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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  G06F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
審判 全部無効 2項進歩性  G06F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G06F
管理番号 1369194
審判番号 無効2019-800013  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-02-14 
確定日 2020-10-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4613238号発明「情報処理装置およびその制御方法、プログラム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4613238号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり(訂正後の請求項〔3-11〕,〔13〕について)訂正することを認める。 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

特許第4613238号(以下,「本件特許」という。)の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。

平成20年12月16日 本件特許の出願
(特願2008-320127号)
平成22年10月22日 本件特許の設定の登録
(特許第4613238号)
平成31年 2月14日 本件特許についての無効審判請求
令和 元年 5月10日 答弁書,訂正請求
同年 7月29日 弁駁書
同年 9月26日 上申書(請求人)
同年10月15日付け 審理事項通知
同年11月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月14日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月28日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年11月28日 口頭審理
令和 2年 1月16日 上申書(請求人)
同年 1月16日 上申書(被請求人)
同年 2月20日 上申書(2)(被請求人)

なお,本件特許に関して,請求人を被告,被請求人を原告とする特許権侵害差止等請求事件(「別件訴訟」)が東京地方裁判所に平成29年(ワ)第44181号として係属し,令和元年9月18日に原告の請求を棄却する旨の判決が言い渡され,被請求人が当該判決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に対して,控訴し,令和元年(ネ)第10063号特許権侵害差止等請求控訴事件(「別件控訴審」)として係属し,令和2年6月18日に控訴を棄却する旨の判決が言い渡されている。

第2 本件訂正請求について

1 本件訂正請求の趣旨

令和元年5月10日付け訂正請求(以下,「本件訂正請求」といい,本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は,本件特許の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項3ないし11,13について訂正することを求める,というものである。

2 本件訂正の内容

(1) 本件訂正前の特許請求の範囲及び明細書

ア 本件訂正前の特許請求の範囲

本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。

「【請求項1】
端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,前記電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先との組に対応付けられており,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元との組に従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールの送出を保留する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールを送出する制御内容を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶された,電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報は,更に,電子メールの送出を保留する保留時間を含み,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容が電子メールの送出を保留する制御内容であり,かつ,当該制御内容の送出制御情報に前記保留時間が含まれている場合に,前記分割された送信先に対する電子メールの送出を,該保留時間,保留することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが送出され,かつ,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合,当該送出される電子メールに,当該保留される電子メールが存在することを示す情報を挿入する挿入手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの保留時間の延長指示を受け付ける延長受付手段と,
前記延長受付手段で当該電子メールの保留時間の延長指示を受け付けた場合に,当該電子メールの保留時間を延長する保留延長手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの削除指示を受け付ける削除受付手段と,
前記削除受付手段で当該電子メールの削除指示を受け付けた場合に,当該電子メールを削除する削除手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの送信指示を受け付ける送信受付手段と,
前記送信受付手段で当該電子メールの送信指示を受け付けた場合に,当該電子メールを送出する送出手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記記憶手段に記憶された制御ルールには,更に,前記電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報に対応して,当該保留された旨を示す電子メールの通知先が設定されており,
前記制御手段は,更に,前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合に,前記送出制御情報に対応した通知先を送信先とする,当該電子メールが保留された旨を示す新規の電子メールを送信することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており,端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって,
前記情報処理装置の受信手段が,複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と,
前記情報処理装置の分割手段が,前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と,
前記情報処理装置の決定手段が,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と,
前記情報処理装置の制御手段が,前記決定工程で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と,
を備えることを特徴とする情報処理装置の制御方法。
【請求項13】
端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって,
前記情報処理装置を,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段,
として機能させることを特徴とするプログラム。」

イ 本件訂正前の明細書

本件訂正前の明細書の段落【0007】の記載は,以下のとおりである。

「 (前略)・・・
また,上述の1以上の問題点を解決するため本発明のプログラムは以下の構成を備える。すなわち,端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置で読み取り実行可能なプログラムあって,前記情報処理装置を,電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段,複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段,前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段,前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段,として機能させる。」

(2) 本件訂正後の特許請求の範囲及び明細書

ア 本件訂正後の特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示し,当審が付した。以下,同じ。)。

「【請求項1】
端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,前記電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先との組に対応付けられており,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元との組に従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記分割手段は,前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールの送出を保留する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールを送出する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶された,電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報は,更に,電子メールの送出を保留する保留時間を含み,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容が電子メールの送出を保留する制御内容であり,かつ,当該制御内容の送出制御情報に前記保留時間が含まれている場合に,前記分割された送信先に対する電子メールの送出を,該保留時間,保留することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが送出され,かつ,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合,当該送出される電子メールに,当該保留される電子メールが存在することを示す情報を挿入する挿入手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの保留時間の延長指示を受け付ける延長受付手段と,
前記延長受付手段で当該電子メールの保留時間の延長指示を受け付けた場合に,当該電子メールの保留時間を延長する保留延長手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの削除指示を受け付ける削除受付手段と,
前記削除受付手段で当該電子メールの削除指示を受け付けた場合に,当該電子メールを削除する削除手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの送信指示を受け付ける送信受付手段と,
前記送信受付手段で当該電子メールの送信指示を受け付けた場合に,当該電子メールを送出する送出手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記記憶手段に記憶された制御ルールには,更に,前記電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報に対応して,当該保留された旨を示す電子メールの通知先が設定されており,
前記制御手段は,更に,前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合に,前記送出制御情報に対応した通知先を送信先とする,当該電子メールが保留された旨を示す新規の電子メールを送信することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており,端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって,
前記情報処理装置の受信手段が,複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と,
前記情報処理装置の分割手段が,前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と,
前記情報処理装置の決定手段が,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と,
前記情報処理装置の制御手段が,前記決定工程で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と,
を備えることを特徴とする情報処理装置の制御方法。
【請求項13】
端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって,
前記情報処理装置を,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段,
として機能させるプログラムにおいて,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,
前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とするプログラム。」

イ 本件訂正後の明細書
本件訂正後の明細書の段落【0007】の記載は,以下のとおりである。

「 (前略)・・・
また,上述の1以上の問題点を解決するため本発明のプログラムは以下の構成を備える。すなわち,端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置で読み取り実行可能なプログラムあって,前記情報処理装置を,電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段,複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段,前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段,前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段,として機能させるプログラムにおいて,前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う。」

(3) 訂正事項

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項3の「前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,」との記載を,「前記分割手段は,前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し,前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し,前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5乃至11も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項4の「前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,」との記載を,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,」に訂正するとともに,特許請求の範囲の請求項4の「請求項1乃至3の何れか1項に記載」との記載を,「請求項1又は2に記載」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5乃至11も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項3

特許請求の範囲の請求項7の「各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,」との記載を,「各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8乃至11も同様に訂正する)。

エ 訂正事項4

特許請求の範囲の請求項13の「として機能させることを特徴とするプログラム。」との記載を,「として機能させるプログラムにおいて,前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とするプログラム。」に訂正する。

オ 訂正事項5

明細書の段落【0007】の「として機能させる。」(末尾)との記載を,「として機能させるプログラムにおいて,前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う。」に訂正する。

3 訂正の適否

(1) 訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項1に係る請求項3についての訂正は,「分割手段」について,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し」と特定し,「決定手段」について,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し」と特定することにより,本件訂正前の請求項3の「分割手段」,「決定手段」をそれぞれ限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。なお,訂正事項1に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無

(ア) 訂正事項1に係る請求項3についての訂正により特定される,「分割手段」が,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し」とすることは,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書等」という。)の段落【0035】,【0051】,【0068】の記載に基づく事項である。

(イ) 訂正事項1に係る請求項3についての訂正により特定される,「決定手段」が,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し」とすることは,本件明細書等の段落【0050】,【0051】,【0059】,【0068】,【0070】,【0071】,【0073】及び図4の記載に基づく事項である。

(ウ) したがって,訂正事項1に係る請求項3についての訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。なお,訂正事項1に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る請求項3についての訂正は,上記アで述べたように,本件訂正前の請求項3の「分割手段」,「決定手段」をそれぞれ技術的に限定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。なお,訂正事項1に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

エ 小括

よって,訂正事項1に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2) 訂正事項2について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項2に係る請求項4についての訂正は,「記憶手段に記憶されている制御ルール」について,「電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり」と特定することにより,本件訂正前の請求項4の「記憶手段に記憶されている制御ルール」を限定するとともに,請求項4が引用する請求項について,「請求項1乃至3の何れか1項」から「請求項1又は2」と変更することにより,本件訂正前の請求項4が引用する請求項の数を削減するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。なお,訂正事項2に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無

訂正事項2に係る請求項4についての訂正により特定される,「記憶手段に記憶されている制御ルール」が,「電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり」とすることは,本件明細書等の段落【0050】,【0051】,【0059】,【0068】,【0070】,【0071】,【0073】及び図4の記載に基づく事項である。

したがって,訂正事項2に係る請求項4についての訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。なお,訂正事項2に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項2に係る請求項4についての訂正は,「記憶手段に記憶されている制御ルール」について,「電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり」と特定することにより,本件訂正前の請求項4の「記憶手段に記憶されている制御ルール」を限定するとともに,請求項4が引用する請求項について,「請求項1乃至3の何れか1項」から「請求項1又は2」と変更することにより,本件訂正前の請求項4が引用する請求項の数を削減するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。なお,訂正事項2に係る請求項5乃至11についての訂正も同様である。

エ 小括

よって,訂正事項2に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3) 訂正事項3について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項3に係る請求項7についての訂正は,「分割手段」について,「かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず」と特定することにより,本件訂正前の請求項7の「分割手段」を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。なお,訂正事項3に係る請求項8乃至11についての訂正も同様である。

イ 新規事項の有無

訂正事項3に係る請求項7についての訂正により特定される,「分割手段」が,「かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず」とすることは,本件明細書等の段落【0062】,【0063】,【0065】?【0068】及び図12の記載に基づく事項である。

したがって,訂正事項3に係る請求項7についての訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。なお,訂正事項3に係る請求項8乃至11についての訂正も同様である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項3に係る請求項7についての訂正は,「分割手段」について,「かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず」と特定することにより,本件訂正前の請求項7の「分割手段」を限定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。なお,訂正事項3に係る請求項8乃至11についての訂正も同様である。

エ 小括

よって,訂正事項3に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4) 一群の請求項

訂正事項1に係る本件訂正前の請求項3ないし11について,本件訂正前の請求項4ないし11は,それぞれ,請求項3を直接的に引用するものを含むから,訂正事項1によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。

したがって,本件訂正前の請求項3ないし11に対応する,本件訂正後の請求項3ないし11は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

(5) 訂正事項4について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項4に係る請求項13についての訂正は,「記憶手段に記憶されている制御ルール」について,「電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり」と特定し,「分割手段」について,「前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず」と特定し,「決定手段」について,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し」と特定し,「制御手段」について,「前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う」と特定することにより,本件訂正前の請求項13の「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」をそれぞれ限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無

(ア) 訂正事項4に係る請求項13についての訂正により特定される,「記憶手段に記憶されている制御ルール」が,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり」とすることは,本件明細書等の段落【0050】,【0051】,【0059】,【0068】,【0070】,【0071】,【0073】及び図4の記載に基づく事項である。

(イ) 訂正事項4に係る請求項13についての訂正により特定される,「分割手段」が,「当該電子メールのヘッダ情報を分割せず」とすることは,本件明細書等の段落【0062】,【0063】,【0065】?【0068】及び図12の記載に基づく事項である。

(ウ) 訂正事項4に係る請求項13についての訂正により特定される,「分割手段」が,「前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し」とし,「決定手段」が,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し」とし,「制御手段」が,「前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う」とすることは,本件明細書等の請求項7の記載に基づく事項である。

(エ) したがって,訂正事項4に係る請求項13についての訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項4に係る請求項13についての訂正は,本件訂正前の請求項13の「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」をそれぞれ技術的に限定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

エ 小括

よって,訂正事項4に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6) 訂正事項5について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項5に係る明細書の段落【0007】についての訂正は,特許請求の範囲の請求項13に係る訂正に伴い,特許請求の範囲と整合させるために行う訂正であり,他の記載との関係において不合理を生じている記載を正す場合に該当するから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記(5)イ及びウと同じ理由により,訂正事項5に係る明細書の段落【0007】についての訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ウ 明細書の訂正と関係する請求項

訂正事項5に係る明細書の段落【0007】についての訂正は,その訂正に係る請求項の全てである請求項13について行うものである。

エ 小括

よって,訂正事項5に係る明細書の段落【0007】についての訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するものである。

4 本件訂正請求についてのむすび

以上のとおり,本件訂正請求は,適法なものであるから,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,請求項〔3?11〕,13について訂正することを認める。

第3 本件発明

上述のとおり,本件訂正請求は適法なものとして認められるので,本件発明は,本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲(上記「第2」の2(2)ア)の請求項1ないし13に記載された事項により特定される,次のとおりの発明(以下,それぞれ,「本件発明1」,「本件発明2」, ・・・ ,「本件発明13」といい,まとめて「本件発明」という。)である(なお,請求項1の分説は,請求人による,審判請求書の63,64頁の分説11A?11Gを採用した。)。

「【請求項1】
11A 端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
11B 電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
11C 複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
11D 前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と,
11E 前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
11F 前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
11G を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,前記電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先との組に対応付けられており,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元との組に従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記分割手段は,前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールの送出を保留する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には,電子メールを送出する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶された,電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報は,更に,電子メールの送出を保留する保留時間を含み,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容が電子メールの送出を保留する制御内容であり,かつ,当該制御内容の送出制御情報に前記保留時間が含まれている場合に,前記分割された送信先に対する電子メールの送出を,該保留時間,保留することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが送出され,かつ,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合,当該送出される電子メールに,当該保留される電子メールが存在することを示す情報を挿入する挿入手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの保留時間の延長指示を受け付ける延長受付手段と,
前記延長受付手段で当該電子メールの保留時間の延長指示を受け付けた場合に,当該電子メールの保留時間を延長する保留延長手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの削除指示を受け付ける削除受付手段と,
前記削除受付手段で当該電子メールの削除指示を受け付けた場合に,当該電子メールを削除する削除手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された,前記分割された送信先に対する電子メールの送信指示を受け付ける送信受付手段と,
前記送信受付手段で当該電子メールの送信指示を受け付けた場合に,当該電子メールを送出する送出手段と,
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記記憶手段に記憶された制御ルールには,更に,前記電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報に対応して,当該保留された旨を示す電子メールの通知先が設定されており,
前記制御手段は,更に,前記決定手段で,前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合に,前記送出制御情報に対応した通知先を送信先とする,当該電子メールが保留された旨を示す新規の電子メールを送信することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており,端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって,
前記情報処理装置の受信手段が,複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と,
前記情報処理装置の分割手段が,前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と,
前記情報処理装置の決定手段が,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と,
前記情報処理装置の制御手段が,前記決定工程で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と,
を備えることを特徴とする情報処理装置の制御方法。
【請求項13】
端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって,
前記情報処理装置を,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段,
として機能させるプログラムにおいて,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは,電子メールのすべての送信先に共通して,前記制御内容の決定に用いられるものであり,
前記分割手段は,前記受信手段で受信した,複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を,各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し,かつ,当該電子メールのヘッダ情報を分割せず,
前記決定手段は,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し,
前記制御手段は,前記決定手段で決定された制御内容で,当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とするプログラム。」

第4 当事者主張の概要

1 請求人

(1) 請求の趣旨

本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める,というものである。

(2) 請求の理由の概要

ア 本件発明の「送信先」の解釈について

本件発明に関して,別件訴訟(訴状は甲第1号証。)が係属中であり(審判請求書53頁),被請求人は,当該別件訴訟の原告第1準備書面(甲第2号証)(10頁)において,本件特許の「送信先」には,(ユーザ名とドメイン名から構成される)「電子メールアドレス」が含まれるのみならず,(ユーザ名を含まずに)「ドメイン」名のみからなる場合も含まれる旨主張している(審判請求書63頁)が,本件明細書等には「送信先」に「ドメイン」名のみからなる場合が含まれる根拠は存在しない(審判請求書66頁4行?82頁13行)から,本件明細書等の全体的な記載や解決すべき課題等を参酌しても,「送信先」には,文言どおり,(ユーザ名とドメイン名から構成される)「電子メールアドレス」が含まれるものと解釈すべきであり,「送信先」には,(ユーザ名を含まずに)「ドメイン」名のみからなる場合が含まれる旨の被請求人の主張は失当である。(審判請求書82頁14行?83頁最終行)

イ 無効理由1(甲第20号証に基づく新規性進歩性)

(ア) 被請求人が主張するように,本件発明の「送信先」に「電子メールアドレス」だけでなく「ドメイン」が含まれると解釈した場合

「個々の送信先」には,「ドメイン」に限らず,複数の電子メールアドレスが設定される態様が含まれることになる。(審判請求書86頁1?3行)

a 甲第20号証による新規性欠如

甲第20号証(審判請求書では,別件訴訟の証拠番号を用いて「乙7」と表記。)に記載された発明の「ポリシー」で分割する態様(「個々の送信先」に複数の電子メールアドレスが設定される態様の一つに該当)と,「ドメイン」で分割する態様との間には相違点は存在しない。(審判請求書65頁下から3行?66頁3行)
したがって,本件特許の請求項1ないし5,7,9ないし13に係る発明(審判請求書では,「本件特許発明1-1乃至1-11」と表記している。以下,「本件発明1ないし5,7,9ないし13」のように表記する。)は,甲第20号証記載発明から新規性を有さない。(審判請求書63頁1行?65頁10行)

b 甲第20号証による進歩性欠如

仮に,甲第20号証記載発明に対して新規性を有するとしても,
その差は微差に過ぎないから,
本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第20号証記載発明に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書65頁11?13行)

c 甲第20号証+周知技術による進歩性欠如

また,仮に,甲第20号証記載発明の「ポリシー」で分割する態様と,「ドメイン」で分割する態様とが異なるとしても,
ドメイン毎に送信することは甲第23号証,甲第34号証及び甲第35号証に開示されているように周知であるから,
本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第20号証記載発明,及び,甲第23号証,甲第34号証及び甲第35号証に開示の周知技術に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書86頁下から6行?90頁11行)

(イ) 被請求人の主張に反して,本件発明の「送信先」には,「電子メールアドレス」のみが含まれ,「ドメイン」は含まれないと解釈した場合

a 甲第20号証+周知技術による進歩性欠如

電子メールを個々の送信先に分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証などに開示されているように周知技術であるから,
本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第20号証記載発明,及び,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証に開示の周知技術に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書98頁16行?118頁最終行)

(ウ)本件発明7に関して

本件発明7(審判請求書では「本件特許発明1-6」と記載されている。)に関して,
電子メールにエンベロープ情報が存在することは,甲第46号証,甲第48号証,甲第49号証にも開示されているように技術常識であり,甲第20号証および甲第26号証でも開示されているから実質的相違点ではないから,本件発明7は,甲第20号証記載発明に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の127頁1行?128頁6行)

ウ 無効理由2(甲第26号証に基づく進歩性)

甲第26号証は,請求人の製品「m-FILTER」の旧バージョンに関するマニュアルであって,端末装置から電子メールを受信し,当該電子メールの送出制御を行い,複数の送信先が設定された電子メールを受信できるメールフィルタリング装置が開示されている。(審判請求書138頁5?9行)

(ア) 被請求人が主張するように,本件発明の「送信先」に「電子メールアドレス」だけでなく「ドメイン」が含まれると解釈した場合
(審判請求書142頁8?9行)

a 甲第26号証+甲第20号証による進歩性欠如

甲第20号証には,ポリシー毎に分割して隔離(保留)することが開示されている。(審判請求書142頁10?12行)
「ドメイン」だけを例外扱いして本件発明1の「個々の送信先」に含めることはできず,「個々の送信先」には,甲第20号証記載発明のようにポリシー毎に分割する態様も含まれることになる。(審判請求書145頁7?146頁1行)
したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第26号証記載発明と,甲第20号証記載発明に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書149頁11?14行)

b 甲第26号証+甲第23号証+技術常識による進歩性欠如

甲第23号証には,同一ドメインのメールアドレスが同一グループになるように分割し,個別に分割されたグループ別に遅延させることが開示されている。(審判請求書142頁13?15行)
甲第20号証ではポリシー毎に分割して保留することが開示され,甲第27号証では所定の区分に応じて保留することが開示され,甲第29号証では組織外に送信するメールについて保留することが開示されているように,宛先に応じて保留することを決定することは技術常識である。(審判請求書148頁最終行?149頁5行,151頁7?12行)
甲第26号証記載発明において,甲第23号証記載のドメイン毎に分割する態様を採用する動機付けはある。(審判請求書148頁最終行?149頁5行)
したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第26号証記載発明,甲第23号証記載発明,および,甲第20号証,甲第27号証および甲第29号証に開示の技術常識,に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書149頁11?14行)

c 甲第26号証+周知技術による進歩性欠如

ドメイン毎に送信することは,甲第23号証の他,甲第34号証及び甲第35号証で開示されており,センドマジックという製品においてドメイン毎に異なるタイミングで送信する態様が2005年には実装されている(甲第36号証ないし甲第38号証)ように,周知技術である。(審判請求書149頁15?最終行)
したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第26号証記載発明と,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証および甲第36号証ないし甲第38号証に開示の周知技術と,に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の150頁1?5行)

(イ) 被請求人の主張に反して,本件発明の「送信先」には,「電子メールアドレス」のみが含まれ,「ドメイン」は含まれないと解釈した場合

a 甲第26号証+周知技術+技術常識による進歩性欠如

複数の送信先が設定された電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証で開示されているとおり周知技術である。
あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように技術常識である。
ドメイン毎に異なるタイミングで送信することも,甲第34号証,甲第35号証,及び甲第36?38号証で開示されているように技術常識である。
したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第26号証記載発明と,周知技術(甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証,甲第25号証),および,技術常識(甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証,甲第34号証,甲第35号証,及び甲第36?38号証)に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の153頁1行?156頁最終行,157頁1行?162頁6行)

(ウ)本件発明5に関して

本件発明5(審判請求書では「本件特許発明1-5」と記載されている。)に関しては,
保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように周知技術であり,さらに,甲第28号証では,一時保留時間を経過すると配信処理が行われることが開示されているから,甲第26号証記載発明と,周知技術に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の158頁4?8行,162頁下から3行?163頁1行)

エ 無効理由3(甲第27号証に基づく進歩性)

甲第27号証には,所定の区分に該当する送信メールのみ,一定時間実際のメール送信処理を保留すること,すべての送信メールを保留するのではなく,ユーザが『一時保留』に設定した送信先への送信メールのみ保留する等が開示されている。(審判請求書164頁1?8行)

(ア) 被請求人が主張するように,本件発明の「送信先」に「電子メールアドレス」だけでなく「ドメイン」が含まれると解釈した場合

a 甲第27号証+甲第20号証or甲第26号証+周知技術による進歩性欠如

(a)構成要件11B及び11Eについて

送信元と送信先とを制御の条件とすることは,甲第20号証及び甲第26号証において従前から行われているから,甲第27号証において,甲第20号証及び甲第26号証のように送信元と送信先とを制御の条件とすることは当業者であれば容易に思いつく。(審判請求書170頁下から5行?171頁1行)

「送信先」が社内であるか社外であるか判断する際に「ドメイン」を用いることは本件特許の出願日当時,周知技術(甲第29号証,甲第35号証)となっており,社外の「顧客」という「所定の区分情報」に基づいて保留することを決定することが開示されている甲第27号証において,ドメインを用いて社外の「顧客」という「所定の区分情報」に該当するか判断する態様を採用することは当業者であれば容易に思いつく。(審判請求書171頁下から6行?172頁7行)

よって,甲第27号証と,甲第29号証,甲第35号証,甲第20号証及び甲第26号証の開示からすると,甲第27号証発明において,構成要件11B及び11Eに係る構成とすることは当業者であれば容易である。(審判請求書173頁12?14行)

(b)構成要件11Bについて

甲第20号証ではポリシー毎に電子メールを分割して保留することが開示されており,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが甲第23号証,甲第34号証及び甲第36?38号証で開示されており,ドメイン毎に送信することが甲第35号証で開示されている。このように複数の送信先を設定し,かつポリシー毎やドメイン毎に処理を行うことが知られているところ,複数の送信先を設定した場合に甲第27号証の例えば【0051】で記載されているように「所定の区分に該当する送信メールのみ,一定時間実際のメール送信処理を保留する」にはどうしたらよいかを当業者が検討した場合,これら甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証および甲第36?38号証に基づき,あるカテゴリ(ドメインを含む)に属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,当業者であれば容易に思いつく。(審判請求書173頁15行?174頁2行)

よって,甲第27号証と,甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証および甲第36?38号証の開示からすると,甲第27号証発明において,構成要件11Bに係る構成とすることは当業者であれば容易である。(審判請求書174頁6?8行)

(c)したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第27号証記載発明と,甲第20号証記載技術,あるいは,甲第26号証記載技術,ならびに,周知技術に基づいて進歩性を有さない。

(イ) 被請求人の主張に反して,本件発明の「送信先」には,「電子メールアドレス」のみが含まれ,「ドメイン」は含まれないと解釈した場合

a 甲第27号証+周知技術+技術常識による進歩性欠如

電子メールを個々の送信先に分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証などに示すように周知技術である。(審判請求書180頁下から7行?同頁下から6行)

技術常識として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが甲第20号証で開示され,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが甲第23号証,甲第34号証,および甲第36?38号証で開示されている。(審判請求書180頁下から5行?同頁下から3行)

甲第27号証発明において,技術常識(甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,および甲第36?38号証)の存在を前提として,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証のように電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつく。(審判請求書180頁下から2行?181頁16行)

したがって,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第27号証明と,周知技術(甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証,甲第25号証)および技術常識(甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,甲第36?38号証)に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書180頁13行?188頁下から3行)

(ウ)本件発明7に関して

また,本件発明7(審判請求書では「本件特許発明1-6」と表記されている。)に関して,甲第45ないし49号証でも開示されているように電子メールにエンベロープ情報が存在することは技術常識であるから,本件発明7は,甲第27号証発明と,周知技術ならびに技術常識に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の184頁8?15行,189頁下から4行?最終行)

(エ) さらに,本件発明11(審判請求書では「本件特許発明1-9」と表記されている。)に関して,甲第20号証,甲第26号証,甲第29号証に加えて,甲第28号証でも開示されているように,保留されたことを送信先や第三者等に通知することは周知技術であるから,本件発明11は,甲第27号証発明と,周知技術ならびに技術常識に基づいて進歩性を有さない。(審判請求書の185頁下から7行?最終行,189頁11?14行)

オ 無効理由4(甲第29号証に基づく進歩性)

甲第29号証には,メールが組織外へ送信されると判定された場合に,メールの送信が承認されるまでメールを送信保留状態とすることなどが開示されている。(審判請求書の190頁1?7行)

(ア) 被請求人が主張するように,本件発明の「送信先」に「電子メールアドレス」だけでなく「ドメイン」が含まれると解釈した場合

無効理由2で述べたとおり,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証,甲第34号証および甲第36?38号証で開示されている。(審判請求書の197頁8?12行)

a 甲第29号証+甲第20号証による進歩性欠如

甲第20号証ではポリシー毎に送信先を分割して電子メールを保留する態様が開示されているのであるから,組織内の電子メールを保留せず,組織外の電子メールだけを保留する態様が開示されている甲第29号証に甲第20号証を組み合わせる動機付けは十分にある。そして,当業者が甲第29号証に甲第20号証を組み合わせた場合には,甲第20号証において組織内外を分けるポリシーを設定し,複数の送信先を含む態様において,組織内外で送信先を分割し,組織内の電子メールアドレスは保留せず,組織外の電子メールアドレスを保留する態様を採用することになるから,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第29号証発明と,甲第20号証記載技術に基づいて進歩性を有しない。(審判請求書の199頁13?19行)

b 甲第29号証+甲第23号証等+周知技術による進歩性欠如

組織内の電子メールを保留せず,組織外の電子メールだけを保留する態様が開示されており,「メールの送信先が組織外であるか否かの判定は,たとえば,送信先のメールアドレスのドメインが当該の組織のドメインと同一であるか否かを比較することでおこなう」甲第29号証発明において,同じくドメインに着目した甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証および甲第36?38号証を採用する動機付けは十分にある。
そして,当業者が甲第29号証発明と,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証および甲第36?38号証のいずれか一つ以上とを組み合わせた場合には,複数の送信先を含む態様において,ドメイン毎に電子メールを分割し,送信元と同じドメインからなる組織内の電子メールアドレスは保留せず,送信元と異なるドメインからなる組織外の電子メールアドレスを保留する態様を採用することになるから,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第29号証発明と,甲第23号証等記載技術ならびに周知技術に基づいて進歩性を有しない。(審判請求書の199頁下から4行?200頁7行)

(イ) 被請求人の主張に反して,本件発明の「送信先」には,「電子メールアドレス」のみが含まれ,「ドメイン」は含まれないと解釈した場合

a 甲第29号証+甲第20号証等+周知技術+技術常識による進歩性欠如

あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように技術常識である。(審判請求書の203頁1?5行)

電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証で開示されているとおり周知技術である。(審判請求書の203頁6?7行)

技術常識として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが甲第20号証で開示され,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することも,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証,及び甲第36?38号証で開示されているように技術常識である。(審判請求書の203頁8?10行)

このような技術常識が存在している状況において,複数の送信先を設定した場合に甲第29号証で示されているように,組織内の電子メールを保留せず,組織外の電子メールだけを保留するためにはどうしたらよいかを当業者が検討した場合,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証のように電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつくから,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲第29号証発明と,甲第20号証等記載技術,周知技術ならびに技術常識に基づいて進歩性を有しない。(審判請求書の203頁11?16行)

(ウ)本件発明5,9に関して

また,本件発明5,9(審判請求書では,それぞれ,「本件特許発明1-5」,「本件特許発明1-7」と表記されている。)に関して,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証で開示されているだけでなく,甲第28号証でも開示されており,周知技術であるから,本件発明5,9は,いずれも,甲第29号証発明と,甲第20号証等記載技術,周知技術ならびに技術常識に基づいて進歩性を有しない。(審判請求書206頁5?9行,207頁2?4行,210頁下から8?5行)

(エ) さらに,本件発明7(審判請求書では,「本件特許発明1-6」と表記されている。)に関して, 電子メールにエンベロープ情報が存在することは,甲第45?47号証,甲第48号証,甲第49号証などに開示されているように技術常識であり,実質的な相違点ではないから,本件発明7は,甲第29号証発明と,甲第20号証等記載技術,周知技術ならびに技術常識に基づいて進歩性を有しない。(審判請求書206頁10?最終行)

カ 無効理由5(明確性要件)

上記アのように,被請求人は,本件発明1における「個々の送信先」に「ドメイン」が含まれるという趣旨の主張を行っているが,被請求人の主張するような解釈を採った場合には,本件発明1における「個々の送信先」の意味するところが不明確となるから,本件発明1ないし13は,「送信先」に関して,明確でない。(審判請求書211頁1行?最終行,214頁1行)

キ 無効理由6(サポート要件)

本件明細書等では,個々の電子メールアドレスを送信先として電子メールを分割することだけが開示されており,ドメイン毎に電子メールを分割することは全く開示されていない。仮に本件発明1の権利範囲にドメイン毎に電子メールを分割する態様を含めて解釈した場合には,本件明細書等に記載されていない内容まで権利範囲を拡張することとなり,サポート要件に違反している。
したがって,本件発明1-13の各々はサポート要件に違反している。(審判請求書214頁2行?220頁最終行)

ク 無効理由7(公然実施された甲20製品に基づく新規性進歩性)

甲第20号証(IronPort AsyncOS^(TM)4.7 USER GUIDE)は,本件特許出願前に公然実施された製品「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」(以下,「甲20製品」という。)のユーザガイドであり,本件発明1ないし5,7,9ないし13は,甲20製品に基づいて新規性進歩性を有さない。
具体的な主張は,無効理由1を援用する。(審判請求書の221頁1?3行)


(3) 証拠方法

甲第1号証 別件訴訟の訴状
甲第2号証 別件訴訟の原告第1準備書面
甲第3号証 別件訴訟の原告第2準備書面
甲第4号証 別件訴訟の原告第3準備書面
甲第5号証 別件訴訟の原告第4準備書面(訂正版)
甲第6号証 別件訴訟の原告第5準備書面
甲第7号証 別件訴訟の原告第6準備書面
甲第8号証 別件訴訟の答弁書
甲第9号証 別件訴訟の被告第1準備書面
甲第10号証 別件訴訟の被告第2準備書面
甲第11号証 別件訴訟の被告第3準備書面
甲第12号証 別件訴訟の被告第4準備書面
甲第13号証 別件訴訟の被告第5準備書面
甲第14号証 別件訴訟の被告第6準備書面
甲第15号証 「広辞苑」,第七版,1040ページ 「個個」 (別件訴訟の乙1)
株式会社岩波書店,2018年1月12日
甲第16号証 「広辞苑」,第六版,1156ページ 「先」 (別件訴訟の乙3)
株式会社岩波書店,2008年1月11日
甲第17号証 「最新標準パソコン用語事典」,2011-2012年版,740,741ページ 「メールアドレス」 (別件訴訟の乙4)
株式会社秀和システム,2011年3月1日
甲第18号証 「広辞苑」,第六版,2878,2879ページ 「メールアドレス」 (別件訴訟の乙5)
株式会社岩波書店,2008年1月11日
甲第19号証 「広辞苑」,第六版,2916ページ 「者」 (別件訴訟の乙6)
株式会社岩波書店,2008年1月11日
甲第20号証 「IronPort AsyncOS^(TM)4.7 USER GUIDE」 (別件訴訟の乙7)
IronPort Systems^(TM), Inc.
甲第21号証 特開2004-207785号公報 (別件訴訟の乙8)
甲第22号証 特願2008-320127号の特許メモ (別件訴訟の乙9)
甲第23号証 特開2007-148984号公報 (別件訴訟の乙10)
甲第24号証 特開2007-267248号公報 (別件訴訟の乙11)
甲第25号証 特開2007-156836号公報 (別件訴訟の乙12)
甲第26号証 「m-FILTER 適用マニュアル」 (別件訴訟の乙13)
デジタルアーツ株式会社,2007年2月15日
甲第27号証 特開2006-185094号公報 (別件訴訟の乙14)
甲第28号証 特開2005-277976号公報 (別件訴訟の乙15)
甲第29号証 特開2007-065787号公報 (別件訴訟の乙16)
甲第30号証 「Email Security with Cisco IronPort」 (別件訴訟の乙17)
Cisco Systems, Inc.
甲第31号証 ウェブページ「IronPortはここがすごい!」 (別件訴訟の乙18の1)
甲第32号証 ウェブページ「spamメール対策サービスの設定強化について」 (別件訴訟の乙18の2)
甲第33号証 ウェブページ「IRONPORTすごい!さすがcisco!」 (別件訴訟の乙19)
甲第34号証 特開2001-175557号公報 (別件訴訟の乙20)
甲第35号証 特開2007-052650号公報 (別件訴訟の乙21)
甲第36号証 ウェブページ「センドマジックの機能」 (別件訴訟の乙22の1)
甲第37号証 ウェブページ「センドマジックの変遷」 (別件訴訟の乙22の2)
甲第38号証 ウェブページ「センドマジック 特長機能」 (別件訴訟の乙22の3)
甲第39号証 「広辞苑」,第七版,「通知」 (別件訴訟の乙23)
株式会社岩波書店,2018年1月12日
甲第40号証 特表2008-547067号公報 (別件訴訟の乙24の1)
甲第41号証 特表2008-545177号公報 (別件訴訟の乙24の2)
甲第42号証 ウェブページ「RFC5321 Simple Mail Transfer Protocol」 (別件訴訟の乙25)
J. Klemsin,2008年10月
甲第43号証 ウェブサイト「IT用語事典」のウェブサイト「RFC(Request For Comments)とは」 (別件訴訟の乙26)
甲第44号証 特開2018-196058号公報 (別件訴訟の乙27)
甲第45号証 特開平01-221956号公報 (別件訴訟の乙28の1)
甲第46号証 特開2000-216805号公報 (別件訴訟の乙28の2)
甲第47号証 特開平11-154968号公報 (別件訴訟の乙28の3)
甲第48号証 ウェブページ「エンベロープ(envelope)From/ToとヘッダのFrom/To」 (別件訴訟の乙29)
甲第49号証 ウェブページ「メール配送のしくみ」 (別件訴訟の乙30)
甲第50号証 「図解でよくわかる ネットワークの重要用語解説」,第4版,56,57,195ページ (別件訴訟の甲23)
株式会社技術評論社,2015年7月1日
甲第51号証 特開2013-137734号公報 (別件訴訟の甲35)
甲第52号証 訂正2018-390180号 訂正審判事件の上申書(本件特許権者)
甲第53号証 別件訴訟の原告第10準備書面
甲第54号証 別件訴訟の被告第7準備書面
甲第55号証 「新・注解 特許法【上巻】」,第2版,292ページ
株式会社青林書院,2017年10月5日
甲第56-1号証 特開2002-149638号公報 (別件訴訟の乙31-1)
甲第56-2号証 特開2002-157196号公報 (別件訴訟の乙31-2)
甲第56-3号証 特開2008-257536号公報 (別件訴訟の乙31-3)
甲第56-4号証 特開2004-252826号公報 (別件訴訟の乙31-4)
甲第57-1号証 「IRONPORT C160 QUICK START GUIDE」
Cisco Systems, Inc.
甲第57-2号証 「IRONPORT C360 QUICK START GUIDE」
Cisco Systems, Inc.
甲第58号証 請求人従業員(猪俣清人)の陳述書
甲第59号証 ウェブページ「Message filters vs Content Filters」
甲第60号証 Application No. 12/558930のUSPTO Office Action
甲第61-1号証 ウェブページ「Try Before You Buy Program」
甲第61-2号証 「Cisco IronPort Eメール セキュリティ アプライアンス」
シスコシステムズ合同会社
甲第62号証 別件控訴審の控訴答弁書

2 被請求人

(1) 答弁の趣旨

本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める,というものである。

(2) 被請求人の主張の概要

本件発明における「送信先」には,「電子メールアドレス」と「ドメイン」とが含まれる旨を主張する(答弁書9頁5行?36頁最終行)とともに,本件発明における「送信先」に「ドメイン」が含まれるか否かにかかわらず,本件訂正後の本件発明について,請求人が主張する無効理由1ないし7は理由がないから,本件特許を無効とすることはできない。

(3) 証拠方法

乙第1号証 特開2005-346643号公報 (別件訴訟の甲21)
乙第2号証 特開2005-063019号公報 (別件訴訟の甲22)
乙第3号証 特開2017-138859号公報 (別件訴訟の甲24)
乙第4号証 特開2009-230641号公報 (別件訴訟の甲30)
乙第5号証 特開2012-170015号公報 (別件訴訟の甲31)
乙第6号証 特開2009-193277号公報 (別件訴訟の甲32)
乙第7号証 特開2004-260792号公報 (別件訴訟の甲33)
乙第8号証 特許・実用新案審査基準(第III部第2章第2節 進歩性) (別件訴訟の甲36)
乙第9号証 「ジーニアス英和大辞典」,初版,2080ページ 「splinter」
株式会社大修館書店,2001年4月25日
乙第10号証 「広辞苑」,第七版,1160ページ 「裂く」
株式会社岩波書店,2018年1月12日
乙第11号証 「広辞苑」,第七版,2614ページ 「分割」
株式会社岩波書店,2018年1月12日
乙第12号証 「広辞苑」,第七版,1692ページ 「送信」
株式会社岩波書店,2018年1月12日
乙第13号証 「広辞苑」,第七版,2094ページ 「所」
株式会社岩波書店,2018年1月12日
乙第14号証 「21世紀におけるインターネット政策の在り方抜粋」
情報通信審議会 情報通信政策部会 インターネット基盤委員会,2009年4月
乙第15号証 神戸大学大学院 工学研究科 教授(森井昌克)の鑑定意見書
乙第16号証 別件控訴審の控訴理由書
乙第17号証 「TCP/IPの絵本」,第2版,58?61ページ (別件訴訟の甲46)
株式会社翔泳社,2018年7月11日
乙第18号証 「インターネットプロトコルがわかる」,初版,126,131ページ (別件訴訟の甲47)
株式会社技術評論社,平成14年1月25日
乙第19号証 「わかりやすいデータ通信」,第1版,206,207ページ (別件訴訟の甲48)
株式会社オーム社,平成13年1月25日
乙第20号証 ウェブページ「メール誤送信対策「m-FILTER MailFilter(メールフィルター)」」 (別件訴訟の甲49)
乙第21号証 ウェブページ「CRMのEメールログ記録から受信者を除外する

乙第22号証 別件控訴審の控訴答弁書
乙第23号証 ウェブサイト「Wikipedia」のウェブページ「Postfix」
乙第24号証 「Postfix実用ガイド」,初版,70ページ
株式会社オライリー・ジャパン,2017年2月17日
乙第25号証 ウェブページ「メールのルーティングと配信」
乙第26号証 被請求人代理人弁護士(杉尾雄一)の報告書
乙第27号証 被請求人従業員(入江健志)の報告書
乙第28号証 「qmailで作るメールサーバ徹底攻略」,初版,124?127ページ
ソフトバンクパブリッシング株式会社,2002年11月30日
乙第29号証 ウェブサイト「qmHandle」

第5 当審の判断

1 本件発明における「送信先」の解釈について

上記第4の1(2)アで述べたように,当事者間で,本件発明における「送信先」の解釈(ユーザ名を含まずにドメイン名のみからなる場合が含まれるのか,否か)に争いがあり,請求人主張の無効理由1ないし7の判断に影響するため,本件発明における「送信先」の解釈について以下で検討する。

(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載

ア まず,本件特許の特許請求の範囲の請求項1における記載を検討する。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1には,「送信先」に関して,以下(ア)?(オ)の記載がある。

(ア)(構成要件11B)
「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」

(イ)(構成要件11C)
「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する」

(ウ)(構成要件11D)
「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」

(エ)(構成要件11E)
「当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する」

(オ)(構成要件11F)
「当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」

イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1における「送信先」に,ユーザ名を含まずにドメイン名のみからなる場合が該当するのか,否か,は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載に照らし,その文言上,一義的に明らかであるということはできない。

(2) 本件明細書等の記載

続いて,本件明細書等の記載を検討する。

ア 「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」(構成要件11B)について

構成要件11Bの「制御ルール」に関して,制御ルールのリストを例示する図5とともに,本件明細書等には,以下の記載がある。

「【0040】
・「条件定義部」は,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条件」から構成される。「発信者(送信元)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの送信元の電子メールアドレス(発信者情報)が設定されている。「受信者(宛先)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている。「その他条件」には,メール送受信端末110から取得する電子メールから得られる電子メールアドレス以外の電子メールを特定するための条件(情報)が設定されている。例えば,「その他条件」には,通常電子メールの送受信をフィルタリングするシステムで電子メールを特定するために使用される情報が設定できるものとする。具体的には,添付ファイルの有無や添付ファイルのファイル名,ファイルタイプ(ファイルの拡張子など)やファイルサイズや電子メール全体のデータサイズなどが設定可能である。
【0041】
なお,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる。」

本件明細書等の上記記載によれば,本件明細書等には,制御ルールが,「発信者(送信元)」の電子メールアドレスと,「受信者(宛先)」すなわち送信先の電子メールアドレスとに対応付けられること(本件発明1の構成要件11Bを参照。)が記載されている。

イ 「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する」(構成要件11C)について

構成要件11Cの「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する」に関して,本件明細書等には,以下の記載がある。

「【0012】
メールシステムは,メール送受信端末(端末装置)110とメール中継装置150とメール配送装置190とから構成される。メール送受信端末110とメール中継装置150とメール配送装置190とはそれぞれネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。
【0013】
メール送受信端末110から送信された電子メールは,該電子メールの宛先に設定されたメールアドレスに従って,メール中継装置150とメール配送装置190とを介して,該宛先である不図示の他のメール送受信端末に送信される。」

「【0019】
メール中継装置150は,メール送受信端末110から送信された電子メールをメール配信装置に中継するか,一時保留するか等を判定し,判定結果に基づいて,メール配送装置190にメールを転送する。メール中継装置150は,メール受信処理部151,ルール適用処理部152,メール送信処理部153,制御ルール設定部154,保留メール管理処理部155を備えている。
【0020】
メール中継装置150は,外部メモリ211などの記憶手段に,制御ルール保存部156,ユーザアカウントデータベース157,保留メール保存部158の記憶領域を備えている。
【0021】
メール受信処理部151は,メール送受信端末110が送信した電子メールを取得する機能を備える。」

本件明細書等の上記記載によれば,本件明細書等には,端末装置から受信する電子メールの宛先として,メールアドレスが設定されていることが記載されており,ドメインのみを宛先として設定することを示唆する記載はない。

ウ 「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」構成(構成要件11D)について

(ア) 「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」構成(本件発明1の構成要件11D)に関して,本件明細書等には,図12とともに,以下の記載がある(下線は,当審が付した。以下,同じ。)。

「【0058】
<ルール適用処理(S304)の詳細動作>
図4は,ステップS304の電子メールのルール適用処理の詳細処理を示すフローチャートである。以下の動作は,メール中継装置150のCPU201が各種制御プログラムを実行することにより実現される。
【0059】
ステップS401では,ルール適用処理部152は,ステップS303で選択された制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か,それとも「false」(偽)か,を判定する。すなわち,制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か否かを判定することにより,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成するか否かを判定する。
【0060】
そして,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成すると判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合)は(ステップS401:YES),ステップS402に処理を移行する。一方,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成しないと判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「false」(偽)と設定されている場合)は(ステップS401:NO),ステップS403に処理を移行する。
【0061】
ステップS402では,制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合,ルール適用処理部152は,ステップS301で取得した電子メールのエンベロープに含まれる各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する。
【0062】
図12は,電子メールの各宛先(受信者)のそれぞれを宛先としたエンベロープの生成(ステップS402)を説明する図である。1201は,ステップS301で取得した電子メールのデータを示している。
【0063】
図12の電子メールのデータ1201は,エンベロープ部の情報(エンベロープとも言う)とヘッダ部の情報(ヘッダともいう)と本文とから構成されることを示している。1201には,エンベロープ部の情報とヘッダ部の情報と本文とを示したが,添付ファイルなどを含めてもよい。
【0064】
なお,”エンベロープ”は,メール送受信端末110のメールクライアント等では通常表示はされないが,実際の電子メールの配送に使われる送信元(発信者)の電子メールアドレスと送信先(受信者)の電子メールアドレスとを含む情報である。
【0065】
1201では,エンベロープに,送信元(発信者)の電子メールアドレスとして「X」が設定され,送信先(受信者)の電子メールアドレスとして,「A」,「B」,「C」が設定されている。
【0066】
ステップS402では,このエンベロープに送信先(受信者)の電子メールアドレスとして設定されている「A」,「B」,「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成する。
【0067】
すなわち,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「A」のエンベロープ情報1202と,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「B」のエンベロープ情報1203と,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「C」のエンベロープ情報1204とを生成する。
【0068】
このように,ステップS402では,ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープ情報に複数の送信先の電子メールアドレスがある場合,その送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に送信先に設定されたエンベロープをそれぞれ生成し,複数の電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。なお,ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープの送信先の電子メールアドレスが1つのみの場合であっても,ステップS402では,その1つの電子メールアドレス(1つのエンベロープ)のみの電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。ルール適用処理部152は,ステップS402でエンベロープを生成すると,処理をステップS404に移行する。」

本件明細書等の上記記載によれば,本件明細書等には,電子メールのエンベロープに複数の送信先の電子メールアドレスが設定されている場合,これを送信先の電子メールアドレスごとに分割し,送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に設定されたエンベロープを生成することが記載されており,ドメインごとに分割することを示唆する記載はない。

(イ) 本件発明1の課題及び作用効果について

本件発明1の課題及び作用効果に関して,本件明細書等には,以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,特許文献1に記載の技術においては,送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。また,誤送信の可能性がある電子メールの確認や削除等の管理操作は,当該電子メールの送信者のみに限定されている。さらに,保留されたメールを確認したのち,修正する必要がないと判断された場合であっても,設定された送信遅延時間が経過するまで送出することができない。
【0005】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる。」

本件明細書等の上記記載によれば,本件発明1は,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる」という問題点の解決を図るものであるところ,当該問題点が,複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割し,それぞれの電子メールアドレスについて,保留,取消しをするかどうかの判断をし,それに従った制御を行うことにより解決されることは,明らかである。

これに対して,複数の送信先をドメインごとに分割する構成とすると,例えば,送信先の電子メールアドレスが,(1) user1@abc.co.jp,(2) user2@abc.co.jp,(3) user3@abc.co.jp,(4) user4@abc.co.jp,(5) user5@xyz.comであり,(2)のみ送信を保留すべき場合,電子メールは,そのドメインごとに,(1)?(4)と(5)との2つに分割され,(5)は送信されるものの,送信を保留する必要のない(1),(3),(4)が保留されるという結果となる。
そうすると,複数の送信先をドメインごとに分割する構成の場合には,電子メールの送出が一部効率化されるものの,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる」という問題点は解消し得ないことになる。

したがって,本件発明1がその問題点を解決し得ない構成を含むとは考え難く,これに上記(1)アの請求項1の記載や上記アの送信先の分割に関する本件明細書等のの記載も考え併せると,本件発明1の構成要件11Dにおける「電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」とは,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割することを意味すると解するのが相当である。



エ 「当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する」(構成要件11E)について

「当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する」(構成要件11E)に関して,本件明細書等には,以下の記載がある。

「【0058】
<ルール適用処理(S304)の詳細動作>
図4は,ステップS304の電子メールのルール適用処理の詳細処理を示すフローチャートである。以下の動作は,メール中継装置150のCPU201が各種制御プログラムを実行することにより実現される。
【0059】
ステップS401では,ルール適用処理部152は,ステップS303で選択された制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か,それとも「false」(偽)か,を判定する。すなわち,制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か否かを判定することにより,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成するか否かを判定する。
【0060】
そして,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成すると判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合)は(ステップS401:YES),ステップS402に処理を移行する。一方,電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成しないと判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「false」(偽)と設定されている場合)は(ステップS401:NO),ステップS403に処理を移行する。
【0061】
ステップS402では,制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合,ルール適用処理部152は,ステップS301で取得した電子メールのエンベロープに含まれる各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する。
【0062】
図12は,電子メールの各宛先(受信者)のそれぞれを宛先としたエンベロープの生成(ステップS402)を説明する図である。1201は,ステップS301で取得した電子メールのデータを示している。
【0063】
図12の電子メールのデータ1201は,エンベロープ部の情報(エンベロープとも言う)とヘッダ部の情報(ヘッダともいう)と本文とから構成されることを示している。1201には,エンベロープ部の情報とヘッダ部の情報と本文とを示したが,添付ファイルなどを含めてもよい。
【0064】
なお,“エンベロープ”は,メール送受信端末110のメールクライアント等では通常表示はされないが,実際の電子メールの配送に使われる送信元(発信者)の電子メールアドレスと送信先(受信者)の電子メールアドレスとを含む情報である。
【0065】
1201では,エンベロープに,送信元(発信者)の電子メールアドレスとして「X」が設定され,送信先(受信者)の電子メールアドレスとして,「A」,「B」,「C」が設定されている。
【0066】
ステップS402では,このエンベロープに送信先(受信者)の電子メールアドレスとして設定されている「A」,「B」,「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成する。
【0067】
すなわち,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「A」のエンベロープ情報1202と,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「B」のエンベロープ情報1203と,送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「C」のエンベロープ情報1204とを生成する。
【0068】
このように,ステップS402では,ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープ情報に複数の送信先の電子メールアドレスがある場合,その送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に送信先に設定されたエンベロープをそれぞれ生成し,複数の電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。なお,ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープの送信先の電子メールアドレスが1つのみの場合であっても,ステップS402では,その1つの電子メールアドレス(1つのエンベロープ)のみの電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。ルール適用処理部152は,ステップS402でエンベロープを生成すると,処理をステップS404に移行する。
【0069】
ステップS403では,電子メールに設定された各宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成しないと判定し,ステップS301で受信した1つの電子メール(1つのエンベロープ)からなる電子メールの集合を生成する。つまり,ステップS403の処理は,これ以降の各処理に対してステップS402の結果と同様に処理できるようにするための処理である。
【0070】
ステップS404では,ルール適用処理部152は,未適用メールを蓄積するための未適用メール用バッファを初期化する。そして,ルール適用処理部152は,ステップS402又はステップS403で生成されたエンベロープ(電子メール)の集合の中から,1つのエンベロープを取得してステップS405へ進む。なお,ステップS404?ステップS410の処理は,メール集合の要素毎に繰り返し実行される。
【0071】
ステップS405では,ルール適用処理部152は,ステップS303で選択された制御ルールの条件定義部の条件とステップS404で取得したエンベローブを含む電子メールのデータとを照合し,該条件定義部の条件に合致するかどうかを判定する。なお,ここでは,制御ルールの「条件定義部」に設定された「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条件」に示す条件を全て満たすか否かを判定する。
【0072】
そして,ルール適用処理部152は,ステップS405で合致すると判定された場合(ステップS405:YES),ステップS406に処理を移行し,合致しないと判定された場合は(ステップS405:NO),ステップS409に処理を移行する。
【0073】
ステップS406では,ルール適用処理部152は,制御ルールを参照し,合致した条件定義部の条件に対応した「アクション」の値が「中継」か,それとも「保留」か,を判定する。ステップS406で,「アクション」の値が「中継」と判定した場合は(ステップS406:中継),ステップS407に処理を移行し,一方,アクション」の値が「保留」と判定した場合は(ステップS406:保留),ステップS408に処理を移行する。
【0074】
ステップS407では,ルール適用処理部152は,ステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータ(ヘッダや本文など)と,電子メールの送出予定日時が即時であることを示す情報と,ステップS405で判定した制御ルールのIDとをアクション適用エントリバッファ内のアクション適用エントリリストに記憶する。
【0075】
具体的には,アクション適用エントリリストの「メールメッセージ(宛先)」にステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータが記憶され,アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に,電子メールの送出予定日時が即時であることを示す情報(図13の例では「即時」)が記憶され,アクション適用エントリリストの「適用ルールID」には,ステップS405で用いた制御ルールのID(図13の例では「3」)が記憶される。
【0076】
ステップS408では,ルール適用処理部152は,まず,ステップS406でアクション」の値が「保留」と判定された制御ルールの「遅延時間」を制御ルールリスト(図5)から取得する。そして,ステップS301で電子メールを受信した「受信日時」と,ここで取得した「遅延時間」とから「送出予定時間」を算出する。例えば,受信日時が「2008月10月01日12時40分10秒」で,遅延時間が「10分」の場合は,その和を算出し「送出予定時間」を「2008月10月01日12時50分10秒」とする。
【0077】
そして,ルール適用処理部152は,ステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータと,ここで算出された送出予定時間と,ステップS405で判定した制御ルールのIDとをアクション適用エントリバッファ内のアクション適用エントリリストに記憶する。
【0078】
具体的には,ステップS407の中継処理と同様に,図13に示すアクション適用エントリリストの「メールメッセージ(宛先)」にステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータが記憶され,アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に,算出された送出予定時間(図13の例では,「2008/10/1 12:50:10」)が記憶され,「適用ルールID」にステップS405で判定した制御ルールのID(図13の例では「21」)が記憶される。
【0079】
なお,ステップS406で「アクション」の値が「保留」と判定された制御ルールの「遅延時間」に値が設定されていない場合,これは無期限に保留することを示しているので,この場合は,アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に期限が無いことを示す情報が記憶される(図13の例では「期限なし」が記憶される)。
【0080】
ステップS409では,ステップS404で取得したエンベローブを含む電子メールのデータを,ステップS404で初期化された未適用メール用バッファに記憶する。
【0081】
ステップS411では,ルール適用処理部152は,未適用メール用バッファの中に電子メールのデータがあるか否かを判定する。そして,未適用メール用バッファの中に電子メールのデータがあると判定された場合は(ステップS411:YES),未適用メール用バッファに記憶された1又は複数のエンベロープの送信先の電子メールアドレス全てを1つのエンベロープの送信先に設定した電子メールを生成する。これはステップS402で実行した処理の逆の処理に相当する。一方,未適用メール用バッファの中に電子メールのデータが無いと判定された場合は(ステップS411:NO),処理をステップS305に移行する。」

本件明細書等の上記記載,特に,「送信先(受信者)の電子メールアドレス」(段落0065,0066)という記載,「複数の送信先の電子メールアドレス」(段落0068)という記載などによれば,本件明細書等には,複数の送信先が「電子メールアドレス」である旨の記載はあるものの,複数の送信先としてドメインのみが設定されている旨の記載も示唆も見当たらない。

オ 「当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」構成(構成要件11F)について

「電子メールの送信制御」(本件発明1の構成要件11F)に関して,本件明細書等には,図13とともに,以下の記載がある。

「【0054】
ステップS308では,アクション適用エントリバッファに記憶されている情報に基づいてメールの送出処理又は保留処理を行う。なお,ステップS308の処理の詳細は図14を用いて後述する。
【0055】
図13は,アクション適用エントリバッファに記憶されるデータを示す図である。
【0056】
具体的には,アクション適用エントリバッファには,ステップS407又はステップS408で実行した中継(送出)処理又は保留処理の処理単位である電子メールのデータ(メールメッセージ(宛先))に対し,当該電子メールの送出予定日時と,当該電子メールに合致した制御ルールのIDとがそれぞれ対応付けられて記憶されている。
【0057】
以降では,アクション適用エントリバッファに記憶されるデータをアクション適用エントリリストと言い,アクション適用エントリリスト内の各レコードのデータをアクション適用エントリデータと言う。図13に示すアクション適用エントリリスト内のメールメッセージ(宛先)には,上述した通り,ステップS407又はステップS408で実行した中継(即時送出)処理又は保留処理の処理単位である電子メールが記憶されている。なお,図13に示す各アクション適用エントリデータは,後述する図4のステップS407又はステップS408において記憶される。」

本件明細書等の上記記載によれば,本件明細書等には,アクション適用エントリバッファに,ステップS407又はS408で実行した中継(送出)又は保留の処理単位である電子メールのデータ(メールメッセージ(宛先))ごとのデータが記憶され,これに基づいて,ステップS308において,メールの送出処理又は保留処理を行うことが記載され,アクション適用エントリバッファに記憶されるデータの例示である図13には,「xx@zzz.co.jp」,「yy@zzz.co.jp」及び「ss@zzz.co.jp」という,@以下が同一の電子メールアドレスが記載され,これらの電子メールごとにそれぞれ処理がされることが示されている。

加えて,本件明細書等には,「制御ルールZのメール適用処理ステップS304において,まずステップS402でエンベロープ受信者アドレスがB,Cであった電子メールが,エンベロープ受信者Bの電子メールとエンベロープ受信者Cの電子メールに分割される。」(段落【0131】)と記載されている。

エ 小括

上記イ?ウより,本件明細書等における,上記アで検討した特許請求の範囲の送信先の分割に関する記載以外の部分においても,一貫して,「送信先」が電子メールアドレスであることを前提とする記載がなされている一方,「送信先」にドメインを含むことを示唆する記載がないことからすると,本件発明1における「送信先」は,電子メールの宛先である電子メールアドレスを意味し,ドメインを含まないものというべきである。

(3) 被請求人の主張について

ア 被請求人は,本件明細書等の【0037】には,構成要件11Bの「制御ルール」のリストに関する記載があり,その一例を示す図5の「受信者」の欄に,電子メールアドレスを意味する「x@x.co.jp」と,ドメイン「zzz.co.jp」を意味する「*@zzz.co.jp」が記載されており,上記「*@zzz.co.jp」が(ユーザ名を含まず)ドメイン名「zzz.co.jp」のみからなる場合を意味する旨主張しているので,以下で当該主張について検討する。

イ 本件明細書等には,制御ルールに関し,「「条件定義部」は,「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条件」から構成される。…「受信者(宛先)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている」(段落【0040】),「「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0041】)と記載されており,これらの記載によれば,上記「*@zzz.co.jp」は,ドメインを意味するのではなく,「*」に任意の文字列を含み,ドメイン名を「zzz.co.jp」とする複数の電子メールアドレスを意味するというべきであるから,上記被請求人の主張は採用できない。

(4) 小括

以上のとおり,本件発明1における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」が該当し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合は該当しないと解することが相当である。また,本件特許2?13についても同様である。

2 無効理由1(甲第20号証に基づく新規性進歩性)について

上記1(4)で述べたように,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」が該当し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合は該当しないと解することが相当であるから,無効理由1のうち,本件発明における「送信先」として,ユーザ名を含まずに「ドメイン」名のみの場合が該当することを前提とした無効理由1(上記第4の1(2)イ(ア)a?c)は,前提において誤っており,当該無効理由1によって,本件発明についての特許を無効とすることはできない。

以下では,本件発明における「送信先」は,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみが該当するとの解釈を前提とする無効理由1(上記第4の1(2)イ(イ))について検討する。

具体的には,上記第4の1(2)イ(イ)に記載したように,「個々の送信先」を文言どおり(「個々の電子メールアドレス」であると)解釈した場合には,甲第20号証には,メッセージをポリシー毎に分割することが開示されているところ,電子メールを個々の送信先に分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証などに開示されているように周知技術であるから,本件発明1ないし5,7,9ないし13についての特許は,甲第20号証に記載された発明と,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び,甲第25号証に開示の周知技術と,に対して進歩性を有さない旨の無効理由1について検討する。

(1) 甲第20号証について

ア 甲第20号証の「頒布された刊行物」としての適格性について

被請求人は,甲第20号証の「頒布された刊行物」としての適格性について争っている(答弁書37頁下から3行?38頁18行)ので,まず,甲第20号証の「頒布された刊行物」としての適格性について検討する。

特許法第29条第1項第3号における「頒布された刊行物に記載された発明」とは,不特定の者が見得る状態に置かれた刊行物に記載された発明をいい,「刊行物」とは,公衆に対し,頒布により公開することを目的として複製された文書,図面その他これに類する情報伝達媒体をいう。

イ 甲第20号証が「刊行物」であるかについて

(ア) 甲第20号証は,製品「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」のユーザガイドである。

(イ) また,甲第20号証には,著作権(COPYRIGHT)に関する部分に,以下の記載がある。

「Copyright (C) 2006 by IronPort Systems^(TM), Inc. All rightsreserved.
Part Number: 421-0200
Revision Date: July 1, 2006」(「(C)」は,丸内に「C」を示す。)

(ウ) 上記(ア),(イ)によれば,甲第20号証は,本件特許の出願(出願日 平成20年(2008年)12月16日)前に,刊行物として存在していたと認められる。

ウ 甲第20号証が,本件特許の出願前に「頒布された」かについて

(ア) 甲第20号証に記載された製品「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」が2006年7月にリリースされていたことは,上記イ(イ)の甲第20号証の「Revision Date: July 1, 2006」という記載から,「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」のユーザガイドが2006年7月1日にリバイスされたこと,および,甲第30号証の4頁の「Table 1-1 History of Major AsyncOS Releases」の「AsyncOS 4.7, July 2006」と記載されているように「AsyncOS 4.7」が2006年7月にリリースされた旨記載されていることから,認められる。

(イ)ウェブサイトの過去のデータを保存しているインターネットアーカイブサービスで保存された甲61の1によれば,「IronPortの『購入前のお試し』評価プログラムに参加して,完全に機能するIronPort applianceを受け取り,あなたのネットワークで30日間無料でテストしてください。」との旨の記載がhttp:/ironport.market2lead.com/go/ironportinc/eval_reqというURLで示されるサイト上で,2008年3月6日に閲覧可能であったことが認められる。

(ウ)2008年5月15日に公開されていたhttps://community.cisco.com/t5/email-security/message-filters-vs-content-filters/td-p/962778というURLで示されるウェブサイトでは,メッセージフィルターとコンテンツフィルターの違いについて説明がなされており,
コンテンツフィルターの説明として,
https://support.ironport.com/docs/c_series/4.6/HTML_4.6_Compilation/AsyncOS_4.6_User_Guide/AsyncOS_4.6_User_Guide-12-3.html
のリンクが張られ,
メッセージフィルターの説明として,
https://support.ironport.com/docs/c_series/4.6/HTML_4.6_Compilation/AsyncOS_4.6_Adv_User_Guide/AsyncOS_4.6_Adv_User_Guide-09-2.html
のリンクが張られており(甲58),上記リンクは,甲第20号証に記載された製品「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」の前のバージョンである「IronPort AsyncOS^(TM)4.6」のユーザガイドがウェブサイト上で公開されていたことが認められる。

(エ)以上,(ア)?(ウ)より,製品「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」は本件特許の出願前に,リリースされており,当該製品に付随して,「IronPort AsyncOS^(TM)4.7」のユーザガイドである甲第20号証が,不特定の者に頒布され,或いは,ウェブサイト上で不特定の者が閲覧可能に公開されていた蓋然性は高いものと認められる。

エ 小括

以上から,甲第20号証は,本件特許の出願前に,頒布された刊行物であると認められる。


オ 甲第20号証の記載事項

甲第20号証(IronPort AsyncOS^(TM)4.7 USER GUIDE)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審が付した。以下,同じ。)。

(ア) 「IronPort Product Overview

・・・(中略)・・・

The IronPort Messaging Gateway^(TM) appliance is a high-performance appliance designed to meet the email infrastructure needs of the most demanding enterprise networks. The IronPort appliance eliminates spam and viruses, enforces corporate policy, secures the network perimeter, and reduces the Total Cost of Ownership (TCO) of enterprise email infrastructure.」(2ページ)
(和訳:
IronPort製品の概要

・・・(中略)・・・

IronPort Messaging Gateway^(TM)機器は,最も要求の厳しい企業ネットワークの電子メールインフラの要求に応えるように設計された高性能な機器である。IronPort機器は,スパム及びウイルスを除去し,企業ポリシーを実施し,ネットワークの境界を保護し,そして,企業の電子メールインフラの総所有コスト(TCO)を削減する。)

(イ) 「Installation Scenarios

・・・(中略)・・・

Configuration Overview
The following figure shows the typical placement of the IronPort appliance in an enterprise network environment:

」(25ページ)
(和訳:
インストールの筋書き

・・・(中略)・・・

構成の概要
次の図は,企業ネットワーク環境における,IronPort機器の典型的な配置を示す:
図3-1 企業ネットワーク環境
(図略))

図3-1の記載によれば,IronPort機器は,企業ネットワーク環境において,グループウェアのクライアントである端末と,企業ネットワーク環境の外部のインターネットとの間に配置されるものである。

(ウ) 「CHAPTER 4 Understanding the Email Pipeline
The Email Pileline is the process or flow email follows as it is processed by the IronPort appliance. ・・・(後略) 」(61ページ)
(和訳:
第4章 電子メールパイプラインの理解
電子メールパイプラインは,電子メールがIronPort機器により処理されるときに従うプロセス又はフローである。 ・・・(後略) )

(エ) 「OVERVIEW: EMAIL PIPELINE
Figure 4-1 and Figure 4-2 provide an overview of how email is processed through the system, from reception to routing to delivery. ・・・(中略)・・・

Figure 4-1 Email Pipeline for the IronPort Appliance: Receiving Email Features
(図略)


」(62?65ページ)
(和訳:
概要:電子メールパイプライン
図4-1及び図4-2は,電子メールが,受信から配信へのルーティングまで,このシステムを通して,どのように処理されるかについての概要を示す。 ・・・(中略)・・・

図4-1 IronPort機器の電子メールパイプライン:電子メールの受信機能
(図略)

図4-2 IronPort機器の電子メールパイプライン:ルーティング及び配信機能
(図略))

図4-2の記載によれば,電子メールパイプラインのルーティング及び配信機能には,ワークキューが含まれている。

(オ) 「WORK QUEUE / ROUTING
The Work Queue is where the received message is processed before moving to the delivery phase. Processing includes masquerading, routing, filtering, anti-spam and anti-virus scanning, Virus Overbreak Filters, and quarantining.

・・・(中略)・・・

Masquerading or LDAP Masquerading

・・・(中略)・・・

LDAP Routing

・・・(中略)・・・

Message Filters

・・・(中略)・・・

Email Security Manager (Per-Recipient Scanning)
Anti-Spam

・・・(中略)・・・

Anti-Virus

・・・(中略)・・・

Content Filters

・・・(中略)・・・

Virus Outbreak Filters

・・・(中略)・・・

Quarantines」(68?70ページ)
(和訳:
ワークキュー/ルーティング
ワークキューは,受信されるメッセージが,配信段階へ進む前に処理されるところである。処理は,マスカレーディング,ルーティング,フィルタリング,スパム対策及びウイルス対策のスキャニング,ウイルスアウトブレイクフィルタ,隔離を含む。

・・・(中略)・・・

マスカレーディング又はLDAPマスカレーディング

・・・(中略)・・・

LDAPルーティング

・・・(中略)・・・

メッセージフィルタ

・・・(中略)・・・

電子メールセキュリティマネージャ(受信者ごとのスキャニング)
スパム対策

・・・(中略)・・・

ウイルス対策

・・・(中略)・・・

コンテンツフィルタ

・・・(中略)・・・

ウイルスアウトブレイクフィルタ

・・・(中略)・・・

隔離)

(カ) 「CHAPTER 7 Email Security Manager

・・・(中略)・・・

Email Security Manager allows you to manage the Virus Outbreak Filters feature, anti-spam, anti-virus, and email content policies - on a per-recipient or per-sender basis, through distinct inbound and outbound policies.
Through the Mail Policies tab in the GUI (or the policyconfig command in the CLI), you create and manage incoming or outgoing mail policies. Mail policies are defined as a specific set of users (Envelope Recipients, Envelope Sender, From: header, or Reply-To: header) that map to specific settings for the following features:
・Anti-Spam Scanning
・Anti-Virus Scanning
・Virus Outbreak Filters
・Content Filters」(163ページ)
(和訳:
第7章 電子メールセキュリティマネージャ

・・・(中略)・・・

電子メールセキュリティマネージャにより,ユーザは,ウイルスアウトブレイクフィルタ機能,スパム対策,ウイルス対策,電子メールコンテンツポリシーを,着信と発信とで異なるポリシーにより,受信者又は送信者単位で管理する。
GUIにおけるメールポリシータブ(又はCLIにおける「policyconfig」コマンド)により,ユーザは,着信又は発信メールポリシーを作成及び管理する。メールポリシーは,次の機能に対する特定の設定にマッピングされる,ユーザの特定のセット(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,from:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)として定義される。
・スパム対策スキャニング
・ウイルス対策スキャニング
・ウイルスアウトブレイクフィルタ
・コンテンツフィルタ)

(キ) 「Message Splintering
Intelligent message splintering (by matching policy) is the mechanism that allows for differing recipient-based policies to be applied independently to message with multiple recipients.
Each recipient is evaluated for each policy in the appropriate Email Security Manager table (incoming or outgoing) in a top-down fashion.
Each policy that matches a message creates a new message with those recipients. This process is defined as message splintering:
・If some recipients match different policies, the recipients are grouped according to the policies they matched, the message is split into a number of messages equal to the number of policies that matched, and the recipients are set to each appropriate "splinter".
・If all recipients match the same policy, the message is not splintered. Conversely, a maximum splintering scenario would be one in which a single message is splintered for each message recipient.
・Each message splinter is then processed by anti-spam, anti-virus, Virus Outbreak Filters, and content filters independently in the email pipeline.
Figure 7-2 illustrates the point at which messages are splintered in the email pipeline.


・・・(中略)・・・

Managed Exceptions
Because the iterative processing of each splinter message impacts performance, IronPort recommends using the Incoming and Outgoing Mail Policies tables of Email Security Manager to configure policies on a managed exception basis. In other words, evaluate your organization’s needs and try to configure the feature so that the majority of messages will be handled by the default policy and the minority of messages will be handled by a few additional “exception” policies. In this manner, message splintering will be minimized and you are less likely to impact system performance from the processing of each splinter message in the work queue.」(167?169ページ)
(和訳:
メッセージ分割
(ポリシーにマッチすることによる)インテリジェントなメッセージ分割は,異なる受信者ベースのポリシーを,複数の受信者を有するメッセージに個別に適用することを可能にするメカニズムである。
各受信者は,トップダウンの方法で,適切な電子メールセキュリティマネージャテーブル(着信又は発信)における各ポリシーに関して評価される。
メッセージにマッチする各ポリシーは,それらの受信者を有する新たなメッセージを作成する。このプロセスは,メッセージ分割として定義される:
・異なるポリシーにマッチする受信者がいる場合,受信者は,マッチしたポリシーに従ってグループ化され,メッセージは,マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割され,そして,受信者は,各適切な「分割されたメッセージ」に設定される。
・すべての受信者が同じポリシーにマッチする場合,メッセージは分割されない。反対に,最も多くの分割が行われる状況は,単一のメッセージがメッセージ受信者ごとに分割される状況であろう。
・それから,分割された各メッセージは,電子メールパイプラインにおいて,個別に,スパム対策,ウイルス対策,ウイルスアウトブレイクフィルタ,コンテンツフィルタにより処理される。
図7-2は,メッセージが電子メールパイプラインにおいて分割される要点を示す。
図7-2 電子メールパイプラインにおけるメッセージ分割
(図略)

・・・(中略)・・・

管理された例外
各分裂メッセージの反復処理は,パフォーマンスに影響を与えるので,IronPortは,ポリシーを,管理された例外方式で設定するために,電子メールセキュリティマネージャの着信及び発信メールポリシーテーブルを用いることを推奨する。つまり,ユーザの組織のニーズを評価し,メッセージの大多数が,デフォルトポリシーにより処理され,メッセージの少数が,少数の追加の「例外」ポリシーにより処理されるように,機能を設定されたい。このようにして,メッセージ分割を最小限に抑え,システムパフォーマンスが,ワークキューにおける,各分割メッセージの処理による影響を受けにくくなる。)

(ク) 「Contents of Policies
Email Security Manager tables match incoming or outgoing messages for specific groups of users (Envelope Recipients, Envelope Sender, From: header, or Reply-To: header) and map them to specific settings for the following features:
・Anti-Spam Scanning ・・・(中略)・・・
・Anti-Virus Scanning ・・・(中略)・・・
・Content Filters ・・・(中略)・・・
・Virus Outbreak Filters ・・・(中略)・・・
Figure 7-3 illustrates the Email Security Manager in the GUI that maps users defined in a policy to specific Anti-Spam, Anti-Virus, Virus Outbreak Filter, and Content Filters settings.

」(169ページ)
(和訳:
ポリシーの内容
電子メールセキュリティマネージャテーブルは,着信又は発信メッセージをユーザの特定のグループ(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,From:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)にマッチさせ,次の機能に対する特定の設定にマッピングする:
・スパム対策スキャニング ・・・(中略)・・・
・ウイルス対策スキャニング ・・・(中略)・・・
・コンテンツフィルタ ・・・(中略)・・・
・ウイルスアウトブレイクフィルタ ・・・(中略)・・・
図7-3は,ポリシーにおいて定義されるユーザを,スパム対策,ウイルス対策,ウイルスアウトブレイクフィルタ,コンテンツフィルタの特定の設定にマッピングする,GUIにおける電子メールセキュリティマネージャを示す。
図7-3 GUIにおける電子メールセキュリティマネージャポリシーの要約
(図略))

(ケ) 「CONTENT FILTERS OVERVIEW
Email Security Manager policies allow you to create content filters to be applied to messages on a per-recipient or per-sender basis. Content filters are similar to message filters, except that they are applied later in the email pipeline - after a message has been “splintered” into a number of separate messages for each matching Email Security Manager policy. The functionality of content filters is applied after message filters processing and anti-spam and anti-virus scanning have been performed on a message.

・・・(中略)・・・

Content Filter Conditions
Specifying conditions in content filters is optional.
Multiple conditions may defined for each filter. When multiple conditions are defined, you can choose whether the conditions are tied together as a logical OR ("Any of the following conditions...") or a logical AND ("All of the following conditions").


・・・(中略)・・・

Content Filter Actions
At least one action must be defined for each content filter.
Actions are performed in order on messages, so take care when defining multiple actions for a content filter.
Only one final action may be defined per filter, and the final action must be last action listed.
Bounce, deliver, and drop are final actions. When entering actions for content filters, the GUI and CLI will force final actions to be placed last.

」(170?176ページ)
(和訳:
コンテンツフィルタの概要
電子メールセキュリティマネージャポリシーにより,ユーザは,受信者又は送信者単位でメッセージに適用されるコンテンツフィルタを作成する。コンテンツフィルタは,電子メールパイプラインにおいて後に -メッセージが,マッチする各電子メールセキュリティマネージャポリシーに対して,複数の別々のメッセージに「分割」された後に,適用されるということを除いては,メッセージフィルタに類似している。コンテンツフィルタの機能は,メッセージフィルタの処理,スパム対策及びウイルス対策のスキャニングが,メッセージに実行された後に,適用される。

・・・(中略)・・・

コンテンツフィルタの条件
コンテンツフィルタにおける条件を指定することは,任意である。
複数の条件を各フィルタに対して定義してもよい。複数の条件が定義される場合,ユーザは,それらの条件を論理OR(「次の条件・・・のいずれか」)として結合させるか,又は,論理AND(「次の条件のすべて」)として結合させるかを選択することができる。
表7-2 コンテンツフィルタの条件
(表略)

・・・(中略)・・・

コンテンツフィルタアクション
各コンテンツフィルタに対して,少なくとも1つのアクションを定義しなければならない。
アクションは,メッセージに対して順に実行されるため,複数のアクションをコンテンツフィルタに対して定義する場合,注意が必要である。
最終アクションは,フィルタごとに1つのみ定義してもよく,最終アクションは,リストアップされた最後のアクションでなければならない。バウンス,配信,ドロップは,最終アクションである。コンテンツフィルタに対してアクションを入力する場合,GUI及びCLIは,最終アクションを強制的に最後に配置するであろう。
表7-3 コンテンツフィルタの非最終アクション
(表略)
表7-4 コンテンツフィルタの最終アクション
(表略))

表7-2の記載によれば,コンテンツフィルタの条件には,エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),(エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)がある。

表7-3の記載によれば,コンテンツフィルタの非最終アクションには,隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる),通知(このメッセージを他の受信者へ通知する)がある。

表7-4の記載によれば,コンテンツフィルタの最終アクションには,配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する),バウンス(メッセージを送信者に送り返す)がある。

(コ) 「QUARANTINES OVERVIEW
As messages are processed by the IronPort appliance, various actions are applied. Filters are applied to messages, messages are scanned for spam or viruses, and the Virus Outbreak Filters feature scans messages. Any of these actions can cause a message to be quarantined, depending on your settings.」(366ページ)
(和訳:
隔離の概要
メッセージがIronPort機器により処理されるときに,様々なアクションが適用される。フィルタがメッセージに適用され,メッセージがスパム又はウイルスのスキャンをされ,そして,ウイルスアウトブレイクフィルタ機能がメッセージをスキャンする。これらのアクションのいずれも,ユーザの設定に応じて,メッセージを隔離することができる。)

(サ) 「Retention Time
Retention Time is the length of time messages are kept in a quarantine. The Default Action (see "Default Action" on page 369) is performed on any message in the quarantine once that retention time is reached. Each message has its own specific expiration time, displayed in the quarantine listing.

・・・(中略)・・・

Default Action

・・・(中略)・・・

There are two Default Actions:
・Delete - the message is deleted.
・Release - the message is released for delivery. ・・・(後略) 」(369,370ページ)
(和訳:
保持時間
保持時間は,メッセージが隔離に保持される期間である。デフォルトアクション(369ページの「デフォルトアクション」を参照。)は,その保持時間に達すると,隔離内のすべてのメッセージに実行される。各メッセージは,固有の有効時間を有し,隔離リストに表示される。

・・・(中略)・・・

デフォルトアクション

・・・(中略)・・・

2つのデフォルトアクションがある:
・削除-メッセージは削除される。
・リリース-メッセージは,配信のためにリリースされる。 ・・・(後略) )

カ 甲20発明

上記オ(ア)?(サ)の記載から,甲第20号証には,次の発明(以下,「甲20発明」という。)が記載されていると認められる。

「 IronPort機器は,企業ネットワーク環境において,グループウェアのクライアントである端末と,企業ネットワーク環境の外部のインターネットとの間に配置されるものであって,
電子メールパイプラインは,電子メールがIronPort機器により処理されるときに従うプロセス又はフローであって,電子メールパイプラインのルーティング及び配信機能には,ワークキューが含まれており,
ワークキューは,受信されるメッセージが,配信段階へ進む前に処理されるところであって,処理は,スパム対策及びウイルス対策のスキャニング,ウイルスアウトブレイクフィルタ,隔離を含み,
電子メールセキュリティマネージャは,スパム対策,ウイルス対策,コンテンツフィルタ,ウイルスアウトブレイクフィルタを含み,
電子メールセキュリティマネージャにより,ユーザは,電子メールコンテンツポリシーを,着信と発信とで異なるポリシーにより,受信者又は送信者単位で管理し,
メールポリシーは,次の機能(・コンテンツフィルタ)に対する特定の設定にマッピングされる,ユーザの特定のセット(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,from:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)として定義され,
(ポリシーにマッチすることによる)インテリジェントなメッセージ分割は,異なる受信者ベースのポリシーを,複数の受信者を有するメッセージに個別に適用することを可能にするメカニズムであり,
各受信者は,トップダウンの方法で,適切な電子メールセキュリティマネージャテーブル(着信又は発信)における各ポリシーに関して評価され,
メッセージにマッチする各ポリシーは,それらの受信者を有する新たなメッセージを作成し,このプロセスは,メッセージ分割として定義されるものであって,
・異なるポリシーにマッチする受信者がいる場合,受信者は,マッチしたポリシーに従ってグループ化され,メッセージは,マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割され,そして,受信者は,各適切な「分割されたメッセージ」に設定され,
・分割された各メッセージは,電子メールパイプラインにおいて,コンテンツフィルタにより処理され,
電子メールセキュリティマネージャテーブルは,着信又は発信メッセージをユーザの特定のグループ(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,From:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)にマッチさせ,次の機能(・コンテンツフィルタ)に対する特定の設定にマッピングし,

コンテンツフィルタにおける条件を指定することは,任意であり,
複数の条件を各フィルタに対して定義してもよく,複数の条件が定義される場合,ユーザは,それらの条件を論理OR(「次の条件・・・のいずれか」)として結合させるか,又は,論理AND(「次の条件のすべて」)として結合させるかを選択することができ,
コンテンツフィルタの条件には,エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)があり,
各コンテンツフィルタに対して,少なくとも1つのアクションを定義しなければならず,
アクションは,メッセージに対して順に実行されるため,複数のアクションをコンテンツフィルタに対して定義する場合,注意が必要であり,
最終アクションは,フィルタごとに1つのみ定義してもよく,
コンテンツフィルタの非最終アクションには,隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる),通知(このメッセージを他の受信者へ通知する)があり,
コンテンツフィルタの最終アクションには,配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する),バウンス(メッセージを送信者に送り返す)があり,

メッセージがIronPort機器により処理されるときに,フィルタがメッセージに適用され,ユーザの設定に応じて,メッセージを隔離させることができ,
保持時間は,メッセージが隔離に保持される期間であり,デフォルトアクションは,その保持時間に達すると,隔離内のすべてのメッセージに実行されるものであって,2つのデフォルトアクションがあり,
・削除-メッセージは削除され,
・リリース-メッセージは,配信のためにリリースされる,
IronPort機器。」

なお,上記甲20発明は,令和元年10月15日付け審理事項通知書の「暫定的な見解」(「2.甲第20号証」を参照。)における甲20発明から,以下の変更をした。

・用語の和訳の変更(例えば,「flow」の和訳を,「流れ」から「フロー」に,「splintering」の和訳を,「分裂」から「分割」に変更した。)
・甲20発明の認定が,より甲第20号証の記載のとおりになるような変更(例えば,「ワークキューは,受信されるメッセージが,配信段階へ進む前に処理されるところであって,電子メールセキュリティマネージャ等を含み,」を,「ワークキューは,受信されるメッセージが,配信段階へ進む前に処理されるところであって,処理は,スパム対策及びウイルス対策のスキャニング,ウイルスアウトブレイクフィルタ,隔離を含み,電子メールセキュリティマネージャは,スパム対策,ウイルス対策,コンテンツフィルタ,ウイルスアウトブレイクフィルタを含み,」とする変更をした。)

(2) 請求人主張の周知技術及び技術常識について

ア 電子メールを個々の送信先に分割することの周知性について

請求人は,上記第4の1(2)イ(イ)に記載したように,電子メールを個々の送信先に分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証などに開示されているように周知技術である旨主張している(審判請求書99頁6行?111頁下から4行)ので,その周知性について,以下で検討する。

(ア) 甲第21号証

甲第21号証(特開2004-207785号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 請求項1
「【請求項1】
第1の情報処理装置から受信した電子メールを当該電子メールのメールヘッダに設定されたアドレスで特定される複数の第2の情報処理装置に送信する電子メール送信方法であって,
前記メールヘッダに設定された複数のアドレスを個々のアドレスに分割するアドレス分割工程と,
前記電子メールを前記アドレス分割工程で分割されたアドレスの個数分だけ複製するメール複製工程と,
前記メール複製工程で複製された個々の電子メールの「Toヘッダ」に設定されたアドレスを,前記アドレス分割工程で分割された個々のアドレスに置換するアドレス置換工程と,
前記アドレス置換工程でアドレスを置換された電子メールを,前記第2の情報処理装置のうち置換後のそれぞれのアドレスで特定されるものに対して送信するメール送信工程と,
を含んだことを特徴とする電子メール送信方法。」

b 段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,第1の情報処理装置から受信した電子メールをそのメールヘッダに設定されたアドレスで特定される複数の第2の情報処理装置に送信する電子メール送信方法,電子メール送信プログラムおよび電子メール送信装置に関する。」

c 段落【0004】?【0008】
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そしてこうした初心者の参入に伴い,従来はもっぱらユーザの自己責任や自己管理に委ねられていた様々な問題,特にセキュリティ関連の対策を個々のユーザに期待することが難しくなってきている。そうした問題の一つに,受信者間でのメールアドレスの漏洩がある。
【0005】
すなわち,まったくの初心者であるとメールヘッダの「To:」と「Cc:」と「Bcc:」の区別もつかないため,複数人に宛ててメールを送信しようとして,各人のアドレスを「Toヘッダ」に列記してしまうことがある。また,ヘッダの区別はついていても不注意などからそうしてしまうこともある。この場合,受信者間で他の受信者のアドレスが相互に漏洩するのは避けられない。
【0006】
こうした漏洩を防ぐため,ユーザへの教育を徹底するのも一つの方策であるが,必ずしも成果があるとは言えず万全でない場合が多い。
【0007】
また,複数の宛先を持つ一つの電子メールを,一つの宛先を持つ複数の電子メールに分割するソフトウエアも存在するが(たとえば上記非特許文献1などを参照。),アドレスの漏洩が発生することやその防止の必要性さえ認識していなければ,こうしたソフトウエアを導入することもないので,初心者には有効な対策を期待することができない。
【0008】
この発明は上記従来技術による問題を解決するため,電子メールの受信者間で発生するアドレスの漏洩を確実に防止するとともに,漏洩しても差し支えない受信者間ではアドレスを公開することが可能な電子メール送信方法,電子メール送信プログラムおよび電子メール送信装置を提供することを目的とする。」

d 段落【0014】?【0019】
「【0014】
(実施の形態1)
図1は,この発明の実施の形態1にかかる電子メール送信装置を含む,電子メールシステムの全体構成を示す説明図である。
【0015】
図中,100はインターネットに設置されたメールサーバ(SMTPサーバ)であり,これが本発明による電子メール送信装置に相当する。また,101a?dは電子メールの送受信が可能な各種機器,たとえばデスクトップPCやノートPC,携帯電話などであって(以下ではこれら機器を「メール端末」と総称する),図示しないISPのアクセスポイントなどを介してインターネットに接続されている。
【0016】
ここではたとえば,メール端末101aのユーザAが,メール端末101bのユーザB,メール端末101cのユーザCおよびメール端末101dのユーザDに宛ててメールを送信するものとする。
【0017】
ユーザAは,送信したいメールの「Toヘッダ」にB・CおよびDのメールアドレスを設定し,当該メールをメール端末101aからメールサーバ100に送信する(図中▲1▼)。なお,図中「BBB@○○○.ne.jp」はユーザBのアドレス,「CCC@△△△.ne.jp」はユーザCのアドレス,「DDD@×××.ne.jp」はユーザDのアドレスであるものとする。
【0018】
そして従来技術のメールサーバでは,受信したメールをそのまま各宛先へ送信するだけであったが,本発明によるメールサーバ100では,受信したメールを宛先ごとに複製し,複製した各メールの「Toヘッダ」を個々の宛先のみに差し替える。
【0019】
すなわち図示するように,B・C・Dの3つのアドレスが設定されたメールを3つ複製し,1通目のメールでは「Toヘッダ」をBのアドレスのみ,2通目のメールではCのアドレスのみ,3通目のメールではDのアドレスのみに,それぞれ差し替える(図中▲2▼)。そして1通目をメール端末101b,2通目をメール端末101c,3通目をメール端末101dに,それぞれ送信する(図中▲3▼)。その結果各端末が受信するメールには,他の受信者のアドレスが一切含まれず,受信者間でのアドレスの漏洩を防止することができる。」

e 段落【0035】?【0042】
「【0035】
つぎに,図4はこの発明の実施の形態1にかかる電子メール送信装置,すなわちメールサーバ100における電子メール送信処理の手順を示すフローチャートである。ここでは図1のケース,すなわちメール端末101aのユーザAがメール端末101b・c・dのユーザB・C・Dに宛ててメールを送信する例で説明する。
【0036】
メールサーバ100のメール受信部300が,メール端末101aから電子メールを受信すると(ステップS401:Yes),当該メールを引き渡されたアドレス分割部301が,その「Toヘッダ」・「Ccヘッダ」および「Bccヘッダ」に設定されている個々のアドレスを切り出す(ステップS402)。
【0037】
そしてヘッダ内のアドレスが1個のみであった場合は(ステップS403:Yes),メール受信部300が受信したメールはアドレス分割部301を経てメール送信部304に引き渡され,そのまま上記アドレスで特定される宛先に向けて発信される(ステップS404)。
【0038】
一方,ヘッダ内のアドレスが2個以上であった場合は(ステップS403:No),アドレス分割部301は上記メールと,当該メールに設定されたアドレスの個数とをメール複製部302に,分割後の個々のアドレスをアドレス置換部303に,それぞれ出力する。そしてメール複製部302では,当該メールを当該個数分,上記例では3個だけ複製して(ステップS405),アドレス置換部303に出力する。
【0039】
またアドレス置換部303では,これら3通のメールのうち1通については,その「Toヘッダ」内のアドレスをアドレス分割部301から入力したユーザBのアドレス(BBB@○○○.ne.jp)で差し替える。同様に,もう1通ではユーザCのアドレス(CCC@△△△.ne.jp),残りの1通ではユーザDのアドレス(DDD@×××.ne.jp)に,それぞれ置換する(ステップS406)。
【0040】
そして,ヘッダ置換後の3通のメールはアドレス置換部303からメール送信部304に引き渡され,それぞれのアドレスで特定される宛先に向けて送信される(ステップS404)。
【0041】
以上説明した実施の形態1によれば,ユーザAがユーザB・C・Dの3者に対してメールを送ろうとして,ヘッダ内に全員のアドレスを列記してしまった場合でも,メールサーバ100により当該メールは宛先ごとに分割されるので,受信者間でのアドレスの漏洩が発生しない。
【0042】
なお,上記は「Toヘッダ」に複数のアドレスが列記されていた例であるが,たとえば「Toヘッダ」にBのアドレス,「Ccヘッダ」にCとDのアドレスが設定されていた場合にも,当該メールはヘッダ内のアドレスの個数分,すなわち3つに複製されて,各メールの「Toヘッダ」にそれぞれB・C・Dのアドレスが設定される。」

f 甲第21号証記載技術

上記a?eより,甲第21号証には,受信者間でのアドレスの漏洩を防止するため,複数のアドレスがヘッダに列記されたメールの送信前に,当該メールを宛先毎に分割して送信する技術が記載されていると認められる。

(イ) 甲第23号証

甲第23号証(特開2007-148984号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 請求項1
「【請求項1】
電子メールを受信してその電子メールを出力する,電子メールの中継を行う電子メールサーバであって,
前記受信した電子メールに含まれる宛先電子メールアドレスを格納するための領域から,当該領域に格納されている情報を読み出す読出手段と,
前記読出手段が読み出した情報から,前記受信した電子メールの遅延情報を抽出する抽出手段と,
前記抽出手段が抽出した遅延情報に基づいて,前記受信した電子メールの出力を遅延させる遅延手段と,を備え,
前記遅延手段が遅延させた後,前記受信した電子メールを出力可能とすることを特徴とする電子メールサーバ。」

b 請求項7
「【請求項7】
前記読出手段が読み出した情報に,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換する変換手段と,
前記複数の個別の宛先電子メールアドレスを複数のグループに分割する分割手段と,をさらに備え,
前記遅延手段は,前記分割手段が分割したグループ別に遅延させる,請求項1?6のいずれかに記載の電子メールサーバ。」

c 段落【0001】
「【0001】
本発明は,送信者の要求に従って,電子メールが宛先へ到達する時刻を遅らせるための技術に関する。」

d 段落【0004】?【0008】
「【0004】
特許文献1の技術では,電子メールを到達させる日時を指定したり,曜日を指定したりすることは可能であるが,発送した電子メールを一定の時間遅らせることはできない。
【0005】
例えば,特定のURL(Uniform Resource Locator)を記述した電子メールを多数の宛先に対して同報配信すると,この電子メールを受信したユーザが同時に指定されたURLへアクセスすると,そのURLのサーバへアクセスが集中し,システムダウンを引き起こす可能性がある。
【0006】
このような場合は,必ずしも誕生日などのように特定の日時に届いて欲しいわけではなく,一定の時間だけ電子メールの到達する時刻がずれればそれでよいので,わざわざ日時を指定するのは面倒である。
【0007】
また,電子メールの到達日時を送信者が指定するためには,何らかの専用ユーザインタフェースが必要である。
【0008】
そこで,本発明の目的は,通常の電子メールシステムと同様のインタフェースを用いて,送信者が所望する時間だけ,電子メールが宛先に到達する時間を遅延させることである。」

e 段落【0022】?【0024】
「【0022】
図1は,本実施形態に係る電子メールシステムの構成を示す図である。
【0023】
本システムは,電子メールの中継を行う電子メールサーバ1と,複数のユーザ端末2(2a,2b)とを備える。そして,電子メールサーバ1が,あるユーザ端末2(ここでは送信端末2a)から他のユーザ端末2(ここでは受信端末2b)へ送られる電子メールを中継する。なお,本実施形態では,電子メールサーバ1がユーザ端末2と直接電子メールの送受信を行うが,後述するように,電子メールサーバ1とユーザ端末2との間に,他のメールサーバ等が介在していてもよい(図4参照)。
【0024】
電子メールサーバ1及びユーザ端末2は,いずれも例えば汎用的なコンピュータシステムにより構成され,以下に説明するサーバ1及び端末2内の個々の構成要素または機能は,例えば,コンピュータプログラムを実行することにより実現される。」

f 段落【0030】?【0036】
「【0030】
図3は,宛先電子メールアドレスの入力領域110に入力可能な宛先指定の態様を示す。

・・・(中略)・・・

【0036】
(d)は,メーリングリストのアドレス241に対して,遅延情報242及び分割数指定243を付加したものである。分割数指定243とは,メーリングリストに属する複数の個別の電子メールアドレスを複数のグループに分割し,グループごとに異なる遅延時間とするときの分割数を示す。」

g 段落【0047】?【0060】
「【0047】
再び図1を参照し,送信端末2から電子メール50が送信されたときの電子メールサーバ1での処理について説明する。
【0048】
電子メールサーバ1は,電子メール50を受信する受信部11と,受信した電子メール50を出力するまでの時間を遅延させるか否かを判定する遅延判定部12と,電子メール50の宛先にメーリングリストのアドレスが指定されているときに所定の処理を行うメーリングリスト処理部13と,遅延時間をカウントするタイマ14と,遅延させている間に待機中の電子メール50を記憶する記憶領域である待機ボックス15と,出力可能となった電子メール50を記憶する記憶領域である配信ボックス16とを備える。
【0049】
受信部11は,送信端末2aが送信した電子メール50を受信する。
【0050】
遅延判定部12は,受信部11が受信した電子メール50の出力を遅延させるか否かを判定する。例えば,遅延判定部12は,電子メール50に含まれる宛先電子メールアドレスの格納領域51に格納されている情報を読み出す。そして,読み出した情報にメーリングリストのアドレスが含まれている場合(図3(d)),メーリングリスト処理部13に通知する。また,読み出した情報に遅延情報が含まれているときには,遅延判定部12はこれを抽出する(図3(b)(c)の場合)。そして,抽出した遅延情報に指定された遅延条件に従って,遅延時間を設定し,その遅延時間をタイマ14へ通知するとともに,電子メール50を待機ボックス15に格納する。一方,読み出した情報に遅延情報が含まれていないときは,遅延判定部12は,電子メール50を直ちに配信ボックス16に格納する(図3(a)の場合)。
【0051】
なお,遅延判定部12は,図3(c)の態様の場合,電子メール50を待機ボックス15に格納する際に,実質的なメールアドレス231を正しい表記に変換し(図3(c)の場合"¥"を"@"に置換),形式的な電子メールアドレス230と置換する。
【0052】
さらに,遅延判定部12は,待機ボックス15において待機中の電子メール50に対する取消要求を受け付けたときは,その電子メール50を待機ボックス15から削除して,取り消す機能を備えていてもよい。この場合,取消要求は,例えば,同一の宛先電子メールアドレスに対する,同一タイトルの電子メールであって,遅延情報の代わりに所定の取消要求を示す情報(例えば¥¥など)が付されているようなものでよい。
【0053】
タイマ14は,遅延判定部12から遅延時間の通知を受けると,経過時間をカウントする。そして,カウントした時間が通知された遅延時間を過ぎると,対象の電子メール50を配信ボックス16へ移動させる。
【0054】
待機ボックス15には,配送を遅延させるために待機中の電子メール50が格納される。
【0055】
配信ボックス16には,遅延させる必要がない電子メール50及び遅延時間が経過し,配送可能となった電子メール50が格納される。また,配信ボックス16は,宛先電子メールアドレスごと分かれていて,ユーザ端末2(受信端末2b)は自らと対応付けられている電子メールアドレスの配信ボックス16に格納されている電子メール50を取得可能である。従って,配信ボックス16には,配送可能となった電子メール50,つまり電子メールサーバ1からの出力可能となった電子メール50が格納される。
【0056】
メーリングリスト処理部13は,メーリングリストアドレスと,各メーリングリストに属する複数の個別の電子メールアドレスとを対応付けて記憶している。そして,遅延判定部12からメーリングリストアドレスの通知を受けると,メーリングリスト処理部13は,そのメーリングリストアドレスを個別の電子メールアドレスに変換する。そして,分割数指定243が設定されているときは,メーリングリスト処理部13は,複数の個別の電子メールアドレスを,指定された数のグループに分割する。
【0057】
なお,メーリングリストアドレスが設定されているときも,遅延判定部12が遅延時間を決定する。つまり,遅延情報242で遅延時間帯が指定されているときは,遅延判定部12が,上記グルーピングにより分割されたグループごとに,異なる遅延時間となるように各グループの遅延時間を決定する。
【0058】
図6は,メーリングリスト処理部13によるグルーピングの例を示す図である。
【0059】
同図(a)は,メーリングリストに属する個別電子メールアドレスうち,同一ドメインのメールアドレスが異なるグループになるように分割する。そして,遅延判定部12が,指定された遅延時間帯の中で,グループ1の宛先電子メールアドレスに対して送信する時刻と,グループ2の宛先電子メールアドレスに対して送信する時刻とが異なる時刻になるように定める。これにより,同一ドメインに対して集中させることなく,異なるタイミングで電子メール50を送ることができる。
【0060】
一方,同図(b)は,メーリングリストに属する個別電子メールアドレスの中で,同一ドメインのメールアドレスが同一グループになるように分割する。そして,同様に,遅延判定部12がグループ1とグループ2の送信タイミングが異なる時刻になるように定める。これにより,ドメイン別に異なるタイミングで電子メール50を送ることができる。」

h 段落【0071】?【0078】
「【0071】
次に,図8は,メーリングリスト処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。図7のステップS18のメーリングリスト処理について,図8を参照して説明する。
【0072】
宛先電子メールアドレスがメーリングリストアドレスであるときは,まず,メーリングリスト処理部13が,メーリングリストアドレスを個別の宛先電子メールアドレスに変換する(S21)。
【0073】
そして,メーリングリスト処理部13は,遅延情報が付加されているか否かを判定し,遅延情報が付加されていないときは(S22:No),各個別の宛先電子メールアドレスに対応する配信ボックス16へ電子メール50を移動する(S28)。この時点で,各個別の宛先電子メールアドレスに対応する受信端末2bへ電子メール50の送信が可能となる。
【0074】
一方,遅延情報が付加されているときは(S22:Yes),メーリングリスト処理部13は,分割数指定に従って,複数の個別の宛先電子メールアドレスを指定された数のグループに分割する(S23)。このとき,電子メール50は待機ボックス15に格納される(S24)。
【0075】
そして,遅延判定部12が,遅延情報に基づいてグループごとに定まる遅延時間を決定すると,タイマ14が各経過時間をカウントする(S25)。
【0076】
タイマ14が経過時間をカウントし,あるグループについて遅延時間が経過すると(S25:Yes),電子メール50がそのグループの宛先電子メールアドレスの配信ボックス16に移動する(S26)。これにより,そのグループの宛先電子メールアドレスに対して,電子メール50を送信可能となる。
【0077】
すべてのグループが終了するまでステップS25,S26を繰り返すことにより,グループ別に時間差で電子メール50を送信することができるようになる(S27)。
【0078】
これにより,メーリングリストなどのように,複数の宛先に対して同報送信する場合,送信者の指示に従って,複数のグループに分割し,時間差送信することができる。
上述した本発明の実施形態は,本発明の説明のための例示であり,本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は,本発明の要旨を逸脱することなしに,他の様々な態様で本発明を実施することができる。」

i 甲第23号証記載技術

上記a?hより,甲第23号証には,電子メールが宛先に到達する時間を,グループ別に異なるようにするために,送信端末であるユーザ端末から電子メールサーバに,分割数を示す情報を付加した電子メールを送信し,電子メールサーバにおいて,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(例えば,ドメインごとに)分割し,グループごとに定まる遅延時間が経過すると,グループごとに送信する技術が記載されていると認められる。

(ウ) 甲第24号証

甲第24号証(特開2007-267248号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 請求項1
「【請求項1】
送信先メールアドレスを含むエンベロープに基づいてメールデータを配送する電子メール配送システムであって,
前記エンベロープを受信し,第1の記憶手段に記憶するエンベロープ受信手段と,
当該エンベロープに対応するメールヘッダーを含むメールデータを受信し,第2の記憶手段に記憶するメールデータ受信手段と,
前記第1の記憶手段から前記エンベロープに含まれる送信先メールアドレスをそれぞれ取得するメールアドレス取得手段と,
前記メールアドレス取得手段が取得した送信先メールアドレスの各々について,前記第2の記憶手段から読み出した前記メールデータのメールヘッダーから当該送信先メールアドレス以外の送信先メールアドレスを削除し,当該メールデータを第3の記憶手段に記憶するメールヘッダー加工手段と,
前記メールアドレス取得手段が取得した送信先メールアドレスの各々に対して個別に前記メールデータが配送されるように当該送信先メールアドレスを含むエンベロープを生成し,第4の記憶手段に記憶するエンベロープ生成手段と,
前記第4の記憶手段から前記エンベロープを読み出すとともに,前記第3の記憶手段から当該エンベロープに含まれる前記送信先メールアドレスに対応する前記メールデータを読み出し,当該エンベロープに基づいて当該メールデータを配送する配送手段と,
を有することを特徴とする電子メール配送システム。」

b 段落【0001】
「【0001】
本発明は,電子メールを受信して中継する技術に関する。」

c 段落【0008】
「【0008】
本発明は,上記に鑑みてなされたものであり,その課題とするところは,他者のメールアドレスが漏洩しないように,容易に,同報メールを送信することにある。」

d 段落【0019】?【0056】
「【0019】
図1は,本実施の形態における電子メール配送システムの構成を示すブロック図である。同図に示す電子メール配送システム1は,受信部2,暗号処理部3,配送処理部4および送信部5を備えている。また,暗号処理部3は,暗号化判断部31,暗号化部32およびパスワード通知部33で構成され,配送処理部4は,個別送信判断部41,個別送信部42および設定記憶部43で構成されている。なお,電子メール配送システム1は,基本的にはコンピュータで構成されるものであり,各部の処理はプログラムによって実行される。以下,各部の処理の概略について説明する。
【0020】
受信部2は,クライアントとSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)により通信を行い,電子メールを受信する。SMTPは,電子メールの送信プロトコルとして知られており,送信元情報(MAIL FROM)や宛先情報(RCPT TO)などのエンベロープ情報がクライアントから送信され,続いて,メールヘッダーと本文を含むメールデータ(DATA)が送信される。SMTPでは,エンベロープ情報に含まれる宛先情報(RCPT TO)に従ってメールデータを配送する。クライアントと受信部2が一般的な電子メールの送信プロトコルであるSMTPにより通信をおこなうことで,利用者は通常使用しているメール送信ソフトを用いることができる。なお,受信部2は,受信したエンベロープ情報とメールデータを暗号化判断部31に出力する。
【0021】
暗号化判断部31は,受信部2から入力されたエンベロープ情報とメールデータに基づいて電子メールに添付されたファイルを暗号化するか否か判断する。添付ファイルは,BASE64などを用いてテキストデータにエンコードされ,メールデータの本文に含まれている。添付ファイルを暗号化する場合は,エンベロープ情報とメールデータを暗号化部32に出力し,暗号化しない場合は,エンベロープ情報とメールデータを個別送信判断部41に出力する。なお,電子メールにファイルが添付されていない場合には,暗号化する対象がないので,エンベロープ情報とメールデータを個別送信判断部41に出力する。
【0022】
また,添付ファイルを暗号化するか否かの判断は,例えば,メールヘッダーに所定のフィールドが含まれている場合,あるいは,あらかじめ定めたダミーのメールアドレスが宛先情報(RCPT TO)に含まれている場合は,暗号化しないとして判断することができる。このように,メールヘッダーやダミーのメールアドレスを用いて暗号化を判断することによって,利用者は送信する電子メール毎に,添付ファイルの暗号化するか否かを制御することができる。
【0023】
暗号化部32は,電子メールの添付ファイルを暗号化し,エンベロープ情報と暗号化された添付ファイルを含むメールデータを個別送信判断部41に出力する。さらに,暗号を解読するためのパスワードとエンベロープ情報をパスワード通知部33に出力する。
【0024】
パスワード通知部33は,暗号化された添付ファイルを解読するのに必要なパスワードを電子メール送信元および配送先にパスワード通知メールとして送信する。パスワード通知メールは,エンベロープ情報の送信元(MAIL FROM)と宛先情報(RCPT TO)に記載されているメールアドレスに対して個別に送信される。
【0025】
個別送信判断部41は,受信した電子メールに個別送信処理を施すか否かを判断する。個別送信処理をするか否かの判断は,例えば,メールヘッダーに所定のフィールドが含まれているか,あるいは,あらかじめ定めたダミーのメールアドレスが宛先情報(RCPT TO)に含まれているかなどによって判断する。したがって,電子メールの送信者は,送信する電子メールに所定のフィールドを追加したり,ダミーのメールアドレスをBccフィールドなどに追加することによって,送信する電子メール毎に個別送信処理するか否かを制御することができる。
【0026】
個別送信処理をする場合は,エンベロープ情報およびメールデータを個別送信部42に出力する。また,個別送信処理をしない場合は,受信した電子メールのエンベロープ情報およびメールデータを送信部5に出力し,送信部5により,受信した電子メールを上位のメールサーバに送信する。
【0027】
個別送信部42は,入力されたエンベロープ情報およびメールデータを個別送信部42の有するメモリに記憶する。そして,エンベロープ情報に含まれる宛先情報(RCPT TO)からメールアドレスを1つづつ分割して取得し,取得したメールアドレス以外のメールアドレスがメールヘッダーのToフィールドやCcフィールドに含まれているときは,そのメールアドレスをメールヘッダーから削除し,メモリに記憶する。さらに,取得したメールアドレスのみを宛先情報(RCPT TO)として含むエンベロープ情報を生成し,メモリに記憶する。そして,メールヘッダーを加工したメールデータと生成したエンベロープ情報をメモリから読み出し送信部5に出力する。
【0028】
設定記憶部43は,メールヘッダーを加工せずにメールデータを配送する加工対象外メールアドレスとメールヘッダーからメールアドレスを削除しない削除対象外メールアドレスを記憶する。加工対象外メールアドレスと削除対象外メールアドレスは,ドメインを指定することにより一括して指定することもできる。例えば,自社の社員全員のメールアドレスのメールアドレスを登録する場合は,設定記憶部43に自社のドメインを指定しておく。個別送信部42は,設定記憶部43を参照して加工対象外メールアドレスおよび削除対象外メールアドレスを取得する。エンベローブ情報から取得したメールアドレスが加工対象外メールアドレスに該当する場合は,メールデータのメールヘッダーを加工せずにメールデータを配送する。また,個別送信部42がメールヘッダーから送信先メールアドレスを削除しようとする場合に,削除しようとする送信先メールアドレスが削除対象外メールアドレスに該当するときは,その送信先メールアドレスをメールヘッダーから削除しない。本実施の形態においては,加工対象外メールアトレスと削除対象外メールアドレスを対象外メールアドレスとして同一のものを記憶しているが,これに限るものではなく,加工対象外メールアドレスと削除対象外メールアドレスを別々に設定してもよい。これにより,取り扱いに注意を払わなくてもよいメールアドレスに関しては,メールヘッダーを加工したり,メールヘッダーから削除することがないので,電子メールの受信者は,どの関係者に同一の電子メールが送信されたのかメールヘッダーから判断することができ,利便性を損なうことがない。
【0029】
送信部5は,個別送信部42,個別送信判断部41およびパスワード通知部33から入力されたエンベロープ情報とメールデータに従って上位のメールサーバ(MTA:Mail Transfer Agent)に電子メールを送信する。なお,送信部5とメールサーバとの間はSMTPにより通信が行われる。
【0030】
次に,個別送信部42の詳細について図を用いて説明する。図2は,個別送信部42の構成を示すブロック図である。個別送信部42は,エンベロープ入力部421,メールデータ入力部422,メールアドレス取得部423,メールヘッダー加工部424およびエンベロープ生成部425により構成される。
【0031】
個別送信判断部41において個別送信処理対象となった電子メールのエンベロープ情報とメールデータはそれぞれエンベロープ入力部421とメールデータ入力部422に入力され,それぞれの有するメモリに記憶される。
【0032】
メールアドレス取得部423は,エンベロープ入力部421のメモリに記憶されているエンベロープ情報に含まれる宛先情報(RCPT TO)から1つづつメールアドレスを取得し,メールヘッダー加工部424とエンベロープ生成部425に出力する。以下のメールヘッダー加工部424とエンベロープ生成部425の処理は,メールアドレス取得部423が取得したメールアドレス各々について個別になされるものである。
【0033】
メールヘッダー加工部424は,メールデータ入力部422からメールデータを読み出し,メールデータに含まれるメールヘッダーのToフィールドおよびCcフィールドからメールアドレス取得部423が取得したメールアドレス以外の不要なメールアドレスを削除し,メールヘッダー加工部424の有するメモリに記憶する。
【0034】
エンベロープ生成部425は,メールアドレス取得部423が取得したメールアドレスにメールデータが配送されるようにエンベロープ情報を生成し,エンベロープ生成部425の有するメモリに記憶する。
【0035】
送信部5は,エンベロープ生成部425からエンベロープ情報を読み出すとともに,メールヘッダー加工部424から読み出したエンベロープ情報に対応するメールデータを読み出し,上位のメールサーバへ配送する。これにより,電子メール受信者が受信する電子メールのメールヘッダーからは,送信先メールアドレス以外のメールアドレスが削除されているので,他者のメールアドレスの漏洩を防ぐことができる。
【0036】
また,メールアドレス取得部423は,設定記憶部43を参照して対象外メールアドレスを取得し,メールヘッダー加工部424においてメールヘッダーから削除しないようにする。なお,宛先情報(RCPT TO)に対象外メールアドレスが複数存在する場合は,その対象外メールアドレス各々に対してエンベロープ情報を個別に生成せずに,その対象外メールアドレス全部を含んだエンベロープ情報を生成して一括して送信する。これにより,電子メールを配信する際のサーバの負荷を軽減することができる。
【0037】
図3は,本実施の形態における電子メール配送システム1の処理手順を示すフローチャートである。
【0038】
クライアントから送信された電子メールは,受信部2において受信される(S31)。受信した電子メールにファイルが添付されている場合には,その添付ファイルを暗号化するか否か判断する(S32)。ファイルが添付されていない場合は,S35へ進んで個別送信処理を行う。ファイルが添付されている場合であっても,メールヘッダーに所定のフィールドが含まれている場合や,所定のダミーアドレスが配送先に含まれている場合は,添付ファイルを暗号化せずにS35へ進む。
【0039】
添付ファイルは,暗号化部32において暗号化され(S33),暗号を解読するためのパスワードをすべての配送先に対して個別にパスワード通知メールとして送信する(S34)。
【0040】
続いて,個別送信判断部41において,個別送信処理を行うか否かを判断する(S35)。個別送信処理を行うか否かの判断は,メールヘッダーに所定のフィールドが含まれているか否か,あるいは,所定のダミーアドレスが配送先に含まれているか否かによって判断される。個別送信処理を行わない場合は,S37へ進み,受信したエンベロープ情報に基づいてメールデータを上位のメールサーバに配信する。
【0041】
個別送信処理を行う場合は,個別送信部42においてエンベロープ情報に含まれる宛先情報(RCPT TO)の送信先メールアドレス毎にメールデータを複製し,複製したメールデータのメールヘッダーのToフィールドおよびCcフィールドからその送信先メールアドレス以外のメールアドレスを削除し送信先メールアドレスにメールデータが配送するためのエンベロープ情報を生成する(S36)。送信部5は,送信先メールアドレス毎に生成したエンベロープ情報に基づいてメールデータを配送する(S37)。
【0042】
次に,個別送信処理についてフローチャートを用いて詳説する。図4は,本実施の形態における電子メール配送システム1の個別送信処理を示すフローチャートである。
【0043】
個別送信処理を施す電子メールのエンベロープ情報とメールデータはそれぞれエンベロープ入力部421とメールデータ入力部422に入力される。そして,メールアドレス取得部423により,エンベロープ情報の宛先情報(RCPT TO)に含まれるメールアドレスが1つづつ取得される(S41)。
【0044】
取得したメールアドレスが個別送信処理対象であるか否かを設定記憶部43を参照して判断する(S42)。取得したメールアドレスが個別送信処理対象外のメールアドレスであった場合は,そのメールアドレスをエンベロープ生成部425などに記憶しておき(S45),次のメールアドレスを取得するためにS46へ進む。
【0045】
取得したメールアドレスが個別送信処理対象であった場合は,メールヘッダー加工部424により,メールデータ入力部422からメールデータを取得して,メールヘッダーのToフィールドおよびCcフィールドに含まれている他人のメールアドレス(取得したメールアドレス以外のメールアドレスであって対象外メールアドレスでないもの)を削除し(S43),エンベロープ生成部425により,取得したメールアドレスへ配送するための宛先情報(RCPT TO)を含むエンベロープ情報を生成する(S44)。
【0046】
エンベロープ情報に含まれる宛先情報(RCPT TO)のすべてのメールアドレスに対して上記の処理が終了していれば,S47へ進む。まだ処理すべきメールアドレスが残されているならば,次のメールアドレスを取得して処理するためにS41へ戻る(S46)。
【0047】
対象外メールアドレスに対しては一括して電子メールを送信するので,宛先情報(RCPT TO)に,S45の処理で記憶した対象外メールアドレスのすべてを含んだエンベロープ情報を生成する(S47)。なお,対象外メールアドレスに対しては,メールデータのメールヘッダーの加工をしないで送信する。
【0048】
以上の処理によって,メールヘッダーから他人のメールアドレスを削除したメールデータとそのメールデータを個別に配送するためのエンベロープ情報が送信先メールアドレス毎に生成されるので,送信部5により,上位メールサーバへ個別に電子メールを送信することができる。
【0049】
次に,本実施の形態における電子メール配送システム1が,エンベロープ情報を分割し,メールヘッダーを加工する様子を図を用いて説明する。
【0050】
図5(a)?(f)は,エンベロープ情報とメールヘッダーの一部を示す図である。各図の上段はエンベロープ情報を示しており,下段はメールヘッダーの一部を示している。エンベロープ情報には,送信元情報(MAIL FROM)と宛先情報(RCPT TO)が含まれており,その右側にそれぞれの値が示されている。また,各図下段には,メールヘッダーのうちFromフィールド,Toフィールド,CcフィールドおよびBccフィールドが示されており,各フィールドの右側には,各フィールドの値が示されている。
【0051】
図5(a)は,クライアントが同報メールを送信する際に作成したエンベロープ情報とメールヘッダーの一部を示している。同図に示すメールヘッダーによると,送信元は aaa@test.co.jp であり,送信先には taro@other.co.jp および jiro@other.co.jp, bbb@test.co.jpさらに saburo@test.co.jp, ccc@test.co.jp の5つの宛先が指定されている。エンベロープ情報は,送信元情報(MAIL FROM)が aaa@test.co.jp であり,宛先情報(RCPT TO)には上記5つのメールアドレスを含んでいる。
【0052】
図5(b)は,受信部2が受信したエンベロープ情報とメールヘッダーの一部を示している。Bccフィールドはクライアントが受信部2と通信を行う際に削除されるが,エンベロープ情報には,Bccフィールドに指定されていた saburo@other.co.jp および ccc@test.co.jp が含まれているので,これらのメールアドレスにもメールデータは配送される。個別送信部42は,図5(b)に示したエンベロープ情報とメールヘッダーに基づいて個別送信処理を行う。なお,設定記憶部43には,個別送信処理対象外のメールアドレスとして,ドメインが test.co.jp であるものが設定してあるものとする。以下,メールアドレス取得部423が1つづつメールアドレスを取得し,メールヘッダーを加工する様子を説明する。
【0053】
メールアドレス取得部423は,エンベロープ入力部421に入力された図5(b)の上段のエンベロープ情報から taro@other.co.jp のメールアドレスを取得する。メールヘッダー加工部424は,メールデータ入力部422に入力された図5(b)の下段の情報を含むメールデータを複製し,図5(b)の下段に示すメールヘッダーのToフィールドおよびCcフィールドからtaro@other.co.jp 以外のメールアドレスであって,ドメインが test.co.jp 以外のメールアドレスを削除する。このようにメールヘッダーを加工することによって,メールヘッダーは,図5(c)の下段に示すようなものとなる。図5(c)の下段に示すメールヘッダーは,図5(b)の下段に示すメールヘッダーのCcフィールドから jiro@other.co.jp を削除したものとなっている。なお,ccc@test.co.jp は,設定記憶部43に設定されている分割対象外のメールアドレスに該当するので,Ccフィールドから削除されず残されたままとなる。また,エンベロープ生成部425により,taro@other.co.jp へ配送するためのエンベロープ情報が生成され,生成されたエンベロープ情報は,図5(c)の上段に示すようになる。
【0054】
同様に,メールアドレス取得部423により,次のメールアドレス jiro@other.co.jp が取得され,図5(d)に示すようなエンベロープ情報およびメールヘッダーが生成される。図5(e)に示すエンベロープ情報およびメールヘッダーは,saburo@other.co.jp を取得して処理を行ったものである。
【0055】
図5(f)は,設定記憶部43で対象外メールアドレスとして設定されたメールアドレスに対して送信するためのエンベロープ情報とメールヘッダーである。対象外メールアドレスとして処理されるものは,bbb@test.co.jp と ccc@test.co.jp である。対象外メールアドレスに対しては,従来と同様に電子メールの送信を行うので,メールヘッダーは,図5(b)下段に示すものと同じであり,図5(f)上段の宛先情報(RCPT TO)は,図5(b)に示すものから個別送信処理を行ったメールアドレスを除いたものとなる。
【0056】
したがって,本実施の形態によれば,受信したエンベロープ情報から送信先メールアドレスを1つづつ取得するメールアドレス取得部423と,取得したメールアドレス以外の送信先メールアドレスをメールヘッダーから削除するメールヘッダー加工部424と,取得したメールアドレスにメールデータを配信するためのエンベロープ情報を生成するエンベロープ生成部425と,を備えることにより,エンベロープ情報に含まれている送信先メールアドレスの各々に個別にメールデータを送信することができるとともに,送信されるメールデータのメールヘッダーから配送先のメールアドレス以外の送信先メールアドレスを削除することができるので,他者のメールアドレスを漏洩せずに同報メールを送信することができる。」

e 甲第24号証記載技術

上記a?dより,甲第24号証には,同報メールを送信する際に,受信したエンベロープ情報から送信先メールアドレスを1つづつ取得し,取得したメールアドレス以外の送信先メールアドレスをメールヘッダーから削除するようメールヘッダーを加工してメールを送信することにより,エンベロープ情報に含まれている送信先メールアドレスの各々に個別にメールデータを送信することができ,他者のメールアドレスを漏洩せずに同報メールを送信することができる技術が記載されていると認められる。

(エ) 甲第25号証

甲第25号証(特開2007-156836号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 請求項1
「【請求項1】
発信側端末装置からメールサーバに対して送信した電子メールを複数のメールアドレスに対して送信する同報メールシステムであって,
発信側端末装置において,メールヘッダに同報送信識別子と複数の宛先アドレスを挿入する手段と,
前記で生成されたメールヘッダと本文とを有する電子メールを1通の電子メールとして前記メールサーバに対して送信する手段と,
メールサーバにおいて,前記電子メールを受信する手段と,
前記電子メールのメールヘッダの同報送信識別子に対応して挿入された複数の宛先アドレスを読み出す手段と,
前記で読み出した複数の宛先アドレス毎に新たなメールヘッダを生成して,前記電子メールの本文を組み合わせた個別電子メールを前記宛先アドレスのメールサーバに対して送信する手段と
からなる同報メールシステム。」

b 段落【0001】?【0009】
「【0001】
本発明は,発信側端末装置からメールサーバへのトラフィック低減が可能な同報メールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットのメールシステムを用いたメールマガジン等の同報メールが注目されている。この種の同報メールは,ファクシミリ等のような通信費や,郵送によるダイレクトメール等に必要な印刷費用,通信費用が不要であるため,安価に大量な相手に対して情報を送信できるという利点がある。
【0003】
ここで,インターネットによる電子メール配信では,バケツリレー方式でメールを転送している。たとえば,ユーザAの端末装置(パーソナルコンピュータ)からユーザBの携帯電話端末に対して電子メールを送信する場合,ユーザAの端末装置→ユーザAが所属する企業メールサーバ→携帯電話会社のキャリアメールサーバ→ユーザBの携帯電話端末と,複数のサーバを経由している。
【0004】
ここで,企業メールサーバ→キャリアメールサーバ間は大量のメールの送受信が行われることを前提としているために,大きな回線容量が確保され,高い処理能力が維持されているが,発信側の端末装置→企業メールサーバ間のトラフィックが問題となる場合が多かった。
【0005】
なお,同報メールシステムについての特許文献としては特開2005-190110号公報があるが,携帯電話端末における宛先アドレスのグルーピングに関するものに過ぎなかった。
【特許文献1】特開2005-190110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように,発信側のユーザAの端末装置から企業メールサーバ間でボトルネックが発生してしまうのが一般的であり,このボトルネックを解消しない限り,円滑な同報メール送信が実現しないことを本発明者が見いだした。
【0007】
すなわち,ユーザAが1通10KBの電子メールを10万通配信しようとすると,ユーザAから企業メールサーバへのデータ転送量は,1GB以上となり,莫大な転送量となってしまう。
【0008】
そのために,企業メールサーバが過負荷状態となってしまい,通常の企業外との電子メール業務や,企業内の電子メールによる連絡業務に支障を来す可能性もあった。
【0009】
本発明は,このような点に鑑みてなされたものであり,大量の電子メールをメールサーバに負荷をかけることなく送信可能な同報メールシステムを実現することを技術的課題とする。」

c 段落【0020】?【0031】
「【0020】
本発明の実施形態を図を用いて説明する。
(実施形態1)
図1は,本実施形態のシステム構成を示すブロック図である。
同図に示すように,本システムはネットワーク(NW)5を介して接続されたメールサーバ1,発信側端末装置2,受信側端末装置(携帯電話端末)3,基地局4等で構成されている。
【0021】
メールサーバ1は汎用の情報処理装置であり,図2に示すように,バスを中心に,中央処理装置12,メインメモリ13,入力装置としてのキーボード14,出力装置としてのディスプレイ装置15,大規模記憶装置としてのハードディスク装置16を有している。ハードディスク装置16にはオペレーティングシステムとともに処理プログラム(メールサーバ用処理プログラム)が登録されており,この処理プログラムをメインメモリ13を介して中央処理装置12が読み込んで順次実行処理することによって,本実施形態のメール同報システムが実現するようになっている。この処理プログラムの処理手順については後述する。
【0022】
メールサーバ1には,データベースが接続されている。このデータベースは実施形態2で使用するが,実施形態1では使用しない。
なお,メールサーバ1には,汎用のメールサーバ1として機能するためのアドレスデータベース等を有しているがこれらは図示を省略している。
【0023】
発信側端末装置2は,汎用のパーソナルコンピュータであり,図2で説明したメールサーバ1と同様の構成を有している。すなわち,発信側端末装置2のハードディスク装置16にも処理プログラム(発信側端末用処理プログラム)が登録されている。
この発信側端末用処理プログラムが発信側端末装置2の中央処理装置12に読み込まれて実行されることによって,電子メールの生成およびメールサーバ1への送信手段として機能する。
この発信側端末用処理プログラムでは,図6に示すようなテキストで記述された電子メールを生成する。
【0024】
この電子メールのヘッダには同報メール識別子として「x-To1」を挿入し,この同報メール識別子に対応して同報送信の宛先アドレスとして「aaa@hoge.co.jp」と「bbb@hoge.co.jp」を登録している。なお,同報メール識別子は,「x-To」の後に「x-To1」,「x-To2」,「x-To3」等いかなる数字を用いてもよいことは勿論である。
またメール本文には,固有識別子として,<%name%>および<%point%>を挿入している。
【0025】
前述のヘッダには宛先アドレスに続いて,この固有識別子と固有識別子に対応した置換文字を登録するようになっている。
すなわち,発信側端末においてヘッダに「name=tree&point=10」と記載した場合,メールサーバ1においてメール本文の<%name%>には「tree」に置き換えられ,<%point%>には「10」に置き換えられて宛先アドレス毎のメールが生成されるようになっている。
【0026】
本実施形態の処理プログラムでは,2つの宛先アドレスを記述してはいるものの,生成されてメールサーバ1に送信される電子メールは図6に示した電子メール1通のみである。
【0027】
図6に示した電子メールがネットワーク5を介してメールサーバ1に受信されると,メールサーバ1の中央処理装置12は処理プログラム(メールサーバ側処理プログラム)を読み込んで以下のような処理(図10に示すフロー)を実行する。
すなわち,メールサーバ1の中央処理装置12は,ハードディスク装置16の処理プログラム(メールサーバ処理プログラム)を読み込むと,発信側端末装置2からの電子メールの受信を待つ(S1101)。
【0028】
ここで,電子メールを受信すると,当該電子メールのヘッダを調べ,「x-To」の同報送信識別子が定義されているか否かを判別する(S1102)。
このとき,同報識別子が定義されていないときには通常の電子メールとして当該電子メールを送信キューに入れる(S1108)。
【0029】
一方,「x-To」の同報送信識別子が存在していた場合には,その同報送信識別子に定義された宛先アドレス(図6の場合,aaa@hoge.co.jpと,その宛先アドレスに対応した固有識別子のパラメータ(図6の場合,name=treeと,point=10をそれぞれ読み出す(S1103)。
【0030】
次に,メール本文を前記で読み出した固有識別子のパラメータに置き換える処理を行う(図6の場合,メール本文の<%name%>を「tree」に,<%point%>を「10」に置き換える)(S1104)。
次に,ヘッダの宛先アドレスを同報送信識別子から通常の宛先識別子「To」に置き換える(S1105)。
この結果,生成された電子メールを送信キューに入れる(S1106)。
次に,同報送信識別子で定義された次の宛先アドレス(図6の場合,bbb@hoge.co.jp)についても前記ステップS1103?S1107を繰り返す。
【0031】
このようにして,メールサーバ1において,発信側端末装置2から受信した1通の電子メールは同報送信識別子に定義された宛先分の通数の電子メールに変換された後に,ネットワーク5を介して受信側端末装置3,たとえば基地局4を介して携帯電話端末にそれぞれ送信される。
発信側端末装置2で生成された図6に示すような1通の電子メールは,メールサーバ1において,図7および図8に示す電子メールに変換されることになる。
このように,本実施形態によれば,発信側端末装置2で生成された1通の電子メール中のヘッダに同報送信識別子として複数の宛先アドレスと,固有識別子としてメール本文の一部を宛先アドレスに対応させて変更するパラメータを挿入しておくことで,メールサーバ1において前記宛先アドレスに対応したメールが自動生成され,配信される。」

d 甲第25号証記載技術

上記a?cより,甲第25号証には,発信側端末装置からメールサーバへのトラフィック低減が可能な同報メールシステムであって,メールサーバにおいて,発信側端末装置から受信した1通の電子メールが同報送信識別子に定義された宛先分の通数の電子メールに変換された後に,受信側端末装置にそれぞれ送信される技術が記載されていると認められる。

(オ) 小括

上記(ア)および(ウ)によれば,甲第21号証記載技術と甲第24号証記載技術は,同報メールの受信者間でのメールアドレスの漏洩を防止するために,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する技術である点で共通している。
また,上記(エ)によれば,甲第25号証記載技術は,同じく同報メールを送信する際に,発信側端末装置からメールサーバへのトラフィックを低減するため,発信側端末装置から受信した1通の電子メールが同報送信識別子に定義された宛先分の通数の電子メールに変換された後に,受信側端末装置にそれぞれ送信される技術が記載されており,甲第25号証記載技術と,甲第21号証記載技術と甲第24号証記載技術とは,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する技術である点で共通しているといえる。
したがって,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する技術は,甲第21号証,甲第24号証および甲第25号証のいずれにも記載されているから,周知技術であると認められる(以下,この周知技術を「周知技術1」という。)。
一方,上記ア(イ)によれば,甲第23号証には,電子メールが宛先に到達する時間を,グループ別に異なるようにするために,送信端末であるユーザ端末から電子メールサーバに,分割数を示す情報を付加した電子メールを送信し,電子メールサーバにおいて,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(例えば,ドメインごとに)分割し,グループごとに送信する技術が記載されており,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている電子メールも同報メールの一種であり,メールサーバ内で,当該メーリングリストのアドレスが含まれている電子メールを一旦個別の電子メールアドレスに変換しており,同報メールのメールアドレスを個別の電子メールアドレスに変換することは,同報メールのメールアドレスを個別の電子メールアドレスに分割しているともいえるから,この点で,上記周知技術1とは共通する。しかし,,電子メール(本文)の分割については,送信段階で,グループごとに分割して送信している点で相違している。甲第23号証と上記周知技術1とは,解決すべき課題等にも共通性がなく,電子メール(本文)を分割する単位等も(個別のメール単位か,グループ単位かで)相違しているから,甲第23号証と,上記周知技術1とを,ひとまとまりの技術として取り扱うことはできない。
以下では,甲20発明と上記周知技術1との組み合わせについて検討する(後記(3)ウ(ア)?(ウ))とともに,念のため,甲20発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについても検討する(後記(3)ウ(エ))。

イ 電子メールにエンベロープ情報が存在することについて

上記第4の1(2)イ(ウ)に記載したように,請求人は,引用請求項7に関して,甲第46号証,甲第48号証,甲第49号証を根拠として,電子メールにエンベロープ情報が存在することが技術常識である旨主張しているので検討する。

(ア)甲第46号証記載事項

甲第46号証には,後記5(2)オ(イ)の事項が記載されている。

(イ)甲第48号証記載事項

甲第48号証には,後記5(2)オ(エ)の事項が記載されている。

(ウ)甲第49号証記載事項

甲第49号証には,後記5(2)オ(オ)の事項が記載されている。

(エ)小括

以上(ア)?(ウ)より,電子メールにエンベロープ情報が存在するこは,技術常識であると認められる。

(3) 本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲20発明とを対比すると,次のことがいえる。

(ア) 本件発明1の構成要件11A,11Gについて

a 甲20発明の「IronPort機器」は,本件発明1の「情報処理装置」に対応する。

b 甲20発明の「IronPort機器は,企業ネットワーク環境において,グループウェアのクライアントである端末と,企業ネットワーク環境の外部のインターネットとの間に配置されるものであって,電子メールパイプラインは,電子メールがIronPort機器により処理されるときに従うプロセス又はフローであ」る。
そして,「電子メールパイプラインのルーティング及び配信機能には,ワークキューが含まれており,ワークキューは,受信されるメッセージが,配信段階へ進む前に処理されるところであって,処理は,スパム対策及びウイルス対策のスキャニング,ウイルスアウトブレイクフィルタ,隔離を含み,電子メールセキュリティマネージャは,スパム対策,ウイルス対策,コンテンツフィルタ,ウイルスアウトブレイクフィルタを含」むものであるから,甲20発明の「IronPort機器」は,「グループウェアのクライアントである端末」から「受信されるメッセージ」である「電子メール」に対して,「配信段階へ進む前に」,「電子メールセキュリティマネージャ」において,「コンテンツフィルタ」の「処理」をするものであるといえる。

c 甲20発明の「IronPort機器」は,「電子メールセキュリティマネージャにより」,「電子メールコンテンツポリシーを,着信と発信とで異なるポリシーにより,受信者又は送信者単位で管理」するものであって,「メールポリシーは,」「コンテンツフィルタ」「の機能」「に対する特定の設定にマッピングされる,ユーザの特定のセット(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,from:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)として定義され,」「電子メールセキュリティマネージャテーブルは,着信又は発信メッセージをユーザの特定のグループ(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,From:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)にマッチさせ,」「コンテンツフィルタ」「の機能」「に対する特定の設定にマッピング」するものであるところ,「電子メールセキュリティマネージャテーブル」において,「ユーザの特定のグループ(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,From:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)」と,「コンテンツフィルタ」「の機能に対する特定の設定」とが,「メールポリシー」ごとにマッピングされているから,甲20発明の「IronPort機器」は,「セキュリティマネージャ」において,「グループウェアのクライアントである端末」から「受信され」た「電子メール」を,各「メールポリシー」の「ユーザの特定のグループ(エンベロープ受信者,エンベロープ送信者,From:ヘッダ又はReply-To:ヘッダ)にマッチさせ,」「コンテンツフィルタ」「の機能に対する特定の設定にマッピング」するものである。

d 甲20発明の「コンテンツフィルタ」は,「コンテンツフィルタにおける条件を指定することは,任意であり,」「コンテンツフィルタの条件には,エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)があり,各コンテンツフィルタに対して,少なくとも1つのアクションを定義しなければならず,アクションは,メッセージに対して順に実行されるため,複数のアクションをコンテンツフィルタに対して定義する場合,注意が必要であり,最終アクションは,フィルタごとに1つのみ定義してもよく,コンテンツフィルタの非最終アクションには,隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる),通知(このメッセージを他の受信者へ通知する)があり,コンテンツフィルタの最終アクションには,配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する),バウンス(メッセージを送信者に送り返す)があ」るものであるところ,甲20発明の「コンテンツフィルタ」は,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」に合った「メッセージに対して,」「条件」に対応する「アクション」,例えば,「隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる)」,「配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する)」を「実行」するものであると認められる。

e よって,甲20発明の「IronPort機器」は,「グループウェアのクライアントである端末」から「受信され」た「電子メール」を,「メールポリシー」に基づいて,「コンテンツフィルタ」「の機能に対する特定の設定にマッピング」し,「コンテンツフィルタ」において,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」に基づいて,「隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる)」,「配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する)」の「アクション」を「実行」するものであるから,甲20発明の,「グループウェアのクライアントである端末」から「電子メール」を「受信」し,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」に基づいて,「隔離(システム隔離エリアの1つに保持されるメッセージにフラグを立てる)」,「配信(更なる処理を行わずに直ちにメッセージを配信する)」の「アクション」を「実行」する「IronPort機器」は,本件発明1の「端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置」に相当する。

(イ) 本件発明1の構成要件11Bについて

甲20発明の「コンテンツフィルタ」において,上記(ア)dに記載したように,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」と,「アクション」とが対応づけられており,「複数の条件を各フィルタに対して定義してもよく,複数の条件が定義される場合,ユーザは,それらの条件を論理OR(「次の条件・・・のいずれか」)として結合させるか,又は,論理AND(「次の条件のすべて」)として結合させるかを選択することができ」るから,甲20発明の「コンテンツフィルタ」の,「論理AND」「として結合さ」れた,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」と,「アクション」との対応付けは,本件発明1の「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」に相当する。
そして,甲20発明の「IronPort機器」は,上記(ア)bに記載したとおり,「電子メールセキュリティマネージャ」において,「コンテンツフィルタ」の「処理」をするものであるところ,「コンテンツフィルタ」の,「論理AND」「として結合さ」れた,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」と,「アクション」との対応付けを記憶しておく必要があり,甲20発明の「IronPort機器」が,当該記憶するための構成を備えていることは,明らかである。
よって,甲20発明の,上記記憶するための構成は,本件発明1の「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段」に相当する。

(ウ) 本件発明1の構成要件11Cについて

甲20発明の「IronPort機器」は,「複数の受信者を有するメッセージ」を含む「電子メール」を,「グループウェアのクライアントである端末」から「受信」するものであるから,甲20発明の「IronPort機器」が,当該受信するための構成を備えていることは,明らかである。
よって,甲20発明の,上記受信するための構成は,本件発明1の「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段」に相当する。

(エ) 本件発明1の構成要件11Dについて

甲20発明の「IronPort機器」では,「(ポリシーにマッチすることによる)インテリジェントなメッセージ分割は,異なる受信者ベースのポリシーを,複数の受信者を有するメッセージに個別に適用することを可能にするメカニズムであり,各受信者は,トップダウンの方法で,適切な電子メールセキュリティマネージャテーブル(着信又は発信)における各ポリシーに関して評価され,メッセージにマッチする各ポリシーは,それらの受信者を有する新たなメッセージを作成し,このプロセスは,メッセージ分割として定義されるものであって,・異なるポリシーにマッチする受信者がいる場合,受信者は,マッチしたポリシーに従ってグループ化され,メッセージは,マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割され,そして,受信者は,各適切な「分割されたメッセージ」に設定され,」「・分割された各メッセージは,電子メールパイプラインにおいて,コンテンツフィルタにより処理され」るところ,甲20発明の「IronPort機器」は,「グループウェアのクライアントである端末」から「受信され」た「電子メール」が,「複数の受信者を有するメッセージ」である場合,「各受信者」を「電子メールセキュリティマネージャテーブル(着信又は発信)における各ポリシーに関して評価」し,すなわち,「各受信者」を「各ポリシー」の「ユーザの特定のグループ」「にマッチさせ,」「コンテンツフィルタ」「の機能に対する特定の設定にマッピング」することにより,「複数の受信者を有するメッセージ」を,「受信者」が「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」るように,「メッセージ分割」し,「分割された各メッセージ」を,「ポリシー」ごとの「コンテンツフィルタにより処理」するものである。
また,甲20発明の「IronPort機器」が,上記「メッセージ分割」させるための構成を備えていることは,明らかである。
よって,甲20発明の,上記「メッセージ分割」させるための構成は,本件発明1の「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」と,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を」所定の送信先「に分割する分割手段」である点で共通する。

(オ) 本件発明1の構成要件11E,11Fについて

甲20発明の「IronPort機器」は,上記(イ)に記載したとおり,「コンテンツフィルタ」の,「論理AND」「として結合さ」れた,「エンベロープ送信者アドレス(エンベロープ送信者(即ち,Envelope From,<MAIL FROM>)は所定のパターンにマッチングするか),エンベロープ受信者アドレス(エンベロープ受信者(即ち,Envelope To,<RCPT TO>)は所定のパターンにマッチングするか)」の「条件」と,「アクション」との対応付けを記憶するための構成を備えており,「ポリシー」に基づいて「分割された各メッセージ」を,記憶された,「コンテンツフィルタ」の「条件」と「アクション」との対応付けに基づいて「処理」するものである。
また,甲20発明の「IronPort機器」が,上記「処理」の内容を決定するための構成,及び,上記「処理」をするための構成を備えていることは,明らかである。
よって,甲20発明の,上記「処理」の内容を決定するための構成は,本件発明1の「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された」所定の送信先「と送信元とに従って,当該分割された」所定の送信先「に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」である点で共通する。
また,甲20発明の,上記「処理」をするための構成は,本件発明1の「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段」と,「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された」所定の送信先「に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段」である点で共通する。

イ 一致点及び相違点

したがって,本件発明1と甲20発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
「 端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を所定の送信先に分割する分割手段と,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された所定の送信先と送信元とに従って,当該分割された所定の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された所定の送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備える情報処理装置。」

[相違点1-20](本件発明1の構成要件11D,11E,11F)
「分割手段」,「決定手段」及び「制御手段」における「所定の送信先」が,本件発明1では,「個々の送信先」であるのに対して,甲20発明では,「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」た送信先である点。

ウ 相違点について

上記[相違点1-20]について検討する。

(ア) 甲20発明の「分割手段」に対する周知技術1の適用について

甲20発明の「IronPort機器」は,「メッセージ分割を最小限に抑え,システムパフォーマンスが,ワークキューにおける,各分割メッセージの処理による影響を受けにくくなる」ようにする,要するに,メッセージ分割数の増加に応じて,ワークキュー(例えば,コンテンツフィルタ)における分割メッセージの総処理量が増加することにより,システムパフォーマンスが低下しないようにするために,「メッセージの大多数が,デフォルトポリシーにより処理され,メッセージの少数が,少数の追加の「例外」ポリシーにより処理されるように,機能を設定」することにより,「メッセージ分割を最小限に抑え,システムパフォーマンスが,ワークキューにおける,各分割メッセージの処理による影響を受けにくくなる」ものである(上記(1)オ(キ)を参照。)。

したがって,「システムパフォーマンスが,ワークキューにおける,各分割メッセージの処理による影響を受けにくくなる」ように,「メッセージ分割を最小限に抑え」ている甲20発明において,必要以上に,メッセージ分割を行う動機付けはないといえる。

また,甲20発明の「分割手段」において,電子メールを,送信先が「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」るように「メッセージ分割」することに代えて,周知技術1を適用して,宛先となる個々の電子メールアドレスごとに分割する場合,その分割数が増加し,ワークキューにおける,各分割メッセージの処理による影響を受けて,システムパフォーマンスが低下することは,当業者に明らかであるから,「メッセージ分割を最小限に抑え」て「システムパフォーマンスの低下」を抑制していた甲20発明において,「メッセージ分割」数が増大してシステムパフォーマンスの低下を招く周知技術1に置換することには,阻害要因があるともいえる。

したがって,甲20発明の「分割手段」において,電子メールを,送信先が「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」るように「メッセージ分割」することを,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割する技術である周知技術1に置換して,「個々の送信先」に分割することは,当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ) 甲20発明の「制御手段」に対する周知技術1の適用について

a 上記周知技術1は,同報メールをメールサーバから受信者端末へを送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信するものであるから,甲20発明の分割手段を置換するのではなく,電子メールの送信制御を行う制御手段において,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する構成を適用することも考えられる。

b しかし,この場合,「分割手段」および「決定手段」における「所定の送信先」は,「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」た送信先のままであり,「制御手段」の「当該分割された送信先」である「個々の送信先」とは異なるものとなる。

c したがって,甲20発明の「制御手段」に周知技術1を適用したとしても,上記[相違点1-20]に係る本件発明1の構成に至らない。

(ウ) 甲20発明への周知技術1の適用についてのまとめ

以上,(ア)及び(イ)より,甲20発明において,周知技術1を適用したとしても,上記[相違点1-20]に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものではない。

(エ)甲20発明への甲第23号証記載技術の適用

上記(2)ア(オ)で述べたように,甲第23号証と周知技術1とは,ひとまとまりの技術とすることはできないから,甲20発明への甲第23号証記載技術の適用について検討する。

a 甲第23号証記載技術

上記(2)ア(イ)で述べたように,甲第23号証には,以下の技術が記載されている。

電子メールが宛先に到達する時間を,グループ別に異なるようにするために,送信端末であるユーザ端末から電子メールサーバに,分割数を示す情報を付加した電子メールを送信し,電子メールサーバにおいて,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(例えば,ドメインごとに)分割し,グループごとに送信する技術。

b しかし,甲20発明に対して,上記aの甲第23号証記載技術を適用したとしても,「分割手段」において,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換(すなわち個別の電子メールに分割)することにとどまり,甲23号証記載技術がグループごとに送信する技術である以上,「決定手段」及び「制御手段」における「所定の送信先」は,「マッチしたポリシーに従ってグループ化され」た送信先のままであるから,上記[相違点1-20]に係る本件発明1の構成に至らない。

c したがって,甲20発明において,甲第23号証記載技術を適用したとしても,上記[相違点1-20]に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものではない。

エ 小括

以上のとおり,本件発明1についての特許は,請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

(4) 本件発明2ないし5,7,9ないし13について

本件発明2ないし5,7,9ないし11は,本件発明1を減縮した発明であり,本件発明12は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置の制御方法」の発明であり,本件発明13は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置で実行可能なプログラム」の発明を,「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」についてそれぞれ限定することにより,減縮した発明であって,上記[相違点1-20]に係る本件発明1の構成と実質的に同一の構成を備えるものである。

よって,本件発明2ないし5,7,9ないし13についての特許は,本件発明1についての特許と同様の理由により,請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

(5) 小括

以上のとおり,本件発明1ないし5,7,9ないし13についての特許は,いずれも,請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

3 無効理由2(甲第26号証に基づく進歩性)について

上記1(4)で述べたように,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」が該当し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合は該当しないと解することが相当であるから,無効理由2のうち,本件発明における「送信先」として,ユーザ名を含まずに「ドメイン」名のみの場合が該当することを前提とした無効理由2(上記第4の1(2)ウ(ア)a?c)は,前提において誤っており,本件発明についての特許は,当該無効理由2によって無効とすることはできない。

以下では,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみが該当するとの解釈を前提とする無効理由2(上記第4の1(2)ウ(イ)a)について検討する。

具体的には,複数の送信先が設定された電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証で開示されているとおり周知技術であり,
あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように技術常識であり,
ドメイン毎に異なるタイミングで送信することも,甲第34号証,甲第35号証,及び甲第36?38号証で開示されているように技術常識であるから,
本件発明1ないし5,7,9ないし13についての特許は,甲第26号証記載発明と,周知技術(甲第23号証,甲第24号証,甲第25号証),および,技術常識(甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証,甲第34号証,甲第35号証,及び,甲第36?38号証)とから進歩性を有しない旨の無効理由2について検討する。

(1) 甲第26号証について

ア 甲第26号証の記載事項

甲第26号証(m-FILTER 運用マニュアル)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア) 「1-1 「m-FILTER」の特長
「m-FILTER」は,内部統制の推進とスパムメール対策を実現する,電子メールフィルタリングソフトウェアです。企業や教育機関等における電子メールシステムの運用に必要かつ有用な機能を多数提供します。代表的な機能は以下の通りです。

■配送制御
メールヘッダー,本文,添付ファイルなど,さまざまな条件を組み合わせて多彩なフィルタリングルールを作成できます。そして,フィルタリングルールに該当したメールに対して,「管理者が承認したもののみ送信を許可」「宛先に管理者を加えて送信する」等のアクションを設定することができます。また,新しいフィルタリングルールの導入に際して,運用前に導入効果を測定できる“テストモード”も搭載。私用メールの抑制や,情報漏えい対策に役立てることができます。
グループ毎に別々のルール内容を設定可能。部署ごとに異なるルールを設定して運用することができます。」(10ページ)

(イ) 「


」(134ページ)

上記ア及び上図の記載によれば,電子メールシステムにおいて,m-FILTERがインストールされたハードウェアであるm-FILTER装置は,MUA(Mail User Agent)とMTA(Message Transfer Agent)との間において,MUAからシステム外部へ送信されるメールに対して,設定されたフィルタリングルールに応じて,送信,保留等の処理を行うものである。

(ウ) 「8-6 ルールセット共通設定項目
各ルールセットにおける共通の設定項目・手順について説明します。

8-6-1 フィルター条件設定

ルールに登録するフィルター条件の設定方法はすべてのルールにおいて共通となります。(ここでは送受信ルールを画面例として説明します。)

登録送受信ルール一覧・スパムルール一覧にて,作成したルールの「フィルター条件」の[編集]をクリックすると,フィルター条件設定の画面が表示されます。

≪フィルタ条件設定≫
(図略)

画面下部のフィルタリング設定箇所にて,フィルター対象項目を設定します。リストボックスより選択後,〔表示〕ボタンをクリックします。
フィルター対象項目は以下6種類です。「すべて」を選択すると6種類の項目が全て表示されます。

・宛先
・差出人
・件名/本文
・ヘッダー
・添付ファイル
・サイズ

・・・(中略)・・・

【フィルター条件の組み合わせ】
複数のフィルター条件を設定した場合,それらをAND条件で判定するかOR条件で判定するかを指定することができます。AND条件を選択すると,すべての条件に該当した場合にのみ判定します。OR条件を選択すると,条件のうちのどれか一つでも該当すれば判定します。どちらかを選択し,〔設定〕ボタンをクリックします。」(178?184ページ)

イ 甲26発明

上記ア(ア)?(ウ)の記載から,甲第26号証には,次の発明(以下,「甲26発明」という。)が記載されていると認められる。

「 m-FILTERは,内部統制の推進とスパムメール対策を実現する,電子メールフィルタリングソフトウェアであり,企業や教育機関等における電子メールシステムの運用に必要かつ有用な機能を多数提供するものであって,
代表的な機能は以下の通りであり,
■配送制御
メールヘッダー,本文,添付ファイルなど,さまざまな条件を組み合わせて多彩なフィルタリングルールを作成でき,そして,フィルタリングルールに該当したメールに対して,「管理者が承認したもののみ送信を許可」「宛先に管理者を加えて送信する」等のアクションを設定することができ,

電子メールシステムにおいて,m-FILTERがインストールされたハードウェアであるm-FILTER装置は,MUAとMTAとの間において,MUAからシステム外部へ送信されるメールに対して,設定されたフィルタリングルールに応じて,送信,保留等の処理を行い,
ルールに登録するフィルター条件のフィルター対象項目は以下の6種類であり,
・宛先
・差出人
・件名/本文
・ヘッダー
・添付ファイル
・サイズ
複数のフィルター条件を設定した場合,それらをAND条件で判定するかOR条件で判定するかを指定することができ,AND条件を選択すると,すべての条件に該当した場合にのみ判定する,
m-FILTER装置。」

(2) 請求人主張の周知技術及び技術常識について

ア 請求人が主張する周知技術及び技術常識

上記第4の1(2)ウ(イ)aに記載したように,請求人は,以下(ア)?(ウ)のように,周知技術及び技術常識を主張している。

(ア) 複数の送信先が設定された電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証で開示されているとおり周知技術であり(審判請求書153頁5?6行),

(イ) あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように技術常識であり(審判請求書153頁11?12行),

(ウ) ドメイン毎に異なるタイミングで送信することも,甲第34号証,甲第35号証,及び,甲第36?38号証で開示されているように技術常識である。(審判請求書153頁13?15行)

(エ)保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように周知技術であり,さらに,甲第28号証では,一時保留時間を経過すると配信処理が行われることが開示されている。(審判請求書の158頁4?8行,162頁下から3行?163頁1行)

以下では,上記(ア)および(エ)の周知技術及び上記(イ)および(ウ)の技術常識について検討する。

イ 複数の送信先が設定された電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することの周知性

(ア)上記2(2)ア(オ)で述べたように, 複数の送信先が設定された電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することの周知性については,上記2(2)で検討したとおりであり,甲第21号証,甲第24号証および甲第25号証から,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する周知技術1が認められる。

(イ)一方,甲第23号証には,電子メールが宛先に到達する時間を,グループ別に異なるようにするために,送信端末であるユーザ端末から電子メールサーバに,分割数を示す情報を付加した電子メールを送信し,電子メールサーバにおいて,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(例えば,ドメインごとに)分割し,グループごとに送信する技術が記載されているが,上記2(2)ア(オ)で述べたように,甲第23号証と,上記周知技術1とを,ひとまとまりの技術として取り扱うことはできない。

(ウ)以下では,甲26発明と上記周知技術1との組み合わせについて検討する(後記(3)ウ(イ)a)とともに,念のため,甲26発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについても検討する(後記(3)ウ(イ)b)。

ウ あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することについて

以下では,上記ア(イ)に記載した請求人主張,具体的には,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているように技術常識である旨の請求人主張について検討する。

(ア) 甲第20号証記載事項

甲第20号証の記載事項は,上記2(1)オに記載のとおりであり,特に,電子メールの分割および保留部分に着目すると,甲第20号証には,以下の技術的事項が記載されているといえる。

「異なるポリシーにマッチする受信者がいる場合,受信者は,マッチしたポリシーに従ってグループ化され,メッセージは,マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割され,」「フィルタがメッセージに適用され,ユーザの設定に応じて,メッセージを隔離させることができ,保持時間は,メッセージが隔離に保持される期間であ」る技術。

ここで,「異なるポリシーにマッチする受信者」が「あるカテゴリーに属する送信先」に対応し,「メッセージ」を「マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割」することが,「電子メールを分割」することに対応し,「メッセージを」「保持時間」の「期間」「隔離させること」が「電子メール」を「保留すること」に対応するといえる。

(イ) 甲第23号証記載事項

甲第23号証の記載事項は,上記2(2)ア(イ)a?hに記載のとおりであり,上記2(2)ア(イ)iで述べた甲第23号証記載技術のうち,特に,電子メールの分割および保留部分に着目すると,甲第23号証には,以下の技術的事項が記載されているといえる。

「特定のURLを記述した電子メールを多数の宛先に対して同報配信すると,この電子メールを受信したユーザが同時に指定されたURLへアクセスすると,そのURLのサーバへアクセスが集中し,システムダウンを引き起こす可能性がある」ことから,「同報配信されたメールの到達時刻を遅らせるための技術」であって,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(メーリングリストに属する個別電子メールアドレスのうち,異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように)分割し,グループごとに定まる遅延時間が経過すると,グループごとに送信する技術」。

ここで,「メーリングリストのアドレスが含まれている」「宛先の電子メールアドレス」が,「あるカテゴリーに属する送信先」に対応し,「メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(例えば,ドメインごとに)分割」することが,「電子メールを分割」することに対応し,「グループごとに定まる遅延時間が経過すると,グループごとに送信する」が「電子メール」を「保留すること」に対応するといえる。

(ウ) 甲第27号証記載事項

甲第27号証の記載事項については,後記4(1)アに記載のとおりであり,特に,電子メールの分割および保留部分に着目すると,甲第27号証には,以下の技術的事項が記載されているといえる。

「送信メールデータ14を分類するための分類規則,分類の方法及びそれぞれの分類ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持し,」「ここでいう「送信メールデータの分類」とは,例えば,送信先による分類,メールの内容による分類,メールの重要度・機密度による分類があ」り,「区分情報15には,これらの区分と,それぞれに分類するための方法,各区分ごとの保留の要否が設定されて」おり,「送信メール32を受信したとき,所定の基準で送信を保留するか否か判断し,保留する場合は」「内部にあるメール保留部に保存」する技術。

ここで,「送信先による分類」で分類された「送信先」が,「あるカテゴリーに属する送信先」に対応し,「送信メール」を「保留」することが「電子メール」を「保留すること」に対応するといえるものの,甲第27号証には,電子メールの分割に対応する記載はない。

(エ) 小括

a 上記(ア)および(イ)によれば,甲第20号証および甲第23号証を根拠として,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを当該カテゴリ単位に分割して保留する技術を抽出することは,可能であるといえる。

b しかし,上記(ウ)では,甲第27号証において,電子メールを分割していることを認めることはできないから,甲第27号証は,請求人主張の上記技術常識の根拠とはなり得ない。

c したがって,甲第20号証および甲第23号証を根拠として,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを当該カテゴリ単位に分割して保留する技術が抽出できるが,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術と,甲第27号証記載技術と,をひとまとまりの技術として認定することはできない。

d よって,後記(3)の無効理由2の進歩性判断においては,甲26発明への,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術の適用と,甲26発明への甲第27号証記載技術の適用を個別に判断する。

エ ドメイン毎に異なるタイミングで送信することについて

以下では,甲第34号証,甲第35号証,および甲第36?38号証を根拠として,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが技術常識である旨の請求人主張について検討する。

(ア) 甲第34号証記載事項

甲第34号証(特開2001-175557号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子メールシステム,電子メールの転送方法,及び記録媒体に関し,特に同一ドメイン宛に複数のユーザ名が含まれる場合に効率よく電子メールを転送する技術に関する。」

b 段落【0005】?【0006】
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述のように,従来の技術では,複数の宛先が指定される電子メールを送信する場合,同一ドメインに対して複数の宛先指定があっても,各宛先ユーザ毎にユーザメッセージをユーザ数分送信しているため,同じユーザメッセージを何回も送信してしまい転送の効率が悪いという課題があった。
【0006】本発明は,同一ドメインへの電子メールの送信を,宛先ユーザ名をまとめて送信し,対応するユーザメッセージを1回のみ送信することで,上記問題を解決し,効率のよい転送を実現するものである。」

c 段落【0014】?【0026】
「【0014】
【発明の実施の形態】次に,本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態のブロック図である。図1は,ドメインAからドメインB,Cへ電子メールを転送する場合の構成を示している。送信側のドメインAは,クライアントコンピュータ上のユーザ17と,ネットワークX2で接続するメールサーバ11を有する。図1ではユーザは1つしか示していないが,ドメインAに含まれるユーザはネットワークX2により接続される。通常1ユーザが1クライアントコンピュータに固定して使用されることが多い。
【0015】メールサーバ11は,図示しないがCPU,メモリ,入出力装置,及びネットワークX1,X2との接続装置等を含むコンピュータに,ユーザ17とネットワークX2を通して電子メールの送受信をするユーザエージェント16,ユーザエージェント16が受信した電子メールを一時的に保持する通信キュー15,及びSMTPプロトコルを実装し電子メールの送受信を制御するSMTPエージェント12等を実装している。ユーザエージェント16やSMTPエージェント12や送信キュー15はプログラムとメモリ上に設けられた領域等からなる。さらに,SMTPエージェント12は,RFC821で規定される機能の他に,本発明の特徴的な機能である同一ドメインユーザ入出力手段14と同一ドメインユーザ名記憶部13を含んでいる。
【0016】図2は,ユーザ17から受信し通信キュー15に保持される電子メールのユーザメッセージの構成を説明する図である。電子メールの電文全体のユーザメッセージ41は,宛先アドレスや主題を含むヘッダ42と本文43から構成される。宛先アドレスは前述のように“ユーザ名@ドメイン名”という形式になっており,図2では宛先が5ユーザの場合を示している。
【0017】図3は,図2の電子メールが同一ドメインユーザ名記憶部13に記憶される情報の様子を説明するものである。記憶されるレコードは,ドメインBとこれに属するユーザ名の並び(ユーザ名D,F,G)と,ドメインCとこれに属するユーザ名の並び(ユーザ名E,H)との2つある。このように各レコードは宛先のドメイン名と,これに含まれる宛先ユーザ名の並び(図3の47又は48)から構成され,宛先ドメイン毎に作成される。これらのレコードは,送信キュー15を入力として同一ドメインユーザ入出力手段14により作成される。
【0018】図1では,ドメインBとドメインCでは受信側のメールサーバの構成を示している。ドメインAのメールサーバ11から送信された情報はメールサーバ21上のSMTPエージェント22で受信される。メールサーバ21は,メールサーバ11と同様に,図示しないがCPU,メモリ,入出力装置,及びネットワークX1との接続装置等を含むコンピュータである。SMTPエージェント22は,受信したユーザ名の並びを一時的に記憶するユーザ名記憶部23と,ユーザ名記憶部23を制御し,ユーザ名の並びから各ユーザのメールボックス25へ受信したユーザメッセージを格納する同一ドメインユーザ入出力手段24を有する。メールボックス25は,ドメインBに含まれる各ユーザのメールボックスを集合したものであるが,図1ではユーザD,F,Gのみを示している。
【0019】ドメインCの構成はドメインBと同じであり,メールサーバ31はメールサーバ21に,SMTPエージェント32はSMTPエージェント22に,ユーザ名記憶部33はユーザ名記憶部23に,同一ドメインユーザ入出力手段34は同一ドメインユーザ入出力手段24に,メールボックス35はメールボックス25に,それぞれ相当する。なお,メールボックス35は,図1ではユーザE,Hのみを示している。
【0020】次に,本発明の第1の実施の形態の動作について説明する。図1において,ユーザ17から電子メールをドメインBのユーザD,F,GとドメインCのユーザE,Hへ送信する場合の動作を例に詳細に説明する。ユーザ17が送信した電子メールは,同一ドメイン内のメールサーバ11に実装されるユーザエージェント16で受信され,通信キュー15へ図2のようにユーザメッセージとして登録される。SMTPエージェント12は通信キュー15にユーザメッセージが登録されると,同一ドメインユーザ入出力手段14を起動する。
【0021】以降の動作を図4のフローチャートを用いて説明する。同一ドメインユーザ入出力手段14は,送信キュー15に登録されたユーザメッセージのヘッダ42から宛先を読み出し,ドメイン毎に分類して,同一ドメインユーザ名記憶部13へ格納する(S61)。格納される形式は図3に示すように,ドメイン名とユーザ名の並びをセットにしたレコード単位であり,宛先ドメインの数だけレコードが作られる。図3の47がドメインB宛のユーザ名の並びで,48がドメインC宛のユーザ名の並びである。
【0022】S62でSMTPエージェント12は,ドメインBのユーザ名の並び47を同一ドメインユーザ名記憶部13から取り出して,これを電子メールのユーザメッセージとしてドメインBへ送信する。ドメインBでSMTPエージェント22がこれを受信し,同一ドメインユーザ入出力手段24によって受信したユーザ名の並び47をユーザ名記憶部23へ格納した後,応答を返信する(S71)。ドメインAのSMTPエージェント12は応答を受信すると,次にユーザメッセージ(図2の41)をドメインBへ送信する(S63)。
【0023】ドメインBのSMTPエージェント22は,ユーザメッセージを受信すると,同一ドメインユーザ入出力手段24を起動し,S71で受信したユーザ名の並び47をユーザ名記憶部23から取り出し,ユーザ名の並び47に含まれるユーザ名D,F,Gの各メールボックス内へ,受信したユーザメッセージをそれぞれ格納し,SMTPエージェント22がドメインAへ応答を返信する(S72)。実際には,メールボックスに格納されるユーザメッセージは,元のユーザメッセージを基に組み立てられて作成されるが,詳しい説明は省略する。
【0024】以上のようにドメインBへの転送が終わると,次に,ドメインCへの送信を行う。この手順(S64,S81,S65,S82)は上述の手順(S62,S71,S63,S72)と同一なので説明は省略する。ただし,送信するユーザ名の並びは図3の48の部分となり,ドメインCのメールボックス35内のユーザE,Fのメールボックスへユーザメッセージが格納される。
【0025】図1では図示していないが,メールサーバ21はネットワークでクライアントコンピュータと接続されており,クライアントコンピュータからドメインBに所属するユーザは,メールボックス25をアクセスして自分宛の電子メールを取り出す。ドメインCに関しても同様である。
【0026】以上のように,ユーザ名の並びを作成してこれをユーザメッセージとは別に送信することで,ユーザメッセージの送信回数を削減することができる。特に,宛先ユーザが同一ドメインに多数含まれる場合に効果が顕著となり,また,ユーザメッセージのデータ量が大きいほど効果が顕著となることが明らかである。また,データ転送量の削減に伴って,各メールサーバの処理するデータ量が削減されるため,各メールサーバの負荷も低減される。」

d 上記a?cより,甲第34号証には,特に,電子メールの送信のタイミングに着目すると,以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「同一ドメインへの電子メールの送信を,宛先ユーザ名をまとめて送信し,対応するユーザメッセージを1回のみ送信することで,効率のよい転送を実現するものであって,
送信キューに登録されたユーザメッセージのヘッダから宛先を読み出し,ドメイン毎に分類して,同一ドメインユーザ名記憶部へ格納し,宛先ドメインの数だけレコードを作り,同一ドメインユーザ名記憶部からドメイン毎に呼び出したユーザ名の並びをユーザメッセージとは別に送信することで,ユーザメッセージの送信回数を削減することができる電子メール送信技術。」


(イ) 甲第35号証記載事項

甲第35号証(特開2007-052650号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 請求項1
「【請求項1】
複数の電子メールアドレスを複数のグループに分類する分類工程と,
前記分類工程により分類されたグループ毎に,分類された電子メールアドレスのみを宛先とする電子メールを生成する電子メール生成工程と,
前記電子メール生成工程により生成されたグループ毎の電子メールを送信する送信工程と,
を含むこと,
を特徴とする電子メール生成方法。」

b 請求項6
「【請求項6】
前記分類工程は,
前記入力工程により受け付けられた前記複数の電子メールアドレスに含まれるドメイン名に基づいて,前記複数の電子メールアドレスを複数のグループに分類すること,
を特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電子メール生成方法。」

c 段落【0001】
「【0001】
本発明は,宛先別に電子メールを生成し,送信を行う電子メール生成方法及びプログラムに関する。」

d 段落【0005】?【0008】
「【0005】
しかしながら,従来の電子メール生成方法では,電子メールを送信する際,宛先に所属が異なる複数の送信先が設定された場合,各送信先には受信した電子メールの送信先が全て表示されるため,直接関係の無い者同士が相互の電子メールアドレスを知り得ることができるという問題がある。
【0006】
例えば,電子メールの送信先が社内の人と社外の人とが混在する場合,送信先の電子メールには社内の人及び社外の人の電子メールアドレスが表示されるため,直接関係の無い社外の人同士,又は社外の人と直接関係の無い社内の人において,電子メールアドレスを知り得ることができるという問題が生じる。
【0007】
個人情報である電子メールアドレスの保護や社内機密の安全性を確保するためには,電子メールアドレスは不用意に社外に流出したくない場合があるため,電子メールを作成する際に,社内の人用と社外の人用等に複数のグループに分けて,グループ毎に電子メールを生成して送信することにより解決することができるが,ユーザが手動により電子メールをグループ毎に生成しなくてはないため,ユーザにとって手間の掛かる煩雑な作業であると共に,送信回数が複数回となるため送信効率が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の課題は,電子メールアドレスの安全性を確保しつつ電子メールの送信効率及びユーザの使い勝手の向上を図ることである。」

e 段落【0031】?【0048】
「【0031】
[実施の形態1]
以下,図を参照して本発明の実施の形態1を詳細に説明する。
まず,構成を説明する。
図1に,本実施の形態1における電子メールシステムAの概略構成図を示す。
【0032】
図1に示す電子メールシステムAは,複数の端末装置1がネットワークNを介して接続されたメールサーバ2にアクセスできる構成となっていると共に,インターネット回線Iに接続されている。
【0033】
端末装置1において生成された電子メールは,メールサーバ2に送信される。メールサーバ2は,端末装置1をインターネットに接続させて受信した電子メールを送信する。送信された電子メールは,電子メールの電子メールアドレスに基づいてインターネット上の複数のメールサーバを経由し,指定されたユーザ(端末装置)に送信される。
【0034】
メールサーバ2は,プロバイダやパソコン通信事業者等が備える各種サーバの中でメール管理を専門に担当するサーバであり,他ネットワークのユーザに電子メールを送信するSMTP(Simple MailTransfer Protocol)サーバと,自ネットワーク内のユーザ宛てに送られてきた電子メールをメールアドレス毎に蓄積するメールボックスと,ユーザからの受信要求に対応してユーザ宛ての電子メールをメールボックスから読み出してユーザに送信するPOP(Post OfficeProtocol)サーバとを備える。
【0035】
図2に,本実施の形態1における端末装置1の制御ブロック図を示す。
図2に示すように,端末装置1は,CPU(Central Processing Unit)10,記憶部11,RAM(Random Access Memory),表示部13,操作部14,I/F15を備え,各部は電気的に接続されている。
【0036】
CPU10は,記憶部11に記憶されているシステムプログラム,各処理プログラム,各種データを読み出してRAM12に展開し,展開されたプログラム及びデータに従って,端末装置1各部の動作を集中制御する。システム全体のタイミング制御,RAM12を使用したデータの記憶及び蓄積制御,他のアプリケーションとの動作制御を行うものである。
【0037】
また,CPU10は,電子メール生成プログラムが実行されることにより,メッセージデータ及びヘッダデータが操作部14により受け付けられた場合,ヘッダデータに含まれる宛先として,複数の電子メールアドレスが受け付けられると,受け付けられた複数の電子メールアドレスを複数のグループ(宛先グループ)に分類し,分類されたグループ毎に,分類された電子メールアドレスのみを宛先し,受け付けられたメッセージデータを分類された各グループ共通のメッセージデータとして適用して複数の電子メールを生成し,生成された複数の電子メールを送信する入力工程,分類工程,電子メール生成工程,送信工程を実現する。
【0038】
メッセージデータとは,文字や記号等からなる本文,又は添付された画像ファイルや文書ファイルを含む意である。
【0039】
ヘッダデータとは,電子メールの送信日時,電子メールの送信者の電子メールアドレス,電子メールの件名,電子メールの宛先を含む意である。
【0040】
本実施の形態1における宛先とは,電子メールを送信する際の送信先の指定方法として,正規の送信先を示す「To」に相当する意味であり,正規の送信先に送信する同一メッセージが送信される送信先であって他の送信先に送信される電子メールに当該送信先が表示される「Cc」(Carbon Copy)や,正規の送信先に送信する同一メッセージが送信される送信であるが他の送信に送信される電子メールに当該送信先が表示されない「Bcc」(Blind CarbonCopy)とは異なる意である。
【0041】
CPU10は,複数の電子メールアドレスを複数のグループに分類する場合,下記の条件に基づいて実行する。
【0042】
予め定められた規則及び規則の属性情報に基づいて,複数の電子メールアドレスを属性情報毎に複数のグループに分類すると共に,属性情報が設定されていない電子メールアドレスを属性情報が設定されている電子メールアドレスのグループとは別グループに分けて分類する場合がある。
【0043】
予め定められた規則とは,後述するアドレス帳DB11bのグループ項目に登録されている同一グループ名毎にグループを分類するという規則,又は,受け付けられた電子メールアドレスのドメイン名が後述するドメインDB11cに登録されているか否かに基づいてグループを分類するという規則である。
【0044】
属性情報とは,予め定められた規則の特徴,即ち,電子メールアドレスを複数のグループに分類する際の判別基準を示し,アドレス帳に基づく規則である場合には,アドレス帳DB11bに登録されている電子メールアドレスのグループ項目に登録されているグループ名を示す情報を示し,ドメイン名に基づく規則である場合には,電子メールアドレスがドメインDB11cに登録されているか否かの情報を示す。
【0045】
このように,予め定められた規則の属性情報に基づいて,電子メールアドレスの分類の判別を行うことができるため,電子メールアドレスの安全性を確保することができる。また,属性情報が設定されていない電子メールアドレスを属性情報が設定されていない電子メールアドレスとは別グループに分けて分類することができる。
【0046】
また,複数の電子メールアドレスに含まれるドメイン名に基づいて,複数の電子メールアドレスを同一ドメイン名毎に複数のグループに分類してもよい。
【0047】
ドメイン名に基づいて,複数の電子メールアドレスを分類すると,同一同メイン名である電子メールアドレス毎に電子メールを生成することができ,ドメイン名が異なる,即ち,関係の無い者同士が同一の電子メールの宛先となることを防ぐことができるため,電子メールアドレスの安全性を確保することができる。
【0048】
また,操作部14からグループの数の指定が受け付けられると,受け付けられたグループの数に基づいて電子メールアドレス毎にグループ設定を促すグループ選択画面を表示部13に表示させ,グループ選択画面上において選択指示された情報に基づいて複数の電子メールアドレスを分類する場合がある。」

f 上記a?eより,甲第35号証には,特に,電子メールの送信のタイミングに着目すると,以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「ヘッダデータに含まれる宛先として,複数の電子メールアドレスが受け付けられると,受け付けられた複数の電子メールアドレスを,同一ドメイン名毎に複数のグループ(宛先グループ)に分類し,同一ドメイン名毎に分類されたグループ毎に,分類された電子メールアドレスのみを宛先とし,受け付けられたメッセージデータを分類された各グループ共通のメッセージデータとして適用して同一ドメイン名毎に複数の電子メールを生成し,生成された同一ドメイン名毎に複数の電子メールを送信する技術。」


(ウ) 甲第36?38号証記載のセンドマジックについて

甲第36?38号証には,いずれも,「センドマジック」に関して記載されたものである。

a 甲第36号証の記載事項

甲第36号証(センドマジックの機能)には,以下の記載がある。

「グルーピング機能
センドマジックは,宛先ドメイン毎にグループを作成し,送信条件を設定することにより円滑な配信を実現します。」

b 甲第37号証の記載事項

甲第37号証(センドマジックの変遷)には,以下の記載がある。
「2005 ドメイン別送信設定機能の実装」

c 甲第38号証の記載事項

甲第38号証(センドマジック 特徴機能)には,以下の記載がある。

「メール送信先ドメインごとに最適なタイミングで送信
たくさんのメール配信先に高速でメール送信を行う場合,これまではメール配信先ドメイン毎に分けて異なるタイミングで送信処理を行ったり複数のメールサーバに分割して送信したりと大変でした。センドマジックなら,複数のメール送信先が混在している送信先アドレスをそのまま送ってもメール配信先サーバー毎に適したタイミングを自動的にとり最適最速の送信を行います。」

d ここで,メールの配信先サーバであるメール受信サーバは,ドメイン毎に設けられることが一般的である。

e 上記a?dより,甲第36?38号証には,特に,電子メールの送信のタイミングに着目すると,以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「たくさんのメール配信先に高速でメール送信を行う場合,複数のメール送信先が混在している送信先アドレスをそのまま送ってもメール配信先サーバー(メール送信先ドメイン)毎に適したタイミングを自動的にとって,メール送信する技術。」

(エ) 小括

上記(ア)?(ウ)より,(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信することは,技術常識であるといえる。

オ 保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することについて

また,請求人は,上記第4の1(2)ウ(ウ)で述べたように,本件発明5(本件特許発明1-5)に関して,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されているようにが周知技術であり,さらに,甲第28号証の【0041】では,一時保留時間を経過すると配信処理が行われることが開示されている旨主張しているので,以下検討する。

(ア)甲第20号証記載事項

甲第20号証の記載事項は,上記2(1)オに記載したとおりであり,上記2(1)カで認定した甲20発明において,特に,電子メールの保留と送信に着目すれば,以下の技術的事項が認められる。

「フィルタがメッセージに適用され,ユーザの設定に応じて,メッセージを隔離させることができ,
保持時間は,メッセージが隔離に保持される期間であり,デフォルトアクションは,その保持時間に達すると,隔離内のすべてのメッセージに実行されるものであって,2つのデフォルトアクションがあり,
・削除-メッセージは削除され,
・リリース-メッセージは,配信のためにリリースされる」

ここで,ユーザの設定に応じて,メッセージが隔離され,保持時間に達すると,配信のためリリースされることは,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することに他ならない。

以上の技術的事項から,甲第20号証から,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信する技術が抽出できる。

(イ)甲第23号証記載事項

甲第23号証の記載事項は,上記2(2)ア(イ)に記載のとおりであり,特に,電子メールの保留および送信部分に着目すると,甲第23号証には,特に以下の技術的事項が記載されているといえる。

「特定のURLを記述した電子メールを多数の宛先に対して同報配信すると,この電子メールを受信したユーザが同時に指定されたURLへアクセスすると,そのURLのサーバへアクセスが集中し,システムダウンを引き起こす可能性がある」ことから,「同報配信されたメールの到達時刻を遅らせるための技術」であって,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(メーリングリストに属する個別電子メールアドレスのうち,異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように)分割し,グループごとに送信する技術。」

ここで,「同報配信されたメールの到達時刻を遅らせるため」に,「グループごとに送信する」が,電子メールを保留してから,送信することに対応するといえる。

(ウ)甲第27号証記載事項

甲第27号証の記載事項については,上記4(1)アに記載のとおりであり,特に,電子メールの保留および送信部分に着目すると,甲第27号証には,特に以下の技術的事項が記載されているといえる。

「「保留区分設定部4の設定に従い,保留の有無を判断し,保留時間を満了したり,送信指示信号40で保留の解除を指示された場合,送信メールデータ43を通信部8に送り,」「通信部8は送信メール34をネットワーク35へ送出する」技術。」

ここで,「保留区分設定部4の設定に従い,保留の有無を判断し,保留時間を満了したり,送信指示信号40で保留の解除を指示された場合,送信メールデータ43を通信部8に送り,」「通信部8は送信メール34をネットワーク35へ送出する」ことは,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することに対応するといえる。

(エ)甲第28号証記載事項

甲第28号証(特開2005-277976号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

a 段落【0001】
「【0001】
本発明は,送信者からの電子メールを一時保留し,送信先メールアドレスの間違い,複数宛先メールの送信先メールアドレスの入れ損ない,添付ファイルの付け忘れ等の人為的なミスによる誤送信を事前に確認できるようにした電子メール誤送信防止方法に関する。」

b 段落【0015】?【0041】
「【0015】
図1は,本発明の電子メール誤送信防止方法の一実施例に係る電子メール誤送信防止システムの概要を説明するための図,図2?図4は,図1の電子メール誤送信防止システムによる電子メール誤送信防止方法を説明するための図である。
【0016】
図1に示すように,電子メール誤送信防止システムは,メール送受信端末10及び送信メール保留装置20を備えている。また,メール送受信端末10と送信メール保留装置20とは,インターネット等のネットワークを介して相互に通信できるようになっている。
【0017】
メール送受信端末10は,各ユーザが所有する端末であり,通信機能を有するパソコン,携帯電話,PDA等を用いることができる。メール送受信端末10は,端末メール送受信部11及びWebページ閲覧部12を有している。端末メール送受信部11は,所謂,メーラーと呼ばれるメール送受信プログラムによって電子メールの送受信を行う機能を有している。Webページ閲覧部12は,WWWブラウザによってWebページを閲覧する機能を有している。
【0018】
送信メール保留装置20は,メール送受信端末10から受け付けた電子メールを一時的に保留するとともに,保留中の電子メールを送信保留中メールとして送信元のメール送受信端末10に送信する機能を有したサーバであり,メール送受信部21,メール受信受付部22,メール配送判断部23,保留メール保存部24,個人情報保存部25,個人設定受付部26,個人認証判断部27を備えている。
【0019】
メール送受信部21は,電子メールの送受信とユーザが利用しているメールサーバに電子メールを配信する機能を有するSMTPサーバであり,受け付けた電子メールのデータをメール受信受付部22へ渡す機能を有している。メール受信受付部22は,受け付けた電子メールを並べ(メールキュー),受付順に処理する機能を有している。
【0020】
ここで,受付順に処理するということは,メール配送判断部23によって保留の必要があると判断された電子メールを保留メール保存部24へ送ることでメール送受信部21からの配信を保留させ,メール配送判断部23によって保留の必要が無いと判断された電子メールについては,メール送受信部21から宛先側が利用しているメールサーバへ配信さ
せることである。
【0021】
また,受付順に処理するということは,メール配送判断部23によって保留の必要があると判断された電子メールを送信保留中メールとし,メール送受信部21から送信者側が利用しているメールサーバへ配信させることである。
【0022】
また,受付順に処理するということは,メール配送判断部23によって一時保留中メールの削除の指示があると,保留メール保存部24から該当する電子メールを削除することである。また,正常に削除できた場合は,後述のように,削除報告メールが作成され,メール送受信部21に渡されて送信者へのメール配信処理が行われる。
【0023】
メール配送判断部23は,メール受信受付部22内の電子メールのメールアドレスを示すデータ等から送信者を判断し,個人情報保存部25内の該当する個人情報と比較するとともに,メール受信受付部22に対し,保留の必要があると判断した電子メールを保留メール保存部24へ送る指示を出す機能を有している。保留の必要があるかどうかについての詳細は後述する。
【0024】
また,メール配送判断部23は,保留の必要があると判断した電子メールについて,宛先を送信者のメールアドレスとし,メール受信受付部22によって受け付けられた電子メールを送信保留中メールとして送信させるように指示を出す機能を有している。また,メール配送判断部23は,送信者側のメール送受信端末10から後述のように,一時保留中メールの削除依頼を受け付けると,該当する一時保留中の電子メールを保留メール保存部24から削除するようにメール受信受付部22に指示を出す機能を有している。
【0025】
保留メール保存部24は,メール配送判断部23によって保留の必要があると判断された電子メールを一定時間保留する機能を有している。個人情報保存部25は,各電子メールの利用者の必要となる個人情報を格納する機能を有している。個人情報の詳細については後述する。
【0026】
個人設定受付部26は,電子メールの利用者による個人設定登録時に,HTTPにより一時保留の設定に関わる要求を受けるとともに,その設定情報を個人情報として個人情報保存部25に保存する機能を有している。
【0027】
個人認証判断部27は,個人設定受付部26で要求を受け付けた際,個人情報保存部25を参照し,要求のあった個人の認証の判断を行う機能を有している。
【0028】
次に,図1の電子メール誤送信防止システムによる電子メール誤送信防止方法について説明する。
【0029】
まず,電子メールの利用者は,メール送受信端末10のWebページ閲覧部12から指定された送信メール保留装置20の個人設定受付部26へアクセスし,図2に示す内容の個人情報の設定を登録する。
【0030】
ここで,符号201は送信メールの一時保留機能を利用するかどうかを設定する項目,符号202は送信メールの一時保留時間を設定する項目,符号203は送信メールの一時保留機能を利用する場合であって,一時保留せずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目,符号204は全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配送するかどうかを設定する項目,符号205は全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配送する場合であって,配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である。
【0031】
また,これらの個人情報の設定を登録する場合には,ユーザ認証として,送信者本人のメールアドレスとメールパスワードとの入力が受け付けられる。この場合,送信メール保留装置20の個人情報保存部25に個人情報が保存されており,個人認証判断部27によってユーザ認証が行われる。そして,ユーザ認証が通った後,図2の一時保留の設定に関わる登録が可能となる。
【0032】
なお,図2の項目203,205にあっては,アカウントを*として,ドメインのみを指定するとした設定も可能である。また,図2の項目201,204にあっては,初期状態では全てがYesの設定とし,その設定を変更する必要がなく,しかも項目203,205にメールアドレスの設定がなければ全ての送信メールが一時保留されるとともに,全ての送信保留中メールが本人(送信者)に配送されることになる。ちなみに,図2の項目201,204にあっては,全てがNoの場合は送信者からの電子メールが一時保留されずに即配信されることになる。
【0033】
そして,図2の設定の登録が済んだ後,各送信者は電子メールを送信後,端末メール送受信部11によりメール受信を行う。ここで,図2の項目203の即配信リストに登録されていない宛先への電子メールは,送信メール保留装置20により一時的に保留される。一方,図2の項目203の即配信リストに登録されている宛先への電子メールは,一時的に保留されずに宛先に即配信される。
【0034】
次に,送信メール保留装置20のメール受信受付部22でのメール保留チェックのフローについて説明する。
【0035】
すなわち,図3に示すように,端末メール送受信部11により送信者からの電子メールが送信されると,送信メール保留装置20のメール送受信部21により,その電子メールが受信される(ステップS31)。
【0036】
ここで,メール配送判断部23により,個人情報保存部25に送信者メールアドレスが存在していない(未登録送信者メールアドレス)と判断されると(ステップS32),無条件で送信者からの電子メールがメール送受信部21から宛先側のメールサーバであるメール配送装置へメール配信される(ステップS37)。一方,登録済送信者メールアドレスであると判断された場合,個人情報保存部25に保存されている図2の各項目201?205の情報が参照される。
【0037】
ここで,図2の項目201で設定された情報が参照され,送信メールの一時保留機能を利用するか否かが判断される(ステップS33)。Noであれば,メール送受信部21へ電子メールのデータが渡され,宛先側のメールサーバであるメール配送装置へのメール配信が行われる(ステップS37)。
【0038】
Yesであれば,図2の項目203で設定されたメールアドレスの情報である即配信リストが参照され,一時保留せずに即配信するメールアドレスの場合は(ステップS34),メール送受信部21へ電子メールのデータが渡され,宛先側のメールサーバであるメール配送装置へのメール配信が行われる(ステップS37)。
【0039】
これに対し,図2の項目203で設定されたメールアドレスの即配信リストにメールアドレスが登録されていない場合であって,図2の項目204から全メールを本人に配送しない場合(ステップS35),送信者からの電子メールが一時保留状態となる(ステップS39)。また,図2の項目204から全メールを本人に配送する場合であって,図2の項目205から本人に配送しない送信不要リストに入っている場合(ステップS36),
送信者からの電子メールが一時保留状態となる(ステップS39)。
【0040】
また,図2の項目205から本人に配送しない送信不要リストに入っていない場合も,送信者からの電子メールが一時保留状態となる(ステップS39)。ここで,図2の項目205から本人に配送しない送信不要リストに入っていない場合,まず本人(送信者)のみへのメール配送が行われる(ステップS38)。ここでは,送信者宛となる送信保留中メールが作成され,メール送受信部21へ電子メールのデータが渡され,送信者が利用しているメールサーバであるメール配送装置へのメール配信が行われる。これにより,送信者は電子メールが宛先に配信される前に,自分が送信した送信保留中メールを受信することで,電子メールの内容を確認することができる。
【0041】
なお,(ステップS39)にて送信者からの電子メールが一時保留処理されている場合,図2の項目202の送信メール一時保留時間を経過すると,メール送受信部21へ電子メールのデータが渡され,宛先側のメールサーバであるメール配送装置への配信処理が行われる(ステップS39a)。」

(オ)小括

上記(ア)?(エ)より,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,本件特許出願前に周知の技術であったと認められる。

(3) 本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲26発明とを対比すると,次のことがいえる。

(ア) 本件発明1の構成要件11A,11Gについて

a 甲26発明の「m-FILTER装置」は,本件発明1の「情報処理装置」に対応する。

b 甲26発明の「m-FILTER装置」は,「企業や教育機関等における電子メールシステム」において,「MUAとMTAとの間において,MUAからシステム外部へ送信されるメールに対して,設定されたフィルタリングルールに応じて,送信,保留等の処理を行」うものであるから,甲26発明の,「MUAから」「メール」を受信し,「設定されたフィルタリングルールに応じて,送信,保留等の処理を行」う「m-FILTER装置」は,本件発明1の「端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置」に相当する。

(イ) 本件発明1の構成要件11Bについて

甲26発明の「m-FILTER装置」は,「メールヘッダー,本文,添付ファイルなど,さまざまな条件を組み合わせて多彩なフィルタリングルールを作成でき,そして,フィルタリングルールに該当したメールに対して,「管理者が承認したもののみ送信を許可」「宛先に管理者を加えて送信する」等のアクションを設定することができ」るものであって,「ルールに登録するフィルター条件のフィルター対象項目」は,「宛先」,「差出人」,「件名/本文」,「ヘッダー」,「添付ファイル」,「サイズ」であり,「複数のフィルター条件を設定した場合,それらをAND条件で判定するかOR条件で判定するかを指定することができ,AND条件を選択すると,すべての条件に該当した場合にのみ判定する」ものである。
また,「m-FILTER装置」が,「フィルター条件」と「アクション」とが対応付けられた「フィルタリングルール」を記憶しておく必要があり,そのための構成を備えることは,明らかである。
よって,甲26発明の「m-FILTER装置」の,「宛先」,「差出人」を「フィルタ対象項目」とし,「AND条件」が「選択」された「フィルター条件」と,「アクション」とが対応付けられた「フィルタリングルール」を記憶するための構成は,本件発明1の「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段」に相当する。

(ウ) 本件発明1の構成要件11Cについて

甲26発明の「m-FILTER装置」が,「MUAから」「メール」を受信するための構成を備えることは,明らかであり,甲26発明の「m-FILTER装置」の,上記受信するための構成は,本件発明1の「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段」と,送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段である点で共通する。

(エ) 本件発明1の構成要件11E,11Fについて

甲26発明の「m-FILTER装置」は,上記(ア),(イ)に記載したように,「MUAから」受信された「メール」に対して,記憶された「フィルタリングルールに応じて,送信,保留等の処理を行」うものであり,「m-FILTER装置」が,当該「処理」の内容を決定するための構成,及び,当該「処理を行」うための構成を備えることは,明らかである。
よって,甲26発明の「m-FILTER装置」の,上記「処理」の内容を決定するための構成は,本件発明1の「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記送信先と送信元とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段である点で共通する。
また,甲26発明の「m-FILTER装置」の,上記「処理を行」うための構成は,本件発明1の「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段」と,前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段である点で共通する。

イ 一致点および相違点

したがって,本件発明1と甲26発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
「 端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記送信先と送信元とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備える情報処理装置。」

[相違点1-26](本件発明1の構成要件11C)
受信手段において,端末装置から受信する電子メールに関して,本件発明1では,「複数の送信先が設定された電子メール」であるのに対して,甲26発明では,そのような特定がされていない点。

[相違点2-26](本件発明1の構成要件11D,11E,11F)
本件発明1は,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」(構成要件11D)を備え,決定手段において「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」(構成要件11E)し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F)のに対して,甲26発明は,そのような「分割手段」,「決定手段」および「制御手段」を備えていない点。

ウ 相違点について

上記[相違点1-26]および[相違点2-26]について検討する。

(ア) 上記[相違点1-26]について

甲第26号証には,「MUAから」受信する「メール」に,複数の「宛先」が設定された「メール」が含まれることは明記されていないものの,1つの「宛先」が設定された「メール」のみを,m-FILTER装置が「MUAから」受信することが記載されていない以上,「MUAから」受信する「メール」には,複数の「宛先」が設定された「メール」が含まれると解するのが自然である。
よって,上記[相違点1-26]は,実質的な相違点ではない。

(イ) 上記[相違点2-26]について


a 甲26発明への周知技術1の適用

甲26発明は,電子メールを分割する手段を備えていないから,上記2(2)イで認定した,「同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する周知技術1」を甲26発明に適用することを検討する。

上記2(2)イで認定した周知技術1は,「同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する」ものであるから,甲26発明に当該周知技術1を適用した場合,複数の電子メールアドレスが「宛先」として設定された同報「メール」に対して,「フィルタリングルールに応じて,」「保留等の処理を行」った後に,受信者端末へ送信する際に,送信する「メール」の「宛先」(電子メールアドレス)が複数である場合に,「宛先」(電子メールアドレス)ごとに分割して送信する構成となるにすぎず,分割された後に制御内容を決定したり,送信制御を行う構成とはならない。

したがって,甲26発明に,周知技術1を適用しても,決定手段において「前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」する構成,すなわち,[相違点2-26]に係る本件発明1の構成には至らない。

b 甲26発明への請求人主張の技術常識等の適用

(a) また,上記第4の1(2)ウ(イ)aに記載したように,請求人は,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証を根拠とする「あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留する」技術常識,および,甲第34号証,甲第35号証及び甲第36?38号証を根拠とする「ドメイン毎に異なるタイミングで送信する」技術常識に基づいて,本件発明1の進歩性欠如を主張しているので,以下検討する。

(b)「あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留する」技術常識について

上記(2)ウ(エ)で述べたように,甲第20号証および甲第23号証を根拠として,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを当該カテゴリ単位に分割して保留する技術が抽出できるが,甲第27号証記載技術においては,電子メールを分割していることを認めることはできないから,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術と,甲第27号証記載技術と,をひとまとまりの技術常識として認定することはできない。

そこで,甲26発明への,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術の適用について検討し,次に,甲26発明への甲第27号証記載技術の適用を検討する。

まず,甲26発明へ,甲第20号証および甲第23号証から抽出された,あるカテゴリに属する送信先に対する電子メールを当該カテゴリ単位に分割して保留する技術を適用しても,電子メールの分割は,カテゴリ単位となり,本件発明1の「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」すなわち,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割する分割手段」という[相違点2-26]に係る本件発明1の構成には至らない。

次に,甲26発明へ,甲第27号証記載技術を適用しても,上記(2)ウ(エ)で述べたように,そもそも,甲第27号証記載技術において,電子メールを分割していることを認めることはできないから,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」すなわち,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割する分割手段」という[相違点2-26]に係る本件発明1の構成には至らない。

(c)「ドメイン毎に異なるタイミングで送信する」技術常識について

甲26発明へ,上記(2)エ(エ)において,甲第34号証,甲第35号証,及び甲第36?38号証を根拠として認定した「(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信する」技術常識を適用しても,複数の電子メールアドレスが設定された(同報)電子メールを,個々の電子メールアドレス毎に分割することは導出できないから,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」すなわち,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割する分割手段」という[相違点2-26]に係る本件発明1の構成には至らない。

エ 小括

したがって,本件発明1についての特許は,請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

(4) 本件発明2ないし5,7,9ないし11について

本件発明2ないし5,7,9ないし11は,本件発明1を減縮した発明であり,本件発明12は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置の制御方法」の発明であり,本件発明13は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置で実行可能なプログラム」の発明を,「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」についてそれぞれ限定することにより,減縮した発明であって,上記[相違点2-26]に係る本件発明1の構成と実質的に同一の構成を備えるものである。

また,上記第4の1(2)ウ(ウ)に記載したように,請求人は,本件発明5に関して,上記(2)オ(エ)に記載した「保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信する」周知技術の適用について主張しているが,甲26発明に,当該周知技術を適用しても,上記[相違点2-26]に係る本件発明1の構成に至らない。

よって,本件発明2ないし5,7,9ないし13についての特許は,本件発明1についての特許と同様の理由により,請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

(5) 小括

以上のとおり,本件発明1ないし5,7,9ないし13についての特許は,いずれも請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

4 無効理由3(甲第27号証に基づく進歩性)について

上記1(4)で述べたように,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」が該当し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合は該当しないと解することが相当であるから,無効理由3のうち,本件発明における「送信先」として,ユーザ名を含まずに「ドメイン」名のみの場合が該当することを前提とした無効理由3(上記第4の1(2)エ(ア))は,前提において誤っており,当該無効理由3によって,本件発明についての特許を無効とすることはできない。

以下では,本件発明における「送信先」は,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみが該当するとの解釈を前提とする無効理由3(上記第4の1(2)エ(イ))について検討する。

具体的には,電子メールを個々の送信先に分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証などに示すように周知技術であり,(審判請求書180頁下から7行?同頁下から6行)
技術常識として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが甲第20号証で開示され,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが甲第23号証,甲第34号証,および甲第36?38号証で開示されており,(審判請求書180頁下から5行?同頁下から3行)
甲第27号証発明において,技術常識(甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,および甲第36?38号証)の存在を前提として,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証のように電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつくから,(審判請求書180頁下から2行?181頁16行)
本件発明1ないし5,7,9ないし13(本件特許発明1-1乃至1-11)についての特許は,甲第27号証発明と,周知技術(甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証,甲第25号証)および技術常識(甲第20号証,甲第23号証,甲第34号証,甲第36?38号証)とから進歩性を有さない旨の無効理由3について検討する。

(1) 甲27号証について

ア 甲第27号証の記載事項

甲第27号証(特開2006-185094号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア) 段落【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明は,電子メールの送信装置及び送信制御方法に関し,特に電子メールの送信を一旦保留する機能を備えた電子メール送信装置及び電子メール送信制御方法に関する。」

(イ) 段落【0016】
「【0016】
(発明の目的)
本発明は上記のような技術的欠陥に鑑みて行われたもので,送信先の区分で限定した送信メールのみ,送信操作後,一時的に送信を保留することにより,効果的に送信ミスを防ぐことができる電子メール送信装置を提供することを目的とする。」

(ウ) 段落【0028】?【0056】
「【0028】
本発明を実施するための最良の形態について,図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明を実施するための最良の形態を示すブロック図である。図2は送信先のアドレス情報の記録内容の一例を示す表である。図3は送信メールの区分のための区分情報の一例を示す表である。図4は最良の形態の動作を示すフローチャートである。
【0029】
本実施形態の電子メール送信装置は,ユーザインタフェース部1,送信先アドレス記録部2,メール作成部3,保留区分設定部4,メール保留部5,タイマ6,送信処理部7,通信部8を備えている。
【0030】
ユーザインタフェース部1は,送信メールの送信先アドレス,メール本文等のメールデータ9及び送信メールの送信指示10を入力する。そして,メールデータ9は送信メール入力データ11としてメール作成部3へ,送信指示10は送信指示信号12として送信処理部7へ出力される。なお,送信指示10は,送信処理部7への,メール作成完了時の送信指示及び保留メールの送信中止指示を行う。
【0031】
送信先アドレス記録部2は,送信先の名前など,送信者にわかりやすい呼び名に対応させて送信先のメールアドレスを登録した,いわゆる「アドレス帳」である。送信先アドレス記録部2は,送信先のアドレスデータ13をメール作成部3へ出力する。
【0032】
図2に,送信先アドレス記録部2の記録内容例を示す。このように,名前に対応させてメールアドレスが登録されており,実際に登録内容が読み出されたときは,アドレスデータの欄のデータが出力される。このとき,アドレスデータ13にはメールアドレスに送信先の名前が添付され,所定のフォーマットで出力される。
【0033】
なお,図2で例示したメールアドレスの,ユーザ名,ドメイン名に使用した組織種別,国別コードは一例である。また,文字#,$,%,&,\,?は,仮に記載した文字であって,実際にはドメイン名に併せて,文字の内容,文字数,カンマの位置・個数等は変更される。
【0034】
メール作成部3は,送信メール入力データ11と送信先に対応するアドレスデータ13を入力し,送信メールデータ14を作成し,送信処理部7へ引き渡す。送信メールデータ14には,アドレスデータ13に含まれるメールアドレス,送信先の名前ともに取り込まれる。
【0035】
保留区分設定部4は,送信メールデータ14を分類するための分類規則,分類の方法及びそれぞれの分類ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持し,区分情報15として出力する記憶装置である。送信処理部7は,区分情報15に従い,送信メールデータ14の送信を一時保留するか,即座に送信するか判断する。
【0036】
ここでいう「送信メールデータの分類」とは,例えば,送信先による分類,メールの内容による分類,メールの重要度・機密度による分類がある。区分情報15には,これらの区分と,それぞれに分類するための方法,各区分ごとの保留の要否が設定されている。
【0037】
図3に,区分情報15の例を示す。図3では,送信メールを送信先で分類し,「顧客」,「社内幹部」,「上司」,「同僚,部下」,「その他」に分類している。そして,それぞれの区分ごとの送信処理,すなわち「一時保留」,又は「即時送信」を設定している。図3の区分情報は一例であり,何に基づき分類するか,どう区分するか,それぞれの送信処理をどう設定するかは任意である。
【0038】
メール保留部5は,送信を保留する送信メールデータ16を一時的に保存する記憶装置である(送信が保留された状態の送信メールを,以降,「保留メール」という。)。そして,保留メールが送信されるときに,保留メールデータ17を送信処理部7に出力し,送信を中止するときは,保留メールデータを消去する。メールの送信実行,送信保留,送信中止は送信処理部7の指示に従う。
【0039】
タイマ6は,保留メールの保留時間を計測し,時間経過,保留時間満了をタイマ出力信号18で送信処理部7に通知する。保留時間は,例えば,30秒,1分など任意である。保留時間は,固定の時間に設定してもよいし,送信先によって異なる時間に設定してもよい。
【0040】
送信処理部7は,送信メールデータ14の送信の保留有無を区分情報15に基づき判断する。送信を保留するときは送信メールデータ14を送信メールデータ16としてメール保留部5に保存し,即座に送信するときは送信メールデータ14を送信メールデータ19として通信部8に出力する。
【0041】
そして,送信処理部7は,タイマ出力信号18により保留時間の満了が通知されたときは,送信が保留されている保留メールデータ17を送信メールデータ19として通信部8に出力する。保留時間の満了が通知されるまでに送信指示信号12により保留メールの送信中止が通知されたときは,メール保留部5内の保留メールデータを消去する。
【0042】
通信部8は,送信処理部7からの送信メールデータ19を送信先アドレスに向けて送信する。
【0043】
(最良の形態の動作)
次に,図3のフローチャートを参照しながら,本発明の電子メール送信装置の動作について説明する。
【0044】
まず初めに,メール作成部3は,送信メールデータ14を作成する(S1)。
【0045】
送信処理部7は,送信メールデータ14を受け取ると,送信指示信号12を確認する(S2)。送信指示信号12が送信メールの作成完了を示す場合,送信メールデータ14のアドレスデータと区分情報15に基づき保留対象に該当するかどうか判断し,対応した処理を行う(S3)。
【0046】
なお,ここでのアドレスデータは送信先アドレス記録部2が送信メールデータ14に追加したアドレスデータであり,図2に示したように,メールアドレス以外に,送信先の名称,敬称等が添付されている。この添付された敬称等を利用し,区分情報15に従った分類をする。具体的には,アドレスデータは送信メールデータ14のヘッダ部に記入されているので,図3に示した文字列を,ヘッダの文字列の中で検索する。そして,検索した文字列が発見されたときは,該当する送信先区分と分類する。
【0047】
S3において,送信先が保留対象に該当しない場合,送信処理部7は送信メールデータ14を直ちに送信メールデータ19として通信部8に送り,通信部8は送信メールデータ19を送信先アドレスへ送信する(S4)。
【0048】
送信先が保留対象に該当する場合,送信メールデータ14を送信メールデータ16としてメール保留部5へ格納する(S5)。さらに,送信処理部7は,保留メールの送信を保留する時間(保留時間)をタイマ6に設定する(S6)。
【0049】
タイマ6への保留時間設定後,送信処理部6は送信指示信号12の監視(S7),及びタイマ出力信号18の監視を行う(S8)。
【0050】
送信指示信号12が送信中止を指示するときは,メール送信を中止し,メール保留部5に保存されている保留メールを削除する(S9)。
【0051】
送信指示信号12による送信中止の指示がないまま,タイマ出力信号18が保留時間の満了を表示したとき,送信処理部7は,メール送信処理を再開し,保留メールデータ17を送信メールデータ19として通信部8へ引き渡す。そして,通信部8は送信メールデータ19を送信先アドレスへ送信する(S10)。
以上の構成とそれを用いた動作制御により,メール送信する際に,所定の区分に該当する送信メールのみ,一定時間実際のメール送信処理を保留する。そして,保留時間内にユーザによる送信中止指示があった場合はメール送信処理を中止する。送信中止指示がなく,保留時間が経過した場合は,自動的に,かつユーザに意識させることなくメール送信処理を再開させる。つまり,送信先が所定の区分に該当するときは,送信操作を行った直後に送信相手先の間違いや内容の間違いに気付いた場合,間違ったメールを送信することなくメールを削除することができる。
【0052】
従って,重要な送信先,重要な内容のメールの送信操作を行った直後に,送信先,内容などのミスを犯した場合に,問題が発生するのを未然に防ぐことができるという効果がある。
【0053】
また,すべての送信メールを保留するのではなく,ユーザが「一時保留」に設定した送信先への送信メールのみ保留する。そのため,注意がなおざりになるのを防ぐことができ,また,保留メールを保存する記憶容量も削減することができる。
【0054】
さらに,保留すべき送信メールかどうかを判断するために,ユーザに特別な処理を要求することはない。すなわち,送信先アドレス記録部2(アドレス帳)に,送信先のメールアドレスと共に,送信先区分を考慮した「名前」を登録しておくのみでよく,保留の要否判断は送信処理部7が自動的に行う。
【0055】
最良の形態では,アドレスデータ13に含まれる送信先の「名前」を用いて,送信先の分類を行った。分類には他のデータを使用することも可能である。例えば,送信メールのタイトルを分類に用いて,「一般通知」,「重要通知」,「進展」,「丸秘」等,重要度による分類を行ってもよい。図5にメール・タイトルを用いた分類の例を示す。この場合,送信処理部7は,送信メールデータ14のヘッダ部にあるメール・タイトルの文字列を順に検索し,該当する文字列が見つかったとき,規定の分類を行い,一時保留又は即時送信を決定する。送信タイトルに図5の文字列がない場合は,安全のためにすべて一時保留としている。図5の分類方法は一例であり,どのような文字列を検索し,どのように分類してもよい。
【0056】
あるいは,送信メール14の本文中の文字列を用いて分類してもよい。図6にメール本文を用いた分類の例を示す。この場合,送信処理部7は,メールデータ14の本文中の文字列を順に検索し,該当する文字列が見つかったとき,規定の分類を行い,一時保留又は即時送信を決定する。図6についても,メール本文に指定の文字列がない場合は,安全のためにすべて一時保留としている。図6の分類方法も一例であり,どのような文字列を検索し,どのように分類してもよい。」

(エ) 段落【0091】?【0101】
「【実施例3】
【0091】
以上の実施形態,実施例では,送信の保留要否の判断,メールの保留,保留メールの送信・削除は,電子メール送信装置内で行った。これらの処理は,電子メール送信装置の外部で行ってもよい。
【0092】
図15は電子メールが送信先に届けられるときの一般的なネットワーク構成である。初めに,電子メールが電子メール送信装置30から電子メール受信装置31に届けられる通常のデータの流れを説明する。電子メール送信装置30が送信した送信メール32は,まず送信メールサーバ33が受信する。送信メールサーバ33は,受信した送信メール32を送信メール34としてネットワーク35を経由して,受信メールサーバ36へ送信する。受信メールサーバ36は,送信されてきた受信メール37を,受信メールサーバ36の内部にある電子メール受信装置31用の保存領域(メールボックス)に保存する。電子メール受信装置31は,適当な時間間隔でメール要求信号38を受信メールサーバ36に送り,受信メールがある場合の送信を要求する。メール受信サーバ36はメールボックスに受信メールがある場合,電子メール受信装置31へ受信メール39を送信する。
【0093】
第3の実施例では,送信メールサーバ33は通常の動作以外に,送信メール32の送信保留機能を備えている。送信メールサーバ33は,送信メール32を受信したとき,所定の基準で送信を保留するか否か判断し,保留する場合は送信メールサーバ33の内部にあるメール保留部に保存する。そして,送信メールサーバ33は,電子メール送信装置30からの保留解除又は送信中止の指示である送信要求信号40に従い,保留したメールを送信又は消去する。また,保留時間が満了したときは,保留時間満了通知41で電子メール送信装置30にそのことを知らせ,送信要求信号40の出力を要求する。
【0094】
図16は第3の実施例の送信メールサーバ33の内部の構成の例を示すブロック図である。送信メールサーバ33は,保留区分設定部4,メール保留部5,タイマ6,送信処理部7,通信部8を備えている。
【0095】
送信処理部7は,受信した送信メール32の送信メールデータ42の送信先,メール内容・重要度に従い,送信の保留の要否を判断する。送信を保留するときはメール保留部5に送信メールデータ16を保存する。判断基準は,最良の実施の形態,第1の実施例,第2の実施例と同じでよく,保留区分設定部4の設定に従い,保留の有無を判断する。タイマ6は保留する時間を計測する。保留時間を満了したり,送信指示信号40で保留の解除を指示された場合,送信処理部7は,送信メールデータ43を通信部8に送り,通信部8は送信メール34をネットワーク35へ送出する。これ以降の,受信メールサーバ36及び電子メール受信装置31の動作は通常のメール送信時と同じである。
【0096】
電子メール送信装置30と送信メールサーバ33との,送信指示信号40及び保留時間満了通知41のやりとりの方法は種々の方法が可能であり,本発明のメール送信制御においては特に限定されない。電子メールの形態でもよいし,特殊なコマンドを含むパケットの送信でもよい。
【0097】
また,保留時間満了通知41には,保留時間の満了の通知のみでなく,図10のチェック項目51のような確認事項も送信してもよい。
【0098】
第3の実施例によれば,メールの送信の保留制御を外部の送信メールサーバで行うことができる。そのため,送信を保留できるメールの総数やメールデータのサイズの制約が緩和される。従って,送信の保留が必要なメールは,メールの数やデータサイズに関係なく保留することが可能となる。
【0099】
また,一般的には,電子メールの送信用端末よりも処理性能は高いと考えられるので,より複雑な保留判断基準を設けることもできる。そのため,複雑な判断基準で保留の要否を判断できるので,本当に保留が必要なメールのみ保留することができる。
【0100】
最良の実施形態,第1の実施例,第2の実施例における電子メール送信装置は,電子メール送信機能を備えた装置であれば特に限定されない。ここでの電子メール送信装置の具体例としては,携帯電話,携帯情報端末(PDA),パーソナルコンピュータ,ゲーム機などがある。このとき,通信部8は,無線通信機であれば無線信号を送受信するブロック,有線通信機であれば有線信号を送受信するブロックがこれに該当する。
【0101】
また,第3の実施例の情報提供装置は,電子メール送信装置,電子メール受信装置が接続されるネットワーク上に存在し,所定の情報提供を行う装置であれば特に限定されない。具体例としては,インターネット上のメールサーバ(特に,SMTPサーバ)がある。」

(オ) 図15,16
「【図15】


【図16】



図15,16の記載によれば,送信メールサーバ33の通信部8は,送信メール32を電子メール送信装置30から受信するものである。

イ 甲27発明

上記ア(ア)?(オ)の記載から,甲第27号証には,次の発明(以下,「甲27発明」という。)が記載されていると認められる。

「保留区分設定部4は,送信メールデータ14を分類するための分類規則,分類の方法及びそれぞれの分類ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持し,区分情報15として出力する記憶装置であって,ここでいう「送信メールデータの分類」とは,例えば,送信先による分類,メールの内容による分類,メールの重要度・機密度による分類があり,区分情報15には,これらの区分と,それぞれに分類するための方法,各区分ごとの保留の要否が設定されており,
電子メール送信装置30が送信した送信メール32は,まず送信メールサーバ33が受信し,
送信メールサーバ33は,
受信した送信メール32を送信メール34としてネットワーク35を経由して,受信メールサーバ36へ送信するとともに,通常の動作以外に,送信メール32の送信保留機能を備えており,
送信メール32を受信したとき,所定の基準で送信を保留するか否か判断し,保留する場合は内部にあるメール保留部5に保存し,そして,電子メール送信装置30からの保留解除の指示である送信要求(指示)信号40に従い,保留したメールを送信するものであって,
保留区分設定部4,メール保留部5,送信処理部7,通信部8を備えており,
送信処理部7は,受信した送信メール32の送信メールデータ42の送信先,メール内容・重要度に従い,送信の保留の要否を判断し,送信を保留するときはメール保留部5に送信メールデータ16を保存するものであって,保留区分設定部4の設定に従い,保留の有無を判断し,保留時間を満了したり,送信要求(指示)信号40で保留の解除を指示された場合,送信メールデータ43を通信部8に送り,
通信部8は送信メール34をネットワーク35へ送出するとともに,送信メール32を電子メール送信装置30から受信する,
送信メールサーバ33。」


(2) 請求人主張の周知技術及び技術常識について

請求人は,上記第4の1(2)エ(イ)に記載したように,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証を根拠として,電子メールを個々の送信先に分割することが周知技術である旨主張し,さらに,甲第20号証を根拠として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが技術常識である旨主張し,また,甲第23号証,甲第34号証,および甲第36?38号証を根拠として,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが技術常識である旨主張しているので,以下検討する。

ア 電子メールを個々の送信先に分割することについて

上記2(2)イで述べたように,甲第21号証,甲第24号証および甲第25号証に基づいて,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割して送信する技術が周知技術1であると認められる。

しかし,甲第23号証と上記周知技術1とは,解決すべき課題等にも共通性がなく,電子メールを分割するタイミング等も相違しているから,甲第23号証と,上記周知技術1とを,ひとまとまりの技術として取り扱うことはできない。

以下では,甲27発明と上記周知技術1との組み合わせについて検討する(後記(3)ウ(イ)a)とともに,念のため,甲27発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについても検討する(後記(3)ウ(イ)b)。

イ ポリシー毎に電子メールを分割して保留することについて

甲第20号証の記載事項は,上記2(1)オに記載したとおりであり,上記2(1)カで認定した甲20発明において,特に,電子メールの分割と保留に着目すれば,少なくとも,甲第20号証からポリシー毎に電子メールを分割して保留する技術が抽出できる。

ウ ドメイン毎に異なるタイミングで送信することについて

上記3(2)エ(エ)で述べたように,甲第34号証,および甲第36?38号証に基づいて,(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信することが技術常識であることが認められる。

そして,上記アで述べたように,甲27発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについては,別途検討する(後記(3)ウ(イ)b)。

(3) 本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲27発明とを対比すると,次のことがいえる。

(ア) 本件発明1の構成要件11A,11Gについて

a 甲27発明の「送信メールサーバ33」は,本件発明1の「情報処理装置」に対応するものであって,「保留区分設定部4,メール保留部5,送信処理部7,通信部8を備えて」いる。

b 甲27発明の「送信メールサーバ33は,受信した送信メール32を送信メール34としてネットワーク35を経由して,受信メールサーバ36へ送信するとともに,通常の動作以外に,送信メール32の送信保留機能を備えており,送信メール32を受信したとき,所定の基準で送信を保留するか否か判断し,」「通信部8」は,「送信メール32を電子メール送信装置30から受信する」ものであるから,甲27発明の,「送信メール32を電子メール送信装置30から受信」し,「所定の基準で送信を保留するか否か判断」する「送信メールサーバ33」は,本件発明1の「端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置」に相当する。

(イ) 本件発明1の構成要件11Bについて

甲27発明の「保留区分設定部4は,送信メールデータ14を分類するための分類規則,分類の方法及びそれぞれの分類ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持し,区分情報15として出力する記憶装置であって,ここでいう「送信メールデータの分類」とは,例えば,送信先による分類,メールの内容による分類,メールの重要度・機密度による分類があり,区分情報15には,これらの区分と,それぞれに分類するための方法,各区分ごとの保留の要否が設定されて」いるところ,甲27発明の「保留区分設定部4」は,「送信メールデータ」の「送信先」「ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持」「する記憶装置であ」る。
よって,甲27発明の,「送信メールデータ」の「送信先」「ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報を保持」「する記憶装置であ」る「保留区分設定部4」は,本件発明1の「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段」と,電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信先に対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段である点で共通する。

(ウ) 本件発明1の構成要件11Cについて

甲27発明の,「送信メール32を電子メール送信装置30から受信する」「通信部8」は,本件発明1の「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段」と,送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段である点で共通する。

(エ) 本件発明1の構成要件11Eについて

甲27発明の「送信処理部7」は,「保留区分設定部4の設定」,すなわち,「保留区分設定部4」に「保持」された「区分情報」,及び,「電子メール送信装置30から」「受信した送信メール32の送信メールデータ42の送信先」「に従い,送信の保留の要否を判断するものであ」るから,甲27発明の,「保留区分設定部4」に「保持」された「区分情報」,及び,「電子メール送信装置30から」「受信した送信メール32の送信メールデータ42の送信先」「に従い,送信の保留の要否を判断する」「送信処理部7」は,本件発明1の「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記送信先とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段である点で共通する。

(オ) 本件発明1の構成要件11Fについて

甲27発明の「送信処理部7」は,「送信を保留するときはメール保留部5に送信メールデータ16を保存する」とともに,「即座に送信するとき」や,「保留時間を満了したり,送信指示信号40で保留の解除を指示された場合,送信メールデータ43を通信部8に送り,通信部8は送信メール34をネットワーク35へ送出する」ものであるから,甲27発明の,「送信を保留するときはメール保留部5に送信メールデータ16を保存する」とともに,「即座に送信するとき」,「送信メールデータ43を」,「送信メール34をネットワーク35へ送出する」「通信部8に送」る「送信処理部7」は,本件発明1の「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段」と,前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段である点で共通する。

イ 一致点,相違点

したがって,本件発明1と甲27発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
「 端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信先に対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と,
送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記送信先とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備える情報処理装置。」

[相違点1-27](本件発明1の構成要件11B)
記憶手段に記憶された制御ルールに関して,本件発明1では,「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」であるのに対して,甲27発明では,「送信メールデータ」の「送信先」「ごとの送信の一時保留の要否の設定情報である区分情報」である点。

[相違点2-27](本件発明1の構成要件11C)
受信手段において,端末装置から受信する電子メールに関して,本件発明1では,「複数の送信先が設定された電子メール」であるのに対して,甲27発明では,そのような特定がされていない点。

[相違点3-27](本件発明1の構成要件11D,11E,11F)
本件発明1は,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」(構成要件11D)を備え,決定手段において「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し(構成要件11E),制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F)のに対して,甲27発明は,そのような「分割手段」,「決定手段」および「制御手段」を備えていない点。



ウ 相違点についての判断


(ア) 上記[相違点3-27]について

事案に鑑みて,まず,[相違点3-27]について検討する。

a 甲27発明への周知技術1の適用

(a) 上記1(3)ウ(イ)cで述べたのと同様に,甲27発明に周知技術1を適用した場合,「送信先」(メールアドレス)が複数である「送信メール」に対して,「所定の基準で送信を保留するか否か判断し」た後(制御内容を決定した後)に,送信する「送信メール」の「送信先」(メールアドレス)が複数である場合に,「送信先」(メールアドレス)ごとに分割して送信する構成となるにすぎず,分割された後に制御内容を決定したり,送信制御を行う構成とはならないから,本件発明1のように,決定手段において「前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」する構成,すなわち,[相違点3-27]に係る本件発明1の構成には至らない。

(b) 請求人は,上記第4の1(2)エ(イ)aに記載したように,甲27発明への周知技術1の適用に際して,ポリシー毎に電子メールを分割して保留する技術常識や,(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信する技術常識の存在を前提として,電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつく旨主張しているが,これらの技術常識を前提としても,周知技術1では電子メールを分割して送信しているにすぎず,分割された後に制御内容を決定したり,送信制御を行う構成とはならないから,本件発明1のように,決定手段において「前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」する構成,すなわち,[相違点3-27]に係る本件発明1の構成には至らない。

(c) したがって,上記技術常識を前提として,甲27発明に周知技術1を適用しても,本件発明1の[相違点3-27]に係る構成には至らない。

b 甲27発明と甲第23号証記載技術との組み合わせ

(a) 上記3(2)ウ(イ)に記載したように,甲第23号証には,以下の技術的事項が記載されているといえる。

「特定のURLを記述した電子メールを多数の宛先に対して同報配信すると,この電子メールを受信したユーザが同時に指定されたURLへアクセスすると,そのURLのサーバへアクセスが集中し,システムダウンを引き起こす可能性がある」ことから,「同報配信されたメールの到達時刻を遅らせるための技術」であって,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(メーリングリストに属する個別電子メールアドレスのうち,異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように)分割し,グループごとに送信する技術」

甲第23号証記載技術では,「電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し」ているものの,変換した電子メールの分割に関しては,「異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように」複数のグループに分割しているから,複数の電子メールアドレスが設定された(同報)電子メールを,個々の電子メールアドレス毎に分割することは導出できない。
したがって,甲27発明に,甲第23号証記載技術を適用しても,[相違点3-27]に係る本件発明1の構成には至らない。

c 以上aおよびbより,甲7発明及び周知技術1や上記bの甲第23号証並びに上記a(b)の技術常識に基づいて,上記[相違点3-27]に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であっても,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 小括

したがって,上記[相違点1-27]および[相違点2-27]について検討するまでもなく,本件発明1についての特許は,請求人が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。

(4) 本件発明2ないし5,7及び9ないし13について

本件発明2ないし5,7及び9ないし11は,本件発明1を減縮した発明であり,本件発明12は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置の制御方法」の発明であり,本件発明13は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置で実行可能なプログラム」の発明を,「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」についてそれぞれ限定することにより,減縮した発明であって,上記[相違点3-27]に係る本件発明1の構成と実質的に同一の構成を備えるものである。

また,上記第4の1(2)エ(ウ)に記載したように,請求人は,本件発明7に関して,電子メールにエンベロープ情報が存在することは技術常識である旨主張しているが,甲27発明に,当該技術常識をふまえても,上記[相違点3-27]に係る本件発明1の構成に至らない。


よって,本件発明1と同じ理由により,本件発明2ないし5,7,9ないし13についての特許も,請求人が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。

(5) 小括

以上のとおり,本件発明1ないし5,7及び9ないし13についての特許は,いずれも,請求人が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。

5 無効理由4(甲第29号証に基づく進歩性)について

上記1(4)で述べたように,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」が該当し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合は該当しないと解することが相当であるから,無効理由4のうち,本件発明における「送信先」として,ユーザ名を含まずに「ドメイン」名のみの場合が該当することを前提とした無効理由4(上記第4の1(2)オ(ア))は,前提において誤っており,本件発明についての特許は,当該無効理由4によって無効とすることはできない。

以下では,本件発明における「送信先」には,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみが該当するとの解釈を前提とする無効理由4(上記第4の1(2)オ(イ))について検討する。

具体的には,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証で開示されている。(審判請求書の203頁1?5行)
電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割することは甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証で開示されているとおり周知技術である。(審判請求書の203頁6?7行)
技術常識として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが甲第20号証で開示され,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することも,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証),及び甲第36?38号証で開示されているように技術常識である。(審判請求書の203頁8?10行)

このような技術常識が存在している状況において,複数の送信先を設定した場合に甲第29号証で示されているように,組織内の電子メールを保留せず,組織外の電子メールだけを保留するためにはどうしたらよいかを当業者が検討した場合,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証及び甲第25号証のように電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつくから,本件発明1ないし5,7,9ないし13(本件特許発明1-1乃至1-11)についての特許は,進歩性を有さない旨の無効理由4について検討する。

(1) 甲29号証について

ア 甲第29号証の記載事項

甲第29号証(特開2007-065787号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア) 段落【0001】
「【0001】
この発明は,電子メールの配送をおこなうメール送受信プログラムおよびメール送受信装置に関し,特に,不適切な電子メールの送信を事前に防止することができるメール送受信プログラムおよびメール送受信装置に関する。」

(イ) 段落【0007】
「【0007】
この発明は,上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり,不適切な電子メールの送信を事前に防止することができるメール送受信プログラムおよびメール送受信装置を提供することを目的とする。」

(ウ) 段落【0024】?【0060】
「【0024】
まず,本実施例に係るメール送受信方式の概要について説明する。図1は,本実施例に係るメール送受信方式の概要を説明するための説明図である。
【0025】
同図に示すように,本実施例に係るメール送受信装置100は,メールの配送依頼を受けると,送信先が組織外であるか否かを判定する。そして,送信先が組織外であると判定した場合は,メールを承認待ちの状態として承認者に組織外への送信の承認を求める。
【0026】
承認待ちの状態となったメールは,承認者の承認が得られるまでは送信を保留され,承認が得られてはじめて組織外へ送信される。もし,承認者の承認が得られなかった場合には,メールは送信否決の状態となり,送信されずにメール送受信装置100内に残される。
【0027】
このように,本実施例に係るメール送受信方式では,メールの送信先が組織外であると判定した場合に,承認者の承認が得られるまでは組織外への送信を保留するように構成したので,不適切なメールの外部への送信を事前に防止することができる。
【0028】
ここで,メール送受信装置100の基本機能について説明しておく。図2は,本実施例に係るメール送受信装置100の基本機能を説明するための説明図である。同図に示すように,メール送受信装置100は,SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)機能と,POP(Post Office Protocol)/IMAP(Internet Message Access Protocol)機能と,WEBメール機能という3つの基本機能を有する。
【0029】
SMTP機能は,メールの配送をおこなう機能である。具体的には,配送を依頼されたメールのヘッダ情報から配送先を決定し,決定した配送先へメールを配送する処理をおこなう。メールの配送の依頼元は,端末装置201?202のようなメールの送信者が利用する端末装置,もしくは,メール送受信装置101?103のような他のメール送受信装置である。また,メールの配送先は,メール送受信装置101?103のような他のメール送受信装置,または,メール送受信装置100内のメールスプールである。
【0030】
POP/IMAP機能は,メール送受信装置100内のメールスプールに格納されているメールを受信者の求めに応じて受信もしくは閲覧させる機能である。受信もしくは閲覧に際しては,ユーザ名とパスワードを送信させ,予め登録されている認証情報と一致した場合のみ,当該ユーザのメールの受信もしくは閲覧をおこなわせる。
【0031】
WEBメール機能は,WEBブラウザ上でメールの送受信を可能にする機能である。この機能は,HTTP(Hypertext Transfer Protocol)に基づいてユーザの要求を受け付け,必要に応じてSMTP機能やPOP/IMAP機能を内部的に呼び出してメールの送受信を実現する。
【0032】
ユーザがメール送受信装置100の機能を利用する形態は,大別して2種類ある。一つは,端末装置201のように端末装置内に導入されたメール端末プログラム210をユーザが操作する形態である。この形態の場合,メール送受信装置100のSMTP機能を利用してメールの送信をおこない,POP/IMAP機能を利用してメールの受信もしくは閲覧をおこなうことになる。
【0033】
もう一つの形態は,端末装置202のように端末装置内に導入されたWEBブラウザ220をユーザが操作する形態である。この形態の場合,メール送受信装置100のWEBメール機能を利用してメールの送信と閲覧をおこなう。この形態は,使い勝手の面で前者の形態に及ばないが,複数の端末装置からメールの送信と閲覧をおこなうことができる長所がある。
【0034】
次に,本実施例に係るメール送受信装置100の構成について説明する。図3は,本実施例に係るメール送受信装置100の構成を示す機能ブロック図である。同時に示すように,メール送受信装置100は,ネットワークインターフェース部110と,制御部120と,記憶部130とを有する。ネットワークインターフェース部110は,ネットワークを通じて各種の情報をやり取りするためのインターフェース部である。
【0035】
制御部120は,メール送受信装置100を全体制御する制御部であり,メール配送部121と,メール受信応対部122と,HTTP制御部123と,メール管理部124とを有する。
【0036】
メール配送部121は,メールの配送をおこなう処理部であり,図2のSMTP機能を実現する。メール受信応対部122は,記憶部130のメール記憶部133に記憶されているメールの受信もしくは閲覧をおこなわせる処理部であり,図2のPOP/IMAP機能を実現する。
【0037】
HTTP制御部123は,HTTPによる通信を制御する処理部であり,メール管理部124と連携して図2のWEBメール機能を実現する。メール管理部124は,メールの送受信や管理に関連した各種の処理をおこなう処理部である。
【0038】
記憶部130は,各種情報を記憶する記憶部であり,認証データ記憶部131と,メール属性記憶部132と,メール記憶部133と,運用情報記憶部134とを有する。
【0039】
認証データ記憶部131は,メール受信応対部122がユーザを認証するための認証情報を記憶する記憶部である。メール属性記憶部132は,メールの各種属性情報を記憶する記憶部である。メール記憶部133は,当該のメール送受信装置宛に配送されたメールと当該のメール送受信装置から発信されたメールとを記憶する記憶部であり,メールスプールに相当する。運用情報記憶部134は,メールの管理に必要な各種情報を記憶する記憶部である。
【0040】
図4は,図3に示した認証データ記憶部131の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように認証データ記憶部131は,ユーザマスタ131aを記憶する。
【0041】
ユーザマスタ131aは,メール送受信装置100にユーザ登録されたユーザに関する情報を保持する。図5に示すように,ユーザマスタ131aは,ユーザID,パスワード,ユーザ名,ユーザアドレス,承認用アドレスといった項目を有し,ユーザごとにデータが1件ずつ作成される。
【0042】
ユーザIDは,ユーザを識別するためのIDであり,パスワードは,ユーザIDとの組合せでユーザを認証するためのパスワードである。ユーザ名は,ユーザの名前であり,ユーザアドレスは,ユーザに割り当てられたメールアドレスである。
【0043】
承認用アドレスは,当該のユーザがメールの送信者から承認者として選択され,さらに,送信者が承認者に対して承認を求めている旨を通知することを求めた場合に承認要求通知メールが送信されるメールアドレスである。ここに携帯電話端末でもちいるメールアドレス等を登録しておくことにより,承認者が出張等により社外にいる場合であってもメールの承認を迅速におこなうことが可能になる。
【0044】
図6は,図3に示したメール属性記憶部132の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すようにメール属性記憶部132は,送信メールテーブル132aと,申請状況テーブル132bとを記憶する。
【0045】
送信メールテーブル132aは,メール送受信装置100から発信されたメールに関する情報を保持する。図7に示すように,送信メールテーブル132aは,メールID,送信者ID,送信者名,状態,格納先といった項目を有し,発信されたメールごとにデータが1件ずつ作成される。
【0046】
メールIDは,メールを識別するためのIDである。送信者IDは,送信者を識別するためのIDであり,ユーザマスタ131aのユーザIDと対応する。送信者名は,送信者の名前である。状態は,メールの状態を示し,格納先は,メール記憶部133におけるメールの物理的もしくは論理的な格納場所を示す。
【0047】
状態は,「送信済」,「申請中」,「可決」,「否決」もしくは「削除」のいずれか一つの値をとる。「送信済」は,メールが承認を必要とせずに送信されたことを意味する。「申請中」は,メールが外部への送信の承認を待っている状態であることを意味する。「可決」は,メールが承認を受けて送信されたことを意味する。「否決」は,メールが外部への送信を否決されたことを意味する。「削除」は,メールが送信者によって削除されごみ箱に入った状態であることを意味する。なお,メールがごみ箱からも削除された場合は,送信メールテーブル132aの該当するデータも削除される。
【0048】
申請状況テーブル132bは,メールの送信に際して承認が必要と判定されたメールに関する情報を保持する。図8に示すように,申請状況テーブル132bは,申請No,メールID,送信者ID,送信者名,回送先ID,回送者名,状態,申請日,判定日といった項目を有し,承認が必要と判定されたメールごとにデータが1件ずつ作成される。
【0049】
申請Noは,申請状況テーブル132bのデータを識別するためのIDである。メールIDは,メールを識別するためのIDであり,送信メールテーブル132aのメールIDと対応する。申請者IDは,送信者を識別するためのIDであり,ユーザマスタ131aのユーザIDと対応する。申請者名は,送信者の名前である。
【0050】
回送先IDは,承認者を識別するためのIDであり,ユーザマスタ131aのユーザIDと対応する。回送先名は,承認者の名前である。状態は,メールの状態を示し,「申請中」,「可決」もしくは「否決」のいずれか一つの値をとる。申請日は,承認が必要と判定された日であり,判定日は承認者による判定がおこなわれた日である。
【0051】
図9は,図3に示した運用情報記憶部134の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように運用情報記憶部134は,承認者マスタ134aを記憶する。
【0052】
承認者マスタ134aは,送信者が選択可能な承認者に関する情報を保持する。図10に示すように,承認者マスタ134aは,申請者ID,回送先IDといった項目を有し,送信者が選択可能な承認者ごとにデータが1件ずつ作成される。
【0053】
申請者IDは,送信者を識別するためのIDであり,ユーザマスタ131aのユーザIDと対応する。回送先IDは,承認者を識別するためのIDであり,ユーザマスタ131aのユーザIDと対応する。承認者は,たとえば,送信者の上司であり,承認者マスタ134aは,一人の送信者に対して複数の承認者を対応付けて保持することができる。
【0054】
図11は,図3に示したメール管理部124の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように,メール管理部124は,送信先判定部124aと,承認者選択部124bと,メール操作部124cと,画面制御部124dとを有する。
【0055】
送信先判定部124aは,WEBメール機能をもちいて作成されたメールの送信先が組織外であるか否かを判定する処理部である。メールの送信先が組織外であるか否かの判定は,たとえば,送信先のメールアドレスのドメインが当該の組織のドメインと同一であるか否かを比較することでおこなう。
【0056】
なお,ここでいう組織とは必要に応じて範囲を定めることができるものとする。会社の場合でいえば,たとえば,一つの部門を組織として扱ってもよいし,会社全体を組織として扱ってもよい。
【0057】
承認者選択部124bは,WEBメール機能をもちいて作成されたメールの送信先が組織外であると送信先判定部124aが判定した場合に,そのメールの承認者の候補を選択する処理部である。承認者の候補の選択は,承認者マスタ134aを参照して,送信者と対応付けられている承認者を抽出することによりおこなわれる。また,承認者選択部124bは,ユーザマスタ131aを参照して,承認者の候補に承認用アドレスが設定されているか否かの確認もおこなう。
【0058】
承認者選択部124bの選択結果は,画面制御部124dにより回送先選択画面として表示され,送信者は,回送先選択画面に表示された承認者の一覧からメール送信の承認者を選択する。
【0059】
メール操作部124cは,メールの状態を管理する処理部である。具体的には,承認者による画面からの指示に従ってメールの状態を変更したり,送信者による画面からの指示に従ってメールの承認者を変更したりという処理をおこなう。
【0060】
画面制御部124dは,WEBメール機能を実現するための各種画面を生成する処理部である。具体的には,メールの作成と送信をおこなうためのメール送信画面やメールの承認者を選択するための回送先選択画面等を生成する。」

(エ) 段落【0097】?【0102】
「【0097】
次に,図3に示したメール送受信装置100の処理手順について説明する。図20は,図3に示したメール送受信装置100のメール送信時の処理手順を示すフローチャートである。
【0098】
メール送信画面において送信ボタンが押下され,送受信装置100がそれを受け付けると(ステップS101),送信先判定部124aが送信先のメールアドレスを取得し,メールの送信先が組織外であるかどうかを判定する(ステップS102)。
【0099】
ここで,メールの送信先が組織外であると判定された場合は(ステップS103肯定),承認者選択部124bが送信者に対応した承認者を選択し,画面制御部124dがその情報を回送先選択画面に表示する(ステップS104)。
【0100】
そして,回送先選択画面にて承認者が選択されたならば,メール操作部124cがその情報を取得し(ステップS105),送信メールテーブル132aにデータを登録して状態を「申請中」に設定し(ステップS106),さらに,申請状況テーブル132bにもデータを登録して状態を「申請中」に設定する(ステップS107)。
【0101】
そして,通知が必要な場合は(ステップS108肯定),ユーザマスタ131aから承認者の承認用アドレスを取得し,このメールアドレスに対して承認要求通知メールを送信する(ステップS109)。
【0102】
送信先判定部124aによりメールの送信先が組織外ではないと判定された場合は(ステップS103否定),メール操作部124cは,メールをメール配送部121に引き渡し,これを送信させる(ステップS110)。さらに,送信メールテーブル132aにデータを登録して状態を「送信済」に設定する(ステップS111)。」

イ 甲29発明

上記ア(ア)?(エ)より,甲第29号証には,次の発明(以下,「甲29発明」という。)が記載されていると認められる。

「 メール送受信装置100は,メールの配送依頼を受けると,送信先が組織外であるか否かを判定し,送信先が組織外であると判定した場合は,メールを承認待ちの状態として承認者に組織外への送信の承認を求め,承認待ちの状態となったメールは,承認者の承認が得られるまでは送信を保留され,承認が得られてはじめて組織外へ送信されるものであって,
SMTP機能と,POP/IMAP機能と,WEBメール機能という3つの基本機能を有し,
SMTP機能は,メールの配送をおこなう機能であって,具体的には,配送を依頼されたメールのヘッダ情報から配送先を決定し,決定した配送先へメールを配送する処理をおこない,メールの配送の依頼元は,端末装置201?202のようなメールの送信者が利用する端末装置,もしくは,メール送受信装置101?103のような他のメール送受信装置であり,
WEBメール機能は,WEBブラウザ上でメールの送受信を可能にする機能であって,HTTPに基づいてユーザの要求を受け付け,必要に応じてSMTP機能やPOP/IMAP機能を内部的に呼び出してメールの送受信を実現し,
ユーザがメール送受信装置100の機能を利用する形態は,大別して2種類あり,
一つは,端末装置201のように端末装置内に導入されたメール端末プログラム210をユーザが操作する形態であって,メール送受信装置100のSMTP機能を利用してメールの送信をおこなうことになり,
もう一つの形態は,端末装置202のように端末装置内に導入されたWEBブラウザ220をユーザが操作する形態であって,メール送受信装置100のWEBメール機能を利用してメールの送信と閲覧をおこない,
制御部120と,記憶部130とを有し,
制御部120は,メール送受信装置100を全体制御する制御部であり,メール配送部121と,HTTP制御部123と,メール管理部124とを有し,
メール配送部121は,メールの配送をおこなう処理部であり,SMTP機能を実現し,
HTTP制御部123は,HTTPによる通信を制御する処理部であり,メール管理部124と連携してWEBメール機能を実現し,
メール管理部124は,メールの送信や管理に関連した各種の処理をおこなう処理部であり,
記憶部130は,各種情報を記憶する記憶部であり,メール属性記憶部132と,メール記憶部133とを有し,
メール属性記憶部132は,送信メールテーブル132aを記憶し,
送信メールテーブル132aは,メール送受信装置100から発信されたメールに関する情報を保持するものであって,メールID,送信者ID,送信者名,状態,格納先といった項目を有し,発信されたメールごとにデータが1件ずつ作成され,送信者IDは,送信者を識別するためのIDであり,状態は,メールの状態を示し,格納先は,メール記憶部133におけるメールの物理的もしくは論理的な格納場所を示し,状態は,「送信済」,「申請中」,「可決」,「否決」もしくは「削除」のいずれか一つの値をとり,「送信済」は,メールが承認を必要とせずに送信されたことを意味し,「申請中」は,メールが外部への送信の承認を待っている状態であることを意味し,「可決」は,メールが承認を受けて送信されたことを意味し,
メール管理部124は,送信先判定部124aを有し,
送信先判定部124aは,WEBメール機能をもちいて作成されたメールの送信先が組織外であるか否かを判定する処理部であって,メールの送信先が組織外であるか否かの判定は,たとえば,送信先のメールアドレスのドメインが当該の組織のドメインと同一であるか否かを比較することでおこない,
メール送信時の処理において,
送信先判定部124aが送信先のメールアドレスを取得し,メールの送信先が組織外であるかどうかを判定し,
メールの送信先が組織外であると判定された場合に,承認者が選択されたならば,送信メールテーブル132aにデータを登録して状態を「申請中」に設定し,
送信先判定部124aによりメールの送信先が組織外ではないと判定された場合は,メール操作部124cは,メールをメール配送部121に引き渡し,これを送信させる,
メール送受信装置100。」

(2) 請求人主張の周知技術及び技術常識について

請求人は,上記第4の1(2)オ(イ)に記載したように,甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証を根拠として,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することは技術常識である旨主張し,および,甲第21号証,甲第23号証,甲第24号証および甲第25号証を根拠として,電子メールを個々の送信先に分割することが周知技術である旨主張し,また,甲第20号証を根拠として,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することが技術常識である旨主張し,さらに,甲第23号証,甲第34号証,甲第35号証,および,甲第36?38号証を根拠として,ドメイン毎に異なるタイミングで送信することが技術常識である旨主張しているので,後記ア?エで検討する。

また,請求人は,上記第4の1(2)オ(ウ)に記載したように,本件発明5,9に関して,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証で開示されているだけでなく,甲第28号証でも開示されており,周知技術である旨主張しているので,後記オで検討する。

さらに,請求人は,上記第4の1(2)オ(エ)に記載したように,本件発明7に関して,電子メールにエンベロープ情報が存在することは,甲第45?47号証,甲第48号証,甲第49号証などに開示されているように技術常識であり,実質的な相違点ではない旨主張しているので,後記カで検討する。

ア あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することについて

甲第20号証,甲第23号証及び甲第27号証を根拠とする,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留することが技術常識である旨の主張に対する検討は,上記3(2)ウ(エ)で述べたとおり,甲第20号証および甲第23号証を根拠として,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを当該カテゴリ単位に分割して保留する技術が抽出できるが,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術と,甲第27号証記載技術と,をひとまとまりの技術として認定することはできない。

よって,後記(3)の無効理由4の進歩性判断においては,甲29発明への,甲第20号証および甲第23号証から抽出された技術の適用と,甲29発明への甲第27号証記載技術の適用を個別に判断する。

イ 電子メールを個々の送信先に分割することについて

上記2(2)イで述べたように,甲第21号証,甲第24号証および甲第25号証に基づいて,同報メールをメールサーバから受信者端末へ送信する際に,電子メールを宛先の電子メールアドレスごとに分割する技術が周知技術1であると認められる。

しかし,甲第23号証と上記周知技術1とは,解決すべき課題等にも共通性がなく,電子メールを分割するタイミング等も相違しているから,甲第23号証と,上記周知技術1とを,ひとまとまりの技術として取り扱うことはできない。

以下では,甲29発明と上記周知技術1との組み合わせについて検討する(後記(3)ウ(イ)a)とともに,念のため,甲27発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについても検討する(後記(3)ウ(イ)b)。

ウ ポリシー毎に電子メールを分割して保留することについて

甲第20号証の記載事項は,上記2(1)オに記載したとおりであり,上記2(1)カで認定した甲20発明において,特に,電子メールの分割と保留に着目すれば,以下の技術的事項が認められる。
「メッセージは,マッチしたポリシーと同数のメッセージに分割され,そして,受信者は,各適切な「分割されたメッセージ」に設定され,
・分割された各メッセージは,電子メールパイプラインにおいて,コンテンツフィルタにより処理され,」
「フィルタがメッセージに適用され,ユーザの設定に応じて,メッセージを隔離させることができ,
保持時間は,メッセージが隔離に保持される期間であり,デフォルトアクションは,その保持時間に達すると,隔離内のすべてのメッセージに実行されるものであって,2つのデフォルトアクションがあり,
・削除-メッセージは削除され,
・リリース-メッセージは,配信のためにリリースされる」

ここで,ポリシーと同数のメッセージに分割され,分割されたメッセージが隔離され,保持時間に達すると,配信のためリリースされることは,ポリシー毎に電子メールを分割して保留することに他ならない。

以上の技術的事項から,少なくとも,甲第20号証からポリシー毎に電子メールを分割して保留する技術が抽出できる。

エ ドメイン毎に異なるタイミングで送信することについて

上記3(2)エ(エ)で述べたように,甲第34号証,甲第35号証,および,甲第36?38号証に基づいて,(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信することが技術常識であることが認められる。

そして,上記イで述べたように,甲29発明と甲第23号証記載技術との組み合わせについては,別途検討する(後記(3)ウ(イ)b)。

オ 保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することについて

上記第4の1(2)オ(ウ)に記載したように,請求人は,本件発明5,9に関して,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証で開示されているだけでなく,甲第28号証でも開示されており,周知技術である旨主張しているので検討する。

上記3(2)オで述べたように,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,甲第20号証,甲第23号証,甲第27号証で開示されているだけでなく,甲第28号証でも開示されているから,本件特許出願前に周知の技術であったと認められる。

カ 電子メールにエンベロープ情報が存在することについて

上記第4の1(2)オ(エ)に記載したように,請求人は,本件発明7に関して,電子メールにエンベロープ情報が存在することは,甲第45?47号証,甲第48号証,および,甲第49号証などに開示されているように技術常識である旨主張しているので検討する。

(ア)甲第45号証記載事項

甲第45号証(特開平01-221956号公報)には,以下の記載がある。

「 次に,メッセージ転送の動作につき説明する。送信側のユーザエージェント1は,電子メールの利用者に代わってエンベロープ(封筒)とコンテント(内容)とから構成されるメッセージを作成し,利用者からの送信指示により,送信側メッセージ転送エージェント2に対してメッセージ送信要求の呼設定を行う。呼設定が完了すると作成したメッセージを送信側メッセージ転送エージェント2へ転送する。その際,エンベロープにはメッセージの宛先,転送の優先度,メッセージの送達通知返送要求等が設定され,コンテントには送信側ユーザエージェント1から受信側ユーザエージェント1へ送信する文書等の内容が設定される。送信側ユーザエージェント1からメッセージを受け取った送信側メッセージ転送エージェント2はメッセージのエンベロープ内の宛先等を参照し,受信側ユーザエージェント1が属しているメッセージ転送エージェント2または拡張メッセージ転送エージェント3を検知して,そのメッセージ転送エージェント2または拡張メッセージ転送エージェント3へメッセージを転送する。」(2頁右下欄1行?3頁左上欄1行)

(イ)甲第46号証記載事項

甲第46号証(特開2000-216805号公報)には,以下の記載がある。

「【0007】一般にメール・メッセージは,そのメール・メッセージに対する1人または複数の配信受信者(deliveryrecipient)を記載する「宛先:(to:)」部と,今日様々なマルチメディア・オブジェクトを幾つか含むことができるコンテント部とを有するエンベロープを含む。メッセージ・スイッチはメッセージを受信したとき,エンベロープに記載された配信受信者のリストを閲覧し,それらの配信受信者にメッセージを配信しようと試みる。」

(ウ)甲第47号証記載事項

甲第47号証(特開平11-154968号公報)には,以下の記載がある。

「【0012】ここで,電子メールの一般的なデータ構造について,図13を用いて説明する。電子メールは,一般に,RFC821(RFC: Requestfor Comments)に定められたSMTP(Simple MailTransfer Protocol)というプロトコルによって,インターネット上を転送される。SMTPで扱われる電子メールデータ360は,エンベロープ()部分とデータ()部分とに分けられる。エンベロープ部分は,SMTPでの送受信の際に使用される管理情報のデータを含む部分であり,メール転送の際にその電子メールを中継するノードのサーバは,エンベロープ部分を参照して必要な情報を付加し,その電子メールを次のノードのサーバへと転送する。エンベロープ部分は,SMTPによる電子メールの配送のみに必要な部分であるので,エンベロープ部分の情報は,通常は,ユーザには隠蔽されている。一方,データ部分はメール本文を含む部分であって,ユーザがメーラによって取り扱う部分である。」

(エ)甲第48号証記載事項

甲第48号証(ウェブページ「エンベロープ(envelope)From/ToとヘッダのFrom/To」)には,以下の記載がある。

「一般的にメーラー(OutlookやWindows Mail,Becky!など)の画面に表示されるFromアドレス・Toアドレスと,サーバー間のSMTPプロトコル上でやりとりされるFromアドレス・Toアドレスは別々のものとなります。
メーラーなどの画面上で確認できるFromアドレス・Toアドレスは,メールのヘッダ部分に記述される情報です。
それとは別に,送受信をする際に使われるFromアドレス・Toアドレスがあり,これをエンベロープFromアドレス・エンベロープToアドレスと呼びます。」(1頁)


(オ)甲第49号証記載事項

甲第49号証(メール配送のしくみ)には,以下の記載がある。

「エンベロープ
MTAが(MUA,Mail User Agentなどによって)ローカルに生成されたメールを受け取ると,発信者アドレスと受信者アドレスを見つけ,エンベロープを書く。このエンベロープや,リモート配送によってSMTPを通じて受け取った時には既に付けられているエンベロープによって,メールは配送される。」(3頁)

(カ)小括

以上(ア)?(オ)より,電子メールにエンベロープ情報が存在することは,技術常識であると認められる。

(3) 本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲29発明とを対比すると,次のことがいえる。

(ア) 本件発明1の構成要件11A,11Gについて

a 甲29発明の「メール送受信装置100」は,本件発明1の「情報処理装置」に対応するものであって,「制御部120と,記憶部130とを有」するものである。

b 甲29発明の「メール送受信装置100は,メールの配送依頼を受けると,送信先が組織外であるか否かを判定し,送信先が組織外であると判定した場合は,メールを承認待ちの状態として承認者に組織外への送信の承認を求め,承認待ちの状態となったメールは,承認者の承認が得られるまでは送信を保留され,承認が得られてはじめて組織外へ送信され」,「メールの送信先が組織外ではないと判定された場合は,」「メール」を「送信」するものであって,「メールの配送の依頼元は,端末装置201?202のようなメールの送信者が利用する端末装置,もしくは,メール送受信装置101?103のような他のメール送受信装置であ」る。
そして,「ユーザがメール送受信装置100の機能を利用する形態」には,「端末装置201のように端末装置内に導入されたメール端末プログラム210をユーザが操作する形態」と,「端末装置202のように端末装置内に導入されたWEBブラウザ220をユーザが操作する形態」とがあり,前者の「形態」では,「メール送受信装置100」は,「メール端末プログラム210」が「導入された」「端末装置201」から「配送を依頼されたメールのヘッダ情報から配送先を決定し,決定した配送先へメールを配送する処理をおこな」うものである。
よって,甲29発明の,「端末装置201」から「メール」を受信し,「メール」の「送信先が組織外であるか否かを判定し,」「メール」の「送信を保留」する,又は,「メール」を「送信」する「メール送受信装置100」は,本件発明1の「端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置」に相当する。

(イ) 本件発明1の構成要件11Cについて

甲29発明の「メール送受信装置100」が,「端末装置201」から「メール」を受信するための構成を備えていることは,明らかであり,甲29発明の,当該受信するための構成は,本件発明1の「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段」と,送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段である点で共通する。

(ウ) 本件発明1の構成要件11Eについて

甲29発明の「制御部120」の「メール配送部121」が有する「送信先判定部124a」は,「端末装置202のように端末装置内に導入されたWEBブラウザ220をユーザが操作する形態」において,「WEBメール機能をもちいて作成されたメールの送信先が組織外であるか否かを判定する処理部であって,メールの送信先が組織外であるか否かの判定を,送信先のメールアドレスのドメインが当該の組織のドメイン」,すなわち,送信元のメールアドレスのドメイン「と同一であるか否かを比較することでおこな」うものであるところ,「端末装置202のように端末装置内に導入されたWEBブラウザ220をユーザが操作する形態」でも,「端末装置201のように端末装置内に導入されたメール端末プログラム210をユーザが操作する形態」でも,メールの送信処理は,「メールの配送をおこなう処理部」である「メール配送部121」で行われて「SMTP機能を実現し」ているから,「端末装置201のように端末装置内に導入されたメール端末プログラム210をユーザが操作する形態」においても,「端末装置201」から受信された「メール」に対して,同様の判定をするものと認められる。
よって,甲29発明の,「端末装置201」から受信された「メール」「の送信先が組織外であるか否かの判定を,送信先のメールアドレスのドメイン」が送信元のメールアドレスのドメインと「同一であるか否かを比較することでおこな」う「送信先判定部124a」は,本件発明1の「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,前記送信先と送信元とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段である点で共通する。

(エ) 本件発明1の構成要件11Fについて

甲29発明の,「メールの送信や管理に関連した各種の処理をおこなう処理部であ」る「メール管理部124」は,本件発明1の「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段」と,前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段である点で共通する。

イ 一致点,相違点

上記ア(ア)?(エ)より,本件発明1と甲29発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
「 端末装置から電子メールを受信し,該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって,
送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と,
前記送信先と送信元とに従って,当該送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と,
前記決定手段で決定された制御内容で,当該送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と,
を備える情報処理装置。」

[相違点1-29](本件発明1の構成要件11B)
本件発明1は,「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段」を備えるのに対して,甲29発明は,そのような「記憶手段」を備えていない点。

[相違点2-29](本件発明1の構成要件11C)
受信手段において,端末装置から受信する電子メールに関して,本件発明1では,「複数の送信先が設定された電子メール」であるのに対して,甲29発明では,そのような特定がされていない点。

[相違点3-29](本件発明1の構成要件11D,11E,11F)
本件発明1は,「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段」(構成要件11D)を備え,決定手段において「前記記憶手段に記憶されている制御ルールと,前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し(構成要件11E),制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F)のに対して,甲29発明は,そのような「分割手段」,「決定手段」および「制御手段」を備えていない点。

ウ 相違点についての判断

(ア) 上記[相違点3-29]について

事案に鑑みて,まず,上記[相違点3-29]について検討する。

a 甲29発明への周知技術1の適用

(a) 上記1(3)ウ(イ)cで述べたのと同様に,甲29発明に周知技術1を適用した場合,「送信先」(メールアドレス)が複数である「送信メール」に対して,「所定の基準で送信を保留するか否か判断し」た後に,送信する「送信メール」の「送信先」(メールアドレス)が複数である場合に,「送信先」(メールアドレス)ごとに分割して送信する構成となるにすぎず,分割された後に制御内容を決定したり,送信制御を行う構成とはならない。

したがって,甲29発明に,周知技術1を適用しても,本件発明1のように,決定手段において「前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」する構成,すなわち,[相違点3-29]に係る本件発明1の構成には至らない。

(b) 請求人は,上記第4の1(2)オ(イ)aに記載したように,甲29発明への周知技術1の適用に際して,あるカテゴリーに属する送信先に対する電子メールを分割して保留する技術常識,ポリシー毎に電子メールを分割して保留する技術常識,および,(電子)メールをドメイン毎に異なるタイミングで送信する技術常識の存在を前提として,電子メールを個々の送信先に分割し,分割された個々の送信先に対して保留する処理を行うことは,当業者であれば容易に思いつく旨主張しているが,これらの技術常識を前提としても,周知技術1では,電子メールを分割して送信しているにすぎず,分割された後に制御内容を決定したり,送信制御を行う構成とはならないから,本件発明1のように,決定手段において「前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って,当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定」し,制御手段において「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」する構成,すなわち,[相違点3-29]に係る本件発明1の構成には至らない。

(c) したがって,上記技術常識を前提として,甲29発明に周知技術1を適用しても,[相違点3-29]に係る本件発明1の構成には至らない。

b 甲29発明と甲第23号証記載技術との組み合わせ

(a) 上記(2)ウ(イ)に記載したように,甲第23号証には,以下の技術的事項が記載されているといえる。

「特定のURLを記述した電子メールを多数の宛先に対して同報配信すると,この電子メールを受信したユーザが同時に指定されたURLへアクセスすると,そのURLのサーバへアクセスが集中し,システムダウンを引き起こす可能性がある」ことから,「同報配信されたメールの到達時刻を遅らせるための技術」であって,宛先の電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し,これらの電子メールアドレスを,受信した電子メールに付加されている情報が示す分割数のグループに(メーリングリストに属する個別電子メールアドレスうち,異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように)分割し,グループごとに送信する技術」

甲第23号証記載技術では,「電子メールアドレスとしてメーリングリストのアドレスが含まれている場合,前記メーリングリストのアドレスを複数の個別の宛先電子メールアドレスに変換し」ているものの,電子メールの分割に関しては,「異なるドメインとなるように,あるいは,同一ドメインとなるように」複数のグループに分割しているに過ぎないから,複数の電子メールアドレスが設定された(同報)電子メールを,個々の電子メールアドレス毎に分割することは導出できない。
したがって,甲29発明に,甲第23号証記載技術を適用しても,[相違点3-29]に係る本件発明1の構成には至らない。

c よって,甲7発明及び周知技術1や上記各技術事項並びに上記技術常識に基づいて,上記[相違点3-29]に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であっても,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 小括

したがって,上記[相違点1-29]および[相違点2-29]について検討するまでもなく,本件発明1についての特許は,請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。

(4) 本件発明2ないし5,7及び9ないし13について

本件発明2ないし5,7及び9ないし11は,本件発明1を減縮した発明であり,本件発明12は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置の制御方法」の発明であり,本件発明13は,本件発明1に対応する,カテゴリ表現が異なる「情報処理装置で実行可能なプログラム」の発明を,「記憶手段に記憶されている制御ルール」,「分割手段」,「決定手段」,「制御手段」についてそれぞれ限定することにより,減縮した発明であって,上記[相違点3-29]に係る本件発明1の構成と実質的に同一の構成を備えるものである。

また,上記第4の1(2)オ(ウ)に記載したように,請求人は,本件発明5,9に関して,保留が設定された場合に,保留時間だけ電子メールを保留し,保留時間が経過した後で当該電子メールを送信することは,周知技術である旨主張しているが,当該周知技術を前提としても,上記[相違点3-29]に係る本件発明1の構成に至らない。

さらに,上記第4の1(2)オ(エ)に記載したように,請求人は,本件発明7に関して,電子メールにエンベロープ情報が存在することは技術常識である旨主張しているが,甲27発明に,当該技術常識を前提としても,上記[相違点3-29]に係る本件発明1の構成に至らない。

よって,本件発明1と同じ理由により,本件発明2ないし5,7,9ないし13についての特許も,請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。

(5) 小括

以上のとおり,本件発明1ないし5,7及び9ないし11についての特許は,いずれも,請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。

6 無効理由5(明確性要件)について

特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

以下,この観点に立って,本件発明が明確であるか否かについて検討する。

上記第4の1(2)カに記載したように,請求人は,本件発明の「送信先」に「ドメイン」が含まれると解釈するのであれば,本件発明の「個々の送信先」の意味するところが不明確となる旨主張するので,特に,本件発明の「送信先」の解釈について以下判断する。

(1)特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の請求項1における「送信先」が,ユーザ名とドメイン名とで構成される電子メールアドレスを意味するのか,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合を含むのかは,本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載に照らし,その文言上,一義的に明らかであるということはできない。

(2)本件明細書等の記載及び当業者の出願当時における技術常識の考慮

しかし,上記1(4)のとおり,本件明細書等の記載を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,本件発明1における「送信先」は,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみを指し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合を含まないと解することが相当である。したがって,請求人の主張は前提を欠いており,本件発明1は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)本件発明2ないし13について

本件発明2ないし13についても,本件発明1と同様,不明確であるとはいえない。

(4) 小括

よって,本件発明1ないし13についての特許は,請求人が主張する無効理由5によって無効とすることはできない。

7 無効理由6(サポート要件)について

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

以下,この観点に立って,本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。

上記第4の1(2)キに記載したように,請求人は,本件明細書等では,個々の電子メールアドレスを送信先として電子メールを分割することだけが開示されており,ドメイン毎に電子メールを分割することは全く開示されておらず,仮に本件発明の権利範囲にドメイン毎に電子メールを分割する態様を含めて解釈した場合には,本件明細書等に記載されていない内容まで権利範囲を拡張することとなり,サポート要件に違反している旨主張するので,特に,本件発明の権利範囲にドメイン毎に電子メールを分割する態様が含まれるか否かについて以下判断する。

(1) 特許請求の範囲に記載された発明(本件発明)について

本件発明は,上記「第3」のとおりの発明であって,本件発明における「送信先」は,上記1(4)に記載したように,ユーザ名とドメイン名からなる「電子メールアドレス」のみを指し,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合を含まないものである。

(2) 発明の詳細な説明の記載について

上記1(3)ア(イ)のとおり,本件特許の発明の詳細な説明には,発明の課題を解決する動作に関する部分を含め,全体を通じて一貫して,「送信先」がユーザ名とドメイン名からなる電子メールアドレスであることを前提とする記載がなされている一方,「送信先」に,ユーザ名を含まずに「ドメイン」のみの場合を含むことを示唆する記載はない。

そして,本件特許の発明の詳細な説明には,電子メールのエンベロープに複数の送信先の電子メールアドレスが設定されている場合,これを送信先の電子メールアドレスごとに分割し,送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に設定されたエンベロープを生成することにより,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる」(段落【0004】)という課題を解決することができることが記載されている(上記1(3)ア(イ)a及びbを参照。)。

(3)小括

したがって,上記(1)のとおり,本件発明の権利範囲にドメイン毎に電子メールを分割する態様は含まれないといえるから,請求人の主張は前提を欠いている。

そして,上記(2)のとおり,本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は,いずれも,本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるということができる。

よって,本件発明1ないし13についての特許は,請求人が主張する無効理由6によって無効とすることはできない。

8 無効理由7(公然実施された甲20製品による新規性進歩性)について

甲20製品に基づく無効理由7は,無効理由1を援用しているから,上記2の無効理由1と同様の理由により,本件発明1ないし5,7,9ないし13についての特許は,請求人が主張する無効理由7によって無効とすることはできない。

第6 むすび

以上のとおり,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同条第9項で準用する第126条第4項ないし第6項の規定に適合するものであるから,本件訂正請求は,適法なものである。
そして,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
なお,審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担とするものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
情報処理装置およびその制御方法、プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子メールの送信制御技術、特に、端末から受信した電子メールの送出制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子メールの送受信システムにおいては、送信者が電子メールの送信を行った後、送信先アドレスの間違いや、添付ファイルの付け忘れ、添付ファイルの付け間違いなどに気付いても、送信を取り消すための手段が用意されていない。また、電子メールは、送信者と受信者がエンドツーエンドで電子メッセージを交換するものであり、途中で第三者が送信内容を確認する手段がない。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、メール送受信端末とメール配送装置との間に配される送信メール保留装置において、電子メールを保留する技術が提案されている。具体的には、送信メール保留装置は、保留すると設定されている送信先アドレスをもつ電子メールを受信した場合には、受信した電子メールを送信者へ送信して内容を確認させる。そして、送信者が当該電子メールを誤送と判断した場合、特定アドレスへ電子メールを送ることで前述の電子メールの外部への送信を取り消すことを提案している。
【特許文献1】特開2005-277976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため、複数の送信先が記載された電子メールに対しては、誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば、その他の送信先に対するメール送信までもが保留、取り消しがされることとなる。また、誤送信の可能性がある電子メールの確認や削除等の管理操作は、当該電子メールの送信者のみに限定されている。さらに、保留されたメールを確認したのち、修正する必要がないと判断された場合であっても、設定された送信遅延時間が経過するまで送出することができない。
【0005】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に、宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の1以上の問題点を解決するため本発明の情報処理装置は以下の構成を備える。すなわち、端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって、電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と、複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と、前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と、前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と、を備える。
【0007】
上述の1以上の問題点を解決するため本発明の情報処理装置の制御方法は以下の工程を備える。すなわち、電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており、端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって、前記情報処理装置の受信手段が、複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と、前記情報処理装置の分割手段が、前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と、前記情報処理装置の決定手段が、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と、前記情報処理装置の制御手段が、前記決定工程で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と、を備える。
また、上述の1以上の問題点を解決するため本発明のプログラムは以下の構成を備える。すなわち、端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置で読み取り実行可能なプログラムあって、前記情報処理装置を、電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段、複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段、前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段、前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段、として機能させるプログラムにおいて、前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、電子メールのすべての送信先に共通して、前記制御内容の決定に用いられるものであり、前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、かつ、当該電子メールのヘッダ情報を分割せず、前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に、宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。なお、以下の実施の形態はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0010】
(第1実施形態)
本発明に係る情報処理装置の第1実施形態として、メール中継装置を例に挙げて以下に説明する。
【0011】
<システムの全体構成>
図1は、第1実施形態に係るメール中継装置を含む電子メール送信システムの全体構成を示す図である。
【0012】
メールシステムは、メール送受信端末(端末装置)110とメール中継装置150とメール配送装置190とから構成される。メール送受信端末110とメール中継装置150とメール配送装置190とはそれぞれネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。
【0013】
メール送受信端末110から送信された電子メールは、該電子メールの宛先に設定されたメールアドレスに従って、メール中継装置150とメール配送装置190とを介して、該宛先である不図示の他のメール送受信端末に送信される。
【0014】
電子メールの送受信を行うメール送受信端末110は、ユーザが各種操作指示を行う情報処理装置である。メール送受信端末110は、ネットワークを介して、メール中継装置150とデータの送受信が可能である。メール送受信端末110は、メール送受信部111と管理操作部112とを備えている。
【0015】
メール送受信部111は、メール中継装置150に電子メールを送信する機能と、メール中継装置150から電子メールを受信する機能とを備えている。
【0016】
管理操作部112は、メール中継装置150の制御ルール設定部154に対して、メール中継装置150の記憶手段に記憶された制御ルールに対する変更などの操作指示を行う機能を備えている。なお、制御ルールについては図5を参照して後述する。すなわち、管理操作部112は、メール送受信端末110から送信(発信)される電子メールを、直ちに送信することなく一時保留するか、又は、中継(宛先に向けて直ちに送出)するか等が設定された制御ルールの登録、編集、削除、閲覧などを、制御ルール設定部154に対して指示する機能を備えている。
【0017】
また、管理操作部112は、メール中継装置150の記憶手段(保留メール保存部158)に保留された電子メールの閲覧、削除、送信(中継)などの操作指示を保留メール管理処理部155に対して実行する機能を備えている。
【0018】
なお、メール送受信部111は、一般に知られているSMTP、POP、IMAP等のプロトコルに対応したメールクライアント(メールユーザエージェント:MUA)に対応する機能部である。また、管理操作部112は、例えばHTTP又はHTTPSに対応したWebブラウザの機能を利用して実現される。
【0019】
メール中継装置150は、メール送受信端末110から送信された電子メールをメール配信装置に中継するか、一時保留するか等を判定し、判定結果に基づいて、メール配送装置190にメールを転送する。メール中継装置150は、メール受信処理部151、ルール適用処理部152、メール送信処理部153、制御ルール設定部154、保留メール管理処理部155を備えている。
【0020】
メール中継装置150は、外部メモリ211などの記憶手段に、制御ルール保存部156、ユーザアカウントデータベース157、保留メール保存部158の記憶領域を備えている。
【0021】
メール受信処理部151は、メール送受信端末110が送信した電子メールを取得する機能を備える。
【0022】
ルール適用処理部152は、メール受信処理部151で取得した電子メールが、制御ルール保存部156に記憶された制御ルールに示される各種条件に一致するか否かを判定し、一致する制御ルールがあると判定された場合は、当該制御ルールに設定されたアクション(電子メールの中継又は保留)を当該電子メールに対して適用する機能を備える。
【0023】
メール送信処理部153は、電子メールをメール配送装置190へ送信する機能を備える。つまり、ルール適用処理部152において中継すると判定された電子メール、または、所定の保留時間が経過した保留電子メールを送信する機能部である。
【0024】
制御ルール設定部154は、メール送受信端末110の管理操作部112から、制御ルール保存部156に記憶された制御ルールの登録、編集、削除、閲覧など操作指示を受け付ける機能、及び、当該操作指示に従って、制御ルール保存部156に記憶された制御ルールの登録、編集、削除、閲覧などの処理を実行する機能を備える。また、制御ルール設定部154は、例えばHTTP又はHTTPSに対応したWebサーバの機能を利用して実現される。
【0025】
また、制御ルール設定部154は、ユーザアカウントデータベース157に記憶されたユーザ情報(利用者(ユーザ)を識別するユーザ識別子(例えば、利用者のユーザ名など)と、パスワード)を用いて、メール送受信端末110を操作する利用者を認証する機能を備える。
【0026】
保留メール管理処理部155は、メール送受信端末110から受け付けた指示に従い、保留メール保存部158に保留されている電子メールの送出、又は削除、又は保留延長を行う機能を備える。
【0027】
制御ルール保存部156は、ルール適用処理部152で用いられる制御ルールが記憶されている記憶領域である。ユーザアカウントデータベース157は、外部メモリ211などの記憶手段に記憶されており、利用者(ユーザ)を識別するユーザ識別子(例えば、利用者のユーザ名など)と、パスワードと、該ユーザの電子メールアドレスとがそれぞれ互いに紐付いて記憶されている。保留メール保存部158は、ルール適用処理部152で保留すると判定された電子メールを保留する記憶領域である。
【0028】
図2は、メール送受信端末110およびメール中継装置150として動作する情報処理装置200のハードウエア構成を示す図である。
【0029】
CPU201は、システムバス204に接続される各デバイスやコントローラを統括的に制御する。また、ROM202あるいは外部メモリ211には、CPU201の制御プログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)やオペレーティングシステムプログラム(以下、OS)や、各サーバ或いは各PCの実行する機能を実現するために必要な後述する各種プログラム等が記憶されている。RAM203は、CPU201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。CPU201は、処理の実行に際して必要なプログラム等をRAM203にロードして、プログラムを実行することで各種動作を実現するものである。
【0030】
また、入力コントローラ(入力C)205は、キーボード209や不図示のマウス等のポインティングデバイスからの入力を制御する。ビデオコントローラ(VC)206は、CRTディスプレイ(CRT)210等の表示器への表示を制御する。表示器はCRTだけでなく、液晶ディスプレイでも構わない。これらは必要に応じて管理者が使用するものである。メモリコントローラ(MC)207は、ブートプログラム、ブラウザソフトウエア、各種のアプリケーション、フォントデータ、ユーザファイル、編集ファイル、各種データ等を記憶するハードディスク(HD)やフロッピー(登録商標)ディスク(FD)或いはPCMCIAカードスロットにアダプタを介して接続されるコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリ等の外部メモリ211へのアクセスを制御する。
【0031】
通信I/Fコントローラ(通信I/FC)208は、ネットワークを介して、外部機器と接続・通信するものであり、ネットワークでの通信制御処理を実行する。例えば、TCP/IPを用いたインターネット通信等が可能である。
【0032】
なお、CPU201は、例えばRAM203内の表示情報用領域へアウトラインフォントの展開(ラスタライズ)処理を実行することにより、CRT210上での表示を可能としている。また、CPU201は、CRT210上に各種操作画面およびマウスカーソル等(不図示)を表示しユーザ指示を可能とする。
【0033】
なお、後述する各処理を実現するためのプログラムは、例えば外部メモリ211に記録されており、必要に応じてRAM203にロードされることによりCPU201によって実行されるものである。さらに、前述の制御ルール保存部156、ユーザアカウントデータベース157、保留メール保存部158、および、各種情報テーブル214は、例えば外部メモリ211に格納されるよう構成される。
【0034】
<メール中継装置の動作>
図3は、メール中継装置150のCPU201が実行する電子メールの送信制御処理を示すフローチャートである。なお、以下のステップは、メール中継装置150のCPU201が各種制御プログラムを実行することにより実現される。
【0035】
ステップS301では、メール送受信端末110が送信した電子メールを、メール中継装置150のメール受信処理部151が受信する。メール受信処理部151は受信した電子メールをルール適用処理部152に渡し、ルール適用処理部152がステップS302以降の処理を実行する。
【0036】
ステップS302では、ルール適用処理部152は、制御ルール保存部156に記憶された全ての制御ルール(制御ルールリスト)をRAMなどのメモリに読み込む。そして、全ての制御ルールのリストをメモリに読み込んだ後、アクション適用エントリバッファを初期化する。
【0037】
図5は、制御ルールのリストの一例を示す図である。ここでは、ルールとは、「ID」、「ユーザID」、「条件定義部」、「分割評価」、「アクション定義部」、「管理者」から構成された1レコードの情報である。
【0038】
ここで読み込まれた制御ルールは、図5に示すように、「ID」をキーに降順にソートされたリスト形式で記憶保持される。この「ID」に設定された番号は、後述する[S303?S306で実行されるルール適用処理]を実行する際に用いられる制御ルールの順番を示している。すなわち、制御ルール内の「ID」は、ルール適用処理(S303?S306)で、制御ルールを適用する優先度(順番)を示している。
【0039】
・「ユーザID」は、該ユーザIDが含まれる制御ルールを登録した利用者のユーザ識別子である。
【0040】
・「条件定義部」は、「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」、「その他条件」から構成される。「発信者(送信元)」には、メール送受信端末110から取得する電子メールの送信元の電子メールアドレス(発信者情報)が設定されている。「受信者(宛先)」には、メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている。「その他条件」には、メール送受信端末110から取得する電子メールから得られる電子メールアドレス以外の電子メールを特定するための条件(情報)が設定されている。例えば、「その他条件」には、通常電子メールの送受信をフィルタリングするシステムで電子メールを特定するために使用される情報が設定できるものとする。具体的には、添付ファイルの有無や添付ファイルのファイル名、ファイルタイプ(ファイルの拡張子など)やファイルサイズや電子メール全体のデータサイズなどが設定可能である。
【0041】
なお、「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」には、それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ、アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる。
【0042】
・「分割評価」には、メール送受信端末110から取得した電子メールに設定された複数の宛先毎のそれぞれを宛先とした電子メールを生成するか否かを示す真偽値(True,False)が設定される。すなわち、後述するステップS402の処理を実行するのか、それともステップS403の処理を実行するのかを判定するための条件が設定されている。
【0043】
・「アクション定義部」(送出制御情報)は、「アクション」および「遅延時間」から構成される。「アクション」には、条件定義部に設定された各条件に合致する電子メールに対する処理を示す情報(送出制御内容)が設定されている。図5の例では、「中継」と設定されている場合、電子メールを即時に中継(送出)するが、「保留」と設定されている場合は、電子メールを保留することを示している。「遅延時間」には、「アクション」に「保留」と設定され、電子メールの送信が保留された場合の保留限度時間(送出制御内容)が設定されている。例えば、メール送受信端末110から取得した電子メールが、制御ルールの条件定義部に設定された条件を満たし、その条件に対応した「アクション」が「保留」で「遅延時間」が「10m」と制御ルールに設定されている場合、当該電子メールを直ぐに送信せず、10分間、当該電子メールを保留メール保存部158に記憶する。即ち、当該電子メールを10分間遅らせて送信する。
【0044】
つまり、「遅延時間」に設定された時間の間、電子メールの送出が保留されることとなる。なお、「アクション」欄が「中継」のときは、「遅延時間」に設定された値は無効とする。また、「アクション」欄が「保留」で、かつ「遅延時間」に値が設定されていない場合、電子メールの保留が無期限に行われる。この場合、外部装置(他のメール送受信端末など)から送出指示がなされるまで電子メールが保留される。
【0045】
・「管理者」には、電子メールがその制御ルールの条件定義部に合致し、該電子メールが保留される場合に、該電子メールが保留された旨を通知する通知先(通知先受信者情報)と、その通知先のユーザの権限情報とが設定されている。さらに、メール送受信端末110から受信した電子メールの宛先に設定された同報者宛ての電子メールに、後述する「保留制御に関する情報」を挿入するか否かを示す同報者識別子が設定されている。なお、図5の例では、同報者識別子は<rcpt>で示されている。同報者識別子が設定されている場合は、「保留制御に関する情報」を同報者宛ての電子メールに挿入することを示している。
【0046】
ここで、通知先としては、管理者識別子(ユーザ識別子)、発信者識別子などが設定可能である。管理者識別子(管理者のユーザ識別子)とは、管理者を識別する管理者名(管理者のユーザ名)である。また、発信者識別子とは、保留された電子メールを送信した送信元(発信者)を示す情報である。なお、図5の例では、発信者識別子は<from>で示されている。
【0047】
次に、権限情報とは、図5に示す「管理者」欄の通知先の右に設定されている3つの値(真偽値(1または0))であって、各桁は、送出権限、削除権限、保留時間変更(延長)権限の有無を示している。値「1」は権限があることを示し、値「0」は権限が無いことを示している。
【0048】
例えば、図5の「ID」が1の制御ルールにおいては、「管理者」欄に「Admin:111」が設定されている。これは、通知先として「Admin(システム管理者)」が設定されており、システム管理者の権限は、権限情報「111」として設定されていることを示している。この権限情報「111」は、それぞれ、「送出権限が有る」(1)、「削除権限が有る」(1)、「保留時間変更(延長)権限が有る」(1)ことを示している。即ち、通知先であるシステム管理者は、IDが1の制御ルールにより保留された電子メールについて、送出権限と削除権限と保留時間変更(延長)権限を有することを示している。
【0049】
また、図5の「ID」が4の制御ルールにおいては、「管理者」欄に「nakamura:001」が設定されている。これは、通知先として「nakamura」が設定されており、通知先(nakamura)の権限は、権限情報「001」として設定されていることを示している。この権限情報「001」は、それぞれ、「送出権限が無い」(0)、「削除権限が無い」(0)、「保留時間変更(延長)権限が有る」(1)ことを示している。即ち、通知先である「nakamura」には、IDが4の制御ルールにより保留された電子メールについて、保留時間変更(延長)権限のみがあることを示している。
【0050】
ステップS303では、ルール適用処理部152は、制御ルールリストの中から、最も優先度が高い(IDの値が最小の)制御ルールを1つ(1レコード)選択する。
【0051】
ステップS304では、ルール適用処理部152は、ステップS301で取得した電子メールに対して、ステップS303で選択した制御ルールの適用処理を実行する。なお、ステップS304の処理の詳細については図4を用いて後述する。
【0052】
ステップS305では、ルール適用処理部152は、未適用メールがあるか否かを判定し、未適用メールがあると判定された場合(ステップS305:NO)、ステップS303へ戻り、前回適用した制御ルールの次に優先度が高い(前回適用した制御ルールのIDよりも値が次に大きい)制御ルールを選択し、同様にステップS304の処理を実行する。そして、ルール適用処理部152は、全ての制御ルールに対してステップS304の処理を実行すると、ステップS307に処理を移行する。一方、ルール適用処理部152は、ステップS305で未適用メールが無いと判定された場合は(ステップS305:YES)、ステップS303からステップS306のループ処理を終了し、ステップS308のアクション実行処理に移行する。
【0053】
ステップS307では、どの制御ルールの条件(条件定義部に示された条件)にも合致しなかった未適用メールに対して、予め設定されたアクション(中継又は保留)を適用して、ステップS308の処理へ移行する。
【0054】
ステップS308では、アクション適用エントリバッファに記憶されている情報に基づいてメールの送出処理又は保留処理を行う。なお、ステップS308の処理の詳細は図14を用いて後述する。
【0055】
図13は、アクション適用エントリバッファに記憶されるデータを示す図である。
【0056】
具体的には、アクション適用エントリバッファには、ステップS407又はステップS408で実行した中継(送出)処理又は保留処理の処理単位である電子メールのデータ(メールメッセージ(宛先))に対し、当該電子メールの送出予定日時と、当該電子メールに合致した制御ルールのIDとがそれぞれ対応付けられて記憶されている。
【0057】
以降では、アクション適用エントリバッファに記憶されるデータをアクション適用エントリリストと言い、アクション適用エントリリスト内の各レコードのデータをアクション適用エントリデータと言う。図13に示すアクション適用エントリリスト内のメールメッセージ(宛先)には、上述した通り、ステップS407又はステップS408で実行した中継(即時送出)処理又は保留処理の処理単位である電子メールが記憶されている。なお、図13に示す各アクション適用エントリデータは、後述する図4のステップS407又はステップS408において記憶される。
【0058】
<ルール適用処理(S304)の詳細動作>
図4は、ステップS304の電子メールのルール適用処理の詳細処理を示すフローチャートである。以下の動作は、メール中継装置150のCPU201が各種制御プログラムを実行することにより実現される。
【0059】
ステップS401では、ルール適用処理部152は、ステップS303で選択された制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か、それとも「false」(偽)か、を判定する。すなわち、制御ルールの「分割評価」が「true」(真)か否かを判定することにより、電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成するか否かを判定する。
【0060】
そして、電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成すると判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合)は(ステップS401:YES)、ステップS402に処理を移行する。一方、電子メールに設定された複数の宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成しないと判定した場合(制御ルールの「分割評価」が「false」(偽)と設定されている場合)は(ステップS401:NO)、ステップS403に処理を移行する。
【0061】
ステップS402では、制御ルールの「分割評価」が「true」(真)と設定されている場合、ルール適用処理部152は、ステップS301で取得した電子メールのエンベロープに含まれる各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する。
【0062】
図12は、電子メールの各宛先(受信者)のそれぞれを宛先としたエンベロープの生成(ステップS402)を説明する図である。1201は、ステップS301で取得した電子メールのデータを示している。
【0063】
図12の電子メールのデータ1201は、エンベロープ部の情報(エンベロープとも言う)とヘッダ部の情報(ヘッダともいう)と本文とから構成されることを示している。1201には、エンベロープ部の情報とヘッダ部の情報と本文とを示したが、添付ファイルなどを含めてもよい。
【0064】
なお、”エンベロープ”は、メール送受信端末110のメールクライアント等では通常表示はされないが、実際の電子メールの配送に使われる送信元(発信者)の電子メールアドレスと送信先(受信者)の電子メールアドレスとを含む情報である。
【0065】
1201では、エンベロープに、送信元(発信者)の電子メールアドレスとして「X」が設定され、送信先(受信者)の電子メールアドレスとして、「A」、「B」、「C」が設定されている。
【0066】
ステップS402では、このエンベロープに送信先(受信者)の電子メールアドレスとして設定されている「A」、「B」、「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成する。
【0067】
すなわち、送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「A」のエンベロープ情報1202と、送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「B」のエンベロープ情報1203と、送信元(発信者)が「X」で送信先(受信者)が「C」のエンベロープ情報1204とを生成する。
【0068】
このように、ステップS402では、ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープ情報に複数の送信先の電子メールアドレスがある場合、その送信先の電子メールアドレスのそれぞれが単独に送信先に設定されたエンベロープをそれぞれ生成し、複数の電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。なお、ステップS301で取得した1通の電子メールのエンベロープの送信先の電子メールアドレスが1つのみの場合であっても、ステップS402では、その1つの電子メールアドレス(1つのエンベロープ)のみの電子メールの集合(エンベロープの集合)を生成する。ルール適用処理部152は、ステップS402でエンベロープを生成すると、処理をステップS404に移行する。
【0069】
ステップS403では、電子メールに設定された各宛先のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成しないと判定し、ステップS301で受信した1つの電子メール(1つのエンベロープ)からなる電子メールの集合を生成する。つまり、ステップS403の処理は、これ以降の各処理に対してステップS402の結果と同様に処理できるようにするための処理である。
【0070】
ステップS404では、ルール適用処理部152は、未適用メールを蓄積するための未適用メール用バッファを初期化する。そして、ルール適用処理部152は、ステップS402又はステップS403で生成されたエンベロープ(電子メール)の集合の中から、1つのエンベロープを取得してステップS405へ進む。なお、ステップS404?ステップS410の処理は、メール集合の要素毎に繰り返し実行される。
【0071】
ステップS405では、ルール適用処理部152は、ステップS303で選択された制御ルールの条件定義部の条件とステップS404で取得したエンベローブを含む電子メールのデータとを照合し、該条件定義部の条件に合致するかどうかを判定する。なお、ここでは、制御ルールの「条件定義部」に設定された「発信者(送信元)」、「受信者(宛先)」、「その他条件」に示す条件を全て満たすか否かを判定する。
【0072】
そして、ルール適用処理部152は、ステップS405で合致すると判定された場合(ステップS405:YES)、ステップS406に処理を移行し、合致しないと判定された場合は(ステップS405:NO)、ステップS409に処理を移行する。
【0073】
ステップS406では、ルール適用処理部152は、制御ルールを参照し、合致した条件定義部の条件に対応した「アクション」の値が「中継」か、それとも「保留」か、を判定する。ステップS406で、「アクション」の値が「中継」と判定した場合は(ステップS406:中継)、ステップS407に処理を移行し、一方、アクション」の値が「保留」と判定した場合は(ステップS406:保留)、ステップS408に処理を移行する。
【0074】
ステップS407では、ルール適用処理部152は、ステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータ(ヘッダや本文など)と、電子メールの送出予定日時が即時であることを示す情報と、ステップS405で判定した制御ルールのIDとをアクション適用エントリバッファ内のアクション適用エントリリストに記憶する。
【0075】
具体的には、アクション適用エントリリストの「メールメッセージ(宛先)」にステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータが記憶され、アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に、電子メールの送出予定日時が即時であることを示す情報(図13の例では「即時」)が記憶され、アクション適用エントリリストの「適用ルールID」には、ステップS405で用いた制御ルールのID(図13の例では「3」)が記憶される。
【0076】
ステップS408では、ルール適用処理部152は、まず、ステップS406でアクション」の値が「保留」と判定された制御ルールの「遅延時間」を制御ルールリスト(図5)から取得する。そして、ステップS301で電子メールを受信した「受信日時」と、ここで取得した「遅延時間」とから「送出予定時間」を算出する。例えば、受信日時が「2008月10月01日12時40分10秒」で、遅延時間が「10分」の場合は、その和を算出し「送出予定時間」を「2008月10月01日12時50分10秒」とする。
【0077】
そして、ルール適用処理部152は、ステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータと、ここで算出された送出予定時間と、ステップS405で判定した制御ルールのIDとをアクション適用エントリバッファ内のアクション適用エントリリストに記憶する。
【0078】
具体的には、ステップS407の中継処理と同様に、図13に示すアクション適用エントリリストの「メールメッセージ(宛先)」にステップS404で取得したエンベローブの情報を含む電子メールのデータが記憶され、アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に、算出された送出予定時間(図13の例では、「2008/10/1 12:50:10」)が記憶され、「適用ルールID」にステップS405で判定した制御ルールのID(図13の例では「21」)が記憶される。
【0079】
なお、ステップS406で「アクション」の値が「保留」と判定された制御ルールの「遅延時間」に値が設定されていない場合、これは無期限に保留することを示しているので、この場合は、アクション適用エントリリストの「送出予定日時」に期限が無いことを示す情報が記憶される(図13の例では「期限なし」が記憶される)。
【0080】
ステップS409では、ステップS404で取得したエンベローブを含む電子メールのデータを、ステップS404で初期化された未適用メール用バッファに記憶する。
【0081】
ステップS411では、ルール適用処理部152は、未適用メール用バッファの中に電子メールのデータがあるか否かを判定する。そして、未適用メール用バッファの中に電子メールのデータがあると判定された場合は(ステップS411:YES)、未適用メール用バッファに記憶された1又は複数のエンベロープの送信先の電子メールアドレス全てを1つのエンベロープの送信先に設定した電子メールを生成する。これはステップS402で実行した処理の逆の処理に相当する。一方、未適用メール用バッファの中に電子メールのデータが無いと判定された場合は(ステップS411:NO)、処理をステップS305に移行する。
【0082】
<アクション実行処理(S308)の詳細動作>
図14は、ステップS308の電子メールへのアクション実行処理の詳細処理を示すフローチャートである。以下の動作は、メール中継装置150のCPU201が各種制御プログラムを実行することにより実現される。
【0083】
ステップS1401では、ルール適用処理部152は、同報者向けメッセージバッファを初期化し、記憶されているデータをクリアする。
【0084】
ステップS1402では、ルール適用処理部152は、アクション適用エントリリスト内の各アクション適用エントリデータを送出予定日時の遅い順にソート(並び替え)する。このソート処理により、アクション適用エントリデータは、上位のレコードから、アクションが保留で遅延時間が指定されていない(無期限に保留される)電子メール、遅延時間が長い電子メール(所定時間よりも遅延時間が長い電子メール)、遅延時間が短い電子メール(所定時間よりも遅延時間が短い電子メール)、アクションが中継(送出)の電子メール(送出予定日時が即時である電子メール)という順に並べられる。ソート(整列)されたアクション適用エントリリスト内のアクション適用エントリデータ全てを実行するまで、後述するステップS1403からステップS1412までの繰り返し処理を実行する。
【0085】
ステップS1404では、ルール適用処理部152は、ソートされたアクション適用エントリリストの先頭から(送出予定日時の遅いアクション適用エントリデータから)アクション適用エントリデータを取得する。
【0086】
ステップS1405では、ルール適用処理部152は、取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージに記憶されている電子メールのヘッダに、同報者向けメッセージバッファに記憶されたデータ(保留制御に関する情報)を挿入する。そして、データ(保留制御に関する情報)が挿入された電子メールを、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に記憶する。なお、同報者向けメッセージバッファに該データが記憶されていない場合は、電子メールのヘッダに該データを挿入しない。
【0087】
ここで、「保留制御に関する情報」とは、「保留された電子メールの送信者(発信者)名」又は「保留された電子メールの送信元の電子メールアドレス」、ステップS301で電子メールを取得した「日時(受信日時)」、「送出予定日時」、誰宛の電子メールが保留されたのかを示す「送信状況」、通知先(宛先)又は同報者の権限情報に対応した管理画面へのリンク先(URLなど)を示す「リンク情報」などのそれぞれの情報を指す。なお、管理画面の詳細については図10を参照して後述する。
【0088】
ステップS1406では、ルール適用処理部152は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータの送出予定日時が「即時」(中継)であるか否かを判定する。即ち、取得したアクション適用エントリデータが保留する電子メールであるか否かを判定する。そして、保留する電子メールではないと判定された場合は(ステップS1406:NO)、メール送信処理部153は、ステップS1405で記憶されたアクション適用エントリデータ内の、データ(保留制御に関する情報)が挿入された電子メールの送出を直ちに実行する(ステップS1413)。一方、保留する電子メールと判定された場合は(ステップS1406:YES)、ステップS1407に進む。
【0089】
図9は、ステップS1413で送出、又は後述するステップS1411で保存(送出を保留)される電子メールの一例を示す図である。図9に示すように、電子メールのヘッダの一部703に、同報者向けメッセージバッファに記憶されたデータ(保留制御に関する情報)が表示されている。つまり、この電子メールを受け取った受信者(同報者の一部)は、当該電子メールを受信していない同報者が存在することを確認することができる。
【0090】
ステップS1407では、取得したアクション適用エントリデータの適用ルールID(適用ルールIDは、制御ルールリスト(図5)の「ID」に対応している(同じ値である))と同一のID(値)の制御ルールの「管理者」欄に含まれる通知先(管理者識別子、又は発信者識別子)、又は同報者(同報者識別子)を特定する。ステップS1407からステップS1410までの処理を、ここで特定された通知先および同報者の全てに対して実行するまで繰り返し行う。
【0091】
ステップS1408では、ルール適用処理部152は、ステップS1407で同報者識別子(RCPT)が特定されたか否かを判定する。そして、同報者識別子(RCPT)が特定されたと判定された場合は(ステップS1408:YES)、ステップS1409に進む。一方、同報者識別子(RCPT)が特定されなかったと判定された場合は(ステップS1408:NO)、即ち、通知先(管理者識別子又は発信者識別子(from))が特定された場合は、ステップS1414に進む。
【0092】
ステップS1409では、「保留制御に関する情報」を同報者向けメッセージバッファに記憶する。同報者向けメッセージバッファに記憶する「保留制御に関する情報」の取得方法については、後で説明する。
【0093】
ステップS1414では、特定された通知先に対して電子メール(通知メールとも言う)を生成し送出する。ここで、ステップS1407で特定された、現在処理対象の通知先(管理者識別子)に紐付いた電子メールアドレスをユーザアカウントデータベース157から取得し、取得した電子メールアドレスを宛先として通知メールを生成し送出する。
【0094】
なお、現在処理対象の通知先が発信者識別子(from)の場合は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に含まれる電子メールのヘッダから送信元(発信者)の電子メールアドレスを取得し、当該電子メールアドレスを宛先とした通知メールを生成し送出する。
【0095】
図8は、通知メールの一例を示す図である。ここでは、ステップS301で取得した電子メールのデータ702が添付され、保留された電子メールの「保留制御に関する情報」(同報者向けメッセージバッファに記憶されたデータ)が本文701に挿入された通知メールを生成した例を示している。
【0096】
より具体的には、メール本文701には、保留された電子メールの「保留制御に関する情報」(発信者、受信日時、保留理由、送信状況、管理画面へのURL(リンク情報))が挿入され、ステップS301で取得した電子メールのデータが添付された電子メール(通知メール)を生成下例を示している。
【0097】
なお、通知先(管理者識別子又は発信者識別子)の権限情報に対応した管理画面へのリンク先(URL)を生成し挿入するよう構成すると好適である。その場合には、ステップS1408で判定した通知先(管理者識別子又は発信者識別子)の権限情報を制御ルールの「管理者」欄から取得する。そして、取得した同報者の権限情報に、保留された電子メールの送出権限、保留された電子メールの削除権限、保留された電子メールの保留時間変更(延長)権限のいずれかの権限が設定されている場合は、その設定されている権限の実行に対応した管理画面へのリンク先を示すリンク情報を生成する。なお、管理画面の詳細については図10を参照して後述する。一方、何れの権限もない場合は、リンク情報は生成せず通知メールにリンク情報を挿入しない。
【0098】
また、ステップS1409で記憶される「保留制御に関する情報」には、上述した、「保留された電子メールの送信者(発信者)名」又は「保留された電子メールの送信元の電子メールアドレス」、ステップS301で電子メールを取得した「日時(受信日時)」、「送出予定日時」、誰宛の電子メールが保留されたのかを示す「送信状況」、通知先の権限情報に対応した管理画面へのリンク先(URL)などの情報が含まれる。以下に、「保留制御に関する情報」の取得方法について説明する。
【0099】
「保留された電子メールの送信者(発信者)名」は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に記憶された電子メールのヘッダの中から発信者(送信元)の電子メールアドレスを特定し、当該特定した電子メールアドレスに紐付いたユーザ名(発信者名)をユーザアカウントデータベースから取得することで得られる。「送信元の電子メールアドレス」は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に記憶された電子メールのヘッダの中から取得される。
【0100】
また、「受信日時」は、ステップS301で電子メールを受信した際の日時を「受信日時」として取得される。「送出予定日時」は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータから取得される。「送信状況」に示される宛先のユーザ名は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に含まれる電子メールのヘッダ部の宛先アドレス部(宛先)に含まれるユーザ名から取得される。または、「送信状況」に示される宛先のユーザ名は、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータのメールメッセージ(宛先)に含まれる電子メールのヘッダ部の宛先アドレス部(宛先)に含まれる電子メールアドレスに紐付いたユーザ名をユーザアカウントデータベース157から取得される。
【0101】
「リンク先」は、例えば、ステップS1408で判定した同報者の権限情報を制御ルールの「管理者」欄から取得し、取得した同報者の権限情報に基づいて生成される。つまり、保留された電子メールの送出権限、削除権限、保留時間変更(延長)権限のいずれかの権限が設定されている場合、その設定されている権限を実行し得る画面(例えば、図10)へのリンク先を示すリンク情報を生成しステップS1409で記憶する。なお、各権限に対するリンク情報は予め記憶保持しておいても良い。一方、権限がない場合は、リンク情報は記憶しない。
【0102】
ステップS1411では、以上の処理を、ステップS1407で特定された通知先及び/又は同報者の全てに対して実行すると、ステップS1405で記憶したアクション適用エントリデータを保留メール保存部158に記憶する。
【0103】
ステップS1412では、アクション適用エントリリスト内に未処理のアクション適用エントリデータが存在する場合は、ステップS1404に処理を移行し、前回ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータの次のアクション適用エントリデータを取得する。一方、アクション適用エントリリスト内の全てのアクション適用エントリデータに対して処理が完了した場合は、処理を終了する。
【0104】
なお、ステップS1404で取得したアクション適用エントリデータに含まれる電子メールのエンベロープに設定されている送信先の電子メールアドレスが、宛先としてTOやCc(カーボンコピー、Carbon Copy)のフィールドに設定されている場合は、それ以降のステップS1405からステップS1410までの処理を実行するが、Bcc(ブラインドカーボンコピー、Blind Carbon Copy)のフィールドに設定されている場合、つまりToもしくはCcのフィールドに電子メールアドレスが設定されていない場合は、それ以降のステップS1405からステップS1410までの処理を実行せず、ステップS1411の処理へ移行するよう構成するとよい。
【0105】
このように構成することにより、宛先の電子メールアドレスがBccに設定されている場合は、「保留制御に関する情報」及びステップS301で取得した電子メールのデータを含まない電子メール(通常の電子メール)が送信されることになる。すなわち、エンベロープの宛先の全ての電子メールアドレスが、送信される電子メールのヘッダなどに表示されないようにすることで、セキュリティ(Bccを使用した意図)を保持することが可能である。
【0106】
<各種変更(送出、削除、延長)処理>
図10は、保留された電子メールの送出権限、削除権限、保留時間変更(延長)権限の全ての権限を有するユーザ(通知先又は同報者)の利用するメール送受信端末の表示部に表示される管理画面の一例を示す図である。この画面は、メール送受信端末で動作するWebブラウザにより、ユーザ(通知先又は同報者)が受信した電子メールに記載された管理画面へのリンク先(URL)へアクセスすることにより表示される。なお、第1実施形態に置いては、リンク先(URL)のサーバはメール中継装置150である。
【0107】
図10の管理画面の例においては、保留されている電子メールに関するデータ(送信元の電子メールアドレス、送信先の電子メールアドレス、メール本文、受信日時、送出予定日時、操作履歴など)1001が表示されている。また、メール中継装置150内の保留メール管理処理部155に、保留されている電子メールの即時送出を指示する送出ボタン1002、削除を指示する削除ボタン1003、保留延長を指示する保留延長ボタン1005とが表示されている。また、保留延長の時間を指定するための設定部1004も併せて表示されている。
【0108】
つまり、送出ボタン1002が通知先のユーザ又は同報者により押下することにより、保留された電子メールの送出指示を行うことができる。また、削除ボタン1003が通知先のユーザ又は同報者により押下することにより、保留された電子メールの削除指示を行うことができる。また、通知先のユーザ又は同報者が設定部1004に保留延長時間を入力し、保留延長ボタン1005を押下することにより、保留された電子メールの保留延長時間の設定指示を行うことができる。
【0109】
なお、設定部1004には、保留時間を延長する時間を入力することができるが、保留時間を短縮する時間を入力するようにしてもよい。たとえば、設定部1004に「正の数」を入力した場合は、保留時間の延長指示を行い、設定部1004に「負の数」を入力した場合は、保留時間の短縮指示を行うことができる。このように、設定部1004に入力される値に応じて、保留された電子メールの保留時間を変更させることが可能となる。
【0110】
送出ボタン1002が通知先のユーザ又は同報者により押下されると、メール送受信端末のCPUは、メール中継装置150に対して、表示された電子メールを送出するための指示を送信する。当該指示を受けたメール中継装置150のCPUは、アクション適用エントリリストを参照し、当該電子メールが含まれる「メッセージメール(宛先)」のアクション適用エントリデータの「送出予定日時」を「即時」に変更する。
【0111】
また、削除ボタン1003が通知先のユーザ又は同報者により押下されると、メール送受信端末のCPUは、メール中継装置150に対して、表示された電子メールを削除するための指示を送信する。当該指示を受けたメール中継装置150のCPUは、アクション適用エントリリストを参照し、当該電子メールが含まれる「メッセージメール(宛先)」のアクション適用エントリデータを削除する。
【0112】
また、通知先のユーザ又は同報者が設定部1004に保留延長時間を入力し、保留延長ボタン1005が押下されると、メール送受信端末のCPUは、メール中継装置150に対して、表示された電子メールを保留延長時間、保留する保留延長指示を行う。当該保留延長指示を受けたメール中継装置150のCPUは、アクション適用エントリリストを参照し、当該電子メールが含まれる「メッセージメール(宛先)」のアクション適用エントリデータの「送出予定日時」を、保留延長指示された保留延長時間足した時間に変更する。
【0113】
なお、通知先又は同報者が有する権限情報が保留された電子メールの送出権限のみの場合は、電子メールのデータ1001と送出ボタン1002のみが表示される。また、通知先が有する権限情報が保留された電子メールの削除権限のみの場合は、電子メールのデータ1001と削除ボタン1003のみが表示される。
【0114】
このように、通知先又は同報者の権限情報に応じて、ステップS1405で挿入するリンク情報を変更することにより、保留された電子メールに対する各種変更(送出、削除、延長)処理を、所定の権限を有するユーザに限定することが可能となる。そのため、保留された電子メールの送出制御に関するセキュリティを向上させることができる。
【0115】
<保留された電子メールの処理フロー>
ここでは、ステップS1411で保留メール保存部158に記憶されたアクション適用エントリデータ内の電子メール(送出を保留された電子メール)の送出処理について説明する。
【0116】
ルール適用処理部152は、保留メール保存部に蓄積されているアクション適用エントリデータを定期的に1つ(1レコード)ずつ取り出し、アクション適用エントリデータの送出予定日時と現在日時を比較し、送出予定日時が現在日時を越えていれば、当該アクション適用エントリに含まれる電子メールをメール送信処理部153へ送り、メール配送装置190へ送信する。そして、メール配送装置190に送出された電子メールを含むアクション適用エントリデータを保留メール保存部158から削除する。
【0117】
また、送出予定日時が「期限無し」に設定されたアクション適用エントリデータの電子メールは、ここに示した、メール配送装置190に送出する処理は実行しない。また、ここに示した、メール配送装置190に送出する処理は保留時間の長さに適した時間毎(1分、5分、10分など)に実行される。
【0118】
<制御ルールの登録処理フロー>
次に利用者または管理者が電子メールの制御ルールを登録する処理を説明する。なお、この登録処理は、一般に図3を参照して説明したメール中継装置の処理に先立って実行される。ただし、運用中における制御ルールの変更(追加・削除など)の際にも実行されうる。
【0119】
利用者のメール送受信端末110の管理操作部112は、Webブラウザなどを用いて、メール中継装置150の制御ルール設定部154にアクセスする。
【0120】
そして、管理操作部112は、不図示の画面を介して入力されたユーザ情報(ユーザ名、パスワード)をメール中継装置150の制御ルール設定部154に送信する。そして、制御ルール設定部154は、メール中継装置150内のユーザアカウントデータベース157のユーザ情報を用いて利用者を認証する。
【0121】
ここで認証された場合は、メール中継装置150の制御ルール設定部154は、利用者のメール送受信端末110に、当該利用者に管理権限がある制御ルールのリスト画面が表示されるためのデータを送信する。一方、認証されなかった場合は、メール中継装置150へのアクセスは出来ない旨の応答を行う。
【0122】
図7は、ルール一覧画面の一例を示し、認証されたユーザが権限を有する制御ルールの各項目が表示されている。
【0123】
制御ルールの優先順位(優先度)(図5に示す「ID」に対応している)については、ルール一覧画面700の「操作」欄で示されるような矢印を押下されることにより変更することができる。例えば、矢印ボタン705a「↑」が押下されると当該押下されたレコードの制御ルールを適用する優先度が上がり、矢印ボタン705b「↓」が押下されると当該押下されたレコードの制御ルールを適用する優先度が下がる。
【0124】
優先度は制御ルール保存部に登録される全ての制御ルールに関して一意になる必要があるが、システム管理者は例えばユーザアカウントデータベース157のユーザごとに利用可能な優先度の値の範囲を設定しておくことで制御ルール全体の適用順序を制御することができる。
【0125】
図6は、制御ルールを新規に作成する場合に表示されるルール設定画面を示している。ルール設定画面600は、例えば、図7に示す新規作成ボタン710を押すことにより表示される。
【0126】
ルール設定画面では、図5で示す制御ルールリストの1行に相当する情報を入力し登録することができる。なお、ここで制御ルールを登録した利用者のユーザ識別子が図5の制御ルールリストのユーザID欄に記録されることになる。このとき一般の利用者が登録する制御ルールの発信者条件欄は利用者本人の電子メールアドレスに固定されるものとする。ただし、利用者がほかの利用者の電子メールを管理できるような権限をもつ場合は、管理権限の範囲内の発信者の電子メールアドレスを設定できるよう構成するとよい。
【0127】
<動作シナリオ>
図11は、ある電子メールに対するメール中継装置150の実際の動作シナリオを例示的に示すフローチャートである。ここでは、利用者から送信された電子メールがメール中継装置150で保留された後、同報者が保留された電子メールの保留時間を延長し、その後で発信者が保留メールを削除することで特定の宛先向けの電子メールの送信をキャンセルするシナリオを示している。
【0128】
ステップS901では、メール送受信端末110から発信者アドレスがA、受信アドレスがB,Cの電子メールが送信される。
【0129】
ステップS902では、メール中継装置150が電子メールを受信する。
【0130】
ステップS903では、ルール適用処理が実行される。ここでは、制御ルール保存部156の中の制御ルールと優先度順に比較され、”発信者条件がA、受信者条件がB、分割評価がtrue、アクションが保留、遅延時間が5分、管理者が発信者識別子、同報者識別子”と設定されている制御ルールZが適用されるものとする。受信者C宛のメールには全ての制御ルールが適用されず、所定の初期設定動作(デフォルト動作)が行われ、ここでは中継動作(即時送信)がなされるものとする。ここで、所定の初期設定動作とは図5の制御ルールリストの何れにも当てはまらないメールに対する処理動作を意味する。
【0131】
制御ルールZのメール適用処理ステップS304において、まずステップS402でエンベロープ受信者アドレスがB,Cであった電子メールが、エンベロープ受信者Bの電子メールとエンベロープ受信者Cの電子メールに分割される。次に最初にエンベロープ受信者Bの電子メールがステップS405で条件定義部と照合され、合致するためステップS408へ進む。ステップS408では、対象電子メールメッセージとメール受信時刻と制御ルールZに設定された遅延時間5分を足した送出予定日時と制御ルールZのIDからなるアクション適用エントリNを作成し、アクション適用エントリバッファへ保存される。
【0132】
次に分割された残りの受信者C宛の電子メールは、制御ルールZの条件定義部に合致しないためステップS409へ進む。分割メールはこれ以上ないためステップS410、ステップS411、ステップS412へ進み、受信者C宛の電子メールのみが未適用メールとして以降の制御ルール適用処理へ進む。
【0133】
受信者C宛の電子メールは残りの全ての制御ルールの条件定義部に合致しないためステップS307のデフォルト動作適用処理において、デフォルトの中継動作が適用され、送出予定日時が即時で制御ルールIDが未定義のアクション適用エントリMとしてアクション適用エントリバッファへ追加される。
【0134】
次にステップS308へ進み、アクション適用エントリバッファ内のエントリが送出予定日時の遅い順に整列されたあと、まずアクション適用エントリNが取り出される。アクション適用エントリNの送出予定日時は保留を表すため制御ルールIDを用いて制御ルールZを取り出し、管理者欄に発信者識別子があることから、電子メールの発信者のアドレス宛に図8で示したような通知メールを送信する。このとき発信者の管理権限情報には、送出、削除、保留延長の全ての権限があるため、これら全ての操作が行える保留メール管理画面のURLを通知メールに記載する。次にこのアクション適用エントリNを保留メール保存部158へ保存する(S904)。
【0135】
制御ルールZの管理者欄には同報者識別子もあることから、同報者向けメッセージバッファへ、この受信者B宛のメールは受信時刻から5分後の時刻まで送信が保留されている旨のメッセージを追加する。また、同時に同報者の管理権限情報に保留延長の権限が設定されていることから、このメールの保留延長が実施できる保留メール管理画面のURLを同報者向けメッセージバッファへ追加する。
【0136】
次に、アクション適用エントリMを取り出し、送出予定日時が即時であることから、同報者向けメッセージバッファの内容を取り出し、図9で示したような電子メールをメール送信処理部153へ渡し送出する(S911)。
【0137】
ステップS912では、電子メールアドレスCのユーザの使用するメール送受信端末が電子メールを受信する。電子メールアドレスCをもつ利用者は、受信したメールの付加ヘッダ部(図9の703)を確認する。このとき、例えば、電子メールアドレスCをもつ利用者が、受信者B宛のメール送信の遅延時間をさらに1時間に延長しておきたいとする。その場合、電子メールに記載されているURLをクリックし、図10で例示されているような管理画面をWebブラウザ等で表示する。そして、管理画面の延長時間設定部1004に1時間と入力した後、保留延長ボタン1005を押して保留延長要求をメール中継装置150へ送信する(ステップS915)。
【0138】
中継装置150ではステップS916において保留メール保存部に保存されたアクション適用エントリNの送出予定日時を1時間延長する。
【0139】
ステップS906では、電子メール発信したメール送受信端末が、ステップS905で送信された保留通知メールを受け取る。そこで、S901で送信した電子メールの宛先として電子メールアドレスBが不適切であったとすると、電子メールアドレスAの利用者は、保留通知メールに記載されている管理画面のURLをクリックする(S907)。そうすると、図10で例示されているような管理画面がWebブラウザ等により表示される(S908)。ユーザは内容を確認し、管理画面の削除ボタンをクリックする(ステップS909)。
【0140】
ステップS910では、メール中継装置150はS904で保留した電子メールの削除要求を受け取り、アクション適用エントリNを保留メール保存部から削除する。
【0141】
以上、詳細に説明したように、第1実施形態に係るメール中継装置150を含む電子メール送信システムによれば、ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に、様々な利用場面に適用可能な電子メール送信システムを提供することができる。特に、予め設定された権限を有するユーザにより、保留されたメールに対して各種の変更(送出、削除、延長)処理が可能となる。
【0142】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても良いし、また、一つの機器からなる装置に適用しても良い。
【0143】
なお、本発明は、前述した実施形態の機能を実現するプログラムを、システム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置が、供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される。従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0144】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
【0145】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどがある。
【0146】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される。その他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0147】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれる。その後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】第1実施形態に係る電子メール送信システムの全体構成を示す図である。
【図2】メール送受信端末およびメール中継装置のハードウエア構成を示す図である。
【図3】第1実施形態に係るメール中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係るルール適用処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】制御ルールテーブルの一例を示す図である。
【図6】ルール設定画面の一例を示す図である。
【図7】ルール一覧画面の一例を示す図である。
【図8】発信者、管理者への通知メールの一例を示す図である。
【図9】同報受信者へ送信されるメールの一例を示す図である。
【図10】保留メールの管理画面の一例を示す図である。
【図11】送信された電子メールが保留され削除される場合の一例を示すフローチャートである。
【図12】電子メールをエンベロープ受信者毎に分割する様子を例示的に示す図である。
【図13】アクション適用エントリバッファに格納される情報の一例を示す図である。
【図14】第1実施形態に係るアクション実行処理の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0149】
110 メール送受信端末
150 メール中継装置
111 メール送受信部
112 管理操作部
151 メール受信処理部
152 ルール適用処理部
153 メール送信処理部
154 制御ルール設定部
155 保留メール管理処理部
156 制御ルール保存部
157 ユーザアカウントデータベース
158 保留メール保存部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置であって、
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段と、
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と、
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段と、
前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、前記電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先との組に対応付けられており、
前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元との組に従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記分割手段は、前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先のすべてを個々の送信先に分割し、
前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割されたすべての個々の送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定し、
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールの送出を保留する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、電子メールのすべての送信先に共通して、前記制御内容の決定に用いられるものであり、
前記記憶手段に記憶されている送出制御情報には、電子メールを送出する制御内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶された、電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報は、更に、電子メールの送出を保留する保留時間を含み、
前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容が電子メールの送出を保留する制御内容であり、かつ、当該制御内容の送出制御情報に前記保留時間が含まれている場合に、前記分割された送信先に対する電子メールの送出を、該保留時間、保留することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記決定手段で、前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが送出され、かつ、前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合、当該送出される電子メールに、当該保留される電子メールが存在することを示す情報を挿入する挿入手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、かつ、当該電子メールのヘッダ情報を分割せず、
前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、
前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された、前記分割された送信先に対する電子メールの保留時間の延長指示を受け付ける延長受付手段と、
前記延長受付手段で当該電子メールの保留時間の延長指示を受け付けた場合に、当該電子メールの保留時間を延長する保留延長手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された、前記分割された送信先に対する電子メールの削除指示を受け付ける削除受付手段と、
前記削除受付手段で当該電子メールの削除指示を受け付けた場合に、当該電子メールを削除する削除手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記決定手段で送出が保留されることが決定された、前記分割された送信先に対する電子メールの送信指示を受け付ける送信受付手段と、
前記送信受付手段で当該電子メールの送信指示を受け付けた場合に、当該電子メールを送出する送出手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記記憶手段に記憶された制御ルールには、更に、前記電子メールの送出を保留する制御内容の送出制御情報に対応して、当該保留された旨を示す電子メールの通知先が設定されており、
前記制御手段は、更に、前記決定手段で、前記分割された少なくとも1つの送信先に対する電子メールが保留されることが決定された場合に、前記送出制御情報に対応した通知先を送信先とする、当該電子メールが保留された旨を示す新規の電子メールを送信することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段を備えており、端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置の制御方法であって、
前記情報処理装置の受信手段が、複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信工程と、
前記情報処理装置の分割手段が、前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と、
前記情報処理装置の決定手段が、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割工程で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定工程と、
前記情報処理装置の制御手段が、前記決定工程で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御工程と、
を備えることを特徴とする情報処理装置の制御方法。
【請求項13】
端末装置から電子メールを受信し、該電子メールの送出を制御する情報処理装置で実行可能なプログラムあって、
前記情報処理装置を、
電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を、前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルールを記憶する記憶手段、
複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する受信手段、
前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段、
前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割された送信先と送信元とに従って、当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段、
前記決定手段で決定された制御内容で、当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う制御手段、
として機能させるプログラムにおいて、
前記記憶手段に記憶されている制御ルールは、電子メールのすべての送信先に共通して、前記制御内容の決定に用いられるものであり、
前記分割手段は、前記受信手段で受信した、複数の送信先が設定された電子メールのエンベロープ情報を、各送信先の各々を個別の送信先とするエンベロープ情報に分割し、かつ、当該電子メールのヘッダ情報を分割せず、
前記決定手段は、前記記憶手段に記憶されている制御ルールと、前記分割手段で分割されることにより得られるエンベロープ情報とに従って、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出に係る制御内容を決定し、
前記制御手段は、前記決定手段で決定された制御内容で、当該エンベロープ情報を含む電子メールの送出制御を行うことを特徴とするプログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-08-31 
結審通知日 2020-09-02 
審決日 2020-09-15 
出願番号 特願2008-320127(P2008-320127)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (G06F)
P 1 113・ 537- YAA (G06F)
P 1 113・ 121- YAA (G06F)
P 1 113・ 112- YAA (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 竜也  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
林 毅
登録日 2010-10-22 
登録番号 特許第4613238号(P4613238)
発明の名称 情報処理装置およびその制御方法、プログラム  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 杉尾 雄一  
代理人 松野 知紘  
代理人 和田 祐造  
代理人 大野 聖二  
代理人 杉尾 雄一  
代理人 大野 浩之  
代理人 和田 祐造  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 高橋 正憲  
代理人 高橋 正憲  

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