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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1368491 |
審判番号 | 不服2020-2159 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-18 |
確定日 | 2020-11-19 |
事件の表示 | 特願2016- 14783号「照明システム、及び、鶏の飼育方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017-135028号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年1月28日の出願であって、令和1年7月19日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日付けで意見書が提出されたが、同年12月5日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年2月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 養鶏に用いられる照明システムであって、 発光ピーク波長が480nm以上580nm以下の光を発する光源部と、 鶏の育成期間における育成前期に、前記光源部が発する前記光を鶏の飼育領域に照射する制御を行う制御部とを備える 照明システム。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 (1)この出願の請求項1、4、6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)この出願の請求項2?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)この出願の請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特表昭59-501576号公報 引用文献2:特開2005-137238号公報 引用文献3:特開2014-150756号公報 引用文献4:特開2011-253813号公報 第4 引用文献の記載事項及び引用発明等 1 引用文献1について 1-1 記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。以下同様である。)。 (1a)第5ページ左上欄第5行?右上欄第12行 「本発明ではまた、波長400?600ナノメーターの狭い緑色帯範囲の発光装置を用いるもう1つの方法を提示している。本発明では放射線の80%が狭い緑色帯に存在するような螢光ランプを案出した。養鶏における本実験では、このスペクトル帯内の波長での放射がひな鳥の成長率の向上という価値ある特性を有することが証明されている。更に、ロブスターについてもこれらの波長を有する照明を施された場合、成長率の向上が明らかになっている。このランプは螢光体としてセリウム・テルビウム・マグネシウム・アルミン酸塩を用いており、このランプの総放射量の最大割合は波長約544ナノメーター付近である。 次の表は、このランプからの総放射量のスペクトル表示である。 波長帯(ナノメーター) 総放射量% < 480 9.7 480 - 500 11.4 500 - 520 1.2 520 - 540 3.6 540 - 560 50.7 560 - 580 2.4 580 - 600 9.2 600 - 620 2.0 > 620 9.8 この特定波長帯内の放射線は多くの生物の成長を促進する。これらの波長における放射線は特に家禽類の成長促進に効果的である。そこで本発明では産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで、まず前記の緑色帯範囲内螢光照明で照射することによる家禽類生産の改善法を案出した。なお先に述べたように、この適正体重はふ化場で簡単にわかり、いつでも入手できる。性的発達に必要なこのような適正体重には、通例の照明源を使用するよりも2?4週間早く到達する。」 1-2 引用発明 上記1-1より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「養鶏に用いられる発光装置であって、 放射線の80%が狭い緑色帯に存在し、総放射量の最大割合は波長約544ナノメーター付近である螢光ランプと、 産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで、まず前記の緑色帯範囲内螢光照明で照射する発光装置。」 2 引用文献2について 2-1 記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (2a)「【請求項1】 半導体光源から発せられる波長480?580nmの範囲にピーク波長を有する光を有用家畜に照射することを特徴とする有用家畜の肥育方法。 (2b)「【0001】 本発明は、有用家畜の肥育方法及び肥育装置に関するものである。 【背景技術】 【0002】 鶏や豚などの有用家畜は、温度が管理された畜舎内での人工飼育によって、1年を通して孵化、出産及び飼育が行われている。人工飼育の生産性を高効率化するためには、飼育個体数は多数にならざるを得ず、飼育場所は寒冷地や山間地となることが多い。また、大面積の飼育設備と有用家畜の排便臭気対策が必須となるため、飼育設備は完全閉鎖型の構造を採用することが多い。」 (2c)「【0025】 有用家畜としては、豚、牛、山羊、羊等が挙げられるが、豚であることが好ましい。 【0026】 半導体光源から発せられる光のピーク波長の範囲は、480?580nmであり、480?560nmであることが好ましく、530?580nmであることがより好ましい。かかる範囲の光は緑色を呈しており、有用家畜の肥育を促進できる。また、半導体光源から発せられる光の照度は、有用家畜の表面(一部の面であってよい。)で10ルクス以上であることが好ましく、100?200ルクスであることがより好ましい。なお、半導体光源から発せられる光のピーク波長の範囲が上記範囲内にあり、ピーク波長が異なる2種類以上の半導体光源を組み合わせて有用家畜に照射しても産肉の増量に効果的である。例えば、光源として、ピーク波長が500nmの半導体光源とピーク波長が565nmの半導体光源とを組み合わせて使用してもよい。」 (2d)「【0029】 図1は、本発明の有用家畜の肥育装置の第1の実施形態の概略斜視図である。図2は、LED照射灯の平面図である。本実施形態に係る有用家畜の肥育装置100は、外部光を遮蔽した畜舎10の内部に、光源パネル11と、LED照射灯12と、温度センサ15と、炭酸ガスセンサ16と、給餌器(図示せず)と、給水器(図示せず)とを備え、畜舎11の外部には、光源制御装置21と、温度制御装置22と、炭酸ガス制御装置23とを備えて構成されている。」 (2e)「【0032】 LED照射灯12は、梁17の長手方向へ一直線状に、例えば34cmの等間隔で5台設置されている。これにより、畜舎10の床面全体をLED照射灯12で照射できるようになる。LED照射灯12の形状は、図2に示すように円形であり、その直径は例えば70cmである。一つのLED照射灯12には、30個のLED13が配置されている。」 (2f)「【 0035】 LED13及び補助灯14の出力レベルは、有用家畜18の肥育状態を観測した結果に応じて光源パネル11に接続した光源制御装置21により制御することができる。また、光源制御装置21には、タイマー(図示せず)が設置されており、タイマーに所定値を入力することによって、LED13及び補助灯14の照射時間や光量を最適化することができる。」 (2g)引用文献2には次の図が示されている。 【図1】 2-2 引用文献2に記載された技術的事項 上記2-1より、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 ア 引用文献2技術A 「有用家畜の肥育を促進するために、半導体光源から発せられる波長480?580nmの範囲にピーク波長を有する緑色を呈する光を有用家畜に照射すること。」(適示(2a)、(2c)) イ 引用文献2技術B 「LED照射灯12で畜舎10の床面全体を照射する際、その照射時間や光量を最適化する制御を行う光源制御装置21を設けること。」(適示(2e)、(2f)) 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「養鶏に用いられる発光装置」は、「緑色帯範囲内螢光照明」であるから、本願発明の「養鶏に用いられる照明システム」に相当する。 イ 本願発明の「発光ピーク波長が480nm以上580nm以下の光」は、本願明細書の段落【0020】に、「緑色光源21gは、緑色光を発する光源である。緑色光源21gは、例えば、発光ピーク波長が480nm以上580nm以下の緑色光(詳細には、緑青色、青緑色、緑色、及び、黄緑色の光を含む)を発する。」と記載されていることを踏まえると、主に緑色光といえる。よって、引用発明の「放射線の80%が狭い緑色帯に存在し、総放射量の最大割合は波長約544ナノメーター付近である螢光ランプ」と、本願発明の「発光ピーク波長が480nm以上580nm以下の光を発する光源部」とは、「主に緑色光を発する光源部」という点で共通する。 ウ 引用発明の「産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで」は、引用文献1の「このスペクトル帯内の波長での放射がひな鳥の成長率の向上という価値ある特性を有することが証明されている。」なる記載(摘示(1a))を踏まえると、ひな鳥から若鳥が適正体重に達するまでの期間といえるから、本願発明の「鶏の育成期間における育成前期」に相当するといえる。 エ 引用発明の「緑色帯範囲内螢光照明で照射する」ことは、「緑色帯範囲内螢光照明」は「螢光ランプ」が発する光であって、鶏に照射することは明らかである。そうすると、引用発明の「緑色帯範囲内螢光照明で照射する」ことと、本願発明の「前記光源部が発する前記光を鶏の飼育領域に照射する制御を行う制御部」を「備える」こととは、「前記光源部が発する前記光を鶏に照射する」という点で共通する。 以上によれば、本願発明と引用発明とは、 「養鶏に用いられる照明システムであって、 主に緑色光を発する光源部、を備え、 鶏の育成期間における育成前期に、前記光源部が発する前記光を鶏に照射する照明システム。」である点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 光源部が発する光に関し、本願発明は、「発光ピーク波長が480nm以上580nm以下の光」であるのに対し、引用発明は、「放射線の80%が狭い緑色帯に存在し、総放射量の最大割合は波長約544ナノメーター付近である」点。 <相違点2> 本願発明は、「鶏の育成期間における育成前期に、前記光源部が発する前記光を鶏の飼育領域に照射する制御を行う制御部」を備えるのに対し、引用発明は「産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで、まず前記の緑色帯範囲内螢光照明で照射する」、すなわち、「鶏の育成期間における育成前期に、前記光源部が発する前記光を鶏に照射する」ものの、光を「鶏の飼育領域」に照射するか明らかでなく、また、そのような「制御部」を有するか明らかでない点。 第6 相違点についての判断 1 上記相違点1について 引用発明の光は、「総放射量の最大割合は波長約544ナノメーター付近である」から、引用発明の発光ピーク波長は、544ナノメーターであるともいえる。また、引用発明の発光ピーク波長は、544ナノメーター付近であって、544ナノメートルであるとまではいえないとしても、上記第4、2、2-2、アに「引用文献2技術A」として示したとおり、引用文献2には、「有用家畜の肥育を促進するために、半導体光源から発せられる波長480?580nmの範囲にピーク波長を有する緑色を呈する光を有用家畜に照射すること。」が記載されている。 ここで、引用文献2の段落【0002】には、背景技術として、「鶏や豚などの有用家畜」と記載されているから、上記引用文献2技術Aの「有用家畜」は、「鶏」を包含するものといえる。なお、引用文献2の段落【0025】にも、「有用家畜としては、豚、牛、山羊、羊等が挙げられるが、豚であることが好ましい。」と記載されており、「鶏」が明記されていないが、「・・・等が挙げられる」なる記載からみて、前記記載は、有用家畜の例示であって、有用家畜が「豚、牛、山羊、羊」のみに限定されることを示すものとはいえない。 そして、引用文献1(摘示(1a))にも、「この特定波長帯内の放射線は多くの生物の成長を促進する。これらの波長における放射線は特に家禽類の成長促進に効果的である。そこで本発明では産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで、まず前記の緑色帯範囲内螢光照明で照射することによる家禽類生産の改善法を案出した。」と記載されており、養鶏を含む家禽類生産を対象とすることが記載されている。 よって、引用発明と引用文献2技術Aとは、家禽類生産用の照明システムという共通の技術分野に属し、家禽類の成長を促進させるために緑色光を照射するという機能も共通するから、引用発明の光源部として、引用文献2技術Aの「波長480?580nmの範囲にピーク波長を有する」「半導体光源」を採用し、相違点1に係る本願発明のごとく構成することは、当業者にとって容易である。 2 上記相違点2について 上記第4、2、2-2、イに「引用文献2技術B」として示したとおり、引用文献2には、「LED照射灯12で畜舎10の床面全体を照射する際、その照射時間や光量を最適化する制御を行う光源制御装置21を設けること。」が記載されている。 ここで、引用文献2技術Bの「LED照明灯12」は、本願発明の「光源部」に相当し、以下同様に、「畜舎10の床面全体」は、「飼育領域」に、「光源制御装置21」は、「制御部」に相当する。また、引用文献2技術Bの「LED照射灯12で畜舎10の床面全体を照射する際、その照射時間や光量を最適化する制御を行う」ことは、以上を踏まえると、「光源部が発する光を飼育領域に照射する制御を行う」ことといえる。 よって、引用文献2技術Bは、「光源部が発する光を飼育場所に照射する制御を行う制御部を設けること。」といえる。 そして、引用発明と引用文献2技術Bとは、家禽類生産用の照明システムという共通の技術分野に属し、光源部が発する光を家禽類に照射するという機能も共通するものである。引用発明は、「産卵用若どりが性的発達により産卵を開始できる適正体重に達するまで、まず前記の緑色帯範囲内螢光照明で照射する発光装置」であるところ、そのような発光装置を具現化するにあたり、引用文献2技術Bの「制御部」を採用し、相違点2に係る本願発明のごとく構成することは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用文献2技術A及びBに基いて、当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-09-08 |
結審通知日 | 2020-09-15 |
審決日 | 2020-10-01 |
出願番号 | 特願2016-14783(P2016-14783) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山崎 晶 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
佐々木 一浩 氏原 康宏 |
発明の名称 | 照明システム、及び、鶏の飼育方法 |
代理人 | 寺谷 英作 |
代理人 | 道坂 伸一 |
代理人 | 新居 広守 |