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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 E02D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 E02D 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E02D |
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管理番号 | 1368463 |
審判番号 | 無効2019-800047 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-07-10 |
確定日 | 2020-07-27 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4846378号発明「基礎杭と建造物の支柱との接合構造およびそれに使用する基礎杭」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4846378号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。 平成18年 2月 3日 本件出願(特願2006-27730号) 平成23年10月21日 設定登録(特許第4846378号) 令和 1年 7月10日付け 本件無効審判請求書 令和 1年 8月 6日付け 請求書副本の送達通知・答弁指令 令和 1年10月12日付け 審判事件答弁書 令和 1年10月18日付け 証拠説明書(被請求人) 令和 1年11月 1日付け 審理事項通知書 令和 1年12月20日付け 口頭審理陳述要領書(請求人) 令和 1年12月20日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人) 令和 2年 1月16日 口頭審理 令和 2年 1月21日差出 証拠説明書(請求人) 令和 2年 1月28日付け 上申書(被請求人) 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件特許発明1」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に下半身に螺旋リブを備える基礎杭であって、 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備え、 該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行い、前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなることを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造。 【請求項2】 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に等間隔を隔てて10個開設されてなると共に、前記取付板に設けた長孔は前記支柱を挟み対向状に2個開設されてなることを特徴とする請求項1記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造。 【請求項3】 請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基礎杭であって、 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に下半身に螺旋リブを備え、 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備えてなることを特徴とする基礎杭。 【請求項4】 請求項2に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基礎杭であって、 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に等間隔を隔てて10個開設されてなることを特徴とする基礎杭。」 第3 請求人の主張 請求人は、審判請求書において、「特許第4846378号の請求項1乃至4に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証を提出している(審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審理調書参照。)。 1 無効理由の概要 (1)新規性(第1の無効理由及び第2の無効理由) 本件特許発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (2)進歩性(第3の無効理由?第6の無効理由) 本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3号証?甲第7号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (3)サポート要件違反(第7の無効理由) 本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものを超えて規定されており、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 (審判請求書第2頁第16行?第4頁第3行。なお、空白行は行数に数えない。以下同様。) 2 証拠方法 提出された証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証 :特開2005-48537号公報 甲第2号証 :被請求人が東京税関長宛てに提出した「専門委員意見照会 陳述要領書」令和元年6月3日付け 甲第3号証 :特開昭54-66506号公報 甲第4号証 :特開昭60-102421号公報 甲第5号証 :特開昭62-296011号公報 甲第6号証 :特開2017-74637号公報 甲第7号証 :サンキンB&G株式会社ホームページ(タッピングパイル) (甲第2号証に記載している添付資料1) 3 具体的な主張 (1)第1の無効理由(本件特許発明1の新規性)について(審判請求書第4?17行、第5頁下から8行?第6頁下から6行、第8頁15行?第15頁第12行、口頭審理陳述要領書第2頁第8行?第7頁下から2行) ア 本件特許発明1について 本件特許発明1の構成要件は分説すると以下のようになる。 本件特許発明1 A1 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に B1 下半身に螺旋リブを備える基礎杭であって、 C1 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔て て開設される複数の長孔を備え、 D1 該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設さ れる長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向 状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱と の芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行い、 前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなる E1 ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造。 (審判請求書第4頁第4?17行、第) イ 甲第1号証(以下「甲1」という。他の甲号証についても同じ。)に記載された発明について (ア)甲1に記載された発明 甲1の段落【0008】には、以下の発明が記載されている。 「杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとにボルトを通す孔が備えられ、各孔は長孔からなり、杭側ベースプレートの長孔と柱側ベースプレートの長孔とは交差する方向を向き、長孔交差部を通じてボルトが通され、該ボルトで前記ベースプレート同士が連結されていることを特徴とする杭と柱のボルト連結構造」(審判請求書第8頁下から4行?第9頁第3行、口頭審理陳述要領書第6頁第17?21行) (イ)甲1に記載された事項 a 甲1に記載された発明が解決する課題は、その段落【0004】に、以下のとおり記載されている。 「本発明は、上記のような問題点に鑑み、部材が二次元方向に相対的にずれてもそのずれを吸収して部材同士をボルトで連結することができ、しかも、想定されるずれ量が大きい場合でもボルト頭部やナットのかかり具合を良好なものにして部材同士をしっかりと連結することができる部材同士のボルト連結構造を提供することを課題とする。」 そして、甲1の段落【0008】には、以下の発明が記載されている。 「杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとにボルトを通す孔が備えられ、各孔は長孔からなり、杭側ベースプレートの長孔と柱側ベースプレートの長孔とは交差する方向を向き、長孔交差部を通じてボルトが通され、該ボルトで前記ベースプレート同士が連結されていることを特徴とする杭と柱のボルト連結構造」 当該発明がもたらす作用効果は、甲1の段落【0009】に、以下のとおり記載されている。 「この構造は、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとの連結に本発明を適用したもので、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとが水平二次元方向に相対的にずれても、そのずれを、交差する組の長孔が吸収し、ボルトを両ベースプレートのボルト通孔に通すことができて両ベースプレートをボルトで連結することができる。」 更に、同段落【0009】には、「ずれ量」と「長孔の長さ」との関係について、以下の記載がなされている。 「しかも、想定されるずれ量が大きい場合には、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによってそのようなずれを吸収することができ、そうしたからといってボルト頭部やナットのかかり具合が悪くなるというようなこともなく、ベースプレート同士をボルトでしっかりと連結することができる。」 そして、甲1の図4及び図5には、杭頭ベースプレート3が、杭1の径方向中心から伸びる放射線状に90°毎の間隔を隔てて開設された4本の長孔3a(及び更に縦横2本ずつの長孔3a)を備える一方で、柱側ベースプレート4aが、対向状に開設される2対の斜めの長孔4a(及び更に横縦2本ずつの長孔4a)を有する、という構成例が明示されている。 そして、甲1の図4及び図5に示す両ベースプレート3、4は、甲1の図6に記載され甲1の段落【0020】に説明されているとおり、「水平二次元方向の相対的なずれに対し、」そのずれを、交差する組の長孔が吸収している。 すなわち、甲1には、杭頭ベースプレート3の長孔3aと柱側ベースプレート4に対向状に開設された長孔4aとにより、4本の放射線状に開設された長孔3aと対向状に開設された長孔4aとの重合範囲において、基礎杭1と柱2との芯ズレ調整を行い、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4をボルト5にて固定することが記載されている。(審判請求書第8頁第15行?第11頁最下行) b 甲1の図4及び図5には、杭頭ベースプレート3が、杭1の径方向中心から伸びる放射線状に90°毎の間隔を隔てて開設された4本の長孔3a(及び更に縦横2本ずつの長孔3a)を備える一方で、柱側ベースプレート4が、対向状に開設される2対の斜めの長孔4a(及び更に横縦2本ずつの長孔4a)を有する、という構成例が明示されている。(口頭審理陳述要領書第5頁第7?12行) (ウ)甲1の記載から当業者が理解する事項 a 甲1の段落【0021】には、「長孔の向き」に関して、以下の記載がなされている。 「以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、本発明では、ベースプレートに形成するボルト孔の数や位置、向きに制限はなく、種々の数のボルト孔が種々の位置に種々の方向に向けられて形成されていてよい。また、上記の実施形態では、杭頭ベースプレート3の長孔3a…と柱側ベースプレート4の長孔4a…とが直交して交差するようにした場合を示しているが、直交しないで交差するようにしてもよい。」 この記載により、当業者は、図4及び図5の杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4について、図6に示すような平行移動によって「ずれ」を吸収する態様に限定されず、長孔3a、4a同士が直交しないで交差するように、すなわち、下記の図に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とを互いに対して傾斜するように移動してもよい(これにより周方向の取付角度調整をも行うことができる)ことを理解する。 (審判請求書第12頁第1?16行) b 甲1の段落【0022】には、「また、上記の実施形態では、本発明を杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとのボルト連結構造に適用した場合を示しているが、本発明は、二次元方向の相対的なずれを生じるような部材同士のボルトによる連結構造として広く用いることができるものである。もちろん、三次元方向の相対的なずれを生じるような場合に、そのうちの二次元方向の相対的なずれを吸収する構造として採用することもできる。」と明記されている。(口頭審理陳述要領書第2頁下から8行?最下行) c 「三次元方向の相対的なずれ」には、「x軸方向に平行移動したずれ」、「y軸方向に平行移動したずれ」、「z軸方向に平行移動したずれ」、「x軸方向周りに回転移動したずれ」、「y軸方向周りに回転移動したずれ」、及び、「z軸方向周りに回転移動したずれ」の6種類があることは、一般的な理系の教養を備えた技術者にとって、周知の事項である。 そして、z軸方向の移動が規制された「二次元方向の相対的なずれ」には、「x軸方向に平行移動したずれ」、「y軸方向に平行移動したずれ」、及び、「z軸方向周りに回転移動したずれ」の3種類があることも、一般的な理系の教養を備えた技術者にとって、周知の事項である。 すなわち、「本発明は、二次元方向の相対的なずれを生じるような部材同士のボルトによる連結構造として広く用いることができるものである。」とは、「本発明は、「x軸方向に平行移動したずれ」、「y軸方向に平行移動したずれ」及び「z軸方向周りに回転移動したずれ」を生じるような部材同士のボルトによる連結構造として広く用いることができるものである。」との意味であることが、当業者にとっては明らかである。 このことは、例えば甲6からも確認できる。(口頭審理陳述要領書第3頁第1?22行) d 甲1には、回転方向のズレを吸収する構造が開示されていることは明らかである。(口頭審理陳述要領書第5頁第4?6行) (エ)上記(ウ)aの点は、本件特許権者も認めるところである。本件特許権者は、令和元年6月3日に東京税関長に提出した「専門委員意見照会 陳述要領書」(甲2)4頁下から5行?5頁1行において、以下のとおり記載している。 「また、第2実施形態は、図4?6に記載されているとおり、杭頭ベースプレートの「四隅」に斜めの長孔及び一辺とその対向辺とに平行となるように、比較的短い長孔を4個、全部で8個の長孔を設けており、柱側ベースプレートには、杭頭ベースプレートの「四隅」及びその間に設けた8個の長孔と直交する位置に同形の長孔を設けて、それらが重合する範囲(図5(ハ-1)(ハ-2)及び図6参照)において、上下左右及び回転方向の位置調整を行うというものです。」(審判請求書第13頁第1?11行、口頭審理陳述要領書第2頁第9?12行、第4頁下から11行?第5頁第3行、第7頁第16行?下から2行) (オ)「長孔の組」について 甲1に記載された発明によってもたらされる作用効果については、段落【0009】に、 「この構造は、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとの連結に本発明を適用したもので、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとが水平二次元方向に相対的にずれても、そのずれを、交差する組の長孔が吸収し、ボルトを両ベースプレートのボルト通孔に通すことができて両ベースプレートをボルトで連結することができる。」と記載されている。 被請求人は、甲1発明において協働する「長孔の組」について、「一対一に対応して固定する」「取付板の長孔と基板の長孔は対応する長孔にて固定される」という限定を加えて解釈しているが、甲1にはこのような限定は何ら開示されておらず、何ら根拠のない解釈であり、失当という他ない。ずれの量に応じて、長孔を長くした場合、協働する「長孔の組」を切り替えることは、当業者にとって当然に選択され得る事項である。 (念のため、ずれの量と長孔の長さとの関係については、段落【0009】に 「しかも、想定されるずれ量が大きい場合には、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによってそのようなずれを吸収することができ、そうしたからといってボルト頭部やナットのかかり具合が悪くなるというようなこともなく、ベースプレート同士をボルトでしっかりと連結することができる。」 と記載されている)。(口頭審理陳述要領書第6頁第16行?第7頁第15行) ウ 本件特許発明1と甲1に記載された発明との対比 A1 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板(杭頭ベースプレート3) を備える基礎杭(杭1)であって、 C1 前記基板(杭頭ベースプレート3)は前記基礎杭の径方向中心から伸 びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔(放射線状の4本 の長孔3a)を備え、 D1 該長孔(放射線状の4本の長孔3a)と前記建造物の支柱下部に取り 付けた取付板(柱側ベースプレート4)に対向状に開設される長孔( 2対の斜めの長孔4a)とにより、前記複数の放射線状に開設される 長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎 杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角 度調整を行い、前記基板と前記取付板を締結部材(ボルト5)にて固 定してなる E1 ことを特徴とする基礎杭(杭1)と建造物の支柱(柱2)との接合構 造。 すなわち、両者は、構成要件A1、C1、D1、E1において一致する。 一方で、 B1 下半身に螺旋リブを備える基礎杭 については、 基礎杭として、直管タイプと、螺旋リブ付タイプと、の両タイプが存在することは、本件特許出願日のずっと前から、当業者にとって周知の技術事項である(螺旋リブ付きタイプについては、甲3?甲5)。 そして、甲1の杭(1)がその下半身に螺旋リブを備えることについて、何らの阻害事由も存在しない。 念のため、甲1の段落【0002】に記載された「地面に打ち込まれた鋼管杭」という表現について補足すれば、螺旋リブ構造の基礎杭であっても地面に打ち込まれるタイプのものがある(甲4、甲5)。 従って、構成要件B1も一致点である。 (審判請求書第14頁第2行?第15頁第10行) エ 以上説明したように、本件特許発明1は、甲1に記載された発明である。(審判請求書第15頁第11?12行) (2)第2の無効理由(本件特許発明3の新規性)について(審判請求書第4頁最下行?第5頁第10行、第7頁第7行?第8頁第4行、第15頁第15行?第16頁第13行) ア 本件特許発明3の構成要件 本件特許発明3の構成要件は分説すると以下のようになる。 本件特許発明3 A3 請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基 礎杭であって、 B3 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に C3 下半身に螺旋リブを備え、 D3 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔て て開設される複数の長孔を備えてなる E3 ことを特徴とする基礎杭。 (審判請求書第4頁最下行?第5頁第10行) イ 本件特許発明3と甲1に記載された発明との対比 A3 請求項1に記載の基礎杭(杭1)と建造物の支柱(柱2)との接合構 造に使用される基礎杭であって、 B3 杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板(杭頭ベースプレート3) を備える基礎杭(杭1)であって、 D3 前記基板(杭頭ベースプレート3)は前記基礎杭の径方向中心から伸 びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔(放射線状の4本 の長孔3a)を備えてなる E3 ことを特徴とする基礎杭(杭1)。 すなわち、両者は、構成要件A3、B3、D3、E3において一致する。 一方で、 C3 下半身に螺旋リブを備える基礎杭 については、第1の無効理由についての項で説明したとおり、構成要件C3も一致点である。 (審判請求書第14頁第14行?第15頁第7行) ウ 以上説明したように、本件特許発明3は、甲1に記載された発明である。(審判請求書第16頁第8?9行) (3)第3の無効理由(本件特許発明1の進歩性)について(審判請求書第16頁第10?15行) 本件特許発明1における構成要件B1(「下半身に螺旋リブを備える基礎杭」)について、甲1には記載されていない、との認定が成立し得るとしても、該構成要件B1は単なる周知事項の付加に過ぎない。 従って、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明することができたものである。 (審判請求書第16頁第10?15行) (4)第4の無効理由(本件特許発明3の進歩性)について(審判請求書第16頁第16?21行) 本件特許発明3における構成要件C3(「下半身に螺旋リブを備える基礎杭」)について、甲1には記載されていない、との認定が成立し得るとしても、該構成要件C3は単なる周知事項の付加に過ぎない。 従って、本件特許発明3は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明することができたものである。 (審判請求書第16頁第16?21行) (5)第5の無効理由(本件特許発明2の進歩性)について(審判請求書第4頁下から9行?下から2行、第6頁下から5行?第7頁第6行、第16頁第22行?第18頁第6行) ア 本件特許発明2の構成要件 本件特許発明2の構成要件は分説すると以下のようになる。 本件特許発明2 A2 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなると共に、 B2 前記取付板に設けた長孔は前記支柱を挟み対向状に2個開設されてな る C2 ことを特徴とする請求項1記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造 。 (審判請求書第4頁下から9行?下から2行) イ 本件特許発明2と甲1に記載された発明との対比 (ア)一致点 B2 前記取付板に設けた長孔は前記支柱を挟み対向状に2個開設されてな る C2 ことを特徴とする請求項1記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造 。 (イ)相違点1 A2 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなる点 (審判請求書第16頁下から3行?第17頁第9行) ウ 相違点1(構成要件A2)を得ることの容易性 相違点1がもたらす効果については、本件明細書の段落【0019】で説明されている。しかしながら、当該効果の内容を検討しても、甲1に記載乃至示唆された発明と比較して優れた効果であるとは認められない。 更に、甲1の【0021】には、以下の記載がなされている。 「以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、本発明では、ベースプレートに形成するボルト孔の数や位置、向きに制限はなく、種々の数のボルト孔が種々の位置に種々の方向に向けられて形成されていてよい。」 以上の事項を考慮すれば、相違点1(構成要件A2)は、甲1が示唆する「各種の変更」の範囲内の、単なる設計的事項である。従って、甲1に基いて相違点1を得ることは、容易である。 (審判請求書第17頁第10行?第18頁第3行) エ 本件特許発明2は、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。 (審判請求書第18頁第4?6行) (6)第6の無効理由(本件特許発明4の進歩性)について(審判請求書第5頁第11?19行、第8頁第5?14行、第18頁第7行?第19頁第17行) ア 本件特許発明4の構成要件 本件特許発明4の構成要件は分説すると以下のようになる。 本件特許発明4 A4 請求項2に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基 礎杭であって、 B4 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなる C4 ことを特徴とする基礎杭。 (審判請求書第5頁第11?19行) イ 本件特許発明4と甲1に記載された発明との対比 (ア)一致点 A4 請求項2に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基 礎杭であって、 C4 ことを特徴とする基礎杭。 (イ)相違点2 B4 前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなる点。 (審判請求書第18頁第8?20行) ウ 相違点2(構成要件B4)を得ることの容易性 相違点2がもたらす効果については、本件明細書の段落【0021】で説明されているが、当該効果の内容を検討しても、甲1に記載乃至示唆された発明と比較して優れた効果であるとは認められない。 更に、甲1の【0021】には、以下の記載がなされている。 「以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、本発明では、ベースプレートに形成するボルト孔の数や位置、向きに制限はなく、種々の数のボルト孔が種々の位置に種々の方向に向けられて形成されていてよい。」 以上の事項を考慮すれば、相違点2(構成要件B4)は、甲1が示唆する「各種の変更」の範囲内の、単なる設計的事項である。従って、甲1に基いて相違点2を得ることは、容易である。 (審判請求書第18頁第21行?第19頁第14行) エ 本件特許発明4は、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。 (審判請求書第19頁第15?17行) (7)第7の無効理由(サポート要件違反)について(審判請求書第19頁第18行?第22頁第13行、口頭審理陳述要領書第7頁最下行?第9頁第21行) ア 本件特許発明1?4の作用効果については、本件明細書には次のとり記載されている。 「請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造にあっては、基礎杭の基板に放射線状に複数の長孔が開設されているので、支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設された長孔と重合する範囲において、芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行って、締結固定することができ、前記基礎杭が芯ズレを起こして埋設された場合や基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができる。」 「請求項3に記載の基礎杭にあっては、基礎杭の基板に複数の長孔が開設されているので、支柱下部に取り付けた取付板に設けた長孔と重合する範囲において、芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行って、締結固定することができ、前記基礎杭が芯ズレを起こして埋設された場合や基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができる。」 以上の記載から、本件特許発明1?4における「支柱の周方向における取付角度調整」は、基礎杭が固定され得る角度範囲の全体に亘って取付角度調整が可能、の意味であると理解される。(審判請求書第19頁第18行?第20頁第11行) イ しかしながら、本件特許発明1?4には、そのような作用効果を奏するために必須の構成要件(それを満たしたならば当該作用効果が得られるという条件)が十分に規定されていない。(審判請求書第20頁第12?15行) ウ 一方で、発明の詳細な説明の欄には、杭頭部の基板に関し、中心から放射線状にそれぞれ36°の間隔を隔てて10個の長孔16aが開設された基板16が唯一開示されているのみである(本願の図4)。 当該基板16が、本願の図6(a)に記載された形状の長孔22aを有する取付板20との組合わせにおいて「360°に亘って取付角度調整が可能である」ことは、本願の図7乃至図9等を参照することで理解が及ぶところである。 しかしながら、例えば「360°に亘って取付角度調整が可能である」という作用効果を得るために、基板16及び取付板20のそれぞれに対して、どのような修正ないし変更が許容されるのかについては、何ら開示がない。 すなわち、発明の詳細な説明の欄に開示された発明は、本願図4に開示された基板16と本願図6(a)に開示された取付板20との組み合わせのみであって、「基礎杭が固定され得る角度範囲(360°であるのか否かも不明)に亘って取付角祖調整が可能である」(課題を解決する)ために、如何なる一般化ないし拡張が可能であるのか、当業者は発明の詳細な説明の欄の記載から何らの認識をも得ることができない。(審判請求書第20頁第19行?第22頁第3行) エ 「360度に亘って取付角度調整が可能である」ことについて 被請求人は、「本件特許においては、請求人が主張するような「360度に亘って取付角度調整が可能である」という作用効果は、一切記載していない。」と主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0018】には、「請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造によれば、・・・基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができる。」と記載されており、また、本件特許明細書の段落【0020】には、「請求項3に記載の基礎杭によれば、・・・基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができる。」と記載されていることから、被請求人による当該主張は、明らかに失当である。(口頭審理陳述要領書第7頁最下行?第8頁第11行) オ 本件特許明細書には、以上に示した甲1の開示内容を超える技術事項を、何ら明確に提示していない。 本件特許発明の作用効果は、上記エにおいて説明した通り、360度に亘って取付角度調整が可能(周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても取付角度調整が可能)であると明記されているが、どのような「構成」を採用すれば、そのような作用効果を得られるのか、について、本件特許明細書には何ら明確な開示がない。 換言すれば、本件特許明細書は、360度に亘って取付角度調整が可能(周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても取付角度調整が可能)であれば有用であることは示しているが、そのような作用効果を得るために「放射線状の長孔の数、位置、大きさ」をどう設計する必要があるのか、そして「対向状の長孔の位置、大きさ」をどう設計する必要があるのか、何ら新しい技術思想を提示していない。(口頭審理陳述要領書第9頁第4?21行) 第4 被請求人の主張 1 被請求人は、審判事件答弁書において、「本件特許無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張している(審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理調書、上申書参照。)。 (1)新規性(第1の無効理由及び第2の無効理由)について 甲1に記載の発明は、本件各特許発明が具備する、基板に「径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備え」るという発明特定事項等を備えておらず、同一の発明ではない。 したがって、請求人の第1の無効理由及び第2の無効理由における主張には理由がない。(答弁書第2頁第12?17行) (2)進歩性(第3の無効理由乃至第6の無効理由)について 甲1に記載の発明は、本件各特許発明が具備する、基板に「径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備え」という発明特定事項等を備えておらず、また、前記発明特定事項を充足する証拠物件も提出されていない。 したがって、請求人の第3の無効理由乃至第6の無効理由における主張には理由がない。(答弁書第2頁第18?24行) (3)サポート要件違反(第7の無効理由)について 本件特許において、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されており、サポート要件は具備している。 特に、本件発明の技術分野においては、物の有する機能とその物の構造との関係を理解することが比較的容易な技術分野であり、発明の詳細な説明に記載された具体例から拡張ないし一般化できる範囲は比較的広範であると解され、本件特許においては、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができる。 したがって、請求人の第7の無効理由における主張には理由がない。 (答弁書第2頁最下行?第3頁第9行) 2 証拠方法 提出された証拠は、以下のとおりである。 乙第1号証 :新村出編「広辞苑 第5版」岩波書店、 1998年11月11日、「ほうしゃ【放射】」の欄 乙第2号証 :新村出編「広辞苑 第5版」岩波書店、 1998年11月11日、「しほう【四方】」の欄 乙第3号証 :特許庁「特許実用新案 審査基準」第II部第2章第2節 「サポート要件」の欄 乙第4号証 :実開昭50-29705号公報及び実願昭48-82398 号(実開昭50-29705号)のマイクロフィルム 乙第5号証 :実開平3-115147号公報及び実願平2-22635号 (実開平3-115147号)のマイクロフィルム 乙第6号証 :特許第6475103号公報 乙第7号証 :特開2009-2063号公報 3 具体的な主張 (1)第1の無効理由(本件特許発明1の新規性)について(審判事件答弁書第3頁下から8行?第4頁第6行、第5頁第2?16行、第6頁第8行?第16頁第13行、口頭審理陳述要領書第2頁第1行?第5頁下から5行、第7頁第1行?第9頁第22行) ア 本件特許発明1の要旨 【請求項1】 A1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に A2:下半身に螺旋リブを備える基礎杭であって、 B1:前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔て て開設される複数の長孔を備え、 B2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設さ れる長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向 状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱と の芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行い、 前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなる ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造(X1)。 (審判事件答弁書第3頁下から8行?第4頁第6行、第14頁下から10行?第15頁第5行) イ 請求人が主張する甲1に記載された発明の構成は、明細書及び図面の記載に基づくものではなく、失当である。(審判事件答弁書第6頁第10?11行) ウ 甲1に記載された発明 甲1に記載された発明(第2実施形態)の要旨は、明細書及び図面に記載のとおり、以下のものである。 a1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する平面視方形の基板を備える基礎 杭であって、 b1:前記基板は縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔を備え、 b2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた平面視方形の取付板に開 設される、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差する ように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と 前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎 杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整し、前記基板 と前記取付板を締結部材にて固定してなる ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1)。 (審判事件答弁書第8頁下から8行?第9頁第5行、第15頁第6?17行) エ 甲1の記載 (a)甲1に記載された発明の課題 甲1に記載された発明の課題は、 「【0002】 例えば、地面に打ち込まれた鋼管杭の杭頭ベースプレートと、柱の下端のベースプレートとをボルトで連結するような場合、杭頭ベースプレートのボルト孔と柱側ベースプレートのボルト孔とを完全に一致させるのは難しく、水平二次元方向にずれてしまうため部材が二次元方向に相対的にずれてもそのずれを吸収して部材同士をボルトで連結することができ、しかも、想定されるずれ量が大きい場合でもボルト頭部やナットのかかり具合を良好なものにして部材同士をしっかりと連結することができる部材同士のボルト連結構造を提供すること」である。 (b)甲1に記載された発明の構成 そして、甲1に記載された発明は、前記課題を解決するため、 「【0008】 ・・・杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとにボルトを通す孔が備えられ、各孔は長孔からなり、杭側ベースプレートの長孔と柱側ベースプレートの長孔とは交差する方向を向き、長孔交差部を通じてボルトが通され、該ボルトで前記ベースプレート同士が連結されていることを特徴と・・」し、前記杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とは、いずれも「平面視方形」(【0012】、図1乃至図6)の形状から構成され、 請求人が引用する第2実施形態に示されるボルト連結構造(図4乃至図6)における、前記長孔の構成は、 「【0020】 図4及び図5に示す第2実施形態では、杭頭ベースプレート3に備えられた複数の長孔3a…が縦横斜めと異なる方向に向けられ、それに応じて柱側ベースプレート4の長孔4a…も杭頭ベースプレート3の長孔3a…と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に向けられている。・・・」 「【0020】 ・・・そして、図6に示すように、両ベースプレート3,4は、それらの水平二次元方向の相対的なずれに対し、対応する長孔3a,4aが十字状、T字状、L字状に交差し、該交差部にボルト5… が通されることでボルト5…により連結されている。その他は、上記の実施形態と同様である。」 と記載されている。 また、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とは、いずれも「平面視方形」(【0012】、図1乃至図6)の形状から構成される旨、記載されている。(審判事件答弁書第6頁第12行?第8頁第9行) オ 本件特許発明1と甲1に記載された発明の一致点 A1、a1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備え B1、b1:前記基板は複数の長孔を備え、 B2、b2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に開設さ れる長孔とにより、長孔との重合範囲において、前記基礎杭 と前記支柱との水平二次元方向の相対的ズレの調整を行い、 前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなる ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造(X1、x1)。 (審判事件答弁書第9頁第7?15行) カ 本件特許発明1と甲1に記載された発明の相違点 本件特許発明1と甲1に記載された発明とは、その構成において下記の点で相違する。 ・相違点1:本件特許発明1が、下半身に螺旋リブを備える基礎杭であるの に対して、甲1に記載された発明は、そのような記載がない点 (A1、a1)。 ・相違点2:本件特許発明1の基板の長孔は、基板の径方向中心から伸びる 放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔であるのに対し て、 甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方 向に向けられた複数の長孔である点(B1、b1)。 ・相違点3:本件特許発明1が、該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付け た取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複数の放射 線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合 範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前 記支柱の周方向における取付角度調整を行うのに対して、 甲1に記載された発明は、基板に開設された縦横斜めと異な る方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に対応して 、前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に 開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ 対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との 水平二次元方向の相対的なずれを調整を行う点(B2、b2) 。) (審判事件答弁書第9頁第16行?第10頁第8行、第15頁第18行?第16頁12行) キ 相違点1について (ア)甲1に記載された発明は、基礎杭については、単に「地面に打ち込まれた鉄鋼管」(甲1、【0002】)とあり、また、基板及び取付板とも、平面視方形であり(甲1、【0012】)、その水平二次元方向(甲1、【0009】、【0010】、【0018】、【0020】)の相対的なずれを調整するものであって(甲1、【0010】)、その相対的ずれは、〇1(当審注:〇1は、〇の中に1。他の数字も同じ。) 図面左右方向にずれる場合(甲1、【0015】、図3(イ-1)(イ-2))、〇2 図面斜め方向にずれる場合(甲1、【0016】、図3(ロ-1)(ロ-2))、〇3 図面上下方向にずれる場合(甲1、【0017】、図3(ハ-1)(ハ-2))の記載があり、それらのズレを総括して、「このように、・・・水辺二次元方向にずれることがあっても、・・」(甲1、【0018】)と記載されており、図3の各図が全て、基板の取付位置と取付板の側面位置とが、同面に記載されており、基礎杭が回転するという記載、及び角度位置の調整の必要性については、一切触れられておらず、また、その示唆もない。 すなわち、甲1に記載された発明には、螺旋杭特有の課題である前記支柱の所定面を揃えることができるように、前記支柱の周方向における角度位置の調整を行うことができるという着眼は存在しない。したがって、この調整に必要とされる、構成、作用効果も一切の記載も示唆もない。(審判事件答弁書第11頁第4?21行) (イ)甲4に記載されている発明は「螺旋杭のねじ込み工法」に係るもので、請求人は、甲4第2頁下欄右第6行乃至第7行の「従来の螺旋杭の打ち込み工法」という記載に基づき、螺旋杭の施工工法にも「打ち込み」という場合があると主張しているが妥当ではない。甲4の「螺旋杭のねじ込み工法」の従来例の前提として第1頁右欄1行乃至6行には「基礎杭を打ち込むことが必須となっている」記載され、つづいて「従来行われていたハンマー式のものは」という記載があり、続けて記載されている従来例第1頁右欄7行乃至第2頁上欄左欄1行には、「・・・杭本体の外周に螺旋状の鍔を設けた杭を使用してこの杭を回転させると共に杭打機の圧入力によって基礎地盤中に埋設する手段・・杭に回転圧入・・その回転圧入に当たって・・・回転を与えながら圧入・・」という記載がされている。このことから、甲4第2頁下欄右第6行乃至第7行の「従来の螺旋杭の打ち込み工法」という記載は、誤記か勘違いによる記載と考えられ、この記載を理由とする主張は認めることはできない。 甲5に記載されている発明は、螺旋杭であるが第1頁左欄1行乃至4行の従来例の記載では「・・土砂を圧入しながらねじ込むことを可能とした螺旋杭・・」の記載がある。そして、本発明は、螺旋杭の頭部を逆円錐台状に形成した点に特徴があり(第2頁左欄4行乃至6)、この部分(頭部)をさらに埋設するための方法の一例として「打ち込み」と表現されているのであって、螺旋杭本体の施工としては、第2頁左欄8行乃至14行に記載されるように、「・・・回転方向側の・・・地盤中に食い込んでいく。」と記載されている。 したがって、このように杭の特殊な部分である頭部の埋設手段の記載を理由とする主張は認めることはできない。(口頭審理陳述要領書第5頁第1?24行) (ウ)口頭審理におきまして提出された甲7号証に係るサンキンB&G株式会社のHP中における「打ち込み」と表示されている部分につきましては、HP作成者の誤記でありましたので、スクリュー杭(螺旋杭)の設置の際の正しい表記である「回転圧入」にすべて修正致しました。(上申書第2頁第4?9行) 請求人の前記各甲号証に基づく主張は、被請求人の誤記に基づく主張であって、認められるものではありません。(上申書第2頁第15?16行) ク 相違点2について (ア)甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔であり、一方、本件発明の基板の長孔は、基板の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔である。 ここで、放射線状とは、一般に「中央の一点から四方八方に放出した形のもの」(乙第1号証(以下「乙1」という。他の乙証拠も同じ。)であり、「四方八方」とは「あちらこちら。あらゆる方向」(乙2)の意であり、すなわち、本件発明の基板の長孔は「中央の一点からあらゆる方向に放出した形」に形成されている。 甲1に記載された発明に記載された基板の長孔は、基板の四隅にのみ斜め方向に向けられた長孔(しかも基板の中央からは離れた位置において形成される構成)であって、本件発明の基板の長孔のように、「中央の一点からあらゆる方向に放出した形」の長孔については、記載も示唆もない。(審判事件答弁書第11頁下から5行?第12頁第7行) (イ)「発明思想の範囲」(甲第1号証【0021】)について 請求人は、引用発明の長孔の縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔のうち、斜め方向に向けられた長孔を、放射線条に間隔を隔てて開設される長孔であると強弁するのは、明細書の、「・・発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。・・」(【0021)との記載に基づく主張である(請求書第18頁16行乃至第19頁17行)が、この主張は不当である。 引用発明の「発明の思想」とは、前述のとおり、「課題である水平二次元方向(上下左右斜め)の相対的なずれの調整のため、基板の長孔を縦横斜め(又は縦横)と異なる方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差するように縦横斜め(又は縦横)と異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との水平二次元方向(上下左右斜め)の相対的なずれの調整とを行うというもの」である。 したがって、このような記載(斜めに開設される長孔)から、径方向中心から放射線条に伸びる長孔を認定することは困難であるし、また、基板の長孔と一対一に対応して固定するという思想からは、基板の放射線状の長孔と取付板の対向状の長孔により、回動しても、所望の回動位置における基板の長孔(すなわち、取付板の長孔と対応して開設されてはいない長孔)と固定するという思想は、引用発明の発明思想の範囲ではないことは明白である。 よって、請求人の係る主張は認めることはできない。(審判事件答弁書第13頁第14行?第14頁第9行) ケ 相違点3について (ア)甲1に記載された発明は、前述のように、螺旋杭特有の課題である前記支柱の所定面を揃えることができるように、前記支柱の周方向における角度位置の調整を行うことができるという着眼はないので、単に、左右方向、上下方向、斜め方向、すなわち、水平二次元方向の相対的なずれを調整を行うことができれば良く、したがって、基板に開設された縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれの調整を行えれば良い。 これに対して、本件発明は、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行うため、該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整のみならず、前記支柱の周方向における取付角度調整を行うことができる(本件特許の明細書【0029】乃至【0038】並びに図8乃至図10)こととなる。 このとき、本件発明は、図8乃至図10に示すように、取付板の重合する基板の長孔は一対一に対応する長孔ではなく、角度調整は取付板が基板に対して回動した所望の位置で合致する長孔で固定されるのに対して、甲1に記載された発明は、取付板の長孔と基板の長孔は対応する長孔にて固定されるので、調整範囲はその範囲に限定される。 すなわち、甲1に記載された発明に記載された基板の長孔は、複数の基板の長孔は縦横斜めと異なる方向に向けられたものであり、前記基板とそれぞれ対応するように開設された前記取付板の長孔と、その対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれの調整を行うという作用機序が記載されているだけであり、本件発明のように、支柱の周方向における取付角度調整を行うため、基板に放射線状に開設される複数の長孔と、取付板に対向状に開設される長孔とで、所望の回動位置で合致する長孔において固定するという作用機序は一切の記載はなく、またその示唆もない。 なお、請求人は、自身で作図した図面(審判請求書12頁)に基づいて、甲1に記載された発明が周方向の取付角度調整を行うことができる旨主張しているが、甲1に記載された発明には一切の記載も示唆のない事項であり、甲1に記載された発明の課題解決からも導き出せないものであり、このような主張は認めることはできない。(審判事件答弁書第12頁第8行?第13頁第13行) (イ)他事件における主張 なお、請求人は、甲1に記載された発明が取付位置の角度調整を行うことの理論的裏付けとして、被請求人の他事件(輸入差止申立手続)における主張を根拠としているが(審判請求書第13頁1行乃至11行)、他事件の主張は、本審判事件の主張を拘束するものでない。また、実際、甲1には、甲1に記載された発明が回転方向に位置調整を行うという記載も示唆も一切無いし、その着眼も記載されていないことは事実であり、したがって、それに対応する構成も記載されていない。(審判事件答弁書第14頁第10?17行) (ウ)審理事項通知書3頁(2)(イ)について 甲1に記載された発明の課題は、水平二次元方向のズレ(縦横斜め)の調整であり、周方向のズレについての記載はない。これは、前述のとおり、甲1に記載された発明は螺旋杭ではない基礎杭についての発明であるからである。螺旋杭は、その構成上、杭頭のレベルを一定高さに揃えるためには、施工位置において周方向の位置を選択できないのであるが、そうではない基礎杭においては、周方向の位置がズレたとしても、その施工位置で杭を回転させて周方向の位置を調整できるため、周方向のズレが問題となることはない。その場で回転させてもレベルが変化することがないからである。 したがって、そもそも、周方向のズレという課題が生じない甲1に記載された発明の記載において、その実施形態の一から、請求人が創作した図(審判請求書第12頁)を想定し、「周方向の角度のずれについても、当該実施形態により調整可能である」と認定することはできるものではない。甲1に記載された発明に課題の記載がないだけではなく、その課題自体が甲1に記載された発明に生じることがないからである。 さらに、請求人が周方向における動作の根拠についても、妥当ではない。請求人は、甲1の図4及び図5に示された杭頭プレートの四隅に設けられた長孔3aを放射線状とし、さらに、発明を逸脱しない範囲で各種の変更が可能であるとの記載を根拠に、請求書第14頁に示す周方向の揺動に言及しているが、これは妥当ではない。杭頭プレートの四隅に設けられた長孔3aが放射線状とは認定できない点については、答弁書の第11頁乃至第12頁に記載したとおりであり、さらに言及すると、四隅に斜めに形成する長孔とその間に縦横に形成される8つの長孔の内の一部分のみを捉えて、放射線状と認定することはできないし、さらに、発明を逸脱しない範囲で変更が可能であるのは、「ボルト孔の数」、「ボルト孔の位置」及び「ボルト孔の向き」であり、このように変更形成されたボルト孔においては、実施形態で示すような直交して締結しなくてもよいという記載がされているのであり、記載された実施形態において直交して交差させなくてもよいという趣旨ではない。なぜなら、甲1に記載された発明における図示では、そのように周方向にずれた記載はされていないし、そのような調整を行う必要がない基礎杭であるからである。(口頭審理陳述要領書第7頁第12行?第8頁第11行) (エ)審理事項通知書3頁(2)(ウ)について 前記(ウ)と同様、周方向のズレという課題が生じない甲1に記載された発明の記載において、その実施形態の一から、請求人が創作した図(審判請求書第12頁)のように、取付角度調整が可能な実施形態である認定することはできない。甲1に記載された発明には「周方向の角度のズレ」について記載がないだけではなく、その課題自体が甲1に記載された発明に生じることがない「周方向の角度のずれ」に関するものであるからである。 なお、前記実施形態と本件特許発明1との相違については、下記のとおりである。 本件発明の基板の長孔は、基板の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔であり、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行うのに対して、 甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔であり、基板に開設された縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に一対一に対応して前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整を行う。 したがって、本件特許発明1は前記構成に対応して、基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができるのに対して、甲1に記載された発明においては、百歩譲って角度調整を行うものとしても、請求人が創作した図(審判請求書第12頁)に示すように、周方向に若干揺動するだけであり、本件特許のような広範な角度調整を行うことはできず、ある一定の範囲においてしか角度調整を行うことはできないため、基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、・・・所望位置にて立設することができる。」という本件特許の効果を奏することはない。(口頭審理陳述要領書第8頁下から5行?第9頁第22行) (オ)甲2の被請求人作成の「専門委員意見照会 陳述要領書」におきまして、第4頁最終行から第5頁第1行において「・・・上下方向及び回転方向の位置調整を行うというものです。」と記載されておりますが、これは、誤記によるものであり、正しくは、「・・・上下方向及び左右方向の位置調整を行うというものです。」です。 請求人の前記各甲号証に基づく主張は、被請求人の誤記に基づく主張であって、認められるものではありません。(上申書第2頁第10?16行) コ 甲1に記載された発明の主引用例としての適格性 甲1に記載された発明の課題は、以上のように、本件特許の螺旋杭特有の課題を記載していないのみならず、本件特許の課題は、甲1に記載された発明においては基本的に生じない課題である。したがって、甲1に記載された発明には、本件発明に示されるような周方向のズレを修正するということについての動機付けを見い出すことはできず、むしろ、これを阻害する要因がある。このことは、例えば、平成26年(行ケ)第10103号の判旨等からも明らかである。 したがって、甲1に記載された発明は、そもそも、本件特許の成立を否定する根拠とはなり得ず、主引用発明としては不適格である。そして、もちろん、たとえば、副引用発明としても、本件特許発明に想到する動機付けはなく、むしろ、これを阻害する要因があるため、採用されることはできない。 したがって、甲1に記載された発明を引用する新規性はもちろん、これを主引用例として進歩性を否定することはできない。(口頭審理陳述要領書第4頁第15行?最下行) サ 本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。(審判事件答弁書第16頁第11?12行) (2)第2の無効理由(本件特許発明3の新規性)について(審判事件答弁書第4頁第14?21行、第5頁第2?8行、第5頁下から4行?第6頁第2行、第16頁第14行?第18頁第3行) ア 本件特許発明3の要旨 【請求項3】 C :請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基 礎杭であって、 A1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に A2:下半身に螺旋リブを備え、 B1: 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔 てて開設される複数の長孔を備えてなる ことを特徴とする基礎杭(Y1)。 (審判事件答弁書第4頁第14?21行、第16頁第15?24行) イ 甲1に記載された発明は、下記構成からなる。 a1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する平面視方形の基板を備える基礎 杭であって、 b1:前記基板は縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔を備え、 b2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた平面視方形の取付板に開 設される、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差する ように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と 前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎 杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整し、前記基板 と前記取付板を締結部材にて固定してなることを特徴とする基礎杭と 建造物の支柱との接合構造(x1)に使用される基礎杭であって、 b1:前記基板は縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔を備えてな ることを特徴とする基礎杭。 (審判事件答弁書第16頁下から4行?第17頁第10行) ウ 本件特許発明3と甲1に記載された発明の相違点は、 ・相違点1:本件特許発明3の基礎杭が、下半身に螺旋リブを備える基礎杭 であるのに対して、甲1に記載された発明は、そのような記載 がない点(A1、a1)。 ・相違点2:本件特許発明3の基礎杭の基板の長孔は、基板の径方向中心か ら伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔である のに対して、 甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方 向に向けられた複数の長孔である点(B1、b1)。 ・相違点3:本件特許発明3の基礎杭が、該長孔と前記建造物の支柱下部に 取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複 数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔 との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整 および前記支柱の周方向における取付角度調整を行うのに対し て、 甲1に記載された発明の基礎杭は、基板に開設された縦横斜 めと異なる方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に 対応して、前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異な る方向に開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板との それぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記 支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整を行う点(B2 、b2)。 であり、本件特許発明3は、甲1に記載された発明ではない。(審判事件答弁書第17頁第11行?第18頁第3行) (3)第3の無効理由(本件特許発明1の進歩性)について(審判事件答弁書第18頁第4行?第20頁第2行) 甲1には、前記(1)エの相違点1乃至3の記載も示唆もない。また、甲1には、その課題において、角度調整に関する着眼はない。また、前記相違点1乃至3に関する証拠及び角度調整に関する着眼についての証拠も提示されていない。 したがって、当業者が甲1に甲4及び甲5に示される周知技術を適用したとしても、当業者は、本件特許発明1を容易に想到することはできない。(審判事件答弁書第19頁下から6行?第20頁第2行) (4)第4の無効理由(本件特許発明3の進歩性)について(審判事件答弁書第20頁第3行?第21頁第26行) 甲1には、前記(2)の相違点1乃至3の記載も示唆もない。また、甲1には、その課題において、角度調整に関する着眼はない。また、前記前記相違点1乃至3に関する証拠及び角度調整に関する着眼についての証拠も提示されていない。 したがって、当業者が甲1に甲4及び甲5に示される周知技術を適用したとしても、当業者は、本件特許発明3記載の発明を容易に想到することはできない。(審判事件答弁書第21頁第19?26行) (5)第5の無効理由(本件特許発明2の進歩性)について(審判事件答弁書第4頁第7?13行、第5頁第2?8行、第5頁第17?22行、第21頁下から2行?第23頁下から8行) ア 本件特許発明2の要旨 【請求項2】 B3:前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなると共に、 B4:前記取付板に設けた長孔は前記支柱を挟み対向状に2個開設されてな る ことを特徴とする請求項1記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造(X2)。 (審判事件答弁書第4頁第7?13行、第21頁最下行?第22頁第8行) イ 甲1に記載された発明 a1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する平面視方形の基板を備える基礎 杭であって、 b1:前記基板は縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔を備え、 b2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた平面視方形の取付板に開 設される、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差する ように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と 前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎 杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整し、前記基板 と前記取付板を締結部材にて固定してなる ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1)。 (審判事件答弁書第8頁下から8行?第9頁第5行、第22頁9?20行) ウ 本件特許発明2と甲1に記載された発明の相違点は、 ・相違点1:本件特許発明2の基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1) が、下半身に螺旋リブを備える基礎杭であるのに対して、甲1 に記載された発明は、そのような記載がない点(A1、a1)。 ・相違点2:本件特許発明2の基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1) の基板の長孔は、基板の径方向中心から伸びる放射線状に間隔 を隔てて開設される10個の長孔であるのに対して、 甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方 向に向けられた複数の長孔である点(B1、b1)。 ・相違点3:本件特許発明2の基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1) が、該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向 状に2個開設される長孔とにより、前記複数の放射線状に開設 される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲におい て、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周 方向における取付角度調整を行うのに対して、 甲1に記載された発明は、基板に開設された縦横斜めと異な る方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に対応して 、前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に 開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ 対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との 水平二次元方向の相対的なずれを調整を行う点(B2、b2) であり、甲1には、前記相違点1乃至3の記載も示唆もない。また、甲1には、その課題において、角度調整に関する着眼はない。また、前記前記相違点1乃至3に関する証拠及び角度調整に関する着眼についての証拠も提示されていない。 したがって、当業者が甲1に甲4及び甲5に示される周知技術を適用したとしても、当業者は、本件特許発明2を容易に想到することはできない。(審判事件答弁書第22頁下から8行?第23頁下から9行) (6)第6の無効理由(本件特許発明4の進歩性)について(審判事件答弁書第4頁下から5行?第5頁第1行、第5頁第2?8行、第6頁第3?7行、第23頁下から7行?第25頁第12行) ア 本件特許発明4の要旨 【請求項4】 D :請求項2に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される基 杭であって、 B3:前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射 線状に等間隔を隔てて10個開設されてなる ことを特徴とする基礎杭(Y2)。 (審判事件答弁書第4頁下から5行?第5頁第1行、第23頁下から6行?第24頁第2行) イ 甲1に記載された発明は、下記構成からなる。 a1:杭頭部に建造物の支柱を締結固定する平面視方形の基板を備える基礎 杭であって、 b1:前記基板は縦横斜めと異なる方向に向けられた複数の長孔を備え、 b2:該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた平面視方形の取付板に開 設される、前記基板の長孔に対応して、前記長孔と直交して交差する ように縦横斜めと異なる方向に開設された長孔とにより、前記基板と 前記取付板とのそれぞれ対応する長孔の重合範囲において、前記基礎 杭と前記支柱との水平二次元方向の相対的なずれを調整し、前記基板 と前記取付板を締結部材にて固定してなる ことを特徴とする基礎杭と建造物の支柱との接合構造(x1)。 (審判事件答弁書第24頁第3?14行) ウ 本件特許発明4と甲1に記載された発明の相違点は、 ・相違点1:本件特許発明4の基礎杭が、下半身に螺旋リブを備える基礎杭 であるのに対して、甲1に記載された発明は、そのような記載 がない点(A1、a1)。 ・相違点2:本件特許発明4の基礎杭の基板の長孔は、基板の径方向中心か ら伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される10個の長孔であ るのに対して、 甲1に記載された発明の基板の長孔は、縦横斜めと異なる方 向に向けられた複数の長孔である点(B1、b1)。 ・相違点3:本件特許発明4の基礎杭が、該長孔と前記建造物の支柱下部に 取り付けた取付板に対向状に2個開設される長孔とにより、前 記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される 長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ 調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行うのに 対して、 甲1に記載された発明は、基板に開設された縦横斜めと異な る方向に向けられた複数の長孔と、前記基板の長孔に対応して 、前記長孔と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に 開設された長孔とにより、前記基板と前記取付板とのそれぞれ 対応する長孔の重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との 水平二次元方向の相対的なずれを調整を行う点(B2、b2) であり、甲1には、前記相違点1乃至3の記載も示唆もない。また、甲1には、その課題において、角度調整に関する着眼はない。また、前記前記相違点1乃至3に関する証拠及び角度調整に関する着眼についての証拠も提示されていない。 したがって、当業者が甲1に甲4及び甲5に示される周知技術を適用したとしても、当業者は、本件特許発明4を容易に想到することはできない。(審判事件答弁書第24頁第15行?第25頁第12行) (7)第7の無効理由(サポート要件違反)について(審判事件答弁書第25頁第13行?第30頁第9行、口頭審理陳述要領書第5頁下から4行?第6頁最下行) ア 本件特許においては、請求人が主張するような「360度に亘って取付角度調整が可能である」という作用効果は、一切記載していない。 本件特許発明1、2及び4の、作用効果として、「前後左右および周方向における角度位置の調整を好適に行うことができる。」とし、本件特許発明3の作用効果として、「前記基礎杭が芯ズレを起こして埋設された場合や基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、前記基礎杭に接合される建造物の支柱は、所望位置にて立設することができる。」としているにすぎない。(審判事件答弁書第25頁下から2行?第26頁第5行) イ 審査基準の「サポート要件違反の類型(3)」は、「(3)出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合」とし、その適用の留意点が記載されている。(審判事件答弁書第26頁第6?26行) ウ 本件特許の技術分野、技術常識 本件特許の技術分野は、建築物の下部構造としての基礎杭に関するものであり、特に、基礎杭と上部構造体と取付方法に関するものであり、物の有する機能と、その物の構造との関係を理解することが比較的容易な技術分野であり、上記留意点aを参照して、発明の詳細な説明に記載された実施例から拡張ないし一般化できる範囲は相応に広いものと判断できる。 また、部材と部材とをボルトで取り付ける場合に、ボルト孔を楕円等の形状とし、取付の微調整を行うことば、例えば、乙4及び乙5の公開公報に示すように、従来からある技術常識である。(審判事件答弁書第26頁最下行?第27頁第8行) エ 本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0022】 以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。」とし、下記の図8乃至図10を示し、基板と支柱との接合構造における芯ズレ調整の例を示している。 図8 図9 図10 図8は、基礎杭が周方向において正位置にある場合の芯ズレ調整の例を示す横断面図であり、(a)は、前記基礎杭が芯ズレを起こしていないときの接合状態を示す横断面図であり、(b)は、前記基礎杭が図における下方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図であり、(c)は、前記基礎杭が図における左方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図である。 また、図9は、基礎杭が周方向において30°変位した場合の芯ズレ調整の例を示す横断面図であり、(a)は、前記基礎杭10が芯ズレを起こしていないときの接合状態を示す横断面図であり、(b)は、前記基礎杭10が図における下方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図であり、(c)は、前記基礎杭10 が図における左方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図である。 また、図10は、基礎杭が周方向において45変位した場合の芯ズレ調整の例を示す横断面図であり、(a)は、前記基礎杭10が芯ズレを起こしていないときの接合状態を示す横断面図であり、(b)は、前記基礎杭10が図における下方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図であり、(c)は、前記基礎杭10が図における左方に芯ズレを起こしているときの接合状態を示す横断面図である。 そして、図1乃至図7に示す、本件特許の実施態様の記載から、当業者であれば、本件特許は、建造物の支柱を芯ズレを調整しつつ前記基礎杭に接合することができると共に、基礎杭が螺旋杭の場合には、前記支柱に角柱を使用したときに、前記支柱の所定面を揃えることができるように、前記支柱の周方向における角度位置の調整を行うことができることは認識できる。 そして、前述のような、図1乃至図7に示す前記実施態様の記載及び図8乃至図10に示す調整例を参酌して、基礎杭の基板に開設される前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される長孔と、該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔とを、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行えるように、放射線状に開設される長孔の数、位置、大きさ、を決定し、取付板に設けた対向状の長穴の位置、大きさを決定するのは、当業者においては、単なる設計事項である たとえば、設計の一例を挙げると、基礎杭の軸径が、基礎杭が負担する荷重からおおよそ決定される。そして、建機等による回転圧入時に生じる位置誤差も想定でき、その位置誤差に対応した調整量を算出し、その調整量によって、長穴の長さ等が決定される、また、軸径より基板の寸法がおおよそ決定され、それに応じて、適当な長穴の数が選択される。そして、それらに基づいて取付板の長穴のピッチが決まり、取付板の長穴の長さ等の大きさは所望する移動量によって決定される。 このように、請求人が主張するように、基板16及び取付板20のそれぞれに対して、どのような修正ないし変更が許容されるのかのではなく、それらの修正ないし変更は、本件特許発明を実施する際に行う単なる設計事項であるのであるから、請求人の主張は失当である。 以上のように、本件特許発明の属する技術分野は、構造の理解が比較的容易な機械的な構造の組み合わせで一見して理解することができるものであるから、発明の詳細な説明に記載された実施例から拡張ないし一般化できる範囲は相応に広いものと判断でき、出願時の技術常識を考慮しても、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された具体例に対して拡張ないし一般化した記載と認めることができるのである。(審判事件答弁書第27頁第10行?第30頁第9行) オ 審理事項通知書第3頁(2)(ア)について、特許明細書【0018】及び【0020】の記載と「360度に亘って取付角度調整が可能である」という作用効果は一切記載していないとの主張との整合性については、「360度に亘って取付角度調整が可能である」という表現は、文字どおり、「360度のすべてにおいて」という意味であり、例えば、角度調整が359度の範囲において可能であっても、1度の範囲で行えない場合は、上記効果を奏しないと判断される余地が残り、権利行使の際に疑義が生じたり、無効理由として主張される可能性が残る。 「基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、・・・所望位置にて立設することができる。」という記載は、前記のような問題が生じることのないような表現としたのであって、「360度に亘って取付角度調整が可能である」という表現ではないという主張と、何ら不整合を生じるということはない。(口頭審理陳述要領書第5頁下から4行?第6頁最下行) 第5 証拠について 1 甲1について (1)甲1に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当審において付加した。以下、他の証拠についても同じ。)。 ア「【0004】 本発明は、上記のような問題点に鑑み、部材が二次元方向に相対的にずれてもそのずれを吸収して部材同士をボルトで連結することができ、しかも、想定されるずれ量が大きい場合でもボルト頭部やナットのかかり具合を良好なものにして部材同士をしっかりと連結することができる部材同士のボルト連結構造を提供することを課題とする。」 イ「【0008】 また、上記の課題は、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとにボルトを通す孔が備えられ、各孔は長孔からなり、杭側ベースプレートの長孔と柱側ベースプレートの長孔とは交差する方向を向き、長孔交差部を通じてボルトが通され、該ボルトで前記ベースプレート同士が連結されていることを特徴とする杭と柱のボルト連結構造によって解決される。 【0009】 この構造は、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとの連結に本発明を適用したもので、杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとが水平二次元方向に相対的にずれても、そのずれを、交差する組の長孔が吸収し、ボルトを両ベースプレートのボルト通孔に通すことができて両ベースプレートをボルトで連結することができる。しかも、想定されるずれ量が大きい場合には、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによってそのようなずれを吸収することができ、そうしたからといってボルト頭部やナットのかかり具合が悪くなるというようなこともなく、ベースプレート同士をボルトでしっかりと連結することができる。」 ウ「【0012】 図1及び図2に示す第1実施形態は、杭1と柱2のボルト連結構造についてのものであり、杭1は、鋼管杭からなり、杭頭に平面視方形の第1部材としての杭頭ベースプレート3が溶接等で取り付けられている。また、柱2は、角形鋼管からなり、下端部に平面視方形の第2部材としての柱側ベースプレート4が溶接等で取り付けられている。 【0013】 杭頭ベースプレート3には、ボルト5…を通す複数のボルト通孔3a…が設けられ、また、柱側ベースプレート4にも、杭頭ベースプレート3のボルト通孔3a…に対応する複数のボルト通孔4a…が設けられている。そして、各ボルト通孔3a…,4a…はそれぞれ長孔からなっていて、杭頭ベースプレート3の各長孔3a…は、柱側ベースプレート4の対応する長孔4a…に対して直交して交差するように向けられている。本実施形態では、杭頭ベースプレート3の長孔3a…が互いに同じ方向に向けられ、柱側ベースプレート4の長孔4a…も互いに同じ方向に向けられている。そして、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とは、これら長孔交差部にボルト5…が通され、該ボルト5…にナット6…が螺合され締め付けらて連結され、杭1と柱2とを連結している。」 エ「【0014】 上記の連結構造において、図2(ハ-1)(ハ-2)に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とがずれていない場合は、杭頭ベースプレート3のボルト通孔3aと柱側ベースプレート4のボルト通孔4aとは十字状に交差し、その交差部にボルト5を通すことにより、両ベースプレート3,4をボルト5…で連結することができる。 【0015】 また、図3(イ-1)に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが図面左右方向にずれる場合は、図3(イ-2)に示すように、杭頭ベースプレート3のボルト通孔3aと柱側ベースプレート4のボルト通孔4aとが横向きT字状に交差し、その交差部にボルト5を通すことにより、両ベースプレート3,4をボルト5…で連結することができる。 【0016】 更に、図3(ロ-1)に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが図面斜め方向にずれる場合は、図3(ロ-2)に示すように、杭頭ベースプレート3のボルト通孔3aと柱側ベースプレート4のボルト通孔4aとがL字状に交差し、その交差部にボルト5を通すことにより、両ベースプレート3,4をボルト5…で連結することができる。 【0017】 更にまた、図3(ハ-1)に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが図面上下方向にずれる場合は、図3(ハ-2)に示すように、杭頭ベースプレート3のボルト通孔3aと柱側ベースプレート4のボルト通孔4aとがT字状に交差し、その交差部にボルト5を通すことにより、両ベースプレート3,4をボルト5…で連結することができる。 【0018】 このように、上記の杭柱連結構造によれば、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが水平二次元方向にずれることがあっても、そのずれを、交差する長孔3a…,4a…が吸収し、ボルト5…を両ベースプレート3,4のボルト通孔3a…,4a…に通すことができて、両ベースプレート3,4をボルト5…で連結することができる。 【0019】 しかも、想定されるずれ量が大きい場合であっても、各ベースプレート3,4の長孔ボルト孔3a…,4a…を長くすることによってそのようなずれを吸収することができ、そうしたからといって、ボルト5の頭部5aやナット6のかかり具合が悪くなるということもなく、ベースプレート3,4同士をボルト5…でしっかりと連結することができる。」 オ「【0020】 図4及び図5に示す第2実施形態では、杭頭ベースプレート3に備えられた複数の長孔3a…が縦横斜めと異なる方向に向けられ、それに応じて柱側ベースプレート4の長孔4a…も杭頭ベースプレート3の長孔3a…と直交して交差するように縦横斜めと異なる方向に向けられている。そして、図6に示すように、両ベースプレート3,4は、それらの水平二次元方向の相対的なずれに対し、対応する長孔3a,4aが十字状、T字状、L字状に交差し、該交差部にボルト5…が通されることでボルト5…により連結されている。その他は、上記の実施形態と同様である。 【0021】 以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、本発明では、ベースプレートに形成するボルト孔の数や位置、向きに制限はなく、種々の数のボルト孔が種々の位置に種々の方向に向けられて形成されていてよい。また、上記の実施形態では、杭頭ベースプレート3の長孔3a…と柱側ベースプレート4の長孔4a…とが直交して交差するようにした場合を示しているが、直交しないで交差するようにしてもよい。」 【0022】 また、上記の実施形態では、本発明を杭頭ベースプレートと柱側ベースプレートとのボルト連結構造に適用した場合を示しているが、本発明は、二次元方向の相対的なずれを生じるような部材同士のボルトによる連結構造として広く用いることができるものである。もちろん、三次元方向の相対的なずれを生じるような場合に、そのうちの二次元方向の相対的なずれを吸収する構造として採用することもできる。」 カ 図4 キ 図5 ク 図6 ケ 上記カ?クの図4?6からみて、杭1は円筒状であることが看て取れる。 コ 上記ウの【0013】の記載から、杭頭ベースプレート3に設けられた複数のボルト通孔3aは、複数の長孔3aであり、柱側ベースプレート4に設けられたボルト通孔4aは、複数の長孔4aであることは明らかである。 サ 上記カ?クの図4?6からみて、杭頭ベースプレート3に備えられた複数の長孔3aのうち、4つの角部にそれぞれ設けられた4つの長孔3aは、放射線状に等間隔を隔てて開設されることが看て取れる。 シ 上記カ?クの図4?6からみて、柱側ベースプレート4の4つの角部に、それぞれ長孔4aが設けられており、当該4つの長孔4aは、上記サに示した杭頭ベースプレート3に備えられた4つの長孔3aに応じて、それぞれ前記長孔3aと直交して交差するように斜め方向に向けられて設けられており、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差していることが看て取れる。 ス 上記エ【0015】?【0019】の記載および上記クの図6からみて、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4との水平二次元方向のずれとして、前記杭頭ベースプレート3と前記柱側ベースプレート4とが図面左右方向、斜め方向、上下方向にずれる場合が記載されている。 (2)上記(1)からみて、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「杭1と柱2のボルト連結構造において、前記杭1は、円筒状の鋼管杭からなり、杭頭に平面視方形の杭頭ベースプレート3が溶接等で取り付けられ、前記柱2は、角形鋼管からなり、下端部に平面視方形の柱側ベースプレート4が溶接等で取り付けられており、前記杭頭ベースプレート3には、ボルト5…を通す複数の長孔3a…が設けられ、また、前記柱側ベースプレート4にも、杭頭ベースプレート3の長孔3a…に対応する複数の長孔4a…が設けられており、 平面視方形の前記杭頭ベースプレート3の4つの角部にそれぞれ前記長孔3aが設けられ、当該4つの長孔3aは放射線状に等間隔を隔てて開設されており、平面視方形の前記柱側ベースプレート4の4つの角部にはそれぞれ前記長孔4aが設けられ、当該4つの長孔4aは、前記杭頭ベースプレート3に備えられた前記4つの長孔3aに応じて、それぞれ前記長孔3aと直交して交差するように斜め方向に向けられて設けられており、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差しており、 前記杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれに対し、対応する長孔3a,4aが十字状、T字状、L字状に交差し、該交差部にボルト5を通すことで、両ベースプレートをボルト5により連結するものであり、 想定されるずれ量が大きい場合には、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによってそのようなずれを吸収することができるものである、連結構造。」 2 甲2について 本件特許の出願後に被請求人が東京税関長宛てに提出した「専門委員意見照会陳述要領書」の写しである甲2には、次の事項が記載されている。 「また、第2実施形態は、図4?6に記載されているとおり、杭頭ベースプレートの「四隅」に斜めの長孔及び一辺とその対向辺とに平行となるように、比較的短い長孔を4個、全部で8個の長孔を設けており、柱側ベースプレートには、杭頭ベースプレートの「四隅」及びその間に設けた8個の長孔と直交する位置に同形の長孔を設けて、それらが重合する範囲(図5(ハ-1)(ハ-2)及び図6参照)において、上下左右及び回転方向の位置調整を行うというものです。」(第4頁下から5行?第5頁第1行) 3 甲3について 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3には、図面と共に次の事項が記載されている。 (1)「1)先端部に円錐形に従った螺旋をもつ金属キャップと、螺旋のコンクリート本体を一体にしたことを特徴とするコンクリート杭」(第1頁左下欄第5?7行) (2)「後端部の後端金具2に具備された六角凹部7に回転機を接続して螺旋状のコンクリート杭を時計方向に回転させると先端金具5のとがった部分があらかじめ地面に挿入されているため、掘さくのための先端金具の螺旋状凸部4により地面を掘さくしながら、ネジ効果のごとく地面に対して挿入されていく。」(第1頁右下欄下から5行?第2頁第2行) 4 甲4について 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4には、図面と共に次の事項が記載されている。 「本発明の工法によるときは、上述の如く螺旋杭の回転が杭の全長に一体的に結合されて挿入している回転ロッドの回転によつて行われるため、杭全体が同じ力で回転して土の抵抗に対して部分的に異状な力が加わることがないから「ねじれ」による杭の破損が生じないばかりか、杭の進入が円滑に行えるという従来の螺旋杭の打込み工法にはみられない卓越した効果を奏するものである。」(第2頁左下欄最下行?右下欄第8行) 5 甲5について 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5には、図面と共に次の事項が記載されている。 (1)「この発明は比較的小規模の建物の杭として使用される、コンクリート製の螺旋杭に関するものである。」(第1頁左下欄第13-15行) (2)「この発明では以上の通り円錐台状の頭部を打ち込むことによってこれが楔作用を果たすため杭周囲の地盤を有効に圧密、そして締め固めることが可能である。」(第2頁右上欄第12?15行) 6 甲6について 本件特許の出願後に頒布された刊行物である甲6には、図面と共に次の事項が記載されている。 「【0055】 そこで、まず、把持位置を、ワーク位置からの二次元方向のずれとして表すこととする。このとき、把持位置とワーク位置とのずれには、表示部4bのX-Y平面においてハンド20が回転したことに起因して生じるずれと、表示部4bのX-Y平面においてハンド20が平行移動したことに起因して生じるずれと、が含まれることになる(上記した図4参照)。そのため、以下の変数を設定する。 ・xt:ワーク位置(P0)に対するX方向のずれ。実測値。 ・yt:ワーク位置(P0)に対するY方向のずれ。実測値。 ・xr:ハンド20の回転に依存するX方向の誤差。回転成分に相当する。 ・yr:ハンド20の回転に依存するY方向の誤差。回転成分に相当する。 ・xo:ハンド20の移動に依存するX方向の誤差。移動成分に相当する。 ・yo:ハンド20の移動に依存するY方向の誤差。移動成分に相当する。 ・θ :ハンド20の回転角度。本実施形態ではフランジ16の回転角度の実測値。」 7 甲7について 本件特許の出願後に出力印刷されたサンキンB&G株式会社ホームページである甲7には、次の事項が記載されている。 「タッピングパイル基礎工法とは タッピングパイルと呼ばれる全長1600mm、直径60.5mmのスクリュー状の鋼管パイプ(※肉厚3.2mm・溶融亜鉛メッキ仕上げ)を、小型の油圧ショベルを使用して地面に打ち込みます。」 第6 無効理由1?7についての当審の判断 1 無効理由1(本件特許発明1の新規性欠如)の検討 (1)本件特許発明1と甲1発明との対比 ア 甲1発明における「平面視方形の杭頭ベースプレート3」は、柱側ベースプレート4に連結されることにより柱2を固定するから、本件特許発明1における「建造物の支柱を締結固定する基板」に相当する。 そうすると、甲1発明における「杭頭に平面視方形の杭頭ベースプレート3が溶接等で取り付けられ」た「円筒状の鋼管杭から」なる「杭1」と、本件特許発明1における「杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に下半身に螺旋リブを備える基礎杭」とは、「杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備える基礎杭」である点で共通する。 イ 甲1発明における「平面視方形の前記杭頭ベースプレート3の4つの角部にそれぞれ前記長孔3aが設けられ、当該4つの長孔3aは放射線状に等間隔を隔てて開設されて」いることは、本件特許発明1における「前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備え」ていることに相当する。 なお、被請求人は、上記第4の3(1)クのように、甲1に記載された発明に記載された基板の長孔は、基板の四隅にのみ斜め方向に向けられた長孔(しかも基板の中央からは離れた位置において形成される構成)であって、本件特許発明1の基板の長孔のように、「中央の一点からあらゆる方向に放出した形」の長孔については、記載も示唆もないと主張しているが、本件特許発明1において、基板が、放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔以外の長孔を備えないことは規定されていない。 ウ 甲1発明における「平面視方形の柱側ベースプレート4」は、「前記柱2」の「下端部」に「溶接等で取り付けられ」ているから、前記「柱側ベースプレート4」は、本件特許発明1における「前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板」に相当する。 エ 甲1発明において「前記杭頭ベースプレート3には、ボルト5…を通す複数の長孔3a…が設けられ、また、前記柱側ベースプレート4にも、杭頭ベースプレート3の長孔3a…に対応する複数の長孔4a…が設けられており」、「平面視方形の前記柱側ベースプレート4の4つの角部にはそれぞれ前記長孔4aが設けられ、当該4つの長孔4aは、前記杭頭ベースプレート3に備えられた前記4つの長孔3aに応じて、それぞれ前記長孔3aと直交して交差するように斜め方向に向けられて設けられ、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差して」いることにより、前記4つの「長孔4a」は、対応する4つの「長孔3a」に応じて対向して設けられているといえるから、甲1発明における上記4つの「長孔4a」は、本件特許発明1における「前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔」に相当する。 オ 甲1発明においては、平面視方形の杭頭ベースプレート3及び柱側ベースプレート4とが重なるときには、杭の中心と柱の中心の位置が一致することが明らかであるところ、「前記杭頭ベースプレート3と前記柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向のずれ」は、前記杭の中心と柱の中心の位置のずれに対応するものであり、また、本件特許発明1における「前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ」も、前記基礎杭の中心と支柱の中心の位置のずれに対応するものであるから、甲1発明における「前記杭頭ベースプレート3と前記柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向のずれ」は、本件特許発明1における「前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ」に相当する。 そして、甲1発明において「前記杭頭ベースプレート3と前記柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向のずれ」を「吸収」することは、本件特許発明1における「前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整」を行うことに相当する。 そうすると、甲1発明における「前記杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれに対し、対応する長孔3a,4aが十字状、T字状、L字状に交差し、該交差部にボルト5を通すことで、両ベースプレートをボルト5により連結するものであり、想定されるずれ量が大きい場合には、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによってそのようなずれを吸収する」ことと、 本件特許発明1における「該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行」うこととは、 「該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整」を行う点で共通する。 カ 甲1発明における「両ベースプレートをボルト5により連結する」「連結構造」は、本件特許発明1における「前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなる」「基礎杭と建造物の支柱との接合構造」に相当する。 キ 上記ア?カからみて、両者は、次の一致点及び相違点を有する。 ・一致点 「杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備える基礎杭であって、 前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備え、 該長孔と前記建造物の支柱下部に取り付けた取付板に対向状に開設される長孔とにより、前記放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整を行い、前記基板と前記取付板を締結部材にて固定してなる基礎杭と建造物の支柱との接合構造。」 ・相違点1 本件特許発明1の基礎杭が、下半身に螺旋リブを備えるのに対して、 甲1発明においては、円筒状の鋼管杭が下半身に螺旋リブを有するかどうか不明である点。 ・相違点2 本件特許発明1が「前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において、前記基礎杭と前記支柱との芯ズレ調整および前記支柱の周方向における取付角度調整を行」っており、対向状に開設される長孔に対し、その重合範囲において、放射線状に開設される長孔は複数であって、かつ、その重合範囲において、支柱の周方向における取付角度調整を行うのに対して、 甲1発明においては、1つの長孔4aに対して、その交差する長孔3aは1つであって、その交差させたことにより柱2の周方向における取付角度調整を行うかどうか不明である点。 (2)判断 ア 相違点1について 相違点1が実質的な相違点であるか否かを検討する。 (ア)甲1には、甲1発明における「円筒状の鋼管杭から」なる「杭1」が、下半身に螺旋リブを備えることは記載されておらず、また、示唆もされていない。 (イ)甲1に「例えば、地面に打ち込まれた鋼管杭の杭頭ベースプレート」と、記載されていることは、甲1発明における上記杭1が、下半身に螺旋リブを備えることを示唆するものではない。 一般に、螺旋杭は本件特許出願前に周知であり(甲3?5)、螺旋杭について「打ち込み」又は「打ち込む」という表現が用いられることはある(甲4、甲5及び甲7)ものの、反対に、これらの表現が用いられる杭が必ず螺旋リブを備える杭であるとは限らないから、甲1の上記表現が、甲1発明における上記杭1が、下半身に螺旋リブを備えることを示唆するということはできない。 なお、被請求人は、上記第4の3(1)キ(ウ)のように、甲7の記載を誤記と主張しているが、甲7は、甲2の参考資料1として提出されたものであり、サンキンB&G株式会社のHP中における「打ち込み」と表示されている部分を修正することにより、甲2の参考資料1として提出された甲7の内容を修正することはできない。 仮に、甲7の内容を参照しないとしても、螺旋杭について「打ち込み」又は「打ち込む」という表現が用いられる場合があることは、甲4及び甲5にみられるとおりである。 (ウ)そして、甲1発明における「円筒状の鋼管杭から」なる「杭1」が、下半身に螺旋リブを備えると解すべき特段の理由も見当たらない。 (エ)そうすると、相違点1は実質的な相違点である。 イ 相違点2について 相違点2が実質的な相違点であるか否かを検討する。 (ア)甲1には、柱2の周方向における取付角度調整を行うことは記載されておらず、また、示唆もされていない。 また、甲1には、「複数の長孔3a」と「長孔4a」とが交差する重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うことは記載されておらず、また、示唆もされていない。 (イ)本件特許発明1における「支柱の周方向における取付角度調整」は、基礎杭が螺旋リブを有しており、基礎杭は周方向において様々な角度位置で固定されると解されるところ、前記基礎杭が周方向におけるどの角度位置で固定された場合であっても、「複数の放射線状に開設される長孔」と「対向状に開設される長孔」との「重合範囲」において行われるものであるが、甲1発明においては、杭1が周方向において様々な角度位置で固定されるように構成されているものと解すべき理由はないから、本件特許発明1のような、柱2の周方向における取付角度調整を行うものということはできない。 (ウ)一方、甲1発明における杭の実際の施工にあたって、「杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれ」とは別に、杭1が周方向に若干揺動するように変位することはあり得るといえ、その場合、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲であれば若干の取付角度調整を行うことも可能であると解することができる。 しかしながら、甲1発明においては、想定されるずれ量が大きい場合に、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによって大きいずれを吸収することが可能なものであるから、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とがずれていない状態において1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差して形成された「対応する長孔3a,4a」は、想定されるずれ量が大きい場合であっても、その交差する1つの「長孔3a」及び1つの「長孔4a」が変わることない。 そうすると、甲1発明における交差する1つの「長孔3a」及び1つの「長孔4a」は変わることはない以上、甲1には、甲1発明が「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うことが記載されているとはいえない。 (エ)なお、甲1発明において、杭と柱を周方向に90°回転させて、1つの長孔4aが異なる長孔3aと交差するようにして杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4を連結することは可能であるが、この場合、90°回転の前後で杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4の相対的な位置関係は変わらず、そもそも90°回転を行う必要がない中で、あえて回転を行うにすぎないものであるから、柱2の周方向の取付角度調整を行うものということはできない。 (オ)被請求人は、甲2において、「また、第2実施形態は、図4?6に記載されているとおり、杭頭ベースプレートの「四隅」に斜めの長孔及び一辺とその対向辺とに平行となるように、比較的短い長孔を4個、全部で8個の長孔を設けており、柱側ベースプレートには、杭頭ベースプレートの「四隅」及びその間に設けた8個の長孔と直交する位置に同形の長孔を設けて、それらが重合する範囲(図5(ハ-1)(ハ-2)及び図6参照)において、上下左右及び回転方向の位置調整を行うというものです。」と述べているが、一方で「甲1に記載された発明においては、百歩譲って角度調整を行うものとしても、請求人が創作した図(審判請求書第12頁)に示すように、周方向に若干揺動するだけであり、本件特許のような広範な角度調整を行うことはできず、ある一定の範囲においてしか角度調整を行うことはできない」と主張しており(口頭審理陳述要領書第8頁下から5行?第9頁第22行)、甲2の上記の記載及び上記の主張からみて、被請求人が認めているのは、「対応する長孔3a,4a」の交差する一定の範囲で周方向に若干揺動するという限度において、甲1に記載された発明が角度調整を行うことであるといえる。 そうすると、甲2における「回転方向の位置調整」は、上記(ウ)で検討した1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲で行う若干の取付角度調整を意味するものと解することが自然であるから、甲2の記載があるからといって、甲1発明が「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うものであるとすることはできない。 なお、上記第4の3(1)ケ(オ)のように、被請求人は、甲2は、被請求人がその記載が誤記であり、正しくは、「・・・上下方向及び左右方向の位置調整を行うというものです。」と主張しても、甲2の記載が誤記であることが疑いのないものであることを示す証拠はない。 そして、甲2の記載は、被請求人による「甲1に記載された発明においては、百歩譲って角度調整を行うものとしても、請求人が創作した図(審判請求書第12頁)に示すように、周方向に若干揺動するするだけであり、本件特許のような広範な角度調整を行うことはできず、ある一定の範囲においてしか角度調整を行うことはできない」という主張と矛盾することはない。 そうすると、甲2の記載が、被請求人が主張する、「・・・上下方向及び左右方向の位置調整を行うというものです。」の誤記であると解さなければならない特段の理由はない。 (カ)そして、甲1発明が、「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うと解すべき特段の理由も見当たらない。 (キ)そうすると、相違点2は実質的な相違点である。 ウ 以上のように、本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2を有するから、同一であるとはいえない。 (3)まとめ 本件特許発明1は、甲1発明ではない。 したがって、本件特許発明1は、請求人が主張する第1の無効理由(新規性欠如)によって無効とすることはできない。 2 無効理由2(本件特許発明3の新規性欠如)の検討 (1)本件特許発明3と甲1発明との対比 ア 本件特許発明3は、「杭頭部に建造物の支柱を締結固定する基板を備えると共に下半身に螺旋リブを備え、前記基板は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に間隔を隔てて開設される複数の長孔を備えてなることを特徴とする基礎杭」であって、「請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される」という用途を用いて前記基礎杭を特定しようとするものであり、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると、その用途に特に適した形状、構造、組成等を有するものである。 イ 上記アを勘案すると、本件特許発明3と甲1発明とは、本件特許発明1と甲1発明と同様の一致点及び相違点1及び2を有する。 (2)判断 上記相違点1及び2は、上記1(2)で検討したとおり、実質的な相違点であり、本件特許発明3と甲1発明とは、上記相違点1及び2を有するから、同一であるとはいえない。 (3)まとめ 本件特許発明3は、甲1発明ではない。 したがって、本件特許発明3は、請求人が主張する第2の無効理由(新規性欠如)によって無効とすることはできない。 3 無効理由3(本件特許発明1の進歩性欠如)の検討 (1)本件特許発明1と甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明とは、上記1(1)キに示した一致点及び相違点1及び2を有する。 (2)判断 ア 相違点1について (ア)甲1発明においては、「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収するのであるから、甲1発明の杭1が回転するものであっても、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収できる状態となる杭1の回転角度位置においては、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とをボルトで連結することができることは明らかである。 (イ)一方、技術常識を踏まえると、杭の高さと柱の高さとの調整は、螺旋杭の回転によるほかにも、例えば、柱の高さを調整すること等によって行うことが可能であるところ、螺旋杭は本件特許出願前に周知(甲3?5)であり、甲1発明の杭1を周知の螺旋杭としても、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収できる状態となる回転角度位置とすれば、杭の高さと柱の高さを調整して、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とをボルトで連結することができるといえる。 (ウ)そうすると、甲1発明の杭1を周知の螺旋杭とすること、及び、杭1を螺旋杭とするに際して、杭1の下半身に螺旋リブを備えるように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。 (エ)よって、相違点1に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものである。 イ 相違点2について (ア)上記1(2)イに示したように、甲1には、甲1発明が、柱2の周方向の角度調整を行うことは記載されておらず、また、示唆もされていない。 また、甲1には、甲1発明が、複数の長孔3aと長孔4aとの重合範囲において、柱2の周方向の角度調整を行うことは記載されておらず、また、示唆もされていない。 (イ)甲1発明は、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによって、想定されるずれ量が吸収可能な「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収するものであり、甲1発明における「想定されるずれ量」は、大きい場合であっても、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによって吸収することができるずれ量であるから、「対応する長孔3a,4a」の重合範囲において吸収できないようなずれは想定していない。 (ウ)また、甲1発明において、柱2の周方向の大きな角度調整を行うようにすると、「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収できない状況が生じて、甲1発明が機能しなくなる場合があり得るから、甲1発明において、柱2の周方向の大きな角度調整を行うようにすることに動機付けがあるとはいえない。 (エ)そうすると、甲1発明において、想定された杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれに加え、柱2の周方向の角度調整を行うことを当業者が容易に想到できたとはいうことはできない。 (オ)また、甲1発明においては、1つの長孔4aが1つの長孔3aとが交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収する以上、前記重合範囲に代えて、「複数の長孔3a」と「長孔4a」の重合範囲を形成することを示唆するものであるとはいえない。 (カ)また、他に1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲を、「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲に変更することを示唆する証拠もない。 (キ)そして、甲1発明において、複数の長孔3aと長孔4aとの重合範囲において、柱2の周方向の角度調整を行うように構成することが当業者にとって容易に想到することができると考えるべき特段の理由も見当たらない。 (ク)さらに、本件特許発明1は「前記複数の放射線状に開設される長孔と前記対向状に開設される長孔との重合範囲において」、「前記支柱の周方向における取付角度調整を行」うため、対向状に開設される長孔に対し、その重合範囲において、放射線状に開設される長孔は複数であり、甲1発明が、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、上記1(2)イ(ウ)に述べたように若干の取付角度調整を行う場合よりも、大きな取付角度調整が可能となるという顕著な効果を奏する。 (ケ)そうすると、相違点2は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。 (3)まとめ よって、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明1は、請求人が主張する第3の無効理由(進歩性欠如)によって無効とすることはできない。 4 無効理由4(本件特許発明3の進歩性欠如)の検討 (1)上記2(1)イに示したように、本件特許発明3と甲1発明とは、本件特許発明1と甲1発明と同様の一致点及び相違点1及び2を有する。 (2)判断 上記相違点1及び2については、上記3(2)で検討したとおりである。 (3)まとめ よって、本件特許発明3は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明3は、請求人が主張する第4の無効理由(進歩性欠如)によって無効とすることはできない。 5 無効理由5(本件特許発明2の進歩性欠如)の検討 (1)本件特許発明2と甲1発明との対比 ア 本件特許発明2は、「請求項1に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造」を発明特定事項として含むものであるから、本件特許発明1の構成を備えるものである。 イ 上記アを勘案すると、本件特許発明2と甲1発明とは、上記1(1)キに示した一致点並びに相違点1及び2を有するとともに、下記相違点3を有する。 ・相違点3 本件特許発明2においては、基板に開設される長孔は基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に等間隔を隔てて「10個」開設されており、取付板に設けた長孔は支柱を挟み対向状に「2個」開設されてなるのに対して、 甲1発明においては、平面視方形の前記杭頭ベースプレート3に設けられた、放射線に間隔を隔てて開設されている長孔3aは「4つ」であり、平面面視方形の柱側ベースプレート4に設けられた長孔4aは、前記4つの長孔3aに応じて「4つ」である点。 (2)判断 ア 上記相違点1及び2については、上記3(2)で検討したとおりである。 イ 上記1(2)イ(ウ)において示したように、甲1発明は、1つの長孔3aと1つの長孔4aとが交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収するものであり、長孔3aと長孔4aの数が異なるように構成することは記載も示唆もされていない。そして、これに代えて、長孔3aと長孔4aの数を異ならせ、長孔3aを10個、長孔4aを2個であるように構成する動機付けはない。 ウ また、甲1発明において、長孔3aと長孔4aの数を異ならせ、長孔3aを10個、長孔4aを2個であるように構成することが当業者にとって容易に想到することができると考えるべき特段の理由も見当たらない。 エ そうすると、相違点3は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。 (3)まとめ よって、本件特許発明2は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明2は、請求人が主張する第5の無効理由(進歩性欠如)によって無効とすることはできない。 6 無効理由6(本件特許発明4の進歩性欠如)の検討 (1)本件特許発明4と甲1発明との対比 ア 本件特許発明4は、「前記基板に開設される長孔は前記基礎杭の径方向中心から伸びる放射線状に等間隔を隔てて10個開設されてなることを特徴とする基礎杭」であって、「請求項2に記載の基礎杭と建造物の支柱との接合構造に使用される」という用途を用いて前記基礎杭を特定しようとするものであり、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると、その用途に特に適した形状、構造、組成等を有するものである。 イ 上記アを勘案すると、本件特許発明4と甲1発明とは、上記5(1)に示した本件特許発明2と同様の一致点及び相違点1?3を有する。 (2)判断 上記相違点1?3については、上記3(2)及び上記5(2)で検討したとおりである。 (3)まとめ よって、本件特許発明4は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明4は、請求人が主張する第6の無効理由(進歩性欠如)によって無効とすることはできない。 7 無効理由7(サポート要件違反)の検討 (1)本件特許発明の課題は、本件特許明細書の【0009】の記載からみて、「基礎杭が所定位置よりも芯ズレして埋設されても、建造物の支柱を芯ズレを調整しつつ前記基礎杭に接合することができると共に、前記基礎杭が螺旋杭の場合であっても、前記支柱に角柱を使用したときに、前記支柱の所定面を揃えることができるように、前記支柱の周方向における角度位置の調整を行うことができる基礎杭と建造物の支柱との接合構造およびそれに使用する基礎杭を提供すること。」である。 (2)本件特許明細書の【0022】?【0039】には、図1?11とともに、本件発明の接合構造における芯ズレ調整の例を示しており、基礎杭が周方向において正位置にある場合(図8)、基礎杭が周方向において30°変位した場合(図9)、及び、基礎杭が周方向において45°変位した場合(図10)のそれぞれの場合において、芯ズレ調整の例を示している。 そして、上記図8?図10の取付板22にける右側の長孔22aが、下記ア及びイの場合には、異なる長孔16aとの間で重合位置Jを有することが示されている。 ア:図8(a)?(c)及び図9(b) イ:図9(a)及び(c)並びに図10(a)?(c) そうすると、発明の詳細な説明には、上記複数の長孔16aと長孔22aとが重合することが示されているとともに、前記複数の長孔16aと長孔22aとの重合範囲において、基礎杭と支柱との芯ズレ調整および支柱の周方向における取付角度調整を行うことができることが開示されているといえるから、本件特許発明により上記の課題を解決できることは当業者が認識できるといえる。 そして、複数の長孔16aと長孔22aとが重合するとともに、前記複数の長孔16aと長孔22aとの重合範囲において、基礎杭と支柱との芯ズレ調整および支柱の周方向における取付角度調整を行うにあたり、上記図1?11の接合構造だけが、発明の課題を解決することができる接合構造であると考えるべき理由はなく、上記複数の長孔16aの数、位置、大きさと、前記長孔22aの数、位置、大きさは、上記課題が解決できる範囲で変更可能なものであることは明らかである。 そうすると、上記の課題を解決できるように、上記の実施の形態とは異なる、前記複数の長孔16aの数、位置、大きさと、前記長孔22aの数、位置、大きさを決定することは、当業者の設計事項であるといえる。 よって、本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1?4は、請求人が主張する第7の無効理由(サポート要件違反)によって無効とすることはできない。 第7 請求人の主張について 1 上記第3の3(1)イ(ウ)aの請求人の主張について 甲1の【0021】には「また、上記の実施形態では、杭頭ベースプレート3の長孔3a…と柱側ベースプレート4の長孔4a…とが直交して交差するようにした場合を示しているが、直交しないで交差するようにしてもよい。」との記載はあるが、【0021】には、ベースプレートに形成するボルト孔の方向について記載されているのであり、杭頭ベースプレート3の長孔3aと柱側ベースプレート4の長孔4aとが直交して交差するようにしたものを、直交しないような状態になるように調整ができることが記載または示唆されているとはいえない。 なお、審判請求書第12頁に作図されている様子からは、柱側プレートが斜めになっている様子が看て取れるが、技術常識に照らして、建造物の柱である角形鋼管を斜めに設置するとはいえないから、当該図に示すように、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とを互いに対して傾斜するように移動してもよいことを当業者が認識するとはいえない。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 2 上記第3の3(1)イ(ウ)cの請求人の主張について 甲6において、「二次元方向のずれ」に、「x軸方向に平行移動したずれ」、「y軸方向に平行移動したずれ」、及び、「z軸方向周りに回転移動したずれ」が含まれるからといって、それのみを以て、甲1における「二次元方向の相対的なずれ」が、甲6における「二次元方向のずれ」と同様の意味で用いられており、「x軸方向に平行移動したずれ」、「y軸方向に平行移動したずれ」、及び、「z軸方向周りに回転移動したずれ」を含むと解することはできない。 そして、甲1においては、【0015】において、図3(イ-1)に示す杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向にずれる場合が記載され、【0016】において、図3(ロ-1)に示す杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが斜め方向にずれる場合が記載され、【0017】において、図3(ハ-1)に示す杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが上下方向にずれる場合が記載され、【0018】において、「このように、上記の杭柱連結構造によれば、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが水平二次元方向にずれることがあっても」と記載されていることからみて、甲1における「水平二次元方向の相対的なずれ」は、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4との左右方向、斜め方向、上下方向のずれであると解するのが相当である。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 3 上記第3の3(1)イ(エ)の請求人の主張について 上記第6の1(2)イ(オ)に示したように、甲2の記載があるからといって、甲1発明が「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うものであるとすることはできない。 そして、甲1発明における杭の実際の施工にあたって、「杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれ」とは別に、杭1が周方向に若干揺動するように変位することはあり得るといえ、その場合、1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する範囲で若干の取付角度調整も可能であると解することができるとしても、甲1発明において、「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向における取付角度調整を行うことが記載も示唆もされていないことは、上記第6の1(2)ア(ウ)に示したとおりである。 4 上記第3の3(1)イ(オ)の請求人の主張について 上記第6の3(2)イ(イ)に示したように、甲1発明においては、各ベースプレートのボルト孔の長孔を長くすることによって、想定されるずれ量が吸収可能な「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収するのであり、「対応する長孔3a,4a」の重合範囲において吸収できないようなずれは想定していない。 そうすると、甲1発明において、前記重合範囲とは異なる重合範囲、すなわち、「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲において、柱2の周方向の取付角度調整を行うように構成する動機付けはない。 また、他に1つの長孔4aが1つの長孔3aと交差した「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲を、「複数の長孔3a」と「長孔4a」との重合範囲に変更するように構成することを示唆する証拠もない。 そして、甲1発明において、複数の長孔3aと長孔4aとの重合範囲において、柱2の周方向の取付角度調整を行うように構成することが当業者にとって容易に想到することができると考えるべき特段の理由も見当たらない。 よって、請求人が主張するような、ずれの量に応じて、長孔を長くした場合、協働する「長孔の組」を切り替えることは、当業者にとって当然に選択され得る事項であるとはいうことはできない。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 5 上記第3の3(1)ウ及び第3の3(2)イの請求人の主張について 甲1に記載された発明について、請求人がB1とした「下半身に螺旋リブを備える基礎杭」である点は、上記第6の1(2)アにおいて相違点1について検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明の実質的な相違点である。 同様に、本件特許発明3と甲1発明の実質的な相違点である。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 6 上記第3の3(5)ウ及び第3の3(6)ウの請求人の主張について 上記第6の5(2)イ及びウに示したように、甲1発明は、1つの長孔3aと1つの長孔4aとからなる「対応する長孔3a,4a」の交差する重合範囲において、杭頭ベースプレート3と柱側ベースプレート4とが左右方向、斜め方向、上下方向にずれる水平二次元方向の相対的なずれを吸収するものであり、長孔3aと長孔4aの数が異なるように構成することは記載も示唆もされていない。そして、これに代えて、長孔3aと長孔4aの数を異ならせ、長孔3aを10個、長孔4aを2個であるように構成する動機付けはない。 また、甲1発明において、長孔3aと長孔4aの数を異ならせ、長孔3aを10個、長孔4aを2個であるように構成することが当業者にとって容易に想到することができると考えるべき特段の理由も見当たらない。 よって、請求人が主張するような、本件特許発明5の構成要件A2は、甲1が示唆する「各種の変更」の範囲内の、単なる設計的事項であるとはいえない。 同様に、本件特許発明6の構成要件B4は、甲1が示唆する「各種の変更」の範囲内の、単なる設計的事項であるとはいえない。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 7 上記第3の3(7)の請求人の主張について サポート要件は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることについての記載要件であって、本件特許発明と甲1の記載とを対比して検討されるものではない。 そして、本件特許発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であることは、上記第6の7に示したとおりである。 以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、上記第6において検討したとおり、本件特許発明1及び3について、請求人の主張する第1の無効理由及び第2の無効理由には理由がなく、本件特許発明1?4について、請求人の主張する第3の無効理由?第6の無効理由には理由がなく、また、本件特許発明1?4について、請求人の主張する第7の無効理由には理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-03-02 |
結審通知日 | 2020-03-05 |
審決日 | 2020-03-17 |
出願番号 | 特願2006-27730(P2006-27730) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(E02D)
P 1 113・ 537- Y (E02D) P 1 113・ 113- Y (E02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 苗村 康造 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
秋田 将行 住田 秀弘 |
登録日 | 2011-10-21 |
登録番号 | 特許第4846378号(P4846378) |
発明の名称 | 基礎杭と建造物の支柱との接合構造およびそれに使用する基礎杭 |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 中尾 真一 |
代理人 | 佐竹 勝一 |