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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G05B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G05B |
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管理番号 | 1369006 |
異議申立番号 | 異議2019-700866 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-05 |
確定日 | 2020-11-02 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6523854号発明「最適制御装置、最適制御方法、コンピュータプログラム及び最適制御システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6523854号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3-6〕、2、7-9について訂正することを認める。 特許第6523854号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6523854号の請求項1ないし9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年7月29日に出願され、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和1年6月5日に特許掲載公報が発行されたところ、その特許について、令和1年11月5日に特許異議申立人・吉田秀平(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(以下、「異議申立」という。)がされた。 その後の主な手続きの経緯は、次のとおりである。 令和 2年 3月18日付け:取消理由通知 令和 2年 5月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書 の提出 令和 2年 9月 4日 :異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1.一群の請求項〔1-6〕に係る訂正 (1)訂正の内容 一群の請求項1-6について本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線部は、特許権者が、訂正事項について付したものである。) なお、訂正後の請求項2に係る訂正(訂正事項2)について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求めている。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「を備える最適制御装置。」と記載されているのを、 「を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御装置。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?請求項6も同様に訂正する)。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定する、 請求項1に記載の最適制御装置。」と記載されているのを、 「制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部と、 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定する、最適制御装置。」に訂正する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「請求項1又は2に記載の」と記載されているのを、 「請求項1に記載の」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?請求項6も同様に訂正する)。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1から3のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、 「請求項1又は3に記載の」に訂正する。(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?請求項6も同様に訂正する)。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に 「請求項1から4のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、 「請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、本件特許明細書の段落【0011】、【0014】、【0023】、【0024】、【0056】に基づいて、訂正前の請求項1に係る発明に対して、「極値制御部」が、「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え」ること、「制御対象パラメータ決定部」が、「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」すること、及び、「極値制御パラメータ決定部」が、「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する」ことを構成として付加して減縮するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?請求項6についても同様である。 イ 訂正事項2について 訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、特許請求の範囲の請求項2について、請求項1との引用関係を解消するものであるから、引用関係の解消を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項3-5について 訂正事項3-5は、訂正前の請求項3-5に係る発明が訂正前の請求項2に係る発明を含む多数請求項を引用する形式であったものを、請求項間の引用関係を変更し、請求項2に係る発明を引用しないものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 上記のとおり、訂正事項1-5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の一群の請求項〔1、3-6〕及び請求項2について訂正することを認める。 2.請求項7に係る訂正 (1)訂正の内容 請求項7について本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項6のとおりである。 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に 「を有する最適制御方法。」と記載されているのを、 「を有し、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御方法。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項6について 訂正事項6に係る請求項7についての訂正は、本件特許明細書の段落【0011】、【0014】、【0023】、【0024】、【0056】に基づいて、訂正前の請求項7に係る発明に対して、「極値制御ステップ」では「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行」すること、「制御対象パラメータ決定ステップ」では「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」すること、及び、「極値制御パラメータ決定ステップ」では「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する」ことを構成として付加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 上記のとおり、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 3.請求項8に係る訂正 (1)訂正の内容 請求項8について本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項7のとおりである。 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に 「をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。」と記載されているのを、 「をコンピュータに実行させ、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定するためのコンピュータプログラム。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項7について 訂正事項7に係る請求項8についての訂正は、本件特許明細書の段落【0011】、【0014】、【0023】、【0024】、【0056】に基づいて、訂正前の請求項8に係る発明に対して、「極値制御ステップ」では「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行」すること、「制御対象パラメータ決定ステップ」では「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」すること、及び、「極値制御パラメータ決定ステップ」では「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する」ことを構成として付加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 上記のとおり、訂正事項7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8について訂正することを認める。 4.請求項9に係る訂正 (1)訂正の内容 請求項9に係る本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項8のとおりである。 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に 「を備える、 最適制御システム。」と記載されているのを、 「を備え、 前記第2の極値制御装置は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する、 最適制御システム。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項8について 訂正事項8に係る請求項9についての訂正は、本件特許明細書の段落【0011】、【0014】、【0023】、【0024】、【0056】、【0101】に基づいて、訂正前の請求項9に係る発明に対して、「第2の極値制御部」が「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え」ること、「制御対象パラメータ決定部」が「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」すること、及び、「極値制御パラメータ決定部」が「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する」ことを構成として付加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 上記のとおり、訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9について訂正することを認める。 5.まとめ 以上のとおり、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3-6〕、2、7-9について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ請求項に付された番号に従い、「本件特許発明1」などという。)は、令和2年5月22日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部と、 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御装置。 【請求項2】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部と、 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定する、最適制御装置。 【請求項3】 表示部に、前記極値制御パラメータ決定部によって決定された現在の極値制御パラメータと、前記極値制御パラメータ決定部によって新たに決定された極値制御パラメータと、 に関する情報を比較可能な態様で表示させるための情報を生成する表示制御部をさらに備える、 請求項1に記載の最適制御装置。 【請求項4】 前記極値制御パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの動作点に応じて、前記制御対象パラメータ及び前記極値制御パラメータの複数のパラメータセットを取得し、 前記極値制御部は、前記制御対象プロセスの動作点に応じた極値制御パラメータで極値制御を実行する、 請求項1又は3に記載の最適制御装置。 【請求項5】 前記極値制御部は、現在の極値制御に使用している極値制御パラメータと、前記極値制御パラメータ決定部によって新たに決定された極値制御パラメータと、の差が所定の閾値を越えた場合に前記新たに決定された極値制御パラメータで極値制御を実行する、 請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の最適制御装置。 【請求項6】 現在の極値制御に使用されている極値制御パラメータと、前記新たに決定された極値制御パラメータと、の差が所定の閾値を越えたことを通知する通知部をさらに備える、 請求項5に記載の最適制御装置。 【請求項7】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定ステップと、 前記制御対象パラメータ決定ステップにおいて決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定ステップと、 前記極値制御パラメータ決定ステップにおいて決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御ステップと、 を有し、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御方法。 【請求項8】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定ステップと、 前記制御対象パラメータ決定ステップにおいて決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定ステップと、 前記極値制御パラメータ決定ステップにおいて決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御ステップと、 をコンピュータに実行させ、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定するためのコンピュータプログラム。 【請求項9】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 を備える第1の極値制御装置と、 前記第1の極値制御装置によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する第2の極値制御装置と、 を備え、 前記第2の極値制御装置は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する、 最適制御システム。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3-9に係る特許に対して、当審が令和2年3月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1、3-9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3-9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2.甲号証の記載 (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証(特許第5300827号公報。以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 ア 「【0001】 本発明の実施形態は、生物学的廃水処理装置に関する。 【背景技術】 【0002】 下水処理や排水処理においては、生活廃水や工場排水等の下水中に含まれる有機物、窒素(アンモニア)、リンなどを除去するために、微生物の代謝を利用した生物学的処理が行われている。特に、生活廃水などの比較的低負荷の廃水では、酸素を利用する好気性微生物を利用したいわゆる好気処理が行われている。典型的な好気処理法として、主に有機物の除去を目的とした標準活性汚泥法や、窒素やリンの除去も同時に行うことを目的とした嫌気-無酸素-好気法(A2O法)、嫌気-好気法(AO法)、循環式消化脱窒法などの高度処理法が採用されることが多い。近年は、有機物に加えて窒素やリンに関する規制も導入されることが多いため、高度処理が普及している。高度処理プロセスでは、流入下水は最初沈殿池で沈殿汚泥が除去された後、嫌気槽、無酸素槽、好気槽などの反応槽で微生物により有機物や窒素・リンが除去されると同時に微生物の集合体であるフロック(活性汚泥と呼ばれる)が形成される。フロックは最終沈殿池で沈殿し、その大部分は返送汚泥として反応槽に戻され、その一部は余剰汚泥として集められて脱水・濃縮の後焼却処理される。 【0003】 好気槽では好気性微生物に酸素を供給するためブロワによる曝気が通常行われている。その主な目的は有機物除去、アンモニアを硝酸に変化させる硝化反応の促進、および微生物によるリンの吸収である。嫌気槽や無酸素槽の状態を制御するために循環ポンプや返送ポンプのポンプ制御により循環量や返送汚泥量が調整され、場合によってはメタノールや酢酸などの炭素源や凝集剤など薬品の投入を行うこともある。この主な目的は、好気槽でリンを大量に吸収するための嫌気槽におけるリン吐出や無酸素槽における硝酸の窒素ガスへの還元である。従って、曝気、返送・循環ポンプ、薬品投入は有機物や窒素やリンの除去を確実に実施できるように適切に制御する必要がある。」 イ 「【0006】 実施形態の目的は、N_(2)Oガスの発生と処理性能(窒素やリンの除去性能)やコストを全体で評価した最適な生物学的廃水処理装置を提供することにある。 【0007】 実施形態によれば、下水又は排水を生物学的に処理する生物学的廃水処理装置において、下水又は排水を収容する最初沈殿池、有機物を利用して下水又は排水中の硝酸の脱窒を行う無酸素槽、好気槽、及び最終沈殿池を順次接続した生物学的廃水処理部と、前記好気槽での曝気量を制御する曝気量制御装置と、前記好気槽で生成された硝酸を含む循環液の前記好気槽から前記無酸素槽への循環量を制御する循環量制御装置と、前記無酸素槽への薬品投入量を制御する薬品投入量制御装置と、N_(2)O発生量をコストに換算する第1のコスト計算部と、前記曝気量制御装置、前記循環量制御装置及び前記薬品投入量制御装置に基づく電力料金と前記薬品投入量制御装置に基づく薬品費を計算する第2のコスト計算部と、放流水の水質に基づいて排水賦課金を計算する第3のコスト計算部と、前記各コスト計算部によってリアルタイムに又は一定の周期で計算されるコストが最小になるように前記各制御装置の制御量を制御し、かつコストを最小化するために前記生物学的廃水処理部に前記曝気量制御装置で制御された曝気量、前記循環量制御装置で制御された循環量及び前記薬品投入量制御装置で制御された薬品投入量を操作量として出力するコスト最小化制御部と、連続計測している酸化還元電位、浮遊物量、溶存酸素濃度のプロセス値、汚泥滞留時間、好気槽汚泥滞留時間又は水理学的滞留時間の上下限値に基づく制約条件をペナルティ法でコストに換算した上で、前記各コスト計算部に基づく前記コスト最小化制御部のコストの最小値を自動的に探索、実現するための極値制御部とを具備することを特徴とする生物学的廃水処理装置が提供される。」 ウ 「【0009】 以下に、本実施形態に係る生物学的廃水処理装置について詳細に説明する。 (1) 上述したように、生物学的廃水処理装置は、生物学的廃水処理部と、曝気制御装置,循環量制御装置及び薬品投入量制御装置の少なくともいずれか一つの制御装置と、第1のコスト計算部,第2のコスト計算部及び第3のコスト計算部の少なくともいずれか一つのコスト計算部と、コスト最小化制御部とを備えている。 こうした構成によれば、N_(2)Oガス発生による地球温暖化防止、放流水質による環境負荷の低減または運転コストを考慮し、コストを最小化するような最適な生物学的廃水処理プロセス制御が可能になる。 【0010】 (2) 上記(1)のコスト最小化制御部において、コストをリアルタイムに計測・計算する手段を備え、リアルタイムに計算されるコストが減少するように、コストの最小値(極小値)を自動的に探索する極値制御(Extreme Seeking Control)することが好ましい。 これにより、上記(1)の効果に加えて、コストをリアルタイムに計測・計算する手段を持つだけで、N_(2)Oガス発生の抑制を含むコスト最小化制御を自動的に達成することができる。 【0011】 (3) 前記総コスト計算部に加えて、コストには直接的に換算されないが連続計測しているプロセス値に関する制約条件を持ち、この制約条件を数理計画法で用いられる手法(ペナルティ法など)を用いてコストに換算した上で、コストの最小値を自動的に探索する極値制御部を有することが好ましい。 こうした構成によれば、例えば、酸化還元電位差(ORP)、溶存酸素濃度(DO)、浮遊物量(MLSS)など通常の生物学的廃水プロセスで計測しているプロセス値の管理範囲を制御に組み込んだうえで上記(2)の効果を出すことができる。」 エ 「【0018】 (9)上記(1)において、オペレータが監視するための監視画面を有する表示手段を備えていることが好ましい。 こうした構成によれば、上記(1)の効果に加えて、プラントを監視運用するオペレータに現在の操作量の値とコストの関係を視覚的に訴えることができ、オペレータがどのような操作量がコストの最小化にとって良いのかを学習することができる。」 オ 「【0026】 前記コスト計算部5は、第1のコスト計算部(N_(2)Oコスト計算部)25と、第2のコスト計算部(運転コスト計算部)26と、第3のコスト計算部(水質コスト計算部)27とから構成されている。ここで、N_(2)Oコスト計算部25は、N_(2)O連続計測部2で計測したN_(2)Oガス量をコストに換算する機能を有する。前記運転コスト計算部26は、プロセス値記憶部3に蓄積された,主にブロワ19,循環ポンプ20,返送汚泥ポンプ21,余剰汚泥引き抜きポンプ22及び薬品投入ポンプ23の各機器に付随して計測している曝気量・流量・投入量データと機器のスペック等に基づくブロワ19や各ポンプの電力料金と、炭素源や凝集剤などの薬品費を計算する機能を有する。水質コスト計算部27は、プロセス値記憶部3に蓄積された,放流水質・水量センサー18で計測された窒素,リン,COD,BOD,SSなどの放流水質と水質推定部4で推定された放流水質推定値から排水賦課金(又は環境税)を計算する機能を有する。 【0027】 前記総コスト最小化制御部6は、コスト計算部5でリアルタイムに、好ましくは所定の周期で算出された総コスト値に基づいて、この総コストを最小化するように、ブロワ19を制御する爆気制御部28と、循環ポンプ20を制御する循環制御部29と、薬品投入ポンプ23を制御する薬品制御部30とから構成されている。」 カ 「【0031】 (3)コスト計算部5では、まず、N_(2)Oコスト計算部25において、計測したN_(2)O濃度をコストに換算する。この具体的な方法としては、例えば、以下のような方法を用いることができる。 最初に、N_(2)Oガスは温室効果ガスとしての温暖化係数がCO_(2)の310倍であると言われているので、N_(2)Oガス濃度を310倍してCO_(2)濃度に換算する。次に、CO_(2)濃度を金額換算する。CO_(2)濃度を金額換算する方法としては、例えば、発電に伴うCO_(2)発生量を逆算して、発電に伴うコストとして換算する方法を適用できる。例えば、平成20年12月19日の環境省報道発表資料によると、東京電力の係数は0.425kg-CO_(2)/kWhである。一方、電気料金は各電力会社の電気料金から換算できる。例えば、平均的に12円程度であるとの報告もあるので、ここでは仮に12円/kWhを採用する 。そうすると、N_(2)Oコスト計算部25では、下記(1)式のようにN_(2)Oコストを計算することができる。 【0032】 単位時間当たりのN_(2)Oコスト(円/単位時間) =単位時間に計測したN_(2)ガス濃度×容積×310÷0.425×12 …(1) これが、N_(2)Oコスト計算部25の作用である。もちろん、他の方法でコスト換算を行っても良く、例えば、CO_(2)に一旦換算した後に排出権取引のような仕組みでコストに換算しても良い。但し、本実施形態では、運転に関わる電力コストと温暖化ガスの効果を同じ次元のコストとして評価しようと考えているので、上記(1)式のような換算を用いることがより好ましい。 【0033】 (4)運転コスト計算部26では、曝気やポンプにかかわる運転コストを計算する。例えばブロワやポンプのコストは、実際にブロワやポンプの電力量が計測されている場合には 、下記(2)式のように、その電力量に対して上記の電気料金を乗じることによって計算できる。 単位時間当たりのブロワ(又はポンプ)コスト(円/単位時間) =単位時間当たりのブロワ(又はポンプ)の消費電力量×12 …(2) もし、電力量が計測されておらず、ブロワ風量やポンプ流量のみが計測されている場合には、ブロワやポンプの定格値や過去の実績値などから風量・流量と電力量の関係を予め算出しておき、これを用いて下記(3)式のように計算することができる。 【0034】 単位時間当たりのブロワ(又はポンプ)コスト(円/単位時間) =単位時間当たりのブロワ風量(又はポンプ流量)×電力換算係数×12 …(3) 電力換算係数は該当するブロワやポンプの特性や定格によって異なるが、例えば典型的な下水処理場の例として0.02kwh/m^(3)?0.03kwh/m^(3)程度で電力換算する。また、ブロワ19と循環ポンプ20のコストは明らかに窒素除去に関連する。しかし 、返送汚泥ポンプ21と余剰汚泥引き抜きポンプ22は、窒素除去のために積極的に制御することはあまり多くないため、これらのコストは無視することもできる。 【0035】 なお、薬品としてメタノールやエタノール、あるいは酢酸を用いる場合には、これらの薬品の投入量に薬品単価を乗ずることによって薬品コストを算出することができる。メタノール等の炭素源以外に凝集剤や次亜塩素酸ソーダなども採用している場合には、これらも下記式(4)のようにコスト換算することができる。しかし、窒素除去とほとんど相関しない薬品についてはこれを無視することもできる。 単位時間当たりの薬品コスト=単位時間当たりの薬品投入量化×薬品単価 …(4) 以上が運転コスト計算部26の作用である。 【0036】 (5)水質コスト計算部27では、放流水質としてSS,COD,BOD,COD,全窒素(TN)、全リン(TP)に関するコストを例えば排水賦課金(又は環境税)の考え方に基づいて計算する。排水賦課金は日本では導入されていないが、例えばデンマークやドイツなどのヨーロッパ諸国では導入されており、その詳細なしくみは国によって異なるが 、基本的には単位排出量に対して一定の賦課金を課すものであり、このような考え方は様々な文献にも開示されている。 【0037】 これらの水質コストは、基本的には以下の式で計算できる。 単位時間当たりの水質コスト =単位時間当たりのSS負荷量×SSコスト換算係数+ 単位時間当たりのCOD負荷量×CODコスト換算係数+ 単位時間当たりのBOD負荷量×BODコスト換算係数+ 単位時間当たりのTN負荷量×TNコスト換算係数+ 単位時間当たりのTP負荷量×TPコスト換算係数 各コストの換算係数は、実際の排水賦課金に基づいて決定しても良いし、上記文献に示されているような値を用いても良い。なお、本実施形態では、この水質コスト計算において、各水質(SS、COD,BOD,TN,TP)の計測値を用いずに、水質推定部4によって推定した値を用いて計算する。但し、推定値を用いるか用いないかにかかわらず、上記計算によって水質コストが算出できる。これが水質コスト計算部27の作用である。 【0038】 以上、N_(2)Oコスト計算部25、運転コスト計算部26、水質コスト計算部27で計算された全てのコストを加え合わせることによって、運転コストと放流水質と温室効果ガス排出量削減を全て考慮した総コストが算出できる。これが、コスト計算部5の作用である 。 【0039】 (6)総コスト最小化制御部6では、コスト計算部5で計算した総コストが最小になるようにブロワ19による曝気量、循環ポンプ20による循環量、および薬品投入ポンプ23による薬品投入量を制御する。この際、総コストを最小化するように、以下に示す極値制御方式を用いることができる。 極値制御は、総コストなど何らかの最小化あるいは最大化評価指標が与えられた場合に 、その評価指標をリアルタイムに計測しながら、その極値(局所的な最大値あるいは最小値)を自動的に探索しながら、操作量を調整していく制御方式である。 【0040】 極値制御の基本的な考え方を図2に示す。極値制御では、曝気量や循環量あるいは薬品投入量などの操作量に対して微小な増減動作を正弦波などで強制的に入力する。例えば、曝気量を微小量増加させたり減少させたりという周期的な操作を常に入力する。その際、総コストなどの評価指標が最小値(あるいは極小値=局所的な最小値)を持てば、総コストは図2に示すような下側に凸(=凹)のようなグラフを描く。但し、このグラフは必ずしも左右対称では無いし、そもそもどの点に極小値を持つのかを、制御をしようとする人間あるいはコントローラはわかっていない。わかっているのは、どこかに極小値が存在するはずであるという事実だけである。 【0041】 今、操作量に微小な周期的な増減変動を与えているので、もし、操作量が極小値(点P)より右側に存在すれば、操作量の増加と総コストの増加の方向は一致する。即ち、操作量の周期変動(a)と総コストの周期変動(b)は同位相となる。一方、操作量が極小値より左側に存在すれば、操作量の増加と総コストの増加の方向は逆になる。即ち、操作量の周期変動(c)と総コストの周期変動(d)は逆位相となる。この性質を利用すれば、総コストと操作量が同位相で変動する場合には操作量を減少させ、総コストと操作量が逆位相で変動する場合には、操作量を増加するように調整する機構を導入すれば、コストの最小値を自動的に探索することができる。これが極値制御の基本的な考え方である。 【0042】 しかし、実際のプロセスでは、操作量を変化させた場合に、直ちにコストが変化するわけではなく、時間遅れあるいはダイナミクスが存在するため、このような単純な操作で極値が探索できるわけではなく、場合によっては制御系が発散してしまう(不安定化してしまう)こともある。この極値制御の基本的な考え方は、最近改めて注目を集めている制御手法である。 【0043】 この極値制御の基本的な考え方を図3に示す。図3において、sは積分演算子を示し、a,ω,ω1,ω2は夫々パラメータである。この極値制御系において、操作量を曝気量 、循環量、薬品投入量とすることによって、曝気制御部28、循環制御部29、薬品制御部30を実現することができる。図3の評価量としては、コスト計算部5で計算した総コストを各制御部の共通の指標とすることもできるが、各々の制御に強い相関を持つ量を抽出あるいは置換して指標とすることもできる。」 キ 「【0047】 上記実施形態によれば、以下に述べる効果を有する。 (1) N_(2)Oガス発生による地球温暖化防止と放流水質による環境負荷の低減と運転コストを全体的に考慮し、全体のコストを最小化するような最適な生物学的廃水処理装置が得られる。 (2)N_(2)Oコストと水質コストと運転コストからなる総コストをオンラインで連続的に計測あるいは計算することができ、N_(2)Oガスの発生機構や生物学的処理プロセスの処理メカニズムを全く知らなくても、あるいは、概要がわかっているだけであっても、自動的に総コストを最小化するような制御系を構築できうる。」 ク 「【0051】 また、上記実施形態では、コスト計算部にN_(2)Oに関連するコストと運転コストと水質コストを考慮して総コストを算出する場合について述べたが、これに限らず、以下に述べる制約条件を組み込む方法を採用することもできる。即ち、上記のN_(2)Oに関連するコストと運転コストおよび水質コスト以外に、生物学的廃水処理プロセスでは、ORPやMLSSあるいはDOというプロセスの管理指標があり、これらの値は一定値で制御されているか、通常適正な範囲で管理される。通常ORPは、例えば-300mV?-200mV程度などの適正な範囲で管理されている。MLSSは、例えば冬場で2000mg/L?2500mg/L、夏場で1500mg/L?2000mg/Lなどの適正範囲で管理されている場合と一定値制御されている場合が多い。DO値は一定値制御されている場合が多いが、一定値制御をするための操作量は曝気量である。 【0052】 上記実施形態によって曝気量を制御する場合には、DOを同時に一定値制御することはできないため、例えば、1mg/L?5mg/L程度の適正範囲に管理する必要がある。また、直接計測する指標以外に、汚泥滞留時間(SRT)や好気槽汚泥滞留時間(ASRT)や水理学的滞留時間(HRT)などの管理指標もある範囲内に管理されている。これらはコストでは無いが、上下限値を持つ一種の制約条件と考えることができる。 【0053】 ところで、最適化手法の一つとして、制約条件を評価関数(上記総コストに相当)の中に組み込む方法としてペナルティ法や拡大ラグランジュ関数法が知られている。中でもペナルティ法は制約条件外に無限大のコストを割り当てるという直観的にも理解しやすい方法であると同時に、最適化のアルゴリズムとは無関係に定義することができるというメリットがある。代表的なペナルティ法としては、内点ペナルティ法、外点ペナルティ法、指数ペナルティ法、精密ペナルティ法などが知られているが、上記のようなORP、MLSS,DO,SRT,ASRT,HRTなどの管理指標をこのペナルティ関数を用いることによって総コストに組み込むことができる。これにより、直接的にはコストに関連しないが、ある範囲内に存在しなければならない管理指標を下記で示す制御アルゴリズムを変更することなく制御の中に組み込むことができる。」 ケ 「【0062】 上記実施形態において、図6に示すように、総コストの推移と循環量,曝気量,薬品投入量及び分配比との夫々の関係を常に示す監視画面を有する表示手段を備えていることが好ましい。また、図7に示すように、曝気量と時間,循環量と時間,総コストA,Bと時間との関係を示す監視画面を有する表示手段を備えていることが好ましい。図6や図7の監視画面をSCADAなどの監視制御システム上で監視することにより、オペレータがどのような操作量が総コストの最小化にとってよいのかを学習することができる。」 (2)甲1の記載事項から認定できる事項 上記(1)カ(【0043】)の記載事項及び図3から、極値制御において、評価量に対して、「s/(s+ω2)」、「ω1/(s+ω1)」及び「1/s」(sが積分演算子、ω1,ω2は夫々パラメータ。)を算出する部分を有しているところ、技術常識から見て、それぞれ、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、積分器を示すものと認められる。 【図3】 (3)甲1に記載された発明 以上によれば、甲1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「生物学的廃水処理プロセスの曝気量、循環量、薬品投入量などの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づくN_(2)Oコスト、水質コスト及び運転コストからなる総コストとに基づいて、前記総コストが最小値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する総コスト最小化制御部6、を備え、極値制御では、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、積分器を用いる生物学的廃水処理装置。」 3.当審の判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「生物学的廃水処理プロセス」は、本件特許発明1の「制御対象プロセス」に相当し、以下同様に、「曝気量、循環量、薬品投入量などの操作量」は「操作量」に、「N_(2)Oコスト、水質コスト及び運転コストからなる総コスト」は極値制御によって最小値を探求されるものであるから「制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量」に、「総コスト」は「評価量」に、「最小値」は「最適値」に、「極値制御を実行する総コスト最小化制御部6」は「極値制御を実行する極値制御部」に、「生物学的廃水処理装置」は総コストを最小化する総コスト最小化制御部を包含するから「最適制御装置」に、それぞれ相当する。 そうすると、本件特許発明1と引用発明とは以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。 [一致点] 「制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器 を備える最適制御装置。」 [相違点1] 本件特許発明1は、「前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部」と、「前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部」とを有し、「前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて」極値制御を実行するとともに、「前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」し、「前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定」するのに対し、引用発明は、制御対象プロセスの操作量(曝気量、循環量、薬品投入量などの操作量)と評価量(N_(2)Oコスト、水質コスト及び運転コストからなる総コスト)とに基づいて極値制御を実行しているものの、その実行過程において、「制御対象パラメータ決定部」及び「極値制御パラメータ決定部」による「決定」を介在しているのか不明であるとともに、「制御対象パラメータ決定部」が「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定」し、「極値制御パラメータ決定部」が「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定」することが記載されていない点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 本件特許発明1は、「極値制御パラメータ決定部」において、「制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する」ものである。さらに、本件特許発明1において、該「制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータ」は「少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間」であるとともに、「決定」される「極値制御パラメータ」は「前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値」である。 すなわち、本件特許発明1には、少なくとも制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて、極値制御パラメータとして、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を決定することが特定されているといえる。 他方、甲1には、少なくとも制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて、極値制御パラメータとして、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を決定するようなことは記載も示唆もされていない。 また、極値制御において、制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて、極値制御パラメータとして、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を決定することが、公知又は周知の技術的事項であることを示す証拠も見当たらない。 してみると、本件特許発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明3-6について 本件特許発明3-6は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを包含した発明であって、引用発明とは、本件特許発明1の相違点1と同じ相違点を有するものである。 したがって、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明3-6は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明7-9について 本件特許発明7-9は、最適制御装置に関する発明である本件特許発明1とは、カテゴリー又は対象が、それぞれ、最適制御方法、コンピュータプログラム、最適制御システムと異なるものの、実質的に本件特許発明1と同様の発明特定事項を具備するものといえるから、本件特許発明7-9と引用発明とは、実質的に上記(1)アで示したのと同様の一致点で一致し、相違点1と同様の相違点を有するものと認められる。 したがって、上記(1)イで示したのと同様の理由により、本件特許発明7-9は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.異議申立人の意見について (1)異議申立人の意見の概要 本件特許発明1、3-9の進歩性について 異議申立人は、令和2年9月4日に提出の意見書において、甲1に記載された発明において、コスト計算部で算出した値を最小にするための極値制御パラメータを決定するコスト最小化制御部の機能は、本件特許発明1の「極値制御パラメータ決定部」における「前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する」機能に相当する旨、及び、極値制御において「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器」を備えること、及び、制御系における時間遅れやダイナミクスを調整するためのパラメータとして、「時定数」や「むだ時間」を用いること、並びに、極値制御に用いるパラメータとして、「ディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値」の公知の指標を採用することは、本件特許の出願日前の周知技術(参考資料1-3を参照。(参考資料4は、参考資料3の摘記部分の翻訳文))であるから、甲1に記載された発明に参考資料1-3の技術的事項を適用して本件特許発明1とすることは、当業者が容易になし得るものである旨及び本件特許発明3-9については当審で通知した取消理由通知のとおりである旨の主張をしている。 参考資料1:特開2014-81821号公報(甲第2号証と同じ。) 参考資料2:特許第2585294号公報(甲第3号証と同じ。) 参考資料3:Thomas E. Marlin, Process Control: Designing Processes and Control Systems for Dynamic Performance (2nd edition), 2000, 365-367(甲第4号証と同じ。) (参考資料4:参考資料3における摘記部分の翻訳文、甲第6号証と同じ。) (2)異議申立人の意見についての検討 異議申立人が上記意見書で添付した参考資料1-4は、異議申立人が異議申立書に証拠として添付した甲第2ないし4号証及び甲第6号証(以下、以下、それぞれ甲号証に付された番号に従い、「甲2」などという。)であるが、上記3.(1)イに説示したとおり、極値制御において、少なくとも制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて、極値制御パラメータとして、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を決定することは、異議申立人が提出した参考資料1-4を含めていずれの文献にも記載も示唆もされておらず、公知又は周知の技術的事項とはいえないものである。 すなわち、参考資料1-4(甲2-4、6)は、一般的なPID制御を用いたフィードバック制御において、制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて制御を行うことは開示するものの、極値制御におけるディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を決定するために、少なくとも制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータを用いることを開示するものではない。 したがって、引用発明(甲1に記載された発明)に参考資料1-4の技術的事項を適用しても、本件特許発明1の構成に至るものとはいえず、異議申立人の主張は採用できない。 また、本件特許発明3-9は、実質的に、本件特許発明1と同様の発明特定事項を包含しているといえるから、同様の理由により、引用発明(甲1に記載された発明)に参考資料1-4(甲2-4、6)の技術的事項を適用しても、本件特許発明3-9の構成に至るとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった異議申立の理由について 1.請求項1、4、7-9の新規性について 異議申立人は異議申立書において、本件特許発明1と甲1に記載された発明とは、相違点1-1ないし相違点1-4で相違するもののいずれも実質的な相違点ではないため、本件特許発明1は甲1に記載された発明である旨を、異議申立ての理由として主張している。 しかしながら、本件特許発明1と引用発明(甲1に記載された発明)とは、上記第4の3.(1)で示した相違点1で相違し、他の請求項に係る発明についても、上記相違点1と同様の相違点を有するものであるところ、この相違点1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1、4、7-9は、引用発明ではない。 2.請求項2の進歩性について 異議申立人は異議申立書において、甲1に記載された発明に、甲2-4の技術的事項を適用して本件特許発明2とすることは、当業者が容易になし得る旨の主張している。その点について、以下で検討する。 (1)本件特許発明2と甲1に記載された発明との対比 上記第4の3.(1)アの対比に照らして、本件特許発明2と甲1に記載された発明(引用発明)とを対比すると、両者は以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。 [一致点] 「制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器 を備える最適制御装置。」 [相違点2] 本件特許発明2は、「前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部」と、「前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部」とを有し、「前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて」極値制御を実行するとともに、「前記制御対象パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定」し、「前記極値制御パラメータ決定部は、前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定」するのに対し、引用発明は、制御対象プロセスの操作量(曝気量、循環量、薬品投入量などの操作量)と評価量(N_(2)Oコスト、水質コスト及び運転コストからなる総コスト)とに基づいて極値制御を実行しているものの、その実行過程において、「制御対象パラメータ決定部」及び「極値制御パラメータ決定部」による「決定」を介在しているのか不明であるとともに、「制御対象パラメータ決定部」が「前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定」し、「極値制御パラメータ決定部」が「前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定」することが記載されていない点。 (2)判断 相違点2について検討する。 本件特許発明2には、「極値制御パラメータ決定部」が「前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定」するとの構成が特定されている。 他方、上記第4の3.(1)イで説示したとおり、甲1には、少なくとも制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて、極値制御パラメータとして、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値が決定されるようなことは記載も示唆もされておらず、本件特許発明2においてさらに限定された、制御対象プロセスの時定数と、制御対象プロセスのむだ時間と、操作量に対する評価量の二階微分値と、操作量の上限値及び下限値である制御対象パラメータに基づいて、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインとを極値制御パラメータとして決定することについても記載も示唆もされていない。 そして、甲2-4(及び甲6)は、一般的なPID制御を用いたフィードバック制御において、制御対象プロセスの時定数と制御対象プロセスのむだ時間とを含む制御対象パラメータに基づいて制御を行うことは開示するものの、そのいずれにも、極値制御において、制御対象プロセスの時定数と、制御対象プロセスのむだ時間と、操作量に対する評価量の二階微分値と、操作量の上限値及び下限値に基づいて、操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、ディザー信号の周波数と、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの周波数と、積分器のゲインとを極値制御パラメータとして決定することは記載も示唆もされていない。また、他に、そのことを公知又は周知の技術的事項であると示すような証拠も見当たらない。 したがって、引用発明(甲1発明)に甲2-4(及び甲6)の技術的事項を適用しても本件特許発明2に至らないものであるから、異議申立人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した異議申立の理由によっては、本件特許発明1-9を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1-9を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部と、 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御装置。 【請求項2】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 前記極値制御パラメータ決定部によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御部と、 を備え、 前記極値制御部は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの時定数と、前記制御対象プロセスのむだ時間と、前記操作量に対する前記評価量の二階微分値と、前記操作量の上限値及び下限値と、を前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記時定数、前記むだ時間、前記二階微分値及び前記上限値及び下限値に基づいて、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、を前記極値制御パラメータとして決定する、最適制御装置。 【請求項3】 表示部に、前記極値制御パラメータ決定部によって決定された現在の極値制御パラメータと、前記極値制御パラメータ決定部によって新たに決定された極値制御パラメータと、に関する情報を比較可能な態様で表示させるための情報を生成する表示制御部をさらに備える、 請求項1に記載の最適制御装置。 【請求項4】 前記極値制御パラメータ決定部は、前記制御対象プロセスの動作点に応じて、前記制御対象パラメータ及び前記極値制御パラメータの複数のパラメータセットを取得し、 前記極値制御部は、前記制御対象プロセスの動作点に応じた極値制御パラメータで極値制御を実行する、 請求項1又は3に記載の最適制御装置。 【請求項5】 前記極値制御部は、現在の極値制御に使用している極値制御パラメータと、前記極値制御パラメータ決定部によって新たに決定された極値制御パラメータと、の差が所定の閾値を越えた場合に前記新たに決定された極値制御パラメータで極値制御を実行する、 請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の最適制御装置。 【請求項6】 現在の極値制御に使用されている極値制御パラメータと、前記新たに決定された極値制御パラメータと、の差が所定の閾値を越えたことを通知する通知部をさらに備える、 請求項5に記載の最適制御装置。 【請求項7】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定ステップと、 前記制御対象パラメータ決定ステップにおいて決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定ステップと、 前記極値制御パラメータ決定ステップにおいて決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御ステップと、 を有し、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する最適制御方法。 【請求項8】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定ステップと、 前記制御対象パラメータ決定ステップにおいて決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定ステップと、 前記極値制御パラメータ決定ステップにおいて決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する極値制御ステップと、 をコンピュータに実行させ、 前記極値制御ステップではハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を用いて前記極値制御を実行し、 前記制御対象パラメータ決定ステップでは、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定ステップでは、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定するためのコンピュータプログラム。 【請求項9】 制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく前記制御対象プロセスの最適化に関する指標を示す評価量とに基づいて、前記制御対象プロセスの特性を示す制御対象パラメータを決定する制御対象パラメータ決定部と、 前記制御対象パラメータ決定部によって決定された前記制御対象パラメータに基づいて、極値制御を実行するための極値制御パラメータを決定する極値制御パラメータ決定部と、 を備える第1の極値制御装置と、 前記第1の極値制御装置によって決定された極値制御パラメータを用いて、前記評価量が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する第2の極値制御装置と、 を備え、 前記第2の極値制御装置は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及び積分器を備え、 前記制御対象パラメータ決定部は、少なくとも前記制御対象プロセスの時定数と前記制御対象プロセスのむだ時間とを前記制御対象パラメータとして決定し、 前記極値制御パラメータ決定部は、前記操作量を変化させるためのディザー信号の振幅と、前記ディザー信号の周波数と、前記ローパスフィルタ及び前記ハイパスフィルタの周波数と、前記積分器のゲインと、のうちいずれか一つ以上の値を前記極値制御パラメータとして決定する、 最適制御システム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-22 |
出願番号 | 特願2015-149830(P2015-149830) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(G05B)
P 1 651・ 121- YAA (G05B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 永田 和彦 |
特許庁審判長 |
見目 省二 |
特許庁審判官 |
田々井 正吾 大山 健 |
登録日 | 2019-05-10 |
登録番号 | 特許第6523854号(P6523854) |
権利者 | 東芝インフラシステムズ株式会社 株式会社東芝 |
発明の名称 | 最適制御装置、最適制御方法、コンピュータプログラム及び最適制御システム |
代理人 | 特許業務法人志賀国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 志賀国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 志賀国際特許事務所 |