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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H02M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1368867 |
審判番号 | 不服2019-14503 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-30 |
確定日 | 2020-12-22 |
事件の表示 | 特願2018-518894「フライバック電源,インバータ及び電動車両」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日国際公開,WO2017/203666,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2016年5月26日を国際出願日とする出願であって,平成31年4月22日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年6月28日に意見書と手続補正書が提出され,令和1年8月27日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和1年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年8月17日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和2年9月11日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和1年8月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1, 2に係る発明は,以下の引用文献A, B,E,Fに基づいて,本願の請求項3-4に係る発明は,以下の引用文献A-Fに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引 用 文 献 等 一 覧 A.特開平09-19139号公報 B.特開平10-174434号公報 C.特開平07-264853号公報 D.特開2010-284029号公報 E.特開2016-036242号公報 F.特開2011-188738号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1)本願の請求項1,3,4に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 2)本願の請求項1-4に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開昭62-196071号公報 第4 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,令和2年9月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 1次側巻線が互いに直接的に並列に接続された複数のトランスと、 前記複数のトランスの1次側の電流のみをオン/オフするスイッチとを備え、 各トランスの2次側巻線の個数は複数であり、 前記複数の2次側巻線は、前記1次側の基準電位とは異なる基準電位を持つ個別の負荷にそれぞれ電力を供給し、 前記スイッチがオンの時にコアに励磁エネルギーを蓄積し、前記スイッチがオフの時に前記1次側巻線に流れる1次側電流を介して直接的に並列に接続された前記トランスのコア間で前記励磁エネルギーを転送するように前記トランスが構成されることを特徴とする フライバック電源。 【請求項2】 前記複数のトランスの2次側巻線の個数が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載のフライバック電源。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のフライバック電源を備えることを特徴とするインバータ。 【請求項4】 請求項3に記載のインバータを備えることを特徴とする電動車両。」 第5 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について ア 本願の国際出願日前に頒布された,令和2年8月17日付けの当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開昭62-196071号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。) a 「〔産業上の利用分野〕 本発明はパワーデバイス駆動用電源に関し、特に、相互に絶縁された複数の直流電源を使用するパワーデバイス駆動用電源に関する。」(公報第1頁右下欄第4行-同第7行) b 「〔実施例〕 以下、本発明に係るパワーデバイス駆動用電源の一実施例を図面に従って説明する。 第1図は本発明に係るパワーデバイス駆動用電源の一実施例の一部をブロックで示した回路図であり、1は直流電源、2はスイッチングトランジスタ、3はスイッチング制御回路、4は主電源部、5は第1のドライバ電源部、6は第2のドライバ電源部である。 直流電源1はバッテリーまたは整流回路の出力であり、その電圧Eはスイッチングトランジスタ2並びに順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55および65を介して直列に接続された主電源部4における変圧器(主電源用変圧器)T_(4)の1次巻線N_(41)、第1のドライバ電源部5における変圧器(副電源用変圧器)T_(5)の1次巻線N_(51)および第2のドライバ電源部6における変圧器(副電源用変圧器)T_(6)の1次巻線N_(61)にそれぞれ印加されるようになされている。ここで、ドライバ電源部は複数個接続されるもので、例えば、3つのACサーボモータを3相交流で制御する場合には、9つのドライバ電源部が並列に接続されることになる。また、スイッチング制御回路3はパルス幅変調(PWM)によりスイッチングトランジスタ2のオン期間と周期の比(デューティ比)を制御するものであり、このスイッチングトランジスタ2は、例えば、40KHzの周期で駆動されるために動作の速いMOS型のFETが使用されている。 主電源部4における変圧器T_(4)の2次側には2次巻線N_(42)およびN_(43)、並びに制御対象電源用2次巻線N_(44)が設けられており、それぞれの2次巻線に接続された整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサ等により必要な直流電源が得られるようになされている。具体的に、例えば2次巻線N_(42)はインターフェース用に使用されるDC24Vを供給し、2次巻線N_(43)はアナログの差動増幅器に使用されるDC±15Vを供給し、そして、制御対象電源用2次巻線N_(44)は大容量が必要な速度制御回路の主電源として使用されるDC5Vを供給している。この主電源として使用される制御対象電源用2次巻線N_(44)から得られた出力電圧の一部はスイッチング制御回路3に帰還され、該出力電圧を定電圧化するためにスイッチングトランジスタ2の駆動信号を制御するようになされている。 第1のドライバ電源部5における変圧器T_(5)の2次側には2次巻線N_(52)およびN_(53)、並びに調整用巻線N_(54)が設けられており、これらの巻線にはそれぞれ整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサが接続され必要な直流電源が得られるようになされている。具体的に、例えば2次巻線N_(52)およびN_(53)はそれぞれ1つのドライバ用トランジスタに必要なりDC7.5Vおよび-4Vを供給するようになされている。そして、ACサーボモータを三相交流で駆動制御する場合、例えば、l相につき2つのドライバ用トランジスタを使用するために1つのACサーボモータに対して3つのドライバ電源部が必要とされ、3つのACサーボモータを三相交流で駆動制御するためには9つのドライバ電源部が並列に接続されることになる。 また、第1のドライバ電源部5おける変圧器T_(5)の2次側には、前記制御対象用2次巻線N_(44)の出力電圧(例えば、DC5V)と等しくなるような巻線数の調整用巻線N_(54)が設けられている。この調整用巻線N_(54)には整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサが接続され、制御対象用2次巻線N_(44)の出力に結合されている。これにより、第1のドライバ電源部5の2次巻線N_(52)およびN_(53)による出力電圧は定電圧化されることになり、また、これらの2次巻線N_(52)およびN_(53)の負荷が小さい場合には、変圧器T_(5)のエネルギーが調整用巻線N_(54)から制御対象電源用2次巻線N_(44)の出力へ送出されるようになされている。 第2のドライバ電源部6は、前記第1の電源部5と全く同じ構成であり、変圧器T_(6)の2次側には2次巻線N_(62)およびN_(63)、並びに調整用巻線N_(64)が設けられ、定電圧化された直流電圧が供給されると共に、2次巻線N_(62)およびN_(63)の負荷が小さい場合には、変圧器T_(6)のエネルギーが調整用巻線N_(64)から制御対象電源用2次巻線N_(44)へ送出されるようになされている。このようなドライバ電源部は第1のドライバ電源部5と第2のドライバ電源部6だけでなく複数のドライバ電源部(例えば、9つ)が並列に接続されるのは前述した通りである。」(公報第2頁右下欄第17行-第4頁左上欄第2行) c 「まず、スイッチング制御回路3の駆動信号によりスイッチングトランジスタ2がオンすると、直流電源1の電圧Eは、順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55および65を介して変圧器T_(4)の1次巻線N_(41)、変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)および変圧器T_(6)の1次巻線N_(6l)にそれぞれ印加される。これにより、変圧器T_(4)の2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44)、変圧器T_(5)の2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)および変圧器T_(6)の2次巻線N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)には、それぞれ・印側に正の電圧が誘起するが個々の巻線における整流用ダイオードは逆方向に挿入されているために導通しない。この状態では出力側への電力供給はないが、変圧器T_(4)、変圧器T_(5)および変圧器T_(6)にエネルギーが蓄積する。 一定期間経過後、スイッチングトランジスタ2がカット・オフすると、変圧器T_(4)、変圧器T_(5)および変圧器T_(6)の極性は反転し、前記2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44)、2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)および2次巻N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)に接続された整流用ダイオードはそれぞれ導通し、変圧器T_(4)、変圧器T_(5)および変圧器T_(6)に蓄積されたエネルギーは平滑用コンデンサ並びにそれぞれの出力側に供給される。そして、変圧器T_(4)の1次巻線N_(41)、変圧器T_(5)の1次巻線N_(5l)および変圧器T_(6)の1次巻線N_(61)には、それぞれ直流電源1に対して順方向(スイッチングトランジスタ2がカットオフしたときに流れる電流に対しては逆方向)に循環電流遮断用ダイオード45、55および65が挿入されているため、変圧器T_(4)、変圧器T_(5)および変圧器T_(6)に蓄積されたエネルギーはそれぞれの1次巻線N_(41)、N_(51)、およびN_(61)を流れることはない。」(公報第4頁右上欄第20行-同右下欄第14行) d 「 」 イ 上記aないしdの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「直流電源1,スイッチングトランジスタ2,スイッチング制御回路3,主電源部4,第1のドライバ電源部5,第2のドライバ電源部6からなる,相互に絶縁された複数の直流電源を使用することができるパワーデバイス駆動用電源において, 直流電源1の電圧Eはスイッチングトランジスタ2並びに順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55及び65を介して直列に接続された主電源部4における変圧器T_(4)の1次巻線N_(41),第1のドライバ電源部5における変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)及び第2のドライバ電源部6における変圧器T_(6)の1次巻線N_(61)にそれぞれ印加されるようになされており, 主電源部4における変圧器T_(4)の2次側には2次巻線N_(42)及びN_(43),並びに制御対象電源用2次巻線N_(44)が設けられ, それぞれの2次巻線に接続された整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサ等により必要な直流電源が得られるようになされており, 第1のドライバ電源部5における変圧器T_(5)の2次側には2次巻線N_(52)及びN_(53),並びに調整用巻線N_(54)が設けられており,これらの巻線にはそれぞれ整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサが接続され必要な直流電源が得られるようになされており, 第2のドライバ電源部6における変圧器T_(6)の2次側には2次巻線N_(62)及びN_(63),並びに調整用巻線N_(64)が設けられており,これらの巻線にはそれぞれ整流用ダイオードおよび平滑用コンデンサが接続され必要な直流電源が得られるようになされているものであって, スイッチング制御回路3の駆動信号によりスイッチングトランジスタ2がオンすると,直流電源1の電圧Eが,順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55及び65を介して変圧器T_(4)の1次巻線N_(41),変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)及び変圧器T_(6)の1次巻線N_(6l)にそれぞれ印加され,変圧器T_(4)の2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44),変圧器T_(5)の2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)及び変圧器T_(6)の2次巻線N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)には,それぞれ正の電圧が誘起されるが個々の巻線に整流用ダイオードが逆方向に挿入されているために導通せず,この状態では出力側への電力供給はされず,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)にエネルギーが蓄積され, 一定期間経過後に,スイッチングトランジスタ2がカット・オフすると,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)の極性が反転し,前記2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44),2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)及び2次巻N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)に接続された整流用ダイオードはそれぞれ導通し,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)に蓄積されたエネルギーは平滑用コンデンサ並びにそれぞれの出力側に供給される, パワーデバイス駆動用電源。」 2 原査定における引用文献Aについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(特開平09-19139号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図2 」 b 図2によれば,1次側の巻線が互いに並列に接続された複数のトランスA,B,Cからなるフライバック電源において,トランスA,B,Cの2次側の巻線は単一のものであることが看取できる。 3 原査定における引用文献Bについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献B(特開平10-174434号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図1 」 b 図1によれば,フライバック変圧器14は,単一の一次巻線16に対して,複数の2次側出力を得るために複数の二次巻線18,20を備えていることが看取できる。 4 原査定における引用文献Cについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献C(特開平07-264853号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図1 」 b 図1によれば,複数のトランスの一次巻線が互いに直列に接続されていることが看取できる。 5 原査定における引用文献Dについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献D(特開2010-284029号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図2 」 b 図2によれば,複数のトランスの一次巻線が互いに直列に接続されていることが看取できる。 6 原査定における引用文献Eについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献E(特開2016-036242号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図1 」 b 図1によれば,単一の1次巻線W1,及び2次巻線W2からなるトランスT1において,フォトカプラ204を介して制御信号が2次側から1次側に伝達されることが看取できる。 7 原査定における引用文献Fについて ア 本願の国際出願日前に頒布された,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献F(特開2011-188738号公報)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。 a 「図9 」 b 図9によれば,単一の1次巻線,及び2次巻線からなる変圧器72において,絶縁要素を介して制御信号が2次側から1次側に伝達されることが看取できる。 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」は,本願発明1の「複数のトランス」に相当する。 また,引用発明の「変圧器T_(4)の1次巻線」,「変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)」及び「変圧器T_(6)の1次巻線N_(61)」は,本願発明1の「1次側巻線」に相当する。 そして,引用発明の「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」は,各々が「直流電源1」に「直列に接続され」るものであり,「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」は互いに並列に接続されているものと認められる。 したがって,引用発明の「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」と,本願発明1の「1次側巻線が互いに直接的に並列に接続された複数のトランス」とは,後記の点で相違するものの,“1次側巻線が互いに並列に接続された複数のトランス”の点で共通する。 イ 引用発明の「スイッチングトランジスタ2」は,「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」の1次側に接続されている。また,1次側は,「直流電源1」,「スイッチングトランジスタ2」,「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」から構成されており,「スイッチングトランジスタ2」は,「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」の1次側の電流のみをオン・オフしているものと認められる。 したがって,引用発明の「スイッチングトランジスタ2」は,本願発明1の「複数のトランスの1次側の電流のみをオン/オフするスイッチ」に相当する。 ウ 引用発明の「変圧器T_(4)の2次側」の「2次巻線N_(42)及びN_(43),並びに制御対象電源用2次巻線N_(44」),「変圧器T_(5)の2次側」の「2次巻線N_(52)及びN_(53),並びに調整用巻線N_(54)」,及び「変圧器T_(6)の2次側」の「2次巻線N_(62)及びN_(63),並びに調整用巻線N_(64)」は,本願発明1の「各トランスの2次側巻線の個数は複数であり」,及び「複数の2次側巻線」に相当する。 そして,引用発明は,「相互に絶縁された複数の直流電源を使用することができる」ものであるから,「変圧器T_(4)の2次側」の「2次巻線N_(42)及びN_(43),並びに制御対象電源用2次巻線N_(44」),「変圧器T_(5)の2次側」の「2次巻線N_(52)及びN_(53),並びに調整用巻線N_(54)」は,「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」の一次側の「直流電源1」の基準電位とは異なる基準電位を持つ個別の負荷にそれぞれ電力を供給できるものと認められる。 エ 通常,変圧器にはコアがあり,変圧器の巻線の励磁によるエネルギーはこのコアに蓄積されるものである。 そして,引用発明は「スイッチング制御回路3の駆動信号によりスイッチングトランジスタ2がオンすると,直流電源1の電圧Eが,順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55及び65を介して変圧器T_(4)の1次巻線N_(41),変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)及び変圧器T_(6)の1次巻線N_(6l)にそれぞれ印加され,変圧器T_(4)の2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44),変圧器T_(5)の2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)及び変圧器T_(6)の2次巻線N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)には,それぞれ正の電圧が誘起されるが個々の巻線に整流用ダイオードが逆方向に挿入されているために導通せず,この状態では出力側への電力供給はされず,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)にエネルギーが蓄積され」るものである。 してみると,引用発明の「変圧器T_(4)」,「変圧器T_(5)」,及び「変圧器T_(6)」と,本願発明1の「前記スイッチがオンの時にコアに励磁エネルギーを蓄積し,前記スイッチがオフの時に前記1次側巻線に流れる1次側電流を介して直接的に並列に接続された前記トランスのコア間で前記励磁エネルギーを転送するように前記トランスが構成される」こととは,後記の点で相違するものの,“スイッチがオンの時にコアに励磁エネルギーを蓄積するように前記トランスが構成される”点では共通する。 オ また,引用発明の「パワーデバイス駆動用電源」は,「スイッチング制御回路3の駆動信号によりスイッチングトランジスタ2がオンすると,直流電源1の電圧Eが,順方向の循環電流遮断用ダイオード45,55及び65を介して変圧器T_(4)の1次巻線N_(41),変圧器T_(5)の1次巻線N_(51)及び変圧器T_(6)の1次巻線N_(6l)にそれぞれ印加され,変圧器T_(4)の2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44),変圧器T_(5)の2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)及び変圧器T_(6)の2次巻線N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)には,それぞれ正の電圧が誘起されるが個々の巻線に整流用ダイオードが逆方向に挿入されているために導通せず,この状態では出力側への電力供給はされず,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)にエネルギーが蓄積され,一定期間経過後に,スイッチングトランジスタ2がカット・オフすると,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)の極性が反転し,前記2次巻線N_(42)とN_(43)並びに制御対象電源用2次巻線N_(44),2次巻線N_(52)とN_(53)並びに調整用巻線N_(54)および2次巻N_(62)とN_(63)並びに調整用巻線N_(64)に接続された整流用ダイオードはそれぞれ導通し,変圧器T_(4),変圧器T_(5)及び変圧器T_(6)に蓄積されたエネルギーは平滑用コンデンサ並びにそれぞれの出力側に供給される」ものであり,フライバック型の電源と認められることから,引用発明の「パワーデバイス駆動用電源」は,本願発明1の「フライバック電源」に相当する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。 〈一致点〉 「1次側巻線が互いに並列に接続された複数のトランスと, 前記複数のトランスの1次側の電流のみをオン/オフするスイッチとを備え, 各トランスの2次側巻線の個数は複数であり, 前記複数の2次側巻線は,前記1次側の基準電位とは異なる基準電位を持つ個別の負荷にそれぞれ電力を供給し, 前記スイッチがオンの時にコアに励磁エネルギーを蓄積するように前記トランスが構成されるフライバック電源。」 〈相違点〉 「複数のトランス」が,本願発明1では「1次側巻線が互いに直接的に並列に接続され」,また,「前記スイッチがオフの時に前記1次側巻線に流れる1次側電流を介して直接的に並列に接続された前記トランスのコア間で前記励磁エネルギーを転送するように」「構成され」ているのに対し,引用発明では,「1次巻線N_(41」),「1次巻線N_(51)」,「1次巻線N_(61)」は「循環電流遮断用ダイオード45,55及び65を介して」並列に接続されており,「スイッチングトランジスタ2」がオフの時にコア間で励磁エネルギーを転送しない点。 (2)相違点についての判断 引用発明は「循環電流遮断用ダイオード45,55及び65」を設けることで,上記引用文献1の上記cに「そして、変圧器T_(4)の1次巻線N_(41)、変圧器T_(5)の1次巻線N_(5l)および変圧器T_(6)の1次巻線N_(61)には、それぞれ直流電源1に対して順方向(スイッチングトランジスタ2がカットオフしたときに流れる電流に対しては逆方向)に循環電流遮断用ダイオード45、55および65が挿入されているため、変圧器T_(4)、変圧器T_(5)および変圧器T_(6)に蓄積されたエネルギーはそれぞれの1次巻線N_(41)、N_(51)、およびN_(61)を流れることはない。」と記載される効果を奏するものであって,引用発明において該「循環電流遮断用ダイオード45,55及び65」を取り除いて,1次側巻線を互いに直接的に並列に接続させるに理由が存在しない。 したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第7 原査定について 令和2年9月11日付けの補正により,補正後の請求項1は,「複数のトランス」が,「1次側巻線が互いに直接的に並列に接続され」,また,「前記スイッチがオフの時に前記1次側巻線に流れる1次側電流を介して直接的に並列に接続された前記トランスのコア間で前記励磁エネルギーを転送するように」「構成され」るという構成を有するものとなった。当該構成を「各トランスの2次側巻線の個数は複数」であるものにおいて有することは,原査定における引用文献AないしFには記載されておらず,本願出願日前における周知技術でもないので,本願発明1ないし4は、当業者であっても,原査定における引用文献AないしFに基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第8 当審拒絶理由について 1 特許法第29条第1項3号について 上記「第6 対比・判断」の1 (1)で検討したとおり,令和2年9月11日付けの手続補正により,本願発明1は,「複数のトランス」が,「1次側巻線が互いに直接的に並列に接続され」,また,「前記スイッチがオフの時に前記1次側巻線に流れる1次側電流を介して直接的に並列に接続された前記トランスのコア間で前記励磁エネルギーを転送するように」「構成され」るとの構成(以下,「相違点に係る構成」という。)を有することとなり,本願発明1と引用発明とは相違点に係る構成において相違するから,この拒絶の理由は解消した。 2 特許法第29条第2項について 上記「第6 対比・判断」の1 (2)で検討のとおり,令和2年9月11日付けの手続補正により,本願発明1は,相違点に係る構成を有することとなり,そして,引用発明に基づいて,相違点に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得ることであるとはいえないから,この拒絶の理由は解消した。本願発明2ないし4についても同様である。 第9 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-12-07 |
出願番号 | 特願2018-518894(P2018-518894) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
P 1 8・ 113- WY (H02M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高野 誠治 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
月野 洋一郎 山澤 宏 |
発明の名称 | フライバック電源、インバータ及び電動車両 |
代理人 | 高田 守 |
代理人 | 久野 淑己 |
代理人 | 高橋 英樹 |