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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1368957
審判番号 不服2019-10934  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-20 
確定日 2020-12-22 
事件の表示 特願2015-233737「電池、電池パックおよび電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日出願公開、特開2017-103029、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月30日の出願であって、平成30年11月 2日付けで拒絶理由が通知され、平成31年 1月 7日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和 1年 5月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年 8月20日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 令和 1年 8月20日付けでされた手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
令和 1年 8月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1に記載されていた「電池」の「電極タブ」と「絶縁板」について、補正後の請求項1では、「前記電極タブと前記絶縁板との間には隙間がなく、」との特定事項を付加する補正事項(以下、「補正事項1」という。)、及び補正前の請求項11では、「底部は、円弧状の溝を有する」とのみ記載されていたのを、補正後の請求項11では、「底部は、溝を有し、該溝を平面視した際の形状が円弧状である」とする補正事項を含むものであり、本件補正前後の【請求項1】の記載は、それぞれ以下のとおりである(なお、下線部は、補正された箇所を示すものである。また、本願の願書に添付した明細書の【0006】も同様に補正されている。)。

ア 本件補正前の【請求項1】
「【請求項1】
両端面間を貫通する第1孔部を有する電極体と、
底部を有し、前記電極体を収容する電池缶と、
前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部と、周縁に設けられた複数の切り欠き部とを有し、前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板と、
前記第1孔部および前記第2孔部と重なるように前記絶縁板と前記底部との間に設けられた電極タブと
を備え、
前記電極タブは、前記第2孔部を跨ぐように設けられ、
前記第2孔部は、前記電極タブの外側まで広がっている電池。」

イ 本件補正後の【請求項1】
「【請求項1】
両端面間を貫通する第1孔部を有する電極体と、
底部を有し、前記電極体を収容する電池缶と、
前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部と、周縁に設けられた複数の切り欠き部とを有し、前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板と、
前記第1孔部および前記第2孔部と重なるように前記絶縁板と前記底部との間に設けられた電極タブと
を備え、
前記電極タブと前記絶縁板との間には隙間がなく、
前記電極タブは、前記第2孔部を跨ぐように設けられ、
前記第2孔部は、前記電極タブの外側まで広がっている電池。」

(2)本件補正の適否について
そこで、上記補正事項1の適否について、以下検討する。
ア 本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、電極体の底部側の端面に設けられた「絶縁板」と、該絶縁板と上記電極体の底部との間に設けられた「電極タブ」の配置について、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

(ア)「【0015】
[電池の構成]
以下、図1を参照しながら、本技術の第1の実施形態に係る電池の一構成例について説明する。この電池は、例えば、負極の容量が、電極反応物質であるリチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池である。この電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、一対の帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層し巻回された電子素子としての電極体20を有している。電池缶11は、ニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、電解質としての電解液が注入され、正極21、負極22およびセパレータ23に含浸されている。また、電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ設けられている。
・・・
【0018】
電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極タブ25が接続されており、正極タブ25の一端部は電極体20のトップ側端面から出されている。この正極タブ25の一端部は、安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されている。一方、負極22にはニッケルなどよりなる負極タブ26が接続され、負極タブ26の一端部は電極体20のボトム側端面から出されている。この負極タブ26の一端部は、電池缶11に溶接され電気的に接続されている。」

(イ)「【0026】
(ボトム側の絶縁板)
ボトム側の絶縁板13は、当該絶縁板13の主面と電極体20のボトム側端面とが対向するようにして、電極体20のボトム側端面に設けられている。絶縁板13は、図3Aに示すように、円盤の外周を複数箇所切り欠いた形状を有している。具体的には、絶縁板13は、当該絶縁板13の厚さ方向に貫通する孔(第2孔部)13Aと、周縁に設けられた複数の切り欠き部13Bとを有している。負極タブ26の一端部は、図3Bに示すように、組み立てられた電池内において電極体20の中心孔20Aおよび絶縁板13の孔13Aと重なるように絶縁板13と缶底11Btとの間に設けられ、缶底11Btに電気的に接続されている。絶縁板13の材料としては、絶縁板12と同様の材料が挙げられる。」

(ウ)「【0087】
(変形例3)
電池は、図8に示すように、絶縁板13の一方の主面に設けられたフィルタ28をさらに備えるようにしてもよい。フィルタ28は、例えば絶縁板13の両主面のうち缶底11Btと対向する側の主面に設けられている。このようにフィルタ28を備えることで、負極タブ26と缶底11Btとの溶接の際に生じた金属粉が、電解液の注入時に電極体20に侵入するのを阻止して内部短絡を抑制できる。また、電池缶11内における電極体20の移動を抑制して、耐衝撃性や耐振動性などを向上することができる。」

(エ)「【実施例】
【0119】
・・・
【0122】
(電池の組み立て工程)
電池を次のようにして組み立てた。まず、上述のようにして得られた正極21と負極22とを厚み23μmの微多孔性ポリエチレン延伸フィルムよりなるセパレータ23を介して、負極22、セパレータ23、正極21、セパレータ23の順に積層し、多数回巻回することによりジェリーロール型の巻回電極体20を得た。
【0123】
次に、ボトム側の絶縁板13として表1、図12A?図17Cに示す構成を有するものを準備した。また、トップ側の絶縁板12として中心孔12Aを有するものを準備した。次に、準備した一対の絶縁板12、13で巻回電極体20を挟み、負極タブ26を電池缶11に溶接すると共に、正極タブ25を安全弁機構15に溶接して、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納した。次に、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとを1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF_(6)を1mol/dm^(3)の濃度になるように溶解して非水電解液を調製した。
【0124】
最後に、上述の巻回電極体20が収容された電池缶11内に、電解液を注入した後、絶縁封口ガスケット17を介して電池缶11をかしめることにより、安全弁機構15、PTC素子16および電池蓋14を固定し、外径(直径)18.20mm、高さ65mmの円筒型の電池を作製した。なお、この電池は、正極活物質量と負極活物質量とを調整し、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.2Vになるように設計されたものであるが、後述する試験では4.4V(通常の使用範囲電圧を超える過充電状態)にして評価を行なった。
【0125】
[実施例1A、4A、5A、8A、12A、13A、比較例1A、2A]
電池缶11としてC字状(円弧状)の溝11Gvが缶底11Btに設けられているものを用いる以外は実施例1、4、5、8、12、13、比較例1、2と同様にして電池を作製した。」

(オ)「【図1】



(カ)「【図3】



(キ)「【図8】



イ 上記(1)のとおり、本件補正の補正事項1は、請求項1に「前記電極タブと前記絶縁板との間には隙間がなく、」との特定事項を付加するものであるが、上記ア(ア)?(キ)のとおり、当初明細書等には、「電極タブ」と「絶縁板」とを、間に「隙間がな」い形態で配置することについての明記はなく、上記(オ)の【図1】や上記(キ)の【図8】を参照しても、「電極タブ26」と「(ボトム側の)絶縁板13」との間に「隙間(空間)がなく」という状態が明示的に読み取れない。

ウ そうすると、上記補正事項1に係る「前記電極タブと前記絶縁板との間には隙間がなく、」との事項は、当初明細書等には記載がなく、当初明細書等の記載から自明でもなく、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえる。

エ したがって、上記補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるから、上記1のとおり本件補正を却下する。

第3 原査定の概要
原査定(令和 1年 5月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?10、13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開2004-111105号公報)に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項12に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2(特開2015-156307号公報)に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 令和 1年 8月20日付けでされた手続補正についての補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」といい、総称して「本願発明」ということがある。)は、平成31年 1月 7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願発明1は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
両端面間を貫通する第1孔部を有する電極体と、
底部を有し、前記電極体を収容する電池缶と、
前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部と、周縁に設けられた複数の切り欠き部とを有し、前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板と、
前記第1孔部および前記第2孔部と重なるように前記絶縁板と前記底部との間に設けられた電極タブと
を備え、
前記電極タブは、前記第2孔部を跨ぐように設けられ、
前記第2孔部は、前記電極タブの外側まで広がっている電池。」

また、本願発明2?13は、本願発明1を直接又は間接的に引用して,電池(本願発明2?11),電池パック(同12)及び電子機器(同13)を特定したものである。

第5 引用文献の記載、及び引用発明
1 引用文献1(特開2004-111105号公報)の記載、及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「非水電解液電池(発明の名称)」について、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極集電体上に正極活物質層が形成され、上記正極集電体に正極端子が接続された正極と、帯状の負極集電体上に負極活物質層が形成され、上記負極集電体に負極端子が接続された負極とが、セパレータを介して長手方向に捲回され、その捲回両端面に絶縁板が配置された電池素子と、
電解質塩を含有する非水電解液と、
上記電池素子及び上記非水電解液が収納されると共に、上記正極端子又は上記負極端子が接続される底面を有する外装容器とを備え、
上記正極端子及び上記負極端子のうちの上記外装容器の底面に接続される方は、上記底面と対向する面から突出する凸部が一つ以上形成されており、この凸部によって上記電池素子と上記底面との間に隙間が形成され、
上記外装容器は、上記底面に段差が設けられており、この段差によって上記電池素子と上記底面との間に隙間が形成され、
上記絶縁板は、孔部、切欠部、溝部のうちの何れか一つ以上が一箇所以上に設けられており、これら孔部、切欠部、溝部によって上記非水電解液が上記電池素子に導かれるようにされていることを特徴とする非水電解液電池。」

イ 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した提案でも、電池素子104に対する非水電解液105の含浸性を向上させることは困難であり、電池特性の低下や、電池製造時の歩留まりの低下が起こっているのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、電池素子に対する非水電解液の含浸性を向上させることで、電池特性の低下や電池製造時の歩留まりの低下が抑制された非水電解液電池を提供することを目的としている。」

ウ 「【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した非水電解液電池について、図1に示す直径18mm、長さ650mmの円筒形のリチウムイオン二次電池(以下、電池と記す。)1を参照にして説明する。この電池1は、発電要素となりの捲回構造を有する電池素子2と、電池素子2の捲回両端面に配置された絶縁板3と、電池内部でリチウムイオンを移動させる非水電解液4とが、外装容器となる外装缶5内に一括封入された構造となっている。
【0017】
電池素子2は、図2に示すように、帯状の正極6と、帯状の負極7とが、帯状のセパレータ8を介して密着状態で長手方向に直径が17mm程度になるように巻回された構成となっている。」

エ 「【0033】
以上のような捲回構造の電池素子2には、捲回両端面に円盤状を呈する絶縁板3が配置されている。この絶縁板3は、例えば電池1に衝撃や振動等が加わった場合に、電池内部の電池素子2が外装缶5と接触して電池素子2の捲回端面が潰れ、正極6と負極7とが接触して内部短絡することを防止させるものである。
【0034】
このため、絶縁板3は、例えば絶縁性樹脂等で形成されている。
・・・
【0035】
また、この絶縁板3には、図3?図10に示すように、一主面から他主面に貫通する孔部3a、外周部に備わる切欠部3b、主面に形成される溝部3cのうちの何れか一種以上が一箇所以上に設けられている。
【0036】
これにより、絶縁板3では、電池内の非水電解液4が孔部3a、切欠部3b、溝部3cを通って電池素子2に導かれるようにされていることから、電池素子2に非水電解液4を適切に供給させ、電池素子2に対する非水電解液の含浸性を向上させるように作用する。
・・・
【0040】
また図7に示す絶縁板3は、直径17mm程度の円盤状板材の外周が多角形状を呈するように切り欠かれている。図8に示す絶縁板3は、直径17mm程度の円盤状板材の略中心に直径3mm程度の孔部3aが設けられ、外周部に所定の間隔で半円状の切欠部3bが複数設けられている。」

オ 「【図1】



カ 「【図2】



キ 「【図8】



ク 上記オ、カの【図1】、【図2】から、電池素子2の中心部に捲回両端面を接続する貫通孔が設けられ、当該貫通孔と絶縁板3の略中心に設けられた孔3aとが重なるように配置されていることが見て取れる。

ケ 上記オの【図1】から、電池素子2の負極端子15が、絶縁板3と外装缶5の底面との間に設けられていることも見て取れる。

(2)上記(1)ア?ケの記載事項を総合勘案し、特に、【図1】、【図2】、及び【図8】に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「帯状の正極集電体9上に正極活物質層が形成され、上記正極集電体9に正極端子11が接続された正極と、帯状の負極集電体13上に負極活物質層が形成され、上記負極集電体13に負極端子15が接続された負極とが、セパレータを8介して長手方向に捲回され、その捲回両端面に絶縁板3が配置された電池素子2と、
電解質塩を含有する非水電解液4と、
上記電池素子2及び上記非水電解液4が収納されると共に、上記負極端子15が接続される底面を有する外装容器となる外装缶5とを備え、
上記外装缶5の底面に接続される上記負極端子15は、上記底面と対向する面から突出する凸部が一つ以上形成されており、この凸部によって上記電池素子2と上記底面との間に隙間が形成され、
上記外装缶5は、上記底面に段差が設けられており、この段差によって上記電池素子2と上記底面との間に隙間が形成され、
上記絶縁板3は、孔部、切欠部、溝部のうちの何れか一つ以上が一箇所以上に設けられており、これら孔部、切欠部、溝部によって上記非水電解液が上記電池素子に導かれるようにされている非水電解液電池において、
上記電池素子2の中心部に上記捲回両端面を接続する貫通孔が設けられており、
上記電池素子2の捲回両端面のうち、上記外装缶5の底面側に配置された上記絶縁板3は、直径17mm程度の円盤状板材の略中心に直径3mm程度の孔部3aが設けられ、外周部に所定の間隔で半円状の切欠部3bが複数設けられており、
上記貫通孔と上記孔部3aとが重なるように配置され、
上記電池素子2の上記負極端子15が、上記絶縁板3と外装缶5の底面との間に設けられている、非水電解液電池。」

2 引用文献2(特開2015-156307号公報)の記載
(1)また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、「電池ならびに電池パック、電子機器、蓄電装置、電力システムおよび電動車両(発明の名称)」について、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に収容された電極体と、
前記電極体の両端に設けられた絶縁板と
を備え、
前記両端に設けられた絶縁板のうちの少なくとも一方が、外周から中央にかけて空間部を有する
電池。
・・・
【請求項16】
請求項1に記載の電池と、
前記電池を制御する制御部と、
前記電池を内包する外装と
を有する電池パック。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
・・・
【0011】
本技術はこのような点に鑑みなされたものであり、異常時にガスが発生した場合にガスの排出が効率よく行われる電池ならびに電池パック、電子機器、蓄電装置、電力システムおよび電動車両を提供することを目的とする。」

ウ 「【0019】
[1.1 電池の構成]
以下、図1を参照しながら、本技術の第1の実施形態に係る電池の一構成例について説明する。この電池は、例えば、負極の容量が、電極反応物質であるリチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池である。この電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、一対の帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層し巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、ニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、電解質としての電解液が注入され、正極21、負極22およびセパレータ23に含浸されている。
・・・
【0021】
巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。」

エ 「【0058】
(上部絶縁板、下部絶縁板)
ここで、図3を参照して、上部絶縁板12および下部絶縁板13の構成について説明する。図3Aは、上部絶縁板12の形状の第1の例の構成を示す平面図であり、図3Bは、下部絶縁板13の形状の第1の例の構成を示す平面図である。
【0059】
上部絶縁板12には、略円形の平板状に構成されており、略中央にセンターピン24が挿通するための円形の孔部61が形成されている。
【0060】
上部絶縁板12には、外周から孔部61にかけて、外周と孔部61を連通させるように切り欠き状の空間部62が形成されている。第1の例においては、空間部62は、孔部61から外周に向かって扇状に広がるように構成されている。
【0061】
同様に、下部絶縁板13にも略中央に孔部71が形成されており、外周から孔部71にかけて外周と孔部71を連通させるように扇状の空間部72が形成されている。
【0062】
図3Cは、上部絶縁板12の形状の第2の例の構成を示す平面図であり、図3Dは、下部絶縁板13の形状の第2の例の構成を示す平面図である。
【0063】
上部絶縁板12は、略円形の平板状に構成されており、略中央にセンターピンが挿通するための円形の孔部61が形成されている。
【0064】
上部絶縁板12には、外周から孔部61にかけて外周と孔部61を連通させるように切り欠き状の空間部62が形成されている。第2の例においては、空間部62は、孔部61から外周に向かって幅が一定の矩形状に構成されている。
【0065】
同様に、下部絶縁板13にも略中央に孔部71が形成されており、外周から孔部71にかけて外周と孔部71を連通させるように矩形状の空間部72が形成されている。
【0066】
上部絶縁板12が電池缶11内に設けられると、上部絶縁板12の空間部62は、電池缶11の内壁と巻回電極体20との隙間である外周隙間32と連通することになる。空間部62は孔部61と連通しているため、外周隙間32と空間部62と孔部61とが連通することになる。
【0067】
また、下部絶縁板13が電池缶11内に設けられると、下部絶縁板13の空間部72は、電池缶11の内壁と巻回電極体20との隙間である外周隙間32と連通することになる。空間部72は孔部71と連通しているため、外周隙間32と空間部72と孔部71とが連通することになる。
【0068】
外周隙間32と空間部62と孔部61は、連通することによりガスの流路として機能する。同様に外周隙間32と空間部72と孔部71も連通することにガスの流路として機能する。
【0069】
さらに、上部絶縁板12の孔部61、下部絶縁板13の孔部71は共に中心空間部31と連通しているため、中心空間部31もガスの流路として機能する。
【0070】
火中に投下された場合などの異常時において電池缶11内でガスが発生すると、ガスは、外周隙間32と上部絶縁板12の空間部62および孔部61による流路、外周隙間32と下部絶縁板13の空間部72および孔部71による流路、さらに中心空間部31と孔部61と孔部71による流路を通じて電池缶11の上方へ上がっていき、電池缶11の上端の開放端部から外部に放出されることになる。
【0071】
これにより、電池缶11内で発生したガスを効率よく外部に放出し、電池缶11の破損を防ぐことができる。」

オ 「【0176】
また、図10A乃至図10Hは、下部絶縁板13に形成された空間部72の形状の変形例を示す下部絶縁板13の平面図である。下部絶縁板13の空間部72は、図3B、図3Dの例に限られず、図10A乃至図10Hに示されるような形状であってもよい。
【0177】
例えば、図10B乃至図10Dに示すように、下部絶縁板13の内周に突出部73を設け、この突出部73によりセンターピン24の下端を押さえるようにしてもよい。
【0178】
また、図10E、図10Fに示すように、下部絶縁板13の外周から内周の近傍まで延設された空間部74をさらに設けるようにしてもよい。」

カ 「【図1】



キ 「【図3】



ク 「【図10】



第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「捲回両端面」、「貫通孔」は、本願発明1の「両端面」、「第1孔部」に相当するものであるから、引用発明の「電池素子2」は、本願発明1の「両端面缶を貫通する第1孔部を有する電極体」に相当する。

イ 引用発明の「外装缶5」は、「電池素子2」を収納し、「底面」を有するものであるから、本願発明1の「底部を有し、前記電極体を収容する電池缶」に相当する。

ウ 引用発明の「絶縁板3」に設けられた「孔部3a」は、「電池素子2」の「貫通孔」と重なるように配置されているものであるから、本願発明1の「前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部」に相当し、また、引用発明の「絶縁板3」の「外周部に所定の間隔で」「複数設けられた」「半円状の切欠部3b」は、本願発明1の「周縁に設けられた複数の切り欠き部」に相当する。さらに、引用発明の「上記電池素子2の捲回両端面のうち、上記外装缶5の底面側に配置された上記絶縁板3」は、本願発明1の「前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板」と共通する。
そうすると、引用発明の「絶縁板3」は、本願発明1の「前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部と、周縁に設けられた複数の切り欠き部とを有し、前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板」に相当する。

エ 引用発明の「負極端子15」は、「外装缶5の底面側に配置された絶縁板3」と「外装缶5の底面との間に設けられている」から、本願発明1の「前記絶縁板と前記底部との間に設けられた電極タブ」に対応する。

オ 引用発明の「非水電解液電池」は、本願発明1の「電池」に相当する。

カ そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。
[一致点]
「両端面間を貫通する第1孔部を有する電極体と、
底部を有し、前記電極体を収容する電池缶と、
前記第1孔部と重なるように設けられた第2孔部と、周縁に設けられた複数の切り欠き部とを有し、前記両端面のうち前記底部側の端面に設けられた絶縁板と、
前記絶縁板と前記底部との間に設けられた電極タブと
を備えた電池。」

キ 一方で、本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。
[相違点]
絶縁板と電池缶の底部との間に設けられた「電極タブ」について、本願発明1では、「第1孔部および第2孔部と重なるように」、「第2孔部を跨ぐように設けられ」たものであり、また、「第2孔部は、電極タブの外側まで広がっている」のに対して、引用発明では、平面視した際の第1、第2孔部との位置関係が不明な点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について、以下検討する。
ア 上記第5 1(1)に摘記したとおり、引用文献1には、絶縁板と電池缶の底部との間に設けられた「電極タブ」について、これを「第1孔部および第2孔部と重なるように」、「第2孔部を跨ぐように設け」ることや、「第2孔部は、電極タブの外側まで広がっている」ように構成することは、記載も示唆もされていない。

イ また、上記第5 1(3)に摘記したとおり、引用文献2にも、絶縁板と電池缶の底部との間に設けられた「電極タブ」について、これを「第1孔部および第2孔部と重なるように」、「第2孔部を跨ぐように設け」ることや、「第2孔部は、電極タブの外側まで広がっている」ように構成することは、記載も示唆もされていない。

ウ そうすると、引用文献1、及び引用文献2の記載を参酌しても、引用発明の「電極タブ」を
「第1孔部および第2孔部と重なるように」、「第2孔部を跨ぐように設け」、さらに「第2孔部は、電極タブの外側まで広がっている」ように構成する動機付けを見いだせない。

エ この点につき、原査定は、「引用文献1記載の発明において、負極端子15と底面5aとの溶接面積を大きくして電気抵抗を小さくする、あるいは溶接強度を向上させる等の観点で、負極端子15を延長して孔部3aを跨ぐようにする程度のことは当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。」(令和 1年 5月14日付け拒絶査定の備考欄「●理由2(特許法第29条第2項)について」の項を参照)と判断しているが、本願の願書に添付した明細書の【0038】に「切り欠き部13Bを介して絶縁板13と缶底11Btとの間に導出された負極タブ26の一端部は、孔13Aを超える位置まで伸びている。このような位置まで延びていることで、電極体20の中心孔20Aに溶接棒を差し込み、負極タブ26の一端部と缶底11Btとを溶接することができる。」と記載されていることを鑑みると、本願発明1は、上記相違点に係る構成を備えることにより、引用発明、及び引用文献2の記載事項からは予測できない有利な効果を奏するものであるといえることから、本願発明1が上記相違点に係る構成を備えることが設計変更であるとはいえない。

オ したがって、本願発明1は、引用発明、又は引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?13について
本願発明2?13も、本願発明1と同様に、絶縁板と電池缶の底部との間に設けられた「電極タブ」が、「第1孔部および第2孔部と重なるように」、「第2孔部を跨ぐように設けられ」たものであり、また、「第2孔部は、電極タブの外側まで広がっている」との特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、又は引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?13は、当業者が引用発明、又は引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-12-02 
出願番号 特願2015-233737(P2015-233737)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 561- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山内 達人  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 粟野 正明
平塚 政宏
発明の名称 電池、電池パックおよび電子機器  
代理人 杉浦 正知  
代理人 杉浦 拓真  

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