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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08G |
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管理番号 | 1368882 |
審判番号 | 不服2019-14578 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-31 |
確定日 | 2020-11-30 |
事件の表示 | 特願2017-186785「表示装置、表示制御装置及び車両」拒絶査定不服審判事件〔平成31年4月18日出願公開、特開2019-61559〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、平成29年9月27日の出願であって、令和元年5月29日付け(発送日:同年6月3日)で拒絶理由が通知され、同年6月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月26日付け(発送日:同年8月2日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年10月31日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 令和元年10月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 令和元年10月31日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本件補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項14について、本件補正前(令和元年6月24日の手続補正書)の請求項15として、 「【請求項15】 車両の運転者に対して、前記車両に関する車両情報を示す画像を前記車両の前景に重畳して提供する表示装置を制御する表示制御装置であって、 前記運転者の負荷を示す情報を取得する取得手段と、 前記取得手段によって取得された情報に基づいて、前記画像の表示態様を制御する制御手段と、 を有し、 前記制御手段は、前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去することを特徴とする表示制御装置。」 とあったものを、 「【請求項14】 車両の運転者に対して、前記車両に関する車両情報を示す画像を前記車両の前景に重畳して提供する表示装置を制御する表示制御装置であって、 前記運転者の負荷を示す情報を取得する取得手段と、 前記取得手段によって取得された情報に基づいて、前記画像の表示態様を制御する制御手段と、 を有し、 前記制御手段は、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去し、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が大きいほど、前記画像と前記車両の前景とが重畳する部分が小さくなるように、前記標準画像の少なくとも一部を消去することを特徴とする表示制御装置。」 と補正することを含むものである(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。) 上記補正は、補正前の請求項15に記載された発明を特定するために必要な事項である「制御手段」が「標準画像の少なくとも一部を消去」することについて、「前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が大きいほど、前記画像と前記車両の前景とが重畳する部分が小さくなるように、前記標準画像の少なくとも一部を消去」するとの限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項15に記載された発明と補正後の請求項14に記載される発明の産業上利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項14に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、検討する。 2 引用文献、引用発明 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2008-26075号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「自動二輪車用ナビゲーションシステム」に関して、図面(特に、図1ないし図4を参照。)と共に次の記載がされている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 ア「【請求項1】 自動二輪車用のナビゲーションシステムであって、 自車位置を測位して前記自動二輪車の、目的地までの進行方向を算出するナビゲーション 装置と、 前記運転者が装着するヘルメットのバイザー部分に、前記ナビゲーション装置で算出した進行方向を含むナビゲーションに関する情報を表示するバイザー表示装置と、 前記自動二輪車の速度を検出する速度検出装置と、 を有しており、 前記速度検出装置において、一定以上の速度を検出した場合に、前記バイザー表示装置での表示を行わない、または縮小して表示をする表示制御を前記ナビゲーション装置で行う、 ことを特徴とする自動二輪車用ナビゲーションシステム。」 イ「【0001】 本発明は、自動二輪車用のナビゲーションシステムに関する。」 ウ「【課題を解決するための手段】 【0007】 そこで本発明者は上記問題点に鑑み、ヘルメットのバイザーをナビゲーションシステム表示装置として用いると共に、自動二輪車に適した機能を備えた、自動二輪車用のナビゲーションシステムを発明した。 【0008】 請求項1の発明は、自動二輪車用のナビゲーションシステムであって、自車位置を測位して前記自動二輪車の、目的地までの進行方向を算出するナビゲーション装置と、前記運転者が装着するヘルメットのバイザー部分に、前記ナビゲーション装置で算出した進行方向を含むナビゲーションに関する情報を表示するバイザー表示装置と、前記自動二輪車の速度を検出する速度検出装置と、を有しており、前記速度検出装置において、一定以上の速度を検出した場合に、前記バイザー表示装置での表示を行わない、または縮小して表示をする表示制御を前記ナビゲーション装置で行う、自動二輪車用ナビゲーションシステムである。 【0009】 本発明のように構成することで、ナビゲーションに関する情報を、運転者のヘルメットのバイザー部分に表示することが可能となる。バイザー部分にナビゲーションに関する情報の表示を行うことで、自動二輪車においてもナビゲーションの表示を容易にする。また運転者は、バイザー部分を通して道路などを見ているため、所定以上の速度を超過している場合にもその表示を行うのは、安全上、好ましくないので、表示をせず、または表示を縮小してその安全にも配慮されたナビゲーションシステムが可能となる。」 エ「【0024】 請求項10の発明において、前記自動二輪車用ナビゲーションシステムは、更に、前記ヘルメットに、前記自動二輪車の進行方向に対する前記運転者の顔の向きを測定する頭部方向測定装置、を有しており、前記ナビゲーション装置は、前記頭部方向測定装置で測定した顔の向きに応じた表示を前記バイザー表示装置で行う、自動二輪車用ナビゲーションシステムである。 【0025】 このように進行方向に対する顔の向きを測定することが出来る。これによって、顔の向きにあわせて進行方向などの表示を行うことが出来る。 【0026】 請求項11の発明において、前記ナビゲーション装置は、自車の位置を測位し、目的地までの進行方向を算出するナビゲーション部と、前記進行方向を含むナビゲーションに関する情報の表示制御を行う表示制御部と、前記速度検出装置から前記自動二輪車の速度の情報を受け取る速度情報取得部と、を有しており、前記表示制御部は、前記速度情報取得部で取得した速度の情報が、一定の速度以上の場合に前記バイザー表示装置での表示を行わない、または縮小して表示をする表示制御を行う、自動二輪車用ナビゲーションシステムである。」 オ「【発明の効果】 【0030】 本発明を用いることにより、ヘルメットのバイザーをナビゲーションシステムの表示装置として用いることが出来る。これにより従来のようにヘッドマウントディスプレイやヘッドアップディスプレイを備えなくても良い。また単なるナビゲーションシステムではなく、自動二輪車に適した機能を備えることによって、より自動二輪車の運転者の利便性に供する。」 カ「【発明を実施するための最良の形態】 【0031】 本発明の自動二輪車用ナビゲーションシステム1の全体の概念図を図1に、ナビゲーション装置2の概念図を図2に示す。 【0032】 自動二輪車用ナビゲーションシステム1は、ナビゲーション装置2とバイザー表示装置3と速度検出装置4と頭部方向測定装置5と振動装置6とを有している。ナビゲーション装置2は、自車位置を検出し、自動二輪車の進行方向に関する情報を、後述するバイザー表示装置3で表示させる。なお各装置は、有線またはは無線で接続されている。 【0033】 バイザー表示装置3は、自動二輪車の運転者が装着するヘルメットのバイザー部分に、いわゆる電子ペーパーのような、透過性のある薄膜の液晶や有機ELなどからなる表示装置22を貼付したり、あるいはバイザーそのものを上記素材で構成する。例えば、液晶とポリマーの複合膜からなる液晶を用いることが出来る。このような電子ペーパーについては、その一例が下記ホームページに詳述されている(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0713/fujitsu.htm)(http://www.nhk.or.jp/strl/open2002/tenji/id28/28index.html)。 【0034】 速度検出装置4は、自動二輪車の速度を検出する装置であり、例えば速度センサーを用いたり、加速度センサーを用いて加速度の情報を取得して、それを時間積分することにより速度を算出しても良い。またその他の方法により速度を検出しても良い。 【0035】 頭部方向測定装置5は、自動二輪車の運転者の頭部(顔の向き)がどちらの方向を見ているかを測定する装置であって、好適にはヘルメットに取り付けられた小型ジャイロなどにより、その運転者の頭部(顔の向き)の方向(進行方向に対する角度など)を測定する。例えば通常時であれば運転者の頭部は進行方向に対してまっすぐに向いているが、右折時には、頭部は右側に向くので、進行方向に対して右側に向いたことを測定する。また左折時には、頭部は左側に向くので、進行方向に対して左側に向いたことを測定する。」 キ「【0037】 ナビゲーション装置2は、上述のように自車位置を検出し、目的地までの進行方向を運転者に伝える装置であり、ナビゲーション部10と表示制御部11と速度情報取得部12と頭部方向情報取得部13と振動発生指示部14とを有している。これらの各機能はナビゲーション装置2を構成する小型のコンピュータで実現される。ナビゲーション装置2は、バイザー表示装置3で表示を行うほか、自らが表示装置を有しており、そこで表示を行っていても良い。 【0038】 ナビゲーション装置2は、プログラムの演算処理を実行するCPUなどの演算装置20と、情報を記憶するRAMやハードディスクなどの記憶装置21とを少なくとも有している。コンピュータ上で実現する各機能(各手段)は、その処理を実行する手段(プログラムやモジュールなど)が演算装置20に読み込まれることでその処理が実行される。各機能は、記憶装置21に記憶した情報をその処理において使用する場合には、該当する情報を当該記憶装置21から読み出し、読み出した情報を適宜、演算装置20における処理に用いる。当該コンピュータには、演算装置20の処理結果や記憶装置21に記憶する情報をインターネットやLANなどのネットワークを介して送受信する通信装置24、テンキーなどの入力装置23、ディスプレイなどの表示装置22を有していても良い。図3にナビゲーション装置2のハードウェア構成の一例を示す。 【0039】 本発明に於ける各機能(各手段)は、その機能が論理的に区別されているのみであって、物理上あるいは事実上は同一の領域を為していても良い。」 ク「【0040】 ナビゲーション部10は、ナビゲーション装置2の記憶装置21に記憶する地図情報と、自動二輪車に備えられたGPSやジャイロなどによる測位装置(図示せず)の情報とに基づいて、出発地から目的地までの進行方向を算出し、自動二輪車の運転者に対してその進行方向を表示制御部11での表示制御により伝える。 【0041】 表示制御部11は、ナビゲーション部10で算出した進行方向の情報を、バイザー表示装置3で表示する。この際に、後述する速度情報取得部12で速度検出装置4より取得した速度情報が、一定以上の速度の場合にはバイザー表示装置3での表示を行わないことが好ましい。これは運転者はバイザーを通して道路などを見ているためで、一定以上の速度がある場合に表示を行うのは危険だからである。なお、表示を行わない処理のほか、バイザー表示装置3において、その表示を、運転の邪魔にならない程度に小さくして(縮小して)表示する処理としても良い。 【0042】 また表示制御部11は、頭部方向情報取得部13が頭部方向測定装置5より取得した運転者の頭部の方向にあわせて進行方向の表示の制御を行う。例えば図4に示すように、頭部が進行方向に対してまっすぐな場合には、図4(a)のように通常通りの表示を行い、頭部が進行方向に対して右側に向いている場合には、図4(b)のように進行方向に対して右側が中心に来るように表示を行う。更に、頭部が進行方向に対して左側に向いている場合には、図4(c)のように進行方向に対して左側が中心に来るように表示を行う。なお図4のバイザーの表示は、ヘルメットの内部から外部を見た場合、つまり運転者が見た場合と同じ場合を示している。この際にずらす角度は、頭部方向測定装置5で測定した進行方向に対する頭部(顔の向き)の角度を検出できるので、その角度だけ表示をずらせばよい。 【0043】 速度情報取得部12は、速度検出装置4により自動二輪車の速度情報を取得する。 【0044】 頭部方向情報取得部13は、自動二輪車の運転者のヘルメットに備えられた頭部方向測定装置5により、進行方向に対する運転者の頭部(顔の向き)の進行方向に対する方向(角度)の情報を取得する。」 ケ「【0049】 また運転者が装着するヘルメットには、頭部方向測定装置5とバイザー表示装置3とを備える。頭部方向測定装置5は、ジャイロにより運転者の頭部(顔の向き)が進行方向に対してどの向きにあるか、その角度などを測定する装置である。またバイザー表示装置3は、ヘルメットのバイザー部分に、透過性のある薄膜の液晶や有機ELなどによって進行方向などの情報が表示可能となっている。なお顔の向きと進行方向を測定するために、ジャイロの初期値をヘルメットのバイザーの方向にあわせ、その状態から顔が左右に向くことによって、それにつられてヘルメットも左右に動く。そしてヘルメットが左右に動くことによって、ジャイロがその角度を検出できるので、頭部(顔の向き)の角度を測定できる。」 コ「【0052】 また走行中は、常にまたは一定のタイミングごとに、速度検出装置4は自動二輪車の速度を検出し、速度情報をナビゲーション装置2に渡す。速度検出装置4で検出した速度情報は、ナビゲーション装置2の速度情報取得部12で受け取る。 【0053】 また同様に、常にまたは一定のタイミングごとに、頭部方向測定装置5は運転者の頭部(顔の向き)が、進行方向に対してどのような位置関係にあるかを測定し、その方向の情報をナビゲーション装置2に渡す。頭部方向測定装置5で検出した方向(角度)の情報は、ナビゲーション装置2の頭部方向情報取得部13で受け取る。 【0054】 ナビゲーション部10が算出した自動二輪車の進行方向を、表示制御部11はバイザー表示装置3に表示するが、速度情報取得部12において、あらかじめ定められた速度以上になったことを検出すると、表示制御部11はその表示を消す、あるいは小さくする。つまり運転者が運転をしやすいように、バイザーの視界を確保する。この予め定められた速度は、運転者などが任意に設定可能であるが、例えば時速5kmなどとして設定することが出来る。なお、表示制御部11による表示制御として、時速0km 以外、つまり停止状態以外では表示できないように設定していても良い。 【0055】 また頭部方向情報取得部13が頭部方向測定装置5から受け取った、運転者の頭部の方向に基づいて、バイザー表示装置3で表示する進行方向に関する情報を変更する制御を行う。例えば、図4(a)に示すように、頭部が進行方向に対してまっすぐに向いていればそのまま進行方向に関する情報、例えば進行方向の矢印、道路、建物などの情報をそのままバイザー表示装置3で表示させる制御を行う。また頭部が進行方向に対して右側を向いた場合、進行方向に対して右側に存在する道路、建物などの情報と、進行方向を示す矢印(進行方向に対する矢印なので、進行方向がまっすぐの場合には斜め左方向、進行方向が右側の場合にはまっすぐの方向、進行方向が左側の場合には左方向)などを表示する制御を行う(図4(b))。また頭部が進行方向に対して左側を向いた場合、進行方向に対して左側に存在する道路、建物などの情報と、進行方向を示す矢印(進行方向に対する矢印なので、進行方向がまっすぐの場合には斜め右方向、進行方向が左側の場合にはまっすぐの方向、進行方向が右側の場合には右方向)などを表示する制御を行う(図4(c))。」 サ「【0062】 本発明を用いることにより、ヘルメットのバイザーをナビゲーションシステムの表示装置22として用いることが出来る。これにより従来のようにヘッドマウントディスプレイやヘッドアップディスプレイを備えなくても良い。また単なるナビゲーションシステムではなく、自動二輪車に適した機能を備えることによって、より自動二輪車の運転者の利便性に供する。」 シ 上記ア、ウ及びコの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献1記載の「進行方向を含むナビゲーションに関する情報」は「例えば進行方向の矢印、道路、建物などの情報」であり、少なくとも「進行方向の矢印」は「画像」の一種であるといえる。そして、上記ウ、カ及びケの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献1記載のバイザー表示装置3は、「ヘルメットのバイザー部分に、いわゆる電子ペーパーのような、透過性のある薄膜の液晶や有機ELなどからなる表示装置22を貼付したり、あるいはバイザーそのものを上記素材で構成する」ものであることから、進行方向を含むナビゲーションに関する情報を示す画像を、自動二輪車の前景に重畳して、自動二輪車の運転者に対して提供しているものといえる。 ス 上記ク及びコの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献1記載の表示制御部11は、自動二輪車の速度があらかじめ定められた速度以上の場合には、当該あらかじめ定められた速度よりも小さい場合にバイザー表示装置3によって表示される矢印を含む画像を表示しない又は表示を縮小するものであるといえる。 上記記載事項アないしス及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「自動二輪車の運転者に対して、前記自動二輪車の進行方向を含むナビゲーションに関する情報を示す矢印を含む画像を前記自動二輪車の前景に重畳して提供するバイザー表示装置3を制御するナビゲーション装置3であって、 速度情報を取得する速度情報取得部12と、 前記速度情報取得部12によって取得された速度情報が一定以上の速度の場合には、前記画像の表示を行わない又は表示を縮小して表示する制御を行う表示制御部11と、 を有し、 前記表示制御部11は、 前記速度情報取得部12によって取得された速度情報に含まれる速度があらかじめ定められた速度以上の場合に、前記運転者が運転しやすいように、バイザーの視界が確保されるように、前記速度情報の速度があらかじめ定められた速度より小さい場合に前記自動二輪車に重畳して提供される画像の表示を行わない又は表示を縮小する、ナビゲーション装置3。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2017/086380号(以下、「引用文献2」という。)には、「情報表示装置、制御方法、プログラム、及び記憶媒体」に関して、図面(特に、図3及び図5ないし図7を参照。)と共に次の記載がされている。 ア「[0004] 一般に、運転者は通話中には通常よりもヘッドアップディスプレイの表示に集中できないため、運転者の通話時に信号機や交通標識を強調表示した場合、運転者に却って負荷がかかってしまうおそれがある。そこで、本発明は、ハンズフリー通話時における運転者の負荷の低減及び安全性の確保を好適に実現することを主な目的とする。」 イ「[0023] ナビゲーション装置1は、出発地から目的地までの経路案内を行う機能などを有する。ナビゲーション装置1は、例えば、車両に設置される据え置き型のナビゲーション装置、またはPND(Portable Navigation Device)などの携帯端末とすることができる。ナビゲーション装置1は、ハンズフリー通話時には、携帯電話3と通信を行い、携帯電話3による通話に必要な音声データの授受や音声の入出力を行う。 [0024] ヘッドアップディスプレイ2は、運転を補助する情報を表示する画像(「表示用画像」とも呼ぶ。)を生成し、当該表示用画像を運転者の目の位置(アイポイント)から虚像として視認させる。ヘッドアップディスプレイ2には、表示用画像の表示に必要な各種情報がナビゲーション装置1から供給される。ヘッドアップディスプレイ2は、本発明における「情報表示装置」の一例である。」 ウ「[0045] 通信部56は、制御部55の制御に基づき、表示用画像の表示に必要な各種情報をナビゲーション装置1から受信する。例えば、通信部56は、ナビゲーション装置1から案内経路の情報や現在位置の情報などの表示用画像の生成に必要な情報を受信する。また、通信部56は、ハンズフリー通話が開始される旨の情報をナビゲーション装置1又は携帯電話3から受信する。 [0046] 制御部55は、CPU、CPUが実行する制御プログラムやデータなどを記憶するROM、CPUが動作する際のワークメモリとして各種データが逐次読み書きされるRAMなどを有し、ヘッドアップディスプレイ2の全般的な制御を行う。例えば、制御部55は、ナビゲーション装置1から受信した情報に基づき表示用画像を生成し、生成した表示用画像の表示光を荒原4に出射させる。制御部55は、本発明における「検出部」、「表示制御部」、「情報生成部」、「予測部」及びプログラムを実行するコンピュータの一例である。」 エ「[0048] (第1実施形態) 第1実施形態では、ヘッドアップディスプレイ2は、ハンズフリー通話中では、虚像Ivとして表示させる表示用画像が示す情報量を通常時よりも低減させた表示モード(「シンプル表示モード」とも呼ぶ。)を実行する。これにより、通話中での運転負荷を低減すると共に安全性確保を実現する。」 オ「[0055] 図7は、図6の状態からシンプル表示モードに切り替わったときのヘッドアップディスプレイ2の表示例を示す。図7に示すように、シンプル表示モードでは、ヘッドアップディスプレイ2は、第1進行方向情報84以外の情報を非表示にしている。即ち、ヘッドアップディスプレイ2は、シンプル表示モードでは、速度情報81と、施設情報82と、マップ情報83と、第2進行方向情報85とについては、表示優先度が低い情報とみなし、非表示としている。 [0056] 詳しくは、ヘッドアップディスプレイ2は、速度情報81について、一般的にはメータークラスタでも表示されることから、代替が存在する表示優先度が低い情報であるとみなして非表示にする。また、ヘッドアップディスプレイ2は、施設情報82について、目的地までの誘導と直接関連がなく、かつ、目的地までの誘導に関する情報よりも優先度が低い情報であるとみなして非表示にする。さらに、ヘッドアップディスプレイ2は、マップ情報83について、目的地までの誘導に関する情報ではあるが直観的な情報ではなく表示優先度が低いと判断して非表示にする。一方、ヘッドアップディスプレイ2は、第1進行方向情報84については、次に通過する案内地点に関する案内情報であり、当該案内地点での進行方向を直観的に運転者に伝える情報であることから、表示優先度が高いと判断して表示を継続する。なお、ヘッドアップディスプレイ2は、第2進行方向情報85については、直ちに必要な情報には該当しない優先度が低い情報とみなし、原則的に非表示にする。 [0057] 好適には、ヘッドアップディスプレイ2は、次に通過する案内地点と2番目に通過する案内地点との距離が短い場合には、2番目に通過する案内地点に関する第2進行方向情報85も優先度が高いとみなし、シンプル表示モードでも継続して表示してもよい。」 カ 上記イの記載事項、図3の図示内容及び出願時の技術常識からみて、引用文献2記載のヘッドアップディスプレイ2は、表示用画像を車両の前景に重畳して運転者に提供するものであるといえる。 キ 上記ア及びエの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献2記載のハンズフリー通話時は、運転者の負荷を低減する必要がある状況であるから、運転者の負荷が大きい場合であるといえる。 以上を踏まえ、上記記載事項アないしキ及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。 〔引用文献2記載事項〕 「車両の運転者に対して、第1進行方向情報84、第2進行方向情報85、速度情報81、施設情報82及びマップ情報83を含む前記車両のナビゲーションに関する情報を示す表示用画像を前記車両の前景に重畳して提供するヘッドアップディスプレイ2を制御する制御部55において、 運転者の負荷が大きい場合に運転者の負荷を低減すると共に安全性確保を実現するために、前記車両の前景に重畳して提供する通常時の表示用画像のうち表示優先度が低い情報を一部非表示にして、情報量を低減させた表示を行うこと。」 (3)引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2016-7980号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「車両用画像表示装置、車両用画像表示方法」に関して、図面(特に、図10を参照。)と共に次の記載がされている。 ア「【0001】 本発明は、運転席から視認可能な位置に搭載された表示画面に画像を表示する車両用の画像表示装置に関する。」 イ「【0013】 運転負荷検出部11は、運転者の運転負荷を検出するために車速センサーから車両1の走行速度に関する情報を取得し、車両1の走行開始を検出する。尚、本実施例では車両1の走行速度に基づいて、運転者の運転負荷を検出することとしているが、他の情報に基づいて運転負荷を検出しても良い。例えば、アクセルの操作量、ステアリングの操作量、ブレーキの操作量、方向指示器の動作有無や車両周辺の状況(交通信号機の状態や車間距離等)を検出することによって、運転者の運転負荷を検出しても良い。あるいは、運転者の心拍や、脈拍、血圧、運動、視線移動等の運転者の身体に関する情報を検出することによって運転負荷を検出しても良い。もちろん、これら各種情報の検出結果を組み合わせることによって、運転負荷を検出することも可能である。また、単に運転負荷が掛かっているか否かだけでなく、例えば、これらについての検出結果を所定の閾値と比較するなどの方法により、運転者に掛かる運転負荷の程度を検出するようにしても良い。」 ウ「【0044】 E.第1変形例 : 尚、上述した各種の実施例では、車両1の走行が開始されるなどして運転者の運転負荷が増加すると、設定画像20a,220a,320a,420a(以下、設定画像20a等)に表示されていた各種の機能が一斉に使用できなくなるものとして説明した。しかし、運転負荷の程度に応じて、一部の機能を使用できないようにすることもできる。 【0045】 図10には、このような変形例で表示画面20の画像が変更される様子が例示されている。図10(a)は、運転者の運転負荷がほとんど掛かっていない状態であり、図10(b)は運転負荷が少し掛かっている状態、図10(c)は更に運転負荷が増加した状態で、図10(d)は大きな運転負荷が掛かっている状態を表している。 運転者の運転負荷がほとんど掛かっていない状態では、図10(a)に例示したように、「ナビシステム31」、「オーディオ32」、「電話33」、「メール34」、「インターネット35」の全ての機能を使用することができる。 ところが、運転負荷が少し増加すると、運転者にとって操作負担が比較的大きな「ナビシステム31」および「インターネット35」の2つの機能が使用不能となる。これに伴って設定画像20aでは、図10(b)に示したように、ナビシステム31およびインターネット35を表す2つの画像が表示されなくなる。 更に運転負荷が増加すると、こんどは「メール34」の機能が使用できなくなり、これに伴って設定画像20aでは、メール34を表す画像が表示されなくなる(図10(c)参照)。そして、更に運転負荷が増加すると、「オーディオ32」や「電話33」の機能も使用できなくなり、この段階では、図10(d)に示したように、設定画像20aが設定不能画像20bで隠された状態となる。 このような変形例では、運転負荷が軽い間は、一部の機能の使用が制限されるだけなので、運転者の利便性を損なうことがない。また、運転負荷が増加していくと、使用できない機能が次第に多くなり、最終的に全ての機能が使用できなくなる。このため、全ての機能が使えなくなるまでの間に、機能の使用を諦めるように運転者を促すことができるので、運転者がいつまでも操作しようとする事態を防止することが可能となる。」 以上を踏まえ、上記記載事項アないしウ及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献3には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。 〔引用文献3記載事項〕 「車両用の画像表示装置において、運転者の運転負荷の増加に応じて、車両用の画像表示装置の表示画面20に表示される画像が段階的に表示されなくなるように制御すること。」 3 対比・判断 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「自動二輪車」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「車両」に相当し、以下同様に、「運転者」は「運転者」に、「進行方向を含むナビゲーションに関する情報」は「車両情報」に、「矢印を含む画像」及び「画像」は「画像」に、「バイザー表示装置3」は「表示装置」に、「ナビゲーション装置3」は「表示制御装置」に、「表示制御部11」は「制御手段」に、「あらかじめ定められた速度」は「閾値」に、それぞれ相当する。 また、自動二輪車の運転者にとって速度が大きい状況は運転者の負荷が大きい状況であることが当業者の技術常識であるし、本願明細書の段落【0014】においても「運転者Dの負荷を示す情報は、例えば、自動二輪車(車両)1の走行速度を示す情報」が例示されていることを踏まえると、引用発明の「速度情報」及び「速度情報取得部12」は、それぞれ、本件補正発明の「運転者の負荷を示す情報」及び「取得手段」に相当する。 そして、引用発明の「表示制御部11」が「前記速度情報取得部12によって取得された速度情報が一定以上の速度の場合には、前記画像の表示を行わない又は表示を縮小して表示する」ことは、「速度情報」に基づいて、画像の表示態様についての制御を行っているといえるから、本件補正発明の「制御手段」が「前記取得手段によって取得された情報に基づいて、前記画像の表示態様を制御する」ことに相当する。 さらに、引用発明の「前記表示制御部11は、 前記速度情報取得部12によって取得された速度情報に含まれる速度があらかじめ定められた速度以上の場合に、前記運転者が運転しやすいように、バイザーの視界が確保されるように、前記速度情報の速度があらかじめ定められた速度より小さい場合に前記自動二輪車に重畳して提供される画像の表示を行わない又は表示を縮小する」ことに関して、 引用発明の「前記速度情報取得部12によって取得された速度情報に含まれる速度があらかじめ定められた速度以上の場合」は本件補正発明の「前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合」を含むものであるし、引用発明の「運転者が運転しやすいように、バイザーの視界が確保されるように」は本件補正発明の「前記運転者の視野が確保されるように」に相当するものである。また、引用発明の「前記速度情報の速度があらかじめ定められた速度より小さい場合に前記自動二輪車に重畳して提供される画像」は、速度が小さい場合における標準的なの表示画像であるから、本件補正発明の「前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像」に相当する。さらに、引用発明においては「前記速度情報の速度があらかじめ定められた速度より小さい場合に前記自動二輪車に重畳して提供される画像」の「表示を行わない又は表示を縮小する」ように制御されているから、当該「表示を行わない又は表示を縮小する」制御は、当該画像の少なくとも一部を消去しているといえる。 そうすると、引用発明の「前記表示制御部11は、 前記速度情報取得部12によって取得された速度情報に含まれる速度があらかじめ定められた速度以上の場合に、前記運転者が運転しやすいように、バイザーの視界が確保されるように、前記速度情報の速度があらかじめ定められた速度より小さい場合に前記自動二輪車に重畳して提供される画像の表示を行わない又は表示を縮小する」と、 本件補正発明の「前記制御手段は、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去し、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が大きいほど、前記画像と前記車両の前景とが重畳する部分が小さくなるように、前記標準画像の少なくとも一部を消去する」とは、 「前記制御手段は、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去する」という限りにおいて一致する。 そうすると、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。 〔一致点〕 「車両の運転者に対して、前記車両に関する車両情報を示す画像を前記車両の前景に重畳して提供する表示装置を制御する表示制御装置であって、 前記運転者の負荷を示す情報を取得する取得手段と、 前記取得手段によって取得された情報に基づいて、前記画像の表示態様を制御する制御手段と、 を有し、 前記制御手段は、 前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去する、表示制御装置。」 〔相違点〕 「前記制御手段は、前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が閾値よりも大きい場合に、前記運転者の視野が確保されるように、前記運転者の負荷が前記閾値以下である場合に前記車両の前景に重畳して提供すべき標準画像の少なくとも一部を消去する」に関して、 本件補正発明においては、「前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が大きいほど、前記画像と前記車両の前景とが重畳する部分が小さくなるように、前記標準画像の少なくとも一部を消去する」のに対し、引用発明においては、かかる事項を備えていない点。 上記相違点について検討する。 引用文献2記載事項は、 「車両の運転者に対して、第1進行方向情報84、第2進行方向情報85、速度情報81、施設情報82及びマップ情報83を含む前記車両のナビゲーションに関する情報を示す表示用画像を前記車両の前景に重畳して提供するヘッドアップディスプレイ2を制御する制御部55において、 運転者の負荷が大きい場合に運転者の負荷を低減すると共に安全性確保を実現するために、前記車両の前景に重畳して提供する通常時の表示用画像のうち表示優先度が低い情報を一部非表示にして、情報量を低減させた表示を行うこと。」というものである。 本件補正発明と引用文献2記載事項とを対比すると、引用文献2記載事項の「車両」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「車両」に相当し、以下同様に、「運転者」は「運転者」に、「第1進行方向情報84、第2進行方向情報85、速度情報81、施設情報82及びマップ情報83を含む前記車両のナビゲーションに関する情報」は「車両に関する車両情報」に、「表示用画像」は「画像」に、「ヘッドアップディスプレイ2」は「表示装置」に、「制御部55」は「表示制御装置」に、「通常時の表示用画像」は「標準画像」に、それぞれ相当する。 引用文献2記載事項における「前記車両の前景に重畳して提供する通常時の表示用画像のうち表示優先度が低い情報を一部非表示に」することは、本件補正発明の「前記車両の前景に重畳して提供する標準画像の少なくとも一部を消去」することに相当する。 したがって、引用文献2記載事項は、本件補正発明に照らして整理すると、 「車両の運転者に対して、前記車両に関する車両情報を示す画像を前記車両の前景に重畳して提供する表示装置を制御する表示制御装置において、 運転者の負荷が大きい場合に運転者の負荷を低減すると共に安全性確保を実現するために、前記車両の前景に重畳して提供する標準画像のうち一部を消去して、情報量を低減させた表示を行うこと。」といえる。 同様に、引用文献3記載事項は、「車両用の画像表示装置において、運転者の運転負荷の増加に応じて、車両用の画像表示装置の表示画面20に表示される画像が段階的に表示されなくなるように制御すること。」というものである。 本件補正発明と引用文献3記載事項とを対比すると、引用文献3記載事項の「車両」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「車両」に相当し、以下同様に、「画像表示装置」は「表示装置」に、「運転者」は「運転者」に、「運転負荷」は「負荷」に、「表示画面20に表示される画像」は「画像」に、それぞれ相当する。 引用文献3記載事項の「車両用の画像表示装置の表示画面20に表示される画像が段階的に表示されなくなるように制御すること。」における「画像が段階的に表示されなくなるように制御する」ことは、画像を段階的に表示しないように制御する、すなわち、「画像を段階的に消去するように制御する」ことといえる。 よって、引用文献3記載事項は、本件補正発明に照らして整理すると、 「車両の表示装置において、運転者の負荷の増加に応じて、画像を段階的に消去するように制御すること。」といえる。 そして、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項はいずれも、車両の運転者に対して、車両に関する車両情報を示す画像を表示する表示装置の表示制御装置に関して、運転者の負荷を考慮し、運転者の負荷を低減して安全な運転が可能となるように、画像の表示を制御するという共通の作用機能を有するものである。 したがって、引用発明において、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用して、運転者の負荷が大きいほど、段階的に画像の一部を消去して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 なお、審判請求人は、令和元年10月31日の審判請求書において、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし5の開示内容を述べるとともに、以下の主張をしている。 (主張)「引用文献3は、負荷の増加に応じて各種の機能の一部を使用できない(各種の機能を制限する)ことを運転者に伝えるために画像を用いているだけであって、負荷の増加に応じて画像の一部を消去することを意図しているものではありません。また、引用文献3は、画像を車両の前景に重畳して提供するものではなく、表示画面20に表示される画像自体を増減させておらず、表示画面20に表示される設定画像20aと設定不能画像20bとの比率を変更しているだけです。なお、設定画像20aと設定不能画像20bとの比率を変更することをもって画像の一部を消去することが示唆されるとすることは、本願発明に接していなければ到底できることではありません。 したがいまして、引用文献3は、請求項1に係る発明の上述した特徴を開示や示唆するものではありません。 このように、請求項1に係る発明は、当業者といえども、引用文献1乃至3に記載の発明から容易に想到できるものではありませんので、請求項1に係る発明は、引用文献1乃至3に対して進歩性を有しています。 なお、引用文献4及び5は、引用文献1乃至3の不足事項を補完するものではありません。」 (下線は、請求人による。) 以下、上記主張について検討する。 本願明細書の段落【0022】には、「車両情報」を示す「画像」の例として、「第1部分画像IM1は、自動二輪車1の進路に関する情報として「直進」を示し、第2部分画像IM2は、自動二輪車1の走行速度に関する情報として「50km/h」を示し、第3部分画像IM3は、自動二輪車1の走行位置の標識に関する情報として「制限速度60km/h」を示す。また、画像IMSは、その他の車両情報として、自動二輪車1の走行位置の道路に関する情報として「xx道路」を示す第4部分画像IM4、自動二輪車1で再生中の音楽に関する情報として「Track no.1」を示す第5部分画像IM5などを含んでいてもよい。」と記載されていることを考慮すると、本件補正発明における「車両情報を示す画像」には、「自動二輪車1で再生中の音楽に関する情報」を示す画像のような車両における機能に関連した画像も含まれると解される。 一方、引用文献3に記載された車両用画像表示装置においても、各種機能に関連した画像を表示するとともに、運転者の運転負荷の増加に応じて、表示画面に表示される画像を段階的に表示させなくするものであるといえる。 また、引用文献2にも、 「車両の運転者に対して、前記車両に関する車両情報を示す画像を前記車両の前景に重畳して提供する表示装置を制御する表示制御装置において、 運転者の負荷が大きい場合に運転者の負荷を低減すると共に安全性確保を実現するために、前記車両の前景に重畳して提供する標準画像のうち一部を消去して、情報量を低減させた表示を行うこと。」 に相当する事項が記載されている。 そして、上記引用発明と本件補正発明との対比・判断において述べたとおり、引用発明において、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、出願人の上記主張は採用できない。 4 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正(令和元年10月31日にされた手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、令和元年6月24日の手続補正により補正がされた請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項15に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項15に記載された事項により特定される、上記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項15として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 「この出願については、令和元年5月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由1(特許法第29条第2項)について ・請求項 1?14,15,16 ・引用文献等 1?5 (中略) <引用文献等一覧> 1.特開2008-26075号公報 2.国際公開第2017/086380号 3.特開2016-7980号公報 4.特開2008-14783号公報 5.特開平9-304103号公報」 令和元年5月29日付け拒絶理由通知書の概要は、次のとおりである。 「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(進歩性)について ・請求項 17 ・引用文献等 1 ・備考 引用文献1には,進行方向を含むナビゲーションに関する情報(「車両に関する(車両)情報」,請求項1)を示す画像を提供するバイザー表示装置3(「表示装置」,段落0033,0009,0055)を制御するナビゲーション装置2(「表示制御装置」)であって,速度情報取得部12(「取得手段」)と,表示制御部11(「制御手段」)を有するナビゲーション装置2が記載されている(図1,2,4参照)。 引用文献1には,一定以上の速度の場合には,表示を行わない又は表示を縮小して表示することが記載されている(段落0041)。 (中略) ・請求項 3 ・引用文献等 1,2 ・備考 引用文献1に記載のものは,一定以上の速度の場合には,表示を行わないものであるから,「画像の少なくとも一部を消去する」ものであるといえる。 また,一部分だけを非表示とすることは,引用文献2に記載されている(段落[0055],図5)。 ・請求項 4 ・引用文献等 1?3 ・備考 負荷の増加に応じて画像を表示しないようにすることは,引用文献3に記載されている(第1変形例,図10参照)。 (中略) <引用文献等一覧> 1.特開2008-26075号公報 2.国際公開第2017/086380号 3.特開2016-7980号公報 4.特開2008-14783号公報 5.特開平9-304103号公報(周知技術を示す文献)」 3 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-26705号公報)、引用文献2(国際公開第2017/086380号)及び引用文献3(特開2016-7980号公報)並びにその記載事項及び引用発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 4 当審の判断 本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1」で述べたように、本願発明における「制御手段」が「標準画像の少なくとも一部を消去」することについて、「前記取得手段によって取得された情報に含まれる前記運転者の負荷が大きいほど、前記画像と前記車両の前景とが重畳する部分が小さくなるように、前記標準画像の少なくとも一部を消去」との限定を付加したものであるから、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる。 そして、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 まとめ したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-09-29 |
結審通知日 | 2020-10-02 |
審決日 | 2020-10-15 |
出願番号 | 特願2017-186785(P2017-186785) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G08G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 落合 弘之 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
西中村 健一 谷治 和文 |
発明の名称 | 表示装置、表示制御装置及び車両 |
代理人 | 永川 行光 |
代理人 | 鎗田 伸宜 |
代理人 | 大塚 康弘 |
代理人 | 高柳 司郎 |
代理人 | 木村 秀二 |
代理人 | 大塚 康徳 |