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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1368519
審判番号 不服2020-4498  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-03 
確定日 2020-12-08 
事件の表示 特願2015-195108「偏光子の検査方法および偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 68121、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-195108号(以下「本件出願」という。)は、平成27年9月30日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 5月16日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月19日提出:意見書
令和 元年 7月19日提出:補正書
令和 元年12月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月 3日提出:審判請求書
令和 2年 4月 3日提出:手続補正書


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?8に係る発明(令和2年4月3日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2015/108261号
引用文献2:特開2007-79278号公報
引用文献3:特開2005-37690号公報
引用文献4:特開2015-34710号公報
引用文献5:特開2007-213016号公報
引用文献6:特開2007-212442号公報
引用文献7:特開2008-116437号公報
引用文献8:特開2009-115759号公報
引用文献9:特開2009-157361号公報


第3 本件発明
本件出願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、令和2年4月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1及び8は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
非偏光部を有する偏光子を検査する方法であって、
該偏光子の一方の側に配置された光源部から光を照射し、他方の側に配置された撮像部によって該偏光子を透過した光を撮像する撮像工程と、
得られた画像に基づいて該偏光子の非偏光部を検査し、形状精度、輪郭粗さおよび輪郭の急峻度から選択される少なくとも1つに関して、所定の基準を満たさない非偏光部を形成不良として検出する検査工程と、
を含み、
該偏光子と該光源部との間または該偏光子と該撮像部との間に、偏光フィルタがその吸収軸方向が該偏光子の吸収軸方向と直交するように配置されている、検査方法。」

「 【請求項8】
非偏光部を有する偏光子の一方の側に光を照射する、光源部と、
該光源部から出射され、該偏光子を透過した光を撮像する撮像部と、
該撮像部と接続され、該撮像部によって撮像された画像を解析処理し、形状精度、輪郭粗さおよび輪郭の急峻度から選択される少なくとも1つに関して、所定の基準を満たさない非偏光部を形成不良として検出する画像処理部と、
を備え、
該偏光子と該光源部との間または該偏光子と該撮像部との間に、偏光フィルタがその吸収軸方向が該偏光子の吸収軸方向と直交するように配置されている、偏光子の非偏光部の検査装置。」

また、本件発明2?7は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献5として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2007-213016号公報(以下、同じく「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、偏光板と、面内の配向角ばらつきが大きな位相差層とが積層された積層フィルムの製造方法、積層フィルムの欠陥検出方法、積層フィルムの欠陥検出装置、積層フィルム、及び画像表示装置に関するものである。
・・・(省略)・・・
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、検査用の位相差板や可変偏光用光学素子を別途配置する必要があるため、余分な部品が増加すると共に、余分に部品が介在することによる光源の光量低下を招き、検査精度を低下させてしまうため、近年の偏光板に要求される高精度、高品質な検査要求に耐えられない場合がある。さらに、積層フィルム11を構成する位相差層が、セパレータのように最終的に使用する際には剥離されてしまう、仮着フィルムである場合、このようなフィルムは面内位相差や分子の配向角が厳密に制御される必要のないフィルムであり、フィルム面内及び製品ロットごとの配向角ばらつきが比較的大きくなるため、特許文献1にあるような検査用の特定の位相差板を用いても位相差がキャンセルしきれず、検査精度が上がらないという問題がある。
【0007】
かかる位相差層は、直線偏光を楕円偏光にさせるだけでなく、上記ばらつきに起因して、画像中心部と端部とで偏光状態も異なり、撮像部に入力される画像も中心部と端部とで明るさが異なるという問題が生じる。理想的には、欠陥部とそれ以外の画像部分とのコントラストが、画像中の場所に限らず一定であることであるが、上記理由によりコントラストが不均一になる。その結果、明らかに大きなピンホールなどの輝点が存在するにもかかわらず合格と判定されたり、逆に、合格と判定されるべき非常に小さな欠陥であるにもかかわらず、不合格であると誤判定される恐れがある。例えば、図8では、左側の欠陥は比較的容易に検出することができるが、右側の欠陥は欠陥周囲の表示が明るくなりすぎるため、検出漏れが生じやすくなる。すなわち、画像の中央部と端部とでは、欠陥検出能力は一定である必要がある。従って、特許文献1のごとく、位相差板を挿入するだけでは、上記ばらつきを考慮した欠陥検査を行うことはできない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、新たな部品を光路中に挿入することなく、積層フィルムを構成する位相差層の光学性能のばらつきを考慮した欠陥検出を行うことが可能な積層フィルムの製造方法、積層フィルムの欠陥検出方法、積層フィルムの欠陥検出装置、積層フィルム、及び画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
・・・(省略)・・・
【0014】
上記課題を解決するため本発明に係る積層フィルムの欠陥検出装置は、
少なくとも、偏光板と、位相差層とが積層された積層フィルムの欠陥検出装置であって、
積層フィルムのフィルム面の一方側に配置され、積層フィルムに対して光を照射する光源と、
前記フィルム面の他方側に配置され、積層フィルムの透過光像を撮影する撮像部と、
前記フィルム面と撮像部の間の光路上に配置される検査用の偏光フィルタと、
撮像部により撮影された透過光像に基づいて、積層フィルムに存在する欠陥の検出を行う欠陥検出部と、
偏光フィルタの偏光軸と前記偏光板の偏光軸との相対角度位置を調整する光軸調整部とを備え、
前記光軸調整部により、前記偏光フィルタの相対角度位置xは、撮像部に入力される可視光の光量が最小値となるように、0゜<x≦15゜の範囲で調整されることを特徴とするものである。
【0015】
かかる欠陥検出装置によれば、既に述べたように、位相差フィルムのような新たな部品を光路中に挿入することなく、積層フィルムを構成する位相差層の光学性能のばらつきを考慮した欠陥検出を行うことができる。
【0016】
本発明において、前記光軸調整部は、偏光フィルタを回転させることで相対角度位置を調整することが好ましい。偏光フィルタを回転させることで、最適な相対角度位置を見出すことができ、積層フィルムの種類が異なっていても、偏光フィルムを回転させることで、個々の種類の製品に対して適切な位置に検査用偏光フィルタを配置することができる。
【0017】
本発明において、前記光軸調整部は、偏光軸を異なる方向に設定した複数の偏光フィルタのうち、選択された1つの偏光フィルタを光路上に設置することが好ましい。偏光フィルタを平面内で回転させるのではなく、偏光軸を異なる方向に設定した複数の偏光フィルタのうちの1つを選択することによっても、最適な偏光フィルタを光路中に配置することができる。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る積層フィルムの欠陥検出方法及び装置の好適な実施形態の一例を図面を用いて説明する。図1は、欠陥検出方法及び装置の構成を示す概念図である。検査対象である積層フィルム11は、図10に示したような積層構造を有しており、偏光板1の片側にセパレータ2(位相差層に相当)が積層されている。ただし、積層フィルム11の断面構造は、これに限定されるものではなく、例えば、表面保護フィルムが更に積層された構造であってもよい。
【0019】
図1において、積層フィルム11を構成する偏光板1は、不図示のロールに巻き取られた状態から引き出されて、図の左側から右側へと搬送される。積層フィルム11のフィルム面の一方側(図1では下方)には、検査用の光源13が配置される。光源13としては、蛍光灯、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED等を用いることができ、検査対象である積層フィルム11(偏光板1)の種類に応じて適切な光源13が選択される。光源13の形状としては、平面状や電球形、フィルム幅方向に長形のもの等が適宜使用できる。
【0020】
撮像部12として、ラインセンサカメラや2次元TVカメラなどにより構成される。撮像部12は、積層フィルム11の幅方向サイズに対応して、幅方向に沿って1つもしくは複数配置される。画像処理装置14は、撮像部12により撮影された画像データに対して画像処理を行うことで、積層フィルム11(偏光板1)の欠陥検出を行う機能を有する。撮像部12と光源13を結ぶ光路は、積層フィルム11のフィルム面に対して垂直となるように設定されているが、光源13や撮像部12の設置場所の制約により、図2に示すように光路をフィルム面に対して傾斜させて配置してもよい。
【0021】
検査用偏光フィルタ15は、図1に示すように、撮像部12の前面に配置される。検査用偏光フィルタ15の偏光軸L2(図3参照)は、偏光板1の偏光軸L1とクロスニコルの位置関係となるように配置されるのが通常であるが、既に説明したように、セパレータ2(位相差層)の存在により、実質的にはクロスニコルの関係とならない。また、このような位相差層は、配向角のばらつきが大きいという特性がある。従って、従来のように検査用偏光フィルタ15をクロスニコルに配置することは検査精度の点で適切ではなく、位相差層の特性を考慮した最適な位置に検査用偏光フィルタ15を配置する必要がある。なお、検査用偏光フィルタ15は、偏光板1と同様のものであって、かつ欠陥が存在しないものを使用する。
【0022】
図3は、検査用偏光フィルタ15の偏光軸L2の調整を説明する図である。光軸調整部16は、検査用偏光フィルタ15を平面内で回転する機構を提供する。回転中心は、光源13と撮像部12を結ぶ光路に一致する。
【0023】
さらに、検査対象となる積層フィルム11には、種々の種類があるため、積層フィルム11の種類によっては最適な検査用偏光フィルタ15の配置が異なる。従って、図3に示すように検査用偏光フィルタ15を水平に回転させる機構を設けておくことで、積層フィルム11の種類に応じて適切な欠陥検出を行うことができる。この場合、検査用偏光フィルタ15を基準位置に対して何度回転させたかが分かるように、検査用偏光フィルタ15に回転角度を刻印・印刷したり、目印を貼り付けておくことが好ましい。また、偏光板1の種類と角度位置との関係をメモリに記憶させておき、光軸調整部16により、所定の角度位置に自動設定されるように構成してもよい。
【0024】
撮像部12により撮影された画像信号は、画像データ取得部17によりデジタルデータ化された画像データに変換され、画像処理装置14へ送られる。画像処理装置14は、ソフトウェアの機能を中核として構成され、光量検出部14aと欠陥検出部14bの機能を備えている。光量検出部14aは、撮影された画像の明るさが最小となる位置を検出する。欠陥検出部14bは、撮像部12により取得された画像データを画像処理することで、欠陥検出を行うものであり、欠陥検出アルゴリズムについては公知の手法を用いることができる。例えば、欠陥が存在する場所の輝度は明るくなるため、取得された画像データを所定レベルのしきい値により二値化することで、欠陥を抽出することができる。抽出された欠陥の面積、長さ、幅、輝度などの特徴量を算出して、この特徴量から1つないしは複数を選んで合否判定を行うことができる。
【0025】
モニター18は、撮像部12により撮影された画像を映し出すことができ、欠陥の存在を目視確認することができる。記憶装置19は、欠陥を検出した場合に、その位置座標や欠陥の特徴量などを記憶しておく。マーキング装置20は、欠陥が抽出された場合、その欠陥位置をマーキングするための装置である。マーキング制御部21は、マーキング装置20の動作を制御する。具体的には、記憶装置19に記憶されている欠陥位置の座標信号に基づいて、欠陥位置(あるいは、偏光板1の幅方向の端部)に正確にマーキングができるようにマーキング装置20を制御する。マーキング装置20に関しては、公知の構造を有する装置を用いることができる。例えば、マーキングはマジックマーカーにより行うことができる。また、欠陥の特徴量(欠陥情報)をインクジェットプリンタ等により偏光板1上にプリントするようにしてもよい。
【0026】
次に、検査用偏光フィルタ15の配置に関して説明する。まず、検査用偏光フィルタ15を、検査対象である積層フィルム11中の偏光板1とクロスニコルとなる位置に設定する(基準位置=0゜)。この状態は図8に示すような検出困難な欠陥を有する状態である。そこで次に、撮像部13により入力され、光量検出部14aにより処理されたデータ(例えば、図6)を確認しながら、その光量が最小値となる位置に偏光フィルタ15を回転させる。これにより、図5に示すように出力される光量がフィルム面内において略一定となるため、図9に示すように検出しにくかった欠陥も容易に検出することができるようになる。ここで、出力される光量を略一定にするとは、例えば、その明るさを256階調に分割(例えば、黒表示=0、白表示=255)した場合、明るさの最大値と最小値の差を40以下とすることを示し、この差はより検出精度を上げるため25以下とすることが好ましく、さらには15以下とすることがより好ましい。さらに、この偏光フィルタ15の設定は自動化することができ、図3に示すように光量検出部14a及び光軸調整部16を設け、コンピュータを介して光量が最小値となる位置に自動的に設定される機構を設けてもよい。このような自動化機構は、連続的に搬送される積層フィルムの状態に応じて最適な状態での検査が可能となるため、連続的な生産および検査の際に好ましく用いられる。
・・・(省略)・・・
【0037】
<積層フィルムの具体例>
本発明において扱う積層フィルム11の例として、偏光板1を有するものをあげて説明したが、さらに具体的な構成例について説明する。偏光板は、長い帯状に形成され、フィルム状の偏光板原反から個々の大きさの偏光板を打ち抜きにより得るようにしている。偏光板原反は、例えば、予め製造しておいたPVAフィルム(偏光子)の表裏両面に例えばTACフィルム(保護フィルム)を貼り合わせることで得ることができる。この多層構造とされた偏光板原反Nの表面あるいは内部に存在する欠陥(キズや異物など)を検出する必要がある。」

(3)図1


(4)図3


2 引用発明
引用文献5の上記1の記載に基づけば、引用文献5には、「偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムの欠陥検出装置」として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムの欠陥検出装置であって、
積層フィルムは、ロールに巻き取られた状態から引き出されて搬送され、積層フィルムのフィルム面の一方側には、検査用の光源が配置され、
撮像部は、積層フィルムの幅方向サイズに対応して、幅方向に沿って1つもしくは複数配置され、画像処理装置は、撮像部により撮影された画像データに対して画像処理を行うことで、積層フィルムの欠陥検出を行う機能を有し、撮像部と光源を結ぶ光路は、積層フィルムのフィルム面に対して垂直となるように設定され、
検査用偏光フィルタは、撮像部の前面に配置され、検査用偏光フィルタの偏光軸は、偏光板の偏光軸とクロスニコルの位置関係となるように配置された、偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムの欠陥検出装置。」


第5 対比・判断
1 本件発明8について
(1)対比
本件発明8と引用発明とを対比する。

ア 偏光子、光源部
引用発明の「欠陥検出装置」において、「偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムは、ロールに巻き取られた状態から引き出されて搬送され、積層フィルムのフィルム面の一方側には、検査用の光源が配置され」、「撮像部と光源を結ぶ光路は、積層フィルムのフィルム面に対して垂直となるように設定され」ている。
上記構成からみて、引用発明の「光源」は、本件発明8の「光源部」に相当する。また、「偏光板」が「偏光子」を含むことは自明である(当合議体注:引用文献5の【0037】の記載からも確認できる事項である。)から、引用発明の「偏光板」(の偏光子)は、本件発明8の「偏光子」に相当する。
加えて、上記構成より、引用発明の「光源」は、「偏光板の片側にセパレータが積層された」「積層フィルムのフィルム面の一方側に」、「配置され」ている。ここで、フィルム面のいずれを「一方の側」とするかは随意である。
そうしてみると、引用発明の「光源」は、本件発明8の「光源部」の「偏光子の一方の側に光を照射する」との要件を満たす。

イ 撮像部
引用発明の「撮像部」は、「積層フィルムの幅方向サイズに対応して、幅方向に沿って1つもしくは複数配置され」、「撮像部と光源を結ぶ光路は、積層フィルムのフィルム面に対して垂直となるように設定され」るものである。
上記構成からみて、引用発明の「撮像部」は、その文言どおり、本件発明8の「撮像部」に相当する。
また、上記アで述べた構成と上記構成より、引用発明の「撮像部」は、光源から出射され、偏光板を透過した光を撮像するといえる。
そうしてみると、引用発明の「撮像部」は、本件発明8の「撮像部」の「該光源部から出射され、該偏光子を透過した光を撮像する」との要件を満たす。

ウ 画像処理部
引用発明の「画像処理装置」は、「撮像部により撮影された画像データに対して画像処理を行う」ものである。
上記構成からみて、引用発明の「画像処理装置」は、本件発明8の「画像処理部」に相当する。また、引用発明の「画像処理装置」は、撮像部と接続されているといえ、また、画像データを解析するといえる。
そうしてみると、引用発明の「画像処理装置」は、本件発明8の「画像処理部」の「該撮像部と接続され、該撮像部によって撮像された画像を解析処理」するとの要件を満たす。

エ 偏光フィルタ
引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、「撮像部の前面に配置され、検査用偏光フィルタの偏光軸は、偏光板の偏光軸とクロスニコルの位置関係となるように配置された」ものである。
上記構成からみて、引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、本件発明8の「偏光フィルタ」に相当する。
加えて、上記構成より、引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、「撮像部の前面に配置され」、上記イより、引用発明の「撮像部」は、「撮像部と光源を結ぶ光路は、積層フィルムのフィルム面に対して垂直となるように設定され」るものであるから、引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、積層フィルムと撮像部との間にあるといえる。また、上記構成(クロスニコルの位置関係)から、引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、その吸収軸方向が、「偏光板」(の偏光子)の吸収軸方向と直交している。
そうしてみると、引用発明の「検査用偏光フィルタ」は、本件発明8の「偏光フィルタ」の「該偏光子と該光源部との間または該偏光子と該撮像部との間に」、「その吸収軸方向が該偏光子の吸収軸方向と直交するように配置されている」との要件を満たす。

オ 検査装置
引用発明の「検出装置」は、その文言が意味するとおり「検査装置」である。また、上記アないしエを総合すると、引用発明の「検査装置」は、「光源部と」、「撮像部と」、「画像処理部と」、「を備え」たものであり、その検査対象は「偏光板」(の偏光子)である。
そうしてみると、引用発明の「偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムの欠陥検出装置」と本件発明8の「偏光子の非偏光部の検査装置」とは、「光源部と」、「撮像部と」、「画像処理部と」、「を備え」た、「偏光子の検査装置」の点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明8と引用発明とは、
「 偏光子の一方の側に光を照射する、光源部と、
該光源部から出射され、該偏光子を透過した光を撮像する撮像部と、
該撮像部と接続され、該撮像部によって撮像された画像を解析処理する画像処理部と、
を備え、
該偏光子と該光源部との間または該偏光子と該撮像部との間に、偏光フィルタがその吸収軸方向が該偏光子の吸収軸方向と直交するように配置されている、偏光子の検査装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「偏光子」が、本件発明8は、「非偏光部を有する」のに対して、引用発明の「偏光板」(の偏光子)は、非偏光部を有するとはされていない点。

(相違点2)
「画像処理部」が、本件発明8は、「形状精度、輪郭粗さおよび輪郭の急峻度から選択される少なくとも1つに関して、所定の基準を満たさない非偏光部を形成不良として検出する」のに対して、引用発明の「偏光板」(の偏光子)は、そもそも上記相違点1で述べたような「非偏光部」を具備せず、その結果、引用発明の「画像処理装置」は、このような処理を行うものではない点。

(相違点3)
「偏光子の検査装置」が、本件発明8は、「偏光子の非偏光部の検査装置」であるのに対して、引用発明の「偏光板」(の偏光子)は、そもそも上記相違点1で述べたような「非偏光部」を具備せず、引用発明は、偏光板の「非偏光部の」検査装置ではない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2及び相違点3について検討する。
引用発明は、そもそも、偏光子の「非偏光部の」検査装置ではなく、偏光板の片側にセパレータが積層された積層フィルムの「欠陥」検出装置である。また、技術分野に関する引用文献5の【0001】の記載や、発明が解決しようとする課題に関する【0006】ないし【0008】の記載からみて、引用発明は、「欠陥」検出装置にとどまるものであり、これを偏光子の「非偏光部の」検査装置に用途変更することは予定されていない。したがって、引用発明の構成を置き換える等しても、本件発明8の「偏光子の非偏光部の検査装置」に到ることはないといえる。

念のため、「欠陥」と「非偏光部」を同一視した上で、以下、検討する。
引用文献5の【0024】には、「撮像部12により撮影された画像信号は、画像データ取得部17によりデジタルデータ化された画像データに変換され、画像処理装置14へ送られる。画像処理装置14は、ソフトウェアの機能を中核として構成され、光量検出部14aと欠陥検出部14bの機能を備えている。光量検出部14aは、撮影された画像の明るさが最小となる位置を検出する。欠陥検出部14bは、撮像部12により取得された画像データを画像処理することで、欠陥検出を行うものであり、欠陥検出アルゴリズムについては公知の手法を用いることができる。例えば、欠陥が存在する場所の輝度は明るくなるため、取得された画像データを所定レベルのしきい値により二値化することで、欠陥を抽出することができる。抽出された欠陥の面積、長さ、幅、輝度などの特徴量を算出して、この特徴量から1つないしは複数を選んで合否判定を行うことができる。」と記載されている。
しかしながら、引用文献5の上記記載は、画像処理装置により欠陥を抽出する方法について記載されてところ、仮に欠陥が非偏光部であると認められるとしても、通常、欠陥がどのような形状であるかは事前にわからないものであるから、形状精度、輪郭粗さ、輪郭の急峻度に関して、所定の基準を設ける動機付けはないといえる。
そうしてみると、当業者であっても、引用発明に引用文献5に記載された事項を適用して上記相違点2に係る本件発明8の構成とすることが、容易になし得たということはできない。
なお、原査定の理由に示された、国際公開第2015/108261号(以下「引用文献1」という。)、特開2007-79278号公報(以下「引用文献2」という。)、特開2005-37690号公報(以下「引用文献3」という。)、特開2015-34710号公報(「以下「引用文献4」という。)、特開2007-212442号公報(以下「引用文献6」という。)、特開2008-116437号公報(以下「引用文献7」という。)、特開2009-115759号公報(以下「引用文献8」という。)、特開2009-157361号公報(以下「引用文献9」という。)のいずれの文献にも、上記相違点2及び相違点3に係る本件発明8の構成について記載されていない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

2 本件発明1について
本件発明1についても、本件発明8と同様の「形状精度、輪郭粗さおよび輪郭の急峻度から選択される少なくとも1つに関して、所定の基準を満たさない非偏光部を形成不良として検出する」ことを具備するものであるから、本件発明8と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

3 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?7も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。


第6 原査定について
上記第5で述べたように、本件の請求項1?8に係る発明は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?9に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-20 
出願番号 特願2015-195108(P2015-195108)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
井亀 諭
発明の名称 偏光子の検査方法および偏光板の製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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