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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05H
管理番号 1368656
審判番号 不服2019-15765  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-25 
確定日 2020-11-26 
事件の表示 特願2015- 9622「大気圧非平衡放電プラズマによって生じるラジカルの検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月25日出願公開、特開2016-134344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月21日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成30年11月22日付け 拒絶理由通知書(平成30年11月27日発送)
平成31年 3月22日 意見書・手続補正書の提出
平成31年 3月25日 手続補足書(参考資料1)の提出
令和 元年 8月22日付け 拒絶査定(令和 元年 8月27日送達)
令和 元年11月25日 本件審判請求書の提出


2 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明は、平成31年3月22日に提出した手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項5に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「メチルレッド、メチレンブルー及びインジゴカルミンからなる群より選択される少なくとも1種の色素で染色された、大気圧非平衡放電プラズマによって生じるラジカルを検出するための、ナイロン繊維、ポリエステル繊維及び動物繊維、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される繊維からなる布。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の本願発明の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の文献に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:特開2013-178922号公報
周知例2:特開2006-308423号公報

4 引用発明の認定
(1)引用文献1:特開2013-178922号公報

(ア)
原査定において引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2013-178922号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付加。以下同様。)
「【請求項1】
プラズマ処理を評価するためのインジケータであって、プラズマに起因して生成される窒素酸化物によって得られる水素イオンと反応することにより変化する組成物を含むことを特徴とするインジケータ。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物にプラズマが照射されて処理が行われる場合の、そのプラズマ処理の評価に関するものである。」

「【0007】
(1)プラズマ処理を評価するためのインジケータであって、プラズマに起因して生成される窒素酸化物によって得られる水素イオンと反応することにより変化する組成物を含むことを特徴とするインジケータ。
「プラズマ処理」としては、例えば、被処理物の表面等の洗浄、改質等が該当し、具体的には、有機物除去、親水性や撥水性の向上等が該当する。
「プラズマ処理の評価」とは、プラズマ処理が行われたか否かの評価と、プラズマ処理の程度の評価との少なくとも一方の評価をいう。プラズマ処理の程度は、例えば、被処理物に照射されたプラズマ(活性種、反応種と称することができる)の量で表すことができ、照射されたプラズマの量が多いほど処理レベルが高い、すなわち、プラズマ処理(例えば、有機物除去等)が良好に行われたと評価することができる。
「プラズマに起因して生成される窒素酸化物」には、例えば、「プラズマにより生成される窒素酸化物」と「プラズマと反応して生成される窒素酸化物」との少なくとも一方が含まれる。
また、「窒素酸化物によって得られる水素イオン」とは、窒素酸化物と水(大気中に含まれる水蒸気であっても、組成物、インジケータに含まれる水であってもよい)との反応により得られる水素イオンをいう。
「プラズマにより生成される窒素酸化物」とは、プラズマ照射装置によって生成されるプラズマから生成される窒素酸化物をいう。例えば、図1の[i]に示すように、プラズマ照射装置に窒素ガスおよび酸素ガスを含む処理ガスが供給された場合に、放電領域において、プラズマ(励起状態にある窒素分子、酸素分子、窒素原子、酸素原子、窒素イオン、酸素イオン、オゾン等)が生成されるが、これらプラズマおよびプラズマ中に含まれる処理ガスの分子(基底状態にある窒素分子、酸素分子)等の反応により生成される一酸化窒素、二酸化窒素等の窒素酸化物をいう。これら窒素酸化物は、プラズマとともに、プラズマ照射装置から照射され、プラズマ照射装置の外部において、水と反応して水素イオンが生成される。
2NO+O_(2)→2NO_(2)
3NO_(2)+H_(2)O→2HNO_(3)+NO
HNO_(3)→H^(+)+NO_(3)^(-)
なお、窒素酸化物は、プラズマ照射装置の外で、すなわち、照射されたプラズマの反応により生成される場合もある。
以上のことから、プラズマ照射装置から窒素酸化物が照射される場合、あるいは、窒素原子、酸素原子等が含まれるプラズマが照射される(図1の[i]の場合)には、大気中に照射されても、大気から遮断された空間に照射されてもよい。例えば、減圧中、あるいは、真空中に照射されるようにしてもよい。
「プラズマと反応して生成される窒素酸化物」とは、プラズマ照射装置の外部の大気中において、プラズマ照射装置から照射されたプラズマと空気(窒素と酸素との少なくとも一方)との反応により生成される窒素酸化物をいう。例えば、図1の[ii]に示すように、プラズマ照射装置に処理ガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスが供給され、プラズマ化されて(例えば、希ガスの原子が励起され準安定状態とされる。この準安定状態の原子をメタステーブル化された原子と称し、^(*)を付して表す)、大気中に照射される。そして、プラズマ(例えば、Ar^(*))と空気(窒素および酸素)とが反応して窒素酸化物が生成される。また、窒素酸化物と水とが反応して水素イオンが生成される。
Ar^(*)+N_(2)→Ar+2N^(*)
Ar^(*)+O_(2)→Ar+2O^(*)
2N^(*)+2O^(*)→2NO
2NO+O_(2)→2NO_(2)
3NO_(2)+H_(2)O→2HNO_(3)+NO
HNO_(3)→H^(+)+NO_(3)^(-)
以上のことから、図1の[ii]の場合には、照射されたプラズマと空気とが反応して窒素酸化物が生成されるとともに、水素イオンが生成されるため、プラズマが大気(少なくとも窒素原子と酸素原子とが含まれる)中に照射されることが望ましい。
なお、希ガスに限らず、放電によりプラズマ化されるガス(メタステーブル化されるガス)であれば、処理ガスとして用いることができる。
また、窒素原子、あるいは、酸素原子が含まれるプラズマが生成されるガスを処理ガスとして用いた場合には、酸素原子、あるいは、窒素原子が含まれる雰囲気中に照射されるようにすることができる。例えば、窒素原子等が含まれるプラズマが酸素原子が含まれる雰囲気(酸素分子が含まれる雰囲気も含む)中に照射された場合、酸素原子等が含まれるプラズマが窒素原子が含まれる雰囲気(窒素分子が含まれる雰囲気)中に照射された場合であっても、窒素酸化物が生成される。
いずれにしても、照射されたプラズマにより水素イオンが生成されるため、水素イオンの有無に基づけば、プラズマが照射されたか否かがわかる。また、照射されたプラズマの量が多い場合は少ない場合に比較して生成される水素イオンの量が多くなるため、水素イオンの量(あるいは、濃度)に基づけば、プラズマ処理の程度がわかる。
「組成物」は、化合物のうち、水素イオンと反応して自身が変化するものである。そして、組成物が水素イオンと反応して自身の色が変化するものである場合には、水素イオンが生成されたこと、すなわち、プラズマが照射されたことを、視覚により認識することができる。図2に、組成物としての一例であるメチルイエロー(例えば、pH指示薬)が、水素イオンと反応して、構造が変化し、変色(黄色からオレンジないし赤色)する状態を示す。
「インジケータ」は、少なくとも1種類の組成物を含むものである。また、インジケータは、水素イオンの有無を表示するものであっても、水素イオンの量の多少を表示するものであってもよい。
(2)前記組成物が、前記水素イオンと反応して色が変化するpH指示薬である(1)項に記載のインジケータ。
組成物は、pH7未満で色が変化する(変色領域にpH7未満が含まれる)pH指示薬とすることができる。また、pH6.5未満で変化するものとしたり、pH6.0未満で変化するものとしたりすることができる。
(3)前記pH指示薬が、pH5.4未満で色が変化するものである(2)項に記載のインジケータ。
pH指示薬としては、pH5.4未満で色が変化するものが望ましく、5.2未満、5.0未満、4.8未満、4.5未満で変化するものとすることもできる。
(4)前記pH指示薬が、メチルバイオレット<[4-{ビス(4-ジメチルアミノフェニル)メチレン}-2,5-シクロヘキサンジエン-1-イリデン]ジメチルアンモニウムクロリド>、チモールブルー<4-[9-(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-プロパンー2-イルフェニル)-7,7-ジオキソ-8-オキサ-7λ6-チアビシクロ[4.3.0]ノナ-1,3,5-トリエン-9-イル]-5-メチル-2-プロパン-2-イル-フェノール>、メチルイエロー<4-ジメチルアミノアゾベンゼン>、ブロモフェノールブルー<4,4′-[3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド)-3-イリデン]ビス(2,6-ジブロモフェノール)>、メチルレッド<4-(ジメチルアミノ)アゾベンゼン-2′-カルボン酸>、ブロモフェノールレッド<3,3-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>、リトマス、ブロモチモールブルー<4,4′-(3H-2,1ベンゾキサチオール-3-イリデン)ビス[2ブロモ-3-メチル-6-(1-メチルエチル)フェノール]S,S-ジオキシド>、ピクリン酸<2,4,6-トリニトロフェノール>、o-クレゾールレッド<3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>、2,4-ジニトロフェノール、コンゴーレッド<3,3′-(1E,1′E)-ビフェニル-4,4′-ジイルビス(ジアゼン-2,1-ジイル)ビス(4-アミノナフタレン-1-スルホン酸)ナトリウム>、メチルオレンジ<4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4-スルホン酸ナトリウム>、ブロモクレゾールグリーン<3,3-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>、メチルパープル、ブロモクレゾールパープル<3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモ-5-メチルフェニル)-3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>、クロロフェノールレッド<3,3-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)-3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>、p-ニトロフェノール、ニュートラルレッド<8-(ジメチルアミノ)-3-メチル-2-フェナジンアミン・塩酸塩>、フェノールレッド<3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3H-2,1-ベンゾオキサチオール1,1-ジオキシド>から選択された1つである(2)項または(3)項に記載のインジケータ。
pH指示薬として、例えば、上述のものを用いることができる。また、上述に記載のpH指示薬に限らず、水素イオンと反応して変色する物質を広く用いることができる。
なお、<>には、体系名を記載した。
(5)前記プラズマが、窒素原子と酸素原子との少なくとも一方を含む雰囲気中において照射され、前記組成物が前記雰囲気中で前記水素イオンと反応するものである(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のインジケータ。
(6)前記プラズマが大気中において照射され、前記組成物が大気中で前記水素イオンと反応するものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のインジケータ。
大気中にプラズマが照射されるようにすれば、大気から遮断する装置が不要となるため、簡単に、被処理物にプラズマ処理を施すことができる。
・・・(中略)・・・
【0009】
(18)プラズマ処理を評価するために用いられる評価用シートであって、
プラズマにより生成される窒素酸化物、あるいは、プラズマと反応して生成される窒素酸化物によって得られる水素イオンと反応することにより変化する組成物と、
その組成物を保持するシート状の基材と
を含むことを特徴とする評価用シート。
評価用シートを用いれば、プラズマ処理の評価を簡単に行うことができる。
本項に記載の評価用シートには、(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(19)前記基材が、パルプ、プラスチックス、セラミックスのうちの1つ以上の材料により製造されたものである(18)項に記載の評価用シート。
評価用シートは、シート状の基材の表面に組成物を有する層が設けられた構造を成したものとしたり、シート状の基材に組成物が含浸された構造を成したものとしたりすること等ができる。
パルプは、セルロース、リブニン等の植物繊維を含むものであり、紙等の材料として使用されることが多い。
(20)前記基材が多孔性のものであり、前記組成物が前記基材の孔に保持された(18)項または(19)項に記載の評価用シート。
紙(濾紙)は多孔性のものであるため、その孔(隙間)に組成物を保持させることができる。また、プラスチックス、セラミックスを用いた場合であっても、多孔性のシートに加工することができる。」

「【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態である評価用シートを用いて、本発明の一実施形態であるプラズマ処理評価方法を実施する場合について図面に基づいて詳細に説明する。また、評価用シートには、本発明の一実施形態であるインジケータとしての組成物が含まれるが、評価用シート自体をインジケータと考えることもできる。
【0013】
[共通の実施例の概要]
以下に記載の共通の実施例において、図3,4に示すプラズマ照射装置10(10p,10q)によるプラズマ処理の評価が評価用シート12(12s、12a,12b,12c)を用いて行われる。
プラズマ照射装置10は、本体14と、その本体14に設けられたガス供給部16と、一対の電極18a,bと、プラズマ照射部20とを含む。一対の電極18a,bの間に形成された空間に対して、ガス供給部16が上流側に設けられ、プラズマ照射部20が下流側に設けられる。
なお、図3,4において、xがガス等の流れ方向であり、yがガス等の流れ方向に直交する方向であり、zがプラズマ照射装置10と評価用シート12との相対移動方向である。
【0014】
ガス供給部16には図示しないガスボンベが接続され、x方向に設定流量q(cc/sec)で窒素ガスと酸素ガスとを含む処理ガス(反応ガス、母ガスと称することもできる)が供給される。
一対の電極18a,bは、ガス供給部16から供給された処理ガスが流れる方向(x方向)に対して交差する方向(例えば、直交する方向であるy方向)に隔たって設けられる。一対の電極18a,bには交流電源22が接続され、電圧が印加される。それにより、一対の電極18a,bの間に電位差が生じ、一方から他方に向かって放電され、放電領域(プラズマ化領域と称することができる)Pが形成される。
プラズマ照射部20は、一対の電極18a,bの離間方向(y方向)に並んで配設された複数の通路24を含む。通路24は、概してx方向に延びたものであり、一端部の開口が放電領域Pに対向し、他端部の開口がプラズマ照射口26とされる。
【0015】
本プラズマ照射装置10において、一対の電極18a,bの間に形成された放電領域Pに窒素ガスと酸素ガスとを含む処理ガスが供給されると、プラズマ{励起状態にある窒素分子(N_(2)),励起状態にある酸素分子(O_(2)),窒素原子(N)、酸素原子(O),オゾン(O_(3)),これらのイオン,ラジカル等の活性種}が生成される。また、これらプラズマ、プラズマ中に含まれる処理ガス(基底状態にある窒素分子、酸素分子)等の反応により一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO_(2))が生成され、プラズマとともにプラズマ照射口26から照射される。
そして、一酸化窒素が大気中の酸素(O_(2))と反応して二酸化窒素が生成され、二酸化窒素が大気中の水(水蒸気:H_(2)0)と反応して、硝酸(HNO_(3))が形成されるとともに水素イオン(H^(+))が生成される。
2NO+O_(2)→2NO_(2)
3NO_(2)+H_(2)O→2HNO_(3)+NO
HNO_(3)→H^(+)+NO_(3)^(-)
【0016】
このように、プラズマ照射装置10に、放電領域Pが形成され、処理ガスが供給される状態をプラズマ照射装置10の作動状態と称する。そして、プラズマ照射装置10の作動状態において、プラズマ照射装置10と評価用シート12とを図4に示すように、z方向に相対移動させ(作動工程)、その相対移動(以下、これらの相対移動をスキャンと称する)後の評価用シート12の色に基づいて、プラズマ処理の評価が行われる(評価工程)。
以下、具体的なプラズマ処理の評価について説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1においては、プラズマ照射装置10pのプラズマ処理の評価が評価用シートとしてのpH試験紙12sを用いて行われる。pH試験紙12sは、MACHEREY-NAGEL社(ドイツ国)製、商品名「PEHANON(登録商標)pH1.0-12.0」、型番「90401」のものであり、図5に示す特性を有する。
pH試験紙12sは、基材としてのシート状の紙(濾紙)に、複数種類のpH指示薬が含浸された構造を成す。水素イオンと、複数種類のpH指示薬のうちの1つ以上が反応することにより、そのpH指示薬の構造が変化することにより色が変わり、pH試験紙12sの色が変わる。
pH試験紙12sは、図5に示すように、pH1で赤色を示し、pH2で濃いオレンジ色、pH3でオレンジ色、pH4で黄色、pH5で薄い黄緑色、pH6で黄緑色、pH7で緑色、pH8で薄い紫色を示すものである。また、pH9?12ではpH値が大きくなるのに伴って紫色が濃くなる。
pH値は、一般的には、水溶液中の水素イオンの濃度で決まる値であり、水素イオンの濃度が高くなると小さくなる。それに対して、pH試験紙12sに直接プラズマが供給される場合には、そのpH試験紙12sに供給された水素イオンの量(複数回照射された場合には、各々において照射された水素イオンの量の合計)で決まる値であると考えたり、pH試験紙12sの単位面積当たりに供給された水素イオンの量で決まる値であると考えたりすることができる。いずれにしても、pH試験紙12sに水素イオンが供給されれば、pH値は7より小さい値となり、供給された水素イオンの量が多い場合は少ない場合よりpH値は小さくなる。
【0018】
本実施例においては、プラズマ照射装置10pのガス供給部16からの供給される処理ガスの流量をq(cc/sec)とした。また、プラズマ照射装置10pとpH試験紙12sとを、z方向に速度v(mm/sec)で相対移動させた。なお、プラズマ照射口26とpH試験紙12sの面30との間のギャップ(x方向の隙間)を1mmとした。
そして、作動状態にあるプラズマ照射装置10pと緑色(pH7)であるpH試験紙12sとをスキャンさせ(作動工程)、スキャン後のpH試験紙12sの色に基づき、pH値を取得した(評価工程)。
その評価結果を図6に示す。
1回スキャンした場合には、pH試験紙12sは緑色から黄緑色に変化した。黄緑色であることからpH値は4?5である。
2回スキャンした場合には、pH試験紙12sは濃い黄色になった。このことから、pH値は3?4である。
3回スキャンした場合には、黄色とオレンジ色との中間よりオレンジ色に近い色になったことから、pH値は3?4の間の3に近い値である。
4回スキャンした場合には、オレンジ色になったことから、pH値は3である。」

(イ)図1は以下のものである。





以上の記載から、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「プラズマ処理を評価するためのインジケータであって、プラズマに起因して生成される窒素酸化物によって得られる水素イオンと反応することにより変化する組成物を含み、(請求項1)
インジケータは、少なくとも1種類の組成物を含むものであり、
組成物が、水素イオンと反応して色が変化するpH指示薬であり、
pH指示薬がメチルレッドであり、
プラズマが大気中において照射され、組成物が大気中で水素イオンと反応するものであり、(【0007】)
プラズマ処理を評価するために用いられる評価用シートであって、
プラズマと反応して生成される窒素酸化物によって得られる水素イオンと反応することにより変化する組成物と、その組成物を保持するシート状の基材とを含み、
基材が、パルプ、プラスチックス、セラミックスのうちの1つ以上の材料により製造され、
基材が多孔性のものであり、前記組成物が前記基材の孔に保持された
紙(濾紙)は多孔性のものであるため、その孔(隙間)に組成物を保持させることができ、
プラスチックス、セラミックスを用いた場合であっても、多孔性のシートに加工することができ、(【0009】)
評価用シート自体をインジケータと考えることもでき、(【0012】)
プラズマ照射装置10は、本体14と、その本体14に設けられたガス供給部16と、一対の電極18a,bと、プラズマ照射部20とを含み、(【0013】)
一対の電極18a,bの間に形成された放電領域Pに窒素ガスと酸素ガスとを含む処理ガスが供給されると、プラズマ{励起状態にある窒素分子(N_(2)),励起状態にある酸素分子(O_(2)),窒素原子(N)、酸素原子(O),オゾン(O_(3)),これらのイオン,ラジカル等の活性種}が生成されるものである【0015】)
インジケータ。」

(2)周知例2:特開2006-308423号公報
原査定において引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2006-308423号公報(以下「周知例2」という。)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材表面の繊維を構成する分子中に、pH変色指示性能を有する化合物が化学結合により固定化された新規なpH変色指示性繊維とその製法、並びにそれを用いたpH検知法、pH検知システム、pH検知器に関するものである。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のpH変色指示性繊維は、繊維基材表面の繊維を構成する分子中にpH変色指示性能を有する化合物が化学的に結合固定しているところに特徴を有しており、被検液とpH変色指示性能を有する化合物との接触効率が非常に高いため、鋭敏なpH変色性能を発揮する。また、繊維基材表面の繊維を構成する分子中にpHによって変色する指示薬成分が化学的に結合固定されているので、指示薬成分が被検液中に溶出して被検液を汚染する恐れもなく、更には、中性水などを用いて洗浄することで多数回の繰り返し使用が可能である。
【0014】
pH変色指示性能を有する化合物は、特定のpH領域で特定の呈色反応を示すものであればよく、一般に用いられている各種のpH指示薬成分を使用することができ、それらの化合物が繊維基材表面の繊維を構成する分子中に化学結合によって結合固定されている。化学結合の中には共有結合、イオン結合、配位結合などが含まれ、本発明において「化学結合」とはそれらの全てを包含するが、それらの中でも特に好ましいのは、結合力が最も高い共有結合である。
【0015】
従って、pH指示薬成分を共有結合によって結合固定させることを考慮すると、その反応活性点となる官能基、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、水酸基等を分子中に有しているpH指示薬成分が最適であり、斯かる化合物の具体例としては、4-アミノアゾベンゼン、4-アミノアゾベンゼン-4’-スルホン酸、2-アミノアゾトルエン、メチルレッド、コンゴーレッド、ニュートラルレッドが好ましいものとして例示される。
【0016】
一方、上記pH変色指示性能を有する化合物が結合固定される繊維基材は、被検液との接触効率を高めるため広い表面積を有し、且つ、被検液との間で高い濡れ性を与えるため高親水性のものが好ましく、更には、高温での使用に耐える耐熱性を有しているものが望ましい。これらの要望を満たす繊維基材は、天然繊維もしくは合成繊維、再生繊維の何れでもかまわないが、中でも特に好ましいのは天然、再生の如何を問わないセルロース系繊維である。」

(3)周知例3:特開2013-95765号公報

本願の出願前に日本国内において頒布された特開2013-95765号公報(以下「周知例3」という。)には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気をプラズマ発生用ガスとするプラズマ処理の検知に有用な水蒸気プラズマ処理検知用インキ組成物及び水蒸気プラズマ処理検知インジケーターに関する。」

「【0042】
2.水蒸気プラズマ滅菌検知インジケーター
本発明のインジケーターは、前記の本発明インキ組成物からなる変色層を含む。一般的には、基材上に本発明インキ組成物を塗布又は印刷することによって変色層を形成することができる。この場合の基材としては、変色層を形成できるものであれば特に制限されない。例えば、金属又は合金、セラミックス、ガラス、コンクリート、プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリイミド等)、繊維類(不織布、織布、その他の繊維シート)、これらの複合材料等を用いることができる。また、ポリプロピレン合成紙、ポリエチレン合成紙等の合成樹脂繊維紙(合成紙)も好適に用いることができる。」


プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン)と繊維の複合材料は合成繊維であるから、上記アによれば、周知例3には水蒸気プラズマ滅菌検知インジケーターの基材にポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンを含む合成繊維を用いることが記載されている。

(4)周知例4:特開2001-13129号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-13129号公報(以下「周知例4」という。)には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はケミカルインジケータに関する。」

「【0005】これまでの上記のような滅菌処理用のケミカルインジケータはpH変化に感応する色素に依存している。一般に、酸化性の滅菌剤(例えば、過酸化水素)への曝露により、滅菌処理チャンバー内のpH値が塩基性から酸性に変化する。すなわち、従来技術のケミカルインジケータにおける色素は一般に酸性-塩基性インジケータであり、システムにおけるpH値の変化に従って色を変化する。
【0006】上記のような方法で使用される従来技術のケミカルインジケータにおける不都合点の一つとして、色素が一般的に滅菌処理後に永久的に変化せずに、塩基性の環境に曝される等の特定の条件下において色の変化が逆になり得ることが挙げられる。例えば、一般的なpH感応性の色素は紙基材に付着されたフェノールレッド色素である。このフェノールレッド色素はケミカルインジケータが過酸化水素滅菌剤のような酸性環境に曝されると色が赤から黄色に変化する。しかしながら、この色変化は塩基性の環境に曝されることにより逆行することが知られている。」

「【0044】実施例1
実施の一例において、スクリーン印刷インクを5.0グラムのアウリントリカルボン酸のトリアンモニウム塩と12.5グラムの脱イオン水(水性溶媒)および32.8グラムの金属結合剤LNG(商標)を混合して調製した。この混合物をポリスチレン、スパン-ボンドポリエチレンおよびポリエステルの各基材上にそれぞれスクリーン印刷した。印刷したインクは赤色であった。STERRAD(登録商標)100過酸化水素プラズマ型滅菌処理装置において滅菌処理(および過酸化水素滅菌処理剤に曝露)する際に、印刷したケミカルインジケータの色が赤色から黄褐色/金色に変わった。処理したサンプル(すなわち、滅菌処理剤に曝露したサンプル)は酸または塩基性物質に対して全く反応性を示さなかった。」

(5)周知例5:特開2012-78203号公報

本願の出願前に日本国内において頒布された特開2012-78203号公報(以下「周知例5」という。)には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素滅菌又は過酸化水素プラズマ滅菌検知インジケーターに関する。」

「【0011】
本発明のインジケーターは、基材裏面に過酸化水素又は過酸化水素プラズマの存在下で変色する変色層を有する過酸化水素滅菌又は過酸化水素プラズマ滅菌検知インジケーターであって、前記基材は、デンシトメーターで測定した透過濃度が0.1以下である透明基材又は半透明基材であることを特徴とする。」

「【0013】
インジケーターの基材としては、デンシトメーターで測定した透過濃度が0.1以下の透明基材又は半透明基材を用い、好ましくは透過濃度が0.03以上0.04以下の半透明基材を用いる。透過濃度の下限値としては、半透明基材のおもて面から変色層の変色の有無を確認できる限り限定されないが0.01程度である。透過濃度が0.1を超えると透明度が低下するため半透明基材を通して変色の有無を把握することが困難となる。また、0.01未満になると透明過ぎて被処理物の色彩の影響を受け易くなり正確な検知の妨げになるおそれがある。なお、本明細書における透過濃度はデンシトメーターにより測定した光学濃度の測定値であり、JIS K 7605に準じて試料(基材)に垂直透過光束を照射し、試料がない状態との比をlog(対数)で表した値である。
【0014】
本発明では、上記透過濃度を有する透明基材又は半透明基材であって、塗布又は印刷によって裏面に容易に変色層を形成できるものが好ましい。例えば、ガラス、プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン等)、繊維類(不織布、織布、その他の繊維シート)、これらの複合材料等を用いることができる。また、ポリプロピレン合成紙、ポリエチレン合成紙等の合成樹脂繊維紙(合成紙)も好適に用いることができる。」


上記(3)と同様に、プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン)と繊維の複合材料は合成繊維であるから、上記アによれば、周知例5には水蒸気プラズマ滅菌検知インジケーターの基材にポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンを含む合成繊維を用いることが記載されている。

(6)周知例6:特開2014-76658号公報

本願の出願前に日本国内において頒布された特開2014-76658号公報(以下「周知例6」という。)には、以下の記載がある。
「【請求項1】
被処理物表面をプラズマ処理することで酸性化する酸性化処理手段と、
前記酸性化処理手段による酸性化後の前記被処理物表面のpH値を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出結果に基づいて前記被処理物表面のpH値が所定値以下となるように前記酸性化処理手段のプラズマエネルギーを調節する制御手段と、
前記酸性化処理手段による酸性化後の前記被処理物表面にインクジェット記録を実行する記録手段と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
・・・(中略)・・・
【請求項4】
前記プラズマ処理は、大気圧非平衡プラズマ処理であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。」

「【0015】
酸性化処理手段(工程)としてのプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、図1に示すように、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物20(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層21は炭酸カルシウムとバインダーとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO^(*)やオゾンO_(3)と再結合する。これにより、被処理物20の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物20の表面に親水性や酸性化が付与される。」

(7)周知例7:特開2013-122088号公報

本願の出願前に日本国内において頒布された特開2013-122088号公報(以下「周知例7」という。)には、以下の記載がある。

「【0027】
プラズマは、気体状態の物質にさらにエネルギーを与えることで、電離し生成される第4の状態である。プラズマ中には、荷電粒子であるイオンと電気的に中性なラジカルという活性種が存在している。これらの粒子が固体表面と衝突し、物理的及び化学的反応を起こすことにより、エッチングや表面改質が可能になる。」

「【0029】
以下の具体例では、大気圧プラズマ処理には、μ-AP型大気圧非平衡プラズマ装置(NUエコ・エンジニアリング製)を使用した。表面を還元する目的で、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化したものを照射する。プラズマガスは、Ar+H_(2)(0.5%)を使用し、ガス流量は4L/minとした。また、プラズマ照射面積は10×10mm、照射ヘッドの移動速度は10mm/secとした。」

(8)周知例8:特開2005-299065号公報

本願の出願前に日本国内において頒布された特開2005-299065号公報(以下「周知例8」という。)には、以下の記載がある。
「【0009】
衣類の片側表面を大気圧低温非平衡プラズマグラフト重合処理し、表面を撥水性又は親水性に改質し、同時に多孔質化して機能性を付与する。ここで大気圧低温非平衡プラズマとは、圧力が大気圧で、ガスの温度自体は室温に近く、電子の温度(平均運動エネルギー)が極端に高い(通常10,000K以上)プラズマを指す。低温であることから省エネルギーで発生でき、布繊維の表面を燃焼反応等により痛めることなく、表面に活性基(ラジカル)を励起させ、機能性モノマーと布の強固な結合である重合化学反応を実現できる。」

5 対比
(1)本願発明と引用発明の対比

本願発明の「メチルレッド、メチレンブルー及びインジゴカルミンからなる群より選択される少なくとも1種の色素で染色された」との特定事項について
(ア)
引用発明は、組成物として「水素イオンと反応して色が変化するpH指示薬」を含み、その具体例として「メチルレッド」が示されている。
(イ)
したがって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を満たしている。


本願発明の「大気圧非平衡放電プラズマによって生じるラジカルを検出するための」との特定事項について
(ア)
引用発明において、「プラズマ」は「一対の電極18a,b」により発生し、「大気中に」「照射」される「プラズマ」であるから、「大気圧放電プラズマ」である。
(イ)
したがって、引用発明は本願発明の上記特定事項と「大気圧放電プラズマによって生じるプラズマを検出するための」ものである点で、共通する。


本願発明の「ナイロン繊維、ポリエステル繊維及び動物繊維、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される繊維からなる布」との特定事項について
(ア)
引用発明において、「組成物(メチルレッド)」は「シート状の基材」に保持され、「基材」の材質は、「パルプ、プラスチックス、セラミックスのうちの1つ以上」である。
その一方で、本願発明の「布」は、シート状であり、「色素」を保持するものであるから、「シート状の基材」といえる。
(イ)
したがって、引用発明は本願発明の上記特定事項と「シート状の基材」の点で、共通する。

(2)一致点
以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「メチルレッド、メチレンブルー及びインジゴカルミンからなる群より選択される少なくとも1種の色素で染色された、大気圧放電プラズマによって生じるプラズマを検出するためのシート状の基材。」

(3)相違点
一方、両者について以下の点で相違する。
(相違点1)
「大気圧放電プラズマ」が、本願発明では大気圧「非平衡」放電プラズマであることが特定されているのに対し、引用発明では、「大気圧放電プラズマ」であることは特定されているが、「非平衡」であるかは不明である点。
(相違点2)
「大気圧非平衡放電プラズマによって生じるプラズマ」の検出対象物が、本願発明では「ラジカル」であることが特定されているのに対し、引用発明ではこの点が明確に特定されていない点。
(相違点3)
「シート状の基材」が、本願発明では「ナイロン繊維、ポリエステル繊維及び動物繊維、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される繊維からなる布」であることが特定されているのに対し、引用発明では、「パルプ、プラスチックス、セラミックスのうちの1つ以上の材料により製造され」た「シート状の基材」である点。

6 判断
(1)相違点1

引用文献1の【0018】において、「プラズマ照射装置」は「基材」が「紙(濾紙)」の「pH試験紙12s」に複数回スキャンしていることから、「プラズマ照射装置」が照射するプラズマは「紙(濾紙)」でも耐えられる程度の低温であると解され、このような低温のプラズマは、非平衡プラズマであるといえる。

仮に、そうでないとしても、引用発明は、引用文献1の【0007】の「プラズマ処理」としては、例えば、被処理物の表面等の洗浄、改質等が該当し、具体的には、有機物除去、親水性や撥水性の向上等が該当する。」との記載から、表面改質などに用いるものであるところ、表面改質のプラズマ処理において、大気圧非平衡プラズマを用いることは周知技術であるから(周知例6の【請求項1,4】、周知例7の【0029】、周知例8の【0009】を参照のこと。)、引用発明において「大気圧非平衡放電プラズマ」を検出するようにすることは、当業者にとって容易になしえることである。

したがって、相違点1は実質的な相違点ではないか、少なくとも、引用発明において相違点1に係る構成を得ることは、当業者にとって容易になしえることである。

(2)相違点2

本願発明は、「大気圧非平衡放電プラズマによって生じるラジカル」を検出するものであるところ、本願明細書の記載によれば、この「ラジカル」は、「当該技術分野で通常使用される大気圧非平衡放電プラズマの発生手段によって発生」させた「大気圧非平衡放電プラズマ」(【0031】)によって生じるラジカルであって、「通常は、窒素及び酸素を含むラジカル(例えば、NOラジカル、NO_(2)ラジカル、N_(2)Oラジカル又はN_(2)O_(4)ラジカル)、又は酸素及び水素を含むラジカル(例えば、OHラジカル)であり、典型的には、窒素及び酸素を含むラジカル又は酸素及び水素を含むラジカルであり、特に、窒素及び酸素を含むラジカル」である(【0032】)。
ここで、本願発明は、上記のラジカルを「メチルレッド・・・で染色された」「ラジカル検出用布の色相変化に基づき」検出するものであるが、メチルレッドなどの色素を変色させるメカニズムは、本願明細書に記載されていないので、この点について検討する。

メチルレッドはpH指示薬として周知のものであり、pH指示薬として用いる際の変色は、水素イオンを受け取ることによりメチルレッドの分子構造が変化した結果、黄色から赤色に変化するというものである。
そして、本願明細書の【0055】に記載の実験例における、「メチルレッドでナイロン繊維の布を染色したラジカル検出用布をAr及びN_(2)混合ガスプラズマで1分間プラズマ表面処理した結果、ラジカル検出用布表面の色相は、黄色から赤色に変化した。」という変色は、その変色のプロセスから見て、水素イオンの存在による上記の分子構造の変化により起きていると解することが自然である。この実験例における混合ガスには水素は含まれていないが、水素イオンは「Ar及びN_(2)混合ガスプラズマ」が大気中の成分と反応した結果、発生したものと推測できる。
そうすると、本願発明におけるラジカルの検出原理は、ラジカル(プラズマ)の存在に伴って生じる水素イオンを、メチルレッドの色素の変色により検出するというものである。

他方、引用発明は「プラズマ照射装置」から照射される「プラズマ」を検出するものであり、引用文献1の【0015】の記載によれば、その原理は「プラズマ」に含まれる一酸化窒素が大気中の酸素と反応し二酸化窒素が生成され、二酸化窒素が水(水蒸気)と反応することで「水素イオン」が生成され、この「水素イオン」を「メチルレッド色素」の色の変化により検出するものである。
そうすると、本願発明及び引用発明は、いずれも、プラズマ、ラジカルの生成に伴って生じる水素イオンを、メチルレッドの変色により検出するという、検出原理に基づいていると認められる。ここで、引用発明において検出する水素イオンについて、ラジカルの生成に伴うものであるとの明示的な限定はないものの、引用文献1の【0015】において記載されているようにプラズマの態様として「ラジカル」も念頭に置かれていることは明らかであるし、水素イオンの検出という点において、何ら差異はないわけであるから、本願発明と引用発明の検出原理に実質的な差異はないというべきである。

したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3

引用発明において、「基材」は「プラスチックス」の「多孔性のシート」を用いることができるものも特定されている。

そして、変色指示性能を有する組成物を保持する基材として、素材にナイロンやポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET))を用いること(周知例3-5)、及び、合成繊維を用いること(周知例2,3,5)は、いずれも周知技術である。ここで、上記アのとおり、引用発明において、「基材」は「プラスチックス」の「多孔性のシート」を用いることができるとされており、また、繊維は多孔性であるし、合成繊維の素材は「プラスチックス」といえるから、引用発明の「基材」の材料として、上記周知技術を適用して、「ナイロン」又は「ポリエステル」を含む「合成繊維」を選択することは、当業者にとって容易になし得たことである。

したがって、引用発明において、上記周知技術に基づいて、相違点3に係る構成を得ることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

(4)小活
以上検討したとおり、引用発明、及び、周知技術に基づいて、本願発明の構成を得ることは当業者にとって容易になし得たことであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について

請求人は、審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」において、引用文献1に記載の評価用シート12の基材を、セルロース繊維から他の材料に置き換えることについて、動機づけが無く、阻害要因があると、主張している。
しかしながら、上記(3)相違点3において検討したとおり、引用文献1には、「基材」に「プラスチックス」の「多孔性のシート」を用いることができると記載されており、プラスチック等の材料の使用が除外されているわけではないから、引用文献1,2に、好ましい材料は「セルロース」であると記載され、実施例において「セルロース系繊維」を用いているからといって、他の材料を選択することに阻害要因があるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。


請求人は、審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」において、「プラズマ処理に起因する熱によってセルロース基材が劣化する可能性があるという本願発明の技術的課題(本願出願当初明細書の段落[0019])は、引用文献1及び2のいずれにも記載されていない。むしろ、引用文献1及び2のいずれも、セルロース繊維を実施例において採用している。このように、本願発明の技術的課題は、引用文献1及び2のいずれにも記載されていない新規な課題である。」と課題が新規である旨を主張している。
しかしながら、上記(1)-(3)で示したとおり、引用発明、及び、周知技術に基づいて、本願発明の構成を得ることは当業者にとって容易になし得たことであり、仮に、請求人が主張するように本願発明の課題が引用文献に記載されていなかったとしても、その事実により、上記判断は左右されるものではない。
そうすると、請求人の上記主張は、採用できない。


請求人は、審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」において、「本願発明のラジカル検出用布は、長時間に亘ってプラズマ処理し場合であっても基材が劣化することなく、高い耐久性を示した。」と本願発明の効果を主張している。
しかしながら、引用発明は、「基材が、パルプ、プラスチックス、セラミックスのうちの1つ以上の材料により製造され」てよく、プラスチックスやセラミックスは、パルプより耐久性が高いことは周知であり、さらに、引用文献2には「高温での使用に耐える耐熱性を有しているものが望ましい」とも記載されているから、請求人の主張する効果は、当業者にとって予測し得る範囲のものであり格別なものとはいえない。
そうすると、請求人の上記主張は、採用できない。


請求人は、審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」において、「引用文献1及び2に何ら具体的に記載されていない「ナイロン繊維、ポリエステル繊維及び動物繊維、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される繊維」を特に選択して、引用文献1に記載のラジカルの検出方法に適用しようとすることは、当業者であっても容易になし得ることではないと思料する。」と、本願の構成が引用文献1,2から容易に想到するものではないと主張している。
しかしながら、上記(3)のとおりであるから、請求人の上記主張は、採用できない。


したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-09-16 
結審通知日 2020-09-23 
審決日 2020-10-07 
出願番号 特願2015-9622(P2015-9622)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大門 清  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 田中 秀直
野村 伸雄
発明の名称 大気圧非平衡放電プラズマによって生じるラジカルの検出方法  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  

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