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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F
管理番号 1368875
審判番号 不服2018-14946  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2020-12-01 
事件の表示 特願2016-221183「薬剤溶出眼内インプラント」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開,特開2017- 47262〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年(平成22年)5月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年5月18日 米国(US),2009年6月25日 米国(US),2009年11月25日 米国(US),2009年11月25日 米国(US),2009年11月25日 米国(US))を国際出願日とする特願2012-511975号の一部を平成27年5月11日に新たな特許出願とした特願2015-096132号の一部を平成28年11月14日に新たな特許出願としたものであって,以降の手続は次のとおりである。
平成29年 9月 8日付け:拒絶理由通知
平成30年 3月15日 :意見書,手続補正書
平成30年 6月29日付け:拒絶査定
平成30年11月 9日 :審判請求,請求と同時の手続補正書
平成31年 3月29日 :上申書
令和 1年11月28日付け:当審が通知した拒絶理由通知
令和 2年 3月 2日 :意見書,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本願の各請求項に係る発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「薬物送達眼内インプラントであって,
第1の端部と第2の端部を有し,内部空間を画定するように造形される細長いアウターシェルと,
前記アウターシェルの前記第2の端部から延設する保持突起と,
前記内部空間内に配置された少なくとも第1の薬剤と,
前記アウターシェルの前記第1の端部に配置される1つまたは複数のオリフィスと,
前記アウターシェルの前記第1の端部の前記内部空間内に完全に配置される透過性材料であって,前記第1の薬剤と前記1つまたは複数のオリフィスとの間に位置する透過性材料と,
を有し,
前記透過性材料は,前記第1の薬剤に対して透過性であり,それにより前記薬剤を,前記透過性材料を通し,前記オリフィスを介して前記インプラントの外に通過させることができる,
薬物送達眼内インプラント。」

第3 拒絶の理由
令和1年11月28日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由4は,次のとおりのものを含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2003-530964号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2006/0292222号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明等
1 引用文献1の記載
引用文献1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審が付したものである。
「 【0001】
[発明の分野]
本発明は,新規の除放性薬剤送達システムに関し,さらに詳細には多層の薬剤送達装置に関する。」

「 【0027】
本発明の他の目的は,眼球の硝子体内に直接移植されるのに適した眼用装置を提供することにある。本発明によるこのような装置は,有害な局部的および全身性の副作用のおそれなく,眼の治療に適した種々の組成物をその放出を持続制御して投与することができるという著しい効果をもたらすことが判明している。
【0028】
本発明の他の目的は,眼内装置の寸法を可能な限り小さくすると共にその装置内に含まれる薬剤の量を可能な限り多くし,移植物の持続期間を延長することにある。
【0029】
本発明の他の目的は,炎症または後部水晶嚢の混濁を防ぐために眼内レンズに適用することができる眼用送達システムを提供することにある。
【0030】
本発明の他の目的は,硝子体内,網膜下,または強膜上に直接挿入させることができ,その挿入はシステムを注入するかまたはシステムを外科手術によって移植することで実施できるような眼用送達システムを提供することにある。」

「 【0050】
図2は本発明の第二実施例による装置200を示している。装置200は不透過性の内管212,薬剤保持体214,および透過性プラグ216を備えている。好ましくは,装置200は,装置に対して機械的な一体性と寸法安定性を付与し,装置の製造および取扱いを容易にするための不透過性の外層210をさらに付随的に備えているとよい。図2に示されるように。薬剤保持体214は,前述の薬剤保持体114および内管112と同様に,内管212内に配置されている。プラグ216は内管212の一端に配置され,その内管の端部218および220に接合されている。プラグ216は,図2に示されるように,その径方向寸法が内管212の径方向寸法よりも大きくなるように,径方向に沿って延びていてもよいが,本発明の精神と範囲を逸脱しない限り,その径方向寸法が内管の径方向寸法と実質的に同じかまたはそれよりも小さくなるように,径方向に沿って延びていてもよい。プラグ216は薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質に対して透過性の材料によって形成されているので,作用物質は薬剤保持体からプラグを介して自在に拡散することができる。従って,プラグ216は薬剤保持体214の径方向寸法よりも少なくとも大きい径方向寸法を有している必要があり,この場合,プラグを貫通する唯一の拡散経路230を経て,作用物質は薬剤保持体から外方に拡散する。内管212のプラグ216と反対側の端部は,以下に述べるように,外層210によってのみ閉鎖,すなわち,密封されている。なお,必要に応じて,円板状の不透過性の蓋242が薬剤保持体のプラグ216と反対側の端部に配置されてもよい。蓋242を設ける場合,この蓋242と内管212を別々に形成して,組み合わせてもよいし,単一の一体的な集合構成要素(monolithic element)として形成してもよい。
【0051】
外層(すなわち,外管)210を設ける場合,その外層210は,プラグ216と直接的に隣接して出口224を形成する領域を除いて,内管212,薬剤保持体214,プラグ216,および随意に設けられる蓋242を少なくとも部分的に,好ましくは完全に包囲するように,形成される。好ましくは,出口224は装置の外部とプラグ216を繋ぐ穴,さらに具体的には,片端が閉鎖された内腔であるとよい。外層210は薬剤保持体214内の作用物質に対して不透過性の物質によって形成されるので,プラグ216と反対側の内管212と薬剤保持体214の端部は外層210によって効果的に密封され,薬剤保持体から作用物質が流出する拡散経路は装置のプラグ216の反対側の端部には形成されない。好適な一実施例によれば,出口224は,薬剤保持体214の端部222と反対側のプラグ216の端部238と直接的に隣接して形成される。この場合,プラグ216と出口224に対して,それぞれ,プラグを介する拡散経路230および装置200から外方に至る拡散経路232が形成される。」

「 【図2】




2 引用発明
(1)上記記載事項【0001】および【0027】の記載から,引用文献1には「眼用の薬剤送達装置」が記載されているといえる。
(2)上記記載事項【0051】および【図2】に記載された外層210の形状から,引用文献1には「一方の端と他方の端を有し,内腔を有する細長い外層210」が記載されているといえる。
(3)上記記載事項【0050】および【図2】の記載から,引用文献1には「前記内腔内に配置された薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質」が記載されているといえる。
(4)上記記載事項【0051】および【図2】の記載から,引用文献1には「前記外層210の前記一方の端に配置される1つの出口224」が記載されているといえる。
(5)上記記載事項【0051】および【図2】の記載から,引用文献1には「前記外層210の前記一方の端の前記内腔内に配置される透過性プラグ216であって,前記薬剤保持体214に内蔵されている作用物質と前記1つの出口224との間に位置する透過性プラグ216」が記載されているといえる。
(6)上記記載事項【0050】,【0051】および【図2】の記載から,引用文献1には「透過性プラグ216は,前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質に対して透過性であり,それにより前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質を,前記透過性プラグ216を通し,前記出口224を介して前記眼用の薬剤送達装置の外に通過させることができる」ことが記載されているといえる。
(7)上記(1)?(6)を総合すると,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「眼用の薬剤送達装置であって,
一方の端と他方の端を有し,内腔を有する細長い外層210と,
前記内腔内に配置された薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質と,
前記外層210の前記一方の端に配置される1つの出口224と,
前記外層210の前記一方の端の前記内腔内に配置される透過性プラグ216であって,前記薬剤保持体214に内蔵されている作用物質と前記1つの出口224との間に位置する透過性プラグ216と,
を有し,
前記透過性プラグ216は,前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質に対して透過性であり,それにより前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質を,前記透過性プラグ216を通し,前記出口224を介して前記眼用の薬剤送達装置の外に通過させることができる,
眼用の薬剤送達装置。」(以下「引用発明」という)

第5 対比等
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「眼用の薬剤送達装置」が,その機能・構成からみて,本願発明の「薬物送達眼内インプラント」に相当することは明らかである。以下同様に,「一方の端」が「第1の端部」に,「他方の端」が「第2の端部」に,「内腔を有する細長い外層210」が「内部空間を画定するように造形される細長いアウターシェル」に,「前記内腔内に配置された薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質」が「前記内部空間内に配置された少なくとも第1の薬剤」に,それぞれ相当する。
(2)そして,本願発明の「オリフィス」は,流量測定用の開口部ではなく,単なる開口部を意味するものであるので,引用発明の「1つの出口224」が,本願発明の「1つまたは複数のオリフィス」に相当する。
(3)また,引用発明の「透過性プラグ216」が本願発明の「透過性材料」に相当し,上記(1),(2)を併せると,引用発明の「前記外層210の前記一方の端の前記内腔内に配置される透過性プラグ216であって,前記薬剤保持体214に内蔵されている作用物質と前記1つの出口224との間に位置する透過性プラグ216」が,本願発明の「前記アウターシェルの前記第1の端部の前記内部空間内に完全に配置される透過性材料であって,前記第1の薬剤と前記1つまたは複数のオリフィスとの間に位置する透過性材料」に相当し,以下同様に,「前記透過性プラグ216は,前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質に対して透過性であり,それにより前記薬剤保持体214内に内蔵されている作用物質を,前記透過性プラグ216を通し,前記出口224を介して前記眼用の薬剤送達装置の外に通過させることができる」が「前記透過性材料は,前記第1の薬剤に対して透過性であり,それにより前記薬剤を,前記透過性材料を通し,前記オリフィスを介して前記インプラントの外に通過させることができる」に相当する。

2 一致点
そうすると,両者は,
「薬物送達眼内インプラントであって,
第1の端部と第2の端部を有し,内部空間を画定するように造形される細長いアウターシェルと,
前記内部空間内に配置された少なくとも第1の薬剤と,
前記アウターシェルの前記第1の端部に配置される1つまたは複数のオリフィスと,
前記アウターシェルの前記第1の端部の前記内部空間内に完全に配置される透過性材料であって,前記第1の薬剤と前記1つまたは複数のオリフィスとの間に位置する透過性材料と,
を有し,
前記透過性材料は,前記第1の薬剤に対して透過性であり,それにより前記薬剤を,前記透過性材料を通し,前記オリフィスを介して前記インプラントの外に通過させることができる,
薬物送達眼内インプラント。」の点で一致し,以下の点で相違する。

3 相違点
本願発明は,「アウターシェルの第2の端部から延設する保持突起」を有しているのに対して,引用発明は,そのような保持突起を有していない点。
第6 判断
上記相違点について,判断する。
引用文献1の【0030】に,「本発明の他の目的は,硝子体内,網膜下,または強膜上に直接挿入させることができ,その挿入はシステムを注入するかまたはシステムを外科手術によって移植することで実施できるような眼用送達システムを提供することにある。」と記載されていることから,引用発明の薬物送達装置は,治療部位に直接移植するものであるといえるので,引用発明には,治療部位から送達装置が移動しないように保持するという課題が内在するといえる。
一方、眼用の薬剤送達装置を目の強膜などの治療部位に外科手術によって縫合するために縫合タブを薬剤送達装置に設けることは、本願の優先日前に周知技術(以下、単に「周知技術1」という。)であり(必要であれば、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2の[0045]、[0046]、[0047]、Fig.4等、特表2007-515255号公報の【0016】、図1等参照。)、また、眼用の治療装置を治療部位に外科手術によって固定するために保持突起を治療装置の両端の一方の端部に設けることも本願の優先日前に周知技術(以下、単に「周知技術2」という。)である(必要であれば、特開2009-56324号公報の【0102】-【0140】、図32-42等、特表平11-505159号公報の14頁下から2行目から15頁8行目、17頁16行目から18頁22行目、図1,2,11,13等参照。)。
ここで,引用発明および周知技術1,2は,共に外科手術を介して眼の治療部位に直接配置する眼用の治療装置という技術分野で共通すること,さらに引用発明に内在する前記課題等を併せて鑑みると,引用発明の外層210に周知技術1における縫合タブを取り付けることは、当業者が容易に想到することであり、そして取り付ける際に、その取り付け位置を引用発明の外層210の他の端部とすることは、周知技術2に基いて当業者が容易になし得ることである。
そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,周知技術1,2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明及び周知技術1,2に基いて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-06-15 
結審通知日 2020-06-26 
審決日 2020-07-10 
出願番号 特願2016-221183(P2016-221183)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 一郎石田 宏之  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 林 茂樹
倉橋 紀夫
発明の名称 薬剤溶出眼内インプラント  
代理人 越川 隆夫  

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