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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
管理番号 1368975
異議申立番号 異議2018-701066  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-27 
確定日 2020-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6347644号発明「表面改質シリカ粉末及びスラリー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6347644号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6347644号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6347644号の請求項1?3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成26年3月28日に出願され、平成30年6月8日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。

平成30年12月27日 特許異議申立人 丹羽良子(以下、「特許異
議申立人」という。)による請求項1?3に
係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 4月18日付け (特許権者及び特許異議申立人に対して)審

令和 1年 6月 3日 特許権者による回答書
令和 1年 6月 6日 特許異議申立人による回答書
令和 1年 9月 3日付け 取消理由通知
令和 1年10月31日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年12月25日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 2月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 5月 1日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 7月14日 特許異議申立人による上申書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年5月1日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?3を訂正の単位とするものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正箇所)。
なお、令和1年10月31日にされた訂正の請求は、本件訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「シリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末。」
とあるのを、
「加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(n
m^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積
が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末(ただし、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)。」
に訂正する。
(なお、上記訂正箇所中の「(1)」、「(2)」、「(3)」は、それぞれ○で囲まれた数字を表す。以下、同様。)

(2)訂正事項2
本件明細書の段落【0009】に、
「(1)シリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末。」
とあるのを、
「(1)加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末(ただし、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)。」
に訂正する。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明は、「シリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末。」と特定している。
これに対して、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の上記「表面改質球状シリカ粉末。」から、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除くものであり、また、「シリカ粒子表面のシランカップリング剤」を「加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の上記「表面改質球状シリカ粉末」から、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除くものであって、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
また、訂正事項1の「シリカ粒子表面のシランカップリング剤」を「加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤」に限定する訂正は、本件明細書の段落【0019】の「シランカップリング剤1個あたり、3つの加水分解基を有する」という記載及び実施例に記載されたシランカップリング剤が全て加水分解基としてトリメトキシ基を有することを根拠にするものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴って、本件明細書の段落【0009】に記載された「表面改質球状シリカ粉末」について、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除くものであり、また、「シリカ粒子表面のシランカップリング剤」を「加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤」と限定して訂正するものであるから、請求項1の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項2は,訂正事項1と同じく願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。

「【請求項1】
加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末(ただし、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び(3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)。
【請求項2】
請求項1に記載の表面改質球状シリカ粉末を含むスラリー組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。」


第4 特許異議の申立ての理由及び証拠方法について
1 申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」?「甲4」という。)を提出し、本件特許は、以下の申立理由1?4により取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号)
訂正前の請求項1?3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)申立理由4(特許法第36条第6項第2号)
訂正前の請求項1?3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲1:特開2014-28880号公報
甲2:特開2014-15606号公報
甲3:信越化学工業株式会社の「シランカップリング剤」のカタログ、20 17年12月現在の内容(甲4のダウンロードサイトより入手可能)
(https://www.silicone.jp/catalog/pdf/SilaneCouplingAgents_J.p df)
甲4:信越化学工業株式会社のカタログダウンロードサイト
(https://www.silicone.jp/catalog/index.shtml)


第5 取消理由について
当審において通知した令和 2年 2月28日付けの取消理由通知(決定の予告)における取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 先の訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 本件特許は、先の訂正請求により訂正された請求項1?3の記載が、下記の点で不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


本件発明1で特定された反応量及び非反応量についての計算は、シランカップリング剤の構造や加水分解の程度により異なるため一義的に定まるものではないから、上記反応量及び非反応量についてどのように算出されるのか明らかでない。
よって、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、明確でない。

第6 当審の判断
1 取消理由についての判断
(1)取消理由(特許法第29条第1項第3号)について
ア 本件発明1について
(ア)甲2の記載事項
2a「【0029】
アミノビス(アルコキシシラン)の分子量は、表面処理時や乾燥時の揮発抑止という点から、260以上が好ましく、280以上がより好ましく、300以上が更に好ましい。一方、適切な反応性という点から、2000以下が好ましく、1700以下がより好ましく、1400以下が更に好ましい。市販品としては、信越化学工業(株)製「KBM666P」(ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、分子量341)等が挙げられる。」

2b「【0034】
また、アミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材において、該無機充填材の表面組成を分析することによって、炭素原子の存在を確認し、該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を求めることができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA-320V」等を使用することができる。
【0035】
具体的には、溶剤として十分な量のMEKをアミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA-320V」等を使用することができる。」

2c「【0038】
アミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材への表面処理方法は、特に限定されないが、乾式法や湿式法が挙げられる。乾式法としては、回転ミキサーに無機充填材を仕込んで、攪拌しながらアミノビス(アルコキシシラン)のアルコール溶液又は水溶液を滴下又は噴霧した後、さらに攪拌し、ふるいにより分級する。その後、加熱によりアミノビス(アルコキシシラン)と無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。湿式法としては、無機充填材と有機溶媒とのスラリーを攪拌しながらアミノビス(アルコキシシラン)を添加し、攪拌した後、濾過、乾燥及びふるいによる分級を行う。その後、加熱によりアミノビス(アルコキシシラン)と無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。さらに、樹脂組成物中にアミノビス(アルコキシシラン)を添加するインテグラルブレンド法でも可能である。」

2d「【0098】
無機充填材7:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)100部に対して、アミノビス(アルコキシシラン)(信越化学工業(株)製、「KBM666P」、分子量341)0.8部で表面処理したもの、単位表面積当たりのカーボン量0.40mg/m^(2)。」

2e「【0102】
<実施例4> 液状ビスフェノール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ZX1059」、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の1:1混合品)10部、結晶性2官能エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「YX4000HK」、エポキシ当量約185)5部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP7200H」、エポキシ当量約275)10部、フェノキシ樹脂(重量平均分子量35000、三菱化学(株)製「YL7553BH30」、不揮発成分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)15部をソルベントナフサ50部に撹拌しながら加熱溶解させ、その後室温にまで冷却した。次いで、活性エステル化合物(DIC(株)製「HPC8000-65T」、活性エステル当量223、固形分65%のトルエン溶液)40部、難燃剤(三光(株)製「HCA-HQ」、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-ヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイド、平均粒径1μm)3部、硬化促進剤(4-ジメチルアミノピリジン、固形分4質量%のMEK溶液)3.5部を加え、更に無機充填材7を150部混合し、回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。」

(イ)甲2に記載された発明
記載事項2a?2dによると、球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)100部を、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン(信越化学工業(株)製、「KBM666P」、分子量341)0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である無機充填剤7(表面処理球形シリカ)が記載されているといえる。
そうすると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)100部をビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン(信越化学工業(株)製、「KBM666P」、分子量341)0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面処理球形シリカ。」

(ウ)対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「球形シリカ」及び「表面処理球形シリカ」は、本件発明1の「シリカ粒子」及び「表面改質球状シリカ粉末」に相当する。
また、甲1の段落【0094】には、「球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm、比表面積6.2m^(2)/g)」と記載されており、当該比表面積は、常用のBET比表面積と解するのが合理的であるから、甲2発明における「球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)」のBET比表面積は6.2m^(2)/gであると解することができる。
そうすると、甲2発明に係る表面処理球状シリカ粉末は、本件発明1において「(ただし、 ・・・ (3)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル」アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)」として除かれているものにほかならないから、本件発明1と甲2発明との間に一致点はなく、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2,3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(2)取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
本件訂正により、表面処理により用いるシランカップリング剤は、「加水分解基としてトリメトキシ基を有する」ことが特定され、本件明細書の実施例の記載及び技術常識からすると、本件発明1で特定する反応量及び非反応量は、表面処理に使用したシランカップリング剤の量から求められる全体の炭素量と、トリメトキシ基が加水分解した後の炭素数が減少した表面に化学吸着したシランカップリング剤の炭素量とを用いて計算されることが明らかとなった。
よって、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、明確でないとはいえない。

2 取消理由に採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断
(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1に記載された無機充填材2、4、5及び甲2に記載された無機充填材3から認定した各発明は、訂正前の請求項1?3に係る発明と同一であるから、訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明であると主張しているので、以下に検討する。

ア 本件発明1について
(ア)甲1の記載事項
1a「【0034】
また、アミノアルキルシランで表面処理された無機充填材においては、該無機充填材の表面組成を分析することによって、炭素原子の存在を確認し、該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を求めることができる。具体的には、溶剤として十分な量のMEKをアミノアルキルシランで表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA-320V」等を使用することができる。」

1b「【0037】
アミノアルキルシランで表面処理された無機充填材への表面処理方法は、特に限定されないが、乾式法や湿式法が挙げられる。乾式法としては、回転ミキサーに無機充填材を仕込んで、攪拌しながらアミノアルキルシランのアルコール溶液又は水溶液を滴下又は噴霧した後、さらに攪拌し、ふるいにより分級する。その後、加熱によりアミノアルキルシランと無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。湿式法としては、無機充填材と有機溶媒とのスラリーを攪拌しながらアミノアルキルシランを添加し、攪拌した後、濾過、乾燥及びふるいによる分級を行う。その後、加熱によりアミノアルキルシランと無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。さらに、樹脂組成物中にアミノアルキルシランを添加するインテグラルブレンド法でも可能である。」

1c「【0095】
無機充填材2:球形シリカ(アドマテックス(株)製「SO-C2」、平均粒径0.5μm、比表面積5.5m^(2)/g)100部に対して、3-アミノプロピルシラン(信越化学工業(株)製、「KBE903」、分子量221)0.4部で表面処理したもの、単位表面積当たりのカーボン量0.15mg/m^(2)。
・・・
【0097】
無機充填材4:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm、比表面積6.2m^(2)/g)100部に対して、フェニルアミノシラン(信越化学工業(株)製、「KBM573」、分子量255)0.5部で表面処理したもの、単位表面積当たりのカーボン量0.30mg/m^(2)。
【0098】
無機充填材5:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm、比表面積6.2m^(2)/g)100部に対して、エポキシシラン(信越化学工業(株)製、「KBM403」、分子量236)0.5部で表面処理したもの、単位表面積当たりのカーボン量0.19mg/m^(2)。」

1d「【0099】
<実施例1>
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP4032SS」)10部、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ZX1059」、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の1:1混合品)5部、ナフトール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ESN-475V」)20部、フェノキシ樹脂(重量平均分子量35000、三菱化学(株)製「YL7553BH30」、不揮発成分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)5部をソルベントナフサ50部に撹拌しながら加熱溶解させ、その後室温にまで冷却した。次いで、活性エステル化合物(DIC(株)製「HPC8000-65T」、活性エステル当量223、固形分65%のトルエン溶液)10部、ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製「BA230S75」、シアネート当量約232、不揮発分75質量%のMEK溶液)20部、フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製「PT30S」、シアネート当量約133、不揮発分85質量%のMEK溶液)10部、ゴム粒子(ガンツ化成(株)製、スタフィロイドAC3816N)4部をソルベントナフサ16部に室温で12時間膨潤させておいたもの、難燃剤(三光(株)製「HCA-HQ」、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-ヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイド、平均粒径1μm)3部、硬化促進剤(4-ジメチルアミノピリジン、固形分4質量%のMEK溶液)0.5部、硬化促進剤(東京化成(株)製、コバルト(III)アセチルアセトナート、固形分1質量%のMEK溶液)4.5部を加え、更に無機充填材1を150部混合し、回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。次に、かかる樹脂ワニスをアルキド系離型処理付きポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック(株)製「AL5」、厚さ38μm)の離型面上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが40μmとなるようにダイコーターにて均一に塗布し、80?110℃(平均95℃)で5分間乾燥し、接着フィルムを得た。
・・・
【0102】
<比較例2>
無機充填材1を無機充填材4に変更した以外は、実施例1と全く同様にして樹脂ワニスを作製した。次いで、実施例1と全く同様にして接着フィルムを得た。
【0103】
<比較例3>
無機充填材1を無機充填材5に変更した以外は、実施例1と全く同様にして樹脂ワニスを作製した。次いで、実施例1と全く同様にして接着フィルムを得た。

(イ)甲2の記載事項
2a「【0034】
また、アミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材において、該無機充填材の表面組成を分析することによって、炭素原子の存在を確認し、該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を求めることができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA-320V」等を使用することができる。
【0035】
具体的には、溶剤として十分な量のMEKをアミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて該無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA-320V」等を使用することができる。」

2b「【0038】
アミノビス(アルコキシシラン)で表面処理された無機充填材への表面処理方法は、特に限定されないが、乾式法や湿式法が挙げられる。乾式法としては、回転ミキサーに無機充填材を仕込んで、攪拌しながらアミノビス(アルコキシシラン)のアルコール溶液又は水溶液を滴下又は噴霧した後、さらに攪拌し、ふるいにより分級する。その後、加熱によりアミノビス(アルコキシシラン)と無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。湿式法としては、無機充填材と有機溶媒とのスラリーを攪拌しながらアミノビス(アルコキシシラン)を添加し、攪拌した後、濾過、乾燥及びふるいによる分級を行う。その後、加熱によりアミノビス(アルコキシシラン)と無機充填材とを脱水縮合させることにより得ることができる。さらに、樹脂組成物中にアミノビス(アルコキシシラン)を添加するインテグラルブレンド法でも可能である。」

2c「【0094】
無機充填材3:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)100部に対して、フェニルアミノシラン(信越化学工業(株)製、「KBM573」、分子量255)0.5部で表面処理したもの、単位表面積当たりのカーボン量0.30mg/m^(2)。」

2d「【0099】
<実施例1>
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP4032SS」)10部、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ZX1059」、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の1:1混合品)5部、ナフトール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ESN-475V」)20部、フェノキシ樹脂(重量平均分子量35000、三菱化学(株)製「YL7553BH30」、不揮発成分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液)5部をソルベントナフサ50部に撹拌しながら加熱溶解させ、その後室温にまで冷却した。次いで、活性エステル化合物(DIC(株)製「HPC8000-65T」、活性エステル当量223、固形分65%のトルエン溶液)10部、ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(ロンザジャパン(株)製「BA230S75」、シアネート当量約232、不揮発分75質量%のMEK溶液)20部、フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製「PT30S」、シアネート当量約133、不揮発分85質量%のMEK溶液)10部、ゴム粒子(ガンツ化成(株)製、スタフィロイドAC3816N)4部をソルベントナフサ16部に室温で12時間膨潤させておいたもの、難燃剤(三光(株)製「HCA-HQ」、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-ヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイド、平均粒径1μm)3部、硬化促進剤(4-ジメチルアミノピリジン、固形分4質量%のMEK溶液)0.5部、硬化促進剤(東京化成(株)製、コバルト(III)アセチルアセトナート、固形分1質量%のMEK溶液)4.5部を加え、更に無機充填材1を150部混合し、回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。次に、かかる樹脂ワニスをアルキド系離型処理付きポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック(株)製「AL5」、厚さ38μm)の離型面上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが40μmとなるようにダイコーターにて均一に塗布し、80?110℃(平均95℃)で5分間乾燥し、接着フィルムを得た。
・・・
【0104】
<比較例2>
無機充填材1を、無機充填材3に変更した以外は、実施例1と全く同様にして樹脂ワニスを作製した。次いで、実施例1と全く同様にして接着フィルムを得た。」

(ウ)甲1に記載された発明(無機充填剤2、4、5)
記載事項1cによると、甲1には、無機充填剤2、4、5として、次の表面処理球形シリカが記載されているといえる。
・無機充填材2:球形シリカ(アドマテックス(株)製「SO-C2」、平均粒径0.5μm、比表面積5.5m^(2)/g)100部に対して、3-アミノプロピルシラン(信越化学工業(株)製、「KBE903」、分子量221)0.4部で表面処理したもの(単位表面積当たりのカーボン量0.15mg/m^(2))
・無機充填材4:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm、比表面積6.2m^(2)/g)100部に対して、フェニルアミノシラン(信越化学工業(株)製、「KBM573」、分子量255)0.5部で表面処理したもの(単位表面積当たりのカーボン量0.30mg/m^(2))
・無機充填材5:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm、比表面積6.2m^(2)/g)100部に対して、エポキシシラン(信越化学工業(株)製、「KBM403」、分子量236)0.5部で表面処理したもの(単位表面積当たりのカーボン量0.19mg/m^(2))

(エ)甲2に記載された発明(無機充填材3)
記載事項2cによると、甲2には、無機充填剤3として、次の表面処理球形シリカが記載されているといえる。
・無機充填材3:球形シリカ(電気化学工業(株)製「SFP-130MC」、平均粒径0.6μm)100部に対して、フェニルアミノシラン(信越化学工業(株)製、「KBM573」、分子量255)0.5部で表面処理したもの(単位表面積当たりのカーボン量0.30mg/m^(2))

(オ)甲1に記載された発明(無機充填材2、4、5)との対比・判断
本件発明1と甲1に記載された無機充填剤2、4、5とを対比すると、当該無機充填材4、5は、本件発明1において「(ただし、(1)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、(2)「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」 ・・・ を除く。)」として、本件発明1から除かれているものであるし、無機充填材2は、「3-アミノプロピルシラン(信越化学工業(株)製、「KBE903」、分子量221)」で表面処理されたものであるところ、当該「KBE903」は、甲3の製品カタログ(20頁を参照した。)によれば、「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」であることが分かるから、加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理することが特定されている本件発明1とは相違するものである。
したがって、本件発明1は、上記甲1の無機充填剤2、4、5、すなわち、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(カ)甲2に記載された発明(無機充填材3)との対比・判断
甲2に記載された無機充填材3は、上記(オ)において検討した甲1の「無機充填材4」と同一のものであり、これが本件発明1と相違することも前述のとおりである。
したがって、本件発明1は、甲2の無機充填材3、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2,3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項)について
甲1及び甲2には、無機充填材であるシリカの単位表面積当たりのカーボン量が、0.05?1mg/m^(2)であることが好ましいことが記載されている(甲1:請求項6、9、段落【0035】、甲2:請求項6、9、段落【0036】)。
しかし、甲1及び甲2には、本件発明1のように、シリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量に対する非反応量の比率を制御するという技術思想はなく、また、シランカップリング剤の仕込み量を調整するなどして表面処理を制御することで、本件発明1で特定する反応量及び反応量に対する非反応量の範囲になるともいえない。
したがって、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、甲1又は甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号)及び申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について
申立理由3及び申立理由4は、本件明細書及び特許請求の範囲にはBET法の測定のための吸着ガスについて開示がないから、BET法による表面積が特定された訂正前の請求項1及びこれを引用する請求項2、3に係る発明は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、また、明確ではないというものである。
しかし、本件明細書の段落【0015】、【0034】には、BET比表面積の測定機として「Macsorb HM model-1208」(MACSORB社製)を使用することが記載され、測定装置の情報から吸着ガスについて明らかであるといえるから(なお、吸着ガスについては、特許権者の令和元年6月3日付けの回答書及び添付された乙第1号証(上記装置の取扱説明書)からも明らかである。)、本件発明1?3のBET比表面積についての特定は明確でないとはいえず、また、発明の詳細な説明は当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

3 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和2年7月14日付けの上申書において、甲1及び甲2には、種々のシランカップリング剤による処理が行われることが前提とすることが記載されているから、本件発明1は、上記甲1に記載された発明等のシランカップリング剤に代えて他のシランカップリング剤を用いることにより容易に発明をすることができた旨主張している。
しかし、上記2(2)に記載したように、甲1及び甲2には、本件発明1のように、シリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量に対する非反応量の比率を制御するという技術思想の開示はなく、また、甲1に記載された発明等において、他のシランカップリング剤を用いた場合に一分子当たりの炭素数が異なり、同様なシリカ表面のカーボン量が得られるともいえないから、本件発明1の反応量及び非反応量についての特定事項が導出できるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面改質シリカ粉末及びスラリー組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質シリカ粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高速化、小型軽量化、高機能化に伴い、高密度実装・配線微細化に対応したプリント配線板が開発されている。多層ビルドアップ基板では、絶縁層と銅配線やICチップとの熱膨張率の違いによるクラック発生、製造時の耐熱性等の問題が生じ、微細配線の信頼性向上を目的として、従来にも増して、低熱膨張が要求されている。
【0003】
基板の熱膨張率低減には、シリカ粉末などのフィラーをエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂に高充填する方法、剛直な樹脂を利用する等の方法が知られている。しかし、フィラーを樹脂に高充填すると、フィラーの分散性が低下し、流動性及び成形性が著しく低下する。更に、薄型化の場合、基板自体の剛性が低いため、絶縁信頼性が低下する問題があった。
【0004】
フィラーを樹脂に分散させるために、表面処理状態の制御が有効である。シリカの粒子表面にはシランカップリング剤等の表面処理剤との反応サイトとして、シラノール基が存在しており、表面処理剤を処理することで、シリカの樹脂への分散性を改善し、樹脂硬化物の機械的強度の向上がなされている。
【0005】
表面処理剤の機能を発揮させるためには、表面に均一に処理すること、表面処理剤の添加量が重要である。特許文献1では、シランカップリング剤、オルガノシラザンにおける単位表面積(nm^(2))あたりの官能基数を規定、特許文献2では、シランカップリング剤で処理された金属酸化物表面処理粒子の表面処理層の状態にすることで、表面状態の制御による高分散を達成している。しかし、表面処理剤の添加量を多量にすると、表面と反応していない非反応性の表面処理剤の量が多くなり、機械的強度が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-214554号公報
【特許文献2】特開2005-298740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な表面処理方法として、湿式処理方法と乾式処理方法がある。湿式処理方法では、表面処理剤の添加量に対するシリカ表面への反応率が10%程度であり、非反応性の表面処理剤が過剰に存在し、ワニス中のシリカ分散安定性が得られないため、機械的強度が低下する問題があった。乾式表面処理法では、反応率は非常に高いが、表面処理剤同士の反応が優先的に進み、不均一な反応層がシリカ粒子表面に形成されるため、同様に機械的強度が低下する問題があった。以上のことから、表面処理剤の反応量が非反応量と比較して多く、樹脂への密着性が高いかつ樹脂マトリックスからの脱落が少ないシリカ粉末を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、表面処理剤のシリカ粒子表面への反応量が高く、シリカ粒子が良好に分散し、優れた基板強度を有する樹脂硬化物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末(ただし、▲1▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、▲2▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び▲3▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)。
(2)前記(1)に記載の表面改質球状シリカ粉末を含むスラリー組成物。
(3)前記(2)に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。
【0010】
表面改質されたシリカ粉末には、反応層と非反応層が存在する。反応層とは、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤が化学吸着している層である。反応層が存在することで、樹脂中のシリカ同士の凝集を抑制する効果が発現される。
非反応層とは、反応層の表面あるいはシリカ粒子の表面に物理的に吸着しているシランカップリング剤の層である。非反応層が存在することで、樹脂への相溶性を向上させている。非反応層は、物理的に吸着されているため、有機溶剤を用いた洗浄処理により、除去することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面改質されたシリカ粉末は、シランカップリング処理を行ったシリカ粒子の反応層と非反応層を制御することで、分散が良好で、スラリー組成物の流動性が極めて高く、シリカ粒子の凝集物が少ない樹脂硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、シランカップリング剤で表面改質されたシリカ粉末であって、シリカ粒子表面への表面処理剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、シリカ粒子表面への表面処理剤の非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であることを特徴とする表面改質シリカ粉末である。
【0013】
シランカップリング剤の反応量は1.5?3.0個/nm^(2)である。反応量が1.5個/nm^(2)未満であると、樹脂への相溶性が向上しないため、優れた機械的強度が得られない。3.0個/nm^(2)を超えると、シランカップリング剤同士の反応が優先的に進み、凝集が発生する。好ましい反応量は1.8?2.8個/nm^(2)である。
非反応量は、単位表面積(nm^(2))あたり反応量(個)の0.1?0.6倍である。0.1倍未満、0.6倍を超えると、ワニス中のシリカ分散安定性が得られないため、機械的強度が低下する。
【0014】
シランカップリング剤の反応量、非反応量は、C/Sアナライザー(CS-444LS、LECO社製)を用いた炭素量結果から求めることができる。表面処理されたシリカ粉末には、反応層と非反応層が存在する。非反応層は、物理的に吸着されているため、有機溶剤を用いた洗浄処理により、除去することができる。反応層は、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤が化学吸着しているため、有機溶剤で洗浄しても除去されない。つまり、洗浄前のシリカ粉末には、反応層と非反応層が存在し、洗浄後のシリカ粉末には反応層のみ存在する。非反応量は、洗浄前のシリカ粉末中の炭素量と洗浄後のシリカ粉末中の炭素量の差より、式(2)にて求めることができる。
反応量、非反応量は下記の式(1)、(2)で示される。
(1)反応量(個/nm^(2))=
〔洗浄後のシリカ粉末中の炭素量(質量%)/(SC剤の炭素数×12.01)/100〕(mol/g)/BET比表面積(m^(2)/g)×6.02×10^(23)/10^(18)
SC剤:シランカップリング剤
12.01:炭素の原子量
10^(18) :m^(2)からnm^(2)に単位変換
(2)非反応量(個/nm^(2))=
〔洗浄前のシリカ粉末中の炭素量(質量%)-洗浄後のシリカ粉末中の炭素量(質量%)/(SC剤の炭素数×12.01)/100〕(mol/g)/BET比表面積(m^(2)/g)×6.02×10^(23)/10^(18)
SC剤:シランカップリング剤
12.01:炭素の原子量
10^(18) :m^(2)からnm^(2)に単位変換
【0015】
本発明の球状シリカ粉末の比表面積は、BET法に基づく値であり、比表面積測定機としては、「MacsorbHM model-1208」(MACSORB社製)を用いて測定することができる。
シリカ粒子表面に存在する反応サイト量の観点から、BET比表面積が3?45m^(2)/gの範囲であることが好ましい。
【0016】
表面改質球状シリカ粉末の製造方法について、説明する。
本発明を構成する球状シリカ粉末の製造方法は、金属粉末スラリーを製造炉で可燃性ガスと助燃性ガスとからなる高温火炎中に供給し、該火炎中で該金属粉末を気化、酸化させることにより得られる。シリカ粉末を得る場合にはシリコン粉末を利用し、使用する金属シリコン粉末の粒子径、供給量、火炎温度等を調整することにより、得られるシリカ粉末の粒径、BET比表面積を調整することが可能である。
【0017】
本発明の球状シリカ粉末は、表面処理が施され、表面改質球状シリカ粉末となる。表面処理を予め施すことで、シリカ粒子の凝集を抑制することができ、樹脂組成物中にシリカ粒子を良好に分散させることができる。球状シリカ粉末のシランカップリング処理は、既に公知の種々のシランカップリング剤を用いて行うことができる。シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、アクリロキシトリメトキシシラン等のアクリルシラン等が例示される。
【0018】
シランカップリング剤による表面処理は、シリカ粉末を処理容器内で混合させた状態で、加水分解したシランカップリング剤を含む塩基性水溶液を、超音波噴霧器を用いて、噴霧させることで、予めシランカップリング剤をシリカ粒子の表面と接触させた後、湿式分散機で処理することにより行う。
【0019】
加水分解したシランカップリング剤は、メタノールを混合した塩基性水溶液を用いて調製する。加水分解反応が進行すれば、塩基性水溶液を構成する材料のモル比は特に限定されないが、シランカップリング剤1個あたり、3つの加水分解基を有することから、シランカップリング剤:水:メタノール=1:3:1が好ましい。
【0020】
塩基性水溶液としては、有機アミン、シラザン類、窒素を含む環状化合物を含む溶液、アミン系シランカップリング剤等があげられる。水溶液のpHは、特に限定されないが、シランカップリング剤の加水分解、重縮合反応が過剰に進むと、水溶液が白濁し、シリカ粒子の表面と反応する前に、ポリマー層を形成する。反応速度制御の観点から、pHは10?12の範囲にあることが好ましい。
【0021】
超音波噴霧器は、特に限定されず、公知のものを使用すれば良い。超音波噴霧時の噴霧サイズは、超音波振動の周波数に依存し、周波数が高くなればなるほど、噴霧サイズを小さくすることができる。好ましい噴霧サイズは1μm以下である。
【0022】
本発明のシランカップリング処理は、超音波噴霧器を用いて、シリカ粒子の表面に予めシランカップリング剤を均一に吸着させた後、各種有機溶剤、水への分散性が高い状態で、ビーズミル、高圧式ホモジナイザー等の湿式分散機を用いた分散処理を行うことに特徴があり、シランカップリング剤の高い反応率を実現することができる。
【0023】
シランカップリング処理を行ったシリカ粉末の溶液は、シランカップリング処理後に粉末化させても良い。粉末化工程は、特に限定されないが、有機溶剤、水を加熱、減圧させることで、蒸発させる工程が好ましい。
【0024】
スラリー組成物について、説明する。
表面改質シリカ粉末は、水、有機溶媒を用いたスラリー組成物として、好適に使用することができる。シリカ粒子を分散させる有機溶媒としては、その種類が特に限定されるものではない。樹脂に応じて選択すればよい。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル等の極性溶媒が用いられる。
その中でも特に、メチルエチルケトンが好ましい。
【0025】
分散処理は、ボールミル、超音波分散機、各種ミキサー、高圧ホモジナイザー等の機器を使用して行えばよい。尚、スラリーの変性を防ぐため、窒素雰囲気下等の非酸化性雰囲気下で製造を行うことが望ましい。
【0026】
スラリー組成物に含まれる表面改質シリカ粉末の含有量は特に制限はないが、樹脂組成物の成形性の観点から75.0質量%以下が好ましい。75.0質量%を超えると、分散処理が難しくなる。
【0027】
樹脂組成物について、説明する。
スラリー組成物を用いて、パッケージ用基板や層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂を採用することが好ましい。
【0028】
樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重要分子量を有する2種類以上を併用もでき、1種類または2種類以上することもできる。
これらエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、公知の硬化剤を用いればよいが、フェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類などを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
前記フェノール硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が1.0未満、0.1以上が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。
【0031】
樹脂組成物に配合される球状シリカ粉末の量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。樹脂組成物の全体質量に対して、80質量%以上であることが望ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
(実施例1?9)
表面改質シリカ粉末の作製
(1)実施例1
金属粉末スラリー法で製造された平均粒径0.6μm、BET比表面積5.5m^(2)/gの球状シリカ粉末(SFP-30M:電気化学工業社製)を0.5kg処理容器内に投入した。シランカップリング剤として、単位面積(nm^(2))あたり4.0個にあたる4.3gのγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM-403」(信越化学工業株式会社製、分子量236.3)、0.99gのイオン交換水、0.59gのメタノールを計量し、塩基性物質として、ヘキサメチルジシラザン「SZ-31」(信越化学工業株式会社製、分子量166.5)をシランカップリング剤の3倍モル量投入し、シランカップリング剤入り塩基性溶液を調製した。次いで、超音波噴霧器を用いて、噴霧量2.5L/min、周波数1.6MHz、N_(2)圧力0.04MPaの条件にて、シリカ粉末に噴霧した。その後、メチルエチルケトンに混合させて、固形分が70重量%のスラリーを調製後、ビーズミルを用いて、ビーズ径500μm、ビーズ充填率65vol%、周速7m/sec、流量4L/min、1Passの条件にて、分散させた。最後に、真空下、50℃にて、真空乾燥させることで、表面改質シリカ粉末を得た。
(2)実施例2
実施例1の表面処理において、被処理粉末を平均粒径0.3μm、BET比表面積13m^(2)/gの球状シリカ粉末(SFP-20M:電気化学工業社製)、シランカップリング剤として、10.2gのγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM-403」(信越化学工業株式会社製、分子量236.3)、1.4gのイオン交換水、2.3gのメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(3)実施例3
上記実施例1の表面処理において、シランカップリング剤として、2.7gのビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)を用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(4)実施例4
実施例1の表面処理において、被処理粉末を平均粒径0.3μm、BET比表面積13m^(2)/gの球状シリカ粉末(SFP-20M:電気化学工業社製)、シランカップリング剤として、6.4gのビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)、1.4gのイオン交換水、2.3gのメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(5)実施例5
実施例1の表面処理において、シランカップリング剤として、単位面積(nm^(2))あたり3.0個にあたる3.5gのN-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン「KBM-573」(信越化学工業株式会社製、分子量255.4)、0.74gのイオン交換水、0.44gのメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(6)実施例6
実施例1の表面処理において、被処理粉末を平均粒径0.3μm、BET比表面積13m^(2)/gの球状シリカ粉末(SFP-20M:電気化学工業社製)、シランカップリング剤として、単位面積(nm^(2))あたり2.0個にあたる5.5gのN-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン「KBM-573」(信越化学工業株式会社製、分子量255.4)、0.69gのイオン交換水、1.2gのメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(7)実施例7
実施例1の表面処理において、湿式分散機として、高圧式ホモジナイザーを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(8)実施例8
実施例1の表面処理において、被処理粉末を平均粒径0.3μm、BET比表面積13m^(2)/gの球状シリカ粉末(SFP-20M:電気化学工業社製)、湿式分散機として、高圧式ホモジナイザーを用いた以外は実施例2と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(9)実施例9
実施例1の表面処理において、被処理粉末を平均粒径0.1μm、BET比表面積45m^(2)/gの球状シリカ粉末(UFP-40:電気化学工業社製)、シランカップリング剤として、26.5gのγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM-403」(信越化学工業株式会社製、分子量236.3)、5.6gのイオン交換水、4.2gのメタノール、超音波ホモジナイザーを用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
【0033】
(比較例1?8)
(10)比較例1
実施例1の表面処理において、塩基性物質を用いなかった以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(11)比較例2
実施例2の表面処理において、塩基性物質を用いなかった以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(12)比較例3
実施例3の表面処理において、塩基性物質を用いなかった以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(13)比較例4
実施例5の表面処理において、塩基性物質を用いなかった以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(14)比較例5
実施例1の表面処理において、表面処理剤の噴霧方法として、2流体スプレーノズルによる液噴霧を用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(15)比較例6
実施例2の表面処理において、表面処理剤の噴霧方法として、2流体スプレーノズルによる液噴霧を用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(16)比較例7
実施例3の表面処理において、表面処理剤の噴霧方法として、2流体スプレーノズルによる液噴霧を用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(17)比較例8
実施例5の表面処理において、表面処理剤の噴霧方法として、2流体スプレーノズルによる液噴霧を用いた以外は実施例1と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(18)比較例9
実施例6の表面処理において、ビーズミルを用いなかった以外は実施例5と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
(19)比較例10
実施例5の表面処理において、表面処理剤の噴霧方法として、2流体スプレーノズルによる液噴霧を用いた以外は実施例5と同様にして、表面改質シリカ粉末を得た。
【0034】
比表面積とカーボン量の測定方法を下記に示す。
(比表面積測定)
球状シリカ粉末を1.0g計量し、測定用のセルに投入、前処理後、BET比表面積値を測定した。測定機は「Macsorb HM model-1208」(MACSORB社製)を使用した。以下の条件にて、前処理を行った。
脱気温度 :300℃
脱気時間 :18分
冷却時間 :4分
(カーボン量測定)
反応量測定用サンプルの前処理
スラリー5gにアセトン35gを混合後、振とう機を用いて、10分処理した。次に、遠心分離機を用いて、固液分離後、上澄み液を廃棄した。沈降物とアセトン35gを混合後、前記と同様な操作を行った。最後に、沈降物を乾燥させ、反応量測定用サンプルを得た。
カーボン量測定
炭素/硫黄同時分析計にLECO社製商品名「CS-444LS型」、炭素標準試料にJSS061-8を用いて、カーボン量を測定した。
【0035】
(樹脂硬化物の作製)
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON-850」(DIC株式会社製、エポキシ当量186g/eq)20.0質量部、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂「PSM-4261」(群栄化学工業株式会社製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)11.7質量部、硬化促進剤として2-フェニルイミダゾール(2PZ)「四国化成工業株式会社製」0.3質量部を表面改質シリカ粉末の製造過程で得られたスラリー組成物100質量部に溶解し、樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。この樹脂組成物を基材にアプリケーターを用いて塗布し、50℃下で真空脱泡後、温度150℃、2時間乾燥し、樹脂硬化物を得た。得られた樹脂組成物の流動性、分散性及び樹脂硬化物の成型性を以下に示す方法に従って評価した。それらの評価結果を表1?3に示す。
【0036】
樹脂組成物及び樹脂硬化物の評価方法を以下の(1)?(4)に示す。
(1)流動性/ワニス粘度
真空脱泡後の樹脂組成物をE型粘度計(東機産業株式会社製:TVE-10)にて20rpm時(測定温度25℃)の粘度を測定した。この際、1.0Pa・s以上を不良とした。
(2)分散安定性
得られた樹脂組成物を温度40℃、湿度80%下で1日静置後、粒度分布測定機「モデルLS-230」(ベックマン・コールター社製)により測定した。この際、5μm以上の位置に0.01%以上の粒度分布が存在した場合、不良とした。
(3)樹脂密着性/破断面SEM観察
実施例1、比較例1で製造した樹脂硬化物を破断して破断面をSEM(倍率:10000)にて、観察した。樹脂マトリックスからの粒子脱落度合いを比較した。粒子が脱落した形跡が1視野あたり5個以上存在する場合、不良とした。
(4)成形性/シリカ粒子の凝集物
得られた樹脂硬化物の面積1cm^(3)中に存在する10μm以上のシリカ粒子の凝集物の個数を表面形状検査システムKURASURF-PH(倉敷紡績株式会社製)を用いて、縞パターンを照射し位相差シフトを行うことで表面形状の凹凸を検出し、次の基準で成形性として評価した。
各符号は以下の評価基準である。
◎:10μm未満の凝集物なし
○:10μm未満の凝集物5個未満
×:10μm以上の凝集物5個以上
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
実施例および比較例の対比から明らかなように、本発明の球状シリカ粉末をエポキシ樹脂に充填した際には、球状シリカ粒子の分散が良好で、スラリー組成物の流動性が極めて高く、シリカ粒子の凝集物が少ない樹脂硬化物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のスラリー組成物、樹脂組成物は、例えば、プリント配線板等の電子機器分野において、半導体パッケージ基板に使用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解基としてトリメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子表面のシランカップリング剤の反応量(A)が単位表面積(nm^(2))あたり1.5?3.0個、非反応量(B)が単位表面積(nm^(2))あたり反応量(A)の0.1?0.6倍であり、BET比表面積が3?45m^(2)/gである表面改質球状シリカ粉末(ただし、▲1▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量255のフェニルアミノシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.30mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、▲2▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量236のエポキシシラン0.5部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.19mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」、及び▲3▼「BET比表面積が6.2m^(2)/gであるシリカ粒子100部を分子量341のビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン0.8部で表面処理した、単位表面積当たりのカーボン量が0.40mg/m^(2)である表面改質球状シリカ粉末」を除く。)。
【請求項2】
請求項1に記載の表面改質球状シリカ粉末を含むスラリー組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-29 
出願番号 特願2014-68657(P2014-68657)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 853- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯濱 翔太郎  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2018-06-08 
登録番号 特許第6347644号(P6347644)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 表面改質シリカ粉末及びスラリー組成物  
代理人 松本 悟  
代理人 松本 悟  

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