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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D |
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管理番号 | 1368662 |
審判番号 | 不服2020-279 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-09 |
確定日 | 2020-11-26 |
事件の表示 | 特願2017- 92169「酸化チタンのコーティング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月29日出願公開、特開2018-187563〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年 5月 8日の出願であって、平成31年 3月27日付けの拒絶理由の通知に対し、令和 1年 5月23日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和 1年10月 4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和 2年 1月 9日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和 2年 1月 9日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和 2年 1月 9日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1についての次の補正事項を含む。(下線部は、補正箇所である。) 「陶磁器の表面に酸化チタン層を形成する酸化チタンのコーティング方法において、 素焼きした陶磁器の表面にガラス質の膜を焼成し、その後、表面に銅を含有する酸化チタン溶液を塗布した後に、銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度で焼き上げることを特徴とする酸化チタンのコーティング方法。」 (2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正前の、令和 1年 5月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲のうち、請求項1の記載は次のとおりである。 「陶磁器の表面に酸化チタン層を形成する酸化チタンのコーティング方法において、 素焼きした陶磁器の表面にガラス質の膜を焼成し、その後、表面に銅を含有する酸化チタン溶液を塗布した後に焼き上げることを特徴とする酸化チタンのコーティング方法。」 2 補正の適否 本件補正のうち、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「焼き上げ」の温度について、「銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2) 引用文献の記載事項等 ア 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2004-168864号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審合議体が付したものである。) 「【請求項1】 チタン酸化物コーティング液と、抗菌性金属とアンモニア性無機化合物とを含有する分散液からなることを特徴とする抗菌性コーティング液。 【請求項2】 チタン酸化物コーティング液が、ペルオキソチタン酸溶液やペルオキソ基を含むアナターゼゾル、あるいは、ペルオキソチタン酸溶液と、ペルオキソ基を含むアナターゼゾルの混合液であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性コーティング液。 【請求項3】 抗菌性金属が、銀、亜鉛、銅、の中から選ばれる1種であることを特徴とする請求項1または2記載の抗菌性コーティング液。 【請求項4】 アンモニア性無機化合物は、抗菌性金属を錯体化させることができることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の抗菌性コーティング液。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載の抗菌性コーティング液から形成されていることを特徴とする抗菌性塗膜。 【請求項6】 ペルオキソチタン酸溶液並びに、ペルオキソチタン酸溶液を加熱して生成させるペルオキソ基を含むアナターゼゾル、あるいは、ペルオキソチタン酸溶液と、ペルオキソ基を含むアナターゼゾルの混合液に、アンモニア性無機化合物で錯体化された抗菌性金属錯体溶液を混合して分散液とすることを特徴とする抗菌性コーティング液の製造方法。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、各種材料表面に、弱光下および暗所下においても、優れた抗菌性を発揮するコーティング膜が形成出来るチタン酸化物コーティング液と、抗菌性金属とアンモニア性無機化合物とを含有する分散液からなる抗菌性コーティング液に関する。」 「【0027】 また、本発明の抗菌性コーティング液は、保護被膜や光触媒層の形成等の目的に利用可能であり、特に抗菌性が要求される材料、用途に有用である。塗布する基体としては、セラミックス、陶磁器、金属、プラスチックス、繊維、建材等を用いることができ、また、多孔体の内部や粉体の表面処理を行なうことも可能であり、粉体化して用いることもできる。」 「【0029】 【実施例】 実施例1 塩基性炭酸銅2gを25%アンモニア水4gで溶解させた後、濾別し、得られた濾液に純水96gを加え、アンモニウム水で錯体化した銅錯体溶液(CuO=0.7%)100gを得た。 【0030】 この銅錯体溶液を、CuOとして0.2%になるよう1%アンモニア水で希釈し、この液3.5gを1.0質量%ペルオキソ基を含むアナターゼゾル66.5gに混合撹拌し、本発明の抗菌性チタン酸化物コーティング液(TiO_(2)100に対してCuO=1%)を得た。この液は透明性が比較的高く、6カ月以上経っても沈殿及び増粘はなく、安定であった。この液を7割、1.0質量%ペルオキソチタン酸溶液を3割にして混合液とした。 【0031】 比較例1 銅をまったく含まない1.0質量%ペルオキソ基を含むアナターゼゾル7割と1.0質量%ペルオキソチタン酸溶液を3割にした混合液を比較例1とした。 【0032】 抗菌試験用の試料として、実施例1と比較例1のそれぞれの混合液をタイルにコーティングし、乾燥後、200℃で10分焼成し、約1μmの薄膜を作製した。抗菌性試験として、下記の抗菌性の評価方法で評価を行った。」 イ 引用文献1に記載された発明 特に、実施例1の記載を中心に整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「銅錯体溶液とペルオキソ基を含むアナターゼゾルを混合攪拌して得られた、抗菌性チタン酸化物コーティング液を、タイルにコーティングし、乾燥後、200℃で10分焼成し、薄膜を作製する方法。」 ウ 引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、「金属」、日本、株式会社アグネ技術センター、第75巻第3号(2005年3月発行)、第96頁?第101頁の、藤田英一著、「素地の粘土と陶磁製作の手順」には、次の記載がある。 「作陶の手順と準備 製作工程 さて一体,壷や茶碗や小箱はどのようにして形作られるかを先ず見学者に理解・体験して頂こう.焼き物を作り上げるまでの工程を表示して見ると,標準的なものとして,以下の10工程ほどとなる. ![]() 」(第99頁右欄第10行?第28行) エ 引用文献3の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、広辞苑、日本、(株)岩波書店/緑川亨、第三版第八刷(1990年 1月 8日発行)、第242頁の「うわぐすり[釉・上薬]」の項には、次の記載がある。 「素焼の陶磁器の表面にかけて装飾と水分の吸収を防ぐために用いる一種のガラス質のもの。主成分は珪酸塩化合物。つやぐすり。ゆうやく。」 (3) 対比・判断 ア 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明は、抗菌性チタン酸化物コーティング液を用いてタイルに薄膜を形成する方法であるから、本件補正発明の「表面に酸化チタン層を形成する酸化チタンのコーティング方法」に相当する。 また、引用発明の「抗菌性チタン酸化物コーティング液」は、「銅錯体」を含むものであるから、本件補正発明の「銅を含有する」との特定事項を満たす。 さらに、引用発明は、抗菌性チタン酸化物コーティング液を、タイルにコーティングし、乾燥後、「200℃で10分焼成し、薄膜を作製する」ものであり、作製された薄膜は固体であることは明らかであるから、「固化する温度で焼き上げる」ものであるといえる。 してみると、本件補正発明と引用発明は、 「表面に酸化チタン層を形成する酸化チタンのコーティング方法において、 表面に銅を含有する酸化チタン溶液を塗布した後に、銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度で焼き上げる、酸化チタンのコーティング方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 酸化チタンのコーティング対象物が、本件補正発明は「陶磁器」であって、その表面に「素焼きした陶磁器の表面にガラス質の膜を焼成し」たものであるのに対して、引用発明は「タイル」である点。 イ 相違点についての判断 上記相違点について検討する。 引用発明では「タイル」を用いているが、「タイル」には、通常、陶磁器からなるものも含まれるし、引用文献1には、塗布する基体として、「陶磁器」があげられている(段落【0027】)ことから、陶磁器からなるものを選択することに何ら困難性はない。 そして、「陶磁器」とは、通常、引用文献2に記載されているような手順で製作され、「素焼き」されたもの(陶磁器)の表面に、「釉掛け」がされ、その後本焼きを経て(「焼成」されて)「ガラス質」のものが形成(引用文献3)されるものである(以下、「周知技術」という。)。(なお、表面にガラス質を有する(陶磁器)タイルも、文献をあげるまでもなく、よく知られている。) してみれば、引用発明において、上記周知技術を適用し、コーティング基体として釉掛けされた陶磁器を用い、相違点に係る本件補正発明の特定事項を満たすものを用いることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易になし得たことである。 また、本件明細書全体を通じてみても、本件補正発明の発明特定事項を満たすことによる、格別の効果を見出すこともできない。 ウ 審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明は、銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度で焼き上げる構成において、引用発明とは構成が異な」る旨主張するが、引用発明においても、抗菌性チタン酸化物コーティング液を、タイルにコーティングし、乾燥後、「200℃で10分焼成し、薄膜を作製する」もの、つまり、コーティング液を塗布後、焼成することで、「薄膜」化、すなわち、「固化」しているものといえるから、この点は相違点とはなり得ない。 したがって、審判請求人の当該主張は採用しない。 エ 小括 上記アないしウのとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4) 補正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和 2年 1月 9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、令和 1年 5月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、 この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、 との理由を含むものである。 引用文献1:特開2004-168864号公報 引用文献2:藤田 英一、素地の粘土と陶磁製作の手順、金属、日本、 株式会社アグネ技術センター/前園明一、2005年 3月、 第75巻第3号、第96頁?第101頁、作陶の手順と準備、 製作工程 引用文献3:広辞苑、日本、(株)岩波書店/緑川亨、1990年 1月 8日、第三版第八刷,第242頁,うわぐすり[釉・上薬] 3 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度で」との限定事項を削除したものである。 そして、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明から、「銅を含有する酸化チタン溶液が固化する温度で」との限定事項を削除した発明である、本願発明もまた、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-09-25 |
結審通知日 | 2020-09-29 |
審決日 | 2020-10-12 |
出願番号 | 特願2017-92169(P2017-92169) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B05D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横島 隆裕 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
神田 和輝 植前 充司 |
発明の名称 | 酸化チタンのコーティング方法 |
代理人 | 内野 美洋 |