12巻8号、1991年、507?515頁
甲7:Bryson, H.M. 他、Drugs、43巻5号、1992年、760?775頁
甲8:Storms, W. 他、Annals of Allergy、66巻、1991年、329?334頁
甲9:アトピー・アレルギー性疾患、最新内科学体系23巻、中山書店、1992年、311?315頁、表紙、奥付
甲10:Phillipps G.H.、Respiratory Medicine、84巻(Supplement A)、1990年、19?23頁
甲11:試験報告書(RE-QT-150501)、2015年05月25日付け
(以上、審判請求書にいずれも写しを原本として添付)

甲12:小田口州宏 他、基礎と臨床、24巻4号、1990年、1985?2002頁
甲13:医薬品インタビューフォーム 外用コルチコイド製剤 プロパデルム(R)軟膏0.025% プロパデルム(R)クリーム0.025%、2010年4月改訂(第7版)(但し、「(R)」は、原文では「○」の中に「R」の印字である。)
甲11-2:試験報告書(RE-QT-160201)、2016年02月12日
甲11-3:冒頭頁の最上部に「実施可能要件についての捕捉」と記された文書
(以上、平成28年2月15日付け口頭審理陳述要領書にいずれも写しを原本として添付)

2 被請求人及び参加人の主張
被請求人の提出した、審判事件答弁書、平成28年2月16日提出の口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書、平成28年3月23日提出の上申書及び平成30年7月23日提出の上申書、並びに、参加人の提出した平成30年7月20日提出の上申書、平成30年9月5日提出の上申書及び平成30年11月9日提出の上申書によれば、被請求人及び参加人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は理由がないと主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

<証拠方法>
乙1:ステファン アール ダーハム教授の専門家宣誓書、2012年10月16日付け
乙2:臨床各科でのステロイド薬の使い方、2001年5月10日発行
乙3:特集 局所副腎皮質ステロイドの正しい使い方 鼻アレルギー、2013年8月発行
乙4:薬剤ごとの違いがわかるステロイドの使い分け、2010年2月15日発行
乙5:医薬品インタビューフォーム ナゾネックス、2015年7月発行
乙6:医薬品インタビューフォーム フルナーゼ、2013年8月発行
乙7:医薬品インタビューフォーム アラミスト、2014年4月発行
乙8:無効2014-800055に係る平成27年2月3日付け審決
乙9:Advances in Dermatology and Allergology XXVIII、2011年、107?119頁
乙10:Website(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1867454)の表示を2015年8月18日に印刷したもの(Annals of Allergy、67(2 Pt 1)、1991年、156?162頁のAbstract)
乙11:Acta Paediatr、82号、1993年、635?640頁
乙12:PEDIATRICS、105巻2号、2000年2月、1?7頁
乙13:THE JOURNAL OF STEROID BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY、44巻2号、1993年2月、141?145頁
乙14:医薬品インタビューフォーム リノコート、2012年6月発行
乙15:化学情報協会知財情報センター 調査報告書、2014年10月27日
乙16:コルチコステロイドを有効成分に含有する皮膚疾患抗炎症剤及び点鼻薬に関する表、2014年
乙17-1:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、209?210頁
乙17-2:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、216頁
乙18-1-1:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1007頁
乙18-1-2:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 966頁
乙18-1-3:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2133頁
乙18-1-4:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2155?2156頁
乙18-1-5:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1010?1011頁
乙18-1-6:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 972?973頁
乙18-1-7:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1592?1593頁
乙18-1-8:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1044頁
乙18-1-9:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 864頁
乙18-1-10:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 866頁
乙18-1-11:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1438?1439頁
乙18-1-12:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1504頁
乙18-1-13:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2362頁
乙18-1-14:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1633?1635頁
乙18-1-15:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1007?1008頁
乙18-1-16:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2492?2493頁
乙18-1-17:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2495頁
乙18-1-18:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1718?1719頁
乙18-1-19:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 865頁
乙18-1-20:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 974頁
乙18-1-21:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2232頁
乙18-1-22:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 691?692頁
乙18-1-23:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 723頁
乙18-1-24:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2362頁
乙18-1-25:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 922頁
乙18-1-26:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1841頁
乙18-1-27:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 921頁
乙18-1-28:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2496?2497頁
乙18-1-29:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2134?2135頁
乙18-1-30:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 961?962頁
乙18-1-31:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2127頁
乙18-2-1:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 475?476頁
乙18-2-2:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2174?2176頁
乙18-2-3:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1439?1440頁
乙18-2-4:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 2365頁
乙18-2-5:48 EDITION 1994 PHYSICIANS' DESK REFERENCE、Section 5 Product Information 1856?1857頁
乙19-1:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Beconase」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-2:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Beconase AQ」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-3:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Vancenase」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-4:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Rhinocort」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-5:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Nasalide」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-6:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Nasarel」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-7:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Flonase」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-8:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Nasonex」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙19-9:Website(http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/drugsatfda/index.cfm?fuseaction=Search.DrugDetails)における「Nasacort」の項の表示を2014年10月21日に印刷したもの
乙20:Drugs、36巻Supplement5、1988年、15?23頁
(以上、審判事件答弁書にいずれも写しを原本として添付)

参考資料1:みてわかる薬学 図解薬剤学、288?331頁
参考資料2:ペトラ・ヘガー博士の専門家報告書、2011年10月20日付け
参考資料3:医薬品添加物事典、1994年1月14日、20?21頁、30?31頁、38?41頁、78?79頁、106?107頁、114?115頁、122?123頁、148?151頁、212?213頁、奥付
(以上、被請求人の平成28年2月16日に提出した口頭審理陳述要領書にいずれも写しを原本として添付)

乙21:知財高裁、平成27年(行ケ)第10054号判決、平成28年3月30日判決言渡
乙22:三村量一、意見書、平成30年7月19日付け
乙23の1:大塚誠、鑑定意見書、2018年7月17日付け
乙23の2:大塚誠、鑑定意見書の別紙1 研究業績目録

乙23の3:大塚誠、鑑定意見書の別紙2 試験報告書(RE-QT-160201)、2016年02月12日(甲11-2の写し)
乙23の4:大塚誠、鑑定意見書の別紙3 冒頭頁の最上部に「実施可能要件についての捕捉」と記された文書(甲11-3の写し)
乙23の5:大塚誠、鑑定意見書の別紙4 請求人の平成28年3月11日付け上申書
乙23の6:大塚誠、鑑定意見書の別紙5 MSD株式会社「ナゾネックス(R)点鼻液50μg56噴霧用 ナゾネックス(R)点鼻液50μg112噴霧用」添付文書、2012年6月改訂(第5版)(「(R)」は、原文では「○」内に「R」の文字である。)
乙24:塩野義製薬株式会社「フルメタ(R)軟膏 フルメタ(R)クリーム フルメタ(R)ローション」の添付文書、2015年11月改訂(第11版)
乙25:Samir A. Shah, et al. ‘Regional deposition of mometasone furuate nasal spray suspension in humans'、Allergy and Asthma Proceedings、Vol.36、No.1(2015)pp.48?57
(以上、被請求人の平成30年7月23日に提出した上申書に、乙21及び乙23の2?乙25は写しを原本として添付し、乙22及び乙23の1は原本を添付)

丙1:澤田孝之、2018年6月現在日本国内で販売されている皮膚用ステロイド剤および点眼用ステロイド剤の一覧表
丙2:株式会社テクノミックのデータベース「明日の新薬」に掲載された「ブデソニド」の情報(2018年7月4日出力)
丙3の1:帝人ファーマ株式会社「リノコート(R)カプセル鼻用50μg」の添付文書(2014年9月改訂)(「(R)」は、原文では「○」内に「R」の文字である。)
丙3の2:セオリファーマ株式会社「アルロイヤー(R)点鼻液50μg」の添付文書(2015年2月改訂)(「(R)」は、原文では「○」内に「R」の文字である。)
丙3の3:グラクソ・スミスクライン株式会社「フルナーゼ(R)点鼻液50μg28噴霧用 フルナーゼ(R)点鼻液50μg56噴霧用」の添付文書(2017年12月改訂)(「(R)」は、原文では「○」内に「R」の文字である。)
丙4:「臨床薬物動態学」改訂第3版、p.32?33、2005年3月15日発行、株式会社南江堂
丙5:福田守、意見書、2018年7月18日付け
丙6:東興薬品工業株式会社「スカイロン(R)点鼻液50μg28噴霧用 スカイロン(R)点鼻液50μg56噴霧用」の添付文書(2015年10月改訂)(「(R)」は、原文では「○」内に「R」の文字である。)
丙7:特開2013-64022号公報
(以上、参加人の平成30年7月20日に提出した上申書に、丙1?丙4、丙6及び丙7は写しを原本として添付し、丙5は原本を添付。)
丙8:柴田瑞穂 他2名 作成の「最終報告書 モメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液の各種懸濁剤による製剤特性の検証」(1頁最終行に「試験責任者;日付:2018年8月31日 署名:柴田瑞穂」との記載あり)
丙9:Paul Kippax 他3名、‘Characterising a nasal spray formulation from droplet to API particle size’、「Reserch Gate」に2016年3月20日掲載
丙9の2:http://www.pharmtech.com/characterizing-nasal-spray-formation-droplet-api-particle-size を2018年8月30日に出力した印刷物
(以上、参加人の平成30年9月5日に提出した上申書にいずれも写しを原本として添付)

第5 当合議体の判断
当合議体は、本件特許は、請求人の主張する無効理由1、無効理由2のうち、無効理由1によって無効にすべきものであると判断する。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張する無効理由1の論旨は以下のとおりである。

ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1は、平成30年7月23日になされた訂正請求による訂正によって訂正されていない。

(ア)本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明の対比
本件訂正発明1の構成は、
(a)モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、
(b)1日1回
(c)鼻腔内に投与される、
(d)アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。
である。(審判請求書21頁3?7行)
一方、甲第1号証には、フランカルボン酸モメタゾン水和物の形態の「フランカルボン酸モメタゾン一水和物、その製造方法および医薬組成物」に関する発明が記載され、甲第1号証には「フランカルボン酸モメタゾンが炎症状態の処置に有用であること」、「水性懸濁液組成物を、例えば鼻から投与すること」および「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液」が記載されている。(審判請求書21頁8?13行)
ここで、モメタゾンフロエートがフランカルボン酸モメタゾンと同義であることは技術常識であり、また、本件特許明細書において「モメタゾンフロエート(モメタゾンフロエート一水和物の……」(本件特許公報第7頁左欄第43?44行)との記載があって、本件訂正発明1にいうモメタゾンフロエートはモメタゾンフロエート一水和物を含むこと、またはモメタゾンフロエート一水和物に相当することが記載されている。また、モメタゾンフロエートが局所的抗炎症活性を有することは公知であったし、また、薬剤が治療その他の目的で薬品を調合したもの(組成物を含む)であることは一般常識である。したがって、甲第1号証に記載された発明における「炎症状態の処置に有用であるモメタゾンフロエート一水和物の水性懸濁液組成物」は、本件訂正発明1の(a)「モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」に相当する。(審判請求書21頁14?30行)
また、甲第1号証に記載された発明における「鼻腔内投与用」は、本件訂正発明1の(c)「鼻腔内に投与される」に相当する。(審判請求書21頁31?32行)
しかし、甲第1号証に記載された発明は、「投与回数」が「1日1回」に特定されておらず、「炎症状態」が「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」に特定されていない。(審判請求書21頁33行?22頁1行)
以上より、本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明とは、「炎症状態の処置に有用である(a)モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、(c)鼻腔内に投与される、(d’)炎症状態の処置のための薬剤」である点で一致し、投与回数が特定されていない点(相違点1)および炎症状態が特定されていない点(相違点2)で相違する。(審判請求書22頁2?6行)

(イ)相違点1について
アレルギー性鼻炎を処置するための局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドの鼻腔内投与についての甲第4?8号証の記載に示されるように、アレルギー性鼻炎を処置するための鼻腔内コルチコステロイドの投与回数としては1日1回、1日2回?4回が一般的に知られていた事項であり、さらに不便と考えられていた1日2回ないし4回よりも、1日1回の投薬レジメンの方が患者の好みやコンプライアンスの観点から好ましいことが知られていたから、甲第1号証に記載されたモメタゾンフロエートの鼻腔投与用水性懸濁液の投与回数として1日1回の投薬レジメンを特定するには何らの困難性もなく、当業者が極めて容易に想到し得たことである。(審判請求書22頁7行?23頁19行)

(ウ)相違点2について
甲第2号証にはモメタゾンフロエートが喘息およびアレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であったことが記載されており、当業者ならば、甲第1号証において、「炎症状態の処置のために鼻腔内に投与される薬剤」を、「アレルギー性鼻炎の処置のために鼻腔内に投与される薬剤」とすることは容易に想到し得たことである。(審判請求書23頁20?26行)

(エ)効果について
本件訂正発明1における効果である、本件効果1「アレルギー性鼻炎に対して、1日1回のモメタゾンフロエート投与で、効果的に処置できること」及び本件効果2「所望しない全身性副作用を防げること」は、いずれも甲第1号証および甲第2号証ならびに技術常識から予期し得る程度のものであり、格別に顕著なものではない。(審判請求書23頁28行?26頁32行)

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1を引用する従属項に係る発明であり、訂正前には、構成(e)「前記1日1回の投与量が25?1000マクログラムである」をさらに含むものであったものを、訂正により、その投与量の範囲を「100?200マイクログラム」に減縮するとともに、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」との事項を付加したものである。
甲第1号証は、「水性懸濁液は、1gの懸濁液中に0.1から10.0mgのフランカルボン酸モメタゾン一水和物を含みうる。」こと、および具体的なモメタゾンフロエート一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液において“濃度 0.5(mg/g)”のモメタゾンフロエート一水和物を含むことを記載している。
ここで、局所抗炎症作用を有するコルチコステロイドの鼻腔内投与量に関して甲第6号証?甲第8号証の記載があることから、当業者は、1日1回の局所抗炎症性作用を有する鼻腔内コルチコステロイドによるアレルギー性鼻炎の処置を目的として、周知であった投与量「季節性アレルギー性鼻炎に対する鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μg」(甲7)及び「通年性アレルギー性鼻炎に対するトリアムシノロンアセトニド1日1回110μg、220μg」の範囲から、1日1回の投与量として「100?200マイクログラム」を設定することは、容易に想到し得たものである。
また、本件明細書は、1日1回の投与量を「100?200マイクログラム」に減縮したことによる追加の効果を何ら開示していない。
また、訂正により付加された「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」との事項は、1日1回の投与量の範囲を「100?200マイクログラム」に減縮することによって初めて奏される性質の作用ではなく、その投与量が“25?100マイクログラム”であっても、“200?1000マイクログラム”であっても奏される性質の作用である。即ち、当該事項は、鼻腔投与用のモメタゾンフロエート水性懸濁液に固有の性質(内在する性質)であり、用法・用量を特定することと全く関係がない。
従って、本件訂正発明2は、甲第1号証および甲第2号証ならびに技術常識により容易に発明できたものである。(審判請求書26頁33行?27頁20行、平成30年10月9日付け審判事件弁駁書4頁11行?5頁22行)

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、請求項1または2を引用する従属項に係る発明であり、訂正前には、請求項1の構成(d)「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤」を、構成(f)「前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである」にさらに特定したものであったものを、訂正により、さらに「前記1日1回の投与量が200マイクログラムである」との事項を付加したものである。
本件訂正発明1および2は何れも甲第1号証および甲第2号証ならびに技術常識により容易に発明できたものである。しかも、甲第2号証は、モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であったことを記載する。また、鼻腔内コルチコステロイドを季節性アレルギー性鼻炎に適用し得ることは、甲第6号証および甲第7号証に記載されるように公知技術であった。なお、甲第9号証の記載から、本件訂正発明3の構成(f)「季節性アレルギー性鼻炎」の処置は、甲第2号証記載の「アレルギー性鼻炎」の処置と区別されるとは到底考えられない。
また、局所抗炎症作用を有するコルチコステロイドの鼻腔内投与量に関して甲第6号証?甲第8号証の記載があることから、当業者は、1日1回の局所抗炎症性作用を有する鼻腔内コルチコステロイドによるアレルギー性鼻炎の処置を目的として、周知であった投与量「季節性アレルギー性鼻炎に対する鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μg」(甲7)及び「通年性アレルギー性鼻炎に対するトリアムシノロンアセトニド1日1回220μg」の範囲から、1日1回の投与量として「200マイクログラム」を設定することは、容易に想到し得たものである。
また、本件明細書は、1日1回の投与量を「200マイクログラム」に減縮したことによる追加の効果を何ら開示していない。
したがって、本件訂正発明3は、甲第1号証及び甲第2号証ならびに技術常識により容易に発明できたものである。(審判請求書27頁21行?28頁4行、平成30年10月9日付け審判事件弁駁書5頁23行?6頁14行)

エ 小括
本件訂正発明1、2、3は、当業者が甲第1号証および甲第2号証ならびに技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書31頁26?31行、平成30年10月9日付け審判事件弁駁書6頁15?17行)

(2)無効理由1についての当合議体の判断
ア 甲各号証に記載された事項
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、以下の記載事項(甲1-a)?記載事項(甲1-h)が記載されている。

記載事項(甲1-a)
「フランカルボン酸モメタゾン一水和物、その製造法および医薬組成物」(1頁 発明の名称)

記載事項(甲1-b)
「フランカルボン酸モメタゾンは、炎症状態の処置に有用であることが知られている。」(1頁右下欄8?9行)

記載事項(甲1-c)
「特に興味深いことは、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の水性懸濁液組成物を、例えば鼻から投与することである。本発明の水性懸濁液は、1gの懸濁液中に0.1から10.0mgのフランカルボン酸モメタゾン一水和物を含みうる。」(3頁左上欄21?23行)

記載事項(甲1-d)
「実施例1
……(中略)……。実質的に図1および図2に示されたものと同じ赤外線吸収スペクトルおよびX線回折グラフを有するフランカルボン酸モメタゾン一水和物24.83gが得られた。」(3頁右上欄14?24行)

記載事項(甲1-e)
「実施例2
……(中略)……。フランカルボン酸モメタゾン一水和物316.5gが収率(重量)90%で得られた。この生成物の赤外線吸収スペクトルおよびX線回収グラフは、図1および図2に示される値と実質的に同じであった。」(3頁右上欄下から5行?左下欄7行)

記載事項(甲1-f)
「実施例3
以下にしたがって、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液を製造した。

成分 濃度 バッチ例
(mg/g) (g/12kg)
フランカルボン酸 0.5 6.0
モメタゾン一水和物
アビセルRC591* 20.0 240.0
グリセリン 21.0 252.0
クエン酸 2.0 24.0
クエン酸ナトリウム 2.8 33.6
ポリソルベート80** 0.1 1.2
塩化ベンズアルコニウム 0.2 2.4
フェニルエチルアルコール 2.5 30.0
純水 十分量添加 1.0g 12.0kg

* アビセル(Avicel)RC591は、微晶質性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの混合物についてのFMCの商標である。
** ポリソルベート80は、1モルのソルビトールまたは無水ソルビトールに対して約20モルのエチレンを用いて共重合させて得られる、ソルビトールおよび無水ソルビトールのオレイン酸エステルの混合物についての商標である。
アビセルRC591を純水6kgに分散し、ここにグリセリンを加えた。クエン酸およびクエン酸ナトリウムを水240mlに溶解し、この溶液をアビセル-グリセリン分散液に混合しながら加えた。別の容器において、ポリソルベート80を約400mlの純水に撹拌しながら溶解した。フランカルボン酸モメタゾン一水和物を水性ポリソルベート80溶液に分散し、次にこれを上述のスラリーをアビセル-グリセリンクエン酸混合物に撹拌しながら加えた。塩化ベンズアルコニウムおよびフェニルエチルアルコールを純水に溶解した後、この溶液を懸濁混合液に撹拌しながら加えた。混合しながら懸濁液に純水を加えて、全量12kgとした。懸濁液の最終的なpHは4.5±0.5であった。」(3頁左下欄8行?右下欄9行)

記載事項(甲1-g)
「実施例4
X線回折実験に障害となることを防ぐため、懸濁剤アビセルRC-591を用いずに以下の組成物を製造した。

成分 濃度(mg/g)
4A 4B 4C
微細化フランカルボン酸 0.5 0.5 0.5
モメタゾン一水和物
クエン酸一水和物 2.0 2.0 2.0
クエン酸ナトリウム二水和物 2.8 - 2.8
リン酸第2ナトリウム - 4.0 -
ポリソルベート80 0.1 0.1 0.1
塩化ベンズアルコニウム 0.2 0.2 0.2
フェニルエチルアルコール 2.5 - -
ソルビン酸カリウム - 3.4 -
プロピレングリコール - - 100.0
グリセリン 21.0 21.0 21.0
純水(USP) 十分量添加 1.0g 1.0g 1.0g

これらの組成物は、実施例3に記載の方法にしたがって製造した。」(3頁右下欄10行?最終行)

記載事項(甲1-h)
「実施例5
以下の組成物を製造し、その熱安定性を試験した。

成分 濃度(mg/g)
5A 5B 5C
微細化フランカルボン酸 0.5 0.5 0.5
モメタゾン一水和物
クエン酸一水和物 2.0 2.0 2.0
クエン酸ナトリウム二水和物 2.8 - 2.8
リン酸第2ナトリウム - 4.0 -
ポリソルベート80 0.1 0.1 0.1
塩化ベンズアルコニウム 0.2 0.2 0.2
フェニルエチルアルコール - 2.5 -
ソルビン酸カリウム - - 3.4
プロピレングリコール 100.0 - -
グリセリン 21.0 21.0 21.0
アビセルRC-591 20.0 20.0 20.0
純水(USP q.s.ad) 1.0g 1.0g 1.0g
これらの組成物は、実施例3に記載の方法にしたがって製造した。」(4頁左上欄6行?下から4行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)が記載されている。(なお、甲第2号証は英文で記載されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項(甲2-a)
「ヒト血漿中のモメタゾンフロエート(SCH 32088)の直接定量のための競合的エンザイムイムノアッセイ」(473頁表題)

記載事項(甲2-b)
「未抽出のヒト血漿中のSCH 32088の測定のための高感度の競合的酵素免疫アッセイ(EIA)が開発された。」(473頁要約2?3行)

記載事項(甲2-c)
「こうして開発されたこのEIAは,アッセイあたり1pgのSCH 32088を,又はヒト血漿1mlあたり25pgを,検出できる。それは,50pg ml-1から2.5ng ml-1までのヒト血漿中のSCH 32088を,良好な直線性,正確さ及び精密さで,信頼性をもって定量することができる。」(473頁要約6?8行)

記載事項(甲2-d)
「モメタゾンフロエート(SCH 32088)は,局所的抗炎症活性を有しその一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない,合成のコルチコステロイドである[1,2]。」(473頁左欄3?8行)

記載事項(甲2-e)
「SCH 32088は,喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補である。SCH 32088は有望な生物学的及び薬理学的活性をこれまで示してきたが,当該薬物の非常な低投与量療法によって必要とされる,十分に高感受性で且つ再現性のある分析方法がないために,その代謝,薬物動態学及び毒物動態学は評価されてこなかった。」(473頁左欄8?17行)

記載事項(甲2-f)
「放射性標識された材料を用いた研究に基づくと,SCH 32088は,雄性ラットへの腹腔内投与後に様々な組織に分布し且つ広範に代謝されるようである(非公表データ)。このため,血漿中の親薬物の濃度はpg ml^(-1)の領域にあると推定されており,通常のクロマトグラフィー法によっては定量できない。」(473頁左欄17?25行)

記載事項(甲2-g)
「特異性
抗SCH 32088抗血清の交差反応性を,SCH 32088-3-CMO-HRPと,種々の構造的に関連付けられるステロイド並びに既知の又は潜在的可能性のあるSCH 32088の代謝産物,内因性のステロイドホルモン及び一般的なステロイド剤との,競合的結合を試験することにより調べた。表1に示すように,SCH 32088-3-CMO-HRPの50%置き換えのレベルで測定したところでは,有意な交差反応性は観察されなかった。」(477頁右欄下から15?5行)

記載事項(甲2-h)
「適用
臨床サンプル…中のSCH 32088の分析のためにこのEIA法が適用された。図5に示されるように,ヒトにおけるSCH 32088の血漿中濃度は,男性ボランティアへの1mgのSCH 32088の溶液の経口投与後,30分(Tmax)にて約150pg ml^(-1)(Cmax)でピークに達し,次いで急速に下降した。この結果は,このEIA法がヒト及びおそらく動物における経口投与後のSCH 32088の薬物動力学の評価に適していることを,明確に実証した。

図5
ヒト血漿中のSCH 32088濃度。健常な男性ボランティアの各々に対し,1mg SCH 32088溶液という1回用量が経口嚥下によって投与された…。
示されている各時間に血液サンプルを採取し,血漿をSCH 32088濃度についてアッセイした。手順は「材料及び方法」に記載してある。」(478頁右欄1?14行,図5,図説)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の記載事項(甲3-a)?記載事項(甲3-h)が記載されている。

記載事項(甲3-a)
「Mometasone furoate(MF)は米国Schering-Plough社で開発された外用corticoid剤であり,極めて強い局所抗炎症作用を示す一方で副作用は弱いことが明らかにされている^(1,2))。」(131頁左欄3?7行)

記載事項(甲3-b)
「今回はマウスを用い,臨床での薬効の強さがvery strong以上に属するdiflorasone diacetate (DDA),difluprednate (DFBA),dexamethasone dipropionate (DDP)およびbudesonide (BDS)の連続塗布による局所抗炎症作用および全身作用,皮膚萎縮作用をMFと比較した。それらの成績から主作用と副作用との乖離性を比較し,本薬物の薬効および安全性について位置づけを行った。」(131頁左欄下から2行?右欄7行)

記載事項(甲3-c)
「2)対象薬に対するMFの相対力価
……(中略)……。相対力価を求めると,MFの局所抗炎症作用はDDAに対し4.63倍,DFBAに対しては1.16倍,DDPに対しては1.88倍,BDSに対しては0.99倍であり,MFはBDSとともに最も強い活性を示した。」(134頁左欄3?16行)

記載事項(甲3-d)
「2.全身作用および皮膚萎縮作用(7日間連続塗布試験)
はじめにDDA,DFBA,DDPおよびBDSの全身作用としての胸腺萎縮作用および皮膚萎縮作用の用量-作用関係を検討し,回帰直線の得られる用量範囲でこれらの作用に対するMFの相対力価を求めた。」(134頁右欄11?17行)

記載事項(甲3-e)(原文は英語表記であるので、当審による邦訳表記で示す。)


」(142頁)

記載事項(甲3-f)
「2)全身作用および皮膚萎縮作用
胸腺萎縮作用を指標とする全身作用はMFを1.00とした時,BD 4.34,DDA 3.03,DFBA 2.00,DDP 1.49,BDS 1.28であり,対照薬に対しMFは最も弱い作用であった。」(143頁右欄下から9?4行)

記載事項(甲3-g)
「3)治療係数
以上の成績から主作用の副作用からの乖離性を評価するために治療係数を求めた。局所抗炎症作用の胸腺萎縮作用に対する乖離性はMFを1.00とした時BDS 0.79,DFBA 0.43,DDP 0.36,DDA 0.07,BD 0.04であり」(144頁左欄1?6行)

記載事項(甲3-h)
「臨床での効力がvery strong以上に属する5対照薬と比較して,MFの活性は主作用が最も強い一方で副作用が弱くその乖離性は最大であった。」(144頁右欄2?5行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の記載事項(甲4-a)?記載事項(甲4-b)が記載されている。

記載事項(甲4-a)
「鼻アレルギーを合併した気管支喘息患者に対する鼻用Beclomethasone dipropionate の臨床効果の検討」(51頁表題)

記載事項(甲4-b)
「(2)用量
1回1側1噴霧ずつ両側噴霧を,1日4回(朝,昼,夕,夜),1日当りのbeclomethasone dipropionate の噴霧量として400μgを,1週間連続投与した。」(53頁右欄下から16?12行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、以下の記載事項(甲5-a)?記載事項(甲5-c)が記載されている。

記載事項(甲5-a)
「経鼻および経口 Beclomethasone 吸入の内分泌機能に及ぼす影響に関する検討-特に健常例および鼻アレルギー合併気管支喘息例を中心として-」(375頁表題)

記載事項(甲5-b)
「そこで経鼻吸入用 beclomethasone dipropionate(以下,BDNと略す)および経口吸入用 beclomethasone dipropionate(以下,BDIと略す)を用いて,経鼻および経口吸入併用の内分泌機能に及ぼす影響を検討した。」(376頁左欄25?30行)

記載事項(甲5-c)
「吸入方法は,A群および患者群ではBDNおよびBDIをそれぞれ1回2噴霧1日4回,B群ではBDN1回4噴霧を1日4回とした。」(376頁右欄5?7行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第6号証には、以下の記載事項(甲6-a)?記載事項(甲6-e)が記載されている。(なお、甲第6号証は英文で記載されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項(6-a)
「季節性アレルギー性鼻炎における1日1回のブデソニド」(507頁表題)

記載事項(6-b)
「季節性アレルギー性鼻炎および通年性鼻炎において症状緩和のために局所投与される糖質コルチコステロイドの使用は、今や、定着した治療形態である。^(3) 研究により、1日2回経鼻投与されるブデソニド(200μg)が効果的であり、かつ前記状態の患者に良好に認容されたことが示された。^(4、5)」(507頁下から6?3行)

記載事項(6-c)
「しかしながら、1日1回のブデソニドの鼻腔内投与は、患者の好みやコンプライアンスの観点から、1日2回のレジメンに勝る更なる利点を提供し得る。」(507頁下から3行?最終行)

記載事項(6-d)
「通年性鼻炎患者における、定量加圧エアロゾルによる1日1回と1日2回の経鼻内ブデソニド(400μg/日)の比較は、この2つの処置レジメンの間の同等な効能及び認容性を実証した。^(2) 季節性アレルギー性鼻炎の処置における、ポンプ式スプレーにより送達される経鼻内水性ブデソニド(‘Rhinocort Aqua’†)を用いた類似の試験もまた、1日1回と1日2回のレジメン(400μg/日)の間で同等の効能および容認性を示した。^(1)」(508頁1?7行)

記載事項(6-e)
「かくして、本試験において、1日1回のブデソニド処置は、1日2回の処置と同じ効能であった。これは、通年性鼻炎での試験から得られた結果^(3)および季節性アレルギー性鼻炎での水性ブデソニドを用いた試験で得られた結果^(1)を追認するものである。」(514頁下から6?4行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第7号証には、以下の記載事項(甲7-a)?記載事項(甲7-b)が記載されている。(なお、甲第7号証は英文で記載されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項(7-a)
「鼻腔内フルチカゾンプロピオネート
その薬力学的特性および薬物動態特性、及びアレルギー性鼻炎における処置能力のレビュー」(760頁表題)

記載事項(7-b)
「多数の患者を用いた、大規模なプラセボを対象とした試験は、季節性アレルギー性鼻炎の成人および小児の両方で、1日あたり200μgの鼻腔内フルチカゾンプロピオネートの効能を確立した。さらに、1000名を超える患者を用いた5つの試験の結果によれば、1日1回投薬での1日200μgのフルチカゾンプロピオネートは、100μgの1日2回とほぼ同等の効能を有する。」(762頁2?5行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第8号証には、以下の記載事項(甲8-a)?記載事項(甲8-e)が記載されている。(なお、甲第8号証は英文で記載されているため、当審による邦訳文で示す。)

記載事項(8-a)
「1日1回のトリアムシノロンアセトニドの鼻腔内スプレーは通年性アレルギー性鼻炎の処置に効果的である」(329頁表題)

記載事項(8-b)
「無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験を11の施設で実施し、通年性アレルギー性鼻炎を有する305名の成人患者および高学年の小児患者における鼻炎の症状の緩和において、プラセボに対するトリアムシノロンアセトニドの1日1回、110μg、220μg、440μgのレジメンの鼻腔内エアロゾルの安全性および効能を評価した。」(329頁1?4行)

記載事項(8-c)
「この試験の間に特筆すべき顕著な副作用または検査所見の異常はなかった。12週間、1日1回で使用した鼻腔内トリアムシノロンアセトニド220μgおよび440μgは、通年性アレルギー性鼻炎の処置に関して、プラセボより臨床的および統計学的に優れていた。」(329頁9?12行)

記載事項(8-d)
「現在利用できるエアロゾル調製物であるベクロメタゾンおよびフルニソリドは、研究試験において、並びにアメリカ合衆国での10年の臨床使用で効果的であることが実証されている。これらの現在の推奨投薬レジメンは1日あたり2回?4回の投与範囲であり、それらは成人および6歳の年齢の子供での使用について承認されている。」(329頁左欄下から7行?同頁中欄4行)

記載事項(8-e)
「現在利用可能な鼻腔内ステロイドであるベクロメタゾンおよびフルニソリドは、1日1回の投薬よりも不便なレジメンである1日あたり最大4回で与えられることが推奨されている。」(333頁右欄5?10行)

本件特許出願の優先日前に頒布された甲第9号証には、以下の記載事項(甲9-a)が記載されている。

記載事項(9-a)
「アレルギー性鼻炎 allergic rhinitis は鼻アレルギー nasal allergy と同義であり,鼻粘膜I型アレルギーが病因である.発症時期より通年性 perennial allergic rhinitis と季節性 seasonal allergic rhinitis に分けられる.わが国では前者はハウスダスト(ダニ)が主な抗原である.後者の多くは花粉によるアレルギーで花粉症 pollinosis である.歴史的に見て,アレルギー性鼻炎は花粉症から明らかにされ,アレルギー性結膜炎の合併が多いため,花粉症,枯草熱 hay fever と呼ばれてアレルギー性鼻炎と異なる印象を与えることがある.特に欧米ではわが国と異なり,通年性より季節性アレルギーすなわち花粉症が多い国が少なくない.しかし症状,診断法,治療法では両者は全く同一であるので,両者を区別するのはかえって本疾患の理解を妨げ,誤解を招くもととなる.」(311頁左欄2行?右欄2行)

イ 甲第1号証に記載された発明
記載事項(甲1-a)?記載事項(甲1-h)から、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「炎症状態を治療するための、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液。」(以下、「甲1発明」ともいう。)

ウ 本件訂正発明1と甲1発明との対比
(ア)当業界において、「フランカルボン酸モメタゾン」は「モメタゾンフロエート」の同義語である。
また本件特許明細書に、「本発明の水性懸濁液組成物は、モメタゾンフロエートまたはモメタゾンフロエート一水和物(好ましくはモメタゾンフロエート一水和物)を水および他の薬学的に受容可能な賦形剤と混合することにより調製され得る。……。本発明の水性懸濁液、懸濁液1gあたり約0.01?10.0mg、好ましくは0.1?10.0mgのモメタゾンフロエート一水和物を含有する。」(特許公報8欄33?41行)、「モメタゾンフロエート(モメタゾンフロエート一水和物の水性懸濁液の形態で鼻腔内投与される)を、季節性アレルギー性鼻炎の患者を処置するのに使用した。」(特許公報13欄43?45行)、「いくつかの第I相試験は、モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔スプレー懸濁液処方物を用いて完了した。」(特許公報13欄49行?14欄1行)、「追跡多用量研究において、……:A)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物、…;B)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物、……。すべての処置を毎朝1回の投与として行った。」(特許公報14欄10?19行)および「弾性ボランティアにおけるこれらの研究の目的は、溶液としておよび一水和物の水性懸濁液として経口嚥下による投与後、……、鼻腔スプレーユニットからのモメタゾンフロエート一水和物の懸濁液として鼻腔吸入による投与後、……の^(3)H標識モメタゾンフロエート(「^(3)H-MF])の吸収、代謝、および排泄を測定することであった。」(特許公報18欄18?27行)との記載があることから、本件訂正発明1にいう「モメタゾンフロエート」は「モメタゾンフロエート一水和物」を包含すると認められる。
したがって、甲1発明にいう「フランカルボン酸モメタゾン一水和物」は本件訂正発明1にいう「モメタゾンフロエート」に相当する。
また、甲1発明にいう「鼻腔投与用水性懸濁液」は、本件訂正発明1にいう「水性懸濁液を含有する薬剤であって、……鼻腔内に投与される、……薬剤」に相当する。
そして、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎は、いずれも鼻に炎症状態をもたらす疾患であるから、甲1発明にいう「炎症状態」も、本件訂正発明1にいう「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」も、炎症状態であることに変わりはない。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、鼻腔内に投与される、炎症状態の治療のための薬剤。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。
・薬剤の用法・用量につき、本件訂正発明1では「1日1回」と特定されているのに対し、甲1発明では特定されていない点(以下、「相違点1」という。)
・治療の対象である炎症状態につき、本件訂正発明1では「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」と特定されているのに対し、甲1発明では特定されていない点(以下、「相違点2」という。)

(イ)相違点1について検討する。
記載事項(甲4-a)?記載事項(甲4-b)及び記載事項(甲5-a)?記載事項(甲5-c)には、鼻アレルギー合併気管支炎患者にベクロメタゾンジプロピオネートを1日4回経鼻投与することが示されている。
記載事項(甲6-a)?記載事項(甲6-d)には、季節性アレルギー性鼻炎患者に対するブデソニドの鼻腔内投与は、1日1回のレジメンが1日2回のレジメンと同等の症状緩和効能を有し、患者の好みやコンプライアンスの観点から1日1回のレジメンが有利であることが示されている。
記載事項(甲7-a)?記載事項(甲7-b)には、季節性アレルギー性鼻炎患者に対するフルチカゾンプロピオネートの鼻腔内投与は、1日1回のレジメンが1日2回のレジメンと同等の効能を有することが示されている。
記載事項(甲8-a)?記載事項(甲8-e)には、通年性アレルギー性鼻炎患者に対するトリアムシノロンアセトニドの鼻腔内投与を1日1回のレジメンで行い有効であったことが示されるとともに、鼻腔内ステロイドであるベクロメタゾンおよびフルニソリドのエアロゾル調製物は1日2?4回投与のレジメンが推奨されているが、1日1回投与のレジメンよりも不便であることが示されている。
ここで、甲1発明の薬剤を実際に治療に使用するにあたり、適切な用法・用量を定めることは必要不可欠であり、モメタゾンフロエートを含有する鼻腔内投与剤の用法・用量について公知のものがない場合は、公知の類薬の用法・用量を検討して採用することは、当業者が当然に行うことであるところ、ベクロメタゾンジプロピオネート、ブデソニド、フルチカゾンプロピオネート、トリアムシノロンアセトニドはいずれも、アレルギー性鼻炎等に対して用いられる局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドとして本件特許出願の優先日において広く知られていたものであるから、記載事項(甲4-a)?記載事項(甲8-e)に接した当業者は、患者の好みやコンプライアンスの観点から、アレルギー性鼻炎に対するコルチコステロイドの鼻腔内投与頻度は、それらの記載事項に示された1日1?4回のうちの1日1回が最も好ましいことを理解する。
そして、甲1発明における「フランカルボン酸モメタゾン一水和物」すなわち本件訂正発明1にいう「モメタゾンフロエート」は、記載事項(甲2-a)及び記載事項(甲3-a)を待つまでもなく、局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドとして本件特許出願の優先日において知られ、甲第1号証においてもそのように記載されていたものであるから、当業者は、モメタゾンフロエートの類薬である上記各種コルチコステロイドの用法・用量を検討して、甲1発明において鼻腔投与用水性懸濁液の投与頻度を「1日1回」とすることを容易に想到し得たといえる。

(ウ)相違点2について検討する。
記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)には、モメタゾンフロエートが、局所的抗炎症活性を有し、その一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さず、喘息およびアレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であったことが示されており、また、アレルギー性鼻炎がその名のとおり鼻の炎症であって、発症時期により通年性と季節性に分けられるものの、両者の症状、診断法、治療法が全く同一であることは、記載事項(甲9-a)にも示されるように、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められるから、記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)に接した当業者は、鼻腔に投与する薬剤である甲1発明にいう「炎症状態」として「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」を選択することを容易に想到し得たといえる。

エ 本件訂正発明2と甲1発明との対比
(ア)本件訂正発明2は、本件訂正発明1に対して、さらに「前記1日1回の投与量が100?200マイクログラムである」こと、及び「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことを発明特定事項として付加したものである。
すると、本件訂正発明2と甲1発明とは、本件訂正発明1と甲1発明との上記相違点1及び相違点2に加えて、本件訂正発明2では「前記1日1回の投与量が100?200マイクログラムである」とされるのに対し、甲1発明ではその特定がない点(以下、「相違点3-1」ともいう。)、及び、本件訂正発明2では「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」とされるのに対し、甲1発明ではその特定がない点(以下、「相違点3-2」ともいう。)で相違し、他の点で一致する。

(イ)相違点3-1について検討する。
記載事項(甲6-d)には季節性アレルギー性鼻炎に対して経鼻内水性ブデソニド1日1回(1日あたり400μg)のレジメンで効能が得られたことが示され、記載事項(甲7-b)には季節性アレルギー性鼻炎に対して鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μgのレジメンで効能を有したことが示され、記載事項(甲8-b)には通年性アレルギー性鼻炎に対してトリアムシノロンアセトニド1日1回110μg、220μg、440μgの鼻腔内エアロゾルのレジメンで効能が得られたことが示されている。
してみると、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が100?200マイクログラム」の範囲とすることもまた、容易に想到し得たといえる。

(ウ)相違点3-2について検討する。
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明における
「鼻腔内または経口吸入により投与されるモメタゾンフロエートの全身効果の実質的な最小限化は、モメタゾンフロエートの血漿中放射能の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による代謝産物のプロファイルによって、肝臓におけるその実質的に完全な(>98%)一次代謝、およびコルチゾル分泌レベルにおける最小の低下により測定した。
モメタゾンフロエートが経口的に(すなわち、経口懸濁液として飲み込まれる)または経口吸入もしくは鼻腔吸入により投与される場合、モメタゾンフロエートの全身的な血流中への吸収は実質的に存在しない、すなわち、胃腸管から血流へ到達する親薬物は本質的に存在しない(実質的に1%未満のモメタゾンフロエート)。」(特許公報5欄34?46行)との記載、
「さらに、鼻腔スプレー処方物として200mcgの^(3)H-モメタゾンフロエートを用いる単回用量の吸収、排泄および代謝研究を6名の正常な男性ボランティアで行った。全身的な吸収(尿排泄に基づく)を^(3)H-モメタゾンフロエートの静脈内投与された用量と比較した場合、8%であった。血漿中放射能のレベルが定量限界より低かったため、代謝物プロファイリングによって親薬物の血漿中濃度を決定できなかった。これらのデータは、モメタゾンフロエートの実質的に1%未満のバイオアベイラビリティに一致する。」(特許公報14欄25?34行)との記載、及び、
「これらの薬物代謝/臨床薬学的研究の結果は以下のことを示す:
1.^(3)H-MFを溶液として男性ボランティアに経口投与した場合、薬物由来の放射能は、完全に吸収された。しかし、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティは、広範な初回通過代謝のため極めて低い(約1%未満)。」(特許公報25欄29行?26欄2行)との記載に示されるように、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことは、本件訂正発明1の投与量を100?200マイクログラムにすることに伴って当然達成される事項であると認められる。
してみると、相違点3-2は、相違点3-1と実質的に異なる新たな相違点とはいえない。相違点3-1については、前記(イ)において示したとおり、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が100?200マイクログラム」の範囲とすることを、容易に想到し得たといえるから、それに伴って「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」との相違点3-2に係る事項も当然達成されたものといえる。

オ 本件訂正発明3と甲1発明との対比
(ア)本件訂正発明3は、本件訂正発明1または本件訂正発明2における「薬剤」を、「前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである」とし、さらに「前記1日1回の投与量が200マイクログラムである」との事項を付加したものである。
すると、本件訂正発明3と甲1発明とは、本件訂正発明1と甲1発明との上記相違点1及び相違点2、本件訂正発明2と甲1発明との上記相違点3-1及び相違点3-2に加えて、本件訂正発明3では「前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである」とされるのに対し、甲1発明では「炎症状態を治療するための」とされる点(以下、「相違点4-1」ともいう。)、及び、本件訂正発明3では「前記1日1回の投与量が200マイクログラムである」とされるのに対し、甲1発明ではその特定がない点(以下、「相違点4-2」ともいう。)で相違し、他の点で一致する。

(イ)相違点4-1について検討する。
記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)には、モメタゾンフロエートが、局所的抗炎症活性を有し、その一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さず、喘息およびアレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であったことが示されており、また、アレルギー性鼻炎がその名のとおり鼻の炎症であって、発症時期により通年性と季節性に分けられるものの、両者の症状、診断法、治療法が全く同一であることは、記載事項(甲9-a)にも示されるように、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められるから、記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)に接した当業者は、甲1発明にいう「炎症状態」として「季節性アレルギー性鼻炎」を選択することにより、「薬剤」について「前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである」とすることを容易に想到し得たといえる。

(ウ)相違点4-2について検討する。
記載事項(甲6-d)には季節性アレルギー性鼻炎に対して経鼻内水性ブデソニド1日1回(1日あたり400μg)のレジメンで効能が得られたことが示され、記載事項(甲7-b)には季節性アレルギー性鼻炎に対して鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μgのレジメンで効能を有したことが示され、記載事項(甲8-b)には通年性アレルギー性鼻炎に対してトリアムシノロンアセトニド1日1回110μg、220μg、440μgの鼻腔内エアロゾルのレジメンで効能が得られたことが示されている。
してみると、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、甲1発明にいう「炎症状態」として「季節性アレルギー性鼻炎」を選択することにより、「薬剤」について「前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものである」とするとともに、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が200マイクログラム」とすることもまた、容易に想到し得たといえる。

カ 効果について
(ア)本件訂正発明の効果
本件特許明細書には、以下のとおりの記載がある。
記載事項(本-a)
「モメタゾンフロエート(モメタゾンフロエート一水和物の水性懸濁液の形態で鼻腔内投与される)を、季節性アレルギー性鼻炎の患者を処置するのに使用した。…
いくつかの第I相試験は、モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔スプレー懸濁液処方物を用いて完了した。無作抽出、第三者盲検、プラセボコントロールを用いる、上昇単回用量の安全性および耐性研究において、水性鼻腔スプレー懸濁液処方物を8名の健康な男性ボランティアに投与した。投薬を午後11時に行い、そして以後24時間の間、血漿中コルチゾル濃度を測定した。プラセボと比較して、1000mcg、2000mcg、および4000mcg用量におけるモメタゾンフロエートは、血漿中コルチゾルプロファイル曲線下の24時間領域(AUC 0-24)に有意な影響を与えなかった。
追跡多用量研究において、48名の正常な男性ボランティアを、…パラレルグループ研究に登録した。それぞれの4つのグループの12名のボランティアは、28日間以下の処置の1つを受けた:A)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物、400mcg/日;B)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物、1600mcg/日;C)鼻腔内へのプラセボ;D)経口用プレドニソン、10mg/日。すべての処置を毎朝1回の投与として行った。…プラセボと比較して、2つの用量のモメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物は、いずれもコルチゾル分泌における何らの変化とも関連しなかった。
さらに、鼻腔スプレー処方物として200mcgの^(3)H-モメタゾンフロエートを用いる単回用量の吸収、排泄および代謝研究を6名の正常な男性ボランティアで行った。全身的な吸収(尿排泄に基づく)を^(3)H-モメタゾンフロエートの静脈内投与された用量と比較した場合、8%であった。血漿中放射能のレベルが定量限界より低かったため、代謝物プロファイリングによって親薬物の血漿中濃度を決定できなかった。これらのデータは、モメタゾンフロエートの実質的に1%未満のバイオアベイラビリティに一致する。本明細書中下記の表1および表2を参照のこと。用量変化の、安全性および効力研究において、モメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物を、50mcg/日、100mcg/日、200mcg/日、800mcg/日の用量で、またはプラセボを、季節性アレルギー性鼻炎の480名の患者へ4週間投与した。…統計的分析の結果は、すべての用量のモメタゾンフロエートはプラセボと比較して効果的であることを示した。これらの結果は、季節性アレルギー鼻炎の患者への鼻腔スプレーとしてのモメタゾンフロエートの水性懸濁液の投与は有効であり、全身的な副作用の能力をほとんど有さず良好に耐性であることを示し、そしてこれらの結果は、モメタゾンフロエートの低い経口バイオアベイラビリティと一致する。」(本件特許公報13欄43行?14欄48行)

記載事項(本-b)
「…「アレルギー性鼻炎または季節性アレルギー性鼻炎の処置における作用の迅速な開始」は、中程度の開始でモメタゾンフロエート鼻腔スプレーで処置したアレルギー性鼻炎の患者は、プラセボ鼻腔スプレーで処置したアレルギー性鼻炎患者の72時間と比較して、総鼻腔症状スコアが約3日(35.9時間)でベースラインから中度のあるいは完全寛解へ臨床的かつ統計的に有意に減少することを意味する。これらの結果は、無作為抽出、二重盲検、多施設の、プラセボコントロールを用いる、パラレルグループ試験において得られ、モメタゾンフロエート鼻腔スプレーの投与の開始と、季節性アレルギー性鼻炎の症状がある患者の総鼻腔症状スコアにより測定される臨床的効力の開始との間の期間を特徴付けた。研究は14日間継続した。201名の患者からのデータを分析に使用した。
…臨床的評価
…各患者に、モメタゾンフロエートの水性懸濁液またはプラセボのいずれかを含む計量鼻腔ポンプスプレーボトルを与え…患者に薬物(モメタゾンフロエート50mcg/スプレー)またはプラセボをそれぞれの外鼻孔へ1日1回2スプレーずつ、毎朝送達するように通知した。…
結果 主要な効力の結果は、モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループおよびプラセボグループについての寛解の開始時間…の生存分析 …に基づく。…
201名の患者からのデータを生存分析に用いた。モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループには101名の患者、およびプラセボグループには100名の患者がいた。…
生存分析の結果は、プラセボグループの72時間に比較して、モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループは35.9時間の寛解の中央の開始時間を有したことを示唆した…。2つのグループの生存分布のプロットから、プラセボグループにおいて増加する期間を伴う…やや寛解または寛解せずと報告した割合は、モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループと比較してより高かったことが認められた。対数-ランク(log-rank) を使用すると、データは、2つの処置グループの間の統計上の有意な差異を示した(p値<0.001)。朝および夜の平均した日記データの分析は、モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループについてのベースラインからの鼻腔症状の総スコアの減少(15日間の平均について)は、プラセボグループでの減少よりも統計上有意に高いことを示した。」(本件特許公報14欄49行?17欄39行)

記載事項(本-c)
「薬物代謝/臨床的薬理学的研究
各グループに6名の正常な男性ボランティアを有する6つのグループに、トリチウム標識モメタゾンフロエート(「^(3)H-MF」)を…投与することによって薬物代謝および臨床的薬理学的研究を実施した。血液および尿サンプルを、全薬物(代謝物を含む)の測定のために回収した。
…これらの研究の目的は、溶液としておよび一水和物の水性懸濁液として経口嚥下による投与後、標準計量用量吸入器(MDI)および間欠装置を含有する計量用量吸入器(Gentlehaler)からの懸濁液として経口吸入による投与後、鼻腔スプレーユニットからのモメタゾンフロエート一水和物の懸濁液として鼻腔吸入による投与後、および溶液として静脈内注入による投与後の…^(3)H-MF…の吸収、代謝、および排泄を測定することであった。
…研究デザイン
6つの処置グループのそれぞれにおける6名のボランティアは、表1に列挙される以下の^(3)H-MF投与形態の1つを服用する。
血漿、尿、…および糞便のサンプルを回収し、そして放射能含量についてアッセイした。血漿中放射能についての定量限界値(LOQ)は、LOQが0.025ng eq/mlであった鼻腔スプレー処置を除いて、0.103?0.138ngeq/ml.の範囲であった。選択された血漿、尿、および糞便サンプルを、代謝物プロファイルを対象に分析した。
結果
…薬物動態学-総放射能の平均血漿中濃度(n=6)を、まとめて図1に示し、そして総血漿中放射能に由来する平均薬物動態学パラメータ(n=6)は、表2に示される。
血漿中放射能を有する種々処方後の図1および/または尿の排泄データに説明され、そして表2に示される血漿中放射能と静脈内への処置後の血漿中放射能との比較は、^(3)H-MFを溶液として経口投与した場合に、薬物由来の放射能が完全に吸収されることを示した。対照的に、経口の懸濁液として、または鼻腔スプレーの懸濁液としての^(3)H-MF投与後の薬物由来放射能の全身的な吸収は、用量の約8%であった。…
放射能は、用量形態および投与の経路に関わりなく、糞便中に優先的に排泄される。尿中の放射能の排泄はそれぞれ、静脈および経口溶液処方物について約25%であり、…そして鼻腔スプレーおよび経口懸濁処方物の両方について2%以下であった。従ってこれらのデータは、溶液処方物として経口投与された場合、薬物が良好に吸収されるが、懸濁処方物として経口または鼻腔内に投与後は、僅かしか吸収されないことを示す。
選択された血漿、尿、および糞便抽出物を、代謝産物プロファイルを決定するための放射線フローモニタリングを伴う…HPLC…により分析した。これらの分析の結果は、経口用溶液の投与後、血漿中放射能のほとんどは、…代謝産物と関連していることを示した。3時間の血漿中放射能の約1.5%は、広範な初回通過代謝、および肝臓による迅速な不活性化を示す親薬物に関連していた。対照的に、静脈内投与後、3時間の血漿中放射能の約39%は、親薬物に関連していた。…一般に、鼻腔および経口経路による懸濁液投与後の放射能の血漿中濃度は、低過ぎて代謝産物の性質付けは成し得なかった。
…これらの薬物代謝/臨床薬学的研究の結果は以下のことを示す:
1.^(3)H-MFを溶液として男性ボランティアに経口投与した場合、薬物由来の放射能は、完全に吸収された。しかし、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティは、広範な初回通過代謝のため極めて低い(約1%未満)。

3.^(3)H-MFの鼻腔スプレーおよび経口懸濁処方物の投与後、薬物由来の放射能の吸収は約8%であった。
4.未変化のモメタゾンフロエートの血漿中濃度は、…決定され得なかった。何故なら、総放射能の血漿中濃度が代謝産物の性質付けには低すぎたためであった。
5.モメタゾンフロエートは、全ての経路の投与後、広範に代謝された。表2に示されるように、^(3)H-MF由来の放射能は、全身的な吸収が、経口嚥下懸濁液または鼻腔内吸入懸濁液から(8%)よりも、経口嚥下溶液から(約100%)の方が高かったことを示唆する。モメタゾンフロエートは、静脈注入による薬物の投与、または溶液投与形態としての経口投与の後、…血漿中に検出可能であったが、経口または鼻腔懸濁液の投与後には、検出され得なかった。同様に、溶液処方物で投与した後の尿への放射能の排泄は、鼻腔スプレーまたは経口懸濁液で投与した後(2%)よりも大きかった(25%)。尿および糞便中の総回収率または放射能は、それぞれ87%および75%であり、放射能のほとんどは、糞便中に排泄されていた。静脈内投与後、排泄された総放射能は78%であり、24%が尿中に排泄されており、そして54%が糞便中に排泄されていた。」(本件特許公報18欄11行?26欄31行)

記載事項(本-d)


」(本件特許公報10頁)

記載事項(本-e)


」(本件特許公報12頁)

記載事項(本-a)?記載事項(本-e)によれば、本件訂正発明の効果として、本件特許明細書には次のことが記載されているといえる。
1)すなわち、まず、治療効果については、1日1回、鼻腔に、モメタゾンフロエート水性懸濁液(モメタゾンフロエート100μg用量)を投与した101名のアレルギー性鼻炎患者、及び、プラセボを投与した100名のアレルギー性鼻炎患者を分析した結果、両者は、統計上の有意な差異を示し、モメタゾンフロエートを投与したグループについてのベースラインからの鼻腔症状の総スコアの減少は、プラセボグループでの減少よりも統計上有意に高いことを示したこと(記載事項(本-b))が記載されている。
すなわち、アレルギー性鼻炎に対して、1日1回のモメタゾンフロエートの鼻腔内投与で、プラセボとの対比において、治療効果があることが記載されているといえる。
2)次に、全身的な吸収及び代謝については、各々6名のボランティアから構成されるグループに対し、^(3)H-MFを、経口溶液、経口水性懸濁液、鼻腔スプレー懸濁液、静脈内注入溶液等として投与後に回収した血漿、尿、糞便等のサンプルの放射能含量をアッセイしたところ、薬物由来放射能の全身的な吸収が、経口溶液として1.03mg(1030μg)用量を投与した場合には用量の100%を示したのに対し、経口懸濁液として0.99mg(990μg)用量、又は鼻腔スプレー懸濁液として0.19mg(190μg)用量投与した場合には用量の8%を示すに留まり、かつ、モメタゾンフロエート自体は、経口溶液として投与した場合には血漿中に検出することができたが、経口懸濁液又は鼻腔スプレー懸濁液として投与した場合には血漿中に検出することができなかったこと(記載事項(本-c)、記載事項(本-d)、記載事項(本-e))が記載されている。
すなわち、経口溶液と比して、経口懸濁液及び鼻腔スプレー懸濁液の方が、モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く、モメタゾンフロエート自体が血漿中で定量限界以下しか存在しないという効果があることが記載されているといえる。
3)さらに、全身性副作用については、モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔スプレー懸濁液を8名のボランティアに投与したところ、4000μg用量を投与した場合でも、プラセボと比較して、血漿中コルチゾルプロファイル曲線下の24時間領域(AUC 0-24)に有意な影響を与えなかったこと(記載事項(本-a))、モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物(400μg/日)、モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物(1600μg/日)、鼻腔内へのプラセボ、及び経口用プレドニソン(10mg/日)のいずれかの1日1回の投与を28日間、それぞれ12名のボランティアに行ったところ、プラセボと比較して、2つの用量のモメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物は、いずれもコルチゾル分泌における何らの変化とも関連しなかったこと(記載事項(本-a))が記載されている。
すなわち、プラセボとの対比において、HPA機能抑制に起因する全身性副作用がないことが記載されているといえる。

(イ)甲1発明の効果
記載事項(甲1-a)?記載事項(甲1-c)及び記載事項(甲1-f)によれば、甲1発明は、モメタゾンフロエートの水性懸濁液の鼻腔内投与が、炎症に対して有効であることが記載されており、治療効果があるといえる。

(ウ)甲第2号証から読み取れるモメタゾンフロエートの効果
甲第2号証において、モメタゾンフロエートがHPA機能抑制の低いコルチコステロイドであることに言及した際に参照した文献1及び文献2には、モメタゾンフロエートを皮膚に局所投与した場合の記載があるのみで、鼻腔内投与の記載がない。もっとも、本件優先日当時、皮膚組織と鼻腔粘膜組織からの薬の吸収性には違いがあると考えられており、鼻腔粘膜の方が吸収されやすいと考えられていた。また、薬物の研究者が論文で「有望な新薬候補である」と記載する場合、その論文が基礎研究に関するものであれば、新薬の候補として興味深いものを見出したという程度の意味で、実際に投与した際の副作用の程度・内容までは具体的に想定していない場合が多く、他方、その論文が臨床段階の研究に関するものであれば、投与を断念するような重大な副作用が生じないことまでをある程度想定している場合が多いものと解される。そして、甲第2号証では、実際に、ヒトである男性ボランティアに1mgのモメタゾンフロエート溶液を経口投与していること、平成5年には日本においてモメタゾンフロエートが承認されていることからすると、平成4年に刊行された論文である甲第2号証は、モメタゾンフロエートに関し、臨床段階の研究が相当程度進んだ状況でのものであるということができる。
してみると、甲第2号証の記載事項から、当業者は、以下のa)?c)のモメタゾンフロエートの効果を読み取ることができる。
a)モメタゾンフロエートが、皮膚に対して局所的抗炎症活性を有することを前提に、喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入の治療効果が見込まれることが記載されており、経口吸入のみならず、鼻腔内吸入の方法を用い、アレルギー性鼻炎に対し、プラセボと対比して、一定の抗炎症活性を有するという治療効果を読み取ることができる。
b)モメタゾンフロエートが、雄性ラットの腹腔内投与後に様々な組織に分布し、かつ、広範に代謝されるため、血漿中のモメタゾンフロエート濃度は通常のクロマトグラフィー法によっては定量できないpg ml^(-1)の領域にあると推定され、一方、男性ボランティアへの1mgのモメタゾンフロエート溶液の経口投与では、血漿中濃度は、30分(Tmax)にて約150pg ml^(-1)(Cmax)でピークに達し、次いで急速に下降したことが記載されている。したがって、腹腔内投与及び経口投与されたモメタゾンフロエートが血漿中に留まる量は高いものではなく、しかも、比較的短時間で消失するという効果を読み取ることができる。
c)モメタゾンフロエートは、喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入によって、十分な治療効果を有するだけでなく、副作用についても実用化できる程度の小さいものであることが記載されていると読み取ることができる。HPA機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さないことが記載されている部分の参考文献は、皮膚に局所投与した場合のことしか言及していないが、甲第2号証の全体の文脈では、他の投与方法であっても、HPA機能を抑制するおそれが十分小さく、HPA抑制に起因する全身性副作用のおそれもまた少ないという効果を読み取ることができる。

(エ)甲1発明の効果及び甲第2号証から読み取れるモメタゾンフロエートの効果と、本件訂正発明の効果との対比
本件訂正発明の効果は、(ア)で説示したように、
1)アレルギー性鼻炎に対して、1日1回のモメタゾンフロエートの鼻腔内投与で、プラセボとの対比において、治療効果がある。
2)経口溶液と比して、経口懸濁液及び鼻腔スプレー懸濁液の方が、モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く、モメタゾンフロエート自体が血漿中で定量限界以下しか存在しないという効果がある。
3)プラセボとの対比において、HPA機能抑制に起因する全身性副作用がない。
の3点であるといえる。
しかしながら、1)の効果は、甲1発明の効果、並びに、(ウ)で甲第2号証の記載から読み取れると説示したa)の効果、及び、他のコルチコステロイドにおいて1日1回のレジメンが1日2回のレジメンと同等の効能を有することが示されている甲第6?8号証の記載から、当業者が予測し得たものである。また、2)の効果は、モメタゾンフロエートの経口溶液を引用発明とする進歩性の無効理由においては、本件訂正発明の有利な効果の存在の根拠となり得るものであるが、本件の無効理由1は、モメタゾンフロエートの鼻腔投与用懸濁液を引用発明とするものであるから、2)の効果は、本件の無効理由1においては、本件訂正発明の有利な効果の存在の根拠となり得るものではない。最後に、3)の効果は、甲1発明の効果、並びに、(ウ)で甲第2号証の記載から読み取れると説示したb)及びc)の効果、及び、他のコルチコステロイドにおいて1日1回のレジメンが1日2回のレジメンと同等の効能を有することが示されている甲第6?8号証の記載から、当業者が予測し得たものである。

キ 被請求人及び参加人の主張について
被請求人は、審判事件答弁書、平成27年2月16日提出の口頭審理陳述要領書、平成28年3月23日提出の上申書及び平成30年7月23日提出の上申書において、また、参加人は、平成30年7月20日提出の上申書、平成30年9月5日提出の上申書及び平成30年11月9日提出の上申書において、以下の主張を述べるが、いずれも受け入れられない。

(ア)甲1号証に記載された発明についての被請求人及び参加人の主張並びにそれに対する判断
(i)甲1号証に記載された発明についての被請求人及び参加人の主張
甲1号証に記載された発明について被請求人及び参加人は概略次のように主張する。
審決の予告においては、甲1の「鼻腔投与用水性懸濁液」は、本件訂正発明1における「水性懸濁液を含有する薬剤であって、・・・・鼻腔内に投与される、・・薬剤」に相当すると判断したが、甲1には、「フランカルボン酸モメタゾンが炎症状態の処置に有効であること」が記載されているに過ぎず(473頁左欄8?10行)、甲1には「アレルギー性または季節性アレルギー鼻炎」にモメタゾンフロエートを使用することについては開示がない。さらに、フランカルボン酸モメタゾン一水和物をアレルギー性または季節性アレルギー鼻炎のために投与した場合の薬理試験方法や薬理試験結果についての開示はない。さらに、甲1には、「医薬組成物」との文言は記載されているものの、モメタゾンフロエートを使用した医薬組成物の薬理試験方法や薬理試験結果については何ら開示されてない。そのため、甲1に「薬剤」が開示されているとして一致点を認定した審決の予告には誤りがある。
(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書9頁6行?10頁13行、参加人による平成30年7月20日提出の上申書3頁5行?4頁4行)

(ii)甲1号証に記載された発明についての被請求人及び参加人の主張に対する判断
上記記載事項(甲1-c)に「特に興味深いことは、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の水性懸濁液組成物を、例えば鼻から投与することである。」との記載があり、上記記載事項(甲1-f)における「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液を製造した。」との記載があって、甲1には「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液」が示されているところ、この「鼻腔投与用水性懸濁液」が技術常識に照らして「薬剤」に該当しないとはいえず、しかも上記記載事項(甲1-b)に「フランカルボン酸モメタゾンは、炎症状態の処置に有用であることが知られている。」との記載があり、上記記載事項(甲1-a)に「フランカルボン酸モメタゾン一水和物、その製造法および医薬組成物」と記載されていることを踏まえれば、甲第1号証には甲1発明「炎症状態を治療するための、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液。」が記載されているとした前記「イ 甲第1号証に記載された発明」における認定に誤りはない。

(イ)相違点1についての被請求人及び参加人の主張並びにそれに対する判断
(i)相違点1についての被請求人及び参加人の主張
相違点1について被請求人及び参加人は概略次のように主張する。
同じコルチコステロイドに属する化合物同士であって、アレルギー性鼻炎に対する治療効果の程度は様々である。それ故、単に、同じコルチコステロイドに属する化合物である、との一事をもって、ある特定のコルチコステロイドのアレルギー性鼻炎に対する治療効果から、別のコルチコステロイドの治療効果を予測することはできない。同様に、ある特定のコルチコステロイドの特性から別のコルチコステロイドの特性を推定することはできないので、モメタゾンフロエートのような、臨床上、経鼻投与の方法が用いられたことのないコルチコステロイドの場合、独自の安全性評価が必要となる。そして、薬の投与量や投与回数は、その薬の対象疾患の治療効果の程度と安全性に密接に関連するものであるから、アレルギー性鼻炎に対する或る特定のコルチコステロイドの用法が「1日1回」であることをもって、別の種類のコルチコステロイドの用法も「1日1回」で足りる、ということはできない。(審判事件答弁書30頁13行?32頁11行)
甲1及び甲4ないし8からは、モメタゾンフロエートを鼻腔内吸入した場合、アレルギー性鼻炎にどの程度有効であるかを知ることはできない。薬の用法は、その薬の対象疾患に対する治療の効果の程度(強度及び持続性等)に密接に関連することであり、治療効果や安全の程度が予測できない状況で、これを選択することは不可能である。1日1回が患者の好みやコンプライアンスの観点から最も望ましいことが知られていたとしてもそれは理想であって、実際に対象となる有効成分の薬剤が1日1回で効果を有し、安全性を有するものかどうかは、薬理試験を行わなければ予測できないのであって、かかる事実が知られていたことを以て、その用法を採用することが容易であるとはいえない。(審判事件答弁書32頁12行?33頁3行)
皮膚に塗布する場合と経鼻投与する場合とでは薬物動態が異なるので、ある薬剤が皮膚に局所適用した場合に安全かつ有効であったとしても、その薬剤を鼻腔スプレーで投与した場合に体内でどのような動態を示すかを知ることはできず、その安全性や有効性を推定することもできない。皮膚局所適用剤でも点鼻剤でも等しく効果を発揮するものもあれば、そうでないものもあるのであって、ブデソニドの例を本件に容易に適用することはできない。
以上のとおり、当業者は、同じコルチコステロイドである、という一事をもって、ブデソニド、フルチカゾン、あるいはトリアムシノロンアセトニドをアレルギー性鼻炎の治療に用いる際の用法を、モメタゾンフロエートに適用することはなく、1日1回の投与方法を当然に作用する理由はない。本件優先日当時、鼻腔吸入されたモメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎の治療に有効であるかについては知られていなかったのであるから、ブデソニドとモメタゾンフロエートが、ともに皮膚炎症処置のための強い作用を有することは、ブデソニドの用法のモメタゾンフロエートへの適用の根拠にならない。そもそも、当業者が、鼻腔内吸入したモメタゾンフロエートのアレルギー性鼻炎への治療効果の程度について具体的に知ることができない状況下で、その用法を「1日1回」とすることの合理的理由はない。
したがって、甲1発明に、甲6?8に記載される「1日1回」の投与方法を組み合わせる動機づけはない。(審判事件答弁書33頁17行?34頁13行、参加人による平成30年7月20日提出の上申書5頁14行?8頁11行及び平成30年11月9日提出の上申書4頁23行?5頁9行)

審決の予告では、モメタゾンフロエートとは異なる他のコルチコステロイドがアレルギー性鼻炎に対して用いられる局所抗炎症活性を有することを理由として、これらの用量を参照する動機づけがあったと判断している。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書12頁18行?13頁5行)
しかし、甲1には、モメタゾンフロエートの水性懸濁液をアレルギー性鼻炎の薬剤として用いられることが開示されていないにも関わらず、他の公知例を組み合わせるにあたり、モメタゾンフロエートの水性懸濁液がアレルギー性鼻炎の薬剤として使用されることを甲1に読み込むことは後知恵である。またこのことは、甲1に甲2を組み合わせた仮想的な公知例に基づき、甲4ないし8の用法・用量を組み合わせるものでもあるといえ、かかる判断手法は、容易の容易に基づき進歩性を否定するものであって、許されないことは明らかである。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書13頁6行?14頁18行)
審決の予告では、甲4ないし8に接した当業者は、1日1回が最も好ましいことを理解し、甲1発明に、1日1回を採用することは容易であると判断した。
しかしながら、甲1には、モメタゾンフロエートが「炎症状態の処置に有用であることが知られている」旨の記載があるが、モメタゾンフロエートが、アレルギー性鼻炎に有効・安全であるかについては何ら示されていない。薬理作用や副作用はコルチコステロイドによって様々であり、単に、同じコルチコステロイドに属する化合物である、との一事をもって、ある特定のコルチコステロイドのアレルギー性鼻炎に対する治療効果から、別のコルチコステロイドの治療効果を予測することはできなかった。同様に、あるテク低のコルチコステロイドの特定から別のコルチコステロイドの特性を推定することはできないので、モメタゾンフロエートのような、臨床上、経鼻投与の方法が用いられたことのないコルチコステロイドの場合、独自の安全性評価が必要となる。そして、薬の投与量や投与回数は、その薬の対象疾患の治療効果の程度と安全性に密接に関連するものであるから、アレルギー性鼻炎に対するある特定のコルチコステロイドの用法が「1日1回」であることをもって、別の種類のコルチコステロイドの用法も「1日1回」で足りる、ということはできない。
なお、1日1回が患者の好みやコンプライアンスの観点から最も望ましいことが知られていたとしてもそれは理想であって、実際に対象となる有効成分の薬剤が1日1回で効果を有し、安全性を有するものかどうかは、薬理試験を行わなければ予測できない。それ故、かかる事実が知られていたことをもって、その用法を採用することが容易であるとはいえない。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書14頁19行?16頁18行)
当業者が、鼻腔内吸入したモメタゾンフロエートのアレルギー性鼻炎への治療効果の程度について具体的に知ることができない状況下で、その用法を「1日1回」とすることの合理的理由はない。
したがって、甲1に、甲6?8に記載の「1日1回」の投与方法を組み合わせる動機づけはない。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書16頁19行?17頁10行)

(ii)相違点1についての被請求人及び参加人の主張に対する判断
上記(2)イに記したとおり、甲第1号証には「炎症状態を治療するための、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液。」(甲1発明)が記載され、上記(2)ウ(イ)に記したとおり、甲1発明の類薬の用法・用量を検討して採用することは当業者が当然に行うことであるところ、記載事項(甲4-a)?記載事項(甲8-e)から当業者は、甲1発明の類薬であるコルチコステロイドの鼻腔内投与頻度として1日1回が最も好ましいことを理解するから、甲1発明において「モメタゾンフロエート」の鼻腔投与用水性懸濁液の投与頻度を1日1回にする動機づけはあったといえる。
したがって、相違点1についての被請求人及び参加人の主張は受け入れられない。

(ウ)相違点2についての被請求人及び参加人の主張並びにそれに対する判断
(i)相違点2についての被請求人及び参加人の主張
相違点2について被請求人及び参加人は概略次のように主張する。
甲1には、本件発明の課題、つまり、アレルギー性または季節性アレルギー鼻炎の治療に有効であり、かつ、鼻腔内投与によって投与されたときに、全身性バイオアベイラビリティが低く、全身性の副作用の発症が抑制された薬剤については記載がなく、鼻腔吸入用のモメタゾンフロエートの「水性懸濁液」をアレルギー性鼻炎の治療に積極的に結びつける示唆はない。
なお、鼻の炎症には、アレルギー性鼻炎や季節性アレルギー鼻炎のほか、鼻炎急性・慢性鼻炎、急性・慢性副鼻腔炎などが含まれ、炎症状態の緩和のために鼻に投与することをもって、アレルギー性鼻炎の治療を意味することにはならない。甲1は、薬理実験等の何らの裏づけもなく、モメタゾンフロエートは「炎症状態に有効」とのみ述べるのであり、炎症状態の「治療のための薬剤」すら、開示されていない。(審判事件答弁書34頁22行?36頁9行、被請求人による平成30年7月23日提出の上申書17頁20行?18頁26行)
甲2には、モメタゾンフロエートが「喘息及びアレルギー性鼻炎の経口及び鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補である」旨が記載されている。しかし、甲2において、モメタゾンフロエートとアレルギー性鼻炎との関係について述べているのはこの一文のみであり、甲2記載の「新薬候補」は、いまだそのアレルギー性鼻炎の治療薬としての有効性ないし安全性が臨床試験を通して確認されるに至っていない、多数の化合物の一つにすぎないことを意味する。モメタゾンフロエートの薬物動態等のデータがなくても、皮膚局所適用で抗炎症活性を示すことが確認されているから鼻の炎症の治療にも有効であることが予想できる、ということには決してならない。
甲2の「アレルギー性鼻炎の有望な新薬候補」は、治療効果を裏づける薬理データ等も無く、ただ、将来、アレルギー性鼻炎の治療薬の開発の対象になる可能性があると述べているに過ぎない。一般的に「新薬候補」は、医薬品の原料となる可能性のある化合物を意味するが、「薬剤」は、客観的な実験を通して医薬品としての安全性及び有効性が確認された化合物を意味する。それ故、甲2の開示する、「鼻腔内吸入によるアレルギー性鼻炎の治療のための有望な新薬候補としてのモメタゾンフロエート」は、本件発明にかかる「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤」とは異なる。(審判事件答弁書36頁10行?38頁13行、被請求人による平成30年7月23日提出の上申書19頁1行?21頁19行)
甲1は懸濁液の形態で長期間保存される間に結晶が成長しにくいフランカルボン酸モメタゾン一水和物を得ることを課題とするものであり、甲2はモメタゾンフロエートの血漿濃度を測定する方法を得ることを課題とするものであり、それぞれの課題は異なっており、本件発明のアレルギー性又は季節性アレルギー鼻炎の治療に有効であり、かつ、鼻腔内投与によって投与されたときに、全身性バイオアベイラビリティが低く、全身の副作用の発症が抑制された薬剤を提供するという課題のみならず、そもそも「薬剤を提供する」という課題すらないのであって、甲1と甲2を組み合わせる動機づけはない。(審判事件答弁書38頁14?25行、被請求人による平成30年7月23日提出の上申書21頁20行?22頁19行)
甲1及び甲2には、モメタゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔内吸入した場合の全身性バイオアベイラビリティや副作用に関する問題等について記載も示唆もされておらず、「薬剤」の開示はない。さらに、本件優先日当時、当業者が、モメタゾンフロエートを鼻腔内投与した場合、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療に有効であり、かつ、全身性バイオアベイラビリティが低く、小児についても全身性副作用が実質的に存在しないことについて、容易に認識し得たことを示す知見はなかった。
したがって、当業者が、これらに基づいて、相違点2にかかる「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤」の構成を容易に導くことができたとはいえない。(審判事件答弁書39頁1?13行、参加人による平成30年7月20日提出の上申書4頁5行?5頁13行及び平成30年11月9日提出の上申書4頁23行?5頁9行)

(ii)相違点2についての被請求人及び参加人の主張に対する判断
たとえ「有望な新薬候補」は「薬剤」とは異なり、客観的な実験を通して医薬品としての安全性及び有効性が確認されていないものであるとしても、上記(2)ウ(ウ)に記したとおり、記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)においては、根拠を示さずに、モメタゾンフロエートが有望な新薬候補であると記されているわけではなく、モメタゾンフロエートが、局所的抗炎症活性を有し、その一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さないことが根拠として記されている。
また、上記(2)ウ(ウ)に記したとおり、アレルギー性鼻炎が発症時期により通年性と季節性に分けられるものの、両者の症状、診断法、治療法が全く同一であることは、記載事項(甲9-a)にも示されるように、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められるから、たとえ「有望な新薬候補」は「薬剤」とは異なり、客観的な実験を通して医薬品としての安全性及び有効性が確認されていないものであるとしても、記載事項(甲2-a)?記載事項(甲2-h)に接した当業者は、甲1発明にいう「炎症状態」として「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」を選択することを容易に想到し得たといえる。
したがって、相違点2についての被請求人及び参加人の主張は受け入れられない。

(エ)相違点3-1についての被請求人の主張及びそれに対する判断
(i)相違点3-1についての被請求人の主張
(相違点3-1は、被請求人が平成30年7月23日提出の上申書において「相違点3」として挙げるものに対応する。)
1日1回の投与量として、甲6にはビデソニド400μg、甲7にはフルチカゾンプロピオネート200μg、甲8には、トリアムシノロンアセトニド110μg、220μg、440μgが開示されている。しかしながら、モメタゾンフロエートとは異なる他のコルチコステロイドの用量を参照する動機づけはなく、これらの用量をアレルギー性鼻炎について開示のない甲1に組み合わせる動機づけはない。
実際モメタゾンフロエートの投与量がどの程度であれば、1日1回で効果を有し、安全性を有するものかどうかは、薬理試験を行わなければ予測できない。
1日1回の100?200マイクログラムのモメタゾンフロエートが効果的であることは、甲1?甲10から予測することができず、相違点3-1に係る構成は容易に想到し得るものではない。
(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書31頁1?15行、参加人による平成30年11月9日提出の上申書5頁18行?6頁5行及び平成30年11月9日提出の上申書5頁18行?6頁5行)

(ii)相違点3-1についての被請求人の主張に対する判断
甲1発明の薬剤を実際に治療に使用するにあたり、適切な用法・用量を定めることは必要不可欠であり、モメタゾンフロエートを含有する鼻腔内投与剤の用法・用量について公知のものがない場合は、公知の類薬の用法・用量を検討して採用することは、当業者が当然に行うことであるところ、ブデソニド、フルチカゾンプロピオネート、トリアムシノロンアセトニドはいずれも、アレルギー性鼻炎等に対して用いられる局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドとして本件特許出願の優先日において広く知られていたものである。
前記エ(イ)に示したとおり、記載事項(甲6-d)には季節性アレルギー性鼻炎に対して経鼻内水性ブデソニド1日1回(1日あたり400μg)のレジメンで効能が得られたことが示され、記載事項(甲7-b)には季節性アレルギー性鼻炎に対して鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μgのレジメンで効能を有したことが示され、記載事項(甲8-b)には通年性アレルギー性鼻炎に対してトリアムシノロンアセトニド1日1回110μg、220μg、440μgの鼻腔内エアロゾルのレジメンで効能が得られたことが示されている。
してみると、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が100?200マイクログラム」の範囲とすることもまた、容易に想到し得たといえる。
したがって、相違点3-1についての被請求人の主張は受け入れられない。

(オ)相違点3-2についての被請求人の主張及びそれに対する判断
(i)相違点3-2についての被請求人の主張
(相違点3-2は、被請求人が平成30年7月23日提出の上申書において「相違点4」として挙げるものに対応する。)
本件訂正発明では、副腎抑制の副作用の指標となる血漿中コルチゾルの濃度だけではなく、モメタゾンフロエートの吸収率の測定と、薬物代謝についても確かめた上で、投与された薬物がどれだけ全身循環血中に到達し作用するかを示すバイオアベイラビリティが1パーセント未満という低い結果であることを得て、副作用の影響がほとんどないことを確認しているところに技術的意味がある。
甲1及び甲2に、モメタゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔投与した場合に、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことについての開示はない。
さらに、甲2は、モメタゾンフロエートは「水溶液」の形態で「経口投与」されているから、モメタゾンフロエートの「水性懸濁液」を「鼻腔内」に投与した場合に、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満であることについては開示がない。甲2の溶液を経口投与した際のモメタゾンフロエートの親化合物の血漿中のピーク濃度や、「HPA機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない」との記載から「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことは読み取れない。
甲3に記載のモメタゾンフロエートの副作用は、皮膚への局所適用の場合のものであり、モメタゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔投与した際の副作用等を述べたものではない。皮膚の塗布と鼻腔投与では薬物動態が大きく異なるので、コルチコステロイドを皮膚に投与した場合の副作用から、コルチコステロイドを鼻腔に投与した場合の副作用を予測することはできない。
本件訂正発明2は、試験の結果に基づいてモメタゾンフロエートの懸濁液を作用することにより、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことを達成したものであり、この点は軟膏のみを開示する甲3からは予測し得ない。
甲4ないし10は、モメタゾンフロエート以外のコルチコステロイドについて記載したものであり、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことも開示されていない。
甲1に甲2?10を組み合わせても、相違点3-2にかかる構成を容易に想到することはできない。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書31頁16行?36頁4行及び平成30年11月9日提出の上申書6頁6?15行)

(ii)相違点3-2についての被請求人の主張に対する判断
前記エ(ウ)に示したとおり、「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことは、本件訂正発明1の投与量を100?200マイクログラムにすることに伴って当然達成される事項であると認められる。
してみると、前記エ(イ)及び(エ)に示したとおり、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が100?200マイクログラム」の範囲とすることを、容易に想到し得たといえる以上、「1日1回の投与量が100?200マイクログラム」の範囲とすることに伴って当然達成される「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」との事項もまた、当業者が容易になし得たといえる。
したがって、相違点3-2についての被請求人の主張は受け入れられない。

(カ)相違点4-1についての被請求人及び参加人の主張並びにそれに対する判断
(i)相違点4-1についての被請求人及び参加人の主張
審判事件答弁書、被請求人による平成27年2月16日提出の口頭審理陳述要領書、平成28年3月23日提出の上申書及び平成30年7月23日提出の上申書、並びに、参加人による平成30年7月20日提出の上申書、平成30年9月5日提出の上申書及び平成30年11月9日提出の上申書によれば、相違点4-1についての被請求人及び参加人の主張は、上記(ウ)(i)相違点2についての被請求人及び参加人の主張に含まれていると認められる。

(ii)相違点4-1についての被請求人及び参加人の主張に対する判断
相違点4-1についての被請求人及び参加人の主張は、上記相違点2についての被請求人及び参加人の主張に含まれていると認められるところ、それに対する判断は、上記(ウ)(ii)相違点2についての被請求人及び参加人の主張に対する判断に示したとおりである。
したがって、相違点4-1についての被請求人の主張は受け入れられない。

(キ)相違点4-2についての被請求人の主張及びそれに対する判断
(i)相違点4-2についての被請求人の主張
(相違点4-2は、被請求人が平成30年7月23日提出の上申書において「相違点5」として挙げるものに対応する。なお、参加人は相違点4-2について何ら主張を述べていない。)
モメタゾンフロエートとは異なる他のコルチコステロイドの用量を参照する動機づけはなく、これらの用量をアレルギー性鼻炎についての開示のない甲1に組み合わせる動機づけはない。
1日1回の200マイクログラムのモメタゾンフロエートが効果的であることは、甲1?甲10から予測することができず、相違点4-2にかかる構成は容易に想到し得るものではない。

(ii)相違点4-2についての被請求人の主張に対する判断
甲1発明の薬剤を実際に治療に使用するにあたり、適切な用法・用量を定めることは必要不可欠であり、モメタゾンフロエートを含有する鼻腔内投与剤の用法・用量について公知のものがない場合は、公知の類薬の用法・用量を検討して採用することは、当業者が当然に行うことであるところ、ブデソニド、フルチカゾンプロピオネート、トリアムシノロンアセトニドはいずれも、アレルギー性鼻炎等に対して用いられる局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドとして本件特許出願の優先日において広く知られていたものである。
前記エ(イ)に示したとおり、記載事項(甲6-d)には季節性アレルギー性鼻炎に対して経鼻内水性ブデソニド1日1回(1日あたり400μg)のレジメンで効能が得られたことが示され、記載事項(甲7-b)には季節性アレルギー性鼻炎に対して鼻腔内フルチカゾンプロピオネート1日1回200μgのレジメンで効能を有したことが示され、記載事項(甲8-b)には通年性アレルギー性鼻炎に対してトリアムシノロンアセトニド1日1回110μg、220μg、440μgの鼻腔内エアロゾルのレジメンで効能が得られたことが示されている。
してみると、甲1発明に接した当業者が、その用法・用量につき検討し、甲第4?8号証に基づいて1日1回にすることに加え、その投与量を、記載事項(甲6-d)、記載事項(甲7-b)及び記載事項(甲8-b)を参酌して、「1日1回の投与量が200マイクログラム」とすることもまた、容易に想到し得たといえる。
したがって、相違点4-2についての被請求人の主張は受け入れられない。

(ク)本件訂正発明の効果についての被請求人及び参加人の主張並びにそれに対する判断
(i)本件訂正発明の効果についての被請求人及び参加人の主張
本件訂正発明の効果について被請求人及び参加人は概略次のように主張する。

本件訂正発明は、アレルギー性鼻炎に対して、1日1回のモメタゾンフロエートの鼻腔内投与で効果的に処置できるという効果を有するが、甲1にも甲2にもモメタゾンフロエートについてのアレルギー性鼻炎に対する治療の効果を確認した結果は開示されていない。治療の効果は薬の種類により異なり、同じコルチコステロイドであってもアレルギー性鼻炎に対する治療効果は異なること、モメタゾンフロエートの皮膚に対する作用から鼻腔投与した差異のアレルギー性鼻炎に対する治療効果は予測できないことから、モメタゾンフロエートについて1日1回の用法でアレルギー性鼻炎を効果的に処置できることは予測し得ない。(審判事件答弁書39頁14行?48頁23行、被請求人による平成28年2月16日提出の口頭審理陳述要領書6頁8行?8頁24行、被請求人による平成28年3月23日提出の上申書10頁1行?11頁17行、被請求人による平成30年7月23日提出の上申書22頁20行?24頁17行)
本件訂正発明は、モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず、所望しない全身性副作用を防げるという効果を有するが、甲1にも甲2にもモメタゾンフロエートについての鼻腔に投与した際の全身性副作用を確認した結果は開示されていない。皮膚と鼻腔では薬物動態が異なり、さらに、皮膚への塗布と異なり、鼻腔投与した場合には一部の薬剤を飲み込んでしまい全身に吸収されるため、モメタゾンフロエートを皮膚に塗布した際の副作用からモメタゾンフロエートを鼻腔投与した際の副作用は予測できないのであって、モメタゾンフロエートを鼻腔投与した際の副作用について何ら開示のない甲1?甲10からは、本件訂正発明の、モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず、所望しない全身性副作用を防げるという効果は予測することはできない。(審判事件答弁書48頁24行?52頁2行、被請求人による平成28年2月16日提出口頭審理陳述要領書8頁24行?13頁21行、参加人による平成30年7月20日提出の上申書8頁12行?9頁17行)
モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず、所望しない全身性副作用を妨げるとの効果は、本件特許明細書に記載の試験を行うことによってはじめて得られる効果であり、甲1からは予測し得ない。また、甲2の「HPA機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない」との記載は、コルチコステロイド応答性皮膚疾患の処置のためにモメタゾンフロエートを皮膚に塗布する場合についてのものであって、鼻腔吸入した場合のものではないから、甲2の記載から「全身性吸収が実質的に存在しない」ことは読み取れない。甲6?8は、モメタゾンフロエート以外のコルチコステロイドについて記載したものである。単に、同じコルチコステロイドに属する化合物である、との一事をもって、ある特定のコルチコステロイドの特性から別のコルチコステロイドの特性を推定することはできない。さらに、甲6?8には、コルチコステロイドが実質的な全身性吸収が存在しないことも開示されていない。(被請求人による平成30年7月23日提出の上申書24頁17行?28頁12行)
本件訂正発明は、1日1回の鼻腔投与でアレルギー性鼻炎を効果的に処置しながらも、所望しない全身性副作用を防ぐという、一見、相いれない課題を、モメタゾンフロエートの水性懸濁液の鼻腔投与という構成により一挙に解決するものであって、このような格別顕著な効果は甲1ないし甲10から予測し得るものではない。(審判事件答弁書52頁3行?52頁16行)

(ii)本件訂正発明の効果についての被請求人及び参加人の主張に対する判断
確かに、甲第1、2号証には、モメタゾンフロエートのアレルギー性鼻炎に対する治療効果を確認した結果は開示されていないものの、上記カに示したとおりのモメタゾンフロエートの効果は読み取れるのであるから、上記カで説示したとおり、本件特許発明の効果は、甲1発明の効果並びに甲第2号証の記載から読み取れる効果及び甲第6?8号証の記載から、当業者が予測し得たものである。
したがって、本件特許発明の効果についての被請求人及び参加人の主張は受け入れられない。


ク 小括
以上のとおり、本件訂正発明1?3についての特許は、請求人の主張する無効理由1によって無効にすべきものである。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張する無効理由2の論旨は以下のとおりである。

ア 本件訂正発明1の発明特定事項のうち、「鼻腔内に投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」について、本件明細書には、具体的な処方および製造方法は一切記載されていない。本件特許公報第8頁右欄第4行以降の臨床試験に関する説明によれば、その“A.臨床的評価”の項において、「各患者に、モメタゾンフロエートの水性懸濁液又はプラセボのいずれかを・・・与えた。」とし、その臨床試験結果を表2に示しているが、本件訂正発明に係るモメタゾンフロエートの水性懸濁液に関して、具体的にどのような処方からなる組成物が使用され得るかについては一切記載されていない。特に、「鼻腔内投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する製剤」において鼻腔内に投与される当該懸濁液の(i)懸濁安定性、(ii)再分散性、(iii)粘膜滞留性および(iv)鼻粘膜刺激性に大きな影響を与え得る懸濁剤について、本件明細書は「懸濁剤(例えば、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース」(本件特許公報第4頁右欄第43?45行)と記載するのみで、どの懸濁剤をどのような場合に選択すべきかについて、また、当該水性懸濁液のどの特性(例えば粘度等)についてどのような値を目標にして製造すべきかについて具体的な指針は存在しない。
従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の発明特定事項のうち、「鼻腔内に投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」の処方および製造方法を記載しておらず、当該薬剤をどのように製造することができるのか、具体的な記載がなく、本件明細書は、本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。(審判請求書28頁5行?29頁8行)

イ 本件明細書には、「国際特許出願番号PCT/US91/06249、特にモメタゾンフロエート一水和物およびそれを含有する水性懸濁液の調製に関する実施例1?5を参照のこと。」(本件特許公報第4頁右欄第37?39行)と記載されており、該国際特許出願に記載の実施例1?5に記載のものが本件訂正発明で用い得る組成物であるとも理解できる。この国際特許出願は甲第1号証の対応国際出願である。
それらの記載について検討すると、甲第1号証の実施例1?5(水性懸濁液を記載するのは、実施例3?5)のうち、鼻腔内に投与される水性懸濁液は実施例3が該当すると理解される。しかしながら、甲第1号証に記載の実施例では、懸濁安定性、再分散性、粘膜滞留性および鼻粘膜刺激性に大きな影響を与える懸濁剤としては、アビセルRC591(微結晶性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの混合物)の使用例しか示されておらず、本件明細書に記載される3種類の懸濁剤(微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)のうち、残りの懸濁剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロースや通常用いられるその他の公知の懸濁剤が同様に用い得るか否か定かでない。(審判請求書29頁9行?30頁9行)

ウ 本件訂正発明におけるモメタゾンフロエートの水性懸濁液において、懸濁剤を変更した比較実験(甲第11号証)の結果から、本件訂正発明1の発明特定事項のうち「鼻腔内に投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」について、甲第1号証の実施例に記載の方法に従って調製した場合には所望の水性懸濁液を調製することができたが、甲第1号証の実施例3で使用した懸濁剤(アビセル(Avicel)RC591)以外の懸濁剤を用いた場合には、所望の水性懸濁液が得られず、「鼻腔内に投与されるモメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」を製造するにあたって、少なくとも、どのような懸濁剤を選択すべきか、また、該懸濁剤を含む水性懸濁液の特性(例えばpHまたは粘度)についてどのような数値を目標にすべきか等の指針がない状況下では、本件訂正発明1を実施するにあたって、当業者にとって期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められる。
加えて、甲第1号証の実施例3に記載された組成や指針は、本件明細書に具体的に記載されたものではないから、本件明細書は、当業者が本件訂正発明1を実施するにあたって当業者に過度の負担を強いるものであると認められる。
上記事項は、本件の請求項1を引用する本件訂正発明2、3についても同様である。(審判請求書30頁10行?31頁21行)

エ 従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであるため、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。(審判請求書31頁22?24行、同頁32行?32頁2行)

(2)無効理由2についての当合議体の判断
ア 本件訂正発明1?3は、「モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、……鼻腔内に投与される、……薬剤。」を発明特定事項としているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その調製方法に関して、
「本発明の水性懸濁液組成物は、モメタゾンフロエートまたはモメタゾンフロエート一水和物(好ましくはモメタゾンフロエート一水和物)を水および他の薬学的に受容可能な賦形剤と混合することにより調製され得る。国際出願番号PCT/US91/06249、特にモメタゾンフロエート一水和物およびそれを含有する水性懸濁液の調製に関する実施例1?5を参照のこと。本発明の水性懸濁液、懸濁液1gあたり約0.01?10.0mg、好ましくは0.1?10.0mgのモメタゾンフロエート一水和物を含有する。本発明による水性懸濁液組成物は、特に、水、補助剤および/または1つ以上の賦形剤(例えば、懸濁剤(例えば、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキプロピル-メチルセルロース);湿潤剤(例えば、グリセリンおよびプロピレングリコール);pHを調節するための酸、塩基または緩衝物質(例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、およびクエン酸とリン酸緩衝液との混合物);界面活性剤(例えば、Polysorbate 80);ならびに抗微生物的保存剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、フェニルエチルアルコール、およびソルビン酸カリウム))を含有し得る。」(本件特許公報8欄33行?9欄3行)との記載があり、懸濁液組成物の具体的な処方及び具体的な調製条件は記載されていないものの、上記国際出願の実施例1?5を参照する旨は記載されている。

イ この記載で引用される「国際出願番号PCT/US91/0624」は、国際出願番号を示すものであって国際公開公報の番号を示すものではない。しかし、国際出願の明細書、特許請求の範囲及び図面が国際公開公報に掲載されること、及び、国際公開公報が日本語以外の言語で記載されている場合にはその翻訳文が公表特許公報に掲載されること、並びに、国際出願番号に対応する国際公開公報及び公表特許公報を検索する手法は、いずれも広く知られており、当業者は「国際出願番号PCT/US91/0624」に対応する国際公開公報が国際公開92/04365号であり、その翻訳文を掲載した公表特許公報が特表平5-506667号公報であることを把握できるから、「国際出願番号PCT/US91/0624」の内容を特表平5-506667号公報(甲第1号証)の記載によって知ることができるといえる。
そこで、以下において、甲第1号証の実施例1?5について検討する。

甲第1号証の実施例1は、記載事項(甲1-d)のとおり、水性懸濁液に関するものではなく、本件訂正発明に係る懸濁液組成物の具体的な処方及び具体的な調製条件を示すものとは認められない。
甲第1号証の実施例2は、記載事項(甲1-e)のとおり、水性懸濁液に関するものではなく、本件訂正発明に係る懸濁液組成物の具体的な処方及び具体的な調製条件を示すものとは認められない。
甲第1号証の実施例4は、記載事項(甲1-g)のとおり、「懸濁剤アビセルRC-591を用いずに」製造されたX線回折実験用の水性懸濁液に関するものであり、本件訂正発明に係る懸濁液組成物の具体的な処方及び具体的な調製条件を示すものとは認められない。
これに対し、甲第1号証の実施例3は、記載事項(甲1-f)に「以下にしたがって、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液を製造した。」とあることから、フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液に関するものと認められる。そして、前記1(2)ウに示したように、当業界において「フランカルボン酸モメタゾン」は「モメタゾンフロエート」の同義語であり、また、甲第1号証にいう「フランカルボン酸モメタゾン一水和物」は本件訂正発明にいう「モメタゾンフロエート」に相当し、甲第1号証にいう「鼻腔投与用水性懸濁液」は、本件訂正発明にいう「水性懸濁液を含有する薬剤であって、……鼻腔内に投与される……薬剤」に相当すると認められるから、甲第1号証の実施例3には、本件訂正発明にいう「モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、……鼻腔内に投与される、……薬剤。」に該当するものが記載されていると当業者は理解することができる。
ここで、甲第1号証の実施例3に示された鼻腔投与用水性懸濁液は、記載事項(甲1-f)のとおり、「アビセル(Avicel)RC591」(微晶質性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの混合物についてのFMCの商標)を含むものであって、当業者は記載事項(甲1-f)に記載された製造方法に従って、上記鼻腔投与用水性懸濁液を製造することができ、また、記載事項(甲1-g)により、この「アビセル(Avicel)RC591」は懸濁剤として用いられたものと理解することができる。
また、甲第1号証の実施例5は、記載事項(甲1-h)に「これらの組成物は、実施例3に記載の方法にしたがって製造した。」と記載されていることから、甲第1号証の実施例3と同様に、記載事項(甲1-f)に記載された製造方法に従って製造された鼻腔投与用水性懸濁液であると当業者が理解することができ、また、記載事項(甲1-g)により、その鼻腔投与用水性懸濁液に含まれる「アビセル(Avicel)RC591」は懸濁剤として用いられたものと理解することができる。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には「懸濁剤(例えば、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキプロピル-メチルセルロース)」(本件特許公報8欄43?45行)(なお「ヒドロキプロピル-メチルセルロース」は「ヒドロキシプロピル-メチルセルロースの誤記と認める。)との記載があり、記載事項(甲1-f)に「アビセル(Avicel)RC591」が微晶質性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムの混合物であることが示されていることを踏まえると、本件訂正発明の薬剤は、懸濁剤として、「アビセル(Avicel)RC591」の他、ここに例示されるヒドロキシプロピル-メチルセルロースや鼻腔投与用水性懸濁液に通常用いられる懸濁剤を用いることで製造できると、当業者は理解することができる。
また、懸濁剤として「アビセル(Avicel)RC591」以外の鼻腔投与用水性懸濁液に通常用いられる懸濁剤を用いて製造される鼻腔内投与用水性懸濁液の懸濁安定性および粘膜滞留性等の特性が、懸濁剤として「アビセル(Avicel)RC591」を用いた場合に比してある程度劣るとしても、薬剤の粘度がある程度確保されていれば鼻腔内に滞留することは明らかであるから、鼻腔投与用薬剤についての技術常識に照らして、本件訂正発明の医薬としての有用性を当業者は理解することができる。

ウ してみると、「アビセル(Avicel)RC591」以外の鼻腔投与用水性懸濁液に通常用いられる懸濁剤を用いる場合の本件訂正発明について、所期の特性を有する鼻腔投与用水性懸濁液を含有する薬剤を調製するための懸濁剤の種類及び配合量並びに調製条件は、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者に期待される程度を超える試行錯誤を要さず決定できるといえる。

エ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が本件訂正発明に係る医薬としての有用性を有する薬剤を生産し、使用することができる程度に記載されている。

オ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1?3について請求人の主張する無効理由2は理由がない。

第5 結び
以上のとおり、本件訂正発明1?3についての特許は、請求人の主張する無効理由1によって無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加によって生じた費用を含めて被請求人及びその参加人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって、1日1回鼻腔内に投与される、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。
【請求項2】前記1日1回の投与量が100?200マイクログラムであり、未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】前記薬剤が、季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのものであり、前記1日1回の投与量が200マイクログラムである、請求項1または2に記載の薬剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-11-19 
結審通知日 2018-11-21 
審決日 2018-12-05 
出願番号 特願平7-520074
審決分類 P 1 113・ 536- ZAA (A61K)
P 1 113・ 121- ZAA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 前田 佳与子
村上 騎見高
登録日 2003-10-10 
登録番号 特許第3480736号(P3480736)
発明の名称 気道流路および肺疾患の処置のためのモメタゾンフロエートの使用  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 今井 優仁  
代理人 乾 裕介  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 田村 恭生  
代理人 中岡 起代子  
代理人 乾 裕介  
代理人 品川 永敏  
代理人 内山 務  
代理人 植村 昭三  
代理人 坂田 啓司  
代理人 今井 優仁  
代理人 内田 俊生  
代理人 中岡 起代子  
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