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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1368716
審判番号 不服2020-6623  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-15 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2018-568711「血管のナビゲーション、評価および/または診断を行うための機器および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月 4日国際公開、WO2018/005169、令和 1年10月17日国内公表、特表2019-528808、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下,「本願」という。)は,2017年6月20日を国際出願日(パリ条約に基づく優先主張日:2016年6月29日,同年10月8日および2017年1月11日)とする出願であって,平成31年2月15日に手続補正書が提出され,令和元年7月10日付け(発送日:同年同月16日)で拒絶理由が通知され,同年12月5日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが,令和2年2月12日付け(送達日 同年同月18日)で拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月15日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに,同時に手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1?16に係る発明は,以下の引用文献1?3に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 特開2012-66098号公報
2 特開昭62-101225号公報
3 特表2006-501894号公報
以下,それぞれ「引用文献1」?「引用文献3」という。

第3 審判請求時の補正について
本件補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正は,補正前の請求項1および請求項2において,それぞれ,「前記1つ以上の流路と連通する流体を保持する液溜め部」および「前記場所検出システムのルーメンと連通する流体を保持する液溜め部」を追加し,旧請求項12を削除するものであって,特許請求の範囲の減縮および請求項の削除を目的とするものに該当する。また,本願の出願当初の請求項66には「さらに、前記カテーテルルーメンと連通する液溜め部を含む」という記載があるから,「前記1つ以上の流路と連通する流体を保持する液溜め部」および「前記場所検出システムのルーメンと連通する流体を保持する液溜め部」という事項は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第7 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1?15に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される発明であると認められ,本願発明1および2は以下のとおりである。なお,下線は,補正箇所を示す。

「【請求項1】
長尺状本体;
1つ以上の流路を規定する導管であって、前記導管は、同導管の位置が前記長尺状本体に対して固定されるように構成されている、導管;
前記1つ以上の流路と連通する流体を保持する液溜め部;
前記長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって、
前記導管は、前記センサーと前記1つ以上の流路との間を固定距離に維持し、および前記センサーは、前記流体が前記1つ以上の流路から放出された後で、前記流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている、センサー;および
前記センサーと通信するコントローラであって、前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数を決定するように構成される、コントローラ
を含み、前記時間導関数は、前記1つ以上の流路から放出された後の前記流体の乱流の程度に基づいており、前記コントローラは、対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを前記時間導関数に基づいて判定するようにさらに構成されている、場所検出システム。
【請求項2】
場所検出システムであって:
長尺状本体;
前記場所検出システムのルーメンと連通する流体を保持する液溜め部;
前記長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって、
前記流体が前記場所検出システムから放出された後で、前記流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている、センサー;および
前記センサーと通信するコントローラであって、前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数を決定するように構成され、およびさらに、前記時間導関数に基づいて対象者の体内での前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定するように構成されている、コントローラ
を含む、場所検出システム。」

なお,本願発明3ないし15は本願発明2を減縮した発明である。

第5 引用文献の記載事項
1 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶理由に引用された引用文献1には,「血管内デバイスを誘導し及び位置決めするための方法及び装置」について,図1?53とともに,下記の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下,同様)。

(1-1)
「【0021】
本発明の実施の形態は、誘導(案内)血管系アクセスデバイス(guided vascular access device)と、該誘導血管系アクセスデバイスから受け取った信号を処理するための処理システムと、該処理システムの出力に基づいてユーザに情報を提供するためのユーザインタフェースとを提供する。本発明の他の態様に係る実施の形態は、血管系内でカテーテルを位置決めし、誘導し、配置するために血管を介して(intravascularly)測定される生理学的パラメータの使用方法に関する(図1参照)。1つの態様において、本発明は、血液の流れ、速度、圧力などといった生理学的パラメータを測定するための内蔵型のセンサを備えたカテーテル組立体に関する。異なる態様において、本発明は、その位置で測定された生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し(identify)認識することができるデータ処理アルゴリズムに関する。第3の態様において、本発明は、誘導・位置決め情報をあらわすユーザインタフェースを有する機器に関する。本発明の第4の態様は、カテーテル自体によって提供される位置情報に基づいて、ユーザによって血管系内でカテーテルを誘導し位置決めする方法に関する。本発明の他の態様は、本明細書に記載された誘導血管系アクセスデバイス及びアクセスシステムを用いて特定された血管系内における特定の位置に対する誘導に用いるためのカテーテル又はガイドワイヤを位置決めし、誘導し、配置するための、血管系を介して測定された生理学的パラメータの使用方法に関する。」

(1-2)
「【0024】
本発明は、(a)血管系内における位置は、血圧又はドプラー測定(Doppler measurement)によって定量化される位置における特定の血液の流れのパターンによって特定することができるといった技術思想と、(b)カテーテルの移動方向は、ドプラー効果を用いることにより血液の流れ方向に対して相対的に決定することができるといった技術思想とに基づいている。
【0025】
例えば、PICC管路の場合は、本明細書に記載されたセンサと、技術と、データの収集及び処理とを用いて血管内におけるカテーテルの移動方向を決定してリアルタイムで監視することにより、ユーザは、誘導血管系アクセスデバイスを進める際にフィードバック情報を受け取って、PICCが上静脈から大静脈への所望の経路に沿って進むことを可能にすることができる。このシステムはまた、センサから受信した流れパターの差に起因する他の静脈内への意図しない進入を認識することができる。このように、このシステムは、頸静脈内又は鎖骨下静脈内への意図しない進入を認識することができ、またセンサが血管壁に突き当たっているか否かを認識することができる。誘導血管系アクセスデバイスに配置されたセンサから収集されたデータを監視することにより、ユーザは、カテーテルの先端部が、大静脈の根元の次の理想的な配置位置に到達したときにこれを知ることができる。このシステムは、センサが収集したデータを解析して固有のパターンの特性(signature)とを特定することにより、大静脈の根元及びその他の血管系の部分を認識する。」

(1-3)
「【0035】
図2は、血管内アクセス・誘導システムの構成要素(部品)を模式的に示している。カテーテルにセンサが取り付けられ、このセンサは、カテーテル内腔を通っている電気接続部(電線)を介して、外部コネクタに接続されている。外部コネクタは、血管系内におけるセンサの位置を、該位置の生理学的パラメータに基づいて特定することができる信号処理ユニットに接続されている。この信号処理ユニットは、ユーザインタフェースに接続されている。
【0036】
カテーテルの先端部(遠位端)の近傍に取り付けられたセンサを有するカテーテル組立体が設けられている。このセンサは、圧力センサ、ドプラーセンサ又は温度センサであってもよく、また血管内における生理学的パラメータを検出するのに用いることができるその他の同様のセンサであってもよい。センサには、該センサから体外への電気的接続を行うための電線が接続されている。これは、例えば、センサからカテーテルの近位端に配置されたコネクタまで、カテーテルの壁部又は内腔を通って伸びる電気的接続部により実現することができる。センサを備えているカテーテル組立体は、後でより詳しく説明するように、種々の異なる方法で構築することができる。
【0037】
図2中に示すコネクタ1は、カテーテル組立体をデータ収集・処理デバイスに電気的に接続するための手段である。データ収集・処理デバイスの構成要素(部品)は、カテーテル組立体のコネクタ1に電気的に又は無線通信で接続するように構成されたコネクタ2と、制御・データ収集ユニットと、信号処理ユニットと、基本ユーザインタフェースと、その他のインタフェースユニットである。」

(1-4)
「【0173】
病変した静脈中の血液の流れを適切に検出できる位置に、適切なセンサが配置されれば、前に詳しく説明した処理手順が実行される。このとき、システムは、静脈及び病変した静脈の流れの特徴を監視する(monitor)。血液の流れがトランスデューサ(transducer)から離れるときには、より多くの乱れパターン(turbulent pattern)が生じる。大腿骨静脈においては、血液は、より安定した流れのパターンでカテーテルに向かって流れ、呼吸運動に起因するさらなる成分が生じる。このように、本発明に係るシステムの実施の形態は、健常な静脈と病変した静脈との間の流れパターン、流れの特性又はその他の特性の違いを検出するのに用いることができる。前に説明したように、この方法は、小伏在静脈と膝の後ろの膝窩静脈とのジャンクションに応用することができる。そして、この方法はまた、下腿部内の穿通枝静脈と表在静脈との間のジャンクション、又は、穿通枝静脈と深頚骨静脈との間のジャンクションを特定するのにも応用することができる。
【0174】
移行領域の流れパターン(transition region flow patter)の検出は、この領域の特徴的な流れ特性、例えば平均速度、速度スペクトル、及び、前向きの流れと逆向きの流れの比率、さらには所定時間内におけるこれらの変化を認識するといった技術思想に基づいている。血管系内における特定の位置を検出するための生理学的な特性又は特定要素を用いるといった、本明細書に記載された進歩性を有する概念は、ドプラー速度以外のその他の機能的な測定、例えば圧力プロフィール及び温度プロフィールにも応用することができる。この場合、適切な圧力センサ及び温度センサが用いられる。本明細書に記載しているように、複数・単数ビーム超音波システムの処理技術及び操作は、血管系内における種々の位置で、圧力プロフィールの相対的な変化を特定し、区別するのにも用いることができる。しかしながら、本発明の実施の形態により、予定されている血管系内における位置を特定するために、これらの変形例を用いるといったことは、従来は試みられていない。」

(1-5)
「【0196】
6 尺側皮静脈、8 頭側皮静脈、10 頸静脈、12 腕頭静脈、14 上大静脈、16 下大静脈、20 心臓、22 右心房、24 三尖弁、100 血管内へのアクセス及び誘導システム、110 誘導血管系アクセスデバイス、112 細長い物体、113 遠位端、114 近位端、115 センサ、118 電線、120 コネクタ、125 コネクタ、150 制御及びデータ収集ユニット、160 信号処理部、170 基本ユーザインタフェース、180 その他のインタフェース」

(1-6)
【図5】

2 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶理由に引用された引用文献2には,「血流測定用カテ-テル」について,第1?5図とともに,下記の事項が記載されている。

(2-1)「2.特許請求の範囲
(1) 体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し、該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定することによって血液の流量を測定するためのカテーテルにおいて、該カテーテルが血液および注入液の温度を測定するための2個のセンサーを有し、該注入液の温度を測定するためのセンサーの感温部が、注入液の通路内であって且つ注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられていることを特徴とする血流測定用カテーテル。」(1頁左下欄5?14行)

(2-2)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、熱希釈曲線より循環血液の流量を測定する血流測定カテーテルに関する。更に詳しくは、心臓の血液を拍出する能力、すなわち心拍出量を高精度で測定できるカテーテルに関するものである。」(1頁右下欄12?17行)

(2-3)
「ここで先ず、熱希釈法について概要を説明する。液体の流路内に既知の温度差を有する液体を注入し、これより下流の位置で温度変化を測定すれば、液体の流量を測定することが可能であり、これを生体の循環血液に適用すれば、血液の心拍出量を測定することができる。心拍出量の測定に熱希釈法を用いる場合は、一般に右心房に冷却した熱指示液を所定量注入し、右心室において血液と混合された後、肺動脈に連した血液の温度を測定するものである。
この時の心拍出量を求める原理を以下に説明する。通常、冷却した熱指示液を注入したり、血液の温度を測定するためにカテーテルを体内へ挿入する。使用するカテーテルは既に公知であり、その構造を第5図に示す。すなわち、通常のカテーテルは温度センチ-が1個だけ挿入されており、血液の温度T_(B)の測定に用いられている。材質は一般にポリ塩化ビニルが使われることが多い。カテーテルは全長約lmの長さで、先端より孔(28)はコネクター(21)に連通しており血圧をモニターする。(27)はバルーンで、コネクター(22)よりバルーン膨張用のエアーまたは炭酸ガスを注入する。(26)は血液温度T_(B)の測定用センサーであり、コネクター(23)を通してデータ処理装置へインプットされる。冷却した熱指示液はコネクター(24)より注入し、孔(25)より血流中へ吐出される。以下孔(25)を吐出口と称する。
心拍出量(l/分)は

の式より計算されることは従来より知られている。
ここで V;注入熱指示液の量(ml)
T_(I);熱指示液の温度(℃)
T_(B);血液の温度(℃)
S_(I),C_(I);熱指示液の比重,比熱
S_(B),C_(B);血液の比重,比熱
T ;時間(秒)
であり、∫_(0)^(∞)ΔT_(B)(t)dtは肺動脈等における血液の温度変化の時間による積分値である。」(2頁左上欄20行?同頁左下欄18行)

(2-4)
「〔実施例1?3〕
温度センサーとして熱電対を用い、注入液温度測定用センサーを第3図のごとく固定した。吐出口からの距離は1,5,10cmとし、それぞれ実施例1,2,3とした。尚、カテーテルの材質はポリ塩化ビニルを使用し、接着剤(7)シール樹脂はシリコーン樹脂を用い注射針にて注入した。ここで、血液の温度センサー及び熱希釈液の吐出口の位置はカテーテル先端よりそれぞれ3cm及び30cmである。カテーテルは全長120cmとした。」(4頁右上欄12行?同頁左下欄1行)

(2-5)
第5図

3 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶理由に引用された引用文献3には,「能動的流体送り込みカテーテル」について,第1?10図とともに,下記の事項が記載されている。

(3-1)
「【請求項1】
植込み型流体送り込みシステムにおいて、
内部に配置された少なくとも1つの細長い流体送り込み管腔を有する細長いガイドカテーテルと、
前記少なくとも1つの流体送り込み管腔と流体的に連通した中空の穿孔した能動的固定先端部材とを備える、植込み型流体送り込みシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記細長いガイドカテーテル内に配置された少なくとも1つのリード送り込み管腔を更に備える、システム。
【請求項10】
請求項2に記載のシステムにおいて、
前記ガイドカテーテルが、ステア可能なカテーテルを更に備え、
該ステア可能なカテーテルが、ガイドカテーテルの基端に機械的に結合されて、前記ガイドカテーテルの基端部分にトルクを提供する手で調節可能なハンドル手段を更に備える、システム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムにおいて、
前記ハンドル手段が、少なくとも1つの引張りワイヤーの基端部分に機械的に結合し、
前記少なくとも1つの引張りワイヤーが、前記ガイドカテーテルの末端部分に機械的に結合される、システム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムにおいて、
前記ハンドル手段の送り込みポートに流体的に結合された流体リザーバを更に備え、
前記送り込みポートが、前記少なくとも1つの流体送り込み管腔と流体的に連通している、システム。」

(3-2)
「【0029】
図3A、図3Bは、植込み型医療リードの末端と、流体送り込みシステムとを示す切欠き平面図であり、該流体送り込みシステムは、ガイドカテーテル200と、流体送り込み装置208と、医療リード212とを有している。図3Aには、内側管腔204を有する細長の管状のカテーテル本体202を備えるガイドカテーテル200が示されている。ガイドカテーテル200には、この実施の形態において、カテーテル200を標的植え込み箇所に固定することを許容するヘリックスとして図示した、固定部材206が設けられる。固定部材206は、中実なヘリックスとし且つ、専ら固定装置として機能することができる。これと代替的に、固定部材206は、図2に関して上述したように電極として機能するようにしてもよい。
【0030】
別個の流体送り込み装置208は、装置208がカテーテル200の末端から出る迄、カテーテル管腔204を通じて前進させることができる。全体として中空の針又はスタイレットの形態をとることのできる流体送り込み装置208は、その末端にテーパーを付け、また、鋭角にし又は斜角面付きとした先端210が設けられ、該装置は、標的植え込み箇所にて組織を容易に突き刺すことができるようにすることが好ましい。先端210は、組織の所望の深さまで侵入し且つ、流体を1つ又はより多くの開口を通じて分与し、組織の容積を治療することができるヘリックス又はその他の形状の形態とすることもできる。流体送り込み装置208が組織内に前進したならば、流体を流体送り込み装置208の末端内に注入し且つ、先端210を通じて組織の容積内に分与することができる。」

第6 引用発明
1 引用文献1の上記記載事項(1-1)の「本発明は、血液の流れ、速度、圧力などといった生理学的パラメータを測定するための内蔵型のセンサを備えたカテーテル組立体に関する。」,同(1-3)の「【0036】カテーテルの先端部(遠位端)の近傍に取り付けられたセンサを有するカテーテル組立体が設けられている。このセンサは、圧力センサ、ドプラーセンサ又は温度センサであってもよく、また血管内における生理学的パラメータを検出するのに用いることができるその他の同様のセンサであってもよい。」および図2の「112 細長い物体」からみて,引用文献1には「カテーテル組立体(細長い物体)」および「該カテーテル組立体の遠位端の近傍に取り付けられたセンサであって,該センサーは,血液の流れ,速度,圧力,温度などといった生理学的パラメータを測定するように構成されている,センサ」が記載されているといえる。

2 引用文献1の上記記載事項(1-1)の「本発明は、その位置で測定された生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し(identify)認識することができる」,同(1-3)の「【0036】・・・・・センサには、該センサから体外への電気的接続を行うための電線が接続されている。これは、例えば、センサからカテーテルの近位端に配置されたコネクタまで、カテーテルの壁部又は内腔を通って伸びる電気的接続部により実現することができる。」および同(1-3)の「【0037】・・・・・データ収集・処理デバイスの構成要素(部品)は、カテーテル組立体のコネクタ1に電気的に又は無線通信で接続するように構成されたコネクタ2と、制御・データ収集ユニットと、信号処理ユニットと、基本ユーザインタフェースと、その他のインタフェースユニットである」からみて,引用文献1には「センサと電気的通信で接続する信号処理ユニットであって,血液の流れ,速度,圧力,温度などといった生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し認識するように構成される,信号処理ユニット」が記載されているといえる。

3 引用文献1の上記記載事項(1-1)の「本発明は、その位置で測定された生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し(identify)認識することができる」および同(1-3)の「【0035】図2は、血管内アクセス・誘導システムの構成要素(部品)を模式的に示している。」からみて,引用文献1には「血管系内における異なる位置を特定し認識する血管内アクセス・誘導システム」が記載されているといえる。

4 そうすると,上記1?3によれば,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「カテーテル組立体(細長い物体);
前記カテーテル組立体の遠位端の近傍に取り付けられたセンサであって,前記センサーは,血液の流れ,速度,圧力,温度などといった生理学的パラメータを測定するように構成されている,センサ;および
前記センサと電気的通信で接続する信号処理ユニットであって,前記生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し認識するように構成される,信号処理ユニットを含む,
血管系内における異なる位置を特定し認識する血管内アクセス・誘導システム。」

第7 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「カテーテル組立体(細長い物体)」は,技術常識を考慮すると,「長尺状」であるから,本願発明1「長尺状本体」に相当するといえる。

イ 「血液」が「流体」の一種であり,また,「遠位端の近傍」が「遠位端部にまたはそれに近接」に含まれるから,引用発明の「前記カテーテル組立体の遠位端の近傍に取り付けられたセンサであって,前記センサーは,血液の流れ,速度,圧力,温度などといった生理学的パラメータを測定するように構成されている,センサ」と,本願発明1の「前記長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって、前記導管は、前記センサーと前記1つ以上の流路との間を固定距離に維持し、および前記センサーは、前記流体が前記1つ以上の流路から放出された後で、前記流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている、センサー」とは,「長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって,前記センサーは,流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている,センサー」の点で一致するといえる。

ウ 本願明細書の段落【0032】に「センサー信号は、コントローラに戻すように通信され、そこで、センサー信号が、データの曲線の傾斜(slope)、大きさ、値、長さ、ばらつき、標準偏差、形状などを含む経時的なセンサーデータに基づいて分析される。例えば、コントローラは、測定可能なパラメータを測定および分析することによって、血管カテーテルナビゲーション機器の周りの血流の大きさおよび方向に基づいて、血管カテーテルナビゲーション機器の遠位端部が静脈の代わりに動脈内にあるかどうかを決定し得る。コントローラが、血管カテーテルナビゲーション機器の遠位端部が望ましくない位置にあると決定する場合、警報または他のインジケータでユーザに伝え得る。」と記載されていることからみて,本願発明1の「コントローラ」は,「信号処理ユニット」の一種であるといえる。また,引用発明の「血管系内における異なる位置」は,本願発明1の「体内の予め定められた位置」に相当するといえる。
そうすると,引用発明の「前記センサと電気的通信で接続する信号処理ユニットであって、前記生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し認識するように構成される、信号処理ユニット」と,本願発明1の「前記センサーと通信するコントローラであって、前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数を決定するように構成される、コントローラ」および「前記コントローラは、対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを前記時間導関数に基づいて判定するようにさらに構成されている」とは,「センサーと通信するコントローラであって,前記コントローラは,対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定するように構成されている」の点にて一致するといえる。

エ 「血管系内における異なる位置を特定し認識する」ことは,「センサ」の場所を検知していることを意味しているから,引用発明の「血管系内における異なる位置を特定し認識する血管内アクセス・誘導システム」が本願発明1の「場所検知システム」に相当するといえる。

オ 上記ア?エを総合すると,本願発明1と引用発明とは,
(一致点)
「長尺状本体;
前記長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって,前記センサーは,流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている,センサー;および
前記センサーと通信するコントローラを含み,
前記コントローラは,対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定するように構成されている
場所検出システム。」
の点で一致し,以下の点で相違するものと認められる。

(相違点1)
「場所検出システム」について,本願発明1では「1つ以上の流路を規定する導管であって、前記導管は、同導管の位置が前記長尺状本体に対して固定されるように構成されている、導管」および「前記1つ以上の流路と連通する流体を保持する液溜め部」を含んでいるのに対し,引用発明では,そのような「流路を規定する導管」および「流路と連通する液溜め部」を含んでいない点。

(相違点2)
「センサー」について,本願発明1では「前記導管は、前記センサーと前記1つ以上の流路との間を固定距離に維持し、および前記流体が前記1つ以上の流路から放出された後で、前記流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている」のに対し,引用発明では,「生理学的パラメータを測定するセンサ」を含んでいるものの,「導管」および「流路から放出される流体」を含んでおらず,該「生理学的パラメータ」が「血液」のパラメータであって,「導管の流路から放出される流体」のパラメータではない点。

(相違点3)
「コントローラ」について,本願発明1では「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数を決定するように構成される」,「前記時間導関数は、前記1つ以上の流路から放出された後の前記流体の乱流の程度に基づいており」および「前記時間導関数に基づいて判定する」のに対し,引用発明では「前記生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し認識するように構成される」点。

(2)相違点1の検討
引用文献2の上記記載事項(2-1)の全体,同(2-4)の「血液の温度センサー及び熱希釈液の吐出口の位置はカテーテル先端よりそれぞれ3cm及び30cmである。」および図5からみて,引用文献2には,「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し,該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定することによって血液の流量を測定するためのカテーテルにおいて,該カテーテルが血液および注入液の温度を測定するための2個のセンサーを有し,該血液の温度を測定するためのセンサー(温度センサー)が前記カテーテル先端より上流側へ3cmの位置に設けられるとともに,該注入液の温度を測定するためのセンサーの感温部が,注入液の通路内であって且つ注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられている血流測定用カテーテル。」が記載されているといえる。
そうすると,引用文献2記載の「血液の流量測定用カテーテル」と本願発明1とは,「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し,該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定する」点において,類似している。すなわち,引用文献2記載の「既知の温度差を有する液体である注入液」および「注入液の通路」が,それぞれ,本願発明1の「流体」および「1つ以上の流路」に一応対応するといえる。
また,上記記載事項(3-1)の「前記ハンドル手段の送り込みポートに流体的に結合された流体リザーバを更に備え」からみて,「カテーテルの分野において,薬剤等の流路と連通する液溜め部(流体リザーバ,例えば,輸液バッグ)を備える」ことは,本願の優先日前に周知の事項であるといえる。
しかしながら,引用文献2記載の「注入液」が「血液の流量測定」用であるのに対し,本願発明1の「流体」は「場所検出」用であって,その技術的意義は異なるものである。そして,引用発明の「血管内アクセス・誘導システム」が本願発明1と同様な「場所検出」の機能を有するものの,引用文献1には「血液の流量測定」について記載ないし示唆されていない以上,引用発明の「カテーテル組立体(細長い物体)」に引用文献2記載の「既知の温度差を有する液体である注入液」および「注入液の通路」を「場所検出」用に転用・付加する動機付けがあるとはいえない。
また,引用文献2記載の「カテーテル」の本体が本願発明1の「長尺状本体」に構成上対応するとしても,本願発明1の「導管」,すなわち,「1つ以上の流路を規定し,その位置が長尺状本体に対して固定されるように構成されている導管」に対応する構成が,引用文献2には記載ないし示唆されていないし,当業者において自明なものともいえない。なお,本願明細書の段落【0096】には「機器の流体出口点から流出する流体の流れを制御するための導管」と記載されるとともに,同段落【0100】?【0104】には該「導管」の種々の目的が記載されているが,引用文献2には,その様な「導管」の機能・効果を示唆する記載もない。そうすると,仮に,引用発明へ引用文献2記載の「既知の温度差を有する液体である注入液」および「注入液の通路」を転用ないし付加をしたとしても,相違点1における本願発明1の構成に到達しないというべきである。
してみると,上記周知の事項および引用文献2の記載を考慮しても,引用発明において,相違点1における本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)相違点2の検討
前述したように,引用文献2には「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し、該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定することによって血液の流量を測定するためのカテーテルにおいて、該カテーテルが血液および注入液の温度を測定するための2個のセンサーを有し、該注入液と混合した血液の温度を測定するためのセンサー(温度センサー)が前記カテーテル先端より上流側へ3cmの位置に設けられるとともに、該注入液の温度を測定するためのセンサーの感温部が、注入液の通路内であって且つ前記カテーテル先端より上流側へ30cmの位置に設けられる注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられている血液の流量測定用カテーテル」が記載されているといえる。
そして,上記「カテーテル先端より上流側へ3cmの位置」からみて,引用文献2記載の「注入液と混合した血液の温度を測定するためのセンサー(温度センサー)」が,位置・構成上,引用発明の「カテーテル組立体の遠位端の近傍に取り付けられたセンサ」および本願発明1の「長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサー」に一応対応するといえる。なお,その「感温部」が「注入液の通路内であって且つ前記カテーテル先端より上流側へ30cmの位置に設けられる注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられている」「センサ」が「注入液」を測定対象とするものの,その位置が「注入液の通路内」であって,引用発明の「カテーテル組立体の遠位端の近傍に取り付けられたセンサ」とは,全く設置位置が異なるとともに,「注入液吐出口」より放出された後の「注入液」ではなく,放出される前の「注入液」を測定対象としている。
しかしながら,上記「相違点1の検討」において前述したと同様に,引用発明の「カテーテル組立体(細長い物体)」に引用文献2記載の「注入液」,「注入液吐出口」および「注入液の通路」を転用ないし付加する動機付けがあるとはいえない。
また,引用文献2記載の「センサー(温度センサー)」の測定対象が「注入液と混合した血液」であって,「注入液吐出口」と該「センサー」との間が「27cm」(30cm-3cm)も離れていることからみて,該「注入液と混合した血液」が「注入液吐出口より放出された注入液」と同一の技術的意義を有するとはいえない。
そうすると,仮に,引用発明へ引用文献2記載の「注入液」,「注入液吐出口」および「注入液の通路」を転用ないし付加をしたとしても,相違点2における本願発明1の構成に到達しないというべきである。
してみると,引用文献2の記載を考慮しても,引用発明において,相違点2における本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)相違点3の検討
引用発明は,「血管系内における異なる位置を特定し認識する」すなわち「対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定する」点にて本願発明1と一致するものの,その「センサー」は,本願発明1のように「流路から放出される流体」を測定対象としたものではなく,前述したように,その様に構成する動機付けもない。
そして,引用文献1の上記記載事項(1-4)の「【0173】・・・・・システムは、静脈および病変した静脈の流れの特徴を監視する(monitor)。血液の流れがトランスデューサから離れるときには、より多くの乱れパターン(turbulent pattern)が生じる。・・・・・本発明の係るシステムの実施の形態は、健常な静脈と病変した静脈との間の流れパターン、流れの特性またはその他の特性の違いを検出するのに用いることができる」は,「健常な静脈と病変した静脈との間の流れパターンの違いを検出する」ことを意味しているに過ぎず,また,上記「乱れパターン」は,「トランスデューサ」の存在によるものであって,本願発明1の「流路から放出された後の流体の乱流」とは,異なるものである。
また,同記載事項(1-4)の「移行領域の流れパターン(transition region flow pattern)の検出は、この領域の特徴的な流れ特性、例えば平均速度、速度スペクトル、及び、前向きの流れと逆向きの流れの比率、さらには所定時間内におけるこれらの変化を認識するといった技術思想に基づいている。血管系内における特定の位置を検出するための生理学的な特性又は特定要素を用いるといった、本明細書に記載された進歩性を有する概念は、ドプラ-速度以外のその他の機能的な測定、例えば圧力プロフィール及び温度プロフィールにも応用することができる。この場合、適切な圧力センサ及び温度センサが用いられる。本明細書に記載しているように、複数・単数ビーム超音波システムの処理技術および操作は、血管系内における種々の位置で、圧力プロフィール相対的な変化を特定し、区別するのにも用いることができる。しかしながら、本発明の実施の形態により、予定されている血管系内における位置を特定するために、これらの変形例を用いるといったことは、従来は試みられていない。」は,「移行領域における,所定時間内に変化する特徴的な流れ特性に基づいて血管系内における特定の位置を検出するとともに,圧力プロフィール及び温度プロフィールにも応用することができる」ことを意味しているに過ぎず,引用発明における測定対象が「導管の流路から放出された流体」でない以上,該「所定時間内に変化する特徴的な流れ特性」が本願発明1の「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数」に相当する,あるいは,示唆しているとはいえない。
また,引用文献2上記記載事項(2-2)の「∫_(0)^(∞)ΔT_(B)(t)dtは肺動脈等における血液の温度変化の時間による積分値である。」からみて,本願発明1の「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数」に相当するものが引用文献2にも記載ないし示唆されているとはいえない。
してみると,引用文献1,2の上記記載事項を考慮しても,引用発明において,相違点3における本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)効果について
そして,本願発明1は,相違点1?3により,本願明細書の段落【0006】に記載された「その標的の場所まで前進させられるときに、カテーテルの先端部の場所を正確に特定することによって、血管カテーテルにナビゲーションを行うための比較的簡単かつ正確な方法が必要とされている」との課題を解決するという,当業者といえども,引用文献1?3の記載から予測し得ない,格別顕著な効果を奏するといえる。

(6)まとめ
したがって,本願発明1は,引用発明および引用文献2,3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2について
まず,本願発明1と本願発明2とを対比すると,実質的に,後者は,前者の「導管」を含まず,前者の「1つ以上の流路」が「場所検出システムのルーメン」に変更され,前者の「前記流体が前記1つ以上の流路から放出された後」が「前記流体が前記場所検出システムから放出された後」に変更されるとともに,前者の「前記時間導関数は、前記1つ以上の流路から放出された後の前記流体の乱流の程度に基づいており」が特定されていないものである。
そして,技術常識を考慮すると,上記「ルーメン」が「長尺状本体」に形成されるものであり,該「前記流体が前記場所検出システムから放出された後」が「前記流体が前記ルームから放出された後」を意味することは明らかである。すなわち,「1つ以上の流路」を「ルーメン」に置き換えることを意味している。

(1)対比
引用発明と本願発明2とを比較すると,「1 本願発明1について (1)対比」にて述べたと同様な理由により,両発明は,
(一致点)
「場所検出システムであって:
長尺状本体;
前記長尺状本体の遠位端部にまたはそれに近接して位置決めされたセンサーであって,前記センサーは,流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている,センサー;および
前記センサーと通信するコントローラであって,前記コントローラは,対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定するようにさらに構成されている,コントローラ
を含む場所検出システム。」
の点で一致し,以下の点で相違するものと認められる。

(相違点4)
本願発明2が「前記場所検出システムのルーメンと連通する流体を保持する液溜め部」を含んでいるのに対し,引用発明は,そのような「ルーメン」および「液溜め部」を含んでいない点。

(相違点5)
「センサー」について,本願発明2が「前記流体が前記場所検出システムから放出された後で,前記流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成されている」であるのに対し,引用発明では「流体」を含んでおらず,「血液の流れ,速度,圧力,温度などといった生理学的パラメータを測定するように構成されている」点。

(相違点6)
「コントローラ」について,本願発明1では「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数を決定するように構成され」および「前記時間導関数に基づいて判定する」のに対し,引用発明では,引用発明では「流体」を含んでおらず,「前記生理学的パラメータのパターンに基づいて血管系内における異なる位置を特定し認識するように構成される」点。

(2)相違点4の検討
前述したように,引用文献2には「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し,該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定することによって血液の流量を測定するためのカテーテルにおいて,該カテーテルが血液および注入液の温度を測定するための2個のセンサーを有し,該注入液と混合した血液の温度を測定するためのセンサー(温度センサー)が前記カテーテル先端より上流側へ3cmの位置に設けられるとともに,該注入液の温度を測定するためのセンサーの感温部が,注入液の通路内であって且つ前記カテーテル先端より上流側へ30cmの位置に設けられる注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられている血液の流量測定用カテーテル」が記載されているといえる。
そして,引用文献2記載の「血液の流量測定用カテーテル」と本願発明2とは,「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し,該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定する」点において,類似している。すなわち,引用文献2記載の「既知の温度差を有する液体である注入液」および「注入液の通路」が,それぞれ,本願発明2の「場所検出システムから放出される流体」および「ルーメン」に構成上対応するといえる。
しかしながら,引用文献2記載の「注入液」が「血液の流量測定」用であるのに対し,本願発明2の「場所検出システムから放出される流体」は「場所検出」用であって,その技術的意義は異なるものである。そして,引用発明の「血管内アクセス・誘導システム」が,本願発明2と同様な「場所検出」の機能を有するものの,引用文献1には「血液の流量測定」について記載ないし示唆されていない以上,引用発明の「カテーテル組立体(細長い物体)」に引用文献2記載の「既知の温度差を有する液体である注入液」および「注入液の通路」を「場所検出」用に転用・付加する動機付けがあるとはいえない。
してみると,前記周知の事項および引用文献2の記載を考慮しても,引用発明において,相違点4における本願発明2の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)相違点5の検討
前述したように,引用文献2には「体内の循環血液中に既知の温度差を有する液体を注入し、該注入箇所より下流における血液の温度変化を測定することによって血液の流量を測定するためのカテーテルにおいて、該カテーテルが血液および注入液の温度を測定するための2個のセンサーを有し、該注入液と混合した血液の温度を測定するためのセンサー(温度センサー)が前記カテーテル先端より上流側へ3cmの位置に設けられるとともに、該注入液の温度を測定するためのセンサーの感温部が、注入液の通路内であって且つ前記カテーテル先端より上流側へ30cmの位置に設けられる注入液吐出口より上流側へ50cm以内の位置に設けられている血液の流量測定用カテーテル」が記載されているといえる。
しかしながら,上記「相違点4の検討」において前述したと同様に,引用発明の「カテーテル組立体(細長い物体)」に引用文献2記載の「注入液」,「注入液吐出口」および「注入液の通路」を転用ないし付加する動機付けがあるとはいえない。
また,引用文献2記載の「センサー(温度センサー)」の測定対象が「注入液と混合した血液」であって,「注入液吐出口」と該「センサー」との間が「27cm」(30cm-3cm)も離れていることからみて,該「注入液と混合した血液」が「注入液吐出口より放出された注入液」と同一の技術的意義を有するとはいえない。
そうすると,仮に,引用発明へ引用文献2記載の「注入液」,「注入液吐出口」および「注入液の通路」を転用ないし付加をしたとしても,相違点5における本願発明2の構成に到達しないというべきである。
してみると,引用文献2の記載を考慮しても,引用発明において,相違点5における本願発明2の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)相違点6の検討
引用発明は,「血管系内における異なる位置を特定し認識する」すなわち「対象者の体内の前記センサーの位置が前記体内の予め定められた位置であるかどうかを判定する」点にて本願発明2と一致するものの,その「センサー」は,本願発明2のように「場所検出システムから放出される流体」を測定対象としたものではなく,前述したように,その様に構成する動機付けもない。
そして,前述したように,引用文献1の上記記載事項(1-4)の「移行領域の流れパターン(transition region flow pattern)の検出は、この領域の特徴的な流れ特性、例えば平均速度、速度スペクトル、及び、前向きの流れと逆向きの流れの比率、さらには所定時間内におけるこれらの変化を認識するといった技術思想に基づいている。血管系内における特定の位置を検出するための生理学的な特性又は特定要素を用いるといった、本明細書に記載された進歩性を有する概念は、ドプラ-速度以外のその他の機能的な測定、例えば圧力プロフィール及び温度プロフィールにも応用することができる。この場合、適切な圧力センサ及び温度センサが用いられる。本明細書に記載しているように、複数・単数ビーム超音波システムの処理技術および操作は、血管系内における種々の位置で、圧力プロフィール相対的な変化を特定し、区別するのにも用いることができる。しかしながら、本発明の実施の形態により、予定されている血管系内における位置を特定するために、これらの変形例を用いるといったことは、従来は試みられていない。」は,「移行領域における,所定時間内に変化する特徴的な流れ特性に基づいて血管系内における特定の位置を検出するとともに,圧力プロフィール及び温度プロフィールにも応用することができる」ことを意味しているに過ぎず,引用発明における測定対象が「流路から放出された流体」でない以上,該「所定時間内に変化する特徴的な流れ特性」が本願発明2の「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数」に相当する,あるいは,示唆しているとはいえない。
また,前述したように,引用文献2上記記載事項(2-2)の「∫_(0)^(∞)ΔT_(B)(t)dtは肺動脈等における血液の温度変化の時間による積分値である。」からみて,本願発明2の「前記流体の前記少なくとも1つのパラメータの時間導関数」に相当するものが引用文献2にも記載ないし示唆されているとはいえない。
してみると,引用文献1,2の上記記載事項を考慮しても,引用発明において,相違点6における本願発明2の構成とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)効果について
そして,本願発明2も,相違点4?6により,本願明細書の段落【0006】に記載された「その標的の場所まで前進させられるときに、カテーテルの先端部の場所を正確に特定することによって、血管カテーテルにナビゲーションを行うための比較的簡単かつ正確な方法が必要とされている。」との課題を解決するという,当業者といえども,引用文献1?3の記載から予測し得ない,格別顕著な効果を奏するといえる。

(6)まとめ
本願発明2も,引用発明および引用文献2,3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明3?15について
本願発明3?15は,本願発明2を技術的に限定減縮した発明であるから,本願発明2と同じ理由により,引用発明および引用文献2,3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第8 原査定について
「第7 対比・判断」に示したように,本件補正後の請求項1?15に係る発明は,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1?3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり,本願発明1?15は,引用発明および引用文献2,3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2018-568711(P2018-568711)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊知地 和之  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 森 竜介
磯野 光司
発明の名称 血管のナビゲーション、評価および/または診断を行うための機器および方法  
代理人 特許業務法人白坂  

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