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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1368733
審判番号 不服2019-14134  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-24 
確定日 2020-11-27 
事件の表示 特願2016-203735「局部義歯」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日出願公開、特開2018- 64657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月17日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成31年 2月 6日付け:拒絶理由通知
令和 1年 7月23日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 1年10月24日 :審判請求、同時に手続補正書

第2 令和元年10月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年10月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。)
「【請求項1】
人工歯を保持する義歯床を有する局部義歯において、前記義歯床には、前記局部義歯の装着時に残存歯に圧接しうる圧接部が設けられており、前記義歯床はアクリル樹脂製であると共に、 前記圧接部は、金属とシリコーン樹脂との複合体であることを特徴とする局部義歯。」

(2)本件補正前の、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
人工歯を保持する義歯床を有する局部義歯において、前記義歯床には、前記局部義歯の装着時に残存歯に圧接しうる圧接部が設けられていることを特徴とする局部義歯。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「義歯床」、「圧接部」について、「前記義歯床はアクリル樹脂製であると共に、 前記圧接部は、金属とシリコーン樹脂との複合体である」と特定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1の(1)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項及び引用発明
(2-1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2006-167089号公報(平成18年6月29日出願公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)
ア 「【0001】
この発明は、例えば欠損した歯の機能を復元するために歯の欠損した部分に装着される無鈎固着義歯に関する。」
イ 「【0008】
具体的には、前記抜け止め部を、変性ポリエチレン樹脂または硬質ビニールまたはシリコンゴムにより形成することができる(請求項4)。」
ウ 「【0012】
図1?図5は、この発明の第1の実施の形態に係る無鈎固着義歯(以下、義歯という)1を示す。前記義歯1は、図2に示すように、一つの歯が欠損した部分Lに着脱自在に装着され、図1?図3に示すように、歯冠部の外観を呈する模擬歯冠部2と、歯肉部の外観を呈する模擬歯肉部3とを備えている。この義歯1は、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の歯冠部4や歯肉部5の形状等に適合するように形成されている。また、義歯1は、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯(歯冠部4)の側面に係止する抜け止め部7を左右両側に備えている。
【0013】
詳しくは、前記模擬歯冠部2および模擬歯肉部3は、それぞれ例えばアクリル樹脂よりなり、模擬歯肉部3は、図1?図5に示すように、歯の欠損部分Lの歯肉部5の外側(口腔外側)および内側(口腔内側)を覆う一対のスカート部8,8を有している。
【0014】
一方、前記抜け止め部7は、図3に示すように、前記欠損部分Lに臨む位置に残存する歯(歯冠部4)の側面に沿うようにほぼU字状をしており、例えばシート状の変性ポリエチレン樹脂または硬質ビニールよりなる。また、抜け止め部7は、模擬歯冠部2および模擬歯肉部3に対して例えば即時重合レジンを介して接合され、この際、抜け止め部7の表面はジクロロメタンで処理される。
【0015】
そして、抜け止め部7の当接部7a(図3において斜線で示す部分)が、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯(歯冠部4)の側面に当接することで、義歯1が欠損部分Lに装着された状態が維持されるように構成されている。ここで、前記当接部7aは、図2に示すように、前記歯冠部4の側面において、歯冠部4の先端側(図2では上側)に近づくに従って側方に位置(突出)する傾斜がついた部分6またはその近傍に当接するように構成されていることが望ましい。この実施の形態では、前記部分6は、歯冠部4の側面において歯肉部5付近に形成されている。
【0016】
なお、図6?図8に示すように、前記模擬歯冠部2の下側に沿うU字状をしており、両端に係止爪9が形成された金属製(例えばコバルトクロム合金製)の部材(レスト)10を設けてもよい。すなわち、係止爪9は、義歯1を前記欠損部分Lに装着したときに隣接する歯の歯冠部4に係止し、義歯1が隣接する歯よりも歯肉部5側へと沈みこむことを防止するように構成されている。」
エ 図6には、模擬歯肉部3が模擬歯冠部2と隣接している点が看取される。

オ 図6及び図7には、抜け止め部7と模擬歯冠部2とが接合する態様(【0014】)において、模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10(【0016】)が、抜け止め部7と模擬歯冠部2との間の部分を通って設けられる構造が看取される。

(2-2)上記(2-1)ア?オの記載事項から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献に記載された技術は、欠損した歯の機能を復元するために歯の欠損した部分に装着される無鈎固着義歯に関するものである(【0001】)。
b 無鈎固着義歯は、歯冠部の外観を呈する模擬歯冠部2と、模擬歯冠部2と隣接し、歯肉部の外観を呈する模擬歯肉部3と、模擬歯冠部2および模擬歯肉部3に対して即時重合レジンを介して接合され、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の側面に係止する抜け止め部7とを備えている(【0012】、【0014】、図6)。
c 抜け止め部7が、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の側面に当接することで、欠損部分Lに装着された状態が維持されるように構成されている(【0015】)。
d 模擬歯冠部2および模擬歯肉部3は、それぞれアクリル樹脂よりなる(【0013】)。
e 抜け止め部は、シリコンゴムにより形成される(【0008】)。
f 模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10が、抜け止め部7と模擬歯冠部2との間の部分を通って設けられる構造となっている(【0016】、図6、7)。

(2-3)上記(2-1)、(2-2)を踏まえると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「歯冠部の外観を呈する模擬歯冠部2と、模擬歯冠部2に隣接し、歯肉部の外観を呈する模擬歯肉部3と、
模擬歯冠部2および模擬歯肉部3に対して即時重合レジンを介して接合され、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の側面に係止する抜け止め部7とを備え、
抜け止め部7が、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の側面に当接することで、欠損部分Lに装着された状態が維持されるように構成されており、
模擬歯冠部2および模擬歯肉部3は、それぞれアクリル樹脂よりなり、
抜け止め部7は、シリコンゴムにより形成されるとともに、
模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10が、抜け止め部7と模擬歯冠部2との間の部分を通って設けられる構造となっている
無鈎固着義歯。」

(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「無鈎固着義歯」は、患者の口腔内において「残存する歯」とともに用いられる義歯であるから、本件補正発明の「局部義歯」に相当するといえる。
また、引用発明の「歯冠部の外観を呈する模擬歯冠部2」は本件補正発明の「人工歯」に相当し、以下同様に、「歯肉部の外観を呈する模擬歯肉部3」は「義歯床」に、「アクリル樹脂」は「アクリル樹脂」に、「シリコンゴム」は「シリコーン樹脂」に、それぞれ相当する。
引用発明の「模擬歯冠部2に隣接し、歯肉部の外観を呈する模擬歯肉部3」と、本件補正発明の「人工歯を保持する義歯床」とは、人工歯と並んだ義歯床である限りにおいて共通する。
引用発明の「抜け止め部7」は、欠損部分Lに臨む位置に残存する歯の側面に当接した状態で係止しており、それによって無鈎固着義歯が欠損部分Lに装着された状態が維持される、つまり、ガタつきのないように当接されていることから、抜け止め部7と残存する歯との間には応力が働いていることは明らかであるので、引用発明の「抜け止め部7」は、本件補正発明の「圧接部」に相当する。そうすると、引用発明の「模擬歯冠部2および模擬歯肉部3に対して(抜け止め部7が)接合され」は、本件補正発明の「義歯床には・・・圧接部が設けられ」に相当する。

そうすると、両者は、
「人工歯と並んだ義歯床を有する局部義歯において、前記義歯床には、前記局部義歯の装着時に残存歯に圧接しうる圧接部が設けられており、前記義歯床はアクリル樹脂製である局部義歯。」
である点で一致し、次の各点で一応相違する。

[相違点1]
人工歯と並んだ義歯床について、本件補正発明では、人工歯を保持する義歯床であるのに対して、引用発明では、両者は隣接するものの、保持するか明らかでない点。

[相違点2]
圧接部について、本件補正発明では、金属とシリコーン樹脂との複合体であるのに対して、引用発明では、シリコンゴムにより形成されるとともに、模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10が、抜け止め部7と模擬歯冠部2との間の部分を通って設けられる構造となっている点。

上記各相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明では、模擬歯冠部2及び模擬歯肉部3はそれぞれアクリル樹脂よりなり、「模擬歯肉部3」が「模擬歯冠部2に隣接し」て設けられているところ、仮に、模擬歯冠部2及び模擬歯肉部3がともにアクリル樹脂で一体成型されているのであれば、模擬歯肉部3が模擬歯冠部2を保持している関係にあるといえるし、また仮に、模擬歯冠部2と模擬歯肉部3とが別体に構成されているのだとしても、咀嚼力に耐えるように、模擬歯肉部3が模擬歯冠部2を保持する構造とすることは、義歯の技術分野における技術常識であると解するのが相当である。また、引用発明では、「抜け止め部7」は、模擬歯冠部2および模擬歯肉部3に対して即時重合レジンを介して接合される構成であるから、抜け止め部7を介して接着することで、模擬歯冠部2は模擬歯肉部3に保持されているともいえる。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

イ 相違点2について
引用発明では、模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10が、抜け止め部7と模擬歯冠部2との間の部分を通って設けられる構造となっているところ、模擬歯冠部2と抜け止め部7は即時重合レジンを介して接合されるものであること、そして咀嚼力に耐えるよう保持されるものであることを踏まえれば、ガタ付きなどが生じることのないように、「抜け止め部7」と「金属製の部材10」もまた互いに接合されていると解するのが相当である。また、抜け止め部7は、シリコンゴムにより形成されている。
そうすると、引用発明の「抜け止め部7」は、シリコンゴムにより形成されるとともに、模擬歯冠部2の下側に沿うU字状の、両端に係止爪9が形成された金属製の部材10が当該抜け止め部7と接合されている構造であるといえ、引用発明の「抜け止め部7」と「金属製の部材10」は一体の構造であって、シリコンゴムと金属とが一体に構成された複合体であるといえる。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。

以上のとおり、本件補正発明と引用発明とに実質的な差異はなく、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に記載の発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載の発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1の(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、上記引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、前記第2の[理由]2の(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記義歯床はアクリル樹脂製であると共に、 前記圧接部は、金属とシリコーン樹脂との複合体である」との特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2の(3)に記載したとおり、引用発明であるところ、本願発明も、当然に引用発明であるというべきである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-09-30 
審決日 2020-10-13 
出願番号 特願2016-203735(P2016-203735)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 和田 将彦
栗山 卓也
発明の名称 局部義歯  
代理人 木村 高明  

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