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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01H
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01H
管理番号 1369013
異議申立番号 異議2020-700674  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-08 
確定日 2020-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6661863号発明「電気接点」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6661863号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6661863号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年7月29日に出願され、令和2年2月17日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年9月8日に特許異議申立人工藤妥子(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6661863号の請求項1及び2に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さくし、かつ接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とすることによって、接点と台材をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした電気接点であって、接点側面と接合面との面角度が91°?115°であることを特徴とする電気接点。」
【請求項2】
接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さくし、かつ接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とすることによって、接点と台材をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした電気接点であって、接合面に対する垂直断面から見たときに、逆台形の形状または前記逆台形の形状に対し接点面が全面に丸みを帯びた形状もしくは前記逆台形の形状に対し接点側面が接点面や接合面と成す角部にR加工を付与した形状であることを特徴とする電気接点。」

第3 申立理由の概要
[理由1]請求項1及び2に係る特許は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明である。したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[理由2]請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[理由3]請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものである。

甲第1号証:実願昭54-172951号(実開昭56-90319号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開昭57-138720号公報

第4 各甲号証に記載の事項及び発明
1 甲第1号証
甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は申立人が付したものを省略し、当審で付した。以下同様。)。
(1)2.実用新案登録請求の範囲
「(1) 接点素材に接点部材を接合した電気接点において,前記接点部材の接点接触面面積を前記接点素材との接合面積より大きくしたことを特徴とする電気接点。」
(2)明細書第1ページ第10行乃至第11行
「この考案は,電磁継電器,スイツチなどの電気機器に用いる電気接点に関するものである。」
(3)明細書第2ページ第6行乃至第14行
「上記目的を達成するために,この考案は,接点素材に接点部材を接合した電気接点において,前記接点部材の接点接触面面積を前記接点素材との接合面積より大きくしたことを特徴とする。
上記した構成によると,この考案は,接点部材は従来と同量で接点接触面面積を大きくすることにより,初期の摩耗が少なく接点圧力の減少の少ない所で開閉回数が多く取れ接触信頼性が長く保て長寿命となる。」
(4)明細書第2ページ第19行乃至第3ページ第6行
「第3図はこの考案の一実施例を示し,10は固定接点,20は可動接点で,これら接点は接点素材1の上部に接点部材2(貴金属部)を接合し,この接点部材2の接点接触面2aの面積は接点素材1との接触面2bの接触面積より大きくしてある。3はこの接点部材2を寿命時点まで使用した場合の摩耗部を示し,また,1aは接触片に固定するためのカシメ部である。」
(5)第3図
第3図からは、固定接点10を構成する接点素材1及び接点部材2が、ともに可動接点20に向かって所定の角度をもって幅広となるように側面が傾斜した形状であることが看取される。
(6)甲第1号証に記載の発明
上記(1)乃至(5)の記載及び看取事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
[引用発明1]
「接点接触面2aの面積を接点素材1との接触面2bとの接触面積より大きくした接点部材2を有する固定接点10であって、前記接点素材1及び前記接点部材2は、ともに可動接点20に向かって所定の角度をもって幅広となるように側面が傾斜した形状であって、前記接点素材1と前記接点部材2とは互いに接合され、接触片に固定するためのカシメ部1aを有する固定接点10。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(1)公報第1ページ左下欄第10行乃至第18行
「本発明は異形電気接点用テープの改良に関するものである。
従来の電気接点用テープ1としては例えば第1図に示す如く上面に金合金層、下面に銀合金層からなる接点材2とCu-Ni合金属の母材3との複合層とからなり、その底面には長手方向に沿ってプロジェクションを設け、基板(図示せず)との溶接を容易にした形状のものが出現されている。」
(2)公報第1ページ右下欄第12行乃至第16行
「即ち本発明は巾方向における両側面の延長により形成される交角度が0.2?30°を有する断面逆円錐台形からなり且つ底面にプロジェクションを設けたことを特徴とするものである。」
(3)公報第2ページ左上欄第17行乃至右上欄第1行
「第4図に示す如くAg-Ni合金の接点材2およびCu-Ni合金の母材3が複合された電気接点テープ1において略逆円錐台形の側面のなす角(θ)が0.5°とし且つ底面にプロジェクション4を設けて本発明接点用テープをえた。」
(4)第4図
第4図からは、電気接点用テープ1を構成する接点材2及び母材3が、接点材2に向かって幅広となるように側面が傾斜した形状であることが看取される。
(5)甲第2号証に記載の発明
上記(1)乃至(4)の記載及び看取事項より、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
[引用発明2]
「接点材2と母材3とが複合された電気接点テープ1において、前記接点材2及び前記母材3の両方が、前記接点材2の上面側に向かって幅広となるように側面が傾斜した形状であって、両側面の延長により形成される交角度が0.2?30°を有する断面逆円錐台形からなり、前記接点材2と前記母材3とが複合され、前記母材3の底面には基板との溶接を容易にするプロジェクション4を設けた電気接点テープ1。」

第5 当審の判断
1 理由1及び理由2について
(1)請求項1に係る発明について
(ア)引用発明1との対比
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「接点接触面2a」は、本件発明1の「接点面」に相当する。
引用発明1の「側面」は、本件発明1の「側面」及び「接点側面」に相当する。
引用発明1の接点素材1と接点部材2を合わせた「固定接点10」は、接点素材1のカシメ部1aを用いて接触片に固定するものであるから、本件発明1の「電気接点」に相当する。
同様に、引用発明1の「接触片」は、本件発明1の「台材」に相当する。
さらに、引用発明1の「接点素材1」のカシメ部1a側の面は、本件発明1の「接合面」に相当する。
引用発明1の「接点接触面2aの面積を接点素材1との接触面2bとの接触面積より大きくした接点部材2であって、前記接点素材1及び前記接点部材2は、ともに可動接点20に向かって所定の角度をもって幅広となるように側面が傾斜した形状」は、本件発明1の「接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さくし、かつ接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点」に相当する。
引用発明1の「前記接点素材1と前記接点部材2とは互いに接合され、接触片に固定するためのカシメ部1aを有する」は、本件発明1の「接点と台材をろう付け接合する」との対比において、2つの部材が接触し電気的・機械的に接続される限りにおいて共通する。
以上のとおりであるので、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さくし、かつ接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とするものであって、接点と台材が接触し電気的・機械的に接続される電気接点。」
[相違点1]
本件発明1は「接点と台材をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした電気接点」であるのに対し、引用発明1は固定接点10の接触片への固定がカシメによるものであって、ろう付け接合によるものではなく、ろう材の立ち上がりが存在しない点。
[相違点2]
本件発明1は「接点側面と接合面との面角度が91°?115°である」のに対し、引用発明1は側面と接触面2bとのなす角度が明示されていない点。
(イ)本件発明1と引用発明1との相違点についての判断
相違点1について検討する。
引用発明1において、固定接点10は、カシメ部1aによって接触片に固定されるものであり、接触片との接合においてカシメによるもの以外の選択肢を見いだすことができるものではなく、カシメをろう付け接合に変更する課題あるいは動機付けは存在しないといえる。
また仮に、固定接点10を接触片に対しろう付けによって固定したとしても、接触片の形状が不明であるから、そもそもろう材の立ち上がりに係る効果について当業者であっても予見し得たものではない。
以上のとおり、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。そして、甲第1号証に記載された発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たということはできない。したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の甲第1号証に関する主張について
申立人は、特許異議申立書の第7ページ第5行乃至第11行において、次の主張をしている。
「また、甲第1号証においては、接点部材と接点素材(台材)をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにしている点(本件特許発明1、2の構成C)は明記されていない。しかしながら、この構成は、ろう付け時のろう材の挙動に関する作用を示すものであって、かかる作用は接点の側面の傾斜によって生じるものである。上記の通り、甲第1号証においては側面に傾斜を有する接点部材の図が記載されている。よって、甲第1号証には前記構成も記載されている。(当審注:構成Cとは、本件発明1の「接点と台材をろう付け接合する際に、接点面側に形成されたろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした電気接点であって、」という発明特定事項を指す。)」
しかしながら、上述のとおり、甲第1号証の第3図において不図示の接触片が本件発明1の台材に相当するものであるから、接点素材1は本件発明1の電気接点の一部に相当するものであって、台材に相当するものではない。
ここで、仮に、引用発明1の接点素材1及び接点部材2が、本件発明1の台材及び電気接点にそれぞれ相当し、引用発明1の接点素材1と接点部材2とをろう付け接合したものであって、接点素材1と接点部材2との接合面からろう材のはみ出す部分が存在するとしても、接点素材1と接点部材2との接合面の面積が等しいため、本件発明1におけるろう材の立ち上がりに相当するものがあるとはいえないものである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「電気接点テープ1」は、本件発明1の「電気接点」に相当する。
引用発明2の「接点材2」の「上面」は、本件発明1の「接点面」に相当する。
引用発明2の「母材3の底面」は、本件発明1の「接合面」に相当する。
引用発明2の「側面」は、本件発明1の「側面」及び「接点側面」に相当する。
引用発明2の「前記接点材2の上面側に向かって幅広となるように側面が傾斜した形状」は、本件発明1の「接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とすること」に相当する。
引用発明2の「両側面の延長により形成される交角度が0.2?30°を有する断面逆円錐台形」は、該交角度の1/2に90°を加算したものが母材3の底面と接触する基板との面角度を意味するものであって、面角度としては90.1?105°の角度範囲を示すものであるから、本件発明1の「接点側面と接合面との面角度が91°?115°であること」との対比において、面角度が91°?105°の範囲において共通する。
引用発明2の「基板」は、本件発明1の「台材」に相当する。
引用発明2の「溶接」は、本件発明1の「接合」との対比において、金属相互の材料的接合である点で共通する。
以上のとおりであるので、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とする電気接点であって、接点と台材を材料的接合するものであり、接点側面と接合面との面角度が91°?105°である電気接点。」
[相違点3]
本件発明1は「接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さく」するものであるのに対し、引用発明2は母材3の底面にプロジェクション4を有することから、当該プロジェクション4が基板との接合面の面積を大きくするものであり、接点材2の上面の面積よりも母材3の底面の面積が小さいものか不明である点。
[相違点4]
本件発明1は「接点と台材をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした電気接点」であるのに対し、引用発明2は母材3の底面と基板とを溶接するものであって、ろう付け接合ではなく、ろう材の立ち上がりが存在しない点。
(オ)本件発明1と引用発明2との相違点についての判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
引用発明2において、母材3の底面は、基板に対して溶接するものであり、プロジェクション4は該溶接を容易にするために母材3の底面に形成されるものである。溶接とろう付け接合とは、上記対比において示したとおり、金属相互の材料的接合である点で共通するものであるが、引用発明2は基板との接合において溶接によるもの以外の選択肢を見いだすことができるものではなく、溶接をろう付け接合に変更する課題あるいは動機付けは存在しないといえる。また仮に引用発明2において母材3の底面を基板とろう付け接合したとしても、ろう材の立ち上がり量に係る効果について当業者であっても予見し得たものではない。
以上のとおり、相違点4は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。そして、甲第2号証に記載された発明において、相違点4に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たということはできない。したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)申立人の甲第2号証に関する主張について
申立人は、特許異議申立書の第8ページ第25行乃至第9ページ第2行において、次の主張をしている。
「尚、甲第2号証においては、接点材と母材(台材)をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにしている点(本件特許発明1、2の構成C)は明記されていない。しかしながら、この構成は、ろう付け時のろう材の挙動に関する作用を示すものであって、かかる作用は接点の側面の傾斜によって生じるものである。上記の通り、甲第2号証においては側面に傾斜を有する接点部材の図が記載されている。よって、甲第2号証には前記構成も記載されている。」
しかしながら、甲第2号証において、接点材2と母材3とを複合して電気接点テープ1を構成するもの(上記第4 2(1)又は(3)を参照。)であるから、電気接点テープ1が本件発明1の電気接点に相当するものであって、母材3は本件発明1の台材に相当するものとはいえない。上述のとおり、甲第2号証において図示されない「基板」が本件発明1の「台材」に相当するとすべきであって、電気接点テープ1と基板とは溶接により接合されるものであることは、上記説示のとおりである。
また、仮に、引用発明2の母材3及び接点材2が、本件発明1の台材及び電気接点にそれぞれ相当し、引用発明2の接点材2と母材3とをろう付け接合したものであって、ろう材のはみ出す部分が存在するとしても、接点材2と母材3との接合面の面積が等しいため、本件発明1におけるろう材の立ち上がりに相当するものがあるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(キ)申立人の上記(ウ)及び(カ)以外の主張について
申立人は、特許異議申立書の第10ページ第23行乃至第12ページ第19行において、次の主張をしている。
「・本件特許発明1(請求項1)について
上記のとおり、本件特許発明1(請求項1)は、甲第1号発明及び甲第2号発明のそれぞれに基づき新規性がない。
もっとも、甲第1号発明及び甲第2号発明は、本件特許請求の構成のうち、構成Dの接点側面と接合面との面角度(以下、単に面角度と称する)について、そのすべての範囲を直接開示するものではない。
しかしながら、この面角度について、これを相違点とするとしても以下の理由により、本件特許発明1に進歩性はない。
・・・(中略)・・・
そもそも、接点等の部材をろう付け接合する際に生じるろう材の立ち上がりは周知の現象であり、その要因の一つがろう材の表面張力にあることも周知である。この表面張力によるろう材の流れ・立ち上がりについて、接点等の被接合部材の面角度を垂直(90°)より大きくする(鈍角にする)ことでろう材の広がりを抑制できることは当業者であれば容易に予測できることである。
・・・(中略)・・・
このように、本件特許権者も、面角度を『91°以上』と設定することについて、当業者が容易に設定可能であることを認めている。
従って、本件特許発明1(請求項1)は、仮に新規性が認められるとしても、当業者であれば、甲第1号発明、甲第2号発明のそれぞれに基づき容易に想到できるものである。」
上記申立人の主張は、面角度の数値範囲の臨界的意義に関するものであるところ、上記相違点1又は相違点4についての容易想到性に関する主張ではないから、当該主張について考慮したとしても、上記(イ)及び(オ)の判断に影響を及ぼすものではない。

(2)請求項2に係る発明について
(ア)引用発明1との対比
請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)と引用発明1とは、上記(1)(ア)の相違点1と同様の相違点1’を有するものである。
したがって、その余の事項について検討するまでもなく、上記(1)(イ)と同様に、甲第1号証に記載された発明において、相違点1’に係る本件発明2の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たということはできないものではない。
(イ)引用発明2との対比
本件発明2と引用発明2とは、上記(1)(エ)の相違点4と同様の相違点4’を有するものである。
したがって、その余の事項について検討するまでもなく、上記(1)(オ)と同様に、甲第2号証に記載の発明において、相違点4’に係る本件発明2の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(ウ)申立人の請求項2に関する主張について
申立人は、特許異議申立書の第12ページ第21行乃至第13ページ第1行において、次の主張をしている。
「・本件特許発明2(請求項2)について
甲第1号発明及び甲第2号発明においては、接合面に対する垂直断面から見たときに、逆台形の形状及び逆台形の形状に対し接点面が全面に丸みを帯びた形状を開示するものの、逆台形の形状に対し接点側面が接点面や接合面と成す角部にR加工を付与した形状について直接開示していない。
しかし、接点等の開閉部材や摺動部材について、その角部分をR加工することは周知の事項である。
従って、本件特許発明2(請求項2)は、仮に新規性が認められるとしても、当業者であれば、甲第1号発明、甲第2号発明のそれぞれに基づき容易に想到できるものである。」
上記申立人の主張は、接点面や接合面の角部の形状に関するものであるところ、上記相違点1’又は相違点4’についての容易想到性に関する主張ではないから、当該主張について考慮したとしても、上記(ア)及び(イ)における判断に影響を及ぼすものではない。

2 理由3について
(1)本件発明1及び2が解決しようとする課題及び解決手段について
本件発明1及び2が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0006】において、「本発明は、フィレットの立ち上がりの高さを最適な量に制御することを目的とし、効果的に電気接点の寿命を延ばすことを目的とする。さらに、溶融したろう材が接点面へろう流れすることにより起こる電気的開閉時の溶着について、その危険性を低減することを目的とする。」と記載されているとおりのものである。
そして、当該課題を解決するための手段は、本件特許明細書の段落【0007】、【0009】、【0023】及び【0024】に実質的に記載されている「接点面として使用される面積よりも、台材との接合面として使用される面積を小さくし、かつ接点面と接合面のそれぞれと接続している側面が傾斜した形状の接点とすることによって、接点と台材をろう付け接合する際に、接点側面に形成されるろう材の立ち上がり量を抑制することができるようにした」点であって、それによって上記課題を解決できることを当業者は発明の詳細な説明の記載から認識できるといえる。
そして、当該解決手段は、請求項1及び2において反映されている。
したがって、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(2)請求項1及び請求項2に関する申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第13ページ第4行乃至第13行において、次の主張をしている。
「・請求項1について
既に述べたように、本件特許発明は、効果的に電気接点の寿命を延ばすことを課題とする(本件特許明細書 段落0006)。
しかしながら、上記の通り、本件特許の請求項1においては、面角度を91°以上とする接点である。この91°近傍の面角度においては、上記の通り、発明の課題を解決できない従来技術の範疇にある。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。よって、請求項1に係る発明は、第36条第6項第1号の規定に反して特許されたものである。」
また、申立人は、特許異議申立書の第13ページ第15行乃至第14ページ第2行において、次の主張をしている。
「・請求項2について
本件特許の請求項2に係る発明は、接点の断面形状は規定されているものの、面角度については何ら規定がない。
ここで、接点の断面を逆台形の形状とすること、逆台形の形状に対し接点面が全面に丸みを帯びた形状とすること、及び逆台形の形状に対し接点面側が接点面や接合面と成す角部にR加工を付与することに関しては、これらの接点の断面形状は、接点側面へのろう材の立ち上がり量には特に影響しないことが説明されている(本件特許明細書 段落0011)。そして、本件明細書においては、接点の断面形状についての技術的意義の特段の説明はない。
一方、本件特許発明の課題である、ろう材の立ち上がり高さと接点寿命は、面角度の影響を受けることが本件特許明細書の記載から明らかである。
そうしてみれば、接点の断面形状は規定されているものの、面角度については何ら規定のない請求項2に係る発明は、課題を解決し得ない範囲を含む。
よって、本件特許の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。よって、請求項2に係る発明は、第36条第6項第1号の規定に反して特許されたものである。」
しかしながら、先に述べたとおり、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、申請人の上記主張を採用することはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-11-27 
出願番号 特願2015-150037(P2015-150037)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01H)
P 1 651・ 113- Y (H01H)
P 1 651・ 121- Y (H01H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 関 信之  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 杉山 健一
尾崎 和寛
登録日 2020-02-17 
登録番号 特許第6661863号(P6661863)
権利者 株式会社徳力本店
発明の名称 電気接点  

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