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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1369016 |
異議申立番号 | 異議2020-700556 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-05 |
確定日 | 2020-12-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6641175号発明「メトキシフラボンを含有するカフェイン含有飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6641175号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6641175号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年12月25日に出願され、令和2年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同年2月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和2年8月5日付けで特許異議申立人 山口 幸子より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6641175号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、以下、これらを「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。 「【請求項1】 式(I) 【化1】 ![]() (式中、R_(1)、R_(4)、及びR_(5)は、各々独立して水素原子又はメトキシ基であり、R_(2)はヒドロキシ基又はメトキシ基であり、R_(3)はメトキシ基である)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボン3.0?50mg/100mLとカフェインとを含む飲料であって、前記メトキシフラボンとカフェインとの重量比(前記メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5である、前記飲料。 【請求項2】 前記少なくとも1種のメトキシフラボンが、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、3,5,7-トリメトキシフラボン、3,5,7,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7,4’-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、及び5-ヒドロキシ-3,7,4’-トリメトキシフラボンからなる群から選択される、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 カフェインを5?180mg/100mL含む、請求項1又は2に記載の飲料。 【請求項4】 前記飲料が茶飲料である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項5】 前記飲料がコーヒー飲料である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項6】 式(I) 【化2】 ![]() (式中、R_(1)、R_(4)、及びR_(5)は、各々独立して水素原子又はメトキシ基であり、R_(2)はヒドロキシ基又はメトキシ基であり、R_(3)はメトキシ基である)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンを3.0?50mg/100mL含む飲料のイモ様の香味を改善する方法であって、 当該飲料中の前記メトキシフラボンとカフェインとの重量比(前記メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5となるように、当該飲料にカフェインを配合する工程を含む、前記方法。」 第3 申立ての理由の概要 特許異議申立人 山口 幸子(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、申立ての理由として、以下の理由を主張している。 1 申立ての理由 (1)理由1(サポート要件) 本件特許発明1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。 (2)理由2(進歩性) 本件特許発明1?6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された以下の甲4に記載された発明並びに甲3?6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。 2 証拠方法 (1)甲1:2014年2月12日が作成日とされる「ブラックジンジャー エキス末D」遺伝子組み換え原材料・アレルギー物質・牛由来 原材料調査票 (2)甲2:2015年2月9日の日付が付された、「ブラックジンジャー エキス末D」試験成績書 (3)甲3:国際公開第2015/170681号 (4)甲4:特開2013-192513号公報 (5)甲5-1:資源調査分科会報告「日本食品標準成分表2010」につ いて:文部科学省、平成22年11月 甲5-2:日本食品標準成分表2010 第2章 16 し好飲料類 (6)甲6:グリッター 2014年11月号、140?143ページ 第4 甲号証に記載された事項 1 甲1には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「 ![]() 」 2 甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2a)「 ![]() 」 3 甲3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は本決定による。以下も同様である。 (甲3a)「[0003] 黒ショウガに含まれる主な成分は、アントシアニジンやメトキシフラボノイドを中心とするポリフェノール類であることがこれまでの研究で明らかにされており・・・。また、その効能としては抗肥満作用、抗ED作用、血流改善作用など、様々なものが知られており、黒ショウガは、わが国においてもサプリメントや飲料に広く利用されている。それらの効能をもたらす成分は、メトキシフラボンであると考えられている。従って、種々の効能を得るために、単離又は精製したメトキシフラボンを投与することも考えられる。しかしながら、そのようなメトキシフラボンは高価であり、実際には、それらを含む黒ショウガの抽出物を利用することが多い。 [0004] 特許文献1等に記載されている通り、これまで、メトキシフラボンを含む黒ショウガ抽出物は、主に熱水又は含水アルコール抽出によって製造されていた。しかしながら、この方法で得られる抽出物は苦味等の独特の香味を有し、そして黒紫色を呈する。特許文献1では、このような香味の問題を解決するため、糖、糖アルコール、可食生酸類、又は人工甘味料を利用している。 ・・・ [0005] 特許文献1:特開2013-192513号公報」 (甲3b)「[0006] 従来の黒ショウガ抽出物は、苦味等の独特の香味を有し、黒紫色を呈する。これらの特性は、当該抽出物を飲食品、医薬品、香粧品等に利用する場合に問題となり得る。 [0007] この点、抽出率を低下させれば、当該香味や色が目立たなくなる可能性はある。しかしながら、そのようにすると、有効成分であるメトキシフラボンの濃度も低下してしまう。 [0008] 本発明は、相当量のメトキシフラボンを含み、かつ苦味等の香味又は黒紫色の強度が低減された、黒ショウガ抽出物を提供することを課題とする。」 (甲3c)「[0019] (メトキシフラボン) 本発明の油脂抽出物は、1種以上のメトキシフラボンを含有する。本明細書において、『メトキシフラボン』との用語は、1以上のメトキシ基を有するフラボンを意味する。メトキシフラボンは、典型的には、以下の式(I)に示す構造を有する化合物から選択される。 [0020] [化1] ![]() (式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、及びR_(5)は、各々独立して水素、ヒドロキシ、又はメトキシ基であり、R_(1)?R_(5)の内の少なくとも1つはメトキシである。) [0021] 好ましくは、式(I)の化合物は、以下の表1に記載の5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、3,5,7-トリメトキシフラボン、3,5,7,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7,4’-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,4’-トリメトキシフラボンから選択される。」 (甲3d)「[0066] [比較例1] 黒ショウガ乾燥物200gに50%エタノール水溶液1000mLを加えて、1時間加熱還流抽出を行った。得られた液を冷却後、吸引ろ過して、残渣と抽出液に分けた。再度残渣に50%エタノール水溶液1000mLを加えて、1時間加熱還流抽出を行い、ろ過し、先に得られた抽出液とあわせた。室温まで冷後、減圧濃縮したのち、凍結乾燥を行い黒ショウガエタノール抽出物-1を49g(収率24.5%)得た。黒ショウガのロット間による差を確認する目的で、上述と同様の方法にて操作を行ったところ、黒ショウガエタノール抽出物-2を23g(収率15.2%)得た。続いて、本抽出物中の11種のメトキシフラボン総含有量は実施例2の方法に準じて測定したところ、それぞれ264mg/g、267mg/gであった。・・・尚、これらの抽出物は、いずれも、表1に記載の化合物1?11を全て含んでいた。」 4 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4a)「【請求項1】 糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかである化合物と、 ブラックジンジャー抽出物と、を含有することを特徴とする呈味良好なブラックジンジャー抽出物組成物。 ・・・ 【請求項5】 請求項1から4のいずれかに記載のブラックジンジャー抽出物組成物を飲食物に添加してなることを特徴とするブラックジンジャー抽出物含有飲食物。 【請求項6】 糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかの化合物をブラックジンジャー抽出物に対して添加することにより、ブラックジンジャー抽出物の匂い、後味、苦味、及び渋味が改善されることを特徴とするブラックジンジャー抽出物の呈味改善方法。」 (甲4b)「【0003】 このブラックジンジャーの抽出物は、本出願人の鋭意研究により、優れた抗酸化作用、抗老化作用、抗炎症作用、育毛作用、抗肥満作用、美白作用等を有することが既に知見されている(・・・)。そこで、ブラックジンジャーから有効成分を抽出し、活性の強いブラックジンジャー抽出物を飲食物に添加して摂取することが試みられている。 【0004】 しかし、ブラックジンジャー抽出物は、甘味がなく、苦味、渋味等の非嗜好性の呈味を有するだけでなく、ブッラクジンジャー特有の匂いのために、後味が悪く、繰返して飲み難いという問題がある。 【0005】 したがって、ブラックジンジャー抽出物が有する苦味、渋味、甘味、後味等の呈味を改善することができるだけでなく、ブラックジンジャー特有の匂いをも低減することができ、繰返し飲みたくなる程度に総合的な美味しさを備えた、ブラックジンジャー抽出物組成物及びブラックジンジャー抽出物含有飲食物並びにブラックジンジャー抽出物の呈味改善方法の開発が強く望まれているのが現状である。 ・・・ 【0007】 本発明は、前記従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ブラックジンジャー抽出物が有する苦味、渋味、甘味、後味等の呈味を改善することができるだけでなく、ブラックジンジャー特有の匂いをも低減することができ、繰返し飲みたくなる程度に総合的な美味しさを備えた、ブラックジンジャー抽出物組成物及びブラックジンジャー抽出物含有飲食物並びにブラックジンジャー抽出物の呈味改善方法を提供することを目的とする。」 (甲4c)「【0008】 前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、ブラックジンジャー抽出物の有する特有の匂い、苦味、渋味等の不快な呈味を、糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかである化合物を配合することにより、効果的に抑えることができると共に、ブラックジンジャー抽出物の有効成分に何ら影響を与えることなく、簡便な操作で安価に、しかも、後味が良く、総合的な美味しさと、繰返して飲みたいという優れた特性を有するブラックジンジャー抽出物組成物が得られ、この組成物を飲食物に添加しても、飲食物本来の風味を損うことがなく、また味の調和をとることが容易なので、ブラックジンジャー抽出物を必要とする幅広い消費者、特に、匂い、苦味、渋味等に敏感な女性などにも安心して気軽に摂取してもらえるブラックジンジャー抽出物組成物が得られることを知見した。 ・・・ 【0010】 本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、ブラックジンジャー抽出物が有する苦味、渋味、甘味、後味等の呈味を改善することができるだけでなく、ブラックジンジャー特有の匂いをも低減することができ、繰返し飲みたくなる程度に総合的な美味しさを備えた、ブラックジンジャー抽出物組成物及びブラックジンジャー抽出物含有飲食物並びにブラックジンジャー抽出物の呈味改善方法を提供することができる。」 (甲4d)「【0045】 (ブラックジンジャー抽出物含有飲食物) 本発明のブラックジンジャー抽出物含有飲食物は、本発明のブラックジンジャー抽出物組成物を飲食物に添加してなる。この場合、ブラックジンジャー抽出物組成物の飲食物への添加量は、飲食物の種類に応じて異なり一概に規定することはできないが、ブラックジンジャー抽出物組成物として飲食物全体の0.1質量%?50質量%の添加が好ましく、場合によっては50質量%を超えても使用可能である。また、前記ブラックジンジャー抽出物として1日あたり10mg?1,000mgの摂取量で有効な結果が得られる。 【0046】 前記ブラックジンジャー抽出物組成物が適用できる飲食物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料等の飲料・・・などが挙げられる。・・・」 (甲4e)「【0048】 (製造例1) -ブラックジンジャーの50質量%含水エタノール抽出物の製造- 抽出原料としてブラックジンジャーの根茎部の粉砕物100gを、50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比1:1)1,000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、濾過した。濾液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状:収率11.7%)を得た。 【0049】 (製造例2) -ブラックジンジャーのエタノール抽出物の製造- ・・・ 【0050】 (製造例3) -ブラックジンジャーの水抽出物の製造- ・・・ 【0051】 (実施例1) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、ラクトース(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・下記評価方法にしたがって呈味の評価を行った。結果を表1及び図1に示す。 【0052】 (実施例2) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、マルトース(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0053】 (実施例3) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、パラチノース(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0054】 (実施例4) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖アルコール)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、マルチトール(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0055】 (実施例5) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖アルコール)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、キシリトール(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0056】 (実施例6) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(糖アルコール)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、エリスリトール(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0057】 (実施例7) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(可食性酸類)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、アスコルビン酸(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0058】 (実施例8) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(可食性酸類)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、クエン酸(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0059】 (実施例9) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(人工甘味料)- 製造例1のブラックジンジャー抽出物1質量部に対して、アセスルファムカリウム(・・・)を表1に示す配合量となるよう添加して・・・呈味の改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を製造した。・・・ 【0060】 (比較例1) -ブラックジンジャーの呈味改善試験(抽出物のみ)- 呈味改善剤を使用せず、製造例1のブラックジンジャー抽出物と水とを混合して・・・ 【0061】 (評価) 呈味の評価は、成人パネラー17名(男性:9名、女性:8名)で行い、各実施例及び比較例で得られたブラックジンジャー抽出物を含有する水溶液を試飲した後、アンケート用紙に回答することで行った。アンケートの評価方法は、パネラーに下記各評価項目について各5段階に分けて判定した。・・・ 【0062】 -総合的な美味しさ- 5:非常によい 4:比較的よい 3:許容範囲 2:比較的悪い 1:非常に悪い 【0063】 -甘味- 5:非常に甘い 4:比較的甘い 3:許容範囲 2:比較的甘味がない 1:非常に甘味がない 【0064】 -苦味・渋味- 5:非常に苦味・渋味がない 4:比較的苦味・渋味がない 3:許容範囲 2:比較的苦味・渋味がある 1:非常に苦味・渋味がある 【0065】 -後味- 5:非常によい 4:比較的よい 3:許容範囲 2:比較的悪い 1:非常に悪い 【0066】 -匂い- 5:非常によい 4:比較的よい 3:許容範囲 2:比較的悪い 1:非常に悪い 【0067】 -繰返して飲みたいか- 5:非常に繰返して飲みたい 4:比較的繰返して飲みたい 3:許容範囲 2:比較的繰返して飲みたくない 1:非常に繰返して飲みたくない 【0068】 【表1】 ![]() 【0069】 以上により、本発明のブラックジンジャー抽出物組成物は、ブラックジンジャー特有の匂い、後味、苦味、渋味等の呈味を容易に改善することができ、ブラックジンジャーの甘味が増え、繰返し飲食できる程度に美味しさが増すことがわかった。」 (甲4f)「【0070】 (配合例1:ビスケット) ・・・製造例1のブラックジンジャー抽出物(粉末)・・・を用いて・・・呈味の良好なビスケットを製造した。 【0071】 (配合例2:グミキャンディー) ・・・製造例1のブラックジンジャー抽出物(粉末)・・・呈味の良好なグミキャンディーを得た。 【0072】 (配合例3:チューインガム) ・・・製造例1のブラックジンジャー抽出物(粉末)・・・呈味の良好なチューインガムを製造した。 【0073】 (配合例4:マウスウオッシュ) 常法により下記組成のマウスウオッシュを調製した。 ・・・ ・ 製造例1のブッラクジンジャー抽出物 0.4質量部 ・・・ 調製されたマウスウオッシュは、呈味の良好なものであった。 【0074】 (配合例5:錠剤) 常法により下記組成の錠剤を調製した。 ・ 製造例1のブッラクジンジャー抽出物 20質量部 ・・・ 原料の混合と打錠が容易であり、呈味の良好な錠剤が得られた。 【0075】 (配合例6:カクテル) 常法により下記組成のカクテルを調製した。 ・ 製造例1のブッラクジンジャー抽出物 1質量部 ・・・ 調製されたカクテルは、呈味の良好なものであった。 【0076】 (配合例7:インスタントティー) 常法により下記組成のインスタントティーを調製した。 ・ 製造例1のブラックジンジャー抽出物 20質量部 ・ エリスリトール 40質量部 ・ クエン酸 50質量部 ・ ラクチュロース 50質量部 ・ デキストリン 810質量部 原料の混合及び流動層造粒機による顆粒化が容易であり、呈味の良好なインスタントティー(顆粒)が得られた。 【0077】 (配合例8:コーヒー飲料) 常法により下記組成のコーヒー飲料を調製した。 ・ ブラックジンジャー抽出物 1質量部 ・ コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3) 40質量部 ・ マルチトール 2質量部 ・ 香料 適量 ・ 水 残部 調製されたコーヒー飲料は、呈味の良好なものであった。」 5 甲5には、日本食品標準成分表2010のし好飲料類について、可食部100mg当たりの成分値について、以下の事項が記載されている。 (甲5a)「浸出法:コーヒー粉末10g/熱湯150mL カフェイン0.06g、タンニン0.25g ^(*)未同定脂肪酸(Tr)を含まない」(食品名:コーヒー浸出液の備考欄) 6 甲6には、以下の事項が記載されている。 (甲6a)「BLACK GINGER TEA 持ち歩けるスティックタイプ! 黒しょうがで内側から燃えよう! すぐに飲めるはちみつ&黒しょうが紅茶 スベルティ ブラックジンジャーティー 内側からポカポカを強力にサポートしてくれる注目の黒しょうがエキス配合。お湯に溶かすだけと簡単&手軽なうえ、スティックタイプなので持ち運びにも便利。ほんのり甘みが効いて美味。 2g×20包 ¥1.480」(141ページ左下の黄色の枠囲い部分) 第5 当審の判断 1 理由1(サポート要件)について (1)本件特許明細書の記載 ア 背景技術に関する記載 「【0003】 黒ショウガに含まれる主な成分は、アントシアニジンやメトキシフラボノイドを中心とするポリフェノール類である・・・。また、その効能としては抗肥満作用、血流改善作用など、様々なものが知られており、黒ショウガは、わが国においてもサプリメントや飲料に広く利用されている。それらの効能をもたらす成分は、特定の構造を有するメトキシフラボンであると考えられている。 【0004】 黒ショウガからメトキシフラボンを抽出する方法が知られている。例えば、特許文献1には、主に熱水又は含水アルコール抽出によってメトキシフラボン抽出物を製造する方法が記載されている。 ・・・ 【0005】 【特許文献1】特開2013-192513号公報」 イ 発明が解決しようとする課題に関する記載 「【0006】 上述した通り、黒ショウガ抽出物に含まれる特定の構造を有するメトキシフラボンは抗肥満作用や血流改善作用などを有する非常に有用な素材である。しかしながら、前記特定の構造を有するメトキシフラボンには、特有のイモ様の味や臭いがあるために、飲料中に配合すると、飲料の嗜好性が著しく低下するという問題がある。 【0007】 そのため、本発明の課題は、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有しながらも飲みやすい飲料を提供することにある。 【0008】 また、本発明は、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有した飲料において特有のイモ様の味や臭いを低減し、すっきりとした後味を付与する方法を提供することを目的とする。」 ウ 課題を解決するための手段に関する記載 「【0009】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボン特有のイモ様の味や臭いの改善に関して、カフェインに特に優れた効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。・・・」 エ 式(I)で表される構造を有するメトキシフラボンに関する記載 「【0013】 好ましくは、式(I)の化合物は、以下の表1に記載の5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、3,5,7-トリメトキシフラボン、3,5,7,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7,4’-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、及び5-ヒドロキシ-3,7,4’-トリメトキシフラボンから選択される。 【表1】 ![]() ・・・ 【0015】 特定の構造を有するメトキシフラボンを含有する黒ショウガ抽出物を配合した飲料では、イモ様の味や臭いなどの好ましくない香味が感じられる。本発明の飲料における当該メトキシフラボンの総含有量は、カフェインにより前記イモ様の味や臭いを改善できる量であれば特に限定されないが、典型的には3.0?50mg/100mL・・・である。当該メトキシフラボンの含有量は、例えば、飲料製造時に使用するメトキシフラボン又はそれを含む原料の量を制御することにより調整することができる。メトキシフラボンの含有量は公知の方法によって測定及び定量することができ、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを用いることができる。 【0016】 当該メトキシフラボンは黒ショウガの特徴的な成分であると考えられ、典型的には、黒ショウガから抽出等により得ることができる・・・ ・・・ 【0018】 黒ショウガからメトキシフラボンを抽出する方法は、例えば、特許文献1に記載されている。・・・」 オ カフェインに関する記載 「【0021】 (カフェイン) 本発明の飲料におけるカフェインの含有量は、黒ショウガ抽出物に起因するイモ様の味や臭いを改善できる量であれば特に限定されないが、典型的には5.0?180mg/100mL・・・である。カフェインが水和物等の形態にある場合は、これを遊離体(フリー体)に換算した上で上記含有量を算出するものとする。カフェインの含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法によって、測定及び定量できる。 ・・・ 【0023】 本発明の飲料においてカフェインは、前記メトキシフラボンとの重量比([前記メトキシフラボンの総重量]/[カフェインの重量])が・・・0.03?1.5となるように含有させることもできる。」 カ 実施例の記載 「【0030】 黒ショウガ抽出物としてブラックジンジャーエキス末D(丸善製薬社)を用いて、評価用の飲料(サンプル1?13)を作製した。具体的には、前記黒ショウガ抽出物及びカフェイン(白鳥製薬社)を、ポリメトキシフラボン(PMF)の総含有量(本発明のメトキシフラボンの総含有量)及びカフェインの含有量が下記の表2に記載の量(濃度)となるように水に溶解して各飲料を調製した。尚、前記黒ショウガ抽出物にはポリメトキシフラボンが10%(w/w)含まれているものとして、ポリメトキシフラボンの量を計算した。 【0031】 得られた飲料について、主にイモ様の味わいと後味の観点から、専門パネリスト3名によりそれらの程度を以下の基準(1?7点)で官能評価した。官能評価点4点以上が好ましい飲料とした。結果を表2に示す。 <評価点の基準> 7点:イモ様の味がなく、すっきりとした後味が感じられる。 6点:イモ様の味の改善効果がより好ましく、すっきりとした後味が感じられる。 5点:イモ様の味の改善効果がより好ましく、後味もより好ましい。 4点:イモ様の味が改善され、後味も好ましい。 3点:イモ様の味が強い、または苦味が強い。 2点:イモ様の味が強い、または苦味がより強い。 1点:イモ様の味が強すぎる。 【0032】 実験の結果、カフェインの配合により、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボン特有のイモ様の味を改善できることがわかった。 【0033】 【表2】 ![]() 」 (2)本件特許発明の解決しようとする課題 本件特許明細書の記載、特に上記(1)ア及びイからみて、本件特許発明1?5の解決しようとする課題は、「黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有しながらも飲みやすい飲料を提供すること」にあり、本件特許発明6の解決しようとする課題は、「黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有した飲料において特有のイモ様の味や臭いを低減し、すっきりとした後味を付与する方法を提供すること」にあると認める。 (3)判断 上記(1)の本件特許明細書の記載、特に上記(1)ウ?オの一般記載から、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを黒ショウガから抽出する方法、飲料中の前記メトキシフラボン及びカフェインの含有量を調整する方法、測定及び定量する方法を理解することができ、また、飲料のイモ様の味や臭いを改善できる前記メトキシフラボン及びカフェインの含有量や両者の重量比についても理解することができる。 そして、上記(1)カの実施例の記載から、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを3.0?50mg/100mL含有する飲料に、前記メトキシフラボンとカフェインとの重量比(前記メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5となるように、カフェインを配合することで、本件特許発明1?5及び6の課題が解決できることが具体的に示されている。 したがって、本件特許発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?6の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 (4)申立人の主張について ア 申立人は、特許請求の範囲の記載不備の理由として、特許異議申立書21ページ7行?25ページ1行において、概略次のように主張する。 本件特許明細書の実施例(上記(1)カ)では、黒ショウガ抽出物としてブラックジンジャーエキス末D(丸善製薬社)とカフェイン(白鳥製薬社)を用いて、評価用の飲料(サンプル1?13)を作製し、黒ショウガ抽出物にはポリメトキシフラボンが10%(w/w)含まれているものとして、ポリメトキシフラボンの量を計算したことが記載されているが、実施例の黒ショウガ抽出物にポリメトキシフラボンが10%(w/w)含まれているとはいえないから、実施例の評価用の飲料(サンプル1?13)におけるポリメトキシフラボンの濃度は不明であり、発明の詳細な説明の記載を参酌した当業者であっても、本件特許発明の課題を解決できると認識することができない。 すなわち、甲1?3には、ブラックジンジャーエキス末Dは、ブラックジンジャー抽出物を1.5%含み(上記(甲1a))、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンを0.15%含むこと(上記(甲2a))、ブラックジンジャー抽出物は、合計11種のメトキシフラボンを含むことが示されているから(上記(甲3c)?(甲3d))、実施例の表2の「ブラックジンジャー抽出物濃度」が「ブラックジンジャーエキス末D」そのものの濃度であるとすると、ブラックジンジャー抽出物は1.5%しか含まれていないため、ポリメトキシフラボンを10%(w/w)含むものではなく、また、実施例の表2の「ブラックジンジャー抽出物濃度」が「ブラックジンジャーエキス末D」中の「ブラックジンジャー抽出物」の濃度であるとしても、その中には、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンのみであっても約10%含まれると計算されるから(0.15%/1.5%=10%)、合計11種のメトキシフラボンを含むブラックジンジャー抽出物は、ポリメトキシフラボンを10%(w/w)含むものではない。 イ 申立人の上記主張について検討する。 特許異議申立書には、甲1及び甲2について、それぞれ、「甲第1号証は、本件特許の出願日より前の2014年2月12日に、丸善製薬株式会社の総合品質部によって作成され、ユーザーに公開された書面である。」(10ページ4?5行)、「甲第2号証は、本件特許の出願日より前の2015年2月9日に、丸善製薬株式会社の本社品質管理課によって発行され、ユーザーに公開された試験成績書である。」(10ページ下から3?2行)と説明されている。 しかしながら、甲1及び甲2は、依頼者の記載がないなど「ユーザーに公開された」ものであることを理解できるところがなく、また、本件特許明細書の実施例で用いられた「ブラックジンジャーエキス末D(丸善製薬社)」に関する書面や試験成績書であることが理解できるものでもないので、甲1及び甲2に記載された事項を異議申し立ての証拠として採用することはできない。 また、甲1及び甲2が、本件特許明細書の実施例で用いられた「ブラックジンジャーエキス末D(丸善製薬社)」に関する書面や試験成績書であるとして検討しても、甲2の試験成績書には他のメトキシフラボンについての記載がないうえに、他のメトキシフラボンの含有の有無についても記載されていないから、申立人が主張するとおり、「ブラックジンジャーエキス末D(丸善製薬社)」に含まれる「ブラックジンジャー抽出物」には、メトキシフラボンとして「3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン」が約10%含まれていると理解することができ、むしろ本件特許明細書の実施例の記載を裏付けていると解する方が自然である。 そして、本件特許明細書の実施例には、「黒ショウガ抽出物にはポリメトキシフラボンが10%(w/w)含まれているものとして、ポリメトキシフラボンの量を計算した。」と記載され、本件特許明細書には、メトキシフラボンの含有量は公知の方法、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定及び定量することができることも記載されているのだから(上記(1)エ)、実施例の黒ショウガ抽出物に含まれるポリメトキシフラボンを測定した結果として10%(w/w)含まれているとしたといえ、実施例の評価用の飲料(サンプル1?13)におけるポリメトキシフラボンの濃度が不明であるとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。 2 理由2(進歩性)について (1)甲4に記載された発明 ア 甲4は、糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかである化合物と、ブラックジンジャー抽出物と、を含有する呈味良好なブラックジンジャー抽出物組成物を飲食物に添加してなるブラックジンジャー抽出物含有飲食物の発明に関するものであるところ(上記(甲4a))、その具体例を示した配合例8からみて(上記(甲4f))、甲4には次の発明(以下、「甲4発明A」という。)が記載されていると認める。 甲4発明A: 「下記組成の呈味の良好なコーヒー飲料。 ブラックジンジャー抽出物 1質量部 コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3) 40質量部 マルチトール 2質量部 香料 適量 水 残部」 イ 甲4は、糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかの化合物をブラックジンジャー抽出物に対して添加することにより、ブラックジンジャー抽出物の匂い、後味、苦味、及び渋味が改善されるブラックジンジャー抽出物の呈味改善方法の発明に関し(上記(甲4a))、甲4には、呈味が改善されたブラックジンジャー抽出物組成物を飲食物に添加しても、飲食物本来の風味を損なうことがないことも記載されているから(上記(甲4c))、ブラックジンジャー抽出物を含む飲料の呈味改善方法の発明にも関するといえ、その具体例を示した配合例8からみて(上記(甲4f))、甲4にはさらに次の発明(以下、「甲4発明B」という。)が記載されていると認める。 甲4発明B: 「常法により下記組成のコーヒー飲料を調製する、ブラックジンジャー抽出物を含むコーヒー飲料の呈味改善方法。 ブラックジンジャー抽出物 1質量部 コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3) 40質量部 マルチトール 2質量部 香料 適量 水 残部」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲4発明Aとを対比する。 本件特許明細書【0025】に、「本発明の飲料における、飲料の種類は特に限定されず、・・・コーヒー飲料・・・などいずれであってもよい。」と記載されているから、甲4発明Aの「呈味の良好なコーヒー飲料」は、本件特許発明1の「飲料」に相当する。 そして、甲4発明Aの「ブラックジンジャー抽出液」が、本件特許発明1の「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボン」を含有することは技術常識といえ(上記(甲3c)?(甲3d))、甲4発明Aの「コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3)」が、カフェインを含有することも技術常識である(上記(甲5a))。 また、本件特許明細書【0026】に、「本発明の飲料は、上記に示した各種成分のほか、飲料の種類に応じて、各種添加剤等が配合されていてもよい。各種添加剤としては、・・・糖類等の甘味料、・・・香料、・・・等が挙げられる。」と記載されているから、甲4発明Aが、マルチトール及び香料を含むことは、本件特許発明1に包含され、相違点とはならない。 よって、両発明は次の一致点及び相違点A1を有する。 一致点: 「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンとカフェインとを含む飲料。」である点。 相違点A1: 本件特許発明1は、「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボン」を「3.0?50mg/100mL」含み、「前記メトキシフラボンとカフェインとの重量比(前記メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5」であると特定しているのに対し、甲4発明Aは、「ブラックジンジャー抽出物」を「1質量部」と「コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3)」を「40質量部」含むとされている点。 イ 判断 上記相違点A1について検討する。 甲4は、ブラックジンジャー抽出物は、優れた抗酸化作用等を有することが知られているが、特有の匂い、苦味、渋味等の不快な呈味という問題があることから、糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかである化合物を配合することで、特有の匂いや不快な呈味を改善することに関するものである(上記(甲4b)、(甲4c))。 そして、甲4発明Aは、コーヒー飲料に、ブラックジンジャー抽出物とともに、糖アルコールであるマルチトールを配合することで、呈味の良好なコーヒー飲料としたものである。 そうすると、甲4発明Aのコーヒー飲料は、既にブラックジンジャー抽出物を含有しながらも、特有の匂いや、苦味、渋味等の不快な呈味が改善された飲みやすい飲料であるといえ、ブラックジンジャー抽出物に含まれるメトキシフラボンの含有量やコーヒー抽出液に含まれるカフェインの含有量に着目して、飲料の嗜好性を改善するために、飲料中のメトキシフラボンの濃度を特定する動機付けや、メトキシフラボンとカフェインとの重量比を特定する動機付けがない。 したがって、相違点A1は、当業者が容易になし得たことではない。 そして、本件特許発明1は、マルチトールなどを配合しなくても、特定量のメトキシフラボンを含有する飲料に、所定の重量比となるカフェインを含有させることで、本件特許明細書【0010】記載の「黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有していながらも、前記特定の構造を有するメトキシフラボン特有のイモ様の味や臭いなどの好ましくない香味が改善され、すっきりとした後味を有する飲料を提供することができる。」という、甲4からは予測もし得ない効果を奏するものである。 ウ まとめ 以上のとおり、相違点A1は当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲4発明A並びに甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、少なくとも1種のメトキシフラボンが、11種の化合物からなる群から選択されることを更に特定するものである。 甲4発明Aの「ブラックジンジャー抽出物」に、本件特許発明2で特定される11種の化合物からなる群から選択されるメトキシフラボンが含まれることは技術常識であるから(上記(甲3c)?(甲3d))、この点に関して、甲4発明Aと本件特許発明2との間に新たに相違するところはない。 そして、このことを考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。 よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2も、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明3について 本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「カフェインを5?180mg/100mL含む」ことを更に特定するものである。 コーヒー浸出液におけるカフェイン量は、可食部100g当たり0.06g(60mg/100mL)であるところ(上記(甲5a))、甲4発明Aは、コーヒー抽出液を40質量部含むので、コーヒー飲料中のカフェインの含有量を計算すると、24mg/100mL(40質量部×60mg/100mL)となり、この点に関して、甲4発明Aと本件特許発明3との間に新たに相違するところはない。 そして、このことを考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。 よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明3についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件特許発明4について ア 対比 本件特許発明4は、本件特許発明1?3を引用して、「前記飲料が茶飲料である」ことを更に特定するものである。 したがって、本件特許発明4と甲4発明Aとは、上記(2)アの相違点A1に加えて、次の相違点A2を有する。 相違点A2: 本件特許発明4は、「茶飲料」であるのに対し、甲4発明Aは、「コーヒー飲料」である点。 イ 判断 相違点A2について検討するに、黒しょうがエキスを配合した黒しょうが紅茶が知られていることを考慮しても(上記(甲6a))、甲4発明Aのコーヒー飲料を茶飲料に変更する理由がない。 そして、このことを考慮しても、上記(2)イで検討した本件特許発明1との相違点A1についての判断に影響はない。 したがって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含み、さらに実質的な相違点A2を有する本件特許発明4は、甲4発明A並びに甲3?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件特許発明5について 本件特許発明5は、本件特許発明1?3を引用して、「前記飲料がコーヒー飲料である」ことを更に特定するものである。 甲4発明Aは、「コーヒー飲料」であるから、この点に関して、甲4発明Aと本件特許発明5との間に新たに相違するところはない。 そして、このことを考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。 よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明5についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件特許発明6について ア 対比 本件特許発明6と甲4発明Bとを対比する。 甲4発明Bの「ブラックジンジャー抽出物」が、本件特許発明6の「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボン」を含有することは技術常識といえるから(上記(甲3c)?(甲3d))、甲4発明Bの「ブラックジンジャー抽出物を含むコーヒー飲料の呈味改善方法」は、本件特許発明6の「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンを含む飲料のイモ様の香味を改善する方法」と、「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンを含む飲料の味を改善する方法」で共通する。 甲4発明Bの「コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3)」が、カフェインを含有することは技術常識であるから(上記(甲5a))、甲4発明Bの「常法により下記組成のコーヒー飲料を調製する」、「コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3) 40質量部」は、本件特許発明6の「当該飲料にカフェインを配合する工程」に相当する。 そして、甲4発明Bの飲料が、コーヒー飲料であること、マルチトール及び香料を含むことは、本件特許発明6に包含され、相違点とはならない。 よって、両発明は次の一致点及び相違点B1を有する。 一致点: 「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンを含む飲料の味を改善する方法であって、 当該飲料にカフェインを配合する工程を含む、前記方法。」である点。 相違点B1: 本件特許発明6は、「式(I)(化学構造式及び式の説明略)で表される構造を有する少なくとも1種のメトキシフラボンを3.0?50mg/100mL含む飲料のイモ様の香味を改善する方法」であって、「当該飲料中の前記メトキシフラボンとカフェインとの重量比(前記メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5となるように、当該飲料にカフェインを配合する工程を含む」と特定しているのに対し、甲4発明Bは、「ブラックジンジャー抽出物を1質量部」含む「コーヒー飲料の呈味改善方法」であって、「コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3)を40質量部」含むとされている点。 イ 判断 上記相違点B1について検討するに、上記(2)イで甲4に開示される技術的事項について検討したのと同様の理由により、甲4発明Bは、ブラックジンジャー抽出物とともに、糖アルコールであるマルチトールを配合することよって、ブラックジンジャー抽出物を含むコーヒー飲料の呈味を改善する方法である。 そうすると、甲4発明Bは、既にブラックジンジャー抽出物を含有する飲料の呈味が改善されている方法であるといえ、ブラックジンジャー抽出物に含まれるメトキシフラボンの含有量やコーヒー抽出液に含まれるカフェインの含有量に着目して、呈味を改善する飲料が特定量のメトキシフラボンを含むものに特定する動機付けや、メトキシフラボンとカフェインとの重量比が所定の値となるようにコーヒー抽出液を配合する方法とする動機付けがない。 したがって、相違点B1は、当業者が容易になし得たことではない。 そして、本件特許発明6は、マルチトールなどを配合しなくても、特定量のメトキシフラボンを含有する飲料に、所定の重量比となるカフェインを含有させることで、黒ショウガ由来の特定の構造を有するメトキシフラボンを含有していながらも、前記特定の構造を有するメトキシフラボン特有のイモ様の味や臭いなどの好ましくない香味が改善する方法を提供することができるという、甲4からは予測もし得ない効果を奏するものである。 ウ まとめ 以上のとおり、相違点B1は当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 したがって、本件特許発明6は、甲4発明B並びに甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8)申立人の主張について ア 申立人は、進歩性欠如の理由として、特許異議申立書25ページ2行?34ページ3行において、概略次のように主張する。 (ア)甲4の請求項5(上記(甲4a))、配合例8(上記(甲4f))及び甲3及び甲5に記載の技術常識から、「メトキシフラボンとカフェインとを含むコーヒー飲料」の発明(以下、「甲4発明」という。)が認定でき、本件特許発明1は、メトキシフラボンを3.0?50mg/100mL含むことが特定されているのに対し、甲4発明ではメトキシフラボンの含有量が不明である点(以下、「相違点1」という。)、本件特許発明1は、メトキシフラボンとカフェインとの重量比(メトキシフラボンの総重量/カフェインの重量)が0.03?1.5に特定されているのに対し、甲4発明では当該重量比が不明である点(以下、「相違点2」という。)で相違する。 相違点1は、以下のとおり当業者が容易になし得たことである。 a 甲4には、製造例1?3の3種のブラックジンジャー抽出物を得たことが記載されているところ、配合例8のブラックジンジャー抽出物はそのいずれであるか記載されていないが、それ以外の実施例1?9及び配合例1?7は全て製造例1のものを用いているから(上記(甲4e)?(甲4f))、配合例8も製造例1のものを用いていると認められる。 b 甲4の製造例1のブラックジンジャー抽出物は、50%含水エタノールで抽出されたものであり(上記(甲4e))、同様な抽出方法について開示する甲3の比較例1からみて(上記(甲3d))、メトキシフラボンの含有量は約26?27%である蓋然性が高い。 c そうすると、甲4の配合例8のコーヒー飲料は、ブラックジンジャー抽出物を1質量部配合しているから、飲料中のメトキシフラボン含有量は、260?270mg/100mLと算出される(1g/100mL×0.26?0.27)。 d 甲4には、ブラックジンジャー特有の匂いを低減することについても記載されており、実施例4では、ブラックジンジャー抽出物の濃度が配合例8より少ない0.5質量%の水溶液であっても匂いや呈味を改善することができることが示されており(上記(甲4e))、より少なくなれば呈味を改善し易くなる。 (イ)したがって、甲4発明においては、飲料中にメトキシフラボンが260mg/100mLと多量に含まれていても匂いや呈味を改善できるのであるから、ブラックジンジャー抽出物の呈味や匂いを改善して飲みやすくするために、ブラックジンジャー抽出物の含有量を減らすこと、すなわちメトキシフラボンの含有量を減らし、本件特許発明1の範囲内の量とすることは、当業者であれば容易になし得た変更である。 イ 上記申立人の主張について検討する。 (ア)甲4発明のコーヒー飲料中のメトキシフラボン含有量が260?270mg/100mL程度であることは、一応推認できる。 そこで、コーヒー飲料中のメトキシフラボン含有量を減らして、本件特許発明1で特定する3.0?50mg/100mLとすることが、当業者であれば容易になし得る変更といえるかについて検討する。 (イ)甲4には、ブラックジンジャーの抽出物は、優れた抗酸化作用等を有することが知られているが、甘味がなく、非嗜好性の呈味を有するだけでなく、特有の匂いのために、後味が悪く、繰返して飲み難いという問題があることから、ブラックジンジャー抽出物の有する特有の匂い、不快な呈味を、糖、糖アルコール、可食性酸類、及び人工甘味料の少なくともいずれかである化合物を配合することにより、効果的に抑えることができると共に、ブラックジンジャー抽出物の有効成分に何ら影響を与えることなく、後味が良く、総合的な美味しさと、繰返して飲みたいという優れた特性を有するブラックジンジャー抽出物組成物が得られ、この組成物を飲食物に添加しても、飲食物本来の風味を損なうことがないことが記載されている(上記(甲4b)、(甲4c))。 そして、特有の匂い、不快な呈味が改善されたブラックジンジャー抽出物組成物の飲食物への添加量は、ブラックジンジャー抽出物組成物として飲食物全体の0.1質量%?50質量%の添加が好ましく、場合によっては50質量%を超えても使用可能であることが記載されている(上記(甲4d))。 また、甲3には、黒ショウガに含まれるメトキシフラボンの効能として抗肥満作用など様々なものが知られており、種々の効能を得るためにメトキシフラボンを含む黒ショウガ抽出物を利用することが多いが、主に熱水又は含水アルコール抽出によって得られる抽出物は苦味等の独特の香味を有し、そして黒紫色を呈するため、特許文献1(本決定注:甲4)では、このような香味の問題を解決するため、糖、糖アルコール、可食生酸類、又は人工甘味料を利用していることが記載されている(上記(甲3a))。 さらに、甲3には、黒ショウガ抽出物は、苦味等の独特の香味を有し、黒紫色を呈するため、飲食品等に利用する場合に問題となり得るところ、抽出率を低下させれば、香味や色が目立たなくなる可能性はあるが、有効成分であるメトキシフラボンの濃度も低下してしまうことも記載されている(上記(甲3b))。 (ウ)これら甲3及び甲4の記載から、ブラックジンジャー抽出物の特有の匂い、不快な呈味を抑制し、有効成分であるメトキシフラボンの濃度を低下することなく飲食物に用いることが、当業者における共通の技術課題であったことが理解される。 そうすると、特有の匂い、不快な呈味を抑制するために、甲4発明に含まれるブラックジンジャー抽出物の含有量を減らし、メトキシフラボン含有量を低下させて、本件特許発明1の規定する範囲内とすることが、当業者であれば容易になし得る変更であるとはいえない。 (エ)よって、相違点1は、当業者が容易になし得たことではなく、相違点2について検討するまでもなく、申立人の主張は採用できない。 (9)理由2(進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-11-27 |
出願番号 | 特願2015-253853(P2015-253853) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 北村 悠美子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
黒川 美陶 関 美祝 |
登録日 | 2020-01-07 |
登録番号 | 特許第6641175号(P6641175) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | メトキシフラボンを含有するカフェイン含有飲料 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 梶田 剛 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 山本 修 |