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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1368951
審判番号 不服2019-15359  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-15 
確定日 2020-12-02 
事件の表示 特願2016-527465「リーダー及びRFIDタグを用いた化学及び物理センシング」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日国際公開、WO2015/112213、平成29年 4月 6日国内公表、特表2017-509859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)10月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年10月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月19日付けで拒絶理由が通知され、平成31年4月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年7月8日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、同年11月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
「【請求項1】
センサ部分を有する無線周波数識別タグからの出力を検出することを含む、刺激を検出する方法であって、該センサ部分は、ナノ構造材料を含むセンシング材料を含み、かつ、該センサ部分は、該無線周波数識別タグが該刺激に対し接触する、又は相互作用を行う場合に抵抗率を変化させるように構成され、該抵抗率の変化が該無線周波数識別タグの出力を変え、該センサ部分は、1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブを含むことを特徴とする、前記方法。」(下線は補正箇所である。)

(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
センサ部分を有する無線周波数識別タグからの出力を検出することを含む、刺激を検出する方法であって、該センサ部分は、ナノ構造材料を含むセンシング材料を含み、かつ、該センサ部分は、該無線周波数識別タグが該刺激に対し接触する、又は相互作用を行う場合に抵抗率を変化させるように構成され、該抵抗率の変化が該無線周波数識別タグの出力を変えることを特徴とする、前記方法。」

2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正の請求項1についての補正は、センサ部分について、「該センサ部分は、1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブを含むこと」を追加した、いわゆる限定的減縮をしたものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
そこで、上記1(1)で記載した本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)独立特許要件について
明確性について
上記1で記載したように、本件補正により、「該センサ部分は、1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブを含む」ことが追加され、補正発明は「該センサ部分は、ナノ構造材料を含むセンシング材料を含み」、「該センサ部分は、1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブを含む」ことで特定されることとなったが、「ナノ構造材料を含むセンシング材料」と「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」との関係が不明確である。
すなわち、「ナノ構造材料」が「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」(カーボンナノチューブはナノ構造材料である)であることを特定しているのか、あるいは、「ナノ構造材料を含むセンシング材料」とは別に「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」を含むことを特定しているのか不明確である。
この点、本願明細書の【0014】には「特定の実施態様では、センサ部分は、金属、有機材料、誘電材料、半導体材料、高分子材料、生物学的材料、ナノワイヤ、ナノ粒子、半導体ナノ粒子、カーボンナノチューブ、ナノファイバ、カーボンファイバ、カーボン粒子、カーボンペースト、若しくは導電性インク、又はこれらの組み合わせを含むセンシング材料を含むことができる。各例において、センシング材料は複数の粒子を含むことができ、該粒子はそれぞれナノ構造材料にすることができる。」と記載され、これを参照しても一義的に解されない。
よって、補正発明は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

新規性進歩性について
(ア)引用文献について
a 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された刊行物である米国特許出願公開第2008/0135614号明細書には、次の事項が記載されている。
なお、「chemoresistive」は、化学的環境の変化に応じて電気抵抗が変化することを意味する用語であることから、「chemoresistive material」については「化学的電気抵抗性材料」と訳した。また、下記bで記載する引用発明の認定に関連する箇所の当審訳に下線を付した。

(1a)「 FIELD OF THE INVENTION
[0002] The present invention relates to the detection of analytes, in particular to the use of transponder devices such as RFID tags for the detection of analytes, such as chemical and/or biological materials.」
(当審訳:発明の分野
[0002] 本発明は、分析物の検出に関するものであり、特に、化学物質及び/又は生物物質のような分析物の検出のためのRFIDタグのようなトランスポンダの使用に関するものである。)

(1b)「 SUMMARY OF THE INVETION
[0004] An example apparatus for facilitating detection of an analyte comprises a substrate supporting an antenna circuit, including an antenna and a sensing element. The sensing element has a property, such as electrical resistance, that is modified by an interaction between the analyte and the sensing element. The antenna circuit generates transmitted radiation when irradiated with incident radiation, so that the antenna circuit acts as a transponder, even in examples of the present invention where the antenna circuit has no dedicated power supply. The transmitted radiation has a spectral distribution correlated with the electrical resistance of the sensing element so as to facilitate detection of the analyte. For example, the presence of spectral harmonics maybe used to remotely detect the presence of an analyte.
[0005] In some examples, the antenna circuit comprises a dipole pair comprising first and second dipole antenna elements, and the sensing element may be located between the first and second dipole antenna elements. The sensing element may comprisea chemoresistive material, a bioresistive material, or other material providing a property change (such as electrical resistance, permittivity, fluorescence, magnetic property, mechanical property, or other property) on exposure to the analyte.」
(当審訳:発明の概要
[0004] 分析物の検出を容易にするための例示的な機器は、アンテナ及びセンサ素子を含む、アンテナ回路を支持する基板を備えている。センサ素子は、分析物とセンサ素子との相互作用によって変化する、電気抵抗のような特性を有している。アンテナ回路は入射信号を受けたとき送信する信号を生成し、アンテナ回路が専用の電源を有していない本発明の実施例では、アンテナ回路はトランスポンダとして作用する。送信する信号は、センサ素子の電気抵抗と相関したスペクトル分布であることにより、分析物の検出を容易にしている。例えば、スペクトルの高調波の存在は、分析物の存在を離れて検出するために使用することができる。
[0005] いくつかの実施例において、アンテナ回路は、第1及び第2のダイポール素子を有するダイポール・ペアを備え、センサ素子は、第1及び第2のダイポールアンテナ素子の間に配置される。センサ素子は、分析物にさらされると特性の変化(例えば、電気抵抗、誘電率、蛍光、磁気特性、機械的特性、又は他の特性)を生じる化学的電気抵抗性材料、生物的電気抵抗性材料、その他の材料で構成される。)

(1c)「[0058]Analyte-sensitive materials include materials that change conductivity state in the presence of certain chemical or biological analytes, such as conductive polymers, including derivatives of polythiophenes, polypyrrole and polyaniline. The conductivity of such materials can be enhanced by building percolation threshold composites that include carbon black, nanowires and carbon nanotubes. A chemically sensitive field effect transistor (ChemFET) may also be used.」
(当審訳:[0058]分析物-感応性材料は、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンの誘導体を含む導電性ポリマーのような、特定の化学的又は生物学的分析物の存在下で導電性の状態を変える材料を含む。このような材料の導電性は、カーボンブラック、ナノワイヤー及びカーボンナノチューブを含む浸透導電理論における閾値の複合体を構築することによって高めることができる。また、化学的感応性の電界効果トランジスタ(ChemFET)であってもよい。

(1d)「[0060]Chemoresistive materials that can be used in embodiments of the present invention include organic semiconductors (organic or inorganic), semiconductor polymers, other polymers, metalorganics (such as phthalocyanines). Chemoresistive materials that can be used include those used in conventional chemoresistive gas sensors. Example materials that may be used in chemoresistive elements, possibly after functionalization, include: nanostructured materials such as metal or semiconductor nanowires, metal or semiconductor nanoparticles; forms of carbon such as nanotubes and fullerenes; polymers such as conducting polymers, including poly(acetylene), poly(pyrrole), poly(thiophene), polytbisthiophenephenylene), poly(aniline), poly(fluorene), poly(3-alkylthiophene),polynaphthalene, poly(p-phenylene sulfide), and poly(p-phenylene vinylene),polyphenylene, other polyarylenes, poly(arylene vinylene) such as polyphenylenevinylene), poly(arylene ethynylene)), other conjugated polymers, and the like,ladder polymers, macrocycles such as phthalocyanine and porphyrin, and polymersthereof, and the like.」
(当審訳:[0060]本発明の実施形態で使用される化学的電気抵抗性材料としては、有機半導体(有機又は無機)、半導体ポリマー、他のポリマー、金属有機物(例えばフタロシアニン)が挙げられる。使用することができる化学的電気抵抗性材料は、従来の化学的電気抵抗性ガスセンサに使用されるものが挙げられる。機能化された後、化学的電気抵抗性素子に用いることができる材料の例としては、金属又は半導体ナノワイヤ、金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料、ナノチューブ、フラーレンのような炭素の形態、ポリ(アセチレン)、ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、ポリビスチオフェン(フェニレン)、ポリ(アニリン)、ポリ(フルオレン)、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリナフタレン、ポリ(p-フェニレン硫化物)及びポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリフェニレン、ポリ(フェニレン・ビニレン)、ポリ(アリーレンエチニレン)のような他のポリアリーレン、他の共役ポリマー、はしご形重合体、フタロシアニン及びポルフィリンのような大環状化合物、それらと同様なポリマーを含む導電性ポリマーのようなポリマーが挙げられる。)

b 引用発明について
上記摘記(1b)の「分析物の検出を容易にするための例示的な機器」は、摘記(1a)の「RFIDタグ」のことであるから、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「RFIDタグを使用して分析物を検出する方法であって、
RFIDタグは、アンテナ及びセンサ素子を含む、アンテナ回路を支持する基板を備え、
センサ素子は、分析物にさらされると電気抵抗の変化を生じる化学的電気抵抗性材料で構成され、分析物とセンサ素子との相互作用によって変化する電気抵抗を有し、
アンテナ回路は、トランスポンダとして作用し、送信する信号は、センサ素子の電気抵抗と相関したスペクトル分布であり、スペクトルの高調波の存在は、分析物の存在を離れて検出するめに使用することができ、
化学的電気抵抗性材料は、金属又は半導体ナノワイヤ、金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料、ナノチューブ、フラーレンのような炭素の形態、導電性ポリマー等である、
前記方法。」(以下「引用発明」という。)

(イ)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

a 無線周波数識別タグについて
補正発明の「無線周波数識別タグ」は、本願明細書の原文で「radio frequency identification tag」と記載されているように、いわゆるRFIDタグのことである。
してみれば、引用発明の「センサ素子を含む」「RFIDタグ」は、補正発明の「センサ部分を有する無線周波数識別タグ」に相当する。

b センサ部分について
(a)機能について
補正発明の「刺激」は、本願明細書の【0008】に「特定の実施態様では、刺激は分析物を含むことができる。」と記載されているから、引用発明の「分析物」は、補正発明の「刺激」に相当し、引用発明の「センサ素子を含む」「RFIDタグ」が「分析物にさらされ」、「分析物とセンサ素子と」が「相互作用」することは、補正発明の「無線周波数識別タグが該刺激に対し接触する、又は相互作用を行う」ことに相当する。
また、引用発明の「電気抵抗」は、補正発明の「抵抗率」に相当するから、引用発明の「センサ素子は、分析物にさらされると電気抵抗の変化を生じる」「材料で構成され、分析物とセンサ素子との相互作用によって変化する電気抵抗を有」することは、補正発明の「該センサ部分は」「該刺激に対し接触する、又は相互作用を行う場合に抵抗率を変化させるように構成され」ることに相当する。
そして、引用発明の「RFIDタグ」にある「アンテナ回路」が「送信する信号」は、補正発明の「該無線周波数識別タグの出力」に相当し、引用発明の「送信する信号」が「センサ素子の電気抵抗と相関したスペクトル分布であ」ることは、「電気抵抗」の変化により「スペクトル分布」も変わることから、補正発明の「該抵抗率の変化が」「出力を変え」ていることに相当する。

(b)センシング材料について
引用発明の「分析物にさらされると電気抵抗の変化を生じる化学的電気抵抗性材料」は、補正発明の「センシング材料」に相当する。
上記アで指摘したように、補正発明のセンシング材料は不明確であるが、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は、金属又は半導体ナノワイヤ、金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料、ナノチューブ、フラーレンのような炭素の形態、導電性ポリマー等である」から、補正発明において「ナノ構造材料」が「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」であると解しても、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は」「ナノチューブ」の「炭素の形態」である点で共通し、また、補正発明において「ナノ構造材料を含むセンシング材料」とは別に「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」を含むと解しても、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は」「金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料」と「ナノチューブ」の「炭素の形態」である点で共通することになる。

c 方法について
引用発明の「RFIDタグ」にある「アンテナ回路」が「送信する信号」により「分析物の存在を離れて検出する」「「RFIDタグを使用して分析物を検出する方法」は、補正発明の「無線周波数識別タグからの出力を検出することを含む、刺激を検出する方法」に相当する。

(ウ)判断
a 判断1
上記(イ)の対比を踏まえると、補正発明の発明特定事項はすべて引用発明に記載されており、補正発明は引用発明に対して相違点がないことから、補正発明は、引用発明(引用文献1に記載された発明)に該当する。
よって、補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

b 判断2
(a)上記(イ)の対比b(b)において、補正発明の「センシング材料」について、「ナノ構造材料」が「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」であると解しても、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は」「ナノチューブ」の「炭素の形態」である点で共通し、また、「ナノ構造材料を含むセンシング材料」とは別に「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」を含むと解しても、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は」「金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料」と「ナノチューブ」の「炭素の形態」である点で共通すると判断したが、補正発明における「センシング材料」について、選択発明としての進歩性を認めることができるかどうかについても検討する。

(b)抽出の容易性について
一般に、膨大な選択肢の中から、ある選択を行うことは容易ではないとされている(平成28年(行ケ)第10182号、同第10184号参照)ものの、引用発明は「化学的電気抵抗性材料は、金属又は半導体ナノワイヤ、金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料、ナノチューブ、フラーレンのような炭素の形態、導電性ポリマー等」という膨大ではない選択肢からの選択であり、かつ、「ナノチューブ」の「炭素の形態」すなわちカーボンナノチューブ、ナノ構造材料がセンシング材料として優先日前に広く用いられていることを考慮すると、上記引用発明の選択肢から、「ナノチューブ」の「炭素の形態」、あるいは、「金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料」と「ナノチューブ」の「炭素の形態」を選択することは当業者が容易になし得たことである。

(c)補正発明の効果について
補正発明の効果は、本願明細書の【0004】及び【0022】に記載されている「化学及び物理センシングのための、ポータブルかつ低コストの技術」であるといえるが、「RFIDタグ」を使用して分析物を検出する引用発明においても、当該効果を奏するものである。
そして、補正発明は、「刺激を検出する方法」の発明であるところ、「刺激」については、上記(イ)b(a)で述べたとおり、引用発明とは「分析物」の点で共通するものの、本願明細書で「【0040】
刺激は、分析物を含むことができる。刺激は、蒸気、ガス、液体、固体、温度変化、熱エネルギー曝露などを含むことができる。刺激は、エチレン、かび、酸、ケトン、チオール、アミンなどを含むことができる。刺激はRFIDを用いて検出することができる;例えば、硝酸及びシクロヘキサノンの蒸気を検出することができる;及びエチレン及びかびを検出することができる;及び生物兵器剤を検出することができる。分析物の累積的な曝露は、線量計で検出及び定量化することができる。
【0041】
刺激は、物理的刺激を含むことができる。物理的刺激は、光、熱、又は放射線を含むことができる。RFIDを用いて、刺激を検出することができ、例えば、タグの熱への曝露を検出することができ;及び放射線及び光を検出することができる。物理的刺激の累積的な曝露は、RFID線量計で検出及び定量化することができる。」と記載されており、
これらの「刺激」すべてに対して、「ナノ構造材料」である「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」を選択する、あるいは、「ナノ構造材料」と「1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブ」を選択する(この点不明確であることは上記(1)で述べたとおりである)ことが有効であるとはいえず、「刺激」を「分析物」に限定解釈したとしても、補正発明の効果が、引用発明の効果とは異質な効果とはいえず、また、引用発明の効果に対して際立って優れた効果を有するものともいえない。

(c)そうすると、補正発明は、引用発明の「化学的電気抵抗性材料は、金属又は半導体ナノワイヤ、金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料、ナノチューブ、フラーレンのような炭素の形態、導電性ポリマー等」において、「ナノチューブ」の「炭素の形態」を選択したもの、あるいは、「金属又は半導体ナノ粒子のようなナノ構造材料」と「ナノチューブ」の「炭素の形態」を選択したものであるところ、これらを選択したことにより、補正発明において、引用発明の効果とは異質な効果を奏しているとも、引用発明の効果に対して際立って優れた効果を奏しているともいえないのであるから、補正発明に選択発明としての進歩性を認めることはできない。

(d)小括
よって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(エ)請求人の主張について
請求人は、審判請求書で、「引用文献1は、第56段落においてカーボンナノチューブに言及しているが、該カーボンナノチューブは、材料の伝導率を高めるという観点から言及されているに過ぎず、無線周波数識別タグの出力を変えるセンサ部分における材料であると教示ないし示唆はされていない。」と主張している。
請求人は「第56段落」と記載しているが、その主張内容から「第58段落」の誤記であるといえる。その「第58段落」の記載は上記(ア)の(1c)で摘記したとおりであり、当審訳を再掲すると、
「[0058]分析物-感応性材料は、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンの誘導体を含む導電性ポリマーのような、特定の化学的又は生物学的分析物の存在下で導電性の状態を変える材料を含む。このような材料の導電性は、カーボンブラック、ナノワイヤー及びカーボンナノチューブを含む浸透導電理論における閾値の複合体を構築することによって高めることができる。また、化学的感応性の電界効果トランジスタ(ChemFET)であってもよい。」である。
ここで、分析物-感応性材料として記載されている「ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンの誘導体を含む導電性ポリマー」は、摘記(1d)で記載されている「[0060]本発明の実施形態で使用される化学的電気抵抗性材料としては、・・・化学的電気抵抗性素子に用いることができる材料の例としては、・・・、ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、・・・、ポリ(アニリン)、・・・を含む導電性ポリマー」と共通するものであるから、分析物-感応性材料と化学的電気抵抗性材料とは同等なものとして記載されており、上記[0058]は、導電性ポリマーを化学的電気抵抗性材料(分析物-感応性材料)用いた場合には、導電性ポリマーにカーボンを添加することによってさらに導電性が向上することを説明した箇所にすぎず、引用発明において、センサ素子を構成する「化学的電気抵抗性材料」について具体的に記載されているのは上記[0060]であるから、請求人の上記[0060]を取り上げず上記[0058]を取り上げて「該カーボンナノチューブは、・・・、無線周波数識別タグの出力を変えるセンサ部分における材料であると教示ないし示唆はされていない。」と主張することは当を得ないことである。

(3) 本件補正についてのむすび
よって、補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?45に係る発明は、平成31年4月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?45に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1.(新規性)この出願の請求項1、20?23、25?30、32、33、35、39?40、42に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1?45に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そして、本願発明については、下記の引用文献1に記載されているか、引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている。

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2008/0135614号明細書
2.米国特許出願公開第2007/0176779号明細書

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)イ(ア)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2(1)で検討したように、補正発明から「該センサ部分は、1つのカーボンナノチューブ又は複数のカーボンナノチューブを含む」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、前記第2の[理由]2(2)イに記載したとおり、引用発明に対して相違点がない、あるいは、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に対して相違点がない、あるいは、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-24 
結審通知日 2020-06-30 
審決日 2020-07-13 
出願番号 特願2016-527465(P2016-527465)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 537- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
伊藤 幸仙
発明の名称 リーダー及びRFIDタグを用いた化学及び物理センシング  
代理人 石川 徹  

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