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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1368942
審判番号 不服2019-2186  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-18 
確定日 2020-12-02 
事件の表示 特願2015-556157「水溶性シリコーン材料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日国際公開、WO2014/121030、平成28年 4月28日国内公表、特表2016-512566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月31日(パリ条約による優先権主張:平成25年1月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年1月30日に手続補正書が提出され、同年12月6日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年5月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月9日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成31年2月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成31年2月18日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、請求項1の記載を、以下のとおり、補正前の請求項1から補正後の請求項1にする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

ア 補正前の請求項1
「マクロマーであって、
シロキサン骨格と;
該シロキサン骨格に結合した、重合性官能基を含むグラフトとを含み;
該マクロマーを少なくとも部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含むグラフトを含み、
該マクロマーが、下記式(1)である、マクロマー。
【化1】

[式中、Mは親水性基またはセグメントであり;Lは親水性または疎水性連結であり;Nは親水性もしくは疎水性基または親水性もしくは疎水性セグメントである。Qは重合性官能基であり;xは0または0より大きい整数であり;yは0または0より大きい整数であり;vは0より大きい整数であり;zは0より大きく;該L基が親水性連結である場合、Lは該親水性M基と同じでも異なっていてもよく;Rは独立して、水素、直鎖または分岐鎖C1-C30アルキル基、C1-C30フルオロアルキル基、C1-C20エステル含有基、アルキルエーテル、シクロアルキルエーテル、シクロアルケニルエーテル、アリールエーテル、アリールアルキルエーテル、ポリエーテル含有基、C1-C30アルコキシ基、C3-C30シクロアルキル基、C3-C30シクロアルキルアルキル基、C3-C30シクロアルケニル基、C5-C30アリール基、C5-C30アリールアルキル基、C5-C30ヘテロアリール基、C3-C30複素環式環、C4-C30ヘテロシクロアルキル基、C6-C30ヘテロアリールアルキル基、フッ素、C5-C30フルオロアリール基またはヒドロキシル基である。]」

イ 補正後の請求項1
「マクロマーであって、シロキサン骨格と;該シロキサン骨格に結合した、重合性官能基を含むグラフトとを含み;該マクロマーを少なくとも部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含むグラフトを含み、該マクロマーが、下記式(1)である、マクロマー。

[式中、Mは親水性基または、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリイミド、ポリラクトン、ビニルラクタムのホモポリマー、1種以上のビニル系コモノマーの存在下または非存在下での少なくとも1種のビニルラクタムのコポリマー、アクリルアミドのホモポリマー、メタクリルアミドのホモポリマー、1種以上の親水性ビニル系モノマーとのアクリルアミドのコポリマー、1種以上の親水性ビニル系モノマーとのコポリマーメタクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ-N??Nジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリ-2-エチルオキサゾリン、ヘパリン多糖類、多糖類、またはその2種以上の組み合わせから選ばれる;Lは親水性または疎水性連結であり;Nは親水性もしくは疎水性基または親水性もしくは疎水性セグメントである。Qは重合性官能基であり;xは0または0より大きい整数であり;yは0または0より大きい整数であり;vは0より大きい整数であり;zは0より大きく;該L基が親水性連結である場合、Lは該親水性M基と同じでも異なっていてもよく;Rは独立して、水素、直鎖または分岐鎖C1-C30アルキル基、C1-C30フルオロアルキル基、C1-C20エステル含有基、アルキルエーテル、シクロアルキルエーテル、シクロアルケニルエーテル、アリールエーテル、アリールアルキルエーテル、ポリエーテル含有基、C1-C30アルコキシ基、C3-C30シクロアルキル基、C3-C30シクロアルキルアルキル基、C3-C30シクロアルケニル基、C5-C30アリール基、C5-C30アリールアルキル基、C5-C30ヘテロアリール基、C3-C30複素環式環、C4-C30ヘテロシクロアルキル基、C6-C30ヘテロアリールアルキル基、フッ素、C5-C30フルオロアリール基またはヒドロキシル基である。]」
(当審注:以下、式(1)の構造式及び式中の記号の説明は省略する。)

(2)本件補正の適否についての当審の判断
補正事項1は、請求項1に係る補正前の「M」の「セグメント」の範囲を、国際出願日における国際特許出願の明細書の段落【0060】に基づき、補正後の「ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリイミド、ポリラクトン、ビニルラクタムのホモポリマー、1種以上のビニル系コモノマーの存在下または非存在下での少なくとも1種のビニルラクタムのコポリマー、アクリルアミドのホモポリマー、メタクリルアミドのホモポリマー、1種以上の親水性ビニル系モノマーとのアクリルアミドのコポリマー、1種以上の親水性ビニル系モノマーとのコポリマーメタクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ-N??Nジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリ-2-エチルオキサゾリン、ヘパリン多糖類、多糖類、またはその2種以上の組み合わせ」である、より狭い範囲に限定するものであり、また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)イのとおりのものである。
ここで、上記「1種以上の親水性ビニル系モノマーとのコポリマーメタクリルアミド」は、1種以上の親水性ビニル系モノマーとのメタクリルアミドのコポリマーのことであり、「ポリ-N--Nジメチルアクリルアミド」は、ポリ-N,N-ジメチルアクリルアミドのことであることは当業者に明らかである。

イ 引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において、頒布された引用文献2(特開平11-315142号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】 ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーを含む反応混合物を硬化することにより作成されるシリコーンヒドロゲルポリマーにおいて、前記ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは以下の構造式Iを有し、
【化1】

(構造式I)当該構造式Iにおいて、nは0乃至500、mは0乃至500で(n+m)は10乃至500であり、R^(2)、R^(4)、R^(5)、R^(6)およびR^(7)は独立して1価のアルキルまたはアリール基(この基はさらにアルコール、エステル、アミン、ケトン、カルボン酸またはエーテル基により置換されていてもよい。)であり、R^(1)、R^(3)およびR^(8)は独立して1価のアルキルまたはアリール基(この基はさらにアルコール、エステル、アミン、ケトン、カルボン酸またはエーテル基により置換されていてもよい。)であり、あるいは、R^(1)、R^(3)およびR^(8)少なくとも1個が構造式IIに従うことを条件として、以下の構造式IIの構造を有しており、
【化2】

(構造式II)当該構造式IIにおいて、R^(9)は2価のアルキル基であり、R^(10)およびR^(11)は独立して水素、1価のアルキルまたはアリール基(この基はさらにアルコール、エステル、アミン、ケトン、カルボン酸またはエーテル基により置換されていてもよい。)であり、あるいは、以下の構造式IIIの構造を有しており、
【化3】

(構造式III)当該構造式IIIにおいて、R^(14)は水素あるいはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニル基、アリル基またはN-ビニルラクタム基から成る1価の重合可能な基であり、R^(16)は水素、1価のアルキルまたはアリール基(この基はさらにアルコール、エステル、アミン、ケトン、カルボン酸またはエーテル基により置換されていてもよい。)、あるいは、アクリレート基、メタクリレート基、スチリル基、ビニル基、アリル基またはN-ビニルラクタム基から成る重合可能な基であり、R^(12)、R^(13)およびR^(15)は独立して水素、1価のアルキルまたはアリール基(この基はさらにアルコール、エステル、アミン、ケトン、カルボン酸またはエーテル基により置換されていてもよい。)であり、あるいは前記モノマーにおける構造式IIの基の少なくとも1個が重合可能な基を含むことを条件として、R^(12)およびR^(15)、または、R^(15)およびR^(13)が共に結合して環状構造を形成していてもよいを特徴とするシリコーンヒドロゲルポリマー。」

(イ)「【0020】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの従来技術における試みにもかかわらず、経済的かつ高効率な方法で硬化でき、反応混合物において少量の希釈剤の使用で済み、高い酸素透過性および適当な水分含有量のソフトコンタクトレンズの作成に使用できるシリコーンヒドロゲルが依然として必要とされている。」

(ウ)「【0022】本発明の利点は、上記の新規なシリコーン含有モノマーの使用により、従来技術において開示されるシリコーン含有モノマーにより形成される混合物に比して、当該シリコーン含有モノマーの反応混合物の親水性モノマーに対する相溶性が改善され、比較的多量の親水性モノマー、あるいは、より大きな分子量のシリコーン含有モノマー、あるいは、より少量の希釈剤(例えば、反応混合物によっては希釈剤なし)との反応混合物が形成可能になる。本発明の別の実施形態においては、例えば、ヒドロキシアルキルアミン基単独またはこれと他の親水性基との組み合わせを含む比較的多数の親水性基がヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマー内に組み込まれており、シリコーンヒドロゲルを形成するために使用するモノマー混合物内に親水性モノマーを含むことが実質的に不要となる。この実施形態においては、一般に、希釈剤を必要としない。
【0023】本発明に従って製造されるポリマーはコンタクトレンズの製造に使用でき、このコンタクトレンズは酸素透過性が高く、機械的特性に優れ、経済的かつ高効率で製造可能である。また、本発明のポリマーは生体許容性および高度の酸素透過性を要する生体医療用装置の作成に使用できる。」

(エ)「【0024】
【発明の実施の形態】本明細書において使用する用語「モノマー(monomer )」は重合可能な低分子量化合物(すなわち、典型的に700以下の数平均分子量を有するもの)、および、中分子乃至高分子量化合物またはポリマーを言い、さらに重合可能な官能基を含むマクロモノマー(すなわち、典型的に繰り返し構造単位を有して700よりも大きい数平均分子量を有するもの)を言う場合もある。従って、用語「シリコーン含有モノマー」および「親水性モノマー」はモノマー、マクロモノマーおよびプレポリマーを含むものと解するべきである。なお、このプレポリマーは部分的に重合したモノマーまたはさらに重合可能なモノマーである。
【0025】上記の「重合可能な基」とは、ラジカル重合開始条件下で重合可能な炭素-炭素の二重結合基を言う。このような重合可能な基としては、アクリレート基、メタクリレート基、スチリル基、ビニル基、アリル基またはN-ビニルラクタム基等があげられる。
【0026】また、「シリコーン含有モノマー」とは、モノマー、マクロマーまたはプレポリマーにおいて少なくとも2個の[-Si-O-]の繰り返し単位を含むものを言う。好ましくは、このシリコーン含有モノマーにおける全ての珪素(Si)およびその結合酸素(O)が、当該シリコーン含有モノマーの全分子量の20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上で存在している。
【0027】上記構造式Iに従う好ましいヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーの実施形態において、R^(2),R^(4),R^(5),R^(6)およびR^(7)はメチル、ベンジル、フェニルおよびエチルから独立して選択され、より好ましくはメチルであり、R^(1)およびR^(8)は共に上記構造式IIに従う窒素含有基であり、さらに、R^(3)はメチル、エチル、フェニルおよびベンジルから選択され、より好ましくはメチルである。また、本発明の好ましいヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは平均して1分子当たりに2個乃至20個の窒素基と、平均して1分子あたりに2個乃至5個の重合可能な基を有している。」

(オ)「【0029】さらに、本発明において有用なヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは、以下の構造式V乃至XIVを含むものとして定められる。
【化11】

(構造式V)あるいは、当該構造式Vのヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーにおいて、1よりも大きなOH/重合可能基またはOH/アクリレート基の平均存在比率を有するように修飾されたものである。
【化12】

(構造式VI)
・・・
【化15】

(構造式IX)
・・・」

(カ)「【0032】上記のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは重合可能な基を有するエポキシ官能性化合物とアミノ官能性基を有するポリシロキサンを反応させることにより形成できる。一般的に、この反応は約50度乃至約130度に加熱して行なわれる。この場合、ヨウ化N-ベンジル-N,N,N-トリエチル-アンモニウムのような開始剤を使用できる。この反応には一般的に3時間乃至20時間を要する。使用可能なエポキシ官能性化合物はグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、エポキシエチルスチレン、ビニルグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテルを含む。一方、使用可能なアミノ官能性ポリシロキサンはアミノプロピルまたはN-エチル-3-アミノプロピル基のようなアミノアルキル基を有するものを含み、これらの基は末端部または側鎖部またはこれらの両方に配置できる。このようなシリコーン含有モノマーのシリコーン部分はポリジメチルシロキサン(PDMS)、並びに、置換または無置換のエチル、プロピル、ベンジルおよびフェニルのようなシリコンに結合する他の1価の基を有するシロキサンから構成できる。さらに、これらのシリコーン部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。上記エポキシ官能性化合物はアミノ官能性シリコーンにおけるN-H基のモル量に対してこれ以下のモル量で使用できるが、過剰モル量のエポキシ官能性化合物の使用が好ましい。なお、この反応しない過剰量部分は最終ポリマーに重合可能であり、あるいは、反応混合物の硬化処理前にヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーから除去することができる。例えば、グリシジルメタクリレートはアセトニトリルによる多数回の抽出操作により除去できる場合が多い。このアミノ官能性シリコーン化合物とグリシジルメタクリレートのようなエステル含有エポキシドを反応させることによりヒドロキシアルキルアミノエステルが得られ、当該エステルが典型的な反応条件下においてエステル交換して種々のOH/重合可能基(OH/エステル基)置換パターンの混合物が得られる。この場合、1分子当たりの重合可能基の平均数は1乃至20の範囲内であり、好ましくは2乃至15であり、さらに好ましくは2乃至6であるが、一般に、このシリコーン含有モノマーの1分子当たりの重合可能基の数が小さすぎると、当該シリコーン含有モノマーの実質的部分が重合しなくなる。逆に、重合可能基の数が大きすぎると、最終のヒドロゲルポリマーが硬くなりすぎる。従って、好ましい重合可能基の濃度範囲は約0.0002モル/g乃至約0.00016モル/gであり、さらに好ましい範囲は約0.0004モル/g乃至約0.001モル/gである。また、ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーの1分子当たりのOH基の平均数が増加すると、一般的に、シリコーンヒドロゲルの水分含有量が増加してDMAのような親水性モノマーとの相溶性が改善されるが、最終のシリコーンヒドロゲルの酸素透過性が低下するために、OH基の数は一般的に重合可能基の数と同等かそれ以上に設定される。すなわち、好ましい1分子当たりのOH基の平均数は1乃至40であり、さらに好ましくは2乃至20である。」

(キ)「【0034】好ましい実施形態において、親水性モノマーが、本発明のシリコーンヒドロゲルを形成するために使用する反応混合物においてヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーに添加される。この親水性モノマーはシリコーンヒドロゲルを作成するために従来技術において使用される任意の既知のモノマーとすることができる。なお、好ましい親水性モノマーはアクリル含有モノマーまたはビニル含有モノマーのいずれかである。このような親水性モノマーはそれ自体で架橋剤として使用できる。なお、用語「ビニル系(vinyl-type)」または「ビニル含有(vinyl-containing)」モノマーはビニル基(-CH=CH_(2))を含むモノマーを言い、一般に反応性が高い。このような親水性のビニル含有モノマーは比較的容易に重合することが知られている。本発明のヒドロゲルに混合可能な親水性のビニル含有モノマーはN-ビニルラクタム(例えば、N-ビニルピロリドン(NVP))、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミドおよびN-ビニルホルムアミドのようなモノマーを含み、NVPが好ましい。
【0035】また、用語「アクリル系」または「アクリル含有」モノマーはアクリル基、すなわち、-CH_(2)=CRCOXを含むモノマーであり、当該アクリル基において、Rは水素(H)またはメチル(CH_(3))およびXは酸素(O)または窒素(N)であり、容易に重合することが知られている。本発明において有用なアクリル系モノマーの例としては、N、N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセロールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸およびアクリル酸が挙げられる。
・・・
【0038】上記の中で、本発明のポリマーを作成するために好ましい親水性モノマーには、N、N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセロールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N-ビニルピロリドン(NVP)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸およびアクリル酸が含まれる。さらに、より好ましい親水性モノマーはDMA、HEMAおよびNVPから選択されるものであり、DMAが最も好ましい。」

(ク)「【0050】以下、本発明の実施例をさらに説明する。各実施例において使用する幾つかの材料を以下のように示す。
「DAROCURE1173」:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン
「DMA」:N,N-ジメチルアクリルアミド
「MBM」:3-メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン
【0051】調整1-ポリシロキサンモノマーの調整
500グラムのα,ω-ビスアミノプロピルポリジメチルシロキサン(5000MW)および68グラムのグリシジルメタクリレートを混合し、100度で10時間加熱攪拌した。生成物を1500mlのアセトニトリルで5回抽出して残留したグリシジルメタクリレートを除去し、残ったアセトニトリルを減圧下に除去して透明なオイル(IR:3441,2962,1944,1725,1638,1612,1412cm-1)を得た。以下、この生成物を「グリシジルメタクリレートおよび5000MWのα,ω-ビスアミノプロピルポリジメチルシロキサンの生成物」またはビス(N,N-ビス-2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピル)アミノプロピルポリジメチルシロキサンと称する。
【0052】実施例1
反応性成分として上記調整1の生成物38.2重量部をMBM28.8重量部、DMA33重量部および1重量部のDAROCUR1173と混合して3-メチル-3-ペンタノールにより希釈して9重量%の希釈剤を含む反応混合物を形成した。この得られた反応混合物は透明で均一な溶液であった。次いで、ポリプロピレンコンタクトレンズ成形型に充填し、これを密閉して蛍光UV光源により30分間にわたり合計3.2J/cm^(2)の紫外光を照射した。その後、成形型を開放してレンズをイソプロパノール中に取り出してから脱イオン水中に移した。
【0053】これらのレンズは透明で引張弾性率が205±12g/mm^(2) で、破断点伸び率が133±37%および平衡含水率が24.2±0.2%であった。なお、引張特性をInstron (商標)モデル1122引張試験機により決定した。また、平衡含水率(EWC)を重量分析法により決定し、以下のように示した。
%EWC=100×(水和レンズの質量-乾燥レンズの質量)/水和レンズの質量
【0054】実施例2-16
実施例1の配合物を用いて反応混合物を作成したが、その配合物および希釈剤の量は表1に示す値である。この結果、全ての反応混合物およびレンズは透明であった。
・・・

・・・
【0056】調整2-第2ポリシロキサンモノマーの調整
2.48グラムの1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン、83.62グラムのオクタメチルシクロテトラシロキサン、13.37グラムの3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、0.1グラムの水酸化カリウムおよび10.0グラムの水を混合して145度に加熱攪拌しながら水およびエタノールを共沸除去した。次いで、この混合物を60度に冷却して0.13グラムの酢酸を加えた。この混合物を1時間攪拌してセライトによりろ過した。さらに、この生成物を145度、約1トールで再蒸発処理した。
【0057】上述のように作成したアミノ官能性ポリシロキサンの流体10グラムを1.33グラムのグリシドールおよび0.729グラムのグリシジルメタクリレートと混合した。この時、適度な発熱が観られた。この混合物を3日間反応させ、この間にこの反応物は極めて粘性を示すようになった。この生成物が側鎖状ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーである。
【0058】実施例17
調整2の生成物2.42グラムを0.29グラムの3-メチル-3-ペンタノールおよび0.027グラムのDarocur1173 と混合した。次いで、この混合物をコンタクトレンズ成形型に入れてこの成形型を紫外光に曝すことによりレンズを形成した。この水和状態のレンズは軟質(soft)で透明であった。
【0059】実施例18
調整2の生成物1.19グラムを0.50グラムのTRIS、0.30グラムのDMAおよび0.027グラムのDarocur1173 と混合した。次いで、この混合物をポリスチレンコンタクトレンズ成形型に入れてこの成形型を紫外光に曝すことによりレンズを形成した。この水和状態のレンズは軟質で透明であった。
【0060】実施例19
調整2の生成物1.21グラムを0.726グラムのDMA、0.484グラムのTRISおよび0.027グラムのDarocur1173 と混合した。次いで、この混合物をコンタクトレンズ成形型に入れてこの成形型を紫外光に曝すことによりレンズを形成した。この水和状態のレンズは軟質で透明であった。
【0061】実施例20
調整2の生成物0.689グラムを0.25グラムのDMA、0.31グラムのTRISおよび0.027グラムのDarocur1173 と混合した。次いで、この混合物をポリスチレンコンタクトレンズ成形型に入れてこの成形型を紫外光に曝すことによりレンズを形成した。この水和状態のレンズは軟質で透明であった。
【0062】実施例1から実施例16についての表1によって、透明な反応混合物を作成するために2倍乃至3倍の3-メチル-3-ペンタノールの添加を必要とする表2に示した比較例に比して、透明な反応混合物およびコンタクトレンズを作成するのにより少量の希釈剤を必要とすることが分かる。さらに、これらの実施例は本発明のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーのコンタクトレンズ作成用反応混合物における相溶性を改善することを示している。
【0063】また、実施例17から実施例20は、親水性モノマーおよび付加的なシリコーン含有モノマーの存在下または非存在下において、本発明の側鎖状ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーが、反応混合物において透明なコンタクトレンズを形成するために使用できることを示している。
【0064】以上、本発明をその特定の実施形態に基づいて説明したが、当該技術分野における通常の熟練者であれば、本明細書に記載の特許請求の範囲内の変更または変形が可能であることが明らかである。」

(ケ)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、上記(ア)の請求項1に着目すると、「ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーを含む反応混合物を硬化することにより作成されるシリコーンヒドロゲルポリマーにおいて、前記ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは、以下の構造式I(当審注:構造式Iは省略)を有するシリコーンヒドロゲルポリマー。」が記載され、上記シリコーン含有モノマーは、平均して1分子当たりに2個乃至20個の窒素含有基と、平均して1分子当たりに2個乃至5個の重合可能な基を含有するものが好ましいことが記載され(上記(エ)の段落【0027】)、具体的なモノマーとして構造式V?XIVが例示されている(上記(オ)の段落【0029】)。
そして、上記(ク)の調整1及び2においては、シリコーン含有モノマーをそれぞれ合成することが記載され、同じく実施例1?20では、上記調整1及び2において合成したシリコーン含有モノマー含む反応混合物を硬化し、シリコーンヒドロゲルであるコンタクトレンズを製造したことが記載されている。ここで、上記調整1で合成された「ビス(N,N-ビス-2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピル)アミノプロピルポリジメチルシロキサン」は構造式Vを有するものであり、調整2で合成したシリコーン含有モノマーは、その原料である1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシランから生成された生成物に、グリシドールとグリシジルメタクリレートを反応させて得られたモノマーであるといえる。
また、上記(オ)で例示された構造式IXのヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは、

で表される構造を有するものであり、上記構造式Vと同様に、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルポリマーを作成することができる、窒素含有基及び重合可能な基を有する構造式Iのヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーの具体例であると理解できるものである。
そして、この構造式IXのヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーを製造することは、引用文献2には直接記載されていないが、当業者であれば、上記(カ)や上記(ク)の段落【0056】の記載を見て製造することができるといえる。

以上からすれば、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。
「硬化することによりシリコーンヒドロゲルポリマーを作成する反応混合物に用いられ、下記の構造式で表される構造を有するヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマー。

」(以下、「引用発明2」という。)

ウ 対比
本願明細書の発明の詳細な説明には、「『マクロマー』は、重合、架橋またはその両方であることができる1種以上の官能基を含むことができる中程度の分子量および高分子量の化合物を指す。」(段落【0043】)及び 「『モノマー』は、重合性である比較的低分子量の化合物を指す。」(段落【0044】)と記載されている。
この上で、引用発明2のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーを見てみると、このモノマーは、その化学構造式からみて、明らかに上記「比較的低分子量」とはいえないから、上記段落【0044】でいう「モノマー」とはいえず、また、重合、架橋できるアクリレート基を有し、シリコーンヒドロゲルモノマーを作成する反応混合物に用いられ、その化学構造式からみて中程度の分子量から高分子量の化合物といえるから、本件補正発明の「マクロマー」に相当する。
そして、引用発明2のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは、ケイ素原子に結合する2つの置換基が異なる3種類のケイ素原子と酸素原子との繰り返し単位を有するマクロマーであって、ケイ素原子と酸素原子との繰り返し単位はシロキサン骨格であるから、引用発明2のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは、本件補正発明の「シロキサン骨格」を含む「マクロマー」に相当する。

また、一般に、ケイ素原子と酸素原子との繰り返し単位であるシロキサン骨格を有する重合体を化学構造式で表記する場合、左右両末端に3つのアルキル基と結合したケイ素原子が明示されたときは、ケイ素原子と酸素原子との結合に着目すると、以下の構造式A?C(a、b、c及びdは繰り返し数を表す。)で表記することができ、いずれの表記であっても同じシロキサン骨格を有する重合体を表している。
構造式A:「Si-(O-Si)_(a)-O-Si」
(右末端のケイ素原子は酸素原子を介して繰り返し単位(O-Si)と結合し、左末端のケイ素原子は上記繰り返し単位と直接結合する。)
構造式B:「Si-O-(Si-O)_(b)-Si」
(左末端のケイ素原子が酸素原子を介して繰り返し単位(Si-O)と結合し、右末端のケイ素原子は上記繰り返し単位と直接結合する。)
構造式C:「Si-(O-Si)_(c)-O-(Si-O)_(d)-Si」
(左末端のケイ素原子が繰り返し単位(O-Si)と直接結合し、右末端のケイ素原子が繰り返し単位(Si-O)と直接結合し、左側の繰り返し単位(O-Si)と右側の繰り返し単位(Si-O)とが酸素原子を介して結合する。)
このことから、シロキサン骨格のケイ素原子と酸素原子との繰り返し単位のみに着目すると、(O-Si)で表される繰り返し単位と(Si-O)で表される繰り返し単位は同じ繰り返し単位を表しているといえる。

以上を踏まえて、引用発明2と本件補正発明の化学構造式を対比する。
まず、引用発明2の上記主鎖における「Si-」が、ケイ素原子とメチル基(-CH_(3))との結合構造である「Si-CH_(3)」と同義であることは、本願優先日時点の技術常識である。

(ア)本件補正発明の(O-Si)_(x)の繰り返し単位の構造部分について
引用発明2の(O-Si)_(200)のケイ素原子に結合した2つのメチル基は、本件補正発明の(O-Si)_(x)のケイ素原子に結合した2つの「R」のうち「直鎖C1のアルキル基」に相当する。また、本件補正発明における(O-Si)_(x)のxは「0または0より大きい整数」であるから、引用発明2における(O-Si)_(200)の200は、本件補正発明の「x」の範囲と重複一致する。
そうすると、引用発明2における(O-Si)_(200)の繰り返し単位の構造部分は、本件補正発明における(O-Si)_(x)の繰り返し単位の構造部分に相当する。

(イ)本件補正発明の(Si-O)_(v)の繰り返し単位の構造部分について
引用発明2の(Si-O)_(20)のケイ素原子に結合した1つのメチル基は、本件補正発明の(Si-O)_(v)のケイ素原子に結合した「R」のうち「直鎖C1のアルキル基」に相当する。また、同じくケイ素原子に結合した窒素含有基(当審注:具体的な構造式は省略する。)には水酸基(-OH)が存在し、当該水酸基が親水性であることは本願優先日時点の技術常識であるから、引用発明2の(Si-O)_(20)のケイ素原子に結合した窒素含有基は、本件補正発明の「親水性基」である「M」に相当する。そして、本件補正発明における(Si-O)_(v)のvは「0より大きい整数」であるから、引用発明2における(Si-O)_(20)の20は、本件補正発明の「v」の範囲と重複一致する。
そうすると、引用発明2における(Si-O)_(20)の繰り返し単位の構造部分は、本件補正発明における(Si-O)_(v)の繰り返し単位の構造部分に相当する。

(ウ)本件補正発明の(Si-O)_(z)の繰り返し単位の構造部分について
引用発明2の(Si-O)_(5)のケイ素原子に結合した1つのメチル基は、本件補正発明の(Si-O)_(z)のケイ素原子に結合した「R」のうち「直鎖C1のアルキル基」に相当し、本件補正発明における(Si-O)_(z)のzは「0より大き」い数であるから、引用発明2における(Si-O)_(5)の5は、本件補正発明の「z」の範囲と重複一致する。
また、引用発明2の(Si-O)_(5)のケイ素原子に結合した窒素含有基(当審注:具体的な構造式は省略する。)はメタクリレート基を有し、メタクリレート基は重合可能な基であるから(上記イ(エ)の段落【0025】)、本件補正発明の「重合性官能基」である「Q」に相当し、引用発明2の(Si-O)_(5)の上記窒素含有基におけるケイ素原子とメタクリレート基とを連結した部分には水酸基(-OH基)が存在し、当該水酸基が親水性であることは本願優先日時点の技術常識であるから、本件補正発明の「親水性連結」である「L」に相当する。そして、引用発明2の(Si-O)_(5)の上記窒素含有基は、主鎖であるポリシロキサン骨格のケイ素原子に結合したメタクリレート基を有する置換基であって一定程度の鎖長を有する置換基であるから、本件補正発明の「シロキサン骨格に結合した、重合性官能基を含むグラフト」に相当する。
そうすると、引用発明2における(Si-O)_(5)の繰り返し単位の構造部分は、本件補正発明における(Si-O)_(z)の繰り返し単位の構造部分に相当する。

(エ)本件補正発明の左右両末端の構造部分であって、3つのR基と結合したケイ素原子を有する構造部分について
引用発明2のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーにおいて、左右両末端の構造部分は、ケイ素原子に結合した3つのメチル基を有し、これらのメチル基は、本件補正発明の左右両末端のケイ素原子に結合した3つの「R」のうち、「直鎖C1のアルキル基」に相当し、本件補正発明と引用発明2における左右両末端の構造部分は一致するといえる。

以上のことから、本件補正発明と引用発明2は、
「マクロマーであって、
シロキサン骨格と;
該シロキサン骨格に結合した、重合性官能基を含むグラフトとを含み;」
該マクロマーが、(O-Si)_(x)、(Si-O)_(v)及び(Si-O)_(z)の各繰り返し単位の構造部分、並びに、3つのR基と結合したケイ素原子を有する左右両末端の構造部分を有するマクロマーである点で一致し、以下の相違点1?3で一応相違する。

相違点1:本件補正発明の式(1)が

の繰り返し単位の構造部分を有するのに対して、引用発明2の構造式は、上記繰り返し単位の構造部分を有しない点。

相違点2:本件補正発明では、左端から1番目の繰り返し単位と2番目の繰り返し単位が酸素原子を介して結合し、右末端のケイ素原子は繰り返し単位(Si-O)と直接結合しているのに対して、引用発明2では、繰り返し単位同士は酸素原子を介して結合しておらず、右末端のケイ素原子は酸素原子を介して繰り返し単位(O-Si)と結合している点。

相違点3:本件補正発明は「マクロマーを少なくとも部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含むグラフトを含」むのに対して、引用発明2は、ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーを部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含むグラフトを含むか不明である点。

エ 検討
相違点1?3について検討する。
(ア)相違点1について
本件補正発明において、「yは0または0より大きい整数」であって、yは0である場合は、式(1)は上記繰り返し単位の構造部分を有しないことになり、この点で引用発明2と相違せず、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
本件補正発明は、そのシロキサン骨格を見てみると、左末端のケイ素原子が繰り返し単位(O-Si)と直接結合し、右末端のケイ素原子が繰り返し単位(Si-O)と直接結合し、左側の繰り返し単位(O-Si)と右側の繰り返し単位(Si-O)とが酸素原子を介して結合するように表記されているから、上記構造式Cに該当するといえる。
一方、引用発明2は、右末端のケイ素原子は酸素原子を介して繰り返し単位(O-Si)と結合し、左末端のケイ素原子は上記繰り返し単位と直接結合するように表記されているから、上記構造式Aに該当するといえる。
そして、上記ウで述べたように、シロキサン骨格の構造式Aと構造式Cは同じ化学構造を表しているから、相違点2は、単にシロキサン骨格の表記上の違いに過ぎないということができ、実質的な相違点ではない。

(ウ)相違点3について
引用発明2の(O-Si)_(20)のケイ素原子に結合した窒素含有基(当審注:具体的な構造式は省略する。)は、主鎖であるポリシロキサン骨格のケイ素原子に結合する置換基であって一定程度の鎖長を有する置換基であるからグラフトであるということができ、(O-Si)_(20)のケイ素原子に結合した上記窒素含有基にある水酸基は、上記ウ(イ)で述べたように親水性基である。
そして、本件補正発明でいう「部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含む」とは、そのグラフトの存在の程度が明らかとはいえないが、引用文献2には、「本発明の利点は、上記の新規なシリコーン含有モノマーの使用により、従来技術において開示されるシリコーン含有モノマーにより形成される混合物に比して、当該シリコーン含有モノマーの反応混合物の親水性モノマーに対する相溶性が改善され」と記載され(上記(2)イ(ウ))、引用発明2のヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーにより、これを含有する反応混合物と親水性モノマーとの相溶性が改善されるのであるから、引用発明2の(O-Si)_(20)及び(O-Si)_(5)のケイ素原子に結合した上記窒素含有基が有する水酸基により、ヒドロキシアルキルアミン官能性シリコーン含有モノマーは所定の親水性を有するものであると解される。
そうすると、引用発明2の(O-Si)_(20)及び(O-Si)_(5)のケイ素原子に結合した窒素含有基は、本件補正発明の「マクロマーを少なくとも部分的に親水性にするのに十分な濃度の親水性基を含むグラフト」に相当するということができ、相違点3は実質的な相違点であるとはいえない。

このように、相違点1?3は実質的な相違点とはいえず、本件補正発明と引用発明2は同じ発明であるといえる。

オ 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年2月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年5月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の2(1)アに記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし15に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明又は引用文献5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
引用文献2:特開平11-315142号公報
引用文献5:特開2005-350673号公報
なお、拒絶理由通知書及び拒絶査定では、上記引用文献2に記載された構造式IXを「構造式VIII」と記載していたが、これに合わせて、審判請求人は、「引用文献2の構造式VIIIの(O-Si)_(20)の部分は、補正後の本願請求項のMの部分ではありません」(審判請求書の(3-2))と述べ、構造式IXで示された化学構造式を有する引用発明2を認識した上で反論していたことは明らかである。

3 引用文献2に記載された事項及び引用文献2に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明(上記引用発明2)は、前記第2の2(2)イ(ケ)に記載したとおりである。

4 対比及び検討
本願発明は、上記第2の2(1)アのとおりのものであり、本件補正発明における「Mは親水性基または、ポリビニルアルコール(PVA)・・・から選ばれる」を、補正前の「Mは親水性基またはセグメントであり」としたものである。
そして、上記第2の2(2)で述べたように、本件補正発明における「M」が「親水性基」である場合の発明が引用文献2に記載された発明であるから、本願発明も引用文献2に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-25 
結審通知日 2020-06-30 
審決日 2020-07-13 
出願番号 特願2015-556157(P2015-556157)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
近野 光知
発明の名称 水溶性シリコーン材料  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 迫田 恭子  

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