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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1368651
審判番号 不服2019-11098  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-22 
確定日 2020-11-26 
事件の表示 特願2014-112114「符号化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開、特開2015-226305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月30日に出願したものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月14日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月22日 :意見書提出および手続補正
同年 6月15日付け:最後の拒絶理由通知
同年 8月 8日 :意見書提出および手続補正
同年12月 4日付け:最後の拒絶理由通知
平成31年 1月17日 :意見書提出および手続補正
同年 4月22日付け:補正の却下の決定および拒絶査定
令和 1年 8月22日 :拒絶査定不服審判請求

第2 平成31年1月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

審判請求人は、審判請求書において、平成31年1月17日付け手続補正(以下、「本件補正」という)に対する補正の却下の決定を取り消し、本件補正がされた明細書、特許請求の範囲及び図面に基づいた拒絶査定を取り消し、本願は特許をすべきものであるとの審決を求めているので、まず、原審における平成31年4月22日付け補正の却下の決定の適否について検討する。

1 補正の内容
本件補正は、平成30年8月8日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正前の請求項1」という)を本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正後の請求項1」という)に補正する事項を含むものである。(下線は補正箇所を示す。)

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
放送または通信により映像信号を伝送するMMTにおける符号化装置であって、
前記映像信号の符号化データを出力する映像符号化手段と、
前記映像符号化手段によりフレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合であるGOPにおける、提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報を符号化して、GOP単位の制御情報の符号化データを出力する制御情報符号化手段と、
前記映像信号の符号化データと前記GOP単位の制御情報の符号化データを多重化し、多重化後の符号化データであるビットストリームを出力する多重化手段と
を備えた符号化装置。」

(補正後の請求項1)
【請求項1】
1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける映像信号の符号化装置であって、
前記映像信号の符号化データを出力する映像符号化手段と、
前記映像符号化手段によりフレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOPにおける、提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報を符号化して、前記制御情報の符号化データを出力する制御情報符号化手段と、
前記映像信号の符号化データと前記制御情報の符号化データを多重化し、多重化後の符号化データであるビットストリームを出力する多重化手段と
を備えた符号化装置。

2 補正の適否について
(1)補正の目的について
請求項1に係る補正は、
(ア)補正前の「放送または通信により映像信号を伝送するMMTにおける符号化装置」を、補正後の「1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける映像信号の符号化装置」とする補正、
(イ)補正前の「複数のアクセスユニットの集合であるGOP」を、補正後の「複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOP」とする補正、
(ウ)補正前の「前記GOP単位の制御情報」を「前記制御情報」とする補正、
である。
当該(ア)の補正は、補正前の「放送または通信により映像信号を伝送するMMTにおける符号化装置」に対して、「1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける映像信号の符号化装置」という限定を行うことで、MMTにより伝送されるデータの伝送形式及び符号化装置により符号化される信号の種類を下位概念化するものであり、当該(イ)の補正は、補正前の「複数のアクセスユニットの集合であるGOP」に対して、「複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOP」とし、当該(ウ)の補正は、補正前の「前記GOP単位の制御情報」について、「前記制御情報」とすることで、制御情報が1以上のGOPの各々におけるものであることをより明確化するものであって、これらを総合すると、請求項1に係る補正は、特許請求の範囲を減縮するためのものであるといえる。
そして、上記(ア)?(ウ)いずれの補正も、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではなく、同一であるといえるから、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の規定に適合するものである。

(2)補正の範囲及び単一性について
本願の出願日における願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、「出願当初の明細書等」という)には、以下の記載がある。(下線は、強調のため当審で付したものである。)

「【0001】
この発明は、映像信号や音声信号を符号化してビットストリームを生成する符号化装置及び符号化方法と、ビットストリームに多重化されている符号化データを復号する復号装置及び復号方法とに関するものである。
・・・
【0003】
MPEG-2でのトランスポートストリーム(TS)の他に、MPEGで標準化が進められている新しいトランスポート方式として、MMT(MPEG Media Transport)があり、MMTは、1つのプログラムを構成する1以上の映像コンポーネント(映像ストリーム)と音声コンポーネント(音声ストリーム)を伝送する際、コンポーネント毎に、異なる伝送形態(例えば、放送、通信など)での伝送を可能にしている。」

「【0017】
制御情報符号化部5は音声符号化部1により生成された音声ストリーム及びHEVC符号化部3により生成された映像ストリームに関する制御情報として、MMTで規定されているPAメッセージと呼ばれる制御情報を符号化する処理を実施する。
図11にPAメッセージの構成を示す。PAメッセージは1個以上のテーブルから構成される。
PAメッセージに含まれる1つのテーブルには、1つのプログラム(MMTでは、パッケージと称する)を構成する1以上の映像コンポーネント(映像ストリーム)や音声コンポーネント(音声ストリーム)に関する情報が記述されている。MMTでは、映像コンポーネント及び音声コンポーネントがアセットと呼ばれる。
【0018】
具体的には、アセットを識別するアセットID、アセットの種類(HEVC形式の映像ストリームやMPEG-4オーディオ形式の音声ストリームなどの種類)を識別するアセットタイプ、各アセットの符号化データやメタデータを格納しているMMTPパケットを示すパケットIDあるいはIP配信される場合のIPアドレスなどアセットの取得先に関する情報、各アセットに関するメタ情報を記述するための各種記述子が、パッケージを構成するアセットの数分だけテーブルに含まれている。
記述子には、各アセットのMPU(Media Processing Unit)を構成しているアクセスユニット(AU)の中で、提示順(表示順)で先頭のアクセスユニット(AU)の提示時刻(表示時刻)を示すMPUタイムスタンプ記述子(提示時刻情報)などMMT規格で定義されている記述子の他に、ユーザーが独自に新たな記述子を定義することも可能であり、独自記述子としてMPU時刻情報記述子が含まれる。
【0019】
なお、MPUは、1以上のアクセスユニット(AU)から構成されており、MPU単体で映像や音声の復号処理を行うことができる単位となる。また、MPUは、1以上のアクセスユニット(AU)の映像信号がフレーム間予測符号化方式で符号化される場合には、前記1以上のアクセスユニット(AU)の映像信号の全てを復号することが可能な複数のアクセスユニット(AU)の集合であるGOPと同じ単位になる。」

「【0021】
制御MMTPペイロード生成部6は制御情報符号化部5により符号化された制御情報の符号化データからなる制御MMTPペイロードを生成する処理を実施する。
なお、制御情報符号化部5の一部及び制御MMTPペイロード生成部6から制御情報符号化手段が構成されている。また、制御情報符号化部5の他の一部は時刻情報符号化手段を構成している。
【0022】
映像MMTPパケット生成部9は、映像MMTPペイロード生成部4により生成された映像MMTPペイロードに所定のMMTPヘッダを付与してビットストリームを構成する映像MMTPパケットを生成する。」

上記の明細書等の記載によれば、上記(ア)の補正事項は、特に【0003】に基づくものであり、(イ)(ウ)の補正事項は、特に【0017】?【0019】、【0021】、【0022】の記載に基づくものであるから、請求項1に係る補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(3-1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1の(補正後の請求項1)に記載されたとおりの以下のものである。(符号A?Dは請求項の記載を分節するために当審で付したものであり、以下「発明特定事項A」?「発明特定事項D」と称する。)

【請求項1】
A 1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける映像信号の符号化装置であって、
B 前記映像信号の符号化データを出力する映像符号化手段と、
C 前記映像符号化手段によりフレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOPにおける、提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報を符号化して、前記制御情報の符号化データを出力する制御情報符号化手段と、
D 前記映像信号の符号化データと前記制御情報の符号化データを多重化し、多重化後の符号化データであるビットストリームを出力する多重化手段と
A を備えた符号化装置。

(3-2) 引用文献に記載された事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、特開2007-336578号公報には、以下の記載がある。(下線は強調のために当審で付した。)

(ア) 「【0011】
図22Aおよび図22Bは、MPEG-2で使用されているGOP構造における、復号順と表示順、および、復号されてから表示されるまでの遅延を示す。
【0012】
ここで、MPEG-2は固定フレームレートであり、Bピクチャは復号されると同時に表示される。図22Aおよび図22Bに示されるように、MPEG-2では、GOPの先頭ピクチャを復号してから、GOPにおける表示順での先頭ピクチャを表示するまでの遅延は、最大で1フレーム、あるいは2フィールドの表示間隔となる。以降、GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延をフレーム遅延と呼び、1フレーム(すなわち、2フィールド)を単位としてカウントする。」

(イ) 「【0013】
図23は、MPEG-4 AVCのストリームの構成図である。MPEG-4 AVCでは、GOPに相当する概念は無いが他のピクチャに依存せずに復号化できる特別なピクチャ単位でデータを分割すればGOPに相当するランダムアクセス可能な単位が構成できるので、これをランダムアクセス単位RAUと呼ぶことにする。
・・・
【0015】
図24は、MPEG-4 AVCにおけるピクチャ間の予測構造例である。」

(ウ) 「【0044】
また、上記目的を達成するために、本発明の逆多重化装置は、多重化データを逆多重化する逆多重化装置であって、前記多重化データは、符号化された複数のピクチャをランダムアクセス可能なアクセス単位ごとに含んで構成される1つ又は複数の符号化ストリームと、前記アクセス単位のうちの何れか2つのアクセス単位において、復号順で先頭のピクチャが復号されてから表示順で先頭のピクチャが表示されるまでの遅延量に関する内容の遅延情報とを有し、前記逆多重化装置は、前記多重化データから前記遅延情報を分離する遅延情報分離手段と、前記遅延情報分離手段により分離された遅延情報に従って、前記両アクセス単位を連続的に復号して再生する再生手段とを備えることを特徴とする。」

(エ) 「【0056】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における多重化装置の動作を示すフローチャートである。本多重化装置では、多重化データに格納される符号化ストリームのフレーム遅延情報を示すことのできる多重化データを出力する。
【0057】
まず、多重化装置は、ステップS301において、MPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成する。ステップS302では、多重化装置は、ステップS301において生成した符号化ストリームのフレーム遅延を取得し、ステップS303に進む。ステップS303では、多重化装置は、多重化データに格納する全ての符号化ストリームを生成し終えたかどうか判定し、生成が終了するまでステップS301とステップS302の処理を繰り返す。ステップS304では、多重化装置は、多重化データの管理情報として格納されるフレーム遅延情報を作成し、ステップS305に進む。ステップS305では、多重化装置は、従来の多重化装置により生成される情報に加えて、フレーム遅延情報を示す管理情報を作成する。最後に、多重化装置は、ステップS306において、ステップS301で生成した符号化ストリームとステップS305で作成した管理情報とを多重化して多重化データを出力する。
【0058】
図2は、本発明の実施の形態1における多重化装置の構成を示すブロック図である。
多重化装置100Aは、符号化部15、メモリ12、管理情報作成部16、フレーム遅延取得部17、および多重化部18を備える。
【0059】
なお、本実施の形態の多重化装置100Aが有する上記各構成要素のうち、図27に示す従来の多重化装置が有する構成要素と同一のものに対しては、上記従来の多重化装置の構成要素の符号と同一の符号を付して示し、詳細な説明は省略する。
【0060】
符号化部15は、入力された動画像データVinを符号化して符号化データstrInをメモリ12に格納するとともに、符号化ストリームstrInのフレーム遅延frDlyをフレーム遅延取得部17に出力する。
【0061】
フレーム遅延取得部17は、管理情報においてフレーム遅延の情報として格納される遅延情報dlyInfを作成し、管理情報作成部16に出力する。
【0062】
管理情報作成部16は、メモリ12から読出しデータstrOut1として読み出した符号化データstrInの解析結果、および遅延情報dlyInfとから管理情報baseを生成し、多重化部18に出力する。
【0063】
多重化部18は、管理情報baseと、メモリ12からの読み出しデータstrOut2と、ユーザの設定情報など符号化データとは別に取得される付加情報adInfとを多重化し、多重化データMuxDatを出力する。なお、符号化部15において設定する符号化時のフレーム遅延を、予め定められた値以下に制限することにしてもよい。
・・・
【0069】
また、TSやRTP(Real-time Transmission Protocol)などのプロトコルを使用してネットワークにより多重化データを受信するような場合には、再生制御情報としてフレーム遅延情報を取得してもよい。例えば、再生制御情報の通知にSDP(SessionDescriptionProtocol)を使うような場合には、SDPにおいてフレーム遅延情報を記述できる。あるいは、SMIL(SynchronizedMultimediaIntegrationLanguage)などのシーン記述言語においてフレーム遅延情報を示すことにより、再生端末にフレーム遅延を通知してもよい。」

(オ)




イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献2である、河村 侑輝, 外4名,MMTにおけるMPEG-2 TSコンテンツ多重方式の検討,情報処理学会研究報告,日本,情報処理学会,2014年2月21日,P.1-6には、以下の記載がある。

(ア) P.1左カラムの第1パラグラフ及び第3パラグラフには「IP(Internet Protocol)伝送路の普及、高速化、低コスト化とともにTS信号のIP伝送への要求が高まり、IPTVサービスや放送局などで用いられる素材伝送では、RTP(Real-time Transport Protocol)を用いたTS over IPが普及している。・・・・MMTはTSと同等の多重化機能を持つ上にIP伝送を前提に設計されているため、これまでTS over IPが用いられてきたアプリケーションにおいてMMTの採用が進むと考えられる」という記載がある。

(イ) また、P.2の下方部の表1には以下の記載がある。



(ウ) また、引用文献2のP.3左カラムの第4パラグラフの「2.3 MMTによるハイブリッド伝送」には「MMTの最大の特徴は、映像、音声、字幕、データなどの多様なアセットを複数の伝送路を用いて伝送するハイブリッド伝送にある。」という記載がある。

(3-3) 引用発明、引用文献記載の事項

ア 引用発明
上記(3-2)アから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。(引用発明の各構成は、符号(a1)?(e)を用いて、以下、構成(a1)?(e)と称する。)

(a1) GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延をフレーム遅延と呼び、
(a2) MPEG-4 AVCでは、他のピクチャに依存せずに復号化できる特別なピクチャ単位でデータを分割すればGOPに相当するランダムアクセス可能な単位が構成でき、これをランダムアクセス単位RAUと呼び、ピクチャ間の予測構造があるものであって、
(a3)多重化装置は、MPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成し、生成した符号化ストリームのフレーム遅延を取得し、多重化データの管理情報として格納されるフレーム遅延情報を作成し、フレーム遅延情報を示す管理情報を作成し、生成した符号化ストリームと作成した管理情報とを多重化して多重化データを出力するものであり、
(a4) 多重化装置100Aは、符号化部15、メモリ12、管理情報作成部16、フレーム遅延取得部17、および多重化部18を備え
(b) 符号化部15は、入力された動画像データを符号化して符号化データをメモリ12に格納するとともに、符号化ストリームのフレーム遅延frDlyをフレーム遅延取得部17に出力するものであり、
(c1) フレーム遅延取得部17は、管理情報においてフレーム遅延の情報として格納される遅延情報dlyInfを作成し、管理情報作成部16に出力するものであり、
(c2) 管理情報作成部16は、メモリ12から読み出した符号化データの解析結果、および遅延情報dlyInfとから管理情報baseを生成し、多重化部18に出力するものであり、
(d) 多重化部18は、管理情報baseと、メモリ12からの読み出しデータとを多重化し、多重化データを出力するものであり、
(e) TSやRTPなどのプロトコルを使用してネットワークにより多重化データを受信するような場合には、フレーム遅延情報を取得して再生端末に通知してもよい、
(a1)(a3) 多重化装置。

イ 引用文献1記載の事項
また、上記(3-1)ア(ウ)から、引用文献1には、多重化データを逆多重化する逆多重化装置における多重化データについて、以下のことが記載されているといえる(以下、「引用文献1記載の事項」という)。

「多重化データは、符号化された複数のピクチャをランダムアクセス可能なアクセス単位ごとに含んで構成される1つ又は複数の符号化ストリームと、前記アクセス単位のうちの何れか2つのアクセス単位において、復号順で先頭のピクチャが復号されてから表示順で先頭のピクチャが表示されるまでの遅延量に関する内容の遅延情報とを有」すること。

ウ 引用文献2記載の事項
上記(3-2)イ(ア)?(ウ)によれば、引用文献2には、以下の(ア)?(エ)の事項が記載されていると認められる(以下、「引用文献2記載の事項(ア)?(エ)」という)。

(ア) 「IPTVサービスや放送局などで用いられる素材伝送では、RTPを用いたTS over IPが普及しているが、MMTはTSと同等の多重化機能を持つ上にIP伝送を前提に設計されているため、これまでTS over IPが用いられてきたアプリケーションにおいてMMTの採用が進むと考えられる」こと。
(イ) 「TSとMMTにおける主要項目の比較において、TSではプログラムを構成するコンポーネントがあるのに対し、TSのプログラム、コンポーネントに相当する用語として、MMTではパッケージ、アセットを使用」すること。
(ウ) 「MMTでは映像のGOPなどランダムアクセスポイントを区切りとするアクセスユニットの集合をMPUとし、MPTなどの制御情報テーブルをPAメッセージのMMTPパケットとして伝送するものであり、MPU先頭のアクセスユニットのプレゼンテーションタイムスタンプをMPT内のMPUタイムスタンプ記述子に記述し、PAメッセージで伝送」すること。
(エ) 「MMTは、映像、音声、字幕、データなどの多様なアセットを複数の伝送路を用いて伝送する」こと。

(3-4) 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の構成(a4)の多重化装置100Aは、「符号化部15、メモリ12、管理情報作成部16、フレーム遅延取得部17、および多重化部18を備え」、構成(b)にあるように「符号化部15は、入力された動画像データを符号化」して、構成(a3)にあるように「MPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成」することから、本件補正発明の構成Aの「映像信号の符号化装置」に対応する。
ただし、本件補正発明の構成Aの「映像信号の符号化装置」は、「1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける」ものであるのに対して、引用発明の多重化装置は「MPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成」し、構成(e)にあるように「TSやRTPなどのプロトコルを使用」する多重化装置である点で相違している。

イ 引用発明の構成(b)の符号化部15は、「入力された動画像データを符号化して符号化データをメモリ12に格納する」ことから、動画像データを符号化して符号化データを符号化部からメモリ12へ出力するものであるといえる。
また、引用発明は、構成(a2)(a3)に特定されるように、ピクチャ間の予測構造があり、他のピクチャに依存せず復号できる特別なピクチャ単位でデータを分割すればGOPに相当するランダムアクセス可能な単位が構成できるMPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成することから、上記符号化部15において、ピクチャ間の予測を行う符号化方式で符号化を行い、データを分割して複数のGOPが構成できるといえる。

ところで、本件明細書の【0005】には以下の記載がある。
「 GOP(Group Of Pictures)は、1以上のアクセスユニット(AU)の映像信号がフレーム間予測符号化方式で符号化された場合に、前記1以上のアクセスユニットの映像信号の全てを復号することが可能な複数のアクセスユニット(AU)の集合である。即ち、符号化順で先頭のアクセスユニット(AU)であるIRAPピクチャと、そのIRAPピクチャに続くアクセスユニット(AU)(IRAPピクチャ以外のピクチャ)との集合である。」
上記記載から、本件補正発明における「アクセスユニット」とは、「ピクチャ」のことであるといえる。

そうすると、引用発明の多重化装置の構成(b)の符号化部15は、本件補正発明の構成Cの「前記映像符号化手段」と同様に、フレーム間すなわちピクチャ間予測符号化方式で複数のアクセスユニットすなわちピクチャの集合である1以上のGOPを符号化するといえる。
以上のことから、引用発明の構成(b)の符号化部15は、本件補正発明の構成Cの「フレーム間予測符号化方式で」「複数のアクセスユニットの集合である1つ以上のGOP」を符号化する、構成Bの「前記映像信号の符号化データを出力する映像符号手段」に相当する。

ウ 引用発明の多重化装置における構成(c1)のフレーム遅延取得部17及び構成(c2)の管理情報作成部16を合わせたものについて検討する。

上記イによれば、引用発明の構成(b)の符号化部15は、本件補正発明の構成Cの「前記映像符号化手段」と同様に「フレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOP」を構成できるといえる。

また、引用発明では、構成(a1)のように、GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延をフレーム遅延と呼ぶことから、引用発明の構成(c1)(c2)における、フレーム遅延の情報として格納される遅延情報dlyInfを作成し、遅延情報dlyInfを用いて管理情報baseを生成することについて、管理情報baseはGOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延時間に関連する情報を含み、かつ、この情報を用いた生成処理を行って生成されたものといえる。
そうすると、引用発明の構成(c1)(c2)を合わせたものと、本件補正発明の構成Cの「制御情報符号化手段」とは、「前記符号化手段によりフレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOPにおける」アクセスユニットすなわちピクチャについての時刻情報に関する情報を処理して出力するという点で共通する。

一方、上記アクセスユニットについての時刻情報に関する情報について、
本件補正発明の構成Cは「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報」を符号化して符号化データを出力するのに対して、
引用発明の構成(c1)(c2)を合わせたものは「GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延」すなわち「フレーム遅延frDly」から遅延情報dlyinfを作成し、符号化データの解析結果と遅延情報dlyinfから管理情報を生成処理により生成して出力するものである、
点において相違している。

エ 引用発明の多重化装置における(d)の多重化部について検討する。

引用発明の多重化部において多重化する「メモリ12からの読み出しデータ」とは、引用発明の(b)において「入力された動画像データを符号化して符号化データをメモリ12に格納する」ものであり、入力された動画像データを符号化してメモリ12に格納された符号化データであるから、本件補正発明の構成Dの「多重化手段」における「前記映像信号の符号化データ」に相当する。
また、引用発明の構成(d)における「管理情報」は、「メモリ12からの読み出しデータ」と多重化されて、多重化データとして出力されることから、上記ウにおいて検討したように「時刻情報に関する情報」である点において、本件補正発明の構成Dの「多重化手段」における「前記制御情報」に対応している。
さらに、引用発明の構成(d)における「多重化部18」は、上記「管理情報」と「メモリ12からの読み出しデータ」を多重化した多重化データを出力することから、本件補正発明の構成Dと「前記映像信号の符号化データと前記アクセスユニットの時刻情報に関する情報の符号化データを多重化し、多重化後の符号化データであるビットストリームを出力する多重化手段」である点で共通する。

以上の対比に基づくと、本件補正発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
A’ 映像信号の符号化装置であって、
B 前記映像信号の符号化データを出力する映像符号化手段と、
C’ 前記映像符号化手段によりフレーム間予測符号化方式で符号化された複数のアクセスユニットの集合である1以上のGOPにおける、アクセスユニットの時刻情報に関する情報を出力する情報処理手段と、
D’ 前記映像信号の符号化データと前記アクセスユニットの時刻情報に関する情報を多重化し、多重化後の符号化データであるビットストリームを出力する多重化手段と
A’ を備えた符号化装置。

(相違点1)
構成A’に関して、本件補正発明の映像信号の符号化装置は「1つのプログラムを構成する1以上のコンポーネントに関し、前記コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能なMMTにおける」ものであるに対して、引用発明の多重化装置は「MPEG-4 AVCの符号化ストリームを生成」し、「TSやRTPなどのプロトコルを使用」する多重化装置である点。

(相違点2)
構成C’の「アクセスユニットの時刻情報に関する情報」を出力することに関して、本件補正発明は、「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報を符号化して符号化データ」を出力するのに対して、引用発明は「GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延であるフレーム遅延frDlyから遅延情報dlyinfを作成し、符号化データの解析結果と遅延情報dlyinfから管理情報を生成処理により生成し」て出力するものである点。

(相違点3)
構成D’における、映像信号の符号化データと多重化される「アクセスユニットの時刻情報に関する情報」に関して、本件補正発明は「制御情報の符号化データ」、すなわち、上記相違点2における、「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む制御情報を符号化したデータ」を多重化するのに対して、引用発明は上記相違点2における「管理情報」を多重化する点。

(3-5) 相違点に対する判断
ア 相違点1について
引用発明は構成(e)に特定されるように、「TSやRTPなどのプロトコルを使用してネットワークにより多重化データを受信するような場合には、フレーム遅延情報を取得して再生端末に通知してもよい」ことから、TSやRTP以外で伝送を行うことも想定されているといえる。
そこで、引用文献2記載の事項(ア)のように、映像データ等の多重伝送方式として、RTPを用いたTS over IPが用いられてきたアプリケーションにおいてMMTの採用が進むと考えられていることを考慮すると、TSやRTPが用いられてきたアプリケーションである引用発明のMPEG-4 AVCの伝送方式を、TSやRTPに替えてMMTを採用することで、引用文献2記載の事項(イ)?(エ)のMMTを用いて再生端末で受信するように構成する、すなわち、MMTを用いて伝送を行うように構成するMMTによる映像信号の符号化装置を想到することは、当業者の通常の創作能力の範囲にすぎないといえる。
このようなMMTによる映像信号の符号化装置は、「TSとMMTにおける主要項目の比較において、TSではプログラムを構成するコンポーネントがあるのに対し、TSのプログラム、コンポーネントに相当する用語として、MMTではパッケージ、アセットを使用」するものであり、「MMTは、映像、音声、字幕、データなどの多様なアセットを複数の伝送路を用いて伝送する」ことから、1つのパッケージすなわちプログラムを構成する1つ以上のアセットすなわちコンポーネントに関して、アセット毎に異なる伝送方式を用いてデータの伝送が可能であるといえ、上記相違点1の構成を具備するものである。

イ 相違点2、3について
引用発明において、プロトコルとして引用文献2記載の事項(イ)?(エ)のMMTを用いて伝送を行うように構成した際のMMTによる映像信号の符号化装置は、MPU先頭のアクセスユニットのプレゼンテーションタイムスタンプ(提示時刻情報)をPAメッセージのMMTPパケットで伝送するものとなり、MPUとはGOPなどランダムアクセスポイントを区切りとするアクセスユニットであるから、上記のPAメッセージは「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を含む」ものといえる。

また、上記(3-3)(イ)に示したとおり、引用文献1記載の事項として「多重化データは、符号化された複数のピクチャをランダムアクセス可能なアクセス単位ごとに含んで構成される1つ又は複数の符号化ストリームと、前記アクセス単位のうちの何れか2つのアクセス単位において、復号順で先頭のピクチャが復号されてから表示順で先頭のピクチャが表示されるまでの遅延量に関する内容の遅延情報とを有」することが示されている。

そうすると、引用発明の構成(d)における多重化部において、メモリ12からの読み出しデータである符号化データと多重化するデータとして、引用発明の「GOPの先頭ピクチャを復号してからGOPの先頭ピクチャを表示するまでの遅延」である「フレーム遅延を取得し、多重化データの管理情報として格納されるフレーム遅延情報」を示す「管理情報」に替えて、引用文献2記載の事項である「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報を含」み、かつ引用文献1記載の事項である「符号化された複数のピクチャをランダムアクセス可能なアクセス単位のうちの何れか2つのアクセス単位において、復号順で先頭のピクチャが復号されてから表示順で先頭のピクチャが表示されるまでの遅延量に関する内容の遅延情報」とすることで、引用発明において、「提示順で先頭のアクセスユニットの提示情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む」情報を多重化するように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的変更にすぎない。

このとき、引用発明の構成(c1)(c2)において生成される情報は、上記「管理情報」に替わって、「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差とを含む」ものとなる。
そして、本件補正発明の「制御情報」を構成するが、この「制御情報」を生成する処理及び生成された情報を、「符号化」及び「符号化データ」と称することは、当業者が適宜なし得る事項である。

以上のことから、引用発明において、引用文献1記載の事項、引用文献2記載の事項を適用したものについて、上記のように制御情報を生成する処理及び生成された情報を「符号化」及び「符号化データ」と称するものは、上記相違点2,3の構成を具備するものである。

(3-6) 請求人の主張について
請求人は審判請求書において以下のとおり主張している。

「(3)引用文献1に記載の発明へのMMTの適用について
また、審査官殿は、MMT、及びMMTにおいて提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報を含む制御情報を符号化することは周知であるから、引用文献1に記載された発明において、MPEG-2 TS、MPEG-2 PS、PTPなどの方式に代えて周知のMMTを採用し、この場合に、提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報を含む制御情報を符号化することは、当業者が容易に想到し得ることであると述べられております。
更に、仮に、引用文献1に記載された発明において、「アクセスユニット毎にタイムスタンプが付与され、当該タイムスタンプには当該アクセスユニットの復号時刻や提示時刻に関する情報が格納」されていたとしても、提示順で先頭のアクセスユニットのタイムスタンプは、提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示すという機能を有するものであるから、当該タイムスタンプに代えて、共通の機能を有する「MPUタイムスタンプ記述子」を採用することが妨げられるものではないとも述べられております。
MMTは、引用文献2にも記載されているように公知のデータ伝送方式です。
しかし、引用文献1に記載のMPEG-2 TS等とMMTとは、伝送形態も、伝送のためのデータ構造も、全く異なります。
例えば、引用文献2の「1.はじめに」にも記載があるように、MPEG-2 TS(以降、「TS」と称します)は、1995年に国際標準化され、放送等で長く採用されてきた多重化方式です。
一方、MMTは、8K SHV(Super Hi-Vision)放送をはじめとした次世代放送サービスの実用化に向けた検討されている新たな多重化方式であって、複数伝送路を用いたハイブリッド伝送を前提とした多重化方式で(引用文献2の「1.はじめに」参照)(本件発明では「コンポーネント毎に異なる伝送形式によりデータの伝送が可能な形式」が対応します)、多様化が進んだ伝送路やコンテンツに対応する多重化方式として検討された結果、TSとは技術の主要項目が異なっています。
(中略)
ところで、引用文献2は、MMTについて言及していますが、タイトル「MMTにおけるMPEG-2 TSコンテンツ多重方式の検討」やアブストラクト内の説明「本編では、ハイブリッド伝送などMMTの特徴を活用可能なTS形式コンテンツの多重方式であるTS over MMTを提案し、次世代放送サービスにおけるレガシーメディア活用の可能性を示す。」とあるように、MMTにおけるTS等のレガシーメディア活用について論じたものです。引用文献2の図1「レガシーメディア活用を考慮したMMTサービスのレイヤモデル」においてMMTの上位レイヤにレガシーメディア(TS)が位置する様子が記載されているように、引用文献2はTS形式を維持したままMMTを利用することを想定していますが、そうすると、MMT形式のデータにTS形式のヘッダが含まれることでオーバーヘッドが生じてしまいます。補正後請求項1に係る発明は、TS形式を維持せずにMMTを用いる場合を想定し、上記「(1)補正後請求項1に係る発明」でご説明した課題を解決するために、(a)と(b)を含む制御情報を符号化するように構成したものです。
以上のように、アクセスユニット毎にタイムスタンプを付与するTSとMPU単位に時刻情報を付与するMMTとは、時刻情報を付与するためのデータ構造も、時刻情報を取得するための処理も全く異なりますし、引用文献2はTS形式を維持したままMMTを利用する場合について説明したものですから、当業者であっても、引用文献1においてTS等に代えてMMTを方式を採用することは到底容易ではありません。」

上記主張について検討する。
上記(3-2)イ(イ)のとおり、引用文献2記載の事項は、TSと比較したときのMMTの主要項目や、MMTにおけるハイブリッド伝送を示すものであって、TS形式を維持したままMMTを利用する場合について説明したものではない。
また、引用発明はTSに関するものではなく、かつ上記(3-5)「ア 相違点1について」のとおり、引用発明の構成(e)において、TSやRTP以外の伝送方式を用いることを想定している以上、引用発明において、引用文献2記載の事項であるMMTに関する技術を適用し、MMTを用いて多重化を行い伝送する構成をとることは当業者にとって容易になしえたものである。

また、請求人は以下のとおり主張している。
「(4)引用文献1の遅延情報について
また、審査官殿は、補正後請求項1には時間差の用途について記載されていないため、出願人の主張は採用できないと述べられております。
平成31年1月17日付け意見書における上記用途についての出願人の主張は、引用文献1に記載の遅延情報と補正後請求項1の「提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻を示す提示時刻情報と、符号化順で先頭のアクセスユニットの復号時刻と提示順で先頭のアクセスユニットの提示時刻との時間差」とは用途が異なるため、引用文献1に伝送方式が全く異なるMMTを適用する理由もないことを説明するためのものです。引用文献1のMPEG-2等とMMTとは伝送方式が全く異なる上、引用文献1に記載の遅延情報と補正後請求項1の「時間差」との用途も異なることから、引用文献1の「遅延情報」に関する記載、および引用文献2に記載のMMTを考慮したとしても、当業者が容易に補正後請求項1に係る発明をできたとは言えません。」

上記主張について検討する。
本件補正発明は上記「提示時刻情報」や上記「時間差」の用途を特定するものではなく、引用発明の「遅延情報」の用途とは異なることを特定するものでもない。また、本件実施例に記載される本件補正発明の上記「提示時刻情報」と上記「時間差」の用途が引用発明の「遅延情報」の用途と異なることは、伝送方法をMPEG-2 TSやRTPを用いたTS over IPに特定するものではなく、他の伝送方式による伝送を行うことも想定している引用発明において、MMTを適用することを妨げるものではない。
そして、引用発明に引用文献2記載の事項であるMMTに関する技術を適用することで本件補正発明を構成することは当業者にとって容易になしえたものであることは上記(3-5)において説明したとおりである。

よって、審判請求人の主張は採用できない。

(3-7) まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、本件補正に対する、原審における平成31年4月22日付け補正の却下の決定は適法になされたものである。

第3 本件発明について
1 本件発明
上記第2の「3 補正の却下の決定についてのむすび」のとおり、原審における補正の却下の決定は適法なものであり、本件補正は却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、上記第2の1に示した(補正前の請求項1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。

この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1. 特開2007-336578号公報
2. 河村 侑輝, 外4名,MMTにおけるMPEG-2 TSコンテンツ多重方式の検討,情報処理学会研究報告,日本,情報処理学会,2014年2月21日,pp. 1-6

3 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2に記載された事項は、上記第2の2(3-2)ア、イに示したとおりであり、引用文献1に記載された発明(引用発明)、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項は、上記第2の2(3-3)ア?ウにおいて認定したとおりである。

4 対比・判断

そうすると、本件発明を上記第2の2(1)のように下位概念化し、かつより明確化することで減縮したものにあたる本件補正発明が、上記第2の2(3)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-25 
結審通知日 2020-09-29 
審決日 2020-10-12 
出願番号 特願2014-112114(P2014-112114)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉢呂 健坂東 大五郎後藤 嘉宏  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 曽我 亮司
川崎 優
発明の名称 符号化装置  
代理人 松井 重明  
代理人 村上 加奈子  
代理人 倉谷 泰孝  

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