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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1369024 |
異議申立番号 | 異議2020-700406 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-11 |
確定日 | 2020-12-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6664929号発明「難消化性デキストリン含有容器詰め飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6664929号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6664929号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年10月30日に出願され、令和2年2月21日にその特許権についての設定登録がされ、令和2年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年6月11日に特許異議申立人石井健治により特許異議の申立てがされた。 2 本件特許発明 特許第6664929号の請求項1?8に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 難消化性デキストリンを5g/L以上含有する難消化性デキストリン含有容器詰め飲料であって、乳酸菌の死菌をさらに含んでなり、かつ、乳酸菌発酵物非含有飲料である、容器詰め飲料(但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料を除く)。 【請求項2】 乳酸菌が発酵培地から分離された乳酸菌である、請求項1に記載の容器詰め飲料。 【請求項3】 乳酸菌の飲料中の菌数が14億個/L以上である、請求項1または2に記載の容器詰め飲料。 【請求項4】 容器が透明容器である、請求項1?3のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。 【請求項5】 飲料のpHが4.6以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。 【請求項6】 飲料中の糖類含有量が2.5g/100ml未満である、請求項1?5のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。 【請求項7】 難消化性デキストリン含有容器詰め飲料の製造方法であって、難消化性デキストリンおよび乳酸菌の死菌を原料に配合することを含んでなり、該飲料中の難消化性デキストリン含有量が5g/L以上であり、かつ、該飲料が乳酸菌発酵物非含有飲料である、製造方法(但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料の製造方法並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料の製造方法を除く)。 【請求項8】 難消化性デキストリンを5g/L以上含有する容器詰め飲料の香味劣化を抑制する方法であって、該飲料に乳酸菌の死菌を配合することを含んでなり、かつ、該飲料が乳酸菌発酵物非含有飲料である、方法(但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料の香味劣化を抑制する方法並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料の香味劣化を抑制する方法を除く)。 (以下、請求項1?8に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、……、「本件特許発明8」ともいい、あわせて「本件特許発明」ともいう。) 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第8号証を提出し、 申立理由1-1: 請求項1?3、請求項7及び請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載されるとおりの本件特許の出願前に公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するものであるから、その特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 申立理由1-2: 請求項1?3、請求項7及び請求項8に係る発明は、甲第3号証に記載されるとおりの本件特許の出願前に公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するものであるから、その特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 申立理由1-3: 請求項1?3、請求項7及び請求項8に係る発明は、甲第4号証に記載されるとおりの本件特許の出願前に公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するものであるから、その特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 申立理由2-1: 請求項1?8に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載されるとおりの本件特許の出願前に公然実施された発明及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 申立理由2-2: 請求項1?8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明並びに甲第6号証及び甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。 申立理由3: 請求項1?3、7、8に係る発明は、その構成要件の「乳酸菌」について、あらゆる種類の乳酸菌にまで拡張ないし一般化することができないものであり、また、その構成要件の「容器」について、あらゆる種類の容器にまで拡張ないし一般化することができないものであり、また、「糖類2.5g/100ml未満」との要件が必須であると考えるべきものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。 と主張する。 甲第1号証: 森永乳業株式会社, 「飲みきりサイズ125mlで200kcal! エネルギー摂取をおいしくサポートする総合栄養飲料 「エンジョイ climeal」がラインアップ拡充 「エンジョイclimeal ミルクティー味/みかん味/くり味」 9月1日(火)より順次新発売のお知らせ 販売中の商品もさらにおいしくリニューアルします!」 を表題(但し、摘記した記載「エンジョイclimeal」の2つめには、その「climeal」直上に振り仮名「クリミール」が付けられている。)とする2015年8月付けNEWS RELEASE文書(以下、「甲1」という。) 甲第2号証: 森永乳業株式会社, 「モラック乳酸菌(MCC1849)による IgA産生促進作用と感染防御作用 ?日本農芸化学会2014年度大会(2014年3月27?30日)発表内容のご報告?」 を表題とする2014年3月付けNEWS RELEASE文書(以下、「甲2」という。) 甲第3号証: 食品産業新聞,「「クリミール」に乳酸菌配合 森永乳業 Ca・食物繊維など強化」を見出しとする記載,2015年08月31日付け朝刊,7面(以下、「甲3」という。) 甲第4号証: 日本食糧新聞,「エンジョイclimeal(クリミール)〈ミルクティー味〉」を見出しとする記載,2015年10月19日付け朝刊,11面(以下、「甲4」という。) 甲第5号証: 特開2004-81105号公報(以下、「甲5」という。) 甲第6号証: 特開2004-51530号公報(以下、「甲6」という。) 甲第7号証: 森永乳業グループ病態栄養部門 株式会社クリニコ, 第1頁右上端に 「エンジョイ クリミール 毎日の栄養補給を美味しくサポート。 バラエティに富んだ8種類の味で、毎日おいしく楽しめます。」と記載された2019年7月付け文書(以下、「甲7」という。) 甲第8号証: 特開2014-93945号公報(以下、「甲8」という。) 4 文献の記載 (1)甲1の記載 甲1には、以下の記載事項(甲1-1)?記載事項(甲1-4)が記載されている。 [記載事項(甲1-1)] 「森永乳業およびグループ会社のクリニコは、総合栄養補助飲料「エンジョイ climeal」シリーズから、「エンジョイ climeal ミルクティー味/みかん味/くり味」の3品をそれぞれ9月1日(火)より全国にて、新発売いたします。また、販売中の「エンジョイclimeal ヨーグルト味^(※)/いちご味/バナナ味/コーンスープ味/コーヒー味」の5種も、同月より順次リニューアルいたします。 ^(※)プレーンより名称変更いたします。」(第1頁のうち、表題を除く箇所の第1?5行) [記載事項(甲1-2)] 「そこで、森永乳業およびグループ会社のクリニコでは、こうしたシニア世代のために、エネルギー摂取をおいしくサポートする総合栄養飲料「エンジョイ climeal」を2013年より販売しております。 「エンジョイ climeal」は、1パック125mlの小容量で、エネルギー200kcal、たんぱく質7.5gが摂取できる総合栄養飲料です。たんぱく質、脂質、炭水化物といった三大栄養素の他、カルシウムなどのミネラル、ビタミン類、食物繊維もバランスよく配合しております。また、今回新たに、“免疫力”をキーワードに森永乳業が選び出した“モラック乳酸菌^(※)”を配合しました。新商品の「ミルクティー味」、「みかん味」、「くり味」をあわせて 8 種類の味わいをご用意しておりますので、気分や好みにあわせてお選びください。」(第1頁のうち、表題を除く箇所の第9?16行) [記載事項(甲1-3)] 「1.商品特長 「エンジョイ climeal」シリーズ 1パック125mlの小容量で、エネルギー200kcal、たんぱく質7.5gが摂取できる総合栄養飲料です。たんぱく質、脂質、炭水化物といった三大栄養素の他、カルシウムなどのミネラル、ビタミン類、食物繊維もバランスよく配合しております。 <リニューアルポイント> (1)高カロリー飲料ながら、すっきり飲みやすくさらにおいしい味わいに改良いたしました。 (2)“免疫力”をキーワードに選び出した“モラック乳酸菌^(※)”を100億個配合しました。 (3)「ミルクティー味」、「みかん味」、「くり味」を加え、全8種類をご用意いたしました。 …… ^(※)モラック乳酸菌 免疫細胞の多くは腸内に存在し、摂取した乳酸菌が免疫に作用することが示唆されています。モラック乳酸菌は“免疫力”をキーワードに森永乳業が保有する数千株の中から選ばれた乳酸菌です。」(第2頁「1.商品特長」の項、第1行?最終行) (なお、摘記した記載中の「(1)」、「(2)」、「(3)」は、原文では「○」中に「1」、「2」、「3」である。) [記載事項(甲1-4)] 「販売はグループ会社である株式会社クリニコより、主に医療機関向けに行っておりますが、2013年1月からは、森永乳業でも栄養補助飲料「サンキストポチプラス」、とろみ調整食品「つるりんこ」、総合栄養飲料「エンジョイclimeal」、ユニバーサルデザインフード(介護食)「やわらか亭」の4品の取り扱いを順次開始しました。ドラッグストアでの粉ミルクなどの商品販売のノウハウを活かし、一般流通チャネルでの販売も強化しております。」(第3頁第6?10行) (なお、摘記した記載「エンジョイclimeal」には、その「climeal」直上に振り仮名「クリミール」が付けられている。) (2)甲2の記載 甲2には、以下の記載事項(甲2-1)が記載されている。 [記載事項(甲2-1)] 「森永乳業は、東京大学大学院農学生命科学研究科八村敏志准教授との共同研究により、免疫賦活作用が期待される乳酸菌として選抜されたモラック乳酸菌(MCC1849)の摂取が、インフルエンザウイルス感染を軽減するとともに、腸管での感染防御に寄与するIgA(※1)産生を促進することをマウスを用いた試験で確認しました。これらの結果を、日本農芸化学会2014年度大会(3月27?30日、明治大学)にて発表いたします。」(第1頁のうち、表題を除く箇所の第1?5行) (3)甲3の記載 甲3には、以下の記載事項(甲3-1)?記載事項(甲3-2)が記載されている。 [記載事項(甲3-1)] 「「クリミール」に乳酸菌配合 森永乳業 Ca・食物繊維など強化」(第1段右端の見出し) (なお、摘記した記載「森永乳業」は、黒地に白字での表記。) [記載事項(甲3-2)] 「高齢者の低栄養改善目的に流動食市場が拡大していることから9月、総合栄養飲料「エンジョイ クリミール」=写真=をリニューアル発売する。「免疫力を高める」をキーワードに、同社が保有する数千株の中から選ばれた「モラック乳酸菌」を100億個配合し、カルシウム、食物繊維、ビタミンをそれぞれ強化した。」(第1段右から縦書きで第1?12行) (4)甲4の記載 甲4には、以下の記載事項(甲4-1)が記載されている。 [記載事項(甲4-1)] 「エンジョイclimeal (クリミール)〈ミルクティー味〉 (1)森永乳業 (2)健康食品。シリーズ新アイテム。1パック125mlの小容量で、エネルギー200キロカロリー、タンパク質7.5gが摂取できる総合栄養飲料。タンパク質、脂質、炭水化物の三大栄養素のほか、カルシウムなどのミネラル、ビタミン類、食物繊維もバランスよく配合している。免疫力をキーワードに同社が選び出した“モラック乳酸菌”を配合した。 A=〈ミルクティー味〉 B=〈みかん味〉 C=〈くり味〉 (3)9月1日、全国ドラッグストア・通信販売・量販店。各125mlアセプティックブリックパック・各OP。」(第1?20行) (なお、摘記した記載中の「(1)」、「(2)」、「(3)」は、原文では「●」中に白抜き文字で「1」、「2」、「3」である。) (5)甲5の記載 甲5には、以下の記載事項(甲5-1)?記載事項(甲5-8)が記載されている。 [記載事項(甲5-1)] 「…… 【請求項2】 乳酸菌死菌体又はその処理物、食物繊維、オリゴ糖、アロエの内の少なくともひとつ、及び、ケールペーストを含有してなること、を特徴とする便秘改善食品。 …… 【請求項5】 食物繊維が水溶性食物繊維及び/又は不溶性食物繊維であること、を特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の食品。 …… 【請求項8】 食品の形態が清涼飲料水であること、を特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の食品。」(特許請求の範囲) [記載事項(甲5-2)] 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、便秘改善食品に関し、更に詳細には、乳酸菌、特に不活化乳酸菌を使用することを特徴とする、天然物由来の高い便秘改善効果を有する新規な食品に関するものである。」(発明の詳細な説明の段落0001) [記載事項(甲5-3)] 「【0016】 本発明において、乳酸菌は、不活化乳酸菌を使用する。不活化乳酸菌は、加熱処理、スプレードライ、凍結処理等によって不活化したものであって、例えば死菌体が使用可能である。乳酸菌としては生菌を使用するのが技術常識であり、この技術常識にしたがって、乳酸菌生菌をケールペーストやケール青汁に添加したけれども、品質の劣化がはじまり、甚だしい場合には腐敗するに至り、ましてや食用に供することなどは不可能であった。 【0017】 これに対して本発明は、ケールペーストやケール青汁には添加できなかった乳酸菌を添加することにはじめて成功しただけでなく、得られた製品は、口当り、風味、品質ともにすぐれ、食用に供することが充分に可能であり(つまり、乳酸菌含有ケール食品という新規食品を開発しただけでなく)、そのうえ更に、便秘改善という新しい生理活性を得ることにはじめて成功したものであり、このような特徴を乳酸菌生菌から予測することは、技術レベルを逆転することとなり、容易ではないというより不可能といっても過言ではない。」(発明の詳細な説明の段落0016?0017) [記載事項(甲5-4)] 「【0020】 添加する乳酸菌は、ヨーグルトや乳酸菌飲料等由来のものでもよいし、専用に培養されたものでもよいが、不活化処理する必要があり、乾燥することも可能である。不活化乳酸菌(殺菌された乳酸菌)を使用することにより、乳酸菌をケールペーストに添加することがはじめて可能となった。その添加量に格別の規定はないが、通常、ケールペースト30%含有食品あたり、1億?5兆個、好ましくは500億?3兆個、更に好ましくは500億?1兆個程度とするのがよい。」(発明の詳細な説明の段落0020) [記載事項(甲5-5)] 「【0022】 ケールペーストは、水溶性繊維、不溶性繊維、植物(野菜)系の各種栄養素を含み、不溶性繊維に富んだ食品であるが、便秘改善用食品に使用するには食物繊維の量が充分ではない。そこで、本発明においては、整腸作用を更に高めるため食物繊維を添加する。食物繊維としては、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維のいずれか一方あるいは両方が使用できる。」(発明の詳細な説明の段落0022) [記載事項(甲5-6)] 「【0024】 不溶性食物繊維としては、難消化性デキストリン、グルコマンナン、ペクチンサイリウム種皮、アップルファイバー、コーンファイバー、ビートファイバー、大豆ファイバー、米糠、小麦ふすま、セルロース、ヘミセルロースからなる群より選ばれる1種以上が使用される。」(発明の詳細な説明の段落0024) [記載事項(甲5-7)] 「【0026】 食物繊維の含有量は、便秘改善が得られる量であればよく、格別の限定はないが、一応の目安として、ケールペースト30重量%含有便秘改善食品あたり、水溶性食物繊維が0.1?50重量%、好適には0.5?30重量%、更に好適には1?20重量%であり、不溶性食物繊維が0.01?30重量%、好適には0.05?20重量%、更に好適には0.1?15重量%である。」(発明の詳細な説明の段落0026) [記載事項(甲5-8)] 「【0032】 その配合例を下記表1に示す。なお、表1は1パック90gあたりの割合量であり、サンファイバーは、水溶性食物繊維ガラクトマンナン分解物の商品名(太陽化学(株))である。 【0033】 (表1) 【0034】 本製品として液状の製品を上記に例示したが、更に飲用しやすくするため、クエン酸等の酸味料、砂糖等の甘味料を更に添加してもよい。」(発明の詳細な説明の段落0032?0034) (6)甲6の記載 甲6には、以下の記載事項(甲6-1)?記載事項(甲6-2)が記載されている。 [記載事項(甲6-1)] 「【0025】 実施例 Enterococcus faecalis(ATCC 19433)をロゴサ培地で37℃、24時間培養した前培養液を、酵母エキス4%、ポリペプトン3%、乳糖10%を含む液体培地に0.1(v/v)%接種し、pHスタットを用いてpH6.8?7.0に苛性ソーダ水溶液で調整しながら37℃、22?24時間中和培養を行なった。」(発明の詳細な説明の段落0025) [記載事項(甲6-2)] 「【0026】 培養終了後、連続遠心機で菌体を分離、回収した後、水を加えて元の液量まで希釈して再度連続遠心機で菌体を分離、回収した。この操作を合計4回繰り返して菌体を洗浄した。次いで、洗浄した菌体を適量の水に懸濁し、100℃、30分間殺菌した後、スプレードライヤーを用いて菌体を乾燥して加熱処理菌体粉末を調製した。」(発明の詳細な説明の段落0026) (7)甲7の記載 甲7には、以下の記載事項(甲7-1)が記載されている。 [記載事項(甲7-1)] 「 」(第2頁) (8)甲8の記載 甲8には、以下の記載事項(甲8-1)が記載されている。 [記載事項(甲8-1)] 「【0002】 容器詰め飲料を安定して保存するためには、飲料に混濁や異臭をもたらす微生物を殺菌しておく必要がある。清涼飲料には食品衛生法が適用されており、主に飲料のpHによって殺菌処理条件が決まっている。例えば、pHが4未満の場合には、65℃で10分間の加熱処理と同等以上の殺菌処理を、pHが4以上4.6未満の場合には、85℃で30分間の加熱処理と同等以上の殺菌処理を、それぞれ行うべきとされている。」(発明の詳細な説明の段落0002) 5 当審の判断 (1)申立理由1-1(甲1を証拠とする本件特許発明1?3、7、8の新規性欠如) 記載事項(甲1-1)?記載事項(甲1-3)からは、甲1の発行時期と認められる2015年8月の直後の9月1日より、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、ビタミン類、食物繊維及び「モラック乳酸菌」を配合して1パック125mlの容器に入れた飲料(以下、「甲1発明」という。)を、「エンジョイ climeal」との名称で全国にて新発売する計画のあったことが認められる。 本件特許発明1を甲1発明と対比すると、 (一致点)両者は容器詰め飲料である点で一致し、 (相違点1-1)本件特許発明1では「難消化性デキストリンを5g/L以上含有する」ものであるのに対し、甲1発明では「食物繊維」を配合したものである点で相違し、 (相違点1-2)本件特許発明1では「乳酸菌の死菌」を含むものであるのに対し、甲1発明では「死菌」か否かが不明である「モラック乳酸菌」を配合したものである点で相違し、 (相違点1-3)本件特許発明1では「乳酸菌発酵物非含有」であるのに対し、甲1発明では「乳酸菌発酵物」の含有の有無は不明である点で相違し、 (相違点1-4)本件特許発明1では「但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料を除く」とされるものであるのに対し、甲1発明では大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物の有無は不明である点で相違する。 記載事項(甲1-2)及び記載事項(甲1-4)からは、「エンジョイ climeal」との名称の飲料が森永乳業株式会社および株式会社クリニコにより2013年から販売されていたことが認められるとともに、記載事項(甲1-2)には「今回新たに、……“モラック乳酸菌※”を配合しました。」との記載があることから、「エンジョイ climeal」との名称の飲料は、名称が変更されなくても少なくとも配合組成が変更されることのあったことが認められる。 記載事項(甲7-1)からは、甲7の発行時期と認められる2019年7月の時点においては、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料は、その主要原材料に難消化性デキストリン及び乳酸菌(殺菌)を含み、大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含まないものであって、125ml当たり2.5gの食物繊維を含むことを標準組成とするものであったことが認められるものの、「エンジョイ climeal」との名称は「エンジョイ クリミール」との名称とは異なることが明らかである上に、上記のとおり、記載事項(甲1-2)及び記載事項(甲1-4)からは、「エンジョイ climeal」との名称の飲料は、たとえ名称が変更されなくても少なくとも配合組成が変更されることのあったことが認められるので、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月1日より全国にて新発売する計画があった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、2019年7月の時点における「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料と、全く同じ成分組成を有するものであるとすることはできず、本件特許発明1と甲1発明との上記相違点1-1?相違点1-4がいずれも実質的な相違点ではないとすることもできない。 しかも、2015年9月1日より全国にて新発売する計画のあった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、現実に、本件特許の出願前に公然実施されたものであること(いつ、どこで、誰に、どのような状態で譲渡された等)を示す証拠は、特許異議申立人から提出されておらず、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月1日より全国にて新発売する計画のあった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、本件特許の出願前に公然実施されたものであるとすることはできない。 したがって、本件特許発明1が、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 本件特許発明2?3は、本件特許発明1の特定事項のすべてを特定事項とする発明であり、本件特許発明7は実質的に本件特許発明1を製造する方法の発明であり、本件特許発明8は実質的に本件特許発明1を利用する方法の発明であると認められるから、本件特許発明1が、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない以上、本件特許発明2?3、7及び8もまた、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 よって、本件特許発明1?3、7及び8に係る特許を、申立理由1-1によって、取消すことはできない。 (2)申立理由1-2(甲3を証拠とする本件特許発明1?3、7、8の新規性欠如) 記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)からは、甲3の発行時期と認められる2015年8月31日の直後の9月より、「モラック乳酸菌」を100億個配合し、カルシウム、食物繊維、ビタミンをそれぞれ強化した「エンジョイ クリミール」との名称の飲料(以下、「甲3発明」という。)をリニューアル発売する計画のあったことが認められる。 本件特許発明1を甲3発明と対比すると、 (一致点)両者は容器詰め飲料である点で一致し、 (相違点3-1)本件特許発明1では「難消化性デキストリンを5g/L以上含有する」ものであるのに対し、甲3発明では「食物繊維」を配合したものである点で相違し、 (相違点3-2)本件特許発明1では「乳酸菌の死菌」を含むものであるのに対し、甲3発明では「死菌」か否かが不明である「モラック乳酸菌」を配合したものである点で相違し、 (相違点3-3)本件特許発明1では「乳酸菌発酵物非含有」であるのに対し、甲3発明では「乳酸菌発酵物」の含有の有無は不明である点で相違し、 (相違点3-4)本件特許発明1では「但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料を除く」とされるものであるのに対し、甲3発明では大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物の有無は不明である点で相違する。 記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)からは、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料が森永乳業株式会社により、甲3の発行時期と認められる2015年8月31日より前から販売されていたことが認められるとともに、記載事項(甲3-1)には「「クリミール」に乳酸菌配合」及び「Ca・食物繊維など強化」との記載があり、記載事項(甲3-2)には「「モラック乳酸菌」を100億個配合し、カルシウム、食物繊維、ビタミンをそれぞれ強化した。」との記載があることから、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料は、名称が変更されなくても少なくとも配合組成が変更されることのあったことが認められる。 記載事項(甲7-1)からは、甲7の発行時期と認められる2019年7月の時点においては、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料は、その主要原材料に難消化性デキストリン及び乳酸菌(殺菌)を含み、大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含まないものであって、125ml当たり2.5gの食物繊維を含むことを標準組成とするものであったことが認められるものの、上記のとおり、記載事項(甲3-1)及び記載事項(甲3-2)からは、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料は、たとえ名称が変更されなくても少なくとも配合組成が変更されることのあったことが認められるので、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月よりリニューアル発売する計画があった「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料が、2019年7月の時点における「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料と、全く同じ成分組成を有するものであるとすることはできず、本件特許発明1と甲3発明との上記相違点3-1?相違点3-4がいずれも実質的な相違点ではないとすることもできない。 しかも、2015年9月よりリニューアル発売する計画のあった「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料が、現実に、本件特許の出願前に公然実施されたものであること(いつ、どこで、誰に、どのような状態で譲渡された等)を示す証拠は、特許異議申立人から提出されておらず、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月よりリニューアル発売する計画のあった「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料が、本件特許の出願前に公然実施されたものであるとすることはできない。 したがって、本件特許発明1が、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 本件特許発明2?3は、本件特許発明1の特定事項のすべてを特定事項とする発明であり、本件特許発明7は実質的に本件特許発明1を製造する方法の発明であり、本件特許発明8は実質的に本件特許発明1を利用する方法の発明であると認められるから、本件特許発明1が、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない以上、本件特許発明2?3、7及び8もまた、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 よって、本件特許発明1?3、7及び8に係る特許を、申立理由1-2によって、取消すことはできない。 (3)申立理由1-3(甲4を証拠とする本件特許発明1?3、7、8の新規性欠如) 記載事項(甲4-1)からは、甲4の発行時期と認められる2015年10月19日の直前の9月1日より、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウムなどのミネラル、ビタミン類、食物繊維及び「モラック乳酸菌」を配合して125mlアセプティックブリックパック容器に入れた飲料(以下、「甲4発明」という。)を、「エンジョイ climeal」との名称で全国ドラッグストア・通信販売・量販店にて販売する計画のあったことが認められる。 本件特許発明1を甲4発明と対比すると、 (一致点)両者は容器詰め飲料である点で一致し、 (相違点4-1)本件特許発明1では「難消化性デキストリンを5g/L以上含有する」ものであるのに対し、甲4発明では「食物繊維」を配合したものである点で相違し、 (相違点4-2)本件特許発明1では「乳酸菌の死菌」を含むものであるのに対し、甲4発明では「死菌」か否かが不明である「モラック乳酸菌」を配合したものである点で相違し、 (相違点4-3)本件特許発明1では「乳酸菌発酵物非含有」であるのに対し、甲4発明では「乳酸菌発酵物」の含有の有無は不明である点で相違し、 (相違点4-4)本件特許発明1では「但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料を除く」とされるものであるのに対し、甲4発明では大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物の有無は不明である点で相違する。 記載事項(甲4-1)には、「シリーズ新アイテム。」との記載があることから、記載事項(甲4-1)からは、「エンジョイ climeal」との名称の飲料が森永乳業株式会社により、甲4の発行時期と認められる2015年10月19日より前から販売されていたことが認められる。 また、記載事項(甲7-1)からは、甲7の発行時期と認められる2019年7月の時点においては、「エンジョイ クリミール」との名称の飲料は、その主要原材料に難消化性デキストリン及び乳酸菌(殺菌)を含み、大麦の葉および/または茎並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含まないものであって、125ml当たり2.5gの食物繊維を含むことを標準組成とするものであったことは認められる。 しかし、「エンジョイ climeal」との名称は「エンジョイ クリミール」との名称とは異なること、記載事項(甲4-1)には、「シリーズ新アイテム。……。タンパク質、脂質、炭水化物の三大栄養素のほか、カルシウムなどのミネラル、ビタミン類、食物繊維もバランスよく配合している。免疫力をキーワードに同社が選び出した“モラック乳酸菌”を配合した。」との記載があることから、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月1日より全国ドラッグストア・通信販売・量販店にて販売する計画のあった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、2019年7月の時点における「エンジョイ クリミール」を名称とする飲料と、全く同じ成分組成を有するものであるとすることはできず、本件特許発明1と甲4発明との上記相違点4-1?相違点4-4がいずれも実質的な相違点ではないとすることもできない。 しかも、2015年9月1日より全国ドラッグストア・通信販売・量販店にて販売する計画のあった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、現実に、本件特許の出願前に公然実施されたものであること(いつ、どこで、誰に、どのような状態で譲渡された等)を示す証拠は、特許異議申立人から提出されておらず、特許異議申立人の提出した証拠によっては、2015年9月1日より全国ドラッグストア・通信販売・量販店にて販売する計画のあった「エンジョイ climeal」を名称とする飲料が、本件特許の出願前に公然実施されたものであるとすることはできない。 したがって、本件特許発明1を、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 本件特許発明2?3は、本件特許発明1の特定事項のすべてを特定事項とする発明であり、本件特許発明7は実質的に本件特許発明1を製造する方法の発明であり、本件特許発明8は実質的に本件特許発明1を利用する方法の発明であると認められるから、本件特許発明1を本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない以上、本件特許発明2?3、7及び8もまた、本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない。 よって、本件特許発明1?3、7及び8に係る特許を、申立理由1-3によって、取消すことはできない。 (4)申立理由2-1(甲1、甲3、甲4を主たる証拠とする本件特許発明1?8の進歩性欠如) 記載事項(甲8-1)は、飲料のpHと適用すべき殺菌処理条件との関係を示すものにとどまるから、上記(1)?(3)に示したとおり、甲1、甲3及び甲4の記載を根拠にして本件特許発明1?3、7及び8を本件特許の出願前に公然実施された発明であるとすることはできない以上、甲8の記載にかかわらず、本件特許発明1?3、7及び8並びに本件特許発明1の特定事項の全てを特定事項とする本件特許発明4?6を、本件特許の出願前に公然実施された発明及び甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 よって、本件特許発明1?8に係る特許を、申立理由2-1によって、取消すことはできない。 (5)申立理由2-2(甲5を主たる証拠とする本件特許発明1?8の進歩性欠如) 甲5には、記載事項(甲5-8)から、 「1パック90gあたり、 ケールペースト10?50g 水溶性食物繊維としての「サンファイバー」(ガラクトマンナン分解物)0.5?15g 不溶性食物繊維としての粉末セルロース0.1?10g オリゴ糖0.3?12g 乳酸菌(殺菌)0.001?0.5g キダチアロエエキス0.005?0.8g 果糖0.03?1.5g アスコルビン酸0.03?1.2g 抹茶0.03?1.2g を配合した飲料」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 本件特許発明1を甲5発明と対比すると、 (一致点)両者は、乳酸菌の死菌を含み、乳酸菌発酵物非含有である、容器詰め飲料(但し、大麦の葉および/または茎を含有する飲料並びに大麦の葉および/または茎の加工処理物を含有する飲料を除く)である点で一致し、 (相違点5-1)本件特許発明1は、難消化性デキストリンを5g/L以上含有する難消化性デキストリン含有飲料である一方、甲5発明はその特定のない飲料である点で相違する。 甲5発明は、記載事項(甲5-1)及び記載事項(甲5-2)から、便秘改善を目的とするものと認められ、記載事項(甲5-5)から、ケールペーストでは食物繊維の量が充分ではないため、水溶性食物繊維及び不溶性食物繊維が配合されたことが認められる。 記載事項(甲5-7)には、食物繊維の含有量は便秘改善が得られる量であればよいことが記載されており、記載事項(甲5-6)には、不溶性食物繊維の例として、難消化性デキストリン、セルロース等が列挙されているものの、「Enterococcus faecalis(ATCC 19433)」の培養、分離、回収に関する記載事項(甲6-1)及び記載事項(甲6-2)、並びに、飲料のpHと適用すべき殺菌処理条件との関係を示す記載事項(甲8-1)を参酌しても、便秘改善を目的とする甲5発明において、食物繊維に注目し、さらにケールペーストに含まれる食物繊維、水溶性食物繊維及び不溶性食物繊維の中から特に不溶性食物繊維に注目し、さらに不溶性食物繊維として配合される粉末セルロースを難消化性デキストリンに変更することが、当業者に動機づけられるといえる根拠は見出せない。 たとえ、粉末セルロースを難消化性デキストリンに変更すること自体は、当業者に動機づけられると仮定したとしても、難消化性デキストリンが、同量の粉末セルロースと同程度の便秘改善作用を有することは、甲5、甲6及び甲8に記載されておらず、本件特許出願時の技術常識であったともいえないから、弱すぎず、且つ強すぎない適切な程度の便秘改善作用を得るために、難消化性デキストリンを5g/L以上含有するものとすることが、当業者が容易に想到し得た技術事項といえる根拠は見出せない。 また、甲5発明は、記載事項(甲5-3)及び記載事項(甲5-4)から、従来、ケールに乳酸菌を混合することは不可能とされていたものを、乳酸菌を乳酸菌(殺菌)に変更することでケールに配合することを可能にしたという効果を奏するものと認められるところ、乳酸菌により難消化性デキストリン含有飲料の光劣化による香味劣化を抑制するという本件特許発明1による効果(本件特許明細書の段落0009、0030等)が、甲5発明に配合された「不溶性食物繊維としての粉末セルロース0.1?10g」を「難消化性デキストリン5g/L以上」に変更することで奏されるものとして、当業者が甲5、甲6及び甲8の記載及び本件特許出願時の技術常識から予想し得た範囲のものとは認められない。 したがって、本件特許発明1を、甲5発明並びに甲6及び甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件特許発明2?6は、本件特許発明1の特定事項のすべてを特定事項とする発明であり、本件特許発明7は実質的に本件特許発明1を製造する方法の発明であり、本件特許発明8は実質的に本件特許発明1を利用する方法の発明であると認められるから、本件特許発明1を甲5発明並びに甲6及び甲8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない以上、本件特許発明2?8もまた、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 よって、本件特許発明1?8に係る特許を、申立理由2-2によって、取消すことはできない。 (6)申立理由3(サポート要件違反) ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされる。 イ 発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載事項(本-1)?記載事項(本-6)が記載されている。 [記載事項(本-1)] 「【0006】 本発明者らは難消化性デキストリンを含有する飲料を開発する上で、難消化性デキストリンを比較的高濃度で含有する容器詰め飲料において難消化性デキストリンが光劣化することにより香味劣化が生じることを見出した。そして、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、難消化性デキストリンに乳酸菌を共存させることで難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。 【0007】 本発明は光劣化による香味劣化が抑制された難消化性デキストリン含有容器詰め飲料とその製造方法を提供することを目的とする。」 [記載事項(本-2)] 「【0009】 本発明によれば、難消化性デキストリン含有容器詰め飲料において難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化を抑制することができる。本発明の飲料において使用する乳酸菌は無味・無臭で人体に影響がない素材であることから、本発明は香味設計に影響を与えずに難消化性デキストリンの香味劣化を抑制できる点で有利である。」 [記載事項(本-3)] 「【0012】 本発明の飲料は容器詰めの形態で提供される。容器としては、ボトル、缶、瓶等の飲料容器として提供しうる形態ものであれば特に限定されず、容器の素材もガラス、プラスチック(生分解性プラスチックを含む)等の飲料容器に適した素材から適宜選択できる。すなわち、本発明の飲料の容器の具体例としてはガラス瓶、プラスチックボトルが挙げられる。 【0013】 本発明の飲料を充填する容器が透明容器あるいは半透明容器である場合、遮光容器と比べて飲料が光劣化による香味の影響を受けやすくなるが、本発明によれば充填容器が透明容器や半透明容器であっても難消化性デキストリンの光劣化を抑制することができる。従って、本発明の容器詰め飲料の容器は、透明容器あるいは半透明容器とすることができ、本発明の飲料の香味劣化抑制作用をより効果的に発揮させる観点から好ましくは透明容器であり、より好ましくは透明プラスチックボトルおよび透明ガラス瓶であり、特に好ましくは透明PETボトルである。本発明において「透明容器」とは、内容物の色や状態等を容器外から視認できる容器を意味し、好ましくは無色の容器である。また、「透明容器」は容器の一部または全部がフィルム等で覆われていてもよい。」 [記載事項(本-4)] 「【0016】 飲料中に含まれる糖類はその甘味により難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化をマスキングする可能性があるが、本発明の飲料は糖類が存在しない状況でも光劣化による香味劣化を抑制することができる。本発明の飲料の香味劣化抑制作用をより効果的に発揮させる観点から、本発明の飲料の糖類含有量は2.5g/100ml未満とすることができ、好ましくは0.5g/100ml未満である。」 [記載事項(本-5)] 「【0018】 本発明の飲料は難消化性デキストリンに加えて乳酸菌を含有することを特徴とする。本発明の飲料は、発酵培地から単離された乳酸菌により難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化を抑制できるため、本発明の飲料に使用される乳酸菌は発酵培地から香味に影響しない程度に、実質的に分離された乳酸菌を用いることができる。例えば、乳酸菌発酵培地(乳酸菌発酵物)を遠心分離等にかけ、発酵物(発酵培地)を除去することにより分離された乳酸菌を得ることができる。 【0019】 本発明において使用する乳酸菌は生菌または死菌のいずれでも使用可能であるが、乳酸菌数のコントロールや製品の品質維持の観点から、死菌が好ましい。乳酸菌の菌数は香味劣化抑制効果をよりよく発揮させる観点から14億個/L以上が好ましく、より好ましくは14億個?20000億個/L、さらに好ましくは14億個?14000億個/Lとすることができる。使用する乳酸菌の菌種は特に制限はなく、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌が挙げられる。乳酸菌数はフローサイトメーターにより測定し、飲料中の菌数を調整することができる。」 [記載事項(本-6)] 「【実施例】 【0025】 実施例1:乳酸菌による難消化性デキストリン含有飲料の香味劣化の抑制 酸味料、アセスルファムK、スクラロース、乳酸菌、難消化性デキストリンおよびイオン交換水を下記濃度となるよう混合して難消化性デキストリン含有飲料を製造した。 ・酸味料:0.3% ・アセスルファムK:0.01% ・スクラロース:0.002% ・乳酸菌(ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株(死菌)、発酵培地を除去した粉末体):表1に記載の通り ・難消化性デキストリン(商品名:E-ファイバー):表1に記載の通り(表1では飲料中の難消化性デキストリン含量に換算して記載) ・イオン交換水:残量 【0026】 乳酸菌数は、乳酸菌を染色液(Staining Buffer)で染色し、BD FACS Canto(商標名)II フローサイトメーター(日本ベクトン・ディッキンソン社製)により計測し、表1の乳酸菌数となるように調製した。 【0027】 製造した難消化性デキストリン含有飲料をUHT殺菌し、500mlの透明ペットボトルに充填した。製造した飲料はpH3.8、カロリー5kcal/100ml未満、糖類2.5g/100ml未満であった。 【0028】 容器詰めした飲料に蛍光灯により積算照度で10000ルクスで4日相当の光を照射し、照射後の飲料を6人の選抜パネリストにより、下記の評価基準に従って評価した。 「飲みやすく、嗜好性が高い。」:A 「プラスチック様、樹脂様、金属様等の光劣化臭を少し感じ、やや飲みにくい。嗜好性が若干劣る。」:B 「プラスチック様、樹脂様、金属様等の光劣化臭が強く、飲みにくい。嗜好性が低い。」:C 「光劣化臭は認められない。」:N 【0029】 官能評価結果は下記表1に示される通りであった。 【表1】 【0030】 難消化性デキストリン含有飲料に乳酸菌を配合することで乳酸菌による香味劣化の抑制が濃度依存的に認められた。すなわち、乳酸菌による難消化性デキストリン含有飲料の香味劣化の抑制が示された。」 ウ 本件特許発明の課題 本件特許発明の解決しようとする課題は、特許請求の範囲の記載並びに記載事項(本-1)及び記載事項(本-2)から、難消化性デキストリン含有飲料において難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化を抑制することであると認められる。 エ 乳酸菌について 記載事項(本-5)には、使用する乳酸菌の菌種は特に制限はなく、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌が挙げられることが記載されている。 また、記載事項(本-6)には、透明ペットボトルに充填したpH3.8、カロリー5kcal/100ml未満、糖類2.5g/100ml未満である難消化性デキストリン含有飲料に、乳酸菌である「ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株(死菌)」を配合することで、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果が濃度依存的に認められたことが記載されている。 これらの記載により当業者は、本件特許発明が、乳酸菌が「ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株(死菌)」である場合に限らず、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果を奏することを認識し得ると認められるし、本件特許出願時において、ある乳酸菌によって難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果が得られている場合に、乳酸菌の種類によっては、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果を奏し得ないとの技術常識があったとも認められない。 オ 容器について 記載事項(本-3)には、容器としては、飲料容器として提供しうる形態のものであれば特に限定されず、容器の素材も飲料容器に適した素材から適宜選択できること、並びに、容器が透明容器あるいは半透明容器である場合、遮光容器と比べて飲料が光り劣化による香味の影響を受けやすくなること、及び、本件特許発明によれば充填容器が透明容器や半透明容器であっても難消化性デキストリンの光劣化を抑制することができることが記載されている。 また、記載事項(本-6)には、透明ペットボトルに充填したpH3.8、カロリー5kcal/100ml未満、糖類2.5g/100ml未満である難消化性デキストリン含有飲料に、乳酸菌である「ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株(死菌)」を配合することで、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果が濃度依存的に認められたことが記載されている。 これらの記載により当業者は、本件特許発明が、容器が透明ペットボトルの場合に限らず、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果を奏することを認識し得ると認められるし、本件特許出願時において、透明ペットボトルに充填した飲料において光劣化による香味劣化抑制効果が得られている場合に、透明容器以外の容器では光劣化による香味劣化抑制効果を奏し得ないとの技術常識があったとも認められない。 カ 糖類含有量について 記載事項(本-4)には、飲料中に含まれる糖類はその甘味により難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化をマスキングする可能性があること、及び、本件特許発明の飲料は糖類が存在しない状況でも光劣化による香味劣化を抑制することができることが記載されている。 また、記載事項(本-6)には、透明ペットボトルに充填したpH3.8、カロリー5kcal/100ml未満、糖類2.5g/100ml未満である難消化性デキストリン含有飲料に、乳酸菌である「ラクトコッカス・ラクティスJCM5805株(死菌)」を配合することで、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果が濃度依存的に認められたことが記載されている。 これらの記載により当業者は、本件特許発明が、糖類含有量が2.5g/ml未満の場合に限らず、難消化性デキストリンの光劣化による香味劣化抑制効果を一定程度奏することを認識し得ると認められるし、本件特許出願時において、糖類含有量が2.5g/ml未満の飲料において光劣化による香味劣化抑制効果が得られている場合に、糖類含有量が2.5g/ml以上の飲料では光劣化による香味劣化抑制効果を奏し得ないとの技術常識があったとも認められない。 キ 小括 以上ア?カにより、本件特許発明1?3、7、8は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認められる。 よって、本件特許発明1?3、7、8に係る特許を、申立理由3によって、取消すことはできない。 6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-12-04 |
出願番号 | 特願2015-214342(P2015-214342) |
審決分類 |
P
1
651・
112-
Y
(A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L) P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
村上 騎見高 井上 千弥子 |
登録日 | 2020-02-21 |
登録番号 | 特許第6664929号(P6664929) |
権利者 | キリンビバレッジ株式会社 キリンホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 難消化性デキストリン含有容器詰め飲料 |
代理人 | 榎 保孝 |
代理人 | 大森 未知子 |
代理人 | 横田 修孝 |