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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1368832 |
審判番号 | 不服2019-13181 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-02 |
確定日 | 2020-12-04 |
事件の表示 | 特願2018- 76942「画像取得装置、顕微鏡、画像取得方法及び顕微鏡システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月26日出願公開、特開2018-116309〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成23年10月5日に出願した特願2017-182号の一部を、平成29年3月23日に新たな特許出願としたものについて、さらにその一部を平成30年4月12日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続は次のとおりである。 平成30年 9月28日付け:拒絶理由通知(同年10月9日発送) 同年12月10日 :手続補正、意見書提出 令和 元年 6月27日付け:拒絶査定(同年7月2日謄本送達) 同年10月 2日 :審判請求、手続補正 令和 2年 6月19日付け:拒絶理由通知(同年同月23日発送) 同年 8月24日 :手続補正、意見書提出 2 本願発明 令和2年8月24日の手続補正(以下「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 生体サンプルを載置するステージが連続的に移動する時、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子を具備し、 第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された第2の合焦位置の平均画像を得られるように、前記撮像素子は、前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光され、前記第1の合焦位置および前記第2の合焦位置で多重露光される 画像取得装置。」 3 当審における拒絶の理由 令和2年6月19日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりである。 本件補正前の請求項1?8に係る発明は、その出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ---<引用文献等一覧>--------------------- 1 特開平9-97332号公報 2 特許第3191928号公報 3 特開2009-163155号公報 4 特開平5-56359号公報 5 特開平3-216632号公報 --------------------------------- 4 当審の判断 (1)引用文献に記載された発明 ア 引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。 (ア) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、光学顕微鏡や電子顕微鏡等において、長焦点による観察を行うための画像処理方法に関する。 【0002】 【従来の技術】光学顕微鏡や電子顕微鏡等の顕微鏡は、通常、焦点深度を有しており、このため観察試料の深度方向について鮮明な像を得ることができないという問題点がある。例えば、通常の光学顕微鏡を用いて生体観察等の凹凸がある試料の観察を行う場合、高倍率となるとそれに応じて焦点深度が浅くなるため、試料のある一部分に焦点があっても他の部分では焦点が合わず、焦点がぼけた像となる。そのため、試料の全体について焦点の合った像を得ることが困難となる。 【0003】この問題を解決するため、例えば、光学顕微鏡のレンズの開口数を減らして長焦点化を行うことや、焦点位置を焦点深度方向へ移動させながら、フィルムや撮像管等の一つの受光面上に多数の像を重ねて露光したものの画質を調整することによって長焦点像を求める方法が知られている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のレンズの開口数の減少による長焦点化では、像が暗くなってしまい、同一受光面上へ複数像を多重露光したものの画質調整では、鮮明な像が得られない。 【0005】そこで、本発明は前記した従来の顕微鏡の問題点を解決し、十分な長焦点化によって焦点深度を向上させることができ、また、試料全体について鮮明な像を得ることができる顕微鏡の画像処理方法を提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明の顕微鏡の画像処理方法は、焦点位置の異なる複数の顕微鏡像を積算して積算像を求め、積算像をフーリエ変換して2次元のスペクトルを求め、この求めた2次元スペクトルの高調波成分を強調し、高調波強調した2次元スペクトルをフーリエ逆変換して高調波強調した顕微鏡像を求めることによって、焦点深度を向上させることができ、また、試料全体について鮮明な像を得る。 【0007】本発明の顕微鏡の画像処理方法は、試料に対して焦点位置を異ならせ求めた複数の顕微鏡像の積算像をフーリエ変換によって周波数領域のデータに変換し、この周波数領域において高調波成分を強調することによって、焦点の合った高調波成分の割合を高め、焦点の合っていない低調波成分の割合を低める高調波強調を行い、この高調波強調した画像データをフーリエ逆変換するものである。 【0008】本発明の顕微鏡の画像処理方法において、周波数領域における高調波強調は、顕微鏡像の積算による焦点のぼけを解消して焦点深度を向上させる。また、顕微鏡像の積算は、焦点位置の移動との同期を必要としないため、長焦点の深さに制限はなく、十分な深さの長焦点化を行うことができる。」 (イ) 「【0012】図1は、本発明の光学顕微鏡の全体構成を説明するためのブロック図である。なお、図1のブロック図は、本発明の光学顕微鏡の画像処理方法の説明に必要な構成部分のみを示し、その他の光学顕微鏡の構成については省略している。 【0013】図1において、1は光学顕微鏡、2は光学顕微鏡1の顕微鏡像を画像信号として取り出すためのTVカメラ等の撮像手段、3は試料7を載置し、光学顕微鏡1に対してX,Y方向およびZ方向に移動する試料ステージ、4は試料ステージの移動を制御するための試料ステージ制御手段、5は撮像手段から入力した画像信号に画像処理を施して表示信号を生成する画像処理手段、6は表示手段である。また、画像処理手段5は試料ステージ制御手段4に対してステージ駆動信号を出力し、試料ステージ3の移動と画像信号の取込みとの制御を行っている。 【0014】次に、上記構成を備える光学顕微鏡を適用して顕微鏡像の画像処理を行う方法の動作について、図2のフローチャートに従って説明する。 【0015】試料7を試料ステージ3上に載置し、X,Y方向に移動して観察位置を定める。この試料7は光軸方向に平坦でなく凹凸を有しているものとする。試料ステージ3を光学顕微鏡1の光軸方向(図中のZ方向)に移動し、光学顕微鏡の観察あるいは自動焦点装置によって試料7の最も凸の部位に焦点を合わせる(ステップS1)。 【0016】このZ方向位置において、撮像手段2によって光学顕微鏡1の顕微鏡像を撮像し画像信号を取り出し、画像処理手段5中に取り込む。画像信号は画素単位の画像データとして出力される。図3の画像データを説明するための図において、(a)に示す試料7の最も凸の部位である第1画像は(b)に示す画像データの形態で求められ、図中(i,j)の画素の画像データは1Dijで示している(ステップS2)。 【0017】ステップS2で求めた画像データをフレームメモリに画素単位で積算する。ここで、図4に示すフレームメモリはi方向にM画素、j方向にN画素のM×N個の画素から構成することができる。各画素を16ビットで構成する場合には、例えば8ビット分の階調の画像データを最大256枚(8ビット分)積算することができる。なお、このフレームメモリでは、(i,j)の画素に積算される画像データをΣDijで示している(ステップS3)。 【0018】図3(a),(b)において、第1画像の画像信号を取り込んで、画像データ1Dijをフレームメモリ中のΣDijに積算した後、試料ステージ3を移動して第2画像の画像信号の取込みを行い、画像データ2Dijをフレームメモリ中のΣDijに積算する。そして、この試料ステージ3の移動,画像信号の取込み,および画像データの積算の処理を繰り返す。このステップS1,2,3の処理の繰り返しは、試料7の深さ方向について所定の画像データが得られるまで行う(ステップS4)。 【0019】ここで、試料ステージ3の移動量と顕微鏡の焦点深度と関係について、図5を用いて説明する。本発明の積算像は、試料ステージ3のZ方向の移動毎に得られる像を積算することにより求める。この試料ステージ3のZ方向の移動量は、積算像中の画像データに中断部分が生じないように設定する必要がある。 【0020】通常、顕微鏡は顕微鏡の持つ焦点の前後に焦点深度を備え、該焦点深度内について明瞭な像が得られる。図5(b),(c)は異なる焦点位置で求められる第p画像と第q画像の焦点深度範囲を斜線で示しており、この範囲内の像は明瞭な像となる。そこで、試料ステージ3のZ方向の移動量を、隣接する画像の焦点深度範囲が重なるよう定める。これによって、積算像中の明瞭な画像部分を断続することなく連続させることができる。図5(d)は第p画像と隣接する第q画像の積算画像を示しており、また、図5(e)は隣接する画像の重なり状態を模式的示している。 【0021】ステップS1からステップS4によって、試料7について深さ方向の情報を含んだ積算画像データΣDijをフレームメモリ中に格納する。 【0022】次に、ステップS5からステップS8の工程によって、積算画像データの高調波強調の処理を行う。」 (ウ)ここで、図3及び図5は次のものである。 ![]() イ 上記各記載から、以下の事項が把握される。 (ア)段落【0012】の記載から、図1に係る全体構成を有する光学顕微鏡は、引用文献1に係る顕微鏡の画像処理方法を行うものである。 (イ)段落【0002】及び段落【0015】の記載から、引用文献1に係る画像処理方法が、「生体観察等の凹凸がある試料の観察を行う場合」においても用いられ、当該試料が生体であってよいことは明らかである。 ウ よって、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「光学顕微鏡において、長焦点による観察を行うための画像処理方法、及びそれを行う光学顕微鏡であって、 焦点位置の異なる複数の顕微鏡像を積算して積算像を求め、積算像をフーリエ変換して2次元のスペクトルを求め、この求めた2次元スペクトルの高調波成分を強調し、高調波強調した2次元スペクトルをフーリエ逆変換して高調波強調した顕微鏡像を求めることによって、焦点深度を向上させることができ、また、試料全体について鮮明な像を得るものであり、 光学顕微鏡の全体構成は、 光学顕微鏡1、 光学顕微鏡1の顕微鏡像を画像信号として取り出すためのTVカメラ等の撮像手段2、 光軸方向に平坦でなく凹凸を有している生体等の試料7を載置し、光学顕微鏡1に対してX,Y方向およびZ方向に移動する試料ステージ3、 試料ステージ3の移動を制御するための試料ステージ制御手段4、 撮像手段2から入力した画像信号に画像処理を施して表示信号を生成する画像処理手段5、及び 表示手段6からなり、 ここで、画像処理手段5は試料ステージ制御手段4に対してステージ駆動信号を出力し、試料ステージ3の移動と画像信号の取込みとの制御を行うものであり、 当該光学顕微鏡を適用した顕微鏡像の画像処理方法の動作は、 試料ステージ3を光学顕微鏡1の光軸方向(Z方向)に移動し、光学顕微鏡の観察あるいは自動焦点装置によって試料7の最も凸の部位に焦点を合わせ(ステップS1)、 このZ方向位置において、撮像手段2によって光学顕微鏡1の顕微鏡像を撮像し画像信号を取り出し、画像処理手段5中に取り込み(ステップS2)、 ステップS2で求めた画像データをフレームメモリに画素単位で積算し(ステップS3)、 試料ステージ3を移動して第2画像の画像信号の取込みを行い、画像データをフレームメモリ中に積算し、この試料ステージ3の移動,画像信号の取込み,および画像データの積算の処理を繰り返し、このステップS1,2,3の処理の繰り返しは、試料7の深さ方向について所定の画像データが得られるまで行い(ステップS4)、 ここで、試料ステージ3のZ方向の移動量を、隣接する画像の焦点深度範囲が重なるよう定め、これによって、積算像中の明瞭な画像部分を断続することなく連続させることができるものであり、 ステップS1からステップS4によって、試料7について深さ方向の情報を含んだ積算画像データをフレームメモリ中に格納し、 前記積算した画像データの高調波強調の処理を行う、というものである、 画像処理方法、及びそれを行う光学顕微鏡。」 (2)対比 ア 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「光軸方向に平坦でなく凹凸を有している生体等の試料7を載置し、光学顕微鏡1に対してX,Y方向およびZ方向に移動する試料ステージ3」は、本願発明の「生体サンプルを載置するステージ」に相当する。 (イ)一般に、光学顕微鏡は、照明光が照射された試料において散乱された光を結像するものであるから、引用発明において、「TVカメラ等の」「撮像手段2によって光学顕微鏡1の顕微鏡像を撮像」する際には、照明光が照射された試料において散乱された光が、TVカメラ等の撮像手段2において結像しているといえるから、引用発明の当該構成は、本願発明の「照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子を具備」することに相当する。 (ウ)引用発明においては、Z方向に移動する試料ステージ3の各位置について、「画像信号の取込みを行」うとき、試料7の対応する部分に合焦していることは明らかである(前記イcの図3参照)から、 引用発明の、 「光学顕微鏡1の顕微鏡像を画像信号として取り出すためのTVカメラ等の撮像手段2」であって、「試料ステージ3を光学顕微鏡1の光軸方向(Z方向)に移動し、光学顕微鏡の観察あるいは自動焦点装置によって試料7の最も凸の部位に焦点を合わせ(ステップS1)、 このZ方向位置において、撮像手段2によって光学顕微鏡1の顕微鏡像を撮像し画像信号を取り出し、画像処理手段5中に取り込み(ステップS2)、 ステップS2で求めた画像データをフレームメモリに画素単位で積算し(ステップS3)、 試料ステージ3を移動して第2画像の画像信号の取込みを行い、画像データをフレームメモリ中に積算し、この試料ステージ3の移動,画像信号の取込み,および画像データの積算の処理を繰り返」すものと、 本願発明の、 「生体サンプルを載置するステージが連続的に移動する時、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子」 とは、上記(ア)、(イ)も考慮すると、「生体サンプルを載置するステージが移動して複数の各位置で、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子」で一致する。 (エ)本願発明における、「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された第2の合焦位置」とすることは、本願明細書の「また、個々の画像は2つの焦点位置での撮像素子14の二重露光による平均画像であることから、対物レンズを用いた光学系の焦点深度が2つの焦点位置の間隔以上であれば、観察対象の撮像漏れのないZスタックを得ることができる。」(段落【0053】)との記載に照らせば、隣接する焦点位置それぞれの焦点深度範囲が離間しない構成であることは明らかである。 よって、引用発明における各「画像信号の取込み」について「試料ステージ3のZ方向の移動量を、隣接する画像の焦点深度範囲が重なるよう定め」ることと、本願発明の「前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光」することについて「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された第2の合焦位置」とすることは、「前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光」することについて「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度範囲が離間しないように設定された第2の合焦位置」である点で一致する (オ)引用発明の「画像処理方法」「を行う光学顕微鏡」は、本願発明の「画像取得装置」に相当する。 イ 一致点 よって、引用発明と本願発明とは、 「生体サンプルを載置するステージが移動して複数の各位置で、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子を具備し、 第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度範囲が離間しないように設定された第2の合焦位置の画像を得られるように、前記撮像素子は、前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光される 画像取得装置。」 である点で一致する。 ウ 相違点 一方、両者は以下の点で相違する。 《相違点1》 本願発明は、「生体サンプルを載置するステージが連続的に移動する時、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子を具備」するのに対し、引用発明は「生体サンプルを載置するステージが移動して複数の各位置で、照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する撮像素子を具備」するものの、「照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する」のが「ステージが連続的に移動する時」ではない点。 《相違点2》 本願発明においては、「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された第2の合焦位置の平均画像を得られるように、前記撮像素子は、前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光され、前記第1の合焦位置および前記第2の合焦位置で多重露光される」のに対し、引用発明においては、「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度が離間しないように設定された第2の合焦位置の画像を得られるように、前記撮像素子は、前記第1の合焦位置にて露光させた後、前記第2の合焦位置にて露光され」るものの、「第1の合焦位置、および」「第2の合焦位置の平均画像を得られるように」なっているのか明らかでなく、また、「前記第1の合焦位置および前記第2の合焦位置で多重露光される」ものではなく、さらに、「第1の合焦位置および前記第2の合焦位置」が「光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された」ものでもない点。 (3)判断 ア 上記相違点1及び相違点2を併せて検討する。 (ア)引用発明は、「試料ステージ3の移動,画像信号の取込み,および画像データの積算の処理を繰り返」すものであり、「画像データをフレームメモリ中に積算」するものである。 (イ)ところで、複数の画像信号の積算を行う方法としては、引用発明のように個々の画像データを、撮像素子外のメモリ上に積算する方法のほかに、撮像素子に変化しつつ結像される像を蓄積し、当該蓄積された画像を撮像素子から取り出す方法もあり、当該方法によれば、画像の入力と加算が撮像素子自身でなされることにより、装置の構成が簡単となるとともに、高速に処理できることは、例えば、以下の引用文献2ないし引用文献4に記載されているとおり、周知の技術である。 a 引用文献2:特許第3191928号公報 引用文献2には以下の記載がある。 「本実施例においては、合焦点位置制御器6により、焦点位置を所定の距離範囲にわたって連続的に変える。これと同時に撮像素子2の受光部(具体的には固体撮像素子のフォトセンサ部や撮像管の受光面等)に結像される像を蓄積していくように構成されている。 ・・・(中略)・・・ 上記構成の第2実施例によれば次のような作用効果を奏する。すなわち本実施例においては、撮像素子2自身の光エネルギーの積算効果を利用し、連続的に焦点を変えた画像を入力すると同時に蓄積していくようにしている。したがって、画像の入力と加算とが撮像素子2自身で同時に行なわれることになり、構成が非常に簡単化する上、高速に処理できる。また適当な距離範囲にわたって焦点位置を連続的に変えれば良いことから、焦点位置の制御も簡単となる。」(6欄30行?7欄2行) b 引用文献3:特開2009-163155号公報 引用文献3には以下の記載がある。 「【0007】 加算画像を取得する方法として、焦点位置を連続的に変化させると同時に、撮像素子の 受光部に結像される画像を蓄積して行く方法が考えられている。この方法では、撮像素子 自体の光エネルギーの積算効果を利用し、連続的に焦点を変えた画像の入力と加算が撮像 素子で同時に行われることになる。」 c 引用文献4:特開平5-56359号公報 引用文献4には以下の記載がある。 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、固体撮像素子を用いた静止画撮像装置にあっては、多重露光やストロボ露光に際し、次のような欠点があった。従来の固体撮像素子駆動方法(通常のビデオレートでの駆動、露光時間は可変できる)で多重露光を行う場合、外部にメモリを持ちそのメモリ上で固体撮像素子から読出された信号を加算していく方法があるが、この場合、外部に大規模なメモリ回路及びそのコントロール回路が必要になり、コストがかかるし、余分なスペースが必要になるという欠点がある。 【0004】また、ストロボ装置を何回か発光させて1回の露光で多重露光画像を得ることができるが、自然光での多重露光ができないことや、例えば短時間に何回も発光させることが可能な特殊なストロボ装置が必要になることなどの欠点がある。」 (ウ)また、時間的に変化のある撮像対象に対してストロボ照明などで複数回照らすとともに、当該照らされた複数時点の画像を撮像素子で加算して、加算された結果の画像を得ることも、例えば、以下の引用文献4及び引用文献5に記載されているとおり、いわゆる多重露光として周知の撮影方法であって、この方法においても、上記(イ)の、撮像素子に変化しつつ結像される像を蓄積する方法と同様に、撮像素子に結像される各像が蓄積されるから、撮像素子外のメモリを必要とせず、高速に処理できることは明らかである。 a 引用文献4:特開平5-56359号公報 引用文献4には以下の記載がある。 「【0004】また、ストロボ装置を何回か発光させて1回の露光で多重露光画像を得ることができるが、自然光での多重露光ができないことや、例えば短時間に何回も発光させることが可能な特殊なストロボ装置が必要になることなどの欠点がある。」 b 引用文献5:特開平3-216632号公報 引用文献5には以下の記載がある。 「[従来の技術] 銀塩フィルムカメラや電子スチルカメラ.ビデオカメラ等に内蔵され、あるいは外付けされたストロボ装置から、例えば高速で移動する被写体に向け複数回の閃光発光を照射し、この被写体からの反射光をフィルムや撮像素子の同一画面上に結像させるようにした多重撮影装置は、例えば特開昭64-77377号,特開昭59-100670号,特開昭62-104279号,あるいは実公昭53-12108号公報を始めとして数多く提供されている。」(1ページ左欄17行?同ページ右欄6行) (エ)上記(イ)及び(ウ)を踏まえると、引用発明において、装置の構成を簡単なものとし、高速に処理できるように、「画像データをフレームメモリ中に積算」する方法に代えて、画像の入力及び加算(積算)を撮像素子自身で行う方法とし、隣接する各画像の撮像を、ストロボ照明による多重露光によって行うことは、当業者が適宜になし得たことであり、また、上記(ウ)のストロボ照明による多重露光では、照明時点の画像が得られることから、試料ステージ3を移動させつつ多重露光を行い、相違点2に係る「前記第1の合焦位置および前記第2の合焦位置で多重露光される」構成とともに、相違点1に係る、「照明光を照射された前記生体サンプルから得られる散乱光を取得する」のが「ステージが連続的に移動する時」とする構成を備えることは、適宜になされることである。 (オ)そして、本願明細書(特に段落【0046】)の「撮像素子14の全画素の受光部には、2つの焦点位置Z1、Z2それぞれにおける光電変換により得られた電荷が画素毎に足し合わされた状態で蓄積される。すなわち、撮像素子14は2つの焦点位置Z1、Z2で二重露光されることで、2つの焦点位置Z1、Z2の画像が1つの平均画像として合成されることになる。」との記載によれば、本願発明に係る「平均画像」とは、「焦点位置」「それぞれにおける光電変換により得られた電荷が画素毎に足し合わされた状態で蓄積され」た結果によるものであると解されるから、上記(エ)のようにした際にも、本願発明と同様に、複数画像の「平均画像」が得られるものといえる。また、「複数画像」の枚数を2枚とすることは設計事項である。それゆえ、引用発明において、相違点2に係る「第1の合焦位置、および」「第2の合焦位置の平均画像を得られるように」することは、当業者が適宜になしえたことである。 (カ)ところで、引用発明は、「隣接する画像の焦点深度範囲が重なるよう定め、これによって、積算像中の明瞭な画像部分を断続することなく連続させることができるもの」であるところ、当該構成が、本願発明の「第1の合焦位置、および前記第1の合焦位置から前記撮像素子の撮像面に拡大像を結像する光学系の焦点深度の間隔をあけて設定された第2の合焦位置」との構成と同じ作用を意図するものであることは、本願明細書の「対物レンズを用いた光学系の焦点深度が2つの焦点位置の間隔以上であれば、観察対象の撮像漏れのないZスタックを得ることができる。」(段落【0053】)との記載に照らして明らかである。 そして、引用発明における、「隣接する画像の焦点深度範囲が重なるよう定め」るとは、隣接する画像の各焦点深度範囲が、その各範囲端の一点において重なることをも包含することは明らかであり、この際の各画像の合焦位置の間隔と、本願発明に係る「焦点深度の間隔をあけて設定された」間隔とは、実際上同じものと言える。仮にそうでないとしても、引用発明において「積算像中の明瞭な画像部分を断続することなく連続させることができるもの」として、各画像の合焦位置を「焦点深度の間隔をあけて設定された」ものとすることは、当業者が適宜になし得たことである。 イ したがって、引用発明において、相違点1及び2を備えることは、当業者が適宜になし得たことである。 また、本願発明の作用効果についても、引用発明及び前記各周知技術から、当業者が予測し得るものである。 (4)小括 よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-10-05 |
結審通知日 | 2020-10-06 |
審決日 | 2020-10-19 |
出願番号 | 特願2018-76942(P2018-76942) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越河 勉 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 星野 浩一 |
発明の名称 | 画像取得装置、顕微鏡、画像取得方法及び顕微鏡システム |
代理人 | 高橋 満 |
代理人 | 千葉 絢子 |
代理人 | 中村 哲平 |
代理人 | 金山 慎太郎 |
代理人 | 大森 純一 |
代理人 | 折居 章 |
代理人 | 白鹿 智久 |
代理人 | 関根 正好 |
代理人 | 金子 彩子 |