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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1368484
審判番号 不服2019-14889  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-06 
確定日 2020-11-19 
事件の表示 特願2015-178855「表示素子用封止剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 66605〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-178855号(以下「本件出願」という。)は、平成27年9月10日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年9月16日)にされた特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 3月25日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月 9日付け:手続補正書、意見書
令和 元年10月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年11月 6日付け:審判請求書
令和 元年11月 6日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年11月6日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前、すなわち、令和元年5月9日付け手続補正書による手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物と、重合開始剤とを含有し、
前記1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と前記1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合が重量比で3:97?85:15であることを特徴とする表示素子用封止剤。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお、下線は当合議体が付したものであり、補正箇所を示す。
「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物と、重合開始剤とを含有し、
前記1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と前記1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合が重量比で15:85?75:25であることを特徴とする表示素子用封止剤。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)を特定するために必要な事項である「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物」及び「1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物」の配合割合を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0029】の記載に基づいて、重量比で「3:97?85:15」から「15:85?75:25」へと限定する補正(以下「補正事項」という。)を含むものである。
また、本願発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。(本件出願の明細書の【0007】参照。)
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献2及び引用発明
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された、特開平9-110983号公報(以下「引用文献2」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定、判断等に活用した箇所を示す。

(ア)「【請求項1】 下記式(1)
【化1】

から選択されるが、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)のいずれか1個がHの場合、他のいずれか1個は
【化2】

を表し、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)のいずれか2個がHの場合、他の2個は
【化3】

から選択され、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)の3個以上がHとなることはない。)、
下記式(2)
【化4】

(mは1?3の整数を示す。)及び下記式(3)
【化5】

(nは0?3の整数を表す。)のいずれかにより表される官能基を4個以上有するポリチオールと、一分子中にa個の反応性不飽和結合及び/又はb個のエポキシ基及び/又はc個のイソ(チオ)シアナト基を有する化合物(但し、a+b+c≧2であり、aとbは同時に0ではない。)を含むポリスルフィド系樹脂組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項4】 一分子中にa個の反応性不飽和結合及び/又はb個のエポキシ基及び/又はc個のイソ(チオ)シアナト基を有する化合物が、2個以上の反応性不飽和基を有する化合物である請求項1の樹脂組成物。
【請求項5】 2個以上の反応性不飽和基を有する化合物に加えて、ポリイソ(チオ)シアナト化合物を含む請求項4の樹脂組成物。
【請求項6】 官能基を4個以上有するポリチオール(1)、(2)、(3)のいずれかに加え他のチオール基又は水酸基を含むチオール化合物を含む請求項5の樹脂組成物。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高屈折率で、極めて低分散であり、耐熱性、耐衝撃性、耐擦傷性に優れモノマー取り扱い時、及び後の加工時において、硫黄臭の極めて少ないポリスルフィド系樹脂組成物、該樹脂及びその樹脂よりなる光学材料、特にレンズ、に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックレンズは無機レンズに比べ、軽量で割れにくく、染色が容易なため、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。これらの目的に従来広く用いられている樹脂としては、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(以下D.A.C.と称す)をラジカル重合させたものがある。この樹脂は耐衝撃性、染色性に優れていること、軽量であること、切削性及び研磨性等の加工性が良好であることなどの特徴を有している。
【0003】しかしながら、D.A.C.レンズは屈折率が無機レンズ(nD=1.52)に比べてnD=1.50と小さく、無機レンズと同等の光学特性を得るためにはレンズの中心厚、コバ厚、及び曲率を大きくする必要があり、全体的に肉厚になることが避けられない。このため、より屈折率の高いレンズ用樹脂が望まれている。
【0004】本発明者らは先に、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン(以下、GSTと称す)を見出し、これと1分子中に2個以上の反応性不飽和結合を有する化合物とを反応させることにより、高い屈折率を有し、取り扱い及び加工時に硫黄臭の極めて少ない樹脂が得られることを見出した(特開平3-84031号公報)。ところが、このGSTを用いた樹脂は優れた光学物性を有するものの、耐熱性が充分ではなく、例えば、通常60?90℃程度の熱がかかる染色等後加工の際に、レンズの変形がおこり易いなどの問題が有った。また、耐衝撃性も用途によっては不充分であった。
【0005】また、特開平7-26089号公報には、GSTを含むポリチオールとジビニルベンゼン等芳香族オレフィンモノマーよりなる注型用ポリマー組成物及びそれよりなるレンズが開示されている。しかしながらこれらのレンズは耐衝撃性、また、実用的な耐擦傷性においてさらに課題があった。
【0006】さらに、特開平5-025240号公報においては、ポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物とポリエン化合物の重合物からなるレンズ用組成物が提案されている。しかし同公報の記載には、ポリエン化合物の使用量は50重量%以上使用することが好ましく、ポリエン化合物の使用量を下げると十分な耐熱性、表面硬度が得られないとある。しかも記載のポリエン化合物の使用範囲では耐衝撃性は、1.5mmの厚さのレンズを用いて、127cmからの鉄球落下試験にて、たかだか36gであり、十分な耐衝撃性を有しているとは言えなかった。得られたレンズも割れやすいものであり、又、実用的な耐擦傷性も不充分であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このような状況に鑑み、本発明の目的は、極めて低分散で、高い屈折率を有し、耐衝撃性、耐擦傷性、耐熱性に優れ、眼鏡レンズやカメラレンズ等の光学素子材料やグレージング材料、塗料、接着剤の材料として好適である新規なポリスルフィド系樹脂を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのポリスルフィド系樹脂よりなる光学材料、特に前述の課題を解決するレンズを提供することである。」

(ウ)「【0055】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明する。なお、得られたレンズの性能試験のうち、屈折率、アッベ数、耐熱性、染色性は以下の試験法により評価した。
屈折率、アッベ数;ブルフリッヒ屈折計を用い、20℃で測定した。
屈折率、アッベ数;ブルフリッヒ屈折計を用い、20℃で測定した。
耐熱性;オーブンで100℃、1時間、加熱した後、レンズの両端に力を加えたとき、殆ど撓まなかったものを〔A〕、少し撓んだものを〔B〕、大きく撓んだものを〔C〕とした。
染色性;三井東圧染料(株)製のプラスチックレンズ用分散染料であるML-Yellow、ML-Red、ML-Blueを各5g/lの水溶液に調整した90℃の染色浴に1.0mmの厚さのレンズを5分間浸積した後、レンズの染色性を目視にて観察した。
染色耐熱性;90℃の染色浴に1.0mmの厚さのレンズを5分間浸積した後、レンズが変形しているか否かを目視にて観察した。
耐衝撃性;中心厚1mmのレンズについてFDA規格に従いテストした。割れなかったものを〔A〕、ひびが入ったが貫通しなかったものを〔B〕、貫通して穴があいたものを〔C〕とした。
耐擦傷性;実用的な耐擦傷性のテストとして、#000のスチールウールを使用してレンズ表面をこすり、D.A.Cレンズと同程度の傷つき難さのものを〔A」、スペクトラライト^(TM) と同程度の傷つき難さのものを〔B〕、スペクトラライト^(TM) よりも傷つき易いものを〔C〕とした。
【0056】実施例1
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタジオキサン(以下SEPと称す) 20.1重量部、4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール(以下FSHと称す) 13.8重量部、硬化触媒として、トリエチレンジアミン(以下、TEDAと略す)をモノマー混合物に対して1.5%、内部離型剤としてZelec UN(デュポン社製)をモノマー混合物に対して2.0%加えた混合物を減圧下、室温で攪拌、脱泡を1時間行い、モールドに注入後、70℃?120℃で、20時間かけて固化させた。
・・・(中略)・・・
【0078】実施例35
イソホロンジイソシアナート(以下IPDIと略す)31.3部、4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジオール(以下FSHと略す) 38.7部とエチレングリコールジメタクリレート(以下EGDMAと略す) 30.0部とジブチル錫ジクロライド 0.02重量%(混合物全体に対して)を混合し均一溶液とし、十分に脱泡した後、暗室にてダロキュアー1173(チバガイギー社製) 0.5部を加え、さらに攪拌し、離型処理を施したガラスモールドとガスケットよりなるモールド型に注入した。次いで、高圧水銀灯を用いて光を15分間照射し、さらに120℃のオーブン中にて2時間かけて加熱硬化させた。重合終了後、冷却して、レンズをモールドより取り出した。得られたプラスチックレンズは無色透明であり、光学歪みや脈理はほとんどなく、屈折率nd=1.580,アッベ数νd=41であった。また90℃の染色浴で染色すると、染色性は良好でレンズは変形しなかった。またスチールウールにて強く磨耗しても傷はつかず耐擦傷性の評価はA、鉄球落下試験では114gにても割れず耐衝撃性の評価もAだった。
・・・(中略)・・・
【0081】実施例38
実施例35と同様にm-キシリレンジイソシアナート(以下XDIと略す)28.4部、FSH 41.6部とEGDMA 30.0部とジブチル錫ジクロライド0.02重量%(混合物全体に対して)とダロキュアー1173 0.5部を用いてレンズを作製した。得られたプラスチックレンズは無色透明であり、光学歪みや脈理はほとんどなく、屈折率nd=1.616,アッベ数νd=35であった。また90℃の染色浴で染色すると、染色性は良好でレンズは変形しなかった。またスチールウールにて強く磨耗しても傷はつかず耐擦傷性の評価はA、鉄球落下試験では114gにても割れず耐衝撃性の評価もAだった。
【0082】実施例39
実施例35と同様にXDI 12.3部、IPDI 17.8部、FSH 39.9部とトリメチロールプロパントリメタクリレート(以下TMPTMAと略す) 30.0部とジブチル錫ジクロライド 0.02重量%(混合物全体に対して)とダロキュアー11730.5部を用いてレンズを作製した。得られたプラスチックレンズは無色透明であり、光学歪みや脈理はほとんどなく、屈折率nd=1.594,アッベ数νd=41であった。また90℃の染色浴で染色すると、染色性は良好でレンズは変形しなかった。またスチールウールにて強く磨耗しても傷はつかず耐擦傷性の評価はA、鉄球落下試験では114gにても割れず耐衝撃性の評価もAだった。
【0083】実施例40?54
実施例35と同様にモノマーを代えてレンズを作製し、得られたレンズの光学物性、染色性、耐熱性、耐衝撃性を測定した。その結果を表3に示した。
・・・(中略)・・・
【0087】
【表3】

・・・(中略)・・・
【0102】
【発明の効果】実施例からも明らかのように、本発明に係わるポリスルフィド系樹脂は良好な光学物性と優れた耐衝撃性、耐熱性、耐擦傷性を有しており、しかも光重合を使えばより短時間で重合が可能であり、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子材料やグレージング材料、塗料、接着剤の材料として好適である。」

イ 引用発明
上記アによれば、引用文献2には、請求項1、4及び5を引用する請求項6に係る樹脂組成物の発明を具体化した、樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなるレンズの発明が開示されている。(【0078】?【0087】、実施例49)。また、引用文献2の【0102】には、当該樹脂組成物の発明について、発明の効果及びその用途が記載されている。
以上総合すれば、引用文献2には、次の樹脂組成物の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 下記式(1)
【化1】

から選択されるが、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)のいずれか1個がHの場合、他のいずれか1個は
【化2】

を表し、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)のいずれか2個がHの場合、他の2個は
【化3】

から選択され、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4)の3個以上がHとなることはない。)、
下記式(2)
【化4】

(mは1?3の整数を示す。)及び下記式(3)
【化5】

(nは0?3の整数を表す。)のいずれかにより表される官能基を4個以上有するポリチオールと、一分子中にa個の反応性不飽和結合及び/又はb個のエポキシ基及び/又はc個のイソ(チオ)シアナト基を有する化合物(但し、a+b+c≧2であり、aとbは同時に0ではない。)を含むポリスルフィド系樹脂組成物であって、
一分子中にa個の反応性不飽和結合及び/又はb個のエポキシ基及び/又はc個のイソ(チオ)シアナト基を有する化合物が、2個以上の反応性不飽和基を有する化合物であり、
2個以上の反応性不飽和基を有する化合物に加えて、ポリイソ(チオ)シアナト化合物を含み、
官能基を4個以上有するポリチオール(1)、(2)、(3)のいずれかに加え他のチオール基又は水酸基を含むチオール化合物を含み、
良好な光学物性と優れた耐衝撃性、耐熱性、耐擦傷性を有しており、光重合を使えばより短時間で重合が可能であり、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子材料やグレージング材料、塗料、接着剤の材料として好適であって、
XDI(m-キシリレンジイソシアナート) 28.9重量部、FSH(4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール) 21.1重量部、GST(1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン) 20.0重量部、TMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート) 30.0重量部とジブチル錫ジクロライド0.02重量%(混合物全体に対して)を混合し均一溶液とし、十分に脱泡した後、ダロキュアー1173(チバガイギー社製) 0.5部を加えた樹脂組成物。」

(3)引用文献1の記載
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、特開昭63-235332号公報(以下「引用文献1」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

(ア)「(特許請求の範囲)
〔A〕(1) 一般式(I)


(式中、R^(1)、R^(2)は同じでも異なっていてもよく、HまたはCH_(3)基を示し、R^(3)は炭素数が2?20のOH基を含んでいてもよい置換もしくは無置換の脂肪族多価アルコール残基または置換もしくは無置換のポリアルキレンエーテルポリオール残基を示し、mは1?2の整数を示す。)
で表わされるポリエン化合物(I)、
(2) 一般式(II)
R^(4)-(SH)p (II)
(式中、R^(4)は炭素数が2?10のOH基を含んでいてもよい置換もしくは無置換の多価脂肪族炭化水素残基を示し、pは2?4の整数を示す。)
で表わされるポリチオール化合物(II)及び/または
(3) 一般式(III)

(式中、R^(5)は炭素数が2?20のOH基を含んでいてもよい置換もしくは無置換の脂肪族多価アルコール残基を示し、qは1?2、rは2?4の整数を示す。)
で表わされるポリチオール化合物(III)とをポリエン化合物(I)のポリチオール化合物(II)及び/または(III)に対する官能基当量比が2?10の範囲において、塩基触媒の存在下、予め付加反応させて得られる少なくとも50重量%の液状重合性プレポリマーと
〔B〕多くとも50重量%の屈折率が1.45以上の重合性脂肪族多官能ビニルモノマーの混合物の硬化物からなることを特徴とする光学用素子。」

(イ)「(第6頁右上欄第12行-左下欄第9行)
本発明において得られる光学用素子とは,例えばスチールカメラ用,ビデオカメラ用,望遠鏡用,眼鏡用等のいわゆるレンズ類,コンパクトディスク,ビデオディスク用等の光学的に読み取り,再生,書きこみを行ういわゆる光ディスク類,液晶等の表示用素子を封止するための透明封止材類等,光を透過または反射することによって機能を発揮する素子をいう。
〔発明の効果〕
本発明に係る液状重合性プレポリマーまたは液状重合性プレポリマーと重合性脂肪族多官能ビニルモノマーとの混合物は,貯蔵安定性が良好であり,かつこれらの硬化物からなる光学用素子は重合斑がなく,耐光性に優れ,かつ屈折率が1.51?1.53で,かつアッベ数が50以上であって,前記した従来の光学用素子の問題点を解決したものである。」

(ウ)「(第6頁左下欄第10行-第9頁上欄)
〔実施例〕
以下,実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
参考例1
攪拌機,滴下ロート付の2l-セパラフルフラスコに,室温でエチレングリコールジメタクリレート750重量部を仕込んだ後,ジエチルアミン2重量部を攪拌下に添加し,溶解した。次いで,これにエチレングリコールジチオグリコレート250重量部を30分かけて滴下した。発熱が止むまで室温下で攪拌し,発熱が止んだ後,40℃で10時間攪拌した。反応終了後,強塩基吸着用無機吸着剤(協和化学工業(株)社製,キョーワード700SL)を50重量部添加してジエチルアミンを除去した。吸着剤を濾別し,液状重合性プレポリマーを得た。
・・・(中略)・・・
参考例2?8
ポリエン化合物,ポリチオール化合物,塩基性触媒,付加反応温度及び付加反応時間を表1に示した条件とした以外は,参考例1と同様の操作で付加反応を行った。その結果を表1中に示した。
これらの結果は,全て実質的にポリチオエーテル骨格の液状重合性プレポリマーを得たことを示唆していた。


実施例1
参考例1で得られた液状重合性プレポリマー100重量部に,アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部を混合,溶解した後,溶液をエチレン-酢酸ビニル樹脂製ガスケットと2枚のガラス板からなるモールド中に注入し,熱風炉中で30℃で2時間,35℃で10時間加熱した後,8時間かけて80℃まで昇温した。その後,ガスケット及びモールドをはずし,硬化物を得た。得られた硬化物を120℃で2時間加熱し,アニール処理を行なったところ,無色透明な硬化物が得られた。
硬化物の物性値を表2に示した。
実施例2?8及び比較例1?3
参考例2?7及び比較参考例1?3で得られたプレポリマーを使用し,表2に示した量のラジカル重合開始剤を使用した以外は,実施例1と同様な方法で重合を行なった。
得られた硬化物の物性値を表2に示した。



イ 引用文献1に記載された技術的事項
上記アによれば、引用文献1には、特許請求の範囲に係る光学用素子の発明が記載されている。また、引用文献1の第6頁右上欄第12行-第19行には、当該光学用素子の発明について、その用途が記載されている。加えて、第6頁左下欄第10行-第9頁上欄には実施例8として、プレポリマーからなる硬化物が記載されている。
以上総合すれば、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)と、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート(PETTG)及び2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(DMPOL)とを含む液状重合性プレポリマーと、ラジカル重合開始剤とを含有した硬化物からなり、
レンズ類,光ディスク類,液晶等の表示用素子を封止するための透明封止材類等,光を透過または反射することによって機能を発揮する光学用素子。」

(4)引用文献3の記載
ア 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において周知例として引用された、特開2007-65349号公報(以下「引用文献3」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

(ア)「【請求項1】
粘度が80℃で50000mPa・s以下であり、20℃で固体である凝集型光硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする液晶注入口封止剤。
【請求項2】
凝集型光硬化性樹脂組成物が1分子中に2個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物と、光重合開始剤とを含む請求項1に記載の液晶注入口封止剤。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶注入口封止剤および液晶表示セルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエン-ポリチオール系光硬化性樹脂は、塗料、接着剤、シーラント等に使用され、(例えば、特許文献1、2等参照)、昨今では、液晶注入口封剤の用途にも良好に使用されている(特許文献3?6等参照)。
【0003】
すなわち、これら液状のポリエン-ポリチオール系光硬化性樹脂は、エポキシやアクリル系樹脂等と比べると液晶非汚染性に優れており液晶注入口封口剤として好適に用いられている。」

イ 引用文献3に記載された技術的事項
以上の記載に基づけば、引用文献3には、「ポリエン-ポリチオール系光硬化性樹脂は、エポキシやアクリル系樹脂等と比べると液晶非汚染性に優れており、塗料、接着剤、シーラント等に使用され、液晶注入口封剤の用途にも良好に使用されている」という技術的事項が記載されていると認められる。

(5)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物
引用発明の「FSH(4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール)」は、技術的にみて、本件補正後発明の「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物」に相当する。

イ 1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物
引用発明の「GST(1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン)」は、技術的にみて、本件補正後発明の「1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物」に相当する。

また、引用発明は、FSH(4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール) 21.1重量部及びGST(1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン) 20.0重量部の配合割合であるから、本件補正後発明の「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と前記1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合が重量比で15:85?75:25である」という要件を満たす。

ウ 1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物
引用発明の「TMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)」は、本件補正後発明の「1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物」に相当する。

エ 重合開始剤
引用発明の「ダロキュアー1173」は、技術的にみて、本件補正後発明の「重合開始剤」に相当する。

オ 樹脂組成物
本件補正後発明の「表示素子用封止剤」は、その組成から樹脂組成物であることは明らかであるから、本件補正後発明と引用発明とは、「樹脂組成物」である点で共通する。

(6)一致点・相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上の炭素-炭素二重結合を有するポリエン化合物と、重合開始剤とを含有し、前記1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と前記1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合が重量比で15:85?75:25である、樹脂組成物」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点)
本件補正後発明は、「表示素子用封止剤」であるのに対して、引用発明は、「樹脂組成物」であって「表示素子用封止剤」ではない点。

(7)判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、良好な光学物性と優れた耐衝撃性、耐熱性、耐擦傷性を有しており、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子材料だけでなく、塗料、接着剤の材料としても使用可能であることが記載されている。
また、引用文献1には、上記(3)イのとおりの技術的事項、引用文献3には上記(4)イのとおりの技術的事項がそれぞれ記載されており、ポリチオール化合物とポリエン化合物とを含有した組成物が表示素子用封止剤として好適に用いられることは、先の出願前における周知技術であったことが理解できる。
以上によれば、引用文献1及び3の記載事項に接した当業者が、引用発明における「樹脂組成物」を、相違点に係る「表示素子用封止剤」とすることは容易に想到し得たことである。

(8)効果
本件補正後発明の効果に関して、本願明細書の【0078】には、「本発明によれば、アウトガスの発生を抑制することができ、接着性、及び、硬化物の透明性に優れる表示素子用封止剤を提供することができる。」と記載されている。 しかしながら、このような効果は、エン-チオール系樹脂組成物に用いるポリチオール化合物として、1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と、1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物とを組み合わせて用いることによって得られるものであるから、引用発明も奏する効果といえる。

(9)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記 [補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明の原査定の拒絶の理由は、本願発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開昭63-235332号公報
引用文献2:特開平9-110983号公報
(当合議体注:引用文献2は、主引用例であり、引用文献1は、副引用例である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献2の記載及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正後発明における、「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合」を、重量比「15:85?75:25」から「3:97?85:15」へ拡張したものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「1分子中に4個以上のチオール基を有するポリチオール化合物と1分子中に2個以上3個以下のチオール基を有するポリチオール化合物との配合割合」の数値範囲が本願発明より限定されたものである本件補正後発明が、前記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献2に記載された発明及び引用文献1及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献2に記載された発明及び引用文献1及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-14 
結審通知日 2020-09-15 
審決日 2020-10-05 
出願番号 特願2015-178855(P2015-178855)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 聖司三笠 雄司  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 表示素子用封止剤  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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