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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1368931
審判番号 不服2019-331  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-11 
確定日 2020-01-29 
事件の表示 特願2016-519739「液肥との併用のためのビフェントリンの高融点作物保護剤との合剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日国際公開、WO2015/050968、平成28年12月 1日国内公表、特表2016-537312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年10月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年10月4日(US)米国、2014年3月18日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月27日に意見書および手続補正書が提出され、同年9月6日付けで拒絶査定され、平成31年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和1年6月5日に上申書の提出がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に記載された発明は、平成31年1月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、

「【請求項1】
液肥を含む均一殺虫組成物であって、さらに、
a)ビフェントリン、
b)50℃以上の融点を持つ、ビフェントリンを除く、少なくとも1種のカプセル化されていない作物保護剤、
c)含水ケイ酸アルミニウム・マグネシウム、並びに、
d)スクロースエステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の分散剤、
を含み、
前記組成物は物理的に安定である、均一殺虫組成物。」
というものである(以下「本願発明」という。)。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものと認める。

この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 特表2008-540653号公報
2 特開平5-43401号公報

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明に基いて、本願優先日当時の技術常識を有する当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。

刊行物1 特表2008-540653号公報
刊行物2 特開平5-43401号公報

なお、刊行物2は、本願優先日時点の技術常識を示すものである。

1 引用刊行物の記載
(1)刊行物1:特表2008-540653号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】
a)ピレスロイド;
b)水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;および
c)しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤
を含むことを特徴とする殺虫組成物。
【請求項2】
ピレスロイドが、ビフェントリン、ゼータ-サイパーメトリン、ベータ-サイパーメトリン、サイパーメトリン、デルタメトリン、パーメトリン、ラムダ-サイハロトリン、ガンマ-サイハロトリン、トラロメトリン、サイフルトリンおよびベータ-サイフルトリンからなる群から選ばれる請求項1の組成物。
【請求項3】
ピレスロイドがビフェントリンである請求項2の組成物。
【請求項4】
ピレスロイドが、組成物中のすべての成分の全重量に基づいて1.0重量%から25.0重量%の濃度で存在する請求項1の組成物。
【請求項5】
水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケートが、モンモリロナイトおよびアタパルガイトからなる群から選ばれる請求項1の組成物。
【請求項6】
ホスフェートエステルが、ノニルフェノールホスフェートエステルおよびトリデシルアルコールエトキシル化ホスフェートカリウム塩からなる群から選ばれる請求項1の組成物。
【請求項7】
不凍剤、消泡剤および殺生物剤の少なくとも1つをさらに含む請求項1の組成物。
【請求項8】
分散剤が、組成物中のすべての成分の全重量に基づいて0.02重量%から15重量%の全濃度で存在する請求項1の組成物。
【請求項9】
イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む請求項1の組成物。
【請求項10】
a)ピレスロイド;
b)水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;
c)しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤;および
d)液状肥料
を含むことを特徴とする殺虫肥料組成物。
【請求項11】
液状肥料が、処方物中のすべての成分の全重量に基づいて95.0重量%から99.99重量%の濃度で存在する請求項10の組成物。
【請求項12】
不凍剤、消泡剤および殺生物剤の少なくとも1つをさらに含む請求項10の組成物。
【請求項13】
イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む請求項10の組成物。
【請求項14】
a)15%から25%のビフェントリン;
b)1%から20%の水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;および
c)0.02%から15%のしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤
を含み、すべての%は組成物中のすべての成分の全重量に基づく重量%であることを特徴とする組成物。
【請求項15】
a)0.75%から1.25%のビフェントリン;
b)0.05%から1.0%の水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;
c)0.1%から0.75%のしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤;および
d)95%から99.99%の液状肥料
を含み、すべての%は組成物中のすべての成分の全重量に基づく重量%であることを特徴とする組成物。
【請求項16】
好ましくない虫に冒されかつ植物を含む領域に有効量の請求項10の処方物を適用することを特徴とする好ましくない虫をコントロールしそして該植物に栄養素を与えることを特徴とする方法。
【請求項17】
好ましくない虫に冒されかつ植物を含む領域に有効量の請求項15の処方物を適用することを特徴とする好ましくない虫をコントロールしそして該植物に栄養素を与える方法。
【請求項18】
a)水および少なくとも1つの分散剤を含み、所望により不凍剤、消泡剤および殺生物剤を含む混合物中にピレスロイドを分散し;
b)混合物を含湿粉砕し;そして
c)水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケートを加える
ことを特徴とする組成物を製造する方法。
【請求項19】
d)得られた混合物を液状肥料に加えることをさらに含む請求項18の方法。」

(1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、化学組成物および処方物の領域に関する。特に、本発明は、殺虫液状肥料の製造に使用して好適な殺虫組成物を提供する。」

(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
殺虫剤組成物および液状肥料を含む混合物は、当業者で用いられてきているが、これら混合物の物理的な安定性に関する問題が、適用および有効性に悪い影響を与えている。従来の殺虫剤組成物が液状肥料と組み合わされたとき、両者に組み合わされた成分(界面活性剤、粘度改変剤、湿潤剤)が、混合物の加速された物理的な劣化(相の分離)を生ずる。この物理的な劣化は、植物への適用前に混合タンクで生ずる。しばしば、この問題は見過ごされ、そして肥料および殺虫剤の両者の適用を一定にすることが難しく、両者の有効性を不適切なものにする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、新しい殺虫組成物が、殺虫液状肥料を製造するのに使用されるとき、物理的安定性を顕著に改善することが見いだされた。特に、本発明は、ピレスロイド;水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;およびしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤を含む殺虫組成物に関する。」

(1d)「【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
発明は、ピレスロイド;水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;およびしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤を含む殺虫組成物に関する。1つ以上の分散剤は、組成物中の成分の全重量に基づいて0.02重量%から15重量%の全濃度で存在する。
【0006】
ピレスロイドは、好ましくは、ビフェントリン、ゼータ-サイパーメトリン、ベータ-サイパーメトリン、サイパーメトリン、デルタメトリン、パーメトリン、ラムダ-サイハロトリン、ガンマ-サイハロトリン、トラロメトリン、サイフルトリン、ベータ-サイフルトリン、エスフェンバレレート、フルバリネートおよび天然のピレスルムからなる群から選ばれ、さらに特に、ピレスロイドはビフェントリンである。ピレスロイドは、好ましくは、組成物の全成分の全重量に基づいて1.0重量%から25重量%、さらに特に15重量%から25重量%の濃度で存在する。
【0007】
水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケートは、好ましくは、モンモリロナイトおよびアタパルガイトからなる群から選ばれる。ホスフェートエステル分散剤は、好ましくは、ノニルフェノールホスフェートエステルおよびトリデシルアルコールエトキシル化ホスフェートカリウム塩からなる群から選ばれる。
・・・
【0009】
本発明の他の態様は、ピレスロイド;水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤;および液状肥料を含む組成物である。液状肥料は、好ましくは、液状肥料が、処方物中のすべての成分の全重量に基づいて95.0重量%から99.99重量%の濃度で存在する。組成物は、不凍剤、消泡剤および殺生物剤の少なくとも1つをさらに含む。組成物は、また、イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む。
【0010】
本発明の特に好ましい態様は、15%から25%のビフェントリン;1%から20%の水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;および0.02%から15%のしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤を含み、すべての%は組成物中のすべての成分の全重量に基づく重量%である殺虫組成物である。
【0011】
本発明の他の特に好ましい態様は、0.75%から1.25%のビフェントリン;0.05%から1.0%の水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;0.1%から0.75%のしょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤;および95%から99.99%の液状肥料を含み、すべての%は組成物中のすべての成分の全重量に基づく重量%である殺虫肥料組成物である。」

(1e)「【実施例4】
【0020】
この実施例は、本発明の組成物(組成物D)の製造を説明する。
178.8gの水を、24.0gのプロピレングリコール、28.0gのC_(9)-C_(11)アルキルd-グルコピラノシド(Cincinnati、OHのCognis Corporationから入手したAgnique 9116)、0.80gのポリジメチルシロキサン(Midland、MIのDow Corning Corpから入手したDowCorning AF)および0.40gのイソチアゾドン化合物(Philadelphia、PAのRohm and Haas Coから入手したKathon CG/ICP)と混合し、そして混合物を攪拌した。この混合物に96.0gのビフェントリン(94.60重量%活性成分)を加えた。得られる混合物を9ミクロンより小さく粉砕し、次に72.0gのアタパルジャイト粘土(Iselin、NJのEngelhardから入手したAttaflow FL)を加えて、最終の粘度を改変しそして本発明の組成物が生成した。
【実施例5】
【0021】
この実施例は、本発明に従って製造した組成物に対して行われた安定性の実験を示す。
実施例4の組成物Dの物理的安定性は、組成物を1%の活性成分の割合で10%窒素-34%燐-0%カリウムの液状肥料と混合し、そして500mL/50cmのカラムで混合物の安定性を観察することによってテストされた。組成物Dの安定性は、従来の組成物すなわち1%の活性成分の割合で10-34-0の液状肥料と混合されたビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)と比較された。混合物の相の分離は0分、20分、40分、60分および100分で生じたが、底の層を取りだしそしてカラム中のビフェントリンの残りの量を測定するためにビフェントリンの重量%について分析した。以下は、安定性のテストの結果を示す。
【0022】
時間の経過とともに混合物に残る全ビフェントリンの%は、0分では組成物DおよびビフェントリンECとも100%であるが、20分では組成物Dでは92%、ビフェントリンECでは12%、40分では組成物Dでは93%、ビフェントリンECでは6%になり、60分ではビフェントリンECでは3%になり、そして100分では組成物Dでは96%であるが、ビフェントリンECでは1%であった。」

(2)刊行物2:特開平5-43401号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物2には、次の記載がある。
(2a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、水性懸濁状農薬製剤(以下水性懸濁製剤という。)に関して、原体を微粒子化することによって生物効果を高める研究が多くなされている(特開昭59-29604号公報、特開昭61-63601号公報)。生物効果の点で、乳剤に匹敵する水性懸濁製剤を得るには、原体の作用特性、物理化学的性質によって異なるが、おおむね最大でも平均粒子径を3μm以下に維持することが必要である。しかるにかように微粒子化した水性懸濁製剤が特に高温の保存条件で、粒子成長するケ-スが多く実用上の問題点となっている。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の問題点を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、常温で固体で、かつ水難溶性または水不溶性の農薬活性成分を含有する水性懸濁製剤において、リグニンスルホン酸塩である分散剤と、湿潤性界面活性剤とを含有させることによって本発明を完成させたものである。すなわち本発明は、常温で固体、かつ水難溶性または水不溶性の農薬活性成分の1種もしくは2種以上と、分散剤としてリグニンスルホン酸塩と、湿潤性界面活性剤とを含有することを特徴とする水性懸濁状農薬製剤に関するものである。
【0005】本発明において使用される農薬活性成分とは、常温で固体でかつ水難溶性または水不溶性であり、水に対する溶解度が100ppm程度以下で50℃程度以上の融点をもつものであれば、特に限定されるものではない。配合量は組成物に対して0.5?60重量%の範囲であるが、その目的により単独あるいは2種以上を組みあわせることが可能である。
【0006】本発明の農薬活性成分としては、例えば下記のものが挙げられる。2-タ-シャリ-ブチル-5-(4-タ-シャリ-ブチルベンジルチオ)-4-クロロピリダジン-3(2H)-オン(一般名ピリダベン)、3,6-ビス(2-クロロフェニル)-1,2,4,5-テトラジン(一般名クロフェンテジン)、〔2-メチル(1,1’-ビフェニル)-3-イル〕メチル-3-(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレ-ト(一般名ビフェントリン)。
【0007】この活性粒子の大きさは、3μm以下の微粒子化したものが好ましい。本発明の分散剤として使用されるリグニンスルホン酸塩は、木材から得られるリグニンをスルホン化したもので、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム塩等が用いられ、製剤中に1?5重量%、好ましくは2.5?3.5重量%を含有したものを使用する。」

2 刊行物1に記載された発明について
刊行物1は、殺虫液状肥料の製造に使用して好適な殺虫組成物に関するもので(摘記(1b)参照)、摘記(1e)によれば、特許請求の範囲に記載された発明に対応した(摘記(1a))実施例(実施例4)の発明として、本発明の組成物(組成物D)の製造の説明に関して、「178.8gの水を、24.0gのプロピレングリコール、28.0gのC_(9)-C_(11)アルキルd-グルコピラノシド(Cincinnati、OHのCognis Corporationから入手したAgnique 9116)、0.80gのポリジメチルシロキサン(Midland、MIのDow Corning Corpから入手したDowCorning AF)および0.40gのイソチアゾドン化合物(Philadelphia、PAのRohm and Haas Coから入手したKathon CG/ICP)と混合し、そして混合物を攪拌した。この混合物に96.0gのビフェントリン(94.60重量%活性成分)を加えた。得られる混合物を9ミクロンより小さく粉砕し、次に72.0gのアタパルジャイト粘土(Iselin、NJのEngelhardから入手したAttaflow FL)を加えて、最終の粘度を改変しそして本発明の組成物が生成した」こと、実施例5において、実施例4の組成物Dと「組成物を1%の活性成分の割合で10%窒素-34%燐-0%カリウムの液状肥料と混合」したこと、該混合物の物理的安定性が測定されたことが記載されている。
また、摘記(1e)の実施例5によれば、組成物Dに液状肥料を混合した混合物の相の分離が、従来の液状肥料と混合されたビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)との比較において、小さいことも記載されている。

そうすると、刊行物1には、
「水を、プロピレングリコール、C_(9)-C_(11)アルキルd-グルコピラノシド、ポリジメチルシロキサンおよびイソチアゾドン化合物と混合し、攪拌し、この混合物にビフェントリンを加え、得られる混合物を粉砕し、アタパルジャイト粘土を加えて、最終の粘度を改変し、組成物を生成し、該組成物を1%の活性成分の割合で10%窒素-34%燐-0%カリウムの液状肥料と混合し、該混合物の物理的安定性が測定され、相の分離が、従来の液状肥料と混合されたビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)との比較において小さい、混合物」(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本願発明と刊行物1発明との対比
刊行物1発明の「液状肥料」は、本願発明の「液肥」であり、刊行物1発明は、ビフェントリンというピレスロイド殺虫成分を有する組成物を液状肥料と混合した混合物であるから(摘記(1a)(1d)(1e)参照)、刊行物1発明の「ビフェントリンを加え、」「組成物を生成し、該組成物を1%の活性成分の割合で10%窒素-34%燐-0%カリウムの液状肥料と混合し」た「混合物」は、本願発明の「液肥を含む」「殺虫組成物」に相当する。
また、刊行物1【0003】の殺虫剤組成物および液状肥料を含む混合物の物理的的安定性に関する物理的な劣化(相の分離)の記載(摘記(1c))と、本願明細書【0004】の殺虫組成物と液肥を含む混合物の物理的安定性に関する物理的劣化(相分離)の記載からみて、刊行物1発明の「混合物の物理的安定性が測定され、相の分離が、従来の液状肥料と混合されたビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)との比較において小さい」ことは、本願発明の「均一」「物理的に安定である」ということに相当する。
さらに、刊行物1発明の「アタパルジャイト粘土」は、本願発明の「含水ケイ酸アルミニウム・マグネシウム」に、刊行物1発明の「C_(9)-C_(11)アルキルd-グルコピラノシド」は、本願発明の「スクロースエステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の分散剤」にそれぞれ該当する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、

「液肥を含む均一殺虫組成物であって、さらに、
a)ビフェントリン、
c)含水ケイ酸アルミニウム・マグネシウム、並びに、
d)スクロースエステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、及びリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の分散剤、
を含み、
前記組成物は物理的に安定である、均一殺虫組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:液肥を含む均一殺虫組成物に関して、本願発明では、「b)50℃以上の融点を持つ、ビフェントリンを除く、少なくとも1種のカプセル化されていない作物保護剤」を含むと特定しているのに対して、刊行物1発明においてはそのような特定のない点

(2) 相違点の判断
ア 上記相違点について検討する。
刊行物1には、摘記(1a)に、「【請求項1】
a)ピレスロイド;
b)水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;および
c)しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤
を含むことを特徴とする殺虫組成物。
【請求項2】
ピレスロイドが、ビフェントリン、ゼータ-サイパーメトリン、ベータ-サイパーメトリン、サイパーメトリン、デルタメトリン、パーメトリン、ラムダ-サイハロトリン、ガンマ-サイハロトリン、トラロメトリン、サイフルトリンおよびベータ-サイフルトリンからなる群から選ばれる請求項1の組成物。
【請求項3】
ピレスロイドがビフェントリンである請求項2の組成物。
・・・
【請求項5】
水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケートが、モンモリロナイトおよびアタパルガイトからなる群から選ばれる請求項1の組成物。
・・・
【請求項7】
不凍剤、消泡剤および殺生物剤の少なくとも1つをさらに含む請求項1の組成物。
・・・
【請求項9】
イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む請求項1の組成物。
【請求項10】
a)ピレスロイド;
b)水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート;
c)しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤;および
d)液状肥料
を含むことを特徴とする殺虫肥料組成物。
【請求項11】
液状肥料が、処方物中のすべての成分の全重量に基づいて95.0重量%から99.99重量%の濃度で存在する請求項10の組成物。
【請求項12】
不凍剤、消泡剤および殺生物剤の少なくとも1つをさらに含む請求項10の組成物。
【請求項13】
イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む請求項10の組成物。」(下線は当審にて追加。以下同様)と記載され、ピレスロイド、水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート、しょ糖エステル、リグノスルホネート、アルキルポリグリコシド、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびホスフェートエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの分散剤、および液状肥料を含む殺虫肥料組成物において、イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルからなる群から選ばれる1つ以上の追加の殺虫剤を殺虫に有効な量でさらに含む発明が記載され、摘記(1d)にも、同様の液状肥料を含む殺虫肥料組成物における追加の殺虫剤に関する記載があり、刊行物1発明と活性成分が異なるだけの同等の態様として記載されている。
また、それらの追加の殺虫剤として上げられているイミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルはいずれも、50℃以上の融点を持つものであるし(イミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピルの融点は、それぞれ、144℃、157.5℃、91.61℃、139.1℃、107.5℃、82.0℃、136℃、176.8℃、100-101℃である。)、刊行物2摘記(2a)には、「常温で固体、かつ水難溶性または水不溶性の農薬活性成分の1種もしくは2種以上と、分散剤としてリグニンスルホン酸塩と、湿潤性界面活性剤とを含有することを特徴とする水性懸濁状農薬製剤に関するものである。・・・
農薬活性成分とは、常温で固体でかつ水難溶性または水不溶性であり、水に対する溶解度が100ppm程度以下で50℃程度以上の融点をもつものであれば、特に限定されるものではない。配合量は組成物に対して0.5?60重量%の範囲であるが、その目的により単独あるいは2種以上を組みあわせることが可能である。
【0006】本発明の農薬活性成分としては、例えば下記のものが挙げられる。2-タ-シャリ-ブチル-5-(4-タ-シャリ-ブチルベンジルチオ)-4-クロロピリダジン-3(2H)-オン(一般名ピリダベン)、3,6-ビス(2-クロロフェニル)-1,2,4,5-テトラジン(一般名クロフェンテジン)、〔2-メチル(1,1’-ビフェニル)-3-イル〕メチル-3-(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレ-ト(一般名ビフェントリン)」(ピリダベン、クロフェンテジン、ビフェントリンの融点は、それぞれ、110℃、183℃、71℃である。)と記載されるように、水性懸濁状農薬製剤として、活性成分として、ビフェントリンを含めて50℃程度以上の融点をもつものを選択することは通常行われていることである。
そして、それらの50℃程度以上の融点をもつ常温で固体の殺中成分はカプセル化されておらず、本願発明のカプセル化されていない殺虫剤や殺菌剤を広く概念として含む作物保護剤(本願明細書【0006】【0007】【0008】参照)に該当することは明らかである。

したがって、刊行物1発明において、ビフェントリンに加えて、刊行物1において発明として記載されている追加の殺虫剤を添加し、その殺虫剤として、例示されているイミダクロプリド、フロニカミド、ニシアジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、クロチアナジンおよびクロルフェナピル等の50℃を越える融点をもつものを追加の殺虫剤として選択することは、当然容易に想起できる技術的事項であり、追加の殺虫剤を、「50℃以上の融点を持つ、ビフェントリンを除く、少なくとも1種のカプセル化されていない作物保護剤」と特定することも当業者が容易になし得る技術的事項である。

イ 本願発明の効果について
本願発明の効果について検討する。
本願明細書【0028】【0029】の記載から本願発明の効果は、液肥と混合したものにおいて、ビフェントリン乳剤(EC)や懸濁剤(SC)と比較して、均一で物理的安定性が良いことにあるといえる。
刊行物1摘記(1c)には、「殺虫剤組成物および液状肥料を含む混合物は、当業者で用いられてきているが、これら混合物の物理的な安定性に関する問題が、適用および有効性に悪い影響を与えている。従来の殺虫剤組成物が液状肥料と組み合わされたとき、両者に組み合わされた成分(界面活性剤、粘度改変剤、湿潤剤)が、混合物の加速された物理的な劣化(相の分離)を生ずる。この物理的な劣化は、植物への適用前に混合タンクで生ずる。しばしば、この問題は見過ごされ、そして肥料および殺虫剤の両者の適用を一定にすることが難しく、両者の有効性を不適切なものにする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、新しい殺虫組成物が、殺虫液状肥料を製造するのに使用されるとき、物理的安定性を顕著に改善することが見いだされた。」との本願発明と同一の課題認識と改善認識の記載があり、摘記(1e)には、「【実施例5】
【0021】
この実施例は、本発明に従って製造した組成物に対して行われた安定性の実験を示す。
実施例4の組成物Dの物理的安定性は、組成物を1%の活性成分の割合で10%窒素-34%燐-0%カリウムの液状肥料と混合し、そして500mL/50cmのカラムで混合物の安定性を観察することによってテストされた。組成物Dの安定性は、従来の組成物すなわち1%の活性成分の割合で10-34-0の液状肥料と混合されたビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)と比較された。混合物の相の分離は0分、20分、40分、60分および100分で生じたが、底の層を取りだしそしてカラム中のビフェントリンの残りの量を測定するためにビフェントリンの重量%について分析した。以下は、安定性のテストの結果を示す。
【0022】
時間の経過とともに混合物に残る全ビフェントリンの%は、0分では組成物DおよびビフェントリンECとも100%であるが、20分では組成物Dでは92%、ビフェントリンECでは12%、40分では組成物Dでは93%、ビフェントリンECでは6%になり、60分ではビフェントリンECでは3%になり、そして100分では組成物Dでは96%であるが、ビフェントリンECでは1%であった。」と記載され、ビフェントリンの乳化可能な濃縮物(EC)との対比において、経時的に均一であったという物理的安定性が示されている。
そして、刊行物1には、追加の殺生物剤を含有させる発明の態様が同等のものとして記載されており(摘記(1a))、当然当業者であればそのような態様においても、摘記(1e)で示されるものと同様に一定程度、経時的に均一であったという物理的安定性が示されることは、刊行物1発明及び刊行物1の記載事項、技術常識からみて予測できることである。
したがって、上記本願発明の効果を、当業者の予測を超える格別顕著な効果と認めることはできない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は、平成30年8月27付け意見書2?5頁において、ビフェントリンとピラクロストロビンと液肥の混合物が不均一且つ非相溶性となる実験結果を示して、本願発明の実施例2では均一で物理的に安定な組成物が得られたことを指摘し、引用文献1,2の記載からでは、本願発明の構成の組成物が、均一で物理的に安定な組成物であるかどうかを開示も示唆もしていない旨主張している。
しかしながら、上記実験結果は、刊行物1発明のアタパルジャイト(水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート)やアルキルポリグリコシド(分散剤)を含んでいない比較例との対比を行っているにすぎず、上記検討のとおり、刊行物1には、請求項10に相当する実施例5に記載されたビフェントリン、水和されたアルミニウム-マグネシウムシリケート、アルキルポリグリコシド(分散剤)および液状肥料を含む殺虫肥料組成物の発明が記載され、経時的に相の分離が少なく物理的に安定であることが示されており、追加の殺生物剤を含有させる発明の態様が同等のものとして記載されている。そして、ビフェントリンや追加の殺生物剤として例示されているものを含めて活性成分として、50℃程度以上の融点をもつものを選択することは通常であることを考慮すると、本願発明の構成の組成物が、均一で物理的に安定な組成物であることは、刊行物1に示唆されているといえる。
よって、上記請求人の主張は、採用することはできない。

(イ)また請求人は、平成31年1月11付け審判請求書4頁において、刊行物1の実施例5中のイソチアゾドン化合物が防腐剤であることから、追加の殺虫剤は含まれていない旨主張し、上記意見書のとおり、引用文献1,2の存在にかかわらず進歩性がある旨主張している。
しかしながら、すでに検討したとおり、刊行物1発明においては、ビフェントリン以外に、作物保護剤が含まれていることの特定のないことは、本願発明と刊行物1発明の相違点として認定した上で、該相違点を刊行物1記載の技術的事項及び技術常識から判断しており、上記請求人の主張は、前記ア,イの相違点の判断に影響を与えるものではない。

(ウ)さらに請求人は、令和1年6月5日付け上申書2?4頁において、カプセル化されていない作物保護剤をアバメクチン、フオキサストロビン、又はピラクロストロビンとし、リグノスルホン酸塩、アルキルポリグリコシド、リン酸エステル塩、プロピレングリコール、消泡剤、保存料、水を含むことを本願発明にさらに特定した補正案を提示しており、刊行物1に記載された発明と相違している旨主張している。
しかしながら、殺虫剤、殺菌剤を含めた農薬成分として、アバメクチンやストロビルリン系の化合物(フオキサストロビン、ピラクロストロビン等)は周知慣用のものであり(本山 直樹編「農薬学事典」(2001年3月15日)初版、株式会社朝倉書店、5?7頁、表1.1、特表2012-530684号公報【0022】【0024】【0025】【0027】【0028】【0030】、特開2012-158585号公報【0023】【0025】【0026】【0027】【0028】参照)であり、リグノスルホン酸塩、アルキルポリグリコシド、リン酸エステル塩、プロピレングリコール、消泡剤、保存料、水を含むことは、刊行物1発明のすでに構成となっているか、又は刊行物1の摘記(1a)(1d)に示されているものであり、補正案で提示された発明を検討したとしても、当業者であれば刊行物1発明、刊行物1,2に記載された技術的事項及び本願優先日時点の技術常識から当業者が容易になし得るものであるといえる。

したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物1,2に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-28 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-18 
出願番号 特願2016-519739(P2016-519739)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬良 聡機
関 美祝
発明の名称 液肥との併用のためのビフェントリンの高融点作物保護剤との合剤  
代理人 桜田 圭  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  

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