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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1368788
審判番号 不服2020-5364  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-21 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2018-240555「システム及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月 9日出願公開,特開2019- 71092,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は,平成27年1月30日に出願した特願2015-016252号の一部を平成30年12月25日に新たな特許出願としたものであって,平成31年1月15日付けで出願審査の請求がなされ,令和1年10月31日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して同年12月26日付けで意見書が提出されたが,令和2年1月9日付けで審査官により拒絶査定(以下,これを「原査定」という)がなされ,これに対して同年4月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(令和2年1月9日付けの拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.理由1(特許法第36条第6項第1号)について
出願時の技術常識に照らしても,本願の請求項1及び請求項2に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
本願の請求項1及び請求項2に係る発明は不明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.理由3(特許法第29条第2項)について
本願の請求項1及び請求項2に係る発明は,以下の引用文献1及び引用文献2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.山近 慶一,Part2 UACをユーザーフレンドリーにするカスタマイズテクニック,月刊ウィンドウズ・サーバ・ワールド,日本,(株)IDGジャパン,2009年 4月 1日,Vol.14,No.4,第226号,p.57-61,Windows Vista UACカスタマイズのポイント
2.特開2014-241038号公報

第3 本願発明

本願の請求項1及び請求項2に係る発明(以下,「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は,この出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された,次のとおりのものである。

「【請求項1】
オペレーティングシステムの標準機能によって読取がサポートされない所定の領域にドライブレコーダによって記憶された情報を読み取るアプリケーションプログラムの動作の際に、当該オペレーティングシステムによってオペレーティングシステムの管理者権限の要求表示を行わないように制御するシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムの機能をコンピュータに実現させるためのプログラム。」

第4 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について

ア 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,関連する図面とともに,次の技術的事項が記載されている。(下線は当審で説明のために付加した。以下同様。)

A 「方法4
UACの機能をサードパーティ製品で置き換える
Windows Vista標準のUACでは、アプリケーションごとに昇格プロンプトの表示と非表示を設定することができない。例えば、信頼できるアプリケーションを実行するときだけ昇格プロンプトを非表示にして利便性を高め、ほかのアプリケーションは昇格を制限するといった使い分けができれば便利だ。
こうしたユーザーの要望を実現するのが、シマンテックの「Norton User Account Control tool」(以下、NUACツール)だ。
NUACツールは試験的なツールとして32ビット版と64ビット版が用意されており、次のWebサイトからダウンロードできる。インストール手順は簡単で、ライセンスに同意して「Yes, Enable Submission on UAC prompts」チェックボックスをオンにしてからインストーラを完了すればよい(画面10)。

Vista User Account Control
URL http://www.nortonlabs.com/inthelab/uac.php

NUACツールをインストールすると、管理者ユーザーの昇格時に表示される「承認ユーザーインタフェース」が、NUACツールのオリジナルインタフェースに置換される。標準ユーザーに表示される「資格情報ユーザーインタフェース」は変化しない。セキュアデスクトップを表示するかどうかなどは、Windows Vistaのグループポリシーやレジストリ設定に依存している。
さて、コントロールパネルの「デバイスマネージャ」などを実行すると、NUACツールが「Windows needs your permission to continue」ダイアログボックスを表示する(画面11)。このダイアログボックスには、アプリケーション名と昇格プロンプトが表示された理由や「Allow」「Cancel」「View Details」に加えて、「Don’t ask me again」チェックボックスが用意されている。チェックボックスをオンにして「Allow」をクリックすると、次回から同じアプリケーションの実行時に昇格プロンプトが表示されなくなる。
NUACツールは、「Don’t ask me again」チェックボックスをオンにしたアプリケーションを次のレジストリキーに特殊な形式で保存している。レジストリ値の名前を見ただけでアプリケーションを判別することはできないので、記憶させた動作を消去したければ、すべてのレジストリ値を削除するほうが手っ取り早いだろう。」
(第60ページ右欄第16行?第61ページ右欄第13行)

イ 上記Aの記載からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 信頼できるアプリケーションを実行するときだけ昇格プロンプトを非表示にして利便性を高め,ほかのアプリケーションは昇格を制限するといった使い分けができる「Norton User Account Control tool」(以下,NUACツール)であって,
NUACツールをインストールすると,NUACツールが「Windows needs your permission to continue」ダイアログボックスを表示するものであり,このダイアログボックスには,「Don’t ask me again」チェックボックスが用意されており,チェックボックスをオンにして「Allow」をクリックすると,次回から同じアプリケーションの実行時に昇格プロンプトが表示されなくなる,
NUACツール。」

2 引用文献2について

ア 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,関連する図面とともに,次の技術的事項が記載されている。

B 「【0011】
以下、図1から図4を参照して、本実施形態によるドライブレコーダ10及びコンピュータ51を備えるレコーダシステム1について説明する。」

C 「【0065】
S240では、コンピュータ51は、SDメモリカード40に記録されている各種データ(画像データ及び車両状態情報)を専用アプリケーションを用いて解析し、解析結果を表示器53の液晶ディスプレイ53Aに表示する情報解析処理を実行する。コンピュータ51は、S240の処理後、第2カード識別処理を終了する。」

D 「【0073】
事業所側システム1Bのコンピュータ51は、専用アプリケーションを用いて、ドライブレコーダ10での使用に適した特定のSDメモリカード40に専用フォーマットを施すように構成されてもよい。専用フォーマットを特定のSDメモリカード40に施すことで、専用アプリケーションを有していないコンピュータではSDメモリカード40の各種データを読み出すことができなくなり、データ保護機能を高めることが可能となる。なお、ドライブレコーダ10のコントローラ11は、SDメモリカード40の専用フォーマットの有無に基づいて、SDメモリカード40がドライブレコーダ10での使用に適した特定のSDメモリカードであるか否かを識別してもよい。」

イ 上記B?Dの記載からすると,上記引用文献2には次の技術が記載されていると認められる。

「 ドライブレコーダ及びコンピュータを備えるレコーダシステムであって,
前記コンピュータは,SDメモリカードに記録されている各種データ(画像データ及び車両状態情報)を専用アプリケーションを用いて解析し,解析結果を表示器の液晶ディスプレイに表示する情報解析処理を実行するものであって,
前記コンピュータは,前記専用アプリケーションを用いて,前記SDメモリカードに専用フォーマットを施すように構成され,前記専用アプリケーションを有していないコンピュータでは前記SDメモリカードの各種データを読み出すことができなくなり,データ保護機能を高めることが可能となる,
レコーダシステム。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「アプリケーション」は,本願発明1の「アプリケーションプログラム」に対応し,引用発明の「アプリケーションを実行するとき」とは,後記の点で相違するものの,本願発明1の「アプリケーションプログラムの動作の際に」に対応するものである。
そして,引用発明の「昇格プロンプト」とは,ユーザーがオペレーティングシステムの管理者権限が必要とされるアプリケ-ションを実行する際に,当該ユーザーが管理者権限を有するか否かを確認するために表示されるダイアログであることは技術常識からして明らかであり,本願発明1の「オペレーティングシステムの管理者権限の要求表示」に相当するものである。
そして,引用発明は,「NUACツールをインストール」するものであるところ,NUACツールがインストールされたコンピュータは,“システム”といえるものである。

イ 引用発明は,「信頼できるアプリケーションを実行するときだけ昇格プロンプトを非表示」にするものであって,「NUACツールが「Windows needs your permission to continue」ダイアログボックスを表示するものであり,このダイアログボックスには,」「「Don’t ask me again」チェックボックスが用意されており,チェックボックスをオンにして「Allow」をクリックすると,次回から同じアプリケーションの実行時に昇格プロンプトが表示されなくなる」ものであるから,NUACツールによって表示されるダイアログボックスの「Don’t ask me again」チェックボックスをオンにして「Allow」をクリックすることによって,「次回から同じアプリケーションの実行時に昇格プロンプトが表示されなくなる」ものである。ここで,上記アの検討も踏まえると,引用発明の,NUACツールがインストールされたコンピュータは,“アプリケーション動作の際に,オペレーティングシステムの管理者権限の要求表示を行わないように制御”しているといえるから,このような昇格プロンプトを表示制御が,コンピュータのオペレーティングシステムによって行われるものであることは当業者には自明である。
よって,本願発明1と引用発明とは,後記の点で相違するものの,“アプリケーションプログラムの動作の際に,オペレーティングシステムによってオペレーティングシステムの管理者権限の要求表示を行わないように制御するシステム”である点で一致している。

上記ア及びイの検討から,本願発明1と引用発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
アプリケーションプログラムの動作の際に,オペレーティングシステムによってオペレーティングシステムの管理者権限の要求表示を行わないように制御するシステム。

<相違点>
本願発明1は,「オペレーティングシステムの標準機能によって読取がサポートされない所定の領域にドライブレコーダによって記憶された情報を読み取る」アプリケーションプログラムの動作の際に,管理者権限の表示要求を行わないものであるのに対して,引用発明は,そのようなものではない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には,上記「第4 2 イ」で示したとおり,次の技術が記載されている(再掲)。

「ドライブレコーダ及びコンピュータを備えるレコーダシステムであって,
前記コンピュータは,SDメモリカードに記録されている各種データ(画像データ及び車両状態情報)を専用アプリケーションを用いて解析し,解析結果を表示器の液晶ディスプレイに表示する情報解析処理を実行するものであって,
前記コンピュータは,専用アプリケーションを用いて,前記SDメモリカードに専用フォーマットを施すように構成され,前記専用アプリケーションを有していないコンピュータでは前記SDメモリカードの各種データを読み出すことができなくなり,データ保護機能を高めることが可能となる,
レコーダシステム。」

引用文献2に記載の上記技術は,ドライブレコーダ及びコンピュータを備えるレコーダシステムにおいて,ドライブレコーダで使用するSDメモリカードに専用フォーマットを施すことにより,専用アプリケーションを有していないコンピュータではSDメモリカードの各種データを読み出すことができなくするという技術を示すものである。
しかしながら,引用文献2には,「管理者権限の要求表示」については何ら記載されておらず,まして,「オペレーティングシステムの標準機能によって読取がサポートされない所定の領域にドライブレコーダによって記憶された情報を読み取る」動作の際に,「管理者権限の要求表示を行わない」ようにすることは,一切記載も示唆もされておらず,また,本願の出願時の技術常識を鑑みても自明であるとする根拠は見出せない。
したがって,上記相違点は,引用文献2に記載された技術から導き出すことができないものであるから,本願発明1は,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について

本願発明2は,請求項1を引用するものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について

1.理由1(特許法第36条第6項第1号)について
原査定では,本願の発明の詳細な説明には,「管理者権限の要求表示を行わないように制御」する実施例として,特定のカードリーダのデバイスに対応するレジストリ領域の情報を,管理者権限の要求を行わないようにする値へと書き換えることが記載されているのみであり,出願時の技術常識を考慮しても,上記レジストリ情報の書き換え以外の方法も包含する本願の請求項1及び請求項2に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,本願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとしている。
しかしながら,本願の発明の詳細な説明の段落【0031】及び【0032】には,下記のとおり記載されている。(下線は当審が説明のために付与した。)

「【0031】
(5)前記オペレーティングシステムによって管理者権限の要求を行わないように制御させるための機能は、オペレーティングシステムが管理者権限の要求を行うか否かを判定するために利用する情報領域の情報を書き換える機能とするとよい。
【0032】
このようにすれば、オペレーティングシステムのデバイスドライバを開発するなど、オペレーティングシステムが管理者権限で実行するプログラムを開発して、管理者権限の要求動作をしないようにする処理を加えることなく容易に実現できる。」

上記記載は,「管理者権限の要求表示を行わないように制御」する機能は,「オペレーティングシステムが管理者権限の要求を行うか否かを判定するために利用する情報領域の情報を書き換える」,すなわち,レジストリ情報の書き替えることによって実現できるところ,「オペレーティングシステムのデバイスドライバを開発するなど,オペレーティングシステムが管理者権限で実行するプログラムを開発」することによっても実現できることを示唆するものである。
してみると,本願の発明の詳細な説明には,「管理者権限の要求表示を行わないように制御」するための方法として,レジストリ情報の書き換え以外の方法も示唆されているといえ,レジストリ情報の書き換え以外の方法も包含する本願の請求項1及び請求項2に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないとする原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
原査定では,本願の請求項1及び請求項2の記載は,「管理者権限の要求表示を行わないように制御」するという機能を具体的に実現するための手段は何ら規定していないため,本願の請求項1及び請求項2に係る発明は不明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとしている。
しかしながら,本願発明が解決しようとする課題は,本願の明細書段落【0012】に記載されているとおり,「管理者権限がないユーザであっても使い勝手のよいシステム及びプログラムを提供する」ことであり,本願の請求項1に記載されている「オペレーティングシステムの標準機能によって読取がサポートされない所定の領域にドライブレコーダによって記憶された情報を読み取るアプリケーションプログラムの動作の際に,当該オペレーティングシステムによってオペレーティングシステムの管理者権限の要求表示を行わないように制御する」という機能は,上記課題の解決に対応したものであって,かつ,コンピュータが具体的に実現する機能として,当業者であれば明確に把握できるものである。
そして,かかる機能を具体的に実現するための手段として,上記「1.理由1(特許法第36条第6項第1号)について」で検討したとおり,本願の発明の詳細な説明には,「オペレーティングシステムが管理者権限の要求を行うか否かを判定するために利用する情報領域情報を書き換える」こと,すなわち,レジストリ情報の書き換える方法が記載されており,また,「オペレーティングシステムのデバイスドライバを開発するなど、オペレーティングシステムが管理者権限で実行するプログラムを開発」する方法も示唆されているところ,本願の明細書及び図面の記載を考慮しても,当業者が本願の請求項1の上記記載から本願発明を明確に把握できないとはいえない。
してみると,出願時の技術常識を考慮しても,「管理者権限の要求表示を行わないように制御」するという機能によって記載された発明特定事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり,明細書及び図面の記載を考慮しても,当業者が本願の請求項1及び請求項2の記載から本願発明1及び本願発明2を明確に把握できないとはいえない。
よって,原査定の理由2を維持することはできない。

3.理由3(特許法第29条第2項)について
上記「第5 対比・判断」で検討したとおり,当業者であっても,原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1及び引用文献2に基づいて,本願発明1及び本願発明2を容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-11-25 
出願番号 特願2018-240555(P2018-240555)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 行田 悦資  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 月野 洋一郎
山澤 宏
発明の名称 システム及びプログラム  

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