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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1368468
審判番号 不服2019-6940  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-28 
確定日 2020-11-18 
事件の表示 特願2015-538300「金属・セラミック基板および金属・セラミック基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日国際公開、WO2014/067511、平成27年11月26日国内公表、特表2015-534280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2013年9月16日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2012年10月29日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成29年5月29日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月6日付けで手続補正がなされ、平成30年2月14日付け最後の拒絶理由通知に対する応答時、同年8月7日付けで手続補正がなされたが、当該手続補正について、平成31年1月21日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和1年5月28日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.令和1年5月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和1年5月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
令和1年5月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成29年9月6日付け手続補正により補正されたもの)に、
「【請求項1】
第1の表面側(2a)と第2の表面側(2b)とを有し、前記表面側(2a、2b)の少なくとも1つに金属被覆(3、4)が施されている、少なくとも1つのセラミック層(2)を備える金属・セラミック基板であって、前記セラミック層(2)を形成するセラミック材料が酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとを含むような金属・セラミック基板において、酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとが、前記セラミック層(2)において、その総重量に対して以下の割合:
・二酸化ジルコニウムが2?15重量%;
・酸化イットリウムが0.01?1重量%および
・酸化アルミニウムが84?97重量%
で含まれており、使用する酸化アルミニウムの平均粒径が2?8μmであり、かつ、酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が0.6より大きく、
前記金属皮膜は構造化されている、ことを特徴とする金属・セラミック基板。」

とあったものが、

「【請求項1】
第1の表面側(2a)と第2の表面側(2b)とを有し、前記表面側(2a、2b)の少なくとも1つに金属被覆(3、4)が施されている、少なくとも1つのセラミック層(2)を備える金属・セラミック基板であって、前記セラミック層(2)を形成するセラミック材料が酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとを含むような金属・セラミック基板において、酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとが、前記セラミック層(2)において、その総重量に対して以下の割合:
・二酸化ジルコニウムが2?15重量%;
・酸化イットリウムが0.01?1重量%および
・酸化アルミニウムが84?97重量%
で含まれており、使用する酸化アルミニウムの平均粒径が2?8μmであり、かつ、酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が0.6より大きく、
前記金属皮膜は構造化されており、
前記金属被覆(3)の層厚が0.05?1.2mmであり、
前記セラミック層(2)の熱伝導率が25W/mKより大きい、ことを特徴とする金属・セラミック基板。」
と補正された。
なお、下から4行目の「前記金属皮膜」なる記載について、当該記載より前には「金属皮膜」の記載はないことから、当該記載は、「前記金属被覆」の誤記であると認められる。

上記補正は、
(a)請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「金属被覆」について、「層厚が0.05?1.2mm」であることの限定を付加し、
(b)同じく請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「セラミック層」について、「熱伝導率が25W/mKより大きい」ことの限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)先願発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前の他の特許出願であって、本願優先権主張の日後に出願公開された特願2012-125563号(特開2013-32265号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、「半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
Al_(2)O_(3)粉末とZrO_(2)粉末とY_(2)O_(3)粉末との混合物、又はAl_(2)O_(3)粉末とZrO_(2)-Y_(2)O_(3)粉末との混合物からなり、焼結助剤が添加されていない原料組成物を、焼成することによって得られた、ZrO_(2):2?15重量%、Y_(2)O_(3):0.01?1重量%及びAl_(2)O_(3):残部からなる焼結体にて構成され、
Al_(2)O_(3)の平均結晶粒子径が2μmよりも大きく、7μm以下であると共に、Al_(2)O_(3)粒子同士が直接に接触している粒界長さが粒界総長さの60%以上であって、熱伝導率が30W/m・K以上であり且つ曲げ強度が500MPa以上である特性を有していることを特徴とする半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項8】
基板の少なくとも一方の面に、銅板又はアルミニウム板が接合せしめられている請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載の半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板。」

イ.「【0001】
本発明は、半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板及びその製造方法に係り、特に、パワートランジスタモジュール等の半導体装置において、半導体チップがハンダ付け等によって搭載せしめられる、優れた特性を有するアルミナジルコニア焼結基板、及びそれを有利に製造する方法に関するものである。
【0002】
従来から、インバータやコンバータ等のパワートランジスタモジュールの如き半導体装置においては、半導体チップが搭載される絶縁基板として、アルミナ(Al_(2)O_(3))基板、窒化アルミニウム(AlN)基板、及び窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))基板の3種のセラミック基板が実用化されて、用いられてきている。また、そのようなセラミック基板は、放熱基板としての機能も有しており、そのために、かかる基板の少なくとも一方の面には、箔状の薄いCu板やAl板の如き金属板が接合されることとなるが、加熱時の熱膨張差によって、セラミック基板には大きな負荷がかかることとなる。特に、近年における半導体装置の半導体チップに対する高電圧及び高電流の通電によって、それに耐え得る基板であることが必要とされ、そのために、高い強度と高い熱伝導性を有するものであることが要請されている。」

ウ.「【0015】
また、かかる本発明に従う高熱伝導率且つ高強度特性のアルミナジルコニア基板を用いることにより、大きなパワーによって高温が発生するパワートランジスタモジュールの如き半導体装置、特に、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor;IGBT)モジュール等に幅広く利用することが可能となるのである。」

エ.「【0018】
そして、そのような本発明に従うアルミナジルコニア焼結基板にあっては、主成分として、Al_(2)O_(3)が用いられていると共に、その強度を高めるために、ZrO_(2)が2?15重量%の割合において含有せしめられている。このZrO_(2)の含有量が2重量%未満となると、焼結時におけるAl_(2)O_(3)結晶相の異常粒成長を抑制することが出来ず、充分な基板強度を得ることが困難となるのであり、一方、15重量%を超えるようになると、焼結基板の熱伝導率の低下が惹起されるようになることに加えて、Al_(2)O_(3)結晶中に多量のZrO_(2)が分散するようになるために、アルミナ質結晶体そのものの特性を劣化させてしまう問題を惹起する。
【0019】
また、かかるZrO_(2)と共に含有せしめられるY_(2)O_(3)は、ZrO_(2)の部分安定化剤として機能し、アルミナジルコニア焼結基板の高強度化に寄与すると共に、そのような基板を与える焼結体の焼結性の向上を図り得る成分であって、その含有量は、0.01?1重量%の範囲内とされる。なお、このY_(2)O_(3)の含有量が0.01重量%未満となると、ZrO_(2)の部分安定化を充分に行ない難くなるために、基板の強度の低下を惹起するおそれがあり、また焼結性の悪化を招く等の問題を惹起する。一方、Y_(2)O_(3)の含有量が1重量%を超えるようになると、ZrO_(2)が完全安定化されて、基板強度の低下を惹起するおそれを生じると共に、Al_(2)O_(3)の異常粒成長も促進されるようになり、これによっても、基板の強度が低下せしめられる問題が惹起されることとなる。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0021】
従って、本発明において、アルミナジルコニア焼結基板を与える焼結体におけるAl_(2)O_(3)の結晶粒子は、その均質分散によって、基板の高強度化及び高熱伝導化に寄与するものであるところから、その平均結晶粒子径は2μmよりも大きく、7μm以下となるように制御され、特に、2.5?4.5μmの範囲内となるように調整されることとなる。なお、かかるAl_(2)O_(3)の平均結晶粒子径が2μm以下となると、焼結体の緻密化が不充分となって、強度の低下や熱伝導率の低下を惹起するようになるのであり、一方7μmよりも大きな粒子径となると、結晶粒子径のバラツキが大きくなって、均質性が維持出来ず、そのために強度の低下を招く等の問題を招くこととなる。
【0022】
また、かくの如き本発明に従うアルミナジルコニア焼結基板にあっては、それを与える焼結体の結晶組織の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例を示す図1から明らかなように、粒界としては、Al_(2)O_(3)結晶粒子とZrO_(2)結晶粒子とが接触しているZrO_(2)粒界1と、Al_(2)O_(3)結晶粒子同士が直接接触しているAl_(2)O_(3)粒界2と、Al_(2)O_(3)結晶粒子と粒界に存在する気孔とが接触している第1気孔粒界3と、ZrO_(2)結晶粒子と粒界に存在する気孔とが接触している第2気孔粒界4とが、それぞれ存在することとなる。このため、それら四つの粒界の合計長さ(粒界総長さ)に対するAl_(2)O_(3)粒界2の長さの比となるAl_(2)O_(3)粒界2の相対長さは、ZrO_(2)の含有量と焼結密度に依存することとなるのである。即ち、ZrO_(2)の含有量が多ければ、Al_(2)O_(3)粒界2の相対長さは減少するようになるのであり、また、ZrO_(2)の多くが粒界三重点に存在したり、或いは、焼結体内部の気孔が少なければ、Al_(2)O_(3)粒界2の相対長さは増加することとなる。
【0023】
本発明にあっては、かかるAl_(2)O_(3)粒界2の長さ、換言すればAl_(2)O_(3)結晶粒子同士が直接に接触している粒界長さが、粒界総長さに対して60%以上であるように調整することによって、ZrO_(2)結晶粒子の均質分散による基板の高強度化と高熱伝導化を図るようにしたものである。これに対して、かかるAl_(2)O_(3)粒界2の長さが、粒界総長さの60%よりも少ない割合となると、ZrO_(2)粒界1の長さや第1気孔粒界3の長さ、第2気孔粒界4の長さが大きくなるために、目的とする曲げ強度や熱伝導率を実現することが困難となるのである。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0025】
そして、かくの如く、Al_(2)O_(3)を主成分とし、ZrO_(2)とY_(2)O_(3)を所定割合で含有する焼結体からなるアルミナジルコニア焼結基板において、Al_(2)O_(3)の平均結晶粒子径を2μmよりも大きく、7μm以下であるように調整し、更にAl_(2)O_(3)の結晶粒子同士が直接に接触している粒界長さが、粒界総長さの60%以上となるように構成することによって、熱伝導率が30W/m・K以上であり、且つ曲げ強度が500MPa以上である特性を、有利に実現せしめ得たのである。即ち、基板に対して、30W/m・K以上の熱伝導率を付与することにより、基板の放熱特性が向上され、以てそれを組み込んでなるモジュールの放熱性が向上せしめられ得ることとなるのであり、また基板の曲げ強度が500MPa以上となることにより、基板の薄型化が可能となり、更に金属板の接合時における応力にも耐え得る等の強度を備えることとなって、モジュールの信頼性の向上に大きく寄与し得ることとなるのである。なお、熱伝導率が30W/m・K未満では、高負荷のかかるパワーモジュールとして使用することが出来なくなるのであり、また曲げ強度が500MPa未満では、金属板の接合時に基板が破壊されてしまう等の問題を生じるようになるのである。」

オ.「【0036】
そして、かくの如き焼成操作によって得られる、本発明に従うアルミナジルコニア焼結基板は、一般に、0.1?1.0mmの板厚のものとして形成されることとなるが、そのような基板には、その少なくとも一方の面に対して、常法に従って、箔状の薄い銅板又はアルミニウム板が接合せしめられて、半導体装置用の基板として用いられることとなる。このような銅板又はアルミニウム板の貼付けによって、熱伝導性乃至は放熱性の向上が有利に図られ得るのである。」

カ.「【0038】
先ず、セラミック原料粉末として、平均粒子径(D50、以下同じ)が1.7μmであるAl_(2)O_(3)粉末と、ZrO_(2)に5重量%のY_(2)O_(3)を固溶せしめて得られた、平均粒子径が0.5μmのZrO_(2)-Y_(2)O_(3)粉末を、それぞれ準備した。また、焼結助剤として、マグネサイトとカオリンとガラスとを混合粉砕して得られた、全体の平均粒子径が2.4μmである混合粉末を準備した。そして、それら3種の粉末のうち2種又は3種を、下記表1に示される割合にて用いることにより、実施例1?4の原料粉末及び参考例1?7の原料粉末を構成した。
【0039】
【表1】



キ.「【0045】
【表2】



・上記先願明細書に記載の「半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板」は、上記「ア.」の【請求項1】、「エ.」、「カ.」、「キ.」の記載事項によれば、Al_(2)O_(3)を主成分とし、ZrO_(2)とY_(2)O_(3)を所定割合で含有する焼結体からなる半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板である。そして、当該焼結体は、ZrO_(2):2?15重量%(例えば実施例1では9.5重量%)、Y_(2)O_(3):0.01?1重量%(例えば実施例1では0.5重量%)及びAl_(2)O_(3):残部(例えば実施例1では90.0重量%)からなり、Al_(2)O_(3)の平均結晶粒子径が2μmよりも大きく、7μm以下である(例えば実施例1では3μm)と共に、Al_(2)O_(3)粒子同士が直接に接触している粒界長さが粒界総長さの60%以上(例えば実施例1では70%)であって、熱伝導率が30W/m・K以上(例えば実施例1では30.5W/m・K)である。
・上記「ア.」の【請求項8】、「イ.」、「オ.」の記載事項によれば、基板の少なくとも一方の面に、箔状の薄い金属板(銅板又はアルミニウム板)が接合せしめられてなるものである。
・そして、上記「イ.」、「ウ.」の記載事項によれば、当該半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板は、パワートランジスタモジュールの如き半導体装置に用いられ、半導体チップがハンダ付け等によって搭載されてなるものである。

したがって、上記半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板の少なくとも一方の面、特に半導体チップが搭載される側の面に箔状の薄い金属板が接合せしめられてなるものを発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、先願明細書には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「Al_(2)O_(3)を主成分とし、ZrO_(2)とY_(2)O_(3)を所定割合で含有する焼結体からなる半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板であって、少なくとも半導体チップがハンダ付け等によって搭載される側の面に箔状の薄い金属板が接合せしめられてなる、パワートランジスタモジュールの如き半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板において、
前記焼結体は、ZrO_(2):2?15重量%、Y_(2)O_(3):0.01?1重量%及びAl_(2)O_(3):残部からなり、
前記Al_(2)O_(3)の平均結晶粒子径が2μmよりも大きく、7μm以下であると共に、Al_(2)O_(3)粒子同士が直接に接触している粒界長さが粒界総長さの60%以上であり、
前記焼結体の熱伝導率が30W/m・K以上である、パワートランジスタモジュールの如き半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板。」

(3)対比・判断
そこで、本願補正発明と先願発明とを対比する。
ア.先願発明における「Al_(2)O_(3)を主成分とし、ZrO_(2)とY_(2)O_(3)を所定割合で含有する焼結体からなる半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板であって、少なくとも半導体チップがハンダ付け等によって搭載される側の面に箔状の薄い金属板が接合せしめられてなる、パワートランジスタモジュールの如き半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板において」によれば、
(a)先願発明における「Al_(2)O_(3)」、「ZrO_(2)」、「Y_(2)O_(3)」、これらAl_(2)O_(3)等を所定割合で含有する「焼結体」は、それぞれ本願補正発明でいう「酸化アルミニウム」、「二酸化ジルコニウム」、「酸化イットリウム」、「セラミック層」に相当する。
(b)先願発明における「箔状の薄い金属板」は、本願補正発明でいう「金属
被覆」に相当し、そして、その箔状の薄い金属板が少なくとも半導体チップがハンダ付け等によって搭載される側の面に接合せしめられてなる先願発明の「パワートランジスタモジュールの如き半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板」は、本願補正発明でいう「金属・セラミック基板」に相当するものである。ここで、先願発明の「半導体装置用アルミナジルコニア焼結基板」にあっても、2つの表面側(表面側と裏面側)、すなわち本願補正発明でいう「第1の表面側」と「第2の表面側」とを有することは自明なことである。
したがって、本願補正発明と先願発明とは、「第1の表面側と第2の表面側とを有し、前記表面側の少なくとも1つに金属被覆が施されている、少なくとも1つのセラミック層を備える金属・セラミック基板であって、前記セラミック層を形成するセラミック材料が酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとを含むような金属・セラミック基板」である点で一致する。

イ.先願発明における「前記焼結体は、ZrO_(2):2?15重量%、Y_(2)O_(3):0.01?1重量%及びAl_(2)O_(3):残部からなり」によれば、
(a)焼結体におけるZrO_(2)(二酸化ジルコニウム)は2?15重量%であることから、本願補正発明で特定するセラミック層の総重量に対して「2?15重量%」という条件(範囲)に一致する。
(b)焼結体におけるY_(2)O_(3)(酸化イットリウム)は0.01?1重量%であることから、本願補正発明で特定するセラミック層の総重量に対して「0.01?1重量%」という条件(範囲)に一致する。
(c)そして、焼結体におけるAl_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)は残部からなることから、その範囲は84?97.99重量%であり、本願補正発明で特定するセラミック層の総重量に対して「84?97重量%」という条件(範囲)を満たしている。
したがって、本願補正発明と先願発明とは、「酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとが、前記セラミック層において、その総重量に対して以下の割合:・二酸化ジルコニウムが2?15重量%;・酸化イットリウムが0.01?1重量%および・酸化アルミニウムが84?97重量%で含まれて」いる点で一致する。

ウ.先願発明における「前記Al_(2)O_(3)の平均結晶粒子径が2μmよりも大きく、7μm以下であると共に、Al_(2)O_(3)粒子同士が直接に接触している粒界長さが粒界総長さの60%以上であり」によれば、
(a)Al_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)の平均結晶粒子径が2μmよりも大きく7μm以下であることから、本願補正発明で特定する平均粒径が「2?8μm」という条件(範囲)を満たしている。
(b)さらに、Al_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)粒子同士が直接に接触している粒界長さが粒界総長さの60%以上であり、比率でいえば0.6以上であることから、本願補正発明で特定する酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が「0.6より大きく」という条件(範囲)を満たしている。
したがって、本願補正発明と先願発明とは、「使用する酸化アルミニウムの平均粒径が2?7μmであり、かつ、酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が0.6より大きい」ものである点で一致する。

エ.先願発明における「前記焼結体の熱伝導率が30W/m・K以上である」によれば、
熱伝導率が30W/m・K以上であることから、本願補正発明で特定する熱伝導率が「25W/mKより大きい」という条件(範囲)を満たしている。
したがって、本願補正発明と先願発明とは、「前記セラミック層の熱伝導率が30W/mK以上である」点で一致する。

よって、本願補正発明と先願発明とは、
「第1の表面側と第2の表面側とを有し、前記表面側の少なくとも1つに金属被覆が施されている、少なくとも1つのセラミック層を備える金属・セラミック基板であって、前記セラミック層を形成するセラミック材料が酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとを含むような金属・セラミック基板において、酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとが、前記セラミック層において、その総重量に対して以下の割合:
・二酸化ジルコニウムが2?15重量%;
・酸化イットリウムが0.01?1重量%および
・酸化アルミニウムが84?97重量%
で含まれており、使用する酸化アルミニウムの平均粒径が2?7μmであり、かつ、酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が0.6より大きく、
前記セラミック層の熱伝導率が30W/mK以上である、ことを特徴とする金属・セラミック基板。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点]
金属被覆について、本願補正発明では、「構造化」されており、層厚が「0.05?1.2mm」である旨を特定するのに対し、先願発明では、構造化や層厚に関する明確な特定を有していない点。

上記相違点について検討する。
半導体装置用のセラミック基板に接合する金属板としてその厚さが本願補正発明で特定する範囲を満たす値のものを用いることや、そのような金属板のうち、半導体チップが搭載される側の面の金属板をパターニングして複数の接触領域(接触面)を有する回路パターンを形成すること、すなわち本願補正発明でいう「構造化」することは、いずれも一般的に行われていることであり〔必要であれば、例えば原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2010/114126号(特に段落[0059]?[0061]、[0062]、図8)や特開平7-38014号公報(特に段落【0003】、【0017】、図1)を参照〕、先願明細書に記載されているに等しい技術事項である。

よって、上記相違点は実質的な相違ではなく、本願補正発明と先願発明とは実質的に同一である。

(4)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、先願発明と実質的に同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願出願時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
令和1年5月28日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成30年8月7日付け手続補正についても平成31年1月21日付けで補正却下の決定がなされているので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年9月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1の表面側(2a)と第2の表面側(2b)とを有し、前記表面側(2a、2b)の少なくとも1つに金属被覆(3、4)が施されている、少なくとも1つのセラミック層(2)を備える金属・セラミック基板であって、前記セラミック層(2)を形成するセラミック材料が酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとを含むような金属・セラミック基板において、酸化アルミニウムと二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとが、前記セラミック層(2)において、その総重量に対して以下の割合:
・二酸化ジルコニウムが2?15重量%;
・酸化イットリウムが0.01?1重量%および
・酸化アルミニウムが84?97重量%
で含まれており、使用する酸化アルミニウムの平均粒径が2?8μmであり、かつ、酸化アルミニウム粒の粒界長さと全粒界の全長との比率が0.6より大きく、
前記金属皮膜は構造化されている、ことを特徴とする金属・セラミック基板。」

(1)先願発明
原査定の拒絶の理由で引用された先願、先願明細書の記載事項、及び先願発明は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「金属被覆」について、「層厚が0.05?1.2mm」であることの限定、すなわち前記「2.(3)」で認定した[相違点]に係る構成の一部を省き、さらに、同じく発明特定事項である「セラミック層」について、「熱伝導率が25W/mKより大きい」ことの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(3)」に記載したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、本願補正発明から他の限定事項を省いたものである本願発明も、同様の理由により、先願発明と実質的に同一である。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲
 
審理終結日 2020-06-12 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2015-538300(P2015-538300)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 161- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 井上 信一
石川 亮
発明の名称 金属・セラミック基板および金属・セラミック基板の製造方法  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  
代理人 桑垣 衛  

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