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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
管理番号 1369027
異議申立番号 異議2020-700647  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-31 
確定日 2020-12-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6659897号発明「乳成分とリナロールを含有する茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6659897号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6659897号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という)についての出願は、令和元年6月10日に出願され、令和2年2月10日にその特許権の設定登録がされ、同年3月4日にその特許掲載公報が発行された。
その後、当該発行日から6月以内にあたる、令和2年8月31日に本件特許に対して斉藤 出(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6659897号の請求項1?4に係る発明(以下、「本件特許発明1」などともいい、まとめて、「本件特許発明」ともいう)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料であって、
(a)飲料の甘味度が1?6であり、
(b)リナロールを2500?45000ppb含有し、
(c)乳タンパク質含有量に対するリナロール含有量の比率が0.35×10^(-3)以上であり、
(d)乳タンパク質の含有量が1.7g/100mL以下である、
上記茶飲料。
【請求項2】
紅茶抽出物を含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
容器詰め飲料である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
PETボトルに充填された容器詰め飲料である、請求項3に記載の飲料。」

第3 異議申立理由の概要
異議申立人は、令和2年8月31日付け異議申立書において、全請求項に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由を主張し、証拠方法として甲第1?10号証を提出している。

1 進歩性について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、甲第1?9号証(主たる証拠は、甲第1号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 実施可能要件について
本件特許の発明の詳細な説明は、以下の点で、当業者が本件特許の請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(1)茶飲料の種類、茶抽出物濃度の範囲、リナロール濃度の範囲について
本件特許明細書には「【0012】・・・ここで、本明細書において乳のフレッシュ感とは、乳由来の青っぽいフレッシュな香りを意味する。特定の理論に拘束されるわけではないが、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減は、加熱により生じた乳由来の甘い香りと茶の香ばしさが合わさることによって、米を炊いた時に生じるような匂いが発生し、これが青っぽいフレッシュな香りをマスキングするものと考えられる。」と記載されているから、乳のフレッシュ感の低減には茶の香ばしさも関与していると理解できる。
しかしながら、茶の香ばしさは、甲第10号証に示されるように、茶の種類、焙煎や乾燥の程度によって異なるものである。
本件特許明細書の実施例には特定の紅茶抽出物を特定の含有量で用いた極めて限定的な場合しか開示されておらず、紅茶以外の茶飲料、茶抽出物濃度の範囲、リナロール濃度の範囲について、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

(2)甘味度について
本件特許明細書の表2?4に記載された甘味度は、添加した砂糖の量から計算される甘味度と一致しておらず、砂糖以外の成分に含まれる甘味成分も合算されていると推測されるが、本件特許明細書にはそのことについての記載も、計算方法等についても説明がなく、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。

(3)乳の種類について
本件特許明細書では牛乳を用いて加熱前後の乳のフレッシュ感の低減を確認した例しかないが、豆乳、アーモンドミルクなどの植物性ミルクにも乳のフレッシュ感の低減という課題が存在するとはいえず、リナロールの添加が植物性ミルクにも効果があるともいえない。

3 サポート要件について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、以下の点で、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合していないため、当該発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

上記2(1)と同様に、本件特許明細書の実施例には特定の紅茶抽出物を特定の含有量で用いた極めて限定的な場合しか開示されておらず、紅茶以外の茶飲料、茶抽出物濃度の範囲、リナロール濃度の範囲について、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を逸脱している。

4 証拠方法
甲第1号証 :特開2009-45021号公報
甲第2号証 :特開2015-122969号公報
甲第3号証 :日本食品標準成分表2015年版(七訂)、文部科学省科
学技術・学術審議会資源調査分科会、平成27年12月2
5日、第2章 日本食品標準成分表 13 乳類
甲第4号証 :日本食品標準成分表2015年版(七訂)炭水化物成分表
編、文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会、平
成27年12月25日、第2章 炭水化物成分表 13
乳類
甲第5号証 :The Scientific World Journal, Volume 2017, Article I
D 4927214, 8 pages, 2017年1月1日
甲第6号証 :匂い成分と呈味性ペプチドの相互作用による食品風味への
影響に関する多面的解析、科学研究費助成事業 研究成果
報告書、平成29年6月9日、京都教育大学 大畑素子
甲第7号証 :特開2019-041685号公報
甲第8号証 :香料、平成22年3月、No.245、第21?32頁
甲第9号証 :特開2007-99857号公報
甲第10号証:Journal of Japan Association on Odor Environment, 20
07, Vol.38, No.3, 179-186

なお、以下、甲第1?10号証を、その番号に対応してそれぞれ、「甲1」?「甲10」ともいう。

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の記載がある。

(甲1a)「【請求項1】
シソ科メンタ属植物(Mentha)の葉又は茎の乾燥物の溶媒抽出物からなることを特徴とする香味又は香気改善剤。
・・・
【請求項4】
シソ科メンタ属植物が、ミズハッカ(Mentha aquatica L.)、ペパーミント(Mentha piperita L.)、ペニロイアルハッカ(Mentha pulegium L.)、マルバハッカ(Mentha rotundifolia (L.) Huds.)、オランダハッカ(Mentha spicata L.)もしくはベルガモットハッカ(Mentha citrata(Ehrh.)Briq.)またはこれらの変種である請求項1乃至3のいずれかに記載の香味又は香気改善剤。
・・・
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の香味又は香気改善剤を含有することを特徴とする経口組成物。
【請求項9】
経口組成物が牛乳類含有飲食品である請求項8記載の経口組成物。
【請求項10】
牛乳類含有飲食品が牛乳入り紅茶飲料である請求項9記載の経口組成物。
・・・
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれかに記載の香味又は香気改善剤を経口組成物又は香粧品に0.01?500ppm添加することを特徴とする、経口組成物又は香粧品の香味又は香気改善方法。」

(甲1b)「【0001】
本発明は熱により生成する飲食品等の経口組成物、香粧品の劣化臭の抑制に対し、広く適用できる香味又は香気改善剤に関する。
・・・
【0003】
特に牛乳類は、蛋白、脂肪、糖質、ビタミン、ミネラル等の多種多様の乳成分から構成され、熱や光による影響を受けやすい。このため、自動販売機や店頭で加温販売される缶コーヒーや缶紅茶等の牛乳(ミルク)入り缶飲料のように、高温で長期間保存される商品では、乳成分に起因する劣化臭をいかに抑制するかが問題となる。
【0005】
長期間にわたる加熱による飲食品の香味の劣化、特に牛乳類入り飲料の加熱による劣化を防止するために、これまでに幾つかの方法・・・等が提案されている。
・・・
しかしながら、これら従来技術は必ずしも熱による乳成分の分解等に起因する劣化臭を抑制するのに適した方法とはいえず、牛乳類入り飲食品の熱による劣化臭を抑制する技術は未だ確立されていないのが現状である。
・・・
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、飲食品等の熱による劣化、特に牛乳類入り飲食品の加熱による劣化臭を効果的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは牛乳類入り飲食品の加熱による劣化を詳細に検討した結果、シソ科メンタ属植物(Mentha)の葉又は茎の乾燥物の溶媒抽出物に、牛乳類入り飲食品の加熱による劣化臭を抑える効果があることを見出した。さらに、この溶媒抽出物は牛乳類入り飲食品のみならず、他の飲食品、香粧品等の熱による劣化臭を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成した。」

(甲1c)「【0018】
添加量は一般に、香料に添加する場合は0.1?50質量%が適当であり、好ましくは0.5?20質量%、さらに好ましくは1?10質量%である。
飲食品のような経口組成物及び香粧品では、一般に0.01?500ppmが適当であるが、飲食品等の香味、香気に影響を及ぼさない閾値の範囲内で添加する観点から、好ましくは0.5?50ppm、さらに好ましくは1?10ppmである。」

(甲1d)「【0028】
上記の香料、経口組成物、香粧品の中でも、熱による劣化臭が問題となることが多い茶飲料、果汁飲料等の飲料類への使用が好ましく、特に自動販売機や店頭で加温販売される缶コーヒーや缶紅茶等のミルク入り缶飲料に使用することが特に好ましい。」

(甲1e)「【0030】
〔香味又は香気改善剤の製造例〕
ペパーミントの乾燥葉300gを2250gの50%エタノール水溶液で、60℃で60分間抽出した。抽出後、遠心分離により抽出液を分離し、抽出液の固形分質量に対して30%の活性炭を加え、30分撹拌した後、セライト濾過により、活性炭を除去した。
得られた抽出液は減圧濃縮によりエタノールを除去し、水で固形分濃度が5質量%となるよう調製した。これに固形分質量の25%のヘスペリジナーゼ(田辺製薬(株)製「可溶性ヘスペリジナーゼタナベ2号」)を添加して、60℃で12時間撹拌した。その後、セライト濾過により酵素を除去し、固形分濃度が31%となるまで濃縮した。
【0031】
この濃縮液を予め0℃に冷却した95%エタノール中に撹拌しながら徐々に加え、液温を0?5℃に保ちながら30分間撹拌した(この工程で酵素は失活する)。析出した不溶物をセライト濾過により除去し、減圧濃縮した後、水で濃度調整し、固形分濃度10%、エタノール濃度50%のエキス650gを得た。
このエキスの50%エタノール溶液中における紫外線吸収スペクトル(濃度:100ppm)を図1に示した。
【0032】
〔試験例1〕<牛乳入り紅茶飲料に対する香味又は香気改善効果>
250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過した。濾液を20℃以下に冷却した後、これに、牛乳200g、砂糖57g、予め溶かしておいた乳化剤0.3g及び水にて全量1000gとし、重曹でpH6.8に調整して牛乳入り紅茶飲料を製造した。
この紅茶飲料をベースに何も添加しない紅茶飲料と、上記製造例で得られた香味又は香気改善剤を1ppm添加した紅茶飲料とをそれぞれ缶に充填し殺菌して、缶入りの2種類の牛乳入り紅茶飲料を製造した。
【0033】
それらを、60℃で4週間保管した後、習熟した14名のパネルを選んで官能評価を行った。そして、この場合、香味変化のない対照としては何も添加しない冷蔵保管品を使用し、香味の変化(劣化)の度合いを評価した。その結果は表1及び表2の通りである。
なお、表1中の評価の点数は、「異味・異臭が非常に強い」を4点、「異味・異臭がない」を0点とし、絶対評価を行った各パネルの平均点である。また、表2は、紅茶感(紅茶が本来有している香味)、牛乳感(牛乳が本来有している香味)、後キレ(後キレの良さ=飲んだ後に後味が長く残らないこと)について、無添加60℃、4週間保管品の場合を4点、無添加冷蔵保管品を8点とした場合の各パネルの評価の平均点である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】



(2)甲2に記載された事項
甲2には以下の記載がある。

(甲2a)「【0001】
本発明は、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する異臭味の発生を防止し、長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料及び、その製造方法に関する。より詳しくは、容器詰乳入り紅茶飲料の長期保存により発生する乳酸敗臭、酸味及びオフフレーバーのような異臭味の発生を、特定量の難消化性デキストリンを添加することによって防止し、長期保存に対して香味の保持された容器詰乳入り紅茶飲料、及び、その製造方法を提供することに関する。」

(甲2b)「【0033】
(2.難消化性デキストリン入り紅茶飲料の調製)
下記表1及び表2に示す配合で、定法に従って、原料を混合し、得られた混合液をUHTにて殺菌、PETに充填を行い、容器詰乳入り紅茶飲料を得た(試験例1?7)。具体的には、上記の(1.紅茶抽出物の調製)の方法で紅茶葉から抽出した紅茶抽出物に、乳(脱脂粉乳)、香料、乳化剤、ビタミンC、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース)、及び水を添加してpHが6.9となるように調整し、混合液を調製した。難消化性デキストリンの添加量は、表2となるように、それぞれ配合した。
【0034】
【表1】



(3)甲3に記載された事項
甲3には以下の記載がある。

(甲3a)「・・・・可食部100g当たり
・・・食品名 ・・・タンパク質・・・
・・・
・・・普通牛乳 ・・・3.3」

(4)甲4に記載された事項
甲4には以下の記載がある。

(甲4a)「 可食部100g当たり
・・・食品名 ・・・乳糖・・・
・・・・・・・・・・・g・・・・
・・・
・・・普通牛乳 ・・・4.4」

(5)甲5に記載された事項
甲5には以下の記載がある(訳文にて示す)。

(甲5a)「2.2.精油を得る.・・・葉は精油の抽出のために処理(洗浄及び乾燥)された。精油はクリベンジャー型装置で4時間水蒸気蒸留(温度100℃)することによって得られた。」(第2頁左欄第29?35行)

(甲5b)「表1:M.piperitaの精油の主要成分
ナンバー tR(分) KI 成分 ピークエリア(%)
・・・
6 16.12 1096 リナロール 51.8
・・・」(第4頁上)

(6)甲6に記載された事項
甲6には以下の記載がある。

(甲6a)「これは、乳タンパク質が分解されて生成した苦味ペプチドなどによる独特の風味をマスキングすること以外に、香辛料や香草等を加えることにより、さらにおいしくなるためであると考えられる。」(第2頁左欄下から第4行?右欄第1行)

(甲6b)「タイムやセイロン紅茶葉の揮発性画分は、ホエイタンパク質分解物の不快な風味を改善させる効果を有しており、その有効成分としてリナロールが特定された。」(第5頁左欄第19?23行)

(7)甲7に記載された事項
甲7には以下の記載がある。

(甲7a)「【0001】
本発明は、酸性乳飲料、酸性乳飲料ベース、酸性乳飲料の製造方法、酸性乳飲料ベースの製造方法、及び、酸性乳飲料の香味改善方法に関する。」

(甲7b)「【0009】
本発明に係る酸性乳飲料は、リナロールの含有量が所定範囲内となっていることから、舌に残る油脂感と乳由来のペーパー臭とが抑制されている。
本発明に係る酸性乳飲料ベースは、X/Dが所定範囲内となっていることから、希釈後の酸性乳飲料は、舌に残る油脂感と乳由来のペーパー臭とが抑制されている。」

(甲7c)「【0014】
[酸性乳飲料]
本実施形態に係る酸性乳飲料は、リナロールと、乳タンパク質と、アルコールと、を含有する飲料である。そして、本実施形態に係る酸性乳飲料は、さらにγ-テルピネンを含有するのが好ましい。
なお、本実施形態での酸性乳飲料とは、重量百分率で乳固形分(無脂乳固形分と乳脂肪分を合わせたもの)を3.0%以上含む飲料(いわゆる「乳飲料」)だけでなく、乳固形分が3.0%未満の飲料も含む概念である。
以下、酸性乳飲料を構成する各成分について説明する。
【0015】
(リナロール)
リナロール(linalool)とは、モノテルペンアルコールの一種である。このリナロールを酸性乳飲料に含有させることによって、舌に残る油脂感を抑制するとともに、乳由来のペーパー臭を抑制することで、香味を改善させることを本発明者は見出した。
【0016】
リナロールの含有量は、50ppb以上が好ましく、100ppb以上がより好ましく、200ppb以上がさらに好ましい。リナロールの含有量が所定量以上であることにより、酸性乳飲料の舌に残る油脂感だけでなく、乳由来のペーパー臭を抑制することができ、さらに200ppb以上とすることにより、華やかな香味を有した酸性乳飲料とすることができる。
【0017】
リナロールの含有量は、2500ppb以下が好ましく、2000ppb以下がより好ましく、1500ppb以下がさらに好ましい。リナロールの含有量が2500ppbを超えると、フローラルな香りが非常に際立って乳感がほとんど感じられなくなり、2000ppbを超えると、フローラルな香りが際立って乳感があまり感じられなくなる。また、1500ppb以下であることにより、舌に残る油脂感と乳由来のペーパー臭を抑制するだけでなく、華やかな香味を有した酸性乳飲料とすることができる。」

(8)甲8に記載された事項
甲8には以下の記載がある。

(甲8a)「次に20名の香りの専門家が,悪臭(イソ吉草酸)に対する電気生理学測定で用いた16種類の香りのマスキング効果を,心理テストによって5段階に評価した。・・・
なお,マスキング効果の強い化合物は,トリブラル,ゲラニオール,リナロール,ベンジルアセテイト,ジヒドロミルセノール,ベンズアルデヒドなどで,構造とマスキング効果との間には,はっきりした関係は見つからなかった。これらの実験結果は,優れたマスキング剤の開発に役立つ。」(第26頁右欄第1?16行)

(9)甲9に記載された事項
甲9には以下の記載がある。

(甲9a)「【請求項1】
ヘキサノール、シス-3-ヘキセノール、リナロール、テトラヒドロリナロール、エチルリナロール、トリプラール、リモネン及びエチル 2-tert-ブチルシクロヘキシルカーボネートから選ばれる1種以上の香料を含有する2,4-デカジエナール臭又は加熱調理油臭の変調用香料組成物。」

(10)甲10に記載された事項
甲10には以下の記載がある。

(甲10a)「茶の香気は主に3つの要素から成り立っている.(Z)-3-ヘキセノール,(E)-2-ヘキセノール,ノナナール,(Z)-3-ヘキセニルヘキサノエートなどは若葉の青臭の原因成分であり,2,5-ジメチルピラジン(ピラジン類)などは香ばしい焙煎香の原因成分である.紅茶やウーロン茶に多く含まれるリナロール,ゲラニオール(テルペンアルコール)は花や果実の香りの成分である.」(第179頁要約第1?4行)

(甲10b)「また,主に仕上げ工程の火入れの際には,ピラジン類などの加熱香気が生じる.茶のピラジン類も,パンやポップコーンなど他の焙焼食品と同じく,加熱中に茶葉に含まれるアミノ酸と糖のアミノ-カルボニル反応(メイラード反応)の一種ストレッカー分解が起こることによって生成する(図-6).」(第181頁右欄下から第10?5行)

(甲10c)「火入れの温度と時間を調節することにより,消費者の好みにあわせて青臭とのバランスを考えて香ばしさを引き立たせた茶に仕上げることになる.」(第182頁左欄第1?3行)

2 進歩性について
(1)甲1に記載された発明
摘示(甲1a)から、甲1には請求項1,4,8,9を引用する請求項10に係る発明として「ペパーミントの葉の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤を含む牛乳入り紅茶飲料」が記載されており、摘示(甲1e)の試験例1にはその具体例として「全量1000g中に、250gの湯(80℃)にL-アスコルビン酸ナトリウム0.3gを溶かし、紅茶葉8gを5分間抽出し、メッシュで濾過した濾液、牛乳200g、砂糖57g、ペパーミントの葉の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤を1ppm含む、缶に充填し殺菌された牛乳入り紅茶飲料」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の牛乳200gには、摘示(甲4a)の記載から、炭水化物として乳糖が4.4重量%含まれており、本件特許明細書【0017】【0018】の記載から、ショ糖の甘味1に対する乳糖の甘味度は0.15であること、また、引用発明1には砂糖が57g含まれていることから、引用発明1の甘味度を計算すると(57×1+200×0.044×0.15)×100/1000=5.832となり、これは本件特許発明1の「(a)飲料の甘味度が1?6であり」に相当する。
また、摘示(甲3a)の記載から、普通牛乳には、タンパク質が3.3重量%含まれているから、引用発明1の牛乳200gには、乳タンパク質が6.6g含まれているといえる。そうすると、引用発明1の乳タンパク質の含有量は6.6g/1000gと計算され、牛乳入り紅茶飲料の比重はほぼ1であるとすると、その含有量は0.66g/100mLと換算され、これは本件特許発明1の「(d)乳タンパク質の含有量が1.7g/100mL以下である」に相当する。
そして、引用発明1の「缶に充填し殺菌された牛乳入り紅茶飲料」は、本件特許発明1の「乳成分を含む殺菌処理済みの茶飲料であって、・・・上記茶飲料。」に相当する。

そうすると、引用発明1と本件特許発明1とは
「乳成分を含む殺菌処理済みの茶飲料であって、
(a)飲料の甘味度が1?6であり、
(d)乳タンパク質の含有量が1.7g/100mL以下である、
上記茶飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は「(b)リナロールを2500?45000ppb含有」することが特定されているのに対し、引用発明1にはそのような特定がない点
相違点2:本件特許発明1は「(c)乳タンパク質含有量に対するリナロール含有量の比率が0.35×10^(-3)以上」であると特定されているのに対し、引用発明1にはそのような特定がない点
相違点3:本件特許発明1は殺菌が「加熱」によるものであると特定されているのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

イ 判断
相違点1について、甲1にはリナロールの含有量に関する記載は一切なく、他の甲号証に記載された技術的事項を踏まえても、リナロールを2500?45000ppbとなるように含有させることは動機付けられない。
そして、本件特許発明は、飲料の甘味度が1?6である乳成分含有茶飲料に、リナロールを2500?45000ppbという範囲で含有させることによって、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を抑制するという効果を奏するものである。

相違点1については上記のとおりであるから、相違点2,3について検討するまでもなく、本件特許発明1は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書において、甲5にはペパーミントの葉の精油の主成分がリナロールであることが記載されている旨、甲6?甲9には、茶飲料以外の分野でもリナロールが乳成分の香味等の改善に使用されること、マスキング効果が強い化合物として知られていることが記載されているから、リナロール自体が「加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を改善」できることが示唆されている旨、したがって、引用発明1にはリナロールを「2500?45000ppb」の特定量含有することは記載されていないが、特定量のリナロールが予想できない効果や極めて優れた効果を奏するとはいえず、また、本件特許明細書では45000ppbを超える比較例がないから、この範囲に臨界的異議があるとはいえないので、相違点1は設計事項である旨主張している。

引用発明1の「ペパーミントの葉の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤」は、ペパーミントの葉の乾燥物をエタノール水溶液で抽出等したものであるのに対し、摘示(甲5b)に記載されたペパーミント精油は、摘示(甲5a)によれば、ペパーミントの葉の乾燥物を水蒸気蒸留して抽出したものであるから、その組成が同一であるとはいえないものの、異議申立人の主張するように引用発明1の「ペパーミントの葉の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤」の中にはリナロールが含まれている可能性があると考えられる。
しかしながら、引用発明1の「ペパーミントの葉の乾燥物の溶媒抽出物からなる香味又は香気改善剤」には、リナロール以外にも種々の成分が含まれていると考えられ、具体的にどの成分が引用発明1の乳成分の熱による劣化臭を抑制する成分として機能しているかは明らかでない。
異議申立人は、甲6?甲9の記載からリナロール自体が「加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を改善」できることが示唆されていると主張しているが、摘示(甲6a)?(甲9a)をみても、リナロールが抑制又はマスキングするのは、ホエイタンパク質分解物の不快な風味、乳由来のペーパー臭、イソ吉草酸、2,4-デカジエナール臭又は加熱調理油臭であって、いずれも、乳成分の熱による劣化臭ではなく、リナロールが「加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を改善」できることが理解できるとはいえない。
したがって、甲1及び甲5?甲9をみても、また、その他のいずれの証拠をみても、引用発明1の乳成分の熱による劣化臭を抑制する成分がリナロールであることが明らかでない以上、引用発明1においてリナロールに着目し、その含有量を2500?45000ppbとすることは動機付けられないし、リナロールを2500?45000ppbという範囲で含有させることによって、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減を抑制するという本件発明の効果も予測の範囲内ということはできない。
よって、上記異議申立人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1の上記相違点1に係る構成を容易想到の事項ということはできず、また、本件特許発明1は上記相違点1に係る構成に起因して格別顕著な効果を有するものであるから、本件特許発明1は、甲1?甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定した「飲料」の発明であって、いずれも上記相違点1に係る構成を含むものである。
そして、上記(2)において検討したとおり、本件特許発明1は、当業者が甲1?甲9に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
そうすると、本件特許発明2?4も、本件特許発明1と同様の理由により、当業者が甲1?甲9に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 実施可能要件について
(1)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加熱殺菌を行う乳成分含有茶飲料の開発過程において、本発明者らは、飲料の甘味度が1?6の場合に、乳成分含有茶飲料における乳のフレッシュ感が加熱殺菌処理によって著しく低減することを見出した。そこで、本発明は、甘味度が1?6の乳成分含有茶飲料において、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制された飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、加熱殺菌を行う乳成分含有茶飲料においてリナロールを添加することによって、当該茶飲料における加熱殺菌処理後の乳のフレッシュ感低減の改善に関して特に優れた効果が得られることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。」

「【0012】・・・ここで、本明細書において乳のフレッシュ感とは、乳由来の青っぽいフレッシュな香りを意味する。特定の理論に拘束されるわけではないが、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減は、加熱により生じた乳由来の甘い香りと茶の香ばしさが合わさることによって、米を炊いた時に生じるような匂いが発生し、これが青っぽいフレッシュな香りをマスキングするものと考えられる。」

(2)茶飲料の種類、茶抽出物濃度の範囲、リナロール濃度の範囲について
本件特許明細書【0012】に記載された「加熱により生じた乳由来の甘い香り」は、乳成分が加熱殺菌処理されることによって生じるものであって、茶飲料の種類や濃度とは無関係に生じるものである。
一方、茶の香ばしさは、摘示(甲10b)によれば、茶葉に含まれるアミノ酸と糖が、加熱中に反応することによって生成するピラジン類によるものであると理解できる。茶にはいろいろな種類が存在するが、いずれもアミノ酸と糖を含む茶葉から、加熱工程を経て製造されるものであるから、茶の香ばしさは、茶飲料であれば、種類や濃度が異なってもある程度生じるものであるといえる。
そうすると、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減は、加熱により生じた乳由来の甘い香りと茶の香ばしさが合わさった匂いによりマスキングされることで生じるものであるから、茶飲料の種類や濃度が異なっても生じるものであるといえる。
そして、本件特許明細書の実施例には、2500?45000ppbでリナロールを含有し、乳成分と紅茶抽出物又は紅茶抽出液を含有する茶飲料について、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制できることが示されているから、2500?45000ppbの範囲のリナロールを含有する場合に、茶飲料の種類や濃度が異なっても、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減ができないということはできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、上記の点で当業者が本件特許発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。

(3)甘味度について
本件特許の請求項1には「乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料であって、(a)飲料の甘味度が1?6であり、」と記載されているから、本件特許発明の甘味度は、乳成分を含む加熱殺菌処理済みの茶飲料全体における甘味度のことを意味していることは明らかであって、本件特許明細書の表2?4に示された例において、砂糖以外の成分に含まれる甘味成分も合算されていることは、本件特許発明とは何ら矛盾するものでない。
そして、甘味度は、飲料全体に含まれる甘味成分の種類や濃度を分析して計算する等して算出することができるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、上記の点で当業者が本件特許発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。

(4)乳の種類について
本件特許明細書の表3-3には、実施例1の試料2-16として豆乳を用いた飲料を用いた場合が開示されている。
また、豆乳やアーモンドミルク等の植物性ミルクにも、牛乳と同様にタンパク質や糖質等の成分が含まれているから、これらの成分が加熱により乳由来の甘い香りを生じ、茶の香ばしさと合わさって、乳のフレッシュ感の低減を生じるものと認められる。
そうすると、豆乳やアーモンドミルク等の植物性ミルクを用いた茶飲料であっても、加熱殺菌時の乳のフレッシュ感の低減を生じるものであり、リナロールの含有量を調節することにより劣化臭を低減して、乳のフレッシュ感を改善することができるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、上記の点で当業者が本件特許発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。

(5)まとめ
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、本件特許発明1?4に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

3 サポート要件について
本件特許の発明の詳細な説明の記載については、上記2(1)に記載したとおりである。
本件特許明細書【0007】【0008】の記載をみるに、本件特許発明は、甘味度が1?6の乳成分含有茶飲料において、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制された飲料を提供することを課題とし、そのための手段としてリナロールを特定濃度含有させるものであると理解できる。
ここで、本件特許明細書【0012】に記載された「加熱により生じた乳由来の甘い香り」は、乳成分が加熱殺菌処理されることによって生じるものであって、茶飲料の種類や濃度とは無関係に生じるものである。
一方、茶の香ばしさは、摘示(甲10b)によれば、茶葉に含まれるアミノ酸と糖が、加熱中に反応することによって生成するピラジン類によるものであると理解できる。茶にはいろいろな種類が存在するが、いずれもアミノ酸と糖を含む茶葉から、加熱工程を経て製造されるものであるから、茶の香ばしさは、茶飲料であれば、種類や濃度が異なってもある程度生じるものであるといえる。
そうすると、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減は、加熱により生じた乳由来の甘い香りと茶の香ばしさが合わさった匂いによりマスキングされることで生じるものであるから、茶飲料の種類や濃度が異なっても生じるものであるといえる。
そして、本件特許明細書の実施例には、2500?45000ppbでリナロールを含有し、乳成分と紅茶抽出物又は紅茶抽出液を含有する茶飲料について、加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減が抑制できることが示されているから、2500?45000ppbの範囲のリナロールを含有する場合に、茶飲料の種類や濃度が異なっても、本件特許発明の解決しようとする課題である加熱殺菌処理による乳のフレッシュ感の低減ができないということはできない。
したがって、本件特許発明1?4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、本件特許発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
上記のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-12-04 
出願番号 特願2019-107814(P2019-107814)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23F)
P 1 651・ 536- Y (A23F)
P 1 651・ 121- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小田 浩代  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安孫子 由美
齊藤 真由美
登録日 2020-02-10 
登録番号 特許第6659897号(P6659897)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 乳成分とリナロールを含有する茶飲料  
代理人 中西 基晴  
代理人 小野 新次郎  
代理人 武田 健志  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
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