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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 一部申し立て 発明同一  B32B
管理番号 1368976
異議申立番号 異議2019-700795  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-03 
確定日 2020-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6500097号発明「透明プラスチックシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6500097号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6500097号の請求項1-6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6500097号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)9月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年9月30日、韓国、2015年9月30日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和1年10月3日に特許異議申立人山内博明(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年12月23日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年4月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、訂正の請求を「本件訂正請求」といいい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)を行った。

第2 本件訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下(1)?(4)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」及び「前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmである、透明プラスチックシート。」を、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」及び「前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである、透明プラスチックシート。」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項4及び請求項6についても、同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件訂正前、請求項2は請求項1を引用していたところ、引用関係を解消するとともに、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」及び「前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、」を、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」及び「前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前、請求項3は請求項1を引用していたところ、引用関係を解消するとともに、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」を、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前、請求項5は請求項1を引用していたところ、引用関係を解消するとともに、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」及び「前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、」を、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」及び「前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、」に訂正する。

2.一群の請求項
本件訂正前の請求項1?6において、請求項2?6は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされてないから、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項〔1?6〕を訂正単位とするものであり、訂正事項1?4は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に係る発明は「透明プラスチックシート」の発明であるところ、本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」を、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートでありと訂正することは、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでな」るものが「透明プラスチックシート」であることを強調し明らかにすることであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、本件訂正前の請求項1の「前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmである、透明プラスチックシート。」を「前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである、透明プラスチックシート。」に訂正することは、「透明プラスチックシート」を「前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである」と技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件訂正後の請求項1に係る発明は、実質的に、本件訂正前の請求項5に係る発明と同一のものであるから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2が請求項1を引用していたところ、引用関係を解消したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」を「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」と訂正することは、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでな」るものが「透明プラスチックシート」であることを強調し明らかにし、かつ「ポリメチルメタクリレート系樹脂層」について「ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成された」ものに技術的に限定することであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、引用元の本件訂正前の請求項1に係る発明は「透明プラスチックシート」の発明であり、本件特許明細書【0023】には「好適な一例として、本発明のPMMA層は120乃至135℃のガラス転移温度を有する。本発明において、上記の範囲のガラス転移温度を有するポリメチルメタクリレート系樹脂(以下、「PMMA樹脂」と略記する)は、例えば、スチレン系単量体並びにメチルメタクリレート及び無水マレイン酸を含む樹脂組成から得られた共重合体を挙げることができ、具体的な一例として、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸無水5乃至50重量%を重合して得られたものであり得る。」と記載され、【0042】には「<実施例1> ガラス転移温度147℃のポリカーボネート樹脂(LG化学製)と、ガラス転移温度129℃のPMMA樹脂(スチレン15乃至70%、メチルメタクリレート25乃至80%及び無水マレイン酸5乃至50%の三元共重合PMMA樹脂)をそれぞれ準備した。・・・」と記載されているから、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3が請求項1を引用していたところ、引用関係を解消したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」を「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」と訂正することは、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでな」るものが「透明プラスチックシート」であることを強調し明らかすることであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、本件訂正前の請求項3に係る発明について、特許異議の申立てはなされていないところ、訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条第9項において準用する同法第126条第7項の規定の適合・不適合については検討の必要がない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項5が請求項1を引用していたところ、引用関係を解消したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、引用元の本件訂正前の請求項1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなり、」を「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」と訂正することは、、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでな」るものが「透明プラスチックシート」であることを強調し明らかにし、かつ「ポリメチルメタクリレート系樹脂層」について「ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成された」ものに技術的に限定することであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、引用元の本件訂正前の請求項1に係る発明は「透明プラスチックシート」の発明であり、本件特許明細書【0023】には「好適な一例として、本発明のPMMA層は120乃至135℃のガラス転移温度を有する。本発明において、上記の範囲のガラス転移温度を有するポリメチルメタクリレート系樹脂(以下、「PMMA樹脂」と略記する)は、例えば、スチレン系単量体並びにメチルメタクリレート及び無水マレイン酸を含む樹脂組成から得られた共重合体を挙げることができ、具体的な一例として、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸無水5乃至50重量%を重合して得られたものであり得る。」と記載され、【0042】には「<実施例1> ガラス転移温度147℃のポリカーボネート樹脂(LG化学製)と、ガラス転移温度129℃のPMMA樹脂(スチレン15乃至70%、メチルメタクリレート25乃至80%及び無水マレイン酸5乃至50%の三元共重合PMMA樹脂)をそれぞれ準備した。・・・」と記載されているから、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件特許発明1]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである、透明プラスチックシート。」

[本件特許発明2]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記支持層が、ポリカーボネート系樹脂層からなる単層構造である透明プラスチックシート。」

[本件特許発明3]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記支持層が、2つのポリカーボネート系樹脂層、及び前記2つのポリカーボネート系樹脂層の間に介在するガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層を含む多層構造であり、
前記2つのポリカーボネート系樹脂層の間に位置するポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さが、シートの全厚の5乃至20%であることを特徴とする透明プラスチックシート。」

[本件特許発明4]
「前記透明プラスチックシートは、水分吸収率が、35℃の温度及び97%の相対湿度の条件下で0.15乃至0.2%であり、寸法変化率が、65℃の温度及び90%の相対湿度の条件下で0.2乃至0.25%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の透明プラスチックシート。」

[本件特許発明5]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hであることを特徴とする透明プラスチックシート。」

[本件特許発明6]
「前記透明プラスチックシートは、ASTM D790に基づく曲げ弾性率が1.6乃至2.3GPaであることを特徴とする、請求項1に記載の透明プラスチックシート。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1、2、4及び6に係る特許に対して、当審が令和1年12月23日付けで、特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1、2、4及び6に係る特許は、その特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)本件特許の請求項1、2、4及び6に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。よって、請求項1、2、4及び6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2.甲号証の記載
異議申立人が提出した甲第1号証である、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた国際特許出願PCT/JP2015/056387(国際公開WO2015/133530A1)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「本発明は、上記の目的を達成するため、メタクリル樹脂5質量%以上50質量%未満と、少なくとも下記一般式(a)で示される芳香族ビニル化合物(以下、「芳香族ビニル化合物(a)」と称する)に由来する構造単位および下記一般式(b)で示される酸無水物(以下、「酸無水物(b)」と称する)に由来する構造単位とよりなる共重合体(以下、「SMA樹脂」と称する)50質量%以上95質量%未満とを含有する樹脂組成物(以下、「樹脂組成物(1)」と称する)からなる層;と、ポリカーボネートからなる層;とを備える積層体を提供する。」([0007])
「上記メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含む樹脂である。
かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と称する)、・・・」([0013])
「上記SMA樹脂は、少なくとも芳香族ビニル化合物(a)に由来する構造単位と酸無水物(b)に由来する構造単位とよりなる共重合体である。」([0019])
「本発明の積層体が樹脂組成物(1)からなる層およびポリカーボネートからなる層のみを有する場合、樹脂組成物(1)からなる層を(1)、ポリカーボネートからなる層を(2)と表記すると、本発明の積層体の積層順序としては、(1)-(2);(1)-(2)-(1);(2)-(1)-(2);(1)-(2)-(1)-(2)-(1);などが挙げられ、耐擦傷性を高める観点から、(1)-(2);(1)-(2)-(1);(1)-(2)-(1)-(2)-(1);など、少なくとも一方の表面が樹脂組成物(1)からなる層となるように積層されていることが好ましい
。」([0057])
「以下、実施例などで本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
後述する製造例で得られた樹脂組成物、実施例および比較例で得られた積層体、並びに参考例で得られたシートの評価は以下の方法で行った。
・・・
〔全光線透過率〕
実施例および比較例で得られた積層体と、参考例で得られたシートを各々分光色差計SE5000 日本電色工業(株)製を使用し、JIS‐K7361に記載された方法に準拠して測定した。
〔反り変化量〕
実施例および比較例の積層体を押出流れ方向に対して平行な方向が短辺、押出流れ方向に対して垂直な方向が長辺となるように長方形に切り出して、短辺65mm、長辺110mmの試験片を作製した後、温度23℃、相対湿度50%の環境に24時間放置した。
ここにおいて、実施例1?4、比較例1,3にかかる試験片は、長辺に沿って、樹脂組成物(1)からなる層(または、その代わりに用いた樹脂組成物(1’)、またはSMA樹脂(A)からなる層)を内側、ポリカーボネートからなる層を外側にして弓状の反りを生じた。一方、比較例2にかかる試験片は、長辺に沿って、メタクリル樹脂からなる層を外側、ポリカーボネートからなる層を内側にして弓状の反り(すなわちその他の実施例1?4、比較例1,3にかかる試験片と逆方向の反り)を生じた。
定盤上に、かかる弓状の反りを生じた試験片の中央部が定盤に接するように(すなわち試験片が下向きの凸状となるように)置き、隙間ゲージを用いて試験片と定盤との隙間の最大値を測定し、この値を初期の反り量とした。
次いで、温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に短辺側をクリップで止めた試験片を吊り下げ、その状態で72時間放置した後、23℃環境下で4時間放冷した。その結果、実施例1?4、比較例1?3のすべての試験片は、試験片の長辺に沿って、樹脂組成物(1)からなる層(または、その代わりに用いた樹脂組成物(1’)、メタクリル樹脂またはSMA樹脂(A)からなる層)を内側、ポリカーボネートからなる層を外側にして弓状の反りを生じた。試験片と定盤との隙間の最大値を同様の方法で測定し、高温湿熱下での反り量とした。
初期の反り量と高温湿熱下での反り量の差[(高温湿熱下での反り量)-(初期の反り量)]を反り変化量として評価した。」([0077]-[0081])


」([0088])


」([0096])
「〔実施例1〕
軸径50mmの単軸押出機にポリカーボネート(住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー300-8」、Mw=50,000、ガラス転移温度=150℃、温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度280℃、吐出量30kg/時の条件にて溶融状態で押し出した。一方、軸径30mmの単軸押出機に樹脂組成物(1-1)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度220℃、吐出量2kg/時の条件にて溶融状態で押し出した。かかる溶融状態のポリカーボネートと樹脂組成物(1-1)をジャンクションブロックに導入し、250℃に設定したマルチマニホールドダイで積層し、シート状に押出成形し、厚さ60μmの樹脂組成物(1-1)からなる層(第一層)と厚さ940μmのポリカーボネートからなる層(第二層)との2層から形成される厚さ1000μmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表3に示す。また、別途作製した同一の2層構成の積層シートでの、層間密着性の評価結果も、併せて表3に示す。
〔実施例2〕
実施例1の樹脂組成物(1-1)の代わりに樹脂組成物(1-2)を使用した以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。かかる積層体の評価結果を表3に示す。また、別途作製した同一の2層構成の積層シートでの、層間密着性の評価結果も、併せて表3に示す。
〔実施例3〕
実施例1の樹脂組成物(1-1)の代わりに樹脂組成物(1-3)を使用した以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。かかる積層体の評価結果を表3に示す。また、別途作製した同一の2層構成の積層シートでの、層間密着性の評価結果も、併せて表3に示す。
・・・
〔実施例5〕
実施例1の樹脂組成物(1-1)の代わりに樹脂組成物(1-5)を使用した以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。かかる積層体の評価結果を表3に示す。また、別途作製した同一の2層構成の積層シートでの、層間密着性の評価結果も、併せて表3に示す。
〔実施例6〕
実施例1の樹脂組成物(1-1)の代わりに樹脂組成物(1-6)を使用した以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。かかる積層体の評価結果を表3に示す。また、別途作製した同一の2層構成の積層シートでの、層間密着性の評価結果も、併せて表3に示す。」([0097]-[0102])


」([0106])
「〔参考例1〕
樹脂組成物(1-1)を短辺110mm、長辺150mmの長方形状の金型枠に入れて、230℃、50kg/cm2にて、5分間、プレスし、厚さ2mm、短辺110mm、長辺150mmのシートを作製した。かかるシートの評価結果を表4に示す。
〔参考例2〕
樹脂組成物(1-1)を樹脂組成物(1-2)に代えた以外は、参考例1と同様にしてシートを作製した。かかるシートの評価結果を表4に示す。
〔参考例3〕
樹脂組成物(1-1)を樹脂組成物(1-3)に代えた以外は、参考例1と同様にしてシートを作製した。かかるシートの評価結果を表4に示す。
・・・
〔参考例5〕
樹脂組成物(1-1)を樹脂組成物(1-5)に代えた以外は、参考例1と同様にしてシートを作製した。かかるシートの評価結果を表4に示す。
〔参考例6〕
樹脂組成物(1-1)を樹脂組成物(1-6)に代えた以外は、参考例1と同様にしてシートを作製した。かかるシートの評価結果を表4に示す。」([0107]-[0112])


」([0116])

したがって、先願当初明細書等には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。
「表面が厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)と、厚さ940μmのポリカーボネートからなる層(第二層)との2層から形成される厚さ1000μmの積層体であり、樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)のガラス転移温度が、それぞれ135℃、132℃、128℃、130℃であり、積層体の全光線透過率がJIS‐K7361に記載された方法に準拠して測定して90-91%であり、樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)は、スチレン56質量%、無水マレイン酸18質量%、メタクリル酸メチル26質量%を共重合して得られたSMA樹脂(A)を含むものであり、温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に短辺側をクリップで止めた試験片を吊り下げ、その状態で72時間放置した場合に、反り変化量が0.0-0.4mmである積層体。」

3.当審の判断
(1)特許法第29条の2について
ア.本件特許発明1
本件特許発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「厚さ940μmのポリカーボネートからなる層(第二層)」は、本件特許発明1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層」に相当し、先願発明の、「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」は、「厚さ1000μmの積層体」における6%の厚さといえるから、「積層体」の「表面」であり、その「ガラス転移温度が、それぞれ135℃、132℃、128℃、130℃であ」り、「スチレン56質量%、無水マレイン酸18質量%、メタクリル酸メチル26質量%を共重合して得られたSMA樹脂(A)を含むものであ」る「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」は、「ガラス転移温度120乃至135℃」の範囲内にあり、その「厚さがシートの全厚の5乃至20%」の範囲内にあり、「スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたもの」を含むものであるから、本件特許発明1の、その「厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、」「スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであ」る「前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層」に相当するから、先願発明の「積層体」は、本件特許発明の「透明プラスチックシート」に相当する。
先願発明の「温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に短辺側をクリップで止めた試験片を吊り下げ、その状態で72時間放置した場合に、反り変化量が0.0-0.4mm」は、本件特許発明1の「85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mm」の範囲内にある。
以上のことから、本件特許発明1と先願発明とは、次の一致点で一致し、相違点1、2の点で相違する。
[一致点]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmである、透明プラスチックシート。」
[相違点1]
「シート全体の透過率」について、本件特許発明1は「ASTM D1003に基づいて89乃至94%」であるのに対し、先願発明は「JIS‐K7361に記載された方法に準拠して測定して90-91%」である点。
[相違点2]
「透明プラスチックシート」について、本件特許発明1は「表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである」であるのに対し、先願発明は、その点不明である点。

まず、相違点1について検討する。
JIS‐K7361の測定方法とASTM D1003の測定方法とは同一ではないため、その値は等価であるとはいえないが、同一の組成からなる樹脂であれば全光線透過率に違いはないであろうことや、先願当初明細書等の表4に記載された、先願発明の樹脂組成物を構成する「メタクリル樹脂」及び「SMA樹脂(A)」の全光線透過率と樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)の全光線透過率とを比較すれば、先願発明における「積層体」の「全光線透過率」は、本件特許発明1の「シート全体の透過率」の範囲内にある蓋然性が高いから、相違点1は、形式的なものに過ぎない。
次に、相違点2について検討する。
先願当初明細書等には、先願発明の「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」の表面硬度について記載されていないし、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
なお、相違点2に係る本件特許発明1の構成は、実質的に、特許異議の申立てがなされていない本件訂正前の請求項5で特定されていた事項である。
よって、本件特許発明1は、相違点2ゆえに先願発明であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

イ.本件特許発明2
本件特許発明2と先願発明とを対比する。
先願発明の「厚さ940μmのポリカーボネートからなる層(第二層)」は、本件特許発明1の「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層」に相当し、先願発明の、「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」は、「厚さ1000μmの積層体」における6%の厚さといえるから、「積層体」の「表面」であり、その「ガラス転移温度が、それぞれ135℃、132℃、128℃、130℃であ」り、「スチレン56質量%、無水マレイン酸18質量%、メタクリル酸メチル26質量%を共重合して得られたSMA樹脂(A)を含むものであ」る「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」は、「ガラス転移温度120乃至135℃」の範囲内にあり、その「厚さがシートの全厚の5乃至20%」の範囲内にあり、「スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたもの」を含むものであるから、その「厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、」「スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであ」る「前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層」である限りにおいて、本件特許発明2の、その「厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、」「スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであ」る「前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の」「ポリメチルメタクリレート系樹脂層」に一致し、その限りで、先願発明の「積層体」は、本件特許発明2の「透明プラスチックシート」に一致する。
先願発明の「温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に短辺側をクリップで止めた試験片を吊り下げ、その状態で72時間放置した場合に、反り変化量が0.0-0.4mm」は、本件特許発明2の「85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mm」の範囲内にある。
以上のことから、本件特許発明2と先願発明とは、次の一致点で一致し、相違点3、4の点で相違する。
[一致点]
「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmである、透明プラスチックシート。」
[相違点3]
「ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層」について、本件特許発明2は「三元共重合樹脂により形成された」ものであるのに対し、先願発明はそうではない点。
[相違点4]
「シート全体の透過率」について、本件特許発明2は「ASTM D1003に基づいて89乃至94%」であるのに対し、先願発明は「JIS‐K7361に記載された方法に準拠して測定して90-91%」である点。

相違点について検討する。
まず、相違点3について検討する。
先願当初明細書等には、先願発明の「厚さ60μmの樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)からなる層(第一層)」が「ガラス転移温度120乃至135℃の」「三元共重合樹脂により形成された」ものであることは記載されていないし、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
次に、相違点4について検討する。
JIS‐K7361の測定方法とASTM D1003の測定方法とは同一ではないため、その値は等価であるとはいえないが、同一の組成からなる樹脂であれば全光線透過率に違いはないであろうことや、先願当初明細書等の表4に記載された、先願発明の樹脂組成物を構成する「メタクリル樹脂」及び「SMA樹脂(A)」の全光線透過率と樹脂組成物(1-2)(1-3)(1-5)の全光線透過率とを比較すれば、先願発明における「積層体」の「全光線透過率」は、本件特許発明2の「シート全体の透過率」の範囲内にある蓋然性が高いから、相違点4は、形式的なものに過ぎない。
よって、本件特許発明2は、相違点3ゆえに先願発明であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

ウ.本件特許発明4
請求項4は請求項1?3のいずれかを引用する請求項であるから、本件特許発明4は、上記ア.及びイ.のとおり、相違点2又は相違点3ゆえに先願発明であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

エ.本件特許発明6
請求項6は請求項1を引用する請求項であるから、本件特許発明6は、上記ア.のとおり、相違点2ゆえに先願発明であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
本件訂正後の請求項1、2、4及び6には、「ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、」と記載されているから、本件訂正後の請求項1、2、4及び6「前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmである、」という記載の「前記透明プラスチックシート」の「前記」が指し示す記載は明らかとなっている。
よって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4及び6の記載は、明確である。

(3)小括
上記(1)及び(2)のとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4及び6の記載は、明確であり、本件特許発明1、2、4及び6は、
先願発明であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、2、4及び6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hである、透明プラスチックシート。
【請求項2】
ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記支持層が、ポリカーボネート系樹脂層からなる単層構造である透明プラスチックシート。
【請求項3】
ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記支持層が、2つのポリカーボネート系樹脂層、及び前記2つのポリカーボネート系樹脂層の間に介在するガラス転移温度120乃至135℃のポリメチルメタクリレート系樹脂層を含む多層構造であり、
前記2つのポリカーボネート系樹脂層の間に位置するポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さが、シートの全厚の5乃至20%であることを特徴とする透明プラスチックシート。
【請求項4】
前記透明プラスチックシートは、水分吸収率が、35℃の温度及び97%の相対湿度の条件下で0.15乃至0.2%であり、寸法変化率が、65℃の温度及び90%の相対湿度の条件下で0.2乃至0.25%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の透明プラスチックシート。
【請求項5】
ポリカーボネート系樹脂層を含む支持層と、前記支持層の上部に表面層として形成される、ガラス転移温度120乃至135℃の三元共重合樹脂により形成されたポリメチルメタクリレート系樹脂層とを含んでなる透明プラスチックシートであり、
前記ポリメチルメタクリレート系樹脂層の厚さがシートの全厚の5乃至20%であり、
シート全体の透過率がASTM D1003に基づいて89乃至94%であり、
前記三元共重合樹脂は、スチレン15乃至70重量%、メチルメタクリレート25乃至80重量%及び無水マレイン酸5乃至50重量%を重合して得られたものであり、
前記透明プラスチックシートは、85℃の温度及び85%の相対湿度で72時間放置する条件下での反りの程度が0.0乃至0.5mmであり、
前記透明プラスチックシートは、表面層としてのポリメチルメタクリレート系樹脂層の表面硬度が、ASTM D3363に基づく鉛筆硬度でH乃至2Hであることを特徴とする透明プラスチックシート。
【請求項6】
前記透明プラスチックシートは、ASTM D790に基づく曲げ弾性率が1.6乃至2.3GPaであることを特徴とする、請求項1に記載の透明プラスチックシート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-01 
出願番号 特願2017-517319(P2017-517319)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (B32B)
P 1 652・ 537- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 石井 孝明
杉山 悟史
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6500097号(P6500097)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 透明プラスチックシート  
代理人 山下 託嗣  
代理人 山下 託嗣  

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